説明

摺動面材及び摺動部材

【課題】滑り軸受等の摺動部材に用いられる摺動面材及び摺動部材を提供する。
【解決手段】合成繊維の紡績糸と四ふっ化エチレン樹脂繊維のフィラメント糸又は紡績糸との交撚糸から形成された多重織織布(25〜50重量%)とそれに含浸された四ふっ化エチレン樹脂(25〜35重量%)を含有した熱硬化性合成樹脂(25〜50重量%)とからなる。ポリエステル繊維、ポリビニルアルコール繊維、アラミド繊維のいずれかの合成繊維を用いる。経二重織、緯二重織、経緯二重織及び三重織のいずれかの織布を用いる。レゾール型フェノール樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂のいずれかの合成樹脂を用いる。摺動面材を、金属製の円筒体からなる円筒状裏金の円筒内面に一体に接合し、該摺動面材を摺動層とする。円筒状裏金は鋼管からなる。摺動層の肉厚が1mmである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、滑り軸受等に用いられる摺動部材及びその部品である摺動面材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、低摩擦摺動部を表面層のみに有する軸受などの摺動部材としては、例えば特許文献1及び特許文献2などで提案されている。特許文献1は、積層摺動部材に関するものであり、特許文献2は、ふっ素樹脂繊維と他の繊維との交織布を低摩擦摺動面とする軸受の製造方法に関するものである。特許文献3には、固体潤滑剤粒と熱硬化性樹脂液とを一様に混合してなる混合液をシート状補強基材の一方の面から該基材の繊維組織間隙内に加圧充填する段階と、前記熱硬化性樹脂液と付着性を有する熱硬化性樹脂を前記基材の他方の面に付着する段階とからなる摺動部材の製造方法が開示されている。特許文献4には、(イ)低摩擦係数を有する樹脂加工シート基材を所望の寸法に裁断し、これを成形金型の芯金に捲きつける工程、(ロ)熱硬化性合成樹脂によって樹脂加工されたチップ基材を金型を用いて所望の成形物に近い形状に予備成形する工程、(ハ)樹脂加工シート基材を捲きつけた芯金を有する成形金型に上記予備成形物を装填し、延滞を加温すると同時に押型によって芯金の軸線方向に内容物を押圧して樹脂加工シート基材とチップ基材とを一体に圧縮成形する工程、以上(イ)(ロ)(ハ)の工程からなる内孔面に低摩擦摺動面層を有する合成樹脂摺動部材の製造方法が開示されている。
【0003】
特許文献1のように、積層構成の成形物においては、それが平板状あるいは半円筒、半球状のものであれば、表面層に低摩擦を有する樹脂加工シートを配して通常の圧縮成形法により何ら支障なく成形することができる。また、それが円筒状、長尺のパイプ状のものであっても積層管成形法(ロールド成形法)によればその積層物は容易に成形することができる。
【0004】
【特許文献1】特公昭39−14852号公報
【特許文献2】特公昭47−50893号公報
【特許文献3】特開昭56−160423号公報
【特許文献4】特開昭57−100134号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、表面層の樹脂加工シートの基体部が、特許文献1のように積層構成であると、軸受などの摺動部材としたときの耐荷重性に劣り、自ら摺動部材としての使用範囲が限定されるという問題がある。そこで、表面層の樹脂加工シートの基体部を金属製の円筒体、例えば鋼管とした場合は、積層管成形法は当然のことながら採用できない。特許文献2は、このような円筒内面に配される低摩擦摺動面層のシワやずれを防止すべく案出された製造方法であるが、ここに開示された技術は、圧縮成形法を排除し、射出成形、移送成形(基体部が金属の場合はダイキャスト法など)を採用するものであるが、製造方法が煩雑であるという問題があるばかりでなく、表面層の肉厚を薄肉とする必要があるなど、摺動部材としての使用範囲が限定されるという問題もある。
【0006】
本発明者らは、上記諸点に鑑み、裏金としての金属製の円筒体の円筒内面に一体に接合されて摺動層を形成する摺動面材について鋭意検討を重ねた結果、合成繊維の糸と四ふっ化エチレン樹脂繊維の糸との交撚糸から形成した多重織織布に、四ふっ化エチレン樹脂を含有した熱硬化性合成樹脂を含浸した摺動面材は、その肉厚を厚くできるばかりでなく成形加工性に優れており、この摺動面材を裏金としての金属製の円筒体の円筒内面に一体に接合した複層摺動部材は、高荷重用途であって乾燥摩擦条件下での使用において優れた摩擦摩耗特性を発揮するとの知見を得た。
【0007】
本発明は、上記知見に基づきなされたものであり、その目的とするところは、滑り軸受等の摺動部材に用いられる摺動面材及び該摺動面材を使用した複層摺動部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の摺動面材は、合成繊維の紡績糸と四ふっ化エチレン樹脂(以下「PTFE」という)繊維のフィラメント糸又は紡績糸との交撚糸から形成された多重織織布と、該多重織織布に含浸されたPTFEを含有した熱硬化性合成樹脂とからなることを特徴とする。
【0009】
本発明の摺動面材によれば、表面にはPTFE繊維のフィラメント糸又は紡績糸が露出していると共にPTFE粒子が多重織織布の組織間隙に分散されているので低摩擦性が発揮され、該摺動面材を備えた摺動部材は、乾燥摩擦条件下での使用を可能とする。
【0010】
また、本発明の摺動面材は、該多重織織布25〜50重量%とPTFE25〜35重量%と熱硬化性合成樹脂25〜50重量%からなっている。
【0011】
本発明の摺動面材において、合成繊維はポリエステル繊維、ポリビニルアルコール繊維及びアラミド繊維の少なくとも一つから選択されることが好ましく、該合成繊維の紡績糸とPTFE繊維のフィラメント糸又は紡績糸との交撚糸を使用して形成される多重織織布としては、経二重織、緯二重織、経緯二重織及び三重織の各組織から選ばれた織布であることが好ましい。 また、前記熱硬化性合成樹脂は、レゾール型フェノール樹脂、エポキシ樹脂及び不飽和ポリエステル樹脂から選択された合成樹脂であることが望ましい。
【0012】
本発明の摺動面材は、金属製の円筒体からなる裏金の円筒内面に一体に接合されることにより、該摺動面材を摺動層とした複層摺動部材とすることができる。
【0013】
金属製の円筒体からなる円筒状裏金の円筒内面に摺動面材を一体に接合した複層摺動部材の製造方法は、(a)PTFE粉末を含有した熱硬化性合成樹脂ワニスを、合成繊維の紡績糸を含む織布に含浸塗布する含浸塗布工程と、(b)該含浸塗布工程にて、得られた織布を乾燥してPTFE25〜35重量%と熱硬化性合成樹脂25〜50重量%と織布25〜50重量%からなる摺動面材を作製する摺動面材作製工程と、(c)該摺動面材作製工程にて得られた摺動面材を、前記円筒状裏金の円筒内面の展開長さ及び前記円筒状裏金の高さに相当する寸法に切断すると共にこれを複数枚重ね合わせて積層する切断積層工程と、(d)該切断積層工程にて得られた複数枚積層された摺動面材を、積層方向に加熱、加圧成形して積層摺動面材を作製する積層摺動面材作製工程と、(e)該積層摺動面材作製工程にて得られた積層摺動面材に加熱下において曲げ加工を施し、該積層摺動面材を前記円筒状裏金の円筒内面の曲率に合致する曲率を有すると共に、両端に突合せ端部を有する予備円筒積層摺動面材に成形する予備円筒積層摺動面材成形工程と、(f)該予備円筒積層摺動面材成形工程にて得られた予備円筒積層摺動面材の円筒外面に接着層を形成するとともに、前記金属製の円筒体からなる円筒状裏金の円筒内面に接着層を形成する接着層形成工程と、(g)該接着層形成工程にて得られた予備円筒積層摺動面材を接着剤が塗布された円筒外面を前記円筒状裏金の円筒内面に形成された接着層と接触させて該円筒状裏金の円筒内面に挿入する挿入工程と、(h)該円筒状裏金の円筒内面に挿入された予備円筒積層摺動面材の内面に、熱膨張係数が大きい金属製パイプを圧入する金属製パイプ圧入工程と、(i)該金属製パイプ圧入工程にて得られた円筒状裏金、予備円筒積層摺動面材及び金属性パイプを乾燥炉内において150〜200℃の温度で20〜40分間乾燥させる乾燥工程と、(j)該乾燥工程にて得られた円筒状裏金、予備円筒積層摺動面材及び金属製パイプを冷却し、金属性パイプを収縮によりはずす冷却工程と、からなり、乾燥炉内において金属製パイプの径方向外方への熱膨張により予備円筒積層摺動面材を円筒状裏金の円筒内面側に圧接し、摺動面材からなる摺動層を該裏金の円筒内面に一体に接合するものである。前記円筒状裏金は、鋼管からなることが望ましい。前記摺動層の肉厚が少なくとも1mmであることが望ましい。
【0014】
この製造方法によれば、金属製の円筒体からなる裏金の円筒内面に挿入された円筒状の摺動面材の内面に、熱膨張係数が大きい金属製パイプを圧入し、これらを乾燥炉内において150〜200℃の温度で20〜40分間乾燥させた後、冷却する工程において、金属製パイプに生じた径方向外方への熱膨張によリ、該摺動面材には、裏金の円筒内面側に高い圧力が持続的に作用し、該摺動面材は裏金の円筒内面に圧接されるものであり、これにより摺動面材は該裏金の円筒内面に強固に接合一体化される。そして、この製造方法においては、何ら大型の設備を必要としないため、その製造コストを著しく減少させることができるばかりでなく、裏金の円筒内面に一体に接合された摺動面材の表面を何ら機械加工等を必要とすることなく寸法精度を確保し得るため、製品コストをも低減することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、合成繊維の糸とPTFE繊維の糸との交撚糸から形成した多重織織布に、PTFEを含有した熱硬化性合成樹脂を含浸してなるものであり、肉厚を厚くできるばかりでなく成形加工性に優れた摺動面材と、該摺動面材を裏金としての金属製の円筒体の円筒内面に一体に接合することにより高荷重用途であって乾燥摩擦条件下での使用において優れた摩擦摩耗特性を発揮する複層摺動部材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の摺動面材及び該摺動面材を使用した摺動部材(複層摺動部材)について詳細に説明する。
【0017】
本発明の摺動面材は、合成繊維の紡績糸とPTFE繊維のフィラメント糸又は紡績糸との交撚糸から形成された多重織織布に、PTFEを含有した熱硬化性合成樹脂を含浸してなるものである。
【0018】
本発明において、合成繊維としては、ポリエステル繊維、ポリビニルアルコール繊維(ビニロン繊維)及びアラミド繊維の少なくとも一つから選択されることが好ましい。ポリエステル繊維は、一般にジカルボン酸成分とジオール成分より重縮合されて得られるポリエステル繊維である。ポリエステルのカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸等、ポリエステルのジオール成分としては、エチレングリコール、ハイドロキノン、ビスフェノールA、ビフェニル等があげられる。又、両成分を兼ねるものとしては、p−ヒドロキシ安息香酸、2−オキシ−6−ナフトエ酸等が挙げられる。
【0019】
ポリビニルアルコール繊維(ビニロン繊維)は、ポリ酢酸ビニルをアルカリでケン化してポリビニルアルコール(PVA)とし、その水溶液を湿式又は乾式紡糸をして繊維にしたものである。

【0020】
アラミド繊維は、その分子骨格によりパラ型とメタ型に大別される。メタ系アラミド繊維は、メタフェニレンジアミン(MPDA)とイソフタル酸ジクロライド(IPC)を原料として、縮重合したポリメタフェニレンイソフタルアミド(MPIA)を繊維化したものである。そして、メタ系アラミド繊維の具体例としては、テイジン社製の「コーネックス(商標)」が挙げられる。
【0021】
パラ系アラミド繊維は、通常アミド結合を少なくとも一個有する繊維であって、少なくとも一個のベンゼン環がパラ位で結合している繊維である。例えば、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維、ポリパラフェニレンジフェニルエーテルテレフタルアミド繊維又はコポリパラフェニレン−3,4'−オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維等が挙げられる。そして、パラ系アラミド繊維の具体例としては、米国デュポン、東レ・デュポン社製の「ケブラー(商標)」、テイジン・トワロン社製の「トワロン(商標)」、テイジン社製の「テクノーラ(商標)」が挙げられる。
【0022】
上記した合成繊維の紡糸の形態は、後述する熱硬化性合成樹脂を含浸保持するという観点から紡績糸であることが好ましい。
【0023】
PTFE繊維は、フィラメント糸、マルチフィラメント糸及び紡績糸のいずれも使用できる。
【0024】
上記合成繊維の紡績糸とPTFE繊維のフィラメント糸、マルチフィラメント糸及び紡績糸のいずれかとの交撚糸から多重織織布が形成される。多重織織布としては、経二重織、緯二重織及び三重織の各組織から選ばれた織布が使用されて好適であり、その肉厚はおおよそ2〜4mmとされる。図3は、合成繊維の紡績糸とPTFE繊維の紡績糸との交撚糸から形成された接結二重織織布の断面図であり、図4は、前記図3に示す接結二重織織布に、さらに中間層を備えた普通接結三重織織布の断面図を示すものである。図中、符号1a、1bは、交撚糸からなる緯(よこ)糸、2a、2bは、交撚糸からなる経(たて)糸、3a、3b、5a、5bは、交撚糸からなる緯糸、4a、4b、6a、6bは、交撚糸からなる経糸である。そして、摺動面材中に含まれる多重織織布の量は、25〜50重量%が適当である。多重織織布の量が25重量%未満では、充分な摩擦摩耗特性が発揮されず、また50重量%を超えると後述する熱硬化性合成樹脂の量が少なくなり、成形性を著しく阻害する虞がある。
【0025】
本発明において使用される熱硬化性合成樹脂は、レゾール型フェノール樹脂、エポキシ樹脂及び不飽和ポリエステル樹脂などが好適であり、これら熱硬化性合成樹脂の揮発性溶剤としては、メタノール、アセトン、メチルエチルケトンなど使用する熱硬化性合成樹脂によって適宜選択される。そして、摺動面材中に含まれる熱硬化性合成樹脂の量は、30〜50重量%が適当である。熱硬化性合成樹脂の量が30重量%未満では、摺動面材の成形加工性に支障をきたし、また50重量%を超えると摺動面材の機械的強度を低下させる。
【0026】
上記熱硬化性合成樹脂に含有されるPTFEは、成形用のモールディングパウダー(以下「高分子量PTFE」と略称する。)と、放射線照射などにより高分子量PTFEに比べて分子量を低下させた、粉砕し易くまた分散性がよい、主に添加材料として使用されるPTFE(以下「低分子量PTFE」と略称する。)が使用できる。
【0027】
高分子量PTFEの具体例としては、三井デュポンフロロケミカル社製の「テフロン(登録商標)7J」、「テフロン(登録商標)7A-J」、「テフロン(登録商標)70-J」等、ダイキン工業社製の「ポリフロンM‐12(商標)」等、旭硝子社製の「フルオンG163(商標)」、「フルオンG190(商標)」等が挙げられる。
【0028】
また、低分子量PTFEの具体例としては、三井デュポンフロロケミカル社製の「TLP-10F(商標)」等、ダイキン工業社製の「ルブロンL‐5(商標)」等、旭硝子社製の「フルオンL150J(商標)」、「フルオンL169J(商標)」等、喜多村社製の「KTL‐8N(商標)」等が挙げられる。
【0029】
本発明においては、上記高分子量PTFE及び低分子量PTFEのいずれも使用することができるが、上記熱硬化性合成樹脂と混合するにあたって、均一に分散しボイドを生成しにくくするためには低分子量PTFEの粉末が好ましい。また、PTFE粉末の平均粒径は、均一に分散し、ボイドの生成を防ぐという観点から1〜50μm、好ましくは1〜30μmである。
【0030】
そして、摺動面材中に含まれるPTFEの量は、10〜30重量%が適当である。PTFEの量が10重量%未満では、摩擦摩耗特性の向上に効果が得られず、また30重量%を超えると成形の際に樹脂の粘度が増大し、ボイドを生成する虞があるのと、上記熱硬化性合成樹脂の接着性を低下させ、複層摺動部材としての強度低下を来たす虞がある。
【0031】
次に、上記した摺動面材及び該摺動面材を使用した複層摺動部材について、図に示す好ましい例に基づいて説明する。
【0032】
摺動面材は、次のようにして作製される。図1は、摺動面材(樹脂加工基材)の製造装置を示す説明図である。図1に示す製造装置において、アンコイラ10に巻かれた多重織織布からなる補強基材11は、送りローラ12によってPTFE粉末を均一に分散含有した熱硬化性合成樹脂ワニス13を貯えた容器14に送られ、容器14内に設けられた案内ローラ15及び16によって容器14内に貯えられた該熱硬化性合成樹脂ワニス13内を通過せしめられることにより、補強基材11の表面に該熱硬化性合成樹脂ワニス13が塗工される。ついで、該熱硬化性合成樹脂ワニス13が塗工された補強基材11は送りローラ17によって圧縮ロール18及び19に送られ、圧縮ロール18及び19によって補強基材11の表面に塗工された該熱硬化性合成樹脂ワニス13繊維組織隙間にまで含浸せしめられる。そして、熱硬化性合成樹脂ワニス413含浸塗布された補強基材11に対して乾燥炉20内で溶剤を飛ばすと同時に該樹脂ワニス13の反応が進められ、これにより成形可能な摺動面材(樹脂加工基材)21が作製される。
【0033】
図2は、こうして作製された摺動面材を示す斜視図である。このように形成された摺動面材21の肉厚は、おおよそ1〜2mmとされる。熱硬化性合成樹脂を揮発性溶剤に溶かして形成される熱硬化性合成樹脂ワニスの固形分は、おおむね30〜65重量%であり、該樹脂ワニスの粘度は、おおむね800〜5000cP、就中1000〜4000cPが好ましい。
【0034】
次に、摺動面材21を使用した複層摺動部材22及びその製造方法について説明する。
【0035】
複層摺動部材22(図9参照)は、金属製の円筒体からなる円筒状裏金23と、該円筒状裏金23の円筒内面24に一体に接合された摺動面材21とから形成されており、該摺動面材21を摺動層とするものである。ここで、円筒状裏金23としては、JISG3445で規定されている機械構造用炭素鋼鋼管(STKM13C)などが使用されて好適である。
【0036】
図5は、金属製の円筒体からなる円筒状裏金の斜視図である。前記金属製の円筒体からなる円筒状裏金23として、機械構造用炭素鋼鋼管を準備し、該円筒状裏金23の円筒内面24に接着層25を形成する。接着層25としては、エポキシ樹脂を溶剤としてのアセトンに溶解し、これを接着剤として該円筒状裏金23の円筒内面24に一様に塗布、乾燥して形成される。
【0037】
図6は、裏金の円筒内面の展開長さ及び裏金の高さに相当する寸法に切断した摺動面材を示す平面図である。前記摺動面材(樹脂加工基材)21を準備し、該摺動面材21を前記円筒状裏金23の円筒内面24の展開長さに相当する長さl1と該裏金23の高さhに相当する長さl2の寸法に切断すると共に、該摺動面材21を加熱下において、前記円筒状裏金23の円筒内周面24の曲率と合致する曲率を有する円筒状に捲回し、両端に突合せ端部26及び26を有する予備円筒摺動面材27に成形する。
【0038】
図7は、予備円筒摺動面材を示す斜視図である。該予備円筒摺動面材27の外周面28に、エポキシ樹脂を溶剤としてのアセトンに溶解して作製した接着剤を塗布し、乾燥して接着層29を形成する。
【0039】
図8は、複層摺動部材の製造工程を示す斜視図である。該予備円筒摺動面材27を前記金属製の円筒体からなる円筒状裏金23の円筒内面24に挿入したのち、該予備円筒摺動面材27の内面30に、熱膨張係数が大きい金属製パイプ31を圧入する。金属製パイプ31としては、黄銅(熱膨張係数20.5×10-6/℃)、アルミニウム青銅(熱膨張係数17×10-6/℃)、オーステナイト系ステンレス鋼(熱膨張係数17.3×10-6/℃)などが挙げられる。
【0040】
裏金23の円筒内面24に挿入された予備円筒摺動面材27の内面30に金属製のパイプ31を圧入した状態で、これらを乾燥炉内において150〜200℃の温度で20〜40分間乾燥させた後、冷却する。
【0041】
この工程において、金属製のパイプ31は乾燥炉内の温度上昇に伴い径方向外方に熱膨張を来たし、この熱膨張により予備円筒摺動面材27は裏金24の円筒内面24側に強く圧接されることになり、該摺動面材21からなる摺動層が裏金23の円筒内面24に一体に接合された複層摺動部材22が得られる。この複層摺動部材22において、予備円筒摺動面材27に形成された両端の突合せ端部26及び26は当接するので、該摺動層に隙間を生じることはない。図9は、完成した複層摺動部材を示す斜視図である。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0043】
裏金として、内径50mm、外径62mm、長さ48mmの機械構造用炭素鋼鋼管(STKM13C)を準備した。エポキシ樹脂を溶剤としてのアセトンに溶解し、これを接着剤として裏金の円筒内面に一様に塗布し、乾燥して該円筒内面に接着層を形成した。
【0044】
合成繊維としてメタ系アラミド繊維(テイジン社製の「コーネックス(商標)」)の紡績糸とPTFE繊維の紡績糸との交撚糸から普通接結三重織織布を作製した。この三重織織布の肉厚は、3.6mmであった。
【0045】
樹脂固形分64.5重量%を有するレゾール型フェノール樹脂ワニス100重量部と平均粒径1〜30μmの低分子量PTFE(喜多村社製の「KTL‐8N(商標)」)粉末20重量部とを混合し、これにメタノール15重量部を加えて粘度を2750〜2800cpsに調整した混合液を作製した。この混合液を前記図1に示す製造装置の容器に貯えた。図1に示す製造装置において、アンコイラに巻かれた三重織織布からなる補強基材を、送りローラによっ混合溶液を貯えた容器に送り、容器内に設けられた案内ローラによって容器内に貯えられた該混合液内を通過せしめることにより、補強基材の表面に該混合液を塗工した。ついで、該混合溶液を塗工した補強基材を送りローラによって圧縮ロールに送り、圧縮ロールによって補強基材の表面に塗工した該混合溶液を繊維組織隙間にまで含浸せしめた。そして、混合溶液を含浸塗布した補強基材を乾燥炉内に送り、該補強基材中の溶剤を飛ばすと同時に該混合溶液の反応を進め、補強基材(三重織織布)25重量%と低分子量PTFE25重量%と残部レゾール型フェノール樹脂(50重量%)からなる成形可能な摺動面材(樹脂加工基材)を作製した。
【0046】
この摺動面材を、前記裏金の円筒内面の展開長さに相当する長さと該裏金の高さに相当する長さの寸法、すなわち展開長さ157mm、高さ48mmの長方形状の寸法に切断した。ついで、該摺動面材を加熱下において、前記裏金の円筒内面の曲率と合致する曲率を有する円筒状に捲回し、両端に突合せ端部を有する予備円筒摺動面材に成形した。
【0047】
エポキシ樹脂を溶剤としてのアセトンに溶解し、これを接着剤として前記予備円筒摺動面材の円筒外面に一様に塗布し、乾燥して該円筒外面に接着層を形成した。
【0048】
円筒外面に接着層が形成された予備円筒摺動面材を、前記裏金の円筒内面に挿入したのち、該予備円筒摺動面材の内面に、熱膨張係数が大きい金属製パイプを圧入した。金属製パイプとしては、黄銅(熱膨張係数20.5×10-6/℃)を使用した。
【0049】
裏金の円筒内面に挿入された予備円筒摺動面材の内面に金属製のパイプを圧入した状態で、これらを乾燥炉内において180℃の温度で30分間加圧成形し、冷却した後乾燥炉から取出し、裏金の円筒内面に摺動面材からなる摺動層を具備した複層摺動部材を得た。摺動層の肉厚は、1.6mmであった。
【0050】
この工程において、金属製のパイプは乾燥炉内の温度上昇に伴い径方向外方に熱膨張を来たし、この熱膨張により予備円筒摺動面材は裏金の円筒内面側に強く圧接されることになり、該摺動面材からなる摺動層が裏金の円筒内面に一体に接合される。
【0051】
このようにして作製された複層摺動部材は、
荷重(面圧) 49MPa(500kgf/cm2)
すべり速度 0.5m/min
揺動角度 ±45°
相手材 S45C高周波焼入れ
試験サイクル 3万サイクル
潤滑 なし(乾燥潤滑)
の試験条件でのジャーナル揺動試験において、摩擦係数0.04、摩耗量40μmと優れた摩擦摩耗特性を発揮するものであった。
【0052】
以上のように本発明の摺動面材は、合成繊維の糸とPTFE繊維の糸との交撚糸から形成した多重織織布に、PTFE粉末を含有した熱硬化性合成樹脂を含浸してなるものであり、肉厚を厚くできるばかりでなく成形加工性に優れたものであり、この摺動面材を金属製の円筒体からなる裏金の円筒内面に一体に接合した複層摺動部材は、高荷重用途であって乾燥摩擦条件下での使用において優れた摩擦摩耗特性を発揮するものであり、該複層摺動部材の製造方法においては、金属製のパイプの熱膨張を利用することにより該摺動面材の裏金の円筒内面への接合一体化を容易に行うことができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0053】
軸受の部品として利用できる。特に、小ロット生産に適している。さらに言えば、多品種小ロット生産にて軸受を製造するのに適している。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】摺動面材(樹脂加工基材)の製造装置を示す説明図である。
【図2】摺動面材を示す斜視図である。
【図3】二重織織布の断面図である。
【図4】三重織織布の断面図である。
【図5】金属製の円筒体からなる裏金の斜視図である。
【図6】裏金の円筒内面の展開長さ及び裏金の高さに相当する寸法に切断した摺動面材を示す平面図である。
【図7】予備円筒摺動面材を示す斜視図である。
【図8】複層摺動部材の製造工程を示す斜視図である。
【図9】複層摺動部材を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0055】
10 アンコイラ
11 補強部材
12,17 送りローラ
13 熱硬化性合成樹脂ワニス
14 容器
15,16 案内ローラ
18,19 圧縮ロール
20 乾燥炉
21 摺動面材
22 複層摺動部材
23 円筒状裏金
24 円筒内面
25,29 接着層
26 突合せ端部
27 予備円筒摺動面材
28 外周面
30 内面
31 金属製のパイプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成繊維の紡績糸と四ふっ化エチレン樹脂繊維のフィラメント糸又は紡績糸との交撚糸から形成された多重織織布と、該多重織織布に含浸された四ふっ化エチレン樹脂を含有した熱硬化性合成樹脂とからなる摺動面材。
【請求項2】
請求項1に記載した摺動面材であって、該摺動面材は、多重織織布25〜50重量%と、四ふっ化エチレン樹脂25〜35重量%と、熱硬化性合成樹脂25〜50重量%とからなることを特徴とする摺動面材。
【請求項3】
請求項1又は2のいずれか一項に記載した摺動面材であって、前記合成繊維は、ポリエステル繊維、ポリビニルアルコール繊維及びアラミド繊維から選択された合成繊維であることを特徴とする摺動面材。
【請求項4】
請求項1,2又は3のいずれか一項に記載した摺動面材であって、前記多重織織布は、経二重織、緯二重織、経緯二重織及び三重織の各組織から選択された織布であることを特徴とする摺動面材。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載した摺動面材であって、前記熱硬化性合成樹脂は、レゾール型フェノール樹脂、エポキシ樹脂及び不飽和ポリエステル樹脂から選択された合成樹脂である請求項1から4のいずれか一項に記載の摺動面材。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の摺動面材を用いてなる摺動部材であって、前記摺動面材を、金属製の円筒体からなる円筒状裏金の円筒内面に一体に接合し、該摺動面材を摺動層としたことを特徴とする摺動部材。
【請求項7】
請求項6に記載の摺動部材であって、前記円筒状裏金は、鋼管からなることを特徴とする摺動部材。
【請求項8】
請求項6又は7のいずれか一項に記載の摺動部材であって、前記摺動層の肉厚が少なくとも1mmである摺動部材。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2009−103193(P2009−103193A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−274674(P2007−274674)
【出願日】平成19年10月23日(2007.10.23)
【出願人】(000103644)オイレス工業株式会社 (384)
【Fターム(参考)】