説明

排煙処理装置及び排煙処理方法

【課題】CO2回収装置を設置した排煙処理装置において、排ガス中の脱硫率を向上させることが可能な排煙処理装置の提供である。
【解決手段】ボイラを含む燃焼装置からの排ガスを導入して石灰石又は石灰を含むスラリを含有する吸収液と気液接触させる吸収部と吸収部で排ガス中の硫黄酸化物を吸収した吸収液を溜める貯留部と貯留部内の吸収液を吸収部に循環する循環部とを備えた吸収塔と、吸収塔で硫黄酸化物が除去された排ガス中の二酸化炭素を回収する二酸化炭素回収部と、吸収塔の吸収液に二酸化炭素を供給する二酸化炭素供給部とを設けた排煙処理装置である。吸収液への二酸化炭素の供給によって、吸収液のpHが低くなって亜硫酸カルシウムの酸化効率が高くなることで、脱硫率が向上する。また、吸収液に回収した二酸化炭素を供給することで、二酸化炭素の有効利用が図れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は火力発電ボイラなどの排煙処理装置及び排煙処理方法に係り、特に排ガスから二酸化炭素(CO2)を回収するシステムにおいて、脱硫性能を向上させる排煙処理装置及び排煙処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化防止の観点から、火力発電所などのボイラの排ガスから温暖化ガスである二酸化炭素(CO2)を回収して除去することが要求されており、特に最近は、その要求が高まりつつある。通常の火力発電ボイラの排ガスは、窒素酸化物(NOx)を除去する脱硝、煤塵を除去する脱塵、硫黄酸化物(SOx)を除去する脱硫といった一連の排ガス処理をした後、CO2の回収が行われるのが一般的である。図8には、従来のCO2回収装置を備えた排煙処理装置の構成を模式的に示す。
【0003】
図示していない火力発電所などのボイラ等の燃焼装置から排出される数百〜数千ppmの二酸化硫黄(SO2)を含む排ガスは、脱硫吸収塔2の入り口1から脱硫吸収塔2内に導入され、脱硫吸収塔2内を上昇する。脱硫吸収塔2内では、上下に複数段の多数のスプレノズル5〜7を備えたスプレヘッダが設置されており、スプレノズル5〜7から微細な液滴として噴霧される石灰石(主成分炭酸カルシウム(CaCO))又は石灰を含むスラリなどの吸収剤の液滴と排ガスとを接触させることで、排ガス中のばいじんや塩化水素(HCl)、フッ化水素(HF)等の酸性ガスと共に、排ガス中のSOxはスプレノズル5〜7の吸収液滴表面で化学的に吸収、除去される。
【0004】
通常、スプレノズル5〜7は数段に分かれて設置されており、図8には、三段の場合を示している。スプレノズル5〜7から噴霧された吸収液は排ガスとの気液接触によりSO2を吸収し、式(1)のように亜硫酸カルシウム(CaSO)が生成する。
CaCO+SO2+1/2H2O → CaSO・1/2H2O+CO2 (1)
【0005】
スプレノズル5〜7から噴霧された液滴は硫黄酸化物を吸収した後、脱硫吸収塔2の下部に設けられた循環タンク8に落下する。そして、循環タンク8に溜まった吸収液内に、空気供給管9から空気が供給されることによって、亜硫酸カルシウムが空気中の酸素によって式(2)のように酸化され、硫酸カルシウム(石膏(CaSO))が生成する。
CaSO・1/2H2O+1/2O2+3/2H2O → CaSO・2H2O(2)
【0006】
式(2)に示すように、亜硫酸カルシウムが酸化によって吸収液中から減少することによって、再びSO2吸収が可能となることから、亜硫酸カルシウムの酸化速度が大きい方が脱硫効率は向上する。亜硫酸カルシウムの酸化効率は吸収液のpHが低い方が良いが、吸収液のpHが高い方がCaCOの濃度が高くなるため、SO2の吸収効率は良くなる。このため、SO2の吸収効率(吸収液のpHが高い方が良い)と亜硫酸カルシウムの酸化効率(吸収液のpHが低い方が良い)を両立させるため、通常、脱硫吸収塔2は循環タンク8内の吸収液のpHが5〜6の範囲になるように運転されている。
【0007】
循環タンク8内の吸収液は、常に攪拌機10によって攪拌されている。吸収液はSO2を吸収するとpHが低下してSO2の吸収性が悪くなるため、吸収液のpHを所定の値に維持するように、炭酸カルシウムなどのアルカリ性脱硫剤を脱硫剤供給ライン11から継続的に供給する。炭酸カルシウム及び石膏が共存する循環タンク8内の吸収液の一部は、吸収液循環ポンプ3によって循環ライン4を経由して再びスプレノズル5〜7に送られ、再び排ガス中に噴霧され、循環タンク8に落下する。循環タンク8内の吸収液の一部は循環ライン4の抜き出しライン12から廃液処理・石膏回収系へと送られる。石膏はセメント材料等として有効利用が可能である。スプレノズル5〜7からの噴霧によって微粒化された吸収液の中で、液滴径の小さいものは排ガスに同伴されて、脱硫吸収塔2上部の出口ダクトに設けられたミストエリミネータ13によって除去、捕集される。
【0008】
脱硫吸収塔2から排出された排ガスには、通常、数〜十数ppmのSO2が残存しており、CO2濃度は12〜15%(体積%、以下同じ)程度である。このような排ガスからCO2を回収する場合、CO2回収装置におけるCO2の吸収液の劣化や装置の腐食を防ぐために、SO2濃度を1ppm以下にまで低減しておく必要がある。そこで、脱硫吸収塔2から排出された排ガスは排ガスライン14から高度脱硫装置15へ導入され、高度脱硫装置15によってアルカリ剤をアルカリ剤供給ライン16から供給して排ガス中のSO2濃度を1ppm程度にまで低減する。その後、排ガスは排ガスライン14からCO2回収装置17へ導入され、CO2回収装置17によってCO2を100%近くまで濃縮して回収する。濃縮、回収されたCO2は、CO2搬送ライン18によってCO2圧縮装置19へ送られ、液化して貯蔵される。そして、CO2回収装置17によってCO2が除去された残りの排ガスは、煙突20から排出される。
【0009】
例えば、下記非特許文献1には、排ガス流路の上流側からボイラ、除塵装置、脱硫装置、熱交換器、煙突を設置した排ガス処理プラントにおいて、脱硫装置と熱交換器との間に、排ガス冷却塔、吸収塔、再生塔などからなるCO2回収装置を配置した排ガス処理プラントが開示されている。このCO2回収装置の中の排ガス冷却塔は、上述の高度脱硫装置に相当する。
【0010】
また、CO2の回収装置を設置していない排煙処理装置の例として、下記特許文献1がある。下記特許文献1には、脱硫処理後の排ガスを吸収液に混入して曝気することで吸収液中の亜硫酸カルシウムを酸化して高い脱硫率を維持する構成が開示されている。
【0011】
一方、近年、発電用ボイラの二酸化炭素の削減技術の一つとして、酸素燃焼方式が注目されている。酸素燃焼方式では、従来の方式(空気燃焼方式)と比べて排ガス組成が大きく異なるため、SO3の高濃度化による排ガス循環部やその下流のCO2回収装置の配管又はファンの腐食及び灰詰まり等の点を考慮しなければならず、酸素燃焼方式に適する排煙処理装置の開発も重要な課題である。そして、CO2の分離、回収と貯蔵に関する技術開発も活発になってきている。
【0012】
従来の酸素燃焼方式における排煙処理装置の構成を図9に示す。図9の排煙処理装置は、ホイラ31から排出された一部のガスを再循環する排ガス循環部を設け、この排ガス循環部に酸素を供給して石炭を燃焼させる排煙処理装置の例である。
この排煙処理装置は主にボイラ31の排ガスダクトの上流側から下流側にかけて、石炭を供給するボイラ31、ボイラ31から発生する排ガス中の窒素酸化物を処理するための脱硝装置33、脱硝装置33の出口排ガスによりボイラ31で使用される燃焼用空気を加熱する熱交換器35、熱交換器35から排出される排ガス中の煤塵等を除去するための集塵装置37、集塵装置37の出口排ガス中の硫黄酸化物を処理するための脱硫吸収塔2、脱硫吸収塔2の出口排ガス中の二酸化炭素を回収するためのCO2回収装置17等が順次配置された排ガス処理部で構成されている。
【0013】
そして、更に集塵装置37の出口排ガスを熱交換器35を経由させてボイラ31に戻す再循環ライン39及び再循環ライン39に供給する酸素を製造するための酸素製造装置40などからなる排ガス循環部が設けられている。
ボイラ31は、石炭を酸素燃焼することにより、排ガスを生成する。このときに用いられる酸素は酸素製造装置40により製造、供給される。そして、酸素の供給は、酸素供給ライン42から再循環ライン39を介して行われる。供給された酸素は熱交換器35で循環ガスと共に加熱される。
【0014】
また、脱硝装置33では、排ガス中に含まれるNOx(窒素酸化物)が分解され、その後、熱交換器35で排ガス温度を200〜160℃に降下させた後に、集塵装置37で排ガス中の煤塵が除去される。集塵装置37により除塵された排ガスは流路が分岐することで脱硫吸収塔2、再循環ライン39にそれぞれ供給される。
脱硫吸収塔2では排ガス中の二酸化硫黄(SO2)が除去されて、その後CO2回収装置17で排ガス中のCO2が回収される。そして、図8の場合と同様に、CO2回収装置17によって回収されたCO2は貯蔵され、CO2回収装置17によってCO2が除去された残りの排ガスは、煙突20(図8)から排出される。また、集塵装置37の出口から再循環ライン39を通った排ガスは、図示しない排ガス循環用ファンにより昇圧されて、ボイラ31に供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開昭58−98125号公報
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】飯嶋 正樹、外4名、「石炭火力発電所排ガスのCO2回収長期実証試験」、三菱重工技報、2007年、VOL.44、No.2、p.30−34
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
このような従来技術においては、以下のような問題がある。
上述の通り、脱硫吸収塔から排出された排ガスには、通常、数〜十数ppmのSO2が残存しており、CO2回収装置におけるCO2の吸収液の劣化や装置の腐食を防ぐために、SO2濃度を1ppm以下にまで低減しておく必要がある。しかし、従来の湿式脱硫方式ではSO2濃度を1ppm以下にするのはきわめて難しい。したがって、CO2回収装置の前段(上流側)に高度脱硫装置を設置して、アルカリ剤を供給することでSO2濃度を1ppm以下に低減している。アルカリ剤としては、炭酸カルシウム(CaCO)又は水酸化ナトリウム(NaOH)が用いられる場合が多い。
【0018】
このような高度脱硫装置を設置すると、排煙処理装置全体のシステムが複雑となり、装置が大型化し、コストもかかる。また、高度脱硫装置で使用するアルカリ剤の供給装置も必要となり、アルカリ剤の量が多いとそれも伴うコストも嵩む。
また、特許文献1に記載のように、排ガスを吸収液に噴出させたり曝気することで、ある程度、亜硫酸カルシウムの酸化効率は向上するものの、CO2回収装置の上記問題については考慮されていない。
【0019】
そして、酸素燃焼方式の排煙処理に用いられる排煙処理装置は、以下の観点から従来の空気燃焼方式の排煙処理に用いられる排煙処理装置に比べて、より高効率で高性能なものが要求される。排煙処理装置の脱硫性能(脱硫率)を左右する要素としては、ガス流速、液ガス比(L/G)などがあり、処理する排ガス量に対して気液接触させる吸収液の量を増大(L/Gを上昇)させることにより脱硫率は向上する。ここで、酸素燃焼方式におけるCO2回収装置を追加した排煙処理装置では、以下のような問題がある。
【0020】
酸素燃焼方式の排煙処理装置において、燃焼用ガスに上述の高酸素濃度のガスと脱硫吸収塔の上流側から再循環させた燃焼排ガスとを用いる場合は、脱硫吸収塔に流入する排ガス量が減少するが、SO2濃度が上昇する。また、脱硫吸収塔の後段(下流側)に設けられるCO2回収装置においては、排ガス中に残留するSO2によって構成材料の腐食が顕著となりやすい。また、CO2を回収するためのCO2吸収液が排ガス中に残留するSO2によって劣化してしまう。したがって、脱硫装置から排出される排ガス中のSO2濃度を極力低減しなければならない。
【0021】
また、酸素燃焼方式の排煙処理装置では脱硫吸収塔の入口からボイラへ排ガスの大部分を再循環させることになるため、脱硫吸収塔の入口に供給される排ガスの量が1/4〜1/5と大幅に少なくなる。このとき、脱硫吸収塔の循環液量を空気燃焼方式における脱硫吸収塔の循環液量より低減しても脱硫性能が維持できるため、空気燃焼方式よりも酸素燃焼方式の方が脱硫吸収塔のサイズ(容積)を小さくでき、コンパクト化が可能である。
【0022】
しかし、脱硫吸収塔を小さくしても、高度な脱硫を行うために吸収液の貯留部(循環タンク)で処理しなければならない亜硫酸カルシウムの量は空気燃焼方式の場合と変わらず、空気燃焼方式と同じ量の空気を亜硫酸カルシウムの酸化用ガスとして供給しなければならない。脱硫吸収塔のサイズを小さくすると、供給した酸化用ガスの影響により貯留部内の吸収液の液面が高くなることや酸化反応を進行させるため滞留時間を十分に確保する必要があることから、貯留部のコンパクト化が難しい。また、酸化用ガスの供給量が貯留部の大きさに対して多くなってしまうと、吸収液の循環ポンプに空気が混入しやすくなることで、吸収液を安定して循環させることができなくなってしまう。したがって、酸素燃焼方式の脱硫吸収塔では、酸化用ガスの供給量を低減するために、高効率な亜硫酸カルシウムの酸化が求められる。
【0023】
そして、脱硫吸収塔の後段のCO2回収装置におけるCO2の吸収液の劣化や装置の腐食を防ぐために、排ガス中に残留するSO2による問題が生じない程度、例えばSO2濃度を1ppm程度以下になるように、L/Gを上昇させて対応しようとすると、吸収液を循環させるための循環ポンプなどの動力等が大幅に増大してしまうという問題がある。
そこで、脱硫吸収塔などの脱硫装置を追加して、複数台を直列に接続することも考えられるが、設置場所の確保が困難であったり、設備コストの上昇を招くという問題がある。
【0024】
本発明の課題は、CO2回収装置を設置した排煙処理装置やCO2を回収する排煙処理方法において、排ガス中の脱硫率を向上させることにより、CO2回収装置の前段の高度脱硫装置を省略でき、また高度脱硫装置を設置する場合でも高度脱硫装置で使用するアルカリ剤の量を低減することができる排煙処理装置及び排煙処理方法を提供することである。
【0025】
さらに、本発明の課題は、酸素燃焼方式における排煙処理装置や排煙処理方法においても、大幅な所要動力の増大や設備コストの上昇を招くことなく、排ガス中の脱硫率を向上させることにより、CO2回収装置内の腐食や劣化等を防止し、硫黄酸化物の吸収液に供給する酸化用ガスの供給量を低減できる排煙処理装置及び排煙処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0026】
上記課題は、排ガス中の硫黄酸化物を吸収、除去する吸収塔の吸収液に二酸化炭素を供給して、二酸化炭素を含む吸収液と排ガスとを気液接触させることにより達成される。
すなわち、請求項1記載の発明は、ボイラを含む燃焼装置から排出される排ガスを導入して石灰石又は石灰を含むスラリを含有する吸収液を噴霧して気液接触させる吸収部と該吸収部で排ガス中の硫黄酸化物を吸収した吸収液を溜める貯留部と該貯留部内の吸収液を前記吸収部に循環する循環部とを備え、排ガス中の硫黄酸化物を除去する吸収塔と、前記吸収塔で硫黄酸化物が除去された排ガス中の二酸化炭素を回収する二酸化炭素回収部と、前記吸収塔の吸収部、貯留部、循環部のうち少なくとも一つに含まれる吸収液に二酸化炭素を供給する二酸化炭素供給部とを設けた排煙処理装置である。
【0027】
請求項2記載の発明は、前記二酸化炭素供給部は、前記二酸化炭素回収部で回収された二酸化炭素を前記吸収塔の吸収液に供給する構成である請求項1記載の排煙処理装置である。
【0028】
請求項3記載の発明は、ボイラを含む燃焼装置と、前記燃焼装置から排出される排ガスを導入して石灰石又は石灰を含むスラリを含有する吸収液を噴霧して気液接触させる吸収部と該吸収部で排ガス中の硫黄酸化物を吸収した吸収液を溜める貯留部と該貯留部内の吸収液を前記吸収部に循環する循環部とを備え、排ガス中の硫黄酸化物を除去する吸収塔と、前記吸収塔で硫黄酸化物が除去された排ガス中の二酸化炭素を回収する二酸化炭素回収部とを燃焼装置の排ガスダクトの上流側から下流側に順次配置し、前記吸収塔の上流側又は下流側の排ガスの一部を前記燃焼装置に戻す排ガス循環部と、前記燃焼装置に燃焼用酸素を供給する燃焼用酸素供給部と、前記吸収塔の吸収部、貯留部、循環部のうち少なくとも一つに含まれる吸収液に二酸化炭素を供給する二酸化炭素供給部と、前記吸収塔の吸収部、貯留部、循環部のうち少なくとも一つに含まれる吸収液に酸化用酸素を供給する酸化用酸素供給部とを設けた排煙処理装置である。
【0029】
請求項4記載の発明は、ボイラを含む燃焼装置から排出される排ガスを、石灰石又は石灰を含むスラリを含有する吸収液を排ガスに噴霧して気液接触させる吸収部と該吸収部で排ガス中の硫黄酸化物を吸収した吸収液を溜める貯留部と該貯留部内の吸収液を前記吸収部に循環する循環部とを備えた吸収塔に導入して排ガス中の硫黄酸化物を除去し、該吸収塔で硫黄酸化物が除去された排ガス中の二酸化炭素を回収する排煙処理方法であって、前記吸収塔の吸収部、貯留部、循環部のうち少なくとも一つに含まれる吸収液に二酸化炭素を供給する排煙処理方法である。
【0030】
請求項5記載の発明は、前記吸収塔の吸収液に供給する二酸化炭素に、前記回収した二酸化炭素を用いる請求項4記載の排煙処理方法である。
請求項6記載の発明は、ボイラを含む燃焼装置に酸素を供給して燃料を燃焼し、前記燃焼装置から排出される排ガスを、石灰石又は石灰を含むスラリを含有する吸収液を排ガスに噴霧して気液接触させる吸収部と該吸収部で排ガス中の硫黄酸化物を吸収した吸収液を溜める貯留部と該貯留部内の吸収液を前記吸収部に循環する循環部とを備えた吸収塔に導入して排ガス中の硫黄酸化物を除去し、前記吸収塔で硫黄酸化物が除去された排ガス中の二酸化炭素を回収し、更に、前記吸収塔で硫黄酸化物を除去前又は除去後の排ガスの一部を前記燃焼装置に戻して循環させる排煙処理方法であって、前記吸収塔の吸収部、貯留部、循環部のうち少なくとも一つに含まれる吸収液に二酸化炭素を供給すると共に、前記吸収塔の吸収部、貯留部、循環部のうち少なくとも一つに含まれる吸収液に酸化用酸素を供給する排煙処理方法である。
【0031】
(作用)
本発明の作用について、以下に詳しく説明する。
図2には、脱硫吸収塔の循環タンク内の吸収液中の炭酸カルシウム濃度とpHとの関係に対するCO2添加の影響を示す。なお、この測定は、図1(実施例1)に示す排煙処理装置を模擬した実験装置により行った。図1の排煙処理装置の構成については後述する。
【0032】
測定条件として、排ガス組成はCO2の添加ありではSO2濃度5000ppm、O2濃度21%、CO2濃度79%とし、CO2の添加なしではSO2濃度5000ppm、O2濃度21%、N2濃度79%とした。また、吸収液の温度は50℃であり、吸収液の組成は初期石膏10ミリモル/リットル、これに石灰石を添加して所定のpHを維持するようにした。
【0033】
図2に示すように、供給ガス中(脱硫吸収塔に導入される排ガス中)のSO2濃度が同等(この条件では5000ppm)のときは、吸収液のpHが一定になるように石灰石(主成分CaCO)を供給した場合、吸収液中にCO2が共存した方が、吸収液中の炭酸カルシウム濃度は高くなる。
【0034】
吸収液にCO2が溶解すると炭酸が生じるため、吸収液のpHがSO2のみを吸収したときよりも低下する。脱硫剤である石灰石はアルカリであるため、pHの低下によって溶解が促進されることから、CO2濃度が高いほど所定のpHを維持するために必要な石灰石量が増加したと考えられる。すなわち、CO2の供給時に、従来のような吸収液のpHを維持しようとすると、大量の石灰石が必要となる。一方、吸収液中の炭酸カルシウム濃度が従来の濃度と同等になるように石灰石の供給量を調節すると、吸収液中の炭酸カルシウム濃度が同程度における吸収液のpHは、CO2の供給時(CO2添加あり)の方が低くなる。吸収液のpHが低下すると亜硫酸カルシウムの酸化効率が向上することから、SO2の吸収量が増加する。すなわち、式(2)の亜硫酸カルシウムの酸化反応を促進させることで、式(1)の亜硫酸カルシウムの生成反応も促進される。
【0035】
したがって、吸収液中へのCO2の供給によって、従来よりも低いpHで所定のCaCO量を存在させることができ、pHが低いことによって亜硫酸カルシウムの酸化効率は従来よりも高くなることから、従来と同じ石灰石の使用量で脱硫率を向上させることができる。この現象は、循環タンク内の吸収液にCO2を供給するだけでなく、スプレノズルから噴霧される液滴にCO2を供給することでも、同様の効果をもたらす。
【0036】
すなわち、スプレノズルから噴霧される液滴に対しては積極的な酸素の供給は行われていないものの、元々、排ガス中には3%前後の酸素が含まれていることから、落下中の液滴が排ガス中の酸素を吸収することで進行する液滴中の自然酸化が促進されるため、SO2の吸収による亜硫酸カルシウムの生成が促進されて、脱硫率の向上につながる。
【0037】
図3には、脱硫吸収塔の循環タンク内の吸収液中の炭酸カルシウム濃度と脱硫率との関係に対するCO2添加の影響を示す。なお、実験装置や測定条件は、図2の場合と同様とした。
図3に示すように、吸収液中の炭酸カルシウム濃度が高いほど脱硫率は向上するが、炭酸カルシウム濃度が同等の場合は、吸収液中にCO2が共存した方が、脱硫率が向上している。この実験条件において、吸収液中の炭酸カルシウム濃度を高めていくと脱硫率はほぼ一定となり、このときのCO2の添加なしの脱硫率を1.00とした場合にCO2の添加ありの脱硫率は1.04に上昇した。
【0038】
近年の技術開発によって排煙処理装置も日々進歩を遂げており、脱硫率も95%を超える場合が多いが、僅かであっても、更に脱硫率を向上させることにより、大気中に排出される排ガス中のSO2濃度を低減できる。そして、CO2回収装置に導入される排ガス中のSO2濃度をCO2の吸収液の劣化や装置の腐食を防ぐ目標値である1ppm以下に近づけることができる。
そして、上述のように、排ガスの吸収液に二酸化炭素を供給した場合、従来と同等の炭酸カルシウム濃度条件で脱硫率は向上する。
【0039】
したがって、請求項1又は4記載の発明によれば、吸収塔の吸収液に二酸化炭素を供給することで、石灰石などの供給量を増やすことなく、排ガス中の硫黄酸化物の濃度を低減できる。したがって、二酸化炭素回収部におけるCO2の吸収液の劣化や装置の腐食を防ぐことが可能となる。なお、二酸化炭素は、吸収塔の吸収部、貯留部、循環部のうち少なくとも一つに含まれる吸収液に供給すればよい。例えば、脱硫吸収塔の循環タンク内の吸収液に二酸化炭素を供給したり、循環タンクからスプレノズルまでの循環ラインに二酸化炭素を供給したり、排ガス中に吸収液を噴霧するスプレノズルに二酸化炭素を供給しても良いし、また、これらを併用しても良い。
【0040】
そして、排ガス中の硫黄酸化物の濃度を低減できることで、二酸化炭素回収部の前段に高度脱硫装置を設ける必要もなく、又は高度脱硫装置を設置した場合であっても、使用するアルカリ剤の量を低減することができる。
【0041】
また、請求項2又は5記載の発明によれば、上記請求項1又は4記載の発明の作用に加えて、吸収塔の吸収液に二酸化炭素回収部で回収された二酸化炭素を供給することで、回収された二酸化炭素の有効利用が図れると共に、二酸化炭素回収部とは別に二酸化炭素を製造する設備を設ける必要もない。
【0042】
一方、酸素燃焼方式における排煙処理装置では、吸収塔のサイズを小さくした場合に酸化用ガスの供給量が吸収塔の貯留部の大きさに対して多くなることで、吸収液の循環部に空気が混入しやすくなって、吸収液を安定して循環させることができなくなってしまうという問題がある。
【0043】
しかし、請求項3又は6記載の発明によれば、吸収塔の吸収液に二酸化炭素を供給することで、石灰石などの供給量を増やすことなく、排ガス中の硫黄酸化物の濃度が低減できるので、二酸化炭素回収部におけるCO2の吸収液の劣化や装置の腐食を防ぐことが可能となる。そして、吸収塔のサイズを小さくしても、吸収液に二酸化炭素を供給することで、二酸化炭素が吸収液に溶解するため、例えば貯留部内の吸収液のpHを二酸化炭素を供給しない場合に比べて、ある程度低めに保つことができる。したがって、亜硫酸カルシウムの酸化効率は従来よりも高くなる。
【0044】
また、排ガス中のSO2を吸収することで生成した吸収液中の亜硫酸カルシウムは、そのままの形態であると、SO2を吸収しなくなる。しかし、二酸化炭素と共に、酸化用酸素を吸収塔の吸収液に供給することで、吸収液中の亜硫酸カルシウムを高効率で酸化することができる。このため、酸化用酸素を吸収塔の吸収液に供給し、亜硫酸カルシウムを酸化させて石膏とすることで、SO2の除去性能は回復する。なお、酸化用酸素は、吸収塔の吸収部、貯留部、循環部のうち少なくとも一つに含まれる吸収液に供給すればよい。例えば、脱硫吸収塔の循環タンク内の吸収液に酸素を供給したり、循環タンクからスプレノズルまでの循環ラインに酸素を供給したり、排ガス中に吸収液を噴霧するスプレノズルに酸素を供給しても良いし、また、これらを併用しても良い。そして、二酸化炭素と同じ供給箇所でも良いし、異なる供給箇所でも良い。
【発明の効果】
【0045】
本発明によれば、排ガスの吸収液に二酸化炭素を供給することで、吸収液中の石灰石又は石灰の濃度を上げることなく、排ガスの脱硫率を向上させることができる。
請求項1又は4記載の発明によれば、排ガスの吸収液に二酸化炭素を供給することで、排ガス中の硫黄酸化物の濃度を低減できるため、二酸化炭素回収部におけるCO2の吸収液の劣化や装置の腐食を防ぐことが可能となる。そして、二酸化炭素回収部の前段に高度脱硫装置を設ける必要もなく、又は高度脱硫装置を設置した場合であっても、使用するアルカリ剤の量を低減することができるため、高度脱硫装置やアルカリ剤にかかるコストを低減できる。
【0046】
請求項2又は5記載の発明によれば、上記請求項1又は4記載の発明の効果に加えて、二酸化炭素回収部で回収された二酸化炭素を吸収液に供給することから、二酸化炭素の供給装置又は供給方法が簡素な構成で可能となる。また、二酸化炭素回収部で回収された二酸化炭素の有効利用が図れる。
【0047】
請求項3又は6記載の発明によれば、排ガスの吸収液に二酸化炭素を供給することで、排ガス中の硫黄酸化物の濃度を低減できるため、二酸化炭素回収部におけるCO2の吸収液の劣化や装置の腐食を防ぐことが可能となる。更に、吸収塔の吸収液に酸化用酸素を供給することで、吸収液のpHをある程度低く保ちながら亜硫酸カルシウムを酸化することができるため、酸化用ガスに空気を用いる場合よりも供給するガス量を低減でき、吸収塔の貯留部をコンパクト化できる。また、酸化用ガスに酸素を用いることから吸収塔の出口排ガス中に窒素(N2)を混入させることがないため、二酸化炭素回収部における二酸化炭素の回収効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の一実施形態の排煙処理装置の全体構成図である(実施例1)。
【図2】吸収液中の炭酸カルシウム濃度とpHとの関係に対するCO2添加の影響を示した図である。
【図3】吸収液中の炭酸カルシウム濃度と脱硫率との関係に対するCO2添加の影響を示した図である。
【図4】本発明の他の実施形態の排煙処理装置の全体構成図である(実施例2)。
【図5】酸素燃焼方式の排煙処理装置の全体構成図である(実施例4)。
【図6】吸収液のpHと亜硫酸カルシウムの酸化速度との関係を示した図である。
【図7】吸収液に供給する酸化用ガスの酸素濃度と亜硫酸カルシウムの酸化速度との関係を示した図である。
【図8】従来の排煙処理装置の全体構成図である。
【図9】従来の酸素燃焼方式の排煙処理装置の全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下に、本発明の実施形態を説明する。
【実施例1】
【0050】
図1には、本発明の実施例1の排煙処理装置の全体構成図を示す。
実施例1は、図8に示した従来技術とは、脱硫吸収塔2において処理した排ガスからCO2回収装置17によってCO2を濃縮、分離する点については同様である。
【0051】
図示していない火力発電所などのボイラ等の燃焼装置から排出される数百〜数千ppmの二酸化硫黄(SO2)を含む排ガスは、脱硫吸収塔2の入り口1から脱硫吸収塔2内に導入され、脱硫吸収塔2内を上昇する。脱硫吸収塔2内では、上下に複数段の多数のスプレノズル5〜7を備えたスプレヘッダが設置されており、スプレノズル5〜7から微細な液滴として噴霧される石灰石(主成分炭酸カルシウム(CaCO))又は石灰を含むスラリなどの吸収剤の液滴と排ガスとを接触させることで、排ガス中のばいじんや塩化水素(HCl)、フッ化水素(HF)等の酸性ガスと共に、排ガス中のSOxはスプレノズル5〜7の吸収液滴表面で化学的に吸収、除去される。
【0052】
通常、スプレノズル5〜7は数段に分かれて設置されており、図1には、三段の場合を示している。スプレノズル5〜7から噴霧された吸収液は排ガスとの気液接触によりSO2を吸収し、前記式(1)のように亜硫酸カルシウム(CaSO)が生成する。
SO2を吸収した液滴は、脱硫吸収塔2の下部に設けられた循環タンク8に落下して、循環タンク8に溜まった吸収液内に、空気供給管9から空気が供給される。そして、亜硫酸カルシウムが空気中の酸素によって前記式(2)のように酸化され、硫酸カルシウム(石膏(CaSO))が生成する。
【0053】
循環タンク8内の吸収液は、常に攪拌機10によって攪拌されている。循環タンク8内の吸収液の一部は、CO2添加槽21に一旦貯留される。循環タンク8内の吸収液の一部は循環タンク8に接続した抜き出しライン12から廃液処理・石膏回収系へと送られる。
【0054】
スプレノズル5〜7からの噴霧によって微粒化された吸収液の中で、液滴径の小さいものは排ガスに同伴されて、脱硫吸収塔2上部の出口ダクトに設けられたミストエリミネータ13によって除去、捕集される。脱硫吸収塔2から排出された排ガスには、通常、数〜十数ppmのSO2が残存しており、CO2濃度は12〜15%程度である。このような排ガスからCO2を回収する場合、CO2回収装置におけるCO2の吸収液の劣化や装置の腐食を防ぐために、SO2濃度を1ppm以下にまで低減しておく必要がある。そこで、脱硫吸収塔2から排出された排ガスは排ガスライン14から高度脱硫装置15へ導入され、高度脱硫装置15によってアルカリ剤をアルカリ剤供給ライン16から供給して排ガス中のSO2濃度を1ppm程度にまで低減する。その後、排ガスは排ガスライン14からCO2回収装置17へ導入され、CO2回収装置17によってCO2を100%近くまで濃縮して回収する。濃縮、回収されたCO2は、CO2搬送ライン18によってCO2圧縮装置19へ送られ、液化して貯蔵される。そして、CO2回収装置17によってCO2が除去された残りの排ガスは、煙突20から排出される。
【0055】
実施例1では、循環タンク8から抜き出した吸収液を新たに設置したCO2添加槽21に一旦貯留する。そして、CO2回収装置17で回収されたCO2の一部を、CO2搬送ライン18から分岐したCO2循環ライン22、CO2循環ファン23により(これらライン22、ファン23が二酸化炭素供給部となる)、CO2添加槽21内の吸収液に供給して溶解させる。吸収液に溶解し切れなかった余剰のCO2ガスは、余剰ガスライン24から排出してCO2循環ライン22に合流させる。吸収液はSO2を吸収するとpHが低下してSO2の吸収性が悪くなるため、吸収液のpHを所定の値に維持するように、石灰石などのアルカリ性脱硫剤を脱硫剤供給ライン11からCO2添加槽21内の吸収液に継続的に供給する。CO2添加槽21内の吸収液は、常に攪拌機25によって攪拌される。CO2添加槽21内のCO2を添加した吸収液の一部は吸収液循環ポンプ3によって循環ライン4を経由してスプレノズル5〜7に送られ、排ガス中に噴霧され、循環タンク8に落下する。CO2を添加した吸収液をスプレノズル5〜7から脱硫吸収塔2内に噴霧することにより、排ガス中のSO2の吸収量が増大し、脱硫率が向上する。
【0056】
CO2添加槽21内の吸収液に供給する二酸化炭素の供給方法について説明する。
余剰ガスライン24に連続でCO2濃度を測定可能なCO2モニタ26を設置し、このCO2モニタ26でCO2が検出されるように、図示しない制御装置によってCO2の量を調節してCO2循環ライン22からCO2添加槽21内の吸収液中に供給することにより、吸収液中に最大限量のCO2(飽和するまで)を溶解させることができる。なお、CO2添加槽21には循環タンク8から吸収液しか導入されないため、CO2循環ライン22から供給するほぼ100%のCO2は吸収液に溶解しなかった分がそのまま余剰ガスライン24から排出される。したがって、CO2モニタ26でCO2が検出されれば充分な量のCO2が供給されていると判断できる。
【0057】
そして、この際、従来のように脱硫吸収塔2の循環タンク8内の吸収液のpHが5〜6の範囲になるように運転する場合に必要な量と同量の石灰石を供給する。
例えば、図2の測定で使用した装置及び運転条件において、従来、炭酸カルシウム濃度を40ミリモル/リットルとなるように石灰石を供給して循環タンク8内の吸収液のpHが5.8となっていた場合、CO2供給時にも炭酸カルシウム濃度を40ミリモル/リットルに据え置くと、吸収液のpHは5.5に低下する。このとき、図3に示すように、同じ炭酸カルシウム濃度における脱硫率は、CO2供給時の方が高くなる。なお、実際の吸収液のpHは、炭酸カルシウム、亜硫酸カルシウムの濃度だけで決まるわけではなく、後述するように(実施例4)、燃焼方式や排ガス条件の違いによっても最適なpH値は変化する。
【0058】
二酸化炭素は、CO2添加槽21や循環タンク8などの貯留部、循環ライン4などの循環部、スプレヘッダやスプレノズル5〜7などの吸収部のうち少なくとも一つに含まれる吸収液に供給すればよい。なお、本実施例のように、SO2を吸収した吸収液が溜まる貯留部内の吸収液に高濃度の二酸化炭素を供給することで、図2からCaCOの濃度が吸収液中で高くても吸収液のpHを低く維持できるため、亜硫酸カルシウムの酸化効率を向上させることができる。そして、亜硫酸カルシウムが酸化されて石膏になった状態で、高いCaCO濃度の吸収液(pHが高めである)をスプレノズル5〜7から噴霧できるため、脱硫性能を高く維持できる。
【0059】
吸収液中に溶解するCO2の影響により、従来と同じ量の石灰石を供給すると吸収液のpHは従来よりも低下するが、脱硫率は図3に示すように、従来に比べて向上する。
その結果、高度脱硫装置15を設置した場合でも、高度脱硫装置15で使用するアルカリ剤の使用量を、従来に比べて低減できる。湿式脱硫塔2の出口におけるSO2濃度が1ppm以下にまで低減できる場合など、例えば燃料の石炭の硫黄含有量が少なく排ガス中のSO2濃度が元々低い場合は、高度脱硫装置15を省略しても良い。
【0060】
なお、実施例1においては、CO2添加槽21を新たに設置することになるが、このCO2添加槽21には循環タンク8から抜き出した吸収液を貯留して、吸収液中にCO2を供給するだけの簡素な構成であり、設備構成がそれほど複雑にはならず、他に薬品を使用するわけでもないため、アルカリ剤を使用する場合等と比べても環境の点からも問題はない。また、吸収液中に溶解したCO2は時間が経つと気化してしまうため、CO2添加槽21を設置してスプレノズル5〜7に供給される直前の吸収液にCO2を溶解させることにより、排ガスに噴霧する液滴中に効率良くCO2を含有させることができる。
【0061】
実施例1のように、CO2回収装置17で回収されたCO2の一部を利用することで、二酸化炭素の供給装置又は供給方法が簡素な構成で可能となる。また、CO2回収装置17で回収された二酸化炭素の有効利用が図れる。
【実施例2】
【0062】
図4には、本発明の他の実施例の排煙処理装置の全体構成図を示す。
実施例2は、CO2添加槽21(図1)を設けずに、CO2回収装置17で回収されたCO2の一部を、CO2搬送ライン18から分岐したCO2循環ライン22、CO2循環ファン23により、脱硫吸収塔2の循環タンク8内の吸収液に供給して溶解させる点で、実施例1と異なり、その他の条件、構成は実施例1と同様である。したがって、実施例1と共通する内容の説明は一部省略する。
【0063】
図示していない火力発電所などのボイラ等の燃焼装置から排出される数百〜数千ppmの二酸化硫黄(SO2)を含む排ガスは、脱硫吸収塔2の入り口1から脱硫吸収塔2内に導入され、脱硫吸収塔2内を上昇する。脱硫吸収塔2内では、スプレノズル5〜7から微細な液滴として噴霧される石灰石又は石灰を含むスラリなどの吸収剤の液滴と排ガスとを接触させることで、排ガス中のばいじんや塩化水素(HCl)、フッ化水素(HF)等の酸性ガスと共に、排ガス中のSOxはスプレノズル5〜7の吸収液滴表面で化学的に吸収、除去される。
【0064】
スプレノズル5〜7から噴霧された吸収液は排ガスとの気液接触によりSO2を吸収し、前記式(1)のように亜硫酸カルシウム(CaSO)が生成し、更に前記式(2)のように亜硫酸カルシウム(CaSO)が酸化され、硫酸カルシウム(石膏(CaSO))が生成する。
【0065】
循環タンク8内の吸収液は、常に攪拌機10によって攪拌されている。吸収液はSO2を吸収するとpHが低下してSO2の吸収性が悪くなるため、吸収液のpHを所定の値に維持するように、石灰石などのアルカリ性脱硫剤を脱硫剤供給ライン11から循環タンク8内の吸収液に継続的に供給する。炭酸カルシウム及び石膏が共存する循環タンク8内の吸収液の一部は、吸収液循環ポンプ3によって循環ライン4を経由して再びスプレノズル5〜7に送られ、再び排ガス中に噴霧され、循環タンク8に落下する。循環タンク8内の吸収液の一部は循環ライン4に接続した抜き出しライン12から廃液処理・石膏回収系へと送られる。
【0066】
脱硫吸収塔2から排出された排ガスは排ガスライン14から高度脱硫装置15へ導入され、高度脱硫装置15によってアルカリ剤をアルカリ剤供給ライン16から供給して排ガス中のSO2濃度が低減される。その後、排ガスは排ガスライン14からCO2回収装置17へ導入され、CO2回収装置17によってCO2を100%近くまで濃縮して回収する。濃縮、回収されたCO2は、CO2搬送ライン18によってCO2圧縮装置19へ送られ、液化して貯蔵される。そして、CO2回収装置17によってCO2が除去された残りの排ガスは、煙突20から排出される。
【0067】
実施例2では、CO2回収装置17で回収されたCO2の一部をCO2循環ライン22から脱硫吸収塔2の循環タンク8内の吸収液に供給している。そして、CO2回収装置17で回収されたCO2を添加した吸収液が吸収液循環ポンプ3によって循環ライン4を経由してスプレノズル5〜7に送られ、排ガス中に噴霧される。
【0068】
循環タンク8内の吸収液に供給する二酸化炭素の供給方法について説明する。
脱硫吸収塔2の循環タンク8内の吸収液表面付近の数箇所から、ガス吸引ライン27により、CO2モニタ26にガスを導入し、このCO2モニタ26で測定されるCO2濃度が、入り口1から流入する排ガス中のCO2濃度である12〜15%を上回るように、図示しない制御装置によってCO2の量を調節して循環タンク8内の吸収液中に供給することにより、吸収液中に最大限量のCO2(飽和するまで)を溶解させることができる。入り口1から流入するCO2(12〜15%の濃度)とCO2循環ライン22から供給するほぼ100%のCO2が混ざるため、12〜15%以上のCO2が検出されれば充分な量のCO2が供給されていると判断できる。
【0069】
この際、従来のように脱硫吸収塔2の循環タンク8内の吸収液のpHが5〜6の範囲になるように運転する場合に必要な量と同量の石灰石を供給する。
吸収液中に溶解するCO2の影響により、従来と同じ量の石灰石を供給すると吸収液のpHは従来よりも低下するが、脱硫率は図3に示すように、従来に比べて向上する。
したがって、実施例1と同様に、CO2を添加した吸収液を排ガス中に噴霧することにより、SO2の吸収量が増大し、脱硫率が向上する。
【0070】
その結果、高度脱硫装置15を設置した場合でも、高度脱硫装置15で使用するアルカリ剤の使用量を、従来に比べて低減できる。湿式脱硫塔2の出口におけるSO2濃度が1ppm以下にまで低減できる場合は高度脱硫装置15を省略しても良い。
実施例2においては、排ガス中に噴霧する吸収液中のCO2濃度が実施例1に比べて低くなるものの、CO2添加槽21(図1)を別途設置しないため、設備構成が簡素となり、低コスト化も達成される。
【実施例3】
【0071】
実施例1〜2においては、CO2添加槽21内のCO2を含有する吸収液(実施例1)や脱硫吸収塔2の循環タンク8内のCO2を含有する吸収液(実施例2)を吸収液循環ライン4からスプレノズル5〜7の全段に送液して排ガス中に噴霧しているが、必要に応じて一部の段からCO2を含有する吸収液を噴霧し、残りの段から通常の吸収液(CO2を添加しない吸収液)を噴霧しても良い。
【0072】
例えば、脱硫吸収塔2内のSO2濃度は、入り口1に近いほど高いため、一段目のスプレノズル5及び二段目のスプレノズル6にCO2を含有する吸収液を供給して三段目のスプレノズル7には通常の吸収液を供給する。このような運用を行うことにより、より効率的に排ガスの脱硫処理を行うことができる。
【実施例4】
【0073】
図5には、本発明の他の実施例の排煙処理装置の全体構成図を示す。実施例4は、酸素燃焼方式における排煙処理装置の例を示している。
この排煙処理装置は主にボイラ31の排ガスダクトの上流側から下流側にかけて、石炭を供給するボイラ31、ボイラ31から発生する排ガス中の窒素酸化物を処理するための脱硝装置33、脱硝装置33の出口排ガスによりボイラ31で使用される燃焼用空気を加熱する熱交換器35、熱交換器35から排出される排ガス中の煤塵等を除去するための集塵装置37、集塵装置37の出口排ガス中の硫黄酸化物を処理するための脱硫吸収塔2、脱硫吸収塔2の出口排ガス中の二酸化炭素を回収するためのCO2回収装置17等が順次配置された排ガス処理部で構成されている。
【0074】
そして、更に集塵装置37の出口排ガスの一部を熱交換器35を経由させてボイラ31に戻す再循環ライン39及び再循環ライン39に供給する酸素を製造するための酸素製造装置40などからなる排ガス循環部が設けられている。なお、排ガス循環部の再循環ライン39は脱硫吸収塔2の出口や集塵装置37の入り口から設けても良い。
【0075】
ボイラ31は、石炭を酸素燃焼することにより、排ガスを生成する。このときに用いられる酸素は酸素製造装置40により製造、供給される。そして、酸素の供給は、酸素供給ライン42から再循環ライン39を介して行われる。供給された酸素は熱交換器35で循環ガスと共に加熱される。
【0076】
また、脱硝装置33では、排ガス中に含まれるNOx(窒素酸化物)が分解され、その後、熱交換器35で排ガス温度を200〜160℃に降下させた後に、集塵装置37で排ガス中の煤塵が除去される。集塵装置37により除塵された排ガスは流路が分岐することで脱硫吸収塔2、再循環ライン39にそれぞれ供給される。
【0077】
脱硫吸収塔2では排ガス中の二酸化硫黄(SO2)が除去されて、その後CO2回収装置17で排ガス中のCO2が回収される。そして、CO2回収装置17によって回収されたCO2は貯蔵され、CO2回収装置17によってCO2が除去された残りの排ガスは、煙突20(図1など)から排出される。
また、集塵装置37出口から再循環ライン39を通った排ガスは、図示しない排ガス循環用ファンにより昇圧されて、ボイラ31に供給される。
【0078】
そして、脱硫吸収塔2とCO2回収装置17との間の二酸化炭素を含む排ガスの一部を、排ガス循環ライン28から脱硫吸収塔2の循環タンク8内の吸収液に供給する。なお、実施例1のように、CO2添加槽21を設け、CO2添加槽21内の吸収液に排ガスの一部を供給しても良い。二酸化炭素を含む排ガスは、CO2添加槽21や循環タンク8などの貯留部、循環ライン4などの循環部、スプレヘッダやスプレノズル5〜7などの吸収部のうち少なくとも一つに含まれる吸収液に供給すればよい。また、実施例1や実施例2と同様に、CO2回収装置17で回収されたCO2をCO2添加槽21内の吸収液や脱硫吸収塔2の循環タンク8内の吸収液に供給しても良い。
【0079】
酸素燃焼時の排ガスの組成はCO2濃度55〜65%、O2濃度3〜4%、SO2濃度100〜20000ppm、窒素(N2)濃度はほぼ0%である(残りは水分濃度30〜40%)。
脱硫吸収塔2では、石灰石又は石灰を含むスラリなどの吸収剤の液滴と排ガスとを接触させることで、排ガス中のばいじんや塩化水素(HCl)、フッ化水素(HF)等の酸性ガスと共に、排ガス中のSOxは化学的に吸収、除去される。
吸収液は排ガスとの気液接触によりSO2を吸収し、前記式(1)のように亜硫酸カルシウム(CaSO)が生成する。
【0080】
SO2を吸収した液滴は、脱硫吸収塔2の下部に設けられた循環タンク8に落下して、循環タンク8に溜まった吸収液内に排ガス循環ライン28から排ガスが供給される。更に、酸素製造装置40により製造された酸素が酸素供給ライン42から排ガス循環ライン28を介して吸収液に供給されることで、亜硫酸カルシウムが酸素によって前記式(2)のように酸化され、硫酸カルシウム(石膏(CaSO))が生成する。吸収液に供給するための酸素を製造する酸素製造装置40は、ボイラ31に供給する酸素製造装置40と別に設けても良いが、同じ装置を用いることで、別途酸素製造装置40を設ける必要もなく、酸素を供給する構成が簡素となる。
【0081】
循環タンク8の酸化前の吸収液(吸収液に空気や排ガスや酸素を一切供給しない場合)は亜硫酸カルシウムを含んでおり、例えば、脱硫吸収塔2の入り口1のSO2濃度が2000ppmの場合、循環タンク8内の吸収液中に亜硫酸カルシウムは、約5mol/m3生成する。したがって、吸収液のpHは2.0まで低下する。スプレノズル5〜7から噴霧された吸収液は、排ガス中のSO2を吸収すると同時に排ガス中のO2により亜硫酸カルシウムが少し酸化される。また、吸収液中の炭酸カルシウムの溶解によるpHの上昇もあるため、実際は吸収液のpHは2.0までは低下しないと考えられるが、排ガス中のO2により亜硫酸カルシウムが酸化されなかったと仮定すると、最大で吸収液のpHは2.0まで低下する。
【0082】
図6には、循環タンク8内の吸収液のpHと亜硫酸カルシウムの酸化速度(モル/(リットル×時間))との関係を示す。なお、吸収液のpHが所定値の時の酸化速度を1として、他のpHの時の酸化速度を相対的に示した。なお、吸収液のpHが4.1の時は酸化用ガス中のCO2濃度が45〜55%、吸収液のpHが5.0の時は酸化用ガス中のCO2濃度が1%、吸収液のpHが5.7の時は酸化用ガス中のCO2濃度が300ppmであった。
【0083】
循環タンク8内の吸収液に酸化用のガスとして空気を供給した場合は、空気中のO2と亜硫酸カルシウムが反応して、石膏となることにより吸収液のpHが高くなる。このとき、空気中にはCO2がわずかしか存在しないため、排ガス側と液体(吸収液)側の界面のCO2濃度が平衡状態となり、吸収液のpHは5.7となる。
【0084】
また、循環タンク8内の吸収液に、SO2を吸収する量よりも過剰に供給されたCaCOが存在すると、CaCOが吸収液に溶解することによって、吸収液のpHはさらに上昇し、6.2付近になることもある。ここで、循環タンク8内の吸収液のpHの上昇を抑制するために脱硫剤供給ライン11から供給される脱硫剤の量を減らすと、スプレノズル5〜7から噴霧される吸収液のpHが低下して、SO2の除去性能が下がるため好ましくない。一方、循環タンク8内の吸収液のpHは低い方が亜硫酸カルシウムの酸化効率が向上する。
【0085】
本実施例のように、循環タンク8内の吸収液に高濃度のCO2ガスを供給することで、CaCOの濃度が吸収液中で高くても吸収液のpHを低く維持できるため、亜硫酸カルシウムの酸化効率を向上させることができる。そして、亜硫酸カルシウムが酸化されて石膏になった状態で、高いCaCO濃度の吸収液(pHが高めである)をスプレノズル5〜7から噴霧できるため、脱硫性能を高く維持できる。
【0086】
実施例4の排煙処理装置では、脱硫吸収塔2とCO2回収装置17との間の排ガスの一部を、排ガス循環ライン28から脱硫吸収塔2の循環タンク8内の吸収液に供給しており、酸化用ガス中のCO2濃度は55〜65体積%まで高くなっているため、CO2の供給によって吸収液のpHは低くなることから、亜硫酸カルシウムの酸化が完了しても、吸収液のpHは4.1付近までで上昇が抑制される。
【0087】
また、空気中のO2濃度は21%であるが、排ガス中に含まれるO2濃度は3〜4体積%であるため、脱硫吸収塔2の出口の排ガスの一部を排ガス循環ライン28へ供給した場合の方が、酸化用ガスに空気を用いた場合に比べ、酸化用ガスの供給量を高めなければならない。
【0088】
図5に示すように、酸素製造装置40から酸素供給ライン42を通して酸素を排ガス循環ライン28に供給すると、酸化用ガス中の酸素濃度を高めることができる。排ガス中のSO2を吸収することで生成した吸収液中の亜硫酸カルシウムは、そのままの形態であると、SO2を吸収しなくなる。しかし、酸素を排ガス循環ライン28に供給することで、吸収液中の亜硫酸カルシウムを高効率で酸化することができる。このため、酸素を脱硫吸収塔2の吸収液に供給し、亜硫酸カルシウムを酸化して石膏とすることで、SO2の除去性能は回復する。
【0089】
例えば、図6に示すように、脱硫吸収塔2の出口の排ガスに酸素を供給して酸化用ガス中のO2濃度を空気と同じ21%とした場合、CO2濃度は55〜65%であったものが、45〜55%にまで低下するものの、吸収液のpHを4.1程度に維持するのに十分な酸化用ガス中のCO2濃度を保持できる。そして、空気を酸化用ガスとして循環タンク8内の吸収液に供給した場合の吸収液のpHは5.7であるが、それに比べて45〜55%のCO2濃度である酸化用ガスを循環タンク8内の吸収液に供給して、吸収液のpHを4.1とした場合の方が、亜硫酸カルシウムの酸化速度は大きくなる。
【0090】
脱硫剤供給ライン11(図1など)から供給される脱硫剤の量を多くすると吸収液のpHは4.1以上に上昇するが、酸化用ガスとして排ガス循環ライン28からCO2濃度の高いガスを使用し、且つ酸化用ガスに空気を用いた場合と同量の脱硫剤を供給すると吸収液のpHは下がる。図6では、酸化用ガスに空気を用いた場合の吸収液のpHは5.7であり、酸化用ガスに排ガス及び酸素を用いた場合の吸収液のpHは4.1になることを示している。また、酸化用ガス中のCO2濃度が45〜55%である、亜硫酸カルシウムが完全に酸化されるときの吸収液のpHが4.1である。吸収液のpHが低いと(例えば、pH3)、亜硫酸カルシウムが完全に酸化されない。
一方、酸化用ガスに空気を用いた場合は酸化用ガス中のCO2濃度が300ppm程度と低く、亜硫酸カルシウムの酸化が終了したときの吸収液のpHは5〜6に回復してしまう。
【0091】
そして、このように、亜硫酸カルシウムの酸化速度は吸収液のpHを4.1とした場合(酸化用ガスが排ガス及び酸素の場合)の方が吸収液のpHを5.7とした場合(酸化用ガスが空気の場合)の約2倍になっていることから、循環タンク8内の吸収液の酸化用のガスとして、排ガスに酸素を供給したガスを用いた場合の方が空気を用いた場合よりも循環タンク8のサイズを約半分に小さくできる。したがって、脱硫吸収塔2や循環タンク8のコンパクト化が達成される。
【0092】
また、図7には、循環タンク8内の吸収液に供給する酸化用ガスのO2濃度と亜硫酸カルシウムの酸化速度(モル/(リットル×時間))との関係を示す。なお、縦軸の亜硫酸カルシウムの酸化速度は、実測値の酸化速度の任意の値を1として、相対的に示したものである。
【0093】
酸素製造装置40から100%のO2(純酸素)を排ガス循環ライン28に供給した場合、空気を吸収液の酸化用のガスとした場合に比べて、酸素濃度が約5倍であるため、亜硫酸カルシウムの酸化速度も5倍に増加する。したがって、純酸素を酸化用のガスとして用いれば脱硫吸収塔2の循環タンク8のサイズは約1/5に小さくできる。しかし、酸素製造装置40から供給した純酸素は、CO2を含まないため、亜硫酸カルシウムを完全に酸化して石膏にした場合、吸収液のpHは5.5〜6.2付近まで回復してしまう。
【0094】
一方、本実施例のように、脱硫吸収塔2の出口の排ガスの一部を排ガス循環ライン28へ供給し、例えば、図7に示すように、酸化用ガス中のO2濃度を60〜70%に高めた場合(一点鎖線Aで示す)、CO2濃度は20体積%となるが、循環タンク8内の吸収液のpHは4.3に維持できるため(図示せず)、亜硫酸カルシウムの酸化速度は向上する。このとき、純酸素を循環タンク8内の吸収液に供給して亜硫酸カルシウムを酸化した場合(直線Bで示す)と同等の酸化速度が得られるため(点線Cで示す)、純酸素の使用量を30〜40%も低減でき、循環タンク8のサイズは酸化用ガスに空気を用いた場合に比べて約1/5に小さくできる。また、亜硫酸カルシウムの酸化に利用されなかった酸化用ガスは脱硫吸収塔2の出口の排ガスに混入して排気されるが、酸化用ガスに空気を用いた場合と比べて、窒素を含まないため、CO2回収装置17に供給される、排ガス中のCO2濃度を高く維持することができ、CO2の回収効率が増加する。また、脱硫吸収塔2の出口から排ガスを再循環した場合にも、排ガス中に窒素が混入しないため、排ガス中のCO2濃度を高めることができる。
【0095】
吸収液に供給する二酸化炭素や酸素の濃度は、排ガス循環ライン28や酸素供給ライン42に設けたダンパー(図示せず)などのガス量調整装置を図示しない制御装置によって、供給ガス中の酸素濃度が60〜70%、二酸化炭素濃度が19〜26%、水分濃度9〜13%になるように 調整すれば良い。
【0096】
調整方法として、酸素供給ライン42と排ガス循環ライン28のガスが混ざった後、及び循環タンク8に供給される前のライン(配管)中のO2濃度又はCO2濃度が上記の濃度になるように調整する。酸素供給ライン42から供給されるO2濃度はほぼ100%なので、O2の供給量を60〜70%、残りを排ガス循環ライン28から供給するように、制御装置によって計算して供給すればよい。
【0097】
また、実施例4においても、実施例3と同様に、CO2を含有する吸収液を脱硫吸収塔2のスプレノズル5〜7の全段に送液して噴霧せずに、必要に応じて一部の段からCO2を含有する吸収液を噴霧し、残りの段から通常の吸収液を噴霧しても良い。
【0098】
そして、実施例4によっても、脱硫吸収塔2の吸収液に二酸化炭素を供給することで、石灰石などの供給量を増やすことなく、排ガス中の硫黄酸化物の濃度が低減できるので、二酸化炭素回収装置17におけるCO2の吸収液の劣化や装置の腐食を防ぐことが可能となる。そして、脱硫吸収塔2のサイズを小さくしても、吸収液に二酸化炭素を供給することで、二酸化炭素が吸収液に溶解するため、吸収液のpHを二酸化炭素を供給しない場合に比べてある程度低めに保つことができる。したがって、亜硫酸カルシウムの酸化効率は従来よりも高くなる。
【0099】
また、排ガス中のSO2を吸収することで生成した吸収液中の亜硫酸カルシウムは、そのままの形態であると、SO2を吸収しなくなる。しかし、二酸化炭素と共に、酸素製造装置40から酸素供給ライン42、排ガス循環ライン28を通して吸収液に酸素を供給することで、吸収液中の亜硫酸カルシウムを高効率で酸化することができる。亜硫酸カルシウムを酸化させて石膏とすることで、SO2の除去性能は回復する。なお、酸素と二酸化炭素の供給経路は本実施例のように共通していても良いし、別経路でも良い。酸素と二酸化炭素の供給経路を共通させることで、供給配管などの構成が簡素となり、低コスト化が達成される。
【産業上の利用可能性】
【0100】
空気燃焼方式及び酸素燃焼方式の排煙処理装置などに利用可能性がある。
【符号の説明】
【0101】
1 入り口 2 脱硫吸収塔
3 吸収液循環ポンプ 4 吸収液循環ライン
5 スプレノズル(一段目) 6 スプレノズル(二段目)
7 スプレノズル(三段目) 8 循環タンク
9 空気供給ライン 10 攪拌機
11 脱硫剤供給ライン 12 抜き出しライン
13 ミストエリミネータ 14 排ガスライン
15 高度脱硫装置 16 アルカリ剤供給ライン
17 CO2回収装置 18 CO2搬送ライン
19 圧縮装置 20 煙突
21 CO2添加槽 22 CO2循環ライン
23 CO2循環ファン 24 余剰ガスライン
25 攪拌機 26 CO2モニタ
27 ガス吸引ライン 28 排ガス循環ライン
29 排ガス循環ファン 31 ボイラ
33 脱硝装置 35 熱交換器
37 集塵装置 39 再循環ライン
40 酸素製造装置 42 酸素供給ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボイラを含む燃焼装置から排出される排ガスを導入して石灰石又は石灰を含むスラリを含有する吸収液を噴霧して気液接触させる吸収部と該吸収部で排ガス中の硫黄酸化物を吸収した吸収液を溜める貯留部と該貯留部内の吸収液を前記吸収部に循環する循環部とを備え、排ガス中の硫黄酸化物を除去する吸収塔と、
前記吸収塔で硫黄酸化物が除去された排ガス中の二酸化炭素を回収する二酸化炭素回収部と、
前記吸収塔の吸収部、貯留部、循環部のうち少なくとも一つに含まれる吸収液に二酸化炭素を供給する二酸化炭素供給部と
を設けたことを特徴とする排煙処理装置。
【請求項2】
前記二酸化炭素供給部は、前記二酸化炭素回収部で回収された二酸化炭素を前記吸収塔の吸収液に供給する構成であることを特徴とする請求項1記載の排煙処理装置。
【請求項3】
ボイラを含む燃焼装置と、
前記燃焼装置から排出される排ガスを導入して石灰石又は石灰を含むスラリを含有する吸収液を噴霧して気液接触させる吸収部と該吸収部で排ガス中の硫黄酸化物を吸収した吸収液を溜める貯留部と該貯留部内の吸収液を前記吸収部に循環する循環部とを備え、排ガス中の硫黄酸化物を除去する吸収塔と、
前記吸収塔で硫黄酸化物が除去された排ガス中の二酸化炭素を回収する二酸化炭素回収部とを燃焼装置の排ガスダクトの上流側から下流側に順次配置し、
前記吸収塔の上流側又は下流側の排ガスの一部を前記燃焼装置に戻す排ガス循環部と、
前記燃焼装置に燃焼用酸素を供給する燃焼用酸素供給部と、
前記吸収塔の吸収部、貯留部、循環部のうち少なくとも一つに含まれる吸収液に二酸化炭素を供給する二酸化炭素供給部と、
前記吸収塔の吸収部、貯留部、循環部のうち少なくとも一つに含まれる吸収液に酸化用酸素を供給する酸化用酸素供給部と
を設けたことを特徴とする排煙処理装置。
【請求項4】
ボイラを含む燃焼装置から排出される排ガスを、石灰石又は石灰を含むスラリを含有する吸収液を排ガスに噴霧して気液接触させる吸収部と該吸収部で排ガス中の硫黄酸化物を吸収した吸収液を溜める貯留部と該貯留部内の吸収液を前記吸収部に循環する循環部とを備えた吸収塔に導入して排ガス中の硫黄酸化物を除去し、該吸収塔で硫黄酸化物が除去された排ガス中の二酸化炭素を回収する排煙処理方法であって、
前記吸収塔の吸収部、貯留部、循環部のうち少なくとも一つに含まれる吸収液に二酸化炭素を供給することを特徴とする排煙処理方法。
【請求項5】
前記吸収塔の吸収液に供給する二酸化炭素に、前記回収した二酸化炭素を用いることを特徴とする請求項4記載の排煙処理方法。
【請求項6】
ボイラを含む燃焼装置に酸素を供給して燃料を燃焼し、前記燃焼装置から排出される排ガスを、石灰石又は石灰を含むスラリを含有する吸収液を排ガスに噴霧して気液接触させる吸収部と該吸収部で排ガス中の硫黄酸化物を吸収した吸収液を溜める貯留部と該貯留部内の吸収液を前記吸収部に循環する循環部とを備えた吸収塔に導入して排ガス中の硫黄酸化物を除去し、前記吸収塔で硫黄酸化物が除去された排ガス中の二酸化炭素を回収し、更に、前記吸収塔で硫黄酸化物を除去前又は除去後の排ガスの一部を前記燃焼装置に戻して循環させる排煙処理方法であって、
前記吸収塔の吸収部、貯留部、循環部のうち少なくとも一つに含まれる吸収液に二酸化炭素を供給すると共に、前記吸収塔の吸収部、貯留部、循環部のうち少なくとも一つに含まれる吸収液に酸化用酸素を供給することを特徴とする排煙処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−50931(P2012−50931A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−195615(P2010−195615)
【出願日】平成22年9月1日(2010.9.1)
【出願人】(000005441)バブコック日立株式会社 (683)
【Fターム(参考)】