説明

擁壁

【課題】本発明は積ブロックを積み上げて形成した擁壁を利用し、該擁壁にカワセミ、ヤマセミ、ショウドウツバメ等に対し良好な環境の水場機能を付加した擁壁を提供する。殊に上記した既存の擁壁の上段側に積ブロックを急峻な角度で積み上げて道路拡幅擁壁を形成する場合、この拡幅擁壁の急峻な前面がヘビ等の有害な動物の侵入を妨げる効果を享受できることに着目し、この拡幅擁壁に上記水場を形成することにより野鳥のより安全な水場を提供し、環境保全対策に資する。
【解決手段】積ブロック1を積み上げて形成した擁壁11において、該積ブロック1内部に空洞を設け、該空洞を画成する積ブロック1の前壁に空洞内に鳥が出入する小径の鳥出入口4を設けると共に、該空洞を画成する積ブロック1の底壁上に水場6を設けた擁壁。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は積ブロックを積み上げて形成した擁壁に係り、殊に該擁壁にカワセミやヤマセミやショウドウツバメに代表される野鳥の水場を設けた擁壁に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1,2は積ブロック又はパネルを積み上げて形成した護岸擁壁において、該積ブロック又はパネルに前面で開口する横長孔を設け、これを鳥巣として供する環境護岸ブロックを提供している。
【0003】
上記特許文献1は横長孔内に粘土質の土壌を中詰めし、野鳥が自ら掘削し巣穴を形成できるようにしており、又特許文献2は上記横長孔に土を充填せず鳥巣に供するとしている。何れも積ブロックに野鳥の営巣機能を付加したものである。
【0004】
他方特願2003−112583は例えば山間部等における道路を局部的に拡幅し、車がすれ違えるようにした道路拡幅工法として、積ブロックを積み上げて路面に向かい一定の伏角を以って形成されている擁壁の場合に、該擁壁の上段側に新たな積ブロックを該擁壁に対し一定の立ち上げ角、例えば垂直に積み上げ路面を拡幅する工法を提案し、有力な路面拡幅工法として実施に至っている。
【0005】
出願人はこの路面拡幅工法について実施許諾を受け、その実施に参入しているが、この路面拡幅工法の実施を端緒に、この拡幅擁壁における環境保全対策として拡幅用積ブロックの空洞内に野鳥の水場機能、又は野鳥の水場機能と営巣機能を付加すること、又はこれらと共に野鳥を含む小動物が通い孔を通じて擁壁内を往来し、空洞を穴居として使用せしめることを検討し本案を得たものである。
【特許文献1】特開2001−152428号公報
【特許文献2】特開2001−254336号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の通り特許文献1,2は積ブロック又はパネルを利用して野鳥の営巣機能を付加し、自然環境を保全せんとする提案である。
【0007】
これに対し本発明は上記積ブロックを積み上げて形成した擁壁において、この擁壁に野鳥の水場を提供し、自然環境の保全に資することを課題とし創案されたものである。
【0008】
殊に上記一定の伏角を以って設けられた擁壁の上段側に積ブロックを立ち上げて拡幅擁壁を形成し、道路の拡幅を行う場合には、この拡幅擁壁が急峻に立ち上がる前面を有し、野鳥の外敵となるヘビ等の侵入を妨げる効果を有することに着目し、この拡幅擁壁に野鳥の水場機能を付加して環境対策に資せんとしたものである。
【0009】
又水場の提供と共に鳥巣の提供をも可能にしたものである。この水場を設けた擁壁は上記道路拡幅工法に限らず、通常の伏角を以って形成された擁壁にも適用可能である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る擁壁は、積ブロックを積み上げて形成した擁壁を対象とし、該擁壁を形成する積ブロック内部に空洞を設け、該空洞を画成する積ブロックの前壁に空洞内に鳥が出入する小径の鳥出入口を設けると共に、該空洞を画成する積ブロックの底壁上に水場を設け、鳥出入口を画成する縁壁に鳥が止まり、更に空洞内に入って水場の水を飲むことができるようにしたものである。
【0011】
積ブロックには前壁の小径の鳥出入口と共に該鳥出入口より下位の底壁に水溜まり桝を形成して置き、又この水溜まり桝の隣りに野鳥の営巣場又は植物の植生場又は野鳥の休み場を併設して置き、上記積み上げに供する。
【0012】
上記擁壁には水場に補水する水供給手段を設け、水場に常時一定の水が保たれるようにする。例えば該水供給手段として、上記擁壁背後の地山から空洞内に達する水抜きパイプを設け、該水抜きパイプを上記水場上に開口せしめて補水する構成とする。
【0013】
又は路上の雨水を集水してパイプにより水場に導水し補水することが可能である。
【0014】
更に水場の水面を一定に保持する排水手段を設けて、水場の周域又は水場の中に鳥が降りたって適切に水飲みできるようにし、併せて水場又は営巣場の冠水を防止する。
【0015】
本発明は積ブロックの底壁上に上記水場に隣接する営巣場又は植生場を設け、水飲みと営巣又は植生を促す場合を含む。
【発明の効果】
【0016】
本発明は積ブロックを積み上げて形成した擁壁を利用し、該擁壁にカワセミ、ヤマセミ、ショウドウツバメ等に対し良好な環境の水場機能を付与した擁壁を提供することができ、自然環境の保全に有効である。
【0017】
殊に上記した一定の伏角の擁壁の上段側に積ブロックを急峻な角度で積み上げて道路拡幅擁壁を形成する場合、この拡幅擁壁の急峻な前面がヘビ等の有害な動物の侵入を妨げる効果を享受でき、この拡幅擁壁に上記水場を形成することにより野鳥のより安全な水場を提供でき、環境保全対策として有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下本発明を実施するための最良の形態を図1乃至図7に基づいて説明する。
【0019】
以下に述べる説明は積ブロック1aを一定の伏角を以って積み上げて形成した擁壁11に水場6や営巣場9、植生場を設ける場合と、伏角を以って設けられた擁壁11aの中間から急峻な角度を以って拡幅用積ブロック1bを積み上げ拡幅用擁壁11bを立ち上げる場合に共通する説明である。従って以下に説明する積ブロック1は積ブロック1a,1bを含み、擁壁11は擁壁11a,11bを含むものとする。
【0020】
上記拡幅用擁壁11bは伏角を以って積まれた既存の擁壁11aの上段側の積ブロック1aを撤去し、この撤去した部位に拡幅用積ブロック1bを積み上げて構築する。又は積ブロック1a,1bを順次積み上げて擁壁11a,11bを新設する。
【0021】
図1,図2に示すように、本発明に係る擁壁は、積ブロック1を積み上げて形成した擁壁を対象とし、該擁壁を形成する積ブロック1内部に空洞2を設け、該空洞2を画成する積ブロック1の前壁3に空洞2内へ鳥が出入する小径の鳥出入口4を単数又は複数個開設すると共に、該空洞2を画成する積ブロック1の底壁5上に水場6を設け、鳥出入口4を通じ鳥が空洞2内に入って水場6の水を飲むことができるようにしたものである。
【0022】
図3乃至図7に示すように、積ブロック1はコンクリートにて一体成形したものであり、前壁3に鳥出入口4を開設して置き、その底壁5上に鳥出入口4より下位に水溜まり桝7を同コンクリートにて一体成形して置く。
【0023】
基本的には空洞2を画成する積ブロック1の壁の下端部にて上記水溜まり桝7を形成する。又は底壁5上に仕切り壁29をコンクリートにて一体成形し、この仕切り壁29と前壁3と左右側壁12が協働して、又は前壁3と後壁13とが協働して水溜まり桝7を形成し、その上位に前記鳥出入口4を開設する。
【0024】
水溜まり桝7内にはゼオライト、炭、小石等の底込め材30を水面付近まで敷き詰め、水場6内に鳥が降り立って水を飲めるようにする。
【0025】
又底壁5上には上記水溜まり桝7に隣接して土壌8を入れたりすることができる野鳥の営巣場9又は植物の植生場を併設する。
【0026】
即ち積ブロック1の底壁5上に上記水場6に隣接して営巣場9を設けて、営巣、育雛に必要な水場6を提供する。又は水場6に隣接して鳥が休息できる植生場又は休み場を設ける。
【0027】
例えば図5に示すように、上記底壁5上の空洞スペースを鳥出入口4側の前段空洞スペースと地山側の後段空洞スペースに二分し、前段空洞スペースに営巣場9又は植生場又は休み場を設け、後段空洞スペースに水場6を設ける。
【0028】
又は図6に示すように、積ブロック1の空洞2内の底壁5上に水場6を形成し、更に該積ブロック1の側方に隣接する別の積ブロック1の空洞2内の底壁5上に営巣場9又は植生場を併設する。この場合、両空洞2間の隔壁、即ち積ブロック1の側壁には両空洞2間を連通する通い孔20を設けて置き、野鳥が水場6と営巣場9又は植生場とを行き来できるようにする。
【0029】
又この通い孔20は野鳥を含むリス、コウモリ、カエル等の小動物が空洞2内を往来する空洞連通孔として用い、これら小動物が擁壁11内、即ち空洞2内を往来し、空洞2を住み家、休み場として使用せしめる。この場合、空洞2の前壁に設けた鳥出入口4はこれら小動物の出入口を構成し、動物に応じ、口径を設定する。又この小動物出入口は擁壁11、例えば道路拡幅用擁壁11bの最側端の側壁や天壁(コンクリート蓋25)に開設することができる。又この場合、上記した水場6、又は以下に述べる水場6は小動物の水場を構成する。
【0030】
図1,図6に示すように、植生場を併設する空洞2の前壁3には、植物に太陽光が照射でき且つ外方へ繁茂できるように、鳥出入口4より充分に大きな径の窓21を開設して置く。
【0031】
又は図1に示すように、上記水場6を設けた空洞2の下段に隣接する積ブロック1の空洞2内の底壁5上に上記植生場を設け、該植生場を設けた空洞2を画成する前壁3に上記窓21を開設する。この場合、上記上段の水場6の排水を上記下段の植生場に供給することができる。
【0032】
上記水場6にはこれに補水する水供給手段を設け、水場6に常時一定の水が保たれるようにする。例えば該水供給手段として、上記擁壁背後の地山から空洞2内に達する水抜きパイプ10を設け、該水抜きパイプ10を上記水場6上、即ち水溜まり桝7上に開口せしめて補水する構成とする。
【0033】
上記水抜きパイプ10の地山側の導水口には濾水砂又は濾水砂利を含むフィルタ24を設け、水場6に土壌が供給されないようにする。
【0034】
又は路面19の排水溝又は排水桝から上記水溜まり桝7へパイプ10を配管して補水する構成とする。
【0035】
更に上記水場6に水面を一定に保持する排水手段を設けることにより、水場6の周域又は水場6の中に鳥が降りたって適切に水飲みできるようにし、併せて水場6又は営巣場9の冠水を防止する。
【0036】
例えば図7等に示すように、積ブロック1の底壁5から排水パイプ22を垂直に立ち上げ、好ましい例示として、この排水パイプ22を底壁5と一体にコンクリート成形して置き、この排水パイプ22の上端開口から水場6の水を溢出せしめて水面を保つようにする。
【0037】
そしてこの溢出された排水を順次各下段の積ブロック1の空洞2に排水し、従って各下段の積ブロック1の底壁5上には排水孔23を設け、最下段の積ブロック1の前壁3に設けた排水孔23から外方へ放流する等の構成を採る。
【0038】
上記擁壁11内の空洞2に地山排水、雨水等を貯める構成により、雨水、地下水が一気に流れ出すのを防ぎ、擁壁が所謂ミニダムの役目を果たし、併せて擁壁崩落を防止する。
【0039】
前記のように、山間部等における道路を局部的に拡幅し、車がすれ違えるようにする道路拡幅工法として、積ブロック1aを積み上げて路面19に向かい一定の伏角α1を以って形成されている既設の擁壁11aが存在する場合に、該擁壁11aの上段側に、例えば擁壁11aの中段から上方に新たな拡幅用積ブロック1bを該擁壁11aに対し急峻な立ち上げ角α2、例えば垂直に積み上げて拡幅用擁壁11bを形成する工法が有力な路面拡幅工法として実施に至っている。
【0040】
好ましい実施例として、以上説明した水場6は上記拡幅用擁壁11bに形成することができる。即ち拡幅用積ブロック1bの内部に空洞2を設け、該空洞2を画成する積ブロック1bの前壁3に空洞2内に鳥が出入する小径の鳥出入口4を設けると共に、該空洞2を画成する積ブロック1bの底壁5上に上記水場6を設ける。
【0041】
上記拡幅用積ブロック1bは一例として、前壁3と左右側壁12と後壁13と底壁5とを有し、更に底壁5後方に突出する控え部14を有し、五者3,12,13,5をコンクリートにて一体成形し、上記前壁3と左右側壁12と後壁13と底壁5とにより上面において開放された有底箱形の室16を画成しており、該拡幅用積ブロック1bを積み上げることによって上記上部開放面15を上段の同ブロック1bにて閉鎖し空洞2を形成する。
【0042】
又上記最上段の拡幅用積ブロック1bの開放面15はコンクリート蓋25にて閉鎖し、その上面にコンクリート又はアスファルトを打設して新設の路盤26を形成し、既設の路盤27と一平面となる路盤を形成する。
【0043】
上記拡幅用積ブロック1bは下端の前後方向の幅W1と上端の前後方向の幅W2とがW1<W2となるように設定され、更に各上段の拡幅用積ブロック1bの下端幅W1が各下段の拡幅用積ブロック1bの上端幅W2と一致するように設定する。
【0044】
よって各拡幅用積ブロック1bの前壁3(前面)を略垂直に連続せしめ、既存の擁壁11aを形成する中段の積ブロック1aの前壁3から垂直に立ち上がるようにし、更に後壁13を既存の擁壁11aを形成する積ブロック1aの前壁3と同じ伏角α1で連続するようにし、後壁13に加わる荷重を前壁3で荷受けする構造にする。
【0045】
前記のように、空洞2を画成する拡幅用積ブロック1bの四側壁の下端部にて上記水溜まり桝7を形成する。又は底壁5上に仕切り壁29をコンクリートにて一体成形し、この仕切り壁29と前壁3と左右側壁12が協働して、又は前壁3と後壁13とが協働して水溜まり桝7を形成し、その上位に前記鳥出入口4を開設する。
【0046】
又後壁13の背面と地山との間に裏込めコンクリート17を打設し、控え部14を該コンクリート17内に埋設する。この裏込めコンクリート17内には拡幅用積ブロック1bと結合した鉄筋28を延ばし、同コンクリート17内に埋設する。
【0047】
上記各拡幅用積ブロック1bの前壁3と後壁13と底壁5の左右方向の両端部は左右側壁12より側方へ張り出し、該張り出し部18の端面を左右に隣接する各拡幅用積ブロック1bの張り出し部18の端面と突き合わせる。
【0048】
斯くして伏角を以って施工された既存の擁壁11aの途中から急峻な立ち上げ角を以って立ち上がる拡幅用擁壁11bを形成し、該拡幅用擁壁11b内、即ち該擁壁11bを形成する拡幅用積ブロック1b内に空洞2を形成し、該空洞2を画成する積ブロック1bの前壁3に空洞2内に鳥が出入する単数又は複数の小径の鳥出入口4を設けると共に、該空洞2を画成する積ブロック1bの底壁5上に上記水場6を設け、鳥出入口4を通じ鳥が空洞2内に入って水場6の水を飲むことができるようにする。
【0049】
又一定の伏角を以って設けられた擁壁11aに排水用の空洞2が存在しない場合には、前記水場6に設けた排水パイプ22からの溢出水を拡幅用擁壁11bを形成する最下段の拡幅用擁壁11bの前壁3に設けた排水孔23を通じて外方へ放流する構成とする。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の代表例として一定の伏角を以って設けられた擁壁の中間から立ち上げた拡幅用擁壁に、水場、営巣場、植生場を設けた場合の斜視図。
【図2】上記擁壁の断面図。
【図3】上記拡幅用擁壁に用いられる積ブロックの斜視図。
【図4】水場を設けた上記積ブロックの平面図。
【図5】水場と営巣場を設けた上記積ブロックの平面図。
【図6】隣接する積ブロックに水場と営巣場を設けた同積ブロックと擁壁の平面図。
【図7】上記水場を設けた積ブロックの断面図。
【符号の説明】
【0051】
1,1a…積みブロック、1b…拡幅用積みブロック、2…空洞、3…前壁、4…鳥出入口、5…底壁、6…水場、7…水溜まり桝、8…土壌、9…営巣場、10…水抜きパイプ、11,11a…擁壁、11b…拡幅用擁壁、12…左右側壁、13…後壁、14…控え部、15…上部開放面、16…室、17…コンクリート、18…張り出し部、19…路面、20…通い孔、21…窓、22…排水パイプ、23…排水孔、24…フィルタ、25…コンクリート蓋、26,27…路盤、28…鉄筋、29…仕切り壁、30…底込め材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
積ブロックを積み上げて形成した擁壁において、該積ブロック内部に空洞を設け、該空洞を画成する積ブロックの前壁に空洞内に野鳥が出入する小径の鳥出入口を設けると共に、該空洞を画成する積ブロックの底壁上に水場を設けたことを特徴とする擁壁。
【請求項2】
上記水場に補水する水供給手段を設けたことを特徴とする請求項1記載の擁壁。
【請求項3】
上記擁壁に擁壁背後の地山からの水抜きパイプを設け、該水抜きパイプを上記空洞内に開口せしめて上記水場に補水する構成としたことを特徴とする請求項1記載の擁壁。
【請求項4】
上記水場に水面を一定に保持する排水手段を設けたことを特徴とする請求項1記載の擁壁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−37489(P2006−37489A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−218393(P2004−218393)
【出願日】平成16年7月27日(2004.7.27)
【出願人】(395015722)株式会社カンケン (7)
【出願人】(303065728)有限会社インパクト (16)
【Fターム(参考)】