説明

摩擦係合装置およびその組立方法

【課題】摩擦係合装置の組立性を向上させると共に軸長の増加を抑制する。
【解決手段】ブレーキB1では、スプリングシート60により支持される複数のリターンスプリングRSの遊端がピストン50のスプリング当接部56と当接すると共に、スプリングシート60がトランスアクスルケース22aのスプライン歯22sにより軸方向に支持され、ピストン50は、トランスアクスルケース22aのスプライン歯22sにより支持されたスプリングシート60よりも第1および第2摩擦板41,42側で当該スプリングシート60と軸方向に間隔dをおいて対向するスナップリング57を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケースに嵌合される第1摩擦板と、ブレーキハブに嵌合されると共に第1摩擦板と摩擦係合可能な第2摩擦板と、ケースに対して軸方向に移動して第1および第2摩擦板を押圧可能なピストンと、当該ピストンを第1および第2摩擦板から離間するように付勢するリターンスプリングユニットとを備えた摩擦係合装置およびその組立方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、摩擦係合装置としての第1および第2のブレーキを備えた変速装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。この変速装置の第1のブレーキは、環状のケースの内周面に形成されたスプラインにより軸方向に摺動自在に支持される摩擦板と、締結対象要素に固定されたブレーキハブにより摺動自在に支持される摩擦板と、当該ケースと共にトランスミッションケースを構成するリヤケースにより軸方向に摺動自在に支持されると共に上記ケースに対して軸方向に移動して摩擦板を押圧可能な環状のピストンと、それぞれ一端がスプリングシートにより支持されると共にピストンを摩擦板から離間するように軸方向に付勢する複数のリターンスプリングとを備える。また、第2のブレーキは、上記ケースの内周面に形成されたスプラインにより軸方向に摺動自在に支持される摩擦板と、締結対象要素に固定されたブレーキハブにより摺動自在に支持される摩擦板と、当該ケースにより軸方向に摺動自在に支持されると共にケースに対して軸方向に移動して摩擦板を押圧可能な環状のピストンと、それぞれ一端がスプリングシートにより支持されると共にピストンを摩擦板から離間するように軸方向に付勢する複数のリターンスプリングと、ピストンの背後に油室を画成する油室画成部材とを備える。
【0003】
上述の第1のブレーキを組み立てる際には、リヤケースにピストンを嵌合し、スプリングシートにより一端が支持された複数のリターンスプリングの遊端(他端)をピストンに形成されたスプリング当接部に当接させると共にスナップリングを用いてスプリングシートをリヤケースに固定する。そして、ピストン、リターンスプリングおよびスプリングシートと一体となったリヤケースをケースに固定することによりピストンをケースにより支持されている摩擦板と対向させる。また、上述の第2のブレーキを組み立てる際には、複数のリターンスプリングを支持したスプリングシートをピストンに嵌合すると共にピストンを油圧室画成部材に嵌合する。そして、リターンスプリング、スプリングシートおよび油圧室画成部材と一体となったピストンをリターンスプリングの遊端(他端)がケースにより支持されたエンドプレートに形成されたスプリング当接部と当接するようにケース内に配置することによりピストンをケースにより支持されている摩擦板と対向させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−281239号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の第1のブレーキのように複数のリターンスプリングを支持するスプリングシートをスナップリングによりリヤケースに固定すると、スナップリングを装着する溝や当該溝の周囲の補強部をリヤケースに形成しなければならず、リヤケースひいては変速装置の軸長が長くなってしまう。また、上記従来の第2のブレーキでは、ピストンをケース内に配置するに際してリターンスプリングの遊端(他端)を目視により確認しながらケース側のスプリング当接部に当接させなければならず、組立性の面でなお改善の余地がある。
【0006】
そこで、本発明は、摩擦係合装置の組立性を向上させると共に軸長の増加を抑制することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の摩擦係合装置およびその組立方法は、上記主目的を達成するために以下の手段を採っている。
【0008】
本発明の摩擦係合装置は、
ケースに嵌合される第1摩擦板と、ブレーキハブに嵌合されると共に前記第1摩擦板と摩擦係合可能な第2摩擦板と、前記ケースに対して軸方向に移動して前記第1および第2摩擦板を押圧可能なピストンと、前記第1または第2摩擦板と当接する前記ピストンの押圧部の外周側に配置されると共に前記軸方向における一端が前記ケースと当接すると共に前記軸方向における他端が前記ピストンと当接し、該ピストンを前記第1および第2摩擦板から離間するように付勢するリターンスプリングユニットとを備えた摩擦係合装置において、
前記ケースと前記リターンスプリングユニットとの当接面よりも前記第1および第2摩擦板側で前記ピストンに取り付けられると共に前記リターンスプリングユニットが前記ピストンから軸方向に抜けないようにする抜け止め部材を有することを特徴とする。
【0009】
この摩擦係合装置では、ピストンを第1および第2摩擦板から離間するように付勢するリターンスプリングユニットが、第1または第2摩擦板と当接するピストンの押圧部の外周側に配置され、リターンスプリングユニットの軸方向における一端がケースと当接すると共に軸方向における他端がピストンと当接する。そして、この摩擦係合装置は、ケースとリターンスプリングユニットとの当接面よりも第1および第2摩擦板側でピストンに取り付けられると共にリターンスプリングユニットがピストンから軸方向に抜けないようにする抜け止め部材を有する。このような摩擦係合装置の組立に際しては、リターンスプリングユニットの他端をピストンに当接させると共に、リターンスプリングユニットの一端を抜け止め部材に当接させる。これにより、リターンスプリングユニットは、ピストンから軸方向に抜けないように当該ピストンに対して抜け止め(仮止め)され、ピストンとリターンスプリングユニットとが一体化される。そして、ピストンをケースに組み付ける際には、リターンスプリングユニットの一端をケースに当接させると共にピストンをケースに向けて押し込んでリターンスプリングを軸方向に圧縮する。これにより、リターンスプリングユニットの一端をケースに当接させた時点で当該リターンスプリングユニットと抜け止め部材とが当接していても、ピストンの移動に伴ってリターンスプリングユニットが圧縮されることにより当該リターンスプリングユニットが抜け止め部材から離間する。従って、リターンスプリングユニットのピストンに対する抜け止め(仮止め)が解除されると共に、抜け止め部材は、ケースとリターンスプリングユニットとの当接面よりも第1および第2摩擦板側に位置することになる。
【0010】
この結果、ピストンにリターンスプリングユニットを容易に抜け止め(仮止め)した上で、リターンスプリングユニットの位置合わせに要求されるような目視による確認作業を行うことなくピストンやリターンスプリングユニットをケースに対して容易に組み付けることが可能となるので、摩擦係合装置の組立性を向上させることができる。また、リターンスプリングユニットをケースにより軸方向に支持することで、摩擦係合装置の軸長の増加を容易に抑制することができる。更に、摩擦係合装置の動作を担保するためにピストンの軸長にはある程度の余裕を持たせるのが一般的である。また、ピストンに取り付けられる抜け止め部材は、摩擦係合装置の組立完了後には当該摩擦係合装置の動作に何ら関与せず、しかも当該抜け止め部材に要求されるリターンスプリングユニットの保持能力はさほど高くない。従って、抜け止め部材の設置に伴う実質的なピストンの軸長の増加はないといってよい。
【0011】
また、前記ピストンの前記押圧部は、前記第1および第2摩擦板の一方と当接可能な環状の押圧面を有してもよく、前記リターンスプリングユニットの前記他端は、前記押圧面よりも外周側で前記ピストンと当接してもよい。このようなピストンは、環状の押圧面の全体により第1および第2摩擦板を押圧可能であることから押圧面と摩擦板との焼き付きを良好に抑制可能とする一方で、当該ピストンの背面側からの目視によるリターンスプリングユニットの位置合わせを極めて難しくするものである。従って、このような構成を有するピストンを含む摩擦係合装置に本発明を適用すれば、ピストンに対してリターンスプリングユニットを容易に抜け止め(仮止め)した上で、リターンスプリングユニットの位置合わせに要求される目視による確認作業を行うことなくピストンをケースに対して容易に組み付けることが可能となる。この結果、良好な組立性を有すると共に軸長の増加を抑制可能であり、かつ押圧面と摩擦板との焼き付きを良好に抑制することができる摩擦係合装置を得ることが可能となる。
【0012】
更に、前記抜け止め部材は、前記ピストンに装着されたスナップリングであってもよい。これにより、ピストンにリターンスプリングユニットの他端を当接させた後にピストンに抜け止め部材を容易に取付可能となると共に、ピストンに対する抜け止め部材の設置に伴うコストアップを抑制することができる。
【0013】
また、前記ケースは、環状に形成されてもよく、該ケースの内周面には、前記第1摩擦板が嵌合されるスプラインが形成されてもよく、前記リターンスプリングユニットの前記一端は、前記スプラインの一端部と当接してもよい。すなわち、摩擦係合装置の動作を担保するためにスプラインの軸長にはある程度の余裕を持たせるのが一般的であることから、このようにケースの内周面に形成されるスプラインの一端部とリターンスプリングユニットの一端とを当接させれば、ケースの軸長の増加を抑制したり、ケースの軸長を短縮化したりすることができる。
【0014】
更に、前記ケースは、前記第1摩擦板が嵌合される第1ケースと、該第1ケースに連結されると共に前記ピストンを摺動自在に支持する第2ケースとを含むものであってもよい。これにより、第2ケースにより支持されたピストンに対してリターンスプリングユニットを配置すると共にリターンスプリングユニットをスナップリングにより第2ケースに固定する場合に比べて、第2ケースにスナップリングを装着しない分だけ第2ケースの軸長を短縮化することができるので、それにより摩擦係合装置の軸長を短縮化することが可能となる。
【0015】
また、前記ケースは、変速装置を構成するトランスミッションケースであってもよく、前記変速装置の回転要素を前記トランスミッションケースに対して固定可能なブレーキとして構成されてもよい。
【0016】
本発明の摩擦係合装置の組立方法は、
ケースに嵌合される第1摩擦板と、ブレーキハブに嵌合されると共に前記第1摩擦板と摩擦係合可能な第2摩擦板と、前記ケースに対して軸方向に移動して前記第1および第2摩擦板を押圧可能なピストンと、前記第1または第2摩擦板と当接する前記ピストンの押圧部の外周側に配置されると共に前記軸方向における一端が前記ケースと当接すると共に前記軸方向における他端が前記ピストンと当接し、該ピストンを前記第1および第2摩擦板から離間するように付勢するリターンスプリングユニットとを備えた摩擦係合装置とを備えた摩擦係合装置の組立方法において、
(a)前記リターンスプリングユニットの前記他端を前記ピストンに当接させると共に、該リターンスプリングユニットを前記ピストンから軸方向に抜けないように抜け止めするステップと、
(b)前記ピストンを前記ケースに組み付ける際に、前記リターンスプリングユニットの前記一端を前記ケースに当接させると共に前記ピストンを前記ケースに向けて押し込んで前記リターンスプリングユニットを軸方向に圧縮し、前記リターンスプリングユニットの前記ピストンに対する抜け止めを解除するステップと、
を含むものである。
【0017】
この方法によれば、ピストンにリターンスプリングユニットを容易に抜け止め(仮止め)した上で、リターンスプリングユニットの位置合わせに要求されるような目視による確認作業を行うことなくピストンやリターンスプリングユニットをケースに対して容易に組み付けることが可能となるので、摩擦係合装置の組立性を向上させることができる。また、リターンスプリングユニットをケースにより軸方向に支持することで、摩擦係合装置の軸長の増加を容易に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施例に係る摩擦係合装置であるブレーキB1を有する自動変速機30を含む動力伝達装置20を搭載した自動車10の概略構成図である。
【図2】動力伝達装置20の概略構成図である。
【図3】自動変速機30の各変速段とクラッチおよびブレーキの作動状態との関係を表した作動表である。
【図4】自動変速機30の要部を示す拡大図である。
【図5】自動変速機30のブレーキB1を示す拡大図である。
【図6】自動変速機30に含まれるブレーキB1のピストン00の正面図である。
【図7】(a)および(b)は、ブレーキB1の組立手順を示す拡大図である。
【図8】(a)および(b)は、ブレーキB1の組立手順を示す拡大図である。
【図9】変形例に係るブレーキB1′を示す拡大図である。
【図10】変形例に係るブレーキB1″を示す拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0020】
図1は、本発明の実施例に係る摩擦係合装置であるブレーキB1を有する自動変速機30を含む動力伝達装置20を搭載した自動車10の概略構成図であり、図2は、動力伝達装置20の概略構成図である。図1に示す自動車10は、ガソリンや軽油といった炭化水素系の燃料と空気との混合気の爆発燃焼により動力を出力する内燃機関である原動機としてのエンジン12と、エンジン12を制御するエンジン用電子制御ユニット(以下、「エンジンECU」という)14と、図示しない電子制御式油圧ブレーキユニットを制御するブレーキ用電子制御ユニット(以下、「ブレーキECU」という)15と、流体伝動装置(発進装置)23や有段の自動変速機30、これらに作動油(作動流体)を給排する油圧制御装置70、これらを制御する変速用電子制御ユニット(以下、「変速ECU」という)21等を有し、エンジン12のクランクシャフト16に接続されると共にエンジン12からの動力を左右の駆動輪DWに伝達する動力伝達装置20とを備える。エンジンECU14、ブレーキECU15および変速ECU21は、何れも図示しないCPUを中心とするマイクロコンピュータとして構成されており、CPUの他に各種プログラムを記憶するROM、データを一時的に記憶するRAM、入出力ポートおよび通信ポート(何れも図示せず)等を有する。そして、エンジンECU14、ブレーキECU15および変速ECU21は、バスライン等を介して相互に接続されており、これらのECU間では制御に必要なデータのやり取りが随時実行される。
【0021】
エンジンECU14には、アクセルペダル91の踏み込み量(操作量)を検出するアクセルペダルポジションセンサ92からのアクセル開度Accや車速センサ99からの車速V、クランクシャフト16の回転を検出する図示しないクランクシャフトポジションセンサといった各種センサ等からの信号、ブレーキECU15や変速ECU21からの信号等が入力され、エンジンECU14は、これらの信号に基づいて何れも図示しない電子制御式スロットルバルブや燃料噴射弁、点火プラグ等を制御する。ブレーキECU15には、ブレーキペダル93が踏み込まれたときにマスタシリンダ圧センサ94により検出されるマスタシリンダ圧や車速センサ99からの車速V、図示しない各種センサ等からの信号、エンジンECU14や変速ECU21からの信号等が入力され、ブレーキECU15は、これらの信号に基づいて図示しないブレーキアクチュエータ(油圧アクチュエータ)等を制御する。動力伝達装置20の変速ECU21は、トランスミッションケース22の内部に収容される。変速ECU21には、複数のシフトレンジの中から所望のシフトレンジを選択するためのシフトレバー95の操作位置を検出するシフトレンジセンサ96からのシフトレンジSRや車速センサ99からの車速V、図示しない各種センサ等からの信号、エンジンECU14やブレーキECU15からの信号等が入力され、変速ECU21は、これらの信号に基づいて流体伝動装置23や自動変速機30等を制御する。
【0022】
動力伝達装置20は、トランスミッションケース22の内部に収容される流体伝動装置23や、油圧発生源としてのオイルポンプ29、自動変速機30等を含む。流体伝動装置23は、ロックアップクラッチ付きの流体式トルクコンバータとして構成されており、図2に示すように、フロントカバー18を介してエンジン12のクランクシャフト16に接続されるポンプインペラ24や、タービンハブを介して自動変速機30のインプットシャフト(動力入力部材)31に固定されるタービンランナ25、ポンプインペラ24およびタービンランナ25の内側に配置されてタービンランナ25からポンプインペラ24への作動油(ATF)の流れを整流するステータ26、ステータ26の回転方向を一方向に制限するワンウェイクラッチ27、図示しないダンパ機構を有するロックアップクラッチ28等を含む。流体伝動装置23は、ポンプインペラ24とタービンランナ25との回転速度差が大きいときにはステータ26の作用によりトルク増幅機として機能し、両者の回転速度差が小さくなると流体継手として機能する。ロックアップクラッチ28は、フロントカバー18と自動変速機30のインプットシャフト31とを直結するロックアップと当該ロックアップの解除とを実行可能なものである。そして、自動車10の発進後、所定のロックアップオン条件が成立すると、ロックアップクラッチ28によりフロントカバー18と自動変速機30のインプットシャフト31とが直結(ロックアップ)され、エンジン12からの動力がインプットシャフト31に機械的かつ直接的に伝達されるようになる。この際、インプットシャフト31に伝達されるトルクの変動は、図示しないダンパ機構により吸収される。
【0023】
油圧発生源としてのオイルポンプ29は、ポンプボディとポンプカバーとからなるポンプアッセンブリと、ハブを介して流体伝動装置23のポンプインペラ24に接続された外歯ギヤとを備えるギヤポンプとして構成されており、油圧制御装置70に接続される。エンジン12が運転されているときには、当該エンジン12からの動力により外歯ギヤが回転し、それによりオイルポンプ29によってストレーナを介してオイルパン(何れも図示省略)に貯留されている作動油が吸引されると共に当該オイルポンプ29から吐出される。従って、エンジン12の運転中には、オイルポンプ29により流体伝動装置23や自動変速機30により要求される油圧を発生させたり、各種軸受などの潤滑部分に作動油を供給したりすることができる。
【0024】
自動変速機30は、4段変速式変速機として構成されており、図2に示すように、ラビニヨ式遊星歯車機構32と、入力側から出力側までの動力伝達経路を変更するための複数のクラッチC1,C2およびC3と2つのブレーキB1およびB3とワンウェイクラッチF2とを含む。ラビニヨ式遊星歯車機構32は、外歯歯車である2つのサンギヤ33a,33bと、自動変速機30のアウトプットシャフト(動力出力部材)37に固定された内歯歯車であるリングギヤ34と、サンギヤ33aに噛合する複数のショートピニオンギヤ35aと、サンギヤ33bおよび複数のショートピニオンギヤ35aに噛合すると共にリングギヤ34に噛合する複数のロングピニオンギヤ35bと、互いに連結された複数のショートピニオンギヤ35aおよび複数のロングピニオンギヤ35bを自転かつ公転自在に保持すると共にワンウェイクラッチF2を介してトランスミッションケース22に支持されたキャリア36とを有する。そして、自動変速機30のアウトプットシャフト37は、ギヤ機構38および差動機構39を介して駆動輪DWに接続される。
【0025】
クラッチC1は、インプットシャフト31とラビニヨ式遊星歯車機構32のサンギヤ33aとを締結すると共に両者の締結を解除することができる油圧クラッチである。クラッチC2は、インプットシャフト31とラビニヨ式遊星歯車機構32のキャリア36とを締結すると共に両者の締結を解除することができる油圧クラッチである。クラッチC3は、インプットシャフト31とラビニヨ式遊星歯車機構32のサンギヤ33bとを締結すると共に両者の締結を解除することができる油圧クラッチである。ブレーキB1は、ラビニヨ式遊星歯車機構32のサンギヤ33bをトランスミッションケース22に固定すると共にサンギヤ33bのトランスミッションケース22に対する固定を解除することができる油圧クラッチである。ブレーキB3は、ラビニヨ式遊星歯車機構32のキャリア36をトランスミッションケース22に固定すると共にキャリア36のトランスミッションケース22に対する固定を解除することができる油圧クラッチである。これらのクラッチC1〜C3、ブレーキB1およびB3は、油圧制御装置70による作動油の給排を受けて動作する。図3に、自動変速機30の各変速段とクラッチC1〜C3、ブレーキB1およびB3ならびにワンウェイクラッチF2の作動状態との関係を表した作動表を示す。自動変速機30は、クラッチC1〜C3、ブレーキB1およびB3を図3の作動表に示す状態にすることで前進1〜4速の変速段と後進1段の変速段とを提供する。
【0026】
次に、自動変速機30のブレーキB1について詳細に説明する。図4は、自動変速機30の要部拡大図であり、図5は、ブレーキB1を示す拡大図である。
【0027】
ブレーキB1は、上述のように、自動変速機30の第2速や第4速を形成する際に、ラビニヨ式遊星歯車機構32のサンギヤ33bをトランスミッションケース22に固定するのに用いられるものであり、図4に示すように、クラッチC1およびC3の外周側に配置される。そして、ブレーキB1は、トランスミッションケース(第1摩擦板支持部材)22を構成するトランスアクスルケース(第1ケース)22aの内周面に形成された複数のスプライン歯(スプライン)22sと係合してトランスアクスルケース22aにより摺動自在に支持される複数の第1摩擦板(相手板)41と、それぞれ互いに隣り合う第1摩擦板41の間に配置されると共に締結対象であるラビニヨ式遊星歯車機構32のサンギヤ(締結対象要素)33bに固定されたブレーキハブ(第2摩擦板支持部材)44の外周面に形成された複数のスプライン歯(スプライン)44sと係合して当該ブレーキハブ44により摺動自在に支持される複数の第2摩擦板(両面に摩擦材を有する部材)42とを含む多板式油圧ブレーキとして構成される。
【0028】
図4および図5に示すように、ブレーキB1は、トランスアクスルケース22aにより支持される複数の第1摩擦板41および締結対象側のブレーキハブ44により支持される複数の第2摩擦板42に加えて、トランスアクスルケース22aに対して軸方向に移動して第1および第2摩擦板41,42を押圧可能なピストン50と、それぞれ一端がスプリングシート60により支持(カシメ止め)されると共にピストン50を第1および第2摩擦板41,42から離間するように軸方向に付勢する複数のリターンスプリングRSとを含む。スプリングシート60と複数のリターンスプリングRSとは一体化されてリターンスプリングユニットを構成する。
【0029】
ピストン50は、図4に示すように、トランスアクスルケース22aに締結(連結)されてトランスミッションケース22を構成するリヤケース(第2ケース)22bにより摺動自在に支持される環状体であり、それぞれリヤケース22bの対応する内周面と摺接する小径円筒部51および大径円筒部52と、大径円筒部52からトランスアクスルケース22aに向けて(図中右側に)延出されると共に環状の押圧面53aを遊端に有する押圧円筒部53とを含む。図4および図5に示すように、リヤケース22bの内周面と小径円筒部51の外周面と大径円筒部52の背面とは、ブレーキB1の係合時に図示しないリニアソレノイドバルブからの油圧が供給される油室54を画成する。また、ピストン50は、図5および図6に示すように、大径円筒部52と押圧円筒部53との間から等間隔かつ外方に延出された複数(実施例では90°間隔で4個)の延出部55を有する。各延出部55の表面(図5における右側すなわち第1および第2摩擦板41,42側)には、リターンスプリングRSの遊端(他端)と係合可能な円形の凹部であるスプリング当接部56が複数形成されている。各スプリング当接部56は、押圧円筒部53の押圧面53aよりも外周側に位置する。
【0030】
図5に示すように、ピストン50の取付状態、すなわち油室54に油圧が供給されていない状態では、押圧円筒部53の押圧面53aと第1および第2摩擦板41,42のうちの図中最も左側に位置する第1摩擦板41との間に間隙が形成される。また、ピストン50の取付状態では、スプリングシート60により支持された各リターンスプリングRSの遊端(他端)がピストン50のスプリング当接部56と当接すると共に、スプリングシート60の背面がトランスアクスルケース22aの内周面に形成された複数のスプライン歯22sの一端部の先端面(軸方向単面)と当接し、スプリングシート60は、各スプライン歯22sにより軸方向に支持される。すなわち、スプリングシート60と複数のリターンスプリングRSとから構成されるリターンスプリングユニットは、ピストン50の押圧円筒部53の外周に配置される。更に、ピストン50は、図示するように、押圧円筒部53の遊端側の外周に装着された抜け止め部材(仮止め部材)としてのスナップリング57を有しており、当該スナップリング57は、ピストン50の取付状態において、スプリングシート6すなわち当該スプリングシート60とスプライン歯22sの一端部との当接面よりも第1および第2摩擦板41,42側で当該スプリングシート60と軸方向に比較的小さい間隔dをおいて対向する。スナップリング57は、ブレーキB1の動作に何ら関与するものではないが、ブレーキB1の組立に際して極めて有用なものである。
【0031】
ブレーキB1の係合に際してリニアソレノイドバルブからの油圧が油室54を供給されると、ピストン50は、リニアソレノイドバルブからの油圧によりトランスアクスルケース22a(第1および第2摩擦板41,42)に向けて移動し、ピストン50の押圧面53aは、第1および第2摩擦板41,42のうちの図中最も左側に位置する第1摩擦板41と当接する。そして、第1および第2摩擦板41,42は、ピストン50により押圧されて押圧面53aとトランスアクスルケース22a(スプライン歯22s)により保持されたリテーニングプレート45とにより挟持されて摩擦係合し、それによりラビニヨ式遊星歯車機構32のサンギヤ33bがトランスミッションケース22に固定されることになる。この際、ピストン50は、環状の押圧面53aの全体により第1および第2摩擦板41,42を押圧可能であることから、ブレーキB1では、押圧面53aと第1摩擦板41との焼き付きを良好に抑制することができる。
【0032】
引き続き、図7および図8を参照しながら、上述のブレーキB1の組立手順について説明する。なお、ブレーキB1は、自動変速機30の他の構成要素と共にトランスミッションケース22内に組み付けられるものであるが、ここでは、簡単のために、ブレーキB1の構成要素のみを取り上げて、その組立手順を説明する。
【0033】
ブレーキB1の組立に際しては、スプリングシート60に複数のリターンスプリングRSの一端をカシメ止め等により固定し、図7(a)に示すように、スプリングシート60により一端が支持された複数のリターンスプリングRSの遊端(他端)をそれぞれピストン50のスプリング当接部56に当接させる。ここで、実施例のピストン50は、押圧面53aの外周側にスプリング当接部56を有することから当該スプリング当接部56の背面側からの目視によるリターンスプリングRSの遊端とスプリング当接部56との位置合わせを極めて難しくするものであるが、ここでは、ピストン50に対してスプリングシート60により支持された複数のリターンスプリングRSを当該ピストン50の正面(スプリング当接部56)側から接近させることができるので、各リターンスプリングRSの遊端をスプリング当接部56に容易に当接させることができる。
【0034】
各リターンスプリングRSの遊端をスプリング当接部56に当接させたならば、スプリングシート60の背面から力を加えて各リターンスプリングRSを圧縮しながら、図7(b)に示すように、スプリングシート60の背面と当接するようにスナップリング57をピストン50の押圧円筒部53の外周に形成されたスナップリング溝に装着する。これにより、スプリングシート60や各リターンスプリングRS(リターンスプリングユニット)は、ピストン50に対して軸方向に移動しないように、すなわちピストン50の押圧円筒部53から軸方向に抜けないように当該押圧円筒部53に仮止め(抜け止め)され、ピストン50、複数のリターンスプリングRSおよびスプリングシート60が一体化されることになる。この際、各リターンスプリングRSの圧縮量は、取付状態における圧縮量よりも小さく、スナップリング57に要求されるスプリングシート60とリターンスプリングRSとの保持能力(各リターンスプリングRSからの反力)はさほど高くない。なお、ここまでのピストン50に対する複数のリターンスプリングRSおよびスプリングシート60の位置決めおよび仮止め(抜け止め)は、手作業により行われてもよいが、組立ロボットにより行われると好ましい。
【0035】
こうしてピストン50に対してスプリングシート60および複数のリターンスプリングRSを仮止め(抜け止め)したならば、図8(a)に示すように、一体化されたピストン50、複数のリターンスプリングRSおよびスプリングシート60をリヤケース22b内に配置(嵌合)する。こうしてピストン50等がリヤケース22b内に配置された状態では、図8(b)に示すように、スプリングシート60の背面(図中右側の面)がリヤケース22bの端面(トランスアクスルケース22aとの当接面)よりも外方(図中右側)に突出する。そして、リヤケース22bやピストン50等からなるアセンブリをトランスアクスルケース22a等からなるアセンブリに取り付ける。なお、トランスアクスルケース22aに対するリヤケース22bの取付工程に先立って、トランスアクスルケース22a内には、ラビニヨ式遊星歯車機構32の構成要素等と共にブレーキハブ44が配置されると共に、トランスアクスルケース22aのスプライン歯22sやブレーキハブ44のスプライン歯44sにリテーニングプレート45や第1および第2摩擦板41,42が予め定められた順番で嵌め込まれている。
【0036】
トランスアクスルケース22aに対するリヤケース22bの取付に際しては、スプリングシート60をトランスアクスルケース22aのシート支持部としてのスプライン歯22sの先端面に当接させると共にリヤケース22bと共にピストン50をトランスアクスルケース22aに向けて押し込んで各リターンスプリングRSを軸方向に圧縮する。これにより、スプリングシート60の背面をトランスアクスルケース22aのスプライン歯22sに当接させた時点で当該スプリングシート60の背面とピストン50のスナップリング57とが当接していても、リヤケース22bやピストン50の移動に伴ってリターンスプリングRSが更に圧縮されることによりスプリングシート60がピストン50のスナップリング57から離間する。従って、スプリングシート60等のピストン50に対する仮止め(抜け止め)が解除されると共に、スナップリング57は、図5に示すように、スプリングシート60よりも第1および第2摩擦板41,42側で当該スプリングシート60と軸方向に間隔dをおいて対向することになる。そして、トランスアクスルケース22aに対してリヤケース22bを締結することにより、リヤケース22bやピストン50等からなるアセンブリのトランスアクスルケース22a等からなるアセンブリへの取り付けと共に、ブレーキB1の組立が完了することになる。
【0037】
以上説明したように、実施例の自動変速機30のブレーキB1は、トランスアクスルケース(第1摩擦板支持部材)22aにより摺動自在に支持される第1摩擦板41と、締結対象側のブレーキハブ(第2摩擦板支持部材)44により摺動自在に支持されると共に第1摩擦板41と摩擦係合可能な第2摩擦板42と、トランスアクスルケース22aに対して軸方向に移動して第1および第2摩擦板41,42を押圧可能なピストン50と、それぞれ一端がスプリングシート60により支持されると共にピストン50を第1および第2摩擦板41,42から離間するように軸方向に付勢する複数のリターンスプリングRSとを含む。かかるブレーキB1では、複数のリターンスプリングRSの他端がピストン50のスプリング当接部56と当接すると共に、スプリングシート60がトランスアクスルケース22aのスプライン歯22sにより軸方向に支持される。また、ピストン50は、トランスアクスルケース22aのスプライン歯22sにより支持されたスプリングシート60、すなわち当該スプリングシート60とスプライン歯22sの一端部との当接面よりも第1および第2摩擦板41,42側で当該スプリングシート60と軸方向に間隔をおいて対向するスナップリング57を有している。
【0038】
このようなブレーキB1の組立に際しては、スプリングシート60により一端が支持された複数のリターンスプリングRSの他端をピストン50のスプリング当接部56に当接させると共に、スプリングシート60をピストン50に装着されたスナップリング57に当接させてスプリングシート60および複数のリターンスプリングRSからなるリターンスプリングユニットをピストン50に対して軸方向に移動しないようにピストン50に仮止め(抜け止め)する。更に、ピストン50をトランスアクスルケース22aに組み付ける際に、スプリングシート60をトランスアクスルケース22aのスプライン歯22sに当接させると共にピストン50をトランスアクスルケース22aに向けて押し込んでリターンスプリングRSを軸方向に圧縮し、スプリングシート60およびリターンスプリングRSのピストン50に対する仮止め(抜け止め)を解除する。
【0039】
これにより、ピストン50に複数のリターンスプリングRSおよびスプリングシート60(リターンスプリングユニット)を容易に仮止め(抜け止め)した上で、リターンスプリングRSとスプリング当接部56との位置合わせに要求されるような目視による確認作業を行うことなくピストン50やリターンスプリングRS等(リターンスプリングユニット)をトランスアクスルケース22aに対して容易に組み付けることが可能となるので、ブレーキB1の組立性を向上させることができる。また、複数のリターンスプリングRSを支持したスプリングシート60をトランスアクスルケース22aのスプライン歯22sにより軸方向に支持することで、ブレーキB1ひいては自動変速機30の軸長の増加を容易に抑制することができる。更に、ブレーキB1の動作を担保するためにピストン50の軸長にはある程度の余裕を持たせるのが一般的である。また、ピストン50のスナップリング57は、ブレーキB1の組立完了後には当該ブレーキB1の動作に何ら関与せず、しかもスナップリング57に要求されるスプリングシート60とリターンスプリングRSとの保持能力は上述のようにさほど高くない。従って、押圧円筒部53へのスナップリング57の設置、すなわちスナップリング57を装着する溝や当該溝の周囲の補強部の形成に伴う実質的なピストン50の軸長の増加はないといってよい。
【0040】
また、実施例のピストン50は、第1および第2摩擦板41,42の一方と当接可能な環状の押圧面53aと、押圧面53aよりも外周側に形成された複数のスプリング当接部56を有する。このようなピストン50は、環状の押圧面53aの全体により第1および第2摩擦板41,42を押圧可能であることから押圧面53aとそれと当接する第1摩擦板41との焼き付きを良好に抑制可能とする一方で、スプリング当接部56の背面側からの目視によるリターンスプリングRSの遊端とスプリング当接部56との位置合わせを極めて難しくするものである。従って、このような構成を有するピストン50を含むブレーキB1に上述のようなスナップリング57を用いた仮止め構造(抜け止め構造)を適用すれば、ピストン50に複数のリターンスプリングRSおよびスプリングシート60(リターンスプリングユニット)を容易に仮止め(抜け止め)した上で、リターンスプリングとスプリング当接部56との位置合わせに要求されるような目視による確認作業を行うことなくピストン50をトランスアクスルケース22aに対して容易に組み付けることが可能となる。この結果、良好な組立性を有すると共に軸長の増加を抑制可能であり、かつ押圧面53aと第1摩擦板41との焼き付きを良好に抑制することができるブレーキB1を得ることが可能となる。
【0041】
更に、上記実施例のように抜け止め部材としてスナップリング57を用いれば、ピストン50のスプリング当接部56に複数のリターンスプリングRSの遊端(他端)を当接させた後にピストン50に抜け止め部材を容易に設置可能となると共に、ピストン50への抜け止め部材の設置に伴うコストアップを抑制することができる。ただし、ピストン50の抜け止め部材は、スナップリング57以外のものによって構成されてもよく、例えば微少な突起をピストン50の押圧円筒部53の外周に形成してもよい。
【0042】
また、ブレーキB1の動作を担保するためにトランスアクスルケース22aの内周面に形成されるスプライン歯22sの軸長にはある程度の余裕を持たせるのが一般的であることから、上記実施例のようにトランスアクスルケース22aの内周面に形成されるスプライン歯22sの先端面(一端部)によりスプリングシート60を支持すれば、スプリングシート60を支持する部材(部分)の設置に伴うトランスアクスルケース22aひいては自動変速機30の軸長の増加を抑制したり、当該軸長を短縮化したりすることができる。
【0043】
更に、上述のように、第1摩擦板41を支持するトランスアクスルケース22aと、トランスアクスルケース22aに締結(連結)されると共にピストン50を摺動自在に支持するリヤケース22bとの連結部(接合部)を跨ぐように配置されるブレーキB1に対してスナップリング57を用いた抜け止め構造(仮止め構造)を適用すれば、リヤケースにより支持されたピストンに対してスプリングシートにより支持された複数のリターンスプリングを配置すると共にスプリングシートをスナップリングによりリヤケースに固定する場合(特許文献1の第1のブレーキ参照)に比べて、リヤケース22bにスナップリング57を装着しない分だけリヤケース22bの軸長を短縮化することができるので、それによりブレーキB1ひいては自動変速機30の軸長を短縮化することが可能となる。
【0044】
なお、トランスアクスルケース22a(トランスミッションケース22)側のスプリングシート60の支持部は、スプライン歯22sのようなトランスアクスルケース22aと一体に形成されるものでなくてもよい。すなわち、図9に示すブレーキB1′のように、トランスアクスルケース22aの内周面に装着されるスナップリング58といったトランスアクスルケース22a(トランスミッションケース22)に装着(固定)される別部材によりスプリングシート60を支持してもよい。また、スナップリング57を用いた抜け止め構造(仮止め構造)は、トランスアクスルケース22aとリヤケース22bとの連結部(接合部)を跨ぐように配置されるブレーキB1以外にも適用することができる。すなわち、スナップリング57を用いた抜け止め構造(仮止め構造)は、図10に示すようなトランスミッションケース22″の分離部を跨がないように配置されるブレーキB1″(例えば、自動変速機30のブレーキB3)に適用されてもよい。更に、スナップリング57を用いた抜け止め構造(仮止め構造)の適用対象は、自動変速機30の回転要素をトランスミッションケース22に対して固定可能なブレーキB1等に限られず、自動変速機30の回転要素同士を締結するためのクラッチ(多板式油圧クラッチ)であってもよい。また、各リターンスプリングRSの遊端を他の部材(例えばスプリングシート)を介してピストン50のスプリング当接部56と当接させてもよい。
【0045】
ここで、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。すなわち、上記実施例では、トランスミッションケース22,22″に嵌合される第1摩擦板41と、ブレーキハブ44に嵌合されると共に第1摩擦板41と摩擦係合可能な第2摩擦板42と、トランスミッションケース22,22″に対して軸方向に移動して第1および第2摩擦板41,42を押圧可能なピストン50と、第1摩擦板41と当接するピストン50の押圧円筒部53の外周側に配置されると共に軸方向における一端がトランスミッションケース22,22″と当接すると共に軸方向における他端がピストン50と当接し、ピストン50を第1および第2摩擦板41,42から離間するように付勢する複数のリターンスプリングRSとスプリングシート60とからなるリターンスプリングユニットとを備えたブレーキB1、B1′、B1″が「摩擦係合装置」に相当し、スプリングシート60とスプライン歯22sの一端部(トランスミッションケース22,22″)との当接面よりも第1および第2摩擦板41,42側でピストン50に取り付けられると共に複数のリターンスプリングRSとスプリングシート60とからなるリターンスプリングユニットがピストン50から軸方向に抜けないようにするスナップリング57が「抜け止め部材」に相当し、トランスアクスルケース22aが「第1ケース」に相当し、リヤケース22bが「第2ケース」に相当する。ただし、実施例等の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載された発明の主要な要素との対応関係は、実施例等が課題を解決するための手段の欄に記載された発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。すなわち、実施例等はあくまで課題を解決するための手段の欄に記載された発明の具体的な一例に過ぎず、課題を解決するための手段の欄に記載された発明の解釈は、その欄の記載に基づいて行なわれるべきものである。
【0046】
以上、実施例を用いて本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において様々な変更をなし得ることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、摩擦係合装置の製造産業において利用可能である。
【符号の説明】
【0048】
10 自動車、12 エンジン、14 エンジン用電子制御ユニット(エンジンECU)、15 ブレーキ用電子制御ユニット(ブレーキECU)、16 クランクシャフト、18 フロントカバー、20 動力伝達装置、21 変速用電子制御ユニット(変速ECU)、22 トランスミッションケース、22,22″ トランスミッションケース、22a トランスアクスルケース、22b リヤケース、22s,44s スプライン歯、23 流体伝動装置、24 ポンプインペラ、25 タービンランナ、26 ステータ、27 ワンウェイクラッチ、28 ロックアップクラッチ、29 オイルポンプ、30 自動変速機、31 インプットシャフト、32 ラビニヨ式遊星歯車機構、33a,33b サンギヤ、34 リングギヤ、35a ショートピニオンギヤ、35b ロングピニオンギヤ、36 キャリア、37 アウトプットシャフト、38 ギヤ機構、39 差動機構、41 第1摩擦板、42 第2摩擦板、44 ブレーキハブ、45 リテーニングプレート、50 ピストン、51 小径円筒部、52 大径円筒部、53 押圧円筒部、53a 押圧面、54 油室、55 延出部、56 スプリング当接部、57,58 スナップリング、60 スプリングシート、70 油圧制御装置、91 アクセルペダル、92 アクセルペダルポジションセンサ、93 ブレーキペダル、94 マスタシリンダ圧センサ、95 シフトレバー、96 シフトレンジセンサ、99 車速センサ、B1,B1′,B1″,B3 ブレーキ、C1,C2,C3 クラッチ、DW 駆動輪、F2 ワンウェイクラッチ、RS リターンスプリング。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケースに嵌合される第1摩擦板と、ブレーキハブに嵌合されると共に前記第1摩擦板と摩擦係合可能な第2摩擦板と、前記ケースに対して軸方向に移動して前記第1および第2摩擦板を押圧可能なピストンと、前記第1または第2摩擦板と当接する前記ピストンの押圧部の外周側に配置されると共に前記軸方向における一端が前記ケースと当接すると共に前記軸方向における他端が前記ピストンと当接し、該ピストンを前記第1および第2摩擦板から離間するように付勢するリターンスプリングユニットとを備えた摩擦係合装置において、
前記ケースと前記リターンスプリングユニットとの当接面よりも前記第1および第2摩擦板側で前記ピストンに取り付けられると共に前記リターンスプリングユニットが前記ピストンから軸方向に抜けないようにする抜け止め部材を有することを特徴とする摩擦係合装置。
【請求項2】
請求項1に記載の摩擦係合装置において、
前記ピストンの前記押圧部は、前記第1および第2摩擦板の一方と当接可能な環状の押圧面を有し、前記リターンスプリングユニットの前記他端は、前記押圧面よりも外周側で前記ピストンと当接することを特徴とする摩擦係合装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の摩擦係合装置において、
前記抜け止め部材は、前記ピストンに装着されたスナップリングであることを特徴とする摩擦係合装置。
【請求項4】
請求項1から3の何れか一項に記載の摩擦係合装置において、
前記ケースは、環状に形成されており、該ケースの内周面には、前記第1摩擦板が嵌合されるスプラインが形成されており、前記リターンスプリングユニットの前記一端は、前記スプラインの一端部と当接することを特徴とする摩擦係合装置。
【請求項5】
請求項4に記載の摩擦係合装置において、
前記ケースは、前記第1摩擦板が嵌合される第1ケースと、該第1ケースに連結されると共に前記ピストンを摺動自在に支持する第2ケースとを含むことを特徴とする摩擦係合装置。
【請求項6】
請求項4または5に記載の摩擦係合装置において、
前記ケースは、変速装置を構成するトランスミッションケースであり、
前記変速装置の回転要素を前記トランスミッションケースに対して固定可能なブレーキとして構成されることを特徴とする摩擦係合装置。
【請求項7】
ケースに嵌合される第1摩擦板と、ブレーキハブに嵌合されると共に前記第1摩擦板と摩擦係合可能な第2摩擦板と、前記ケースに対して軸方向に移動して前記第1および第2摩擦板を押圧可能なピストンと、前記第1または第2摩擦板と当接する前記ピストンの押圧部の外周側に配置されると共に前記軸方向における一端が前記ケースと当接すると共に前記軸方向における他端が前記ピストンと当接し、該ピストンを前記第1および第2摩擦板から離間するように付勢するリターンスプリングユニットとを備えた摩擦係合装置とを備えた摩擦係合装置の組立方法において、
(a)前記リターンスプリングユニットの前記他端を前記ピストンに当接させると共に、該リターンスプリングユニットを前記ピストンから軸方向に抜けないように抜け止めするステップと、
(b)前記ピストンを前記ケースに組み付ける際に、前記リターンスプリングユニットの前記一端を前記ケースに当接させると共に前記ピストンを前記ケースに向けて押し込んで前記リターンスプリングユニットを軸方向に圧縮し、前記リターンスプリングユニットの前記ピストンに対する抜け止めを解除するステップと、
を含む摩擦係合装置の組立方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2012−211665(P2012−211665A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−78402(P2011−78402)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】