説明

撮像装置

【課題】フィルタの濃度段差や厚み段差による光回折を防止して、静止画撮影時の解像度の劣化を防ぐことができるとともに、静止画撮影および動画撮影共に露出制御のダイナミックレンジを確保することができ、更には、画面上の輝度ショックを抑制して、輝度の連続性を確保することができる撮像装置を提供する。
【解決手段】この撮像装置は、レンズから入射した光を電気信号に変換する撮像素子と、該撮像素子に入射する光の量を変化させる絞り機構と、該絞り機構の開口を開閉自在に覆うことにより、該開口を通過して撮像素子に入射する光の量を調整するNDフィルタ161と、を備える。そして、NDフィルタ161が、絞り機構の開口を選択的に開閉する透明部161a、および濃度のグラデーション部161bを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビデオカメラ等の撮像装置に関し、特に、絞り機構の開口から撮像素子に入射する光の量を調整するNDフィルタを備えた撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ビデオカメラの小型化によるCCDセンサのセルサイズの微細化に伴い、光学回折の影響を受けやすくなり、露出を制御する絞り機構を絞り込む限界のF値が小さくなってきている。このような光学回折による画質への影響を少しでも軽減するために、NDフィルタを絞り機構に貼り付けて絞り機構と同時に制御していたものを、絞り機構と独立させて制御することにより、絞り機構の開口を絞らなくても光量を減光できる技術が提案されている。
【0003】
図7に、NDフィルタを絞り機構と独立させて制御する手段を備えた撮像装置の一例を示す。
【0004】
この撮像装置は、レンズ110と、レンズ110からの入射光量を制御する絞り機構120と、絞り機構120を介して入射した光を光電変換するCCDセンサ200と、絞り機構120からCCDセンサ200に入射する光量を制限するNDフィルタ160と、を備える。
【0005】
絞り機構120は絞り駆動モータ130により駆動され、該絞り駆動モータ130は絞り機構駆動装置140により駆動される。また、絞り機構120の絞り状態は、絞り機構検出装置150により検出される。
【0006】
NDフィルタ160はNDフィルタ駆動モータ170により駆動され、該NDフィルタ駆動モータ7はNDフィルタ駆動装置180により駆動される。また、NDフィルタ160の絞り機構120の開口に対する開閉状態は、NDフィルタ検出装置190により検出される。
【0007】
CCDセンサ(撮像素子)200は、撮像素子駆動装置210により制御され、撮像素子駆動装置210は、光電変換された信号を読み出すとともに、信号の蓄積時間を制御するいわゆる電子シャッタ機能を制御する。CCDセンサ200で光電変換された信号はCDS/AGC220によりサンプリングされて電気的に増幅され、CDS/AGC220の出力アナログ信号はA/D変換器230によりデジタル信号に変換され、DSP240に出力される。
【0008】
DSP240は、ガンマ補正後、色分離、色差マトリクス等の処理を施した後に、同期信号を加え標準テレビジョン信号を生成する制御機能を有する信号処理装置である。DSP24には、撮像装置全体を制御するマイクロコンピュータ270から処理命令が出される。DSP240で処理された画像データはメモリ250に記憶され、撮影された静止画や動画等の画像情報はメモリカード等の記録媒体260に記録される。なお、図7において、符号280は、画像を表示する液晶パネル、符号290は、動画・静止画切替スイッチである。
【0009】
次に、絞り機構120およびNDフィルタ160の制御方法について説明する。
【0010】
まず、レンズ110から入射した光が絞り機構120およびNDフィルタ160を通り、NDフィルタ160により制限された光がCCDセンサ200に入射する。CCDセンサ200により光電変換された信号がCDS/AGC220、A/D変換器230によりデジタル信号に変換されて、DSP240でカメラ信号処理される。DSP240により露出制御用の枠に応じた輝度データがマイクロコンピュータ270に出力され、その輝度データに基づき露出制御用計算を行う。この計算結果が適正露出でない場合は、適正になるように絞り機構120、NDフィルタ160、電子シャッタ、AGCを制御する。
【0011】
これら4つの露出制御パラメーターのうち、絞り機構120およびNDフィルタ160について図8を参照して説明する。
【0012】
まず、図8(A)では、絞り機構120の開口が開放して、NDフィルタ160が絞り機構120の開口から全退避している。この状態から、CCDセンサ200に入射する光を少なくする方向に露出を制御する。即ち、図8(B)に示すように、絞り機構120がある一定の開口径(F4.0)まで絞られると、絞り機構120の開口径を固定してから、NDフィルタ160を開口に連続的に徐々に挿入させて露出を制御する。
【0013】
このとき、図8(C)に示すように、絞り機構120の開口に対して半分だけなど中途半端にNDフィルタ160が挿入される場合や、図8(D),図8(E)に示すように、NDフィルタ160の異なった濃度域が絞り機構120の開口に混在する場合がある。
【0014】
このような場合、図10に示すように、NDフィルタ160に存在する厚み段差や濃度段差などにより、光の回折が発生して画像の解像度が低下する問題が生じる。
【0015】
一般的に、画像の滑らかさを優先させる動画撮影に対して、画像の解像度を最優先させる静止画撮影においては、NDフィルタ160を絞り機構の開口に対して厚み段差や濃度段差が存在するような状態で中途半端に挿入することは避けたい。そこで、静止画撮影にNDフィルタ160を使用しなければ、動画撮影と比較してNDフィルタ160の濃度分だけ露出制御のダイナミックレンジが減少する不具合が生じてしまう。
【0016】
そこで、次に示す技術が提案されている(特許文献1参照)。
【0017】
この提案では、静止画撮影モードにおいて、図9に示すように、被写体が明るくなるにつれて絞り機構120の開口を閉じていき、F11の開口径で絞り機構120の制御は止められる。続いて、NDフィルタ160が絞り機構120の開口径を全て覆うようにNDフィルタ160の閉動作制御がなされる。このとき、絞り機構120は、NDフィルタ160により遮光される光を補正するために、NDフィルタ160の濃度分だけ開口径をF4に広げる。
【0018】
また、開口径を広げることにより補正しきれない分は電子シャッタースピードを遅く、即ち、CCDセンサ200への光の蓄積時間を長くすることにより補正する。この補正制御により、NDフィルタ160の絞り機構120の開口への挿入による急激な光量変化を目立たなくすることができる。
【0019】
その後、更に被写体の明るさが明るくなったら、電子シャッタースピードを1/60秒から1/250秒まで高速にし、絞り機構120の開口径をF4の開口径からF11の開口径まで絞っていくことにより露出を制御する。
【0020】
逆に、NDフィルタ160が絞り機構120の開口に対して全挿入されている状態から全退避するまでの露出制御は、上述した被写体が明るくなる方向とは逆の被写体が暗くなる方向に制御する。
【0021】
即ち、NDフィルタ160が絞り機構2の開口に対して全挿入されている状態で、電子シャッタースピードが1/60秒で絞り機構120がF4の開口径になる。更に被写体が暗くなったとマイクロコンピュータ270が判断したら、電子シャッタースピードを1/250秒にし、絞り機構120をF11の開口径にして、NDフィルタ160を絞り機構120の開口に対して全退避させる。その後、更に被写体が暗くなれば、電子シャッタースピードと絞り機構120により露出を制御する。
【0022】
このように、NDフィルタ160を絞り機構120の開口に対して連続的に挿入していくのではなく、全挿入するか全退避するかの制御を行うことにより、NDフィルタ160の濃度段差や厚み段差による光回折を防止することができる。これにより、静止画撮影時の解像度の劣化を防ぐことができるとともに、静止画撮影および動画撮影共にNDフィルタ160を使用して露出制御のダイナミックレンジを確保することができる。
【特許文献1】特開2004−72580号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
しかし、上記特許文献1では、絞り機構120の開口に対してNDフィルタ160を急峻に開閉動作させるため、画面上に輝度ショック(急激な輝度変化)が一瞬ではあるが存在する。この輝度ショックは、画像の品質を低下させることに加え、シャッターチャンスを逃すタイミングを発生させる原因になる。即ち、ユーザが静止画撮影しようとしたときに、自動的にNDフィルタ160が絞り機構120の開口に対して急峻に挿入されたり退避したりすると、輝度変化が大きくなり、ユーザがシャッタボタンを押して撮影するのをためらってしまう可能性がある。
【0024】
また、この輝度ショックは静止画撮影時のモニタ画面上であれば静止画撮影結果などに実害はないが、動画撮影中にこの輝度ショックが起きてしまうと輝度の連続性が失われてしまう。
【0025】
そこで、本発明は、フィルタの濃度段差や厚み段差による光回折を防止して、静止画撮影時の解像度の劣化を防ぐことができるとともに、静止画撮影および動画撮影共に露出制御のダイナミックレンジを確保することができる撮像装置を提供することを目的とする。更には、画面上の輝度ショックを抑制して、輝度の連続性を確保することができる撮像装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0026】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の撮像装置は、レンズから入射した光を電気信号に変換する撮像素子と、該撮像素子に入射する光の量を変化させる絞り機構と、該絞り機構の開口を開閉自在に覆うことにより、該開口を通過して前記撮像素子に入射する光の量を調整するフィルタと、を備えた撮像装置であって、前記フィルタが、前記絞り機構の開口を選択的に開閉する透明部、および濃度のグラデーション部を有する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、フィルタの透明部により濃度段差を抑制することができ、フィルタの濃度のグラデーション部により厚み段差および濃度段差を抑制することができる。これにより、フィルタの濃度段差や厚み段差による光回折を防止することができ、静止画撮影時の解像度の劣化を防ぐことができるとともに、静止画撮影および動画撮影共にフィルタを使用して露出制御のダイナミックレンジを確保することができる。
【0028】
また、フィルタの透明部により輝度ショックを抑制することができるので、静止画のみならず、動画においても輝度の連続性を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態の一例を図を参照して説明する。
【0030】
図1は本発明の実施の形態の一例である撮像装置を説明するためのブロック図、図2はNDフィルタの制御方法の一例を説明するための説明図、図3はNDフィルタの透明部と絞り機構の開口との大きさの関係を説明するための図である。図4はNDフィルタ制御値とNDフィルタ制御位置との関係を示すグラフ図、図5はNDフィルタの構造を模式的に示す断面図、図6は本発明の実施の形態の一例である撮像装置の動作例を説明するためのフローチャート図である。なお、この実施の形態では、撮像装置の基本的構成については既に図7で説明した従来の撮像装置を例に採り、相違する部分についてのみ説明し、重複する部分については図に同一符号を付して説明を省略する。
【0031】
本発明の実施の形態の一例である撮像装置は、図1に示すように、絞り機構120とCCDセンサ(撮像素子)200との間に、絞り機構120からCCDセンサ200に入射する光量を制限するNDフィルタ161が配置されている。
【0032】
このNDフィルタ161は、図2に示すように、絞り機構120の開口120aを選択的に開閉する透明部161a、および濃度のグラデーション部161bを有する。グラデーション部161bは、透明部161aから離れるにつれて次第に濃度が濃くなるように形成されている。
【0033】
まず、露出制御をする上で動作させる絞り機構120、NDフィルタ161、シャッタースピード、ゲインの4つのパラメーターについて説明する。
【0034】
これらの4つのパラメーターのうちの1つのパラメーターが動作しているときは、その他の3つのパラメーターは固定されている。また、どのパラメーターがどの明るさで動作するかは、AEのモードにより決められている。このような動作を行うAEのことをプログラムAEと呼ぶ。
【0035】
この実施の形態では、プログラムAEのモードがオートモードであるとする。表1に示すようなテーブルデータがマイクロコンピュータ270の所定の記憶領域(ROM等)に記憶されており、プログラムAEの各動作パラメーターの制御値をマイクロコンピュータが判断し、各パラメーターを制御する。
【0036】
【表1】

【0037】
表1において、被写体の明るさがBlight2の場合、絞りF8.0、NDフィルタ161全挿入(絞り機構の開口全域を覆う状態)、シャッタースピード1/500〜1/60秒、ゲイン0dBとある。これはシャッタースピードが1/500〜1/60秒まで動作することにより露出を制御して、その他のパラメーターはそれぞれ示された状態で固定制御される。
【0038】
この状態から、被写体が暗くなり始め、シャッタースピードが1/60秒になったら、マイクロコンピュータ270は、表1の「Blight1」に移行して絞り機構120による露出制御を行い、開口径をF8.0からF4.0に向かって制御する。それ以外のパラメーターは、NDフィルタ161全挿入、シャッタースピード1/60秒、ゲイン0dBという値で固定制御される。
【0039】
この状態から、絞り機構120の開口径がF4.0になったら、マイクロコンピュータ270は、表1の「Mid」に移行してNDフィルタ161による露光制御を行い、絞り機構120の開口120aに対するNDフィルタ161の開閉動作を制御する。それ以外のパラメーターは、絞り機構120の開口径がF4.0、シャッタースピード1/60秒、ゲイン0dBという値で固定制御される。なお、「Dark1」,「Dark2」についての説明は省略するが、上記同様にしてプログラムAEが動作していく。
【0040】
次に、本発明の要部である表1の明るさが「Mid」の場合の露光制御について説明する。
【0041】
この露光制御では、NDフィルタ161が絞り機構120の開口120aに対して完全に退避している状態から該開口120aの全域を覆う状態に移行する場合のNDフィルタ161の閉動作を制御する。また、逆に、NDフィルタ161が絞り機構120の開口120aの全域を覆っている状態から該開口120aに対して完全に退避する状態に移行する場合のNDフィルタ161の開動作を制御する。
【0042】
図2に、表1の「Dark1」と「Mid」との間でのプログラムAEの各パラメーターの遷移の様子を模式的に示す。
【0043】
図2の(A)は、被写体の明るさが暗く、右側(図2(B)〜図2(F))になるにつれ、被写体の明るさが明るくなることを示している。また、図2では、それぞれの明るさにおいて、露出が適正と判断される絞り機構120の開口径のF値、NDフィルタ161の制御位置、電子シャッタースピード、ゲイン値を示している。表1との比較では、表1の「Mid」に相当するのは、図2(B)〜図2(E)である。
【0044】
まず、図2(A)は、絞り機構120の開口径:F2.8、NDフィルタ161:全退避(絞り機構120の開口120aに対して完全に退避している状態)、シャッタースピード:1/60秒、ゲイン:0dBの状態を示している(表1の「Dark1」)。
【0045】
ここで、図2(A)の状態では、絞り機構120の開口120aがNDフィルタ161の幅より大きいため、NDフィルタ161の透明部161aで開口120aの全域を覆うNDフィルタ161の閉動作制御を行うことはできない。仮に、NDフィルタ161の閉動作制御を行うと、NDフィルタ161の透明部161aの端面と両側面の3面で絞り機構120の開口120aを遮ることとなり、厚み段差により画像が大きく劣化することになる。従って、図2(A)の状態では、NDフィルタ161の透明部161aで開口120aの全域を覆うNDフィルタ161の閉動作制御を行わずに、絞り機構120を制御する。
【0046】
絞り機構120の制御では、被写体が明るくなるにつれてCCDセンサ200に入射する光量が増加すると、マイクロコンピュータ270は光量を減じるために絞り機構120の開口120aを閉じる(絞る)方向に制御する。このときの絞りの動作は連続的に行われ、滑らかな輝度変化となる(通常のAE動作)。
【0047】
そして、絞り機構120がF4.0の開口径になったと判断されたら、マイクロコンピュータ270により絞り機構120の制御が停止され、図2(A)から図2(B)のNDフィルタ161の開閉制御に移行する。絞り機構120がF4.0の開口径になったときに絞り機構120の制御を止める理由は、絞り機構120の開口120aがNDフィルタ161の透明部161aで全て覆うことができる大きさになっているからである。
【0048】
図3に、図2(B)の状態におけるNDフィルタ161の透明部161aと絞り機構120の開口120aとの大きさの関係を示す。図3に示すように、図2(B)の状態では、a1>b1、且つa2>b2となり、絞り機構120の開口120aがNDフィルタ161の透明部161aで全て覆うことができる大きさになっているのが判る。
【0049】
続いて、図2(B)から図2(C)に移行し、NDフィルタ161の透明部161aで絞り機構120の開口120a(F4.0)の全域を覆うNDフィルタ161の閉動作制御を行う。ここでのNDフィルタ161の閉動作速度は、図2(C)および図2(D)で説明するグラデーション部161bでの閉動作速度より高速に制御される。なお、ここで言う高速とは、ユーザが輝度変化に対して違和感を覚えないくらい高速という意味であり、この実施の形態では、2Vから3V(1V=1/60秒)で動作させている。
【0050】
また、ここでNDフィルタ161を高速に動作させる理由は、フィルタのあるエリアとないエリアをまたぐ際に屈折率の変化が生じるためである。
【0051】
このような高速動作を実現させるためには、あらかじめ定められたF値(この実施の形態では、F4.0)でNDフィルタ161を開閉動作させるように決めておく。そうすれば、NDフィルタ161の透明部161aが絞り機構120の開口120aの全域を覆うためのNDフィルタ161の制御位置が自ずと決定され、その制御位置にするための制御値も決定される。
【0052】
図4に、NDフィルタ制御位置とNDフィルタ制御値との関係を示す。
【0053】
図4に示すように、NDフィルタ制御値とNDフィルタ制御位置とは線形の関係にあり、1対1で対応している。NDフィルタ制御値が0のとき、NDフィルタ制御位置はNDフィルタ161が絞り機構120の開口120aに対して完全に退避する位置となる。また、NDフィルタ制御値が100のとき、NDフィルタ制御位置はNDフィルタ161が絞り機構120の開口120aの全域を覆う位置で、且つ閉動作の終端位置(全挿入位置)となる。
【0054】
ここで、NDフィルタ161の透明部161aのみで絞り機構120の開口120aの全域を覆うためのNDフィルタ制御値は20であるため、NDフィルタ制御値20をあらかじめマイクロコンピュータ270に記憶させておく。そして、絞り機構120の開口120aをNDフィルタ161の透明部161aで覆いたいときに、NDフィルタ制御値を0から20に一気に変化させる。これにより、NDフィルタ161が高速で閉動作し、2Vから3Vで絞り機構120の開口120aの全域を覆う(図2(C))。また、逆にNDフィルタ161を絞り機構120の開口120aから退避させるときは、同様に、NDフィルタ制御値を20から0に一気に変化させる。
【0055】
ここで、2Vから3Vかかるのは、NDフィルタ161による露出変化をフィードバック制御しているためで、フィードバックループのループ特性によるものである。このように高速といっても、2Vから3Vかっかっていては、NDフィルタ161の端面が絞り機構120の開口120aを通過している瞬間が撮影されてしまう懸念がある。
【0056】
即ち、NDフィルタ161の端面に強い光が当たった場合、その端面で反射した光がCCDセンサ200に当たり反射ゴーストとして撮影されてしまい、画像劣化につながる。このため、NDフィルタ161の開閉動作時間を短くすることは重要である。
【0057】
そこで、この実施の形態では、好ましい例として、次に示す対策により前記反射ゴーストの発生を確実に防止している。
【0058】
まず、NDフィルタ161の開閉動作がフィードバックループのない制御系で制御されているものとする。この制御系は高速動作が可能であり、図2(B)から図2(C)へのNDフィルタ161の閉動作を垂直走査のブランキング期間で高速で行えば、NDフィルタ161の端面が絞り機構120の開口120aを通過している瞬間が撮影されてしまうことはなくなる。これにより、NDフィルタ161の端面での強い光の反射ゴーストの発生を確実に防止することができる。
【0059】
また、NDフィルタ161を高速で開閉動作させたときの問題として、露出制御のハンチングがある。
【0060】
即ち、絞り機構120の開口120aを覆う部分はNDフィルタ161の透明部161aであるが、透明部161aは有限の透過率(97%)を持っている。従って、輝度変化は目視では殆ど認められないが、露出評価を行うためのDSP240で算出される輝度値は3%だけ変化してしまう。そのため、露出の適正値がNDフィルタ161の高速動作付近に存在すると、NDフィルタ161の開閉動作が繰り返されて、露出制御がハンチングしてしまう。この3%の輝度変化を繰り返していると、目視でもユーザが気になるレベルになってしまい、また、NDフィルタ161を繰り返して高速動作させてしまうため、消費電力が大きくなってしまう。
【0061】
そこで、この実施の形態では、好ましい例として、次に示す対策により露出制御におけるハンチングを防止している。
【0062】
まず、DSP240された現在の輝度値をYとし、露出が適正であるときの輝度値をY0とする。NDフィルタ161が絞り機構120の開口120aに対して完全に退避している状態から、NDフィルタ161を高速で閉動作させてNDフィルタ161で該開口120aを覆うときの条件として、次式(1)を考慮する。
【0063】
Y−Y0>3%の輝度変化値(Y1) …(1)
即ち、露出制御に3%の輝度変化値Y1のヒステリシスを設け、撮影された被写体の輝度値が、上記(1)式の条件を満たした輝度値Yになったときに、NDフィルタ161を高速で閉動作させる。
【0064】
また、NDフィルタ161が絞り機構120の開口120aを覆っている状態から、NDフィルタ161を高速で閉動作させてNDフィルタ161を該開口120aに対して退避させるときの条件として、次式(2)を考慮する。
【0065】
Y0−Y>3%の輝度変化値(Y1) …(2)
即ち、露出制御に3%の輝度変化値Y1のヒステリシスを設け、撮影された被写体の輝度値が、上記(2)式の条件を満たした輝度値Yになったときに、NDフィルタ161を高速動作で開動作させる。
【0066】
このようなヒステリシス制御を行うことにより、NDフィルタ161が挿抜入を高速で繰り返すことを防ぐことができ、露出制御におけるハンチングを防止することができる。
【0067】
以上のように、図2(B)から図2(C)のNDフィルタ161の高速動作により、NDフィルタ161の端面は絞りの開口径を一瞬にして通り過ぎるため、NDフィルタ161の厚み段差による光の回折を防ぐことができる。また、NDフィルタ161の透明部161aにより濃度段差を抑制することができる。
【0068】
その後、絞り機構120の開口径F4.0のままNDフィルタ161の閉動作が進行し、図2(D)に示すように、NDフィルタ161の透明部161aとグラデーション部161bとの両方で絞り機構120の開口部120aを覆うことになる。このとき、NDフィルタ161の閉動作は図2(B)から図2(C)までの閉動作の速度より遅い速度で連続的に行われ、被写体の輝度変化は滑らかである(通常のAE動作)。また、図5に示すように、NDフィルタ161の透明部161aとグラデーション部161bとの境目では、フィルタ濃度や構造的な厚みの段差がないため、濃度段差や厚み段差による光の回折は発生せず、解像度の優れた画像を撮影し続けることができる。
【0069】
更に、図2(E)に示すように、NDフィルタ161が閉動作の終端に位置まで移動して、それ以上のNDフィルタ161の閉動作ができなくなると、図2(F)に示すように、再び絞り機構120が制御されて、開口120aの絞り動作が行われる。この場合の絞りの動作も連続的に行われ、被写体の輝度変化は滑らかである(通常のAE動作)。
【0070】
次に、図6を参照して、本発明の実施の形態の一例である撮像装置の動作例を説明する。図6での各ステップの処理は、マイクロコンピュータの記憶領域(ROM等)に記憶された制御プログラムがRAMにロードされて、CPUにより実行される。
【0071】
まず、ステップS1では、露出が適正かどうか判断する。露出が適正でなかった場合はステップS2に移行し、露出が適正であった場合は処理を終了する。
【0072】
ステップS2では、マイクロコンピュータ270は露出が目標値に対してオーバーなのかアンダーなのかを判断し、オーバーであれば、ステップS3へ移行し、アンダーであれば、ステップS6に移行する。
【0073】
ステップS3では、マイクロコンピュータ270は撮影している被写体が暗くなるようにAEを動作させるよう命令を出し、ステップS4に移行する。
【0074】
ステップS4では、マイクロコンピュータ270はNDフィルタ161が挿入されているか否かを判断する。
【0075】
NDフィルタ161が既に挿入されている状態であれば、その他のパラメーターでAE制御を行い、ステップS1に戻り、露出が適正か否かの判断を再度行う。
【0076】
そして、NDフィルタ161が挿入されていない状態であれば、ステップS5に移行する。
【0077】
ステップS5では、NDフィルタ161は絞り機構120の開口120aに対して完全に退避している状態である。そのため、マイクロコンピュータ270は上述したように、NDフィルタ161の透明部161aが絞り機構120の開口120aの全域を覆う位置まで間欠的に高速で閉動作させる。
【0078】
その後、露出を適正にするため、AE制御を行う。ここで行うAE制御は、滑らかな輝度変化になるように、NDフィルタ161の閉動作を徐々に行う。そして、再びステップS1に戻り、露出が適正か否かの判断を再度行う。
【0079】
一方、ステップS6では、マイクロコンピュータ270は撮影している被写体が明るくなるようにAEを動作させるよう命令を出し、ステップS7に移行する。
【0080】
ステップS7では、マイクロコンピュータ270はNDフィルタ161が挿入されているか否かを判断する。
【0081】
NDフィルタ161が挿入されていない状態であれば、その他のパラメーターでAE制御を行い、ステップS1に戻り、露出が適正か否かの判断を再度行う。
【0082】
そして、NDフィルタ161がすでに挿入されている状態であれば、ステップS8に移行する。
【0083】
ステップS8では、NDフィルタ161の透明部161aが絞り機構120の開口120aの全域を覆っている状態であるため、上述したように、NDフィルタ161を絞り機構120の開口120aに対して完全に退避する位置まで間欠的に高速で開動作させる。その後、露出を適正にするため、AE制御を行う。ここで行うAE制御は、滑らかな輝度変化になるように、パラメーターの制御を徐々に行う。そして、再びステップS1に戻り、露出が適正か否かの判断を再度行う。
【0084】
以上説明したように、この実施の形態では、NDフィルタ161が絞り機構120の開口120aを選択的に開閉する透明部161a、およびグラデーション部161bを有し、透明部161aの開閉動作速度をグラデーション161bの開閉動作速度より速くしている。
【0085】
従って、NDフィルタ161の透明部161aにより濃度段差を抑制することができ、グラデーション部161bにより厚み段差および濃度段差を抑制することができる。また、NDフィルタ161の透明部161aを高速で開閉動作させているので、透明部161aでの厚み段差を抑制することができる。
【0086】
これにより、NDフィルタ161の濃度段差や厚み段差による光回折を防止することができ、静止画撮影時の解像度の劣化を防ぐことができるとともに、静止画撮影および動画撮影共にフィルタを使用して露出制御のダイナミックレンジを確保することができる。
【0087】
また、NDフィルタ161の透明部161aの高速での開閉動作により輝度ショックを効果的に抑制することができるので、静止画のみならず、動画においても輝度の連続性を確保することができる。
【0088】
なお、本実施形態において、透明部161aの透過率を97%とし、露出制御に3%の輝度変化値Y1のヒステリシスを設けているが、透過率は、90%〜100%の間であれば問題はない。また、透過率にあわせて露出制御を行う際の輝度変化値Y1のヒステリシスも1〜10%の間で設けることで、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明の実施の形態の一例である撮像装置を説明するためのブロック図である。
【図2】NDフィルタの制御方法の一例を説明するための説明図である。
【図3】NDフィルタの透明部と絞り機構の開口との大きさの関係を説明するための図である。
【図4】NDフィルタ制御値とNDフィルタ制御位置との関係を示すグラフ図である。
【図5】NDフィルタの構造を模式的に示す断面図である。
【図6】本発明の実施の形態の一例である撮像装置の動作例を説明するためのフローチャート図である。
【図7】従来の撮像装置の一例を説明するためのブロック図である。
【図8】従来のNDフィルタの制御方法を説明するための説明図である。
【図9】従来の他のNDフィルタの制御方法を説明するための説明図である。
【図10】従来のNDフィルタの構造を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0090】
110 被写体結像用レンズ
120 絞り機構
120a 開口
130 絞り機構駆動モータ
140 絞り機構駆動装置
150 絞り機構検出装置
161 NDフィルタ
161a 透明部
161b グラデーション部
170 NDフィルタ駆動モータ
180 NDフィルタ駆動装置
190 NDフィルタ検出装置
200 CCDセンサ(撮像素子)
210 撮像素子駆動装置
220 CDS/AGC
230 A/D変換器
240 DSP
250 メモリ
260 記録媒体
270 マイクロコンピュータ
280 液晶パネル
290 動画・静止画切替スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズから入射した光を電気信号に変換する撮像素子と、該撮像素子に入射する光の量を変化させる絞り機構と、該絞り機構の開口を開閉自在に覆うことにより、該開口を通過して前記撮像素子に入射する光の量を調整するフィルタと、を備えた撮像装置であって、 前記フィルタが、前記絞り機構の開口を選択的に開閉する透明部、および濃度のグラデーション部を有し、前記フィルタの前記グラデーション部が前記絞り機構の開口を覆うときと、該フィルタの前記透明部が前記絞り機構の開口を覆うときとで、該開口に対する前記フィルタの閉動作速度を異ならせる、
ことを特徴とする撮像装置。
【請求項2】
前記透明部が前記絞り機構の開口を覆うときの該開口に対する前記フィルタの閉動作速度を、前記グラデーション部が前記絞り機構の開口を覆うときの該開口に対する前記フィルタの閉動作速度より速くした、
ことを特徴とする請求項1に記載の撮像装置。
【請求項3】
前記透明部が前記絞り機構の開口から退避するときの該開口に対する前記フィルタの開動作速度を、前記グラデーション部が前記絞り機構の開口から退避するときの該開口に対する前記フィルタの開動作速度より速くした、
ことを特徴とする請求項1〜2のいずれか一項に記載の撮像装置。
【請求項4】
前記グラデーション部が前記絞り機構の開口を覆うときの該開口に対する前記フィルタの閉動作速度が、該絞り機構による光量変化の速度と等価である、
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の撮像装置。
【請求項5】
前記フィルタが前記絞り機構の開口に対して退避している状態から該開口を覆う状態に移行するとき、前記透明部が前記絞り機構の開口の全域を覆うように前記フィルタを閉動作させる、
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の撮像装置。
【請求項6】
前記フィルタの前記透明部が前記絞り機構の開口の全域を覆った状態から該フィルタを前記絞り機構の開口に対して退避させるように開動作させる、
ことを特徴とする請求項5に記載の撮像装置。
【請求項7】
前記フィルタが前記絞り機構の開口に対して退避している状態から該開口を覆う状態に移行するとき、前記絞り機構の開口が前記透明部と同等の大きさか、又は該透明部より小さい大きさある、
ことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の撮像装置。
【請求項8】
前記透明部のみが前記絞り機構の開口を覆っている状態から該開口に対して前記フィルタを退避させる状態に移行するとき、前記絞り機構の開口が前記透明部と同等の大きさか、又は該透明部より小さい大きさある、
ことを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の撮像装置。
【請求項9】
前記フィルタが前記絞り機構の開口に対して退避している状態から該開口を覆う状態に移行するとき、垂直ブランキング期間内で前記透明部が前記絞り機構の開口を覆うように前記フィルタを閉動作させる、
ことを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の撮像装置。
【請求項10】
前記透明部のみが前記絞り機構の開口を覆っている状態から該開口に対して前記フィルタを退避させる状態に移行するとき、垂直ブランキング期間内で前記フィルタを前記絞り機構の開口から退避させるように開動作させる、
ことを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の撮像装置。
【請求項11】
前記撮像素子から出力された電気信号を輝度値に変換する輝度値生成手段を備え、
前記フィルタが前記絞り機構の開口に対して退避している状態から該開口を覆う状態に移行する場合に、前記輝度値生成手段により生成された輝度値があらかじめ設定された輝度目標値から一定レベルだけ離れたとき、前記透明部が前記絞り機構の開口を覆うように前記フィルタを閉動作させる、
ことを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載の撮像装置。
【請求項12】
前記透明部のみが前記絞り機構の開口を覆っている状態から該開口に対して前記フィルタを退避させる状態に移行する場合に、前記輝度値生成手段により生成された輝度値があらかじめ設定された輝度目標値から一定レベルだけ離れたとき、前記フィルタを前記絞り機構の開口から退避させるように開動作させる、
ことを特徴とする請求項11に記載の撮像装置。
【請求項13】
前記撮像素子から出力された電気信号を輝度値に変換する輝度値生成手段を備え、
前記透明部のみが前記絞り機構の開口を覆っている状態から該開口に対して前記フィルタを退避させる状態に移行する場合に、前記輝度値生成手段により生成された輝度値があらかじめ設定された輝度目標値から一定レベルだけ離れたとき、前記フィルタを前記絞り機構の開口から退避させるように開動作させる、
ことを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載の撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−35268(P2008−35268A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−207139(P2006−207139)
【出願日】平成18年7月28日(2006.7.28)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】