説明

接着剤組成物

【課題】耐衝撃性、耐熱性、耐薬品性、耐水性などに優れた性能を発揮する新規な接着剤組成物を提供する。
【解決手段】エポキシ化ポリブタジエン、ビスフェノール系エポキシ樹脂、分子中にエポキシ基とアルコキシシラン基を併有するシラン化合物およびカチオン重合開始剤を含む接着剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐衝撃性、耐熱性、耐薬品性、耐水性などに優れた性能を発揮する新規な接着剤組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エポキシ接着剤は機械的強度が高く、種々基材の接着性、耐熱性や耐薬品性に優れるため汎用から構造用接着剤用途まで広く使用されている。エポキシ接着剤は、耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性が高いことから、一部は電子材料用接着剤として、また光学部材用接着剤としても使用されている。
【0003】
また、エポキシ接着剤は、N,N―ジメチルプロピルアミンなどのアミノ化合物を硬化剤とする室温硬化(塗料、接着剤に使用されている)から、ヘキサヒドロ無水フタル酸などの酸無水物を硬化剤とする高温硬化タイプ(電気材料に使用されている)まで幅広い硬化特性、諸物性のコントロールが可能であり、適用範囲が広いのが特徴である。さらには、ビスフェノールAジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂は、望ましくは、脂環式エポキシ樹脂などは、ヨードニウム塩などの酸発生剤を開始剤としてカチオン硬化され、貯蔵安定性、ポットライフ調整等が比較的容易で、短時間硬化できる塗料、接着剤などに応用されている。
【0004】
エポキシ樹脂の接着剤としての優れた性能と、アクリル樹脂の粘着剤としての機能を組み合わせたいわゆるアクリル−エポキシハイブリッド型接着剤が提案されている(特許文献1参照)。本提案は、エポキシ樹脂、(メタ)アクリレート化合物および硬化剤としてのジアミン化合物またはビス(アミノ)アルキルピペラジンを含有する硬化性(メタ)アクリレート変性エポキシ樹脂組成物を提供するものである。特許文献1によれば、エポキシ樹脂接着剤の機械的強靱性は、そのままで耐衝撃性が改善され、自動車バンパーなどの接着剤用途として適しているとされている。本提案の狙うところは、
(1)高粘度エポキシ樹脂を低粘度の(メタ)アクリレートで希釈し、低粘度化して接着剤塗布作業性の改善を図ること、
(2)硬化過程で、エポキシ樹脂を前記ジアミン化合物などで硬化、架橋反応させるとともに、(メタ)アクリレートの重合を進めエポキシ−アクリルの相互侵入網目構造(以下IPNともいう)を形成し、強靱で耐衝撃性に優れた接着剤を得ようとするものと考えられる。特許文献1の狙いは、大変興味深いものであるが、(1)接着剤の粘度を単純に低くした場合には、接着剤粘性がニュートニアンとなり接着剤が流れ易くなって十分な接着剤層膜厚が得られない傾向があり、また被着体へのヌレ性が悪化し接着強度が不十分となる懸念がある、(2)周知の通り、ジアミン化合物、ビス(アミノ)アルキルピペラジンなどの塩基性化合物(または含N原子含有化合物)の存在下では(メタ)アクリレートはきわめて重合性が乏しく、硬化のために十分に長い時間をとったとしても(メタ)アクリレートは未反応で残る懸念が払拭できず、接着強度に重大なバラツキが出ることが予測される。さらにまた、(メタ)アクリレートは嫌気性が強く、脱気(脱酸素)が不十分な場合には、同様に接着強度発現に懸念が残ることになる。
【0005】
ポリアクリレート成分と、エポキシ成分と、カチオン開始剤とを含む硬化性接着剤が提案されている(特許文献2参照)。
【0006】
特許文献2に記載の接着剤は、ポリアクリレートは自己架橋することなく独自に、単独で存在する。したがって、ポリアクリレートによるエポキシへの絡み合い、エポキシの拘束、エポキシとの網目構造のバインダー力はある程度制限され、さほど強くはないことが容易に予測される。換言すれば、ポリアクリレートはずるずると歪みに引きずられ移動するだけで、本来期待されるはずのIPN効果は希薄となることが推察される。
【0007】
ポリアクリレートは、エポキシとポリアクリレートが有する特定の官能基、カルボン酸、水酸基、で接合される場合がある。ポリアクリレートが有する官能基がカルボン酸の場合には、エポキシ樹脂が有するエポキシ基との反応が起こり、接着剤の本来のカチオン重合反応によらないゲル化が進行し、接着剤の貯蔵安定性が悪化するばかりか、十分な高分子化が阻害されるため機械的強度や接着力の低下を招く懸念がある。ポリアクリレートが有する官能基が水酸基の場合には、接着剤をカチオン重合で硬化する際、連鎖移動剤として働き、見かけの硬化速度、架橋は促進されるが、重合度の低下を招き、接着剤が脆くなって、構造接着剤としての機能を発揮しないことが懸念される。
【0008】
紫外線や電子線の輻射線を照射することによって可とう性に優れた硬化膜を与える光硬化性樹脂組成物が提案されている(特許文献3参照)。特許文献3はエポキシ化ポリブタジエン、脂環式エポキシ樹脂、および光重合開始剤を必須成分とする光硬化型樹脂組成物に関する提案である。特許文献3は光硬化型樹脂の耐水性や接着性を改善することを目的としている。ただ、脂環式エポキシ樹脂を配合した場合は、一般に硬化性は優れるものの、貯蔵安定性、接着性が不十分であることが知られており、本提案もそれに類するものと考えられる。
【特許文献1】特開昭63−215716号公報
【特許文献2】特表2005−508435号公報
【特許文献3】特開平8−277320号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、炭素繊維強化プラスチックとアルミニウム合金の接合などのように、水中や塩水中のような電解質溶液中でも強力な接着性を維持し、発揮する接着剤組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、下記構造式で示されるエポキシ化ポリブタジエン、
【0011】
【化1】

【0012】
(ただし、a+b+c=1.0かつa+c>bであって、a=0.05〜0.40、b=0.02〜0.30、c=0.20〜0.80、xは10〜250の整数を表す。)
下記構造式で示されるエポキシ樹脂、
【0013】
【化2】

【0014】
(ただし、yは0または1〜50の整数を表す。)
下記構造式で示される分子中にエポキシ基とアルコキシシラン基を併有するシラン化合物
【0015】
【化3】

【0016】
(ただし、R1、R2は炭素原子数1〜3個のアルキル基、zは1〜3の整数を表す。)
および、カチオン重合開始剤を含む接着剤組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の接着剤組成物を用いた接着剤は、鉄、アルミニウム、銅、マグネシウム、チタンなどの金属およびこれらの合金類、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリプロピレンアロイ、ポリエチレンなどのプラスチック類、ガラス、モルタル、石英などの無機物など、幅広い基剤に適用できる。
【0018】
本発明の接着剤組成物を用いた接着剤は、特に、炭素繊維やガラス繊維で強化されたプラスチック類に好適に適用できる。本発明の接着剤組成物を用いた接着剤は、炭素繊維強化プラスチックとアルミニウム合金の接合などのように、炭素繊維よりも電解質溶液中でイオンになりやすい金属と炭素繊維強化プラスチックとを接合する際に、強い接着性を示し、電池の生成を抑制し金属の電気腐食を防止して、水中や塩水中のような電解質溶液中でも強力な接着性を維持し、発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明は、下記構造式で示されるエポキシ化ポリブタジエン、
【0020】
【化4】

【0021】
(ただし、a+b+c=1.0かつa+c>bであって、a=0.05〜0.40、b=0.02〜0.30、c=0.20〜0.80、xは10〜250の整数を表す。)
下記構造式で示されるエポキシ樹脂、
【0022】
【化5】

【0023】
(ただし、yは0または1〜50の整数を表す。)
下記構造式で示される分子中にエポキシ基とアルコキシシラン基を併有するシラン化合物
【0024】
【化6】

【0025】
(ただし、R1、R2は炭素原子数1〜3個のアルキル基、zは1〜3の整数を表す。)
および、カチオン重合開始剤を含む接着剤組成物を提供するものである。
【0026】
下記構造式で示されるエポキシ化ポリブタジエンは、例えば、ポリブタジエンを過酸化水素水、過酸類によりエポキシ化することによって容易に製造される。
【0027】
【化7】

【0028】
(ただし、a+b+c=1.0かつa+c>bであって、a=0.05〜0.40、b=0.02〜0.30、c=0.20〜0.80、xは10〜250の整数を表す。)
本発明の接着剤組成物では、エポキシ化ポリブタジエンの原料となるポリブタジエンは、市販されているものから任意に選択でき、例えば、「Poly.BD R−15HT」、「Poly.BD R−45HT」(以上、出光石油化学社製のポリブタジエン)、「NISSO PB B−1000」、「NISSO PB B−3000」、「NISSO PB G−1000」、「NISSO PB G−3000」(以上、日本曹達社製のポリブタジエン)などが例示される。これらのポリブタジエンは単独でも、もしくは2種類以上の混合物であってもよい。
【0029】
本発明では、ポリブタジエンとしては、好ましくは下記構造式で示される液状ポリブタジエンが推奨され、好ましくはこのポリブタジエンをエポキシ化したエポキシ化ポリブタジエンが推奨される。
【0030】
下記構造式で示される液状ポリブタジエンとしては、
【0031】
【化8】

【0032】
(ただし、a=0.20、b=0.20、c=0.60、n=10〜250の整数を表す。)
「Poly.BD R−15HT」、「Poly.BD R−45HT」(以上、出光石油化学社製のポリブタジエン)などが例示される。このような液状ポリブタジエンは、分子中に水酸基を有し、1,4−ビニル構造が1,2−ビニル構造よりも多く含まれることが特徴である。これらのポリブタジエンは単独でも、もしくは2種類以上の混合物であってもよい。
【0033】
液状ポリブタジエンをエポキシ化した下記構造式で示されるエポキシ化ポリブタジエンとしては、
【0034】
【化9】

【0035】
(ただし、a=0.20、b=0.20、c=0.60、nは10〜250の整数を表す。)
「エポリード PB3600」(ダイセル化学工業社製エポキシ化ポリブタジエン)などが例示される。これらのエポキシ化ポリブタジエンは単独でも、もしくは2種類以上の混合物であってもよい。
【0036】
本発明の接着剤組成物で使用されるエポキシ化ポリブタジエンは、分子中に水酸基を有するため、接着剤の硬化性を高める効果が見られる。特に、接着剤膜厚が100μm以下であるような薄膜接着の場合に、硬化不良を抑制し、強固な接着性を発現する効果がある。
【0037】
同時に、本発明の接着剤組成物で使用されるエポキシ化ポリブタジエンは1,4−ビニル構造が多いポリブタジエン骨格を有するため、柔軟性に優れ、接着剤の耐衝撃性、機械的強度、接着性を向上し、高める効果が見られる。
【0038】
本発明の接着剤組成物に含有される下記構造式で示されるエポキシ樹脂は、
【0039】
【化10】

【0040】
(ただし、yは0または1〜50の整数を表す。)
いわゆるビスフェノールA型エポキシ樹脂であり(参考文献;「14705の化学商品(2005年発行)」(化学工業日報社、p1126〜p1135)、「エピコート825」、「エピコート827」、「エピコート828」、「エピコート834」、「エピコート1001」、「エピコート1003」、「エピコート1004」(以上、ジャパンエポキシレジン社のエポキシ樹脂)などが例示される。これらのエポキシ樹脂は単独でも、2種類以上の混合物であってもよい。
【0041】
これらのエポキシ樹脂は、接着剤に架橋構造をもたらし、接着剤を硬くし、弾性率を高める効果がある。また、接着性や耐薬品性を向上する。
【0042】
本発明の接着剤組成物では、エポキシ化ポリブタジエンとエポキシ樹脂との合計量を100重量部としたとき、エポキシ化ポリブタジエンは、好ましくは、10〜95重量%、より好ましくは、20〜90重量%、さらに好ましくは、20〜80重量%使用されるのが望ましい。エポキシ化ポリブタジエンの使用量が10重量%未満の場合には、接着剤の薄膜時硬化性が悪化する場合がある。また、耐衝撃性が悪化する傾向がある。エポキシ化ポリブタジエンの使用量が95重量%を超える場合には、接着剤の粘度が高くなり作業性が悪化する場合がある。
【0043】
本発明の接着剤組成物に含有される下記構造式で示されるシラン化合物としては、
【0044】
【化11】

【0045】
(ただし、R1、R2は炭素原子数1〜3個のアルキル基、zは1〜3の整数を表す。)
γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルエチルジエトキシシランなどが例示される。これらのシラン化合物は単独でも、もしくは2種類以上の混合物であってもよい。
【0046】
本発明の接着剤組成物では、シラン化合物は、好ましくは、エポキシ基を介してエポキシ化ポリブタジエン、エポキシ樹脂と反応し、接着剤に架橋構造を形成する。さらに、アルコキシシラン基は、例えば被着体がアルミニウム合金、鉄などの金属の場合には、これに配向、反応して、表面で緻密なポリシロキサン膜を形成し、金属を不導体化して、金属の電気腐食による接着破壊を防止する作用がある。
【0047】
この機能は、被着体が炭素繊維強化プラスチック(導電性プラスチック)とアルミニウム合金、鉄などの接着の場合に顕著に見られ、被着体間での電池の生成を押さえ、耐水性、耐塩水性などの耐環境性能を飛躍的に向上する傾向が見られる。この機能は、例えば、エポキシ化ポリブタジエン、エポキシ樹脂だけの配合で例え強靱な接着剤が製造されたとしても、決して達成し得ない機能である。シラン化合物が配合され、シラン化合物が分子中にエポキシ基とアルコキシシラン基を併有して初めて達成されるものである。
本発明の接着剤組成物では、エポキシ化ポリブタジエンの使用量とエポキシ樹脂の使用量の合計を100重量部としたとき、シラン化合物は、好ましくは0.5〜100重量部、より好ましくは、2.0〜60重量部、さらに好ましくは、5.0〜50重量部使用されるのが望ましい。
【0048】
シラン化合物の使用量が0.5重量部未満の場合には、接着剤粘度が高くなってハンドリングがやや悪化する傾向が見られる。また、被着体を炭素繊維強化プラスチックとアルミニウミ合金などの金属とした場合、電気腐食を起こしやすく、耐水性、耐塩水性が悪くなり、接着破壊を起こしやすくなる傾向が見られる。
【0049】
シラン化合物の使用量が100重量部を超える場合には、接着剤が低粘度となって流れやすく、十分な接着膜厚を確保できなくなる傾向がある。この結果、接着剤の硬化不良を起こしやすくなり、接着強度の低下を招き易くなる傾向が見られる。また、アルコキシシラン基の加水分解により発生する低分子量アルコールガスの影響で接着強度が低下したり、接着破壊を起こしたりする場合がある。
【0050】
本発明の接着剤組成物は、カチオン重合開始剤が配合され、カチオン硬化反応により硬化反応が行われる。
【0051】
本発明では、カチオン硬化反応を推進する硬化剤として、好ましくはスルホニウム塩化合物を配合することができる。
【0052】
スルホニウム塩化合物としては、好ましくは下記構造式で示されるスルホニウム塩化合物が例示される。
【0053】
【化12】

【0054】
【化13】

【0055】
(ただし、R3、R4、R5は炭素原子数1〜12個のアルキル基を表す。)
【0056】
【化14】

【0057】
【化15】

【0058】
【化16】

【0059】
【化17】

【0060】
スルホニウム塩化合物としては、メチルフェニルジメチルスルホニウムのヘキサフルオロアンチモン塩、エチルフェニルジメチルスルホニウムのヘキサフルオロアンチモン塩、メチルフェニルジメチルスルホニウムのヘキサフルオロホスフェート塩などが例示される。これらのスルホニウム塩化合物は単独でも、もしくは2種類以上の混合物であってもよい。
【0061】
上市されているスルホニウム塩としては、「サンエイドSI−60L」、「サンエイドSI−80L」、「サンエイドSI−100L」(以上、三新化学工業社の製品)、「UVI−6990」、「UVI−6992」、「UVI−6974」(以上、ユニオンカーバイド社の製品)、「アデカオプトマーSP−150」、「アデカオプトマーSP−170」、「アデカオプトンCP−66」、「アデカオプトンCP−77」(以上、旭電化工業社の製品)、「IRGACURE 261」(チバガイギー社の製品)などが例示される。
【0062】
スルホニウム塩化合物は、熱または光照射により酸を発生し、エポキシ樹脂のカチオン重合を開始する。
本発明では、スルホニウム塩化合物として、下記構造式で示されるものがより好ましく使用され、接着剤の貯蔵安定性、硬化性が優れたものとなる傾向が見られる。
【0063】
【化18】

【0064】
【化19】

【0065】
(ただし、R3、R4、R5は炭素原子数1〜12個のアルキル基を表す。)
これらのスルホニウム塩で市販されているものとしては、「サンエイドSI−60L」、「サンエイドSI−80L」、「サンエイドSI−100L」(以上、三新化学工業社の製品)が例示される。
【0066】
本発明の接着剤組成物は、硬化反応がカチオン重合機構で行われ、素早くかつシャープな硬化反応により、強靱で高い接着力を有する接着剤が製造できる。また、接着剤の貯蔵安定性が良好であり、接着剤を実質的に一液型接着剤とすることができる。接着現場でのハンドリング、作業性が改善され、配合ミスによる接着不具合が最大限に回避可能である。
【0067】
本発明では、エポキシ化ポリブタジエンの使用量とエポキシ樹脂の使用量、シラン化合物の使用量の合計を100重量部としたとき、スルホニウム塩化合物は、好ましくは、0.2〜20重量部、より好ましくは、0.4〜10重量部、さらに好ましくは、0.5〜8重量部使用されるのが望ましい。
【0068】
スルホニウム塩化合物の使用量が0.2重量部未満の場合には、接着剤の硬化性が悪化し、硬化不良を起こす傾向が見られる。スルホニウム塩化合物の使用量が20重量部を超える場合には、接着剤の貯蔵安定性が損なわれ、一液型接着剤が製造できなくなる場合がある。また、接着剤の硬化が急速に進むため、接着剤に残留応力、歪みが残り、接着性が悪化する傾向が見られる。
【0069】
これらのスルホニウム塩化合物を硬化剤として使用した場合には、接着剤はカチオン重合機構で架橋反応が進行し、主としてエーテル結合を形成しながら架橋構造を形成するため、耐水性、耐薬品性、柔軟性に優れたものとなる傾向が見られる。
【0070】
本発明の接着剤組成物は、好ましくはスルホニウム塩化合物を硬化剤として、カチオン重合機構で硬化反応が実施される。カチオン重合はいわゆる連鎖移動反応であるが、ラジカル重合反応に次ぐ重合活性を有しており、また、熱や光照射に対してシャープな応答を特徴とする。言い換えれば、ある特定の条件が整わなければ、硬化反応は起こらず接着剤は安定である(貯蔵安定性良好、1液接着剤化可能)。一方で、例えばある特定以上の温度では硬化反応は急速に進行し、短時間で完結する(急速硬化、未反応物の低減)。
【0071】
したがって、本発明の接着剤組成物は、ポリオキシプロピレン−α,ω−ジアミン、ジエチレングリコールビス(3−アミノプロピル)エーテル、ジアミノグアニジンなどのアミノ化合物を硬化剤とする接着剤に比し、ポットライフが長く、貯蔵安定性に優れた接着剤である。記述の通り、実質的にある特定の条件が整わなければ硬化反応が開始されない一液型接着剤である。一方、特定条件下(例えば、適切な硬化温度、紫外線照射など)では硬化反応がスムースに進行し、未反応物が残ることはない。この結果、一液型接着剤であるにも係わらず、比較的低温での硬化反応が可能であり、高い反応達成率により、接着強度、耐衝撃性、耐熱性、耐水性などの諸性能が優れたものとなる。
【0072】
本発明の接着剤組成物は、エポキシ化ポリブタジエン、シラン化合物、エポキシ樹脂、スルホニウム塩化合物などのカチオン重合開始剤の他にも、タルク、ベントナイト、モンモリロナイト、ケイ石粉、ガラス粉、マイカ、チタン酸カリウムウィスカー、グラスウール、炭素繊維などの補強、充填用フィラー類などを配合することができる。
【0073】
配合されるフィラー(例えば、微粒子シリカなど)は、接着剤にチキソトロピー性を付与し作業性を向上し、あるいは架橋、補強点となり接着力を向上する。本発明の接着剤組成物は、好ましくは、カチオン反応で硬化反応が行われるため、配合されるフィラーとしては、表面電荷が中性〜酸性領域にあるものが推奨される。フィラーとしては、好ましくは、pHが3〜6程度のものが推奨される。
【0074】
本発明の接着剤組成物は、液状で被着体に塗布し、加熱硬化させ接着物品を得ることができる。また、接着剤を剥離可能な保護フィルム上に塗布し、好ましくは、適切な温度、好ましくは、60〜120℃で適切な時間、好ましくは、30秒〜10分加熱し、Bステージを経た後、これを被着体に圧着した後、加熱硬化し接着物品を得ることもできる。
本発明の接着剤組成物を用いた接着剤は、自動車、バイク、自転車部品用(構造)接着剤として、ゴルフクラブ、釣り竿などのレジャー、スポーツ用品用接着剤として、船舶、航空機用構造接着剤として、その他、接着強度、接着剤の機械的性質、強靱性、耐水性などの耐薬品性が要求される用途に好適に適用されるものである。
【実施例】
【0075】
以下、実施例を持って本発明を詳細に説明する。
【0076】
なお、実施例、比較例中、特に断りがなければ組成比は重量比を表す。また、接着の試験は以下に従い、実施した。
(1)初期接着試験
a)テストピースの作製 接着剤をアルミニウム板に均一に塗布し(膜厚50μm、塗布面積25mm×25mm)、さらに別のアルミニウム板を接着剤表面に圧着し、特に断りがない場合は120℃で1時間、加熱硬化させた。このテストピースを用い剪断接着力を測定した。
b)試験方法
A−2017Pアルミニウム板(サイズ;長さ50mm、幅25mm、厚さ2mm)を使用し、JIS K 6850(1999)(剛性被着材の引張剪断接着強さ試験方法)に準拠して行った。引張り速度は1.0mm/min.で行い、特に断りがない限り試験温度は23℃とした。
(2)耐水試験
(1)−1)(a)で作製したテストピースを80℃温水中に72時間浸漬した。この後、(1)−1)(b)に従い接着性試験を行った。
【0077】
実施例1
5Lプラネタリーミキサーに「jER 828」(ジャパン エポキシレジン社のビスフェノールA型エポキシ樹脂)800g、「エポリードPB−3600」(ダイセル化学工業社のエポキシ化ブタジエン)200g(エポキシ樹脂/エポキシ化ポリブタジエン=80/20)、「アエロジル380」(日本アエロジル社のシリカ微粒子)10gを仕込み、60分間攪拌を行った。
【0078】
γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(シラン化合物)200g((エポキシ樹脂+エポキシ化ポリブタジエン)/シラン化合物=100/20)を仕込み、均一になるまで攪拌、混合を行った。
【0079】
これに「サンエイド 80L」(三新化学工業製のスルホニウム塩系カチオン硬化触媒)を2phr添加し、さらに30分間攪拌を継続して接着剤(1)を製造した。
(接着剤の引張り試験)
接着剤(1)を膜厚が2mmになるようシート状に塗りのばし、120℃で1時間、加熱硬化させた。この硬化接着剤フィルムを3号ダンベルでカットし引張り試験を行った。試験結果を表1に示した。
(接着性の評価)
(1)初期接着力の評価
接着剤(1)をアルミニウム板に均一に塗布し(膜厚50μm、塗布面積25mm×25mm)、さらに別のアルミニウム板を接着剤表面に圧着し、120℃で1時間、加熱硬化させた。このテストピースを用い剪断接着力を測定した。
(2)耐水試験後接着力の評価
(1)で作製したテストピースを80℃温水中に72時間浸漬した。この後、(1)と同様に接着性試験を行った。接着性の試験結果を表1に示した。
【0080】
実施例2
5Lプラネタリーミキサーに「jER 828」(ジャパン エポキシレジン社のビスフェノールA型エポキシ樹脂)600g、「エポリードPB−3600」(ダイセル化学工業社のエポキシ化ブタジエン)400g(エポキシ樹脂/エポキシ化ポリブタジエン=60/40)、「アエロジル380」(日本アエロジル社のシリカ微粒子)10gを仕込み、60分間攪拌を行った。
【0081】
γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(シラン化合物)200g((エポキシ樹脂+エポキシ化ポリブタジエン)/シラン化合物=100/20)を仕込み、均一になるまで攪拌、混合を行った。
【0082】
これに「サンエイド 80L」(三新化学工業製のスルホニウム塩系カチオン硬化触媒)を2phr添加し、さらに30分間攪拌を継続して接着剤(2)を製造した。
【0083】
(接着剤の引張り試験)
接着剤(2)を膜厚が2mmになるようシート状に塗りのばし、120℃で1時間、加熱硬化させた。この硬化接着剤フィルムを3号ダンベルでカットし引張り試験を行った。試験結果を表1に示した。
【0084】
(接着性の評価)
(1)初期接着力の評価
接着剤(2)をアルミニウム板に均一に塗布し(膜厚50μm、塗布面積25mm×25mm)、さらに別のアルミニウム板を接着剤表面に圧着し、120℃で1時間、加熱硬化させた。このテストピースを用い剪断接着力を測定した。
【0085】
(2)耐水試験後接着力の評価
(1)で作製したテストピースを80℃温水中に72時間浸漬した。この後、(1)と同様に接着性試験を行った。接着性の試験結果を表1に示した。
【0086】
実施例3
5Lプラネタリーミキサーに「jER 828」(ジャパン エポキシレジン社のビスフェノールA型エポキシ樹脂)400g、「エポリードPB−3600」(ダイセル化学工業社のエポキシ化ブタジエン)600g(エポキシ樹脂/エポキシ化ポリブタジエン=40/60)、「アエロジル380」(日本アエロジル社のシリカ微粒子)10gを仕込み、60分間攪拌を行った。
【0087】
γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(シラン化合物)200g((エポキシ樹脂+エポキシ化ポリブタジエン)/シラン化合物=100/20)を仕込み、均一になるまで攪拌、混合を行った。
【0088】
これに「サンエイド 80L」(三新化学工業製のスルホニウム塩系カチオン硬化触媒)を2phr添加し、さらに30分間攪拌を継続して接着剤(3)を製造した。
【0089】
(接着剤の引張り試験)
接着剤(3)を膜厚が2mmになるようシート状に塗りのばし、120℃で1時間、加熱硬化させた。この硬化接着剤フィルムを3号ダンベルでカットし引張り試験を行った。試験結果を表1に示した。
(接着性の評価)
(1)初期接着力の評価
接着剤(3)をアルミニウム板に均一に塗布し(膜厚50μm、塗布面積25mm×25mm)、さらに別のアルミニウム板を接着剤表面に圧着し、120℃で1時間、加熱硬化させた。このテストピースを用い剪断接着力を測定した。
(2)耐水試験後接着力の評価
(1)で作製したテストピースを80℃温水中に72時間浸漬した。この後、(1)と同様に接着性試験を行った。接着性の試験結果を表1に示した。
【0090】
【表1】

【0091】
比較例1
5Lプラネタリーミキサーに「jER 828」(ジャパン エポキシレジン社のビスフェノールA型エポキシ樹脂)1000g、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(シラン化合物)200g(エポキシ樹脂/シラン化合物=100/20)、「アエロジル380」(日本アエロジル社のシリカ微粒子)20gを仕込み、60分間攪拌を行った。
【0092】
これに「サンエイド 80L」(三新化学工業製のスルホニウム塩系カチオン硬化触媒)を2phr添加し、さらに30分間攪拌を継続してエポキシ化ポリブタジエンが配合されていない接着剤(4)を製造した。
【0093】
(接着剤の引張り試験)
接着剤(4)を膜厚が2mmになるようシート状に塗りのばし、120℃で1時間、加熱硬化させた。この硬化接着剤フィルムを3号ダンベルでカットし引張り試験を行った。試験結果を表2に示した。
【0094】
(接着性の評価)
(1)初期接着力の評価
接着剤(4)をアルミニウム板に均一に塗布し(膜厚50μm、塗布面積25mm×25mm)、さらに別のアルミニウム板を接着剤表面に圧着し、120℃で1時間、加熱したが接着剤は硬化しなかった。
【0095】
比較例2
5Lプラネタリーミキサーに「jER 828」(ジャパン エポキシレジン社のビスフェノールA型エポキシ樹脂)600g、「エポリードPB−3600」(ダイセル化学工業社のエポキシ化ブタジエン)400g(エポキシ樹脂/エポキシ化ポリブタジエン=60/40)、「アエロジル380」(日本アエロジル社のシリカ微粒子)20gを仕込み、60分間攪拌を行った。
【0096】
フェニルトリメトキシシラン200gを仕込み、均一になるまで攪拌、混合を行った。
【0097】
これに「サンエイド 80L」(三新化学工業製のスルホニウム塩系カチオン硬化触媒)を2phr添加し、さらに30分間攪拌を継続して分子中にエポキシ基を有さないシラン化合物が配合された接着剤(5)を製造した。
【0098】
(接着剤の引張り試験)
接着剤(5)を膜厚が2mmになるようシート状に塗りのばし、120℃で1時間、加熱硬化させた。この硬化接着剤フィルムを3号ダンベルでカットし引張り試験を行った。試験結果を表1に示した。
【0099】
(接着性の評価)
(1)初期接着力の評価
接着剤(5)をアルミニウム板に均一に塗布し(膜厚50μm、塗布面積25mm×25mm)、さらに別のアルミニウム板を接着剤表面に圧着し、120℃で1時間、加熱硬化させた。このテストピースを用い剪断接着力を測定した。
【0100】
(2)耐水試験後接着力の評価
(1)で作製したテストピースを80℃温水中に72時間浸漬した。この後、(1)と同様に接着性試験を行った。接着性の試験結果を表2に示した。
【0101】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記構造式で示されるエポキシ化ポリブタジエン、
【化1】

(ただし、a+b+c=1.0かつa+c>bであって、a=0.05〜0.40、b=0.02〜0.30、c=0.20〜0.80、xは10〜250の整数を表す。)
下記構造式で示されるエポキシ樹脂、
【化2】

(ただし、yは0または1〜50の整数を表す。)
下記構造式で示される分子中にエポキシ基とアルコキシシラン基を併有するシラン化合物
【化3】

(ただし、R1、R2は炭素原子数1〜3個のアルキル基、zは1〜3の整数を表す。)
および、カチオン重合開始剤を含む接着剤組成物。
【請求項2】
カチオン重合開始剤が、スルホニウム塩化合物である請求項1に記載の接着剤組成物。

【公開番号】特開2008−133391(P2008−133391A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−321562(P2006−321562)
【出願日】平成18年11月29日(2006.11.29)
【出願人】(000187046)東レ・ファインケミカル株式会社 (153)
【Fターム(参考)】