説明

揺動内接噛合型遊星歯車装置

【課題】駆動源を接続した状態においても大きな占有空間を必要とせず、特に、軸方向の長さを短縮できる揺動内接噛合型遊星歯車装置を得る。
【解決手段】内歯揺動体116A、116Bが外歯歯車118に対して揺動回転することにより入力軸104の回転を減速し、出力軸としての外歯歯車118より減速出力を取り出す揺動内接噛合型遊星歯車装置100において、出力軸と平行に配置された中間軸108と、該中間軸108と前記入力軸104とを直交連結する直交歯車セット106とを備え、該入力軸104からの動力を、前記中間軸108を介して内歯揺動体116A、116B側に入力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揺動内接噛合型遊星歯車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
揺動内接噛合型遊星歯車装置は、外歯歯車と該外歯歯車と僅少の歯数差を有する内歯歯車とを有し、該外歯歯車と内歯歯車の一方が他方に対して揺動することにより入力軸の回転を減速し、出力軸より減速出力を取り出すもので、大トルクの伝達が可能であり且つ大減速比が得られるという利点があるので、種々の減速機分野で使用されている。
【0003】
例えば、外歯歯車の周りで該外歯歯車と僅少の歯数差を有する内歯歯車を揺動回転させることにより、入力軸の回転を減速して出力部材から取り出す内歯揺動型の内接噛合遊星歯車装置が、特許文献1に開示されている。
【0004】
図3、図4を用いて同歯車装置の一例を説明する。
【0005】
図において、1はケーシングであり、互いにボルトやピン等の締結部材(図示略)を締結孔2に挿入することにより結合される第1支持ブロック1Aと第2支持ブロック1Bとを有する。5は入力軸で、入力軸5の端部にはピニオン6が設けられ、ピニオン6は、入力軸5の周りに等角度に配設された複数の伝動歯車7と噛合している。
【0006】
ケーシング1には、3本の偏心体軸10が、円周方向に等角度間隔(120度間隔)で設けられている。この偏心体軸10は、軸方向両端を軸受8、9によって回転自在に支持され且つ軸方向中間部に偏心体10A、10Bを有する。前記伝動歯車7は各偏心体軸10の端部に結合されており、入力軸5の回転を受けて該伝動歯車7が回転することにより、各偏心体軸10が回転するようになっている。
【0007】
各偏心体軸10は、ケーシング1内に収容された2枚の内歯揺動体12A、12Bの偏心体孔11A、11Bをそれぞれ貫通しており、各偏心体軸10の軸方向に隣接した2段の偏心体10A、10Bの外周と、内歯揺動体12A、12Bの貫通孔の内周との間にはころ14A、14Bが設けられている。
【0008】
一方、ケーシング1内の中心部には、出力軸20の端部に一体化された外歯歯車21が配されており、外歯歯車21の外歯23に、内歯揺動体12A、12Bのピンからなる内歯13が噛合している。外歯歯車21の外歯23と内歯揺動体12A、12Bの内歯13の歯数差は僅少(例えば1〜4程度)に設定されている。
【0009】
この歯車装置は次のように動作する。
【0010】
入力軸5の回転は、ピニオン6を介して伝動歯車7に与えられ、伝動歯車7によって偏心体軸10が回転させられる。偏心体軸10の回転により偏心体10A、10Bが回転すると、該偏心体10A、10Bの回転によって内歯揺動体12A、12Bが揺動回転する。この場合、内歯揺動体12A、12Bの1回の揺動回転によって、該内歯揺動体12A、12Bと噛合する外歯歯車21はその歯数差だけ位相がずれるので、その位相差に相当する自転成分が外歯歯車21の(減速)回転となり、出力軸20から減速出力が取り出される。
【0011】
なお、この種の揺動内接噛合型遊星歯車装置としては、このような内歯歯車を揺動させる内歯揺動型のほかに、外歯歯車の方を揺動させる外歯揺動型の遊星歯車装置も知られており、広く利用されている。
【0012】
外歯歯車を揺動させるタイプの場合、外歯歯車を揺動回転させるための偏心体を入力軸の外周に(該入力軸と同軸に)設けるようにしたタイプと、複数の偏心体軸を外歯歯車を貫通して備え、入力軸の回転を該複数の偏心体軸に振り分けて伝達することにより全偏心体軸を同位相で回転させるタイプとがある(例えば技術文献2等多数)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特許第2607937号公報
【特許文献2】特許第2561227号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、これら従来公知の歯車装置では、入力軸が出力軸と同軸に配置されていたため、該入力軸に駆動源(例えばモータ)が接続された場合に、軸方向の長さが長くなり、また、元々歯車装置自体が半径方向にかなりの寸法を有していることから、結局、半径方向及び軸方向の双方において大きな占有空間(収容空間)を必要としていた。そのため、用途や設置状況によっては、相手機械(被駆動機械)への据付が困難になることがあり、また、ギヤドモータ等の形で在庫として保管したり、運搬したりする場合に、一個当たりの専有体積が大きくなるという問題もあった。
【0015】
本発明は、このような従来の問題を解消するためになされたものであって、駆動源を接続した状態においても大きな占有空間を必要とせず、特に、軸方向の長さを短縮できる揺動内接噛合型遊星歯車装置を提供することその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、外歯歯車と、該外歯歯車と僅少の歯数差を有する内歯歯車と、前記外歯歯車または内歯歯車の一方を他方に対して揺動回転させるための偏心体軸と、を備える揺動内接噛合型遊星歯車装置において、出力軸と平行に配置された中間軸と、該中間軸と入力軸とを直交連結する直交歯車と、前記中間軸に設けられ、前記揺動回転する歯車側へ動力を伝達する中間軸歯車と、を有し、前記中間軸の軸方向において、前記直交歯車と外歯歯車との間に、前記中間軸歯車が配置されることによって、上記課題を解決したものである。
【0017】
本発明に係る構成によれば、駆動源を含めた装置全体の軸方向長を短縮できる。また、駆動源を一体化したときの占有空間に無駄が少ないため、在庫、あるいは運搬時の一個当たりの専有体積を減少させることもできる。
【0018】
なお、本発明は、後述するように、内歯揺動型及び外歯揺動型のいずれの内接噛合遊星歯車装置にも適用可能である。
【0019】
また、本発明は、出力軸が当該揺動内接噛合方遊星歯車装置全体を軸方向に貫通するホローシャフトとされている構成を採用するのが好ましい。これにより、大径で且つ防護パイプ等の付設を要しないホローシャフト構造を実現することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、駆動源を接続した状態においても大きな占有空間を必要とせず、特に、軸方向の長さを短縮できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態の例に係る内歯揺動型内接噛合遊星歯車装置の側断面を示した図
【図2】(A)は図1の右側面図、(B)は別の角度からモータを取付ける例を示す(A)相当の側面図
【図3】従来の内歯揺動型内接噛合遊星歯車装置の側断面を示した図
【図4】図3におけるIV−IV線に沿う断面を示した図
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態の例を図面に基づいて説明する。
【0023】
図1は、本発明の実施形態の例に係る揺動内接噛合型の遊星歯車装置100を示した図である。
【0024】
この遊星歯車装置100は、本体ケーシング102、入力軸104、直交歯車セット106、後に詳述する中間軸108、伝動外歯歯車110、偏心体軸駆動用の歯車112、該偏心体軸駆動用の歯車112によって駆動される3本の偏心体軸114(114A〜114C)、2つの内歯揺動体(内歯歯車)116A、116B、及び出力軸としての機能を兼用する外歯歯車118によって主に構成されている。
【0025】
即ち、この遊星歯車装置100は、内歯揺動体116A、116Bを揺動回転させるための複数の偏心体軸114を内歯揺動体116A、116Bを貫通して3本備え、入力軸104の回転を該複数の偏心体軸114A〜114Cに振り分けて伝達することにより全偏心体軸114A〜114Cを同位相で回転させるものである。
【0026】
減速機構自体の基本構成は図3、図4を用いて既に説明した従来例と同様である。該従来例と大きく異なるのは入力軸104から偏心体軸114A〜114Cまでの動力伝達構造及び歯車装置全体のケーシング構造である。そのため、以下この点について詳細に説明する。
【0027】
前記本体ケーシング102は、図1において左右に配置された、2つの第1、第2ケーシング102A、102Bによって構成されている。この第1、第2ケーシング102A、102Bには、図2に示されるように、これらを貫通するように複数のボルト孔102A1、102B1がそれぞれ形成されている。該第1、第2ケーシング102A、102Bは、互いにボルト103によって結合可能な構造となっている。なお、図2の(A)は図1の右側面図であり、(B)は(A)とは別の角度からモータMを取付ける例をそれぞれ示している。
【0028】
この本体ケーシング102には、前記入力軸104が図1において縦向き、即ち外歯歯車(出力軸)118と直交する方向に配置され、軸受120、122により回転自在に支持されている。入力軸104の一端側(図の上側)には、ハイポイドピニオン(直交ピニオン)104Aが形成されており、他端にはモータMの出力軸(図示略)が挿入される挿入口104Bが形成されている。
【0029】
本体ケーシング102には、入力軸104のほかに、内歯揺動体116A、116Bよりも半径方向外側位置に、外歯歯車(出力軸)118と平行に前記中間軸108が配置され、テーパーローラベアリング124、124によって回転自在に支持されている。中間軸108には前記ハイポイドピニオン104Aと噛合して直交歯車セット106を構成するハイポイドギヤ(直交ギヤ)128が組み込まれており、さらに、中間ピニオン130が組み込まれている。
【0030】
一方、外歯歯車(出力軸)118の外周には、軸受132を介してリング状の前記伝動外歯歯車110が該外歯歯車118と同軸に配置されている。この伝動外歯歯車110には、前記中間ピニオン130及び3本の偏心体軸114にそれぞれ組み込まれた偏心体軸駆動用の歯車112が同時に噛合している。即ち、伝動外歯歯車110は、前記中間ピニオン130を介して中間軸108と連結されると共に、偏心体軸駆動用の歯車112を介して全偏心体軸114のそれぞれとも連結されていることになる。
【0031】
3本の偏心体軸114は、同一の円周上で等間隔に配置され(図2参照)、それぞれテーパーローラベアリング136、136によって両持ち支持されている。各偏心体軸114とも内歯揺動体116A、116Bの偏心体孔116A1、116B1を軸方向に貫通している。各偏心体軸114には偏心体140A、140Bが一体に組み込まれており、3本の偏心体軸114が同位相で同時に同方向に回転できように各偏心体軸114の偏心体140A、140Bの位相が揃えられている。また、2枚の内歯揺動体116A、116Bはこの偏心体140A、140Bとの摺動により、それぞれ互いに180°の位相差を保ちながら揺動回転可能である。なお、図の符号119は、当該2枚の内歯揺動体116A、116Bの軸方向の移動規制を行うための差し輪である。
【0032】
内歯揺動体116A、116Bには、ホローシャフトタイプの出力軸兼用の外歯歯車118が内接している。外歯歯車118は配管や配線等を貫通可能な貫通孔118Dを有する略円筒形状の部材からなり、テーパーローラベアリング142、142を介してケーシング本体102に回転自在に支持されている。
【0033】
外歯歯車118の外歯は外ピン118Pが図示せぬ溝に回転自在に組み込まれた構造になっている。外ピン118Pの数(外歯の歯数)は、内歯揺動体116A、116Bの内歯の歯数より僅かだけ小さい(僅少の歯数差)。この外歯歯車118は、本体118A、端部部材118B、118Cの3つの部材からなる。これは、端部部材118B、118Cの段部118B1、118C1によって前記テーパーローラベアリング142、142の組込み及びその軸方向の位置決めを可能とするためである。
【0034】
次にこの遊星歯車装置100の作用を説明する。
【0035】
モータMの図示せぬモータ軸の回転によって入力軸104が回転すると、この回転は、ハイポイドピニオン104A及びハイポイドギヤ128を介してその回転方向が直交方向に変換されると共に初段の減速が行われ、中間軸108に伝達される。中間軸108が回転すると、該中間軸108に組み込まれた中間ピニオン130が回転し、更にこれと噛合している伝動外歯歯車110が回転する。
【0036】
伝動外歯歯車110には同時に偏心体軸駆動用の歯車112が噛合しているため、該伝動外歯歯車110の回転によりこれらの歯車112が回転する。その結果、3本の偏心体軸114A〜114Cが同位相で回転し、これにより2つの内歯揺動体116A、116Bがそれぞれの位相を180°に保った状態で外歯歯車118の周りを揺動回転する。内歯揺動体116A、116Bは、その自転が拘束されているため、該内歯揺動体116A、116Bの1回の揺動回転によって、該内歯揺動体116A、116Bと噛合する外歯歯車118はその歯数差だけ位相がずれ、その位相差に相当する自転成分が外歯歯車118の回転となり、出力が外部へ取り出される。
【0037】
ここで、本発明の実施形態の例に係る遊星歯車装置100によれば、内歯揺動体116A、116Bよりも半径方向外側位置に、外歯歯車(出力軸)118と平行に前記中間軸108を配置し、入力軸104の回転を、一度中間軸108で受けた後に揺動体側に入力するようにしている。そのため、入力軸(及びモータM)104を、従来のように歯車装置100の軸方向サイドにではなく、半径方向サイドに配置することができるようになる。この結果、駆動源を含めた装置全体(ギヤドモータ)の軸方向長さを、ほぼ遊星歯車装置100自体の軸方向長さ内に収めることができ、該軸方向長さを大幅に短縮できる。また、ギヤドモータとして在庫を保管したり、運搬したりする場合においても無駄な空間が少なく、且つ扱いやすい。
【0038】
更に、遊星歯車装置100の軸方向サイドに入力軸も駆動源も存在しないことから、外歯歯車118を、歯車装置100を貫通する大径のホローシャフトとすることができている。外歯歯車118は出力軸を兼ねるものであり、その回転は極めて低速であるため、該外歯歯車118の内側に別体の防護パイプ等を付設することなく、ワイヤハーネスや冷却水パイプ等をそのまま配置することができる。
【0039】
なお、上記実施形態においては、入力軸104として、モータ軸の挿入口104Bを有する構造のものが使用されているが、モータのモータ軸の先端に直接直交ピニオンを形成し、これを入力軸として兼用する構造であってもよい。
【0040】
また、直交ピニオン及び直交ギヤのセットは、上記実施形態においてはハイポイドピニオン及びハイポイドギヤのセットが利用されていたが、ベベルピニオン及びベベルギヤ等の他の構造に係る直交ピニオン及び直交ギヤのセットを用いても構わない。
【0041】
さらに、本発明は、外歯歯車が揺動するタイプの揺動内接噛合型遊星歯車装置にも適用可能である。この場合、3本の偏心体軸によって揺動回転させられるのが内歯歯車ではなく外歯歯車となり、キャリヤを介して該外歯歯車の自転成分を取り出すことになる。しかしながら、この場合でも、モータから入力軸〜中間軸〜伝動外歯歯車〜偏心体軸駆動用の歯車〜3本の偏心体軸に至る構成については、上記実施形態にて説明した構造と全く同様の構成とすることができる。
【符号の説明】
【0042】
100…内歯揺動型内接噛合遊星歯車装置
102…本体ケーシング
102A、102B…第1、第2ケーシング
104…入力軸
104A…ハイポイドピニオン(直交ピニオン)
106…直交歯車セット
108…中間軸
110…伝動外歯歯車
112…偏心体軸歯車
116A、116B…内歯揺動体(内歯歯車)
118…外歯歯車
128…ハイポイドギヤ(直交ギヤ)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
外歯歯車と、該外歯歯車と僅少の歯数差を有する内歯歯車と、前記外歯歯車または内歯歯車の一方を他方に対して揺動回転させるための偏心体軸と、を備える揺動内接噛合型遊星歯車装置において、
出力軸と平行に配置された中間軸と、
該中間軸と入力軸とを直交連結する直交歯車と、
前記中間軸に設けられ、前記揺動回転する歯車側へ動力を伝達する中間軸歯車と、を有し、
前記中間軸の軸方向において、前記直交歯車と外歯歯車との間に、前記中間軸歯車が配置されることを特徴とする揺動内接噛合型遊星歯車装置。
【請求項2】
請求項1において、
複数の前記偏心体軸に組み込まれた偏心体軸駆動用歯車と、
前記複数の偏心体軸駆動用歯車と噛合する伝動外歯歯車と、を備え、
前記入力軸からの動力が、前記中間軸歯車を介して前記伝動外歯歯車へ伝達されることを特徴とする揺動内接噛合型遊星歯車装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−32854(P2013−32854A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−254137(P2012−254137)
【出願日】平成24年11月20日(2012.11.20)
【分割の表示】特願2008−227561(P2008−227561)の分割
【原出願日】平成15年3月26日(2003.3.26)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】