説明

攪拌装置と分析装置

【課題】反応容器の隅部を含む全体を短時間で攪拌することが可能な攪拌装置と分析装置とを提供すること。
【解決手段】液体を保持する容器と、液体に音波を照射すると共に、音波によって液体を攪拌する流れを発生させる表面弾性波素子とを備えた攪拌装置と分析装置。攪拌装置の表面弾性波素子22は、表面弾性波素子から遠ざかる方向に流れる少なくとも2つの離隔流Faと、少なくとも2つの離隔流の間を表面弾性波素子へ戻る方向に流れる帰還流Fbとを液体L内に発生させる。容器7は、少なくとも2つの離隔流の外側に液体の界面を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、攪拌装置と分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、分析装置は、いわゆるキャリーオーバーを回避すべく検体と試薬を含む液体試料を音波によって被接触で攪拌するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。この分析装置は、図15に示すように、反応容器Cの外部に設けた音源S1,S2を順番に駆動し、音源S1,S2から照射される音波Wsによって反応容器Cに保持された液体Lを攪拌している。
【0003】
【特許文献1】特許第3661076号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に開示された分析装置は、音源S1,S2が発生した音波Wsによって液体L中に旋回流Ftを惹起させて液体Lを攪拌している。音波Wsによって発生した直後の旋回流Ftは、十分な流速を有しているが、壁面付近を流れるにつれて壁面との摩擦により流速が低下する。この流速が低下した旋回流が再び壁面付近を流れると、旋回流Ftの流速は壁面との摩擦によって更に低下してしまう。このため、特許文献1の分析装置は、側壁と底壁とが交わる反応容器の隅部(図中、一点鎖線で囲んだA部)にまで旋回流Ftが届き難くなり、攪拌に時間が掛かるという問題があった。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、反応容器の隅部を含む全体を短時間で攪拌することが可能な攪拌装置と分析装置とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、請求項1に係る攪拌装置は、液体を保持する容器と、前記液体に音波を照射すると共に、当該音波によって前記液体を攪拌する流れを発生させる音波発生手段と、を備え、前記音波発生手段は、当該音波発生手段から遠ざかる方向に流れる少なくとも2つの離隔流と、当該少なくとも2つの離隔流の間を前記音波発生手段へ戻る方向に流れる帰還流とを前記液体内に発生させることを特徴とする。
【0007】
また、請求項2に係る攪拌装置は、上記の発明において、前記容器は、前記少なくとも2つの離隔流の外側に前記液体の界面を有することを特徴とする。
【0008】
また、請求項3に係る攪拌装置は、上記の発明において、前記界面は、前記容器の壁面と前記液体とが接する固液界面、気体と前記液体とが接する気液界面又は前記容器に保持される異なる液体が接する液液界面のいずれか一つであることを特徴とする。
【0009】
また、請求項4に係る攪拌装置は、上記の発明において、前記少なくとも2つの離隔流は、前記液体の界面に沿った流れであることを特徴とする。
【0010】
また、請求項5に係る攪拌装置は、上記の発明において、前記音波発生手段は、複数の方向へ同時に音波を照射することを特徴とする。
【0011】
また、請求項6に係る攪拌装置は、上記の発明において、前記音波発生手段は、複数設けられ、前記複数の音波発生手段は、それぞれ異なる位置から前記液体に同時に音波を照射することを特徴とする。
【0012】
また、請求項7に係る攪拌装置は、上記の発明において、前記音波は、同一の音波発生手段から照射されることを特徴とする。
【0013】
また、請求項8に係る攪拌装置は、上記の発明において、前記音波発生手段は、表面弾性波素子であることを特徴とする。
【0014】
また、請求項9に係る攪拌装置は、上記の発明において、前記音波は、前記音波がはじめて照射される前記容器の壁に対して傾斜して入射することを特徴とする。
【0015】
また、請求項10に係る攪拌装置は、上記の発明において、前記容器は、底壁と側壁とを有し、前記側壁の前記底壁に対する傾斜角度と前記容器内に生じる音波の当該底壁上面に対する入射角度とは等しいことを特徴とする。
【0016】
また、上述した課題を解決し、目的を達成するために、請求項11に係る分析装置は、複数の異なる液体を攪拌して反応させ、反応液の光学的特性を測定して前記反応液を分析する分析装置であって、前記攪拌装置を用いて検体と試薬との反応液を光学的に分析することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の攪拌装置は、音波発生手段が、当該音波発生手段から遠ざかる方向に流れる少なくとも2つの離隔流と、少なくとも2つの離隔流の間を前記音波発生手段へ戻る方向に流れる帰還流とを液体内に発生させ、本発明の分析装置は、前記攪拌装置を備えているので、少なくとも2つの離隔流の間を流速の弱まった帰還流が流れるので、帰還流の速度が反応容器の壁面との摩擦によって低下し難く、反応容器の隅部を含む液体全体を短時間で攪拌することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
(実施の形態1)
以下、本発明の攪拌装置と分析装置にかかる実施の形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。図1は、実施の形態1の自動分析装置を示す概略構成図である。図2は、実施の形態1の自動分析装置で使用する反応容器及び反応ホイールの一部を攪拌装置の概略構成図と共に示す斜視図である。図3は、反応容器の底面に取り付けた表面弾性波素子が発生した音波及び音波によって惹起される流れを示す反応容器の縦断面図である。図4は、図3の反応容器の底面に取り付けた表面弾性波素子の正面図である。
【0019】
自動分析装置1は、図1に示すように、作業テーブル2上に検体テーブル3、検体分注機構5、反応ホイール6、測光装置10、洗浄装置11、試薬分注機構12及び試薬テーブル13が設けられ、攪拌装置20を備えている。
【0020】
検体テーブル3は、図1に示すように、駆動手段によって矢印で示す方向に回転され、外周には周方向に沿って等間隔で配置される収納室3aが複数設けられている。各収納室3aは、検体を収容した検体容器4が着脱自在に収納される。
【0021】
検体分注機構5は、反応ホイール6に保持された複数の反応容器7に検体を分注する手段であり、図1に示すように、検体テーブル3の複数の検体容器4から検体を順次反応容器7に分注する。
【0022】
反応ホイール6は、検体テーブル3とは異なる駆動手段によって図1に矢印で示す方向に回転され、外周には周方向に沿って複数の凹部6aが等間隔で設けられている。反応ホイール6は、各凹部6aの半径方向両側に測定光が通過する開口6b(図2参照)が形成されている。反応ホイール6は、一周期で時計方向に(1周−1反応容器)/4分回転し、四周期で反時計方向に凹部6aの1個分回転する。反応ホイール6の外周近傍には、測光装置10、洗浄装置11及び攪拌装置20が配置されている。
【0023】
反応容器7は、容量が数nL〜数十μLと微量な容器であり、測光装置10の光源10aから出射された分析光(340〜800nm)に含まれる光の80%以上を透過する透明素材、例えば、耐熱ガラスを含むガラス,環状オレフィンやポリスチレン等の合成樹脂が使用される。反応容器7は、図2及び図3に示すように、側壁7a,7bと底壁7cとによって液体を保持する水平断面が正方形の液体保持部7dが形成され、液体保持部7dの上部に開口7eを有する四角筒形状のキュベットである。反応容器7は、液体保持部7dの内面に検体や試薬等の液体に対する親和性処理が施されており、分析光を透過させる対向する2つの側壁7aが液体の光学的測定に使用される。反応容器7は、側壁7aを反応ホイール6の半径方向に向けると共に、側壁7bを反応ホイール6の周方向に向けて、凹部6aに配置される。
【0024】
測光装置10は、図1に示すように、反応ホイール6の外周近傍に配置され、反応容器7に保持された液体を分析する分析光(340〜800nm)を出射する光源と、液体を透過した分析光を分光して受光する受光器とを有している。測光装置10は、前記光源と受光器が反応ホイール6の凹部6aを挟んで半径方向に対向する位置に配置されている。
【0025】
洗浄装置11は、反応容器7から液体や洗浄液を排出する排出手段と、洗浄液の分注手段とを有している。洗浄装置11は、測光終了後の反応容器7から測光後の液体を排出した後、洗浄液を分注する。洗浄装置11は、洗浄液の分注と排出の動作を複数回繰り返すことにより、反応容器7の内部を洗浄する。このようにして洗浄された反応容器7は、再度、新たな検体の分析に使用される。
【0026】
試薬分注機構12は、反応ホイール6に保持された複数の反応容器7に試薬を分注する手段であり、図1に示すように、試薬テーブル13の所定の試薬容器14から試薬を順次反応容器7に分注する。
【0027】
試薬テーブル13は、検体テーブル3及び反応ホイール6とは異なる駆動手段によって図1に矢印で示す方向に回転され、扇形に成形された収納室13aが周方向に沿って複数設けられている。各収納室13aは、試薬容器14が着脱自在に収納される。複数の試薬容器14は、それぞれ検査項目に応じた所定の試薬が満たされ、外面には収容した試薬に関する情報を表示するバーコードラベル(図示せず)が貼付されている。
【0028】
ここで、試薬テーブル13の外周には、図1に示すように、試薬容器14に貼付した前記バーコードラベルに記録された試薬の種類,ロット及び有効期限等の情報を読み取り、制御部16へ出力する読取装置15が設置されている。
【0029】
制御部16は、検体テーブル3、検体分注機構5、反応ホイール6、測光装置10、洗浄装置11、試薬分注機構12、試薬テーブル13、読取装置15、分析部17、入力部18、表示部19及び攪拌装置20等と接続され、例えば、分析結果を記憶する記憶機能を備えたマイクロコンピュータ等が使用される。制御部16は、自動分析装置1の各部の作動を制御すると共に、前記バーコードラベルの記録から読み取った情報に基づき、試薬のロットや有効期限等が設置範囲外の場合、分析作業を停止するように自動分析装置1を制御し、或いはオペレータに警告を発する。
【0030】
分析部17は、制御部16を介して測光装置10に接続され、受光器が受光した光量に基づく反応容器7内の液体の吸光度から検体の成分濃度等を分析し、分析結果を制御部16に出力する。入力部18は、制御部16へ検査項目等を入力する操作を行う部分であり、例えば、キーボードやマウス等が使用される。表示部19は、分析内容や警報等を表示するもので、ディスプレイパネル等が使用される。
【0031】
攪拌装置20は、表面弾性波素子22を駆動して発生する音波によって反応容器7に保持された液体を攪拌するもので、図2に示すように、表面弾性波素子22に電力を送電する送電体21と、表面弾性波素子22とを有している。
【0032】
送電体21は、RF送信アンテナ21a、駆動回路21b及びコントローラ21cを有している。送電体21は、数MHz〜数百MHz程度の高周波交流電源から供給される電力をRF送信アンテナ21aから駆動信号として表面弾性波素子22に発信する。RF送信アンテナ21aは、反応ホイール6の凹部6a底部に取り付けられている。このため、攪拌装置20は、例えば、コントローラ21cによって制御されるスイッチを切り替えることにより、供給される電力を複数のRF送信アンテナ21aの中から特定のRF送信アンテナ21aに出力するように切り替える。
【0033】
駆動回路21bは、コントローラ21cからの制御信号に基づいて発振周波数を変更可能な発振回路を有しており、数十MHz〜数百MHz程度の高周波の発振信号をRF送信アンテナ21aへ出力する。ここで、RF送信アンテナ21aと駆動回路21bとの間は、反応ホイール6が回転しても電力が電送されるように、接触電極を介して接続されている。コントローラ21cは、駆動回路21bの作動を制御し、例えば、表面弾性波素子22が発する音波の特性(周波数,強度,位相,波の特性)、波形(正弦波,三角波,矩形波,バースト波等)或いは変調(振幅変調,周波数変調)等を制御する。また、コントローラ21cは、内蔵したタイマに従って駆動回路21bが発振する発振信号の周波数を切り替えることができる。
【0034】
表面弾性波素子22は、RF送信アンテナ21aから発信される駆動信号(電力)を受信して音波を発生する音波発生手段である。表面弾性波素子22は、エポキシ樹脂等の音響整合層を介して図3に示すように反応容器7の一つの平面上、ここでは底壁7cに取り付けられる。表面弾性波素子22は、図3及び図4に示すように、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)等からなる圧電基板22a上に櫛歯状電極(IDT)からなる振動子22bとアンテナ22cが形成されている。振動子22bは、RF送信アンテナ21aから発信される駆動信号(電力)をアンテナ22cで受信することによって音波を発生する音源である。
【0035】
以上のように構成される自動分析装置1は、回転する反応ホイール6によって周方向に沿って搬送されてくる複数の反応容器7に試薬分注機構12が試薬容器14から試薬を順次分注する。試薬が分注された反応容器7は、反応ホイール6によって周方向に沿って搬送され、検体分注機構5によって検体テーブル3に保持された複数の検体容器4から検体が順次分注される。そして、検体が分注された反応容器7は、反応ホイール6によって攪拌装置20へ搬送され、分注された試薬と検体が順次攪拌されて反応する。このようにして検体と試薬が反応した反応液は、反応ホイール6が再び回転したときに測光装置10を通過し、光源から出射された分析光が透過する。このとき、反応容器7内の試薬と検体の反応液は、受光部で側光され、制御部16によって成分濃度等が分析される。そして、分析が終了した反応容器7は、洗浄装置11によって洗浄された後、再度検体の分析に使用される。
【0036】
このとき、攪拌装置20は、制御部16を介して入力部18から予め入力された制御信号に基づき、反応ホイール6の停止時にコントローラ21cが駆動回路21bに駆動信号を入力する。これにより、表面弾性波素子22は、入力される駆動信号の周波数に応じて振動子22bが駆動され、音波(バルク波)を誘起する。誘起された音波(バルク波)は、圧電基板22a及び音響整合層を通って反応容器7の底壁7c内へと伝搬し、図3に示すように、音響インピーダンスが近い液体L中へバルク波Wbが異なる位置から二方向に漏れ出し、液体Lに同時に照射される。
【0037】
この結果、反応容器7内の液体L中には、表面弾性波素子22から遠ざかる方向に流れる2つの離隔流Faと、2つの離隔流Faの間を表面弾性波素子22へ戻る方向に流れる帰還流Fbとが生じる。このとき、2つの離隔流Faは、液体L中へ漏れ出したバルク波Wbによって発生する比較的早い流れであるので、外側に液体Lの界面となる側壁7a,7bが存在していても流速が側壁7a,7bとの摩擦によって低下し難い。そして、2つの離隔流Faは、メニスカスMまで到達すると、側壁7a,7bやメニスカスMによって規制されるため、図3に示すように、2つの離隔流Faの間を通って表面弾性波素子22へ戻る方向に流れる帰還流Fbとなる。
【0038】
従って、側壁7a,7b(側壁と液体との固液界面)は、離隔流Faの外側に存在し、帰還流Fbは2つの離隔流Faの間を流れるので、側壁7a,7bとの摩擦が起こり難い。このため、帰還流Fbは流速が低下し難くなる。また、反応容器7に保持された液体Lは、2つの離隔流Faと2つの離隔流Faの間を表面弾性波素子22へ戻る方向に流れる帰還流Fbとによる攪拌により、側壁7a,7bと底壁7cとが交わる反応容器7の隅部における流速の低下が抑えられ、隅部を含む全体が短時間で攪拌される。しかも、図3において、バルク波Wbは、2つの離隔流Faの他、図示しないが、下側の側壁7a,と底壁7cとが交わる反応容器7の隅部に2つの離隔流Faと向きの異なる反流を発生させるため、この反流によっても隅部に存在する液体Lが攪拌される。
【0039】
このように、攪拌装置20は、音波発生手段として表面弾性波素子22を使用していることから、表面弾性波素子22が発生したバルク波Wbは、音波がはじめて照射される反応容器7の壁に対して傾斜して入射する。言い換えると、液体Lと底壁7cとの界面である底壁7cの上面に対して傾斜して入射し、液体Lをすくい上げるように離隔流Faを発生させる。このとき、図5に示すように、初めて液体Lに入射する音波の底壁7cの上面に対する入射角をθとすると、入射角θは0°<θ<90°となる。
【0040】
また、攪拌装置20においては、表面弾性波素子22が発生した音波(表面弾性波,バルク波)は、液体Lの界面、即ち、液体Lと底壁7cとの界面に対して傾斜して入射する。このため、攪拌装置20で使用する反応容器は、図6に示す反応容器8のように、表面弾性波素子22が発生する音波(バルク波Wb)の入射角に対応させて、側壁8aを入射角θと略等しい角度ψだけ水平面(底壁8c)に対して傾斜させてもよい。このように側壁8aを傾斜させると、反応容器8は、側壁8aと底壁8cとが交わる隅部における流れの速度の低下や液体の滞留が抑えられ、保持した液体Lを短時間で攪拌することができる。
【0041】
(変形例)
ここで、攪拌装置20は、図7−1に示すように、表面弾性波素子22を反応容器7の側壁7aに取り付け、側壁7aから音波を照射してもよい。この場合、送電体21のRF送信アンテナ21aは、反応ホイール6の凹部6a側壁に取り付ける。
【0042】
攪拌装置20は、表面弾性波素子22を側壁7aに取り付けても、反応容器7内の液体L中に表面弾性波素子22から遠ざかる方向に流れる2つの離隔流Faと、2つの離隔流Faの間を表面弾性波素子22へ戻る方向に流れる帰還流Fbとが生じる。このため、この場合も実施の形態1と同様に、離隔流Faの外側に底壁7c(底壁と液体との固液界面)及びメニスカスM(大気と液体との気液界面)が存在し、帰還流Fbは2つの離隔流Faの間を流れるので、界面における摩擦が起こり難い。従って、帰還流Fbは流速が低下し難くなり、反応容器7の隅部を含む液体L全体を、短時間で攪拌することができる。なお、図7−2に示すように、液体の乾燥防止のため、液体Lの表面に油膜Lo等を設けた場合には、液体LのメニスカスMは液体Lと油膜Loとの液液界面となる。このため、離隔流Faの外側に固液界面及び液液界面が存在することになる。
【0043】
この場合、表面弾性波素子22は、図8に示すように、振動子22bを底壁7c側に変位した位置に配置すると、2つの離隔流Faと帰還流Fbがこの配置に対応して上下方向に変位した位置に発生し、液体Lの攪拌効率を変化させることができる。従って、表面弾性波素子22は、振動子22bをメニスカスM側に変位した位置に配置してもよい。
【0044】
なお、実施の形態1の攪拌装置20は、音波としてバルク波を用いた場合について説明した。しかし、攪拌装置20は、振動子22bを側壁7aに向けて表面弾性波素子22を反応容器7に取り付け、表面弾性波によって液体を攪拌することも可能である。
【0045】
(実施の形態2)
次に、本発明の攪拌装置と分析装置にかかる実施の形態2について、図面を参照しつつ詳細に説明する。実施の形態1の攪拌装置と分析装置は、音波発生手段として表面弾性波素子を使用したが、実施の形態2の攪拌装置と分析装置は、音波発生手段として厚み縦振動子を使用している。
【0046】
図9は、実施の形態2の自動分析装置を示す概略構成図である。図10は、実施の形態2の自動分析装置の反応ホイールを攪拌装置の位置で切断した断面図である。図11は、実施の形態2の攪拌装置の概略構成図であり、厚み縦振動子を断面にしている。図12は、図11の攪拌装置で使用している厚み縦振動子の平面図である。実施の形態2の自動分析装置は、攪拌装置の構成が異なることを除き実施の形態1の自動分析装置と構成が同一であるので、同一の構成部分に同一の符号を付して説明する。
【0047】
自動分析装置30は、図9に示すように、攪拌装置40を備えており、攪拌装置40の厚み縦振動子41によって反応容器9が保持した液体を攪拌している。厚み縦振動子41は、図10に示すように、反応ホイール6に形成された複数の凹部6aの底部にそれぞれ設けられている。ここで、実施の形態2においては、反応ホイール6は、恒温槽を兼ねており、図10に示すように、内部に恒温液Ltを保持している。
【0048】
反応容器9は、容量が数nL〜数十μLと微量な容器であり、反応容器7と同じ透明素材によって側壁9aと底壁9cとを有し、液体保持部9dの上部に開口9eを有する反応容器7と略同様の四角筒形状に成形され、内面には親和性処理が施されている。このとき、反応容器9は、図10に示すように、底壁9cの外面が対向する側壁9a側から中央に向かって斜めに凹状に傾斜した傾斜面に成形されている。
【0049】
攪拌装置40は、制御部16の制御の下に作動し、図11に示すように、厚み縦振動子41、電源42及びコントローラ43を有している。
【0050】
厚み縦振動子41は、板面に垂直に音波を発生する音波発生手段であり、接着剤等によって反応ホイール6の凹部6a底部に取り付けられている。厚み縦振動子41は、図11及び図12に示すように、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)からなる圧電基板41aの両面に電極41bを設けたもので、各電極41bには、引出し電極41cが接続されている。厚み縦振動子41は、底壁9cに対向する電極41bをグランド側とすることにより、音波を出射する音源となる。電源42は、厚み縦振動子41を駆動する交流電源であり、図11に示す配線44を介して電極41bに数MHz〜数百MHz程度の高周波交流電圧を印加する。ここで、厚み縦振動子41と電源42との間を接続する配線44は、反応ホイール6が回転しても電力が電送されるように、接触電極を介して接続されている。
【0051】
コントローラ43は、電源42を制御して電極41bが発する音波の特性(周波数,強度,位相,波の特性)、波形(正弦波,三角波,矩形波,バースト波等)或いは変調(振幅変調,周波数変調)等を制御する。
【0052】
従って、反応容器9は、保持した液体試料が攪拌装置40によって以下のように攪拌される。先ず、攪拌装置40は、コントローラ43による制御の下に電源42から供給する電力によって厚み縦振動子41を駆動する。これにより、厚み縦振動子41は、図10に示すように、底壁9cに対向する電極41bが音波を誘起する。誘起された音波は、恒温液Ltが音響整合層となって恒温液Lt中を伝搬し、反応容器9の斜めに傾斜した傾斜面から底壁9cに入射する。このため、底壁9cに入射した音波は、図10に示すように、底壁9c内を斜めに伝搬し、液体Lと底壁9cとの界面である底壁9c上面に対して傾斜した状態で液体Lに入射する。
【0053】
これにより、図10に示すように、音波Waは、音響インピーダンスが近い液体Lへ底壁9c上面の異なる位置から上方に漏れ出してゆく。この結果、反応容器9内の液体L中には、厚み縦振動子41から遠ざかる方向に流れる2つの離隔流Faと、2つの離隔流Faの間を厚み縦振動子41へ戻る方向に流れる帰還流Fbとが生じる。従って、反応容器9に保持された液体Lは、2つの離隔流Faと2つの離隔流Faの間を厚み縦振動子41へ戻る方向に流れる帰還流FbとによるメニスカスMまで到達する対流攪拌により、側壁9aと底壁9cとが交わる反応容器9の隅部における流速の低下が抑えられ、隅部を含む全体が短時間で攪拌される。
【0054】
(変形例)
ここで、反応容器9に代えて一般的な形状の反応容器7を使用する場合には、攪拌装置40は、図13に示すように、2つの厚み縦振動子41を使用する。この場合、2つの厚み縦振動子41は、2つの離隔流Faを発生させる位置に対応させて反応ホイール6の凹部6a底部の異なる位置に取り付け、それぞれ異なる位置から液体Lに音波を同時に照射する。このとき、図13に示すように、液体Lへ漏れ出す音波Waによって、反応容器7が保持した液体Lには液体Lの界面である側壁7aに沿って厚み縦振動子41から遠ざかる方向に立ち上がり、メニスカスMで中央へ向かう2つの離隔流Faが発生し、2つの離隔流Faの間には厚み縦振動子41へ戻る方向に流れる帰還流Fbが発生する。このため、攪拌装置40は、反応容器7の隅部における流速の低下を抑え、隅部を含めて液体全体を短時間で攪拌することができる。
【0055】
また、攪拌装置40は、図14に示すように、2つの厚み縦振動子41を2つの離隔流Faを発生させる位置に対応させて反応容器7の一つの平面上、ここでは底壁7c下面に取り付けてもよい。このようにしても、攪拌装置40は、反応容器7が保持した液体Lに厚み縦振動子41から遠ざかる方向に流れる2つの離隔流Faと、2つの離隔流Faの間を厚み縦振動子41へ戻る方向に流れる帰還流Fbとを発生させることができる。また、2つの厚み縦振動子41を反応容器7の互いに平行な2つの面上に、又は互いに平行で高さの異なる2つの面上に、それぞれ取り付けても同様の効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】実施の形態1の自動分析装置を示す概略構成図である。
【図2】実施の形態1の自動分析装置で使用する反応容器及び反応ホイールの一部を攪拌装置の概略構成図と共に示す斜視図である。
【図3】反応容器の底面に取り付けた表面弾性波素子が発生した音波及び音波によって惹起される離隔流と帰還流を示す反応容器の縦断面図である。
【図4】図3の反応容器の底面に取り付けた表面弾性波素子の正面図である。
【図5】底壁から液体に入射する音波の入射角を説明する反応容器の断面図である。
【図6】液体に入射する音波の入射角に対応させて側壁を傾斜させた反応容器における離隔流と帰還流を示す断面図である。
【図7−1】表面弾性波素子を側面に取り付けた変形例を示し、反応容器内おける離隔流と帰還流を示す断面図である。
【図7−2】図7−1に示す変形例において、液体の表面に油膜等を設けた場合の反応容器内おける離隔流と帰還流を示す断面図である。
【図8】図7−1に示す変形例において、表面弾性波素子の振動子の位置を変位させた反応容器内おける離隔流と帰還流を示す断面図である。
【図9】実施の形態2の自動分析装置を示す概略構成図である。
【図10】実施の形態2の自動分析装置の反応ホイールを攪拌装置の位置で切断し、反応容器における離隔流と帰還流を示す断面図である。
【図11】実施の形態2の攪拌装置の概略構成図であり、厚み縦振動子を断面にしている。
【図12】図11の攪拌装置で使用している厚み縦振動子の平面図である。
【図13】厚み縦振動子を2つ使用した変形例を示す図10に対応した断面図である。
【図14】図13の変形例に関し、厚み縦振動子を反応容器に設けた変形例において、反応容器における離隔流と帰還流を示す断面図である。
【図15】従来の分析装置における反応容器に保持された液体の攪拌を説明する図である。
【符号の説明】
【0057】
1 自動分析装置
2 作業テーブル
3 検体テーブル
4 検体容器
5 検体分注機構
6 反応ホイール
7,8,9 反応容器
10 測光装置
11 洗浄装置
12 試薬分注機構
13 試薬テーブル
14 試薬容器
15 読取装置
16 制御部
17 分析部
18 入力部
19 表示部
20 攪拌装置
21 送電体
22 表面弾性波素子
30 自動分析装置
40 攪拌装置
41 厚み縦振動子
42 電源
43 コントローラ
Fa 離隔流
Fb 帰還流

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を保持する容器と、
前記液体に音波を照射すると共に、当該音波によって前記液体を攪拌する流れを発生させる音波発生手段と、
を備え、
前記音波発生手段は、当該音波発生手段から遠ざかる方向に流れる少なくとも2つの離隔流と、当該少なくとも2つの離隔流の間を前記音波発生手段へ戻る方向に流れる帰還流とを前記液体内に発生させることを特徴とする攪拌装置。
【請求項2】
前記容器は、前記少なくとも2つの離隔流の外側に前記液体の界面を有することを特徴とする請求項1に記載の攪拌装置。
【請求項3】
前記界面は、前記容器の壁面と前記液体とが接する固液界面、気体と前記液体とが接する気液界面又は前記容器に保持される異なる液体が接する液液界面のいずれか一つであることを特徴とする請求項2に記載の攪拌装置。
【請求項4】
前記少なくとも2つの離隔流は、前記液体の界面に沿った流れであることを特徴とする請求項2に記載の攪拌装置。
【請求項5】
前記音波発生手段は、複数の方向へ同時に音波を照射することを特徴とする請求項1に記載の攪拌装置。
【請求項6】
前記音波発生手段は、複数設けられ、
前記複数の音波発生手段は、それぞれ異なる位置から前記液体に同時に音波を照射することを特徴とする請求項1に記載の攪拌装置。
【請求項7】
前記音波は、同一の音波発生手段から照射されることを特徴とする請求項6に記載の攪拌装置。
【請求項8】
前記音波発生手段は、表面弾性波素子であることを特徴とする請求項7に記載の攪拌装置。
【請求項9】
前記音波は、前記音波がはじめて照射される前記容器の壁に対して傾斜して入射することを特徴とする請求項1に記載の攪拌装置。
【請求項10】
前記容器は、底壁と側壁とを有し、
前記側壁の前記底壁に対する傾斜角度と前記容器内に生じる音波の当該底壁上面に対する入射角度とは等しいことを特徴とする請求項1に記載の攪拌装置。
【請求項11】
複数の異なる液体を攪拌して反応させ、反応液の光学的特性を測定して前記反応液を分析する分析装置であって、請求項1〜9のいずれか一つに記載の攪拌装置を用いて検体と試薬との反応液を光学的に分析することを特徴とする分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7−1】
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【図7−2】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2007−232376(P2007−232376A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−50574(P2006−50574)
【出願日】平成18年2月27日(2006.2.27)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】