摺動部材の加工方法及び同方法により製造された摺動部材を備えたすべり直動案内
【課題】工作機械のすべり直動案内の摺動面に低コストで微細な凹部を構成する方法を提供する。
【解決手段】黒鉛鋳鉄からなる摺動部材の表面に液体噴流を衝突させ,前記摺動部材表面に析出した黒鉛粒子を選択的に除去することによって、摺動部材表面に凹部を形成する。摺動面に凹部を形成する方法として、液体噴流衝突という本発明の方法を用いれば、すべり直動案内の摺動面に油だまり等として機能する凹部を低コストかつ効率的に形成することができ、また、液体噴流衝突の処理条件によって油だまりとして機能する凹部の大きさおよび深さを調整することが可能である。また、摺動面の一部にマスキングを施せば、工作機械のすべり直動案内の摺動面の任意の領域に微細な油だまりとして機能する凹部を形成することも容易である。
【解決手段】黒鉛鋳鉄からなる摺動部材の表面に液体噴流を衝突させ,前記摺動部材表面に析出した黒鉛粒子を選択的に除去することによって、摺動部材表面に凹部を形成する。摺動面に凹部を形成する方法として、液体噴流衝突という本発明の方法を用いれば、すべり直動案内の摺動面に油だまり等として機能する凹部を低コストかつ効率的に形成することができ、また、液体噴流衝突の処理条件によって油だまりとして機能する凹部の大きさおよび深さを調整することが可能である。また、摺動面の一部にマスキングを施せば、工作機械のすべり直動案内の摺動面の任意の領域に微細な油だまりとして機能する凹部を形成することも容易である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、往復摺動する工作機械に用いられるすべり直動案内の摺動面に微細な凹部を形成する方法に関するものであり、金型などの難削材料の切削に用いられる工作機械のすべり直動案内の摺動面に低コストで微細な凹部を形成するために用いられる方法である。
【背景技術】
【0002】
切削加工の高能率・高効率化を達成するため、高剛性・高減衰性のすべり直動案内を搭載した工作機械の開発が進んでいる。従来、工作機械に用いられるすべり直動案内は、摺動面の平面度と面あたりの確保を目的としてきさげ加工が行われていた。
【0003】
また、工作機械のすべり直動案内の摺動面にきさげ加工を施すことは、すべり直動案内の摺動摩擦係数を低減する有効な手段の一つである。きさげ加工によって摺動面に設けられた10μm程度の凹みは、すべり直動案内の摺動時に油だまりの作用をして、摺動摩擦係数の低減に効果があるとの指摘もある。特許文献1〜6で示されているように、この摺動面に設けたきさげによる凹みの作用に着目し、摺動面に微細な凹みを設けてすべり直動案内の摺動摩擦係数の低減を図る手段が従来技術として多数公開されている。
【0004】
ところが、工作機械に用いられるすべり直動案内の摺動面のきさげ加工は熟練技術者による手作業で行われている場合が多く、工作機械の摺動面の面積は広いため工作機械の生産効率の向上のボトルネックとなっていた。
【0005】
一方、機械部品の摺動面に規則正しい微細な表面パターニングを形成する加工法として、リソグラフィー加工、レーザー加工、マイクロブラスタ加工などの新技術が普及し、きさげ加工の代替手段として注目されるようになってきた。しかし、いずれの表面パターニング方法も特殊な加工技術が必要であり、高コスト化するという問題を含んでいた。高能率かつ低コストで摺動面に微細な凹部を設ける加工方法に対する要求は高まっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−95808号公報
【特許文献2】特許2724706号公報
【特許文献3】特開昭62−218532号公報
【特許文献4】特開2005−22015号公報
【特許文献5】特開2006−123151号公報
【特許文献6】特開2007−301696号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】梅原徳次、機械部品の表面テクスチャによる摩擦機能の向上、日本機械学会誌、112-1086(2009)、 pp.406-409
【非特許文献2】萩原秀実、ピストン摺動部への固体潤滑剤付与新技術とその効果、HONDA R&D Technical Reviews、 14-1(2002)、pp. 85-91
【非特許文献3】竹内健司・山口奈緒美・平山明子・菱田典明・矢部寛、moS2ショット処理を施した小型機器用すべり軸受の基礎特性(第3報)、トライボロジー会議予稿集、 (2004-11)、 pp. 505-506
【非特許文献4】Wang, X., Kato, K., Adachi, K and Aizawa, K., Loads Carrying Capacity map for the Surface Texture Design of SiC Thrust Bearing Sliding in Water, Tribology International, 36(2003), pp. 189-197
【非特許文献5】Kazutake UEHARA, Fumio OBATA, Daijiro KONISHI and masato YAmASAKI, Frictional Characteristics of machine Tool's Slide Guides with micro-grooves and Cavities, Proceedings of the 4th International Conference on Leading Edge manufacturing in 21st Century, pp. 791-794
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、工作機械のすべり直動案内の摺動面に低コストで微細な凹部を構成する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明の請求項1に記載の発明は、黒鉛鋳鉄からなる摺動部材の表面に液体噴流を衝突させ、前記摺動部材表面に析出した黒鉛粒子を選択的に除去することによって、前記摺動部材表面に凹部を形成することを特徴とする摺動部材の加工方法である。
【0010】
請求項2に記載の発明は、黒鉛鋳鉄からなる摺動部材の表面に機械的研磨を施し、次いで前記摺動部材表面に液体噴流を衝突させ、前記摺動部材表面に析出した黒鉛粒子を選択的に除去することによって、前記摺動部材表面に凹部を形成することを特徴とする摺動部材の加工方法である。
【0011】
請求項3に記載の発明は、黒鉛鋳鉄からなる摺動部材の表面に液体噴流を衝突させ、前記摺動部材表面に析出した黒鉛粒子を選択的に除去することによって、前記摺動部材表面に凹部を形成し、次いで前記摺動部材表面に機械的研磨を施すことを特徴とする摺動部材の加工方法である。
【0012】
請求項4に記載の発明は、液体噴流として水流を用いることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の摺動部材の加工方法である。
【0013】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の加工方法により製造された摺動部材を備えたことを特徴とするすべり直動案内である。
【発明の効果】
【0014】
工作機械の摺動面に凹部を形成する方法として、液体噴流衝突という本発明の方法を用いれば、すべり直動案内の摺動面に油だまり等として機能する凹部を低コストかつ効率的に形成することができる。また、液体噴流衝突の処理条件によって油だまりとして機能する凹部の大きさおよび深さを調整することが可能である。また、摺動面の一部にマスキングを施せば、工作機械のすべり直動案内の摺動面の任意の領域に微細な油だまりとして機能する凹部を形成することも容易である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施例1に係るウォータジェット加工方法の概略を示す図である。
【図2】本発明の実施例1に係るウォータジェット加工機のノズルの経路を示す図である。
【図3】本発明の摺動面4に水流噴流を衝突させた後の摺動面の断面形状を示す図である。
【図4】本発明の摺動面4に水流噴流を衝突させた後の摺動面の断面形状を示す図である。
【図5】本発明の摺動面4に水流噴流を衝突させた後の摺動面の断面形状を示す図である。
【図6】本発明の摺動面4に水流噴流を衝突させた後の摺動面の断面形状を示す図である。
【図7】本発明の実施例2に係るウォータジェット加工方法の概略を示す図である。
【図8】本発明の実施例2に係るウォータジェット加工機のノズルの経路を示す図である。
【図9】本発明の試験片Aのウォータジェット加工前後における、摺動面観察結果と共焦点レーザー顕微鏡による断面形状を示す図である。
【図10】本発明の試験片Bのウォータジェット加工前後における、摺動面観察結果と共焦点レーザー顕微鏡による断面形状を示す図である。
【図11】本発明の試験片Cのウォータジェット加工前後における、摺動面観察結果と共焦点レーザー顕微鏡による断面形状を示す図である。
【図12】摺動摩擦試験の概略構成を示す図である。
【図13】本発明の実施例2に係る摺動面を有するすべり直動案内モデルの摺動摩擦係数を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る方法を用いて摺動面に微細な凹部を形成する方法および同方法により製造された摺動部材を備えたすべり直動案内の構成例について添付図面を参照しつつ具体的に説明する。
【実施例1】
【0017】
図1は、本発明の請求項1に係る一実施形態の加工方法を示す図である。本実施例では、液体の噴射にはウォータジェット加工機(図示せず)を用い、図1中に示すように研削加工摺動面4に対向して設置したウォータジェット加工機のノズル1から水流2を噴射させて加工を行った。本実施例では液体噴流は水流とし、切断用の単孔ノズル1(孔内径0.25 mm)から噴出させた。ノズルから噴射する水圧は49 , 98, 74, 147 MPaの4種類とした。ノズル1と摺動面4の距離(ノズルオフセット量)は 50 mm とし、図2中に示したノズルの動作パス8に沿ってノズルを送り速度2000 mm/minで移動させた。オフセット、ノズルの送り速度、水圧、ノズル孔径、ノズル角度については、これらに限定されるものではない。6はバイス(万力)を示し、試験片をウォータジェット加工機のテーブル上に固定した。
【0018】
図3〜図6は、研削仕上げした4つの球状黒鉛鋳鉄(FCD600)製試験片3の表面にウォータジェット加工機による水流噴流を照射し、それぞれの試験片表面の共焦点レーザー顕微鏡による断面形状の測定結果を示す。研削仕上げした摺動面4に水圧147 MPaで水流噴流を照射することによって、研削加工摺動面4には直径と深さがそれぞれ約100 μmと約30 μmの凹部7が形成された。また、水流噴流の水圧の増加とともに、研削加工摺動面4に形成される凹部の直径および深さが大きくなった。
【実施例2】
【0019】
図7は、本発明の請求項2に係る一実施形態の加工方法を示す図である。実施例1の場合と同様、本実施例でも液体の噴射にはウォータジェット加工機を用いた。図7中に示すように、研磨加工摺動面5に対向して設置したウォータジェット加工機のノズル1から水流2を噴射させて加工を行った。液体噴流は水流とし、切断用の単孔ノズル1(孔内径0.25 mm)から噴出させた。ノズルから噴射する水圧は49 , 98, 147 MPaの3種類とした。ノズル1と研磨加工摺動面5の距離(ノズルオフセット量)は 50 mm とした。図8は、ウォータジェット加工機のノズルの動作パス8を示す。0.5 mmピッチの間隔でノズルを送り速度2000 mm/minで移動させ、摺動面全体に噴流を衝突させた。試験片はバイス6でウォータジェット加工機のテーブル上に固定した。オフセット、ノズルの送り速
度、水圧、ノズル孔径、ノズル角度については、これらに限定されるものではない。
【0020】
本実施例では、球状黒鉛鋳鉄(FCD600)製試験片を用い、20 mm角のすべり直動案内モデルを用いた。ウォータジェット加工機による水流噴流を照射する面は研磨加工によって鏡面仕上げした。表1は、FCD600製試験片にウォータジェット加工したときの条件を示す。試験片A〜Cは、研磨鏡面加工した摺動面に表1に示した条件でウォータジェット加工した試験片である。また、比較のため、研磨鏡面加工のみを施したFCD600製スライダ(表1中の試験片D)を用いたすべり摩擦試験も行った。
【0021】
【表1】
【0022】
図9〜図11は、鏡面仕上げした3つの球状黒鉛鋳鉄(FCD600)製試験片にウォータジェット加工前後(それぞれの図の左側のaは加工前、それぞれの図の右側のbは加工後)のそれぞれの試験片の表面の観察結果と、共焦点レーザー顕微鏡で断面形状を測定した結果を示す。本実験では、ウォータジェット加工が炭素粒子の除去状態に及ぼす影響を調べるため、断面形状は同一グラファイト粒子(それぞれの図の左側は加工前でP、それぞれの図の右側は加工後でP´)に着目して測定した。グラファイト相除去によって、油溜まりとなる微細凹み(深さ約25 μm)が形成された。
【0023】
本実施例で示した請求項2に記載の加工方法は、摺動面の機械的研磨の後に液体噴流を衝突させる方法であったが、摺動部材表面凹部以外の領域の表面粗さを低減させる必要がある場合は、請求項3に記載する方法で摺動部材表面に凹部を形成させることもできる。すなわち、まず摺動部材表面に液体噴流を衝突させて摺動部材表面に凹部を形成し、その凹部が残存する程度に摺動部材表面を機械的研磨加工すれば、摺動部材表面凹部以外の領域の表面粗さを低減させることができる。
【実施例3】
【0024】
本発明の請求項5に係るすべり直動案内の一実施形態について説明する。実施例2で示した請求項2に記載の加工方法で製造した球状黒鉛鋳鉄製(FCD600)試験片を用い、摺動摩擦係数の測定を行った結果を示す。
【0025】
図12は、摺動摩擦試験に用いた試験機(新東科学(株)製トライボギアType14 FW)の概略図を示す。本試験機では、請求項2に記載の加工方法で製造した球状黒鉛鋳鉄製(FCD600)スライダを合金工具鋼(SKD11)製高硬度鏡面プレートに垂直荷重39.2 Nで負荷した状態でプレートを一方向に一定速度で移動させ、そのときの摺動摩擦力をロードセルで検出した。なお、垂直荷重はスライダ上部に設置した分銅で与えた。また、スライダとプレートの接触面の大きさは20 mm×20 mmで、接触面圧は0.098 MPaであった。表2は、本摺動摩擦試験の試験条件を示す。摺動摩擦係数の測定結果は図13に示す。なお、摩擦係数の測定は、同一条件で3回から20回繰り返して行った。
【0026】
【表2】
【0027】
図13は、FCD600製スライダ摺動面の摺動摩擦係数に及ぼす噴出水流水圧の影響を示す。摺動摩擦係数は水流の水圧によって大きく異なった。このことは、水流の水圧を適宜選択することによって摺動摩擦係数を制御できることを示唆するものである。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明によれば、工作機械のすべり直動案内の摺動面に微細な油だまりを低コストかつ高効率に設けることができる。
【符号の説明】
【0029】
1 ウォータジェット加工機のノズル
2 水流
3 試験片
4 研削加工摺動面
5 研磨加工摺動面
6 バイス
7 凹部
8 動作パス
【技術分野】
【0001】
本発明は、往復摺動する工作機械に用いられるすべり直動案内の摺動面に微細な凹部を形成する方法に関するものであり、金型などの難削材料の切削に用いられる工作機械のすべり直動案内の摺動面に低コストで微細な凹部を形成するために用いられる方法である。
【背景技術】
【0002】
切削加工の高能率・高効率化を達成するため、高剛性・高減衰性のすべり直動案内を搭載した工作機械の開発が進んでいる。従来、工作機械に用いられるすべり直動案内は、摺動面の平面度と面あたりの確保を目的としてきさげ加工が行われていた。
【0003】
また、工作機械のすべり直動案内の摺動面にきさげ加工を施すことは、すべり直動案内の摺動摩擦係数を低減する有効な手段の一つである。きさげ加工によって摺動面に設けられた10μm程度の凹みは、すべり直動案内の摺動時に油だまりの作用をして、摺動摩擦係数の低減に効果があるとの指摘もある。特許文献1〜6で示されているように、この摺動面に設けたきさげによる凹みの作用に着目し、摺動面に微細な凹みを設けてすべり直動案内の摺動摩擦係数の低減を図る手段が従来技術として多数公開されている。
【0004】
ところが、工作機械に用いられるすべり直動案内の摺動面のきさげ加工は熟練技術者による手作業で行われている場合が多く、工作機械の摺動面の面積は広いため工作機械の生産効率の向上のボトルネックとなっていた。
【0005】
一方、機械部品の摺動面に規則正しい微細な表面パターニングを形成する加工法として、リソグラフィー加工、レーザー加工、マイクロブラスタ加工などの新技術が普及し、きさげ加工の代替手段として注目されるようになってきた。しかし、いずれの表面パターニング方法も特殊な加工技術が必要であり、高コスト化するという問題を含んでいた。高能率かつ低コストで摺動面に微細な凹部を設ける加工方法に対する要求は高まっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−95808号公報
【特許文献2】特許2724706号公報
【特許文献3】特開昭62−218532号公報
【特許文献4】特開2005−22015号公報
【特許文献5】特開2006−123151号公報
【特許文献6】特開2007−301696号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】梅原徳次、機械部品の表面テクスチャによる摩擦機能の向上、日本機械学会誌、112-1086(2009)、 pp.406-409
【非特許文献2】萩原秀実、ピストン摺動部への固体潤滑剤付与新技術とその効果、HONDA R&D Technical Reviews、 14-1(2002)、pp. 85-91
【非特許文献3】竹内健司・山口奈緒美・平山明子・菱田典明・矢部寛、moS2ショット処理を施した小型機器用すべり軸受の基礎特性(第3報)、トライボロジー会議予稿集、 (2004-11)、 pp. 505-506
【非特許文献4】Wang, X., Kato, K., Adachi, K and Aizawa, K., Loads Carrying Capacity map for the Surface Texture Design of SiC Thrust Bearing Sliding in Water, Tribology International, 36(2003), pp. 189-197
【非特許文献5】Kazutake UEHARA, Fumio OBATA, Daijiro KONISHI and masato YAmASAKI, Frictional Characteristics of machine Tool's Slide Guides with micro-grooves and Cavities, Proceedings of the 4th International Conference on Leading Edge manufacturing in 21st Century, pp. 791-794
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、工作機械のすべり直動案内の摺動面に低コストで微細な凹部を構成する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明の請求項1に記載の発明は、黒鉛鋳鉄からなる摺動部材の表面に液体噴流を衝突させ、前記摺動部材表面に析出した黒鉛粒子を選択的に除去することによって、前記摺動部材表面に凹部を形成することを特徴とする摺動部材の加工方法である。
【0010】
請求項2に記載の発明は、黒鉛鋳鉄からなる摺動部材の表面に機械的研磨を施し、次いで前記摺動部材表面に液体噴流を衝突させ、前記摺動部材表面に析出した黒鉛粒子を選択的に除去することによって、前記摺動部材表面に凹部を形成することを特徴とする摺動部材の加工方法である。
【0011】
請求項3に記載の発明は、黒鉛鋳鉄からなる摺動部材の表面に液体噴流を衝突させ、前記摺動部材表面に析出した黒鉛粒子を選択的に除去することによって、前記摺動部材表面に凹部を形成し、次いで前記摺動部材表面に機械的研磨を施すことを特徴とする摺動部材の加工方法である。
【0012】
請求項4に記載の発明は、液体噴流として水流を用いることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の摺動部材の加工方法である。
【0013】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の加工方法により製造された摺動部材を備えたことを特徴とするすべり直動案内である。
【発明の効果】
【0014】
工作機械の摺動面に凹部を形成する方法として、液体噴流衝突という本発明の方法を用いれば、すべり直動案内の摺動面に油だまり等として機能する凹部を低コストかつ効率的に形成することができる。また、液体噴流衝突の処理条件によって油だまりとして機能する凹部の大きさおよび深さを調整することが可能である。また、摺動面の一部にマスキングを施せば、工作機械のすべり直動案内の摺動面の任意の領域に微細な油だまりとして機能する凹部を形成することも容易である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施例1に係るウォータジェット加工方法の概略を示す図である。
【図2】本発明の実施例1に係るウォータジェット加工機のノズルの経路を示す図である。
【図3】本発明の摺動面4に水流噴流を衝突させた後の摺動面の断面形状を示す図である。
【図4】本発明の摺動面4に水流噴流を衝突させた後の摺動面の断面形状を示す図である。
【図5】本発明の摺動面4に水流噴流を衝突させた後の摺動面の断面形状を示す図である。
【図6】本発明の摺動面4に水流噴流を衝突させた後の摺動面の断面形状を示す図である。
【図7】本発明の実施例2に係るウォータジェット加工方法の概略を示す図である。
【図8】本発明の実施例2に係るウォータジェット加工機のノズルの経路を示す図である。
【図9】本発明の試験片Aのウォータジェット加工前後における、摺動面観察結果と共焦点レーザー顕微鏡による断面形状を示す図である。
【図10】本発明の試験片Bのウォータジェット加工前後における、摺動面観察結果と共焦点レーザー顕微鏡による断面形状を示す図である。
【図11】本発明の試験片Cのウォータジェット加工前後における、摺動面観察結果と共焦点レーザー顕微鏡による断面形状を示す図である。
【図12】摺動摩擦試験の概略構成を示す図である。
【図13】本発明の実施例2に係る摺動面を有するすべり直動案内モデルの摺動摩擦係数を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る方法を用いて摺動面に微細な凹部を形成する方法および同方法により製造された摺動部材を備えたすべり直動案内の構成例について添付図面を参照しつつ具体的に説明する。
【実施例1】
【0017】
図1は、本発明の請求項1に係る一実施形態の加工方法を示す図である。本実施例では、液体の噴射にはウォータジェット加工機(図示せず)を用い、図1中に示すように研削加工摺動面4に対向して設置したウォータジェット加工機のノズル1から水流2を噴射させて加工を行った。本実施例では液体噴流は水流とし、切断用の単孔ノズル1(孔内径0.25 mm)から噴出させた。ノズルから噴射する水圧は49 , 98, 74, 147 MPaの4種類とした。ノズル1と摺動面4の距離(ノズルオフセット量)は 50 mm とし、図2中に示したノズルの動作パス8に沿ってノズルを送り速度2000 mm/minで移動させた。オフセット、ノズルの送り速度、水圧、ノズル孔径、ノズル角度については、これらに限定されるものではない。6はバイス(万力)を示し、試験片をウォータジェット加工機のテーブル上に固定した。
【0018】
図3〜図6は、研削仕上げした4つの球状黒鉛鋳鉄(FCD600)製試験片3の表面にウォータジェット加工機による水流噴流を照射し、それぞれの試験片表面の共焦点レーザー顕微鏡による断面形状の測定結果を示す。研削仕上げした摺動面4に水圧147 MPaで水流噴流を照射することによって、研削加工摺動面4には直径と深さがそれぞれ約100 μmと約30 μmの凹部7が形成された。また、水流噴流の水圧の増加とともに、研削加工摺動面4に形成される凹部の直径および深さが大きくなった。
【実施例2】
【0019】
図7は、本発明の請求項2に係る一実施形態の加工方法を示す図である。実施例1の場合と同様、本実施例でも液体の噴射にはウォータジェット加工機を用いた。図7中に示すように、研磨加工摺動面5に対向して設置したウォータジェット加工機のノズル1から水流2を噴射させて加工を行った。液体噴流は水流とし、切断用の単孔ノズル1(孔内径0.25 mm)から噴出させた。ノズルから噴射する水圧は49 , 98, 147 MPaの3種類とした。ノズル1と研磨加工摺動面5の距離(ノズルオフセット量)は 50 mm とした。図8は、ウォータジェット加工機のノズルの動作パス8を示す。0.5 mmピッチの間隔でノズルを送り速度2000 mm/minで移動させ、摺動面全体に噴流を衝突させた。試験片はバイス6でウォータジェット加工機のテーブル上に固定した。オフセット、ノズルの送り速
度、水圧、ノズル孔径、ノズル角度については、これらに限定されるものではない。
【0020】
本実施例では、球状黒鉛鋳鉄(FCD600)製試験片を用い、20 mm角のすべり直動案内モデルを用いた。ウォータジェット加工機による水流噴流を照射する面は研磨加工によって鏡面仕上げした。表1は、FCD600製試験片にウォータジェット加工したときの条件を示す。試験片A〜Cは、研磨鏡面加工した摺動面に表1に示した条件でウォータジェット加工した試験片である。また、比較のため、研磨鏡面加工のみを施したFCD600製スライダ(表1中の試験片D)を用いたすべり摩擦試験も行った。
【0021】
【表1】
【0022】
図9〜図11は、鏡面仕上げした3つの球状黒鉛鋳鉄(FCD600)製試験片にウォータジェット加工前後(それぞれの図の左側のaは加工前、それぞれの図の右側のbは加工後)のそれぞれの試験片の表面の観察結果と、共焦点レーザー顕微鏡で断面形状を測定した結果を示す。本実験では、ウォータジェット加工が炭素粒子の除去状態に及ぼす影響を調べるため、断面形状は同一グラファイト粒子(それぞれの図の左側は加工前でP、それぞれの図の右側は加工後でP´)に着目して測定した。グラファイト相除去によって、油溜まりとなる微細凹み(深さ約25 μm)が形成された。
【0023】
本実施例で示した請求項2に記載の加工方法は、摺動面の機械的研磨の後に液体噴流を衝突させる方法であったが、摺動部材表面凹部以外の領域の表面粗さを低減させる必要がある場合は、請求項3に記載する方法で摺動部材表面に凹部を形成させることもできる。すなわち、まず摺動部材表面に液体噴流を衝突させて摺動部材表面に凹部を形成し、その凹部が残存する程度に摺動部材表面を機械的研磨加工すれば、摺動部材表面凹部以外の領域の表面粗さを低減させることができる。
【実施例3】
【0024】
本発明の請求項5に係るすべり直動案内の一実施形態について説明する。実施例2で示した請求項2に記載の加工方法で製造した球状黒鉛鋳鉄製(FCD600)試験片を用い、摺動摩擦係数の測定を行った結果を示す。
【0025】
図12は、摺動摩擦試験に用いた試験機(新東科学(株)製トライボギアType14 FW)の概略図を示す。本試験機では、請求項2に記載の加工方法で製造した球状黒鉛鋳鉄製(FCD600)スライダを合金工具鋼(SKD11)製高硬度鏡面プレートに垂直荷重39.2 Nで負荷した状態でプレートを一方向に一定速度で移動させ、そのときの摺動摩擦力をロードセルで検出した。なお、垂直荷重はスライダ上部に設置した分銅で与えた。また、スライダとプレートの接触面の大きさは20 mm×20 mmで、接触面圧は0.098 MPaであった。表2は、本摺動摩擦試験の試験条件を示す。摺動摩擦係数の測定結果は図13に示す。なお、摩擦係数の測定は、同一条件で3回から20回繰り返して行った。
【0026】
【表2】
【0027】
図13は、FCD600製スライダ摺動面の摺動摩擦係数に及ぼす噴出水流水圧の影響を示す。摺動摩擦係数は水流の水圧によって大きく異なった。このことは、水流の水圧を適宜選択することによって摺動摩擦係数を制御できることを示唆するものである。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明によれば、工作機械のすべり直動案内の摺動面に微細な油だまりを低コストかつ高効率に設けることができる。
【符号の説明】
【0029】
1 ウォータジェット加工機のノズル
2 水流
3 試験片
4 研削加工摺動面
5 研磨加工摺動面
6 バイス
7 凹部
8 動作パス
【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒鉛鋳鉄からなる摺動部材の表面に液体噴流を衝突させ、前記摺動部材表面に析出した黒鉛粒子を選択的に除去することによって、前記摺動部材表面に凹部を形成することを特徴とする摺動部材の加工方法。
【請求項2】
黒鉛鋳鉄からなる摺動部材の表面に機械的研磨を施し、次いで前記摺動部材表面に液体噴流を衝突させ、前記摺動部材表面に析出した黒鉛粒子を選択的に除去することによって、前記摺動部材表面に凹部を形成することを特徴とする摺動部材の加工方法。
【請求項3】
黒鉛鋳鉄からなる摺動部材の表面に液体噴流を衝突させ、前記摺動部材表面に析出した黒鉛粒子を選択的に除去することによって、前記摺動部材表面に凹部を形成し、次いで前記摺動部材表面に機械的研磨を施すことを特徴とする摺動部材の加工方法。
【請求項4】
液体噴流として水流を用いることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の摺動部材の加工方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の加工方法により製造された摺動部材を備えたことを特徴とするすべり直動案内。
【請求項1】
黒鉛鋳鉄からなる摺動部材の表面に液体噴流を衝突させ、前記摺動部材表面に析出した黒鉛粒子を選択的に除去することによって、前記摺動部材表面に凹部を形成することを特徴とする摺動部材の加工方法。
【請求項2】
黒鉛鋳鉄からなる摺動部材の表面に機械的研磨を施し、次いで前記摺動部材表面に液体噴流を衝突させ、前記摺動部材表面に析出した黒鉛粒子を選択的に除去することによって、前記摺動部材表面に凹部を形成することを特徴とする摺動部材の加工方法。
【請求項3】
黒鉛鋳鉄からなる摺動部材の表面に液体噴流を衝突させ、前記摺動部材表面に析出した黒鉛粒子を選択的に除去することによって、前記摺動部材表面に凹部を形成し、次いで前記摺動部材表面に機械的研磨を施すことを特徴とする摺動部材の加工方法。
【請求項4】
液体噴流として水流を用いることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の摺動部材の加工方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の加工方法により製造された摺動部材を備えたことを特徴とするすべり直動案内。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
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【図5】
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【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−69444(P2011−69444A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−221280(P2009−221280)
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【出願人】(504150461)国立大学法人鳥取大学 (271)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【出願人】(504150461)国立大学法人鳥取大学 (271)
【Fターム(参考)】
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