説明

操舵装置と連動した車両の制御装置

【課題】現在のノン・スリップ・デフは左右の駆動輪の走行距離差が発生した場合,旋回中なのか直進走行中のスリップなのか判別できない点であり,この点を改善し駆動力のムダをなくし操縦性,燃費,走行安定性,走破性を向上させ,タイヤの摩耗を抑制するノン・スリップ・デフを提供する。
【解決手段】操舵装置とノン・スリップ・デフを連動させることで,運転者の負担にならずに直進時と旋回時を自動的に判別させ,直進時は左右の駆動輪軸を直結し,旋回時は路面の走行抵抗差と関係なく旋回内側のサイドギヤに旋回半径に応じた機械的な回転負荷をかけ,左右の駆動輪軸の回転数比を理想的な比率に近づける。また左右の駆動輪軸に回転センサ-を取付け,左右の駆動輪軸の実際の回転数比と計算上の理想的な回転数比を比較し,誤差を回転負荷の大きさにフィ−ドバックさせて理想的な旋回走行状態に近づける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ノン・スリップ・デフに関する
【背景技術】
【0002】
自動車などでは駆動力は通常1つの動力源から変速装置,伝導装置などを経て最終減速と差動歯車からなるデフと呼ばれる装置で左右の駆動輪に分配される。差動装置は自動車が旋回するときに駆動車輪の旋回半径が異なることによる走行距離の差を調整するための装置で,デフ・ケ−スの中に4つのカサ歯車を互いに向き合わせた差動歯車が,ドライブピニオンで回転される最終減速のドライブギヤの回転軸芯に取付けられているのが基本的な形式である。
【0003】
この形式の差動装置は,左右の駆動輪の走行抵抗差により作動し,自動車が走行中に旋回すると,旋回内側の駆動輪は直進時よりも走行距離が少なくなりブレ−キを架けたように走行抵抗が増加し,旋回外側の駆動輪は直進時よりも走行距離が多くなるので引きずられて回転させられ走行抵抗が減少する。差動装置の左右のサイドギヤの回転数の合計はピニオンギヤの公転数(ドライブギヤの回転数)の2倍になるという機能があるので,走行抵抗の大きい駆動輪の回転数が低下した場合,低下した回転数だけ走行抵抗が小さい方の駆動輪の回転数が上昇し,走行抵抗差が無くなるところでバランスするように差動装置が働く。
【0004】
厳密に見ると,一般道路での走行では左右の駆動輪の走行抵抗が全く同じで全く同回転ということは少なく,直進時,旋回時にかかわらず走行中の左右の駆動輪の駆動力の一部は絶えず走行抵抗の大きい方の駆動輪から走行抵抗の小さい駆動輪に流れ,直進時に限らず旋回時に於いても左右の駆動輪に不要なスリップを発生し,走行距離の多い自動車では動力のロスやタイヤの摩耗,燃費の悪化への影響は無視できない。
【0005】
また左右の駆動輪の走行抵抗差が大きくなる不整地や雪道などの走行では左右の駆動輪の走行抵抗差が増大する傾向にあり,最悪の場合は片輪の走行抵抗が無くなり空転して自動車が走行不能になることがある。また高速走行中に路面状況により瞬間的に一方の駆動輪がスリップすると,空転した駆動輪の回転数が瞬間的に増加し,再度接地したときには強い駆動力が架かるので走行が不安定になることがある。これらの改善策として,色々なノン・スリップ・デフが開発され実用化されている。
【0006】
左右の駆動輪の回転差をスラスト荷重に変え左右の回転軸を機械的に直結・ロックすることで空回転を押さえるクラッチ式,左右の駆動輪の回転差で攪拌されると発熱し膨張する性質の粘性体で左右の車軸を繋げて片輪の空転を押さえるビスカスカップリング式,歯車の噛み合い抵抗を利用したヘリカルギヤを組み合わせた方法,遊星歯車と電磁クラッチを組み合わせた方法などが実用化され市販車に搭載されている。
【0007】
しかし殆どのノン・スリップ・デフは一定の差動量が発生した後に働くという事後処理的な制御で,本来差動装置に必要な旋回とスリップの判別ができる差動装置は現在のところ殆ど見当たらない。スリップを押さえるために左右の駆動輪の許容回転差を必要以上に制限すれば旋回走行時に車輪ロックが発生し運転上も機械構造上も問題になる。また現在市場に見られるノン・スリップ・デフは複雑化し重く高価になる傾向にあり,低価格で簡単な構造で軽量,確実なノン・スリップ・デフの普及が期待される。
【0008】
【特許文献1】特開平11−348595
【非特許文献1】細川武志著 「クルマのメカ&仕組み図鑑」(株)グランプリ出版 2003年
【非特許文献2】伊藤 茂著 「メカニズムの辞典」 理工学社
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
自動車の旋回,直進の二つの走行状態を機械的且つ自動的に判断させ,左右の駆動輪の回転数を理想的な回転数比に近づけることで不要なスリップ,駆動力のロスを減らし,燃費,走行安定性の向上,タイヤの摩耗抑制を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
自動車の操舵装置から操舵角度を検出し直線走行と旋回走行を自動的に判断させ,操舵角度から旋回半径を計算して差動装置を操舵装置と連動させる。直線走行時には左右の駆動輪軸を直結状態にし,旋回時には左右の駆動輪の走行抵抗差に関係なく旋回半径に応じた回転負荷を差動装置の旋回内側のサイドギヤに与え,左右の駆動輪軸の実際の回転数比と計算上の理想的な回転数比との誤差をサイドギヤに与える回転負荷の大きさにフィ−ドバックし,予め設定した許容範囲内に回転数比の誤差を納めることで,不要なスリップを無くし理想的な走行状態に近づける。
【発明の効果】
【0011】
本発明のノン・スリップ・デフは,不要なスリップを極力無くすことで自動車の燃費の向上,走行安定性の向上,タイヤの摩耗抑制等が期待できる。また旋回時の駆動力を左右の駆動輪に分配する時期や分配の比率を調整することが可能になり,自動車の旋回性能を変えることができる。また駆動力の伝達ロスがなく,大馬力の無限軌道車の操舵方法を自動車と同様にハンドル式に変えることも可能と思われる。
【0012】
二輪駆動車や四輪駆動車のノン・スリップ・デフとしての利用の他に,駆動力の配分を任意に制御することで逆位相操舵や同位相操舵などの四輪操舵と同じ効果を持たせることができ,これにより高速走行時や駐車時,旋回時の操作性の向上が期待できる。構造が簡単で重量的にも価格的にも現状のノン・スリップ・デフと十分競争できると考える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
自動車の差動装置を操舵装置と連動させ,操舵装置から操舵角度を検出し直線走行と旋回走行を自動的に判断させる。直線走行時には左右の駆動輪軸を直結状態にし,旋回走行時には操舵装置の操舵角度から旋回半径を計算し,左右の駆動輪の走行抵抗差に関係なく差動装置の旋回内側のサイドギヤに旋回半径に応じた回転負荷を与える。左右の駆動輪軸の実際の回転数比を計測し,計算上の理想的な回転数比との誤差をサイドギヤに与える回転負荷の大きさにフィ−ドバックし,予め設定した許容範囲の中に回転数比の誤差を納めることで不要なスリップが無い理想的な走行状態に近づける。
【実施例1】
【0014】
通常,自動車(4輪車)は図−1のようにスリップせずに旋回するようにアッカ−マン機構により全車輪が旋回中心 O を中心とした同心で異なる半径の円周上を通るようにタイヤが取付けられている。後輪を駆動輪とすると,自動車が旋回する時の左右の駆動輪それぞれの走行距離は,車輪の旋回半径と旋回角度の積である。旋回外側駆動輪の走行距離LoはLo=Ro×θ,旋回内側駆動輪の走行距離LiはLi=Ri×θであるから,走行距離の差ΔLはΔL=Lo-Li=(Ro×θ)−(Ri×θ)であり,左右駆動輪のトレッド幅をTRとするとRo=Ri+TRであるから,差動装置が調整すべき左右駆動輪の走行距離差はΔL=Lo-Li=TR×θ(トレッド幅×旋回角度)となる。
【0015】
ここで,左右のタイヤ径は同じであるから車輪の走行距離は(タイヤ径×回転数)であり,旋回時の左右駆動輪の走行距離の比は左右駆動輪軸の回転数の比になり,走行距離の比はLo/Li=(Ro×θ)/(Ri×θ)=1+(TR/Ri)となる。自動車が同じ旋回半径で走行すれば旋回角度(θ)に関係なく左右駆動輪軸の回転数比は一定になる。
【0016】
市販の小型車で旋回時に必要な左右の駆動輪軸の回転数比を計算してみると,駆動輪のトレッド幅TR(=1.6m),旋回外側車輪の回転半径を最小回転半径Ro(=4.8m) で旋回した場合,Ri(=3.2m)であるから旋回外側と旋回内側の駆動輪軸の回転数比は1.50となり,旋回時に必要な駆動輪軸の回転数比は1.50前後が実用上の最大値と見込まれる。
【0017】
本発明のノン・スリップ・デフは,4個のかさ歯車を組み合わせドライブギヤの回転軸芯に取付けたデフ・ケ−スの中に組み込む機械式の差動装置で,直進時にピニオンギヤの回転を固定,旋回時はピニオンギヤの回転を開放し旋回内側のサイドギヤに旋回半径に応じた回転負荷をかけるという原理は同じであるが,ピニオンギヤを回転,固定させる方法やサイドギヤに回転負荷をかける方法に機械式(図−2参照)と油圧式(図−6参照)の2通りの操作方法がある。
【0018】
当発明のノン・スリップ・デフの主要な部品を図−2を用いて説明すると,ドライブピニオン(1),ドライブギヤ(2),デフ・ケ−ス(18),ピニオンギヤ(10),サイドギヤ(11),ピニオンギヤの回転軸(12),サイドギヤの回転軸(17),固定摩擦板(9-1),(9-2)及び移動摩擦板(15-1),(15-2),バネ(8),コントロ−ルシャフト(4),回転レバ−(5),操作レバ−(14),ブレ−キハウジング(22)で構成され,これらがデフ・キャリア(3)の中で組み合わされ,駆動力を分配するための操作用のプッシュリング(19)がデフ・キャリア(3)の外側に出ている左右のサイドギヤの回転軸(17)を受けるパイプ部分の外径に取り付けられ,左右の駆動輪軸(13)がサイドギヤの回転軸(17)端部に取り付けられる。
【0019】
図−2のようにデフ・ケ−ス(18)には,一般的な機械式差動装置のデフ・ケ−スと同様にドライブギヤ(2)の回転軸芯にデフ・ケ−ス(18)の中心を合わせてドライブギヤ(2)に固定し,デフ・ケ−ス(18)の中心を通るドライブギヤ(2)の回転軸芯と直交するようにピニオンギヤの回転軸(12)を取り付けるデフ・ケ−ス(18)の上下2ヶ所に矩形の取付穴(25)を設ける。
【0020】
ピニオンギヤ(10)は,ピニオンギヤの回転軸(12)とは別々に自由に回転するようにピニオンギヤの回転軸(12)芯と軸芯を合わせボス部分に円形の取付穴を開け,歯面裏側にはド−ナツ形の固定摩擦板(9-2)を取り付ける。
サイドギヤ(11)は,外径をスプライン(20)加工したサイドギヤの回転軸(17)上を噛み合いながらスライドするように,軸芯を合わせてボス部分に取付穴を開け,取付穴にサイドギヤの回転軸(17)にすると噛み合うスプライン(20)を加工する。
【0021】
ピニオンギヤの回転軸(12)は中央の非円形断面のカム(16)部分とその上下にコントロ−ルシャフト(4)を上から被せるための円形軸,更にその先に回転レバ−(5)を取り付ける円形軸の3つの異なる断面と共通の回転軸芯を持ち,中央部分の非円形断面のカム(16)部分を挟んで上下同じ形をしている。中央部分の非円形断面のカム(16)部分の断面形状は,回転軸芯を中心とする半円形断面の直径部分に短径が半円形断面の直径と同じ楕円形断面の半分を繋ぎ合わせた,半分が円形で半分が半楕円形の滑らかな断面外形を持つ。
中央のカム(16)部分の上下に取り付けられる円形軸と,更にその先に取り付けられる直径を小さくした円形軸の段差部分に,カム(6)となる突起を取り付ける。
【0022】
サイドギヤの回転軸(17)には,回転軸の途中に軸心を合わせて軸と一体化した固定円盤(21)を取付け,固定円盤(21)を挟んで回転軸の片側外径にサイドギヤ(11)の取付穴に加工したスプラインと噛み合うスプライン(20)を加工し,軸端面をサイドギヤの回転軸(17)芯と直角な平面とする。固定円盤(21)を挟んだ反対側の軸外径にはサイドギヤの回転軸(17)に取り付ける移動摩擦板(15-1)の取付穴のスプラインと噛み合うスプライン(20)を加工し,軸端面には駆動輪軸(13)を取り付けるための加工を施す。
【0023】
固定摩擦板(9-2)はピニオンギヤ(10)の歯面裏側に取り付け,固定摩擦板(9-1)はコントロ−ルシャフト(4)のピニオンギヤ(10)の歯面裏側に押しつけられる方のフランジ面に取り付ける。固定摩擦板は両方共にピニオンギヤの回転軸(12)が貫通する中心部を円形にくり抜いたド−ナツ形とする。
移動摩擦板(15-1)は,固定円盤(21)から駆動輪軸(13)を取り付ける軸端面までのサイドギヤの回転軸(17)に取付けるド−ナツ形円盤でスプライン軸上を噛み合いながらスライドする。移動摩擦板(15-2)は,ブレ−キハウジング(22)内径のスプラインと噛み合いながらスライドするサイドギヤの回転軸(17)が貫通する中心部を円形にくり抜いたド−ナツ形円盤で,移動摩擦板(15-1)と移動摩擦板(15-2)を交互に組み合わせて使用する。
【0024】
コントロ−ルシャフト(4)は,外側が矩形で内側が円形のパイプの両端にフランジを取り付ける。一端にはコントロ−ルシャフト(4)内側の円形パイプに挿入される円形軸が貫通する中心部分に穴を開けたド−ナツ形をした円形フランジを取り付け,円形フランジの裏面にはピニオンギヤ(10)の歯面裏側に取り付けたド−ナツ形の摩擦板(9-2)と相対するド−ナツ形の摩擦板(9-1)を取り付ける。
他端には,コントロ−ルシャフト(4)の矩形パイプの外形と同じ大きさのフランジにピニオンギヤの回転軸(12)両端の回転レバ−(5)を取り付ける円形軸が貫通する部分をくり抜いた矩形のフランジ(7)を取り付け,ピニオンギヤの回転軸(12)端に取り付けたときに円形軸の段差部分のカム(6)の突起が当たるフランジ(7)の裏側部分に,突起と組み合う凹部分を加工する。
【0025】
回転レバ−(5)はコの字形のフレ−ムで,フレ−ム中央部に操作レバ−(14)と組み合わせるノブ(23)を取り付け,両端をピニオンギヤの回転軸(12)の両端に取り付ける。
操作レバ−(14)は,デフ・ケ−ス(18)の左右に取り付けられたブレ−キハウジング(22)のサイドギヤの回転軸(17)を受けるパイプ部分の外径に,パイプ部分をガイドとしてスライドするブッシングを取り付け,ドライブギヤ(2)を貫通して ]形をしたフレ−ムをデフ・ケ−ス(18)を囲うように両側からスライドするブッシングに取り付けて□形フレ−ムとし,□形フレ−ムの中心線がピニオンギヤの回転軸(12)芯と直交しながら左右のサイドギヤの回転軸(17)芯上を動くように操作レバ−(14)を取り付ける。回転レバ−(5)のノブ(23)は□形フレ−ムの回転レバ−(5)のコの字形のフレ−ムと直交する片側の ]形をしたフレ−ムの中間部分に設けた取り付け部分と組み合わせる。
【0026】
図−3に組合せ構造の概要を示す。
ピニオンギヤの回転軸(12)の両側から固定摩擦板(9-2)を歯面裏側に取り付けたピニオンギヤ(10)を,歯面を向かい合わせて差し込み,ピニオンギヤ(10)の上から,ピニオンギヤ(10)の固定摩擦板(9-2)とコントロ−ルシャフト(4)のフランジ裏面に取り付けた固定摩擦板(9-1)が向き合うように,ピニオンギヤの回転軸(12)の両側の直径が異なる2本の円形軸の段差部分にコントロ−ルシャフト(4)のフランジ(7)を引っ掛けて取り付け,向かい合う固定摩擦板(9-1)(9-2)間に異物が入らないようにゴムカバ−(24)を取り付ける。
【0027】
コントロ−ルシャフト(4)の矩形パイプ部分の外側にバネ(8)を取り付け,ピニオンギヤの回転軸(12)をデフ・ケ−ス(18)の矩形の取付穴(25)に取り付ける。矩形のコントロ−ルシャフト(4)は,デフ・ケ−ス(18)のピニオンギヤの回転軸(12)の取付穴(25)から直径が異なる2本の円形軸をガイドにしてピニオンギヤの回転軸(12)芯方向にカム(6)の突起高さだけ上下にスライドする。デフ・ケ−ス(18)の矩形の取付穴(25)から突き出したピニオンギヤの回転軸(12)の両端にコの字形の回転レバ−(5)を取り付け固定する。
【0028】
ピニオンギヤの回転軸(12)に向かい合って取り付けられたピニオンギヤ(10)に,左右からサイドギヤ(11)を噛み合わせ,ピニオンギヤの回転軸(12)中央にある非円形断面のカム(16)部分の半円形の直径部分にサイドギヤの回転軸(17)端面が接するように,サイドギヤ(11)のスプライン部分(20)を噛み合わせ,デフ・ケ−ス(18)の中央部分でピニオンギヤの回転軸(12)芯と直交するドライブギヤ(2)の回転軸芯にサイドギヤの回転軸(17)芯を合わせ取り付ける。
【0029】
デフ・ケ−ス(18)の左右外側には固定円盤(21)から駆動輪軸が取り付けられる軸端末までのサイドギヤの回転軸(17)が突き出し,突き出たサイドギヤの回転軸(17)に移動摩擦板(15-1),移動摩擦板(15-2)を組合せて取り付け,ブレ−キハウジング(22)内側のスプラインと噛み合わせながらブレ−キハウジング(22)の中に取り付ける。
【0030】
ピニオンギヤの回転軸(12)の両端に取り付けた回転レバ−(5)のノブ(23)の位置が,ピニオンギヤの回転軸(12)軸芯と非円形断面のカム(16)の最大回転半径点を結ぶ直線上にくるように回転レバ−(5)を取り付ける。回転レバ−(5)と直交する操作レバ−(14)のフレ−ムのノブ取り付け部分にノブ(23)を組合せながら,デフ・ケ−ス(18)の左右に取り付けられたブレ−キハウジング(22)の,サイドギヤの回転軸(17)を受けるパイプ部分の外径をガイドとしてスライドする操作レバ−(14)を取り付ける。
装置全体をデフ・キャリア(3)で覆い,デフ・キャリア(3)の左右から出ているサイドギヤの回転軸(17)を受けるブレ−キハウジング(22)のパイプ部分の外径に,操舵装置と連動してデフ・キャリア(3)の中の操作レバ−(14)を動かすプッシュリング(19)を嵌め込む。
【0031】
自動車が直進している時は,ピニオンギヤの回転軸(12)の両側にある軸径が異なる軸の段差部分に取り付けられたカム(6)部分が,デフ・ケ−ス(18)の矩形の取付穴(25)に組み合わされて回転しないコントロ−ルシャフト(4)のフランジ(7)部分の凹部分と組み合い,デフ・ケ−ス(18)とコントロ−ルシャフト(4)の間に取り付けられたバネ(8)の力でコントロ−ルシャフト(4)の固定摩擦板(9-1)がピニオンギヤ(10)の歯面裏側の固定摩擦板(9-2)に押付けられ,ピニオンギヤ(10)の回転が固定される。上下のピニオンギヤが固定されるので噛み合っている左右両方のサイドギヤも固定され,左右の駆動輪軸は回転しないピニオンギヤ(10)とサイドギヤ(11)を介して直結状態になる。
【0032】
サイドギヤ(11)のスプロケット(20)と噛み合っている左右のサイドギヤの回転軸(17)端面は,ピニオンギヤの回転軸(12)中央部分の半円形と楕円形の半分を組み合わせた非円形断面のカム(16)部分の半円形直径部分に接して向き合い,サイドギヤの回転軸(17)に取り付けられた固定円盤(21)はブレ−キハウジング(22)の中の移動摩擦板(15-1),(15-2)をブレ−キハウジング(22)に押付けていないので,左右両方のサイドギヤの回転軸(17)にもサイドギヤ(11)にも回転負荷は架からず,自動車の駆動力は左右のサイドギヤの回転軸(17)が直結して1本化した状態の駆動輪軸に伝わる。
【0033】
自動車が旋回する時には,デフ・キャリアに取り付けられた旋回外側のプッシュリング(19)が操舵装置と連動して旋回内側方向に押し込まれる。押し込まれたプッシュリング(19)は操作レバ−(14)を旋回内側方向にスライドさせ,操作レバ−(14)と噛み合わされた回転レバ−(5)のノブ(23)を旋回内側方向に回転させ,回転レバ−(5)を取り付けたピニオンギヤの回転軸(12)は旋回内側方向に回転される。
【0034】
ピニオンギヤの回転軸(12)が回転すると2つの動作が始まる。
ピニオンギヤの回転軸(12)が回転すると,コントロ−ルシャフト(4)のフランジ(7)部分の凹部分と噛み合っていたカム(6)部分が凹部分から外れて,コントロ−ルシャフト(4)のフランジ(7)部分を持ち上げ,コントロ−ルシャフト(4)をバネの力に逆らってピニオンギヤの回転軸(12)芯方向に持ち上げ,ピニオンギヤ(10)の歯面裏側の摩擦板(9-1)を押付けていたコントロ−ルシャフト(4)の摩擦板(9-2)が持ち上げられ,ピニオンギヤ(10)が自由に回転することが可能になり,左右の駆動輪軸(13)に駆動力を配分することが可能になる。(図−5参照)
【0035】
ピニオンギヤの回転軸(12)の半径方向の動きは,ピニオンギヤの回転軸(12)が旋回内側方向に回転すると,ピニオンギヤの回転軸(12)中央の非円形断面のカム(16)部分の断面半径が大きい半楕円形断面部分が旋回内側方向に回転されるため,旋回内側のサイドギヤの回転軸(17)端面が接触する非円形断面のカム(16)部分の接触部分までの固定されたピニオンギヤの回転軸(12)芯からの距離が長くなるので,旋回内側のサイドギヤの回転軸(17)端面はピニオンギヤの回転軸(12)中央の半楕円形断面カム(16)部分に押され,旋回内側方向に押し出される力を受ける。(図−4参照)
【0036】
旋回外側方向のサイドギヤの回転軸(17)は,ピニオンギヤの回転軸(12)が旋回内側方向に回転しても非円形断面のカム(16)部分の半円形断面の外周部分に沿って接するので,ピニオンギヤの回転軸(12)芯から旋回外側のサイドギヤの回転軸(17)端面が接触する部分までの距離は変わらず,旋回外側のサイドギヤの回転軸(17)は直進時と同様に力を受けないので回転負荷が架からない。
【0037】
旋回内側方向に押し出される力を受けるサイドギヤの回転軸(17)は,軸途中にある固定円盤(21)が旋回内側の方のブレ−キハウジング(22)内に取り付けられた移動摩擦板(15-1),(15-2)をブレ−キハウジング(22)のケ−スに押し付け,旋回内側のサイドギヤの回転軸(17)に回転負荷を架ける。
これにより旋回内側のサイドギヤの回転数が低下するが,左右のサイドギヤの回転数の合計がデフ・ケ−ス(18)の回転数の2倍になるという差動装置の原理により,旋回外側のサイドギヤの回転数は旋回内側のサイドギヤの低下した回転数分だけ回転数が増加する。
【0038】
計算上,駆動輪にスリップが無い理想的な旋回走行では,旋回半径の大きさにより旋回内側の駆動輪の走行距離と旋回外側の駆動輪の走行距離の比が計算で求められるが,実際の自動車の旋回走行では,操舵装置の操舵角度から決まる旋回半径の時の計算上の理想的な旋回内側と旋回外側の駆動輪軸の回転数比に近づけるように,旋回内側の駆動輪軸と繋がっている旋回内側のサイドギヤの回転軸(17)に予め実験等で求めた回転負荷を架け,スリップが無い理想的な走行状態に近づけることができる。
【0039】
本発明のノン・スリップ・デフ装置を回転数比を実測せずに単独で使用する場合は,操舵装置の旋回角度と旋回半径の関係等と共に,予め実験的にピニオンギヤの回転軸(12)の回転角度とサイドギヤの回転軸(17)に架かる回転負荷や左右のサイドギヤの回転軸(17)回転数比などの関係を求めておき,旋回角度と旋回内側に必要な回転負荷を架けるためのピニオンギヤの回転軸(12)の必要回転角度を求めておく。
【0040】
より正確に制御する場合は,旋回時にドライブギヤを挟んで左右対称位置にある回転部分(サイドギヤ(11),サイドギヤの回転軸(17),固定円盤(21),駆動輪軸(13)等)の実際の回転数比を回転センサ−で測定し,計算上の理想的な回転数比と比較,その誤差をピニオンギヤの回転軸(12)の回転角度にフィ−ドバックして旋回内側のサイドギヤ(11)にかける回転負荷の大きさを制御することで,実際の左右対称位置にある回転部分の回転数比を計算上の理想的な回転数比の許容誤差範囲内に納めることでより正確に制御することができる。(図−7参照)
【0041】
自動車が旋回から直進する場合は,操舵装置と連動して旋回内側のプッシュリング(19)がデフ・ケ−ス(3)の中に押し込まれ,操作レバ−(14)を旋回外側方向にスライドし,ピニオンギヤの回転軸(12)両軸端に取り付けられた回転レバ−(5)の操作レバ−(14)と組み合わされたノブ(23)が中立位置に戻される。これにより左右のサイドギヤの回転軸(17)端面が,ピニオンギヤの回転軸(12)中央の非円形断面のカム(16)の円形断面の直径部分に向かい合って接するようになり,旋回内側のサイドギヤの回転軸(17)にかけた回転負荷が取り除かれる。
【0042】
同時に,ピニオンギヤの回転軸(12)の軸芯方向のカム(6)がピニオンギヤの回転軸(12)が回転することにより,バネ(8)の力に逆らってカム(6)の突起部分が持ち上げていたコントロ−ルシャフト(4)は,カム(6)の突起部分がフランジ(7)の凹部分と噛み合いコントロ−ルシャフト(4)が下がり,デフ・ケ−ス(3)の四角い取付け穴に噛合わされ回り止めされたコントロ−ルシャフト(4)の摩擦板(9-1)がバネ(8)によりピニオンギヤ(10)の歯面裏側の摩擦板(9-2)に押付けられ,ピニオンギヤ(10)の回転が固定され,左右の駆動輪軸(13)は直結状態になり,ロスの無い直進走行状態になる。
【0043】
ピニオンギヤの回転軸(12)の両側にある直進・旋回切り換え用カム(6)の形状や位置を変えることにより,ピニオンギヤ(10)の固定開始時期,固定開放時期,固定から開放までの時間,開放の程度や不感帯などを変えることが可能で,自動車の旋回走行性能を変えることができる。
【0044】
またピニオンギヤの回転軸(12)の直進・旋回切り換え用カム(6)部分は,軸の回転方向に関係なくコントロ−ルシャフト(4)を上下させてピニオンギヤ(10)の固定,開放動作をするので,旋回時のピニオンギヤの回転軸(12)の回転方向を任意に変えることで,旋回外側のサイドギヤ(11)に回転負荷をかける逆位相や,旋回時の旋回内側のサイドギヤ(11)にかける回転負荷を強くかけることで同位相効果を出すなど四輪操舵と同じ効果を出すことが可能になる。
【0045】
油圧で操作する場合(図−6),油圧ポンプで発生させた圧油をバルブで制御し,取付けた加圧器(小型の油圧シリンダ−)に送りピニオンギヤ(10)の回転,固定操作及び回転負荷操作をする。
【0046】
直進と旋回を切り替えるコントロ−ルシャフト(4)の上げ下げはギヤ・ケ−ス(18)と一緒に回転する直・旋切替金具(31)先端のクサビをコントロ−ルシャフト(4)上部に開いた孔に小型の油圧シリンダ−(34)で出し入れすることで制御し,サイドギヤ(11)にかける回転負荷は,デフ・ケ−ス(3)の外側からブレ−キハウジング(22)内の移動摩擦板(15-1),(15-2)を小型の油圧シリンダ−(33)でサイドギヤ(11)背面に取付けた摩擦板(15-3)に押付けて回転負荷をかけるので機械式の場合のピニオンギヤの回転軸(12)のカム(6),(16)は2箇所とも不要になる。
【0047】
ピニオンギヤの回転軸(30)の回転軸中央部分(35)は円形断面で,小型の油圧シリンダ−(33)で加圧されたときにピニオンギヤ(10)とサイドギヤ(11)の噛合い状態を保持し,コントロ−ルシャフト(4)のガイドも兼務する。
またサイドギヤ(11)の位置は負荷状態に関係なく動かないので,ギヤと回転軸は一体型とし,サイドギヤ(11)の背面に回転負荷を受止める摩擦板(15-3)を取付ける。
【0048】
機械式の操作方法と同様に,制御精度を上げて旋回時の駆動力をより正確に配分するには,左右の駆動輪軸(13)に回転センサ−を取付け左右の駆動輪軸(13)の実際の回転数比を測定し,計算上の理想的な回転数比と比較し誤差を旋回内側のサイドギヤ(11)にかける小型の油圧シリンダ−(33)の加圧回数若しくは油圧力にフィ−ドバックし回転数比の許容誤差範囲内に納まるように制御する。(図−8参照)
【0049】
回転数比を測らずにノン・スリップ・デフ装置単独で使用する場合は,機械式の操作方法と同様に,ピニオンギヤ(10)の固定開始時期,固定開放時期,固定から開放までの時間,開放の程度や不感帯,操舵角度と小型の油圧シリンダ−(33)の加圧力と回転負荷の関係など制御に必要な事項を予め実験的に求め機械的な設定をする。
【産業上の利用可能性】
【0050】
ノン・スリップ・デフを装備していない自動車では,左右の駆動輪の走行抵抗が同じ場合,差動装置は駆動力を左右の駆動輪に均等に分配するが,左右の駆動輪の走行抵抗差が大きくなった場合,走行抵抗の大きい方の駆動輪と繋がったサイドギヤに回転負荷が架かったのと同じ状態なので,回転数が低下する。差動装置の原理で走行抵抗の小さい方の駆動輪と繋がったサイドギヤの回転数が回転数が低下した分上昇するため,走行抵抗の小さい方の駆動輪の接地状態を更に悪化させ,駆動力を浪費させる。
【0051】
本発明のノン・スリップ・デフを装備した場合,直進走行では左右の駆動輪軸を直結状態にし,駆動力は左右の駆動輪の走行抵抗(反力)の大きさに比例して駆動力が配分されるので,片側の駆動輪に走行抵抗が全く無い状態でも他方の駆動輪側に十分な走行抵抗があれば走行可能であり,駆動力のロスがない。
また旋回時は操舵装置と連動してピニオンギヤの回転軸(12)が回転し,旋回内側の駆動輪と繋がったサイドギヤの回転軸に予め実験等で決められた旋回半径に応じた回転負荷を架けることで,走行抵抗差とは関係なく旋回内側と旋回外側のサイドギヤの回転軸の回転数比を計算上の理想的な回転数比に近づけることにより空転などの動力ロスを防ぐことができる。
【0052】
本発明のノン・スリップ・デフは操舵装置と連動させることにより,運転者の負担にならず直進時も旋回時も駆動力を無駄なく左右の駆動車輪に分配する。左右の駆動輪軸の回転数比を計算上の理想的な回転数比に近づけることで,車輪の摩耗や走行安定性,燃費の向上,不整地や雪道での走行性能の向上などが期待できる。
【0053】

また駆動輪軸の回転数比を任意に変えることにより旋回時の自動車の回頭性の向上や高速走行中のレ−ン変更時や縦列駐車,狭い場所での旋回等で有効な四輪操舵と同様の効果が期待できる。建設機械等の無限軌道車の操縦も,本発明のノン・スリップ・デフを使用し左右の無限軌道に無駄なく動力分配することで,操舵方法をハンドル式に変えることが可能と思われる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】旋回時の車輪の走行軌跡の説明図
【図2】本発明の機械式操作方法のノン・スリップ・デフの構造例
【図3】本発明の機械式操作方法のノン・スリップ・デフの内部構造の説明図
【図4】本発明の機械式操作方法のノン・スリップ・デフの作動説明図
【図5】本発明の機械式操作方法のノン・スリップ・デフの操作部分の説明図
【図6】本発明の油圧式操作方法のノン・スリップ・デフの構造例
【図7】本発明の機械式操作方法のノン・スリップ・デフを使用したシステムの例
【図8】本発明の油圧式操作方法のノン・スリップ・デフを使用したシステムの例
【符号の説明】
【0055】
1 ドライブピニオン
2 ドライブギヤ
3 デフ・キャリア
4 コントロ−ルシャフト
5 回転レバ−
6 カム
7 フランジ
8 バネ
9−1 固定摩擦板
9−2 固定摩擦板
10 ピニオンギヤ
11 サイドギヤ
12 ピニオンギヤの回転軸
13 駆動輪軸
14 操作レバ−
15−1 移動摩擦板
15−2 移動摩擦板
15−3 摩擦板
16 カム
17 サイドギヤの回転軸
18 デフ・ケ−ス
19 プッシュリング
20 スプライン
21 固定円盤
22 ブレ−キハウジング
23 ノブ
24 カバ−
25 取付穴
30 ピニオンギヤの回転軸
31 直進・旋回切替金具

32 バネ
33 小型油圧シリンダ−
34 小型油圧シリンダ−
35 ピニオンギヤの回転軸中央部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドライブギヤの回転軸芯に取り付けたデフ・ケ−スの中にサイドギヤとピニオンギヤを組合わせた差動装置で,操舵装置と差動装置の歯車の動きを連動させ,直進時には差動装置のピニオンギヤの回転を固定して左右の駆動輪軸をスリップのない直結状態にし,旋回時にはピニオンギヤの回転を開放し,旋回内側のサイドギヤに旋回半径に応じた回転負荷を掛け,走行抵抗に関係なく左右の駆動輪にスリップがない理想的な旋回走行状態に近づけることを特徴とするノン・スリップ・デフ装置。
【請求項2】
請求項1で,旋回走行時に左右の駆動輪の実際の軸回転数比を計り,操舵装置から算出される旋回半径に応じた左右の駆動輪の計算上の理想的な回転数比との誤差を計算し,この誤差の値が予め設定した許容範囲内に入るように旋回内側のサイドギヤに架ける回転負荷の大きさにフィ−ドバックすることで,より高い精度で旋回走行時のスリップを無くすように制御回路を追加したことを特徴とする請求項1のノン・スリップ・デフ装置を使用したシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−2861(P2007−2861A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−180327(P2005−180327)
【出願日】平成17年6月21日(2005.6.21)
【特許番号】特許第3747051号(P3747051)
【特許公報発行日】平成18年2月22日(2006.2.22)
【出願人】(301032126)有限会社ワンダー企画 (9)
【Fターム(参考)】