説明

摩擦力可変成形体

【課題】電気絶縁性分散媒の滲み出しの問題がなく、電気的に摩擦力を調節できる効果が得られる摩擦力可変成形体、及びこれを備えた摩擦力可変装置を提供すること。
【解決手段】第一の面10aと第二の面10bとを備えた摩擦力可変成形体10であって、絶縁性部分11と、第一の面10aと第二の面10bとを導通する導電性部分12とを有し、導電性部分12の電気伝導率が1×10−9〜1×10(S/cm)であり、第一の面10aと第二の面10bとの間の全体の電気伝導率が1×10−14〜1×10−1(S/cm)であり、第一の面10aには、絶縁性部分11と、少なくとも一露出部当たりの面積が0.785〜7850(μm)の導電性部分12とが露出していることを特徴とする摩擦力可変成形体10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦力可変成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
電圧を印加することにより見かけの粘度が上昇する、いわゆる電気レオロジー(以下「ER」と記す。)効果を発現するER流体が知られている。ER流体は、印加する電圧を変化させることによってその粘度を可逆的かつ自由に変えることができ、しかも電圧の変化に対する応答性に優れている。
ER流体は、通常、シリコーンオイル等の電気絶縁性分散媒中に分散相粒子(ER粒子)が分散した形態である。そのため、長期間静置しておくとER粒子が沈降、凝集してしまい、安定したER効果が得られにくい。
【0003】
そこで、ER粒子の沈降、凝集を防止するために、ゲル骨格中に、ER粒子が分散した電気絶縁性分散媒を保持させたERゲルが提案されている(たとえば特許文献1参照)。
ERゲルは、電圧を印加しないときには、ER粒子が表面に浮き出すことによって接触面積が減って表面が低摩擦状態となり、一方、電圧を印加すると、ER粒子がゲル内に沈み込み、表面の摩擦力が増加する。よって、2つの電極の間にシート状のERゲルを配置したER素子によれば、電気的に摩擦力を調節できる。そのため、当該ER素子は、摩擦力を利用した装置、例えば、振動吸収装置(ダンパ等)、衝撃吸収装置(バンパ等)、固定装置(クランプ等)等への利用が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−266407号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記ER流体においては、経時変化でER粒子が沈降、凝集しやすいことに加えて、電気絶縁性分散媒が滲み出しやすく、シール構造を設けなければならない等の問題がある。
前記ERゲルにおいても、ERゲルの表面に、ゲルを形成している電気絶縁性分散媒が滲み出る問題がある。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、電気絶縁性分散媒の滲み出しの問題がなく、電気的に摩擦力を調節できる効果が得られる摩擦力可変成形体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の摩擦力可変成形体は、第一の面と第二の面とを備えた摩擦力可変成形体であって、絶縁性部分と、前記第一の面と前記第二の面とを導通する導電性部分とを有し、前記導電性部分の電気伝導率が1×10−9〜1×10(S/cm)であり、前記第一の面と前記第二の面との間の全体の電気伝導率が1×10−14〜1×10−1(S/cm)であり、前記第一の面には、前記絶縁性部分と、少なくとも一露出部当たりの面積が0.785〜7850(μm)の前記導電性部分とが露出していることを特徴とする。
本発明の摩擦力可変成形体においては、前記第二の面に、前記絶縁性部分と、少なくとも一露出部当たりの面積が0.785〜7850(μm)の前記導電性部分とが露出していることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、電気絶縁性分散媒の滲み出しの問題がなく、電気的に摩擦力を調節できる効果が得られる摩擦力可変成形体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】摩擦力可変成形体の一実施形態例を示す平面図(a)と、A−A線に沿う断面図(b)である。
【図2】摩擦力可変成形体の他の実施形態例、すなわち、絶縁性の多孔質フィルムを用いた摩擦力可変成形体の一例を示す平面図(a)と、A−A線に沿う断面図(b)である。
【図3】摩擦力可変成形体と共に用いることが好適な電極の実施形態例を示し、図3(a)は魚の骨形パターン、図3(b)ははしご形パターン、図3(c)はうず巻形パターンが形成された電極をそれぞれ示す平面図である。
【図4】本実施例における、電圧による摩擦力の変化を評価する方法を説明する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<摩擦力可変成形体>
図1は、摩擦力可変成形体の一実施形態例を示す平面図(a)と、A−A線に沿う断面図(b)である。
本実施形態の摩擦力可変成形体10は、第一の面10aと第二の面10bとを備えたものであって、絶縁性部分11と、第一の面10aと第二の面10bとを導通する導電性部分12とを有している。
【0011】
本発明において「絶縁性部分の電気伝導率」、「導電性部分の電気伝導率」は、絶縁性部分に用いる材料の電気伝導率、導電性部分に用いる材料の電気伝導率をそれぞれ意味する。
これらの電気伝導率は、以下の測定方法により定義される値(S/cm)を示す。絶縁性部分又は導電性部分に用いる材料0.5gを、錠剤成型用冶具(φ=10mm、高さ25mm)にそれぞれ入れ、常温かつ減圧下、油圧手動ポンプ(P−1B、理研計器(株)製)を使用し、当該材料に10MPaの圧力を10秒間加えて円板状の試料を成形する。この試料の厚さ(前記高さ方向の長さ)と、円板状の試料における2平面間の電気抵抗値(Ω)とを計測し、下記式から電気伝導率を算出する。
絶縁性部分又は導電性部分の電気伝導率=電気抵抗値の逆数×試料の厚さ/試料断面(円形)の面積
【0012】
「第一の面10aと第二の面10bとの間の全体の電気伝導率」は、第一の面10aと第二の面10bとの距離と、第一の面10aと第二の面10bとの間の電気抵抗値(Ω)とを計測し、下記式から算出される電気伝導率をいう。
第一の面10aと第二の面10bとの間の全体の電気伝導率=第一の面10aと第二の面10bとの間の電気抵抗値の逆数×第一の面10aと第二の面10bとの距離/試料断面の面積
式中、「試料断面の面積」とは、第一の面10aの面積と第二の面10bの面積との平均値を示す。
【0013】
導電性部分12は、その電気伝導率が1×10−9〜1×10(S/cm)であり、1×10−6〜1×10(S/cm)であることが好ましく、1×10−4〜1×10(S/cm)であることがより好ましい。
第一の面10aと第二の面10bとの間の全体の電気伝導率は1×10−14〜1×10−1(S/cm)であり、1×10−10〜1×10−1(S/cm)であることが好ましい。
これらの電気伝導率は、それぞれ上限値を超えると、導電性部分12の電気抵抗が小さいために、電圧が印加された際、電極と導電性部分12が短絡状態となり電位差を充分に確保できない。
当該電気伝導率のそれぞれ下限値未満では、導電性部分12の電気抵抗値が高いため、露出部12a近傍及び露出部12b近傍の電流値が低くなって、露出部12a及び露出部12bにそれぞれ電気力線が集中しにくくなり、電気的に摩擦力を調節できる効果(電気摩擦効果)が充分に得られにくい。
【0014】
導電性部分12を構成する材料としては、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン等の有機導電性高分子化合物;カーボンブラック、グラファイト、グラフェン、カーボンナノチューブ(CNT)等の炭素系化合物;酸化スズ、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化インジウムスズ等の金属酸化物;これらの金属酸化物に金属ドーピングを施したもの、水酸化チタン等の金属水酸化物、ER粒子などが挙げられる。
【0015】
ER粒子としては、シリカゲル等の無機粒子;セルロース、でんぷん、大豆カゼイン、ポリスチレン系イオン交換樹脂等の有機粒子;ER流体用複合粒子等を用いることができる。ER流体用複合粒子は、有機高分子微粒子(アクリル系微粒子、ポリスチレン系微粒子、メラミン系微粒子等)もしくは無機微粒子(酸化チタン微粒子、ガラス系微粒子等)からなる芯体と、特定の電気伝導率を有する前記金属酸化物等の無機化合物を用いて芯体を被覆する表層とからなる無機・有機複合粒子又は無機複合粒子である。
【0016】
絶縁性部分11は、その電気伝導率が1×10−12(S/cm)以下であることが好ましく、1×10−14(S/cm)以下であることがより好ましい。
当該電気伝導率の上限値を超えると、絶縁性部分11と導電性部分12との電気伝導率の差が小さくなる。そのため、露出部12a及び露出部12bに電気力線がそれぞれ集中しにくくなり、充分な電気摩擦効果が得られにくい。
絶縁性部分11を構成する材料としては、たとえばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂等の熱可塑性樹脂;ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリイミド、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂;ポリビニルアルコールとアルコキシシランとの架橋ポリマー、テフロン樹脂などが挙げられる。
【0017】
第一の面10aには、絶縁性部分11と導電性部分12とがそれぞれ露出し、導電性部分12が複数の露出部12aとして分布している。
【0018】
本発明において「一露出部」とは、その形状、面積とは無関係に、面に露出している一つの部分を意味する。
「少なくとも一露出部当たりの面積が0.785〜7850(μm)の前記導電性部分が露出し」とは、一露出部の面積が0.785〜7850(μm)の導電性部分が一つ以上露出しており、この範囲外の面積の導電性部分が露出していても露出していなくてもよいことを意味する。
「一露出部当たりの面積」は、デジタルマイクロスコープ等により計測される測定値により定義される値(μm)を示す。具体的には、デジタルマイクロスコープ(VHX−1000 、(株)キーエンス社製)を用い、20mm×20mm以上の面を有する摩擦力可変成形体における露出部の面積を計測し、一露出部当たりの面積を算出する。
【0019】
第一の面10aには、少なくとも一露出部当たりの面積が0.785〜7850(μm)の導電性部分12(露出部12a)が露出しており、一露出部当たりの面積が、好ましくは1.77〜1960(μm)、より好ましくは3.14〜707(μm)の導電性部分12(露出部12a)が露出している。
導電性部分12の一露出部当たりの面積が上限値を超えると、導電性部分12での電荷の移動が強まって、露出部12aに電気力線が集中しにくくなる。
導電性部分12の一露出部当たりの面積が下限値未満では、露出部12aに集中する電気力線量が不足する。
【0020】
露出部12aの形状は、特に限定されず、たとえば円形状、楕円状、多角形など、多様な形状であってよい。
一露出部当たりの面積が0.785〜7850(μm)の導電性部分12(露出部12a)の合計が第一の面10aの全体に占める面積比は、5〜85面積%であることが好ましく、10〜85面積%であることがより好ましい。
当該面積比の下限値未満であると、電気摩擦効果を発現する面積が狭くなるため、充分な電気摩擦効果が得られにくい。当該面積比の上限値を超えると、第一の面10aと第二の面10bとの間に充分な電位差が生じず、充分な電気摩擦効果が得られにくくなる。
【0021】
本実施形態の摩擦力可変成形体10においては、第二の面10bにも、第一の面10aと同様、絶縁性部分11と導電性部分12とがそれぞれ露出し、導電性部分12が複数の露出部12bとして分布している。
第二の面10bに露出している露出部12bの一露出部当たりの面積、及び一露出部当たりの面積が0.785〜7850(μm)の導電性部分12(露出部12b)の合計が第二の面10bの全体に占める面積比は、いずれも、第一の面10aにおける場合と同様である。
すなわち、摩擦力可変成形体10は、第一の面10aと第二の面10bの両方の面で、それぞれ電気的に摩擦力を調節できる。
【0022】
摩擦力可変成形体10の厚さは2000μm以下であることが好ましく、1〜1000μmであることがより好ましく、10〜500μmであることがさらに好ましい。
当該厚さが上限値を超えると、電圧印加時の印加電圧を高くする必要が有り、そのため電圧印加時に絶縁破壊や放電発生が起こりやすくなる。また、高価で大型の電源装置が必要となる。当該厚さの下限値未満であると、使用中に生じる傷などに対して、充分な材料強度が得られにくくなる。
【0023】
(摩擦力可変成形体10の製造方法)
本実施形態の摩擦力可変成形体10は、たとえば、絶縁性部分11を構成する材料の溶融物中に、導電性部分12を構成する材料からなる粒子を分散し、ホットプレス成型等を行うことにより製造できる。または、絶縁性部分11を構成する材料からなる板状物に、電子線等によって第一の面10aと第二の面10bとを貫通する円筒状の貫通孔を設け、当該貫通孔を、導電性部分12を構成する材料で充填することにより製造できる。
【0024】
(作用効果)
本実施形態の摩擦力可変成形体10においては、ER流体やERゲルのように、シリコーンオイル等の流体やゲルが用いられていないことから、電気絶縁性分散媒の滲み出しの問題がない。
【0025】
本実施形態の摩擦力可変成形体10においては、電圧が印加された際、露出部12aの一露出部当たりの面積を所定の露出面積範囲とすることにより、露出部12aに電気力線が集中しやすくなっている。
このため、摩擦力可変成形体10が一対の電極間に配置されている場合、第一の面10aと、第一の面10aと対向する電極(対向電極)との間で、印加される電圧の大きさに応じた静電引力が働く。これにより、摩擦力可変成形体10と対向電極との間の摩擦力を電気的に調節できる。
【0026】
また、本実施形態の摩擦力可変成形体10は、その材料強度が高いことから、ERゲル等では困難であった薄いシート状に成形できるなど、成形性にも優れている。
【0027】
(他の実施形態)
本発明の摩擦力可変成形体は、図1に示す実施形態に限定されず、たとえば、第二の面全体に導電性部分が露出している実施形態でもよい。
また、一露出部当たりの面積が0.785〜7850(μm)の導電性部分の合計が第一の面の全体に占める面積比と、一露出部当たりの面積が0.785〜7850(μm)の導電性部分の合計が第二の面の全体に占める面積比とが同じである実施形態でもよく、異なる実施形態でもよい。
【0028】
また、本発明の摩擦力可変成形体としては、絶縁性部分となる多孔性の板状物もしくはフィルムに、電気伝導率が1×10−9〜1×10(S/cm)の導電性材料を充填した実施形態でもよい。
絶縁性の多孔質フィルムを用いた摩擦力可変成形体の実施形態としては、ポリオレフィンやポリイミド等により形成される多孔性の板状物もしくはフィルムに、アニリン、ピロール、チオフェン等の単量体を含浸させ、その単量体を重合後、必要に応じてアンモニア処理、ドーパント処理等を行って所定の導電率になるように調整することにより、摩擦力可変成形体を容易に作製できる。
この実施形態の摩擦力可変成形体の製造においては、前記多孔性の板状物もしくはフィルムに対する前記単量体の濡れ性を高めるため、プラズマ処理、プライマー処理等の表面改質を行うことが好ましい。
【0029】
図2は、摩擦力可変成形体の他の実施形態例、すなわち、絶縁性の多孔質フィルムを用いた摩擦力可変成形体の一例を示す平面図(a)と、A−A線に沿う断面図(b)である。
本実施形態の摩擦力可変成形体20は、ポリエチレンからなる絶縁性部分21と、ポリアニリンからなる導電性部分22とを備えている。第一の面20aと第二の面20bとは、導電性部分22によって導通している。
第一の面20aには、絶縁性部分21と導電性部分22とがそれぞれ露出し、導電性部分22が多様な形状で複数の露出部22aとして分布している。
第一の面20aには、少なくとも一露出部当たりの面積が0.785〜7850(μm)の導電性部分22(露出部22a)が露出している。加えて、一露出部当たりの面積が0.785〜7850(μm)の導電性部分22(露出部22a)の合計が第一の面20aの全体に占める面積比は10〜85面積%となっている。
摩擦力可変成形体20においては、第二の面20bにも、第一の面20aと同様、絶縁性部分21と導電性部分22とがそれぞれ露出し、導電性部分22が複数の露出部22bとして分布している。第二の面20bに露出している露出部22bの一露出部当たりの面積、及び、一露出部当たりの面積が0.785〜7850(μm)の導電性部分22(露出部22b)の合計が第二の面20bの全体に占める面積比は、いずれも、第一の面20aにおける場合と同様である。すなわち、摩擦力可変成形体20は、第一の面20aと第二の面20bの両方の面で、それぞれ電気的に摩擦力を調節できる。
【0030】
本発明の摩擦力可変成形体は、印加される電圧の大きさに応じて、電気的に摩擦力を調節できる。
摩擦力可変成形体は、第一の面と第二の面との間に電圧を印加して用いる方法と、第一の面又は第二の面のいずれか一方の面に電圧を印加して用いる方法がある。
第一の面と第二の面との間に電圧を印加する場合は、導電性シート電極を第一の面と第二の面にそれぞれ押し当てる方法や、金属平板状電極を第一の面と第二の面にそれぞれ押し当て、各面に押し当てられている電極に電圧を印加する方法がある。
第一の面又は第二の面のいずれか一方の面に電圧を印加する場合は、図3に示す電極などが好適に用いられる。
図3は、摩擦力可変成形体と共に用いることが好適な電極の実施形態例を示す平面図である。図3(a)は魚の骨形パターン32、図3(b)ははしご形パターン33、図3(c)はうず巻形パターン34がそれぞれ基板31上に形成された平板状電極を示している。各平板状電極には、電源35がそれぞれ接続されている。
かかる電極は、たとえば銅、アルミニウム、ニッケル、クロム等の金属からなる薄膜(金属薄膜)をパターニングしたものが好適に用いられる。
金属薄膜としては、蒸着、メッキ、スパッタリング等による方法、導電性ペーストを塗布して乾燥する方法、金属箔を貼着する方法などにより成膜したものが挙げられる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
<摩擦力可変成形体とERゲルとの材料強度の比較>
摩擦力可変成形体(EFシート)とERゲル(ERGシート)について、その材料強度をそれぞれ測定した。その結果を表1に示した。
材料強度として引張強度を測定した。引張強度(MPa)の測定は、引張試験機(機器名:TENSILON RTC−1210、ORIENTEC社製)を用い、引張4号形ダンベル状の試験片をそれぞれ作製し、引っ張り速度10mm/min、温度25℃、相対湿度60%の条件下で行った。
試験片は、以下のようにしてそれぞれ作製した。
【0032】
[実施例1:EFシート(基材PVA/TEOS)の試験片作製]
ビーカーにイオン交換水100mLを加え、マグネティックスターラを用いて撹拌しながら、ポリビニルアルコール(PVA;和光純薬工業社製、重合度1500)5gと、アンチモンドーピング酸化スズ粉(SN−100P、石原産業社製、電気伝導率1×10S/cm)6gとを徐々に加えて、12時間撹拌することにより完全に溶解させた。この水溶液に、テトラエトキシシラン(TEOS)0.5mLを加え、加水分解触媒として0.1mol/L塩酸を加えて撹拌した後、泡が消えるまで静置した。その後、60℃で150分間の加熱処理を施し、さらに、100℃で60分間の加熱処理を施して水分を完全に除去することにより、EFシート(基材PVA/TEOS)を得た。このEFシートを引張4号形ダンベル状に切り出し、EFシート(基材PVA/TEOS)の試験片を得た。
得られたEFシート(基材PVA/TEOS)の試験片について、導電性部分の電気伝導率は1×10(S/cm)であり、EFシートの一方の面(第一の面)と他方の面(第二の面)との間の全体の電気伝導率は1×10−8(S/cm)であった。
第一の面には、基材部分(絶縁性部分)と酸化スズ部分(導電性部分)とがそれぞれ露出し、一露出部当たりの面積が0.785〜7850(μm)の当該導電性部分が露出していた。一露出部当たりの面積は、デジタルマイクロスコープ(VHX−1000 、(株)キーエンス社製)を用いて測定した(以下同様)。
第二の面にも、基材部分(絶縁性部分)と酸化スズ部分(導電性部分)とがそれぞれ露出していた。
【0033】
[実施例2:EFシート(基材PS)の試験片作製]
ポリスチレン(PSジャパン製、重合度300)20gと、アンチモンドーピング酸化スズ粉(SN−100P、石原産業社製、電気伝導率1×10S/cm)6gとを混ぜ、130℃に加熱し、130℃下で圧力(10MPa)を1分間加えた。次いで、ガスを抜くために圧力を取り除き、その後、再び圧力(30MPa)を加えて5分間保持した。その後、圧力(30MPa)を加えた状態で冷却することにより、EFシート(基材PS)を得た。このEFシートを引張4号形ダンベル状に切り出し、EFシート(基材PS)の試験片を得た。
得られたEFシート(基材PS)の試験片について、導電性部分の電気伝導率は1×10(S/cm)であり、EFシートの一方の面(第一の面)と他方の面(第二の面)との間の全体の電気伝導率は1×10−10(S/cm)であった。
第一の面には、基材部分(絶縁性部分)と酸化スズ部分(導電性部分)とがそれぞれ露出し、一露出部当たりの面積が0.785〜7850(μm)の当該導電性部分が露出していた。
第二の面にも、基材部分(絶縁性部分)と酸化スズ部分(導電性部分)とがそれぞれ露出していた。
【0034】
[比較例1:ERGシートの試験片作製]
まず、以下のようにして、ERGシートに使用するER粒子を製造した。
アンチモンドーピング酸化スズ粉(SN−100P、石原産業社製、電気伝導率1×10S/cm)30gと、水酸化チタン(石原産業社製、一般名:含水チタン、C−II、電気伝導率9.1×10−6S/cm)10gと、アクリル酸ブチル300gと、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート100gと、重合開始剤(アゾビスイソバレロニトリル)2gとを混合し、混合物を得た。
得られた混合物を、第三リン酸カルシウム25gを分散安定剤として含む水1800mL中に分散し、60℃で1時間撹拌下に懸濁重合を行い、得られた生成物を酸処理し、水洗後、脱水乾燥し、無機・有機複合粒子を得た。この粒子200gに鉄フタロシアニン(山陽色素社製、「P−26」)1.5gを加え、ボールミルにて50時間複合化処理を行い、次いで、これを、ジェット気流処理機(三井鉱山社製、「メカノハイブリッド」)を用いて周速100m/秒で30分間ジェット気流処理を行い、ER複合粒子を得た。
【0035】
次いで、窒素導入管、温度計、撹拌装置を備えた2Lのセパラブルフラスコに、ジメチルシリコーンオイル(東レ・ダウコーニング社製、「SH−200(100)」、室温(25℃)における動粘度が100mm/s、比重0.97/25℃、屈折率1.402/25℃)400gを仕込み、先に得られたER複合粒子600gを分散させ、窒素気流下で110〜120℃に加熱し、3時間撹拌することで、ER複合粒子の脱水を行った。得られた脱水ER複合粒子の溶液を混合溶液(A)とした。
【0036】
得られた混合溶液(A)を撹拌下、室温で5分間減圧脱気した後、下記の式(1−1)で示される化合物と、式(2−1)で示される化合物と、白金触媒Aと、硬化速度調整剤(東レ・ダウコーニング社製、LTV用硬化遅延剤)とをプロペラミキサーで均一に混合し、混合物(B)を得た。
なお、白金触媒Aとは、白金濃度が12.0質量%である白金ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体を、SH−200(10)(東レ・ダウコーニング社製、室温(25℃)における動粘度が10mm/sのジメチルポリシロキサン)で、白金濃度0.3質量%に希釈することで得られたものである。
【0037】
【化1】

【0038】
得られた混合物(B)を150mm×150mm×0.5mmの金型へ入れ、ER複合粒子の配列硬化処理を行うため、この金型に対して、2kV/mmの電界下、60℃で15分間の加熱処理を施すことによりERGシート状硬化物を得た。
次いで、このERGシート状硬化物のシリコーンオイル含有量を調整した後、ERGシート状硬化物を引張4号形ダンベル状に切り出し、ERGシートの試験片を得た。
【0039】
【表1】

【0040】
表1の結果から、実施例1、2のEFシートは、比較例1のERGシートに比べて、格段に材料強度が高いことが確認できる。
また、実施例1のEFシートは、実施例2のEFシートに比べて、材料強度が約2倍も高いことが確認できる。これより、基材(絶縁性部分)を選択することにより、材料強度をより高くできることが分かる。
【0041】
<電圧による摩擦力の変化>
摩擦力可変成形体(EFシート)について、電圧による摩擦力の変化を評価した。その結果を表2に示した。
本評価には、評価用EFシート(縦8cm×横8cm×厚さ1.3mm)として、実施例2と同様に作製して前記評価用EFシートの大きさに切り出したEFシート(以下「実施例3のEFシート」という。)と、以下に示す実施例4のEFシートとを用いた。
【0042】
[実施例4:EFシートの作製]
実施例1において、アンチモンドーピング酸化スズ粉(SN−100P、石原産業社製、電気伝導率1×10S/cm)6gを、アンチモンドーピング酸化スズ被覆酸化チタン粉(ET−500W、石原産業社製、電気伝導率4.2×10−1S/cm)1.5gに変更した以外は、実施例1と同様にしてEFシートを得た。このEFシートを前記評価用EFシートの大きさに切り出し、実施例4のEFシートを得た。
実施例4のEFシートについて、導電性部分の電気伝導率は4.2×10−1(S/cm)であり、EFシートの一方の面(第一の面)と他方の面(第二の面)との間の全体の電気伝導率は1×10−14(S/cm)であった。
第一の面には、基材部分(絶縁性部分)と酸化チタン部分(導電性部分)とがそれぞれ露出し、一露出部当たりの面積が0.785〜7850(μm)の当該導電性部分が露出していた。
第二の面にも、基材部分(絶縁性部分)と酸化チタン部分(導電性部分)とがそれぞれ露出していた。
【0043】
図4は、電圧による摩擦力の変化を評価する方法を説明する概略図である。
図4においては、支持台45の周辺側に、電極42aと、評価用EFシート41と、電極42bとがこの順に積層している。
電極42aと電極42bには、それぞれ、縦6cm×横4cm×厚さ1.0mmの金属平板状電極が用いられている。
電極42bの評価用EFシート41側と反対側の面には、100gの重り43が配置され、電極42bに均等に荷重が加わるように配置されている。また、電極42bは、ばねばかり44と、前記周辺側と対向する周辺側に固定されたガイド46を介して金属線47で接続されている。金属線47は、電極42bの一側面中央とガイド46との間は支持台45面と平行に、ガイド46とばねばかり44との間は支持台45面に対して垂直方向になるように、電極42bとばねばかり44とを接続している。
電極42aと電極42bとは、電源48に接続されている。
【0044】
図4に示す装置を用い、電圧の大きさを0、200、400、600、800Vと変化させた際、ばねばかり44を支持台45面に対して垂直方向(矢印方向)に引き上げ、電極42bが動き始めるときにばねばかり44が示す値(g)を測定した。
【0045】
【表2】

【0046】
表2の結果から、実施例3、4のEFシートは、印加される電圧の大きさに応じて、電気的に摩擦力を調節できる効果が得られることが確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の摩擦力可変成形体は、振動吸収装置(ダンパ等)、動力伝達装置(クラッチ等)、固定装置(静電チャック、クランプ等)、衝撃吸収装置(バンパ等)等の装置に適用できる。
【符号の説明】
【0048】
10 摩擦力可変成形体、10a 第一の面、10b 第二の面、11 絶縁性部分、12 導電性部分、12a 露出部、12b 露出部、20 摩擦力可変成形体、20a 第一の面、20b 第二の面、21 絶縁性部分、22 導電性部分、22a 露出部、22b 露出部、31 基板、35 電源、41 評価用EFシート、42a 電極、42b 電極、48 電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の面と第二の面とを備えた摩擦力可変成形体であって、
絶縁性部分と、前記第一の面と前記第二の面とを導通する導電性部分とを有し、
前記導電性部分の電気伝導率が1×10−9〜1×10(S/cm)であり、
前記第一の面と前記第二の面との間の全体の電気伝導率が1×10−14〜1×10−1(S/cm)であり、
前記第一の面には、前記絶縁性部分と、少なくとも一露出部当たりの面積が0.785〜7850(μm)の前記導電性部分とが露出していることを特徴とする摩擦力可変成形体。
【請求項2】
前記第二の面に、前記絶縁性部分と、少なくとも一露出部当たりの面積が0.785〜7850(μm)の前記導電性部分とが露出していることを特徴とする、請求項1記載の摩擦力可変成形体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−153837(P2012−153837A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−15797(P2011−15797)
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000224123)藤倉化成株式会社 (124)
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【Fターム(参考)】