説明

接続材料及びその製造方法、並びにそれを用いた半導体装置

【課題】濡れ性、及び接続性の良い接続材料及びその製造方法、並びにそれを用いた半導体装置を提供する。
【解決手段】接続材料100は、Zn101と、Zn101の周囲に積層された複数の金属層102,103とを備えた部材からなり、部材最表面の表面積の80%以上を金属M(Au、Ag、Cu、Ni、Pt、Pd)103によって被覆するように形成されている。接続材料100の溶融後において、2wt%以上9wt%以下のAl102と、0wt%超10wt%以下の金属M103と、残部Zn101とからなる組成を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接続材料及びその製造方法、並びにそれを用いた半導体装置に係り、特に、高耐熱接続材料であるZn−Al系合金を用いて接続したときの濡れ、及び接続の信頼性の向上を図った接続材料及びその製造方法、並びにそれを用いた半導体装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
はんだ材料としては、鉛(Pb)系はんだ材料が広く知られている。しかしながら、鉛は人体への有害性が指摘されていることから、電機・電子機器中の鉛使用を禁止するRoHS(Restriction of the use of certain Hazardous Substances electrical and electronic equipment)指令の施行等で鉛の使用規制が拡大している。その代替材料の一例としては、Zn−Al(亜鉛−アルミニウム)系はんだ材料がある。
【0003】
この種のZn−Al系はんだ材料としては、Zn−Al合金にMg(マグネシウム)及びGa(ガリウム)を添加したはんだ材料(特許文献1参照)、Zn−Al合金にMg及びGe(ゲルマニウム)を添加したはんだ材料(特許文献2参照)、Zn−Al合金に銅(Cu)、金(Au)、錫(Sn)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)などを添加したはんだ材料(特許文献3参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−358539号公報
【特許文献2】特開2004−358540号公報
【特許文献3】特開2009−125753号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1及び2に記載された従来のはんだ材料では、Alに加えてMgを成分に含むため、接続時の加熱によりAl酸化物及びMg酸化物が溶融部表面に膜を生成する。この膜が濡れを阻害するため、スクラブ等により機械的に膜を破らない限り、濡れ性が十分に得られない可能性がある。
【0006】
上記特許文献3記載の従来のはんだ材料では、ZnとCuの拡散が早い。そのため、内部のZnが被覆層となるCuと接触していると、接続時の昇温においてCuとZnの拡散が進行することで被覆層Cuが消失し、酸化しやすいZnがはんだ材料の最表面に露出する。そして、酸化が進行して接合性を悪化させる。
【0007】
上記特許文献1〜3記載の従来のZn−Al系はんだ材料は、Zn−Al系合金にAlが含有されることに伴い、酸化により十分な濡れ性を確保できないこと、ZnとCuは拡散が早いために酸化防止のための被覆が消失することなどの問題を有している。
【0008】
そこで、本発明の目的は、濡れ性、及び接続性の良い接続材料及びその製造方法、並びにそれを用いた半導体装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本件発明者等は、接続材料の濡れ性、及び接続性の向上について熱意検討を行った結果、下記の本発明[1]〜[6]を採用することにより、上記目的が達成できることを見いだした。
【0010】
[1]即ち、本発明は、Znと、前記Znの周囲に積層された複数の金属層と、を備えた部材からなり、前記部材の最表面の表面積の80%以上を金属M(Au、Ag、Cu、Ni、Pt、Pd)によって被覆するように構成されており、前記部材の溶融後において、2wt%以上9wt%以下のAlと、0wt%超10wt%以下の金属M(Au、Ag、Cu、Ni、Pt、Pd)と、残部Znとからなる組成を有するZn−Al−M系合金で構成されることを特徴とする接続材料にある。
【0011】
[2]上記[1]記載の発明にあって、前記部材は、Alで被覆されたZnからなるZn系合金の周囲に前記金属Mが被覆されていることが好適である。
【0012】
[3]上記[1]記載の発明にあって、前記部材は、線状からなるZnと、前記Znの周囲を被覆するAl系金属層と、前記Al系金属層の周囲を被覆するM系金属層とからなることが好適である。
【0013】
[4]本発明は更に、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の接続材料の製造方法であって、Znの周囲にスパッタリングあるいは蒸着によってAl系金属層を形成する工程と、前記Al系金属層の周囲にスパッタリングあるいは蒸着によって金属M(Au、Ag、Cu、Ni、Pt、Pd)からなるM系金属層を形成する工程と、を含むことを特徴とする接続材料の製造方法が提供される。
【0014】
[5]本発明は更に、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の接続材料の製造方法であって、Al及び金属M(Au、Ag、Cu、Ni、Pt、Pd)を積層し、圧延して中間材を形成する工程と、前記中間材を線状からなるZnの周囲に巻き付けて線引きする工程と、を含むことを特徴とする接続材料の製造方法が提供される。
【0015】
[6]本発明は更に、フレームと、前記フレーム上に設けられた半導体素子と、前記フレームと前記半導体素子との間に設けられた上記[1]〜[3]のいずれかに記載の接続材料とを備えることを特徴とする半導体装置にある。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、濡れ性、及び接続性の良い接続材料及びその製造方法、並びにそれを用いた半導体装置が効果的に得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る典型的な実施の形態である接続材料を模式的に示す横断面図である。
【図2A】本発明に係る接続材料の製造方法を模式的に示す図であって、Zn材をスパッタリングあるいは蒸着で被覆する工程を示す図である。
【図2B】図2Aの工程により製造された中間材を示す図である。
【図2C】図2Bの中間材をスパッタリングあるいは蒸着で被覆する工程を示す図である。
【図3A】本発明に係る接続材料の他の製造方法を概略的に示す図であって、クラッド工程を示す図である。
【図3B】図3Aの工程により製造された中間材を示す図である。
【図3C】図3Bの中間材をZn材の周囲に巻き付ける工程を示す図である。
【図3D】図3Bの工程の次の線引き工程を示す図である。
【図4】本発明に係る接続材料を用いた半導体装置への適用例を示す図である。
【図5】従来の半導体装置において、再溶融したはんだによるフラッシュを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面に基づいて具体的に説明する。
【0019】
(接続材料の組成成分)
図1において、全体を示す符号100は、高耐熱接続材料(以下、「接続材料」という。)の一例を例示している。この接続材料100の基本の構成は、ZnあるいはZn合金の線材からなるZn系合金(以下、「Zn材」という。)101と、Zn材101の周囲にAlあるいはAl合金で被覆されたAl系金属層(以下、「Al層」という。)102と、Al層102の周囲に金属Mで被覆されたM系金属層(以下、「金属M層」という。)103との三層構造により線状に形成されている。
【0020】
ここで、金属Mとは、Au、Ag、Cu、Ni、Pt、又はPdからなる元素群の中から選択される1種以上の添加元素をいう。なお、この実施の形態では、接続材料100の外観形態を線状としているが、これに限定されるものではなく、例えば棒状やシート状などの各種形態も採用することができる。
【0021】
この接続材料100は、各種の電気・電子機器に好適に用いられるはんだ材料となる。溶融前の接続材料100としては、線材の最表面がAlを含まない金属Mであり、少なくとも線材の表面積の80%以上が金属Mで被覆されていることが好適である。つまり、接続材料100を溶融する前の金属Mの線材最表面への露出面積は、線材最表面の表面積の80%以上であることが好ましい。このような接続材料100を溶融させた後の組成は、Al:2〜9wt%、金属M:0wt%超10wt%以下、残部がZnであるZn−Al−M系合金となることが好適である。
【0022】
溶融前の接続材料100の最表面がAlを含有しない金属Mにより被覆される被覆率が、少なくとも表面積の80%以上であることを規定したのは、この被覆率が低いと、Alが接続材料100の表面に露出する割合が多くなるためである。つまり、接続材料100の最表面にAlが存在していると、その表面の酸化が進行することで濡れ性が悪くなるためであり、接続材料100の最表面に金属Mによる被覆が不足していると、酸化防止の効果を十分に発揮できないためである。
【0023】
接続材料100の溶融後にAlを2〜9wt%含むZn−Al系合金に規定したのは、Zn−Al系合金が共晶組成であることが好ましいためである。ZnとCuの拡散と比べて、拡散が遅いAlとCuの組み合わせを用い、ZnとCuとの間にAlを介在させることで、接続材料100の溶融後に、Znが接続材料100の表面に露出することを防止することができる。それに加えて、接続材料100が融点に到達したときにZnとAlとの間の界面が共晶反応を起こして液体となるので、その際に溶融させることができる。従って、接続材料100の溶融後にAlを3〜8wt%程度含むことが更に好ましい。
【0024】
Alの密度は2.7g/cmであるから、Zn材101の外径を1としたときのAl層102の厚さ比は、1/80〜1/15であることが好ましい。更に好ましくは、Al層102の厚さ比が1/55〜1/18であることが望ましい。
【0025】
金属Mの含有量を0wt%超10wt%以下に規定したのは、Au、Ag、Cu、Ni、Pt、又はPdからなる元素を多く含むと、融点の上昇とコストの増加とを招くためである。従って、金属Mの含有量としては、0wt%超5wt%以下であることが更に好ましい。
【0026】
Auの密度は19.26g/cm、Agの密度は10.5g/cm、Cuの密度は8.92g/cm、Niの密度は8.9g/cm、Ptの密度は21.45g/cm、Pdの密度は12.16g/cmであるから、Zn材101の外径を1としたときの金属M層103の厚さ比は、Auが1/55以下、Agが1/50以下、Cuが1/45以下、Niが1/45以下、Ptが1/100以下、Pdが1/55であることが好ましい。更に好ましくは、Agの厚さ比が1/100以下、Cuの厚さ比が1/90以下、Niの厚さ比が1/90以下、Ptの厚さ比が1/200以下、Pdの厚さ比が1/110以下であることが望ましい。
【0027】
(接続材料の製造方法)
上記のように構成された接続材料100は、図2A〜図2Cに示す第1の製造方法、あるいは図3A〜図3Dに示す第2の製造方法により効果的に得られる。この製造方法により線径5μm以上の接続材料100を製造することが可能であり、ダイボンディングの部品接続に用いる場合には、接続材料100の線径が80〜450μmであることが好ましい。
【0028】
この第1の製造方法は、図2A〜図2Cに示すように、Zn材101の周囲にスパッタリングあるいは蒸着によってAl層102を形成する工程と、Zn材101とAl層102とからなる中間材104の周囲にスパッタリングあるいは蒸着によって金属M層103を形成する工程とを有している。
【0029】
この接続材料100を製造するにあたっては、先ず、Zn材101の周囲にスパッタリングあるいは蒸着によってAlを供給することによって、Zn材101とAl層102とからなる中間材104を得る(図2A及び図2B参照)。次に、中間材104の周囲に金属M層103のスパッタリングあるいは蒸着を行う(図2C参照)。これにより、図1に示すように、Au、Ag、Cu、Ni、Pt、又はPdからなる元素群の中から選択される1種以上の添加元素で被覆された内部がAl系合金で被覆されたZn系合金の線材である接続材料100が得られる。
【0030】
この第2の製造方法は、図3A〜図3Dに示すように、Al層102及び金属M層103をクラッド圧延して中間材105を形成する工程と、Zn材101の周囲に中間材105を巻き付ける工程と、Zn材101と中間材105とを線引きする工程とを有している。
【0031】
この接続材料100を製造するにあたっては、先ず、Al層102となるAl金属条の片面に金属M層103となる金属M条を重ね合わせて、一対のローラ1,1を用いてクラッド圧延することで中間材105を得る(図3A及び図3B参照)。次に、この中間材105をZn材101の周囲に被覆するように巻き付けることで被覆材106を得る(図3C参照)。次に、線引き治具2を用いて被覆材106を線引きすることでZn材101と一体化させる(図3D参照)。これにより、図1に示す接続材料100が得られる。
【0032】
この第2の製造方法によれば、Al層102となるAl金属条と金属M層103となる金属M条とをクラッド圧延で接合して作製した中間材105をZnの外周に巻いて線引きを行うので、量産性に優れており、しかも伸線により金属の新生面同士の金属同士で接合するので、密着性がよい。
【0033】
一方、第1の製造方法のようなスパッタリングや蒸着による中間材104の作製によると、Zn材101に対する密着性は優れる。しかしながら、成長速度が遅いため、数μmという次元で必要なAl層102の作製には時間がかかり、量産性が悪くなる場合がある。また、めっきによる中間材104の作製によると、厚さの形成に対しては優れる。しかしながら、アンカー効果による密着のため、例えばCuとZnの密着性に劣る場合がある。しかしながら、いずれの欠点も接続性を大幅に悪化させるものではない。
【0034】
接続材料100を製造するには、例えばスパッタリング、蒸着、めっき、線引きやクラッド圧延等の各種工程を組み合わせることが可能であり、その他の類推される製造方法にあっても、接続材料100を効果的に製造することができる。ただし、めっきは様々な方法で行うことができるが、溶融めっきは、この実施の形態に用いることは好ましくない。これは、接続材料100の中心部となるZn材101の融点が約420℃であり、Zn材101に接するAl層102の融点は約660℃であることから、Zn材が溶融してしまうからである。
【実施例】
【0035】
以下に、図4、図5、表1及び表2を参照しながら、本発明の更に具体的な実施の形態として、実施例及び比較例を挙げて詳細に説明する。なお、この実施例では、上記実施の形態の典型的な一例を挙げており、本発明は、この実施例に限定されるものではないことは勿論である。
【0036】
実施例1〜36、及び比較例1〜13の接続材料を試作材として、図3A〜図3Dに示す上記第2の製造方法により製造し、得られた試作材について、濡れ性試験と接続性試験とを実施して比較を行った。
【0037】
なお、実施例1、2、4〜6、8〜18、20〜24、及び26〜36では、試作材最表面の100%を金属Mで被覆されるように線引きして、金属Mの被覆率Cが100%となる試作材とし、比較例8及び9においても、金属Mの被覆率Cが100%となる試作材とした。実施例3、7、19、及び25においては、試作材最表面の80%を金属Mで被覆されるように線引きして、金属Mの被覆率Cが80%となる試作材とし、比較例10〜13では、試作材最表面の40%を金属Mで被覆されるように線引きして、金属Mの被覆率Cが40%となる試作材とした。
【0038】
下記の表1に、実施例1〜36、及び比較例1〜13のそれぞれの試作材における組成成分、金属M層及びAl層の層厚、Zn材の外径、Al/Zn厚さ比、金属Mが線材最表面を被覆した割合(被覆率)C、溶融後のZn、Al及び金属M(Au、Ag、Cu、Ni、Pt、Pd)の含有量の測定結果をまとめて示す。なお、下記表1に示す「X」は溶融後のAlの含有量を、「Y」は溶融後の金属Mの含有量をそれぞれ示しており、接続材料における溶融後の組成は、Zn−Xwt%Al−Ywt%Mとなることを表している。
【0039】
下記の表2に、実施例1〜36、及び比較例1〜13の試作材における濡れ性試験、及び接続性試験の評価結果をまとめて示す。
【0040】
(濡れ性試験)
この濡れ性試験については、実施例1〜36、及び比較例1〜13のそれぞれの試作材をCu/Ni/Au基板上に設置し、加熱温度:400℃、保持時間:3分、雰囲気:Nの条件下で、試作材を加熱したときの濡れ広がりを調べたものである。
【0041】
試作材が基板上に濡れ広がることが、接続材料としての必要条件である。試作材が基板上に濡れ広がった場合には、試作材の溶融した面積が当初の固体の状態における面積よりも大きくなる。試作材が基板上に濡れ広がらなかった場合は、試作材の溶融した面積が当初の固体の状態における面積よりも小さくなる。下記の表2において、基板上に試作材が濡れ広がった場合を合格とし、○印で表した。基板上に試作材が濡れ広がらなかった場合を不合格とし、×印で表した。
【0042】
(接続性試験)
この接続性試験については、実施例1〜36のそれぞれの試作材を用いて、半導体素子のダイボンディングを行い、試作材の接続性を評価した。
【0043】
半導体素子11を備えた半導体装置10は、図4に示すように、試作材を介して半導体素子11を接続するフレーム12と、一端が外部端子となるリード13と、リード13の他端と半導体素子11の電極とを接続するワイヤ14と、半導体素子11及びワイヤ14を樹脂封止する封止用レジン15とを備えている。半導体素子11とフレーム12とは、実施例1〜36に係る試作材である接続材料(以下、「はんだ材料」ともいう。)100で接続されている。
【0044】
一方、比較例1〜13にあっても、それぞれの試作材を用いて、図5に示すように、半導体素子11のダイボンディングを行い、試作材の接続性を評価した。半導体素子11とフレーム12とは、比較例1〜13に係る試作材であるはんだ材料200で接続されている。
【0045】
以上のように構成された半導体装置10は、半導体素子11とフレーム12とをはんだ材料100、又ははんだ材料200を介して接続した後、半導体素子11とリード13との間をワイヤ14でワイヤボンディングし、180℃で封止用レジン15あるいは不活性ガスにより封止することで製造される。製造した半導体装置10について、超音波探傷試験により、はんだ接続部となるはんだ材料100,200のボイド面積率を測定した。
【0046】
ここで、ボイド面積率とは、超音波探傷で空隙が見られた部分をボイドとし、はんだ材料100,200の平面方向から測定したときの全面積に対するボイドの割合である。ボイド面積率は、(ボイド面積÷全面積)×100で定義される。
【0047】
はんだ接続部の接続性は、半導体装置10が一定の信頼性を得るための一般的な基準である。下記の表2において、はんだ接続部となるはんだ材料100,200の層のボイド率が10%以下となり、正常に半導体素子11が動作した場合には合格とし、○印で表した。それ以外を不合格とし、×印で表した。なお、ボイド率が10%を超えると、温度サイクル試験により、ボイド周辺から優先的にクラックが進展し、早期に接続信頼性が低下するなどの問題がある。従って、ボイド率を少なくすることで、長期間にわたって接続信頼性を確保することができるようになる。
【0048】
[実施例1〜36]
(評価結果)
下記表1及び表2から明らかなように、実施例1〜36に係る試作材においては、試作材の溶融前の組成成分、金属M層及びAl層の層厚、Zn材の外径、Al/Zn厚さ比、金属Mの被覆率C、試作材の溶融後のZn、Al及び金属Mの含有量の全ての条件を満たしており、良好な濡れ性と接続性とが得られた。
【0049】
実施例1〜36の試作材に、例えば不純物元素としてMnを含む場合は、融点の低下は僅かしかないにも関わらず、はんだ材料100の層の硬さを硬くする効果があり、半導体素子11が割れる要因になる。ただし、実施例1〜36の試作材にGa、Ge、Mg、Sn、Cuなどの添加元素である金属Mを10wt%以下含有する場合には、融点を下げる効果が得られる。この場合は、半導体素子11が割れにくくなるので、はんだ材料100の最表面層ではないZn材101、又はAl層102に混入してもよい。
【0050】
以上より、Zn−Al−M系合金を用いて接続したときの濡れ性及び接続性が良い高耐熱接続材であって、間着材を必要としない加工性の良い接続材料が得られ、高放熱性が要求されるパワー半導体装置、及びパワーモジュール等への適用が可能になるということが分かった。
【0051】
[比較例1〜13]
(評価結果)
下記表1及び表2から明らかなように、試作材の溶融前の組成成分、金属M層及びAl層の層厚、Zn材の外径、Al/Zn厚さ比、金属Mの被覆率C、試作材の溶融後のZn、Al及び金属Mの含有量のうち、少なくとも一つの条件が上記規定範囲から逸脱しており、比較例1〜13の試作材における濡れ性、及び接続性に良好な結果が得られなかった。特に、少なくとも試作材の溶融前の金属Mの被覆率C、試作材の溶融後のZn、Al及び金属Mの含有量が上記規定範囲を満たしていなければ、初期の目的とする濡れ性、及び接続性に良好な接続材料を得ることは困難であるということが理解できる。
【0052】
比較例1〜7の試作材では、金属Mを添加していないので、酸化しやすいZnがはんだ材料200の最表面に露出し、酸化防止の効果が得られなかった。その結果、酸化が進行して試作材の接続性が悪かった。
【0053】
比較例8及び9の試作材では、金属Mにおけるはんだ材料200の最表面に占める被覆率Cが100%であり、その規定範囲を満たしているが、Al/Zn厚さ比と、溶融後のAl含有量及びCu含有量とが規定範囲から大幅に外れている。一方、比較例10〜13の試作材では、金属Mにおけるはんだ材料200の最表面に占める被覆率Cが、80%以上の規定範囲から大幅に外れている。溶融後のはんだ材料200の最表面の層がAlであるか、もしくはAlの露出の割合が多くなり、Alが強固な酸化皮膜を形成し、はんだ材料200の溶融時に残存している酸化皮膜が濡れを阻害したと考えられる。
【0054】
半導体素子11とフレーム12とをはんだ材料200を介して接続したときには、濡れ性が悪化し、Alの酸化皮膜を巻き込むことで、図5に示す多量のボイド201が発生したと考えられる。はんだ材料200の接続部周りが封止用レジン15でモールドされている場合は、はんだ溶融時の体積膨張により、はんだ材料200が封止用レジン15とフレーム12との間の界面から漏れ出すフラッシュと呼ばれる現象が起こり得る。はんだ材料200が漏れ出さないまでも、漏れ出そうと作用する。その結果、はんだ材料200の凝固後に、はんだ材料200中に大きなボイド201が形成されて不良品になったと考えられる。
【0055】
以上、本発明の実施の形態及び実施例を説明したが、上記実施の形態及び実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。上記実施の形態及び実施例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【0056】
【表1】

【0057】
【表2】

【符号の説明】
【0058】
1 ローラ
2 線引き治具
10 半導体装置
11 半導体素子
12 フレーム
13 リード
14 ワイヤ
15 封止用レジン
100,200 接続材料
101 Zn材
102 Al層
103 金属M層
104,105 中間材
106 被覆材
201 ボイド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Znと、前記Znの周囲に積層された複数の金属層と、を備えた部材からなり、
前記部材の最表面の表面積の80%以上を金属M(Au、Ag、Cu、Ni、Pt、Pd)によって被覆するように構成されており、
前記部材の溶融後において、2wt%以上9wt%以下のAlと、0wt%超10wt%以下の金属M(Au、Ag、Cu、Ni、Pt、Pd)と、残部Znとからなる組成を有するZn−Al−M系合金で構成されることを特徴とする接続材料。
【請求項2】
前記部材は、Alで被覆されたZnからなるZn系合金の周囲に前記金属Mが被覆されている請求項1記載の接続材料。
【請求項3】
前記部材は、線状からなるZnと、前記Znの周囲を被覆するAl系金属層と、前記Al系金属層の周囲を被覆するM系金属層とからなる請求項1記載の接続材料。
【請求項4】
上記請求項1〜3のいずれかに記載の接続材料の製造方法であって、
Znの周囲にスパッタリングあるいは蒸着によってAl系金属層を形成する工程と、
前記Al系金属層の周囲にスパッタリングあるいは蒸着によって金属M(Au、Ag、Cu、Ni、Pt、Pd)からなるM系金属層を形成する工程と、を含むことを特徴とする接続材料の製造方法。
【請求項5】
上記請求項1〜3のいずれかに記載の接続材料の製造方法であって、
Al及び金属M(Au、Ag、Cu、Ni、Pt、Pd)を積層し、圧延して中間材を形成する工程と、
前記中間材を線状からなるZnの周囲に巻き付けて線引きする工程と、
を含むことを特徴とする接続材料の製造方法。
【請求項6】
フレームと、前記フレーム上に設けられた半導体素子と、前記フレームと前記半導体素子との間に設けられた上記請求項1〜3のいずれかに記載の接続材料とを備えることを特徴とする半導体装置。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−161821(P2012−161821A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−25149(P2011−25149)
【出願日】平成23年2月8日(2011.2.8)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】