説明

摩擦材用バインダー樹脂組成物、それを含む熱硬化性樹脂複合材料および摩擦材

【課題】 フェノールノボラック樹脂などを混合することなしに、樹脂としてポリベンゾオキサジン樹脂のみの使用で、性能に優れる摩擦材を生産性よく成形し得る摩擦材用バインダー樹脂組成物、それを含む熱硬化性樹脂複合材料および摩擦材を提供する。
【解決手段】 ポリベンゾオキサジン樹脂と、その100質量部に対し、アルコキシチタン化合物の加水分解縮合物を、TiO換算で3〜25質量部含む摩擦材用バインダー樹脂組成物、およびこのバインダー樹脂組成物、繊維状補強材、潤滑材および摩擦調整材を含む熱硬化性樹脂複合材料、並びに該熱硬化性樹脂複合材料を用いて得られた摩擦材である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦材用バインダー樹脂組成物、それを含む熱硬化性樹脂複合材料および摩擦材に関する。さらに詳しくは、本発明は、ゲル化時間の短縮により、フェノールノボラック樹脂などを混合することなしに、樹脂としてポリベンゾオキサジン樹脂のみの使用で、性能に優れる摩擦材を生産性よく成形し得る摩擦材用バインダー樹脂組成物、それを含む熱硬化性樹脂複合材料および該複合材料を用いて得られたフェードを抑制し得る摩擦材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等のブレーキパッドに用いられるノンアスベスト系ブレーキ用摩擦材は、例えば、スチール、銅等の金属繊維、セラミック、カーボン等の無機繊維、アラミド繊維等の有機繊維等からなる基材に、黒鉛、三硫化アンチモン、二硫化モリブデン等の潤滑材、膨潤性粘土鉱物、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム等の充填材、およびカシューダスト、セラミック粉、金属粉末等の摩擦調整材を配合し、かつこれらの成分にバインダー樹脂(結合材)を配合して十分攪拌混合後、加熱しつつ圧縮成形を行うことにより作製されている。
【0003】
そして、上記バインダー樹脂として、これまでフェノール樹脂やエポキシ樹脂が多用されてきた。しかしながら、フェノール樹脂を使用した摩擦材では、熱成形工程において、硬化剤のヘキサメチレンテトラミンに起因して発生するガスにより、ヒビ、フクレなどの成形不良が発生し、生産歩留まりが低下すると共に、ガスの主成分であるアンモニアによる環境汚染も懸念されている。また、エポキシ樹脂は、耐熱性が不十分であるという問題を有している。
【0004】
そこで、フェノール樹脂やエポキシ樹脂に変わる摩擦材のバインダー樹脂として、熱硬化過程でガスが発生せず、耐熱性、強度に優れる摩擦材を与えることのできるポリベンゾオキサジン樹脂の使用が試みられている。例えば耐熱性樹脂を結合材とし、補強繊維を基材、そして黒鉛、金属粉、無機充填材等よりなる摩擦材において、前記耐熱性樹脂がジヒドロベンゾオキサジン環を含む樹脂(ポリベンゾオキサジン樹脂)からなる摩擦材が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、ポリベンゾオキサジン樹脂は、高温における長時間成形が必要であり、生産性などの観点から、その硬化特性の改良が必要とされていた。この改良手段として、例えばジヒドロベンゾオキサジン環を有する熱硬化性樹脂(ポリベンゾオキサジン樹脂)5〜30重量%及びノボラック型フェノール樹脂70〜95重量%からなることを特徴とする熱硬化性樹脂組成物が開示されている(例えば、特許文献2参照)。しかし、このような熱硬化性樹脂組成物は、硬化特性は改良されているものの、ポリベンゾオキサジン樹脂が本来有する耐熱性が十分に発揮されず、摩擦材のバインダー用としては十分なものではない。
【特許文献1】特開平8−74896号公報
【特許文献2】特開2003−206390号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような事情のもとで、フェノールノボラック樹脂などを混合することなしに、樹脂としてポリベンゾオキサジン樹脂のみの使用で、性能に優れる摩擦材を生産性よく成形し得る摩擦材用バインダー樹脂組成物、それを含む熱硬化性樹脂複合材料および該複合材料を用いて得られた摩擦材を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、摩擦材用バインダー樹脂として、ポリベンゾオキサジン樹脂と、アルコキシチタン化合物の加水分解縮合物を所定の割合で含む樹脂組成物が、その目的に適合し得ることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1) ポリベンゾオキサジン樹脂と、その100質量部に対し、アルコキシチタン化合物の加水分解縮合物を、TiO換算で3〜25質量部含むことを特徴とする摩擦材用バインダー樹脂組成物、
(2) アルコキシチタン化合物が、一般式(1)
Ti(OR …(1)
(式中、Rは炭素数1〜5のアルキル基を示し、4つのORはたがいに同一でも異なっていてもよい。)
で表されるテトラアルコキシチタンである上記(1)項に記載の摩擦材用バインダー樹脂組成物、
(3) 上記(1)または(2)項に記載のバインダー樹脂組成物、繊維状補強材、潤滑材および摩擦調整材を含むことを特徴とする熱硬化性樹脂複合材料、および
(4) 上記(3)項に記載の熱硬化性樹脂複合材料を用いて得られたことを特徴とする摩擦材、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ゲル化時間の短縮により、フェノールノボラック樹脂などを混合することなしに、樹脂としてポリベンゾオキサジン樹脂のみの使用で、性能に優れる摩擦材を生産性よく成形し得る摩擦材用バインダー樹脂組成物、それを含む熱硬化性樹脂複合材料および該複合材料を用いて得られたフェードを抑制し得る摩擦材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
まず、本発明の摩擦材用バインダー樹脂組成物(以下、単にバインダー樹脂組成物と称することがある。)について説明する。
[バインダー樹脂組成物]
本発明の摩擦材用バインダー樹脂組成物は、ポリベンゾオキサジン樹脂と、その100質量部に対し、アルコキシチタン化合物の加水分解縮合物を、TiO換算で3〜25質量部含むことを特徴とする。
(ポリベンゾオキサジン樹脂)
本発明のバインダー樹脂組成物におけるポリベンゾオキサジン樹脂としては特に制限はなく、従来公知のポリベンゾオキサジン樹脂を用いることができる。このポリベンゾオキサジン樹脂は、フェノール性水酸基を有する化合物と、1級アミン類と、アルデヒド類とを縮合反応させることにより製造することができる。
【0011】
前記フェノール性水酸基を有する化合物としては、芳香環上の水酸基のオルト位の少なくとも一方に水素原子を有する1価または2価以上の多価フェノール類を用いることができ、具体的には、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、キシレノール、p−t−ブチルフェノール、α−ナフトール、β−ナフトール、p−フェニルフェノールなどの1価フェノール類;カテコール、レゾルシノール、4,4’−ジヒドロキシジフェニルメタン(ビスフェノールF)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)などの2価フェノール類;トリスフェノール化合物、テトラフェノール化合物、フェノール樹脂などの3価以上の多価フェノール類等を挙げることができる。これらの中では、得られるポリベンゾオキサジン樹脂の性能の観点から、ビスフェノールAが好ましい。
【0012】
一方、1級アミン類としては、脂肪族アミンおよび芳香族アミンがあるが、脂肪族アミンであると、得られるポリベンゾオキサジン樹脂は、耐熱性の劣るものとなり、芳香族アミンが好ましい。この芳香族アミンとしては、例えばアニリン、トルイジン、キシリジン、アニシジンなどを挙げることができる。
【0013】
アルデヒド類としては、ホルマリン、パラホルムアルデヒド、トリオキサン、ベンズアルデヒド、フルフラールなどを挙げることができる。
【0014】
縮合反応は、全フェノール性水酸基1モルに対し、1級アミン類を0.5〜1.0モル程度、好ましくは0.6〜1.0モル、前記1級アミン類1モルに対し、アルデヒド類を、好ましくは2モル以上の割合で反応させるのがよい。
【0015】
反応は、適当な溶媒、例えば水、メタノールやエタノールなどの低級アルコール、メチルエチルケトンやメチルイソブチルケトンなどのケトン類、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族系炭化水素類等の溶媒中において、前記のフェノール性水酸基を有する化合物、1級アミン類およびアルデヒド類を、50〜120℃程度の温度で加熱処理することにより、行うことができる。反応終了後、固液分離し、乾燥することにより、あるいは減圧下で溶媒を留去させることにより、所望のポリベンゾオキサジン樹脂が得られる。
【0016】
フェノール性水酸基を有する化合物として、ビスフェノールAを、1級アミンとしてアニリンを用いた場合、下記の式(2)
【0017】
【化1】

で表されるポリベンゾオキサジン樹脂を製造することができる。
【0018】
このようなポリベンゾオキサジン樹脂は、140〜250℃程度の温度で加熱することにより、ジヒドロベンゾオキサジン環を開環して自己架橋するか、あるいは、架橋性化合物が存在すると、自己架橋すると共に、該架橋性化合物を架橋して硬化する。したがって硬化時に揮発性副生成分が発生しない。
【0019】
本発明のバインダー樹脂組成物においては、前記ポリベンゾオキサジン樹脂を1種用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよく、また必要に応じ、本発明の効果が損なわれない範囲で、他の熱硬化性樹脂、例えばフェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂などを適宜含有させることができる。
(アルコキシチタン化合物)
本発明のバインダー樹脂組成物においては、前記ポリベンゾオキサジン樹脂のゲル化時間を短縮させるために、アルコキシチタン化合物の加水分解縮合物を含有させることが必要である。
【0020】
上記アルコキシチタン化合物は、加水分解縮合により、Ti−O−結合によって三次元のネットワークを形成し得るものが好ましく、このようなアルコキシチタン化合物としては、例えば一般式(1)
Ti(OR …(1)
で表されるテトラアルコキシチタンを用いることができる。
【0021】
上記一般式(1)において、Rは炭素数1〜5のアルキル基を示す。炭素数が6以上になると、加水分解縮合が進行しにくく、チタン原子に結合したアルコキシ基が残留するおそれがあって、加熱成形時にアルコール分が放出されるなど、不都合が生じる場合がある。
【0022】
炭素数1〜5のアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状のいずれであってもよく、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、各種ペンチル基を挙げることができる。4つのRはたがいに同一であっても異なっていてもよい。
【0023】
一般式(1)で表されるテトラアルコキシチタンの例としては、テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラ−n−プロポキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラ−n−ブトキシチタン、テトライソブトキシチタン、テトラ−sec−ブトキシチタン、テトラ−tert−ブトキシチタンなどを挙げることができる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
このようなテトラアルコキシチタンは、加水分解縮合反応により、Ti−O−結合によって三次元ネットワークが形成された加水分解縮合物を容易に生成する。なお、該加水分解縮合反応については、後で説明する。
【0025】
本発明のバインダー樹脂組成物においては、前記アルコキシチタン化合物の加水分解縮合物の含有量は、前記ポリベンゾオキサジン樹脂100質量部に対し、TiO換算で3〜25質量部であることを要す。この含有量が、TiO換算で3質量部未満であれば、バインダー樹脂組成物のゲル化時間短縮効果が十分に発揮されず、本発明の目的が達せられない。一方、25質量部を超えると溶融粘度が高くなりすぎて成形性が低下する。当該加水分解縮合物の好ましい含有量は5〜20質量部である。
(バインダー樹脂組成物の調製)
本発明のバインダー樹脂組成物の調製については特に制限はないが、例えば以下に示す方法により、所望のバインダー樹脂組成物を効率よく調製することができる。
【0026】
適当な極性溶媒にポリベンゾオキサジン樹脂を溶解してなる溶液中に、アルコキシチタン化合物と水を加え、10〜120℃程度、好ましくは20〜60℃の温度にて、0.5〜24時間程度、好ましくは3〜12時間加水分解縮合反応を行う。この際、アルコキシチタン化合物および水は、それぞれ極性溶媒に溶解して溶液の形態で加えることが好ましい。また、アルコキシチタン化合物と水との使用割合については、アルコキシチタン化合物中のアルコキシ基1モルに対し、水を好ましくは0〜8モル、より好ましくは2〜4モルの割合で用いることができる。
【0027】
前記極性溶媒としては、例えばテトラヒドロフランや1,4−ジオキサンなどのエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピルなどのエステル等を挙げることができる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0028】
なお、加水分解縮合反応時に、酸性触媒として酢酸、塩酸、シュウ酸、硝酸などを、アルカリ触媒として水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどを用いてもよい。
【0029】
加水分解縮合反応終了後、反応液から溶媒を取り除き、さらに減圧乾燥などを施すことにより、ポリベンゾオキサジン樹脂と、アルコキシチタン化合物の加水分解縮合物を含む本発明の摩擦材用バインダー樹脂組成物が得られる。
【0030】
このバインダー樹脂組成物は、ゲル化時間が、ポリベンゾオキサジン樹脂単独のゲル化時間に比べてはるかに短く、成形性が著しく向上したものになる。
【0031】
次に、本発明の熱硬化性樹脂複合材料について説明する。
[熱硬化性樹脂複合材料]
本発明の熱硬化性樹脂複合材料(以下、単に複合材料と称することがある。)は、前述した摩擦材用バインダー樹脂組成物、繊維状補強材、潤滑材および摩擦調整材を含むことを特徴とし、摩擦材の成形材料として用いられる。
(繊維状補強材)
本発明の複合材料における繊維状補強材としては、有機繊維および無機繊維のいずれも用いることができる。有機繊維としては、高強度の芳香族ポリアミド繊維(アラミド繊維;デュポン社製、商品名「ケブラー」など)、耐炎化アクリル繊維、ポリイミド繊維、ポリアクリレート繊維、ポリエステル繊維などを挙げることができる。一方、無機繊維としては、チタン酸カリウム繊維、バサルト繊維、炭化珪素繊維、ガラス繊維、炭素繊維、ワラストナイトなどの他、アルミナシリカ系繊維などのセラミック繊維、ステンレス繊維、銅繊維、黄銅繊維、ニッケル繊維、鉄繊維などの金属繊維等を挙げることができる。これらの繊維状物質は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
(潤滑材、摩擦調整材、その他フィラー)
<潤滑材>
本発明の複合材料における潤滑材としては、特に制限はなく、従来摩擦材に潤滑材として使用されている公知のものの中から、任意のものを適宜選択することができる。この潤滑材の具体例としては、黒鉛、フッ化黒鉛、カーボンブラックや、硫化スズ、二硫化タングステン等の金属硫化物、さらにはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、窒化硼素などを挙げることができ、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
<摩擦調整材>
また、本発明の複合材料における摩擦調整材としては、特に制限はなく、従来摩擦材に摩擦調整材として使用されている公知のものの中から、任意のものを適宜選択することができる。この摩擦調整材の具体例としては、アルミナ、シリカ、マグネシア、ジルコニア、酸化鉄などの金属酸化物;ケイ酸ジルコニウム;炭化ケイ素;銅、真ちゅう、亜鉛、鉄などの金属粉末類やチタン酸塩粉末等の無機摩擦調整材、NBR、SBR、タイヤトレッドなどのゴムダストや、カシューダストなど有機ダスト等の有機摩擦調整材を挙げることができる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
<その他フィラー>
本発明の複合材料においては、補強材や摩擦調整材などとして、膨潤性粘土鉱物を含有させることができる。この膨潤性粘土鉱物としては、例えばカオリン、タルク、スメクタイト、バーミキュライト、雲母などが挙げられる。
【0032】
また、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化カルシウムなどを含有させることができる。
【0033】
なお、本発明の複合材料においては、前記の潤滑材、摩擦調整材およびその他フィラーの中で無機系フィラーは、当該複合材料中への分散性を良好なものとするために、有機化合物で処理されたフィラーを用いることができる。
<有機化合物で処理されたフィラー>
有機化合物で処理されたフィラーとしては、例えば膨潤性粘土鉱物を始め、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、マグネシア、アルミナ、ジルコニア、シリカ、アルミニウム粉、銅粉、亜鉛粉、黒鉛あるいは硫化スズ、二硫化タングステンなどの、有機化合物による処理物を挙げることができる。
【0034】
膨潤性粘土鉱物からなるフィラーの有機化合物による処理
膨潤性粘土鉱物は層状構造を有し、有機化合物による処理によって、層間化合物を形成すると共に、層間が拡大し、層剥離が生じやすくなり、本発明の複合材料中への分散性が向上する。
【0035】
前記膨潤性粘土鉱物の処理に用いられる有機化合物としては、アミン類や4級アンモニウム塩などが挙げられる。ここで、アミン類としては、例えば炭素数1〜18の脂肪族アミンや芳香族アミンなどを用いることができる。脂肪族アミンの具体例としてはジエチルアミン、アミルアミン、ドデシルアミン、ステアリルアミン、ジドデシルメチルアミンの塩酸塩や臭酸塩などが挙げられ、芳香族アミンの具体例としては、アニリン、トルイジン、キシリジン、フェニレンジアミンなどが挙げられる。これらのアミン類の中では、特にアニリンが好適である。一方、4級アンモニウム塩としては、例えばジメチルジオクタデシルアンモニウムクロリド、オレイルビス(2−ヒドロキシエチル)メチルアンモニウムクロリドなどを好ましく挙げることができる。
【0036】
膨潤性粘土鉱物以外のフィラーの有機化合物による処理
前記の膨潤性粘土鉱物以外のフィラー、例えば炭酸カルシウム、硫酸バリウム、マグネシア、アルミナ、ジルコニア、シリカ、アルミニウム粉、銅粉、亜鉛粉、黒鉛あるいは硫化スズ、二硫化タングステンなどのフィラーの有機化合物による処理は、有機化合物として、炭素数10〜35程度の脂肪族または芳香族1級アミン、あるいは末端に1級アミン基を有するシランカップリング剤などを用いて行うことが好ましい。
【0037】
脂肪族または芳香族1級アミンとしては、例えばn−ドデシルアミン、n−ヘキサデシルアミン、n−オクタデシルアミン、n−ノナデシルアミン、p−tert−ブチルアニリン、p−オクチルアニリン、p−ドデシルアニリンなどが挙げられ、シランカップリング剤としては、例えば3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。これらの中で、特にn−ドデシルアミンが好適である。
【0038】
前記有機化合物によるフィラーの処理方法に特に制限はなく、当該有機化合物を融液の状態で、そのまま用いて処理する方法、あるいは適当な有機溶媒に当該有機化合物を溶解し、溶液の状態で処理する方法などを用いることができる。
【0039】
このようにして有機化合物により処理されたフィラーを当該複合材料中に含有させる方法に特に制限はなく、他の成分と共に溶融混練する方法を用いることができ、また分散性の観点から、ポリベンゾオキサジン樹脂の製造過程において混入することもできる。
【0040】
次に、本発明の摩擦材について説明する。
[摩擦材]
本発明の摩擦材は、前述の熱硬化性樹脂複合材料を用いて得られたことを特徴とする。
【0041】
本発明の摩擦材の成形用材料として用いられる熱硬化性樹脂複合材料は、前述したように、バインダー樹脂として、ポリベンゾオキサジン樹脂とアルコキシチタン化合物の加水分解縮合物を含む、ゲル化時間が短縮されたものを用いることにより、ポリベンゾオキサジン樹脂に他の熱硬化性樹脂を添加することなしに、成形性が向上し、フェードが抑制された摩擦材を生産性よく製造することができる。
【0042】
本発明の摩擦材を作製するには、前記熱硬化性樹脂複合材料を金型などに充填し、通常常温にて5〜30MPa程度の圧力で予備成形し、次いで温度130〜190℃程度、圧力10〜100MPa程度の条件で5〜35分間程度圧縮成形したのち、必要に応じ160〜270℃程度の温度で1〜10時間程度、アフターキュア処理を行うことで、所望の摩擦材を作製することができる。
【実施例】
【0043】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0044】
なお、バインダー樹脂組成物またはバインダー樹脂のゲル化時間の測定および摩擦材のフェード試験は、以下に示す方法に従って行った。
(1)バインダー樹脂組成物またはバインダー樹脂のゲル化時間
180℃の熱板上に樹脂1gを載せ、匙の平面でかき混ぜ、硬化により樹脂粘性が消失した時間(糸を引かなくなるまでの時間(秒))を測定し、ゲル化時間とした。
(2)摩擦材のフェード試験
摩擦材からテストピースを切り出し、テストピース試験機を用いて、JASO−C406−82に準拠してフェード試験を行い、第1フェードの最小摩擦係数と、試験後の摩擦材摩耗量を測定した。
【0045】

製造例 ビスフェノールA型ポリベンゾオキサジン樹脂の製造
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)480g、アニリン390g、パラホルムアルデヒド270g、メチルエチルケトン480gを4つ口フラスコに仕込み攪拌した。均一混合後、40℃で1時間、50℃で1時間、80℃で4時間重縮合反応を行った。重縮合反応後、減圧して脱水・脱溶媒を行い、ビスフェノールA型ポリベンゾオキサジン樹脂(PBOと略称)980gを得た。
実施例1
製造例で得られたPBO100gをテトラヒドロフラン(THF)185gに溶解して溶液1を調製すると共に、テトライソプロポキシチタン(TIPO)18.7gをTHF46gに溶解して溶液2を調製し、さらに水2.4gをTHF27.7gに溶解して溶液3を調製した。
【0046】
次いで、上記で得られた溶液1を攪拌しながら、それに、溶液2を1g/minの速度で滴下したのち、溶液3を1g/minの速度で滴下する操作を室温で行った。溶液3を滴下終了後、25℃にて3時間攪拌を続行した。
【0047】
得られた溶液を100℃で10時間真空乾燥することにより、バインダー樹脂組成物104gを得た。
なおPBO100gに対するTIPOの量は、TiO換算で5.3gであった。
【0048】
このバインダー樹脂組成物のゲル化時間を測定した結果を表2に示す。
実施例2、3および比較例1
実施例1において、溶液1、溶液2および溶液3を、それぞれ表1に示す材料の使用割合で調製した以外は、実施例1と同様にして各バインダー樹脂組成物を得た。
【0049】
各バインダー樹脂組成物のゲル化時間の測定結果を表2に示す。
比較例2
製造例で得られたPBOのゲル化時間を測定した。その結果を表2に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

実施例4〜6および比較例3、4
実施例1〜3および比較例1のバインダー樹脂組成物および比較例2のバインダー樹脂を、それぞれ用い、表3に示す量の各成分をミキサーで混合したのち、混合物を予備成形型に投入し、常温、30MPaの条件で圧縮して予備成形を行った。
【0052】
次いで、これらの予備成形体を、それぞれ熱プレスに投入し、180℃、35MPaの条件で15分間加熱圧縮成形を行った。得られた各熱成形体を、それぞれ250℃で3時間後加熱処理し、摩擦材を作製した。この際、成形性について、上記条件で成形可能であったものを○、成形不可能であったものを×とした。また、各摩擦材のフェード試験を行った。
【0053】
これらの結果を表4に示す。
比較例5
バインダー樹脂として、製造例で得られたPBO70質量%とフェノールノボラック樹脂(カシュー社製、商品名「2075」)30質量%からなる混合樹脂を用い、実施例4〜6と同様にして摩擦材を作製し、評価を行った。その結果を表4に示す。
【0054】
【表3】

【0055】
【表4】

表1〜表4から、以下に示すことが分かる。
【0056】
実施例1〜3のバインダー樹脂組成物は、ポリベンゾオキサジン樹脂と、その100質量部に対し、テトライソプロポキシチタンの加水分解縮合物をTiO換算で3〜25質量部の範囲内で含むことから、比較例2のポリベンゾオキサジン樹脂単独のものに比べて、ゲル化時間がはるかに短い。また、比較例1は、テトライソプロポキシチタンの加水分解縮合物が、ポリベンゾオキサジン樹脂100質量部に対し、TiO換算で42.8質量部と、25質量部を超えて多いため、増粘して流れなくなり、ゲル化時間は測定不能であった。
【0057】
実施例4〜6の摩擦材は、バインダー樹脂として、前記実施例1〜3のものを用いているため、成形可能であって、ポリベンゾオキサジン樹脂とフェノールノボラック樹脂との混合樹脂をバインダー樹脂として用いた比較例5の摩擦材に比べて、摩耗量が若干少なく、かつフェードが抑制され、最低摩擦係数が向上している。
【0058】
比較例3および4は、それぞれバインダー樹脂として、前記比較例1および2のものを用いていることから、成形不可能である。ポリベンゾオキサジン樹脂単独(比較例4)では成形不可能であるが、フェノールノボラック樹脂を混合することにより(比較例5)、成形可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の摩擦材用バインダー樹脂組成物は、ゲル化時間の短縮により、フェノールノボラック樹脂などを混合することなしに、樹脂としてポリベンゾオキサジン樹脂のみの使用で、性能に優れる摩擦材を生産性よく成形することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリベンゾオキサジン樹脂と、その100質量部に対し、アルコキシチタン化合物の加水分解縮合物を、TiO換算で3〜25質量部含むことを特徴とする摩擦材用バインダー樹脂組成物。
【請求項2】
アルコキシチタン化合物が、一般式(1)
Ti(OR …(1)
(式中、Rは炭素数1〜5のアルキル基を示し、4つのORはたがいに同一でも異なっていてもよい。)
で表されるテトラアルコキシチタンである請求項1に記載の摩擦材用バインダー樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載のバインダー樹脂組成物、繊維状補強材、潤滑材および摩擦調整材を含むことを特徴とする熱硬化性樹脂複合材料。
【請求項4】
請求項3に記載の熱硬化性樹脂複合材料を用いて得られたことを特徴とする摩擦材。

【公開番号】特開2009−173807(P2009−173807A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−15317(P2008−15317)
【出願日】平成20年1月25日(2008.1.25)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】