説明

摺動部材および摺動装置

【課題】長期間に渡って静粛性、低振動性を満たすとともに、低摩擦係数で安定した摺動特性を有する摺動部材、および、これを用いた摺動装置を提供する。
【解決手段】軸2と摺動する焼結金属多孔体5と、該焼結金属多孔体5に隣接する部位に配設された潤滑剤供給材6とを備え、軸2の外周面(摺動面)3に摺動案内される摺動部材4であって、上記潤滑剤供給材6は、樹脂成分および潤滑成分を必須成分とし、樹脂成分を発泡・硬化して多孔質化した固形物であり、かつ上記潤滑成分を樹脂内部に吸蔵してなり、上記樹脂成分がゴム状弾性を有する樹脂またはゴムからなり、外力による変形により潤滑成分の滲出性を有し、上記樹脂成分の発泡倍率が、1.1〜100 倍である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリンターや光学式または光磁気式の電子画像記憶・読み取り装置等に装着されたキャリッジ、その他の電子機器の精密摺動部品等の摺動装置、および、該摺動装置に利用されるすべり軸受等の摺動部材に関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータの入出力手段であるプリンターや光学式または光磁気式の画像記憶・読み取り装置(スキャナ)では、電子画像記憶・読み取り装置の光センサーおよび光源が装着された走査部品や印刷用ヘッドを滑らかに移動させ、かつ精度よく位置決めする必要がある。これらの装置において上記走査部品や印刷用ヘッド等を軌道に沿って滑らかに移動させるのに使用される精密摺動部品(摺動装置)は、キャリッジと呼ばれており、上記精密な位置決めやスムーズな動作を行なうため、非常に高い寸法精度や、常温環境で安定した摺動特性等が要求されている。
【0003】
例えば、プリンターに装備されるキャリッジは1本または複数本の軸に案内されて直線運動を行うものであるが、このキャリッジの直線運動を案内するため、キャリッジには上記軸の外周面と摺動する軸受(摺動部材)が装備されている。ここで用いられる精密摺動部材としては、変性ポリフェニレンエーテル樹脂に、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEと記す)樹脂等の固体潤滑剤を配合して得られるもの(特許文献1参照)や含油焼結合金で形成したもの(特許文献2参照)が報告されている。
【0004】
しかしながら、PTFE樹脂の配合など固体潤滑剤による低摩擦化では十分に低く安定した摩擦係数を得ることが難しいという問題がある。この対策として、通常は摺動面に潤滑油やグリースを塗布して所要の摺動特性を付与しているが、潤滑剤が不足するとスムーズな動きが得られず、プリンターであれば印刷画像品位が低下するという問題がある。一方、グリース塗布を不要にしたキャリッジとしてすべり部に含油焼結軸受を用いたものがある。しかしこの場合では、該軸受と金属製軸との金属接触により、摺動音が発生し易く、静粛な事務所や家庭で使用すると騒音源になるという問題があり、長期間にわたる使用では摩耗の一因となることがある。
【特許文献1】特開2001−158855号公報
【特許文献2】特開2002−129207号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような問題点に対処するためになされたものであり、長期間に渡って静粛性、低振動性を満たすとともに、低摩擦係数で安定した摺動特性を有する摺動部材、および、これを用いた摺動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の摺動部材は、軸と摺動する焼結金属多孔体と、該焼結金属多孔体に隣接する部位に配設された潤滑剤供給材とを備え、上記軸の外周面に摺動案内される摺動部材であって、上記潤滑剤供給材は、樹脂成分および潤滑成分を必須成分とし、上記樹脂成分を発泡・硬化して多孔質化した固形物であることを特徴とする。
【0007】
上記樹脂成分は、ゴム状弾性を有する樹脂またはゴムからなり、外力による変形により潤滑成分の滲出性を有することを特徴とする。
また、上記樹脂成分の発泡倍率が、1.1〜100 倍であることを特徴とする。
【0008】
本発明の摺動装置は、軸の外周面に摺動案内される摺動部材を備えてなり、前記軸の軸方向に直線移動する摺動装置であって、上記摺動部材は、上記本発明の摺動部材であることを特徴とする。
また、上記摺動装置は、電子画像の走査部品、または、印刷用ヘッドのキャリッジであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の摺動部材は、軸と摺動する焼結金属多孔体と、該焼結金属多孔体に隣接する部位に配設された潤滑剤供給材とを備え、この潤滑剤供給材が樹脂成分および潤滑成分を必須成分とし、上記樹脂成分を発泡・硬化して多孔質化した固形物であり、かつ潤滑成分が発泡・硬化した固形成分内に吸蔵されるので、潤滑剤供給材に吸蔵された潤滑成分が焼結金属多孔体の気孔部を介して軸との摺動面に徐放される。この結果、長期間に渡って摺動部の潤滑を良好な状態に保つことができ、異常摩耗や騒音・振動を防止できる。
【0010】
本発明の摺動装置は、上記摺動部材を備えてなるので、長期間に渡って摺動部の潤滑を良好な状態に保つことができ、異常摩耗や騒音・振動を防止でき、長寿命である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の摺動部材は、潤滑剤供給材の樹脂内部に潤滑成分を吸蔵させるので、樹脂の柔軟性により、例えば、遠心力、および、温度上昇等に伴う膨張などの外力による変形により潤滑剤を染み出させて樹脂の分子間から外部に徐放できる。この際、染み出す潤滑油量は、外力の大きさに応じて弾性変形する程度を樹脂の選択などによって変えることにより、最適量にすることができる。なお、本発明において「吸蔵」とは、液体・半固体状の潤滑成分が他の配合成分と反応することなく、固体の樹脂中に化合物にならないで含まれることをいう。
また、本発明に用いる潤滑剤供給材において樹脂成分は、発泡により表面積が大きくなっており、染み出した余剰の潤滑油を再び発泡体の気泡内に一時的に保持することもできて染み出す潤滑油量は安定しており、また樹脂内に潤滑油を吸蔵させるとともに気泡内に含浸させることによって非発泡の状態より潤滑油の保持量も多くなる。
さらに発泡させることにより、非発泡状態と比較して大幅な軽量化が可能となり、設計上の自由度を向上させることができる。
【0012】
本発明の摺動部材の一例を図1および図2に基づいて説明する。図1はプリンターの駆動部を示す斜視図であり、図2(a)および図2(b)は摺動部材(すべり軸受)を示す断面図である。
図1に示すようにプリンターの駆動部は、軸2と、摺動部材であるすべり軸受4と、すべり軸受4によって軸支され、軸2上を直線移動するキャリッジ1とを備えてなる。このキャリッジ1が本発明における摺動装置である。
図2(a)および図2(b)に示すように、摺動部材であるすべり軸受4は、軸2と摺動する焼結金属多孔体5と、該焼結金属多孔体5に隣接する部位に配設された潤滑剤供給材6とを備え、摺動面3(軸1の外周面)で摺動案内される。
【0013】
焼結金属多孔体5としては、Fe系焼結金属、Cu系焼結金属、Fe−Cu系焼結金属等が挙げられ、成分としてC、Zn、Sn等を含んでもよい。また、成形性や離型性を向上させるためバインダーを少量添加してもよい。さらに、アルミニウム系でCu、Mg、Si等を配合した材料や金属−合成樹脂で鉄粉をエポキシ系の合成樹脂で結合させた材料でもよい。さらにまた、潤滑剤供給材6との密着性を向上させるため、成形を阻害しない程度であれば表面処理を行なうことも可能である。
【0014】
潤滑剤供給材6は、潤滑成分および樹脂成分を必須成分とし、該樹脂成分を発泡・硬化して多孔質化した固形物であって潤滑成分を樹脂内部に吸蔵してなる。潤滑剤供給材6から染み出した潤滑成分は、遠心力などの外力や毛細管現象により焼結金属多孔体5の気孔部を介して摺動面3に徐放される。この結果、摺動面3を常に適度な潤滑状態に長期間に渡って保つことができる。
潤滑剤供給材6は、焼結金属多孔体5に連接して焼結金属多孔体5を介して摺動面3に潤滑剤の供給を行なう形状であれば、焼結金属多孔体5の任意の位置に取り付けることができる。取り付け位置としては、例えば図2(a)、図2(b)に示すように焼結金属多孔体5の外周面の任意箇所等を例示できる。
【0015】
本発明に用いる潤滑剤供給材を構成する樹脂成分としては、軽い力で油をしみ出す状態に保持できるものであればどのようなものでもよいが、ゴム状弾性を有する樹脂またはゴムからなり、外力による変形により潤滑成分の滲出性を有するものが好ましい。
該樹脂成分としては、樹脂(プラスチック)またはゴムなどのうち、エラストマーまたはプラストマーのいずれかまたは両方を、アロイまたは共重合成分として採用できる。
ゴムの場合は、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、ニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム、シリコーンゴム、ウレタンエラストマー、フッ素ゴム、クロロスルフォンゴムなどの各種ゴムを採用できる。
また、プラスチックの場合は、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアミド4,6樹脂(PA4,6)、ポリアミド6,6樹脂(PA6,6)、ポリアミド6T樹脂(PA6T)、ポリアミド9T樹脂(PA9T)などの汎用プラスチックやエンジニアリングプラスチックを採用できる。
【0016】
上記プラスチックなどに限られることなく、軟質ウレタンフォーム、硬質ウレタンフォーム、半硬質ウレタンフォームなどのウレタンフォームやポリウレタンエラストマーなどを用いることもできる。
また、ウレタンやエポキシなどのプレポリマーを、モノアミンやポリアミン、ジオールやポリオール等の硬化剤を用いて硬化させたものを発泡させて用いてもよい。
また、ウレタン系接着剤、シアノアクリレート系接着剤、エポキシ系接着剤、ポリ酢酸ビニル系接着剤、ポリイミド系接着剤など各種接着剤を発泡および硬化させて使用することもできる。
【0017】
固形成分中には必要に応じて顔料や酸化防止剤、金属不活性剤、帯電防止剤、難燃剤、防黴剤やフィラーなどの各種添加剤を添加することができる。
【0018】
本発明に用いる潤滑剤供給材は、潤滑油などの潤滑成分および樹脂成分を必須成分とし、遠心力、および、温度上昇に伴う気泡の膨張などの外力によって潤滑油を外部に供給することが可能なものである。
潤滑成分を樹脂内部に吸蔵するには、潤滑油などの潤滑成分と樹脂成分とを混合して混合物とし、潤滑成分の存在下で発泡反応と硬化反応とを同時に行なわせる反応型含浸法を採用することが望ましい。このようにすると潤滑成分を樹脂内部に高充填することが可能となり、その後には潤滑成分を含浸して補充する後含浸工程を省略できる。
これに対して発泡固形体をあらかじめ成形しておき、これに潤滑油などの潤滑成分を含浸させる後含浸法だけでは、樹脂内部に充分な量の潤滑油が染み込まないので、潤滑油保持力が充分でなく、短時間で潤滑油が放出されて長期的に使用すると潤滑油が供給不足となる場合がある。このため、後含浸工程は、反応型含浸法の補助手段として採用することが好ましい。
【0019】
本発明に使用できる潤滑成分は、発泡体を形成する固形成分を溶解しないものであれば種類を選ばずに使用することができる。潤滑成分としては、例えば潤滑油、グリース、ワックスなどを単独で、もしくは混合して使用できる。
潤滑油としては、パラフィン系やナフテン系の鉱物油、エステル系合成油、エーテル系合成油、炭化水素系合成油、GTL基油、フッ素油、シリコーン油等が挙げられる。これらは単独でも混合油としても使用できる。
樹脂材料と潤滑油が極性などの化学的な相性によって溶解、分散しない場合には、粘度の近い潤滑油を使用することで、物理的に混合しやすくなり、潤滑剤の偏析を防ぐことが可能となる。
【0020】
グリースは、基油に増ちょう剤を加えたものであり、基油としては上述の潤滑油を挙げることができる。増ちょう剤としては、リチウム石けん、リチウムコンプレックス石けん、カルシウム石けん、カルシウムコンプレックス石けん、アルミニウム石けん、アルミニウムコンプレックス石けん等の石けん類、ジウレア化合物、ポリウレア化合物等のウレア系化合物が挙げられるが、特に限定されるものではない。
ジウレア化合物は、例えばジイソシアネートとモノアミンの反応で得られる。ジイソシアネートとしては、フェニレンジイソシアネート、ジフェニルジイソシアネート、フェニルジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、オクタデカンジイソシアネート、デカンジイソシアネート、へキサンジイソシアネート等が挙げられ、モノアミンとしては、オクチルアミン、ドデシルアミン、へキサデシルアミン、オクタデシルアミン、オレイルアミン、アニリン、p-トルイジン、シクロヘキシルアミン等が挙げられる。ポリウレア化合物は、例えば、ジイソシアネートとモノアミン、ジアミンとの反応で得られる。ジイソシアネート、モノアミンとしては、ジウレア化合物の生成に用いられるものと同様のものが挙げられ、ジアミンとしては、エチレンジアミン、プロパンジアミン、ブタンジアミン、ヘキサンジアミン、オクタンジアミン、フェニレンジアミン、トリレンジアミン、キシレンジアミン等が挙げられる。
【0021】
本発明に使用するワックスとしては、炭化水素系合成ワックス、ポリエチレンワックス、脂肪酸エステル系ワックス、脂肪酸アミド系ワックス、ケトン・アミン類、水素硬化油などを挙げることができる。これらのワックスに油を混合してもよく使用する油成分としては上述の潤滑油と同様のものを用いることができる。
【0022】
樹脂原料と潤滑剤が極性などの化学的相性によって溶解または分散しない場合には粘度の近い潤滑油を使用することで物理的に混合しやすくなり潤滑剤の偏析を防ぐことができる。
【0023】
以上述べた潤滑成分には、さらに二硫化モリブデン、グラファイト等の固体潤滑剤、有機モリブデン等の摩擦調整剤、アミン、脂肪酸、油脂類等の油性剤、アミン系、フェノール系などの酸化防止剤、石油スルフォネート、ジノニルナフタレンスルフォネート、ソルビタンエステルなどの錆止め剤、イオウ系、イオウ-リン系などの極圧剤、有機亜鉛、リン系などの摩耗防止剤、ベンゾトリアゾール、亜硝酸ソーダなどの金属不活性剤、ポリメタクリレート、ポリスチレンなどの粘度指数向上剤などの各種添加剤を含んでいてもよい。
【0024】
上記潤滑油(グリースにおいては基油)の配合割合は、潤滑成分全体に対して、潤滑油が 1 重量%〜95 重量%、好ましくは 5 重量%〜80 重量%である。潤滑油が 1 重量%未満であると、潤滑油を必要箇所に充分に供給することが困難になる。また 95 重量%より多いときには、低温でもグリースなどでは固まらずに液状のままとなり、長期間に渡って潤滑油を徐放する等の機能を果たさない場合がある。
【0025】
潤滑剤供給材全体(重量)に対する潤滑成分の配合割合は、10重量%以上、80重量%未満が好ましい。80重量%以上の場合は潤滑剤が固形とならず、潤滑供給材としての機能を持たない。また、10重量%未満の場合は潤滑剤の絶対量が不足し、十分な寿命を得ることができない、または潤滑剤不足により摩擦係数が増大し摩耗の原因になる。
【0026】
潤滑成分および樹脂成分を必須成分とする混合物を混合する方法としては、特に限定されることなく、例えばヘンシェルミキサー、リボンミキサー、ジューサーミキサー、ミキシングヘッド等、一般に用いられる撹拌機を使用して混合することができる。
上記混合物は、市販のシリコーン系整泡剤などの界面活性剤を使用し、各原料分子を均一に分散させておくことが望ましい。また、この整泡剤の種類によって表面張力を制御し、生じる気泡の種類を連続気泡または独立気泡に制御することが可能となる。このような界面活性剤としては陰イオン系界面活性剤、非イオン系界面活性剤、陽イオン系界面活性剤、両性界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤などが挙げられる。
【0027】
樹脂成分を発泡させる手段としては、周知の発泡手段を採用すればよく、例えば、水、アセトン、ヘキサン等の比較的沸点の低い有機溶媒を加熱し、気化させる物理的手法や、窒素などの不活性ガスや空気を外部から吹き込む機械的発泡方法、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、アゾジカルボンイミド(ADCA)等のように加熱処理や光照射によって化学分解させ、窒素ガスなどを発生させる分解型発泡剤を使用するなどの方法が挙げられる。また、原料として反応性の高いイソシアネート基を持つ化合物を使用する場合には、イソシアネート化合物と水分子との化学反応によって生じる二酸化炭素による化学的発泡を用いてもよい。
【0028】
また、このような反応を伴う発泡を用いる場合には必要に応じて触媒を使用することが好ましく、例えば、3級アミン系触媒や有機金属触媒などが用いられる。3級アミン系触媒としてはモノアミン類、ジアミン類、トリアミン類、環状アミン類、アルコールアミン類、エーテルアミン類、イミダゾール誘導体、酸ブロックアミン触媒などが挙げられる。
また、有機金属触媒としてはスタナオクタエート、ジブチルチンジアセテート、ジブチルチンジラウレート、ジブチルチンメルカプチド、ジブチルチンチオカルボキシレート、ジブチルチンマレエート、ジオクチルチンジメルカプチド、ジオクチルチンチオカルボキシレート、オクテン酸塩などが挙げられる。また、反応のバランスを整えるなどの目的でこれら複数種類を混合して用いてもよい。
【0029】
焼結金属多孔体へのスムーズな潤滑成分の供給を可能にするためには潤滑剤供給材は発泡体であることが好ましい。発泡体とすることで中実体と比較して潤滑成分(潤滑剤)の放出性に優れる。
また、発泡・硬化時において発泡により多孔質化される際に生成させる気泡の種類は気泡が連通している連続気泡であることが特に好ましい。独立気泡の場合は潤滑剤の供給ができず、長期間で支持荷重が大きい場合には潤滑剤不足によって異常摩耗や騒音・振動を引き起こすおそれがある。
【0030】
本発明に用いる樹脂成分の発泡倍率は 1.1 倍〜100 倍であることが好ましい。さらに好ましくは 1.1 倍〜10 倍である。発泡倍率 1.1 倍未満の場合は気泡体積が小さく、潤滑剤の供給をスムーズに行なうことができない。また、100 倍をこえる場合は発泡倍率が大きく、潤滑剤の保持量が小さくなり、長期間に渡る使用の際に潤滑剤不足等を引き起こすおそれがある。
【0031】
本発明において摺動部材を成形する方法としては、一般に樹脂成形に用いられる方法を含めて特に制限なく採用できる。例えば、潤滑成分および樹脂成分を必須成分とする混合物を成形金型内に流し込んだ後、発泡・硬化させる方法、また常圧で発泡・硬化した後に裁断や研削等で目的の形状に後加工する方法等を挙げることができる。
これらの方法の中で裁断や研削等の後加工の必要がなく、樹脂の発泡・硬化と潤滑剤の含浸とが一度に実施可能な成形金型内に流し込んで発泡・硬化させる方法を採用することが好ましい。
【0032】
本発明において、摺動部材の有する潤滑剤供給材中に含浸された状態で含まれる潤滑成分は、外力による発泡体の変形によっても急激に染み出すことがなく、潤滑成分を効率よく軸摺動面に染み出させて用いることができる。
【実施例】
【0033】
実施例1
表1の組成のうち硬化剤、触媒、発泡剤を除く全ての材料をPTFE樹脂製ビーカに入れ 80℃でよく攪拌した。ここに 120℃で加熱溶解させた硬化剤を加え、数分後に触媒を加え、発泡剤を加えると数十秒後に発泡・硬化反応が始まり、これを 80℃の恒温層で 1 時間硬化させ、放冷し、発泡体を得た。得られた発泡体体積を発泡前体積で除することで求めたところ 4.8 倍であった。この発泡体を切断加工にてφ1.75 mm×φ12 mm×5 mm に加工したものを潤滑剤供給材とした。潤滑油(ISO規格VG68)を真空含浸させた焼結金属多孔体(気孔率 30 体積%、Cu−Sn系)に図2(a)のように組み付けて摺動部材(φ6 mm×φ12 mm× 10 mm)であるすべり軸受の試験片とした。
得られた試験片について、以下に示す摩擦摩耗特性試験を行ない、(a)試験終了時の動摩擦係数、(b)摩耗による直径の変化、(c)摺動音の有無の測定を行なった。得られた結果を表1に併記する。
【0034】
<摩擦摩耗特性試験>
図3に示す試験形態において、荷重をすべり軸受4にかけた状態で、下記速度およびストロークで図中に示す水平矢印方向に摺動させた。なお軸2と焼結金属多孔体5との隙間は、10〜14μm (25℃で測定)とした。該試験により、(a)試験終了時の動摩擦係数、(b)摩耗による直径の変化、(c)摺動音の有無の測定を行なった。試験条件は以下のとおりである。
相手材:軸(φ6 mm、SUS420J2、Ra=0.2μm)
荷重:0.98 N
速度:12 m/分
温度:25℃
ストローク:200 mm
【0035】
実施例2
表1の組成のうちイソシアネートを除く成分をガラス製ビーカに加えて常温でよく撹拌し、イソシアネートを加えて十数秒後に発泡・硬化反応が始まった。完全に硬化するまで常温で約 1 時間放置し、発泡体を得た。同様に求めた発泡倍率は 19.6 倍であった。得られた発泡体を上記実施例1と同じ寸法に裁断し潤滑剤供給材とした。真空含浸させた焼結金属多孔体に図2(a)のように組み付けて摺動部材であるすべり軸受の試験片とした。
得られた試験片について、上記摩擦摩耗特性試験を行ない、(a)試験終了時の動摩擦係数、(b)摩耗による直径の変化、(c)摺動音の有無の測定を行なった。得られた結果を表1に併記する。
【0036】
比較例1
φ6 mm×φ12 mm× 10 mm の焼結金属製円筒(気孔率 30 体積%、Cu−Sn系)に、潤滑油(ISO規格VG68)を真空含浸して摺動部材である軸受試験片とした。
得られた試験片について、上記摩擦摩耗特性試験を行ない、(a)試験終了時の動摩擦係数、(b)摩耗による直径の変化、(c)摺動音の有無の測定を行なった。得られた結果を表1に併記する。
【0037】
【表1】

【0038】
実施例1〜実施例2では長期間の試験においても潤滑剤量が十分であったため、摺動音がなく、摩耗による直径変化がなかったのに対し、比較例1では長期間の試験では摩擦係数が上昇し、摩耗の進行が見られ、また、摺動音も確認された。以上のことから潤滑剤供給材によって摺動部材の長寿命化が達成されたといえる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の摺動部材は、長期間に渡って静粛性、低振動性を満たすとともに、低摩擦係数で安定した摺動特性を有するため、電子画像の走査部品や精密摺動部品の摺動部に好適に用いることができる。特に、精密な位置決めやスムーズな動作を要求されるキャリッジ用のすべり軸受等として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】プリンターの駆動部を示す斜視図である。
【図2】摺動部材を示す断面図である。
【図3】摩擦摩耗特性試験の試験形態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0041】
1 キャリッジ
2 軸
3 摺動面
4 摺動部材(すべり軸受)
5 焼結金属多孔体
6 潤滑剤供給材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸と摺動する焼結金属多孔体と、該焼結金属多孔体に隣接する部位に配設された潤滑剤供給材とを備え、前記軸の外周面に摺動案内される摺動部材であって、
前記潤滑剤供給材は、樹脂成分および潤滑成分を必須成分とし、前記樹脂成分を発泡・硬化して多孔質化した固形物であることを特徴とする摺動部材。
【請求項2】
前記樹脂成分が、ゴム状弾性を有する樹脂またはゴムからなり、外力による変形により潤滑成分の滲出性を有することを特徴とする請求項1記載の摺動部材。
【請求項3】
前記樹脂成分の発泡倍率が、1.1〜100 倍であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の摺動部材。
【請求項4】
軸の外周面に摺動案内される摺動部材を備えてなり、前記軸の軸方向に直線移動する摺動装置であって、
前記摺動部材は、請求項1、請求項2または請求項3記載の摺動部材であることを特徴とする摺動装置。
【請求項5】
前記摺動装置は、電子画像の走査部品、または、印刷用ヘッドのキャリッジであることを特徴とする請求項4記載の摺動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−69945(P2008−69945A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−251840(P2006−251840)
【出願日】平成18年9月15日(2006.9.15)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】