説明

接触子および接触子の製造方法

【課題】アスペクト比、ストローク量、接触面積、形成容易性その他の性能を向上させることができる接触子および接触子の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の接触子1においては、ばね部3として、一体化ビーム基材6Bに2個のバイメタル膜7A、7Bをその湾曲方向が反対になるように配置することによりそれら各上端面5Aa〜5Daが電極パッド50aと平行になるように形成されたビーム部5A〜5Dが4個形成されている。このビーム部5A〜5Dは、2個のビーム基材6A1、6A2の各表面に同一のバイメタル膜7A、7Bを1個ずつ形成し、一方のビーム基材6A2を反転させて2個のビーム基材6A1、6A2の各端部を結合することにより形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接触子および接触子の製造方法に係り、特に、アレイ配置が容易な垂直伸縮型接触子(プローブ)に好適に利用できる接触子および接触子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、プローブカードにおいてはプローブと称される接触子が用いられている。昨今の接触子のピッチ間距離は益々狭まっているため、現在の接触子に対しては、接触子の全幅に対してその高さが高いこと、言い換えると、高アスペクト比が求められている。
【0003】
従来の接触子の製造方法としては、種々の方法が挙げられる。その一例として、図18に示すように、水平型カンチレバー部102を外力により1個ずつ引き起こすことにより接触子101を製造する方法や(特許文献1を参照)、図19および図20の順に示すように、フォトレジストの露光および現像により三次元的にレジストめっき型112を形成し、めっき型112の内部に例えば立体らせん状の接触子111をめっき形成した後、レジストめっき型112を除去する接触子111の製造方法(特許文献2を参照)などがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−97617号公報
【特許文献2】特開2008−53034号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の接触子においては、以下に示す問題点があった。
【0006】
例えば、図18に示すように、水平型カンチレバー部102を外力により1個ずつ引き起こして製造された接触子101においては、その第1の問題点として、外力による引き起こし量に比例して接触子101の高さが決定されるため、引き起こし量を一定にしてすべての接触子101の高さを一致させることが極めて困難であるという問題があった。すべての接触子101の高さが一致していないと、ウェハテストされるチップ150のすべての電極パッド(接触対象)150aにすべての接触子101を均一の弾性力(接触力)で接触させることができなくなり、接触力の弱い電極パッド150aと接触子101との間の接触抵抗が増大する原因となってしまう。この接触抵抗の増大現象は、接触子101の高さの差が大きくなるほど顕著に現れるという問題があった。
【0007】
また、上記の接触子101においては、その第2の問題点として、図18に示すように、接触対象となる電極パッド150aに対して接触子101の角をもって接触するため、それらを面接触させることができないという問題があった。面接触ができないと、上記と同様、電極パッド150aと接触子101との間の接触抵抗が増大する原因となってしまう。
【0008】
さらに、上記の接触子101においては、その第3の問題点として、図18および図21の順に示すように、接触子101を押圧した際、接触子101の接触部が上下方向だけでなく、接触子101の本来の延在方向すなわち水平方向にも移動するため、接触子101を深く押圧したときに接触子101が電極パッド150aから離間してしまうという問題があった。また、接触子101が直線状に形成されているため、押圧時に左右に挙動を乱すこともあった。そのため、接触子101の高さを高くしても、電極パッド150aとの接触を維持するためにそのストローク量を大きくすることができないという問題もあった。
【0009】
また、図19および図20に示すような、レジストめっき型112を用いてめっき形成された接触子111においては、高アスペクト比のレジストめっき型112の形成が困難であったり、高アスペクト比のレジストめっき型112の内部にめっき液を充填させることが困難であるため、接触子111を高アスペクト比に形成することが困難であるという問題があった。
【0010】
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、アスペクト比、ストローク量、接触面積、形成容易性その他の性能を向上させることができる接触子および接触子の製造方法を提供することを本発明の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述した目的を達成するため、本発明の接触子は、その第1の態様として、1個のビーム基材または複数個のビーム基材の各端部を接合してなる一体化ビーム基材に対して、光、熱、電気、磁気その他の物理的もしくは化学的な環境変化または内部応力に応じて所定の方向に湾曲変形する少なくとも2個以上の湾曲膜をその湾曲方向がいずれかと反対になるように配置することにより、その上端面が接触対象の接触面との平行を維持したまま上方に湾曲変形するように形成されたビーム部を1個または複数個用いて形成されているばね部を備えていることを特徴としている。
【0012】
本発明の第1の態様の接触子によれば、少なくとも2個以上の湾曲膜の湾曲力を利用してばね部を上方に大きく湾曲させることができるとともに、対向する湾曲力を利用して接触子の接触面に対して最上方のビーム部の上端面が平行になるので、最上方のビーム部の上端面またはそこに接続した接触部の頂面を接触対象の接触面と平行に接触させることができる。
【0013】
本発明の第2の態様の接触子は、第1の態様の接触子において、湾曲膜は、ビーム部の側面視において点対称となるようにビーム部の表面および裏面の両面に1個ずつ配置されていることを特徴としている。
【0014】
本発明の第2の態様の接触子によれば、同一の湾曲量および湾曲力を有する同種の湾曲膜をビーム部に2個配置することによりビーム部を形成することができるので、ビーム部の形成容易性および省コスト性を向上させることができる。
【0015】
本発明の第3の態様の接触子は、第1または第2の態様の接触子において、ばね部は、一体化ビーム基材を用いて形成されていることを特徴としている。
【0016】
本発明の第3の態様の接触子によれば、例えば、湾曲膜が各表面にそれぞれ配置された2個のビーム基材のうちの一方のビーム基材を反転させて他方のビーム基材に接合することにより1個のビーム部を形成することができるので、1個のビーム基材の表面および裏面の両面に湾曲膜をそれぞれ配置するよりも、ビーム部を容易に形成することができる。
【0017】
本発明の第4の態様の接触子は、第1から第3のいずれか1の態様の接触子において、ばね部は、平行に配置された2個のビーム部の各上端を1個または複数個のビーム基材により接続してなる略U字状に形成された1個または複数個のU字型ビーム部を用いて形成されていることを特徴としている。
【0018】
本発明の第4の態様の接触子によれば、U字型ビーム部は、例えば、直線状に形成されたビーム部よりも幅広に形成することができるので、接触子の押圧時においてビーム部が左右に挙動を乱すことを防止することができる。
【0019】
本発明の第5の態様の接触子は、第1から第4のいずれか1の態様の接触子において、ばね部は、複数個のビーム部または複数個のU字型ビーム部をつづら折れ状に段組みした形状に形成されていることを特徴としている。
【0020】
本発明の第5の態様の接触子によれば、接触子の全幅を拡大することなくその高さを高くすることができる。
【0021】
本発明の第6の態様の接触子は、第5の態様の接触子において、上段に配置されたU字型ビーム部は、下段に配置されたU字型ビーム部の内部に収納される大きさに形成されていることを特徴としている。
【0022】
本発明の第6の態様の接触子によれば、接触子の押圧時において上段のU字型ビーム部が下段のU字型ビーム部に接触することを回避することができるので、接触子のストローク量を大きくすることができる。
【0023】
本発明の第7の態様の接触子は、第1から第6のいずれか1の態様の接触子において、湾曲膜は、バイメタルであることを特徴としている。
【0024】
本発明の第7の態様の接触子によれば、湾曲膜における湾曲制御容易性、形成容易性およびコストパフォーマンスを向上させることができる。
【0025】
本発明の第8の態様の接触子は、第1から第7のいずれか1の態様の接触子において、最上方に位置するビーム部の上端に接続されているとともに接触対象に平行に形成された頂面を有する接触部材を接触部として備えていることを特徴としている。
【0026】
本発明の第8の態様の接触子によれば、接触対象との接触面積を容易に拡大することができるとともに、最上方のビーム部の上端面を接触部とした場合と比較して接触部の位置変更を容易に行なうことができる。
【0027】
また、前述した目的を達成するため、本発明の接触子の製造方法は、その第1の態様として、複数枚の母材板にそれぞれ形成された表面層および埋込層をそれぞれパターニングすることにより、表面層を用いて複数枚の母材板に複数個のビーム基材を形成するビーム基材形成工程と、光、熱、電気、磁気その他の物理的もしくは化学的な環境変化または内部応力に応じて所定の方向に湾曲変形する湾曲膜を複数個のビーム基材の各表面にそれぞれ少なくとも1個以上形成する湾曲膜形成工程と、ある1枚の母材板に形成されたビーム基材の端部と他の母材板に形成されたビーム基材の端部とを接合した後に埋込層を除去して母材板から剥離することにより、複数個のビーム基材を一体化させてなる一体化ビーム基材に対して湾曲膜をその湾曲方向がいずれかと反対になるように配置することにより、環境変化または内部応力に応じてその上端面が接触対象の接触面との平行を維持したまま上方に湾曲変形するビーム部を1個または複数個形成するビーム部形成工程と、ビーム部形成工程の後にまたはその工程と同時に湾曲膜に対して環境変化の付与または内部応力を抑える外力の除去を行なうことにより、1個または複数個のビーム部が上方に湾曲した接触子のばね部を形成するばね部形成工程とを備えることを特徴としている。
【0028】
本発明の第1の態様の接触子の製造方法によれば、ばね部が少なくとも2個の湾曲膜の湾曲力を利用して上方に大きく湾曲させることができるとともに、対向する湾曲力を利用して接触対象の接触面に対して最上方のビーム部の上端面が平行になるので、最上方のビーム部の上端面またはそこに接続した接触部の頂面を接触対象の表面と平行に接触させることができる接触子を製造することができる。また、ビーム部形成工程においては湾曲膜が各表面にそれぞれ配置された2個のビーム基材のうちの一方のビーム基材を反転させて他方のビーム基材に接合することにより1個のビーム部が形成されているので、1個のビーム基材の表面および裏面の両面に湾曲膜をそれぞれ配置するよりもビーム部を容易に形成することができる。
【0029】
本発明の第2の態様の接触子の製造方法は、第1の態様の接触子の製造方法において、湾曲膜形成工程においては、湾曲膜が、一体化ビーム基材の側面視において点対称となるように一体化ビーム基材の表面および裏面の両面に1個ずつ形成されていることを特徴としている。
【0030】
本発明の第2の態様の接触子の製造方法によれば、同一の湾曲量および湾曲力を有する同一の湾曲膜をビーム部に2個配置することによりビーム部を形成することができるので、ビーム部の形成容易性および省コスト性を向上させることができる。
【0031】
本発明の第3の態様の接触子の製造方法は、第1または第2の態様の接触子の製造方法において、ビーム基材形成工程においては、略U字状に形成されたビーム基材および略U字状に形成されたビーム基材の幅と同じ距離だけ離間させて平行配置した2個のビーム基材のうちのどちらか一方または両方を複数枚の母材板にそれぞれ形成し、ビーム部形成工程においては、複数枚の母材板にそれぞれ形成された略U字状に形成されたビーム基材の端部および平行配置した2個のビーム基材の各端部を接合することにより、1個または複数個のU字型ビーム部を形成することを特徴としている。
【0032】
本発明の第3の態様の接触子の製造方法によれば、U字型ビーム部は、例えば、直線状に形成されたビーム部よりも幅広に形成することができるので、接触子の押圧時においてビーム部が左右に挙動を乱すことを防止する接触子を製造することができる。
【0033】
本発明の第4の態様の接触子の製造方法は、第1から第3のいずれか1の態様の接触子の製造方法において、ばね部は、複数個のビーム部または複数個のU字型ビーム部をつづら折れ状に段組みした形状に形成されていることを特徴としている。
【0034】
本発明の第4の態様の接触子の製造方法によれば、接触子の全幅を拡大することなくその高さを高くすることができる。
【0035】
本発明の第5の態様の接触子の製造方法は、第4の態様の接触子の製造方法において、上段に配置されたU字型ビーム部は、下段に配置されたU字型ビーム部の内部に収納される大きさに形成されていることを特徴としている。
【0036】
本発明の第5の態様の接触子の製造方法によれば、接触子の押圧時において上段のU字型ビーム部が下段のU字型ビーム部に接触することを回避することができるので、接触子のストローク量を大きくすることができる。
【0037】
本発明の第6の態様の接触子の製造方法は、第1から第5のいずれか1の態様の接触子の製造方法において、湾曲膜は、バイメタルであることを特徴としている。
【0038】
本発明の第6の態様の接触子の製造方法によれば、湾曲膜における湾曲制御容易性、形成容易性およびコストパフォーマンスを向上させることができる。
【0039】
本発明の第7の態様の接触子の製造方法は、第1から第6のいずれか1の態様の接触子の製造方法において、ビーム基材形成工程後であってばね部形成工程前において、接触子として最上方に配置される予定のビーム部に用いられるビーム基材の上端に対し、接触対象に平行に形成された頂面を有する接触部材を接触部として形成する接触部形成工程を備えることを特徴としている。
【0040】
本発明の第7の態様の接触子の製造方法によれば、接触対象との接触面積を容易に拡大することができるとともに、最上方のビーム部の上端面を接触部とした場合と比較して導通膜により形成された接触部の位置変更を容易に行なうことができる。
【0041】
本発明の第8の態様の接触子の製造方法は、第1から第7のいずれか1の態様の接触子の製造方法において、母材板は、SOIウェハであり、表面層は、SOI層であり、埋込層は、BOX層であることを特徴としている。
【0042】
本発明の第8の態様の接触子の製造方法によれば、従来より確立されたSOIウェハの製造方式により表面層および埋込層を形成することができる。
【発明の効果】
【0043】
本発明の接触子および接触子の製造方法によれば、ビーム部を点対称形状にしてその上端面を平行に形成したり、湾曲膜の物性により決まる湾曲量から得られる一定の湾曲力によりビーム部を湾曲させたり、ビーム部をつづら折れ状に段組みしたり、ばね部にU字型ビーム部を採用したりといった措置を講じたので、アスペクト比、ストローク量、接触面積、形成容易性その他の性能を向上させることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本実施形態の接触子の一例を示す正面図
【図2】本実施形態の接触子の一例を示す正面図
【図3】本実施形態の接触子の一例を示す正面図
【図4】本実施形態の接触子の一例を示す正面図
【図5】本実施形態の接触子の一例を示す正面図
【図6】本実施形態の接触子の一例においてビーム部が直線状に形成された状態を示す斜視図
【図7】本実施形態の接触子の一例においてビーム部がU字形状に形成された状態を示す斜視図
【図8】本実施形態の接触子の一例において下段のU字型ビーム部が上段のU字型ビーム部よりも小さく形成された状態を示す平面図
【図9】本実施形態の接触子の製造方法の一例をAからFの順に示す縦断面図
【図10】本実施形態のU字型ビーム部を形成する際に使用する一方の母材板の形状の一例を示す斜視図
【図11】本実施形態のU字型ビーム部を形成する際に使用する他方の母材板の形状の一例を示す斜視図
【図12】他の実施形態の接触子の製造方法の一例をAからFの順に示す縦断面図
【図13】他の実施形態のU字型ビーム部を形成する際に使用する一方の母材板の形状の一例を示す斜視図
【図14】他の実施形態のU字型ビーム部を形成する際に使用する他方の母材板の形状の一例を示す斜視図
【図15】他の実施形態の接触子の製造方法の一例をAからFの順に示す縦断面図
【図16】図15に示した接触子の製造方法において中間部材の形成工程の一例を示す縦断面図
【図17】図15に示した接触子の製造方法において図16に示した中間部材の形成工程の次の工程の一例を示す縦断面図
【図18】従来の水平カンチレバー型接触子を引き起こした状態の一例を示す縦断面図
【図19】従来のめっき形成型接触子の製造方法の一工程の一例を示す縦断面図
【図20】従来のめっき形成型接触子の一例を示す縦断面図
【図21】図18に示した従来の接触子の問題点の一例を示す縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、本発明の接触子および接触子の製造方法をその一実施形態により説明する。
【0046】
はじめに、本実施形態の接触子1を説明する。本実施形態の接触子1は、例えばプローブカードのプローブとして用いられるものであり、図1に示すように、配線基板2の表面2aにおいて、ばね部3および接触部4を備えている。
【0047】
ばね部3は、図1に示すように、例えば4個のビーム部(例えば5A〜5D。5ALや5AUなど「5」はビーム部の総括番号、1つ目のアルファベットはばね部における段数、2つ目のアルファベット大文字はビーム部の形状(2つ目のアルファベット大文字が付されていない場合にはビーム部の形状に限定がないことを示す。)を示す。なお、5Aaなどの2つ目のアルファベット小文字はビーム部における場所を表す。)を有している。ビーム部(例えば5A〜5D)の個数は限定的ではなく、図2に示すように、1個のビーム部5Aによってばね部3が形成されていても良いし、例えば図3に示すように、4個以外の複数個のビーム部(例えば5A〜5D)によってばね部3が形成されていても良い。
【0048】
各ビーム部(例えば5A〜5D)は、各々の上端面(例えば5Aa〜5Da)が接触対象50の接触面50aと平行になるという条件を満たすように形成されている。前述の条件を満たすため、各ビーム部(例えば5A〜5D)においては、1個のビーム基材6Aの表面および裏面に対して、2個の湾曲膜7A、7Bの湾曲方向が互いに反対になるように、2個の湾曲膜7A、7Bが1個ずつ配置されている。
【0049】
ビーム基材6Aは、例えばシリコン(Si)などの接触子1の弾性力源となるばね材質を用いて形成されている。また、各ビーム部(例えば5A〜5D)を構成する1個のビーム基材6Aは、図4に示すように、一体化ビーム基材6Bとして、例えば2個などの複数個のビーム基材6Aの各端部を接合することにより形成されていても良い。各ビーム部(例えば5A〜5D)を1個のビーム基材6Aにより構成するか、一体化ビーム基材6Bにより構成するかは、弾性力の制御容易性、耐久性、形成容易性、コストパフォーマンスなどの観点から決定すればよい。本実施形態においては、ばね部3は、図4に示すように、一体化ビーム基材6Bを用いて形成されている。
【0050】
湾曲膜7A、7B、・・・とは、光、熱、電気、磁気その他の物理的もしくは化学的な環境変化または内部応力に応じて所定の方向に湾曲変形する膜のことをいう。この湾曲膜7A、7B、・・・としては、例えば、温度制御により湾曲変化させるバイメタルや形状記憶合金、磁性制御により湾曲変化させる強磁性形状記憶合金、引張応力や圧縮応力などの内部応力を利用して所定の方向に湾曲変形するシリコンにホウ素を拡散させたシリコン拡散層などがその一例としてあげられる。本実施形態の湾曲膜7A、7B、・・・としては、形成容易性やコストパフォーマンスなどの観点から、バイメタルが選択されている。
【0051】
2個の湾曲膜7A、7Bが各ビーム部(例えば5A〜5D)における1個のビーム基材6Aまたは一体化ビーム基材6Bの表面および裏面に1個ずつ配置されている理由は、各ビーム部(例えば5A〜5D)に配置された2個の湾曲膜7A、7Bの湾曲方向を反対方向にし、それらの湾曲量の合計が各ビーム部(例えば5A〜5D)の下端面(例えば5Ab〜5Db)から上端面(例えば5Aa〜5Da)にかけておおむね±0にすることにより、各ビーム部(例えば5A〜5D)の上端面(例えば5Aa〜5Da)および下端面(接触対象50の接触面50aと配線基板2とが平行の場合には5Ab〜5Db)が接触対象50の接触面50aと平行になるように形成するためである。したがって、各ビーム部(例えば5A〜5D)に配置された複数個の湾曲膜7A、7B、・・・の湾曲方向が同一のビーム部(例えば5A〜5D)に配置されたいずれかの湾曲膜7A、7B、・・・の湾曲方向と反対方向になっており、かつ、複数個の湾曲膜7A、7B、・・・の湾曲量の合計が各ビーム部(例えば5A〜5D)の下端面(例えば5Ab〜5Db)から上端面(例えば5Aa〜5Da)にかけておおむね±0になっていれば、湾曲膜7A、7B、・・・が、例えば図5に示すように、ビーム基材6Aの表面または裏面のいずれか一方の面にすべて配置されていてもよいし、2個以上配置されていてもよい。
【0052】
ここで、本実施形態においては、湾曲膜7A、7B、・・・が、図1から図4に示すように、ビーム部(例えば5A〜5D)の側面視において点P(大抵はビームの側面視中央が点Pとなる。)の点対称となるようにビーム部(例えば5A〜5D)の表面および裏面の両面に1個ずつ配置されていることが好ましい。
【0053】
また、ばね部3は、例えば、図6に示すように、直線状に形成された複数のビーム部(例えば5AL〜5CL)を上下に段組みした形状に形成されていても良い。また、ばね部3は、図7に示すように、略U字状に形成された1個または複数個のU字型ビーム部を上下に段組みした形状に形成されていても良い。このU字型ビーム部(例えば5AU〜5DU)は、平行に配置された直線状の2個のビーム部(例えば5AL〜5DL)の各上端に直線状のビーム基材6Aを接続した形状に形成されたものである。2個のビーム部(例えば5AL〜5DL)の各上端を接続するビーム基材6Aは、1個であっても良いし、図示はしないが複数個であっても良い。本実施形態のばね部3においては、U字型ビーム部(例えば5AU〜5DU)を用いて形成されている。なお、ビーム部(例えば5AL〜5DL)およびU字型ビーム部(例えば5AU〜5DU)については、図2に示すように、1段でばね部3を形成しても良い。
【0054】
さらに、ばね部3は、ビーム部(例えば5A〜5D)の組み合わせや段組の態様に応じて、種々の形状に形成されていても良い。例えば、ばね部3は、図1、図4、図6または図7に示すように、複数個のビーム部(例えば5AL〜5DL)または複数個のU字型ビーム部(例えば5AU〜5DU)をつづら折れ状に段組みした形状に形成されていても良い。また、図3に示すように、ばね部3が同一方向に延在しながら段組みされた形状に形成されていても良い。本実施形態のばね部3は、図7に示すように、複数個のU字型ビーム部(例えば5AU〜5DU)をつづら折れ状に段組みした形状に形成されている。
【0055】
図7に示すように、複数個のU字型ビーム部(例えば5AU〜5DU)をつづら折れ状に段組みした形状にばね部3を形成する場合、図8に示すように、上段に配置されたU字型ビーム部(例えば5BU〜5DU)は、下段に配置されたU字型ビーム部(例えば5AU〜5CU)の内部に収納される大きさに形成されていることが好ましい。
【0056】
また、本実施形態の接触子1においては、図1に示すように、最上方に位置するビーム部(例えば5D)の上端5Daに、柱状に形成された接続部材4Bが接続部4として接続されていることが好ましい。この接続部材4Bは、接触対象50の接触面50aに平行に形成された頂面を有するように形成されている。ただし、この接続部材4Bは、接触子1として必須の構成ではなく、図2に示すように、最上方に位置するビーム部5Aの上端面5Aaを接続部4として利用しても良い。各ビーム部(例えば5A〜5D)の上端面(例えば5Aa〜5Da)は、ビーム部(例えば5A〜5D)の条件として、接触対象50の接触面50aに平行に形成されているからである。
【0057】
なお、特に図示はしないが、接触子1の導電性を向上させるため、接触子1の表面にAu、Ag、Cuなどの高導電性の金属膜を形成するなどの導電性向上処理を施しても良い。
【0058】
次に、本実施形態の接触子1の製造方法を説明する。
【0059】
本実施形態の接触子1の製造方法は、その一例として、図9A〜Fに示すように、ビーム基材形成工程、湾曲膜形成工程、ビーム部形成工程およびばね部形成工程を備えている。また、本実施形態の接触子1の製造方法は、任意の工程として、接触部材形成工程を備えている。
【0060】
ビーム基材形成工程においては、図9Aに示すように、複数枚の母材板10A、10B、・・・にそれぞれ形成された表面層11および埋込層12をそれぞれパターニングすることにより、表面層11を用いて複数枚の母材板10A、10B、・・・に複数個のビーム基材6Aを形成する。
【0061】
母材板10A、10B、・・・としては、例えば、SOIウェハ(SOI(Silicon on Insulator:絶縁体上に形成されたSi)層の下層にBOX(Buried OXide:埋込酸化物)層(絶縁膜)を形成したウェハ)を用いることができる。この場合、表面層11はSOI層(活性層)であり、埋込層12はBOX層(絶縁層)である。SOI層を厚くしたい場合、SOIウェハは、SIMOX(Separation by IMplantation of OXygen)方式による製造方法ではなく、張り合わせ方式による製造方法を採用することが好ましい。
【0062】
母材板10A、10B、・・・の使用枚数は、ビーム基材6Aの形状および構造ならびにばね部3の段数その他の要因により異なる。例えば、図8に示すように、接触子1のばね部3を構成するビーム部(例えば5A〜5D)が、複数個のビーム基材6Aを一体化させてなる一体化ビーム基材6Bによって構成されており、その一体化ビーム基材6Bの形状がU字形状かつ下段から上段に向かって小さくなる場合、図10および図11に示すように、少なくとも2枚の母材板10A、10Bを使用すれば一体化ビーム基材6Bが形成される。ビーム基材形成工程の形成容易化およびコストパフォーマンスの向上のため、母材板10A、10B、・・・の使用枚数としては2枚が好ましい。以下、母材板10A、10B、・・・の使用枚数を2枚に設定して説明する。
【0063】
表面層11および埋込層12の各パターニングについては、まず、2枚の母材板10A、10Bの各表面層11にフォトリソグラフィおよびエッチングを行なって各表面層11をパターニングする。その後、2枚の母材板10A、10Bの各表面層11から露出した埋込層12をエッチングする。所定の形状にパターニングされた各表面層11を各ビーム基材6Aとすると、2枚の母材板10A、10Bの表面にはビーム基材6Aが複数個形成される。以下、図9Fに示す形状を基準として、図9Aに示すように、配線基板2に対して上方に湾曲することになるビーム基材を順方向湾曲ビーム基材6A1と称し、下方に湾曲することになるビーム基材を逆方向湾曲ビーム基材6A2と称する。
【0064】
ここで、図8に示すように、一体化ビーム基材6Bの形状をU字形状とする場合、ビーム基材形成工程においては、図10および図11に示すように、略U字状に形成されたビーム基材6Adおよび略U字状ビーム基材6Adの幅と同じ距離だけ離間させて平行配置した2個のビーム基材6Acのうちのどちらか一方または両方を複数枚の母材板10A、10Bにそれぞれ形成する。具体的に説明すると、図11に示した母材板10Bには、略U字状のビーム基材6Adが3個形成されている。このU字状ビーム基材6Adは、逆方向湾曲ビーム基材6A2として用いられ、図9Aに示す上方に位置する母材板10Bに形成される。なお、図11に示した母材板10Bの中央に配置された直線状のビーム基材6Adは、後に説明する接触部材4Bの一部として兼用される。また、図10に示した母材板10Aには、図11において3個の略U字状ビーム基材6Adの幅とそれぞれ同じ距離だけ離間させて平行配置した2個のビーム基材6Acが3組形成されている。これら3組のビーム基材6Acは、順方向湾曲ビーム基材6A1として用いられ、図9Aに示す下方に位置する母材板10Aに形成される。なお、図10に示した母材板10Aの中央に配置された直線状のビーム基材6Acは、後に説明する接触部材4Bの一部として兼用される。
【0065】
湾曲膜形成工程においては、図9Bに示すように、ビーム基材6Aの各表面に湾曲膜7A、7B、・・・を形成する。湾曲膜7A、7B、・・・は、各ビーム基材6Aに配置されることにより各ビーム部(例えば5A〜5D)の湾曲力を生み出すため、各ビーム基材6Aに対して少なくとも1個以上形成される。
【0066】
湾曲膜7A、7B、・・・としてバイメタルを選択する場合、順方向湾曲ビーム基材6A1の各表面には熱膨張係数の小さい金属膜が上方(接触対象)側に積層されたバイメタルを形成し、逆方向湾曲ビーム基材6A2の各表面には熱膨張係数の小さい金属膜が下方(配線基板2)側に積層されたバイメタルを形成する。バイメタルの種類としては、ビーム基材6AがSiを用いて形成されている場合、Al/Si、SiC、SiNなどのSiバイメタルが好ましい。また、バイメタル形成時に行なうパターニングはビーム基材6Aの表面保護のためにウェットエッチングが好ましい。
【0067】
ビーム部形成工程においては、図9Cに示すように、ある1枚の母材板(例えば図9Cの下方の母材板10A)に形成されたビーム基材6Aの端部と他の母材板(例えば図9Cの上方の母材板10Bまたは図示しない他の母材板)に形成されたビーム基材6Aの端部とを接合して一体化ビーム基材6Bを形成する。ビーム基材6AがSiであれば直接接合する。その後、図9Dに示すように、一体化ビーム基材6Bが形成された各母材板10A、10Bの埋込層12をおおむね除去し、上方の母材板10Bから一体化ビーム基材6Bを剥離する。埋込層12がBOX層であれば、HF(フッ化水素)蒸気を用いて除去量を制御することにより、最下方の一体化ビーム基材6Bの順方向湾曲ビーム基材6A1と配線基板2との間の埋込層12を多少残しておきながら他の埋込層12を除去することができる。これにより、湾曲膜7A、7B、・・・の湾曲方向が反対になるように2個または3個以上の湾曲膜7A、7B、・・・が一体化ビーム基材6Bに配置される。このように湾曲膜7A、7B、・・・の湾曲方向を制御しているので、湾曲膜7A、7B、・・・の湾曲量を調整することにより、図9Fに示すように、環境変化または内部応力に応じてビーム部(例えば5A〜5D)の上端面(例えば5Aa〜5Da)が配線基板2の表面2aと平行な接触対象50の接触面50aと平行になるビーム部(例えば5A〜5D)が形成される。
【0068】
湾曲膜7A、7B、・・・の湾曲方向が反対になる場合とは例えば次の通りである。1個の一体化ビーム基材6Bに対して湾曲膜7A、7B、・・・が2個配置される場合、図9Cに示すように、湾曲方向が相互に反対になる2個の湾曲膜7A、7Bをそれぞれ1個ずつ配置すればよい。これは、図9Cに示すように一体化ビーム基材6Bの表面および裏面にそれぞれ1個ずつ配置されていても良いし、図示はしないが、一体化ビーム基材6Bの表面または裏面のいずれか一方の面に2個配置されていても良い(図5を参照)。また、1個の一体化ビーム基材6Bに対して湾曲膜7A、7B、・・・が3個以上配置される場合(図5を参照)、例えば2個の湾曲膜7A、7Bの湾曲方向が同一であって残り1個以上の湾曲膜(例えば7C、7D、7E、・・・)の湾曲方向が逆方向に設定されているような、それらの湾曲方向がいずれかの湾曲方向と反対になるように配置されていればよい。上記具体例は、図5に示した複数個の湾曲膜7A、7B、・・・の配置により示した通りである。
【0069】
ここで、ビーム部形成工程においては、図9Cに示すように、一体化ビーム基材6Bの側面視において点Pの点対称となるように湾曲膜7A、7B、・・・が一体化ビーム基材6Bの表面および裏面の両面に1個ずつ形成されていることが好ましい。この場合、湾曲膜形成工程においては、2個の湾曲膜7A、7Bが同一の種類、同一の形状、同一の寸法、同一の湾曲力および湾曲量その他それらの湾曲方向以外の要素が同一となるように形成されていることが好ましい。そして、湾曲膜形成工程においては、2個の湾曲膜7A、7Bがビーム部形成工程において点Pの点対称となるような位置にそれぞれ配設されていることが好ましい。
【0070】
また、ばね部3を図9Fに示すように段組みした形状に形成する場合、ばね部3がつづら折れ状に段組みした形状に形成されるように、ビーム基材6Aまたは一体化ビーム基材6Bを接合することが好ましい。これは、線状に形成された複数個のビーム部(例えば5AL〜5DL)を使用する場合(図6参照)であっても、複数個のU字型ビーム部(例えば5AU〜5DU)を使用する場合(図7参照)であっても同様である。
【0071】
さらに、前述のビーム部形成工程においては、図9Cおよび図9Dに示すように、図11の母材板10Bに示した略U字状ビーム基材6Adの端部および図10の母材板10Aに示した3組の平行配置した2個のビーム基材6Acの各端部を相互に接合することにより、図7に示すようなU字型ビーム部(例えば5AU〜5CU)を形成することが好ましい。この際、図8、図10および図11に示すように、母材板10A、10Bの内側に形成されておりばね部3の上段に配置される予定のU字型ビーム部(例えば5BU、5CU)は、母材板10A、10Bの外側に形成されており下段に配置される予定のU字型ビーム部(例えば5AU、5BU)の内部に収納される大きさに形成されていることが好ましい。
【0072】
接触部材形成工程は任意の工程である。この接触部材形成工程においては、図9Eに示すように、接触対象50の接触面50aに平行に形成された頂面を有する接触部材4Bを接触部4として形成する。本実施形態の接触部材4Bは、柱状に形成された接触部材本体と、最上方に配置される予定のビーム部(例えば5D。図9Eにおいては奥に配設されている。)から水平方向または傾斜方向に延在しており接触部材本体を支持する支持部(直線状のビーム部(例えば5D)を代用しても良い。)とによって形成されている。この接触部材4Bは、接触子1として最上方に配置される予定のビーム部(例えば5D)に用いられるビーム基材6Aの上端に形成される。接触部材4Bは、ビーム基材6Aとの接続の関係から、ビーム基材6Aと同様の形成方法および接合方法を採用すると良い。この接触部材形成工程はビーム基材形成工程後であってばね部形成工程前において実行されていればよい。例えば、ビーム基材形成工程後であって湾曲膜7A、7B、・・・の形成前に接触部材4Bが形成されてもよい。また、本実施形態のようにビーム部形成工程後であってばね部形成工程前において接触部材4Bが形成されても良い。
【0073】
ばね部形成工程においては、各ビーム部(例えば5A〜5D)が形成された後または各ビーム部(例えば5A〜5D)の形成と同時に、湾曲膜7A、7B、・・・に環境変化の付与または内部応力を抑える外力の除去を行なうことにより、1個または複数個のビーム部(例えば5A〜5D)が上方に湾曲した接触子1のばね部3を形成する。例えば、湾曲膜7A、7B、・・・にバイメタルを用いる場合は、湾曲膜7A、7B、・・・に熱を加えることにより接触子1のばね部3を所定の方向に湾曲させればよい。磁気や光などの環境変化に応じて湾曲変形する湾曲膜については、バイメタルを用いた湾曲膜7A、7B、・・・と同様に環境変化を付与すればよい。また、内部応力を利用して所定の方向に湾曲変形する材料を湾曲膜7A、7B、・・・に用いる場合は、内部応力を押さえ込む埋込層12をエッチングしてビーム部(例えば5A〜5D)を引き止める外力を除去することにより、接触子1のばね部3を所定の方向に湾曲させればよい。つまり、内部応力を利用して湾曲変形させる湾曲膜を湾曲膜7A、7B、・・・として用いる場合は、ビーム部形成工程を行なうことによってばね部形成工程が同時に行なわれることになる。この場合、任意工程の接触部材形成工程はビーム部形成工程の前に行なうことが好ましい。
【0074】
以上の工程を経て、本実施形態の接触子1が製造される。
【0075】
次に、本実施形態の接触子1の作用効果を説明する。
【0076】
本実施形態の接触子1においては、図1から図4に示すように、各ビーム部(例えば5A〜5D)を構成する1個のビーム基材6Aまたは一体化ビーム基材6Bに湾曲膜7A、7B、・・・が配置されている。そのため、湾曲膜7A、7B、・・・の湾曲力を利用してばね部3を上方に大きく湾曲させることができる。また、各ビーム部(例えば5A〜5D)においては、湾曲膜7A、7B、・・・の湾曲方向を制御しながら各ビーム部(例えば5A〜5D)に少なくとも2個以上配置することにより、ビーム部(例えば5A〜5D)の上端面(例えば5Aa〜5Da)が接触対象50の接触面50aと平行になるように形成されている。このため、最上方のビーム部(例えば5D)の上端面またはそこに接続した接続部材4Bの頂面を接続部4として接触対象50の接触面50aと平行に、かつ、大きな接触面積を確保しながら、接触させることができる。
【0077】
また、本実施形態の接触子1においては、湾曲膜7A、7B、・・・がビーム部(例えば5A〜5D)の側面視において点Pの点対称となるようにビーム部(例えば5A〜5D)の表面および裏面の両面に1個ずつ配置されていることが好ましい。この場合、同一の湾曲量および湾曲力を有する同種の湾曲膜7A、7B、・・・をビーム部(例えば5A〜5D)に2個配置することにより、順方向湾曲ビーム基材6A1および逆方向湾曲ビーム基材6A2の湾曲量が同一になってその湾曲方向が逆方向になるので、図5に示すように湾曲膜7A、7B、・・・を配置するよりも、ビーム部(例えば5A〜5D)の上端面(例えば5Aa〜5Da)を接触対象50の接触面50aと平行にして接触子1を形成することが容易になる。また、これによって接触子1の省コスト性を向上させることができる。
【0078】
また、本実施形態の接触子1においては、図4に示すように、ばね部3の各ビーム部(例えば5A〜5D)が1個のビーム基材6Aではなく複数のビーム基材6Aを接合してなる一体化ビーム基材6Bにより構成されていることが好ましい。これにより、図9Cに示すように、湾曲膜7A、7B、・・・が各表面にそれぞれ配置された2個のビーム基材6Aのうちの一方のビーム基材6A(例えば上方の母材板10B側のビーム部)を反転させて他方のビーム基材6Aに接合することにより1個のビーム部(例えば5A)を形成することができる。そのため、図1に示すように、1個のビーム基材6Aの表面および裏面の両面に湾曲膜7A、7B、・・・をそれぞれ配置するよりも、ビーム部(例えば5A〜5D)を容易に形成することができる。
【0079】
また、各ビーム部(例えば5A〜5D)を湾曲させる湾曲膜7A、7B、・・・は、バイメタルであることが好ましい。これにより、湾曲膜7A、7B、・・・における湾曲制御容易性、形成容易性およびコストパフォーマンスを向上させることができる。
【0080】
また、本実施形態の接触子1においては、図6または図7に示すように、ばね部3が複数個のビーム部(例えば5AL〜5DL)または複数個のU字型ビーム部(例えば5AU〜5DU)をつづら折れ状に段組みした形状に形成されていることが好ましい。この場合、図3に示すような同一方向に延在させて段組した形状に形成された接触子1と比較して、図6または図7に示す接触子1の全幅を拡大させることなく、その高さを高くすることができる。
【0081】
ここで、本実施形態の接触子1においては、図7に示すように、ばね部3が1個または複数個のU字型ビーム部(例えば5AU〜5DU)を用いて形成されていることが好ましい。U字型ビーム部(例えば5AU〜5DU)は、図6に示した直線状のビーム部(5AL〜5DL)よりも幅広に形成することができるので、接触子1の押圧時においてビーム部(例えば5A〜5D)が左右に挙動を乱すことを防止することができる。
【0082】
さらに、図7に示すように、ばね部3が複数個のU字型ビーム部(例えば5AU〜5DU)をつづら折れ状に段組みして形成されており、かつ、上段および下段のU字型ビーム部(例えば図7の5AU〜5CU)の大きさが同じ場合、上段のU字型ビーム部(例えば5BU、5CU)が下方に押圧されたときに上段のU字型ビーム部(例えば5BU、5CU)が下段のU字型ビーム部(例えば5AU、5BU)に接触してしまうおそれがある。そこで、図8に示すように、本実施形態の接触子1においては、上段に配置されたU字型ビーム部(例えば5BU、5CU)が下段に配置されたU字型ビーム部(例えば5AU、5BU)の内部に収納される大きさに形成されていることがより好ましい。これにより、接触子1の押圧時において上段のU字型ビーム部(例えば5BU、5CU)が下段のU字型ビーム部(例えば5AU、5BU)に接触することを回避することができるので、接触子1のストローク量を大きくすることができる。
【0083】
そして、本実施形態の接触子1においては、例えば図7に示すように、最上方に位置するビーム部5Cの上端5Caに接触部材4Bが接触部4として接続されていることが好ましい。この接触部材4Bは接触対象50の接触面50aに平行に形成された頂面を有して形成されており、その頂面の寸法は最上方に位置するビーム部5Cの上端面5Caの寸法よりも自由に設定することができるので、例えば図6に示すように最上方のビーム部(例えば5D)の上端面を接触部4とした場合と比較して接触対象50の接触面50aとの接触面積を容易に拡大することができる。また、接触部材4Bの形成位置も最上方に位置するビーム部5Cの上端面5Caの位置よりも自由に設定することができるので、最上方のビーム部(例えば5D)の上端面を接触部4とした場合と比較して接触部4の位置変更を容易に行なうことができる。
【0084】
次に、本実施形態の接触子1の製造方法の作用効果を説明する。
【0085】
本実施形態の接触子1の製造方法においては、図9Aに示すように、表面層11および埋込層12を有する複数枚の母材板10A、10Bを用いて複数個のビーム基材6Aを形成し、図9Bに示すように、それらの各表面に湾曲膜7A、7B、・・・を少なくとも1個以上形成した後、図9Cに示すように、各ビーム基材6Aの各端部を接合することにより、図9Fに示すように、一体化ビーム基材6Bに対して湾曲膜7A、7B、・・・をその湾曲方向がいずれかと反対になるように配置している。そのため、少なくとも2個以上の湾曲膜7A、7B、・・・の湾曲力を利用してばね部3の一体化ビーム基材6Bを上方に大きく湾曲させることができる。また、一体化ビーム基材6Bに配置された少なくとも2個以上の湾曲膜7A、7B、・・・の湾曲方向が逆方向なので、最上方のビーム部(例えば5D)の上端面を接触対象50の接触面50aと平行に形成することができる。これは、最上方のビーム部(例えば5D)の上端面に接続した接触部4の頂面にも同様のことがいえる。
【0086】
また、本実施形態の接触子1の製造方法においては、図9Cに示すように、2個のビーム基材6Aのうちの一方のビーム基材6Aを反転させて他方のビーム基材6Aに接合しているので、1個のビーム基材6Aの表面および裏面の両面に湾曲膜7A、7B、・・・をそれぞれ配置するよりもビーム部(例えば5A〜5D)を容易に形成することができる。
【0087】
また、母材板10A、10BはSOIウェハであり、表面層11はSOI層、埋込層12はBOX層であることが好ましい。これにより、従来より確立されたSIMOX方式により表面層11および埋込層12を形成することができる。
【0088】
なお、(1)湾曲膜7A、7B、・・・は一体化ビーム基材6Bの側面視において点対称となるように一体化ビーム基材6Bの表面および裏面の両面に1個ずつ形成されていること、(2)ばね部3が1個または複数個のU字型ビーム部(例えば5AU〜5DU)を有していること、(3)ばね部3が複数個のビーム部(例えば5AL〜5DL)または複数個のU字型ビーム部(例えば5AU〜5DU)をつづら折れ状に段組みした形状に形成されていること、(4)上段に配置されたU字型ビーム部(例えば5BU〜5DU)が下段に配置されたU字型ビーム部(例えば5AU〜5CU)の内部に収納される大きさに形成されていること、(5)湾曲膜7A、7B、・・・がバイメタルであること、および、(6)接触子1として最上方に配置される予定のビーム部(例えば5D)に用いられるビーム基材6Aの上端に対し、接触対象50の接触面50aに平行に形成された頂面を有する接触部材4Bを接触部4として形成することについては、上記で示した本実施形態の接触子1による作用効果と同様である。
【0089】
すなわち、本実施形態の接触子1および接触子1の製造方法によれば、ビーム部(例えば5A〜5D)を点対称形状にしてその上端面(例えば5Aa〜5Da)を平行に形成したり、湾曲膜7A、7B、・・・の物性により決まる湾曲量から得られる一定の湾曲力によりビーム部(例えば5A〜5D)を湾曲させたり、ビーム部(例えば5A〜5D)をつづら折れ状に段組みしたり、ばね部3にU字型ビーム部(例えば5AU〜5DU)を採用したりといった措置を講じたので、アスペクト比、ストローク量、接触面積、形成容易性その他の性能を向上させることができるという作用効果を生じる。
【0090】
なお、本発明は、前述した実施形態などに限定されるものではなく、必要に応じて種々の変更が可能である。
【0091】
例えば、本実施形態の接触子1は、プローブカードのプローブとして用いられているが、他の実施形態においては、リレースイッチ素子や温度補正用キャパシタなど、上下のばね伸縮機能を有する素子であれば適用可能である。
【0092】
また、本実施形態のビーム部(例えば5A〜5D)は図6に示すような直線状または図7に示すようなU字状に形成されているが、他の実施形態においては、例えば、C字状、波状、円板状や楕円状その他の板状、環状などの種々の形状を採用することができる。その際、湾曲膜7A、7B、・・・の湾曲方向を制御しながら上記の他の形状を採用した各ビーム部に少なくとも2個以上配置することにより、上記の他の形状を採用したビーム部の上端面が接触対象50の接触面50aと平行になるように形成される。
【0093】
また、本実施形態のビーム部(例えば5A〜5D)は、図9Fに示すように、ビーム基材6Aが湾曲膜7A、7B、・・・の配置側に湾曲するように形成されているが、他の実施形態においては、図12Fに示すように、ビーム基材6Aが湾曲膜7A、7B、・・・の配置側の反対側に湾曲するようにビーム部(例えば5A〜5D)が形成されていても良い。この場合、図9Aおよび図9Bと図12Aおよび図12Bとを比較すると明らかな通り、湾曲膜7A、7B、・・・の配置面が対応する位置において逆になっている以外に大きな差はない。図12に示した接触子1にU字型ビーム部(例えば5AU〜5DU)を使用したい場合、複数個の所定形状のビーム基材6Aを母材板10A、10Bに対して図13および図14に示すように形成すればよい。図10および図11と図13および図14とを比較すると明らかな通り、それらが逆になっている以外に大きな差はない。
【0094】
また、本実施形態の接触子1の製造方法においては、各ビーム部(例えば5A〜5D)に一体化ビーム基材6Bを用いて接触子1を製造したが、他の実施形態においては、各ビーム部(例えば5A〜5D)に1個のビーム基材6Aを用いて接触子1を製造しても良い。その場合、図15A〜Fに示す順に、1個のビーム基材6A、湾曲膜7A、7B、・・・、ビーム部(例えば5A〜5D)、ばね部3などを形成すればよい。基本的には本実施形態の接触子1の製造方法と大差はない。
【0095】
また、上段のビーム部(例えば5B〜5D)に配置された湾曲膜7A、7B、・・・と下段のビーム部(例えば5A〜5C)に配置された湾曲膜7A、7B、・・・とが環境変化の付与または内部応力を抑える外力の除去を行なう前に当接等する場合、下段のビーム部(例えば5A〜5C)と上段のビーム部(例えば5B〜5D)との間に図16および図17の順に示すような中間部材20を表面層11などのビーム基材6Aと同一の材料を用いて形成すると良い。
【符号の説明】
【0096】
1 接触子
2 配線基板
3 ばね部
4 接触部
5A〜5D ビーム部
5Aa〜5Da (ビーム部の)上端面
5Ab〜5Db (ビーム部の)下端面
5AL〜5DL 直線状ビーム部
5AU〜5DU U字型ビーム部
6A〜6D ビーム基材
6A1 順方向湾曲ビーム基材
6A2 逆方向湾曲ビーム基材
7A、7B 湾曲膜
10A、10B 母材板
11 表面層
12 埋込層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1個のビーム基材または複数個のビーム基材の各端部を接合してなる一体化ビーム基材に対して、光、熱、電気、磁気その他の物理的もしくは化学的な環境変化または内部応力に応じて所定の方向に湾曲変形する少なくとも2個以上の湾曲膜をその湾曲方向がいずれかと反対になるように配置することにより、その上端面が接触対象の接触面との平行を維持したまま上方に湾曲変形するように形成されたビーム部を1個または複数個用いて形成されているばね部を備えている
ことを特徴とする接触子。
【請求項2】
前記湾曲膜は、前記ビーム部の側面視において点対称となるように前記ビーム部の表面および裏面の両面に1個ずつ配置されている
ことを特徴とする請求項1に記載の接触子。
【請求項3】
前記ばね部は、前記一体化ビーム基材を用いて形成されている
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の接触子。
【請求項4】
前記ばね部は、平行に配置された2個の前記ビーム部の各上端を1個または複数個の前記ビーム基材により接続してなる略U字状に形成された1個または複数個のU字型ビーム部を用いて形成されている
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の接触子。
【請求項5】
前記ばね部は、前記複数個のビーム部または前記複数個のU字型ビーム部をつづら折れ状に段組みした形状に形成されている
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の接触子。
【請求項6】
上段に配置された前記U字型ビーム部は、下段に配置された前記U字型ビーム部の内部に収納される大きさに形成されている
ことを特徴とする請求項5に記載の接触子。
【請求項7】
前記湾曲膜は、バイメタルである
ことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の接触子。
【請求項8】
最上方に位置する前記ビーム部の上端に接続されているとともに接触対象の接触面に平行に形成された頂面を有する接触部材を接触部として備えている
ことを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の接触子。
【請求項9】
複数枚の母材板にそれぞれ形成された表面層および埋込層をそれぞれパターニングすることにより、前記表面層を用いて前記複数枚の母材板に複数個のビーム基材を形成するビーム基材形成工程と、
光、熱、電気、磁気その他の物理的もしくは化学的な環境変化または内部応力に応じて所定の方向に湾曲変形する湾曲膜を前記複数個のビーム基材の各表面にそれぞれ少なくとも1個以上形成する湾曲膜形成工程と、
ある1枚の前記母材板に形成された前記ビーム基材の端部と他の前記母材板に形成された前記ビーム基材の端部とを接合した後に前記埋込層を除去して前記母材板から剥離することにより、前記複数個のビーム基材を一体化させてなる一体化ビーム基材に対して前記湾曲膜をその湾曲方向がいずれかと反対になるように配置することにより、前記環境変化または内部応力に応じてその上端面が接触対象の接触面との平行を維持したまま上方に湾曲変形するビーム部を1個または複数個形成するビーム部形成工程と、
前記ビーム部形成工程の後にまたはその工程と同時に前記湾曲膜に対して環境変化の付与または内部応力を抑える外力の除去を行なうことにより、1個または複数個の前記ビーム部が上方に湾曲した接触子のばね部を形成するばね部形成工程と
を備えることを特徴とする接触子の製造方法。
【請求項10】
前記湾曲膜形成工程においては、前記湾曲膜が、前記一体化ビーム基材の側面視において点対称となるように前記一体化ビーム基材の表面および裏面の両面に1個ずつ形成されている
ことを特徴とする請求項9に記載の接触子の製造方法。
【請求項11】
前記ビーム基材形成工程においては、略U字状に形成された前記ビーム基材および前記略U字状に形成されたビーム基材の幅と同じ距離だけ離間させて平行配置した2個のビーム基材のうちのどちらか一方または両方を複数枚の母材板にそれぞれ形成し、
前記ビーム部形成工程においては、複数枚の母材板にそれぞれ形成された前記略U字状に形成されたビーム基材の端部および前記平行配置した2個のビーム基材の各端部を接合することにより、1個または複数個のU字型ビーム部を形成する
ことを特徴とする請求項9または請求項10に記載の接触子の製造方法。
【請求項12】
前記ばね部は、前記複数個のビーム部または前記複数個のU字型ビーム部をつづら折れ状に段組みした形状に形成されている
ことを特徴とする請求項9から請求項11のいずれか1項に記載の接触子の製造方法。
【請求項13】
上段に配置された前記U字型ビーム部は、下段に配置された前記U字型ビーム部の内部に収納される大きさに形成されている
ことを特徴とする請求項12に記載の接触子の製造方法。
【請求項14】
前記湾曲膜は、バイメタルである
ことを特徴とする請求項9から請求項13のいずれか1項に記載の接触子の製造方法。
【請求項15】
前記ビーム基材形成工程後であって前記ばね部形成工程前において、接触子として最上方に配置される予定の前記ビーム部に用いられる前記ビーム基材の上端に対し、接触対象の接触面に平行に形成された頂面を有する接触部材を接触部として形成する接触部材形成工程を備える
ことを特徴とする請求項9から請求項14のいずれか1項に記載の接触子の製造方法。
【請求項16】
前記母材板は、SOIウェハであり、
前記表面層は、SOI層であり、
前記埋込層は、BOX層である
ことを特徴とする請求項9から請求項15のいずれか1項に記載の接触子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2010−281627(P2010−281627A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−133921(P2009−133921)
【出願日】平成21年6月3日(2009.6.3)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】