説明

撥水性被膜の成膜方法

【課題】透明性、基板との密着性、被膜硬度、耐擦傷性、耐水性、化学的耐久性に優れ、さらには汚れ防止効果に優れた撥水性被膜の成膜方法を提供する。
【解決手段】本発明の撥水性被膜の成膜方法は、SiとZrとを含有し、このSiをSiOに、ZrをZrOに、それぞれ換算した場合のSiOがこれらSiO及びZrOの合計量に対して10重量%以上かつ90重量%以下である薄膜を基板上に形成し、次いで、この薄膜上にケイ酸アルカリ溶液を塗布し、熱処理し、さらに、この薄膜上にフッ化炭素鎖を有するシランカップリング剤を含む溶液を塗布し、熱処理することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水性被膜の成膜方法に関し、さらに詳しくは、透明性、基板との密着性、被膜硬度、耐擦傷性、耐水性、化学的耐久性に優れ、さらには汚れ防止効果に優れた撥水性被膜の成膜方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、撥水性被膜の成膜方法としては、次の(1)及び(2)のような成膜方法が知られている。
(1)基板の表面にフッ素系樹脂を塗布し、このフッ素系樹脂に必要に応じて加熱処理を施して硬化させる方法。
(2)基板の表面にフッ化炭素鎖を有するシランカップリング剤を塗布し、このシランカップリング剤に必要に応じて加熱処理を施して硬化させる方法。
【0003】
しかしながら、上記(1)の成膜方法では、金属基板やプラスティック基板に対する密着性が充分でなく、また、得られる撥水性被膜の硬度も充分でなく、容易に基板から剥離し、傷が付きやすい(耐擦傷性に劣る)という問題点があった。
また、上記(2)の成膜方法では、ガラス基板に対してはまずまずの密着性及び被膜硬度を有しているものの、金属基板に対しては充分な被膜硬度を有していないという問題点があった。
そこで、基板との密着性及び被膜硬度に優れた撥水性被膜の成膜方法として、上記(2)の成膜方法を発展させた下記の(3)及び(4)のような成膜方法が提案され、実用に供されている。
【0004】
(3)金属基板上に琺瑯等のガラスコーティング処理を施し、このガラスコーティング膜の表面にフッ化炭素鎖を有するシランカップリング剤を塗布し、必要に応じて加熱処理して硬化させる方法。
(4)プラスチック基板や金属基板上に、ゾルゲル法等によりシリカ(SiO)からなる無機被膜を形成し、この無機被膜上にフッ化炭素鎖を有するシランカップリング剤を塗布し、必要に応じて加熱処理して硬化させる方法。
【非特許文献1】「超親水・超撥水化技術」、株式会社技術情報協会、2000年1月30日、p.68〜93
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来の(3)の成膜方法では、金属基板上に琺瑯等のガラスコーティング処理を施しているために、例えば金属光沢が消失する等、金属基板の意匠性が低下するという問題点、耐衝撃性に劣るという問題点等があった。
また、従来の(4)の成膜方法では、プラスチック基板や金属基板上にシリカ(SiO)からなる無機被膜を形成し、この無機被膜上にフッ化炭素鎖を有するシランカップリング剤を塗布しているために、耐水性、耐アルカリ性が充分でないという問題点があった。
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、透明性、基板との密着性、被膜硬度、耐擦傷性、耐水性、化学的耐久性に優れ、さらには汚れ防止効果に優れた撥水性被膜の成膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、基板上に、ケイ素(Si)とジルコニウム(Zr)とを含有する特定組成の薄膜を形成し、この薄膜上にケイ酸アルカリ溶液を塗布して熱処理し、さらに、この薄膜上にフッ化炭素鎖を有するシランカップリング剤を含む溶液を塗布し熱処理すれば、透明性、基板との密着性、被膜硬度、耐擦傷性、耐水性、化学的耐久性に優れ、さらには汚れ防止効果に優れた撥水性被膜を容易に成膜することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の撥水性被膜の成膜方法は、ケイ素(Si)とジルコニウム(Zr)とを含有し、前記ケイ素(Si)を酸化ケイ素(SiO)に、前記ジルコニウム(Zr)を酸化ジルコニウム(ZrO)に、それぞれ換算した場合の前記酸化ケイ素(SiO)が前記酸化ケイ素(SiO)及び前記酸化ジルコニウム(ZrO)の合計量に対して10重量%以上かつ90重量%以下である薄膜を基板上に形成し、次いで、この薄膜上にケイ酸アルカリ溶液を塗布し、熱処理し、さらに、この薄膜上にフッ化炭素鎖を有するシランカップリング剤を含む溶液を塗布し、熱処理することを特徴とする。
【0009】
前記薄膜は、ジルコニウムアルコキシド、ジルコニウムアルコキシドの加水分解物、ジルコニウム塩、コロイダルジルコニアの群から選択される1種または2種以上からなるジルコニウム化合物と、アルコキシシランおよび/またはアルコキシシランの加水分解物からなるケイ素化合物と、溶媒とを含み、前記ジルコニウム化合物のジルコニウム(Zr)を酸化ジルコニウム(ZrO)に、前記ケイ素化合物のケイ素(Si)を酸化ケイ素(SiO)に、それぞれ換算した場合の前記酸化ケイ素(SiO)が前記酸化ケイ素(SiO)及び前記酸化ジルコニウム(ZrO)の合計量に対して10重量%以上かつ90重量%以下である薄膜形成用塗布液を、前記基板上に塗布し、熱処理してなることが好ましい。
【0010】
前記薄膜は、ケイ酸塩化合物および/またはコロイダルシリカからなるケイ素化合物と、ジルコニウムアルコキシドおよび/またはジルコニウムアルコキシドの加水分解物からなるジルコニウム化合物と、溶媒とを含み、前記ケイ素化合物のケイ素(Si)を酸化ケイ素(SiO)に、前記ジルコニウム化合物のジルコニウム(Zr)を酸化ジルコニウム(ZrO)に、それぞれ換算した場合の前記酸化ケイ素(SiO)が前記酸化ケイ素(SiO)及び前記酸化ジルコニウム(ZrO)の合計量に対して10重量%以上かつ90重量%以下である薄膜形成用塗布液を、前記基板上に塗布し、熱処理してなることとしてもよい。
【0011】
前記薄膜形成用塗布液は、シランカップリング剤を含有してなることが好ましい。
前記基板上にシランカップリング剤を含むプライマー液を塗布し熱処理してシランカップリング剤層を形成し、このシランカップリング剤層上に前記薄膜を形成することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の撥水性被膜の成膜方法によれば、ケイ素(Si)とジルコニウム(Zr)とを含有し、前記ケイ素(Si)を酸化ケイ素(SiO)に、前記ジルコニウム(Zr)を酸化ジルコニウム(ZrO)に、それぞれ換算した場合の前記酸化ケイ素(SiO)が前記酸化ケイ素(SiO)及び前記酸化ジルコニウム(ZrO)の合計量に対して10重量%以上かつ90重量%以下である薄膜を基板上に形成し、次いで、この薄膜上にケイ酸アルカリ溶液を塗布し、熱処理し、さらに、この薄膜上にフッ化炭素鎖を有するシランカップリング剤を含む溶液を塗布し、熱処理するので、透明性、基板との密着性、被膜硬度、耐擦傷性、耐水性、化学的耐久性に優れ、さらには汚れ防止効果に優れた撥水性被膜を、簡便に、効率よく成膜することができる。
【0013】
また、前記薄膜を、ジルコニウムアルコキシド、ジルコニウムアルコキシドの加水分解物、ジルコニウム塩、コロイダルジルコニアの群から選択される1種または2種以上からなるジルコニウム化合物と、アルコキシシランおよび/またはアルコキシシランの加水分解物からなるケイ素化合物と、溶媒とを含み、前記ジルコニウム化合物のジルコニウム(Zr)を酸化ジルコニウム(ZrO)に、前記ケイ素化合物のケイ素(Si)を酸化ケイ素(SiO)に、それぞれ換算した場合の前記酸化ケイ素(SiO)が前記酸化ケイ素(SiO)及び前記酸化ジルコニウム(ZrO)の合計量に対して10重量%以上かつ90重量%以下である薄膜形成用塗布液を用いて形成すれば、透明性及び基板との密着性に優れ、耐水性、耐アルカリ性等の化学的耐久性に優れた撥水性被膜を成膜することができる。
【0014】
また、前記薄膜を、ケイ酸塩化合物および/またはコロイダルシリカからなるケイ素化合物と、ジルコニウムアルコキシドおよび/またはジルコニウムアルコキシドの加水分解物からなるジルコニウム化合物と、溶媒とを含み、前記ケイ素化合物のケイ素(Si)を酸化ケイ素(SiO)に、前記ジルコニウム化合物のジルコニウム(Zr)を酸化ジルコニウム(ZrO)に、それぞれ換算した場合の前記酸化ケイ素(SiO)が前記酸化ケイ素(SiO)及び前記酸化ジルコニウム(ZrO)の合計量に対して10重量%以上かつ90重量%以下である薄膜形成用塗布液を用いて形成すれば、透明性及び基板との密着性に優れ、耐水性、耐アルカリ性等の化学的耐久性に優れた撥水性被膜を成膜することができる。
【0015】
また、前記薄膜形成用塗布液がシランカップリング剤を含有すれば、基板、特にプラスチック基板との密着性が優れた撥水性被膜を成膜することができる。
また、前記基板上にシランカップリング剤を含むプライマー液を塗布し熱処理してシランカップリング剤層を形成し、このシランカップリング剤層上に前記薄膜を形成すれば、このシランカップリング剤層がプライマー層として機能するので、基板、特にプラスチック基板との密着性が優れた撥水性被膜を成膜することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の撥水性被膜の成膜方法を実施するための最良の形態について説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0017】
本実施形態の撥水性被膜の成膜方法は、次の3段階の工程からなる方法である。
[第1工程]
ケイ素(Si)とジルコニウム(Zr)とを含有し、前記ケイ素(Si)を酸化ケイ素(SiO)に、前記ジルコニウム(Zr)を酸化ジルコニウム(ZrO)に、それぞれ換算した場合の前記酸化ケイ素(SiO)が前記酸化ケイ素(SiO)及び前記酸化ジルコニウム(ZrO)の合計量に対して10重量%以上かつ90重量%以下である薄膜を基板上に形成する。
[第2工程]
次いで、この薄膜上にケイ酸アルカリの溶液を塗布し、熱処理する。
[第3工程]
さらに、この薄膜上にフッ化炭素鎖を有するシランカップリング剤を含む溶液を塗布し、熱処理する。
【0018】
次に、上記の各工程について詳細に説明する。
[第1工程]
この薄膜は、酸化ケイ素(SiO)の含有率が酸化ケイ素(SiO)及び酸化ジルコニウム(ZrO)の合計量に対して10重量%以上かつ90重量%以下が好ましく、より好ましくは30重量%以上かつ80重量%以下である。
ここで、酸化ケイ素(SiO)の含有率を上記の様に限定した理由は、含有率が10重量%を下回ると、薄膜中に実質的に珪素(Si)成分が含有されないことにより薄膜の硬化が不十分なものとなり、被膜硬度が低下するからであり、一方、含有率が90重量%を越えると、薄膜中に実質的にジルコニウム(Zr)成分が含有されないことにより耐水性や耐アルカリ性等の化学的耐久性が低下するからである。
【0019】
この薄膜の厚みは、特に制限されるものではないが、通常、0.1μm以上かつ5μm以下であることが好ましい。その理由は、この厚みが0.1μmを下回ると、均一な硬さの撥水性被膜が得られず、一方、この厚みが5μmを超えると、撥水性被膜が白化したり、剥離し易くなるからである。
また、この薄膜は、1層で上記の厚みを確保することができない場合には、2層以上を重ね合わせた積層構造とすればよい。
上記の基板としては、特に制限はなく、金属基板、プラスティック基板、ガラス基板等に適用することができ、なかでも金属基板、プラスティック基板に適用すると、基板よりも硬度が高い撥水性被膜が得られる。
【0020】
この薄膜は、例えば、次の「第1の薄膜形成用塗布液」または「第2の薄膜形成用塗布液」を上記の基板上に塗布し、熱処理することにより成膜される。
「第1の薄膜形成用塗布液」
ジルコニウムアルコキシド、ジルコニウムアルコキシドの加水分解物、ジルコニウム塩、コロイダルジルコニアの群から選択される1種または2種以上からなるジルコニウム化合物と、アルコキシシランおよび/またはアルコキシシランの加水分解物からなるケイ素化合物と、溶媒とを含み、前記ジルコニウム化合物のジルコニウム(Zr)を酸化ジルコニウム(ZrO)に、前記ケイ素化合物のケイ素(Si)を酸化ケイ素(SiO)に、それぞれ換算した場合の前記酸化ケイ素(SiO)が前記酸化ケイ素(SiO)及び前記酸化ジルコニウム(ZrO)の合計量に対して10重量%以上かつ90重量%以下、好ましくは30重量%以上かつ80重量%以下である塗布液。
【0021】
ジルコニウムアルコキシドとしては、特に制限されるものではないが、ジルコニウムテトライソプロポキシドおよび/またはジルコニウムテトラノルマルブトキシドが好ましい。これらジルコニウムテトライソプロポキシドやジルコニウムテトラノルマルブトキシドは、適度な加水分解速度を有し、しかも、取扱い易いので、均一な薄膜を成膜するには好ましい材料である。
【0022】
ジルコニウムアルコキシドの加水分解物としては、ジルコニウムテトライソプロポキシドの加水分解物および/またはジルコニウムテトラノルマルブトキシドの加水分解物が好ましく、これらのアルコキシドの加水分解率については、特に制限はなく、例えば、僅かに加水分解した状態の0.001モル%程度から完全に加水分解した状態の100モル%まで使用可能である。
【0023】
ジルコニウム塩としては、上記の溶媒に溶解可能なものであれば特に制限はなく、例えば、硝酸ジルコニウムが、均一な薄膜を成膜することが可能である点で好適である。
コロイダルジルコニアとしては、例えば、平均一次粒子径が3nmの微細なジルコニア(ZrO)微粒子(住友大阪セメント社製)が好適に使用できる。このコロイダルジルコニアは、微細であるので、膜強度に優れた強靭な薄膜を成膜することが可能である。
【0024】
アルコキシシランとしては、特に制限されるものではないが、下記の化学式(1)
2n+1−O−(Si−O)m−1(OR)2m−2−Si(OR) ……(1)
で表されるもののうち、nが1、2、または3のものが適当な加水分解速度を有する点で、また、mが10以下の自然数のものがジルコニウムと均一なゾルを形成し易い点で好ましい。
このようなアルコキシシランとしては、テトラメトキシシラン(TMOS)、テトラエトキシシラン(TEOS)等を例示することができる。
【0025】
アルコキシシランの加水分解物としては、上記の化学式(1)で表されるアルコキシシランの加水分解物、例えば、テトラメトキシシラン(TMOS)の加水分解物、テトラエトキシシラン(TEOS)の加水分解物が好ましく、これらのアルコキシシランの加水分解率については、特に制限はなく、例えば、僅かに加水分解した状態の0.001モル%程度から完全に加水分解した状態の100モル%まで使用可能である。
【0026】
溶媒としては、上記のジルコニウム化合物及びケイ素化合物を溶解または分散させることができるものであれば、特に制限なく用いることができ、例えば、水、メタノール、エタノール、2−プロパノール、n−ブタノール等の低級アルコール等を例示することができる。
【0027】
溶剤として水を用いる場合には、加水分解量以上の水が塗布液中に存在していると、ジルコニウムアルコキシド、ジルコニウムアルコキシドの加水分解物、アルコキシシラン、アルコキシシランの加水分解物等の加水分解及び縮合反応が進行し、塗布液の貯蔵安定性が悪化する。そこで、塗布液中の水の含有率を、ジルコニウムアルコキシド、ジルコニウムアルコキシドの加水分解物、アルコキシシラン、アルコキシシランの加水分解物等の加水分解が過不足なく行われる範囲、例えば、ジルコニウムアルコキシド及びアルコキシシランの部分加水分解率が0.0001モル%以上かつ100モル%以下となるようにする必要がある。
【0028】
「第2の薄膜形成用塗布液」
ケイ酸塩化合物および/またはコロイダルシリカからなるケイ素化合物と、ジルコニウムアルコキシドおよび/またはジルコニウムアルコキシドの加水分解物からなるジルコニウム化合物と、溶媒とを含み、前記ケイ素化合物のケイ素(Si)を酸化ケイ素(SiO)に、前記ジルコニウム化合物のジルコニウム(Zr)を酸化ジルコニウム(ZrO)に、それぞれ換算した場合の前記酸化ケイ素(SiO)が前記酸化ケイ素(SiO)及び前記酸化ジルコニウム(ZrO)の合計量に対して10重量%以上かつ90重量%以下、好ましくは30重量%以上かつ80重量%以下である塗布液。
【0029】
ケイ酸塩化合物としては、上記の溶媒に溶解するケイ酸塩であれば特に制限はなく、例えば、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸リチウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸アンモニウム等を好適に用いることができ、なかでもケイ酸ナトリウム、ケイ酸リチウムは均一な薄膜を成膜することができるので好適である。
コロイダルシリカとしては、例えば、平均一次粒子径が10nmの微細なシリカ(SiO)微粒子が好適に使用できる。このコロイダルシリカは、微細であるので、膜強度に優れた強靭な薄膜を成膜することが可能である。
なお、ジルコニウムアルコキシド、ジルコニウムアルコキシドの加水分解物及び溶媒各々については、第1の薄膜形成用塗布液のものと全く同様である。
【0030】
この第1の薄膜形成用塗布液または第2の薄膜形成用塗布液中におけるジルコニウム化合物及びケイ素化合物の含有量は、ジルコニウム化合物のジルコニウム(Zr)を酸化ジルコニウム(ZrO)に、ケイ素化合物のケイ素(Si)を酸化ケイ素(SiO)に、それぞれ換算した場合の、酸化ケイ素(SiO)と酸化ジルコニウム(ZrO)の合計量が1重量%以上かつ10重量%以下が好ましく、3重量%以上かつ6重量%以下がより好ましい。
【0031】
その理由は、合計量が1重量%を下回ると、上述の範囲内の厚みの薄膜を得るためには、基板上への塗布液の塗布及び塗膜の熱処理という一連の工程を複数回繰り返して行うことになり、効率的でないからであり、一方、合計量が10重量%を上回ると、基板上への塗布液の塗布及び塗膜の熱処理という一回の工程のみでも得られた薄膜の厚みが上述の範囲を越えることとなり、また得られた薄膜に亀裂やマイクロクラック等が発生し易くなり、良質の薄膜が得られなくなるからである。
【0032】
この第1の薄膜形成用塗布液または第2の薄膜形成用塗布液には、ジルコニウムアルコキシド、ジルコニウムアルコキシドの加水分解物、アルコキシシラン、アルコキシシランの加水分解物等の加水分解、縮合反応を促進する触媒が含まれていてもよい。この加水分解、縮合反応を促進する触媒としては、例えば、塩酸、硝酸等の無機酸、クエン酸、酢酸等の有機酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等の無機アルカリを例示することができる。これらの触媒の塗布液中における含有量は、0.01重量%以上かつ10重量%以下程度である。
【0033】
また、この第1の薄膜形成用塗布液または第2の薄膜形成用塗布液には、沸点の調整、基板への濡れ性等を考慮して他の有機溶媒を添加してもよい。
例えば、沸点を調整する有機溶媒としては、エチレングリコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングリコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル類を例示することができる。
また、濡れ性を改善する有機溶媒としては、例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、酢酸カルビトール等を例示することができる。
【0034】
さらに、この第1の薄膜形成用塗布液または第2の薄膜形成用塗布液にシランカップリング剤を含有させておき、このシランカップリング剤を含有する塗布液を基板上に塗布し、熱処理して、上記の薄膜中にシランカップリング剤が含まれるようにしてもよい。
このシランカップリング剤を含む塗布液を用いて上記の薄膜を形成すると、基板、特にプラスチック基板との密着性に優れた撥水性被膜を成膜することができる。
【0035】
このシランカップリング剤としては、どのような組成のものであっても使用可能であり、その具体例としては、後述するプライマー液に用いるシランカップリング剤と同様のものを挙げることができる。この塗布液中のシランカップリング剤の濃度は、0.1重量%以上かつ10重量%以下程度である。
なお、このシランカップリング剤を含有する塗布液にあっては、このシランカップリング剤は、塗布液中の酸化ケイ素(SiO)の重量百分率を求める際にはケイ素化合物として考慮しないこととする。
【0036】
この第1の薄膜形成用塗布液または第2の薄膜形成用塗布液を上記の基板上に塗布する方法としては、スプレー法、ディップ法、バーコータ法等、通常の塗布に用いられる方法を用いることができる。
塗布後、熱処理することにより、上記の薄膜が得られる。この熱処理の温度及び時間は、基板が耐え得る範囲内であれば任意であるが、通常、金属基板のときは100〜300℃、1分間〜4時間程度であり、プラスチック基板のときは50〜150℃、1分間〜4時間程度である。熱処理する際の雰囲気は制限されず、通常、空気中で行う。
【0037】
この第1工程にあっては、上記の基板上にシランカップリング剤を含むプライマー液を塗布し、熱処理してシランカップリング剤層を形成し、次いで、このシランカップリング剤層上に上記の薄膜を形成することが好ましい。
基板上に予めシランカップリング剤層を形成しておくと、基板、特にプラスチック基板との密着性に優れた撥水性被膜を成膜することができる。
【0038】
このシランカップリング剤を含むプライマー液としては、有機溶媒中にシランカップリング剤を、例えば0.1重量%以上かつ5重量%以下溶解させたものが好適に用いられる。
シランカップリング剤としては、どのような組成のものであっても使用可能であるが、特に、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシランなどが好適に用いられる。
【0039】
このシランカップリング剤を含むプライマー液には、ジルコニウムアルコキシド、ジルコニウムアルコキシドの加水分解物、アルコキシシラン、アルコキシシランの加水分解物等の加水分解、縮合反応を促進する触媒が含まれていてもよい。この加水分解、縮合反応を促進する触媒としては、例えば、塩酸、硝酸等の無機酸、クエン酸、酢酸等の有機酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等の無機アルカリを例示することができる。これらの触媒の塗布液中における含有量は、0.01重量%以上かつ10重量%以下程度である。
【0040】
このシランカップリング剤を含むプライマー液を上記の基板上に塗布する方法としては、スプレー法、ディップ法、バーコータ法等、通常の塗布に用いられる方法を用いることができる。
塗布後、熱処理することにより、上記のシランカップリング剤層が得られる。この熱処理の温度及び時間は、基板が耐え得る範囲内であれば任意であるが、通常、熱処理温度は50℃以上かつ200℃以下、熱処理時間は、1分以上かつ4時間以下程度である。
【0041】
[第2工程]
上記の薄膜上にケイ酸アルカリ溶液を塗布し、熱処理する工程である。
珪酸アルカリとしては、例えば、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸リチウム等を例示することができ、なかでもケイ酸ナトリウムとケイ酸リチウムは、均一な撥水性被膜を形成することができるので好適である。
上記のケイ酸アルカリ溶液は、上記のケイ酸アルカリを、その濃度が例えば1重量%以上かつ10重量%以下となるように溶媒に溶解したものであり、この溶媒としては特に制限されるものではないが、例えば、水、メタノール、エタノール、2−プロパノール、n−ブタノール等の低級アルコール等を例示することができる。
【0042】
ケイ酸アルカリ溶液の塗布法としては、スプレー法、ディップ法、バーコータ法等、通常の塗布に用いられる方法を用いることができる。
また、ケイ酸アルカリ溶液の熱処理の温度及び時間は、基板が耐え得る範囲内であれば任意であるが、通常、金属基板のときは100〜300℃、1分間〜4時間程度であり、プラスチック基板のときは50〜150℃、1分間〜4時間程度である。熱処理する際の雰囲気は制限されず、通常、空気中で行う。
【0043】
[第3工程]
上記の珪酸アルカリ処理が施された薄膜上にフッ化炭素鎖を有するシランカップリング剤を含む溶液を塗布し、熱処理する工程である。
フッ化炭素酸基を有するシランカップリング剤としては、特に制限されるものではないが、下記の化学式(2)
CF(CFCHCHSi(OCH …… (2)
で表されるフッ素系アルコキシ型シランカップリング剤が、入手し易く、廉価であるので好ましい。
【0044】
また、他のフッ化炭素酸基を有するシランカップリング剤としては、下記の化学式(3)
CF(CFCHCHSi(NCO) …… (3)
で表されるフッ素系イソシアナト型シランカップリング剤も、加水分解のための触媒が不要であるので、好適に用いることができる。
【0045】
このフッ化炭素鎖を有するシランカップリング剤を含む溶液は、フッ化炭素鎖を有するシランカップリング剤を、その濃度が例えば0.1重量%以上かつ10重量%以下となるように有機溶媒に溶解させたものであり、必要に応じて加水分解のための触媒を含有するものである。
この加水分解のための触媒としては、例えば、塩酸、硝酸等の無機酸、クエン酸、酢酸等の有機酸、アンモニア等を例示することができる。
また、有機溶媒としては、特に制限されるものではないが、例えば、メタノール、エタノール、2−プロパノール、n−ブタノール等の低級アルコール等を例示することができる。
【0046】
フッ化炭素鎖を有するシランカップリング剤を含む溶液の塗布法としては、スプレー法、ディップ法、バーコータ法等、通常の塗布に用いられる方法を用いることができる。
また、フッ化炭素鎖を有するシランカップリング剤を含む溶液の熱処理の温度及び時間は、基板が耐え得る範囲内であれば任意であるが、通常、金属基板のときは100〜300℃、1分間〜4時間程度であり、プラスチック基板のときは50〜150℃、1分間〜4時間程度である。熱処理する際の雰囲気は制限されず、通常、空気中で行う。
【0047】
本実施形態に係る撥水性被膜の成膜方法によれば、ケイ素(Si)とジルコニウム(Zr)とを含有し、前記ケイ素(Si)を酸化ケイ素(SiO)に、前記ジルコニウム(Zr)を酸化ジルコニウム(ZrO)に、それぞれ換算した場合の前記酸化ケイ素(SiO)が前記酸化ケイ素(SiO)及び前記酸化ジルコニウム(ZrO)の合計量に対して10重量%以上かつ90重量%以下である薄膜を基板上に形成し、次いで、この薄膜上にケイ酸アルカリの溶液を塗布し、熱処理し、さらに、この薄膜上にフッ化炭素鎖を有するシランカップリング剤を含む溶液を塗布し、熱処理するので、第1工程及び第2工程を経て形成された薄膜と、フッ化炭素鎖を有するシランカップリング剤とが良好な化学結合性を有するものとなり、よって、フッ化炭素鎖を有するシランカップリング剤の特性を耐久性よく引き出すことができ、したがって、透明性、基板との密着性、被膜硬度、耐擦傷性、耐水性、化学的耐久性、汚れ防止効果に優れた撥水性被膜を成膜することができる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
「実施例1」
テトラエトキシシラン(TEOS)5重量部、ジルコニウムイソブトキシド5重量部、酸触媒として硝酸1重量部、加水分解用水分として純水1重量部、有機溶媒としてイソプロピルアルコール88重量部の混合溶液を調整し、薄膜形成用塗布液とした。この薄膜形成用塗布液におけるテトラエトキシシラン(TEOS)中のケイ素をシリカ(SiO)に、ジルコニウムイソブトキシド中のジルコニウムをジルコニア(ZrO)にそれぞれ換算した場合の、これらシリカ(SiO)及びジルコニア(ZrO)の合計量に対するシリカ(SiO)の重量百分率は50重量%であった。
【0049】
この薄膜形成用塗布液を、ステンレス板(SUS304、2B仕上げ品)上に塗布量50g/mの割合でスプレー塗布した。塗布後、220℃にて20分間熱処理し、その後室温まで自然冷却し、薄膜付きステンレス板を得た。
次いで、4号ケイ酸ナトリウム水溶液に純水を加えて固形分5重量%の水溶液になるよう調整し、このケイ酸ナトリウム水溶液を、上記のステンレス板の薄膜上に塗布量20g/mの割合でスプレー塗布した。塗布後、220℃にて20分間熱処理し、その後室温まで自然冷却し、ケイ酸ナトリウム処理が施された薄膜付きステンレス板を得た。
【0050】
一方、フッ化炭素鎖を有するシランカップリング剤の溶液として、フルオロアルキルシランCF(CFCHCHSi(OCH)を2重量%含むイソプロピルアルコール溶液を調整した。
次いで、このフルオロアルキルシラン溶液を、上記のケイ酸ナトリウム処理が施された薄膜付きステンレス板の薄膜上に、塗布量20g/mの割合でスプレー塗布した。塗布後、220℃にて20分間熱処理し、その後室温まで自然冷却し、撥水性被膜付きステンレス板を得た。
【0051】
このようにして得られた撥水性被膜付きステンレス板の撥水性被膜の撥水性(水との接触角)、鉛筆硬度、耐アルカリ性、耐水性(耐熱水性)、密着性を評価した。
評価方法は下記のとおりであり、評価結果を表1に示す。
(1)接触角
日本工業規格:JIS R 3257「基板ガラス表面のぬれ性試験方法」に準拠して行った。撥水性被膜上に2μlの水を滴下させ、水滴の被膜との接触角を接触角計(協和界面化学(株)社製)により測定した。
【0052】
(2)鉛筆硬度
日本工業規格:JIS K 5400.8.4「鉛筆引っかき値」に準拠し、手かき法により鉛筆硬度を測定した。
(3)耐アルカリ性
5重量%の水酸化ナトリウム水溶液(温度25℃)に24時間浸漬し、被膜の性状を目視観察した。
(4)耐水性(耐熱水性)
沸騰水道水中に24時間浸漬し、被膜の性状を目視観察した。
【0053】
(5)密着性
日本工業規格:JIS K 5400.8.5.2「碁盤目テープ法」に準拠して行った。撥水性被膜の表面にカッタにて1mm間隔で縦横に11本の切り込みを入れて計100個の正方形のマス目状とし、これにセロファン粘着テープを貼り、剥離した後、撥水性被膜上に残ったマス目の数を計数して残存率を求めた。残存率は、100個の全てのマス目が剥離せずに残存した場合を100/100とした。
【0054】
「実施例2」
アクリル基を有するシランカップリング剤を1重量%含有するイソプロピルアルコール溶液を調整し、プライマー液とした。
このプライマー液を、アクリル樹脂板上に塗布量10g/mの割合でスプレー塗布し、80℃にて20分間乾燥し、シランカップリング剤層が形成されたアクリル樹脂板を得た。
【0055】
一方、テトラメトキシシラン(TMOS)1重量部、硝酸ジルコニル1重量部、加水分解用水分として純水1重量部、有機溶媒としてイソプロピルアルコール97重量部の混合溶液を調整し、薄膜形成用塗布液とした。この薄膜形成用塗布液におけるテトラメトキシシラン(TMOS)中のケイ素をシリカ(SiO)に、硝酸ジルコニル中のジルコニウムをジルコニア(ZrO)にそれぞれ換算した場合の、これらシリカ(SiO)及びジルコニア(ZrO)の合計量に対するシリカ(SiO)の重量百分率は52重量%であった。
この薄膜形成用塗布液を、上記のアクリル樹脂板のシランカップリング剤層上に塗布量100g/mの割合でスプレー塗布した。塗布後、80℃にて60分間熱処理し、その後室温まで自然冷却し、薄膜付きアクリル樹脂板を得た。
【0056】
一方、ケイ酸リチウム45水溶液(日本化学(株)製、商品名)に純水を加えて固形分が5重量%の水溶液になるよう調整し、ケイ酸リチウム水溶液とした。
次いで、このケイ酸リチウム水溶液を、上記の薄膜付きアクリル樹脂板の薄膜上に塗布量20g/mの割合でスプレー塗布した。塗布後、80℃にて60分間熱処理し、その後室温まで自然冷却し、ケイ酸リチウム処理が施された薄膜付きアクリル樹脂板を得た。
【0057】
また、フッ化炭素鎖を有するシランカップリング剤の溶液として、フルオロアルキルシランCF(CFCHCHSi(OCH)を2重量%含むイソプロピルアルコール溶液を調整した。
このフルオロアルキルシラン溶液を、ケイ酸リチウム処理が施された薄膜付きアクリル樹脂板の薄膜上に塗布量20g/mの割合でスプレー塗布した。塗布後、80℃にて60分間熱処理し、その後室温まで自然冷却し、撥水性被膜付きアクリル樹脂板を得た。
このようにして得られた撥水性被膜付きアクリル樹脂板の撥水性被膜の撥水性(水との接触角)、鉛筆硬度、耐アルカリ性、耐水性(耐熱水性)、密着性を実施例1に準じて評価した。評価結果を表1に示す。
【0058】
「実施例3」
シランカップリング剤である3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン2重量部、テトラメトキシシラン(TMOS)1重量部、硝酸ジルコニル1重量部、加水分解用水分として純水1重量部、有機溶媒としてイソプロピルアルコール95重量部の混合溶液を調整し、薄膜形成用塗布液とした。この薄膜形成用塗布液におけるテトラメトキシシラン(TMOS)中のケイ素をシリカ(SiO)に、硝酸ジルコニル中のジルコニウムをジルコニア(ZrO)にそれぞれ換算した場合の、これらシリカ(SiO)及びジルコニア(ZrO)の合計量に対するシリカ(SiO)の重量百分率は70重量%であった。
【0059】
この薄膜形成用塗布液を、アクリル樹脂板上に塗布量100g/mの割合でスプレー塗布した。塗布後、80℃にて60分間熱処理し、その後室温まで自然冷却し、薄膜付きアクリル樹脂板を得た。
【0060】
一方、ケイ酸リチウム45水溶液(日本化学(株)製、商品名)に純水を加えて固形分が5重量%の水溶液になるよう調整し、ケイ酸リチウム水溶液とした。
次いで、このケイ酸リチウム水溶液を、上記の薄膜付きアクリル樹脂板の薄膜上に塗布量20g/mの割合でスプレー塗布した。塗布後、80℃にて60分間熱処理し、その後室温まで自然冷却し、ケイ酸リチウム処理が施された薄膜付きアクリル樹脂板を得た。
【0061】
また、フッ化炭素鎖を有するシランカップリング剤の溶液として、フルオロアルキルシランCF(CFCHCHSi(OCH)を2重量%含むイソプロピルアルコール溶液を調整した。
このフルオロアルキルシラン溶液を、ケイ酸リチウム処理が施された薄膜付きアクリル樹脂板の薄膜上に塗布量20g/mの割合でスプレー塗布した。塗布後、80℃にて60分間熱処理し、その後室温まで自然冷却し、撥水性被膜付きアクリル樹脂板を得た。
【0062】
このようにして得られた撥水性被膜付きアクリル樹脂板の撥水性被膜の撥水性(水との接触角)、鉛筆硬度、耐アルカリ性、耐水性(耐熱水性)、密着性を実施例1に準じて評価した。評価結果を表1に示す。
【0063】
「実施例4」
シランカップリング剤である3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン2重量部、テトラメトキシシラン(TMOS)1重量部、硝酸ジルコニル1重量部、加水分解用水分として純水1重量部、有機溶媒としてイソプロピルアルコール95重量部の混合溶液を調整し、プライマー液とした。
このプライマー液を、アクリル樹脂板上に塗布量50g/mの割合でスプレー塗布した。塗布後、80℃にて60分間熱処理し、その後室温まで自然冷却し、シランカップリング剤層が形成されたアクリル樹脂板を得た。
【0064】
一方、テトラメトキシシラン(TMOS)1重量部、硝酸ジルコニル1重量部、加水分解用水分として純水1重量部、有機溶媒としてイソプロピルアルコール97重量部の混合溶液を調整し、薄膜形成用塗布液とした。この薄膜形成用塗布液におけるテトラメトキシシラン(TMOS)中のケイ素をシリカ(SiO)に、硝酸ジルコニル中のジルコニウムをジルコニア(ZrO)にそれぞれ換算した場合の、これらシリカ(SiO)及びジルコニア(ZrO)の合計量に対するシリカ(SiO)の重量百分率は50重量%であった。
この薄膜形成用塗布液を、上記のアクリル樹脂板のシランカップリング剤層上に塗布量100g/mの割合でスプレー塗布した。塗布後、80℃にて60分間熱処理し、その後室温まで自然冷却し、薄膜付きアクリル樹脂板を得た。
【0065】
一方、ケイ酸リチウム45水溶液(日本化学(株)製、商品名)に純水を加えて固形分が5重量%の水溶液になるよう調整し、ケイ酸リチウム水溶液とした。
次いで、このケイ酸リチウム水溶液を、上記の薄膜付きアクリル樹脂板の薄膜上に塗布量20g/mの割合でスプレー塗布した。塗布後、80℃にて60分間熱処理し、その後室温まで自然冷却し、ケイ酸リチウム処理が施された薄膜付きアクリル樹脂板を得た。
【0066】
また、フッ化炭素鎖を有するシランカップリング剤の溶液として、フルオロアルキルシランCF(CFCHCHSi(OCH)を2重量%含むイソプロピルアルコール溶液を調整した。
このフルオロアルキルシラン溶液を、ケイ酸リチウム処理が施された薄膜付きアクリル樹脂板の薄膜上に塗布量20g/mの割合でスプレー塗布した。塗布後、80℃にて60分間熱処理し、その後室温まで自然冷却し、撥水性被膜付きアクリル樹脂板を得た。
【0067】
このようにして得られた撥水性被膜付きアクリル樹脂板の撥水性被膜の撥水性(水との接触角)、鉛筆硬度、耐アルカリ性、耐水性(耐熱水性)、密着性を実施例1に準じて評価した。評価結果を表1に示す。
【0068】
【表1】

【0069】
「比較例1」
実施例1に準じて撥水性被膜付きステンレス板を作製した。ただし、フルオロアルキルシラン溶液をケイ酸ナトリウム処理が施された薄膜付きステンレス板の薄膜上に塗布し、熱処理する第3工程を省略した。
この撥水性被膜付きステンレス板の撥水性被膜の撥水性(水との接触角)、鉛筆硬度、耐アルカリ性、耐水性(耐熱水性)、密着性を実施例1に準じて評価した。評価結果を表2に示す。
【0070】
「比較例2」
実施例2に準じて撥水性被膜付きアクリル樹脂板を作製した。ただし、フルオロアルキルシラン溶液をケイ酸リチウム処理が施された薄膜付きアクリル樹脂板の薄膜上に塗布し、熱処理する第3工程を省略した。
この撥水性被膜付きアクリル樹脂板の撥水性被膜の撥水性(水との接触角)、鉛筆硬度、耐アルカリ性、耐水性(耐熱水性)、密着性を実施例1に準じて評価した。評価結果を表2に示す。
【0071】
「比較例3」
実施例3に準じて撥水性被膜付きアクリル樹脂板を作製した。ただし、フルオロアルキルシラン溶液をケイ酸リチウム処理が施された薄膜付きアクリル樹脂板の薄膜上に塗布し、熱処理する第3工程を省略した。
この撥水性被膜付きアクリル樹脂板の撥水性被膜の撥水性(水との接触角)、鉛筆硬度、耐アルカリ性、耐水性(耐熱水性)、密着性を実施例1に準じて評価した。評価結果を表2に示す。
【0072】
「比較例4」
実施例4に準じて撥水性被膜付きアクリル樹脂板を作製した。ただし、フルオロアルキルシラン溶液をケイ酸リチウム処理が施された薄膜付きアクリル樹脂板の薄膜上に塗布し、熱処理する第3工程を省略した。
この撥水性被膜付きアクリル樹脂板の撥水性被膜の撥水性(水との接触角)、鉛筆硬度、耐アルカリ性、耐水性(耐熱水性)、密着性を実施例1に準じて評価した。評価結果を表2に示す。
【0073】
【表2】

【0074】
「比較例5」
実施例1に準じて撥水性被膜付きステンレス板を作製した。ただし、ステンレス板上に薄膜形成用塗布液を用いて薄膜を成膜する第1工程、及び薄膜にケイ酸ナトリウム処理を施す第2工程を省略した。
この撥水性被膜付きステンレス板の撥水性被膜の撥水性(水との接触角)、鉛筆硬度、耐アルカリ性、耐水性(耐熱水性)、密着性を実施例1に準じて評価した。評価結果を表3に示す。
【0075】
「比較例6」
実施例2に準じて撥水性被膜付きアクリル樹脂板を作製した。ただし、アクリル樹脂板上に薄膜形成用塗布液を用いて薄膜を成膜する第1工程、及び薄膜にケイ酸リチウム処理を施す第2工程を省略した。
この撥水性被膜付きアクリル樹脂板の撥水性被膜の撥水性(水との接触角)、鉛筆硬度、耐アルカリ性、耐水性(耐熱水性)、密着性を実施例1に準じて評価した。評価結果を表3に示す。
【0076】
「比較例7」
実施例3に準じて撥水性被膜付きアクリル樹脂板を作製した。ただし、アクリル樹脂板上に薄膜形成用塗布液を用いて薄膜を成膜する第1工程、及び薄膜にケイ酸リチウム処理を施す第2工程を省略した。
この撥水性被膜付きアクリル樹脂板の撥水性被膜の撥水性(水との接触角)、鉛筆硬度、耐アルカリ性、耐水性(耐熱水性)、密着性を実施例1に準じて評価した。評価結果を表3に示す。
【0077】
「比較例8」
実施例4に準じて撥水性被膜付きアクリル樹脂板を作製した。ただし、アクリル樹脂板上に薄膜形成用塗布液を用いて薄膜を成膜する第1工程、及び薄膜にケイ酸リチウム処理を施す第2工程を省略した。
この撥水性被膜付きアクリル樹脂板の撥水性被膜の撥水性(水との接触角)、鉛筆硬度、耐アルカリ性、耐水性(耐熱水性)、密着性を実施例1に準じて評価した。評価結果を表3に示す。
【0078】
【表3】

【0079】
以上、表1〜表3の評価結果から、次のことが分かった。
(1)実施例1〜5の撥水性被膜は、いずれも水との接触角が小さく、良好な撥水性を有していることが分かった。
(2)実施例1〜5の撥水性被膜は、比較例1〜4の撥水性被膜と同程度の鉛筆硬度、耐アルカリ性、耐水性、密着性を示すことが分かった。
(3)実施例1〜5の撥水性被膜は、比較例5〜8の撥水性被膜と比べて、鉛筆硬度、耐アルカリ性、耐水性、密着性に優れていることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の撥水性被膜の成膜方法は、ケイ素(Si)を酸化ケイ素(SiO)に、ジルコニウム(Zr)を酸化ジルコニウム(ZrO)に、それぞれ換算した場合の酸化ケイ素(SiO)が酸化ケイ素(SiO)及び酸化ジルコニウム(ZrO)の合計量に対して10重量%以上かつ90重量%以下である薄膜を基板上に形成し、次いで、この薄膜にケイ酸アルカリ処理を施し、この薄膜にフッ化炭素鎖を有するシランカップリング剤を含む溶液にて処理を施すことにより、透明性、基板との密着性、被膜硬度、耐擦傷性、耐水性、化学的耐久性に優れ、さらには汚れ防止効果に優れた撥水性被膜を容易かつ安価に成膜することができるものであるから、各種光学部品等はもちろんのこと、これ以外の撥水性被膜を必要とする様々な工業分野においても、その効果は大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素(Si)とジルコニウム(Zr)とを含有し、前記ケイ素(Si)を酸化ケイ素(SiO)に、前記ジルコニウム(Zr)を酸化ジルコニウム(ZrO)に、それぞれ換算した場合の前記酸化ケイ素(SiO)が前記酸化ケイ素(SiO)及び前記酸化ジルコニウム(ZrO)の合計量に対して10重量%以上かつ90重量%以下である薄膜を基板上に形成し、
次いで、この薄膜上にケイ酸アルカリ溶液を塗布し、熱処理し、
さらに、この薄膜上にフッ化炭素鎖を有するシランカップリング剤を含む溶液を塗布し、熱処理することを特徴とする撥水性被膜の成膜方法。
【請求項2】
前記薄膜は、ジルコニウムアルコキシド、ジルコニウムアルコキシドの加水分解物、ジルコニウム塩、コロイダルジルコニアの群から選択される1種または2種以上からなるジルコニウム化合物と、アルコキシシランおよび/またはアルコキシシランの加水分解物からなるケイ素化合物と、溶媒とを含み、前記ジルコニウム化合物のジルコニウム(Zr)を酸化ジルコニウム(ZrO)に、前記ケイ素化合物のケイ素(Si)を酸化ケイ素(SiO)に、それぞれ換算した場合の前記酸化ケイ素(SiO)が前記酸化ケイ素(SiO)及び前記酸化ジルコニウム(ZrO)の合計量に対して10重量%以上かつ90重量%以下である薄膜形成用塗布液を、前記基板上に塗布し、熱処理してなることを特徴とする請求項1記載の撥水性被膜の成膜方法。
【請求項3】
前記薄膜は、ケイ酸塩化合物および/またはコロイダルシリカからなるケイ素化合物と、ジルコニウムアルコキシドおよび/またはジルコニウムアルコキシドの加水分解物からなるジルコニウム化合物と、溶媒とを含み、前記ケイ素化合物のケイ素(Si)を酸化ケイ素(SiO)に、前記ジルコニウム化合物のジルコニウム(Zr)を酸化ジルコニウム(ZrO)に、それぞれ換算した場合の前記酸化ケイ素(SiO)が前記酸化ケイ素(SiO)及び前記酸化ジルコニウム(ZrO)の合計量に対して10重量%以上かつ90重量%以下である薄膜形成用塗布液を、前記基板上に塗布し、熱処理してなることを特徴とする請求項1記載の撥水性被膜の成膜方法。
【請求項4】
前記薄膜形成用塗布液は、シランカップリング剤を含有してなることを特徴とする請求項2または3記載の撥水性被膜の成膜方法。
【請求項5】
前記基板上にシランカップリング剤を含むプライマー液を塗布し熱処理してシランカップリング剤層を形成し、このシランカップリング剤層上に前記薄膜を形成することを特徴とする請求項1記載の撥水性被膜の成膜方法。

【公開番号】特開2007−217739(P2007−217739A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−37762(P2006−37762)
【出願日】平成18年2月15日(2006.2.15)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】