説明

撮像レンズおよび撮像装置

【課題】撮像レンズにおいて、小型かつ低コストに構成し、広角化と高い光学性能を実現する。
【解決手段】物体側に凸面を向けたメニスカス形状で負のパワーを持つ第1レンズL1と、光軸近傍において物体側の面が物体側に凹形状であるとともに、負のパワーを持つ第2レンズL2と、正のパワーを持つ第3レンズL3と、絞りと、正のパワーを持つ第4レンズL4と、負のパワーを持つ第5レンズL5との実質的に5枚のレンズからなる。第1〜第5レンズL1〜L5は少なくとも一方の面が非球面である。第4レンズL4の物体側の面の光軸近傍の曲率半径および第4レンズL4の像側の面の光軸近傍の曲率半径に関する所定の条件式を満足する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撮像レンズおよび撮像装置に関し、より詳しくは、CCD(Charge Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)等の撮像素子を用いた車載用カメラ、監視カメラ等に使用されるのに好適な広角の撮像レンズ、および該撮像レンズを備えた撮像装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
CCDやCMOS等の撮像素子は近年非常に小型化および高画素化が進んでいる。そのため、撮像機器本体並びにそれに搭載される撮像レンズにも小型化、軽量化が求められている。一方、車載用カメラ、監視カメラ等に使用される撮像レンズには、高い耐候性を持ち、広範囲に亘って良好な視界を確保できるように広画角で高い光学性能を有することが求められている。
【0003】
上記分野の撮像レンズとしては、例えば下記特許文献1〜3に記載のものがある。特許文献1〜3には、非球面レンズを含む5枚構成の撮像レンズが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−31762号公報
【特許文献2】特開2009−216956号公報
【特許文献3】国際公開第2010/1713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで近年では、車載用カメラや監視カメラ等の分野において、例えば全画角で180度を超えるものが望まれる等、広角化に対する要望が強まってきている。また、近年の撮像素子の小型化および高画素化に伴い、高い解像性を有し、結像領域の広い範囲まで良好な像が得られるような高い光学性能を有する撮像レンズが求められるようになってきている。さらに、より明るい撮像レンズが要求されるようになってきている。しかしながら、従来のレンズ系では、安価で小型に構成しながら、近年の要望を満たす程度の広角化と高い光学性能を同時に実現することは困難であった。
【0006】
特許文献1に記載のレンズは、F値が2.0と比較的明るいが、全画角が163度未満であり、全画角が180度を超える撮像レンズに適用した場合、性能不足となる。
【0007】
特許文献2,3に記載のレンズは、全画角が190度以上と広角であるが、F値が2.8である。このため、F値を2.0となるまで明るくしようとしたり、全画角を210度を超える程度まで大きくしようとすると、性能低下を招くこととなる。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑み、小型かつ低コストでありながら、広角化と高い光学性能を実現可能な撮像レンズ、および該撮像レンズを備えた撮像装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の撮像レンズは、物体側から順に、
物体側に凸面を向けたメニスカス形状であるとともに、負のパワーを持つ第1レンズと、
光軸近傍において物体側の面が物体側に凹形状であるとともに、負のパワーを持つ第2レンズと、
正のパワーを持つ第3レンズと、
絞りと、
正のパワーを持つ第4レンズと、
負のパワーを持つ第5レンズとの実質的に5枚のレンズからなり、
前記第1レンズから前記第5レンズのレンズ面のうち、少なくとも一面が非球面であり、
下記条件式(13−2)を満足することを特徴とするものである。
【0010】
0.75<(r8+r9)/(r8−r9)<2.96 … (13−2)
ただし、
r8:前記第4レンズの物体側の面の光軸近傍の曲率半径
r9:前記第4レンズの像側の面の光軸近傍の曲率半径
なお、本発明の撮像レンズにおいては、下記条件式(12−4)を満足することが好ましい。
【0011】
1.6<L/f<15.7 … (12−4)
ただし、
L:前記第1レンズの物体側の面から像面までの光軸上の距離(レンズと像面の間は空気換算距離)
f:全系の焦点距離
第1レンズに関する「物体側に凸面を向けたメニスカス形状であるとともに、負のパワーを持つ」とは、第1レンズが非球面を有する場合は、近軸領域で考えるものとする。
【0012】
「実質的に5枚のレンズからなる」とは、5枚のレンズ以外に,実質的にパワーを持たないレンズ、絞りやカバーガラス等のレンズ以外の光学要素、レンズフランジ、レンズバレル、撮像素子、手ぶれ補正機構等の機構部分等を持つものも含むことを意味する。
【0013】
第2レンズ、第3レンズ、第4レンズおよび第5レンズにおいて、パワーの正負とは、非球面が含まれているものについてはとくに断りのない限り近軸領域で考えるものとする。
【0014】
また、上記本発明の撮像レンズにおいては、下記条件式(1)〜(13)を満足することが好ましい。なお、好ましい態様としては、下記条件式(1)〜(13)のいずれか1つの構成を有するものでもよく、あるいは任意の2つ以上を組み合わせた構成を有するものでもよい。
【0015】
0.10<f34/L<0.17 … (1)
0.40<d1-4/L<0.50 … (2)
0.45<d3-11/L<0.54 … (3)
0.02<d4-5/L<0.05 … (4)
0.012<d6-8/L<0.04 … (5)
L/r3<−6.0 … (6)
0.08<d4-5/f … (7)
0.04<d10/f … (8)
0.48<f3/f … (9)
0.71<Bf/f … (10)
r10/f<−0.25 … (11)
1.2<L/f … (12)
(r8+r9)/(r8−r9)<2.9 … (13)
ただし、
f34:第3レンズと第4レンズとの合成近軸焦点距離
L:第1レンズの物体側の面から像面までの光軸上の距離(レンズと像面の間は空気換算距離)
d1-4:第1レンズの物体側の面から第2レンズの像側の面までの光軸上の距離
d3-11:第2レンズの物体側の面から第5レンズの像側の面までの光軸上の距離
d4-5:第2レンズの像側の面から第3レンズの物体側の面までの光軸上の距離
d6-8:第3レンズの像側の面から第4レンズの物体側の面までの光軸上の距離
r3:第2のレンズの物体側の面の光軸近傍の曲率半径
f:全系の焦点距離
d10:第5レンズの光軸上の厚さ
f3:第3レンズの焦点距離
Bf:全系のバックフォーカス
r10:第5レンズの物体側の面の光軸近傍の曲率半径
r8:第4レンズの物体側の面の光軸近傍の曲率半径
r9:第4レンズの像側の面の光軸近傍の曲率半径
本発明の撮像装置は、上記記載の本発明の撮像レンズを備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の撮像レンズによれば、最少5枚のレンズ系において、各レンズの形状およびパワーを好適に設定し、条件式(13−2)を満足するようにしているため、安価で小型に構成しながら、十分な広角化、十分な明るさおよび高い光学性能を実現することができる。
【0017】
本発明の撮像装置によれば、本発明の撮像レンズを備えているため、安価で小型に構成でき、広い画角での撮像が可能であり、高画質の映像を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施例1の撮像レンズのレンズ構成および光路を示す断面図
【図2】本発明の実施例2の撮像レンズのレンズ構成および光路を示す断面図
【図3】本発明の実施例3の撮像レンズのレンズ構成および光路を示す断面図
【図4】本発明の実施例4の撮像レンズのレンズ構成および光路を示す断面図
【図5】本発明の実施例5の撮像レンズのレンズ構成および光路を示す断面図
【図6】本発明の実施例6の撮像レンズのレンズ構成および光路を示す断面図
【図7】本発明の実施例7の撮像レンズのレンズ構成および光路を示す断面図
【図8】本発明の実施例8の撮像レンズのレンズ構成および光路を示す断面図
【図9】本発明の実施例1の撮像レンズの各収差図(A)〜(G)
【図10】本発明の実施例2の撮像レンズの各収差図(A)〜(G)
【図11】本発明の実施例3の撮像レンズの各収差図(A)〜(G)
【図12】本発明の実施例4の撮像レンズの各収差図(A)〜(G)
【図13】本発明の実施例5の撮像レンズの各収差図(A)〜(G)
【図14】本発明の実施例6の撮像レンズの各収差図(A)〜(G)
【図15】本発明の実施例7の撮像レンズの各収差図(A)〜(G)
【図16】本発明の実施例8の撮像レンズの各収差図(A)〜(G)
【図17】本発明の実施形態に係る車載用の撮像装置の配置を説明するための図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の撮像レンズの実施形態について図面を参照して詳細に説明する。図1〜図8は、本発明の実施形態に係る撮像レンズの構成例を示す断面図であり、それぞれ後述の実施例1〜8の撮像レンズに対応している。図1〜図8に示す例の基本的な構成は同様であり、図示方法も同様であるため、ここでは主に図1を参照しながら、本発明の実施形態に係る撮像レンズについて説明する。
【0020】
本発明の実施形態に係る撮像レンズは、光軸Zに沿って、物体側から順に、第1レンズL1と、第2レンズL2と、第3レンズL3と、第4レンズL4と、第5レンズL5とが配された5枚構成のレンズ系である。第3レンズL3と第4レンズL4との間には、開口絞りStが配置されている。開口絞りStを第3レンズL3と第4レンズL4との間に配置することにより、径方向の小型化を図ることができる。
【0021】
なお、図1では、左側が物体側、右側が像側としており、図示されている開口絞りStは必ずしも大きさや形状を表すものではなく、光軸上の位置を示すものである。図1中の符号ri(i=1、2、3、…)は、各レンズ面の曲率半径を示し、符号di(i=1、2、3、…)は面間隔を示す。また、図1には、無限遠の距離にある物点からの軸上光束2、最大画角での軸外光束3も併せて示す。
【0022】
図1では、撮像レンズが撮像装置に適用される場合を考慮して、撮像レンズの像面Simに配置された撮像素子5も図示している。また、撮像レンズを撮像装置に適用する際には、レンズを装着するカメラ側の構成に応じて、カバーガラスや、ローパスフィルタまたは赤外線カットフィルタ等を設けることが好ましく、図1では、これらを想定した平行平板状の光学部材PPを第5レンズL5と撮像素子5(像面Sim)との間に配置した例を示している。
【0023】
第1レンズL1は、負のパワーを持ち、物体側の面が凸形状のメニスカスレンズであるように構成される。このように第1レンズL1を負のパワーを持ち、物体側の面が凸形状のメニスカスレンズとすることにより、広角化およびディストーションの補正に有利となる。最も物体側に配置される第1レンズL1は、風雨や洗浄用の溶剤に晒されることが想定されるが、第1レンズL1の物体側の面は凸面となるから、これらの状況において懸念されるゴミ、埃、水滴等が残留しにくいという利点もある。
【0024】
なお、図1に示す例では第1レンズL1は球面レンズで構成しているが、非球面レンズで構成することも可能である。ただし、後述のように、最も物体側に配置される第1レンズL1の材質は、樹脂よりもガラスの方が好ましいことから、第1レンズL1を球面レンズとすれば、非球面レンズとした場合よりも低コストに製作することができる。
【0025】
第2レンズL2、第3レンズL3、第4レンズL4および第5レンズL5は全て、少なくとも一方の面が非球面形状である。第2レンズL2、第3レンズL3、第4レンズL4および第5レンズL5の少なくとも一方の面を非球面形状とすることで、光学系の光軸方向の全長を短くしながらも高い解像性を得ることが可能になる。また、少ないレンズ枚数により、球面収差、コマ収差、像面湾曲およびディストーション等の諸収差を良好に補正することが可能になる。より良好な収差補正のためには、第2レンズL2、第3レンズL3、第4レンズL4および第5レンズL5は、両面が非球面形状であることが好ましい。
【0026】
第2レンズL2は、光軸近傍において物体側の面が物体側に凹形状であるとともに、負のパワーを持つように構成される。
【0027】
ここで、図1を参照しながら、第2レンズL2の物体側の面の形状について説明する。図1において、第2レンズL2の物体側の面上の光軸との交点をQ13とし、点Q13近傍のある点をX3として、その点での法線と光軸との交点をP3とする。このとき点X3での第2レンズL2の形状は点P3が点Q13を基準として物体側、像側のいずれの側にあるかで定義する。物体側の面においては点P3が点Q13より物体側にある場合を物体側に凹形状、点P3が点Q13より像側にある場合を物体側に凸形状と定義する。
【0028】
「光軸近傍において物体側の面が物体側に凹形状である」とは、光軸近傍において、点P3が点Q13より物体側にある形状を意味する。
【0029】
第2レンズL2を、光軸近傍において物体側の面が物体側に凹形状であり、負のパワーを持つものとすることで、軸上光線が第2レンズL2の像側の面を通過する際の入射角を小さく抑えることができるため、球面収差を良好に補正することができる。
【0030】
第3レンズL3、第4レンズL4および第5レンズL5は、それぞれ正、正および負のパワーを持つように構成される。
【0031】
また、本実施形態に係る撮像レンズは、下記条件式(13−2)を満足するように構成されている。
【0032】
0.75<(r8+r9)/(r8−r9)<2.96 … (13−2)
ただし、
r8:第4レンズL4の物体側の面の光軸近傍の曲率半径
r9:第4レンズL4の像側の面の光軸近傍の曲率半径
条件式(13−2)の下限を下回るあるいは上限を上回ると、第4レンズL4の物体側の面が光軸近傍で曲率半径の絶対値が小さくなり過ぎるか、第4レンズL4の像側の面が光軸近傍で曲率半径の絶対値が小さくなり過ぎ、球面収差を良好に補正することが困難となる。
【0033】
本実施形態の撮像レンズは、5群5枚のレンズ構成において、上記のように第1レンズL1〜第5レンズL5の各レンズのパワーおよび形状を好適に設定し、開口絞りStを第3レンズL3と第4レンズL4の間に配置することにより、少ないレンズ枚数および短い全長で小型かつ低コストに構成しながら、十分な広角化および明るさを達成し、さらに球面収差、コマ収差、像面湾曲およびディストーションを含む諸収差を良好に補正することができる。また、本実施形態の撮像レンズによれば、結像領域の広い範囲に亘って高解像を実現することができるため、近年の高画素化が進んだ撮像素子にも対応することが可能になる。
【0034】
本実施形態の撮像レンズにおいては、下記条件式(12−4)を満足することがより好ましい。
【0035】
1.6<L/f<15.7 … (12−4)
ただし、
L:第1レンズL1の物体側の面から像面までの光軸上の距離(レンズと像面の間は空気換算距離)
f:全系の焦点距離
条件式(12−4)の下限を下回ると、第1レンズL1の物体側の面から像面までの光軸上の距離を適正な寸法に設定したときに、焦点距離が長くなるため、大きな画角がとれなくなる。条件式(12−4)の上限を上回ると、必要な画角を確保したときの第1レンズL1の物体側の面から像面までの距離が大きくなり過ぎ、本実施形態の撮像レンズおよび本実施形態の撮像レンズを適用したカメラ等の撮像装置が大型化する。
【0036】
本実施形態の撮像レンズにおいては、第1レンズL1、第2レンズL2、第3レンズL3、第4レンズL4および第5レンズL5の材質のd線に対するアッベ数は、第1レンズL1が40以上、第2レンズL2が50以上、第3レンズL3が30以下、第4レンズL4が50以上、第5レンズL5が30以下とすることが好ましい。
【0037】
第1レンズL1、第2レンズL2、第3レンズL3、第4レンズL4および第5レンズL5を、光軸近傍でそれぞれ負、負、正、正、負のパワーを持つものとし、適正なアッベ数の材質を選択することにより、200度を超える広角レンズでありながら、倍率の色収差を良好に補正することが可能になる。
【0038】
また、第4レンズL4と第5レンズL5との間隔が小さく、その間隔がレンズの中心部から周辺部に亘ってあまり変化しないものとすることが好ましい。また、第5レンズL5の厚さが、中心部と周辺部とでそれほど変わらないものとすることが好ましい。これにより、どのような画角に対しても、光束がほぼ同じ角度で第4レンズL4の像側の面、第5レンズL5の物体側の面および第5レンズL5の像側の面を通過するため、製造誤差等による急激な収差の発生を防止することができる。
【0039】
本実施形態に係る撮像レンズは、さらに以下に述べる構成を有することが好ましい。なお、好ましい態様としては、以下のいずれか1つの構成を有するものでもよく、あるいは任意の2つ以上を組み合わせた構成を有するものでもよい。
【0040】
下記条件式(13−3)を満足することがより好ましい。条件式(13−3)を満足することで、条件式(13−2)を満足することにより得られる効果をさらに高めることができる。
【0041】
0.75<(r8+r9)/(r8−r9)<2.0 … (13−3)
下記条件式(12−5)を満足することがより好ましい。条件式(12−5)を満足することで、条件式(12−4)を満足することにより得られる効果をさらに高めることができる。
【0042】
5.0<L/f<20.0 … (12−5)
第2レンズL2、第3レンズL3、第4レンズL4および第5レンズL5について、光軸を含む断面において物体側の面および像側の面のそれぞれについて有効径最外端2点と光軸上の点との3点を通る円弧を定義し、物体側の面および像側の面のそれぞれがその円弧の曲率半径となる全体形状を有するものであると想定したとき、第2レンズL2が像側の面が像側に凹形状であるとともに負のパワーを持ち、第3レンズL3が物体側の面が物体側に凸形状であるとともに正のパワーを持ち、第4レンズL4が像側の面が像側に凸形状であるとともに正のパワーを持ち、第5レンズL5が像側に凸面を向けたメニスカス形状であるとともに負のパワーを持つものとした場合、下記条件式(1)〜(6)を満足することが好ましい。
【0043】
0.10<f34/L<0.17 … (1)
0.40<d1-4/L<0.50 … (2)
0.45<d3-11/L<0.54 … (3)
0.02<d4-5/L<0.05 … (4)
0.012<d6-8/L<0.04 … (5)
L/r3<−6.0 … (6)
ただし、
f34:第3レンズL3と第4レンズL4との合成近軸焦点距離
L:第1レンズL1の物体側の面から像面までの光軸上の距離(第5レンズL5と像面の間は空気換算距離)
d1-4:第1レンズL1の物体側の面から第2レンズL2の像側の面までの光軸上の距離
d3-11:第2レンズL2の物体側の面から第5レンズL5の像側の面までの光軸上の距離
d4-5:第2レンズL2の像側の面から第3レンズL3の物体側の面までの光軸上の距離
d6-8:第3レンズL3の像側の面から第4レンズL4の物体側の面までの光軸上の距離
r3:第2のレンズL2の物体側の面の光軸近傍の曲率半径
ここで、上記全体形状を有するものと想定した場合における第2レンズL2の像側の面の形状について、図1を参照しながら説明する。図1において、点Q1,Q2は、第2レンズL2の像側の面の有効径最外端の2点であり、点Q3は、第2レンズL2の像側の面上の光軸上の点である。また、図1において、円弧C2は、3つの点Q1,Q2,Q3を通る円弧である。
【0044】
「像側の面が像側に凹形状である」とは、第2レンズL2の像側の面が、3つの点Q1,Q2,Q3を通る円弧C2により規定されるレンズ面を有すると想定したときに、円弧C2が像側に凹形状である、すなわち点Q3が点Q1,Q2よりも物体側にある形状を意味する。また、「負のパワーを持つ」とは、物体側および像側において想定した全体形状を有するレンズのパワーが負であることを意味する。
【0045】
上記全体形状を有するものと想定した場合における第3レンズL3の物体側の面の形状は、上記第2レンズL2についての説明と同様にして考えることができる。すなわち、「物体側の面が物体側に凸形状である」とは、第3レンズL3の物体側の面が、第3レンズL3の物体側の有効径最外端の2点Q11,Q12および第3レンズL3の物体側の面上の光軸上の点Q13の3点を通る円弧C3により規定されるレンズ面を有すると想定したときに、円弧C3が物体側に凸形状である、すなわち点Q13が点Q11,Q12よりも物体側にある形状を意味する。また、「正のパワーを持つ」とは、物体側および像側において想定した全体形状を有するレンズのパワーが正であることを意味する。
【0046】
上記全体形状を有するものと想定した場合における第4レンズL4の像側の面の形状は、上記第2レンズL2についての説明と同様にして考えることができる。すなわち、「像側の面が像側に凸形状である」とは、第4レンズL4の像側の面が、第4レンズL4の像側の有効径最外端の2点Q21,Q22および第4レンズL4の像側の面上の光軸上の点Q23の3点を通る円弧C4により規定されるレンズ面であると想定したときに、円弧C4が像側に凸形状である、すなわち点Q23が点Q21,Q22よりも像側にある形状を意味する。また、「正のパワーを持つ」とは、物体側および像側において想定した全体形状を有するレンズのパワーが正であることを意味する。
【0047】
上記全体形状を有するものと想定した場合における第5レンズL5の像側の面の形状は、上記第2レンズL2についての説明と同様にして考えることができる。すなわち、「像側に凸面を向けたメニスカス形状」とは、第5レンズL5の像側の面が、第5レンズL5の像側の有効径最外端の2点Q31,Q32および第5レンズL5の像側の面上の光軸上の点Q33の3点を通る円弧C5により規定されるレンズ面であると想定したときに、円弧C5が像側に凸のメニスカス形状である、すなわち点Q33が点Q31,Q32よりも像側にあるメニスカス形状を意味する。また、「負のパワーを持つ」とは、物体側および像側において想定した全体形状を有するレンズのパワーが負であることを意味する。
【0048】
条件式(1)の下限を下回ると、第3レンズL3および第4レンズL4のパワーの絶対値が大きくなり、各レンズの製造誤差や、位置精度が高度に要求されるようになり、製造性が悪化し、コストアップの原因になる。条件式(1)の上限を上回ると、レンズ全系でのパワーが不足して、必要な画角が得られなくなる。
【0049】
条件式(2)の下限を下回ると、第1レンズL1と第2レンズL2とが周辺部で近接して、適正に配置できなくなる。条件式(2)の上限を上回ると、第1レンズL1の有効径が大きくなり、レンズ全系の全長および外径が大型化してしまう。
【0050】
条件式(3)の下限を下回ると、第2から第5レンズL2〜L5の厚さや、第2から第5レンズL2〜L5間の間隔を小さくしなければならず、各レンズの製造性が悪化したり、各レンズのパワーを適正に設定することができなくなり、色収差を良好に補正することが困難となる。条件式(3)の上限を上回ると、レンズの小型化の目的が達成できなくなり、レンズが大型化する。
【0051】
条件式(4)の下限を下回ると、第2レンズL2と第3レンズL3とが近接し過ぎて接触する危険性が増し、第2レンズL2の像側の面および第3レンズL3の物体側の面の双方が関与するゴースト光を除去し難くなる。条件式(5)の上限を上回ると、レンズの全長を小さくすることが困難となる。
【0052】
条件式(5)の下限を下回ると、第3レンズL3と第4レンズL4とが近接し過ぎて、この間に開口絞りStを形成することが困難となる。条件式(5)の上限を上回ると、レンズの全長を小さくすることが困難となる。
【0053】
条件式(6)の上限を上回ると、球面収差を良好に補正することが困難となる。
【0054】
第2レンズL2を、光軸近傍において像側の面が像側に凸形状であり、負のパワーを持つものとした場合、下記条件式(7)〜(13)を満足することが好ましい。
【0055】
0.08<d4-5/f … (7)
0.04<d10/f … (8)
0.48<f3/f … (9)
0.71<Bf/f … (10)
r10/f<−0.25 … (11)
1.2<L/f … (12)
(r8+r9)/(r8−r9)<2.9 … (13)
ただし、
L:第1レンズL1の物体側の面から像面までの光軸上の距離(レンズと像面の間は空気換算距離)
d4-5:第2レンズL2の像側の面から第3レンズL3の物体側の面までの光軸上の距離
f:全系の焦点距離
d10:第5レンズL5の光軸上の厚さ
f3:第3レンズL3の焦点距離
Bf:全系のバックフォーカス
r10:第5レンズL5の物体側の面の光軸近傍の曲率半径
r8:第4レンズL4の物体側の面の光軸近傍の曲率半径
r9:第4レンズL4の像側の面の光軸近傍の曲率半径
ここで、第2レンズL2の像側の面の形状は、第2レンズL2の物体側の面の形状と同様に考えることができる。図1において、第2レンズL2の像側の面上の点Q3近傍のある点をX4として、その点での法線と光軸との交点をP4とする。このとき点X4での第2レンズL2の形状は点P4が点Q3を基準として物体側、像側のいずれの側にあるかで定義する。像側の面においては点P4が点Q3より物体側にある場合を像側に凸形状、点P4が点Q3より像側にある場合を像側に凹形状と定義する。
【0056】
「光軸近傍において像側の面が像側に凸形状である」とは、光軸近傍において、点P4が点Q3より物体側にある形状を意味する。
【0057】
第2レンズL2を、光軸近傍において像側の面が像側に凸形状であり、負のパワーを持つものとすることで、軸上光線が第2レンズL2の像側の面を通過する際の入射角を小さく抑えることができるため、球面収差を良好に補正することができる。
【0058】
条件式(7)の下限を下回ると、第2レンズL2と第3レンズL3とが近接し過ぎて接触する危険性が増し、第2レンズL2の像側の面および第3レンズL3の物体側の面の双方が関与するゴースト光を除去し難くなる。
【0059】
条件式(8)の下限を下回ると、第5レンズL5の厚さが小さくなり過ぎ、製造が困難となる。
【0060】
条件式(9)の下限を下回ると、第3レンズL3のパワーが強くなり過ぎ、形状誤差や偏心による収差変化の感度が高くなり、形状や組立に高い精度が必要になる。
【0061】
条件式(10)の下限を下回ると、第5レンズL5の像側の面と像面とが近づき過ぎ、レンズの傷等の欠陥が画像に与える影響が大きくなり、またレンズを適正に配置することが困難となる。
【0062】
条件式(11)の上限を上回ると、第5レンズL5の物体側面の光軸近傍の曲率半径の絶対値が小さくなり過ぎ、球面収差を良好に補正することが困難となる。または第5レンズL5の物体側の面の曲率半径を、所望の光学性能が得られるように適正値にした場合に条件式(11)の上限を上回ると、焦点距離が大きくなり、必要な画角が確保できなくなる。
【0063】
条件式(12)の下限を下回ると、第1レンズL1の物体側の面から像面までの光軸上の距離を適正な寸法に設定したときに、焦点距離が長くなるため、大きな画角がとれなくなる。
【0064】
条件式(13)の上限を上回ると、第4レンズL4の物体側の面が光軸近傍で曲率半径の絶対値が小さくなり過ぎるか、第4レンズL4の像側の面が光軸近傍で曲率半径の絶対値が小さくなり過ぎ、球面収差を良好に補正することが困難となる。
【0065】
第2レンズL2を、光軸近傍において像側の面が像側に凸形状であり、負のパワーを持つものとした場合、さらに下記条件式(7−1)〜(13−1)を満足することが好ましい。条件式(7−1)〜(13−1)を満足することで、条件式(7)〜(13)を満足することにより得られる効果と同様の効果を得ることができるか、または効果をさらに高めることができる。
【0066】
0.20<d4-5/f<0.60 … (7−1)
0.20<d10/f<0.80 … (8−1)
2.0<f3/f<20.0 … (9−1)
1.5<Bf/f<3.0 … (10−1)
−5.0<r10/f<−0.50 … (11−1)
5.0<L/f<20.0 … (12−1)
(r8+r9)/(r8−r9)<2.0 … (13−1)
第2レンズL2を、光軸近傍において像側の面が像側に凸形状であり、負のパワーを持つものとすることで、軸上光線が第2レンズL2の像側の面を通過する際の入射角を小さく抑えることができるため、球面収差を良好に補正することができる
条件式(7−1)の上限を上回ると、レンズ全長を極力短くする場合に不利となる。
【0067】
条件式(8−1)の上限を上回ると、レンズ全長を短くする場合に不利になるとともに、十分なバックフォーカスをとることが困難となる。
【0068】
条件式(9−1)の上限を上回ると、第3レンズL3のパワーが弱過ぎて、倍率色収差の補正が不十分になる。
【0069】
条件式(10−1)の上限を上回ると、レンズから像面までは十分な距離をとることができるが、第1レンズL1の物体側の面から像面までの距離が大きくなり、本実施形態の撮像レンズおよび本実施形態の撮像レンズを適用したカメラ等の撮像装置が大型化する。
【0070】
条件式(11−1)の下限を下回ると、第4レンズL4と第5レンズL5との間の隙間が光軸から離れるほど大きくなる傾向になり、第5レンズL5を通過する光線が光軸から離れ、第5レンズL5の外径が大きくなるため、本実施形態の撮像レンズの鏡胴形状の自由度が小さくなる。
【0071】
条件式(12−1)の上限を上回ると、第1レンズL1の物体側の面から像面までの距離が大きくなり、本実施形態の撮像レンズおよび本実施形態の撮像レンズを適用したカメラ等の撮像装置が大型化する。
【0072】
第2レンズL2を、光軸近傍において像側の面が像側に凸形状であり、負のパワーを持つものとした場合、さらに下記条件式(2−1),(2−2)を満足することが好ましい。
【0073】
0.11<d1-4/L … (2−1)
0.40<d1-4/L … (2−2)
第2レンズL2を、光軸近傍において像側の面が像側に凸形状であり、負のパワーを持つものとすることで、軸上光線が第2レンズL2の像側の面を通過する際の入射角を小さく抑えることができるため、球面収差を良好に補正することができる。
【0074】
条件式(2−1),(2−2)の下限を下回ると、第1レンズL1と第2レンズL2とが周辺部で近接して、適正に配置できなくなる。
【0075】
第2レンズL2を、負のパワーを持つものとした場合、上記条件式(2−2)および下記条件式(2−3)を満足することが好ましい。
【0076】
0.40<d1-4/L<0.60 … (2−3)
条件式(2−3)の下限を下回ると、第1レンズL1と第2レンズL2とが周辺部で近接して、適正に配置できなくなる。条件式(2−3)の上限を上回ると、第1レンズL1の有効径が大きくなり、レンズ全系の全長および外径が大型化してしまう。
【0077】
第2レンズL2を、負のパワーを持つものとした場合、下記条件式(7−2)、(8−2)を満足することが好ましい。
【0078】
d4-5/f<1.76 … (7−2)
0.08<d10/f<0.54 … (8−2)
条件式(7−2)の上限を上回ると、第2レンズL2と第3レンズL3とが離れ過ぎ、レンズ全体が大型化する。また、コマ収差の補正が困難となる。
【0079】
条件式(8−2)の下限を下回ると、第5レンズL5の厚さが小さくなり過ぎ、製造が困難となる。条件式(8−2)の上限を上回ると、第5レンズL5の厚さが大きくなり過ぎ、レンズが大型化する。また、第1レンズL1の物体側の面から像面までの距離を抑えようとすると、必要なバックフォーカスの確保が困難となる。
【0080】
第2レンズL2を、負のパワーを持つものとした場合、さらに、下記条件式(7−3)、(8−3)を満足することがより好ましい。条件式(7−3)、(8−3)を満足することで、条件式(7−2)、(8−2)を満足することにより得られる効果をさらに高めることができる。
【0081】
0.15<d4-5/f<0.66 … (7−3)
0.46<d10/f<0.54 … (8−3)
条件式(7−3)の下限を下回ると、第2レンズL2と第3レンズL3とが近接し過ぎて接触する危険性が増し、面r4,r5の双方が関与するゴースト光を除去し難くなる。
【0082】
第2レンズL2を、負のパワーを持つものとした場合、下記条件式(9−2)、(10−2)を満足することが好ましい。
【0083】
4.7<f3/f … (9−2)
1.84<Bf/f … (10−2)
条件式(9−2)の下限を下回ると、第3レンズL3のパワーが強くなり過ぎ、形状誤差や偏心による収差変化の感度が高くなり、形状や組立に高い精度が必要になる。
【0084】
条件式(10−2)の下限を下回ると、第5レンズL5の像側の面と像面の間の距離が近づき過ぎ、レンズの傷等の欠陥が画像に与える影響が大きくなり、また、レンズを適正に配置することが困難となる。
【0085】
第2レンズL2を、負のパワーを持つものとした場合、さらに、下記条件式(9−3)、(10−3)を満足することがより好ましい。条件式(9−3)、(10−3)を満足することで、条件式(9−2)、(10−2)を満足することにより得られる効果をさらに高めることができる。
【0086】
4.7<f3/f<20.0 … (9−3)
1.77<Bf/f<2.3 … (10−3)
条件式(9−3)の上限を上回ると、第3レンズL3のパワーが弱くなり過ぎて、倍率色収差の補正が不十分になる。条件式(10−3)の上限を上回ると、レンズから像面までは十分な距離をとることができるが、第1レンズL1の物体側の面から像面までの距離が大きくなり、本実施形態の撮像レンズおよび本実施形態の撮像レンズを適用したカメラ等の撮像装置が大型化する。
【0087】
第2レンズL2を、光軸近傍において像側の面が像側に凸形状であり、負のパワーを持つものとした場合、下記条件式(11−2)、(12−2)を満足することが好ましい。
【0088】
−1.33<r10/f<−0.64 … (11−2)
11.9<L/f … (12−2)
第2レンズL2を、光軸近傍において像側の面が像側に凸形状であり、負のパワーを持つものとすることで、軸上光線が第2レンズL2の像側の面を通過する際の入射角を小さく抑えることができるため、球面収差を良好に補正することができる。
【0089】
条件式(11−2)の下限を下回ると、画角に必要な焦点距離を適正にした場合に、第5レンズL5の物体側面の光軸近傍の曲率半径が大きくなり、球面収差の補正効果が小さくなる。条件式(11−2)の上限を上回ると、第5レンズL5の物体側面の光軸近傍の曲率半径の絶対値が小さくなり過ぎ、球面収差を良好に補正することが困難となる。または第5レンズL5の物体側の面の曲率半径を、所望の光学性能が得られるように適正値にした場合に条件式(11−2)の上限を上回ると、焦点距離が大きくなり、必要な画角が確保できなくなる。
【0090】
条件式(12−2)の下限を下回ると、第1レンズL1の物体側の面から像面までの光軸上の距離を適正な寸法に設定したときに、焦点距離が長くなるため、大きな画角がとれなくなる。
【0091】
第2レンズL2を、光軸近傍において像側の面が像側に凸形状であり、負のパワーを持つものとした場合、さらに、下記条件式(12−3)を満足することがより好ましい。
【0092】
11.9<L/f<20.0 … (12−3)
条件式(12−3)の上限を上回ると、第1レンズL1の物体側の面から像面までの距離が大きくなり、本実施形態の撮像レンズが大型化するとともに、本実施形態の撮像レンズを適用したカメラ等の撮像装置が大型化する。
【0093】
本実施形態の撮像レンズは、全画角が200度より大きいことが好ましい。全画角は、最大画角での軸外光束3の主光線と光軸Zとのなす角の2倍である。全画角が200度より大きな広角のレンズ系とすることで、近年の広角化の要望に対応可能となる。
【0094】
本実施形態の撮像レンズは、例えば図1に示す例のように、第1レンズL1〜第5レンズL5のレンズ全てが接合されていない単レンズであることが好ましい。車載カメラや監視カメラ用途のような厳しい環境下での使用が想定される場合は、接合レンズを含まない構成とすることが好ましく、また、接合レンズを含まない構成とすることで低コストに作製することが可能となる。
【0095】
本実施形態の撮像レンズが例えば車載用カメラや監視用カメラ等の厳しい環境において使用される場合には、最も物体側に配置される第1レンズL1は、風雨による表面劣化、直射日光による温度変化に強く、さらには油脂・洗剤等の化学薬品に強い材質、すなわち耐水性、耐候性、耐酸性、耐薬品性等が高い材質を用いることが要望される。例えば、日本光学硝子工業会が定める粉末法耐水性が1のものを用いることが好ましい。また、第1レンズL1には、堅く、割れにくい材質を用いることが要望されることがある。材質をガラスとすることで、上記要望を満たすことが可能となる。あるいは、第1レンズL1の材質として、透明なセラミックスを用いてもよい。
【0096】
なお、第1レンズL1の物体側の面に、強度、耐傷性、耐薬品性を高めるための保護手段を施してもよく、その場合には、第1レンズL1の材質をプラスチックとしてもよい。このような保護手段は、ハードコートであってもよく、撥水コートであってもよい。
【0097】
第2レンズL2、第3レンズL3、第4レンズL4および第5レンズL5の材質としては、プラスチックを用いることが好ましく、この場合には、非球面形状を精度良く作製することができるとともに、軽量化および低コスト化を図ることが可能となる。
【0098】
材質にプラスチックを用いる場合は、吸水による性能変化を極力抑えることができるように吸水性が小さく、かつ解像性低下の原因となる複屈折性が低い材質を選択することが好ましい。この条件を満たす材質として、第2レンズL2および第4レンズL4は、シクロオレフィン系のプラスチックを、第3レンズL3および第5レンズL5はポリカーボネート系のプラスチックやポリエステル系のプラスチックを選択することが好ましい。
【0099】
第2レンズL2、第3レンズL3、第4レンズL4および第5レンズL5の少なくともいずれかの材質にプラスチックを用いた場合は、その材質として、プラスチックに光の波長より小さな粒子を混合させたいわゆるナノコンポジット材料を用いてもよい。
【0100】
本実施形態の撮像レンズにおいては、ゴースト光低減等のために、各レンズに反射防止膜を施すようにしてもよい。その際、例えば図1に例示するような撮像レンズでは、第1レンズL1の像側の面、第2レンズL2の像側の面、第3レンズL3の物体側の面において、周辺部の各面の接線と光軸とのなす角が小さいため、周辺部の反射防止膜の厚さがレンズ中央部より薄くなる。そこで、上記3つの面のうちの、第1レンズL1の像側の面を含む一面以上の面に、中央付近での反射率が最も小さくなる波長を600nm以上900nm以下とした反射防止膜を施すことにより、有効径全体で反射率を平均的に低減することができ、ゴースト光を低減させることができる。
【0101】
なお、中央付近での反射率が最も小さくなる波長が600nmより短いと、周辺部での反射率が最も小さくなる波長が短くなり過ぎ、長波長側の反射率が高くなるため、赤味がかったゴーストが発生しやすくなってしまう。また、中央付近での反射率が最も小さくなる波長が900nmより長いと、中央部での反射率が最も小さくなる波長が長くなり過ぎ、短波長側の反射率が高くなるため、像の色合いがかなり赤味がかってしまうとともに、青味がかったゴーストが発生しやすくなってしまう。
【0102】
また、本実施形態の撮像レンズにおいては、各レンズ間の有効径外を通過する光束は、迷光となって像面に達し、ゴーストとなるおそれがあるため、必要に応じて、この迷光を遮光する遮光手段を設けることが好ましい。この遮光手段としては、例えばレンズの像側の有効径外の部分に不透明な塗料を施したり、不透明な板材を設けたりしてもよい。または、迷光となる光束の光路に不透明な板材を設けて遮光手段としてもよい。
【0103】
なお、撮像レンズの用途に応じて、レンズ系と撮像素子5との間に紫外光から青色光をカットするようなフィルタ、または赤外光をカットするようなIR(InfraRed)カットフィルタを挿入してもよい。あるいは、上記フィルタと同様の特性を持つコートをレンズ面に施してもよい。
【0104】
図1では、レンズ系と撮像素子5との間に各種フィルタを想定した光学部材PPを配置した例を示しているが、この代わりに、各レンズの間にこれらの各種フィルタを配置してもよい。あるいは、撮像レンズが有するいずれかのレンズのレンズ面に、各種フィルタと同様の作用を有するコートを施してもよい。
【0105】
次に、本発明の撮像レンズの数値実施例について説明する。実施例1〜実施例8の撮像レンズのレンズ断面図はそれぞれ図1〜図8に示したものである。
【0106】
実施例1の撮像レンズのレンズデータ、非球面データを表1に示す。同様に、実施例2〜8の撮像レンズのレンズデータ、非球面データをそれぞれ表2〜表8に示す。以下では表中の記号の意味について、実施例1を例にとり説明するが、実施例2〜8のものについても基本的に同様である。
【0107】
表1のレンズデータにおいて、「面」の欄は最も物体側の構成要素の面を1番目として像側に向かうに従い順次増加するi番目(i=1、2、3、…)の面番号を示し、riの欄はi番目の面の曲率半径を示し、diの欄はi番目の面とi+1番目の面との光軸Z上の面間隔を示している。なお、曲率半径の符号は、物体側に凸の場合を正、像側に凸の場合を負としている。各実施例において、レンズデータの表のri、di(i=1、2、3、…)は、レンズ断面図の符号ri、diと対応している。
【0108】
また、表1のレンズデータにおいて、Nejの欄は最も物体側のレンズを1番目として像側に向かうに従い順次増加するj番目(j=1、2、3、…)のレンズのe線(波長546.07nm)に対する屈折率を示し、νdjの欄はj番目の光学要素のd線(波長587.6nm)に対するアッベ数を示している。なお、レンズデータには、開口絞りStも含めて示しており、開口絞りStに相当する面の曲率半径の欄には、∞と記載している。
【0109】
図1〜図8において第5レンズL5と像面Simとの間に配置されている光学部材PPは、カバーガラスやフィルタ等を想定したものであり、実施例1〜8の全てにおいて、屈折率1.52のガラス材を用いており、その厚みは0.3mmである。
【0110】
表1のレンズデータでは、非球面の曲率半径として光軸近傍の曲率半径(近軸曲率半径)の数値を示している。非球面データには、非球面の面番号と、各非球面に関する非球面係数を示す。非球面データの数値の「E−n」(n:整数)は「×10-n」を意味し、「E+n」は「×10n」を意味する。なお、非球面係数は、下式で表される非球面式における各係数K、am(m=3、4、5、…20)の値である。
【0111】
Zd=C・h2/{1+(1−K・C2・h21/2}+Σam・hm
ただし、
Zd:非球面深さ(高さhの非球面上の点から、非球面頂点が接する光軸に垂直な平面に
下ろした垂線の長さ)
h:高さ(光軸からのレンズ面までの距離)
C:近軸曲率
K、am:非球面係数(m=3、4、5、…20)
【表1】

【表2】

【表3】

【表4】

【表5】

【表6】

【表7】

【表8】

【0112】
上記実施例1〜8では、第1レンズL1は、光学ガラスを材質とし、両面を球面形状としているため、良好な耐候性、および土砂等による傷つきにくさが得られるとともに、比較的安価に製造することができる。上記実施例1〜8の第2レンズL2と第4レンズL4は、シクロオレフィン系のプラスチックを材質とし、第3レンズL3と第5レンズL5はポリカーボネート系のプラスチックを材質として、吸水による性能変化を極力抑えるように吸水性の小さい材質を選択している。
【0113】
上記実施例1〜8の撮像レンズにおける各種データおよび上記条件式(1)〜(13)に対応する値を表9に示す。実施例1〜8ではe線を基準波長としており、表9にはこの基準波長における各値を示す。
【0114】
表9において、fは全系の焦点距離、Bfは最も像側のレンズの像側の面から像面までの光軸上の距離(バックフォーカスに相当)、Lは第1レンズL1の物体側の面から像面Simまでの光軸上の距離、2ωは全画角である。Bfは空気換算長であり、すなわち、光学部材PPの厚みを空気換算して計算した値を示している。同様に、Lのうちバックフォーカス分は空気換算長を用いている。表9からわかるように、実施例1〜8は全て条件式(1)〜(13)を満足している。
【表9】

【0115】
なお、上記各表には、所定の桁でまるめた数値を記載している。各数値の単位としては、角度については「°」を用い、長さについては「mm」を用いている。しかし、これは一例であり、光学系は比例拡大または比例縮小しても使用可能なため他の適当な単位を用いることもできる。
【0116】
実施例1の撮像レンズの収差図を図9(A)〜(G)に示す。図9(A)〜(D)はそれぞれ、球面収差、非点収差、ディストーション(歪曲収差)、倍率色収差(倍率の色収差)を示している。図9(E)〜(G)は、各半画角におけるタンジェンシャル方向の横収差を示している。各収差図には、e線を基準波長とした収差を示すが、球面収差図および倍率の色収差図には、g線(波長436nm)、C線(波長656.27nm)についての収差も示す。球面収差図のFno.はFナンバー、その他の収差図のωは半画角を意味する。
【0117】
また同様に、上記実施例2〜8の撮像レンズそれぞれの球面収差、非点収差、ディストーション(歪曲収差)、倍率色収差、横収差の収差図を図10(A)〜(G)、図11(A)〜(G)、図12(A)〜(G)、図13(A)〜(G)、図14(A)〜(G)、図15(A)〜(G)、図16(A)〜(G)に示す。
【0118】
なお、ディストーションの収差図については、全系の焦点距離f、半画角φ(変数扱い、0≦φ≦ω)を用いて、理想像高を2×f×tan(φ/2)とし、それからのずれ量を示しているため、周辺部でマイナスの値になっている。しかし、実施例1〜8の撮像レンズのディストーションは、等距離射影に基づく像高を基準として算出すれば、プラスの大きな値となる。これは、実施例1〜8の撮像レンズが、等距離射影に基づく像高でディストーションを抑制するように設計されたレンズに比べて、周辺部の画像が大きく写るように考慮されたものだからである。
【0119】
以上のデータからわかるように、実施例1〜8の撮像レンズは、5枚という少ないレンズ構成で小型化および低コスト化を図った上で、さらに、約220度程度の非常に広い全画角、2.0の小さいFナンバー、および各収差が良好に補正された高解像の良好な光学性能を実現している。これらの撮像レンズは、監視カメラや、自動車の前方、側方、後方等の映像を撮影するための車載用カメラ等に好適に使用可能である。
【0120】
図17に使用例として、自動車100に本実施形態の撮像レンズを備えた撮像装置を搭載した様子を示す。図17において、自動車100は、その助手席側の側面の死角範囲を撮像するための車外カメラ101と、自動車100の後側の死角範囲を撮像するための車外カメラ102と、ルームミラーの背面に取り付けられ、ドライバーと同じ視野範囲を撮影するための車内カメラ103とを備えている。車外カメラ101と車外カメラ102と車内カメラ103とは、本発明の実施形態に係る撮像装置であり、本発明の実施例の撮像レンズと、該撮像レンズにより形成される光学像を電気信号に変換する撮像素子とを備えている。
【0121】
本発明の実施例に係る撮像レンズは、上述した長所を有するものであるから、車外カメラ101、102および車内カメラ103は、小型で安価に構成でき、広い画角を有し、解像度の高い良好な映像を得ることができる。
【0122】
以上、実施形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施形態および実施例に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、各レンズ成分の曲率半径、面間隔、屈折率、アッベ数、非球面係数の値は、上記各数値実施例で示した値に限定されず、他の値をとり得るものである。また、レンズの材質も上記各数値実施例で用いたものに限定されず、別の材質を用いてもよい。
【0123】
また、撮像装置の実施形態では、本発明を車載用カメラに適用した例について図を示して説明したが、本発明はこの用途に限定されるものではなく、例えば、携帯端末用カメラや監視カメラ等にも適用可能である。
【符号の説明】
【0124】
2 軸上光束
3 軸外光束
5 撮像素子
100 自動車
101、102 車外カメラ
103 車内カメラ
L1 第1レンズ
L2 第2レンズ
L3 第3レンズ
L4 第4レンズ
L5 第5レンズ
PP 光学部材
Sim 像面
St 開口絞り
Z 光軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体側から順に、
物体側に凸面を向けたメニスカス形状であるとともに、負のパワーを持つ第1レンズと、
光軸近傍において物体側の面が物体側に凹形状であるとともに、負のパワーを持つ第2レンズと、
正のパワーを持つ第3レンズと、
絞りと、
正のパワーを持つ第4レンズと、
負のパワーを持つ第5レンズとの実質的に5枚のレンズからなり、
前記第1レンズから前記第5レンズのレンズ面のうち、少なくとも一面が非球面であり、
下記条件式(13−2)を満足することを特徴とする撮像レンズ。
0.75<(r8+r9)/(r8−r9)<2.96 … (13−2)
ただし、
r8:前記第4レンズの物体側の面の光軸近傍の曲率半径
r9:前記第4レンズの像側の面の光軸近傍の曲率半径
【請求項2】
下記条件式(12−4)を満足することを特徴とする請求項1記載の撮像レンズ。
1.6<L/f<15.7 … (12−4)
ただし、
L:前記第1レンズの物体側の面から像面までの光軸上の距離(レンズと像面の間は空気換算距離)
f:全系の焦点距離
【請求項3】
請求項1または2記載の撮像レンズを搭載したことを特徴とする撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2013−3547(P2013−3547A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−137941(P2011−137941)
【出願日】平成23年6月22日(2011.6.22)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】