説明

排気浄化装置

【課題】尿素水を効率的に排気中に供給しながら排気通路内や尿素水インジェクタにおける尿素結晶の堆積を抑制することが可能な排気浄化装置を提供する。
【解決手段】上流側ケーシング30及び連通路32と共にエンジン1の排気通路を構成する下流側ケーシング34内に、アンモニアを還元剤として排気中のNOxを選択還元するアンモニア選択還元型NOx触媒40を備え、アンモニア選択還元型NOx触媒40の上流側となる連通路32内の排気中に尿素水を供給する尿素水インジェクタ44を設ける。エンジン1がアンモニア選択還元型NOx触媒40へのアンモニアの供給を必要とする運転状態にあるときに、ECU50は、排気温度と排気排出量とに基づき演算を行うことによって定める供給継続時間及び供給中止時間により間欠的に尿素水を供給するように尿素水インジェクタ44を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエンジンの排気を浄化するための排気浄化装置に関し、特に排気中に供給された尿素水から生成されるアンモニアを還元剤として排気中のNOxを還元するアンモニア選択還元型NOx触媒を備えた排気浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの排気中に含まれる汚染物質の1つであるNOx(窒素酸化物)を浄化するための排気浄化装置として、エンジンの排気通路にアンモニア選択還元型NOx触媒を配設し、還元剤としてアンモニアをアンモニア選択還元型NOx触媒に供給することにより、NOxを還元して排気を浄化するようにした排気浄化装置が知られている。
このような排気浄化装置では、アンモニアをアンモニア選択還元型NOx触媒に供給するために、アンモニアに比べて取り扱いが容易な尿素水を排気中に供給するのが一般的であり、尿素水インジェクタなどを用いて排気中に尿素水を噴射する。尿素水インジェクタから排気中に供給された霧状の尿素水は排気の熱により加水分解し、その結果生成されるアンモニアがアンモニア選択還元型NOx触媒に供給される。NOx触媒に供給されたアンモニアは一旦アンモニア選択還元型NOx触媒に吸着され、このアンモニアと排気中のNOxとの間の脱硝反応がNOx触媒によって促進されることによりNOxが還元されて排気の浄化が行われる。
【0003】
このとき、尿素水インジェクタから噴射された霧状の尿素水の一部は、排気通路内の壁面などに衝突することにより液化して排気通路や尿素水インジェクタなどに付着する。こうして付着した尿素水は、その水分が気化することによって固形の尿素結晶となり排気通路内の壁面や尿素水インジェクタに堆積する。また、付着した尿素水の水分が気化する際の気化潜熱によってコールドスポットが生じるため、尿素水が付着した部分の周囲は更に霧状の尿素水が液化して付着しやすい状態となり、尿素結晶の生成が促進されてしまうことになる。
【0004】
このようにして固形の尿素結晶が堆積し続けると、排気通路における排気流動抵抗の増大や排気通路の閉塞のほか、尿素水インジェクタの作動不良を引き起こすという問題を生じるおそれがある。そこで、尿素水インジェクタに堆積した尿素結晶を除去するため、尿素水インジェクタから間欠的に尿素水の噴射を行って、尿素水インジェクタに堆積している尿素結晶を溶融させたり吹き飛ばしたりするようにした排気浄化装置が特許文献1によって提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−273503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の排気浄化装置では、アンモニア選択還元型NOx触媒の温度が活性化温度より低い場合に上述したような間欠噴射による尿素結晶の除去が行われるため、尿素結晶の除去に使用される尿素水はアンモニア選択還元型NOx触媒による排気の浄化には寄与せず、尿素水が余分に消費されてしまうという問題がある。
また、特許文献1の排気浄化装置では、尿素水の噴射によって尿素水インジェクタに堆積した尿素結晶の除去は可能であるが、排気通路内に堆積した尿素結晶を除去することができない上、尿素結晶の除去のために噴射した尿素水が液化して排気通路内の壁面に付着し、排気通路内の壁面における尿素結晶の堆積が促進されてしまうという問題も生じる。
【0007】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、尿素水を効率的に排気中に供給しながら排気通路内や尿素水インジェクタにおける尿素結晶の堆積を良好に抑制することが可能な排気浄化装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の排気浄化装置は、エンジンの排気通路に配設され、アンモニアを還元剤として排気中のNOxを選択還元するアンモニア選択還元型NOx触媒と、上記アンモニア選択還元型NOx触媒の上流側の排気中に尿素水を供給する尿素水供給手段と、上記エンジンが上記アンモニア選択還元型NOx触媒へのアンモニアの供給を必要とする運転状態にあって、上記尿素水供給手段から尿素水を供給する際には、所定の供給継続時間及び供給中止時間により間欠的に尿素水を供給するように上記尿素水供給手段を制御する制御手段と、上記尿素水供給手段から尿素水が供給される排気の温度を検出する排気温度検出手段とを備え、上記制御手段は、上記排気温度検出手段によって検出された排気温度と、上記尿素水供給手段からの尿素水供給量とに基づいて、上記尿素水供給手段から尿素水を間欠的に供給する際に、上記尿素水供給手段から尿素水を供給している間は、所定の下限値を初期値として、上記排気温度と上記エンジンの排気排出量に対する上記尿素水供給量の比とに応じて求めた加算値を所定周期毎に加算していくと共に上記排気温度と上記排気排出量とに応じて求めた減算値を上記所定周期毎に減算していくことにより第1判定値を演算し、上記第1判定値が所定の上限値に達すると上記供給継続時間が経過したものと判断して上記尿素水供給手段からの尿素水の供給を停止する一方、上記尿素水供給手段から尿素水を間欠的に供給する際に、上記尿素水供給手段からの尿素水供給を一時的に停止している間は、上記上限値を初期値として、上記排気温度と上記排気排出量とに応じて求めた減算値を上記所定周期毎に減算していくことにより第2判定値を演算し、上記第2判定値が上記下限値に達すると上記供給中止時間が経過したものと判断して上記尿素水供給手段からの尿素水の供給を開始することを特徴とする(請求項1)。
【0009】
このように構成された排気浄化装置によれば、エンジンがアンモニア選択還元型NOx触媒へのアンモニアの供給を必要とする運転状態にあって、尿素水供給手段から尿素水を供給する際に、制御手段は所定の供給継続時間及び供給中止時間により間欠的に尿素水を供給するように尿素水供給手段を制御する。この結果、尿素水供給手段からは尿素水が上記供給継続時間及び供給中止時間で間欠的に排気中に供給される。
【0010】
このとき、尿素水供給手段から間欠的に供給される尿素水の供給継続時間及び供給中止時間は、尿素水供給手段から尿素水を供給される排気の温度及び尿素水供給手段からの尿素水供給量に応じて長さが変化する。
【0011】
より具体的には、尿素水供給手段から尿素水を間欠的に供給する際に、尿素水供給手段から尿素水を供給している間は、制御手段は所定の下限値を初期値として、尿素水供給手段から尿素水が供給される排気の温度とエンジンの排気排出量に対する尿素水供給量の比とに応じて求めた加算値を所定周期毎に加算していくと共に尿素水供給手段から尿素水が供給される排気の温度とエンジンの排気排出量とに応じて求めた減算値を上記所定周期毎に減算していくことにより第1判定値を演算する。こうして所定周期毎に演算された第1判定値が増大して所定の上限値に達すると、制御手段は上記供給継続時間が経過したものと判断して尿素水供給手段からの尿素水の供給を停止する。
【0012】
一方、尿素水供給手段から尿素水を間欠的に供給する際に、尿素水供給手段からの尿素水供給を一時的に停止している間は、制御手段は上記上限値を初期値として、尿素水供給手段から尿素水が供給される排気の温度とエンジンの排気排出量とに応じて求めた減算値を所定周期毎に減算していくことにより第2判定値を演算する。こうして所定周期毎に演算された第2判定値が減少して上記下限値に達すると、制御手段は上記供給中止時間が経過したものと判断して尿素水供給手段からの尿素水の供給を開始する。
【0013】
第1判定値を求める際に使用される加算値は、尿素水供給手段から尿素水が供給される排気の温度とエンジンの排気排出量に対する尿素水供給量の比とに応じて求められ、第1判定値及び第2判定値を求める際に使用される減算値は尿素水供給手段から尿素水を供給される排気の温度に応じて求められるので、結果的に尿素水供給手段から尿素水を間欠的に供給する際の供給継続時間及び供給中止時間は、尿素水供給手段から尿素水が供給される排気の温度及び尿素水供給量に応じて補正されることになる。従って、尿素水供給手段から間欠的に供給される尿素水の供給継続時間及び供給中止時間は、尿素水供給手段から尿素水を供給される排気の温度及び尿素水供給手段からの尿素水供給量に応じて長さが変化する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の排気浄化装置によれば、エンジンがアンモニア選択還元型NOx触媒へのアンモニアの供給を必要とする運転状態にあって、尿素水供給手段から尿素水を供給する際には、尿素水が所定の供給継続時間及び供給中止時間により間欠的に排気中に供給されるので、供給継続時間中に排気中に供給された尿素水が排気管の内壁などに一時的に付着することがあっても、供給中止時間中に尿素をアンモニアに転化させて消滅させることが可能となり、排気通路内や尿素水供給手段などへの尿素結晶の堆積を抑制することができる。この結果、尿素結晶の堆積による排気流動抵抗の増大や排気通路の閉塞、並びに尿素水供給手段の作動不良を、いずれも良好に防止することができる。
【0015】
また、エンジンがアンモニア選択還元型NOx触媒へのアンモニアの供給を必要とする運転状態にあるときに、このようにして尿素水を間欠的に供給するので、供給された尿素水はアンモニア選択還元型NOx触媒におけるNOxの選択還元に使用される。従って、尿素結晶の堆積を抑制するために余分な尿素水を排気中に供給する必要がなく、効率良く尿素水を使用することができる。
【0016】
更に本発明の排気浄化装置によれば、エンジンがアンモニア選択還元型NOx触媒へのアンモニアの供給を必要とする運転状態にあるときに、尿素水供給手段から間欠的に供給される尿素水の供給継続時間及び供給中止時間は、尿素水供給手段から尿素水が供給される排気の温度及び尿素水供給手段からの尿素水供給量に応じて長さが変化する。排気中に供給された尿素水に含まれる尿素は、排気温度が低いほど結晶化しやすく、排気温度が高いほどアンモニアに添加して消滅しやすい。また、排気中に供給される尿素水が多いほど尿素が結晶化しやすくなる。従って、尿素水供給手段から尿素水が供給される排気の温度及び尿素水供給手段からの尿素水供給量に応じて尿素水の供給継続時間及び供給中止時間を補正することにより、尿素結晶の形成及び消滅に影響のある排気温度や尿素水供給量が変動した場合であっても、尿素結晶の堆積を精度よく確実に抑制することが可能となる。
【0017】
そして、尿素水供給手段から尿素水を間欠的に供給する際の尿素水の供給継続時間を定めるために使用される第1判定値は、所定の下限値を初期値として、排気温度とエンジンの排気排出量に対する尿素水供給量の比とに応じて求めた加算値を所定周期毎に加算していくと共に排気温度とエンジンの排気排出量とに応じて求めた減算値を上記所定周期毎に減算していくことにより決定されるので、上述したような排気温度及び尿素水供給量による尿素結晶の生成への影響度合いをそれぞれ適正に供給継続時間に反映させることが可能となる。また、尿素水供給手段から尿素水を間欠的に供給する際の尿素水の供給中止時間を定めるために使用される第2判定値は、所定の上限値を初期値として、排気温度とエンジンの排気排出量とに応じて求めた減算値を所定周期毎に減算していくことにより決定されるので、上述したような排気温度による尿素の消滅への影響度合いを適正に供給中止時間に反映させることが可能となる。従って、尿素結晶の形成及び消滅に影響のある排気温度や尿素水供給量が変動した場合であっても、尿素結晶の堆積をより一層精度よく確実に抑制することが可能となる。
【0018】
また、排気中に供給された尿素水に含まれる尿素は、エンジンからの排気排出量が少ないほど結晶化しやすく、エンジンの排気排出量が多いほどアンモニアに転化して消滅しやすい。従って、尿素水供給手段から尿素水を間欠的に供給する際の尿素水の供給継続時間及び供給中止時間をエンジンの排気排出量に応じて補正することにより、尿素結晶の形成及び消滅に影響のある排気排出量が変動した場合であっても、尿素結晶の堆積をより一層精度よく確実に抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係る排気浄化装置が適用されるエンジンの全体構成図である。
【図2】図1の排気浄化装置で実行される尿素水供給制御のフローチャートである。
【図3】図2の尿素水供給制御で使用される加算値マップにおける加算値と排気温度及び尿素水供給量/排気排出量との関係を示すグラフである。
【図4】図2の尿素水供給制御で使用される減算値マップにおける減算値と排気温度及び排気排出量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面に基づき本発明の一実施形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る排気浄化装置が適用される4気筒のディーゼルエンジン(以下、エンジンという)の全体構成図を示しており、図1に基づき本発明に係る排気浄化装置の構成を説明する。
エンジン1は各気筒共通の高圧蓄圧室(以下コモンレールという)2を備えており、図示しない燃料噴射ポンプから供給されてコモンレール2に蓄えられた高圧の燃料を、各気筒に設けられたインジェクタ4に供給し、各インジェクタ4からそれぞれの気筒内に燃料が噴射される。
【0021】
吸気通路6にはターボチャージャ8が装備されており、図示しないエアクリーナから吸入された吸気は、吸気通路6からターボチャージャ8のコンプレッサ8aへと流入し、コンプレッサ8aで過給された吸気はインタークーラ10及び吸気制御弁12を介して吸気マニホールド14に導入される。また、吸気通路6のコンプレッサ8aより上流側には、エンジン1への吸入空気流量を検出するための吸気量センサ16が設けられている。
【0022】
一方、エンジン1の各気筒から排気が排出される排気ポート(図示せず)は、排気マニホールド18を介して排気管20に接続されている。なお、排気マニホールド18と吸気マニホールド14との間には、EGR弁22を介して排気マニホールド18と吸気マニホールド14とを連通するEGR通路24が設けられている。
排気管20はターボチャージャ8のタービン8bを経た後、排気絞り弁26を介して排気後処理装置28に接続されている。また、タービン8bの回転軸はコンプレッサ8aの回転軸と連結されており、タービン8bが排気管20内を流動する排気を受けてコンプレッサ8aを駆動するようになっている。
【0023】
排気後処理装置28は、上流側ケーシング30と、上流側ケーシング30の下流側に連通路32で連通された下流側ケーシング34とで構成され、上流側ケーシング30、連通路32及び下流側ケーシング34により本発明の排気通路が構成されている。上流側ケーシング30内には、前段酸化触媒36が収容されると共に、この前段酸化触媒36の下流側にはパティキュレートフィルタ(以下フィルタという)38が収容されている。フィルタ38は、排気中のパティキュレートを捕集することによりエンジン1の排気を浄化するために設けられる。
【0024】
前段酸化触媒36は排気中のNO(一酸化窒素)を酸化させてNO2(二酸化窒素)を生成するので、このように前段酸化触媒36とフィルタ38とを配置することにより、フィルタ38に捕集され堆積しているパティキュレートは、前段酸化触媒36から供給されたNO2と反応して酸化し、フィルタ38の連続再生が行われるようになっている。
一方、下流側ケーシング34内には、アンモニアを吸着し、吸着したアンモニアを還元剤として排気中のNOx(窒素酸化物)を選択還元して排気を浄化するアンモニア選択還元型NOx触媒(以下SCR触媒という)40が収容されると共に、このSCR触媒40の下流側にはSCR触媒40から流出したアンモニアを酸化してN2(窒素)とするための後段酸化触媒42が収容されている。
【0025】
この後段酸化触媒42は、後述するフィルタ38の強制再生でパティキュレートが焼却される際に発生するCO(一酸化炭素)を酸化し、CO2(二酸化炭素)として大気中に排出する機能も有している。
また、連通路32には、連通路32内の排気中に尿素水を噴射供給する尿素水インジェクタ(尿素水供給手段)44が設けられており、尿素水を蓄えた尿素水タンク46から図示しない尿素水供給ポンプを介して尿素水インジェクタ44に尿素水が供給され、尿素水インジェクタ44を開閉することによって尿素水インジェクタ44から連通路32内の排気中に尿素水が噴射されるようになっている。
【0026】
尿素水インジェクタ44から噴射された霧状の尿素水は、排気の熱により加水分解してアンモニアとなり、SCR触媒40に供給される。SCR触媒40は供給されたアンモニアを吸着し、吸着したアンモニアと排気中のNOxとの脱硝反応を促進することにより、NOxを浄化して無害なN2とする。なお、このとき、アンモニアがNOxと反応せずにSCR触媒40から流出した場合には、このアンモニアが後段酸化触媒42によって酸化され、無害なN2となって大気中に放出されるようになっている。
【0027】
更に、下流側ケーシング34内のSCR触媒40上流側には排気温度を検出するための排気温度センサ48が設けられており、この排気温度センサ48は尿素水インジェクタ44から尿素水が供給されてSCR触媒40に流入する排気の温度を検出する。
ECU(制御手段)50は、エンジン1の運転制御をはじめとして総合的な制御を行うための制御装置であり、CPU、メモリ、タイマカウンタなどから構成され、様々な制御量の演算を行うと共に、その制御量に基づき各種デバイスの制御を行っている。
【0028】
ECU50の入力側には、各種制御に必要な情報を収集するため、上述した吸気量センサ16や排気温度センサ48のほか、エンジン1の回転数を検出する回転数センサ52、及び図示しないアクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセル開度センサ54などの各種センサ類が接続されている。また、ECU50の出力側には、演算した制御量に基づき制御が行われる各気筒のインジェクタ4、吸気制御弁12、EGR弁22、排気絞り弁26及び尿素水インジェクタ44などの各種デバイス類が接続されている。
【0029】
エンジン1の各気筒への燃料供給量の演算、及び演算した燃料供給量に基づくインジェクタ4からの燃料供給制御もECU50によって行われる。エンジン1の運転に必要な燃料供給量(主噴射量)は、回転数センサ52によって検出されたエンジン1の回転数とアクセル開度センサ54によって検出されたアクセル開度とに基づき、予め記憶しているマップから読み出して決定する。各気筒に供給される燃料の量は、インジェクタ4の開弁時間によって調整され、決定された燃料量に対応した駆動時間で各インジェクタ4が開弁駆動され、各気筒に主噴射が行われることにより、エンジン1の運転に必要な量の燃料が供給される。
【0030】
ECU50は、このような各気筒への燃料供給制御のほか、フィルタ38の強制再生やSCR触媒40にアンモニアを供給するための尿素水供給制御も行う。フィルタ38の強制再生については既に広く知られているものであり、ここでは詳細な説明を省略するものとし、尿素水供給制御について以下に説明する。
ECU50は、インジェクタ4からの主噴射量や、回転数センサ52によって検出されたエンジン1の回転数及び吸気量センサ16によって検出されたエンジン1への吸入空気流量などに基づき、エンジン1の単位時間あたりの排気排出量及びNOx排出量を求め、このNOx排出量に対してSCR触媒40によるNOxの選択還元に必要なアンモニアの量から尿素水の目標供給量を求める。そして、この目標供給量に基づき尿素水インジェクタ44を制御することにより、尿素水インジェクタ44からSCR触媒40上流側の排気中に尿素水が供給される。
【0031】
尿素水インジェクタ44から噴射された霧状の尿素水は、前述したように、排気の熱により加水分解してアンモニアとなり、このアンモニアがSCR触媒40に供給される。SCR触媒40は、供給されたアンモニアを吸着し、吸着したアンモニアと排気中のNOxとの脱硝反応を促進することにより、NOxを還元して無害なN2とする。
このような尿素水インジェクタ44による尿素水の供給を適正に行うため、ECU50は図2に示すフローチャートに従い、所定の制御周期で尿素水供給制御を行う。なお、この尿素水供給制御はエンジン1の始動に伴って開始され、エンジン1の停止に伴って終了する。
【0032】
制御が開始されると、ECU50はステップS1で、尿素水供給を可能とする条件が成立して、SCR触媒40へのアンモニアの供給を必要とする状態となったか否かを判断する。具体的には、排気温度センサ48が検出した排気温度に基づき、SCR触媒40が活性化しているか否かを判定し、SCR触媒40が活性化していると判定したときには尿素水供給を可能とする条件が成立し、SCR触媒40へのアンモニアの供給を必要とする状態になったと判断する。
【0033】
ステップS1で尿素水供給を可能とする条件が成立したと判断した場合、ECU50は処理をステップS2に進める一方、ステップS1で尿素水供給を可能とする条件が成立していないと判断した場合には今回の制御周期を終了し、次の制御周期のステップS1で再び尿素水供給を可能とする条件が成立したか否かを判断する。従って、ステップS1で尿素水供給を可能とする条件が成立したと判断した場合に限り、ECU50は処理をステップS2に進める。以下では、尿素水供給を可能とする条件が成立しているものとし、処理がステップS1からステップS2に進むものとして説明する。
【0034】
ステップS2においてECU50は、フラグFの値が1であるか否かを判断する。このフラグFは、尿素水インジェクタ44からの尿素水の供給を中止するか否かを示すものであり、その値が1であることにより尿素水の供給中止を示すものである。フラグFの初期値は0となっており、尿素水供給制御が開始された当初は、尿素水供給を可能とする条件が成立した場合に尿素水の供給を許可するようになっている。
【0035】
従って、ステップS2でフラグFの値が1ではないと判断して処理をステップS3に進めると、ECU50は予め記憶している加算値マップ及び減算値マップから、その制御周期で使用する加算値An及び減算値Dnをそれぞれ読み出す。なお、添字nはそのときの制御周期に対応するものであることを示しており、添字n−1は前回の制御周期に対応するものであることを示す。
【0036】
加算値Anを読み出すために使用される加算値マップには、エンジン1の単位時間あたりの排気排出量に対する尿素インジェクタ44から供給される尿素水の単位時間あたりの供給量の比、即ち尿素水供給量/排気排出量と、尿素水が供給される排気の温度とに応じて大きさが変化する加算値Anが記憶されている。この加算値Anは、排気中に供給された尿素水から生成される尿素結晶の単位時間あたりの生成量に対応している。尿素結晶は排気中に供給される尿素水が多いほど生成されやすい上、エンジン1からの排気排出量が少ないほど生成されやすく、また排気温度が低いほど生成されやすい。そこで加算値マップにおいては、図3に示すように、尿素水供給量/排気排出量が大きいほど大きい加算値Anとなり、また排気温度が低いほど大きい加算値Anとなるように加算値Anが設定されている。
【0037】
また、減算値Dnを読み出すために使用される減算値マップには、エンジン1の単位時間あたりの排気排出量と、尿素水が供給される排気の温度とに応じて大きさが変化する減算値Dnが記憶されている。この減算値Dnは、排気中に生成された尿素結晶がアンモニアに転化することによる尿素の単位時間あたりの消滅量に対応している。尿素はエンジン1からの排気排出量が多いほどアンモニアに転化して消滅しやすく、また排気温度が高いほどアンモニアに転化して消滅しやすい。そこで減算値マップにおいては、図4に示すように、排気排出量が多いほど大きい減算値Dnとなり、排気温度が高いほど大きい減算値Dnとなるように減算値Dnが設定されている。
【0038】
従って、ステップS3では、その制御周期において排気温度センサ48により検出された排気温度と、ECU50が演算した尿素水の目標供給量及びエンジン1の排気排出量に基づき、対応する加算値Anを加算値マップから読み出すと共に、上記排気温度及び排気排出量に基づき、対応する減算値Dnを減算値マップから読み出す。
次のステップS4では、ステップS3で読み出した加算値An及び減算値Dnを用い、第1判定値Xnの演算が行われる。具体的には、ECU50が前回の制御周期で算出した第1判定値Xn-1に対してステップS3で読み出した加算値Anを加算すると共にステップS3で読み出した減算値Dnを減算することにより今回の第1判定値Xnを求める。ここで、第1判定値Xn-1の初期値は予め設定された下限値であって、本実施形態では0を第1判定値Xn-1の初期値としている。従って、ステップS2からステップS3を経て初めてステップS4に処理が進んだ場合には、加算値Anから減算値Dnを減じた値が今回の第1判定値Xnとなる。
【0039】
こうして今回の第1判定値Xnを求め、次のステップS5に処理を進めると、ECU50はステップS4で求めた今回の第1判定値Xnが所定の上限値L以上となったか否か、即ち上限値Lに達したか否かを判断する。そして、今回の第1判定値Xnが上限値Lに達していないと判断した場合にはステップS6に処理を進めて、尿素水噴射を許可することにより、尿素水インジェクタ44からの尿素水の噴射が継続される。
【0040】
こうして今回の制御周期を終了し、次の制御周期になると、ECU50は再びステップS1から処理を開始し、ステップS2に処理を進める。
フラグFの値は0のままであることから、ECU50は処理をステップS2からステップS3を経てステップS4に進め、上述したようにしてステップS3で読み出した加算値An及び減算値Dnと前回の制御周期で算出した第1判定値Xn-1を用い、今回の第1判定値Xnを演算する。このようにステップS4では、加算値An及び減算値Dnと前回の制御周期で算出した第1判定値Xn-1を用い、制御周期毎に今回の第1判定値XnをECU50が演算することにより、今回の第1判定値Xnが更新されていく。
【0041】
ここで、尿素供給量/排気排出量が比較的小さい場合や尿素水が供給される排気の温度が比較的低い場合には尿素結晶が生成されやすく、これに対応して加算値Anも比較的大きい値となっている。また、排気排出量が比較的少ない場合や尿素水が供給される排気の温度が比較的低い場合には尿素がアンモニアに転化しにくくなって消滅量が減少し、これに対応して減算値Dnも比較的小さな値となる。このようにして加算値Anに対し減算値Dnが相対的に小さくなると、ステップS4において制御周期毎に繰り返し演算される第1判定値Xnの値は徐々に増大していくことになる。
【0042】
ステップS4で演算された第1判定値Xnの値が増大し、ステップS5において上限値Lに達したと判定すると、ECU50は処理をステップS7に進めて尿素インジェクタ44からの尿素水の噴射を中止し、次にステップS8に処理を進める。
ECU50はステップS8でフラグFの値を1とした後、ステップS9に処理を進め、次回の制御周期以降でステップS4に処理が進んだ場合に第1判定値Xn-1の初期値となる今回の第1判定値Xnの値を下限値の0にリセットし、その制御周期を終了する。
【0043】
このように、尿素供給量、排気排出量及び排気温度によって加算値An及び減算値Dnが増減し、その結果として第1判定値Xnが上限値Lに達すると、それまで継続していた尿素インジェクタ44からの尿素水の噴射が中止される。従って、こうして中止されるまでの尿素水の供給継続時間は上限値Lのほか、加算値マップ及び減算値マップから読み出される加算値An及び減算値Dnによって定まる。
【0044】
加算値マップ及び減算値マップにおける加算値An及び減算値Dnの値の関係は前述したとおりであるが、上限値L、加算値An及び減算値Dnの値は尿素水の噴射が継続しているときに尿素が結晶化して堆積し始める直前で、第1判定値Xnが上限値Lに達して尿素水の供給が中止されるような値となっている。上限値L、加算値An及び減算値Dnの設定については様々な方法が考えられるが、その一例については後述する。
【0045】
ステップS5において第1判定値Xnが上限値Lに達したと判定し、前述のようにしてステップS7乃至S9を経て終了した制御周期の次の制御周期では、処理がステップS1からステップS2に進むと、フラグFの値が1となっているため、ECU50はステップS10に処理を進める。
ステップS10でECU50は、その制御周期で使用する減算値Dnを減算値マップから読み出す。減算値マップには、前述したようにエンジン1の単位時間あたりの排気排出量と、尿素水が供給される排気の温度とに応じて大きさが変化する減算値Dnが記憶されており、図4に示すように、排気排出量が多いほど大きい減算値Dnとなり、排気温度が高いほど大きい減算値Dnとなるように減算値Dnが設定されている。従って、ECU50は、その制御周期において排気温度センサ48により検出された排気温度と、ECU50が演算したエンジン1の排気排出量に基づき、対応する減算値Dnを減算値マップから読み出す。
【0046】
次のステップS11では、ステップS10で読み出した減算値Dnを用い、第2判定値Ynの演算が行われる。具体的には、ECU50が前回の制御周期で算出した第2判定値Yn-1からステップS10で読み出した減算値Dnを減算することにより今回の第2判定値Ynを求める。ここで、第2判定値Yn-1の初期値は、前述したステップS5で用いられる上限値Lであって、ステップS2からステップS10を経て初めてステップS11に処理が進んだ場合には、上限値Lから減算値Dnを減じた値が今回の第2判定値Ynとなる。
【0047】
こうして今回の第2判定値Ynを求め、次のステップS12に処理を進めると、ECU50はステップS11で求めた今回の第2判定値Ynが前述したステップS4における第1判定値Xn-1の初期値である所定の下限値の0以下となったか否か、即ち下限値0に達したか否かを判断する。そして、今回の第2判定値Ynが下限値0に達していないと判断した場合にはステップS13に処理を進めて、尿素水噴射を中止することにより、尿素水インジェクタ44からの尿素水噴射の中止が継続される。
【0048】
こうして今回の制御周期を終了し、次の制御周期になると、ECU50は再びステップS1から処理を開始し、ステップS2に処理を進める。
フラグFの値は1のままであることから、ECU50は処理をステップS2からステップS10を経てステップS11に進め、上述したようにしてステップS10で読み出した減算値Dnと前回の制御周期で算出した第2判定値Yn-1を用い、今回の第2判定値Ynを演算する。このようにステップS11では、減算値Dnと前回の制御周期で算出した第2判定値Yn-1を用い、制御周期毎に今回の第2判定値YnをECU50が演算することにより、今回の第2判定値Ynが更新されていく。このようにして今回の第2判定値Ynが更新されることにより、ステップS11において制御周期毎に繰り返し演算される第2判定値Ynの値は徐々に減少していくことになる。
【0049】
ステップS11で演算された第2判定値Ynの値が減少し、ステップS12において下限値0に達したと判定すると、ECU50は処理をステップS14に進めて尿素インジェクタ44からの尿素水の噴射を許可し、次にステップS15に処理を進める。
ECU50はステップS15でフラグFの値を0とした後、ステップS16に処理を進め、次回の制御周期以降でステップS11に処理が進んだ場合に第2判定値Yn-1の初期値となる今回の第2判定値Ynの値を上限値Lにリセットし、その制御周期を終了する。
【0050】
このように、第2判定値Ynが下限値0に達すると、それまで継続して中止されていた尿素インジェクタ44からの尿素水の噴射が再開される。従って、こうして再開されるまでの尿素水の供給中止時間は、上限値L及び減算値マップから読み出される減算値Dnによって定まる。
減算値マップにおける減算値Dnの値は、エンジン1からの単位時間あたりの排気排出量と、尿素水が供給される排気の温度とに応じて変化するものであって、上限値L及び減算値Dnは尿素水インジェクタ44からの尿素水の供給継続時間に影響を与えるものであることは前述したとおりである。更に、上限値L及び減算値Dnの値は、尿素水が継続して供給されている間に生成された尿素結晶が、尿素水の供給中止を継続している間に、アンモニアに転化して消滅し終えたとき、第2判定値Ynが下限値0に達して尿素水の供給が再開されるような値となっている。
【0051】
これら上限値L及び減算値Dnのほか、前述した第1判定値Xnの演算に用いられる加算値Anの設定については様々な方法が考えられるが、例えば以下のようにして設定することができる。
即ち、予め実験においてエンジン1を所定の基準運転状態で運転し、このとき尿素水インジェクタ44から尿素水を連続的に排気中に供給した場合に、尿素水に含まれる尿素が結晶化して堆積し始めるまでに要する時間を基準供給継続時間として求める。次に、エンジン1を所定の基準運転状態で運転し、尿素水を基準供給時間にわたって連続的に供給した場合に存在する尿素が、尿素水供給を中止した後にアンモニアに転化して消滅し終える時間を基準供給中止時間として求める。そして、前述したようにして第2判定値Ynを演算したときに第2判定値Ynが上記基準供給中止時間で下限値0に達するように、上限値L及び基準運転状態における減算値Dnを定めると共に、これら上限値L及び基準運転状態における減算値Dnに基づき、前述したようにして第1判定値Xnを演算したときに第1判定値Xnが上記基準供給継続時間で上限値Lに達するように、基準運転状態における加算値Anを定める。
【0052】
次に、エンジン1の運転状態を様々に変化させた場合の基準供給継続時間及び基準供給中止時間を求め、各運転状態においても第2判定値Ynを演算したときに第2判定値Ynがそれぞれ対応する基準供給中止時間で下限値0に達すると共に、第1判定値Xnを演算したときに第1判定値Xnがそれぞれ対応する基準供給継続時間で上限値Lに達するように、上記基準運転状態における加算値An及び減算値Dnとに基づき、各運転状態における加算値An及び減算値Dnを定めればよい。こうして求められた各運転状態における加算値An及び減算値Dnが、各運転状態における尿素水供給量や排気排出量、並びに尿素水が供給される排気の温度に対応して加算値マップ及び減算値マップに設定され記憶される。
【0053】
ステップS12において第2判定値Ynが下限値0に達したと判定し、前述のようにしてステップS14乃至S16を経て終了した制御周期の次の制御周期では、処理がステップS1からステップS2に進むと、フラグFの値が0となっているため、ECU50はステップS3を経てステップS4に処理を進め、前述したようにして第1判定値Xnの演算を行うと共に、第1判定値Xnが上限値Lに達するまでの間は、尿素水インジェクタ44から尿素水の噴射が行われる。この後の制御は、これまでに述べたとおりである。
【0054】
こうして図2のフローチャートに従って尿素水供給制御が行われることにより、SCR触媒40が活性化して尿素水供給を可能とする条件が成立し、SCR触媒40へのアンモニアの供給が必要となった場合には、尿素水インジェクタ44から尿素水が間欠的に排気中に噴射される。尿素水の間欠供給においては、第1判定値Xnが上限値Lに達するまで尿素水の供給が継続され、第2判定値Ynが下限値0に達するまで尿素水の供給が中止される。
【0055】
前述したように、上限値Lや、第1判定値Xn及び第2判定値Ynの演算に使用される加算値An及び減算値Dnは、第1判定値Xnが上限値Lに達するまでの時間が、尿素水を連続的に供給した場合に尿素が結晶化して堆積し始める直前までの時間となるように設定されていると共に、第2判定値Ynが下限値0に達するまでの時間が、尿素水の供給中止の間に尿素がアンモニアに転化して消滅し終える時間となるように設定されている。従って、尿素水インジェクタ44から排気中に噴射された尿素水に含まれる尿素は、上流側ケーシング30、連通路32及び下流側ケーシング34による排気通路内や尿素水インジェクタ44に堆積することなく、アンモニアに転化してSCR触媒40に供給され、SCR触媒40によるNOxの選択還元に使用される。
【0056】
この結果、尿素結晶の堆積によって生じる上流側ケーシング30、連通路32及び下流側ケーシング34における排気流動抵抗の増大や尿素水インジェクタ44の作動不良を確実に防止することができる。また、尿素水の間欠供給の際の供給中止時間は、尿素水の供給中止の間に尿素がアンモニアに転化して消滅し終える時間となるように設定されているので、必要以上に尿素水供給が中断されることがなく、SCR触媒40へのアンモニア供給に対する影響を最小限にとどめることができる。更に、尿素水の間欠供給はSCR触媒40が活性化温度に達し、アンモニアの供給を必要としているときに行われるので、尿素結晶の堆積防止のために余分な尿素水を供給する必要がなく、尿素水を効率的に使用することができる。
【0057】
また、第1判定値Xnの演算に用いられる加算値Anは、単位時間あたりのエンジン1からの排気排出量に対する単位時間あたりの尿素水供給量の比である尿素水供給量/排気排出量が大きいほど大きく、また尿素水が供給される排気の温度が低いほど大きく設定される。従って、減算値Dnが一定と仮定した場合、第1判定値Xnは尿素水供給量/排気排出量が大きいほど増大の度合いが大きく、また排気温度が低いほど増大の度合いが大きくなり、早く上限値Lに達する。即ち、尿素水インジェクタ44から間欠的に尿素を供給する際の尿素水の供給継続時間は、尿素水供給量、エンジン1からの排気排出量及び排気温度によって補正され、尿素水供給量/排気排出量が大きいほど短く、また排気温度が低いほど短くなり、尿素水供給量、エンジン1からの排気排出量及び排気温度による尿素結晶の生成への影響度合がそれぞれ適正に供給継続時間に反映される。
【0058】
更に、第2判定値Ynの演算に用いられる減算値Dnは、単位時間あたりのエンジン1からの排気排出量が大きいほど大きく、また尿素水が供給される排気の温度が高いほど大きく設定される。従って、第2判定値Ynは排気排出量が大きいほど減少の度合いが大きく、また排気温度が高いほど減少の度合いが大きくなり、早く下限値0に達する。即ち、尿素水インジェクタ44から間欠的に尿素水を供給する際の尿素水の供給中止時間は、エンジン1からの排気排出量及び排気温度によって補正され、排気排出量が大きいほど短く、また排気温度が高いほど短くなり、エンジン1からの排気排出量及び排気温度による尿素の消滅への影響度合いがそれぞれ適正に供給中止時間に反映される。
【0059】
排気中に供給された尿素水は、排気温度が低いほど尿素結晶を生成しやすく、エンジン1からの排気排出量が少ないほど尿素結晶を生成しやすく、尿素供給量が多いほど尿素結晶を生成しやすい。また、排気中に生成された尿素結晶は、排気温度が高いほどアンモニアに転化して消滅しやすく、エンジン1からの排気排出量が多いほどアンモニアに転化して消滅しやすい。
【0060】
従って、尿素水の間欠供給の際に、上述のようにして供給継続時間を尿素水供給量、エンジン1からの排気排出量及び排気温度に応じて補正すると共に、供給中止時間をエンジン1からの排気排出量及び排気温度によって補正することにより、エンジン1の運転状態が変動して尿素水供給量や、エンジン1からの排気排出量或いは排気温度が変化した場合であっても、尿素結晶の堆積を精度良く抑制して排気流動抵抗の増大や尿素水インジェクタ44の作動不良といった問題の発生を確実に防止することができる。
【0061】
また、尿素水の間欠供給の際の尿素水の供給中止時間を、上述したように排気排出量が大きいほど短く、また排気温度が高いほど短く補正することにより、エンジン1の運転状態が変化した場合であっても、尿素水を間欠供給する際の尿素供給の中断時間を必要最小限としてSCR触媒40へのアンモニア供給に対する影響を最小限にとどめながら、確実に尿素をアンモニアに転化させることによって消滅させ、尿素結晶の堆積を良好に抑制することができる。
【0062】
以上で本発明の一実施形態に係る排気浄化装置についての説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
例えば、上記実施形態では、上限値L、下限値0、加算値An及び減算値Dnを用いて演算した第1判定値Xn及び第2判定値Ynにより、尿素水の間欠供給における供給継続時間及び供給中止時間を決定するようにしたが、これら供給継続時間及び供給中止時間の設定方法はこれに限られるものではない。即ち、尿素水の間欠供給における供給継続時間及び供給中止時間を、単位時間あたりの尿素水供給量やエンジン1からの排気排出量、及び排気温度に対応させて直接マップなどに記憶し、実際の尿素水供給量、排気排出量、及び排気温度に対応する供給継続時間及び供給中止時間を読み出して設定するようにしてもよい。
【0063】
更に、上記実施形態では、尿素水の供給継続時間及び供給中止時間を決定する際に用いる下限値を0としたが、下限値はこれに限定されるものではなく、尿素水の間欠供給における尿素結晶の生成や消滅をどの程度に設定するかによって適宜変更することができる。
また、上記実施形態では尿素水の間欠供給の際に、尿素水の供給によって尿素が結晶化して堆積し始める直前まで尿素水の供給を継続するようにしたが、尿素が結晶化して所定量堆積するまで尿素水の供給を継続するようにしてもよい。この場合、尿素水の供給中止時間は、結晶化して堆積した尿素も含め、供給された尿素水の尿素がアンモニアに転化して消滅するまでの時間とすればよい。
【0064】
また、上記実施形態では、SCR触媒40が活性化したことをもって尿素水供給を可能とする条件が成立したと判断するようにしたが、尿素水供給を可能とする条件はこれに限定されるものではなく、例えば尿素水温度やエンジン1の運転状態などを加味するようにしてもよい。
更に、上記実施形態では、SCR触媒40上流に配設された排気温度センサ48により検出された排気温度を用いて、尿素水の間欠供給の際の尿素水供給の継続時間及び尿素水供給中止の継続時間の補正を行うようにしたが、排気温度の検出位置はこれに限定されるものではなく、エンジン1から排出される排気の温度を検出可能な位置であればよい。
【0065】
また、上記実施形態では、エンジン1を4気筒のディーゼルエンジンとしたが、エンジンの気筒数及び形式はこれに限定されるものではなく、SCR触媒40に対してアンモニアを供給するために排気中に尿素水を供給するようにしたエンジンであれば本発明を適用することが可能である。
【符号の説明】
【0066】
1 エンジン
30 上流側ケーシング(排気通路)
32 連通路(排気通路)
34 下流側ケーシング(排気通路)
40 アンモニア選択還元型NOx触媒
44 尿素水インジェクタ(尿素水供給手段)
48 排気温度センサ(排気温度検出手段)
50 ECU(制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの排気通路に配設され、アンモニアを還元剤として排気中のNOxを選択還元するアンモニア選択還元型NOx触媒と、
上記アンモニア選択還元型NOx触媒の上流側の排気中に尿素水を供給する尿素水供給手段と、
上記エンジンが上記アンモニア選択還元型NOx触媒へのアンモニアの供給を必要とする運転状態にあって、上記尿素水供給手段から尿素水を供給する際には、所定の供給継続時間及び供給中止時間により間欠的に尿素水を供給するように上記尿素水供給手段を制御する制御手段と、
上記尿素水供給手段から尿素水が供給される排気の温度を検出する排気温度検出手段とを備え、
上記制御手段は、
上記排気温度検出手段によって検出された排気温度と、上記尿素水供給手段からの尿素水供給量とに基づいて、
上記尿素水供給手段から尿素水を間欠的に供給する際に、上記尿素水供給手段から尿素水を供給している間は、所定の下限値を初期値として、上記排気温度と上記エンジンの排気排出量に対する上記尿素水供給量の比とに応じて求めた加算値を所定周期毎に加算していくと共に上記排気温度と上記排気排出量とに応じて求めた減算値を上記所定周期毎に減算していくことにより第1判定値を演算し、上記第1判定値が所定の上限値に達すると上記供給継続時間が経過したものと判断して上記尿素水供給手段からの尿素水の供給を停止する一方、
上記尿素水供給手段から尿素水を間欠的に供給する際に、上記尿素水供給手段からの尿素水供給を一時的に停止している間は、上記上限値を初期値として、上記排気温度と上記排気排出量とに応じて求めた減算値を上記所定周期毎に減算していくことにより第2判定値を演算し、上記第2判定値が上記下限値に達すると上記供給中止時間が経過したものと判断して上記尿素水供給手段からの尿素水の供給を開始することを特徴とする排気浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−97749(P2012−97749A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−243385(P2011−243385)
【出願日】平成23年11月7日(2011.11.7)
【分割の表示】特願2007−270187(P2007−270187)の分割
【原出願日】平成19年10月17日(2007.10.17)
【出願人】(303002158)三菱ふそうトラック・バス株式会社 (1,037)
【Fターム(参考)】