撮像装置
【課題】 2次元のトールボット・ロー干渉法を用いた撮像装置における照射光度を向上させること。
【解決手段】 被検知物を撮像する撮像装置は、光源部110と、光源部からの光を回折する回折格子210と、前記回折格子を経た光を検出する検出器と、を備える。
光源部110は、回折格子210により回折されることで第1の干渉パターンを形成する光を出射する複数の第1の光出射部と、回折格子により回折されることで第2の干渉パターンを形成する光を出射する複数の第2の光出射部と、を有する。複数の第1の光出射部と複数の第2の光出射部は、第1の干渉パターンと第2の干渉パターンの少なくとも一部が重なり、且つ、第1の干渉パターンの明部と第2の干渉パターンの明部が異なる位置に形成されるように配置されているため、第1の干渉パターンと第2の干渉パターンによって、合成パターンが形成される。
【解決手段】 被検知物を撮像する撮像装置は、光源部110と、光源部からの光を回折する回折格子210と、前記回折格子を経た光を検出する検出器と、を備える。
光源部110は、回折格子210により回折されることで第1の干渉パターンを形成する光を出射する複数の第1の光出射部と、回折格子により回折されることで第2の干渉パターンを形成する光を出射する複数の第2の光出射部と、を有する。複数の第1の光出射部と複数の第2の光出射部は、第1の干渉パターンと第2の干渉パターンの少なくとも一部が重なり、且つ、第1の干渉パターンの明部と第2の干渉パターンの明部が異なる位置に形成されるように配置されているため、第1の干渉パターンと第2の干渉パターンによって、合成パターンが形成される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トールボット干渉法を用いた撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
トールボット干渉法は、X線を含む様々な波長の光の干渉を利用して被検知物の位相像を得る方法である。
【0003】
トールボット干渉法の概要を説明する。まず、光源から発生した光が被検知物を透過し、それに伴って光の位相が変化する。被検知物を透過した光は、回折格子に回折されることによって干渉パターンを形成する。この干渉パターンを検出器で検出し、その検出結果を演算部によって解析すると、被検知物による位相変化の微分位相像を得ることができ、更にその微分位相像を積分すると被検知物による位相像を得ることができる。
【0004】
また、この干渉パターンの周期が非常に小さいと、干渉パターンを直接検出することが難しいことがある。その場合、干渉パターンが形成される位置に干渉パターンとわずかに周期が異なる遮蔽格子を配置し、遮蔽格子によって干渉パターンの一部を遮ることでモアレを形成し、このモアレを検出器で検出する方法を用いることができる。この場合も干渉パターンを直接検出する場合と同様に、被検知物の微分位相像や位相像を得ることができる。
【0005】
トールボット干渉法に用いられる光には高い干渉性が求められる。干渉性を高くするための手法の一つには、光源の大きさを小さくする方法がある。しかし、一般的に光源の大きさを小さくすると、光量が小さくなるため、上記のトールボット干渉計を用いて位相像を得るためには十分な光量が得にくくなる。
【0006】
そこで、トールボット・ロー干渉法という方法が提唱されている。トールボット・ロー干渉法では、干渉性の高い光を出射させる小さな光源を特定の間隔で並べ、各々の光源から発生した光によって形成される干渉パターンの明部同士及び暗部同士を重ね合わせる。これによって、光は高い干渉性を保ちつつ、検出器の1画素に入射する単位時間当たりの光量を増大させることができる。
【0007】
特許文献1にはX線を用いてトールボット・ロー干渉法(以下X線トールボット・ロー干渉法と呼ぶ)を利用した撮像装置について記載されている。
【0008】
特許文献1に記載されている撮像装置では、線源格子と呼ばれる特定の間隔に開口を配した格子を、X線源の直後に配置する。それにより、小さいX線源を特定の間隔で並べた状態を擬似的につくり、トールボット・ロー干渉法を行っている。
【0009】
トールボット・ロー干渉法における、小さな光源及び線源格子の開口の各々は光が出射する部分なので本明細書中では光出射部と呼ぶ。各々の光出射部から出射した光によって形成される干渉パターンの明部同士及び暗部同士を重ね合わせるために、光出射部の間隔P0は下記式を満たす。
P0=(R1/R2)×P2・・・式1
但し、R1はX線源から回折格子までの距離、R2は回折格子から干渉パターンまでの距離、P2は干渉パターンのピッチとする。尚、遮蔽格子を用いる場合は干渉パターンは遮蔽格子上に形成され、遮蔽格子を用いずに干渉パターンを直接検出器で検出する場合は干渉パターンは検出器上に形成されるものとする。つまり、遮蔽格子を用いる場合、R2は回折格子から遮蔽格子までの距離であり、P2は遮蔽格子上の干渉パターンのピッチである。一方、遮蔽格子を用いない場合は、R2は回折格子から検出器までの距離であり、P2は検出器上の干渉パターンのピッチである。
【0010】
2次元方向に周期をもつ干渉パターンまたは2次元のモアレを検出するトールボット・ロー干渉法(以下2次元トールボット・ロー干渉法と呼ぶ)を行う場合は、光出射部を上記式のP0で表される間隔で2次元に配置する。そのように配置することで、各々の光出射部から出射される光によって形成される干渉パターンの明部同士及び暗部同士が重なり合う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2009−240378号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述したように、トールボット・ロー干渉法に用いられる光には高い干渉性が求められるため、光出射部が小さい必要があり、光出射部の配置間隔は式1を満たす必要がある。
つまり、光出射部の大きさと間隔がある程度制限される。
【0013】
このことは特に2次元トールボット・ロー干渉法で大きな問題となる。1次元トールボット・ロー干渉法では、1方向でのみ光の干渉性が高ければ良いため、光出射部の大きさと間隔は1方向でのみ制限される。しかし、2次元トールボット・ロー干渉法の場合、光の干渉性は直交する2方向で高いことが求められるため、光出射部の大きさと間隔は2方向で制限される。その結果、1次元のトールボット・ロー干渉法と比較して単位時間当たりに検出器の1画素に入射する光量が低下し、露光時間が長引くという問題があった。
【0014】
そこで本発明は、2次元のトールボット・ロー干渉法を用いた撮像装置において単位時間当たりに検出器の1画素に入射する光量を向上させることで、露光時間の短縮を可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の目的を達成するために、本発明の一側面としての撮像装置は、光源部と、前記光源部からの光を回折する回折格子と、前記回折格子を経た光を検出する検出器と、を備えた被検知物を撮像する撮像装置であって、前記光源部は、
前記回折格子により回折されることで第1の干渉パターンを形成する光を出射する複数の第1の光出射部と、前記回折格子により回折されることで第2の干渉パターンを形成する光を出射する複数の第2の光出射部と、を有し、前記複数の第1の光出射部と前記複数の第2の光出射部は、前記第1の干渉パターンと前記第2の干渉パターンの少なくとも一部が重なり、且つ、前記第1の干渉パターンの明部と前記第2の干渉パターンの明部が異なる位置に形成されるように配置されており、前記第1の干渉パターンと前記第2の干渉パターンによって、合成パターンが形成されることを特徴とする。
【0016】
本発明のその他の側面については、以下で説明する実施の形態で明らかにする。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、2次元のトールボット・ロー干渉法を用いた撮像装置において、単位時間当たりに検出器の1画素に入射する光量を向上させることで、露光時間の短縮を可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係るX線撮像装置の模式図
【図2】本発明の実施形態に係る線源格子の模式図
【図3】本発明の実施形態に係る干渉パターンと合成パターンの模式図
【図4】本発明の実施形態に係る回折格子の模式図
【図5】本発明の実施形態に係る遮蔽格子の模式図
【図6】本発明の実施例1に係るX線撮像装置の模式図
【図7】本明細書の比較例1に係るX線撮像装置の模式図
【図8】本明細書の比較例2に係るX線撮像装置の模式図
【図9】本発明の実施例1と従来技術の比較例1と比較例2による撮像により得られる被検知物の位相像のシミュレーション結果
【図10】本明細書の比較例1に係る線源格子の模式図
【図11】従来技術に係る干渉パターンの原理図
【図12】本明細書の比較例2に係る回折格子の模式図
【図13】本明細書の比較例2に係る干渉パターンの模式図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の好ましい実施形態を添付の図面に基づいて説明する。なお、各図に置いて、同一の部材については同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【0020】
本実施形態の撮像装置は2次元のX線トールボット・ロー干渉法を用いる。但し、本明細書においてX線とはエネルギーが2以上100keV以下の光を指す。図1は本実施形態における撮像装置の構成例を示した模式図である。図1に示した撮像装置1は、光源部としてX線を発生させるX線源部110と、X線を回折する回折格子210、X線の一部を遮光する遮蔽格子410、X線を検出する検出器510、検出器の検出結果に基づいて演算を行う演算部610を備えている。
【0021】
図1に示した本実施形態の構成例においては、光源部110はX線源111と線源格子112で構成されているが、小さいX線源(マイクロフォーカスX線源)を複数配置して光源部を構成しても良い。その場合、各X線源を光出射部とみなす。図2に示したように、線源格子112は光出射部113(113a、113b)と光遮蔽部114を有している。光出射部113はX方向及びY方向から45度傾いて配列しており、配置間隔P0aは下記式を満たす。
P0a=(R1/R2)×(P2/√2)…式2
尚、本実施形態は遮蔽格子を用いてモアレを形成するので、上述の通り、R2は回折格子と遮蔽格子の距離、P2は遮蔽格子上の干渉パターンのピッチである。
【0022】
線源格子112は第1の光出射部113aと第2の光出射部113bを有しており、第1の光出射部同士及び第2の光出射部同士の配置間隔P0bは式1を満たす。第1の光出射部113aから出射されるX線は回折格子に回折されることにより、図3(a)に示した第1の干渉パターン310を形成する。第2の光出射部113bから出射されるX線も同様に回折格子に回折されることにより、第2の干渉パターンを形成する。図2に記載の線源格子を用いた場合、遮蔽格子上で第1の干渉パターンと第2の干渉パターンが重なり合い、且つ第1の干渉パターンの明部と第2の干渉パターンの明部が異なる位置に形成されるため、図3(b)に示したパターン330が合成される。図3(b)に示したように、第1の干渉パターン310と第2の干渉パターン320の少なくとも一部が重なり、且つ第1の干渉パターンの明部と第2の干渉パターンの明部が異なる位置に形成されると、新たなパターン330が合成される。このパターンのことを本明細書では合成パターンと呼ぶ。図3(c)は上記のことを説明するために、本実施形態の原理を示した図である。実際には第1の干渉パターン310と第2の干渉パターン320が同じ位置に形成されることによって合成パターン330が形成されるが、ここでは説明のためにそれぞれのパターンを分離して示している。図3(c)に示したように、第1の干渉パターンの明部と第2の干渉パターンの明部が異なる位置に形成されることによって新たなパターンである合成パターン330が形成される。
【0023】
合成パターンは2次元方向(X方向とY方向の両方向)に周期性を持つため、この合成パターンと2次元方向に周期性を持つ遮蔽格子を用いると2次元のモアレを発生する。この2次元のモアレを検出し、解析を行うと、被検知物の2次元微分位相像を得ることが可能である。また、光出射部の配置間隔P0aは上記式2を厳密に満たしていなくても、形成される合成パターンが2次元方向に周期性を持つ範囲のずれであれば誤差範囲とみなす。但し、ずれは小さい方が好ましい。
尚、本実施形態では遮蔽格子を用いてモアレを発生させているが、合成パターンを直接検出して2次元のトールボット干渉法を行っても良い。
【0024】
本実施形態に用いられる回折格子は、1つの光出射部から出射されるX線が、被検知物を経ずに入射したときに井桁状の干渉パターンを形成する回折格子である。但し、本実施形態において井桁状の干渉パターンとは、図3(a)に示した干渉パターン310のように、明部301が暗部302に囲まれており、明部同士が接していない干渉パターンである。本実施形態に用いられる回折格子、つまり図3(a)に示した干渉パターンを形成する回折格子の一例を図4(a)および(b)に示す。図4(a)に記載の回折格子は位相格子であり、位相基準部211と、第1の位相シフト部212が市松格子状に配列している。第1の位相シフト部212を透過したX線の位相は、位相基準部211を透過したX線の位相を基準としたとき、πラジアンシフトしている。また図4(b)に記載の回折格子も位相格子であり、位相基準部213と第2の位相シフト部214が井桁状に配列している。第2の位相シフト部214を透過したX線の位相は位相基準部213を透過したX線の位相と比較してπ/2ラジアンシフトしている。
【0025】
本実施形態では井桁状の干渉パターンを形成する回折格子を用いたが、1つの光出射部から出射される光を、被検知物を経ずに回折した場合、明部が孤立している干渉パターンを形成する回折格子であれば本発明に用いることができる。また、合成パターンも第1の干渉パターンの明部と第2の干渉パターンの明部が遮蔽格子上の異なる位置に形成されており、X方向とY方向の直交する2方向に周期性を持っていれば良く、市松格子状のパターンに限定されない。
【0026】
本実施形態において、遮蔽格子410は図5(a)に示したような、X線透過部411とX線遮蔽部412が合成パターン同様に市松格子状に配列された遮蔽格子を用いることが好ましい。但し、図5(b)のようにX線透過部413とX線遮蔽部414が第1または第2の干渉パターン同様に井桁状に配列された遮蔽格子を用いることもできる。
【0027】
本実施形態において検出器510は、X線によるモアレの強度情報を検出することのできる素子(例えばCCD)を備えており、モアレの強度情報を検出する。
【0028】
検出器510による検出結果は演算部610に送られて演算が行われ、被検知物の位相像の情報が得られる。本実施形態の撮像装置は演算部610を備えているが、撮像装置は演算部を備えていなくても良い。その場合、演算部は撮像装置と別個に備えられ、検出器と接続される。
【0029】
本実施形態において、演算部610により得られた位相像の情報は不図示の画像表示装置に送られ、位相像が表示される。本実施形態においては、画像表示装置は撮像装置と別個に備えられているが、撮像装置と一体化されていても良い。また、画像表示装置は位相像を表示せず、位相像以外の演算部による演算結果を表示しても良い。本明細書では画像表示装置と撮像装置が一体化されているものを特に撮像システムと呼ぶ。
【0030】
本実施形態において、被検知物120は光源部と回折格子の間にあるが、回折格子と遮蔽格子の間にあっても良い。
【0031】
従来、1次元及び2次元トールボット・ロー干渉法において、1つ1つの光出射部からの光によって形成される干渉パターンの明部同士及び暗部同士は重なり合っていた。そのために2次元トールボット・ロー干渉法において、光出射部は直交する2方向で式1を満たすように配列されていた。つまり、線源格子のパターンは、1つの光出射部から出射した光が回折格子によって回折されることで形成される干渉パターンと同様であった。例えば、本実施例同様に図3(a)に示した井桁状の干渉パターンを形成する回折格子を用いる場合は、図10に示した線源格子を用いていた。光出射部115(115a、115b…)の配置間隔P0cは式1を満たしている。本実施例に用いられる線源格子と比較すると、図10に示した線源格子は第1の光出射部のみを有していて、第2の光出射部は有しておらず、1つ1つの光出射部からの光によって形成される干渉パターンの明部同士及び暗部同士が重なり合う。このことを図11を用いて説明する。図11の干渉パターン1310は光出射部115aから出射した光によって形成される干渉パターンであり、干渉パターン1320は光出射部115bから出射した光によって形成される干渉パターンである。この2つの干渉パターンは両方とも遮蔽格子上に形成され、それぞれの干渉パターンの明部が同じ位置に形成されるため、遮蔽格子上にはそれぞれの干渉パターンと同じ形状である、パターン1330が形成される。このようにして、図10に示した線源格子が有する全ての光出射部から出射される光によって形成される干渉パターンの明部同士を重ね合わせてトールボット・ロー干渉法を行っていた。
【0032】
従来の線源格子の光出射部の間隔P0cはP0c=(R1/R2)×P2であり、本実施形態における線源格子の光出射部の間隔P0aはP0a=(R1/R2)×(P2/√2)である。そのため、従来のトールボット・ロー干渉法と比較して本実施形態のトールボット・ロー干渉法は単位面積当たりの光出射部の数が2倍になり、他の条件が等しければ単位時間当たりに検出器の1画素に入射する光量も2倍になる。
【実施例】
【0033】
実施形態のより具体的な実施例について図6を用いて説明をする。図6に示したように、撮像装置は図1に示した構成のものを使用し、線源格子は図2に示した形状のものを用い、回折格子は図4(a)に示したものを用いた。回折格子のピッチP1aは8.0μmである。X線源は17.5keVの発散X線を出射するものを用いた。光源から回折格子までの距離R1aを1.0m、回折格子から遮蔽格子までの距離R2aは12.73cmとしたため、球面波の効果による干渉パターンの拡大率は1.12倍である。よって、干渉パターンのピッチP2aは4.5μメートルとなる。
線源格子の光出射部の間隔P0a1は、1/0.1273×4.5/√2≒25.00(μm)
になった。光出射部の大きさを直径10μとしてこの線源格子の開口率を計算すると
(10/2)2×3.14/25.002×100≒13%
となる。
【0034】
更に、図5(a)に示した遮蔽格子を用いてモアレを形成して検出、解析を行い、微分位相像を得るまでをシミュレーションによって検討した。
【0035】
[比較例1]
比較例1として実施例と同じ回折格子を用いた従来の撮像装置の開口率を計算する。図7に示したように、線源格子と遮蔽格子以外の構成は実施例と同じである。線源格子は図10に示したもの、回折格子は図4(a)に示したものを用いた。実施例と同様に、回折格子のピッチP1aを8.0μm、R1bを1.0m、R2bを12.73cmとしたため、干渉パターンのピッチP2bは4.5μメートルである。
【0036】
線源格子の光出射部の間隔P0c1を計算すると
1/0.1273×4.5≒34.35(μm)
になった。実施例同様光出射部の大きさを直径10μmとしたため、開口率は
(10/2)2×3.14/34.352×100≒6.7%
となる。
【0037】
更に、図5(b)に示した遮蔽格子を用いてモアレを形成して検出、解析を行い、微分位相像を得るまでをシミュレーションによって検討した。
【0038】
[比較例2]
次に比較例2として、実施例と同じ線源格子を用いた従来の撮像装置の開口率を計算する。図8に示したように、回折格子と、回折格子から遮蔽格子までの距離以外は実施例と同じ構成である。
【0039】
実施例と同じ線源格子を用いる場合、従来用いられる回折格子は図13に示したものである。この回折格子は位相基準部と第2の位相シフト部が実施例と同様に市松格子状に配置されている。但し、第2の位相シフト部を透過したX線の位相は位相基準部を透過したX線の位相と比較してπ/2ラジアンシフトしており、格子のピッチP1bは4.0μmである。この回折格子を用いた場合、干渉パターンは図12に示したような、干渉パターンの明部303と暗部304が市松格子状に配置された形状になる。
R1cを1.0m、R2cは29.16cmとしたため、干渉パターンの拡大率は1.29倍、干渉パターンのピッチP2cは7.31μmとなる。
【0040】
線源格子の開口部の間隔P0a2を計算すると
1/0.29×7.31≒25.0(μm)
となった。実施例同様開口部の大きさを直径10μmとしたため、開口率は、
(10/2)2×3.14/25.02×100≒13%
となる。
【0041】
本比較例で形成される干渉パターンは実施例1の合成パターンと同じであるため、実施例1と同じ図5(a)に示した遮蔽格子を用いてモアレを形成して検出、解析を行い、微分位相像を得るまでをシミュレーションによって検討した。
【0042】
実施例と比較例1を比較すると、実施例の開口率が比較例1の開口率の約2倍になっている。また、線源格子以外の構成は同じであるため、単位時間当たりに検出器の1画素に入射する光量も実施例1は比較例1の2倍である。
【0043】
実施例と比較例2を比較すると、開口率は等しい。しかし、実施例よりも比較例2の方がR2の長さが長くなる。その結果、比較例2の構成をとる撮像装置の方が大型になってしまうばかりでなく、干渉パターンの拡大率(P2/P1)が大きくなり、単位時間当たりに検出器の1画素に入射する光量も実施例と比べると低くなる。
【0044】
比較例1の単位時間当たりに検出器の1画素に入射する光量と装置長を1として以上のことをまとめると以下の表のようになる。
【0045】
【表1】
【0046】
以上により実施例1の方が比較例1と2よりも単位時間当たりに検出器の1画素に入射する光量が大きいことが分かった。
【0047】
シミュレーションは露光時間を考慮せずに行ったため、このシミュレーション結果はそれぞれの条件に対して光量が充分であった場合の微分位相像であり、単位時間当たりに検出器の1画素に入射する光量の大きさは反映されない。図9(a)は図1における被検知物120を光源部側からから見た図であり、4つの球51が重なったような形状をしている。図9(b)は実施例の構成でシミュレーションを行って得られた微分位相像である。図9(c)は比較例1の構成でシミュレーションを行って得られた微分位相像である。図9(d)は比較例2の構成に微分位相像である。図9より実施例においても従来と同等以上の位相微分像が取得できることが分かった。
【0048】
また、表1より実施例1は比較例1、2よりも単位時間当たりに検出器の1画素に入射する光量が大きいため、比較例1、2よりも短い露光時間で撮像を行う事ができる。また、同じ露光時間で撮像を行った場合、実施例1が比較例1、2よりもノイズが少ない微分位相像を得ることができる。
【0049】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0050】
1 撮像装置
110 X線源部
120 被検知物
210 回折格子
410 遮蔽格子
510 検出器
113a 第1の光出射部
113b 第2の光出射部
310 第1の干渉パターン
320 第2の干渉パターン
301 干渉パターンの明部
【技術分野】
【0001】
本発明は、トールボット干渉法を用いた撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
トールボット干渉法は、X線を含む様々な波長の光の干渉を利用して被検知物の位相像を得る方法である。
【0003】
トールボット干渉法の概要を説明する。まず、光源から発生した光が被検知物を透過し、それに伴って光の位相が変化する。被検知物を透過した光は、回折格子に回折されることによって干渉パターンを形成する。この干渉パターンを検出器で検出し、その検出結果を演算部によって解析すると、被検知物による位相変化の微分位相像を得ることができ、更にその微分位相像を積分すると被検知物による位相像を得ることができる。
【0004】
また、この干渉パターンの周期が非常に小さいと、干渉パターンを直接検出することが難しいことがある。その場合、干渉パターンが形成される位置に干渉パターンとわずかに周期が異なる遮蔽格子を配置し、遮蔽格子によって干渉パターンの一部を遮ることでモアレを形成し、このモアレを検出器で検出する方法を用いることができる。この場合も干渉パターンを直接検出する場合と同様に、被検知物の微分位相像や位相像を得ることができる。
【0005】
トールボット干渉法に用いられる光には高い干渉性が求められる。干渉性を高くするための手法の一つには、光源の大きさを小さくする方法がある。しかし、一般的に光源の大きさを小さくすると、光量が小さくなるため、上記のトールボット干渉計を用いて位相像を得るためには十分な光量が得にくくなる。
【0006】
そこで、トールボット・ロー干渉法という方法が提唱されている。トールボット・ロー干渉法では、干渉性の高い光を出射させる小さな光源を特定の間隔で並べ、各々の光源から発生した光によって形成される干渉パターンの明部同士及び暗部同士を重ね合わせる。これによって、光は高い干渉性を保ちつつ、検出器の1画素に入射する単位時間当たりの光量を増大させることができる。
【0007】
特許文献1にはX線を用いてトールボット・ロー干渉法(以下X線トールボット・ロー干渉法と呼ぶ)を利用した撮像装置について記載されている。
【0008】
特許文献1に記載されている撮像装置では、線源格子と呼ばれる特定の間隔に開口を配した格子を、X線源の直後に配置する。それにより、小さいX線源を特定の間隔で並べた状態を擬似的につくり、トールボット・ロー干渉法を行っている。
【0009】
トールボット・ロー干渉法における、小さな光源及び線源格子の開口の各々は光が出射する部分なので本明細書中では光出射部と呼ぶ。各々の光出射部から出射した光によって形成される干渉パターンの明部同士及び暗部同士を重ね合わせるために、光出射部の間隔P0は下記式を満たす。
P0=(R1/R2)×P2・・・式1
但し、R1はX線源から回折格子までの距離、R2は回折格子から干渉パターンまでの距離、P2は干渉パターンのピッチとする。尚、遮蔽格子を用いる場合は干渉パターンは遮蔽格子上に形成され、遮蔽格子を用いずに干渉パターンを直接検出器で検出する場合は干渉パターンは検出器上に形成されるものとする。つまり、遮蔽格子を用いる場合、R2は回折格子から遮蔽格子までの距離であり、P2は遮蔽格子上の干渉パターンのピッチである。一方、遮蔽格子を用いない場合は、R2は回折格子から検出器までの距離であり、P2は検出器上の干渉パターンのピッチである。
【0010】
2次元方向に周期をもつ干渉パターンまたは2次元のモアレを検出するトールボット・ロー干渉法(以下2次元トールボット・ロー干渉法と呼ぶ)を行う場合は、光出射部を上記式のP0で表される間隔で2次元に配置する。そのように配置することで、各々の光出射部から出射される光によって形成される干渉パターンの明部同士及び暗部同士が重なり合う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2009−240378号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述したように、トールボット・ロー干渉法に用いられる光には高い干渉性が求められるため、光出射部が小さい必要があり、光出射部の配置間隔は式1を満たす必要がある。
つまり、光出射部の大きさと間隔がある程度制限される。
【0013】
このことは特に2次元トールボット・ロー干渉法で大きな問題となる。1次元トールボット・ロー干渉法では、1方向でのみ光の干渉性が高ければ良いため、光出射部の大きさと間隔は1方向でのみ制限される。しかし、2次元トールボット・ロー干渉法の場合、光の干渉性は直交する2方向で高いことが求められるため、光出射部の大きさと間隔は2方向で制限される。その結果、1次元のトールボット・ロー干渉法と比較して単位時間当たりに検出器の1画素に入射する光量が低下し、露光時間が長引くという問題があった。
【0014】
そこで本発明は、2次元のトールボット・ロー干渉法を用いた撮像装置において単位時間当たりに検出器の1画素に入射する光量を向上させることで、露光時間の短縮を可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の目的を達成するために、本発明の一側面としての撮像装置は、光源部と、前記光源部からの光を回折する回折格子と、前記回折格子を経た光を検出する検出器と、を備えた被検知物を撮像する撮像装置であって、前記光源部は、
前記回折格子により回折されることで第1の干渉パターンを形成する光を出射する複数の第1の光出射部と、前記回折格子により回折されることで第2の干渉パターンを形成する光を出射する複数の第2の光出射部と、を有し、前記複数の第1の光出射部と前記複数の第2の光出射部は、前記第1の干渉パターンと前記第2の干渉パターンの少なくとも一部が重なり、且つ、前記第1の干渉パターンの明部と前記第2の干渉パターンの明部が異なる位置に形成されるように配置されており、前記第1の干渉パターンと前記第2の干渉パターンによって、合成パターンが形成されることを特徴とする。
【0016】
本発明のその他の側面については、以下で説明する実施の形態で明らかにする。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、2次元のトールボット・ロー干渉法を用いた撮像装置において、単位時間当たりに検出器の1画素に入射する光量を向上させることで、露光時間の短縮を可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係るX線撮像装置の模式図
【図2】本発明の実施形態に係る線源格子の模式図
【図3】本発明の実施形態に係る干渉パターンと合成パターンの模式図
【図4】本発明の実施形態に係る回折格子の模式図
【図5】本発明の実施形態に係る遮蔽格子の模式図
【図6】本発明の実施例1に係るX線撮像装置の模式図
【図7】本明細書の比較例1に係るX線撮像装置の模式図
【図8】本明細書の比較例2に係るX線撮像装置の模式図
【図9】本発明の実施例1と従来技術の比較例1と比較例2による撮像により得られる被検知物の位相像のシミュレーション結果
【図10】本明細書の比較例1に係る線源格子の模式図
【図11】従来技術に係る干渉パターンの原理図
【図12】本明細書の比較例2に係る回折格子の模式図
【図13】本明細書の比較例2に係る干渉パターンの模式図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の好ましい実施形態を添付の図面に基づいて説明する。なお、各図に置いて、同一の部材については同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【0020】
本実施形態の撮像装置は2次元のX線トールボット・ロー干渉法を用いる。但し、本明細書においてX線とはエネルギーが2以上100keV以下の光を指す。図1は本実施形態における撮像装置の構成例を示した模式図である。図1に示した撮像装置1は、光源部としてX線を発生させるX線源部110と、X線を回折する回折格子210、X線の一部を遮光する遮蔽格子410、X線を検出する検出器510、検出器の検出結果に基づいて演算を行う演算部610を備えている。
【0021】
図1に示した本実施形態の構成例においては、光源部110はX線源111と線源格子112で構成されているが、小さいX線源(マイクロフォーカスX線源)を複数配置して光源部を構成しても良い。その場合、各X線源を光出射部とみなす。図2に示したように、線源格子112は光出射部113(113a、113b)と光遮蔽部114を有している。光出射部113はX方向及びY方向から45度傾いて配列しており、配置間隔P0aは下記式を満たす。
P0a=(R1/R2)×(P2/√2)…式2
尚、本実施形態は遮蔽格子を用いてモアレを形成するので、上述の通り、R2は回折格子と遮蔽格子の距離、P2は遮蔽格子上の干渉パターンのピッチである。
【0022】
線源格子112は第1の光出射部113aと第2の光出射部113bを有しており、第1の光出射部同士及び第2の光出射部同士の配置間隔P0bは式1を満たす。第1の光出射部113aから出射されるX線は回折格子に回折されることにより、図3(a)に示した第1の干渉パターン310を形成する。第2の光出射部113bから出射されるX線も同様に回折格子に回折されることにより、第2の干渉パターンを形成する。図2に記載の線源格子を用いた場合、遮蔽格子上で第1の干渉パターンと第2の干渉パターンが重なり合い、且つ第1の干渉パターンの明部と第2の干渉パターンの明部が異なる位置に形成されるため、図3(b)に示したパターン330が合成される。図3(b)に示したように、第1の干渉パターン310と第2の干渉パターン320の少なくとも一部が重なり、且つ第1の干渉パターンの明部と第2の干渉パターンの明部が異なる位置に形成されると、新たなパターン330が合成される。このパターンのことを本明細書では合成パターンと呼ぶ。図3(c)は上記のことを説明するために、本実施形態の原理を示した図である。実際には第1の干渉パターン310と第2の干渉パターン320が同じ位置に形成されることによって合成パターン330が形成されるが、ここでは説明のためにそれぞれのパターンを分離して示している。図3(c)に示したように、第1の干渉パターンの明部と第2の干渉パターンの明部が異なる位置に形成されることによって新たなパターンである合成パターン330が形成される。
【0023】
合成パターンは2次元方向(X方向とY方向の両方向)に周期性を持つため、この合成パターンと2次元方向に周期性を持つ遮蔽格子を用いると2次元のモアレを発生する。この2次元のモアレを検出し、解析を行うと、被検知物の2次元微分位相像を得ることが可能である。また、光出射部の配置間隔P0aは上記式2を厳密に満たしていなくても、形成される合成パターンが2次元方向に周期性を持つ範囲のずれであれば誤差範囲とみなす。但し、ずれは小さい方が好ましい。
尚、本実施形態では遮蔽格子を用いてモアレを発生させているが、合成パターンを直接検出して2次元のトールボット干渉法を行っても良い。
【0024】
本実施形態に用いられる回折格子は、1つの光出射部から出射されるX線が、被検知物を経ずに入射したときに井桁状の干渉パターンを形成する回折格子である。但し、本実施形態において井桁状の干渉パターンとは、図3(a)に示した干渉パターン310のように、明部301が暗部302に囲まれており、明部同士が接していない干渉パターンである。本実施形態に用いられる回折格子、つまり図3(a)に示した干渉パターンを形成する回折格子の一例を図4(a)および(b)に示す。図4(a)に記載の回折格子は位相格子であり、位相基準部211と、第1の位相シフト部212が市松格子状に配列している。第1の位相シフト部212を透過したX線の位相は、位相基準部211を透過したX線の位相を基準としたとき、πラジアンシフトしている。また図4(b)に記載の回折格子も位相格子であり、位相基準部213と第2の位相シフト部214が井桁状に配列している。第2の位相シフト部214を透過したX線の位相は位相基準部213を透過したX線の位相と比較してπ/2ラジアンシフトしている。
【0025】
本実施形態では井桁状の干渉パターンを形成する回折格子を用いたが、1つの光出射部から出射される光を、被検知物を経ずに回折した場合、明部が孤立している干渉パターンを形成する回折格子であれば本発明に用いることができる。また、合成パターンも第1の干渉パターンの明部と第2の干渉パターンの明部が遮蔽格子上の異なる位置に形成されており、X方向とY方向の直交する2方向に周期性を持っていれば良く、市松格子状のパターンに限定されない。
【0026】
本実施形態において、遮蔽格子410は図5(a)に示したような、X線透過部411とX線遮蔽部412が合成パターン同様に市松格子状に配列された遮蔽格子を用いることが好ましい。但し、図5(b)のようにX線透過部413とX線遮蔽部414が第1または第2の干渉パターン同様に井桁状に配列された遮蔽格子を用いることもできる。
【0027】
本実施形態において検出器510は、X線によるモアレの強度情報を検出することのできる素子(例えばCCD)を備えており、モアレの強度情報を検出する。
【0028】
検出器510による検出結果は演算部610に送られて演算が行われ、被検知物の位相像の情報が得られる。本実施形態の撮像装置は演算部610を備えているが、撮像装置は演算部を備えていなくても良い。その場合、演算部は撮像装置と別個に備えられ、検出器と接続される。
【0029】
本実施形態において、演算部610により得られた位相像の情報は不図示の画像表示装置に送られ、位相像が表示される。本実施形態においては、画像表示装置は撮像装置と別個に備えられているが、撮像装置と一体化されていても良い。また、画像表示装置は位相像を表示せず、位相像以外の演算部による演算結果を表示しても良い。本明細書では画像表示装置と撮像装置が一体化されているものを特に撮像システムと呼ぶ。
【0030】
本実施形態において、被検知物120は光源部と回折格子の間にあるが、回折格子と遮蔽格子の間にあっても良い。
【0031】
従来、1次元及び2次元トールボット・ロー干渉法において、1つ1つの光出射部からの光によって形成される干渉パターンの明部同士及び暗部同士は重なり合っていた。そのために2次元トールボット・ロー干渉法において、光出射部は直交する2方向で式1を満たすように配列されていた。つまり、線源格子のパターンは、1つの光出射部から出射した光が回折格子によって回折されることで形成される干渉パターンと同様であった。例えば、本実施例同様に図3(a)に示した井桁状の干渉パターンを形成する回折格子を用いる場合は、図10に示した線源格子を用いていた。光出射部115(115a、115b…)の配置間隔P0cは式1を満たしている。本実施例に用いられる線源格子と比較すると、図10に示した線源格子は第1の光出射部のみを有していて、第2の光出射部は有しておらず、1つ1つの光出射部からの光によって形成される干渉パターンの明部同士及び暗部同士が重なり合う。このことを図11を用いて説明する。図11の干渉パターン1310は光出射部115aから出射した光によって形成される干渉パターンであり、干渉パターン1320は光出射部115bから出射した光によって形成される干渉パターンである。この2つの干渉パターンは両方とも遮蔽格子上に形成され、それぞれの干渉パターンの明部が同じ位置に形成されるため、遮蔽格子上にはそれぞれの干渉パターンと同じ形状である、パターン1330が形成される。このようにして、図10に示した線源格子が有する全ての光出射部から出射される光によって形成される干渉パターンの明部同士を重ね合わせてトールボット・ロー干渉法を行っていた。
【0032】
従来の線源格子の光出射部の間隔P0cはP0c=(R1/R2)×P2であり、本実施形態における線源格子の光出射部の間隔P0aはP0a=(R1/R2)×(P2/√2)である。そのため、従来のトールボット・ロー干渉法と比較して本実施形態のトールボット・ロー干渉法は単位面積当たりの光出射部の数が2倍になり、他の条件が等しければ単位時間当たりに検出器の1画素に入射する光量も2倍になる。
【実施例】
【0033】
実施形態のより具体的な実施例について図6を用いて説明をする。図6に示したように、撮像装置は図1に示した構成のものを使用し、線源格子は図2に示した形状のものを用い、回折格子は図4(a)に示したものを用いた。回折格子のピッチP1aは8.0μmである。X線源は17.5keVの発散X線を出射するものを用いた。光源から回折格子までの距離R1aを1.0m、回折格子から遮蔽格子までの距離R2aは12.73cmとしたため、球面波の効果による干渉パターンの拡大率は1.12倍である。よって、干渉パターンのピッチP2aは4.5μメートルとなる。
線源格子の光出射部の間隔P0a1は、1/0.1273×4.5/√2≒25.00(μm)
になった。光出射部の大きさを直径10μとしてこの線源格子の開口率を計算すると
(10/2)2×3.14/25.002×100≒13%
となる。
【0034】
更に、図5(a)に示した遮蔽格子を用いてモアレを形成して検出、解析を行い、微分位相像を得るまでをシミュレーションによって検討した。
【0035】
[比較例1]
比較例1として実施例と同じ回折格子を用いた従来の撮像装置の開口率を計算する。図7に示したように、線源格子と遮蔽格子以外の構成は実施例と同じである。線源格子は図10に示したもの、回折格子は図4(a)に示したものを用いた。実施例と同様に、回折格子のピッチP1aを8.0μm、R1bを1.0m、R2bを12.73cmとしたため、干渉パターンのピッチP2bは4.5μメートルである。
【0036】
線源格子の光出射部の間隔P0c1を計算すると
1/0.1273×4.5≒34.35(μm)
になった。実施例同様光出射部の大きさを直径10μmとしたため、開口率は
(10/2)2×3.14/34.352×100≒6.7%
となる。
【0037】
更に、図5(b)に示した遮蔽格子を用いてモアレを形成して検出、解析を行い、微分位相像を得るまでをシミュレーションによって検討した。
【0038】
[比較例2]
次に比較例2として、実施例と同じ線源格子を用いた従来の撮像装置の開口率を計算する。図8に示したように、回折格子と、回折格子から遮蔽格子までの距離以外は実施例と同じ構成である。
【0039】
実施例と同じ線源格子を用いる場合、従来用いられる回折格子は図13に示したものである。この回折格子は位相基準部と第2の位相シフト部が実施例と同様に市松格子状に配置されている。但し、第2の位相シフト部を透過したX線の位相は位相基準部を透過したX線の位相と比較してπ/2ラジアンシフトしており、格子のピッチP1bは4.0μmである。この回折格子を用いた場合、干渉パターンは図12に示したような、干渉パターンの明部303と暗部304が市松格子状に配置された形状になる。
R1cを1.0m、R2cは29.16cmとしたため、干渉パターンの拡大率は1.29倍、干渉パターンのピッチP2cは7.31μmとなる。
【0040】
線源格子の開口部の間隔P0a2を計算すると
1/0.29×7.31≒25.0(μm)
となった。実施例同様開口部の大きさを直径10μmとしたため、開口率は、
(10/2)2×3.14/25.02×100≒13%
となる。
【0041】
本比較例で形成される干渉パターンは実施例1の合成パターンと同じであるため、実施例1と同じ図5(a)に示した遮蔽格子を用いてモアレを形成して検出、解析を行い、微分位相像を得るまでをシミュレーションによって検討した。
【0042】
実施例と比較例1を比較すると、実施例の開口率が比較例1の開口率の約2倍になっている。また、線源格子以外の構成は同じであるため、単位時間当たりに検出器の1画素に入射する光量も実施例1は比較例1の2倍である。
【0043】
実施例と比較例2を比較すると、開口率は等しい。しかし、実施例よりも比較例2の方がR2の長さが長くなる。その結果、比較例2の構成をとる撮像装置の方が大型になってしまうばかりでなく、干渉パターンの拡大率(P2/P1)が大きくなり、単位時間当たりに検出器の1画素に入射する光量も実施例と比べると低くなる。
【0044】
比較例1の単位時間当たりに検出器の1画素に入射する光量と装置長を1として以上のことをまとめると以下の表のようになる。
【0045】
【表1】
【0046】
以上により実施例1の方が比較例1と2よりも単位時間当たりに検出器の1画素に入射する光量が大きいことが分かった。
【0047】
シミュレーションは露光時間を考慮せずに行ったため、このシミュレーション結果はそれぞれの条件に対して光量が充分であった場合の微分位相像であり、単位時間当たりに検出器の1画素に入射する光量の大きさは反映されない。図9(a)は図1における被検知物120を光源部側からから見た図であり、4つの球51が重なったような形状をしている。図9(b)は実施例の構成でシミュレーションを行って得られた微分位相像である。図9(c)は比較例1の構成でシミュレーションを行って得られた微分位相像である。図9(d)は比較例2の構成に微分位相像である。図9より実施例においても従来と同等以上の位相微分像が取得できることが分かった。
【0048】
また、表1より実施例1は比較例1、2よりも単位時間当たりに検出器の1画素に入射する光量が大きいため、比較例1、2よりも短い露光時間で撮像を行う事ができる。また、同じ露光時間で撮像を行った場合、実施例1が比較例1、2よりもノイズが少ない微分位相像を得ることができる。
【0049】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0050】
1 撮像装置
110 X線源部
120 被検知物
210 回折格子
410 遮蔽格子
510 検出器
113a 第1の光出射部
113b 第2の光出射部
310 第1の干渉パターン
320 第2の干渉パターン
301 干渉パターンの明部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源部と、前記光源部からの光を回折する回折格子と、前記回折格子を経た光を検出する検出器と、を備えた被検知物を撮像する撮像装置であって、
前記光源部は、
前記回折格子により回折されることで第1の干渉パターンを形成する光を出射する複数の第1の光出射部と、
前記回折格子により回折されることで第2の干渉パターンを形成する光を出射する複数の第2の光出射部と、を有し、
前記複数の第1の光出射部と前記複数の第2の光出射部は、
前記第1の干渉パターンと前記第2の干渉パターンの少なくとも一部が重なり、
且つ、前記第1の干渉パターンの明部と前記第2の干渉パターンの明部が異なる位置に形成されるように配置されており、
前記第1の干渉パターンと前記第2の干渉パターンによって、
合成パターンが形成されることを特徴とする撮像装置。
【請求項2】
前記第1の干渉パターンと前記第2の干渉パターンは井桁状であり、
前記合成パターンは市松格子状であることを特徴とする請求項1に記載の撮像装置。
【請求項3】
前記光源部は、
光源と、
複数の開口が設けられた線源格子と、を有し、
前記複数の第1の光出射部と前記複数の第2の光出射部の夫々は前記線源格子の前記複数の開口の夫々であることを特徴とする請求項1又は2に記載の撮像装置。
【請求項4】
前記光源部は、
複数の光源を有し、
前記複数の第1の光出射部と前記複数の第2の光出射部の夫々は前記複数の光源の夫々であることを特徴とする請求項1又は2に記載の撮像装置。
【請求項5】
前記光出射部から前記回折格子までの距離をR1、前記回折格子から前記第1または第2の干渉パターンまでの距離をR2、前記第1または第2の干渉パターンのピッチをP2としたとき、光出射部が配置されている間隔P0は下記式で表されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の撮像装置。
P0=(R1/R2)×(P2/√2)
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の撮像装置は、前記回折格子を経た光の一部を遮光する遮蔽格子を備え、
前記合成パターンは前記遮蔽格子上に形成されることを特徴とする撮像装置。
【請求項7】
前記合成パターンは前記検出器上に形成されることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の撮像装置。
【請求項8】
前記第1の干渉パターンと前記第2の干渉パターンは同じ形状であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の撮像装置。
【請求項9】
前記光源部はX線源部であることを特徴とする請求項1に記載の撮像装置。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか1項に記載の撮像装置は、
演算部を備え、
前記演算部は前記検出器による検出結果に基づいて演算を行うことを特徴とする撮像装置。
【請求項11】
請求項10に記載の撮像装置は画像表示装置が接続されており、
前記画像表示装置は、前記演算部による演算結果に基づいた画像を表示することを特徴とする撮像システム。
【請求項1】
光源部と、前記光源部からの光を回折する回折格子と、前記回折格子を経た光を検出する検出器と、を備えた被検知物を撮像する撮像装置であって、
前記光源部は、
前記回折格子により回折されることで第1の干渉パターンを形成する光を出射する複数の第1の光出射部と、
前記回折格子により回折されることで第2の干渉パターンを形成する光を出射する複数の第2の光出射部と、を有し、
前記複数の第1の光出射部と前記複数の第2の光出射部は、
前記第1の干渉パターンと前記第2の干渉パターンの少なくとも一部が重なり、
且つ、前記第1の干渉パターンの明部と前記第2の干渉パターンの明部が異なる位置に形成されるように配置されており、
前記第1の干渉パターンと前記第2の干渉パターンによって、
合成パターンが形成されることを特徴とする撮像装置。
【請求項2】
前記第1の干渉パターンと前記第2の干渉パターンは井桁状であり、
前記合成パターンは市松格子状であることを特徴とする請求項1に記載の撮像装置。
【請求項3】
前記光源部は、
光源と、
複数の開口が設けられた線源格子と、を有し、
前記複数の第1の光出射部と前記複数の第2の光出射部の夫々は前記線源格子の前記複数の開口の夫々であることを特徴とする請求項1又は2に記載の撮像装置。
【請求項4】
前記光源部は、
複数の光源を有し、
前記複数の第1の光出射部と前記複数の第2の光出射部の夫々は前記複数の光源の夫々であることを特徴とする請求項1又は2に記載の撮像装置。
【請求項5】
前記光出射部から前記回折格子までの距離をR1、前記回折格子から前記第1または第2の干渉パターンまでの距離をR2、前記第1または第2の干渉パターンのピッチをP2としたとき、光出射部が配置されている間隔P0は下記式で表されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の撮像装置。
P0=(R1/R2)×(P2/√2)
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の撮像装置は、前記回折格子を経た光の一部を遮光する遮蔽格子を備え、
前記合成パターンは前記遮蔽格子上に形成されることを特徴とする撮像装置。
【請求項7】
前記合成パターンは前記検出器上に形成されることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の撮像装置。
【請求項8】
前記第1の干渉パターンと前記第2の干渉パターンは同じ形状であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の撮像装置。
【請求項9】
前記光源部はX線源部であることを特徴とする請求項1に記載の撮像装置。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか1項に記載の撮像装置は、
演算部を備え、
前記演算部は前記検出器による検出結果に基づいて演算を行うことを特徴とする撮像装置。
【請求項11】
請求項10に記載の撮像装置は画像表示装置が接続されており、
前記画像表示装置は、前記演算部による演算結果に基づいた画像を表示することを特徴とする撮像システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図9】
【公開番号】特開2012−78350(P2012−78350A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−186204(P2011−186204)
【出願日】平成23年8月29日(2011.8.29)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月29日(2011.8.29)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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