説明

撮像システム

【課題】 対象物の表面位置を素早く高精度に検出して、例えばその撮像光学系を正確に合焦させることのできる撮像システムを提供する。
【解決手段】 対象物を撮像する撮像素子と、前記撮像素子に対象物を結像させる光学系と、前記光学系の焦点と前記対象物との相対位置を電動で調節可能に構成した焦点調節手段と、前記撮像素子の信号を解析する制御装置とを備え、特に光学系を、同軸で落射する照明機構を備えて該光学系の焦点面にレチクルの像を投影するようにし、一方、前記制御装置を、前記撮像素子にて繰り返し撮像された画像の信号を逐次フーリエ変換し、振幅抑制処理を行い、逆フーリエ変換を行った後に自己相関を求め、この自己相関から第一評価値を求め、この第一評価値に基づいて優れた画像が選択されるように焦点調節手段を制御するように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば撮像対象物が無地の鏡面であっても、簡易に、しかも正確に合焦させることのできる撮像システムに関する。
【背景技術】
【0002】
検査対象物等を撮像してその画像を拡大表示したり、その形状や寸法を計測するような場合、撮像光学系の結像面と撮像素子の位置とが一致するように、上記検査対象物の表面(物体面)と撮像光学系との位置関係を正確に合わせることが重要である。この調整操作は、一般に焦点合わせ(合焦)、或いはフォーカシングと称され、これを自動化したものはオートフォーカスと称される。ちなみに従来一般的には、撮像対象物の表面における凹凸形状や模様等の濃淡情報を検出する等してオートフォーカス制御を行っている。
【0003】
しかしながら金属体のように無地で滑らかな表面を有する対象物や、ガラスのような透明な対象物を撮像するような場合、上述した濃淡情報を含む画像を得ることが困難なので上述したオートフォーカス制御を行うことが難しい。そこでこのような不具合を解決するべく、撮像光学系にその光軸方向に分布して結像する模様のレチクルを落射し、対象物の表面に投影されたレチクルの像を上記撮像光学系にて撮像したとき、該レチクルの模様が鮮明に結像する位置を合焦位置として検出してオートフォーカス制御を行うことが提唱されている(例えば特許文献1を参照)。
【特許文献1】特開2003−315666号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら特許文献1に示されるように、撮像光学系の光軸に対して傾斜させて結像させたレチクルの像からその模様が鮮明な位置を検出する場合、例えばレチクルの像をスキャンしてその模様のコントラストが最も強くなる位置を見出すことが必要となる。これ故、レチクル像の解析処理に時間が掛かることが否めず、またその処理速度の高速化を図るにも限界がある。更には撮像光学系の解像度によってレチクルの像(模様)の分解能が左右されるので、その位置検出精度を高めるにも限界がある。しかも対象物がガラスのような透明体である場合、その表面にレチクルの像(模様)を結像させることができないので、上述した手法を採用することができないと言う問題がある。
【0005】
本発明はこのような事情を考慮してなされたもので、その目的は、例えば撮像対象物が無地の鏡面であっても、或いはガラスのような透明体であっても、その表面位置を素早く高精度に検出して、例えばその撮像光学系を調整して簡易に、しかも正確に合焦させることのできる撮像システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するべく本発明に係る撮像システムは、対象物を撮像する撮像素子と、前記撮像素子に対象物を結像させる光学系と、前記光学系の焦点と前記対象物との相対位置を電動で調節可能に構成した焦点調節手段と、前記撮像素子の信号を解析する制御装置とを備えた撮像システムに係り、
特に請求項1に記載の撮像システムは、前記光学系は、同軸で落射する照明機構を備えて前記光学系の焦点面近傍にレチクルの像を投影し、前記制御装置は、前記撮像素子にて繰り返し撮像された前記レチクルの画像の信号を逐次フーリエ変換し、振幅抑制処理を行い、逆フーリエ変換を行った後に自己相関を求め、この自己相関から第一評価値を求め、この第一評価値に基づいて焦点調節手段を制御するように構成されることを特徴としている。
【0007】
また請求項2に記載の撮像システムは、前記光学系は、同軸で落射する照明機構を備えて前記光学系の焦点面近傍にレチクルの像を投影し、前記制御装置は、前記撮像素子にて繰り返し撮像された前記レチクルの画像の信号を逐次フーリエ変換し、各画素における振幅成分を求め、所定の範囲の画素における振幅成分を合計して第二評価値を求め、この第二評価値に基づいて焦点調節手段を制御するように構成されることを特徴としている。
【0008】
更に請求項3に記載の撮像システムは、前記光学系は、同軸で落射する照明機構を備えて前記光学系の焦点面近傍にレチクルの像を投影し、前記制御装置は、前記撮像素子にて繰り返し撮像されたレチクルの画像の信号を逐次フーリエ変換し、振幅抑制処理を行い、逆フーリエ変換を行った後に自己相関を求め、この自己相関から第一評価値を求める一方、上記フーリエ変換後に所定の範囲の画素における振幅成分を合計して第二評価値を求め、これらの第一および第二評価値に基づいて焦点調節手段を制御するように構成されることを特徴としている。
【0009】
尚、請求項4に記載するように前記光学系を、同軸で落射する照明機構を備え、前記光学系の焦点面の前と後ろに2つの異なるレチクルの像をそれぞれ投影するように構成しても良い。この場合、請求項5に記載するように前記2つのレチクルを、互いに方向成分の異なるパターンをそれぞれ有するものとし、前記制御装置においては前記撮像素子の信号から前記各方向成分をそれぞれ抽出することによって、焦点の調節方向を制御することが望ましい。
【0010】
また請求項6に記載するように前記制御装置については、予め登録しておいた画像と前記撮像素子によって撮像された画像の相関信号によって焦点を調節するように構成することも望ましい。更には前記光学系は、その光学系の全体(光学鏡筒)を光軸方向に移動させるものに限らず、例えば請求項7に記載するように電動で光軸方向に移動可能なレンズを有するものであれば良い。また請求項8に記載するように前記制御装置においては、前記第一評価値および/または第二評価値が最大となるように光学系の焦点を調節するようなものであれば良い。
【発明の効果】
【0011】
上述した構成の撮像システムによれば、撮像光学系に同軸で落射する照明機構を備え、対物レンズの焦点面にレチクルの像を投影するようにしているので、その光学系の焦点近傍に撮像対象物が存在すれば、撮像対象物の無地の鏡面であっても、或いはガラスのような透明体であってもその表面に上記レチクルの像が結像する。従ってこのレチクルの像を前記撮像素子にて撮像することができる。但し、対象物の表面が光学系の焦点からずれている場合には、そのずれ量に応じてレチクルの像に、いわゆる“ぼけ”が生じる。
【0012】
本撮像システムは、上述した如く撮像したレチクルの像の画像信号の周波数成分が上述した“ぼけ”の程度によって変化することに着目して、上記周波数成分から画像の焦点からのずれ量を求め、このずれ量に従って焦点調節機構を駆動してオートフォーカス(合焦)制御を実行している。即ち、レチクルの像が結像する位置に対象物の表面が存在し、これによって対象物の表面に鮮明なレチクル像が映し出されているときには、このレチクル像の高周波成分が強くなり、逆に対象物の表面が上記レチクルの像が結像する位置からずれており、対象物の表面に映し出されたレチクル像に“ぼけ”が生じている場合には、そのレチクル像の高周波成分が弱くなる。前記制御装置においてはこのようなレチクル像の周波数成分に着目して、レチクル像を撮像した画像をフーリエ変換することでその周波数解析を行い、対物レンズの焦点面からの前記対象物表面のずれ量を求めている。
【0013】
具体的には請求項1に記載する撮像システムにおいては、撮像画像をフーリエ変換し、そのフーリエ変換画像に振幅抑制処理を施した後、この画像を逆フーリエ変換を行った後にその自己相関を求め、この自己相関から第一評価値を求めることで、前記レチクルの像の“ぼけ”の程度を評価し、この第一評価値に基づいて焦点調節機構の作動を制御するものとなっている。
【0014】
また請求項2に記載する撮像システムにおいては、撮像画像をフーリエ変換したフーリエ変換画像の各画素における振幅成分を求め、所定の範囲の画素における振幅成分を合計することで前記レチクルの像の“ぼけ”の程度を評価し得る第二評価値を求め、この第二評価値に基づいて焦点調節機構の作動を制御している。
更に請求項3に記載する撮像システムにおいては、上述した第一評価値と第二評価値とをそれぞれ求め、これらの第一評価値および第二評価値に基づいて優れた画像が選択されるように焦点調節手段の作動を制御するものとなっている。
【0015】
従って上述したようにレチクルの像を撮像した画像を制御装置においてフーリエ変換し、その周波数成分を解析して求められる画像の“ぼけ”を示す評価値に基づいて前記対象物に対する光学系の焦点位置合わせを実行する撮像システムによれば、仮に対象物が無地の鏡面であっても、或いはガラスのような透明体であっても、その表面に結像させたレチクルの像を撮像した画像を焦点制御の指標として用いて焦点調整を行うことができるので、高速度にしかも高精度な合焦を簡易に実現することができる。
【0016】
また請求項4に記載するように光学系の焦点の前と後ろに2つの異なるレチクルの像をそれぞれ投影するようしておけば、これらの各レチクルの像をそれぞれ撮像した画像を解析して求められるずれ量からずれの方向性を判定することができるので、焦点調整を的確に行うことができる。特に請求項5に記載するように前記2つのレチクルを、互いに方向成分の異なるパターン(模様)をそれぞれ有するものとしておけば、これらの各パターン(模様)の方向性に着目して上記2つのレチクルの像を独立に解析することができるので、その演算処理負担を軽減することが可能となる等の効果が奏せられる。
【0017】
また請求項6に記載するように予め登録しておいた画像と前記撮像素子によって撮像された画像の相関信号によって焦点を調節すれば、不本意なノイズを容易に除去して高精度な焦点調整が可能となる。更に対物レンズを光軸方向に電動で移動可能に設けておけば、光学鏡筒や対象物を光軸方向に移動させて焦点調整を行う場合よりも、その動負担を軽減することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施形態に係る撮像システムについて説明する。
図1は第1の実施形態に係る撮像システムの概略的な光学系の構成を示している。この光学系は、基本的には対象物Sを撮像素子1にて撮像する撮像光学系Aと、上記対象物Sを均一に照明する照明光学系Bとを同軸に備えたもので、対物レンズ2を光軸方向に移動させてその焦点調整を行うように構成されている。ちなみに上記撮像光学系Aと照明光学系Bとは第1のビームスプリッタ3を介して分岐されており、撮像光学系Aは第1のビームスプリッタ3にて反射された前記対象物Sの像を結像レンズ4を介して撮像素子1に結像するように構成されている。また照明光学系Bは、いわゆるケラー照明を応用したもので、光源5から発せられた光を集光レンズ6,照明レンズ7を介して均一化してレチクル10に照射し、レチクル10からの透過光を結像レンズ8および対物レンズ2を介して対象物Sの表面に結像させるように構成される。また互いに離間した結像レンズ8と対物レンズ2との間には上記ビームスプリッタ3が配置されている。
【0019】
尚、前記撮像光学系Aには第2のビームスプリッタ9が介挿されており、この撮像光学系Aの側方から上記第2のビームスプリッタ9を介して、例えば加工用レーザ光(平行光束)Lが導入されて前記対象物Sに照射されるようになっている。この加工用レーザ光Lも、その光軸が上述した照明光学系Bと同軸に設定されており、対物レンズ2の焦点に収束するように照射される。従って対物レンズ2の焦点(即ち、この光学系における結像位置)が対象物Sの表面に合致したとき(即ち、合焦したとき)、レーザ光Lも対象物Sの表面に点状に集光されて対象物Sの表面を加工する。
【0020】
さて基本的には上述した如く構成される光学系において、この実施形態に係る撮像システムが特徴とするところは、前記照明光学系Bの照明レンズ7と結像レンズ8との間にレチクル10を設け、このレチクル10を透過した光を結像レンズ8から対物レンズ2を介して投射するように構成した点にある。特に上記レチクル10は、対物レンズ2の焦点と共役となる前記結像レンズ8の焦点に配置され、これによって対物レンズ2の焦点面にレチクル10の像が投影されるようになっている。従って対物レンズ2の焦点面に対象物Sが存在すれば、その表面にレチクル10の像が鮮明に投影される。しかし対象物Sが上記対物レンズ2の焦点面の前または後ろにずれている場合には、そのずれ量に応じて対象物Sの表面に投影されるレチクル10の像の鮮明度が損なわれて、いわゆる“ピンぼけ”を生じることになる。即ち、対象物Sが対物レンズ2の焦点面に存在しておれば、その表面に投影された像が極めて鮮明となり、後述する第一評価値および第二評価値が大きくなる(以下、第一評価値および第二評価値の少なくとも一方を総称して評価値Fと言う)。しかし対象物Sが対物レンズ2の焦点面の前後にずれるに従って、その表面に投影された像に“ぼけ”が生じるので、評価値Fが小さくなる。この様子を対物レンズ2の位置Zに対する評価値Fのグラフとして図1右下に示す。ここでは評価値Fはレチクル10に対応して一つの山形の曲線として表される。後述する焦点調節機構を用いて対物レンズ2の位置Zを微動しながら複数の画像を撮像し、評価値Fの値が最も大きくなる位置を探すこと(いわゆる山登り法)で合焦位置を決定する。即ち、最も鮮明な画像が得られる位置において対物レンズ2の焦点面が対象物Sの表面と一致する。或いは上記曲線が既知であれば評価値Fに対応して対物レンズ2の位置Zの候補値を2つ求めることができ、合焦位置(すなわちピーク位置)Z0とのずれ(大きさ及び方向)の候補値を2つ求めることができるので、これらの候補値に基づいて対物レンズ2の位置を試行的に変化させれば、いずれかの候補値において合焦を得られる。即ち、2回以下の試行で合焦を得られることになる。
【0021】
ちなみにレチクル10は、例えば間隔dmの縦縞模様(レチクルパターン)10xをその表面に形成した透明体からなる。またこのレチクルパターン10xの間隔dmは、対物レンズ2の焦点距離をf1、結像レンズ8の焦点距離をf2としたとき、該対物レンズ2の開口数等によって定まる解像度に対して
dm×(f1/f2)≧[対物レンズ2の解像度]
なる関係を満たすように設定される。
【0022】
尚、上述した光学系においては、照明光学系Bの前記対物レンズ2の焦点位置と共役となる結像レンズ8の焦点位置に1枚のレチクル10を配置し、このレチクル10の像を投影するようにしたが、例えば図2に示すように2枚のレチクル10a,10bをその焦点を挟む近傍においてその焦点からそれぞれ等距離の位置に設け、これらの各レチクル10a,10bの像を対物レンズ2の焦点面の前および後ろにそれぞれ結像させるようにしても良い。
【0023】
この場合、対象物Sが上記対物レンズ2の焦点面の前および後ろの前記各レチクル10a,10bの像の結像位置に存在すれば、対象物Sの表面に投影された像が最も鮮明となる。そして対象物Sが上記像の結像位置(対物レンズ2の焦点面の前および後ろ)からずれるに従ってその像に“ぼけ”が生じ、不鮮明となる。
合焦位置Z0は2つの結像位置の間に存在しているので、そこではレチクル10x,10yの像はいずれも不鮮明になる。この様子を、対物レンズ2の位置Zに対する評価値Fのグラフとして図2右下に示す。ここでは評価値はレチクル10x,10yについてピーク位置の異なる同形状の二つの山形の曲線として表され、対物レンズ2の位置Zに対して一対の評価値Fが一義的に決まる。またこの例では二つの曲線の交点が合焦位置である。従ってこの2つの曲線が既知であれば、一対の評価値Fから対物レンズ2の位置Zを一義的に求めることができ、合焦点位置からのずれ(大きさ及び方向)を求めることができる。具体的には、先ず対物レンズ2の位置は固定したままで照明レンズ7と結像レンズ8との間の所定位置にレチクル10xのみを配置して撮像し、後述の手順で評価値F1を求める。次に対物レンズ2の位置は動かさずにレチクル10xを光路から取り除くと共にレチクル10yを光路の所定位置に配置して撮像し、同様に評価値F2を求める。そしてこれら一対の評価値F1,F2から対物レンズ2の現在の位置Zを求め、合焦位置Z0からのずれを求める。次いで以下に述べる焦点調節機構を用いて、ずれを解消するように対物レンズ2の位置を動かすことで合焦を得る。この場合、対物レンズ2を一度動かすだけで合焦を得られる。
【0024】
ここで前述した焦点調節機構30について簡単に説明すると、この焦点調節機構30は概略的には、例えば図3(a)(b)(c)にその正面図、A-A断面図、およびB-B断面図として示すように構成される。この焦点調節機構30は、主として固定ユニット31と、この固定ユニット31に移動自在に支持された移動ユニット32とからなる。固定ユニット31は、図示しない装置本体に対して固定ジョイント39のねじ部40を介して着脱自在に固定される。また対物レンズ2を支持した光学鏡筒33は、対物レンズジョイント41のねじ部42を介して、上記移動ユニット32に着脱自在に固定されている。ちなみに移動ユニット32の移動方向は、上記対物レンズ2の光軸と一致するように設定されている。また前記対物レンズジョイント41は、移動ユニット32に対して着脱自在に固定されている。
【0025】
さて一般に対物レンズ2を支持する光学鏡筒33には、顕微鏡の規格にあるM20.32のねじが設けられていることが多い。従って上記ねじ部42もこれに合わせておくことで様々な対物レンズに対応させることができる。また固定ユニットのねじ部40もこれと同様に定めておくことで、例えば焦点調整が不要な場合には焦点調節機構30を取り外し、装置本体のねじ部に光学鏡筒33を直接取り付けることが可能となる。またここでは対物レンズジョイント41を移動ユニット32に対して着脱自在に取り付けているので、例えば光学鏡筒33のねじ径が異なる場合には、そのねじ径に対応した対物レンズジョイントを41を用いることでその取り付けが可能となり、焦点調整機構30そのものを交換する必要がなくなる。同様に装置本体のレジ部40のねじ径が異なる場合には、固定ジョイント39を当該ねじ径に対応したものに変更することでその取り付けが可能となり、焦点調整機構30そのものを交換する必要がなくなる。
【0026】
また前記移動ユニット32は、一対のリニアガイド34,34を介して前記固定ユニット31に上下動自在に支持されている。またこの移動ユニット32の内部に組み込まれたモータ35の回転軸には送りねじ36が同軸に装着されており、この送りねじ36は前記固定ユニット32に組み込まれたナット体37に螺合させて設けられている。そしてモータ35により送りねじ36を回転させることで、ナット体37に螺合した送りねじ36が前記固定ユニット31に対してその軸方向に進退し、これに伴って前記リニアガイド34,34により支持された移動ユニット32が上下動するようになっている。また前記送りねじ36には、円盤状のノブ38が同軸に装着されており、このノブ38を廻すことによって前記移動ユニット34を手動で上下動させ得るようになっている。
【0027】
一方、このような焦点調節機構30のモータ35の作動を制御して移動ユニット32を上下動させ、該移動ユニット32に支持された光学鏡筒33、ひいてはこの光学鏡筒33に組み込まれた対物レンズ2をその光軸方向に進退させて焦点調整を実行する制御装置20は、例えばマイクロコンピュータを主体として構成される。即ち、この制御装置20は、前記撮像素子1にて繰り返し撮像される前述したレチクル10(10a,10b)の像(レチクルパターン)10x(10y)を逐次フーリエ変換することでその周波数成分を解析し、その解析結果に基づいて前記焦点調節機構30の作動を制御するように構成される。
【0028】
さて前記対象物Sの表面に投射され、前記撮像素子1にて撮像して求められた前記レチクル10の像10xを解析する前記制御装置20は、次のように構成される。即ち、この制御装置20は、例えば対象物Sの像をフーリエ変換(FFT)し、例えばそのフーリエ変換画像に振幅抑制処理を施した後、その画像を逆フーリエ変換(IFFT)して元の画像との自己相関を求め、この自己相関から求められる第一評価値に従って前記焦点調節機構30の作動を制御することで、オートフォーカス制御を実行するように構成される。或いは前記制御装置30は、フーリエ変換画像の各画素における振幅成分を求め、所定の範囲の画素における振幅成分を合計して第二評価値を求め、第二評価値に従って前記焦点調節機構30の作動を制御し、これによってオートフォーカス制御を実行するように構成される。
【0029】
尚、上記第一評価値と第二評価値とを所定の重み付けを施して抽出し、これらの各評価値を総合判定して前記焦点調節機構30の作動を、つまりオートフォーカス制御を実行するように前記制御装置20を構成することも可能である。また第一評価値に基づいて前記焦点調節機構30の作動を制御し、これによってオートフォーカス制御に対する粗調整を行った後、第二評価値に基づいて上記オートフォーカス制御の微調整を行うように前記制御装置30を構成することも可能である。
【0030】
具体的には上述した第一評価値は、例えば図4に示す処理手順に従って求められる。
先ず撮像素子1から読み出した1番目の画像に2次元離散的フーリエ変換(FFT)を施し[ステップS1]、フーリエ画像データを作成する。そしてこのフーリエ画像データに振幅抑制処理を施す[ステップS2]。具体的には振幅抑制処理として、対数変換処理(log処理)を行う。尚、振幅抑制処理は、上述したlog処理や開平方処理(√処理)に限らず、振幅を抑制することができればどのような処理でも良い。また振幅抑制で全ての振幅を、例えば“1”にすると、即ち、位相のみの情報にすると、log処理や√処理に比べてその計算量を減らすことができるという利点、また処理データ量が少なくなるという利点がある。
【0031】
次にこの振幅抑制処理を施したフーリエ画像データに2次元離散的逆フーリエ変換(IFFT)を施し[ステップS3]、実空間の画像(以下、この画像を「評価画像」と呼ぶ)に戻す。この時、振幅抑制処理を施したフーリエ画像データにIFFTを施す過程で生じる量子化誤差により、外乱(FFT演算によって生じやすいノイズ)が評価画像に与えられる。
【0032】
このようにして評価画像を得た後、この評価画像とその元となった画像との相関を計算する[ステップS4]。即ち、評価画像に再びFFTを施し、このFFTを施した評価画像のフーリエ画像データとIFFTを施す前のフーリエ画像データ(ステップS3における振幅抑制処理が施されたフーリエ画像データ)とを合成し、この合成したフーリエ画像データに再度FFTを施して相関データとする。
【0033】
この相関データは、振幅抑制処理されている点を除いては、画像と評価画像という異なる画像データ同士の相関であるが、照合という観点からすればどちらも同じ画像を元とするものであるから、逆フーリエ変換による歪みが加わった自己相関ということができる。そして自己相関の計算によって得られた各画素の相関データより、相関データの実部の最大値(Max)と最小値(Min)とを探索する[ステップS5]。そして相関データの数に探索した相関データの実部の最大値と最小値との差を乗じ、これによって得られる値を「Whole」とする[ステップS6]。この「Whole」は、図5に示すように相関空間で評価画像の面積を底面とし、相関データの実部の「最大値−最小値」を高さとする直方体の体積に相当する。
【0034】
また評価画像の各画素の相関データの実部の値からステップS5で探索した相関データの実部の最小値を差し引いた値を合計し、これによって得られる値を「Peak」とする[ステップS7]。この「Peak」は、図5に示すように相関空間で相関データの実部の最大値を頂点とし、他の相関データの実部の値を連ねた立体の体積(自己相関のピークの体積)に相当する。
【0035】
そしてステップS6で求めた「Whole」とステップS7で求めた「Peak」とから、Whole/(Peak)1/2として第一評価値を求める[ステップS8]。評価画像には、ステップS3でのIFFTの過程で外乱が与えられており、この外乱により自己相関のピークの形状がなだらかに拡がる。自己相関のピークの体積が大きいほど、元のピーク形状(δ関数)からの変化が大きく、外乱に弱い画像であると言える。そこで本実施形態では、全体の体積を自己相関のピークの体積の平方根で割ることによって第一評価値を得るようにしている。第一評価値が大きければ、自己相関のピークの形状の拡がりが小さく、その画像が外乱に強い画像であることが分かる。
【0036】
尚、第一評価値を求めるに際して、ステップS8において自己相関のピークの体積の平方根をとったのは、前述した第二評価値と併せて用いる場合を想定して、第二評価値との変化具合を調整するためである。従って第一評価値を単体で用いる場合には、自己相関のピークの体積の平方根ではなく、自己相関のピークの体積そのものを用いても良いことは言うまでもない。
【0037】
一方、第二評価値は図6に示す処理手順に従って求められる。
先ず撮像素子1から読み出した画像に2次元離散的フーリエ変換(FFT)を施し(ステップS11)、フーリエ画像データを作成する。このFFTが施された画像の各画素のデータは複素数によって表される。次のステップS12では、この複素数で表されたデータの実部と虚部とから、(実部2+虚部21/2としてそのデータの振幅を求める(ステップS12)。尚、2次元離散的フーリエ変換については、例えば「コンピュータ画像処理入門」日本工業技術センター編、総研出版(株)発行、P.44〜45等に説明されている。
【0038】
そして直流分を中心にX軸方向,Y軸方向に振幅を並べた図7に示す周波数空間(この例では、画像幅を32画素、画像高さを32画素とする)において、図7に斜線で示す井形のエリア、すなわちX軸方向の周波数が1/2画像幅(16画素)の1/4(4画素)〜1/2(8画素)、Y軸方向の周波数が1/2画像高さ(16画素)の1/4(4画素)〜1/2(8画素)に相当する井形のエリアの各画素のデータの振幅を合計し、この振幅の合計値を第二評価値とする[ステップS13]。
【0039】
この実施形態において、第二評価値はFFTを施した画像のデータの振幅の合計として求められる。画像に適度の輝度変化があり、合焦の度合いが高いほど第二評価値は大きくなる。合焦の度合いが低い場合には、画像での輝度変化(輝度差)が小さく、評価領域におけるデータの振幅の合計が小さくなる。これにより第二評価値が大きくなるほど、合焦の度合いが高いということが分かる。
【0040】
尚、上述した実施形態においては、井形の領域を評価領域として第二評価値を求めたが、図8(a)に示すように任意の方向で周波数が4画素〜8画素に相当するリング状のエリアを評価領域として第二評価値を求めるようにしても良く、また図8(b)に示すようにX軸方向の周波数が4画素〜8画素、Y軸方向の周波数が4画素〜8画素に相当する□形のエリアを評価領域として第二評価値を求めるようにしても良い。また評価領域を決める周波数の範囲も4画素〜8画素相当に限られるものでもない。図9(a)〜(d)に評価領域の変形例を示す。
【0041】
尚、上記第一評価値と第二評価値とを所定の重み付けを施して抽出し、これらの各評価値を総合判定する場合、具体的には次に例示する式(1)または式(2)を用いると良い(但し、a≧0,b≧0)。
(第一評価値)a×(第二評価値)b …式(1)
a×(第一評価値)+b×(第二評価値) …式(2)
かくして上述した如くして求められる評価値(第一評価値および/または第二評価値)に従って焦点調節機構30の作動を制御し、対物レンズ2の焦点面に投影したレチクル10の像が鮮明に得られるようにフォーカシング制御する撮像システムによれば、監視にして確実に対象物Sを上記対物レンズ2の焦点面に位置付けることが可能となる。特に対象物Sの表面に投影されたレチクル10の像10xを撮像し、その画像をFFT処理して周波数解析し、その自己相関から求められる第一評価値が大きくなるように、或いは第二評価値が大きくなるようにフォーカシング制御するだけで良いので、短時間に、しかも高精度に合焦させることができる。
【0042】
また2枚のレチクル10a,10bの像10x,10yを対物レンズ2の焦点面の前および後ろにそれぞれ投影するようにした撮像システムによれば、これらの各像がそれぞれ映し出された対象物Sを撮像することで、該対象物Sの上記対物レンズ2の焦点面の前および後ろ位置からのずれ量をそれぞれ求めることができる。この結果、対象物Sが上記レチクル10a,10bの像の投影位置からそれぞれどの程度ずれているか、ひいては対物レンズ2の焦点面からどの向きにどの程度ずれているかを見出すことができる。従って各像のそれぞれに対する評価値から、合焦位置を正確に求めて速やかにフォーカシング制御することが可能となる。
【0043】
図10(a)〜(j)は、×印状のレチクル像を対物レンズ2の焦点面の前(相対的に−0.5となる位置)に結像させた状態において、対象物Sをその光軸方向にずらして上記焦点面の前後に位置付けたときに得られる画像をそれぞれ示している。これらの各画像に示されるように、対象物Sの表面に投影されるレチクルの像は、その結像面に対象物Sが存在するときに一番鮮明となり、上記結像面からのずれが大きくなるに従ってそのコントラストが損なわれて不鮮明となる。そしてこれらの各像を制御装置20にて前述した如く解析し、その評価値を求めると、例えば図11に示されるようになる。即ち、像の鮮明度が高い程、その評価値が大きくなり、結像位置からのずれによって像が不鮮明になる程、評価値が低くなる。従ってこのようにして求められる評価値に従って、例えばその評価値が大きくなるようにフォーカシング制御することにより、速やかに、しかも精度良く合焦させることが可能となる。
【0044】
尚、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。例えばレチクル10に設ける模様(レチクルパターン)は、要求されるオートフォーカスの制御精度等に応じて定めたものであれば良い。また2つのレチクル10a,10bを用いて対物レンズ2の焦点面の前と後ろにその像を結像させる場合には、好ましくは2つのレチクルの像パターンの向きが90°異なっていることが望ましいが、単にその向きが異なるだけでも良い。この場合、レチクルの像パターンの方向性に着目してその周波数成分をそれぞれ解析すれば、対物レンズ2の焦点面の前と後ろにそれぞれ結像させた像を、それぞれ独立に解析することが可能となる。またパターン形状自体が異なっているものを用いることも可能である。具体的には○型のパターンと+型のパターンとを用い、これらの像パターンの違いを利用してそれぞれの像に対する評価値を求めるようにしても良い。
【0045】
またオートフォーカス制御については、対物レンズ2を光軸方向に動かすことのみならず、その光学鏡筒の全体を光軸方向に動かすようにしても良く、逆に対象物Sを光軸方向に動かすことも勿論可能である。その他、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る撮像システムにおける光学系の概略的な構成を示す図。
【図2】本発明の第2の実施形態に係る撮像システムにおける光学系の概略的な構成を示す図。
【図3】焦点調節機構の構成例を示す図。
【図4】画像に対する第一評価値の算出手順の例を示す図。
【図5】相関空間における評価画像と相関データとの関係を示す図。
【図6】画像に対する第二評価値の算出手順の例を示す図。
【図7】周波数空間における第二評価値の概念を示す図。
【図8】周波数空間における評価領域の別の例を示す図。
【図9】周波数空間における評価領域の更に別の例を示す図。
【図10】光軸方向にずれた対象物Sにそれぞれ投影されるレチクルの像を対比して示す図。
【図11】図10に示す像から求められる評価値と焦点面からのずれ量との関係を示す図。
【符号の説明】
【0047】
S 対象物
1 撮像素子
2 対物レンズ
8 結像レンズ
10 レチクル
20 制御装置
30 焦点調節装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物を撮像する撮像素子と、前記撮像素子に対象物を結像させる光学系と、前記光学系の焦点と前記対象物との相対位置を電動で調節可能に構成した焦点調節手段と、前記撮像素子の信号を解析する制御装置とを備えた撮像システムにおいて、
前記光学系は、同軸で落射する照明機構を備え、前記光学系の焦点面近傍にレチクルの像を投影するものであり、
前記制御装置は、前記撮像素子にて繰り返し撮像された前記レチクルの画像の信号を逐次フーリエ変換し、振幅抑制処理を行い、逆フーリエ変換を行った後に自己相関を求め、この自己相関から第一評価値を求め、この第一評価値に基づいて焦点調節手段を制御するものであることを特徴とする撮像システム。
【請求項2】
対象物を撮像する撮像素子と、前記撮像素子に対象物を結像させる光学系と、前記光学系の焦点と前記対象物との相対位置を電動で調節可能に構成した焦点調節手段と、前記撮像素子の信号を解析する制御装置とを備えた撮像システムにおいて、
前記光学系は、同軸で落射する照明機構を備え、前記光学系の焦点面近傍にレチクルの像を投影するものであり、
前記制御装置は、前記撮像素子にて繰り返し撮像された前記レチクルの画像の信号を逐次フーリエ変換し、各画素における振幅成分を求め、所定の範囲の画素における振幅成分を合計して第二評価値を求め、この第二評価値に基づいて焦点調節手段を制御するものであることを特徴とする撮像システム。
【請求項3】
対象物を撮像する撮像素子と、前記撮像素子に対象物を結像させる光学系と、前記光学系の焦点と前記対象物との相対位置を電動で調節可能に構成した焦点調節手段と、前記撮像素子の信号を解析する制御装置とを備えた撮像システムにおいて、
前記光学系は、同軸で落射する照明機構を備え、前記光学系の焦点面近傍にレチクルの像を投影するものであり、
前記制御装置は、前記撮像素子にて繰り返し撮像されたレチクルの画像の信号を逐次フーリエ変換し、振幅抑制処理を行い、逆フーリエ変換を行った後に自己相関を求め、この自己相関から第一評価値を求める一方、上記フーリエ変換後に所定の範囲の画素における振幅成分を合計して第二評価値を求め、これらの第一および第二評価値に基づいて焦点調節手段を制御するものであることを特徴とする撮像システム。
【請求項4】
前記光学系は、同軸で落射する照明機構を備え、前記光学系の焦点面の前と後ろに2つの異なるレチクルの像を投影することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の撮像システム。
【請求項5】
前記2つのレチクルは、互いに方向成分の異なるパターンを有し、前記撮像素子の信号から前記方向成分を抽出することによって、焦点の調節方向を制御することを特徴とする請求項4に記載の撮像システム。
【請求項6】
前記制御装置は、予め登録しておいた画像と前記撮像素子によって撮像された画像の相関信号によって焦点を調節することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の撮像システム。
【請求項7】
前記光学系は、電動で光軸方向に移動可能なレンズを有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の撮像システム。
【請求項8】
前記制御装置は、前記第一評価値および/または第二評価値が最大となるように焦点を調節することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の撮像システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−301010(P2006−301010A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−118426(P2005−118426)
【出願日】平成17年4月15日(2005.4.15)
【出願人】(000006666)株式会社山武 (1,808)
【出願人】(592253736)シグマ光機株式会社 (46)
【Fターム(参考)】