説明

接合強度特性に優れたラミネート鋼板の接合方法

【課題】信頼性の高い接合が可能であるとともに十分に高い接合強度が得られる、接合強度特性に優れたラミネート鋼板の接合方法を提供する。
【解決手段】引張強さが250〜850MPa、板厚が0.2〜1.0mmの鋼板基材11、12、21、22と、厚さが0.05〜0.7mmの樹脂層13とが、少なくとも合わせて3層以上で交互に積層されてなるとともに最外層が鋼板基材とされ、総板厚が0.45〜2.1mmの範囲とされたラミネート鋼板10、20を接合する方法であり、高速回転する回転子5をラミネート鋼板に押圧し、回転子とラミネート鋼板との摩擦熱によって鋼板基材を部分的に軟化させ、該軟化部分を撹拌することによって鋼板基材を接合する摩擦攪拌点接合法を用い、回転子とラミネート鋼板との間の加圧力を3.0〜5.0kN、回転子の回転数を2750〜3250rpm、加圧時間を1.0〜3.0secの範囲の条件とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合強度特性に優れたラミネート鋼板の接合方法に関するものであり、特に、軽量で高い強度を有するラミネート鋼板が適用される自動車のボデーやシャシー、あるいはそれらの部品等の接合部において、優れた十字引張強さが得られるラミネート鋼板の接合方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車分野において、低燃費化や炭酸ガス(CO)の排出量削減を目的とした車体軽量化や、車体の制振性向上のため、車体や部品等に、鋼板と樹脂層とが交互に積層されてなる軽量のラミネート鋼板を使用するニーズが高まっており、種々のラミネート鋼板が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
一方、自動車車体の組立や部品の取付け等を行なう場合には、主としてスポット溶接法(抵抗スポット溶接法)が用いられている。しかしながら、上述したラミネート鋼板の樹脂の部分は、一般的には電気を通し難いため、通電によるジュール発熱で溶接を行うスポット溶接法を適用することが困難であるという問題があった。
【0004】
このため、ラミネート鋼板を抵抗スポット溶接法によって接合する方法としては、まず、バイパス回路を設けて樹脂層を加熱し、鋼板層同士を接触させてスポット溶接する方法が知られている。しかしながら、この方法では、バイパス回路が必要となるために施工が煩雑となり、量産工程において実施するのが困難であるという問題がある。
また、その他の方法として、導電性粒子が添加された材料からなる樹脂層が備えられたラミネート鋼板を使用し、抵抗スポット溶接法で接合する方法が挙げられる。しかしながら、この方法では、樹脂中に導電性粒子を均一に分散させることが困難であるため、例えば、導電性粒子が密集した部分に電流が集中し、当該部分が溶け落ちてしまうという問題がある。また、樹脂が押し出されることで接合部の周囲に膨らみが生じたり、また、樹脂が蒸発することで溶接部にブローホールが生じたり、さらには、導電性粒子は高価なため、製造コストが上昇するという問題がある。
また、プラズマを用いてラミネート鋼板に穴を形成した後、穴の内部にフィラーを供給し、このフィラーを溶融させることによって穴を埋める、プラズマスポット溶接法を用いることも考えられる。しかしながら、この方法を用いた場合でも、樹脂が蒸発することで接合部にブローホールが生じたり、また、樹脂が押し出されることで接合部の周囲に膨らみが生じたりするという問題がある。
【0005】
また、ラミネート鋼板の接合方法としては、上述したような溶接法以外にも、例えば、Tog lock法やTOX法、SelF‐pierce riveting法等の機械的接合法を用いることも考えられる。しかしながら、ラミネート鋼板は、鋼板基材の間に樹脂層が配された構造のため、Tog lock法やTOX法では、接合強度、特に剥離方向の接合強度が低くなるという問題がある。また、Self−pierce riveting法では、表皮鋼板が薄いために表面割れが生じる虞があり、また、用いるリベットが高価なために製造コストが上昇するという問題がある。
なお、ラミネート鋼板をボルトで接合する方法も考えられるが、ボルトを締め付ける作業が必要となるために生産効率が低下し、また、ラミネート鋼板の接合部においてボルトが緩み易いため、接合強度が低下する虞があった。
【0006】
一方、スポット溶接法によって鋼板を接合する際の、スポット溶接部(溶接継手)の品質指標として、引張強さは、部材の強度を決定するパラメータとして非常に重要である。このような溶接継手の引張強さには、せん断方向に引張荷重を負荷付与して測定する引張せん断強さ(TSS)と、剥離方向に引張荷重を負荷付与して測定する十字引張強さ(CTS)があるが、部材の強度を保つためには、これら何れの強度値も重要である。従って、接合部において、高い引張せん断強さ及び十字引張強さを得ることが重要となる。
【特許文献1】特開2001−158060号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、従来の接合方法でラミネート鋼板を接合する場合、スポット溶接法では接合することが困難であり、また、樹脂に導電性粒子を添加してスポット溶接法による接合を可能とした場合や、プラズマスポット溶接法を用いた場合であっても、多くの問題点があった。またさらに、機械的接合法を用いた場合には、樹脂層の部分の強度が低いため、接合強度、特に剥離方向の強度が低いという問題があった。このため、ラミネート鋼板を効率良く確実に点接合できるとともに、接合部における引張せん断強さ及び十字引張強さの何れをも向上させることが可能な接合方法が強く求められていた。
【0008】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、ラミネート鋼板が適用される自動車のボデーやシャシー、あるいはそれらの部品等を点接合した場合においても、信頼性が高く確実に接合することが可能であるとともに、十分に高い接合強度が得られる、接合強度特性に優れたラミネート鋼板の接合方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等が上記問題を解決するために鋭意研究したところ、ラミネート鋼板の接合を、所定の条件とされた摩擦攪拌点接合法を用いて行うことにより、導電性粒子が添加された特殊なラミネート鋼板を用いたり、また、特殊な施工法を用いたりすること無く、確実な接合が可能になるとともに高い接合強度が得られることを見出し、本発明を完成した。
即ち、本発明の要旨は以下のとおりである。
【0010】
[1] 引張強さが250〜850MPa、板厚が0.2〜1.0mmの範囲の鋼板基材と、厚さが0.05〜0.7mmの範囲の樹脂層とが、少なくとも合わせて3層以上で交互に積層されてなるとともに最外層が前記鋼板基材とされ、総板厚が0.45〜2.1mmの範囲とされたラミネート鋼板の接合方法であって、高速回転する回転子を前記ラミネート鋼板に押圧し、前記回転子と前記ラミネート鋼板との摩擦熱によって前記鋼板基材を部分的に軟化させ、該軟化部分を撹拌することによって前記鋼板基材を接合する摩擦攪拌点接合法を用い、前記回転子と前記ラミネート鋼板との間の加圧力を3.0〜5.0kN、前記回転子の回転数を2750〜3250rpm、加圧時間を1.0〜3.0secの範囲の条件とすることを特徴とする、接合強度特性に優れたラミネート鋼板の接合方法。
[2] 前記ラミネート鋼板をなす前記鋼板基材が、片面あたりのめっきの目付け量が100g/m以下とされた高強度めっき鋼板であることを特徴とする、上記[1]に記載の接合強度特性に優れたラミネート鋼板の接合方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の接合強度特性に優れたラミネート鋼板の接合方法によれば、所定の鋼板特性とされたラミネート鋼板を、所定の接合条件とした摩擦攪拌点接合法を用いて点接合することにより、例えば、ラミネート鋼板が適用される自動車のボデーやシャシー、あるいはそれらの部品等を点接合した場合においても、確実な接合が可能であるとともに、十分に高い接合強度が得られる。従って、自動車分野等において本発明のラミネート鋼板の接合方法を適用することにより、車体全体の軽量化による低燃費化や炭酸ガス(CO)の排出量削減、並びに制振性向上等のメリットを十分に享受することができ、その社会的貢献は計り知れない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の接合強度特性に優れたラミネート鋼板の接合方法の実施の形態について、図1(a)〜(d)及び図2(a)、(b)を参照しながら説明する(図3も適宜参照)。なお、本実施形態は、本発明の接合強度特性に優れたラミネート鋼板の接合方法の趣旨をより良く理解させるために詳細に説明するものであるから、特に指定の無い限り本発明を限定するものではない。
【0013】
本発明に係る接合強度特性に優れたラミネート鋼板の接合方法は、引張強さが250〜850MPa、板厚が0.2〜1.0mmの範囲の鋼板基材11、12(21、22)と、厚さが0.05〜0.7mmの範囲の樹脂層13(23)とが、少なくとも合わせて3層以上で交互に積層されてなるとともに最外層が鋼板基材11、12(21、22)とされ、総板厚が0.45〜2.1mmの範囲とされたラミネート鋼板10、20を接合する方法であり、高速回転する回転子5をラミネート鋼板10、20に押圧し、回転子5とラミネート鋼板10、20との摩擦熱によって鋼板基材11、12、21、22を部分的に軟化させ、該軟化部分を撹拌することによって鋼板基材11、12、21、22を接合する摩擦攪拌点接合法を用い、回転子5とラミネート鋼板10、20との間の加圧力を3.0〜5.0kN、回転子5の回転数を2750〜3250rpm、加圧時間を1.0〜3.0secの範囲の条件とする方法である。
【0014】
自動車分野においては、低燃費化や炭酸ガス(CO)の排出量削減を目的とする車体の軽量化や、制振性の向上等の観点から、車体や部品等にラミネート鋼板を使用するニーズが高まっている。また、このようなラミネート鋼板が用いられてなる車体の組立や部品の取付け等を行なう場合には、高い信頼性並びに接合強度特性が実現可能な接合方法が必要とされ、それを達成できる接合方法に対するニーズが非常に高まっている。このようなニーズに対し、本発明では、上述したような、所定の条件における摩擦攪拌点接合(フリクションスポット接合)によってラミネート鋼板を接合する方法とすることにより、導電性粒子が添加された特殊なラミネート鋼板を用いたり、特殊な施工法を用いたりすること無く、確実に接合できるとともに、スポット溶接部並の強度特性が得られるものである。
以下、詳細を説明する。
【0015】
[鋼板特性の限定理由]
以下に、本発明における被接合物であるラミネート鋼板10、20の、鋼板特性の限定理由について詳述する。
本実施形態において説明するラミネート鋼板10(20)は、上述したように、引張強さが250〜850MPa、板厚が0.2〜1.0mmの範囲の鋼板基材11、12(21、22)と、厚さが0.05〜0.7mmの範囲の樹脂層13(23)とが、少なくとも合わせて3層以上で交互に積層されてなるとともに、最外層が鋼板基材11、12(21、22)とされ、総板厚が0.45〜2.1mmの範囲とされたものである。また、図示例のラミネート鋼板10(20)は、鋼板基材11、12(21、22)が最外層とされ、これらの間に樹脂層13(23)が配されたサンドイッチ状の3層構造として構成されている。
上述のようなラミネート鋼板10、20は、例えば、1枚の鋼板基材11(21)上に有機溶媒に溶かした樹脂を塗布し、有機溶媒を蒸発させた後、もう1枚の鋼板基材で挟み、温度を上げた状態で圧着(例えば、圧延接合)することによって製造することが可能である。また、これ以外にも、例えば、2枚の鋼板基材11、12(21、22)の間に溶融樹脂を注入してプレス加工する方法か、あるいは、鋼板基材11、12(21、22)の何れか一方の上に溶融樹脂を供給した後、他方の鋼板基材を重ね合わせてプレス加工する方法等によっても製造することができるものである。
【0016】
「鋼板基材の引張強さ(250〜850MPa)」
本発明では、非接合物であるラミネート鋼板10、20を構成する鋼板基材11、12、21、22の引張強さを320〜850MPaの範囲に規定する。
鋼板基材の引張強さが250MPa未満だと、剛性が低すぎるために、詳細を後述する摩擦攪拌点接合法によってラミネート鋼板の接合を行うことが困難となり、また、接合された場合でも、本発明による接合強度向上効果が得られ難くなる。また、鋼板基材の引張強さが850MPaを超えると、摩擦攪拌点接合法による接合部の攪拌が不十分となり、接合後の継手強度が十分に得られず、また、摩擦攪拌点接合装置の回転子(図2(a)、(b)の回転子5を参照)の寿命が極めて短くなる虞がある。さらに、接合部周辺の鋼板基材の変形能が低下するため、接合部における応力集中が高まり、十字引張強さが低下するという問題も生じる。
【0017】
「鋼板基材の板厚(0.2〜1.0mm/1枚あたり)」
本発明では、非接合物であるラミネート鋼板10、20を構成する鋼板基材11、12、21、22の板厚を、1枚あたり0.2〜1.0mmの範囲に規定する。
鋼板基材の板厚が0.2mm未満だと、鋼板の剛性が低いために摩擦攪拌点接合法による接合処理を行なうことが困難となり、また、接合された場合でも、本発明による接合強度向上効果が得られ難くなる。また、鋼板基材に面外変形が生じ、鋼板基材と樹脂層との間で剥離が起こり易くなる。また、鋼板基材の板厚が1.0mmを超えると、摩擦攪拌点接合法による接合部の攪拌が困難となり、各々のラミネート鋼板(鋼板基材)を一枚に接合することが難しくなるため、継手強度が十分に得られない。さらに、接合部周辺の鋼板基材が変形し難くなるため、接合部における応力集中が高まり、十字引張強さが低下するという問題も生じる。
【0018】
「樹脂層の厚さ(0.05〜0.7mm)」
本発明では、非接合物であるラミネート鋼板10、20を構成する樹脂層13、14の厚さを、0.05〜0.7mmの範囲に規定する。
樹脂層の厚さが0.05mm未満だと、ラミネート鋼板を構成した際に、軽量化や制振性の十分な効果が得られず、自動車の車体や部品に適用する意義が小さなものとなる。また、樹脂層の厚さが0.7mmを超えると、摩擦攪拌点接合法による接合の際、樹脂が障害となって鋼板基材を攪拌するのが不十分となり、各々のラミネート鋼板(鋼板基材)の間を接合するのが困難となるため、高い接合強度が得られない。
【0019】
「ラミネート鋼板の総板厚(0.45〜2.10mm)」
本発明では、非接合物であるラミネート鋼板10、20の総板厚を、0.45〜2.10mmの範囲に規定する。
ラミネート鋼板の総板厚が0.45mm未満だと、ラミネート鋼板を構成する鋼板基材の各々の板厚も薄くなるために剛性が低下し、摩擦攪拌点接合法による接合が困難となり、また、高い接合強度も得られない。また、鋼板基材に面外変形が生じ、鋼板基材と樹脂層との間で剥離が起こり易くなる。また、ラミネート鋼板の総板厚が2.10mmを超えると、摩擦攪拌点接合法による接合部(鋼板基材)の攪拌が困難となり、各々のラミネート鋼板(鋼板基材)を一枚に接合することが難しくなるため、継手強度が十分に得られない。
【0020】
「めっきの目付け量(片面あたり100g/m以下)」
本発明では、上述したような、非接合物であるラミネート鋼板10、20の各特性の規定に加え、さらに、ラミネート鋼板10、20を構成する鋼板基材11、12、21、22が、片面あたりのめっきの目付け量が100g/m以下とされた高強度めっき鋼板であることが好ましい。
鋼板基材の片面あたりのめっきの目付け量が100g/mを超えると、接合面のめっきが障害となり、十分な接合強度が得られなくなる虞がある。
【0021】
また、鋼板基材の表層に施されるめっき層の種類については、特に限定するものではなく、例えば、Zn系、Zn−Fe系、Zn−Ni系、Zn−Al系、Zn−Mg系、Pb−Sn系、Sn−Zn系、Al−Si系等、何れのめっき層であっても良い。また、めっき層の表層に無機系、有機系の皮膜(例えば、潤滑皮膜等)が施されていても良い。
【0022】
「鋼板基材の鋼種」
本発明では、非接合物であるラミネート鋼板10、20を構成する鋼板基材11、12、21、22の鋼種については、特に限定されず、例えば、固溶強化型(例:C−Mn強化型、P添加型)、2相組織型(例:フェライト中にマルテンサイトを含む組織、フェライト中にベイナイトを含む組織)、加工誘起変態型(フェライト中に残留オーステナイトを含む組織)、微細結晶型(フェライト主体組織)等、何れの型であっても良い。何れの鋼種からなる鋼板基材が用いられたラミネート鋼板であっても、本発明の接合強度特性に優れたラミネート鋼板の接合方法を適用することにより、ラミネート鋼板の特性を損なうことなく、優れた引張強さを有する接合継手(接合部)が得られる。
【0023】
「樹脂層の材質」
本発明では、非接合物であるラミネート鋼板10、20を構成する樹脂層13、23の材料としては、特に限定されず、この分野において用いられる樹脂材料を何ら制限無く用いることができる。
このような樹脂層13、23としては、例えば、熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂の何れも用いることができるが、ラミネート鋼板としての加工性を考慮した場合、熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。樹脂層13、23に用いる熱可塑性樹脂としては、例えば、PP、PA、PS、PBT、PPE、PPO、ABS、AES及びそれらのアロイ等の中から適宜選択して用いることができ、また、必要に応じて、タルク、ガラス繊維、エラストマ等の充填材を含有した構成としても良い。
また、樹脂層13、23に用いる樹脂材料は、鋼板基材11、12、21、22との間で大きな強度で溶着するものを用いることがより好ましい。
【0024】
なお、本発明の接合強度特性に優れたラミネート鋼板の接合方法の適用は、同種同厚のラミネート鋼板の組合せに限定されるものではなく、上記各規定を満たすラミネート鋼板の接合であれば、同種異厚、異種同厚、或いは異種異厚の組合せで行なうことも可能である。
【0025】
[接合条件の限定理由]
以下に、本発明の接合強度特性に優れたラミネート鋼板の接合方法で規定する、摩擦攪拌点接合の際の接合条件(スポット接合)について、その限定理由を詳述する。
本発明では、ラミネート鋼板10、20(図1(a)〜(d)を参照)を接合する方法として、高速回転する回転子5をラミネート鋼板10、20に押圧し、回転子5とラミネート鋼板10、20との摩擦熱によって鋼板基材11、12、21、22を部分的に軟化させ、該軟化部分を撹拌することによって鋼板基材11、12、21、22を接合する摩擦攪拌点接合法を用い、回転子5とラミネート鋼板10、20との間の加圧力を3.0〜5.0kN、回転子5の回転数を2750〜3250rpm、加圧時間を1.0〜3.0secの範囲の条件に規定している。
【0026】
「摩擦攪拌点接合法(フリクションスポット接合法)」
本発明において用いられる摩擦攪拌点接合法とは、例えば、図1(a)〜(d)の模式断面図に示す工程のように、高速回転する回転子5を被接合物であるラミネート鋼板10、20に押圧し、回転子5とラミネート鋼板10、20を構成する鋼板基材11、12、21、22との摩擦熱によって、これら鋼板基材11、12、21、22の一部(図1(d)の接合部30を参照)を軟化させ、この軟化部分を撹拌することによって鋼板基材11、12、21、22を接合する摩擦攪拌点接合法を用い、回転子5とラミネート鋼板10、20との間の加圧力を3.0〜5.0kN、回転子5の回転数を2750〜3250rpm、加圧時間を1.0〜3.0secの範囲の条件とする方法である(摩擦攪拌点接合法については、例えば、特開平11−226758号公報、特開2003−226758号公報等の特許文献も参照)。
また、本発明においては、ラミネート鋼板10、20を点接合(スポット接合)で接合する方法としている。
【0027】
上述のような摩擦攪拌点接合法によるラミネート鋼板の接合は、例えば、図2(a)、(b)に示すような従来公知の摩擦攪拌点接合装置1を用いて行なうことが可能である。この摩擦攪拌点接合装置1は、装置本体2と、被接合物であるラミネート鋼板10、20が載置される定盤3と、回転駆動手段4と、該回転駆動手段4によって回転される回転子5と、該回転子5を垂直方向(図2(a)において上下方向)に回転軸6に沿って移動させる垂直駆動手段7とが備えられている。
【0028】
上述のような摩擦攪拌点接合装置1に備えられる回転子5としては、例えば、図2(b)に示すような、円柱状の回転子本体(ショルダー)51の先端部51aに、円柱状のピン52が設けられたものを用いることができる。
ピン52は、回転子5が回転駆動手段4によって高速回転され、被接合物であるラミネート鋼板10、20に押圧される際に、ラミネート鋼板10、20に対して直接圧接されるものであり、図2(b)に示す例のように、外周部52bがねじ切り形状とされたものを用いることができる。また、図示例のピン52は、先端52aが、円柱中心を頂点とした緩やかなR形状として形成されている。
【0029】
回転子5の材質としては、例えば、切削バイト等と同様の工具鋼材料が用いられ、例えば、cBN等の硬い多結晶焼結体(セラミックス)が用いられる。
また、回転子5、特にピン52は、高速回転でラミネート鋼板10、20に対して圧接されることを考慮し、例えば、TiC、TiN、TiCN、SiN又はダイヤモンド被膜等でコーティングしておくことが、接合品質の維持や寿命の点から好ましい。
【0030】
上述のような摩擦攪拌点接合装置1を用いてラミネート鋼板10、20を点接合する際の手順について、図1(a)〜(d)及び図2(a)、(b)を参照しながら説明する。
まず、図2(a)に示す摩擦攪拌点接合装置1の定盤12の上に、被接合物であるラミネート鋼板10とラミネート鋼板20とを重ねて載置し、図示略の固定手段で固定する。この際、回転子14は、ラミネート鋼板10(20)には接せず、ラミネート鋼板10、20の上方(図2(a)の上方)で待機した状態とされている。
【0031】
次いで、図1(a)に示すように、回転子5の回転軸6がラミネート鋼板10、20の表面に対して垂直になるように位置決めし、回転駆動手段4(図2(a))によって、所定の回転数(2750〜3250rpm)で回転子5の高速回転を開始する。
次いで、図1(b)に示すように、回転子5を回転させながら、垂直駆動手段7(図2(a))によって所定の加圧力(3.0〜5.0kN)でラミネート鋼板10に対して押し付ける。これにより、回転子5に備えられるピン52とラミネート鋼板10をなす一方の鋼板基材11との間に摩擦熱が発生し、鋼板基材11の一部が軟化(図1(b)中の符合T参照)してピン52のラミネート鋼板10中への圧入が始まる。
【0032】
次いで、図1(c)に示すように、回転子5を回転させながら、さらに、ピン52をラミネート鋼板10中に圧入してゆくと、ピン52は、樹脂層13を外周部52bの側方に押出しながら、下方(図1(c)中の下側方向)に向けて進む。そして、ピン52が他方の鋼板基材12に到達すると、上記した鋼板基材11と同様、ピン52と鋼板基材12との間に摩擦熱が発生し、鋼板基材12の一部が軟化してピン52が鋼板基材12中に圧入され、さらに、ラミネート鋼板20の一方の鋼板基材21に到達する。そして、上記したラミネート鋼板10と同様に、鋼板基材21の一部が軟化してピン52のラミネート鋼板20中への圧入が始まり、最終的に、ピン52が他方の鋼板基材22に到達する。
そして、ピン52がラミネート鋼板10、20中に完全に埋没した状態となり、回転子本体51がラミネート鋼板10に接触した後も、垂直駆動手段7による回転子5への加圧力印加、並びに回転子5のラミネート鋼板10、20に対する加圧を所定時間(1.0〜3.0sec)維持する。この間、図1(c)に示すように、ラミネート鋼板10、20中におけるピン52周辺は、鋼材基板11、12、21、22の材質が塑性流動現象を起こし(図1(c)中の符号U参照)、各鋼板基材が攪拌、一体化される。
【0033】
次いで、図1(d)に示すように、垂直駆動手段7により、回転子5を上方(図2(a)を参照)に引き上げてピン52をラミネート鋼板10、20中から引き抜き、接合処理を完了する。これにより、ラミネート鋼板10、20の間が、鋼板基材11、12、21、22の各々が接合部30の部分において一体化されることで、接合された状態となる。
【0034】
なお、図1(b)〜(c)に示す各工程においては、回転子5に備えられるピン52がラミネート鋼板10、20の内部に圧入される際、上述したように、ピン52が樹脂層13、23を外周部52bの側方に押出しながら圧入されてゆく。これにより、樹脂層13を接合部30の周囲に排除しながら、鋼板基材11、12、21、22の各々を確実に接合することができるので、樹脂層13に阻害されること無くラミネート鋼板10、20の接合を完了することが可能となる。
【0035】
本発明の接合強度特性に優れたラミネート鋼板の接合方法は、上述のような摩擦攪拌点接合法による接合処理において、鋼板特性を上記特性に限定したうえで、接合条件を、以下に説明するような適正範囲に限定することにより、高い接合強度が得られるという方法である。
【0036】
「摩擦攪拌点接合時の加圧力(3.0〜5.0kN)」
本発明では、回転子5とラミネート鋼板10、20との間の加圧力を3.0〜5.0kNの範囲に規定する。
摩擦攪拌点接合時の加圧力が3.0kN未満だと、鋼板基材の各々の接合部における攪拌が不十分となるために十分な十字引張強さが得られず、また、5.0kNを超えると、接合部の位置におけるラミネート鋼板の板厚が薄くなり過ぎるので、同様に十字引張強さが低下する。
【0037】
「摩擦拡散点接合時の回転子の回転数(2750〜3250rpm)」
本発明では、摩擦攪拌点接合時の回転子5の回転数を2750〜3250rpmの範囲に規定する。
摩擦攪拌点接合時の回転子5の回転数が2750rpm未満だと、接合部の攪拌が不十分となり、十分な十字引張強さが得られない。また、摩擦攪拌点接合時の回転子5の回転数が3250rpmを越えると、摩擦熱によって接合部の温度が上昇し過ぎ、接合部の軟化が生じることから十分な十字引張強さが得られず、また、回転子5の寿命が低下する。
【0038】
「摩擦攪拌点接合時の加圧時間(1.0〜3.0sec)」
本発明では、摩擦攪拌点接合時の回転子5のラミネート鋼板10、20への加圧時間、即ち、回転子5をラミネート鋼板10、20に押圧する時間を1.0〜3.0secの範囲に規定する。
回転子5のラミネート鋼板10、20への加圧時間が1.0sec未満だと、鋼板基材の各々の接合部における攪拌が不十分となり、十分な十字引張強さが得られない。また、回転子5のラミネート鋼板10、20への加圧時間が3.0secを超えると、工程処理時間が長くかかり過ぎるので生産性が低下する。
【0039】
以上説明したように、本発明に係る接合強度特性に優れたラミネート鋼板の接合方法によれば、所定の鋼板条件とされたラミネート鋼板を、所定の接合条件とした摩擦攪拌点接合法を用いて接合することにより、例えば、ラミネート鋼板が適用される自動車のボデーやシャシー、あるいはそれらの部品等を点接合した場合においても、確実な接合が可能であるとともに、十分に高い接合強度が得られる。従って、自動車分野等において本発明のラミネート鋼板の接合方法を適用することにより、車体全体の軽量化による低燃費化や炭酸ガス(CO)の排出量削減、並びに制振性向上等のメリットを十分に享受することができ、その社会的貢献は計り知れない。
【0040】
上述したように、従来の方法を用いてラミネート鋼板を接合した場合、抵抗スポット溶接法では接合することが困難であり、また、樹脂に導電性粒子を添加して抵抗スポット溶接法による接合を可能とした場合や、プラズマスポット溶接法を用いた場合であっても、多くの問題点があった。またさらに、機械的接合法を用いた場合には、樹脂層の部分の強度が低いため、接合強度、特に剥離方向の強度が低いという問題があった。
本発明では、鋼板基材の引張強さ及び板厚、樹脂層の厚さ、ラミネート鋼板全体の厚さ並びに積層構造が上記規定の範囲とされたラミネート鋼板を、回転子とラミネート鋼板との間の加圧力、回転子の回転数及び加圧時間を適正条件とした摩擦攪拌点接合法を用いて接合することにより、生産性等を低下させることなく、確実な点接合が可能になるとともに、十分に高い接合強度を得ることが可能となる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明に係る接合強度特性に優れたラミネート鋼板の接合方法の実施例を挙げ、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、もとより下記実施例に限定されるものではなく、前、後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【0042】
[実施例1]
下記表1に示すような、鋼板基材の引張強さが297〜1483MPaの範囲で、鋼板基材の鋼種及び板厚、樹脂層の厚さ、層数がそれぞれ異なる、総板厚が0.4〜2.5mmの各種ラミネート鋼板を用い(鋼板基材は何れも冷延鋼板)、抵抗スポット溶接継手の十字引張試験方法(JIS Z3137)に基づいて十字引張試験片を作製した。なお、表1中において鋼板基材の鋼種の欄に示す各記号は、軟鋼板(日本鉄鋼連盟規格:JSC 270E)、2相組織強化型鋼板(日本鉄鋼連盟規格:JSC 590Y、780Y、980Y)、焼入れ型鋼板(1470HP、1760HP:特開2000−234153号の実施例に記載の発明例を参照)をそれぞれ示す。
【0043】
次いで、上記手順で得られた十字引張試験片を、図1(a)に示すように同鋼種の組合せで重ね合わせ、下記表1に示す条件で、摩擦攪拌点接合(フリクションスポット接合)法による点接合で継手(接合部)を形成し、条件番号1〜16、20(本発明例)及び条件番号33〜41(比較例)の試験片サンプルとした。また、同様に、上記手順で得られた十字引張試験片を、図1(a)に示すように同鋼種の組合せで重ね合わせ、下記表1に示す条件で、抵抗スポット溶接で継手(接合部)を形成し、条件番号21〜28、32(比較例)の試験片サンプルとした。なお、条件番号21〜28、32の試験片サンプルは、鋼板基材の間に配される樹脂層として、導電性樹脂を含有したものを用いている。
【0044】
そして、上記手順で得られた各試験片サンプルについて、抵抗スポット溶接継手の十字引張試験方法(JIS Z3137)に基づき、図3に示すように、剥離方向F1、F2に負荷を付与して十字引張試験を実施した。
下記表1に、各試験片サンプルの作製条件並びに十字引張試験の結果を示す。
【0045】
【表1】

【0046】
表1の結果に示すように、本発明で規定する鋼材特性を備えるラミネート鋼板を、本発明で規定する接合条件で摩擦攪拌点接合法による点接合を行なった、条件番号1〜16、20の本発明例の試験片サンプルは、抵抗スポット溶接を行なった条件番号21〜28、32の比較例の試験片サンプルに比べて、何れの鋼種を用いた場合でも、十字引張強さ(CTS)が向上していることが明らかとなった。
一方、本発明で規定する範囲外の接合条件で摩擦攪拌点接合法による点接合を行なった、条件番号33〜41(比較例)の試験片サンプルは、何れの鋼種を用いた場合においても、十字引張強さが向上していないことが明らかとなった。
【0047】
[実施例2]
上記表1に示すような、鋼板基材が、引張強さが781〜788MPa、片面あたりの目付量が45〜120g/mで、2相組織強化型鋼板(日本鉄鋼連盟規格:JSC 980Y)からなるめっき鋼板(何れも冷延鋼板)であり、鋼板基材及び樹脂層の厚さがそれぞれ0.4mmとされ、総板厚が1.2mmの各種ラミネート鋼板を用い、実施例1と同様に十字引張試験片を作製した。
次いで、上記実施例1と同様、得られた十字引張試験片を、図1(a)に示すように同鋼種の組合せで重ね合わせ、上記表1に示す条件で、摩擦攪拌点接合法による点接合で継手(接合部)を形成し、条件番号17〜19(本発明例)及び条件番号42(比較例)の試験片サンプルとした。また、同様に、得られた十字引張試験片を、図1(a)に示すように同鋼種の組合せで重ね合わせ、上記表1に示す条件で、スポット溶接で継手(接合部)を形成し、条件番号29〜31(比較例)の試験片サンプルとした。
【0048】
そして、実施例1と同様、上記手順で得られた各試験片サンプルについて、抵抗スポット溶接継手の十字引張試験方法(JIS Z3137)に基づき、図3に示すように、剥離方向F1、F2に負荷を付与して十字引張試験を実施し、各試験片サンプルの作製条件並びに十字引張試験の結果を上記表1に示した。
【0049】
上記表1の結果に示すように、本発明で規定する鋼材特性及びめっき条件とされたラミネート鋼板を、本発明で規定する接合条件で摩擦攪拌点接合法による点接合を行なった、条件番号17〜19の本発明例の試験片サンプルは、スポット溶接を行なった条件番号29〜31の比較例の試験片サンプルに比べて、何れの鋼種を用いた場合でも、十字引張強さ(CTS)が向上していることが明らかとなった。
一方、本発明で規定する範囲外のめっき条件とされたラミネート鋼板を用いて、摩擦攪拌点接合法による点接合を行なった、条件番号42(比較例)の試験片サンプルは、何れの鋼種を用いた場合においても、十字引張強さが向上していないことが明らかとなった。
実施例2においては、鋼板の板厚を変更して実験を行った場合も、また、めっき種を変更して実験を行った場合も、結果は上記同様であった。
【0050】
以上説明した実施例の結果より、本発明の接合強度特性に優れるラミネート鋼板の接合方法が、摩擦攪拌点接合法を用いた点接合により、確実で信頼性の高い接合を行うことができ、また、十分な接合強度が得られることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明によれば、ラミネート鋼板、特に、軽量化や制振性の向上を目的としてラミネート鋼板が適用される自動車のボデーやシャシーあるいはそれらの部品等を点接合した場合において、接合部の接合強度を十分に向上させることが可能となる。従って、自動車分野等における本発明の適用により、車体全体の軽量化による低燃費化や炭酸ガス(CO)の排出量削減、並びに騒音防止等のメリットを十分に享受することができ、その社会的貢献は計り知れない。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明に係る接合強度特性に優れたラミネート鋼板の接合方法の一例を模式的に説明する図であり、摩擦攪拌点接合法によるラミネート鋼板の接合プロセスを示す概略断面図である。
【図2】本発明に係る接合強度特性に優れたラミネート鋼板の接合方法の一例を模式的に説明する図であり、摩擦攪拌点接合装置の一例を示す概略図である。
【図3】本発明に係る接合強度特性に優れたラミネート鋼板の接合方法の実施例について説明する図であり、十字引張試験方法を示す概略図である。
【符号の説明】
【0053】
1…摩擦攪拌点接合装置、5…回転子、6…回転軸、10、20…ラミネート鋼板、11、12、21、22…鋼板基材、13、23…樹脂層、30…接合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
引張強さが250〜850MPa、板厚が0.2〜1.0mmの範囲の鋼板基材と、厚さが0.05〜0.7mmの範囲の樹脂層とが、少なくとも合わせて3層以上で交互に積層されてなるとともに最外層が前記鋼板基材とされ、総板厚が0.45〜2.1mmの範囲とされたラミネート鋼板の接合方法であって、
高速回転する回転子を前記ラミネート鋼板に押圧し、前記回転子と前記ラミネート鋼板との摩擦熱によって前記鋼板基材を部分的に軟化させ、該軟化部分を撹拌することによって前記鋼板基材を接合する摩擦攪拌点接合法を用い、前記回転子と前記ラミネート鋼板との間の加圧力を3.0〜5.0kN、前記回転子の回転数を2750〜3250rpm、加圧時間を1.0〜3.0secの範囲の条件とすることを特徴とする、接合強度特性に優れたラミネート鋼板の接合方法。
【請求項2】
前記ラミネート鋼板をなす前記鋼板基材が、片面あたりのめっきの目付け量が100g/m以下とされた高強度めっき鋼板であることを特徴とする、請求項1に記載の接合強度特性に優れたラミネート鋼板の接合方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−241085(P2009−241085A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−88412(P2008−88412)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】