説明

搬送台車

【課題】走行時に車輪等から発生する塵埃が巻き上がることを防止できる搬送台車を提供する。
【解決手段】搬送台車10は、清浄エアの気流が床面の排気口14に向けて形成されるクリーンルーム12内を走行する台車であり、台車本体26の下部に設けられた車輪28によって走行する。搬送台車10は、車輪28の近傍に設けた吹出口30Aから、周囲のエアをクリーンルーム12の排気口14に向けて吹き出すとともに、吹出口30Aから吹き出すエアの流速をクリーンルーム12に吹き出す清浄エアの気流の流速よりも大きく、且つ、排気口14から排気する排気エアの気流の流速以下になるように制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は搬送台車に係り、特にクリーンルーム内での搬送作業に使用される搬送台車に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶や半導体等を製造するクリーンルーム設備では、清浄室の天井面に複数台のFFUが設置されており、このFFUによって除塵された清浄エアがクリーンルーム内にダウンフローされる。クリーンルームには、グレーチングと呼ばれる網目状の通風可能な床や、側面下部に形成された開口が排気口として設けられており、これらの排気口からクリーンルーム内のエアが外部に排気される。これにより、クリーンルーム内に清浄エアの気流が形成されるので、クリーンルーム内に浮遊する塵埃を速やかに外部に排出することができ、クリーンルーム内を高い清浄度に維持することができる。
【0003】
ところで、クリーンルーム設備では、被搬送物(たとえば半導体ウエハを収容する密閉容器等)を搬送する際に、搬送台車が一般に用いられる。搬送台車は、床面上に敷設したレールに沿って走行するように構成される。さらに搬送台車は、走行時に塵埃が上方に巻き上げられないように工夫されており、たとえば、搬送台車そのものを上昇気流が生じにくい形状としたり、車輪から塵埃が巻き上がりにくい車輪カバーを採用したりしている。しかし、現在では、走行速度180m/minといった高速搬送が要求されており、搬送台車の形状や車輪カバーを変更するだけでは、塵埃の巻き上げを防止することが困難になっている。
【0004】
特許文献1には、台車本体の上面に吸込グリルを設けるとともに、台車本体の下面に排気口を設け、吸込グリルから吸い込んだエアを排気口からグレーチング床に向けて大きな風速で吹き出すようにした搬送台車が記載されている。この搬送台車によれば、搬送台車の上方で乱流が発生することを防止することができる。
【0005】
また、特許文献2には、搬送台車の下面の外周部に排気口が下向きに形成され、グレーチング床に直接排出するようにした搬送台車が記載されている。この搬送台車によれば、排気口から高速でエアを吹き出すことによって、走行時に車輪から巻き上がる塵埃を強制的にグレーチング床に排出することができる。
【特許文献1】特開平10−181882
【特許文献2】特開2007−45606
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1、2は、グレーチング床に向けて吹き出したエアがグレーチング床を速やかに通過せず、かえって乱流が発生して、塵埃が巻き上がるという問題があった。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みて成されたもので、走行時に車輪等から発生する塵埃が巻き上がることを防止できる搬送台車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は前記目的を達成するために、清浄エアの気流が排気口に向けて形成されるクリーンルーム内を走行する搬送台車であって、台車本体の下部に設けられた車輪によって走行する搬送台車において、前記車輪の近傍に設けた吹出口から、周囲のエアを前記クリーンルームの排気口に向けて吹き出すとともに、前記吹出口から吹き出すエアの流速を、前記クリーンルームに吹き出す清浄エアの気流の流速よりも大きく、且つ、前記排気口から排気する排気エアの気流の流速以下に小さく制御する塵埃防止用気流発生装置を備えたことを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、車輪から発生した塵埃は、周囲のエアとともに、吹出口からクリーンルームの排気口に向けて吹き出される。その際、吹出口から吹き出されたエアの流速が前記クリーンルームに吹き出す清浄エアの気流の流速よりも大きく、且つ、前記排気口から排気する排気エアの気流の流速以下に制御されるので、吹出口から吹き出されたエアは、クリーンルームの排気口に強制的に誘導される。したがって、車輪から発生した塵埃は周囲に拡散することなく、クリーンルームの排気口へ誘導され、クリーンルームから排出される。これにより、搬送台車を走行させた際に発生する塵埃が巻き上がることを防止でき、クリーンルーム内を高い清浄度に維持することができる。
【0010】
請求項2に記載の発明は請求項1の発明において、前記クリーンルームの排気口は、該クリーンルームの床面に部分的に設けられるとともに、上下に貫通された複数の開口であり、前記吹出口は下方に向けて形成されることを特徴とする。本発明によれば、吹出口から吹き出されたエアは、排気口から確実に排気される。
【0011】
請求項3に記載の発明は請求項1の発明において、前記クリーンルームの排気口は、前記搬送台車の側方に、該走行軌道に沿って設けられ、前記吹出口は、側方に向けて形成されることを特徴とする。本発明によれば、吹出口から吹き出されたエアが、床面に沿って側方に流れるので、排気口から確実に排気することができる。
【0012】
請求項4に記載の発明は請求項1〜3のいずれか1の発明において、前記吹出口には、除塵用のフィルタが設けられることを特徴とする。本発明によれば、吹出口に除塵用のフィルタを設けたので、車輪から発生した塵埃をフィルタで除塵して吹出口から吹き出すことができる。また、フィルタを吹出口に設けたことによって、吹出口から吹き出されるエアを整流でき、かつ、その流速が小さくなるように制御することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、車輪の周囲のエアを、吹出口からクリーンルームの排気口に向けて吹き出すとともに、その流速を清浄エアの気流の流速以下に制御したので、車輪から発生した塵埃をクリーンルームの排気口から確実に排出することができ、クリーンルームを常に高い清浄度に維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下添付図面に従って本発明に係る搬送台車の好ましい実施形態について説明する。
【0015】
図1は本発明に係る搬送台車の第1の実施形態の一例を模式的に示す側面図であり、図2はその正面図を示している。これらの図に示す搬送台車10は、クリーンルーム12に適した台車である。
【0016】
このクリーンルーム12の天井面には格子状の天井フレーム16が吊設されており、天井フレーム16の格子空間には複数のFFU(ファンフィルタユニット)18、18…が配設されている。FFU18は、上下に開口されたケーシング18Aと、上方からエアをケーシング18A内に吸い込んで下方に吹き出すファン18Bと、ケーシング18A内に吸い込まれたエアを除塵するHAPAフィルタ18Cとで構成されており、このFFU18によって天井裏空間20のエアが除塵され、清浄エアとしてクリーンルーム12内にダウンフローされる。
【0017】
クリーンルーム12の床面には、複数の排気口14、14…が形成される。複数の排気口14、14…は、後述のレール24に沿ってレール24の周辺に配置される。また、排気口14は、上下に貫通して形成されており、この排気口14を介して、クリーンルーム12と床下チャンバ22が連通される。したがって、クリーンルーム12内にダウンフローされた清浄エアは、床下空間22に吸い込まれる。これにより、クリーンルーム12内の塵埃が清浄エアのダウンフローによって床下チャンバ22に排出されるので、クリーンルーム12内が高い清浄度に維持される。なお、排気口14は、クリーンルーム12の床面の略全面に形成してもよく、その場合には、レール24の周辺に集中して配置することが好ましい。
【0018】
床下チャンバ22は、クリーンルーム12の側方に形成されたリターンチャンバ(不図示)を介して天井裏空間20に連通される。したがって、床下チャンバ22のエアは、天井裏空間22に戻され、天井裏空間22から再びFFU18によってクリーンルーム12に吹き出される。これにより、エアが循環され、クリーンルーム12の内部が常に高い清浄度に維持される。
【0019】
クリーンルーム12の床面の上には、レール24、24が敷設されている。レール24、24は、搬送台車10の走行軌道に沿って形成されており、搬送台車10はこのレール24、24上を走行自在となるように構成される。
【0020】
搬送台車10は主として、台車本体26、車輪28、28…、車輪カバー30で構成される。台車本体26の上部には、不図示の搬送物移載装置が設けられており、この搬送物移載装置によって搬送物を積載して搬送できるようになっている。搬送物移載装置は特に限定するものではないが、たとえばクレーン、コンベア、フォーク等が用いられる。
【0021】
台車本体26の下部には、四個の車輪28、28…が取り付けられている。各車輪28、28…は、台車本体26の側面から側方に突出して配置されており、不図示のモータによって回転駆動される。この車輪28、28…がレール24、24上で回転することによって、搬送台車10がレール24、24に沿って走行される。
【0022】
車輪28、28…の上部は、車輪カバー30、30…によって覆われている。各車輪カバー30は、台車本体26の側面から突出した状態で、台車本体26の下部に固定される。また、各車輪カバー30は、車輪28の下部を除いて略全体を覆うように形成されており、その下部には下方に向けて開口された吹出口30Aが形成される。さらに、各車輪カバー30の上面には、吸込口30Bが形成されており、その吸込口30Bにファン32が設けられる。ファン32を駆動することによって、吸込口30Bから車輪カバー30の内部にエアが吸引され、そのエアが吹出口30Aから下方に向けて吹き出される。
【0023】
ところで、ファン32は、吹出口30Aから吹き出すエアの流速が、クリーンルーム12に吹き出す清浄エアの気流の流速よりも大きく、且つ、排気口14から排気する排気エアの気流の流速以下になるように、回転数が制御される。なお、清浄エアの気流の流速及び排気エアの気流の流速は、クリーンルーム12の設定(すなわち、FFU18の吹出口の面積や排気口14の面積、FFU18のファン18Bの回転数等)によって予め決まっている。
【0024】
次に上記の如く構成された搬送台車10の作用について説明する。
【0025】
搬送台車10を走行させた際、特に搬送台車10を180m/min以上の高速で走行させた際には、車輪28、28…から塵埃が発生する。従来の搬送台車では、この塵埃が巻きあがって製品等に付着するという問題があった。
【0026】
そこで、本実施の形態の搬送台車10では、ファン32を駆動することによって、吸込口30Bからエアを吸引し、車輪28の周囲の塵埃とともに吹出口30Aから下方に向けて吹き出している。さらに、本実施の形態では、その吹出口30Aから吹き出すエアの流速が、クリーンルーム12に吹き出す清浄エアの気流の流速よりも大きく、且つ、排気口14から排気する排気エアの気流の流速以下になるように制御している。これにより、吹出口30Aから吹き出されたエアは、排気口14に強制的に誘導され、床下空間22に吸い込まれる。よって、吹出口30Aから吹き出されるエアに含まれる塵埃は、周囲に拡散することなく、排気口14に誘導されて床下空間22に排出される。したがって、本実施の形態によれば、塵埃が巻き上がることを防止でき、クリーンルーム10を常に高い清浄度に維持することができる。
【0027】
このように本実施の形態によれば、車輪28の周囲のエアを、吹出口30Aからクリーンルーム12の床面に向けて吹き出すとともに、その流速をクリーンルーム12に吹き出す清浄エアの気流の流速よりも大きく、且つ、排気口14から排気する排気エアの気流の流速以下になるように制御したので、車輪28から発生した塵埃をクリーンルーム12の排気口14から確実に排出することができ、クリーンルーム10を常に高い清浄度に維持することができる。
【0028】
次に第2の実施形態の搬送台車について説明する。図3は、第2の実施形態の搬送台車40を示す正面図である。第2の実施形態の搬送台車40は、レール24の側方に設けたダクト44の吸気口47を排気口とするクリーンルーム42において搬送に適した台車である。
【0029】
図3に示すように、クリーンルーム42の内部には、レール24、24の外側にダクト44、44が設けられる。各ダクト44は、レール24に沿って配設されており、天井裏空間20に連通されている。また、ダクト44は、レール24に対向する側面に吸気口(排気口に相当)46が形成されており、この吸気口46を介してクリーンルーム42内のエアをダクト44内に吸い込んで天井裏空間20に送気するように構成される。なお、クリーンルーム42の床面は、開口のない平坦面になっており、FFU18からダウンフローされたエアは、床面において吸気口46に向けて流れる気流を形成し、吸気口46からダクト44に吸引される。
【0030】
搬送台車40は、図2に示した第1の実施形態の搬送台車10と比較した際、第1の実施形態では車輪カバー30の上面に吸込口30B、下面に吹出口30Aが形成されていたのに対し、第2の実施形態では車輪カバー50の外側側面の下部を吹出口50Aとし、車輪カバー50の内側側面の下部を吸込口50Bとしている。そして、吸込口50Bにファン52が設けられ、このファン52を駆動することによって、吸込口50Bから車輪カバー50の内部にエアが吸い込まれ、車輪28の周囲の塵埃とともに吹出口50Aから側方に向けて吹き出される。
【0031】
ファン52は、吹出口50Aから吹き出すエアの風速が、クリーンルーム12に吹き出す清浄エアの気流の流速よりも大きく、且つ、吸引口(排気口)46から排気する排気エアの気流の流速以下になるように制御される。なお、清浄エアの気流の流速及び排気エアの気流の流速は、クリーンルーム12の設定(すなわち、FFU18の吹出口の面積や吸引口(排気口)46の面積、FFU18のファン18Bの回転数等)によって予め決まっている。
【0032】
なお、図3の右側の車輪カバー50は、ファン52からエアを直接吸い込むように構成した例であり、図3の左側の車輪カバー50は、ファン52にダクト54を接続し、このダクト54を台車本体26の上面の開口26Bに接続することによって、開口26Bからエアを吸引した例である。いずれの形態を用いてもよく、左右両方で同じ形態を採用してもよい。
【0033】
上記の如く構成された搬送台車40の場合にも、吹出口50から吹き出されるエアの流速をクリーンルームに吹き出す清浄エアの気流の流速よりも大きく、且つ、吸引口(排気口)46から排気する排気エアの気流の流速以下にしたので、吹出口50Aから吹き出されたエアに含まれる塵埃は、周囲に拡散することなく、強制的に吸気口46に誘導される。よって、塵埃が巻き上がることを防止でき、クリーンルーム42を常に高い清浄度に維持することができる。
【0034】
次に第3の実施形態の搬送台車について図4に従って説明する。図4に示す第3の実施形態の搬送台車60は、図3に示した第2の実施形態の搬送台車40と比較して、車輪カバー50の吹出口50Aの位置にファン62及びフィルタ64が設けられている点で異なっている。
【0035】
第3の実施形態によれば、吹出口50Aの位置にフィルタ64が設けられているので、車輪28から発生した塵埃をフィルタ64で除塵することができる。この搬送台車60は、床面に排気口14(図1参照)が形成されたクリーンルーム12にも、ダクト44の吸気口46を排気口とするクリーンルーム42にも使用することができる。
【0036】
なお、上述した実施形態において、ファン32、52の回転数は、クリーンルーム12、42の状態に応じて適宜変更するようにしてもよい。すなわち、クリーンルーム12、42の清浄エアの気流の流速、排気エアの気流の流速に応じて、ファン32、52の回転数を変更してもよい。その場合、クリーンルーム12、42の制御装置から、清浄エアや排気エアの気流の流速のデータを非接触で適宜受信できるようにすることが好ましい。
【0037】
また、上述した実施形態では、吹出口30A、50Aから常に一定方向にエアを吹き出すようにしたが、クリーンルーム12、42の排気口の位置に応じて自動的に吹出方向を調節するように構成してもよい。たとえば、吹出口30A、50Aに可動式のルーバを設けて風向を調節できるように構成するとともに、クリーンルーム12、42の制御装置等から排気口の位置情報を随時入力するように構成し、その位置情報に応じて風向を自動的に調節してもよい。
【0038】
さらに上述した実施形態では、搬送台車10、40、60におけるエアの吹出風量のみを制御するようにしたが、これに限定するものではなく、クリーンルーム12、42側(すなわち、FFU18)の風量を制御するようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明に係る搬送台車の第1の実施形態を示す側面図
【図2】図1の搬送台車の正面図
【図3】搬送台車の第2の実施形態を示す正面図
【図4】搬送台車の第3の実施形態を示す正面図
【符号の説明】
【0040】
10…搬送台車、12…クリーンルーム、14…排気口、16…天井フレーム、18…FFU、20…天井裏空間、22…床下空間、24…レール、26…台車本体、28…車輪、30…車輪カバー、32…ファン、40…搬送台車、42…クリーンルーム、44…ダクト、46…吸気口、50…車輪カバー、60…搬送台車

【特許請求の範囲】
【請求項1】
清浄エアの気流が排気口に向けて形成されるクリーンルーム内を走行する搬送台車であって、台車本体の下部に設けられた車輪によって走行する搬送台車において、
前記車輪の近傍に設けた吹出口から、周囲のエアを前記クリーンルームの排気口に向けて吹き出すとともに、前記吹出口から吹き出すエアの流速を、前記クリーンルームに吹き出す清浄エアの気流の流速よりも大きく、且つ、前記排気口から排気する排気エアの気流の流速以下に制御する塵埃防止用気流発生装置を備えたことを特徴とする搬送台車。
【請求項2】
前記クリーンルームの排気口は、該クリーンルームの床面に部分的に設けられるとともに上下に貫通された複数の開口であり、
前記吹出口は下方に向けて形成されることを特徴とする請求項1に記載の搬送台車。
【請求項3】
前記クリーンルームの排気口は、前記搬送台車の側方に、該走行軌道に沿って設けられ、前記吹出口は、側方に向けて形成されることを特徴とする請求項1に記載の搬送台車。
【請求項4】
前記吹出口または前記排気口には、除塵用のフィルタが設けられることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1に記載の搬送台車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−147163(P2009−147163A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−323720(P2007−323720)
【出願日】平成19年12月14日(2007.12.14)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】