摩擦材及び摩擦材の製造方法、粒子状の炭素繊維複合材料の製造方法及び粒子状の炭素繊維複合材料
【課題】 カーボンナノファイバーを用いた摩擦材の製造方法及び摩擦材、炭素繊維複合材料の製造方法及び炭素繊維複合材料を提供する。
【解決手段】 本発明の摩擦材2は、強化繊維と、摩擦調整材と、ゴム組成物と、バインダ樹脂と、を含む摩擦材である。ゴム組成物は、エラストマーに平均直径が0.5〜500nmのカーボンナノファイバーが均一に分散された粒子状の炭素繊維複合材料である。摩擦調整材は、鋭角なエッジを少なくとも1箇所以上有し、平均粒径0.1〜500μmの粒子状の堅果殻もしくはケイ酸化合物を含む。
【解決手段】 本発明の摩擦材2は、強化繊維と、摩擦調整材と、ゴム組成物と、バインダ樹脂と、を含む摩擦材である。ゴム組成物は、エラストマーに平均直径が0.5〜500nmのカーボンナノファイバーが均一に分散された粒子状の炭素繊維複合材料である。摩擦調整材は、鋭角なエッジを少なくとも1箇所以上有し、平均粒径0.1〜500μmの粒子状の堅果殻もしくはケイ酸化合物を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノファイバーを用いた摩擦材及び摩擦材の製造方法、粒子状の炭素繊維複合材料の製造方法及び粒子状の炭素繊維複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、カーボンナノファイバーはマトリックスに分散させにくいフィラーであった。。本発明者等が先に提案した炭素繊維複合材料の製造方法によれば、エラストマーとカーボンナノファイバーを混練し、剪断力によって凝集性の強いカーボンナノファイバーを均一に分散させることができた(例えば、特許文献1)。より具体的には、エラストマーとカーボンナノファイバーとを混合すると、粘性を有するエラストマーがカーボンナノファイバーの相互に侵入し、かつ、エラストマーの特定の部分が化学的相互作用によってカーボンナノファイバーの活性の高い部分と結合し、この状態で、分子長が適度に長く、分子運動性の高い(弾性を有する)エラストマーとカーボンナノファイバーとの混合物に強い剪断力が作用すると、エラストマーの変形に伴ってカーボンナノファイバーも移動し、さらに剪断後の弾性によるエラストマーの復元力によって、凝集していたカーボンナノファイバーが分離されて、エラストマー中に分散していた。このように、マトリックスへのカーボンナノファイバーの分散性を向上させることで、高価なカーボンナノファイバーを効率よく複合材料のフィラーとして用いることができるようになった。
【0003】
また、自動車などの車両に使用されるディスクブレーキ用のパッド、ドラムブレーキ用のシュー、クラッチ用のクラッチフェーシング等に使用する摩擦材としては、基材繊維、結合材および摩擦調整材を含み、摩擦調整材として、ゴム被覆カシューダストを用いた摩擦材が提案されていた(例えば、特許文献2)。
【特許文献1】特開2005−97525号公報
【特許文献2】特開2003−13044号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、カーボンナノファイバーを用いた摩擦材及び摩擦材の製造方法、粒子状の炭素繊維複合材料の製造方法及び粒子状の炭素繊維複合材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明にかかる摩擦材は、
強化繊維と、摩擦調整材と、ゴム組成物と、バインダ樹脂と、を含む摩擦材であって、
前記ゴム組成物は、エラストマーに平均直径が0.5〜500nmのカーボンナノファイバーが均一に分散され、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって150℃、観測核が1Hで観測した、無架橋体における、第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)は100ないし3000μ秒であり、第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn)を有する成分の成分分率(fnn)は0.2未満である粒子状の炭素繊維複合材料であって、
前記摩擦調整材は、鋭角なエッジを少なくとも1箇所以上有し、平均粒径0.1〜500μmの粒子状の堅果殻もしくはケイ酸化合物を含むことを特徴とする。
【0006】
本発明にかかる摩擦材によれば、炭素繊維複合材料のT2n及びfnnがこのような範囲にあることからエラストマー中にカーボンナノファイバーが均一に分散されており、これによって炭素繊維複合材料の劣化開始温度が高くなり、したがって炭素繊維複合材料は高温においても優れた減衰特性及び高い動的弾性率を維持することができる。その結果、本発明にかかる摩擦材によれば、高温における高摩擦係数を有すると共に、被摩擦部材との接触による高温における鳴きを低減させることができる。また、本発明にかかる摩擦材によれば、被摩擦部材との均一接触によって摩耗量を低減させることができる。さらに、本発明にかかる摩擦材によれば、堅果殻もしくはケイ酸化合物によってブレーキ鳴きや摩耗を改善することができる。
【0007】
本発明にかかる摩擦材において、
前記炭素繊維複合材料は、前記エラストマー100重量部に対して、前記カーボンナノファイバー5〜100重量部を含むことができる。
【0008】
本発明にかかる摩擦材において、
前記摩擦調整材は、堅果殻を含み、
前記堅果殻は、カシューダストであることができる。
【0009】
本発明にかかる摩擦材において、
前記摩擦調整材は、ケイ酸化合物を含み、
前記ケイ酸化合物は、カオリンクレーであることができる。
【0010】
本発明にかかる粒子状の炭素繊維複合材料の製造方法は、
エラストマーとカーボンナノファイバーとを混練して炭素繊維複合材料を得る工程と、
前記炭素繊維複合材料と、鋭角なエッジを少なくとも1箇所以上有し平均粒径0.1〜500μmの粒子状の堅果殻もしくはケイ酸化合物と、を混練し、多孔質体を得る工程と、
前記多孔質体を粉砕して粒子状の炭素繊維複合材料を得る工程と、
を含むことを特徴とする。
【0011】
本発明にかかる粒子状の炭素繊維複合材料の製造方法によれば、鋭角なエッジを有する摩擦調整材によって炭素繊維複合材料を削り取って多孔質体を得て、さらに粉砕することで粒子状の炭素繊維複合材料を容易に得ることができる。従来、摩擦材にゴム組成物を用いる場合、粉砕して粒子状にする工程は複雑であったが、本発明にかかる粒子状の炭素繊維複合材料の製造方法によれば容易に炭素繊維複合材料を粒子状とすることができるので、摩擦材に容易に用いることができる。
【0012】
本発明にかかる粒子状の炭素繊維複合材料の製造方法において、
前記粒子状の炭素繊維複合材料は、堅果殻を含み、
前記堅果殻は、カシューダストであることができる。
【0013】
本発明にかかる粒子状の炭素繊維複合材料の製造方法において、
前記粒子状の炭素繊維複合材料は、ケイ酸化合物を含み、
前記ケイ酸化合物は、カオリンクレーであることができる。
【0014】
本発明にかかる粒子状の炭素繊維複合材料は、前記製造方法で得られることができる。
【0015】
本発明にかかる摩擦材の製造方法は、前記製造方法で得られた粒子状の炭素繊維複合材料を、強化繊維及びバインダ樹脂と混合し成形する工程をさらに含むことができる。
【0016】
本発明にかかる摩擦材の製造方法によれば、炭素繊維複合材料が粒子状であるため、強化繊維やバインダ樹脂と容易に混合することができる。また、本発明にかかる摩擦材の製造方法によれば、粒子状の炭素繊維複合材料が摩擦調整材に吸着しているため、比較的比重の軽い炭素繊維複合材料であっても摩擦材における偏析が少ない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0018】
本発明の一実施形態にかかる摩擦材は、強化繊維と、摩擦調整材と、ゴム組成物と、バインダ樹脂と、を含む摩擦材であって、前記ゴム組成物は、マトリックスであるエラストマーに平均直径が0.5〜500nmのカーボンナノファイバーが均一に分散され、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって150℃、観測核が1Hで観測した、無架橋体における、第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)は100ないし3000μ秒であり、第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn)を有する成分の成分分率(fnn)は0.2未満である粒子状の炭素繊維複合材料であって、前記摩擦調整材は、鋭角なエッジを少なくとも1箇所以上有し、平均粒径0.1〜500μmの粒子状の堅果殻もしくはケイ酸化合物を含むことを特徴とする。
【0019】
本発明の一実施形態にかかる粒子状の炭素繊維複合材料の製造方法は、エラストマーとカーボンナノファイバーとを混練して炭素繊維複合材料を得る工程と、前記炭素繊維複合材料と、鋭角なエッジを少なくとも1箇所以上有し平均粒径0.1〜500μmの粒子状の堅果殻もしくはケイ酸化合物と、を混練し、多孔質体を得る工程と、前記多孔質体を粉砕して粒子状の炭素繊維複合材料を得る工程と、を含むことを特徴とする。
【0020】
本発明の一実施形態にかかる粒子状の炭素繊維複合材料は、前記製造方法で得ることができる。
【0021】
本発明の一実施形態にかかる摩擦材の製造方法は、前記製造方法で得られた粒子状の炭素繊維複合材料を、強化繊維及びバインダ樹脂と混合し成形する工程をさらに含むことができる。
【0022】
(I)摩擦材
図1は、本発明の一実施形態に係るディスクブレーキ用のパッドの正面図である。図2は、本発明の一実施形態に係るディスクブレーキ用のパッドの一部切欠き平面図である。図3は、本発明の一実施形態に係るディスクブレーキ用のパッドの背面図である。図4は、本発明の一実施形態に係るディスクブレーキの構造を示す縦断面図である。
本発明の一実施形態にかかる摩擦材は、例えば、図1〜図4に示すような自動車等のディスクブレーキ10に用いることができる。図4に示すように、自動車等に用いられるディスクブレーキ10の構造は、例えば油圧装置による油圧によってキャリパボディ11の液圧室14に伝えられてピストン12を押圧し、その押圧する力によって、パッド1、1の摩擦材2、2を円板状のディスクロータ13を挟み込むように押圧して、ディスクロータ13の回転をその摩擦作用によって制動する。図1〜図3に示すように、ディスクブレーキ10のパッド1は、キャリパボディ11及びピストン12にシム板5を介して押圧される金属製のバックプレート3(以下、「プレート3」という)と、ディスクロータ13と接触して摩擦力を発生する摩擦材2から構成されている。摩擦材2は、ディスクロータ13に接触する平坦面21を有し、プレート3に穿設された二つの結着孔4,4に摩擦材2の一部が入りこむことでプレート3に強固に結着されている。なお、ディスクブレーキ10の形式は、本実施形態のようなピンスライド式に限らず、ピストンがディスクロータの両側に配置された対向型ディスクブレーキでもよく、ピストンの数やシム板の形状も本実施形態に限定されない。また、本実施形態においては、ディスクブレーキ10のパッド1に用いる摩擦材2について説明したが、例えば、ドラムブレーキ(図示しない)のシューの摩擦材やクラッチ用のクラッチフェーシング等としても適用可能である。
【0023】
摩擦材2は、強化繊維と、摩擦調整材と、ゴム組成物と、バインダ樹脂と、を含む摩擦材であって、前記ゴム組成物は、マトリックスであるエラストマーに平均直径が0.5〜500nmのカーボンナノファイバーが均一に分散され、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって150℃、観測核が1Hで観測した、無架橋体における、第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)は100ないし3000μ秒であり、第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn)を有する成分の成分分率(fnn)は0.2未満である粒子状の炭素繊維複合材料であって、前記摩擦調整材は、鋭角なエッジを少なくとも1箇所以上有し、平均粒径0.1〜500μmの粒子状の堅果殻もしくはケイ酸化合物を含むことができる。摩擦材2は、炭素繊維複合材料のT2n及びfnnがこのような範囲にあることからエラストマー中にカーボンナノファイバーが均一に分散されており、これによって炭素繊維複合材料の劣化開始温度が高くなり、したがって炭素繊維複合材料は高温においても優れた減衰特性及び高い動的弾性率を維持することができる。その結果、摩擦材2は、高温における高摩擦係数を有すると共に、被摩擦部材との接触による高温における鳴きを低減させることができる。また、摩擦材2は、被摩擦部材例えばディスクロータ13との均一接触によって摩耗量を低減させることができる。さらに、摩擦材2は、堅果殻もしくはケイ酸化合物を含むことでブレーキ鳴きや摩耗を改善することができる。
【0024】
(II)強化繊維、摩擦調整材、バインダ樹脂
バインダ樹脂に混合する強化繊維や摩擦調整材として、従来から用いられている材料を適宜選択して用いることができる。このような強化繊維としては、例えば、アルミナ繊維、ガラス繊維、ロックウール、チタン酸カリウム繊維、セラミック繊維、シリカ繊維、カオリン繊維、ボーキサイト繊維、カヤノイド繊維、ホウ素繊維、マグネシア繊維、金属繊維などの無機繊維、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、ポリイミド系繊維、ポリビニルアルコール変性繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ポリプロピレン繊維、ポリベンゾイミダゾール繊維、アクリル繊維、炭素繊維、フェノール繊維、ナイロン繊維、セルロース繊維などの有機繊維から選ばれる1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
また、摩擦調整材としては、鋭角なエッジを少なくとも1箇所以上有し、平均粒径0.1〜500μmの粒子状の堅果殻もしくはケイ酸化合物を含むことができる。なお、平均粒径の測定方法は、電子顕微鏡で観察・撮影した複数例えば50個のサンプル粒子の長径及び短径を測定し、その平均値を求めることができる。このように鋭角なエッジを有する摩擦調整材は、炭素繊維複合材料と混練することで、比較的容易に粒子状の炭素繊維複合材料を得ることができる。このような摩擦調整材としては、堅果殻やケイ酸化合物が好ましく、堅果殻としては例えばカシューナッツ殻や胡桃殻を燻炭化してから微粉砕したカシューダストや胡桃殻粒子などが好ましく、ケイ酸化合物としては例えばカオリンクレー、モンモリロナイト、セリサイト、雲母などの微粉砕粒子が好ましい。このような堅果殻やケイ酸化合物の粒子は、鋭角なエッジを有しており、後述するように、炭素繊維複合材料と共に混練することで炭素繊維複合材料を容易に粉体化することができる。炭素繊維複合材料は、混練時に摩擦調整材に削り取られて、粉砕されることで摩擦調整材を覆うようにあるいは部分的に吸着した粒子状となっているため、摩擦調整材の粒子径を選択することでほぼ所望の粒子径を有する粒子状の炭素繊維複合材料を得ることができる。なお、摩擦調整材としては前記堅果殻もしくはケイ酸化合物に加えて、一般に摩擦材の摩擦調整材として用いられる例えば、金属酸化物、アルミナ、酸化ジルコニウム、ケイ酸ジルコニウム、酸化マグネシウム、シリカなどの硬質無機物、グラファイト、金属硫化物の二硫化モリブデン、三硫化アンチモンなどの潤滑剤、銅、真鍮、亜鉛、鉄などの金属粉などが使用できる。その他、摩擦材に一般に用いられる充填剤として、例えば硫酸バリウム、炭酸カルシウム、消石灰、マイカ、タルク等を用いるとができる。
【0026】
本実施形態にかかる摩擦材2の強化繊維や摩擦調整材の結着材であるバインダ樹脂は、熱硬化性のフェノール樹脂が好ましいが、他の硬化性樹脂例えば、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、アルキド樹脂、アクリル樹脂、メラミン樹脂、キシレン樹脂、グアナミン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、アリルエステル樹脂、フラン樹脂、イミド樹脂、ウレタン樹脂、ユリア樹脂等の樹脂を用いることができる。また、フェノール樹脂としては、具体的には、レゾール型フェノール樹脂、ノボラック型フェノール樹脂等が挙げられるが、ノボラック型フェノール樹脂が好ましい。このようなフェノール樹脂は、変性されていてもよく、変性されていなくともよい。バインダ樹脂は、1種単独でまたは2種以上混合して用いることができる。中でも気密性が要求される分野では、エポキシ樹脂とフェノール樹脂の組み合わせなど、硬化反応においてガスが発生しない樹脂を選択することが好ましい。これらの樹脂を用いることによって硬化体中に空隙がない、気密性の高い成形体を得ることができる。
【0027】
(III)炭素繊維複合材料
摩擦材に用いられるゴム組成物は、マトリックスであるエラストマーに平均直径が0.5〜500nmのカーボンナノファイバーが均一に分散され、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって150℃、観測核が1Hで観測した、無架橋体における、第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)は1000ないし3000μ秒であり、第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn)を有する成分の成分分率(fnn)は0.2未満の粒子状の炭素繊維複合材料である。炭素繊維複合材料が粒子状であることによって、比較的比重の軽いゴム組成物であっても他の充填材や強化繊維などと容易に混合することができる。粒子状の炭素繊維複合材料は、鋭角なエッジを少なくとも1箇所以上有する摩擦調整材を覆うようにもしくは部分的に吸着しており、平均粒径が100〜800μmであることができる。炭素繊維複合材料は、無架橋体のままで摩擦材に配合することができる。また、炭素繊維複合材料は、架橋して摩擦材に配合することもできる。炭素繊維複合材料は、架橋体において、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって150℃、観測核が1Hで観測した、第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)は100ないし2000μ秒であり、第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn)を有する成分の成分分率(fnn)は0.2未満であることが好ましい。
【0028】
炭素繊維複合材料のパルスNMR法による1H共鳴で観測したT2n,fnnは、マトリックスであるエラストマーにカーボンナノファイバーが均一に分散されていることを表すことができる。つまり、エラストマーにカーボンナノファイバーが均一に分散されているということは、エラストマーがカーボンナノファイバーによって拘束されている状態であるともいえる。この状態では、カーボンナノファイバーによって拘束を受けたエラストマー分子の運動性は、カーボンナノファイバーの拘束を受けない場合に比べて小さくなる。そのため、本実施形態にかかる炭素繊維複合材料の第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)、第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn)及びスピン−格子緩和時間(T1)は、カーボンナノファイバーを含まないエラストマー単体の場合より短くなり、特にカーボンナノファイバーが均一に分散することでより短くなる。なお、架橋体におけるスピン−格子緩和時間(T1)は、カーボンナノファイバーの混合量に比例して変化する。
また、エラストマー分子がカーボンナノファイバーによって拘束された状態では、以下の理由によって、非ネットワーク成分(非網目鎖成分)は減少すると考えられる。すなわち、カーボンナノファイバーによってエラストマーの分子運動性が全体的に低下すると、非ネットワーク成分は容易に運動できなくなる部分が増えて、ネットワーク成分と同等の挙動をしやすくなること、また、非ネットワーク成分(末端鎖)は動きやすいため、カーボンナノファイバーの活性点に吸着されやすくなること、などの理由によって、非ネットワーク成分は減少すると考えられる。そのため、第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn)を有する成分の成分分率(fnn)は、カーボンナノファイバーを含まないエラストマー単体の場合より小さくなる。なお、第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)を有する成分の成分分率(fn)は、fn+fnn=1であるので、カーボンナノファイバーを含まないエラストマー単体の場合より大きくなる。
以上のことから、本実施形態にかかる炭素繊維複合材料は、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって得られる測定値が前記の範囲にあることによってカーボンナノファイバーが均一に分散されていることがわかる。
【0029】
カーボンナノファイバーが分散した炭素繊維複合材料は、熱機械分析における劣化開始温度が原料のエラストマー単体の劣化開始温度よりも高い温度となる。熱機械分析における劣化開始温度は、軟化劣化(膨張)及び硬化劣化(収縮)を含む劣化現象が開始する温度であって、熱機械分析によって得られた温度−線膨張係数微分値の特性グラフから劣化現象が開始した温度を測定して得られる。炭素繊維複合材料の劣化開始温度が高いということは、高温においても炭素繊維複合材料の劣化が始まらないので、摩擦材を使用することのできる最高温度が高くなるため望ましい。炭素繊維複合材料は、エラストマーにカーボンナノファイバーが良好に分散されているため、エラストマーがカーボンナノファイバーによって拘束されている状態であるともいえる。したがって、エラストマーは、カーボンナノファイバーを含まない場合に比べて、その分子運動が小さくなり、その結果、劣化開始温度が高温側へ移動する。したがって、炭素繊維複合材料は高温における減衰特性に優れ、高い動的弾性率を有することができる。
(IV)エラストマー
まず、炭素繊維複合材料に用いられるエラストマーについて説明する。
エラストマーは、分子量が好ましくは5000〜500万、さらに好ましくは2万〜300万である。エラストマーの分子量がこの範囲であると、エラストマー分子が互いに絡み合い、相互につながっているので、エラストマーは、カーボンナノファイバーを分散させるために良好な弾性を有している。エラストマーは、粘性を有しているので凝集したカーボンナノファイバーの相互に侵入しやすく、さらに弾性を有することによってカーボンナノファイバー同士を分離することができるため好ましい。
【0030】
エラストマーは、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって、30℃、観測核が1Hで観測した、未架橋体におけるネットワーク成分のスピン−スピン緩和時間(T2n/30℃)が好ましくは100〜3000μ秒、より好ましくは200〜1000μ秒である。前記範囲のスピン−スピン緩和時間(T2n/30℃)を有することにより、エラストマーは、柔軟で充分に高い分子運動性を有することができ、すなわちカーボンナノファイバーを分散させるために適度な弾性を有することになる。また、エラストマーは粘性を有しているので、エラストマーとカーボンナノファイバーとを混合したときに、エラストマーは高い分子運動によりカーボンナノファイバーの相互の隙間に容易に侵入することができる。
また、エラストマーは、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって30℃、観測核が1Hで観測した、架橋体における、ネットワーク成分のスピン−スピン緩和時間(T2n)が100〜2000μ秒であることが好ましい。その理由は、上述した未架橋体と同様である。すなわち、前記の条件を有する未架橋体を架橋化すると、得られる架橋体のT2nはおおよそ前記範囲に含まれる。
【0031】
パルス法NMRを用いたハーンエコー法によって得られるスピン−スピン緩和時間は、物質の分子運動性を表す尺度である。具体的には、パルス法NMRを用いたハーンエコー法によりエラストマーの1H共鳴で観測されるスピン−スピン緩和時間を測定すると、緩和時間の短い第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)を有する第1の成分と、緩和時間のより長い第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn)を有する第2の成分とが検出される。第1の成分は高分子のネットワーク成分(骨格分子)に相当し、第2の成分は高分子の非ネットワーク成分(末端鎖などの枝葉の成分)に相当する。そして、第1のスピン−スピン緩和時間が短いほど分子運動性が低く、エラストマーは固いといえる。また、第1のスピン−スピン緩和時間が長いほど分子運動性が高く、エラストマーは柔らかいといえる。
パルス法NMRにおける測定法としては、ハーンエコー法でなくてもソリッドエコー法、CPMG法(カー・パーセル・メイブーム・ギル法)あるいは90゜パルス法でも適用できる。ただし、本発明にかかるエラストマーは中程度のスピン−スピン緩和時間(T2)を有するので、ハーンエコー法が最も適している。一般的に、ソリッドエコー法および90゜パルス法は、短いT2の測定に適し、ハーンエコー法は、中程度のT2の測定に適し、CPMG法は、長いT2の測定に適している。
【0032】
エラストマーは、主鎖、側鎖および末端鎖の少なくともひとつに、カーボンナノファイバーの末端のラジカルに対して親和性を有する不飽和結合または基を有するか、もしくは、このようなラジカルまたは基を生成しやすい性質を有する。かかる不飽和結合または基としては、例えば、二重結合、三重結合、カルボニル基、カルボキシル基、水酸基、アミノ基、ニトリル基、ケトン基、アミド基、エポキシ基、エステル基、ビニル基、ハロゲン基、ウレタン基、ビューレット基、アロファネート基および尿素基などの官能基から選択される少なくともひとつであることができる。
エラストマーは、主鎖、側鎖および末端鎖の少なくともひとつに、カーボンナノファイバーのラジカルと親和性(反応性または極性)が高い不飽和結合や基を有することにより、エラストマーとカーボンナノファイバーとを結合することができる。このことにより、カーボンナノファイバーの凝集力にうち勝ってその分散を容易にすることができる。そして、エラストマーと、カーボンナノファイバーと、を混練する際に、エラストマーの分子鎖が切断されて生成したフリーラジカルは、カーボンナノファイバーの欠陥を攻撃し、カーボンナノファイバーの表面にラジカルを生成すると推測できる。
【0033】
エラストマーとしては、天然ゴム(NR)、エポキシ化天然ゴム(ENR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、エチレンプロピレンゴム(EPR,EPDM)、ブチルゴム(IIR)、クロロブチルゴム(CIIR)、アクリルゴム(ACM)、シリコーンゴム(Q)、フッ素ゴム(FKM)、ブタジエンゴム(BR)、エポキシ化ブタジエンゴム(EBR)、エピクロルヒドリンゴム(CO,CEO)、ウレタンゴム(U)、ポリスルフィドゴム(T)などのエラストマー類;オレフィン系(TPO)、ポリ塩化ビニル系(TPVC)、ポリエステル系(TPEE)、ポリウレタン系(TPU)、ポリアミド系(TPEA)、スチレン系(SBS)、などの熱可塑性エラストマー;およびこれらの混合物を用いることができる。特に、エラストマーの混練の際にフリーラジカルを生成しやすい極性の高いエラストマー、例えば、天然ゴム(NR)、ニトリルゴム(NBR)などが好ましい。また、極性の低いエラストマー、例えばエチレンプロピレンゴム(EPDM)であっても、混練の温度を比較的高温(例えばEPDMの場合、50℃〜150℃)とすることで、フリーラジカルを生成するので本発明に用いることができる。
【0034】
エラストマーは、ゴム系エラストマーあるいは熱可塑性エラストマーのいずれであってもよい。また、ゴム系エラストマーの場合、エラストマーは架橋体あるいは未架橋体のいずれであってもよいが、未架橋体を用いることが好ましい。
【0035】
(V)カーボンナノファイバー
カーボンナノファイバーは、平均直径が0.5〜500nmであり、平均直径が0.5ないし100nmであることが好ましい。また、カーボンナノファイバーは、平均長さが0.01〜1000μmであることが好ましい。カーボンナノファイバーの配合量は、摩擦材に配合される炭素繊維複合材料の量や摩擦材に要求される高温特性などによって適宜設定できるが、エラストマー100重量部に対してカーボンナノファイバー5〜100重量部を含むことが摩擦材の優れた高温特性を得るために好ましい。特に、炭素繊維複合材料に補強材としてのカーボンブラックを配合することでカーボンナノファイバーの配合量を少なくしても摩擦材の優れた高温特性を得ることができ、エラストマー100重量部に対してカーボンブラック40〜80重量部を配合した場合、カーボンナノファイバー5〜20重量部を含むことが好ましい。
【0036】
カーボンナノファイバーとしては、例えば、いわゆるカーボンナノチューブなどが例示できる。カーボンナノチューブは、炭素六角網面のグラファイトの1枚面を1層に巻いた単層カーボンナノチューブ(シングルウォールカーボンナノチューブ:SWNT)、2層に巻いた2層カーボンナノチューブ(ダブルウォールカーボンナノチューブ:DWNT)、3層以上に巻いた多層カーボンナノチューブ(MWNT:マルチウォールカーボンナノチューブ)などが適宜用いられる。また、部分的にカーボンナノチューブの構造を有する炭素材料も使用することができる。なお、カーボンナノチューブという名称の他にグラファイトフィブリルナノチューブといった名称で称されることもある。また、カーボンナノファイバーは、ホウ素、炭化ホウ素、ベリリウム、アルミニウム、ケイ素等の黒鉛化触媒と共に約2300℃〜3200℃で黒鉛化処理したものを用いてもよい。
単層カーボンナノチューブもしくは多層カーボンナノチューブは、アーク放電法、レーザーアブレーション法、気相成長法などによって望ましいサイズに製造される。アーク放電法は、大気圧よりもやや低い圧力のアルゴンや水素雰囲気下で、炭素棒でできた電極材料の間にアーク放電を行うことで、陰極に堆積した多層カーボンナノチューブを得る方法である。また、単層カーボンナノチューブは、前記炭素棒中にニッケル/コバルトなどの触媒を混ぜてアーク放電を行い、処理容器の内側面に付着するすすから得られる。レーザーアブレーション法は、希ガス(例えばアルゴン)中で、ターゲットであるニッケル/コバルトなどの触媒を混ぜた炭素表面に、YAGレーザーの強いパルスレーザー光を照射することによって炭素表面を溶融・蒸発させて、単層カーボンナノチューブを得る方法である。気相成長法は、ベンゼンやトルエン等の炭化水素を気相で熱分解し、カーボンナノチューブを合成するもので、より具体的には、流動触媒法やゼオライト担持触媒法などが例示できる。なお、カーボンナノファイバーは、エラストマーと混練される前に、あらかじめ表面処理、例えば、イオン注入処理、スパッタエッチング処理、プラズマ処理などを行うことによって、エラストマーとの接着性やぬれ性を改善することができる。
【0037】
(VI)粒子状の炭素繊維複合材料の製造方法
図5は、本発明の一実施形態にかかるオープンロール法による炭素繊維複合材料の製造方法を模式的に示す図である。図6は、本発明の一実施形態にかかるオープンロール法による炭素繊維複合材料の製造方法を模式的に示す図である。
まず、図5を用いて、エラストマーとカーボンナノファイバーとを混練して炭素繊維複合材料を得る工程について説明する。図5に示すように、第1のロール100と第2のロール200とは、所定の間隔d、例えば0.5mm〜1.0mmの間隔で配置され、図5において矢印で示す方向に回転速度V1,V2で正転あるいは逆転で回転する。オープンロールに投入されるエラストマーは、未架橋体であって、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって、30℃で測定した、ネットワーク成分のスピン−スピン緩和時間(T2n/30℃)が好ましくは100〜3000μ秒である。まず、第2のロール200に巻き付けられたエラストマー30の素練りを行ない、エラストマー分子鎖を適度に切断してフリーラジカルを生成する。カーボンナノファイバーは、通常、側面は炭素原子の6員環で構成され、先端は5員環が導入されて閉じた構造となっているが、構造的に無理があるため、実際上は欠陥を生じやすく、その部分にラジカルや官能基を生成しやすくなっているため、素練りによってエラストマーのフリーラジカルがカーボンナノファイバーと結びつきやすい状態となる。
次に、第2のロール200に巻き付けられたエラストマー30のバンク32に、平均直径が0.5ないし500nmのカーボンナノファイバー40を投入し、混練して混合物36を得る。エラストマー30とカーボンナノファイバー40とを混合する工程は、オープンロール法に限定されず、密閉式混練法あるいは多軸押出し混練法を用いることもできる。
【0038】
さらに、図6に示すように、第1のロール100と第2のロール200とのロール間隔dを、好ましくは0.5mm以下、より好ましくは0ないし0.5mmの間隔に設定し、混合物36をオープンロールに投入して薄通しを複数回行なう。薄通しの回数は、例えば5回〜10回程度行なうことが好ましい。第1のロール100の表面速度をV1、第2のロール200の表面速度をV2とすると、薄通しにおける両者の表面速度比(V1/V2)は、1.05ないし3.00であることが好ましく、さらに1.05ないし1.2であることが好ましい。このような表面速度比を用いることにより、所望の剪断力を得ることができる。薄通しされた炭素繊維複合材料は、ロールで圧延されてシート状に分出しされる。この薄通しの工程では、できるだけ高い剪断力を得るために、ロール温度を好ましくは0ないし50℃、より好ましくは5ないし30℃の比較的低い温度に設定して行われ、エラストマー30の実測温度も0ないし50℃に調整されることが好ましい。このようにして得られた剪断力により、エラストマー30に高い剪断力が作用し、凝集していたカーボンナノファイバー40がエラストマー分子に1本づつ引き抜かれるように相互に分離し、エラストマー30中に分散される。特に、エラストマー30は、弾性と、粘性と、カーボンナノファイバー40との化学的相互作用と、を有するため、カーボンナノファイバー40を容易に分散することができる。そして、カーボンナノファイバー40の分散性および分散安定性(カーボンナノファイバーが再凝集しにくいこと)に優れた炭素繊維複合材料を得ることができる。
【0039】
より具体的には、オープンロールでエラストマーとカーボンナノファイバーとを混合すると、粘性を有するエラストマーがカーボンナノファイバーの相互に侵入し、かつ、エラストマーの特定の部分が化学的相互作用によってカーボンナノファイバーの活性の高い部分と結合する。次に、エラストマーに強い剪断力が作用すると、エラストマー分子の移動に伴ってカーボンナノファイバーも移動し、さらに剪断後の弾性によるエラストマーの復元力によって、凝集していたカーボンナノファイバーが分離されて、エラストマー中に分散されることになる。本実施形態によれば、炭素繊維複合材料が狭いロール間から押し出された際に、エラストマーの弾性による復元力で炭素繊維複合材料はロール間隔より厚く変形する。その変形は、強い剪断力の作用した炭素繊維複合材料をさらに複雑に流動させ、カーボンナノファイバーをエラストマー中に分散させると推測できる。そして、一旦分散したカーボンナノファイバーは、エラストマーとの化学的相互作用によって再凝集することが防止され、良好な分散安定性を有することができる。
エラストマーとカーボンナノファイバーとを混練して炭素繊維複合材料を得る工程は、前記オープンロール法に限定されず、密閉式混練法あるいは多軸押出し混練法を用いることもできる。要するに、この工程では、凝集したカーボンナノファイバーを分離できる剪断力をエラストマーに与えることができればよい。特に、オープンロール法は、ロール温度の管理だけでなく、混合物の実際の温度を測定し管理することができるため、好ましい。
【0040】
薄通しして得られた炭素繊維複合材料は、炭素繊維複合材料に架橋剤を混合し架橋して架橋体の炭素繊維複合材料として用いてもよいし、架橋させずに無架橋体のまま摩擦材に成形してもよい。炭素繊維複合材料は、オープンロール法によって得られたシート状であるので、粒子状の充填材や強化繊維などと混合し易いように粒子状に粉砕する。粒子状の炭素繊維複合材料を得る方法は、炭素繊維複合材料と、鋭角なエッジを少なくとも1箇所以上有し平均粒径0.1〜500μmの粒子状の堅果殻もしくはケイ酸化合物と、を混練し、多孔質体を得る工程と、多孔質体を粉砕して粒子状の炭素繊維複合材料を得る工程と、を含むことを特徴とする。この工程における混練方法としては、オープンロール法、密閉式混練法などを用いることができる。このような堅果殻やケイ酸化合物は、鋭角なエッジによって混練の間に炭素繊維複合材料を削り取り、自らに炭素繊維複合材料に吸着しながら炭素繊維複合材料をスポンジのような多孔質体にする。そして、その多孔質体を混練機から取り出して粉砕することで粒子状の炭素繊維複合材料を得ることができる。この粉砕方法としては、すでに炭素繊維複合材料は非常に脆い多孔質体であるので、人手によってほぐすことで粉化することができるが、例えばミキサやブレンダなどの攪拌機などを用いてもよい。粒子状の炭素繊維複合材料は、摩擦調整材例えば堅果殻の粒子を覆うようにあるいは部分的に吸着している。したがって、摩擦材に用いる他の充填材等に比べて比較的比重の軽い炭素繊維複合材料であっても、摩擦調整材例えば堅果殻に吸着しているため、他の充填材と混合して摩擦材を成形しても偏析が少なくなる。
【0041】
炭素繊維複合材料の製造方法において、通常、エラストマーの加工で用いられる配合剤を加えることができる。配合剤としては公知のものを用いることができる。配合剤としては、例えば、架橋剤、加硫剤、加硫促進剤、加硫遅延剤、軟化剤、可塑剤、硬化剤、補強剤、充填剤、老化防止剤、着色剤などを挙げることができる。これらの配合剤は、例えばオープンロールにおけるカーボンナノファイバーの投入前にエラストマーに投入することができる。
【0042】
なお、前述した炭素繊維複合材料の製造方法においては、ゴム弾性を有した状態のエラストマーにカーボンナノファイバーを直接混合したが、これに限らず、以下の方法を採用することもできる。まず、カーボンナノファイバーを混合する前に、エラストマーを素練りしてエラストマーの分子量を低下させる。エラストマーは、素練りによって分子量が低下すると、粘度が低下するため、凝集したカーボンナノファイバーの空隙に浸透しやすくなる。原料となるエラストマーは、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって30℃、観測核が1Hで測定した、未架橋体における、ネットワーク成分の第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)が100ないし3000μ秒のゴム状弾性体である。この原料のエラストマーを素練りしてエラストマーの分子量を低下させ、第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)が3000μ秒を越える液体状のエラストマーを得る。なお、素練り後の液体状のエラストマーの第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)は、素練りする前の原料のエラストマーの第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)の5〜30倍であることが好ましい。この素練りは、エラストマーが固体状態のままで行なう一般的な素練りとは異なり、強剪断力を例えばオープンロール法で与えることによってエラストマーの分子を切断し分子量を著しく低下させ、混練に適さない程の流動を示すまで、液体状態になるまで行なわれる。この素練りは、例えばオープンロール法を用いた場合、ロール温度20℃(素練り時間最短60分)〜150℃(素練り時間最短10分)で行なわれロール間隔dは例えば0.1mm〜1.0mmで、素練りして液体状態のエラストマーにカーボンナノファイバーを投入する。しかしながら、エラストマーは液体状で弾性が著しく低下しているため、エラストマーのフリーラジカルとカーボンナノファイバーが結びついた状態で混練しても凝集したカーボンナノファイバーはあまり分散されない。
【0043】
そこで、液体状のエラストマーとカーボンナノファイバーとを混練して得られた混合物中におけるエラストマーの分子量を増大させ、エラストマーの弾性を回復させてゴム状弾性体の混合物を得た後、先に説明したオープンロール法の薄通しなどを実施してカーボンナノファイバーをエラストマー中に均一に分散させる。エラストマーの分子量が増大したゴム状弾性体の混合物は、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって30℃で測定した、ネットワーク成分の第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)が3000μ秒以下である。また、エラストマーの分子量が増大したゴム状弾性体の混合物の第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)は、素練りする前の原料エラストマーの第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)の0.5〜10倍であることが好ましい。ゴム状弾性体の混合物の弾性は、エラストマーの分子形態(分子量で観測できる)や分子運動性(T2nで観測できる)によって表すことができる。エラストマーの分子量を増大させる工程は、例えばエラストマーが天然ゴムの場合、混合物を加熱処理例えば40℃〜100℃に設定された加熱炉内に混合物を配置し、10時間〜100時間行なわれることが好ましい。このような加熱処理によって、混合物中に存在するエラストマーのフリーラジカル同士の結合などによって分子鎖が延長され、分子量が増大する。また、エラストマーの分子量の増大を短時間で実施する場合には、架橋剤を少量、例えば架橋剤の適量の1/2以下を混合させておき、混合物を加熱処理(例えばアニーリング処理)し架橋反応によって短時間で分子量を増大させることもできる。架橋反応によってエラストマーの分子量を増大させる場合には、この後の工程で混練が困難にならない程度に架橋剤の配合量、加熱時間及び加熱温度を設定することが好ましい。
【0044】
ここで説明した炭素繊維複合材料の製造方法によれば、カーボンナノファイバーを投入する前にエラストマーの粘度を低下させることで、エラストマー中にカーボンナノファイバーを従来よりも均一に分散させることができる。より詳細には、先に説明した製造方法のように分子量が大きいエラストマーにカーボンナノファイバーを混合するよりも、分子量が低下した液体状のエラストマーを用いた方が凝集したカーボンナノファイバーの空隙にエラストマー分子が侵入しやすく、薄通しの工程においてカーボンナノファイバーをより均一に分散させることができる。また、エラストマーが分子切断されることで大量に生成されたエラストマーのフリーラジカルがカーボンナノファイバーの表面とより強固に結合することができるため、さらにカーボンナノファイバーを均一に分散させることができる。したがって、ここで説明した製造方法によれば、先の製造方法よりも少量のカーボンナノファイバーでも同等の性能を得ることができ、高価なカーボンナノファイバーを節約することで経済性も向上する。このようにして得られた炭素繊維複合材料は、前述したように堅果殻もしくはケイ酸化合物の摩擦調整材と混練されて多孔質体とし、さらに多孔質体を粉砕して粒子状の炭素繊維複合材料を得ることができる。
【0045】
(VII)摩擦材の製造方法
摩擦材2の製造方法としては、特に限定されないが、圧縮成形、トランスファー成形、射出成形または射出圧縮成形など一般的に知られている成形法を用いて粒子状の炭素繊維複合材料を強化繊維及びバインダーと混合し、所望の形状に成形するとともに、加熱して硬化させることができる。摩擦材2の製造方法について、図7〜図9を参照しながら詳細に説明する。図7は、本発明の一実施形態にかかる摩擦材2の製造工程を示す工程図である。図8は、本発明の一実施形態にかかる摩擦材2を製造する仮成形工程を説明するための説明図である。図9は、本発明の一実施形態にかかる摩擦材2を製造する加熱・加圧工程を説明するための説明図である。
摩擦材2は、図7に示す製造工程によって製造することができる。この製造工程において、先ず、金属製のプレート3に結着孔4、4を穿設してから各種の表面処理を施した後、乾燥を施す。かかる表面処理には、プレート3を脱脂する脱脂工程、プレート3の表面に向けて粒状物を噴射し、摩擦材2とプレート3との結着強度を高めるためのショット加工工程、摩擦材2とプレート3とを接着する例えば熱硬化性接着剤をプレート3の表面に塗布する接着剤塗布工程が含まれる。他方、摩擦材2の成形がプレート3の加工工程と別工程で行われる。摩擦材2の成形においては、摩擦材2の原料を混合してから所定量計量し、仮成形して板状体の仮成形体とする。この際に、原料として用いられる摩擦材2の原料は、前述した強化繊維、摩擦調整材、ゴム組成物としての炭素繊維複合材料及びバインダ樹脂が含まれる。より詳細には、この原料における摩擦調整材のうち鋭角なエッジを少なくとも1箇所以上有する堅果殻もしくはケイ酸化合物は、炭素繊維複合材料が吸着し、粒子状の炭素繊維複合材料を形成した状態である。
【0046】
図8に示すように、あらかじめ混合機で十分に混合した摩擦材2の原料(強化繊維、摩擦調整材の粒子、炭素繊維複合材料の粒子、バインダ樹脂)を、載置台54上に配置された仮成形型52内に充填する。そして、摩擦材2の原料をプレス型50によって押圧して仮成形を行って仮成形体65を得る。
仮成形で得られた仮成形体65は、図9に示すように、プレス機によって加熱・加圧成形されてプレート3と一体化した摩擦材2に成形される。加熱・加圧成形は、まずプレス機の載置台64上の金型62内に仮成形体65を配置し、さらにその仮成形体65上の所定位置にプレート3をセットし、押型60によって仮成形体65を押圧しつつ加熱する。この加熱・加圧成形によって、仮成形体65の原料中に配合されたバインダ樹脂が溶解され流動した後、硬化して仮成形体65の原料同士を強固に結着すると共に、プレート3の表面とも強固に結着して摩擦材2を形成する。この様な加熱・加圧成形を施して得られた摩擦材2は、摩擦材2とプレート3との結着を更に一層完全なものとすべく、オーブン中で数時間の焼成が施される。焼成工程を経た摩擦材は、摩擦材2に溝を形成する溝加工、摩擦材2の表面を研磨する研磨加工、塗装等の後加工工程などを経て製品(パッド1)となる。
【0047】
摩擦材2に配合される炭素繊維複合材料は、摩擦材2に要求される高温特性によって適宜配合量を調整することができるが、摩擦材2の高温特性を改善するためには2〜10重量%含むことが好ましい。摩擦材2は、炭素繊維複合材料が高温においても優れた減衰特性及び高い動的弾性率を有するので、高温における高摩擦係数を有すると共に、被摩擦部材との接触による高温における鳴きを低減させることができる。また、本発明にかかる摩擦材によれば、被摩擦部材との均一接触によって摩耗量を低減させることができる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(1)実施例1〜9及び比較例1のサンプルの作製
6インチオープンロール(ロール温度10〜20℃、ロール間隔1.5mm)に、表1に示す所定量のエラストマーとしての天然ゴム(100重量部(phr))を投入して、ロールに巻き付かせ、5分間素練りした後、表1に示す量のカーボンナノファイバー及び/もしくはカーボンブラックを投入し、混合物をオープンロールから取り出した。そして、ロール間隔を1.5mmから0.3mmへと狭くして、混合物を再びオープンロールに投入して薄通しを繰り返し5回行なった。このとき、2本のロールの表面速度比を1.1とした。さらに、ロール間隙を1.1mmにセットして、薄通しして得られた炭素繊維複合材料を投入し、分出しした。
この分出しされた炭素繊維複合材料は90℃、5分間プレス成形し、それぞれ厚さ1mmのシート状の無架橋体の炭素繊維複合材料サンプルに成形した。また、分出しされた炭素繊維複合材料の内、実施例1〜4,6〜9及び比較例1、2の炭素繊維複合材料に架橋剤としてパーオキサイドを配合し、オープンロールで混合して、ロール間隙を1.1mmで分出しした。そして、分出しされた炭素繊維複合材料を175℃、20分間プレス架橋し、実施例1〜4,6〜9及び比較例1、2の架橋体の炭素繊維複合材料サンプルを成形した。
表1において、炭素繊維複合材料の原料の「NR」は天然ゴム、「EPDM」はエチレン・プロピレンゴム、「MWNT13」は平均直径が約13nmの気相成長マルチウォールカーボンナノチューブであり、「MWNT100」は平均直径が約100nmの気相成長マルチウォールカーボンナノチューブであり、「HAF」はHAFグレードのカーボンブラックであった。なお、表1における「炭素繊維複合材料の配合割合」は重量部(phr)で示した。
【0049】
(2)パルス法NMRを用いた測定
実施例1〜9及び比較例1の原料ゴム及び各無架橋体の炭素繊維複合材料サンプルについて、パルス法NMRを用いてハーンエコー法による測定を行った。この測定は、日本電子(株)製「JMN−MU25」を用いて行った。測定は、観測核が1H、共鳴周波数が25MHz、90゜パルス幅が2μsecの条件で行い、ハーンエコー法のパルスシーケンス(90゜x−Pi−180゜x)にて、Piをいろいろ変えて減衰曲線を測定した。また、サンプルは、磁場の適正範囲までサンプル管に挿入して測定した。測定温度は表1のカッコ内に示すように、30℃と150℃であった。この測定によって、原料エラストマーの第1のスピンースピン緩和時間(T2n/30℃)と、各無架橋体の炭素繊維複合材料サンプルについて第1のスピン−スピン緩和時間(T2n/150℃)及び第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn/150℃)を有する成分の成分分率(fnn/150℃)とを求めた。測定結果を表1に示した。
【0050】
(3)熱機械分析(TMA)
実施例1〜4,6〜9及び比較例1の架橋体の炭素繊維複合材料サンプルと実施例5の無架橋体の炭素繊維複合材料サンプルを1.5mm×1.0mm×10mmに切り出した試験片について、SII社製熱機械分析機(TMA−SS6100)を用いて、側長荷重は25KPa、測定温度は−100〜300℃、昇温速度は3℃/分で大気中における線膨張係数を測定し、得られた線膨張係数の温度変化特性から軟化劣化もしくは硬化劣化が開始する劣化開始温度(℃)を測定した。より詳細に説明すると、劣化開始温度は、各炭素繊維複合材料サンプルの温度(℃)−微分線膨張係数(ppm/K)のグラフにおいて、線膨張係数が極端に増大している点で架橋型の硬化劣化(収縮)または線膨張係数が極端に低下している点で鎖切断型の軟化劣化(膨張)が開始していると判断し、劣化開始温度とした。これらの結果を表1に示す。
【0051】
(4)動的粘弾性試験
実施例1〜4,6〜9及び比較例1の架橋体の炭素繊維複合材料サンプルと実施例5の無架橋体の炭素繊維複合材料サンプルを短冊形(40×1×5(巾)mm)に切り出した試験片について、SII社製の動的粘弾性試験機DMS6100を用いて、チャック間距離20mm、測定温度−100〜300℃、動的ひずみ±0.05%、周波数10HzでJIS K6394に基づいて動的粘弾性試験を行い動的弾性率(E’、単位はMPa)と損失正接(tanδ)を測定した。測定温度が30℃と200℃における動的弾性率(E’)の測定結果を表1に示す。また、測定温度が−10℃、30℃及び200℃における損失正接(tanδ)の測定結果を表1に示す。さらに、ガラス転移点(Tg)付近の領域における損失正接(tanδ)のピーク温度を使用最低温度(℃)として表1に示す。使用最低温度は、これよりも低温の領域では炭素繊維複合材料が硬くなりすぎるためクッション性を失うので、炭素繊維複合材料としての使用限界温度である。
【0052】
【表1】
表1から、本発明の実施例1〜9によれば、以下のことが確認された。すなわち、本発明の実施例1〜9の炭素繊維複合材料サンプルの劣化開始温度は、比較例1の炭素繊維複合材料サンプルの劣化開始温度よりも高く、160℃以上であった。また、本発明の実施例1〜9の炭素繊維複合材料サンプルによれば、200℃における動的弾性率(E’)が10MPa以上であり、高温においても高い剛性を維持していることがわかった。なお、比較例1の炭素繊維複合材料サンプルは、劣化開始温度が127℃であったので、200℃では軟化して測定できなかった。本発明の実施例1〜9によれば、常温(30℃)における動的弾性率(E’)が20MPa以上で比較例1よりも高く、常温(30℃)においても高い剛性を有していた。したがって、実施例1〜9の炭素繊維複合材料を用いた摩擦材は、低温から高温まで高い動的弾性率を維持した炭素繊維複合材料を含むため高摩擦係数を維持することができる。
さらに、本発明の実施例1〜9によれば、200℃における損失正接(tanδ)が0.05以上であり、特に高温において高い減衰特性を維持していることがわかった。なお、比較例1の炭素繊維複合材料は、劣化開始温度が127℃であったので、200℃では軟化して測定できなかった。本発明の実施例1〜9によれば、使用最低温度が−40℃〜−70℃であって、低温(−10℃)における損失正接(tanδ)が0.09以上であり、常温(30℃)においても損失正接(tanδ)が0.09以上で比較的高い減衰特性を有していた。したがって、実施例1〜9の炭素繊維複合材料を用いた摩擦材は、低温から高温まで優れた減衰特性を有する炭素繊維複合材料を含むため例えばブレーキにおける鳴きを低温から高温までの広範囲で低減することができる。
【0053】
(6)粒子状の炭素繊維複合材料の電子顕微鏡観察
前記(1)で得られた実施例9の無架橋体の炭素繊維複合材料100重量部をオープンロールに巻きつかせ、平均粒径200μmのカシューダスト100重量部をオープンロールに投入し、10分間混練した後、オープンロールから多孔質体を取り出した。さらに、この多孔質体を手でほぐし、粒子状の炭素繊維複合材料を得た。また、粒子状の炭素繊維複合材料を電子顕微鏡(SEM)で撮影した写真を図10、図11、図12に示した。図10の撮影条件は1.0kV、50倍であり、図11の撮影条件は1.0kV、300倍であり、図12の撮影条件は1.0kV、5000倍であった。また、参考までに、本実施例で用いたカシューダスト粒子を図13(撮影条件:1.0kV、50倍)と図14(撮影条件:1.0kV、300倍)に示した。図10に示すように、手でほぐして粉々になった炭素繊維複合材料はカシューダストよりは多少大きい粒子状であり、図11に示すように、図14のカシューダストに比べて表面が明らかに滑らかであり、粒子状の炭素繊維複合材料がカシューダストの粒子を覆うように付着していることがわかった。また、図12に示すように、粒子状の炭素繊維複合材料の表面にはカーボンナノファイバーの一部が見られた。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の一実施の形態に係るディスクブレーキ用のパッドの正面図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係るディスクブレーキ用のパッドの一部切欠き平面図である。
【図3】本発明の一実施の形態に係るディスクブレーキ用のパッドの背面図である。
【図4】本発明の一実施の形態に係るディスクブレーキの構造を示す縦断面図である。
【図5】本発明の一実施の形態にかかるオープンロール法による炭素繊維複合材料の製造方法を模式的に示す図である。
【図6】本発明の一実施の形態にかかるオープンロール法による炭素繊維複合材料の製造方法を模式的に示す図である。
【図7】本発明の一実施の形態にかかる摩擦材の製造工程を示す工程図である。
【図8】本発明の一実施の形態にかかる摩擦材を製造する仮成形工程を説明するための説明図である。
【図9】本発明の一実施の形態にかかる摩擦材を製造する加熱・加圧工程を説明するための説明図である。
【図10】実施例9の粒子状の炭素繊維複合材料の電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図11】実施例9の粒子状の炭素繊維複合材料の電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図12】実施例9の粒子状の炭素繊維複合材料の電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図13】カシューダストの電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図14】カシューダストの電子顕微鏡(SEM)写真である。
【符号の説明】
【0055】
1 パッド
2 摩擦材
3 プレート
5 シム板
10 ディスクブレーキ
11 キャリパボディ
12 ピストン
13 ディスクロータ
14 液圧室
30 エラストマー
40 カーボンナノファイバー
100 第1のロール
200 第2のロール
d ロール間隔
V1 第1のロールの表面速度
V2 第2のロールの表面速度
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノファイバーを用いた摩擦材及び摩擦材の製造方法、粒子状の炭素繊維複合材料の製造方法及び粒子状の炭素繊維複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、カーボンナノファイバーはマトリックスに分散させにくいフィラーであった。。本発明者等が先に提案した炭素繊維複合材料の製造方法によれば、エラストマーとカーボンナノファイバーを混練し、剪断力によって凝集性の強いカーボンナノファイバーを均一に分散させることができた(例えば、特許文献1)。より具体的には、エラストマーとカーボンナノファイバーとを混合すると、粘性を有するエラストマーがカーボンナノファイバーの相互に侵入し、かつ、エラストマーの特定の部分が化学的相互作用によってカーボンナノファイバーの活性の高い部分と結合し、この状態で、分子長が適度に長く、分子運動性の高い(弾性を有する)エラストマーとカーボンナノファイバーとの混合物に強い剪断力が作用すると、エラストマーの変形に伴ってカーボンナノファイバーも移動し、さらに剪断後の弾性によるエラストマーの復元力によって、凝集していたカーボンナノファイバーが分離されて、エラストマー中に分散していた。このように、マトリックスへのカーボンナノファイバーの分散性を向上させることで、高価なカーボンナノファイバーを効率よく複合材料のフィラーとして用いることができるようになった。
【0003】
また、自動車などの車両に使用されるディスクブレーキ用のパッド、ドラムブレーキ用のシュー、クラッチ用のクラッチフェーシング等に使用する摩擦材としては、基材繊維、結合材および摩擦調整材を含み、摩擦調整材として、ゴム被覆カシューダストを用いた摩擦材が提案されていた(例えば、特許文献2)。
【特許文献1】特開2005−97525号公報
【特許文献2】特開2003−13044号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、カーボンナノファイバーを用いた摩擦材及び摩擦材の製造方法、粒子状の炭素繊維複合材料の製造方法及び粒子状の炭素繊維複合材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明にかかる摩擦材は、
強化繊維と、摩擦調整材と、ゴム組成物と、バインダ樹脂と、を含む摩擦材であって、
前記ゴム組成物は、エラストマーに平均直径が0.5〜500nmのカーボンナノファイバーが均一に分散され、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって150℃、観測核が1Hで観測した、無架橋体における、第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)は100ないし3000μ秒であり、第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn)を有する成分の成分分率(fnn)は0.2未満である粒子状の炭素繊維複合材料であって、
前記摩擦調整材は、鋭角なエッジを少なくとも1箇所以上有し、平均粒径0.1〜500μmの粒子状の堅果殻もしくはケイ酸化合物を含むことを特徴とする。
【0006】
本発明にかかる摩擦材によれば、炭素繊維複合材料のT2n及びfnnがこのような範囲にあることからエラストマー中にカーボンナノファイバーが均一に分散されており、これによって炭素繊維複合材料の劣化開始温度が高くなり、したがって炭素繊維複合材料は高温においても優れた減衰特性及び高い動的弾性率を維持することができる。その結果、本発明にかかる摩擦材によれば、高温における高摩擦係数を有すると共に、被摩擦部材との接触による高温における鳴きを低減させることができる。また、本発明にかかる摩擦材によれば、被摩擦部材との均一接触によって摩耗量を低減させることができる。さらに、本発明にかかる摩擦材によれば、堅果殻もしくはケイ酸化合物によってブレーキ鳴きや摩耗を改善することができる。
【0007】
本発明にかかる摩擦材において、
前記炭素繊維複合材料は、前記エラストマー100重量部に対して、前記カーボンナノファイバー5〜100重量部を含むことができる。
【0008】
本発明にかかる摩擦材において、
前記摩擦調整材は、堅果殻を含み、
前記堅果殻は、カシューダストであることができる。
【0009】
本発明にかかる摩擦材において、
前記摩擦調整材は、ケイ酸化合物を含み、
前記ケイ酸化合物は、カオリンクレーであることができる。
【0010】
本発明にかかる粒子状の炭素繊維複合材料の製造方法は、
エラストマーとカーボンナノファイバーとを混練して炭素繊維複合材料を得る工程と、
前記炭素繊維複合材料と、鋭角なエッジを少なくとも1箇所以上有し平均粒径0.1〜500μmの粒子状の堅果殻もしくはケイ酸化合物と、を混練し、多孔質体を得る工程と、
前記多孔質体を粉砕して粒子状の炭素繊維複合材料を得る工程と、
を含むことを特徴とする。
【0011】
本発明にかかる粒子状の炭素繊維複合材料の製造方法によれば、鋭角なエッジを有する摩擦調整材によって炭素繊維複合材料を削り取って多孔質体を得て、さらに粉砕することで粒子状の炭素繊維複合材料を容易に得ることができる。従来、摩擦材にゴム組成物を用いる場合、粉砕して粒子状にする工程は複雑であったが、本発明にかかる粒子状の炭素繊維複合材料の製造方法によれば容易に炭素繊維複合材料を粒子状とすることができるので、摩擦材に容易に用いることができる。
【0012】
本発明にかかる粒子状の炭素繊維複合材料の製造方法において、
前記粒子状の炭素繊維複合材料は、堅果殻を含み、
前記堅果殻は、カシューダストであることができる。
【0013】
本発明にかかる粒子状の炭素繊維複合材料の製造方法において、
前記粒子状の炭素繊維複合材料は、ケイ酸化合物を含み、
前記ケイ酸化合物は、カオリンクレーであることができる。
【0014】
本発明にかかる粒子状の炭素繊維複合材料は、前記製造方法で得られることができる。
【0015】
本発明にかかる摩擦材の製造方法は、前記製造方法で得られた粒子状の炭素繊維複合材料を、強化繊維及びバインダ樹脂と混合し成形する工程をさらに含むことができる。
【0016】
本発明にかかる摩擦材の製造方法によれば、炭素繊維複合材料が粒子状であるため、強化繊維やバインダ樹脂と容易に混合することができる。また、本発明にかかる摩擦材の製造方法によれば、粒子状の炭素繊維複合材料が摩擦調整材に吸着しているため、比較的比重の軽い炭素繊維複合材料であっても摩擦材における偏析が少ない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0018】
本発明の一実施形態にかかる摩擦材は、強化繊維と、摩擦調整材と、ゴム組成物と、バインダ樹脂と、を含む摩擦材であって、前記ゴム組成物は、マトリックスであるエラストマーに平均直径が0.5〜500nmのカーボンナノファイバーが均一に分散され、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって150℃、観測核が1Hで観測した、無架橋体における、第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)は100ないし3000μ秒であり、第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn)を有する成分の成分分率(fnn)は0.2未満である粒子状の炭素繊維複合材料であって、前記摩擦調整材は、鋭角なエッジを少なくとも1箇所以上有し、平均粒径0.1〜500μmの粒子状の堅果殻もしくはケイ酸化合物を含むことを特徴とする。
【0019】
本発明の一実施形態にかかる粒子状の炭素繊維複合材料の製造方法は、エラストマーとカーボンナノファイバーとを混練して炭素繊維複合材料を得る工程と、前記炭素繊維複合材料と、鋭角なエッジを少なくとも1箇所以上有し平均粒径0.1〜500μmの粒子状の堅果殻もしくはケイ酸化合物と、を混練し、多孔質体を得る工程と、前記多孔質体を粉砕して粒子状の炭素繊維複合材料を得る工程と、を含むことを特徴とする。
【0020】
本発明の一実施形態にかかる粒子状の炭素繊維複合材料は、前記製造方法で得ることができる。
【0021】
本発明の一実施形態にかかる摩擦材の製造方法は、前記製造方法で得られた粒子状の炭素繊維複合材料を、強化繊維及びバインダ樹脂と混合し成形する工程をさらに含むことができる。
【0022】
(I)摩擦材
図1は、本発明の一実施形態に係るディスクブレーキ用のパッドの正面図である。図2は、本発明の一実施形態に係るディスクブレーキ用のパッドの一部切欠き平面図である。図3は、本発明の一実施形態に係るディスクブレーキ用のパッドの背面図である。図4は、本発明の一実施形態に係るディスクブレーキの構造を示す縦断面図である。
本発明の一実施形態にかかる摩擦材は、例えば、図1〜図4に示すような自動車等のディスクブレーキ10に用いることができる。図4に示すように、自動車等に用いられるディスクブレーキ10の構造は、例えば油圧装置による油圧によってキャリパボディ11の液圧室14に伝えられてピストン12を押圧し、その押圧する力によって、パッド1、1の摩擦材2、2を円板状のディスクロータ13を挟み込むように押圧して、ディスクロータ13の回転をその摩擦作用によって制動する。図1〜図3に示すように、ディスクブレーキ10のパッド1は、キャリパボディ11及びピストン12にシム板5を介して押圧される金属製のバックプレート3(以下、「プレート3」という)と、ディスクロータ13と接触して摩擦力を発生する摩擦材2から構成されている。摩擦材2は、ディスクロータ13に接触する平坦面21を有し、プレート3に穿設された二つの結着孔4,4に摩擦材2の一部が入りこむことでプレート3に強固に結着されている。なお、ディスクブレーキ10の形式は、本実施形態のようなピンスライド式に限らず、ピストンがディスクロータの両側に配置された対向型ディスクブレーキでもよく、ピストンの数やシム板の形状も本実施形態に限定されない。また、本実施形態においては、ディスクブレーキ10のパッド1に用いる摩擦材2について説明したが、例えば、ドラムブレーキ(図示しない)のシューの摩擦材やクラッチ用のクラッチフェーシング等としても適用可能である。
【0023】
摩擦材2は、強化繊維と、摩擦調整材と、ゴム組成物と、バインダ樹脂と、を含む摩擦材であって、前記ゴム組成物は、マトリックスであるエラストマーに平均直径が0.5〜500nmのカーボンナノファイバーが均一に分散され、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって150℃、観測核が1Hで観測した、無架橋体における、第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)は100ないし3000μ秒であり、第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn)を有する成分の成分分率(fnn)は0.2未満である粒子状の炭素繊維複合材料であって、前記摩擦調整材は、鋭角なエッジを少なくとも1箇所以上有し、平均粒径0.1〜500μmの粒子状の堅果殻もしくはケイ酸化合物を含むことができる。摩擦材2は、炭素繊維複合材料のT2n及びfnnがこのような範囲にあることからエラストマー中にカーボンナノファイバーが均一に分散されており、これによって炭素繊維複合材料の劣化開始温度が高くなり、したがって炭素繊維複合材料は高温においても優れた減衰特性及び高い動的弾性率を維持することができる。その結果、摩擦材2は、高温における高摩擦係数を有すると共に、被摩擦部材との接触による高温における鳴きを低減させることができる。また、摩擦材2は、被摩擦部材例えばディスクロータ13との均一接触によって摩耗量を低減させることができる。さらに、摩擦材2は、堅果殻もしくはケイ酸化合物を含むことでブレーキ鳴きや摩耗を改善することができる。
【0024】
(II)強化繊維、摩擦調整材、バインダ樹脂
バインダ樹脂に混合する強化繊維や摩擦調整材として、従来から用いられている材料を適宜選択して用いることができる。このような強化繊維としては、例えば、アルミナ繊維、ガラス繊維、ロックウール、チタン酸カリウム繊維、セラミック繊維、シリカ繊維、カオリン繊維、ボーキサイト繊維、カヤノイド繊維、ホウ素繊維、マグネシア繊維、金属繊維などの無機繊維、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、ポリイミド系繊維、ポリビニルアルコール変性繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ポリプロピレン繊維、ポリベンゾイミダゾール繊維、アクリル繊維、炭素繊維、フェノール繊維、ナイロン繊維、セルロース繊維などの有機繊維から選ばれる1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
また、摩擦調整材としては、鋭角なエッジを少なくとも1箇所以上有し、平均粒径0.1〜500μmの粒子状の堅果殻もしくはケイ酸化合物を含むことができる。なお、平均粒径の測定方法は、電子顕微鏡で観察・撮影した複数例えば50個のサンプル粒子の長径及び短径を測定し、その平均値を求めることができる。このように鋭角なエッジを有する摩擦調整材は、炭素繊維複合材料と混練することで、比較的容易に粒子状の炭素繊維複合材料を得ることができる。このような摩擦調整材としては、堅果殻やケイ酸化合物が好ましく、堅果殻としては例えばカシューナッツ殻や胡桃殻を燻炭化してから微粉砕したカシューダストや胡桃殻粒子などが好ましく、ケイ酸化合物としては例えばカオリンクレー、モンモリロナイト、セリサイト、雲母などの微粉砕粒子が好ましい。このような堅果殻やケイ酸化合物の粒子は、鋭角なエッジを有しており、後述するように、炭素繊維複合材料と共に混練することで炭素繊維複合材料を容易に粉体化することができる。炭素繊維複合材料は、混練時に摩擦調整材に削り取られて、粉砕されることで摩擦調整材を覆うようにあるいは部分的に吸着した粒子状となっているため、摩擦調整材の粒子径を選択することでほぼ所望の粒子径を有する粒子状の炭素繊維複合材料を得ることができる。なお、摩擦調整材としては前記堅果殻もしくはケイ酸化合物に加えて、一般に摩擦材の摩擦調整材として用いられる例えば、金属酸化物、アルミナ、酸化ジルコニウム、ケイ酸ジルコニウム、酸化マグネシウム、シリカなどの硬質無機物、グラファイト、金属硫化物の二硫化モリブデン、三硫化アンチモンなどの潤滑剤、銅、真鍮、亜鉛、鉄などの金属粉などが使用できる。その他、摩擦材に一般に用いられる充填剤として、例えば硫酸バリウム、炭酸カルシウム、消石灰、マイカ、タルク等を用いるとができる。
【0026】
本実施形態にかかる摩擦材2の強化繊維や摩擦調整材の結着材であるバインダ樹脂は、熱硬化性のフェノール樹脂が好ましいが、他の硬化性樹脂例えば、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、アルキド樹脂、アクリル樹脂、メラミン樹脂、キシレン樹脂、グアナミン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、アリルエステル樹脂、フラン樹脂、イミド樹脂、ウレタン樹脂、ユリア樹脂等の樹脂を用いることができる。また、フェノール樹脂としては、具体的には、レゾール型フェノール樹脂、ノボラック型フェノール樹脂等が挙げられるが、ノボラック型フェノール樹脂が好ましい。このようなフェノール樹脂は、変性されていてもよく、変性されていなくともよい。バインダ樹脂は、1種単独でまたは2種以上混合して用いることができる。中でも気密性が要求される分野では、エポキシ樹脂とフェノール樹脂の組み合わせなど、硬化反応においてガスが発生しない樹脂を選択することが好ましい。これらの樹脂を用いることによって硬化体中に空隙がない、気密性の高い成形体を得ることができる。
【0027】
(III)炭素繊維複合材料
摩擦材に用いられるゴム組成物は、マトリックスであるエラストマーに平均直径が0.5〜500nmのカーボンナノファイバーが均一に分散され、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって150℃、観測核が1Hで観測した、無架橋体における、第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)は1000ないし3000μ秒であり、第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn)を有する成分の成分分率(fnn)は0.2未満の粒子状の炭素繊維複合材料である。炭素繊維複合材料が粒子状であることによって、比較的比重の軽いゴム組成物であっても他の充填材や強化繊維などと容易に混合することができる。粒子状の炭素繊維複合材料は、鋭角なエッジを少なくとも1箇所以上有する摩擦調整材を覆うようにもしくは部分的に吸着しており、平均粒径が100〜800μmであることができる。炭素繊維複合材料は、無架橋体のままで摩擦材に配合することができる。また、炭素繊維複合材料は、架橋して摩擦材に配合することもできる。炭素繊維複合材料は、架橋体において、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって150℃、観測核が1Hで観測した、第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)は100ないし2000μ秒であり、第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn)を有する成分の成分分率(fnn)は0.2未満であることが好ましい。
【0028】
炭素繊維複合材料のパルスNMR法による1H共鳴で観測したT2n,fnnは、マトリックスであるエラストマーにカーボンナノファイバーが均一に分散されていることを表すことができる。つまり、エラストマーにカーボンナノファイバーが均一に分散されているということは、エラストマーがカーボンナノファイバーによって拘束されている状態であるともいえる。この状態では、カーボンナノファイバーによって拘束を受けたエラストマー分子の運動性は、カーボンナノファイバーの拘束を受けない場合に比べて小さくなる。そのため、本実施形態にかかる炭素繊維複合材料の第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)、第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn)及びスピン−格子緩和時間(T1)は、カーボンナノファイバーを含まないエラストマー単体の場合より短くなり、特にカーボンナノファイバーが均一に分散することでより短くなる。なお、架橋体におけるスピン−格子緩和時間(T1)は、カーボンナノファイバーの混合量に比例して変化する。
また、エラストマー分子がカーボンナノファイバーによって拘束された状態では、以下の理由によって、非ネットワーク成分(非網目鎖成分)は減少すると考えられる。すなわち、カーボンナノファイバーによってエラストマーの分子運動性が全体的に低下すると、非ネットワーク成分は容易に運動できなくなる部分が増えて、ネットワーク成分と同等の挙動をしやすくなること、また、非ネットワーク成分(末端鎖)は動きやすいため、カーボンナノファイバーの活性点に吸着されやすくなること、などの理由によって、非ネットワーク成分は減少すると考えられる。そのため、第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn)を有する成分の成分分率(fnn)は、カーボンナノファイバーを含まないエラストマー単体の場合より小さくなる。なお、第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)を有する成分の成分分率(fn)は、fn+fnn=1であるので、カーボンナノファイバーを含まないエラストマー単体の場合より大きくなる。
以上のことから、本実施形態にかかる炭素繊維複合材料は、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって得られる測定値が前記の範囲にあることによってカーボンナノファイバーが均一に分散されていることがわかる。
【0029】
カーボンナノファイバーが分散した炭素繊維複合材料は、熱機械分析における劣化開始温度が原料のエラストマー単体の劣化開始温度よりも高い温度となる。熱機械分析における劣化開始温度は、軟化劣化(膨張)及び硬化劣化(収縮)を含む劣化現象が開始する温度であって、熱機械分析によって得られた温度−線膨張係数微分値の特性グラフから劣化現象が開始した温度を測定して得られる。炭素繊維複合材料の劣化開始温度が高いということは、高温においても炭素繊維複合材料の劣化が始まらないので、摩擦材を使用することのできる最高温度が高くなるため望ましい。炭素繊維複合材料は、エラストマーにカーボンナノファイバーが良好に分散されているため、エラストマーがカーボンナノファイバーによって拘束されている状態であるともいえる。したがって、エラストマーは、カーボンナノファイバーを含まない場合に比べて、その分子運動が小さくなり、その結果、劣化開始温度が高温側へ移動する。したがって、炭素繊維複合材料は高温における減衰特性に優れ、高い動的弾性率を有することができる。
(IV)エラストマー
まず、炭素繊維複合材料に用いられるエラストマーについて説明する。
エラストマーは、分子量が好ましくは5000〜500万、さらに好ましくは2万〜300万である。エラストマーの分子量がこの範囲であると、エラストマー分子が互いに絡み合い、相互につながっているので、エラストマーは、カーボンナノファイバーを分散させるために良好な弾性を有している。エラストマーは、粘性を有しているので凝集したカーボンナノファイバーの相互に侵入しやすく、さらに弾性を有することによってカーボンナノファイバー同士を分離することができるため好ましい。
【0030】
エラストマーは、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって、30℃、観測核が1Hで観測した、未架橋体におけるネットワーク成分のスピン−スピン緩和時間(T2n/30℃)が好ましくは100〜3000μ秒、より好ましくは200〜1000μ秒である。前記範囲のスピン−スピン緩和時間(T2n/30℃)を有することにより、エラストマーは、柔軟で充分に高い分子運動性を有することができ、すなわちカーボンナノファイバーを分散させるために適度な弾性を有することになる。また、エラストマーは粘性を有しているので、エラストマーとカーボンナノファイバーとを混合したときに、エラストマーは高い分子運動によりカーボンナノファイバーの相互の隙間に容易に侵入することができる。
また、エラストマーは、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって30℃、観測核が1Hで観測した、架橋体における、ネットワーク成分のスピン−スピン緩和時間(T2n)が100〜2000μ秒であることが好ましい。その理由は、上述した未架橋体と同様である。すなわち、前記の条件を有する未架橋体を架橋化すると、得られる架橋体のT2nはおおよそ前記範囲に含まれる。
【0031】
パルス法NMRを用いたハーンエコー法によって得られるスピン−スピン緩和時間は、物質の分子運動性を表す尺度である。具体的には、パルス法NMRを用いたハーンエコー法によりエラストマーの1H共鳴で観測されるスピン−スピン緩和時間を測定すると、緩和時間の短い第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)を有する第1の成分と、緩和時間のより長い第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn)を有する第2の成分とが検出される。第1の成分は高分子のネットワーク成分(骨格分子)に相当し、第2の成分は高分子の非ネットワーク成分(末端鎖などの枝葉の成分)に相当する。そして、第1のスピン−スピン緩和時間が短いほど分子運動性が低く、エラストマーは固いといえる。また、第1のスピン−スピン緩和時間が長いほど分子運動性が高く、エラストマーは柔らかいといえる。
パルス法NMRにおける測定法としては、ハーンエコー法でなくてもソリッドエコー法、CPMG法(カー・パーセル・メイブーム・ギル法)あるいは90゜パルス法でも適用できる。ただし、本発明にかかるエラストマーは中程度のスピン−スピン緩和時間(T2)を有するので、ハーンエコー法が最も適している。一般的に、ソリッドエコー法および90゜パルス法は、短いT2の測定に適し、ハーンエコー法は、中程度のT2の測定に適し、CPMG法は、長いT2の測定に適している。
【0032】
エラストマーは、主鎖、側鎖および末端鎖の少なくともひとつに、カーボンナノファイバーの末端のラジカルに対して親和性を有する不飽和結合または基を有するか、もしくは、このようなラジカルまたは基を生成しやすい性質を有する。かかる不飽和結合または基としては、例えば、二重結合、三重結合、カルボニル基、カルボキシル基、水酸基、アミノ基、ニトリル基、ケトン基、アミド基、エポキシ基、エステル基、ビニル基、ハロゲン基、ウレタン基、ビューレット基、アロファネート基および尿素基などの官能基から選択される少なくともひとつであることができる。
エラストマーは、主鎖、側鎖および末端鎖の少なくともひとつに、カーボンナノファイバーのラジカルと親和性(反応性または極性)が高い不飽和結合や基を有することにより、エラストマーとカーボンナノファイバーとを結合することができる。このことにより、カーボンナノファイバーの凝集力にうち勝ってその分散を容易にすることができる。そして、エラストマーと、カーボンナノファイバーと、を混練する際に、エラストマーの分子鎖が切断されて生成したフリーラジカルは、カーボンナノファイバーの欠陥を攻撃し、カーボンナノファイバーの表面にラジカルを生成すると推測できる。
【0033】
エラストマーとしては、天然ゴム(NR)、エポキシ化天然ゴム(ENR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、エチレンプロピレンゴム(EPR,EPDM)、ブチルゴム(IIR)、クロロブチルゴム(CIIR)、アクリルゴム(ACM)、シリコーンゴム(Q)、フッ素ゴム(FKM)、ブタジエンゴム(BR)、エポキシ化ブタジエンゴム(EBR)、エピクロルヒドリンゴム(CO,CEO)、ウレタンゴム(U)、ポリスルフィドゴム(T)などのエラストマー類;オレフィン系(TPO)、ポリ塩化ビニル系(TPVC)、ポリエステル系(TPEE)、ポリウレタン系(TPU)、ポリアミド系(TPEA)、スチレン系(SBS)、などの熱可塑性エラストマー;およびこれらの混合物を用いることができる。特に、エラストマーの混練の際にフリーラジカルを生成しやすい極性の高いエラストマー、例えば、天然ゴム(NR)、ニトリルゴム(NBR)などが好ましい。また、極性の低いエラストマー、例えばエチレンプロピレンゴム(EPDM)であっても、混練の温度を比較的高温(例えばEPDMの場合、50℃〜150℃)とすることで、フリーラジカルを生成するので本発明に用いることができる。
【0034】
エラストマーは、ゴム系エラストマーあるいは熱可塑性エラストマーのいずれであってもよい。また、ゴム系エラストマーの場合、エラストマーは架橋体あるいは未架橋体のいずれであってもよいが、未架橋体を用いることが好ましい。
【0035】
(V)カーボンナノファイバー
カーボンナノファイバーは、平均直径が0.5〜500nmであり、平均直径が0.5ないし100nmであることが好ましい。また、カーボンナノファイバーは、平均長さが0.01〜1000μmであることが好ましい。カーボンナノファイバーの配合量は、摩擦材に配合される炭素繊維複合材料の量や摩擦材に要求される高温特性などによって適宜設定できるが、エラストマー100重量部に対してカーボンナノファイバー5〜100重量部を含むことが摩擦材の優れた高温特性を得るために好ましい。特に、炭素繊維複合材料に補強材としてのカーボンブラックを配合することでカーボンナノファイバーの配合量を少なくしても摩擦材の優れた高温特性を得ることができ、エラストマー100重量部に対してカーボンブラック40〜80重量部を配合した場合、カーボンナノファイバー5〜20重量部を含むことが好ましい。
【0036】
カーボンナノファイバーとしては、例えば、いわゆるカーボンナノチューブなどが例示できる。カーボンナノチューブは、炭素六角網面のグラファイトの1枚面を1層に巻いた単層カーボンナノチューブ(シングルウォールカーボンナノチューブ:SWNT)、2層に巻いた2層カーボンナノチューブ(ダブルウォールカーボンナノチューブ:DWNT)、3層以上に巻いた多層カーボンナノチューブ(MWNT:マルチウォールカーボンナノチューブ)などが適宜用いられる。また、部分的にカーボンナノチューブの構造を有する炭素材料も使用することができる。なお、カーボンナノチューブという名称の他にグラファイトフィブリルナノチューブといった名称で称されることもある。また、カーボンナノファイバーは、ホウ素、炭化ホウ素、ベリリウム、アルミニウム、ケイ素等の黒鉛化触媒と共に約2300℃〜3200℃で黒鉛化処理したものを用いてもよい。
単層カーボンナノチューブもしくは多層カーボンナノチューブは、アーク放電法、レーザーアブレーション法、気相成長法などによって望ましいサイズに製造される。アーク放電法は、大気圧よりもやや低い圧力のアルゴンや水素雰囲気下で、炭素棒でできた電極材料の間にアーク放電を行うことで、陰極に堆積した多層カーボンナノチューブを得る方法である。また、単層カーボンナノチューブは、前記炭素棒中にニッケル/コバルトなどの触媒を混ぜてアーク放電を行い、処理容器の内側面に付着するすすから得られる。レーザーアブレーション法は、希ガス(例えばアルゴン)中で、ターゲットであるニッケル/コバルトなどの触媒を混ぜた炭素表面に、YAGレーザーの強いパルスレーザー光を照射することによって炭素表面を溶融・蒸発させて、単層カーボンナノチューブを得る方法である。気相成長法は、ベンゼンやトルエン等の炭化水素を気相で熱分解し、カーボンナノチューブを合成するもので、より具体的には、流動触媒法やゼオライト担持触媒法などが例示できる。なお、カーボンナノファイバーは、エラストマーと混練される前に、あらかじめ表面処理、例えば、イオン注入処理、スパッタエッチング処理、プラズマ処理などを行うことによって、エラストマーとの接着性やぬれ性を改善することができる。
【0037】
(VI)粒子状の炭素繊維複合材料の製造方法
図5は、本発明の一実施形態にかかるオープンロール法による炭素繊維複合材料の製造方法を模式的に示す図である。図6は、本発明の一実施形態にかかるオープンロール法による炭素繊維複合材料の製造方法を模式的に示す図である。
まず、図5を用いて、エラストマーとカーボンナノファイバーとを混練して炭素繊維複合材料を得る工程について説明する。図5に示すように、第1のロール100と第2のロール200とは、所定の間隔d、例えば0.5mm〜1.0mmの間隔で配置され、図5において矢印で示す方向に回転速度V1,V2で正転あるいは逆転で回転する。オープンロールに投入されるエラストマーは、未架橋体であって、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって、30℃で測定した、ネットワーク成分のスピン−スピン緩和時間(T2n/30℃)が好ましくは100〜3000μ秒である。まず、第2のロール200に巻き付けられたエラストマー30の素練りを行ない、エラストマー分子鎖を適度に切断してフリーラジカルを生成する。カーボンナノファイバーは、通常、側面は炭素原子の6員環で構成され、先端は5員環が導入されて閉じた構造となっているが、構造的に無理があるため、実際上は欠陥を生じやすく、その部分にラジカルや官能基を生成しやすくなっているため、素練りによってエラストマーのフリーラジカルがカーボンナノファイバーと結びつきやすい状態となる。
次に、第2のロール200に巻き付けられたエラストマー30のバンク32に、平均直径が0.5ないし500nmのカーボンナノファイバー40を投入し、混練して混合物36を得る。エラストマー30とカーボンナノファイバー40とを混合する工程は、オープンロール法に限定されず、密閉式混練法あるいは多軸押出し混練法を用いることもできる。
【0038】
さらに、図6に示すように、第1のロール100と第2のロール200とのロール間隔dを、好ましくは0.5mm以下、より好ましくは0ないし0.5mmの間隔に設定し、混合物36をオープンロールに投入して薄通しを複数回行なう。薄通しの回数は、例えば5回〜10回程度行なうことが好ましい。第1のロール100の表面速度をV1、第2のロール200の表面速度をV2とすると、薄通しにおける両者の表面速度比(V1/V2)は、1.05ないし3.00であることが好ましく、さらに1.05ないし1.2であることが好ましい。このような表面速度比を用いることにより、所望の剪断力を得ることができる。薄通しされた炭素繊維複合材料は、ロールで圧延されてシート状に分出しされる。この薄通しの工程では、できるだけ高い剪断力を得るために、ロール温度を好ましくは0ないし50℃、より好ましくは5ないし30℃の比較的低い温度に設定して行われ、エラストマー30の実測温度も0ないし50℃に調整されることが好ましい。このようにして得られた剪断力により、エラストマー30に高い剪断力が作用し、凝集していたカーボンナノファイバー40がエラストマー分子に1本づつ引き抜かれるように相互に分離し、エラストマー30中に分散される。特に、エラストマー30は、弾性と、粘性と、カーボンナノファイバー40との化学的相互作用と、を有するため、カーボンナノファイバー40を容易に分散することができる。そして、カーボンナノファイバー40の分散性および分散安定性(カーボンナノファイバーが再凝集しにくいこと)に優れた炭素繊維複合材料を得ることができる。
【0039】
より具体的には、オープンロールでエラストマーとカーボンナノファイバーとを混合すると、粘性を有するエラストマーがカーボンナノファイバーの相互に侵入し、かつ、エラストマーの特定の部分が化学的相互作用によってカーボンナノファイバーの活性の高い部分と結合する。次に、エラストマーに強い剪断力が作用すると、エラストマー分子の移動に伴ってカーボンナノファイバーも移動し、さらに剪断後の弾性によるエラストマーの復元力によって、凝集していたカーボンナノファイバーが分離されて、エラストマー中に分散されることになる。本実施形態によれば、炭素繊維複合材料が狭いロール間から押し出された際に、エラストマーの弾性による復元力で炭素繊維複合材料はロール間隔より厚く変形する。その変形は、強い剪断力の作用した炭素繊維複合材料をさらに複雑に流動させ、カーボンナノファイバーをエラストマー中に分散させると推測できる。そして、一旦分散したカーボンナノファイバーは、エラストマーとの化学的相互作用によって再凝集することが防止され、良好な分散安定性を有することができる。
エラストマーとカーボンナノファイバーとを混練して炭素繊維複合材料を得る工程は、前記オープンロール法に限定されず、密閉式混練法あるいは多軸押出し混練法を用いることもできる。要するに、この工程では、凝集したカーボンナノファイバーを分離できる剪断力をエラストマーに与えることができればよい。特に、オープンロール法は、ロール温度の管理だけでなく、混合物の実際の温度を測定し管理することができるため、好ましい。
【0040】
薄通しして得られた炭素繊維複合材料は、炭素繊維複合材料に架橋剤を混合し架橋して架橋体の炭素繊維複合材料として用いてもよいし、架橋させずに無架橋体のまま摩擦材に成形してもよい。炭素繊維複合材料は、オープンロール法によって得られたシート状であるので、粒子状の充填材や強化繊維などと混合し易いように粒子状に粉砕する。粒子状の炭素繊維複合材料を得る方法は、炭素繊維複合材料と、鋭角なエッジを少なくとも1箇所以上有し平均粒径0.1〜500μmの粒子状の堅果殻もしくはケイ酸化合物と、を混練し、多孔質体を得る工程と、多孔質体を粉砕して粒子状の炭素繊維複合材料を得る工程と、を含むことを特徴とする。この工程における混練方法としては、オープンロール法、密閉式混練法などを用いることができる。このような堅果殻やケイ酸化合物は、鋭角なエッジによって混練の間に炭素繊維複合材料を削り取り、自らに炭素繊維複合材料に吸着しながら炭素繊維複合材料をスポンジのような多孔質体にする。そして、その多孔質体を混練機から取り出して粉砕することで粒子状の炭素繊維複合材料を得ることができる。この粉砕方法としては、すでに炭素繊維複合材料は非常に脆い多孔質体であるので、人手によってほぐすことで粉化することができるが、例えばミキサやブレンダなどの攪拌機などを用いてもよい。粒子状の炭素繊維複合材料は、摩擦調整材例えば堅果殻の粒子を覆うようにあるいは部分的に吸着している。したがって、摩擦材に用いる他の充填材等に比べて比較的比重の軽い炭素繊維複合材料であっても、摩擦調整材例えば堅果殻に吸着しているため、他の充填材と混合して摩擦材を成形しても偏析が少なくなる。
【0041】
炭素繊維複合材料の製造方法において、通常、エラストマーの加工で用いられる配合剤を加えることができる。配合剤としては公知のものを用いることができる。配合剤としては、例えば、架橋剤、加硫剤、加硫促進剤、加硫遅延剤、軟化剤、可塑剤、硬化剤、補強剤、充填剤、老化防止剤、着色剤などを挙げることができる。これらの配合剤は、例えばオープンロールにおけるカーボンナノファイバーの投入前にエラストマーに投入することができる。
【0042】
なお、前述した炭素繊維複合材料の製造方法においては、ゴム弾性を有した状態のエラストマーにカーボンナノファイバーを直接混合したが、これに限らず、以下の方法を採用することもできる。まず、カーボンナノファイバーを混合する前に、エラストマーを素練りしてエラストマーの分子量を低下させる。エラストマーは、素練りによって分子量が低下すると、粘度が低下するため、凝集したカーボンナノファイバーの空隙に浸透しやすくなる。原料となるエラストマーは、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって30℃、観測核が1Hで測定した、未架橋体における、ネットワーク成分の第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)が100ないし3000μ秒のゴム状弾性体である。この原料のエラストマーを素練りしてエラストマーの分子量を低下させ、第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)が3000μ秒を越える液体状のエラストマーを得る。なお、素練り後の液体状のエラストマーの第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)は、素練りする前の原料のエラストマーの第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)の5〜30倍であることが好ましい。この素練りは、エラストマーが固体状態のままで行なう一般的な素練りとは異なり、強剪断力を例えばオープンロール法で与えることによってエラストマーの分子を切断し分子量を著しく低下させ、混練に適さない程の流動を示すまで、液体状態になるまで行なわれる。この素練りは、例えばオープンロール法を用いた場合、ロール温度20℃(素練り時間最短60分)〜150℃(素練り時間最短10分)で行なわれロール間隔dは例えば0.1mm〜1.0mmで、素練りして液体状態のエラストマーにカーボンナノファイバーを投入する。しかしながら、エラストマーは液体状で弾性が著しく低下しているため、エラストマーのフリーラジカルとカーボンナノファイバーが結びついた状態で混練しても凝集したカーボンナノファイバーはあまり分散されない。
【0043】
そこで、液体状のエラストマーとカーボンナノファイバーとを混練して得られた混合物中におけるエラストマーの分子量を増大させ、エラストマーの弾性を回復させてゴム状弾性体の混合物を得た後、先に説明したオープンロール法の薄通しなどを実施してカーボンナノファイバーをエラストマー中に均一に分散させる。エラストマーの分子量が増大したゴム状弾性体の混合物は、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって30℃で測定した、ネットワーク成分の第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)が3000μ秒以下である。また、エラストマーの分子量が増大したゴム状弾性体の混合物の第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)は、素練りする前の原料エラストマーの第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)の0.5〜10倍であることが好ましい。ゴム状弾性体の混合物の弾性は、エラストマーの分子形態(分子量で観測できる)や分子運動性(T2nで観測できる)によって表すことができる。エラストマーの分子量を増大させる工程は、例えばエラストマーが天然ゴムの場合、混合物を加熱処理例えば40℃〜100℃に設定された加熱炉内に混合物を配置し、10時間〜100時間行なわれることが好ましい。このような加熱処理によって、混合物中に存在するエラストマーのフリーラジカル同士の結合などによって分子鎖が延長され、分子量が増大する。また、エラストマーの分子量の増大を短時間で実施する場合には、架橋剤を少量、例えば架橋剤の適量の1/2以下を混合させておき、混合物を加熱処理(例えばアニーリング処理)し架橋反応によって短時間で分子量を増大させることもできる。架橋反応によってエラストマーの分子量を増大させる場合には、この後の工程で混練が困難にならない程度に架橋剤の配合量、加熱時間及び加熱温度を設定することが好ましい。
【0044】
ここで説明した炭素繊維複合材料の製造方法によれば、カーボンナノファイバーを投入する前にエラストマーの粘度を低下させることで、エラストマー中にカーボンナノファイバーを従来よりも均一に分散させることができる。より詳細には、先に説明した製造方法のように分子量が大きいエラストマーにカーボンナノファイバーを混合するよりも、分子量が低下した液体状のエラストマーを用いた方が凝集したカーボンナノファイバーの空隙にエラストマー分子が侵入しやすく、薄通しの工程においてカーボンナノファイバーをより均一に分散させることができる。また、エラストマーが分子切断されることで大量に生成されたエラストマーのフリーラジカルがカーボンナノファイバーの表面とより強固に結合することができるため、さらにカーボンナノファイバーを均一に分散させることができる。したがって、ここで説明した製造方法によれば、先の製造方法よりも少量のカーボンナノファイバーでも同等の性能を得ることができ、高価なカーボンナノファイバーを節約することで経済性も向上する。このようにして得られた炭素繊維複合材料は、前述したように堅果殻もしくはケイ酸化合物の摩擦調整材と混練されて多孔質体とし、さらに多孔質体を粉砕して粒子状の炭素繊維複合材料を得ることができる。
【0045】
(VII)摩擦材の製造方法
摩擦材2の製造方法としては、特に限定されないが、圧縮成形、トランスファー成形、射出成形または射出圧縮成形など一般的に知られている成形法を用いて粒子状の炭素繊維複合材料を強化繊維及びバインダーと混合し、所望の形状に成形するとともに、加熱して硬化させることができる。摩擦材2の製造方法について、図7〜図9を参照しながら詳細に説明する。図7は、本発明の一実施形態にかかる摩擦材2の製造工程を示す工程図である。図8は、本発明の一実施形態にかかる摩擦材2を製造する仮成形工程を説明するための説明図である。図9は、本発明の一実施形態にかかる摩擦材2を製造する加熱・加圧工程を説明するための説明図である。
摩擦材2は、図7に示す製造工程によって製造することができる。この製造工程において、先ず、金属製のプレート3に結着孔4、4を穿設してから各種の表面処理を施した後、乾燥を施す。かかる表面処理には、プレート3を脱脂する脱脂工程、プレート3の表面に向けて粒状物を噴射し、摩擦材2とプレート3との結着強度を高めるためのショット加工工程、摩擦材2とプレート3とを接着する例えば熱硬化性接着剤をプレート3の表面に塗布する接着剤塗布工程が含まれる。他方、摩擦材2の成形がプレート3の加工工程と別工程で行われる。摩擦材2の成形においては、摩擦材2の原料を混合してから所定量計量し、仮成形して板状体の仮成形体とする。この際に、原料として用いられる摩擦材2の原料は、前述した強化繊維、摩擦調整材、ゴム組成物としての炭素繊維複合材料及びバインダ樹脂が含まれる。より詳細には、この原料における摩擦調整材のうち鋭角なエッジを少なくとも1箇所以上有する堅果殻もしくはケイ酸化合物は、炭素繊維複合材料が吸着し、粒子状の炭素繊維複合材料を形成した状態である。
【0046】
図8に示すように、あらかじめ混合機で十分に混合した摩擦材2の原料(強化繊維、摩擦調整材の粒子、炭素繊維複合材料の粒子、バインダ樹脂)を、載置台54上に配置された仮成形型52内に充填する。そして、摩擦材2の原料をプレス型50によって押圧して仮成形を行って仮成形体65を得る。
仮成形で得られた仮成形体65は、図9に示すように、プレス機によって加熱・加圧成形されてプレート3と一体化した摩擦材2に成形される。加熱・加圧成形は、まずプレス機の載置台64上の金型62内に仮成形体65を配置し、さらにその仮成形体65上の所定位置にプレート3をセットし、押型60によって仮成形体65を押圧しつつ加熱する。この加熱・加圧成形によって、仮成形体65の原料中に配合されたバインダ樹脂が溶解され流動した後、硬化して仮成形体65の原料同士を強固に結着すると共に、プレート3の表面とも強固に結着して摩擦材2を形成する。この様な加熱・加圧成形を施して得られた摩擦材2は、摩擦材2とプレート3との結着を更に一層完全なものとすべく、オーブン中で数時間の焼成が施される。焼成工程を経た摩擦材は、摩擦材2に溝を形成する溝加工、摩擦材2の表面を研磨する研磨加工、塗装等の後加工工程などを経て製品(パッド1)となる。
【0047】
摩擦材2に配合される炭素繊維複合材料は、摩擦材2に要求される高温特性によって適宜配合量を調整することができるが、摩擦材2の高温特性を改善するためには2〜10重量%含むことが好ましい。摩擦材2は、炭素繊維複合材料が高温においても優れた減衰特性及び高い動的弾性率を有するので、高温における高摩擦係数を有すると共に、被摩擦部材との接触による高温における鳴きを低減させることができる。また、本発明にかかる摩擦材によれば、被摩擦部材との均一接触によって摩耗量を低減させることができる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(1)実施例1〜9及び比較例1のサンプルの作製
6インチオープンロール(ロール温度10〜20℃、ロール間隔1.5mm)に、表1に示す所定量のエラストマーとしての天然ゴム(100重量部(phr))を投入して、ロールに巻き付かせ、5分間素練りした後、表1に示す量のカーボンナノファイバー及び/もしくはカーボンブラックを投入し、混合物をオープンロールから取り出した。そして、ロール間隔を1.5mmから0.3mmへと狭くして、混合物を再びオープンロールに投入して薄通しを繰り返し5回行なった。このとき、2本のロールの表面速度比を1.1とした。さらに、ロール間隙を1.1mmにセットして、薄通しして得られた炭素繊維複合材料を投入し、分出しした。
この分出しされた炭素繊維複合材料は90℃、5分間プレス成形し、それぞれ厚さ1mmのシート状の無架橋体の炭素繊維複合材料サンプルに成形した。また、分出しされた炭素繊維複合材料の内、実施例1〜4,6〜9及び比較例1、2の炭素繊維複合材料に架橋剤としてパーオキサイドを配合し、オープンロールで混合して、ロール間隙を1.1mmで分出しした。そして、分出しされた炭素繊維複合材料を175℃、20分間プレス架橋し、実施例1〜4,6〜9及び比較例1、2の架橋体の炭素繊維複合材料サンプルを成形した。
表1において、炭素繊維複合材料の原料の「NR」は天然ゴム、「EPDM」はエチレン・プロピレンゴム、「MWNT13」は平均直径が約13nmの気相成長マルチウォールカーボンナノチューブであり、「MWNT100」は平均直径が約100nmの気相成長マルチウォールカーボンナノチューブであり、「HAF」はHAFグレードのカーボンブラックであった。なお、表1における「炭素繊維複合材料の配合割合」は重量部(phr)で示した。
【0049】
(2)パルス法NMRを用いた測定
実施例1〜9及び比較例1の原料ゴム及び各無架橋体の炭素繊維複合材料サンプルについて、パルス法NMRを用いてハーンエコー法による測定を行った。この測定は、日本電子(株)製「JMN−MU25」を用いて行った。測定は、観測核が1H、共鳴周波数が25MHz、90゜パルス幅が2μsecの条件で行い、ハーンエコー法のパルスシーケンス(90゜x−Pi−180゜x)にて、Piをいろいろ変えて減衰曲線を測定した。また、サンプルは、磁場の適正範囲までサンプル管に挿入して測定した。測定温度は表1のカッコ内に示すように、30℃と150℃であった。この測定によって、原料エラストマーの第1のスピンースピン緩和時間(T2n/30℃)と、各無架橋体の炭素繊維複合材料サンプルについて第1のスピン−スピン緩和時間(T2n/150℃)及び第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn/150℃)を有する成分の成分分率(fnn/150℃)とを求めた。測定結果を表1に示した。
【0050】
(3)熱機械分析(TMA)
実施例1〜4,6〜9及び比較例1の架橋体の炭素繊維複合材料サンプルと実施例5の無架橋体の炭素繊維複合材料サンプルを1.5mm×1.0mm×10mmに切り出した試験片について、SII社製熱機械分析機(TMA−SS6100)を用いて、側長荷重は25KPa、測定温度は−100〜300℃、昇温速度は3℃/分で大気中における線膨張係数を測定し、得られた線膨張係数の温度変化特性から軟化劣化もしくは硬化劣化が開始する劣化開始温度(℃)を測定した。より詳細に説明すると、劣化開始温度は、各炭素繊維複合材料サンプルの温度(℃)−微分線膨張係数(ppm/K)のグラフにおいて、線膨張係数が極端に増大している点で架橋型の硬化劣化(収縮)または線膨張係数が極端に低下している点で鎖切断型の軟化劣化(膨張)が開始していると判断し、劣化開始温度とした。これらの結果を表1に示す。
【0051】
(4)動的粘弾性試験
実施例1〜4,6〜9及び比較例1の架橋体の炭素繊維複合材料サンプルと実施例5の無架橋体の炭素繊維複合材料サンプルを短冊形(40×1×5(巾)mm)に切り出した試験片について、SII社製の動的粘弾性試験機DMS6100を用いて、チャック間距離20mm、測定温度−100〜300℃、動的ひずみ±0.05%、周波数10HzでJIS K6394に基づいて動的粘弾性試験を行い動的弾性率(E’、単位はMPa)と損失正接(tanδ)を測定した。測定温度が30℃と200℃における動的弾性率(E’)の測定結果を表1に示す。また、測定温度が−10℃、30℃及び200℃における損失正接(tanδ)の測定結果を表1に示す。さらに、ガラス転移点(Tg)付近の領域における損失正接(tanδ)のピーク温度を使用最低温度(℃)として表1に示す。使用最低温度は、これよりも低温の領域では炭素繊維複合材料が硬くなりすぎるためクッション性を失うので、炭素繊維複合材料としての使用限界温度である。
【0052】
【表1】
表1から、本発明の実施例1〜9によれば、以下のことが確認された。すなわち、本発明の実施例1〜9の炭素繊維複合材料サンプルの劣化開始温度は、比較例1の炭素繊維複合材料サンプルの劣化開始温度よりも高く、160℃以上であった。また、本発明の実施例1〜9の炭素繊維複合材料サンプルによれば、200℃における動的弾性率(E’)が10MPa以上であり、高温においても高い剛性を維持していることがわかった。なお、比較例1の炭素繊維複合材料サンプルは、劣化開始温度が127℃であったので、200℃では軟化して測定できなかった。本発明の実施例1〜9によれば、常温(30℃)における動的弾性率(E’)が20MPa以上で比較例1よりも高く、常温(30℃)においても高い剛性を有していた。したがって、実施例1〜9の炭素繊維複合材料を用いた摩擦材は、低温から高温まで高い動的弾性率を維持した炭素繊維複合材料を含むため高摩擦係数を維持することができる。
さらに、本発明の実施例1〜9によれば、200℃における損失正接(tanδ)が0.05以上であり、特に高温において高い減衰特性を維持していることがわかった。なお、比較例1の炭素繊維複合材料は、劣化開始温度が127℃であったので、200℃では軟化して測定できなかった。本発明の実施例1〜9によれば、使用最低温度が−40℃〜−70℃であって、低温(−10℃)における損失正接(tanδ)が0.09以上であり、常温(30℃)においても損失正接(tanδ)が0.09以上で比較的高い減衰特性を有していた。したがって、実施例1〜9の炭素繊維複合材料を用いた摩擦材は、低温から高温まで優れた減衰特性を有する炭素繊維複合材料を含むため例えばブレーキにおける鳴きを低温から高温までの広範囲で低減することができる。
【0053】
(6)粒子状の炭素繊維複合材料の電子顕微鏡観察
前記(1)で得られた実施例9の無架橋体の炭素繊維複合材料100重量部をオープンロールに巻きつかせ、平均粒径200μmのカシューダスト100重量部をオープンロールに投入し、10分間混練した後、オープンロールから多孔質体を取り出した。さらに、この多孔質体を手でほぐし、粒子状の炭素繊維複合材料を得た。また、粒子状の炭素繊維複合材料を電子顕微鏡(SEM)で撮影した写真を図10、図11、図12に示した。図10の撮影条件は1.0kV、50倍であり、図11の撮影条件は1.0kV、300倍であり、図12の撮影条件は1.0kV、5000倍であった。また、参考までに、本実施例で用いたカシューダスト粒子を図13(撮影条件:1.0kV、50倍)と図14(撮影条件:1.0kV、300倍)に示した。図10に示すように、手でほぐして粉々になった炭素繊維複合材料はカシューダストよりは多少大きい粒子状であり、図11に示すように、図14のカシューダストに比べて表面が明らかに滑らかであり、粒子状の炭素繊維複合材料がカシューダストの粒子を覆うように付着していることがわかった。また、図12に示すように、粒子状の炭素繊維複合材料の表面にはカーボンナノファイバーの一部が見られた。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の一実施の形態に係るディスクブレーキ用のパッドの正面図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係るディスクブレーキ用のパッドの一部切欠き平面図である。
【図3】本発明の一実施の形態に係るディスクブレーキ用のパッドの背面図である。
【図4】本発明の一実施の形態に係るディスクブレーキの構造を示す縦断面図である。
【図5】本発明の一実施の形態にかかるオープンロール法による炭素繊維複合材料の製造方法を模式的に示す図である。
【図6】本発明の一実施の形態にかかるオープンロール法による炭素繊維複合材料の製造方法を模式的に示す図である。
【図7】本発明の一実施の形態にかかる摩擦材の製造工程を示す工程図である。
【図8】本発明の一実施の形態にかかる摩擦材を製造する仮成形工程を説明するための説明図である。
【図9】本発明の一実施の形態にかかる摩擦材を製造する加熱・加圧工程を説明するための説明図である。
【図10】実施例9の粒子状の炭素繊維複合材料の電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図11】実施例9の粒子状の炭素繊維複合材料の電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図12】実施例9の粒子状の炭素繊維複合材料の電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図13】カシューダストの電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図14】カシューダストの電子顕微鏡(SEM)写真である。
【符号の説明】
【0055】
1 パッド
2 摩擦材
3 プレート
5 シム板
10 ディスクブレーキ
11 キャリパボディ
12 ピストン
13 ディスクロータ
14 液圧室
30 エラストマー
40 カーボンナノファイバー
100 第1のロール
200 第2のロール
d ロール間隔
V1 第1のロールの表面速度
V2 第2のロールの表面速度
【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維と、摩擦調整材と、ゴム組成物と、バインダ樹脂と、を含む摩擦材であって、
前記ゴム組成物は、エラストマーに平均直径が0.5〜500nmのカーボンナノファイバーが均一に分散され、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって150℃、観測核が1Hで観測した、無架橋体における、第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)は100ないし3000μ秒であり、第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn)を有する成分の成分分率(fnn)は0.2未満である粒子状の炭素繊維複合材料であって、
前記摩擦調整材は、鋭角なエッジを少なくとも1箇所以上有し、平均粒径0.1〜500μmの粒子状の堅果殻もしくはケイ酸化合物を含む、摩擦材。
【請求項2】
請求項1において、
前記炭素繊維複合材料は、前記エラストマー100重量部に対して、前記カーボンナノファイバー5〜100重量部を含む、摩擦材。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記摩擦調整材は、堅果殻を含み、
前記堅果殻は、カシューダストである、摩擦材。
【請求項4】
請求項1または2において、
前記摩擦調整材は、ケイ酸化合物を含み、
前記ケイ酸化合物は、カオリンクレーである、摩擦材。
【請求項5】
エラストマーとカーボンナノファイバーとを混練して炭素繊維複合材料を得る工程と、
前記炭素繊維複合材料と、鋭角なエッジを少なくとも1箇所以上有し平均粒径0.1〜500μmの粒子状の堅果殻もしくはケイ酸化合物と、を混練し、多孔質体を得る工程と、
前記多孔質体を粉砕して粒子状の炭素繊維複合材料を得る工程と、
を含む、粒子状の炭素繊維複合材料の製造方法。
【請求項6】
請求項5において、
前記粒子状の炭素繊維複合材料は、堅果殻を含み、
前記堅果殻は、カシューダストである、粒子状の炭素繊維複合材料の製造方法。
【請求項7】
請求項5において、
前記粒子状の炭素繊維複合材料は、ケイ酸化合物を含み、
前記ケイ酸化合物は、カオリンクレーである、粒子状の炭素繊維複合材料の製造方法。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれかの製造方法で得られた、粒子状の炭素繊維複合材料。
【請求項9】
請求項5〜7のいずれかの製造方法で得られた粒子状の炭素繊維複合材料を、強化繊維及びバインダ樹脂と混合し成形する工程をさらに含む、摩擦材の製造方法。
【請求項1】
強化繊維と、摩擦調整材と、ゴム組成物と、バインダ樹脂と、を含む摩擦材であって、
前記ゴム組成物は、エラストマーに平均直径が0.5〜500nmのカーボンナノファイバーが均一に分散され、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって150℃、観測核が1Hで観測した、無架橋体における、第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)は100ないし3000μ秒であり、第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn)を有する成分の成分分率(fnn)は0.2未満である粒子状の炭素繊維複合材料であって、
前記摩擦調整材は、鋭角なエッジを少なくとも1箇所以上有し、平均粒径0.1〜500μmの粒子状の堅果殻もしくはケイ酸化合物を含む、摩擦材。
【請求項2】
請求項1において、
前記炭素繊維複合材料は、前記エラストマー100重量部に対して、前記カーボンナノファイバー5〜100重量部を含む、摩擦材。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記摩擦調整材は、堅果殻を含み、
前記堅果殻は、カシューダストである、摩擦材。
【請求項4】
請求項1または2において、
前記摩擦調整材は、ケイ酸化合物を含み、
前記ケイ酸化合物は、カオリンクレーである、摩擦材。
【請求項5】
エラストマーとカーボンナノファイバーとを混練して炭素繊維複合材料を得る工程と、
前記炭素繊維複合材料と、鋭角なエッジを少なくとも1箇所以上有し平均粒径0.1〜500μmの粒子状の堅果殻もしくはケイ酸化合物と、を混練し、多孔質体を得る工程と、
前記多孔質体を粉砕して粒子状の炭素繊維複合材料を得る工程と、
を含む、粒子状の炭素繊維複合材料の製造方法。
【請求項6】
請求項5において、
前記粒子状の炭素繊維複合材料は、堅果殻を含み、
前記堅果殻は、カシューダストである、粒子状の炭素繊維複合材料の製造方法。
【請求項7】
請求項5において、
前記粒子状の炭素繊維複合材料は、ケイ酸化合物を含み、
前記ケイ酸化合物は、カオリンクレーである、粒子状の炭素繊維複合材料の製造方法。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれかの製造方法で得られた、粒子状の炭素繊維複合材料。
【請求項9】
請求項5〜7のいずれかの製造方法で得られた粒子状の炭素繊維複合材料を、強化繊維及びバインダ樹脂と混合し成形する工程をさらに含む、摩擦材の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
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【図6】
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【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2009−91483(P2009−91483A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−264493(P2007−264493)
【出願日】平成19年10月10日(2007.10.10)
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【出願人】(300025114)興和ゴム工業株式会社 (7)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年10月10日(2007.10.10)
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【出願人】(300025114)興和ゴム工業株式会社 (7)
【Fターム(参考)】
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