説明

接着接合構造物及び車両用カバーの製作方法

【課題】接着剤による接着部の熱応力を低減して該熱応力による接着剤の破壊を防止するとともに、接着剤の蓄熱を抑制して接着剤の劣化に伴う接着強度の低下を防止して、接着部を高強度で以って安定して接着可能とし、かつ接着剤の使用量を低減して材料コストを低減するとともに、接着作業工数を低減して作業コストを低減し得る接着接合構造物及び車両用カバーの製作方法を提供する。
【解決手段】複数枚の板材を、接着剤による接着とスポット溶接とを併用するウェルボンド接着法を用いて接着してなる接着接合構造物の製作方法であって、接着剤による接着にあたっては前記複数枚の板材の接着面に前記接着剤を所定のピッチで断続的に塗布して該板材を接着させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用エンジンカバー等の製作に適用され、複数枚の板材をウェルボンド接着法を用いて接着してなる接着接合構造物及び車両用カバーの製作方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用エンジンカバーは、薄板をプレス成形して形成された外板の裏側の適所に板材からなる補強用のリブを固着して形成されている。かかるエンジンカバーを製作するにあたっては、外板とリブとを、たとえば特許文献1(特開平6−55277号公報)にて提供されているような、接着剤による接着とスポット溶接とを併用するウェルボンド接着法を用いて接着する製作方法が近年多く採用されるようになっている。
【0003】
図3は、前記車両用エンジンカバーにおける外板とリブとの接着方法の従来の一例を模式的に示す要部断面図である。図3に示すように、従来は、リブ2の縁部に沿って連続的にエポキシ系接着剤等からなる接着剤3を塗布して外板1とリブ2とを接着することにより、接着部の接着強度を確保したうえで、所要箇所にスポット溶接を施して、該外板にリブを強固に接着している。
【0004】
【特許文献1】特開平6−55277号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
車両用エンジンカバーを、接着剤による接着とスポット溶接とを併用するウェルボンド接着法を用いて鋼板からなる外板1とリブ2とを接着する方法により製作する際において、前記接着剤3に通常用いられているエポキシ系接着剤は、その線膨張係数(7×10−5程度)が鋼板の線膨張係数の6〜7倍と大きいため、該エンジンカバーの使用環境温度の変化によって、該エポキシ系接着剤からなる接着剤3には鋼板製の外板1及びリブ2との間に前記線膨張係数の差による大きな熱応力が発生する。
即ち、前記エンジンカバーの使用環境温度の変化が±40℃で接着長さが700mmとすると、該エポキシ系接着剤からなる接着剤3は7×10−5×700×40=約2mm伸縮するのに対し、鋼板製の外板1及びリブ2は該接着剤3の1/7=約0.3mmの伸縮量となって、前記接着剤3には、かかる伸縮量の差(2mm−0.3mm=1.7mm)に相当する熱応力が発生する。
【0006】
然るに、図3に示される従来技術にあっては、リブ2の縁部に沿って連続的に接着剤3を塗布して外板1とリブ2とを接着しているため、該接着剤3に前記エポキシ系接着剤を用いる場合には、連続的に塗布されている接着剤には接着部の全長に亘って前記のような線膨張係数の差による熱応力が発生して、かかる熱応力により接着剤3が破壊して接着不良が発生し易い。
また、エポキシ系樹脂のような高分子の接着剤は熱拡散性に劣るため、日射負荷、環境温度負荷等の熱負荷を受けると、経時によって蓄熱する傾向があり、かかる蓄熱によって接着剤3の劣化が早まり、接着強度が低下する可能性がある。
さらに、かかる従来技術にあっては、外板1とリブ2とを連続的に接着剤3を塗布して接着しているため、接着剤3の使用量が多くなって該接着剤3の材料コストが高騰するとともに、接着長さが長いため接着作業の工数が増加して作業コストも上昇する。
【0007】
本発明はかかる従来技術の課題に鑑み、接着剤による接着部の熱応力を低減して該熱応力による接着剤の破壊を防止するとともに、接着剤の蓄熱を抑制して接着剤の劣化に伴う接着強度の低下を防止して、接着部を高強度で以って安定して接着可能とし、かつ接着剤の使用量を低減して材料コストを低減するとともに、接着作業工数を低減して作業コストを低減し得る接着接合構造物及び車両用カバーの製作方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明はかかる目的を達成するもので、複数枚の板材を、接着剤による接着とスポット溶接とを併用するウェルボンド接着法を用いて接着してなる接着接合構造物の製作方法であって、接着剤による接着にあたっては前記複数枚の板材の接着面に前記接着剤を所定のピッチで断続的に塗布して該板材を接着させることを特徴とする。
【0009】
かかる発明によれば、複数枚の板材を接着してなる接着接合構造物を接着剤による接着とスポット溶接とを併用するウェルボンド接着法を用いて接着するにあたり、複数枚の板材の接着面に接着剤を所定のピッチで断続的に塗布して前記接着接合構造物の板材同士を接着し、前記接着剤による接着箇所以外の部位にスポット溶接を施して固着するので、接着剤を板材に所定のピッチで断続的に塗布していることから、断続的な接着箇所毎の接着剤と板材との線膨張係数の差による環境温度変化に対する伸縮量が、図3に示される従来技術のような複数枚の板材(外板1とリブ2)に接着剤を連続的に塗布して接着する接着方法に比べて小さくなり、従ってかかる伸縮量に相当する熱応力も前記従来技術に比べて低減できる。
従って、かかる熱応力の低減により、接着箇所において熱応力による接着剤の破壊に伴う接着不良の発生を抑制できる。
また、接着剤による接着箇所以外の部位にはスポット溶接を施して固着することから、前記接着剤による接着箇所を断続的に設けても、該接着剤による接着とスポット溶接との併用により、複数枚の板材の接着性能は安定して保持できる。
【0010】
またかかる発明によれば、前記のように接着剤による接着とスポット溶接との併用により複数枚の板材の接着性能を安定して保持しつつ、接着剤による断続的接着箇所以外の板材同士が接着していない部位には微小な隙間が形成されているため、日射負荷を受けた際における高分子の接着剤側からの熱拡散作用が、図3の従来技術のような複数枚の板材に接着剤を連続的に塗布して接着する接着方法に比べて円滑に行なわれることとなって、経時による接着剤の蓄熱が低減されて接着剤の温度上昇を抑制できる。
これにより、かかる蓄熱及びこれに伴う接着剤の温度上昇による接着剤の劣化及び該接着剤の劣化による接着強度の低下を防止できる。
以上により、かかる発明によれば、環境温度変化及び日射負荷の増加に対応できる接着接合構造物を提供できる。
【0011】
またかかる発明によれば、複数枚の板材を接着剤を所定のピッチで断続的に塗布して接着するので、従来技術のような複数枚の板材に接着剤を連続的に塗布して接着する接着方法に比べて高価な接着剤の使用量を大幅に低減できて該接着剤の材料コストを低減できるとともに、接着長さを短縮できるため接着作業の工数も大幅に低減できて作業コストを低減できる。
【0012】
また、前記製作方法を車両用カバーの製作に適用した発明は、外板の裏側に板材からなるリブを、接着剤による接着とスポット溶接とを併用するウェルボンド接着法を用いて接着してなる車両用カバーの製作方法であって、接着剤による接着にあたっては前記外板あるいはリブの接着面に前記接着剤を所定のピッチで断続的に塗布して該外板とリブとを接着させることを特徴とする。
かかる発明において、具体的には、別個に製作された前記外板の接着面あるいは前記リブの接着面のいずれかに前記接着剤を塗布し、前記外板とリブとを位置決め治具を用いて位置決めして該外板とリブとを接着し、次いで該外板とリブとを前記接着剤による接着箇所以外の部位にスポット溶接を施して固着するのが好ましい。
【0013】
かかる発明によれば、前記発明と同様な作用、効果が得られる。
即ち、かかる発明によれば、車両用カバーの外板とリブとを接着してなる車両用カバーを接着剤による接着とスポット溶接とを併用するウェルボンド接着法を用いて接着するにあたり、前記外板あるいはリブの接着面に接着剤を所定のピッチで断続的に塗布して前記外板とリブとを接着し、前記接着剤による接着箇所以外の部位にスポット溶接を施して固着するので、接着剤を外板あるいはリブに所定のピッチで断続的に塗布していることから、断続的な接着箇所毎の接着剤と外板あるいはリブとの線膨張係数の差による環境温度変化に対する伸縮量が、図3に示される従来技術のような外板とリブに接着剤を連続的に塗布して接着する接着方法に比べて小さくなり、従ってかかる伸縮量に相当する熱応力も前記従来技術に比べて低減できる。
従って、かかる熱応力の低減により、外板とリブとの接着箇所において熱応力による接着剤の破壊に伴う接着不良の発生を抑制できる。
また、接着剤による接着箇所以外の部位にはスポット溶接を施して固着することから、前記接着剤による接着箇所を断続的に設けても、該接着剤による接着とスポット溶接との併用により、外板とリブとの接着性能は安定して保持できる。
【0014】
またかかる発明によれば、前記のように接着剤による接着とスポット溶接との併用により外板とリブとの接着性能を安定して保持しつつ、接着剤による断続的接着箇所以外の外板とリブとが接着していない部位には微小な隙間が形成されているため、日射負荷を受けた際における高分子の接着剤側からの熱拡散作用が、図3の従来技術のような外板とリブとに接着剤を連続的に塗布して接着する接着方法に比べて円滑に行なわれることとなって、経時による接着剤の蓄熱が低減されて接着剤の温度上昇を抑制できる。
これにより、かかる蓄熱及びこれに伴う接着剤の温度上昇による接着剤の劣化及び該接着剤の劣化による接着強度の低下を防止できる。
以上により、かかる発明によれば、環境温度変化及び日射負荷の増加に対応できる車両用カバーを提供できる。
【0015】
またかかる発明によれば、外板とリブとを接着剤を所定のピッチで断続的に塗布して接着するので、従来技術のような外板あるいはリブに接着剤を連続的に塗布して接着する接着方法に比べて高価な接着剤の使用量を大幅に低減できて該接着剤の材料コストを低減できるとともに、接着長さを短縮できるため接着作業の工数も大幅に低減できて作業コストを低減できる。
【0016】
また、以上の発明において、好ましくは、前記外板とリブとの接着部間が直状面の場合における該接着部間のピッチPと各接着部の接着長さLとの接着長さ比(P/L)を、前記接着部間が曲状面の場合における接着長さ比(P/L)よりも大きくして前記外板とリブとを接着する。
このように構成すれば、複数枚の板材の接着部、あるいは外板とリブとの接着部における接着剤の剥離が発生し易い接着部間が曲状面の部分における接着部間のピッチPを、前記剥離が発生し難い直状面の部分のピッチPよりも小さく採り、あるいは前記曲状面の部分における接着長さLを直状面の部分の接着長さLよりも大きく採ることにより、曲状面の部分における接着性を直状面の部分並みに向上できて、複数枚の板材の接着、あるいは外板とリブとの接着を全面均一の接着性能で以って接着できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、接着剤を板材に所定のピッチで断続的に塗布していることから、断続的な接着箇所毎の接着剤と板材との線膨張係数の差による環境温度変化に対する伸縮量が、接着剤を連続的に塗布して接着する接着方法に比べて小さくなり、従ってかかる伸縮量に相当する熱応力も前記従来技術に比べて低減でき、かかる熱応力の低減により、接着箇所において熱応力による接着剤の破壊に伴う接着不良の発生を抑制できる。また、前記接着剤による接着箇所を断続的に設けても、該接着剤による接着と接着箇所以外の部位に施されたスポット溶接との併用により、複数枚の板材の接着性能を安定して保持できる。
また、接着剤による断続的接着箇所以外の板材同士が接着していない部位には微小な隙間が形成されているため、日射負荷を受けた際における高分子の接着剤側からの熱拡散作用が、複数枚の板材に接着剤を連続的に塗布して接着する接着方法に比べて円滑に行なわれることとなって、経時による接着剤の蓄熱が低減されて接着剤の温度上昇を抑制でき、
これにより、かかる蓄熱及びこれに伴う接着剤の温度上昇による接着剤の劣化及び該接着剤の劣化による接着強度の低下を防止できる。
以上により、環境温度変化及び日射負荷の増加に対応できる接着接合構造物を提供できる。
【0018】
また、複数枚の板材を接着剤を所定のピッチで断続的に塗布して接着するので、従来技術のような複数枚の板材に接着剤を連続的に塗布して接着する接着方法に比べて高価な接着剤の使用量を大幅に低減できて該接着剤の材料コストを低減できるとともに、接着長さを短縮できるため接着作業の工数も大幅に低減できて作業コストを低減できる。
【0019】
また、本発明によれば、前記製作方法を車両用カバーの製作に適用することにより、前記と同様な作用効果が得られる。
即ち本発明によれば、接着剤を車両用カバーの外板あるいはリブに所定のピッチで断続的に塗布していることから、断続的な接着箇所毎の接着剤と外板あるいはリブとの線膨張係数の差による環境温度変化に対する伸縮量が、接着剤を連続的に塗布して接着する接着方法に比べて小さくなり、従ってかかる伸縮量に相当する熱応力も前記従来技術に比べて低減でき、かかる熱応力の低減により、外板とリブとの接着箇所において熱応力による接着剤の破壊に伴う接着不良の発生を抑制できる。また、前記接着剤による接着箇所を断続的に設けても、該接着剤による接着と接着箇所以外の部位に施されたスポット溶接との併用により、外板とリブとの接着性能を安定して保持できる。
また、接着剤による断続的接着箇所以外の外板とリブとが接着していない部位には微小な隙間が形成されているため、日射負荷を受けた際における高分子の接着剤側からの熱拡散作用が、外板とリブとに接着剤を連続的に塗布して接着する接着方法に比べて円滑に行なわれることとなって、経時による接着剤の蓄熱が低減されて接着剤の温度上昇を抑制でき、これにより、かかる蓄熱及びこれに伴う接着剤の温度上昇による接着剤の劣化及び該接着剤の劣化による接着強度の低下を防止できる。
以上により、環境温度変化及び日射負荷の増加に対応できる車両用カバーを提供できる。
【0020】
また、外板あるいはリブに接着剤を所定のピッチで断続的に塗布して接着するので、従来技術のような外板あるいはリブに接着剤を連続的に塗布して接着する接着方法に比べて高価な接着剤の使用量を大幅に低減できて該接着剤の材料コストを低減できるとともに、接着長さを短縮できるため接着作業の工数も大幅に低減できて作業コストを低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を図に示した実施例を用いて詳細に説明する。但し、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは特に特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0022】
図1は本発明の実施例に係る車両用エンジンカバーにおける外板とリブとの接着部を模式的に示す要部断面図(図2のA−A線に沿う模式的断面図)、図2は前記実施例における車両用エンジンカバーの全体斜視図(接着剤は実線で表示)である。
図2において、100はエンジンカバー、該エンジンカバー100は薄鋼板からなる外板1の裏側に鋼板からなる複数(この例では3個)の板状のリブ2(2a,2b,2c)を固着して構成される。前記外板1は薄鋼板を所定の形状にプレス成形して形成され、その裏側の3箇所にリブ2a,2b,2cが後述するような接着剤3による接着とスポット溶接4とを併用するウェルボンド接着法を用いて接着される。
【0023】
図1に示されるように、前記外板1と該外板1の裏側に固着される3個のリブ2(2a,2b,2c)とは、該外板1あるいはリブ2(2a,2b,2c)の接着面の複数箇所に、前記接着剤3を接着長さL、ピッチPで以って断続的に塗布して、該外板1とリブ2(2a,2b,2c)とを接着させている。前記接着剤3はエポキシ系接着剤が好適であるが、これとどうような性質をそなえた接着剤であればよい。
そして、かかる接着剤3による接着部の接着強度を確保したうえで、複数の接着箇所の間の複数箇所にスポット溶接4を施して、該外板1にリブ2(2a,2b,2c)を強固に接着している。
【0024】
また、前記外板1とリブ2(2a,2b,2c)との接着については、接着部間のピッチPと各接着部の接着長さLとの関係を、図2の1a部のように、接着部間が直状面の場合における前記ピッチPと前記接着長さLとの接着長さ比(P/L)を、図2の1b部のように前記接着部間が曲状面の場合における接着長さ比(P/L)よりも大きく採っている。
このように構成することにより、複数外板1と複数のリブリブ2(2a,2b,2c)との接着部における接着剤3の剥離が発生し易い接着部間が曲状面の部分1bにおける接着部間のピッチPを、前記剥離が発生し難い直状面の部分1aのピッチPよりも小さく採り、あるいは前記曲状面の部分1bにおける接着長さLを直状面の部分1aの接着長さLよりも大きく採ることにより、曲状面の部分1bにおける接着性を直状面の部分1a並みに向上できて、外板1とリブ2(2a,2b,2c)との接着を全面均一の接着性能で以って接着できる。
【0025】
次に、かかる実施例における車両用エンジンカバーの製造手順について説明する。
(1)前記外板1とリブ2(2a,2b,2c)とを別個に製作する。
(2)別個に製作された前記外板1の接着面あるいは前記リブ2(2a,2b,2c)の接着面のいずれかに接着剤3を塗布する。
(3)前記外板1とリブ2(2a,2b,2c)とを位置決め治具を用いて、所要の配置に位置決めし、該外板1とリブ2(2a,2b,2c)とを接着する。
(4)該外板1とリブ2(2a,2b,2c)とを、前記接着剤3による接着箇所以外の部位にスポット溶接4を施して固着する。
(5)エンジンカバー100の全面に塗装を施してから、乾燥する。
【0026】
かかる実施例によれば、車両用のエンジンカバー100の外板1とリブ2とを接着してなるエンジンカバー100を接着剤3による接着とスポット溶接4とを併用するウェルボンド接着法を用いて接着するにあたり、前記外板1あるいはリブ2の接着面に接着剤3を所定のピッチで断続的に塗布して前記外板1とリブ2とを接着し、前記接着剤3による接着箇所以外の部位にスポット溶接4を施して固着するので、接着剤3を外板1あるいはリブ2に所定のピッチPで断続的に塗布していることから、断続的な接着箇所毎の接着剤3と外板1あるいはリブ2との線膨張係数の差による環境温度変化に対する伸縮量が、図3に示される従来技術のような外板1とリブ2に接着剤3を連続的に塗布して接着する接着方法に比べて小さくなり、従ってかかる伸縮量に相当する熱応力も前記従来技術に比べて低減できる。
従って、前記熱応力の低減により、外板1とリブ2との接着箇所において熱応力による接着剤の破壊に伴う接着不良の発生を抑制できる。
また、接着剤3による接着箇所以外の部位にはスポット溶接4を施して固着することから、前記接着剤3による接着箇所を断続的に設けても、該接着剤3による接着とスポット溶接4との併用により、外板1とリブ2との接着性能は安定して保持できる。
【0027】
またかかる実施例によれば、前記のように接着剤3による接着とスポット溶接4との併用により外板1とリブ2との接着性能を安定して保持できる一方で、該接着剤3による断続的接着箇所以外の、外板1とリブ2とが接着していない部位には微小な隙間が形成されているため、日射負荷を受けた際における高分子の接着剤3側からの熱拡散作用が、図3の従来技術のような外板1とリブ2とに接着剤を連続的に塗布して接着する接着方法に比べて円滑に行なわれることとなって、経時による接着剤3の蓄熱が低減されて接着剤の温度上昇を抑制できる。
これにより、かかる蓄熱及びこれに伴う接着剤の温度上昇による接着剤の劣化及び該接着剤の劣化による接着強度の低下を防止できる。
以上により、かかる実施例によれば、環境温度変化及び日射負荷の増加に対応できるエンジンカバー100を提供できる。
【0028】
またかかる実施例によれば、外板とリブとを、接着剤3を所定のピッチPで断続的に塗布して接着するので、従来技術のような外板1あるいはリブ2に接着剤を連続的に塗布して接着する接着方法に比べて、高価な接着剤3の使用量を大幅に低減できて該接着剤3の材料コストを低減できるとともに、接着長さLを短縮できるため、接着作業の工数も大幅に低減できて作業コストを低減できる。
【0029】
さらに、本発明はこの実施例における車両用エンジンカバーに限らず、複数枚の板材を、接着剤による接着とスポット溶接とを併用するウェルボンド接着法を用いて接着する接着接合構造物の製作に広く適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明によれば、接着剤による接着部の熱応力を低減して該熱応力による接着剤の破壊を防止するとともに、接着剤の蓄熱を抑制して接着剤の劣化に伴う接着強度の低下を防止して、接着部を高強度で以って安定して接着可能とし、かつ接着剤の使用量を低減して材料コストを低減するとともに、接着作業工数を低減して作業コストを低減し得る接着接合構造物及び車両用カバーの製作方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施例に係る車両用エンジンカバーにおける外板とリブとの接着部を模式的に示す要部断面図(図2のA−A線に沿う模式的断面図)である。
【図2】前記実施例における車両用エンジンカバーの全体斜視図(接着剤は実線で表示)である。
【図3】従来技術を示す図1対応図である。
【符号の説明】
【0032】
100 エンジンカバー
1 外板
2(2a,2b,2c) リブ
3 接着剤
4 スポット溶接
L 接着長さ
P 接着部間のピッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚の板材を、接着剤による接着とスポット溶接とを併用するウェルボンド接着法を用いて接着してなる接着接合構造物の製作方法であって、接着剤による接着にあたっては前記複数枚の板材の接着面に前記接着剤を所定のピッチで断続的に塗布して該板材を接着させることを特徴とする接着接合構造物の製作方法。
【請求項2】
外板の裏側に板材からなるリブを、接着剤による接着とスポット溶接とを併用するウェルボンド接着法を用いて接着してなる車両用カバーの製作方法であって、接着剤による接着にあたっては前記外板あるいはリブの接着面に前記接着剤を所定のピッチで断続的に塗布して該外板とリブとを接着させることを特徴とする車両用カバーの製作方法。
【請求項3】
別個に製作された前記外板の接着面あるいは前記リブの接着面のいずれかに前記接着剤を塗布し、前記外板とリブとを位置決め治具を用いて位置決めして該外板とリブとを接着し、次いで該外板とリブとを前記接着剤による接着箇所以外の部位にスポット溶接を施して固着することを特徴とする請求項2記載の車両用カバーの製作方法。
【請求項4】
前記外板とリブとの接着部間が直状面の場合における該接着部間のピッチPと各接着部の接着長さLとの接着長さ比(P/L)を、前記接着部間が曲状面の場合における接着長さ比(P/L)よりも大きくして前記外板とリブとを接着することを特徴とする請求項2または3のいずれかに記載の車両用カバーの製作方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−43985(P2008−43985A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−223051(P2006−223051)
【出願日】平成18年8月18日(2006.8.18)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】