説明

操舵装置と連動させた差動装置

【課題】
旋回状態で発生した走行距離差なのか直進時のスリップなのか区別ができない現状の作動装置に,自動的に判断する機能を持たせることで不要な動力ロスをなくし,自動車の走行安定性,走破性を向上させ,走行燃費,タイヤの摩耗を抑制する。
【解決手段】
操舵装置の回転角度と差動装置を連動させることで,運転者の負担にならずに自動車の直進時と旋回時を自動的に判断させ,自動車の直進時には左右の駆動輪軸を機械的に直結,旋回時には直結を開放し,旋回内側の車輪軸に負荷を掛け,取付けた回転センサ-で実際の左右の駆動輪軸の回転数比と計算上の左右の駆動輪軸の回転数比の誤差を旋回内側の車輪軸に掛ける回転負荷の大きさにフィ−ドバックすることで,左右の駆動輪軸に配分する駆動力を旋回半径に応じた計算上の理想的な値に近づけることを可能にした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,自動車の差動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の動力は通常,一つの動力源から変速装置,伝導装置などを経て差動装置で左右の駆動輪に分配される。差動装置は自動車が旋回するときに駆動車輪の旋回半径が異なることによる走行距離の差を調整するための装置で,基本的な形はギヤボックスの中に4つのカサ歯車を互いに向かい合わせて組み合わせ,ドライブギヤと称する大径のカサ歯車の回転軸部分に取付け,ドライブピニオンで回転させる。
【0003】
この形式の差動装置は,旋回内側のタイヤにブレ−キが掛かり旋回外側のタイヤが引きずられることにより回転抵抗が大きい旋回内側の駆動輪から回転抵抗の小さい旋回外側の駆動輪に駆動力が分配,移動される。このため直進時の左右の駆動輪に走行抵抗差がある時と旋回時の走行距離差がある時の差動装置の動作が同じになる。
このため左右の駆動輪の走行抵抗が微妙に違う場合が多い一般道路の走行時では直進時,旋回時に係らず走行中の左右の車輪の駆動力の一部は絶えず走行抵抗の大きい方の駆動輪から抵抗の小さい駆動輪に移動しており,一定速度の連続的な走行状態ではなく常時動力をロスしていることになり,この現象はタイヤの摩耗や燃費に影響している。
【0004】
走行抵抗が大きくなる泥濘地などの走行では抵抗の小さい方の駆動輪に駆動力が流れる結果更に左右の駆動輪の走行抵抗差は大きくなり,最悪の場合は片輪に駆動力が全て流れてしまい片輪が空転し自動車が抜け出せなくなることがある。また高速走行中に路面の凸凹や粉塵などにより瞬間的に一方の駆動輪がスリップ,空転すると,空転した駆動輪の回転数が瞬間的に増加し,再度接地したときには強い駆動力が掛かるので左右の駆動輪の駆動力のバランスが崩れ,走行が安定しない。これらの改善策として,色々なリミテッド・スリップデフが開発され実用化している。
【0005】
左右の駆動輪の回転差をスラスト荷重に変え左右の回転軸を機械的に直結・ロックすることで空回転を押さえるクラッチ式,左右の駆動輪の回転差で攪拌されると発熱し膨張する性質の粘性体で左右の車軸を繋げ,片輪の空転を押さえるビスカスカップリング式,歯車の噛み合い抵抗を利用したヘリカルギヤを組み合わせた方法,遊星歯車と電磁クラッチを組み合わせた方法などが実用化され市販車に搭載されている。
【0006】
しかし実際の走行中は,旋回動作による差動量なのか走行抵抗による差動量なのかを機械的に判断できる差動装置は現在のところ見当たらない。差動量を必要以上に制限すれば車輪がロックしエンジンや伝導装置に過負荷がかかり安全運転上も機械構造上の問題になる。殆どのリミテッド・スリップデフは一定の差動量が発生後に働くという事後処理的な制御で,本来差動装置に必要な旋回時か直進時のスリップなのかは判別はできない。また現在市場に見られるリミテッド・スリップデフは複雑化し重く高価になる傾向にあり,低価格で構造が簡単・軽量で確実な機能の作動装置の普及が期待される。
【0007】
【非特許文献1】細川武志著 「クルマのメカ&仕組み図鑑」(株)グランプリ出版 2003年
【非特許文献1】伊藤 茂著 「メカニズムの辞典」 理工学社
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
発明が解決しようとする課題は,差動装置の駆動力を配分する機能を改善し,自動車の駆動力のロスを減らし燃費の改善,走行安定性,走破性の向上,タイヤの摩耗抑制などを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
差動装置を操舵装置と連動させることにより,直線走行と旋回走行を自動的に判断させ,直線走行時は左右の駆動輪を直結にし,旋回時には走行抵抗の代わりに回転角度に応じた回転負荷を差動装置に与えて駆動力を左右の駆動輪に分配し,左右の駆動輪軸の回転数比を測り最適値との誤差を測ることで制御精度を上げ,抉りや滑りの少ない理想的な旋回走行を可能にしたことを最も主要な特徴とする差動装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明の差動装置は直進時に左右の駆動輪が機械的に直結されるので,直進か旋回か区別できない一般のノンスリップデフ付き差動装置を装備した自動車に比べ直線走行性能は改善され,高速走行時の走行安定性,泥濘地などの走行抵抗の差が大きくなる場所での走破能力の向上が期待できる。また構造が比較的簡単で重量的にも価格的にも現状のリミテッド・スリップデフと十分競争する力がある。
【0011】
また本発明の差動装置は駆動力を左右の駆動輪に分配する時期や分配の比率が調整可能で,自動車の特性に合わせて調整することが可能になる。旋回内側のタイヤ回転にブレ−キが掛かり旋回外側のタイヤ回転が引きずられて初めて駆動力が分配される従来型の差動装置に比べ,走行抵抗に関係なく旋回時の駆動力を旋回半径に応じて分配することにより,旋回走行の安定,タイヤの摩耗,燃費の改善などの効果が期待される。
【0012】
操舵装置と差動装置の連動は電気的な方法が一般的と思われるが,ワイヤ−等による機械的な方法も可能で大掛かりな装置を必要としないため製作コストも低く抑えられる。二輪駆動車や四輪駆動車の差動装置としての利用の他に,駆動力の配分を任意に制御することで逆位相操舵や同位相操舵などの四輪操舵と同じ効果を持たせることができ,並列駐車や旋回半径の改善,高速走行での走行レ−ン変更時の安定性を向上させるなど自動車の走行性能の向上が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
旋回中の走行距離差か直進時の空転量かの区別は操舵装置と差動装置を連動させ,旋回時の回転角度に対する適切な走行距離差は,走行距離を駆動輪の回転数に置き換え,実際の左右の駆動輪軸の回転数比と計算上の回転数比と比較しながら誤差を作動装置のサイドギヤに掛ける回転負荷にフィ−ドバックさせることで最適な差動量に近づけることを可能にした。
【実施例1】
【0014】
図−1のように,自動車(4輪車)はスリップせずに旋回するようアッカ−マン機構により全車輪が旋回中心 O を中心とした同心で異なる半径の円周上を通るようにつくられている。自動車が旋回する時の左右後輪の駆動輪それぞれの走行距離は,車輪の旋回半径と旋回角度の積である。旋回半径が異なる後輪の旋回外側車輪と旋回内側車輪の走行距離は 旋回外側車輪の走行距離 Lo(=Ro×θ),旋回内側車輪の走行距離 Li(=Ri×θ) であるから,走行距離の差は Lo-Li=(Ro×θ)−(Ri×θ) であり, 旋回外側車輪の回転半径は旋回内側車輪の回転半径に左右車輪間のトレッド幅を加えたもの Ro=Ri+TR であるから,差動装置が調整すべき左右駆動輪の走行距離差は TR×θ (後輪トレッド幅×旋回角度) となる。
【0015】
ここで,左右のタイヤ径が同じとすると車輪の走行距離は タイヤ径×回転数 であるから,旋回時の左右駆動輪の計算上の走行距離の比は左右駆動輪軸の回転数の比であり,走行距離の比は Lo/Li=(Ro×θ)/{(Ro-TR)×θ}=1/{1−(TR/Ro)} となり,同じ旋回半径であれば旋回角度 θ に関係なく左右駆動輪軸の回転数の比は一定になる。市販の自動車の寸法で旋回時に必要な左右の駆動輪の回転数比を計算してみると,駆動輪のトレッド幅 1.6 m の自動車が旋回外側車輪の回転半径 4.8 m で旋回した場合,旋回内側と旋回外側の駆動輪の回転数比は 1.50 となる。(表−1参照)
【0016】
差動装置の基本的な構造を図−2に示す。本発明の差動装置は2対4個のカサ歯車のうち駆動輪と接続していない1対2個のカサ歯車(以下ピニオンギヤ)のうち両方若しくは片方のピニオンギヤの回転を操舵装置と連動させて自動的に固定,開放するシステムである。
本発明の差動装置の基本型は図−3の説明図に示すように駆動輪と接続していないピニオンギヤ 10 の背面に摩擦板 9−1 を取付ける。パイプの端末に摩擦板 9−2 を取付けたコントロ−ルシャフト 4 を,ピニオンギヤの摩擦板 9−1 とコントロ−ルシャフトの摩擦板 9−2 を向かい合わせてピニオンギヤ 10 の回転軸 12 の上から被せる。ディファレンシャルケ−ス 3 とコントロ−ルシャフト端末の摩擦板 9−2 の間にバネ 8 を挟み,バネの力でピニオンギヤ 10 はコントロ−ルシャフト 4 により摩擦板 9−1,9−2 を介して固定された状態とする。
【0017】
ディファレンシャルケ−ス 3 の外に出したコントロ−ルシャフト 4 の端末からパイプ型のカムリング 6 を入れ,コントロ−ルシャフト 4 を通す穴があいているコントロ−ルレバ− 5 を挟んでコントロ−ルシャフト 4 の末端に回転止め 15 の穴があるエンドプレ−ト 16 を固定し,ディファレンシャルケ−ス 3 からコントロ−ルシャフト 4 の端末に固定したエンドプレ−ト 16 を回転止め 15 をする。パイプ型のカムリング 6 のコントロ−ルレバ− 5 と向かい合う上面の形状は複数のV字型をした谷部を設ける。V字型の形状や数量,取付位置は個々の自動車により実験的に決め,パイプ型のカムリング 6 はディファレンシャルケ−ス 3 に固定する。コントロ−ルレバ− 5 のパイプ型のカムリング 6 と向かい合う面に複数のコロ 7 を取付け,操舵装置の回転角度と連動して回転するコントロ−ルレバ− 5 が回転するとパイプ型のカムリング 6 のV字型の斜面をコロ 7 が登り,回り止めをしたコントロ−ルシャフト 4 のエンドプレ−ト 18 をバネ 8 の力に逆らって押し上げる構造とする。
【0018】
自動車の直進時は,コントロ−ルレバ− 5 の裏面に取付けられたコロ 7 はパイプ型のカムリング 6 のV字型をした谷間に停止させ,回り止め 15 をしたコントロ−ルシャフト 4 の端末に取付けられた摩擦板 9−2 とピニオンギヤ 10 の歯面裏側の摩擦板 9−1 はバネ 8 の力で押し付けられピニオンギヤ 10 の回転は固定されている。自動車の駆動力が大きく,摩擦板でピニオンギヤを固定するが困難な場合は摩擦板の代わりに噛合い継手を採用する。
【0019】
自動車が旋回する時は,コントロ−ルシャフト 4 のエンドプレ−ト 16 とパイプ型のカムリング 6 に挟まれたコントロ−ルレバ− 5 が操舵装置と連動して回転し,コントロ−ルレバ− 5 裏面に取付けたコロ 7 がパイプ型のカムリング 6 のV字型の斜面を上ることによりコントロ−ルレバ− 5 が持ち上がり,バネ 8 の力を押しのけて,コントロ−ルシャフト 4 のエンドプレ−ト 16 を押し上げる。これによりピニオンギヤの歯面裏側の摩擦板 9−1 にコントロ−ルシャフトの摩擦板 9−2 を押し付けていたバネの力は無くなり,ピニオンギヤ 10 が自由に回転する。
【0020】
この形式の作動装置を使用することで,自動車の直進時は左右の駆動輪の回転数が同じ直結状態になり,強制的に駆動力を左右の駆動輪に均等に分配し,自動車が旋回する時は操縦者の意識とは無関係に差動装置のピニオンギヤの固定が自動的に開放され,差動装置本来の機能である左右駆動輪の走行抵抗差により旋回内側の駆動輪の駆動力の一部が旋回外側の駆動輪に移動し,左右の駆動輪の回転数が調整されるシステムが可能になる。(図−5参照)
【0021】
パイプ型のカムリングの形状とディファレンシャルケ−スに取付ける位置を変えることで,不感帯やピニオンギヤの固定開始時期,固定開放時期,固定から開放までの時間,開放の程度などを変えることが可能で,個々の自動車により走行性能を変えることができる。操舵装置の回転とコントロ−ルレバ−の回転を連動させることでコントロ−ルシャフトを上下させ,ピニオンギヤの回転を固定,開放するので,運転者の操縦と関係なく直進時と旋回時を自動的に使い分け運転者の負担にはならない。
【0022】
自動車の直進時に操舵装置と連動してピニオンギヤを固定,開放する機能を持つ図−3の差動装置に,駆動輪と接続している旋回内側のサイドギヤに,操舵装置と連動して旋回半径に応じた回転負荷を掛ける機能を追加した形式の差動装置の説明図を図−4に示す。
サイドギヤ 11 の歯面裏側にピニオンギヤ 10 と同様に摩擦板 26−1 を取付け,摩擦板 26−2 を取付けた移動摩擦板 24 とディファレンシャルケ−ス 3 の間にテコの力を利用してクサビ 23 を圧入されると,回転止め 25 をした移動摩擦板 24 の摩擦板 26−2 をサイドギヤ裏側の摩擦板 26−1 に押し付けて回転負荷が掛かる構造とする。コントロ-ルシャフト 4 の上から旋回用カムフレ-ム 20 を被せ,コントロ−ルレバ− 6 を旋回用カムフレ-ム 20 の端末に固定する。操舵装置の回転角度と連動して回転するコントロ−ルレバ− 6 により旋回用カムフレ-ム 20 が回転され,旋回用カムフレ-ム 21 の外側に取付けたカム突起 21 がテコになるトグルリンク 22 のレバ− 28 を押すことでクサビ 23 がディファレンシャルケ−ス 3 と回転止め 25 をした移動摩擦板 24 の間に圧入される。
【0023】
操作レバ- 14 を動かすと,差動装置の上下にあるコントロ−ルレバ− 6 の回転が反対になるため,コントロ-ルシャフト 4 に取付けられた上下の旋回用カムフレ-ム 21 の回転方向が反対になり,クサビ 23 は旋回内側の駆動輪と接続しているサイドギヤ 11 の背面に左右両側から上下別々のトグルリンク 22 で圧入され,回転止め 25 をした移動摩擦板 24 を均等にサイドギヤ裏側の摩擦板 26−1 に押し付け回転負荷を掛けることができる。
【0024】
従来の左右駆動輪の走行抵抗だけで作動していた差動装置と比べ自動車の旋回半径に応じ左右の駆動力の動力配分の比率や配分次期を任意に制御でき,個々の自動車に最適な旋回性能を提供できる。これにより旋回時の自動車の挙動を任意に変えられ,タイヤの摩耗抑制効果や高速走行時のレ−ン変更,縦列駐車などの動作が円滑になる。
【0025】
この形式の作動装置を使用することにより,自動車の直進時は左右の駆動輪の回転数が同じ直結状態になり,強制的に駆動力を左右の駆動輪に均等に分配し,自動車が旋回する時は操縦者の意識とは無関係に,差動装置のピニオンギヤの固定が自動的に開放され,旋回内側の駆動輪と接続しているサイドギヤに回転負荷が掛かり,旋回内側の駆動輪の駆動力の一部を旋回外側の駆動輪に移動させ,左右の駆動輪の回転数を適切に調整するシステムが可能になる。操舵角度とコントロ−ルレバ−は予め自動車の旋回半径に応じた適切な回転負荷を実験的に求め連動させておく。(図−6参照)
【0026】
図−6のシステムの制御精度を上げて旋回時の駆動力配分をより正確にする方法として,左右の駆動輪軸に回転センサ−を取付け実際に走行中の自動車の旋回内側の駆動輪の回転数と旋回外側の駆動輪の回転数の比を測定し,計算上の旋回内側の駆動輪の回転数と旋回外側の駆動輪の回転数の比と比較し,誤差をコントロ−ルレバ−の回転にフィ−ドバックし,計算上の旋回内側の駆動輪の回転数と旋回外側の駆動輪の回転数の比の許容誤差範囲内に,実際の自動車の左右の駆動輪軸の回転数の比が入るように制御する方法がある。(図−7参照)
【0027】
また旋回時に左右の駆動輪の動力を分配する手段に自動車に装備されたブレ−キを利用する方法がある。前述と同様に左右の駆動輪車軸に回転計を取付けて左右の駆動輪車軸の回転数比を測定し,計算上の旋回内側と旋回外側の駆動輪の回転数比と比較しながら,左右の駆動輪のブレ−キを制御することで自動車の旋回時の駆動力を適切に配分し,計算上の駆動輪の回転数比の許容誤差範囲内に,実際の駆動輪軸の回転数比が入るように制御する方法がある。(図−8参照)
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0028】
従来の差動装置では,旋回中の走行距離差なのか直進時の車輪のスリップなのか機械的に区別することは不可能で,左右の車輪の走行抵抗差が大きい泥濘地や積雪路面等の走行では,走行抵抗の少ない車輪のほうにより多くの駆動力が流れてしまい,駆動力が有効に使用できない。これを防ぐのに一般的には差動装置にノンスリップ・デフ装置を組み合わせて使用するが,現在のノンスリップ・デフは左右の車輪の回転差が大きくなってから作動するタイプのものが多く実用性は十分とはいえない。また一般の走行路では左右の車輪の走行抵抗は微妙に異なることが多いため,駆動力は左右車輪に均等に分配されず小さなスリップを繰返しながら走行している。このことは結果的にタイヤの摩耗や燃費,走行安定性に影響している。
【0029】
本発明の差動装置は自動車の直進(若しくは直進に近い)走行時には左右の駆動軸を機械的に直結し,駆動輪軸に回転センサ−を取付けることで旋回時は左右の駆動軸を計算上の理想的な回転数に近づけることを自動化したことにより,運転者の負担にならないで旋回時にも直進時にも駆動力を無駄なく左右の駆動車輪に分配することができ,車輪の摩耗や走行安定性,燃費の向上,不整地の走行性能の向上など多方面に効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】旋回時の自動車車輪の走行軌跡の説明図
【図2】一般的な作動装置の構造説明図
【図3】直進時に左右駆動軸を直結する形式の差動装置の構造例
【図4】直進時に左右駆動軸を直結する形式に,旋回時の駆動力配分機能を追加した差動装置の構造例
【図5】直進時に左右駆動輪を直結する形式の差動装置を操舵装置と連動させたシステム例の説明図
【図6】直進時に左右駆動軸を直結する形式に,旋回時の駆動力配分機能を追加した差動装置を操舵装置の回転角度と連動させたシステム例の説明図
【図7】直進時に左右駆動軸を直結する形式に,旋回時の駆動力配分機能を追加した差動装置を操舵装置の回転角度と連動させ,旋回時に実際の駆動輪軸の回転数をフィ−ドバックさせ制御精度を高めたシステム例の説明図
【図8】直進時に左右駆動軸を直結する形式の差動装置を操舵装置と連動させ,自動車の駆動輪軸のブレ−キに実際の駆動輪軸の回転数をフィ−ドバックさせ制御精度を高めたシステム例の説明図
【符号の説明】
【0031】
1 ドライブピニオン
2 ドライブギヤ
3 ディファレンシャルケ−ス
4 コントロ−ルシャフト
5 コントロ−ルレバ−
6 パイプ型のカムリング
7 コロ(ベアリング球)
8 バネ(ピニオンギヤ固定用)
9−1 摩擦板(ピニオンギヤ側)
9−2 摩擦板(コントロ−ルシャフト側)
10 ピニオンギヤ
11 サイドギヤ
12 ピニオンギヤの回転軸
13 駆動輪軸
14 操作レバ−
15 回転止め(コントロ−ルシャフト用)
16 エンドプレ−ト
17 ピニオンギヤの回転軸延長部
20 旋回用カムフレ−ム
21 カム突起
22 トグルリンク
23 くさび
24 移動摩擦板
25 回転止め(移動摩擦板用)
26−1 摩擦板(サイドギヤ側)
26−2 摩擦板(移動摩擦板側)
27 バネ(くさび引戻し用)
28 レバ−(トグルリンクの)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディファレンシャルケ−スの中にピニオンギヤとサイドギヤを各2個ずつ計4個のカサ歯車を互いに向き合わせ噛合わせた形式の差動装置で,駆動輪と接続していない1対2個のピニオンギヤの歯面の裏側に摩擦板を取付ける。ピニオンギヤの回転軸を4個のカサ歯車に囲まれた空間方向に延長し,延長した両方の回転軸端を平坦にして突合せ,互いに荷重を支持させる。
パイプの端末に摩擦板を取付けたコントロ−ルシャフトを,ピニオンギヤの摩擦板とコントロ−ルシャフト端末の摩擦板を向かい合わせてピニオンギヤの回転軸の上から被せる。ディファレンシャルケ−スとコントロ−ルシャフト端末の摩擦板の間にバネを挟み,ディファレンシャルケ−スに取付け,バネの力でコントロ−ルシャフトの摩擦板を介してピニオンギヤの回転が固定されるようにする。自動車の駆動力が大きく摩擦板での固定が困難な場合は摩擦板の代わりに噛合い継手を使用する。
ディファレンシャルケ−スの外に突き出たコントロ−ルシャフトの上からにパイプ型のカムリングを入れ,コントロ−ルシャフトを通す穴があいているコントロ−ルレバ−を挟み,回転止めの穴があるエンドプレ−トをコントロ−ルシャフトの末端に固定し,ディファレンシャルケ−スからコントロ−ルシャフトの回転止めをする。パイプ型のカムリングと接するコントロ−ルレバ−の裏面には複数個のコロを取付け,コントロ−ルレバ−の回転と操舵装置の操舵角度を連動させる。
パイプ型のカムリングと接するコントロ−ルレバ−の裏面側に取付けられたコロが転がるパイプ型のカムリングの表面には,V字型の谷部を複数設ける。自動車の操舵装置の操舵角度と連動してコントロ−ルレバ−が回転すると,パイプ型のカムリングのV字型の谷部に止まっていたコントロ−ルレバ−裏面に取付けられたコロがV字型の斜面を登り,コントロ−ルシャフト端末に取付けられたエンドプレ−トをバネの力に逆らって押し上げる構造とする。パイプ型のカムリングの取付位置と形状は個々の自動車で決め,パイプ型のカムリングはディファレンシャルケ−スに固定する。
自動車の直進時は,コントロ−ルレバ−の裏面に取付けられたコロはパイプ型のカムリングのV字型をした谷間で停止させておき,回り止めをしたコントロ−ルシャフトの端末に取付けられた摩擦板とピニオンギヤの歯面裏側の摩擦板がバネの力で押し付けられ,ピニオンギヤの回転は固定される。これにより駆動力は強制的に左右の駆動輪に均等に分配され,左右の駆動輪の回転数は同じになる。
自動車が旋回する時は,コントロ−ルシャフトのエンドプレ−トとパイプ型のカムリングに挟まれたコントロ−ルレバ−が操舵装置の操舵角度と連動して回転し,コントロ−ルレバ−裏面に取付けたコロがカムリングのV字型の斜面を上ることによりコントロ−ルレバ−が持ち上がり,コントロ−ルシャフトのエンドプレ−トをバネの力を押しのけて押し上げる。これによりピニオンギヤの歯面裏側の摩擦板にコントロ−ルシャフトの摩擦板を押し付けていた力は無くなり,ピニオンギヤは自由に回転し,差動装置の本来の機能により左右の駆動輪の走行距離差を調整する。
自動車の直進時は差動装置のピニオンギヤの回転を固定し,左右の駆動輪を同回転にし,旋回時はピニオンギヤの固定を開放し,従来通り左右の駆動輪の走行距離差を調整することを操舵装置の操舵角度と連動させることで自動化したことを特徴とする差動装置。
【請求項2】
請求項1の差動装置で,サイドギヤの歯面裏側にピニオンギヤと同様の摩擦板を取付け,サイドギヤに回転負荷を与えるための移動摩擦板をサイドギヤの摩擦板と移動摩擦板の摩擦板を向かい合わせてサイドギヤの回転軸に取付け,ディファレンシャルケ−スから移動摩擦板の回転止めをする。移動摩擦板とディファレンシャルケ−スの間にはクサビを挟み,クサビを押し込むためのトグルリンクとクサビを戻すためのバネをクサビとディファレンシャルケ−スの間に組み込む。
更に,新たに旋回用カムフレ-ムをコントロ-ルシャフトの上から組み込む。旋回用カムフレ-ムのパイプ部分をコントロ-ルシャフトの上から被せ,ディファレンシャルケ−スから出た旋回用カムフレ-ムのパイプ部分の端末にコントロ−ルレバ−を固定し,コントロ−ルレバ−の回転を請求項1の差動装置と同様に操舵装置の操舵角度と連動させる。
操舵装置の操舵角度と連動させたコントロ−ルレバ−が回転すると,コントロ−ルレバ−に固定された旋回用カムフレ-ムが回転し,旋回用カムフレ-ム外側に取付けたカム突起が回転角度に応じてトグルリンクのレバ−を押してクサビを圧入し,コントロ−ルレバ−の回転角度に応じてサイドギヤに回転負荷が掛かる構造とする。
自動車の直進時は差動装置のピニオンギヤの回転を固定して左右の駆動輪を同回転にし,旋回時はピニオンギヤの固定を開放して旋回内側の駆動輪と接続しているサイドギヤに自動車の旋回半径に応じた回転負荷を掛け,走行抵抗に関係なく自動車の旋回半径に応じて左右の駆動輪の回転数を調整することを操舵装置の操舵角度と連動させることで自動化したことを特徴とする差動装置。
【請求項3】
請求項2の差動装置で,差動装置のサイドギヤと接続する左右の駆動輪軸にそれぞれ回転センサ−を取付け,自動車の旋回時の実際の左右駆動輪の回転数比と計算上最適な左右駆動輪の回転数比を比較し,その誤差を操舵装置の操舵角度と連動させた差動装置のコントロ−ルレバ−の回転角度にフィ−ドバックさせ,実際の左右駆動輪の回転数比が計算上最適な左右駆動輪の回転数比の許容誤差範囲内に入るようにコントロ−ルレバ−の回転角度を修正しながら差動装置のサイドギヤに最適な回転負荷を与え,旋回時の自動車の駆動力を左右の駆動車輪に適切に配分することを特徴とする請求項2の差動装置を使用したシステム。
【請求項4】
請求項1の差動装置を,左右駆動輪のブレ−キを別々に制御可能な自動車に取付け,左右の駆動輪軸にそれぞれ回転センサ−を取付け,操舵装置に操舵角度センサ−を取付ける。操舵角度センサ−で測った自動車の旋回半径で計算上最適な左右駆動輪の回転数比になるように旋回内側の駆動輪軸のブレ−キを掛けのことで差動装置のサイドギヤに回転負荷を掛け,駆動力を旋回内側の駆動輪軸から旋回外側の駆動輪軸に分配する。
回転センサ−で実際の左右駆動輪軸の回転数比を測り,計算上最適な左右駆動輪軸の回転数比と比較し,その誤差をブレ−キの制動力にフィ−ドバックさせ,実際の駆動輪軸の回転数比が計算上最適な回転数比の許容誤差範囲内に入るように左右の駆動輪軸のブレ−キを制御して制動力を修正し,旋回時の駆動力を左右の駆動輪に適切に配分することを特徴とする請求項1の差動装置を使用したシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−52822(P2006−52822A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−236722(P2004−236722)
【出願日】平成16年8月16日(2004.8.16)
【出願人】(301032126)有限会社ワンダー企画 (9)
【Fターム(参考)】