説明

改善された臓器の保護、保存および回復

本願は、虚血、再灌流の間、または虚血もしくは外傷後の細胞、組織または臓器の傷害または損傷を低減するための組成物、治療方法、および薬物の製造方法を記述する。細胞、組織または臓器の損傷を低減するための方法は、(i)カリウムチャネルオープナーもしくはアゴニストおよび/またはアデノシン受容体アゴニスト、ならびに(ii)抗不整脈剤を含む有効量の組成物を投与するステップを含む。この方法は、細胞、組織または臓器をポストコンディショニングするステップをさらに含むことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、虚血または再灌流の間の、細胞、組織、または臓器の傷害の低減方法に関する。本発明は、虚血、または何らかの形態の傷害もしくは外傷から生じる場合のある、細胞、組織、または臓器の損傷を低減することにも関する。
【背景技術】
【0002】
虚血性心疾患は、オーストラリアおよび他の先進工業国において、依然として死亡および罹患率の主要原因のままである。死亡の大部分は、虚血発症後の代謝、イオン、および機能の障害に続発する心室細動(VF)によるものである。15分以内の冠血流の復旧は、完全な回復に導くことができるが、これは、回復の間に、心筋を潜在的に致命的な不整脈および心筋収縮不全になりやすくする場合もある。虚血が「可逆的な」機会を超えて持続すると、心臓は、ATPの漸進的な喪失、ならびにネクローシスおよびアポトーシスから細胞死を被ることになる。
【0003】
過去10年の間、かなりの研究は、虚血−再灌流傷害から細胞受容体(例えば、アデノシンA1およびA3、オピオイドおよびアドレナリン作用)、イオンチャネル(例えば、Na高速(Na fast)、筋細胞膜のKATPおよびミトコンドリアのKATP、Cl、Ca2+)、交換体(例えば、Na/H、Na/Ca2+)ならびに細胞内シグナル伝達経路(例えば、プロテインキナーゼC、チロシンプロテインキナーゼ、グアニル酸シクラーゼ)を標的にすることによって、虚血−再灌流傷害を予防、遅延、または減弱するための薬理学的方策に集中してきた。例えば、特許文献1、特許文献2、および特許文献3には、再灌流または虚血の間の細胞、組織、または臓器の損傷を低減するのに有用な薬理学的方策が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第00/56145号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2004/056180号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2004/056181号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来技術の1つまたは複数の困難および不足を克服し、または少なくとも軽減することに関する。
【0006】
本発明は、虚血または再灌流の間の細胞、組織、または臓器の障害または損傷の低減の改善された方法を対象とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一実施形態では、本発明は、虚血後の細胞、組織、または臓器の損傷を低減するための方法であって、(i)カリウムチャネルオープナーもしくはアゴニストおよび/またはアデノシン受容体アゴニスト、ならびに(ii)抗不整脈剤を含む有効量の組成物を投与するステップと、細胞、組織、または臓器をポストコンディショニングするステップとを含む方法を提供する。
【0008】
別の実施形態では、本発明は、外傷後の細胞、組織、または臓器の損傷を低減するための方法であって、(i)カリウムチャネルオープナーもしくはアゴニストおよび/またはアデノシン受容体アゴニスト、ならびに(ii)抗不整脈剤を含む有効量の組成物を投与するステップと、細胞、組織または臓器をポストコンディショニングするステップとを含む方法を提供する。
【0009】
さらなる実施形態では、本発明は、虚血または再灌流の前、またはこれらの間の細胞、組織、または臓器の損傷を低減するための方法であって、(i)カリウムチャネルオープナーもしくはアゴニストおよび/またはアデノシン受容体アゴニスト、ならびに(ii)抗不整脈剤を含む有効量の組成物を投与するステップと、細胞、組織、または臓器をポストコンディショニングするステップとを含む方法を提供する。
【0010】
別の実施形態では、本発明は、虚血後の細胞、組織、または臓器の損傷を低減するための方法であって、(i)カリウムチャネルオープナーもしくはアゴニストおよび/またはアデノシン受容体アゴニスト、ならびに(ii)抗不整脈剤、ならびに(iii)オピオイドを含む有効量の組成物を投与するステップを含む方法を提供する。この実施形態では、この方法は、細胞、組織または臓器をポストコンディショニングするステップをさらに含むことができる。
【0011】
別の実施形態では、本発明は、外傷後の細胞、組織、または臓器の損傷を低減するための方法であって、(i)カリウムチャネルオープナーもしくはアゴニストおよび/またはアデノシン受容体アゴニスト、(ii)抗不整脈剤、ならびに(iii)オピオイドを含む有効量の組成物を投与するステップを含む方法を提供する。この実施形態によれば、この方法は、細胞、組織または臓器をポストコンディショニングするステップをさらに含むことができる。
【0012】
さらなる実施形態では、本発明は、虚血または再灌流の前、またはこれらの間中の細胞、組織、または臓器の損傷を低減するための方法であって、(i)カリウムチャネルオープナーもしくはアゴニストおよび/またはアデノシン受容体アゴニスト、ならびに(ii)抗不整脈剤、ならびに(iii)オピオイドを含む有効量の組成物を投与するステップを含む方法を提供する。この実施形態によれば、この方法は、細胞、組織または臓器をポストコンディショニングするステップをさらに含むことができる。
【0013】
この組成物は、細胞、組織または臓器にそれぞれ投与することができる。またこれは、以下に記載される患者に投与することができる。
【0014】
さらに別の実施形態では、細胞、組織、または臓器の傷害を低減するための方法であって、
適当な容器中に、本明細書に記載される組成物を提供するステップと、
血液、血液産物、人工血液、および酸素源からなる群から選択される、1種または複数種の栄養分子を提供するステップと、
場合により、組成物に酸素を通気し(例えば、単離された臓器の場合)、もしくは栄養分子を組成物と合わせ、または両方を行うステップと、
傷害を低減するのに十分な条件下で、組織、細胞、または臓器を、合わせた組成物と接触させて配置するステップと
を含む方法が提供される。
【0015】
本発明の方法は、任意の細胞、組織、または臓器に適用可能である。例には、細胞が、筋細胞、内皮細胞、平滑筋細胞、好中球、血小板、および他の炎症細胞である場合、または組織が心臓組織である場合、または臓器が心臓である場合が含まれる。
【0016】
投与される組成物は、カリウムチャネルオープナーまたはアゴニスト、アデノシン受容体アゴニスト、オピオイド、水の取込みを低減するための少なくとも1種の化合物、ナトリウム/水素交換阻害剤、酸化防止剤、カルシウムチャネル遮断薬、および体組織における細胞中のマグネシウム量を増加させるための量でのマグネシウム源のうちの1つまたは複数から選択される追加の成分も含むことができる。
【0017】
本発明の別の態様では、虚血もしくは再灌流の間、または虚血もしくは外傷後の細胞、組織、または臓器の損傷を低減するための組成物であって、
カリウムチャネルオープナーもしくはアゴニストおよび/またはアデノシン受容体アゴニストと、
抗不整脈剤と、
オピオイドと
を含む組成物が提供される。
【0018】
本発明のさらなる態様では、虚血もしくは再灌流の間、または虚血もしくは外傷後の細胞、組織、または臓器の損傷を低減するための薬物を調製するための、本明細書で記載される組成物の使用が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】食塩水のiv注入単独(対照);リドカインのiv注入単独(L);アデノシンおよびリドカインのiv注入(AL);アデノシンのiv注入単独(A);ポストコンディショニング単独(PC);アデノシンおよびリドカインのiv注入+ポストコンディショニング(AL+PC);アデノシンおよびリドカインのiv注入+オピオイドアゴニストDPDPE(AL+DPDPE)を使用した、梗塞サイズの低減を示す棒グラフである。括弧内の数値は、試験した動物の数である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、虚血または再灌流の間の細胞、組織、または臓器の傷害または損傷の低減の改善された方法を対象とする。本発明は、虚血または何らかの形態の傷害もしくは外傷から生じる場合のある、細胞、組織、または臓器の損傷を低減することに対する用途も有する。
【0021】
一形態では、本発明は、虚血もしくは外傷後、または虚血もしくは再灌流の前もしくは、これらの間の細胞、組織、または臓器の損傷を低減するための方法であって、(i)カリウムチャネルオープナーもしくはアゴニストおよび/またはアデノシン受容体アゴニスト、ならびに(ii)抗不整脈剤を含む有効量の組成物を投与するステップと、細胞、組織、または臓器をポストコンディショニングするステップとを含む方法を提供する。
【0022】
本発明者は、細胞、組織、または臓器をポストコンディショニングするステップとともに、虚血または再灌流の前、またはこれらの間に、(i)カリウムチャネルオープナーもしくはアゴニストおよび/またはアデノシン受容体アゴニスト、ならびに(ii)抗不整脈剤を含む組成物を投与すると、虚血または再灌流から生じる細胞損傷が低減されることを見出した。
【0023】
本発明による方法は、心臓手術(オンポンプおよびオフポンプ)、冠動脈インターベンション(バルーンおよびステント)、急性の虚血症候群、不整脈管理、ならびに臓器移植の間の虚血−再灌流傷害からヒトの心臓を保護することにおいて、広い臨床的重要性を有する。例えば、この方法は、オフポンプ心臓手術の間に局所的なプレコンディショニング療法を使用する外科医に、より安全な選択肢を提供する。本発明は、血管形成術/ステントインターベンションの間の不整脈および虚血−再灌流傷害を低減するために心臓病専門医を補助することにおいて有用性を見出すこともできる。
【0024】
「ポストコンディショニング」は、再灌流の早期段階における、一連の迅速な断続的、機械的な血流の中断である(これは、Emory Universityの名において、PCT特許出願WO2006/069170に記載されている)。ポストコンディショニングは、ポストコンディショニングに関連すると考えられている受容体、および化学物質、および生化学的経路を活性化するための薬剤またはエンハンサーを使用して薬理学的に誘発することもできる。ポストコンディショニングは、「オフポンプ」および「オンポンプ」手術、ならびに血管形成術において適用可能となり得るが、これは、再灌流は、外科医またはインターベンショニストによって制御することができるためである。血管形成術の間のポストコンディショニングは、この手術から7日経っても梗塞サイズを30%低減することに有効であることが示されている。
【0025】
虚血事象の予知を必要とするプレコンディショニングと異なり、ポストコンディショニングは、医療、例えば、血管形成術、心臓手術および移植の開始時に適用することができる。本発明による方法は、戦場または事故における傷害から生じた可能性がある外傷を経験している患者を治療するのにも有用となり得る。
【0026】
「傷害」は、可逆性および非可逆性の細胞傷害として広く特徴づけることができる。例えば、可逆性の細胞傷害は、通常、不整脈および/またはスタンニングから心臓機能障害に導く場合がある。スタンニングは、虚血期間後の血流回復の間の、左ポンプ機能の喪失として通常特徴づけられる。重篤な場合、心臓細胞自体は最初に死んでいなくても、通常不整脈から心臓の死に導き得る。定義による非可逆性傷害は、実際の細胞死から生じ、これは、傷害の程度に応じて致命的となり得る。細胞死の量は、梗塞サイズとして測定することができる。心臓麻痺停止からの回復の間に、条件が十分である場合、心臓は、最小の梗塞サイズととともに、再灌流によって、実質的に組織の正常な機能まで回復することができる。心臓機能の回復を評価するための最も一般的な方法は、心臓が発生させることができる圧力、心臓ポンプ流量、および心臓の電気的な活性を測定することによるものである。次いでこのデータは、停止状態前から測定されたデータと比較される。本明細書では、用語「傷害」および「損傷」は互換的に使用することができる。
【0027】
用語「組織」は、その最も広い意味において本明細書で使用され、臓器および細胞、またはこれらの一部、例えば、細胞株または細胞小器官の標本を含めた、特定の機能を働かせる体の任意の一部を指す。他の例として、動脈もしくは静脈などの導血管、または心臓などの循環器、肺などの呼吸器、腎臓もしくは膀胱などの泌尿器、消化器、例えば、胃、肝臓、膵臓、もしくは脾臓など、生殖器、例えば、陰嚢、精巣、卵巣、もしくは子宮など、脳などの神経学的器官、精子もしくは卵子などの生殖細胞、および体細胞、例えば皮膚細胞、心臓細胞(すなわち筋細胞)、神経細胞、脳細胞もしくは腎細胞などが挙げられる。
【0028】
用語「臓器」は、その最も広い意味において本明細書で使用され、組織および細胞、またはこれらの一部、例えば、内皮、上皮、血液脳関門、細胞株、もしくは細胞小器官の標本を含めた、特定の機能を働かせる体の任意の一部を指す。他の例として、血管、心臓などの循環器、肺などの呼吸器、腎臓または膀胱などの泌尿器、消化器、例えば、胃、肝臓、膵臓、または脾臓など、生殖器、例えば、陰嚢、精巣、卵巣または子宮など、脳などの神経学的器官、精子または卵子などの生殖細胞、および体細胞、例えば、皮膚細胞、心臓細胞、すなわち筋細胞、神経細胞、脳細胞または腎細胞などが挙げられる。
【0029】
体は、ヒトあるいは動物、例えば、家畜動物(例えば、ヒツジ、ウシもしくはウマ)、実験室試験動物(例えば、マウス、ウサギもしくはモルモット)、またはコンパニオンアニマル(例えば、イヌもしくはネコ)など、特に、経済的に重要な動物とすることができる。体は、ヒトであることが好ましい。
【0030】
用語「含む(comprises)」(またはその文法的な変形)は、本明細書で使用する場合、用語「含む(includes)」と等価であり、他の要素または特徴の存在を除外するものと解釈されるべきではないことも理解されるであろう。
【0031】
本明細書に記載される本発明は、大部分は、これらの成分(i)および(ii)(および適用可能な場合追加の成分)を含むとして説明される組成物を伴う、組成物、治療方法、および治療のための薬物の製造方法に関する。便宜上、この組成物は、「組成物」または「本発明による方法において有用な組成物」と本明細書で呼ばれるが、本発明を具体化する成分のいくつかの組合せが存在し、これは本発明において有用な組成物である。さらに、特にWO00/56145において記載されているように、成分(i)および(ii)は、組成物の「停止」濃度、および組成物の「非停止」濃度と呼ばれる、心臓を停止し、または停止しない濃度で存在することができる。一形態では、停止させる組成物は、それぞれ0.1mM超(および好ましくは20mM未満)で、アデノシンおよびリグノカインを含む。停止させる組成物は、状況によっては、「心筋保護液」と呼ぶことができる。停止させない組成物の一形態では、アデノシンおよびリグノカインはともに、0.1mM未満、好ましくは、50nM〜95μM、より好ましくは1μM〜90μMである。
【0032】
カリウムが組成物中に存在する場合、これは一般に、生理的濃度で存在する。これは、組成物が投与されるとき、細胞膜は、より生理的な分極状態のままであり、それによって、細胞、組織、または臓器の潜在的な損傷を最小限にすることを意味する。高濃度の、または生理的濃度を超えるカリウムは、高カリウム血性組成物をもたらす。これらの濃度で、心臓は、細胞膜の脱分極から単独で停止する。
【0033】
生理的濃度のカリウムを使用することの1つの利点は、これは本組成物を、対象、特に、新生児/乳児などの小児科の対象に対する傷害性のより小さいものにすることである。高カリウムは、カルシウムの蓄積と関連しており、これは、回復の間の不規則な心拍、心臓損傷および細胞膨張に関連する場合がある。新生児/乳児は、成人より心停止の間の高カリウムの損傷にさらに影響されやすい。手術後、新生児/乳児の心臓は、何日間も正常に戻らない場合があり、時として集中治療または生命維持を必要とする。
【0034】
上述し、以下に述べる本発明の実施形態では、組成物の成分(i)は、アデノシン受容体アゴニストとすることができる。これは、明らかにアデノシン自体を含むが、「アデノシン受容体アゴニスト」は、内因性アデノシン濃度を上昇させる効果を有する化合物で置き換えるか、補充することができる。これは、化合物が、体内の局所的な環境において、内因性アデノシン濃度を上昇させる場合、特に望ましい場合がある。内因性アデノシンを上昇させる効果は、アデノシンの細胞輸送、したがって、循環からの離脱を阻害し、または他の方法でその代謝を減速し、その半減期を有効に延長する化合物(例えば、ジピリダモール)、および/または内因性アデノシン産生を刺激する化合物、例えばプリンヌクレオシド類似体のAcadesine(商標)またはAICA−リボシド(5−アミノ−4−イミダゾールカルボキサミドリボヌクレオシド)などによって実現することができる。Acadesineは、アデノシンデアミナーゼの競合的な阻害剤でもある(子ウシ腸粘膜中、Ki=362μM)。Acadesine(商標)は、約50μMの血漿濃度を生成するように投与されることが望ましいが、1μM〜1mM、より好ましくは20〜200μMの範囲とすることができる。Acadesine(商標)は、体重1kg当たり10、25、50、および100mgの用量で、経口および/または静脈内投与で与えられる用量から、ヒトにおいて安全であることが示されている。
【0035】
アデノシン受容体アゴニストに加えて、またはアデノシン受容体アゴニストの代わりに、組成物の成分(i)は、カリウムチャネルオープナーとすることができる。
【0036】
カリウムチャネルオープナーは、カリウムチャネルに対して、開閉機構によってこれらを開くように作用する作用剤である。これは、通常、細胞の内側から外側であるその電気化学勾配に沿った、膜を越えるカリウムの流出をもたらす。したがって、カリウムチャネルは、細胞機能を調節する伝達物質、ホルモン、または薬剤の作用の標的である。カリウムチャネルオープナーには、カリウムチャネルアゴニストが含まれることが理解され、これもカリウムチャネルの活性を刺激し、同じ結果を伴う。様々なカリウムチャネルを開き、または調節する種々のクラスの化合物が存在することも理解され、例えば、いくつかのチャネルは電圧に依存し、いくつかの整流性カリウムチャネルは、ATP枯渇、アデノシンおよびオピオイドに感受性であり、他のチャネルは脂肪酸によって活性化され、他のチャネルは、ナトリウムおよびカルシウムなどのイオンによって調節される(すなわち、細胞のナトリウムおよびカルシウムの変化に応答するチャネル)。さらに最近、2ポア(two pore)カリウムチャネルが発見され、静止膜電位の調節に関与するバックグラウンドチャネルとして機能することが考えられている。
【0037】
カリウムチャネルオープナーは、ニコランジル、ジアゾキシド、ミノキシジル、ピナシジル、アプリカリム、クロモクリム(cromokulim)および誘導体U−89232、P−1075(選択的な原形質膜KATPチャネルオープナー)、エマカリム、YM−934、(+)−7,8−ジヒドロ−6,6−ジメチル−7−ヒドロキシ−8−(2−オキソ−1−ピペリジニル)−6H−ピラノ[2,3−f]ベンゾ−2,1,3−オキサジアゾール(NIP−121)、RO316930、RWJ29009、SDZPCO400、リマカリム、シマカリム(symakalim)、YM099、2−(7,8−ジヒドロ−6,6−ジメチル−6H−[1,4]オキサジノ[2,3−f][2,1,3]ベンゾオキサジアゾール−8−イル)ピリジンN−オキシド、9−(3−シアノフェニル)−3,4,6,7,9,10−ヘキサヒドロ−1,8−(2H,5H)−アクリジンジオン(ZM244085)、[(9R)−9−(4−フルオロ−3−125ヨードフェニル)−2,3,5,9−テトラヒドロ−4H−ピラノ[3,4−b]チエノ[2,3−e]ピリジン−8(7H)−オン−1,1−ジオキシド]([125I]A−312110)、(−)−N−(2−エトキシフェニル)−N’−(1,2,3−トリメチルプロピル)−2−ニトロエテン−1,1−ジアミン(Bay X9228)、N−(4−ベンゾイルフェニル)−3,3,3−トリフルオロ−2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオンアミン(ZD6169)、ZD6169(KATPオープナー)およびZD0947(KATPオープナー)、WAY−133537、ならびに新規なジヒドロピリジンカリウムチャネルオープナー、A−278637からなる群から選択することができる。さらに、カリウムチャネルオープナーは、BK−アクチベーター(BK−オープナーまたはBK(Ca)型カリウムチャネルオープナー、または大コンダクタンスカルシウム活性化カリウムチャネルオープナーとも呼ばれる)、例えばベンゾイミダゾロン誘導体NS004(5−トリフルオロメチル−1−(5−クロロ−2−ヒドロキシフェニル)−1,3−ジヒドロ−2H−ベンゾイミダゾール−2−オン)、NS1619(1,3−ジヒドロ−1−[2−ヒドロキシ−5−(トリフルオロメチル)フェニル]−5−(トリフルオロメチル)−2H−ベンゾイミダゾール−2−オン)、NS1608(N−(3−(トリフルオロメチル)フェニル)−N’−(2−ヒドロキシ−5−クロロフェニル)尿素)、BMS−204352、レチガビン(またGABAアゴニスト)などから選択することができる。中間体(例えば、ベンゾオキサゾール、クロルゾキサゾンおよびゾキサゾールアミン)、ならびに小コンダクタンスカルシウム活性化カリウムチャネルオープナーも存在する。
【0038】
さらに、カリウムチャネルオープナーは、間接的なカルシウムアンタゴニストとして作用することができ、すなわちこれらは、3相再分極の加速を介して心筋活動電位の継続時間を短縮することによって、細胞へのカルシウム流入を低減するように作用し、したがってプラトー相を短縮する。カルシウム流入の低減には、L型カルシウムチャネルが関与していると考えられているが、他のカルシウムチャネルも関与することができる。
【0039】
本発明のいくつかの実施形態では、直接的なカルシウムアンタゴニストを利用し、その主な作用は、細胞へのカルシウム流入を低減することである。以下により詳細に説明するように、これらは、少なくとも5つの主要クラスのカルシウムチャネル遮断薬から選択される。これらのカルシウムアンタゴニストは、細胞へのカルシウム流入を阻害することによって、カリウムチャネルオープナー、特にATP−感受性カリウムチャネルオープナーといくつかの効果を共有することが理解されるであろう。
【0040】
アデノシン受容体アゴニストと同様に機能するアデノシンも、カリウムチャネルオープナーまたはアゴニストとして特に好適である。アデノシンは、カリウムチャネルを開き、細胞を過分極化し、代謝機能を抑制し、場合により内皮細胞を保護し、組織のプレコンディショニングを増強し、虚血または損傷から保護することができる。アデノシンは、間接的なカルシウムアンタゴニスト、血管拡張剤、抗不整脈薬、抗アドレナリン作用薬、フリーラジカルスカベンジャー、捕捉剤(arresting agent)、抗炎症剤(好中球活性化を減弱する)、鎮痛薬、代謝剤(metabolic agent)および可能な酸化窒素供与体でもある。より最近では、アデノシンは、血液凝固プロセスの減速に導くことができる、いくつかの段階を阻害することが知られている。さらに、脳内のアデノシン濃度の上昇は、睡眠を引き起こすことが示されており、異なる形態または休止状態に関与し得る。アデノシン類似体である2−クロロ−アデノシンを使用することができる。
【0041】
適当なアデノシン受容体アゴニストは、N−シクロペンチルアデノシン(CPA)、N−エチルカルボキサミドアデノシン(NECA)、2−[p−(2−カルボキシエチル)フェネチル−アミノ−5’−N−エチルカルボキサミドアデノシン(CGS−21680)、2−クロロアデノシン、N−[2−(3,5−ジメトキシフェニル)−2−(2−メトキシフェニル)]エチルアデノシン、2−クロロ−N−シクロペンチルアデノシン(CCPA)、N−(4−アミノベンジル)−9−[5−(メチルカルボニル)−β−D−リボフラノシル]−アデニン(adenine)(AB−MECA)、([1S−[1a,2b,3b,4a(S)]]−4−[7−[[2−(3−クロロ−2−チエニル)−1−メチル−プロピル]アミノ]−3H−イミダゾール[4,5−b]ピリジル−3−イル]シクロペンタンカルボキサミド(AMP579)、N−(R)−フェニルイソプロピルアデノシン(R−PLA)、アミノフェニルエチルアデノシン(APNEA)およびシクロヘキシルアデノシン(CHA)から選択することができる。他には、N−[3−(R)−テトラヒドロフラニル]−6−アミノプリンリボシド(CVT−510)などの完全アデノシンA1受容体アゴニスト、またはCVT−2759などの部分アゴニスト、およびPD81723などのアロステリックエンハンサーが含まれる。他のアゴニストには、ヒトアデノシンA1受容体に対して高い親和性を有する非常に選択的なアゴニストである、N−シクロペンチル−2−(3−フェニルアミノカルボニルトリアゼン−1−イル)アデノシン(TCPA)が含まれ、A1アデノシン受容体のアロステリックエンハンサーには、2−アミノ−3−ナフトイルチオフェンが含まれる。A1アデノシン受容体アゴニストはCCPAであることが好ましい。
【0042】
β−遮断薬などの抗アドレナリン作用薬、例えば、エスモロール、アテノロール、メトプロロールおよびプロプラノロールを、カリウムチャネルオープナーの代わりに、またはこれと組み合わせて使用することによって、細胞へのカルシウム流入を低減することができることが理解されるであろう。β−遮断薬はエスモロールであることが好ましい。同様に、プラゾシンなどのα(1)−アドレナリン受容体アンタゴニストも、カリウムチャネルオープナーの代わりに、またはこれと組み合わせて使用することによって、細胞へのカルシウム流入、したがってカルシウム充填を低減することができる。抗アドレナリン作用薬はβ−遮断薬であることが好ましい。β−遮断薬はエスモロールであることが好ましい。
【0043】
アデノシンは、細胞のナトリウムおよびカルシウムの充填を低減するナトリウム−カルシウム交換体を間接的に阻害することも知られている。ナトリウム−カルシウム交換体の阻害剤は、カルシウム流入を低減し、アデノシンの効果を拡大することが理解されるであろう。Na/Ca2+交換阻害剤として、ベンザミル(benzamyl)、KB−R7943(2−[4−(4−ニトロベンジルオキシ)フェニル]エチル]イソチオ尿素メシレート)、またはSEA0400(2−[4−[(2,5−ジフルオロフェニル)メトキシ]フェノキシ]−5−エトキシアニリン)を挙げることができる。
【0044】
本発明のいくつかの実施形態は、直接的なカルシウムアンタゴニストを利用し、その主な作用は、細胞へのカルシウム流入を低減することである。そのような化合物は、3つの異なるクラス、すなわち、1,4−ジヒドロピリジン(例えば、ニトレンジピン)、フェニルアルキルアミン(例えば、ベラパミル)、およびベンゾチアゼピン(例えば、ジルチアゼム、ニフェジピン)からのカルシウムチャネル遮断薬から選択することができる。これらのカルシウムアンタゴニストは、細胞へのカルシウム流入を阻害することによって、カリウムチャネルオープナー、特にATP−感受性のカリウムチャネルオープナーといくつかの効果を共有することが理解されるであろう。
【0045】
カルシウムチャネル遮断薬は、カルシウムアンタゴニストまたはカルシウム遮断薬とも呼ばれる。これは、心拍数および収縮性を減少させ、血管を弛緩するために、臨床的に使用されることが多い。これらは、虚血およびいくつかの不整脈によって引き起こされる、高血圧、狭心症または不快感を治療するのに使用することができ、これらは、β遮断薬と多くの効果を共有する(上記考察を参照されたい)。
【0046】
5つの主要なクラスのカルシウムチャネル遮断薬が、種々の化学構造とともに知られている:1.ベンゾチアゼピン:例えば、ジルチアゼム、2.ジヒドロピリジン:例えば、ニフェジピン、ニカルジピン、ニモジピン、および多くの他のもの、3.フェニルアルキルアミン:例えば、ベラパミル、4.ジアリールアミノプロピルアミンエーテル:例えば、ベプリジル、5.ベンゾイミダゾール置換テトラリン:例えば、ミベフラジル。
【0047】
従来のカルシウムチャネル遮断薬は、心筋および平滑筋中に富むL型カルシウムチャネル(「スローチャネル」)に結合し、これらの薬剤が、心血管システムに対して選択的な効果を有する理由を説明するのに役立つ。異なるクラスのL型カルシウムチャネル遮断薬は、主要なチャネル形成サブユニットであるα1−サブユニット(α2、β、γ、δサブユニットも存在する)上の異なる部位に結合する。異なるサブクラスのL型チャネルが存在し、これらは組織選択性に寄与することができる。さらに最近、異なる特異性を有する新規なカルシウムチャネル遮断薬も開発されており、例えば、ベプリジルは、L型カルシウムチャネル遮断活性に加えて、NaおよびKチャネル遮断活性を有する薬剤である。別の例はミベフラジルであり、これは、T型カルシウムチャネル遮断活性、ならびにL型カルシウムチャネル遮断活性を有する。
【0048】
3つの一般的なカルシウムチャネル遮断薬は、ジルチアゼム(カルジゼム)、ベラパミル(カラン)、およびニフェジピン(プロカルジア)である。ニフェジピンおよび関連するジヒドロピリジンは、通常の用量で、房室伝導系または洞房結節に対して有意な直接の効果を有しておらず、したがって伝導または自動性に対して直接の効果を有していない。一方で、他のカルシウムチャネル遮断薬は、負の変時性/変伝導効果(ペースメーカー活性/伝導速度)を確かに有する。例えば、ベラパミル(およびより少ない程度にジルチアゼム)は、AV伝導系およびSA結節においてスローチャネルの回復速度を減少させ、したがって、SA結節のペースメーカー活性および遅い伝導を抑制するように直接作用する。これらの2つの薬剤は、振動数および電圧に依存し、急速に脱分極中の細胞においてこれらをより有効にする。ベラパミルはまた、AV遮断の可能性または心室機能の重篤な低下のために、β遮断薬との組合せでは禁忌である。さらに、ミベフラジルは、負の変時性および変伝導効果を有する。カルシウムチャネル遮断薬(特にベラパミル)は、基本的な機構が血管れん縮を伴う場合、不安定狭心症を治療することにおいて特に有効になることもできる。
【0049】
ωコノトキシンMVIIA(SNX−111)は、N型カルシウムチャネル遮断薬であり、鎮痛薬としてモルヒネより100〜1000倍強力であるが、耽溺性ではないことが報告されている。このコノトキシンは、難治性疼痛を治療するために調査中である。肉食性のクモの毒液の毒液由来のさらなる毒素である、SNX−482は、R型カルシウムチャネルを遮断する。この化合物は、アフリカンタランチュラであるHysterocrates gigasの毒液から単離され、記載された最初のR型カルシウムチャネル遮断薬である。R型カルシウムチャネルは、体の天然のコミュニケーションネットワークにおいて役割を果たすと考えられており、そこでこれは、脳機能の調節に寄与する。動物界由来の他のカルシウムチャネル遮断薬として、サウスアフリカンスコーピオン(South African Scorpion)由来のクルトキシン、アフリカンタランチュラ由来のSNX−482、オーストラリアンタイパンスネーク(Australian Taipan snake)由来のタイカトキシン、ジョウゴグモ由来のアガトキシン、ブルーマウンテンジョウゴグモ由来のアトラコトキシン、海カタツムリ由来のコノトキシン、チャイニーズバードスパイダー由来のHWTX−I、サウスアフリカンローズタランチュラ(South American Rose Tarantula)由来のグラモトキシン(Grammotoxin)SIAが挙げられる。このリストは、カルシウムアンタゴニスト効果を有する、これらの毒素の誘導体も含む。
【0050】
直接的なATP感受性カリウムチャネルオープナー(例えば、ニコランジル、アプリカレム(aprikalem))、または間接的なATP感受性カリウムチャネルオープナー(例えば、アデノシン、オピオイド)も間接カルシウムアンタゴニストであり、組織へのカルシウム流入を低減する。カルシウムアンタゴニストとしても作用するATP−感受性カリウムチャネルオープナーについて考えられている1つの機構は、3相再分極を加速することによる心筋活動電位継続時間の短縮であり、したがって、プラトー相の短縮である。プラトー相の間、カルシウムの正味の流入は、カリウムチャネルを通じたカリウムの流出によって平衡を保つことができる。3相再分極の増強は、L型カルシウムチャネルを遮断または阻害することによって、細胞へのカルシウム流入を阻害し、組織細胞中のカルシウム(およびナトリウム)の過充填を防止することができる。
【0051】
カルシウムチャネル遮断薬は、ニフェジピン、ニカルジピン、ニモジピン、ニソルジピン、レルカニジピン、テロジピン(telodipine)、アンギゼム(angizem)、アルチアゼム(altiazem)、ベプリジル、アムロジピン、フェロジピン、イスラジピンおよびカベロ(cavero)、ならびに他のラセミ変形から選択することができる。さらに、カルシウム流入は、アデノシンの代わりに、またはこれと組み合わせて使用することができ、海洋動物または陸生動物由来のいくつかの毒液、例えば、N型カルシウムチャネルを選択的に遮断するω−コノトキシンGVIA(カタツムリのconus geographus由来)、またはそれぞれR−およびP/Q型カルシウムチャネルを選択的に遮断する、ジョウゴグモのAgelelnopsis aperta由来のω−アガトキシンIIIAおよびIVAなどを含む、他のカルシウム遮断薬によって阻害することができることが理解されるであろう。カルシウムおよびナトリウムの流入を低減し、それによって心保護を補助するための、NS−7などの混合電位依存性カルシウムおよびナトリウムチャネル遮断薬も存在する。カルシウムチャネル遮断薬はニフェジピンであることが好ましい。
【0052】
好適な形態では、カリウムチャネルオープナーもしくはアゴニストおよび/またはアデノシン受容体アゴニストは、1分未満、好ましくは20秒未満の血中半減期を有する。
【0053】
本発明による方法において有用な組成物は、抗不整脈剤も含む。抗不整脈剤は、心臓の速い律動(心臓の不整脈)を抑制するのに使用される一群の医薬品である。以下の表は、これらの薬剤の分類を示す。
【0054】
【表1】

抗不整脈剤は、局所的な麻酔を誘発する(さもなければ、局所麻酔薬である)ことができ、例えば、メキシレチン、ジフェニルヒダントイン、プリロカイン、プロカイン、メピボカイン(mepivocaine)、キニジン、ジソピラミド、およびクラス1B抗不整脈剤であることも理解されるであろう。
【0055】
抗不整脈剤は、クラスIまたはクラスIII薬剤であることが好ましい。アミオダロンは、好適なクラスIII抗不整脈剤である。抗不整脈剤は、ナトリウムチャネルを遮断することがより好ましい。抗不整脈剤は、クラスIB抗不整脈剤であることがより好ましい。クラス1B抗不整脈剤には、リグノカインまたはその誘導体、例えば、QX−314が含まれる。
【0056】
クラス1B抗不整脈剤は、リグノカインであることが好ましい。本明細書では、用語「リドカイン」および「リグノカイン」は、互換的に使用される。リグノカインは、ナトリウム高速チャネルを遮断し、代謝機能を抑制し、遊離細胞質ゾルカルシウムを低下させ、細胞からの酵素放出を保護し、場合により内皮細胞を保護し、筋フィラメント損傷から保護することによって、局所麻酔薬として作用することができることも知られている。より低い治療濃度では、リグノカインは通常、心房組織に対してほとんど効果がなく、したがって、心房細動、心房粗動、および上室頻脈の治療において効果的でない。リグノカインは、フリーラジカルスカベンジャー、抗不整脈薬でもあり、抗炎症特性および抗凝固性亢進特性を有する。非麻酔性治療濃度では、リグノカインのような局所麻酔薬は、電位依存性ナトリウム高速チャネルを完全に遮断しないが、チャネル活性を下方制御し、ナトリウム流入を低減することも理解されなければならない。抗不整脈薬として、リグノカインは、通常活動電位の2相を通じて継続する小ナトリウム電流を標的にすると考えられており、したがって活動電位および不応期を短縮する。
【0057】
リグノカインは、主にナトリウム高速チャネルを遮断することによって作用するので、他のナトリウムチャネル遮断薬も、本発明の組成物中で、抗不整脈剤の代わりに、またはこれと組み合わせて使用することができることが理解されるであろう。ナトリウムチャネル遮断薬には、ナトリウムチャネルを実施的に遮断し、またはナトリウムチャネルを少なくとも下方制御するように作用する化合物が含まれることも理解されるであろう。適当なナトリウムチャネル遮断薬の例として、テトロドトキシンなどの毒液、ならびに薬剤のプリマキン、QX、HNS−32(CAS登録番号186086−10−2)、NS−7、κ−オピオイド受容体アゴニストU50 488、クロベネチン、ピルジカイニド、フェニトイン、トカイニド、メキシレチン、NW−1029(ベンジルアミノプロパンアミド誘導体)、RS100642、リルゾール、カルバマゼピン、フレカイニド、プロパフェノン、アミオダロン、ソタロール、イミプラミンおよびモリシジン、またはこれらの任意の誘導体が挙げられる。他の適当なナトリウムチャネル遮断薬には、ビンポセチン(エチルアポビンカミネート(apovincaminate))、およびβ−カルボリン誘導体、向知性のβ−カルボリン(アンボカルブ、AMB)が含まれる。
【0058】
一実施形態では、本発明による組成物は、本質的に、(i)カリウムチャネルオープナーもしくはアゴニストおよび/またはアデノシン受容体アゴニスト、ならびに(ii)抗不整脈剤からなる。抗不整脈剤は、リグノカインなどの局所麻酔薬であることが好ましい。
【0059】
本発明の別の実施形態では、本発明による組成物は、オピオイドをさらに含む。本発明者は、組成物中にオピオイド、特にD−Pen[2,5]エンケファリン(DPDPE)を含めると、細胞、組織または臓器の損傷が著しく小さくなる場合もあることも見出した。
【0060】
したがって、さらなる実施形態では、本発明による組成物は、(i)カリウムチャネルオープナーもしくはアゴニストおよび/またはアデノシン受容体アゴニスト、(ii)抗不整脈剤、ならびに(iii)オピオイドを含む。
【0061】
オピオイドアゴニストとしても知られ、このようにも呼ばれるオピオイドは、アヘン(ギリシャ語opion、ケシのジュース)またはモルヒネ様特性を阻害する一群の薬剤であり、一般に、特に手術周辺および手術後の両方で疼痛を管理するために、適度から強い鎮痛薬として臨床的に使用される。オピオイドの他の薬理学的作用として、傾眠、呼吸抑制、気分の変化、および意識の喪失を伴わない意識混濁が挙げられる。
【0062】
オピオイドは、通常の代謝率および通常の中核体温の低下を特徴とする休止状態の形態である冬眠プロセスにおける「トリガー」の一部として関与することも考えられている。この冬眠状態では、組織は、他の場合では、酸素または代謝燃料供給の減少によって生じる場合のある損傷に対してより良好に保存され、虚血再灌流傷害からも保護される。
【0063】
3種のオピオイドペプチド、すなわちエンケファリン、エンドルフィンおよびダイノルフィンが存在する。
【0064】
オピオイドは、心臓、脳および他の組織においてアゴニストとして作用し、立体特異的で飽和可能な結合部位と相互作用する。3種の主なオピオイド受容体、すなわち、μ、κ、およびδ受容体が同定され、クローン化されている。すべての3種の受容体は、Gタンパク質共役受容体ファミリー(このクラスは、アデノシンおよびブラジキニン受容体を含む)に結果的に分類されている。オピオイド受容体はさらに亜分類され、例えば、δ受容体は、2つの亜類型、すなわちδ1およびδ2を有する。オピオイドアゴニストの例として、例えば、TAN−67、BW373U86、SNC80([(+)−4−[α(R)−α−[(2S,5R)−4−アリル−2,5−ジメチル−1−ピペラジニル]−(3−メトキシベンジル)−N,N−ジエチルベンズアミド)、(+)BW373U86、DADLE、ARD−353[4−((2R,5S)−4−(R)−4−ジエチルカルバモイルフェニル)(3−ヒドロキシフェニル)メチル)−2,5−ジメチルピペラジン−1−イルメチル)安息香酸]、非ペプチドδ受容体アゴニスト、DPI−221[4−((α−S)−α−((2S,5R)−2,5−ジメチル−4−(3−フルオロベンジル)−1−ピペラジニル)ベンジル)−N,N−ジエチルベンズアミド]が挙げられる。
【0065】
オピオイドの心血管作用は、中枢的(すなわち、視床下部および脳幹の心血管および呼吸中枢で)、ならびに末梢的(すなわち、心筋細胞、ならびに脈管構造に対する直接的および間接的効果の両方)の両方で無傷の体内に向けられる。例えば、オピオイドは、血管拡張に関与することが示された。心臓および心血管系に対するオピオイドのいくつかの作用は、直接的なオピオイド受容体媒介作用、または間接的な用量依存性非オピオイド受容体媒介作用、例えば、アリールアセトアミド薬などのオピオイドの抗不整脈薬作用で観察されたイオンチャネル遮断などを伴うことができる。心臓は、3種のオピオイドペプチド、すなわち、エンケファリン、エンドルフィンおよびダイノルフィンを合成または産生することができることも知られている。しかし、δおよびκオピオイド受容体しか心室筋細胞で同定されていない。
【0066】
いずれの作用機序に束縛されることなく、オピオイドは、虚血性損傷を制限し、不整脈の発生を低減することによって、心保護作用をもたらすと考えられ、これは、虚血の間に自然に放出される高濃度の損傷物質または化合物に対抗するように生じる。これは、筋細胞膜およびミトコンドリア膜におけるATP感受性カリウムチャネルの活性化を介して媒介し、カリウムチャネルの開放に関与することができる。さらに、オピオイドの心保護作用は、筋細胞膜およびミトコンドリア膜におけるATP感受性カリウムチャネルの活性化を介して媒介されるとも考えられている。
【0067】
オピオイドには、オピオイド受容体に直接的および間接的に作用する化合物が含まれることが理解されるであろう。オピオイドは、間接的な用量依存性の非オピオイド受容体媒介作用、例えば、オピオイドの抗不整脈作用で観察されたイオンチャネル遮断なども含む。オピオイドおよびオピオイドアゴニストは、ペプチド性であっても非ペプチド性であってもよい。オピオイドは、エンケファリン、エンドルフィンおよびダイノルフィンから選択されることが好ましい。オピオイドは、δ、κおよび/またはμ受容体を標的にするエンケファリンであることが好ましい。オピオイドは、δ−1−オピオイド受容体アゴニスト、およびδ−2−オピオイド受容体アゴニストから選択されることがより好ましい。D−Pen[2,5]エンケファリン(DPDPE)は、特に好適なδ−1−オピオイド受容体アゴニストである。一実施形態では、これは、体重1kg当たり0.001〜10mg、好ましくは0.01〜5mg/kg、またはより好ましくは0.1〜1.0mg/kgで投与される。
【0068】
したがって、本発明は、外傷後の細胞、組織、または臓器の損傷を低減するための方法であって、(i)カリウムチャネルオープナーもしくはアゴニストおよび/またはアデノシン受容体アゴニスト、(ii)抗不整脈剤、ならびに(iii)オピオイドを含む有効量の組成物を、細胞、組織、または臓器に投与するステップと、細胞、組織、または臓器をポストコンディショニングするステップとを含む方法にも関する。
【0069】
本発明は、虚血後の細胞、組織、または臓器の損傷の低減方法であって、(i)カリウムチャネルオープナーもしくはアゴニストおよび/またはアデノシン受容体アゴニスト、(ii)抗不整脈剤、ならびに(iii)オピオイドを含む有効量の組成物を、細胞、組織、または臓器に投与するステップと、細胞、組織、または臓器をポストコンディショニングするステップとを含む方法にも関する。
【0070】
本発明は、虚血または再灌流の前、またはこれらの間の細胞、組織、または臓器の損傷の低減方法であって、(i)カリウムチャネルオープナーもしくはアゴニストおよび/またはアデノシン受容体アゴニスト、(ii)抗不整脈剤、ならびに(iii)オピオイドを含む有効量の組成物を、細胞、組織、または臓器に投与するステップと、細胞、組織、または臓器をポストコンディショニングするステップとを含む方法にも関する。
【0071】
本発明者は、ポストコンディショニングステップを伴うことなく投与されたとき、傷害をこの組成物で改善することもできることも見出した。
【0072】
したがって、別の態様では、本発明は、虚血または再灌流の前、またはこれらの間の細胞、組織、または臓器の損傷の低減方法であって、(i)カリウムチャネルオープナーもしくはアゴニストおよび/またはアデノシン受容体アゴニスト、(ii)抗不整脈剤、ならびに(iii)オピオイドを含む有効量の組成物を、細胞、組織、または臓器に投与するステップを含む方法に関する。
【0073】
別の態様では、本発明は、虚血後の細胞、組織、または臓器の損傷の低減方法であって、(i)カリウムチャネルオープナーもしくはアゴニストおよび/またはアデノシン受容体アゴニスト、(ii)抗不整脈剤、ならびに(iii)オピオイドを含む有効量の組成物を、細胞、組織、または臓器に投与するステップを含む方法にも関する。
【0074】
さらに別の態様では、本発明は、外傷後の細胞、組織、または臓器の損傷の低減方法であって、(i)カリウムチャネルオープナーもしくはアゴニストおよび/またはアデノシン受容体アゴニスト、(ii)抗不整脈剤、ならびに(iii)オピオイドを含む有効量の組成物を、細胞、組織、または臓器に投与するステップを含む方法にも関する。
【0075】
いくつかの実施形態では、本発明による方法において有用な組成物は、追加のカリウムチャネルオープナーまたはアゴニスト、例えば、ジアゾキシド、またはニコランジルを含むことができる。
【0076】
ジアゾキシドは、カリウムチャネルオープナーであり、本発明では、イオンおよび量の調節、酸化的リン酸化、ならびにミトコンドリア膜の完全性(濃度依存性であると思われる)を保存すると考えられる。さらに最近、ジアゾキシドは、再酸素供給でのミトコンドリアの酸化ストレスを低減することによって、心保護をもたらすことが示された。現在のところ、カリウムチャネルオープナーの保護作用が、ミトコンドリアにおける反応性酸素種産生の調節に関連するかどうかは分かっていない。ジアゾキシドの濃度は、約1〜200μMであることが好ましい。一般にこれは、ジアゾキシドの有効量としてである。ジアゾキシドの濃度は、約10μMであることがより好ましい。
【0077】
ニコランジルは、カリウムチャネルオープナーおよび酸化窒素供与体であり、これは、虚血および再灌流損傷から、内皮を含めた組織および微小血管完全性を保護することができる。したがってこれは、KATPチャネルの開放および硝酸エステル様効果の2つの作用を通じて利益をもたらすことができる。ニコランジルは、血管を拡張させることによって高血圧を低減することもでき、これは、前負荷および後負荷の両方を低減することによって、心臓がより容易に機能することを可能にする。これはまた、虚血/再灌流傷害をさらに減弱することができる、抗炎症性および抗増殖性を有すると考えられている。
【0078】
本発明による方法において有用な組成物は、細胞、組織、または臓器中で、細胞による水の取込みを最小限にし、または低減するための少なくとも1つの化合物をさらに含むことができる。
【0079】
組織中で細胞による水の取込みを最小限にし、または低減するための化合物は、水の移動、すなわち、細胞外環境と細胞内環境の間の水の移動を制御する傾向がある。したがって、これらの化合物は、浸透の制御または調節に関与する。1つの結果は、組織中で、細胞による水の取込みを最小限にし、または低減するための化合物は、虚血傷害の間に起こり得る浮腫などの浮腫と関連する細胞膨張を低減することである。
【0080】
組織中で、細胞による水の取込みを最小限にし、または低減するための化合物は、一般に不透過物(impermeant)、または受容体アンタゴニストもしくはアゴニストである。本発明による不透過物は、スクロース、ペンタスターチ、ヒドロキシエチルデンプン、ラフィノース、マンニトール、グルコネート、ラクトビオネート、およびコロイドからなる群の1つまたは複数から選択することができる。コロイドとして、アルブミン、ヘタスターチ、ポリエチレングリコール(PEG)、デキストラン40およびデキストラン60が挙げられる。浸透圧の目的のために選択することができる他の化合物には、多価アルコール(ポリオール)および糖、他のアミノ酸およびアミノ酸誘導体、ならびにメチル化アンモニウムおよびスルホニウム化合物を含めた、動物界において見出される主要なクラスの浸透圧調節物質に由来するものが含まれる。
【0081】
細胞膨張は、炎症反応から生じる場合もあり、これは、臓器修復、保存および外科的な移植の間に重要となる場合がある。重要な炎症促進性神経ペプチドであるサブスタンスPは、細胞浮腫に導くことが知られており、したがって、サブスタンスPのアンタゴニストは、細胞膨張を低減することができる。実際に、サブスタンスPのアンタゴニスト、(−特定のニューロキニン−1)受容体(NK−1)は、炎症性の肝損傷、すなわち、浮腫形成、好中球浸潤、肝実質細胞アポトーシス、およびネクローシスを低減することが示された。2つのそのようなNK−1アンタゴニストには、CP−96,345、すなわち[(2S,3S)−cis−2−(ジフェニルメチル)−N−((2−メトキシフェニル)−メチル)−1−アザビシクロ(2.2.2.)−オクタン−3−アミン(CP−96,345)]、およびL−733,060、すなわち[(2S,3S)3−([3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]メトキシ)−2−フェニルピペリジン]が含まれる。R116301、すなわち[(2R−trans)−4−[1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)ベンゾイル]−2−(フェニルメチル)−4−ピペリジニル]−N−(2,6−ジメチルフェニル)−1−アセトアミド(S)−ヒドロキシブタンジオエート]は、別の特異的な活性ニューロキニン−1(NK(1))受容体アンタゴニストであり、ヒトNK(1)受容体に対してナノメートル以下の親和性(K(i):0.45nM)、およびNK(2)およびNK(3)受容体への200倍超の選択性を有する。細胞膨張を低減することもできるニューロキニン受容体2(NK−2)のアンタゴニストにはSR48968が含まれ、NK−3には、SR142801およびSB−222200が含まれる。シクロスポリンAを使用した、ミトコンドリア透過性転移の遮断、およびミトコンドリア内膜電位の膜電位の低減は、単離された脳切片において、虚血によって誘発された細胞膜膨張を減少させることも示された。さらに、グルタメート受容体アンタゴニスト(AP5/CNQX)および反応性の酸素種スカベンジャー(アスコルベート、Trolox(R)、ジメチルチオ尿素、tempol(R))も、細胞膨張の低減を示した。したがって、組織中で細胞による水の取込みを最小限にし、または低減するための化合物も、これらの化合物のいずれか1つから選択することができる。
【0082】
以下のエネルギー基質も不透過物として作用することができることが理解されるであろう。適当なエネルギー基質は、グルコースおよび他の糖、ピルベート、ラクテート、グルタメート、グルタミン、アスパルテート、アルギニン、エクトイン、タウリン、N−アセチル−β−リシン、アラニン、プロリン、β−ヒドロキシブチレート、ならびに他のアミノ酸およびアミノ酸誘導体、トレハロース、フロリドシド、グリセロールおよび他の多価アルコール(ポリオール)、ソルビトール、ミオインノシトール(myo−innositol)、ピニトール、インスリン、α−ケトグルタレート、マレート、スクシネート、トリグリセリドおよび誘導体、脂肪酸およびカルニチンおよび誘導体からなる群からの1つまたは複数から選択することができる。一実施形態では、組織中で細胞による水の取込みを最小限にし、または低減するための少なくとも1つの化合物は、エネルギー基質である。エネルギー基質は、代謝を回復することに役立つ。エネルギー基質は、グルコースおよび他の糖、ピルベート、ラクテート、グルタメート、グルタミン、アスパルテート、アルギニン、エクトイン、タウリン、N−アセチルβ−リシン、アラニン、プロリンおよび他のアミノ酸およびアミノ酸誘導体、トレハロース、フロリドシド、グリセロールおよび他の多価アルコール(ポリオール)、ソルビトール、ミオイノシトール、ピニトール、インスリン、α−ケトグルタレート、マレート、スクシネート、トリグリセリドおよび誘導体、脂肪酸およびカルニチンおよび誘導体からなる群からの1つまたは複数から選択することができる。エネルギー基質が、体の細胞、組織または臓器におけるエネルギー変換およびATP産生のための還元当量の供給源であると考えると、エネルギー還元当量の直接供給は、エネルギー産生のための基質として使用することができると理解されるであろう。例えば、1つもしくは複数の、または異なる比の、還元形態および酸化形態のニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(例えば、NADもしくはNADPおよびNADHもしくはNADPH)またはフラビンアデニンジヌクレオチド(FADHもしくはFAD)の供給は、ストレス時におけるATP産生を維持するための結合エネルギーを供給するのに直接使用することができる。外傷の治療または傷害の低減のために、β−ヒドロキシブチレートが本発明の組成物に添加されることが好ましい。
【0083】
体全体、臓器、組織または細胞にエネルギー基質を提供することに加えて、これらの基質を代謝することにおける改善が、硫化水素(HS)またはHS供与体(例えば、NaHS)の存在下で起こり得る。硫化水素(HS)またはHS供与体(例えばNaHS)の存在は、停止の間のエネルギー需要を低下させることによって、これらのエネルギー基質を代謝し、代謝不均衡、例えば、虚血、再灌流および外傷などの期間に体全体、臓器、組織、または細胞を保護および保存することに役立つことができる。1μM(10−6M)の濃度を越える硫化水素の濃度は、エネルギー基質からエネルギー(ATP)産生および酸素消費への高エネルギー還元当量の代謝をつなぐミトコンドリア呼吸鎖の一部である、呼吸複合体IVで呼吸を阻害する代謝毒となる場合がある。しかし、10−6M未満(例えば、10−10〜10−9M)のより低い濃度で、硫化水素は、体全体、臓器、組織または細胞のエネルギー需要を低減することができ、これは、停止、保護および保存をもたらすことができることが観察された。言い換えれば、非常に低濃度のスルフィドは、ミトコンドリアを下方制御し、O消費を低減し、「呼吸調節」を実際に増大させ、それによってミトコンドリアは、ミトコンドリア内膜にまたがる電気化学勾配を崩壊することなく、より少ないOを消費する。したがって、少量のスルフィドは、直接または間接的にプロトンリークチャネルを閉じ、ミトコンドリアの呼吸をATP産生によりしっかりと、より良好につなぐことができ、この効果は、エネルギー基質からの高エネルギー還元当量の代謝を改善することができるという知見が存在する。硫黄濃度が低い場合、ヒトを含めた哺乳動物における細胞の細胞質ゾルとミトコンドリアの間に硫黄サイクルが存在する可能性もある。硫黄サイクルの痕跡の存在は、ミトコンドリアの進化上の起源、およびスルフィド産生宿主細胞とスルフィド酸化細菌性共生生物との間の共生からの真核生物細胞におけるその出現に対する現在の考えと一致する。したがって、硫化水素(HS)またはHS供与体(例えば、NaHS)は、他のエネルギー基質の代謝を改善することに加えて、それ自体エネルギー基質となり得る。したがって一形態では、本発明は、硫化水素または硫化水素供与体をさらに含めた、上述した組成物を提供する。
【0084】
組織中で細胞による水の取込みを最小限にし、または低減するための化合物は、スクロースであることが好ましい。スクロースは、不透過物として水の移動を低減する。不透過剤、例えばスクロース、ラクトビオネートおよびラフィノースなどは大きすぎて細胞に入ることができず、したがって組織内の細胞外空間にとどまり、得られる浸透圧力は、細胞膨張を防止し、これはさもなければ組織を損傷し、特に組織の貯蔵の間に起こる。
【0085】
別の実施形態では、組織中で細胞による水の取込みを最小限にし、または低減するための少なくとも1つの化合物はコロイドである。適当なコロイドとして、それだけに限らないが、デキストラン−70、40、50および60、ヒドロキシエチルデンプンならびに修正流体ゼラチンが挙げられる。コロイドは、固体が液体中に懸濁された連続的な液相を有する組成物である。コロイドは、重篤な傷害後の体内の細胞内、細胞外、および血液コンパートメントの間の水とイオン分布の平衡の回復を助長するために、臨床的に使用することができる。コロイドは、臓器保存用の溶液中で使用することもできる。晶質の投与も、体に水とイオンの平衡を回復することができるが、これらは、液体中に懸濁された固体を有していないため、一般により多い量の投与を必要とする。したがって、増量剤は、コロイドベース、または晶質ベースとすることができる。
【0086】
組織中で細胞による水の取込みを最小限にし、または低減するための化合物の濃度は、約5〜500mMの間であることが好ましい。一般にこれは、組織中の細胞による水の取込みを低減するための有効量である。組織中で細胞による水の取込みを低減するための化合物の濃度は、約20と100mMの間であることがより好ましい。組織中で細胞による水の取込みを低減するための化合物の濃度は約70mMであることがさらにより好ましい。
【0087】
さらなる実施形態では、本発明による方法において有用な組成物は、組織中で細胞による水の取込みを最小限にし、または低減するための2つ以上の化合物を含むことができる。例えば、不透過物(ラフィノース、スクロースおよびペンタスターチ)の組合せを組成物中に含めることができ、コロイド、および燃料基質の組合せでさえ組成物中に含めることができる。
【0088】
本発明者は、カリウムチャネルオープナーもしくはアゴニストおよび/またはアデノシン受容体アゴニスト、ならびに抗不整脈剤とともに、組織中で細胞の原形質膜にまたがるナトリウムイオンおよび水素イオンの輸送を阻害するための化合物を含めることにより、傷害および損傷の低減に役立つことも見出した。
【0089】
したがって別の態様では、本発明による方法において有用な組成物は、組織中で細胞の原形質膜にまたがる、ナトリウムおよび水素イオンの輸送を阻害するための化合物をさらに含む。
【0090】
組織中で細胞の膜にまたがる、ナトリウムおよび水素の輸送を阻害するための化合物は、ナトリウム水素交換阻害剤とも呼ばれる。ナトリウム水素交換阻害剤は、ナトリウムおよびカルシウムが細胞に流入するのを低減する。
【0091】
組織中で細胞の膜にまたがる、ナトリウムおよび水素の輸送を阻害するための化合物は、アミロリド、EIPA(5−(N−エチル−N−イソプロピル)−アミロリド)、カリポリド(HOE−642)、エニポリド、トリアムテレン(2,4,7−トリアミノ−6−フェニルテリド(phenylteride))、EMD84021、EMD94309、EMD96785、EMD85131、HOE694からなる群の1つまたは複数から選択することができることが好ましい。B11 B−513およびT−162559は、Na+/H+交換体のアイソフォーム1の他の阻害剤である。
【0092】
ナトリウム水素交換阻害剤は、アミロリド(N−アミジノ−3,5−ジアミノ−6−クロロピルジン(chloropyrzine)−2−カルボキシミドヒドロクロリド二水和物)であることが好ましい。アミロリドは、ナトリウムプロトン交換体(NHE−1と省略されることも多いNa+/H+交換体)を阻害し、細胞へのカルシウム流入を低減する。虚血の間、過剰の細胞のプロトン(すなわち水素イオン)は、Na+/H+交換体を介してナトリウムと交換されると考えられている。
【0093】
ナトリウム水素交換阻害剤の濃度は、約1.0nM〜1.0mMの間であることが好ましい。組織中のナトリウム水素交換阻害剤の濃度は、約20μMであることがより好ましい。
【0094】
本発明による方法において有用な組成物は、酸化防止剤も含むことができる。酸化防止剤は一般に、組織中の酸化の損傷作用に対抗することができる酵素または他の有機物質である。本発明による組成物の酸化防止剤成分は、アロプリノール、カルノシン、ヒスチジン、補酵素Q10、n−アセチル−システイン、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)、グルタチオンレダクターゼ(GR)、グルタチオンペルオキシダーゼ(GP)修飾因子および調節因子、カタラーゼおよび他の金属酵素、NADPHおよびNAD(P)H酸化酵素阻害剤、グルタチオン、U−74006F、ビタミンE、トロロクス(可溶性形態のビタミンE)、他のトコフェロール(γおよびα、β、δ)、トコトリエノール、アスコルビン酸、ビタミンC、β−カロテン(植物形態のビタミンA)、セレン、γリノール酸(GLA)、α−リポ酸、尿酸(ウレート(urate))、クルクミン、ビリルビン、プロアントシアニジン、没食子酸エピガロカテキン、ルテイン、リコペン、バイオフラボノイド、ポリフェノール、トロロクス(R)、ジメチルチオ尿素、テンポール(R)、カロテノイド、補酵素Q、メラトニン、フラボノイド、ポリフェノール、アミノインドール、プロブコールおよびニテカポン、21−アミノステロイドまたはラザロイド、スルフィドリル含有化合物(チアゾリジン、エブセレン、ジチオールチオン)、ならびにN−アセチルシステインからなる群の1つまたは複数から選択することができる。他の酸化防止剤には、ACE阻害剤(カプトプリル、エナラプリル、リシノプリル)が含まれ、これは、心筋梗塞を有する患者の動脈性高血圧および心不全の治療に使用される。ACE阻害剤は、反応性酸素種を捕捉することによって、再酸素供給された心筋に対して、その有益な効果を発揮する。やはり使用することができる他の酸化防止剤として、β−メルカプトプロピオニルグリシン、0−フェナントロリン、ジチオカルバメート、セレギリゼ(selegilize)およびデスフェリオキサミン(デスフェラール)が挙げられ、鉄キレート剤は、実験的梗塞モデルにおいて使用されており、そこでこれは、いくらかのレベルの酸化防止剤保護を発揮した。スピントラップ剤、例えば、5’−5−ジメチル−1−ピロリオン(pyrrolione)−N−オキシド(DMPO)および(a−4−ピリジル−1−オキシド)−N−t−ブチルニトロン(POBN)なども酸化防止剤として作用する。他の酸化防止剤として、ニトロンラジカルスカベンジャーα−フェニル−tert−N−ブチルニトロン(PBN)および誘導体PBN(ジスルファー(disulphur)誘導体を含めて);OHフリーラジカルの特異的なスカベンジャーであるN−2−メルカプトプロピオニルグリシン(MPG);リポオキシゲナーゼ阻害剤ノルジヒドログアレチン酸(NDGA);αリポ酸;コンドロイチン硫酸;L−システイン;オキシプリノールおよび亜鉛が挙げられる。
【0095】
酸化防止剤は、アロプリノール(1H−ピラゾロ[3,4−α]ピリミジン−4−オール)であることが好ましい。アロプリノールは、酵素キサンチンオキシダーゼを生成する反応性酸素種の競合的阻害剤である。アロプリノールの抗酸化性は、酸化的ストレス、ミトコンドリア損傷、アポトーシス、および細胞死を低減することによって、心筋および内皮の機能を保存するのに役立つことができる。
【0096】
本発明者は、特定の量のカルシウムおよびマグネシウムイオンを、カリウムチャネルオープナーもしくはアゴニストおよび/またはアデノシン受容体アゴニスト、ならびに抗不整脈剤とともに含めると、傷害を低減することもできることも見出した。特定の量のカルシウムおよびマグネシウムイオンの効果は、細胞内環境内のイオンの量を制御することである。カルシウムイオンは、細胞内環境から欠乏し、外に出され、またはさもなければ除かれる傾向があり、マグネシウムイオンは、生存可能な機能細胞において一般に見出される濃度に増加し、またはさもなければ回復される傾向がある。
【0097】
したがって別の態様では、本発明による方法において有用な組成物は、体組織において細胞中のマグネシウムの量を増加させるための量でマグネシウム源をさらに含むことができる。好ましくは、マグネシウムは、0.5mM〜20mMの間、より好ましくは約2.5mMの濃度で存在する。
【0098】
さらに、本発明の組成物が投与される一般的な緩衝液または担体(これらは以下により詳細に論じられる)は、一般に約1mMの濃度でカルシウムを含むが、これは、カルシウムがまったく存在しないと、細胞、組織、または臓器に有害であることが判明しているためである。一形態では、本発明は、体組織において細胞内のカルシウム量を減少させるように低量のカルシウム(例えば、0.5mM未満など)を含む担体を使用することも含むことができ、このカルシウム量は、さもなければ傷害/外傷/スタンニングの間に増加する場合がある。好ましくは、存在するカルシウムは、0.1mM〜0.8mMの間、より好ましくは約0.3mMの濃度である。本発明で説明したように、高い量のマグネシウム、および低量のカルシウムは、虚血および臓器の再酸素供給の間の保護に関連している。この作用は、カルシウム充填の減少によるものと考えられる。
【0099】
一実施形態では、本発明による方法において有用な組成物は、すなわち、通常の血漿濃度に対して高い量のマグネシウムイオンを含む。好ましくは、マグネシウムは二価であり、0.5mM〜20mMの間、より好ましくは約16mMの濃度で存在する。硫酸マグネシウムおよび塩化マグネシウムは適当な供給源である。
【0100】
さらなる態様では、本発明による方法において有用な組成物は、抗不整脈剤、ならびに:
カリウムチャネルオープナーまたはアゴニスト;
アデノシン受容体アゴニスト;
オピオイド;
カルシウムチャネル遮断薬;
水の取込みを低減するための少なくとも1つの化合物;
ナトリウム水素交換阻害剤;
酸化防止剤;および
体組織において細胞中のマグネシウム量を増加させるための量でのマグネシウム源
のうちの1つまたは複数を含む。
【0101】
この組成物は、上記成分のうちの2つ、3つ、または4つを有することが好ましい。これらの成分についての好適な化合物は、上記に列挙されている。この組成物は、2種以上の同じ成分を含むことができることも企図されており、例えば、2種の異なるカリウムチャネルオープナーが組成物中に存在してもよい。1つの成分が、2つ以上の機能を有することができることも企図されている。例えば、いくつかのカルシウムアンタゴニストは、カリウムチャネルオープナーと効果を共有する。
【0102】
別の態様では、有効量の高い量のマグネシウムをさらに含む、本発明による方法において有用な組成物も提供される。
【0103】
一実施形態では、本発明による方法において有用な組成物は、アデノシンおよびリグノカインを含む。この組成物は、高い量のマグネシウム源および/またはオピオイドを場合により含むことができる。オピオイドは、DPDPEなどのδオピオイドであることが好ましい。
【0104】
別の実施形態では、本発明による方法において有用な組成物は、CCPAおよびリグノカインを含む。この組成物は、高い量のマグネシウム源および/またはオピオイドを場合により含むことができる。オピオイドは、DPDPEなどのδオピオイドであることが好ましい。
【0105】
炎症および血栓症のプロセスは、共通の機構を通じて関連している。したがって、炎症プロセスの理解は、急性および慢性虚血症候群の治療を含めた血栓の障害のより良好な管理に役立つことになると考えられている。臨床的および外科的な状況では、虚血から損傷を受けた臓器または組織への迅速な応答および早期のインターベンションは、抗炎症療法と抗凝固療法の両方を伴うことができる。炎症反応を減弱するプロテアーゼ阻害剤に加えて、さらなる抗−炎症療法は、アスピリン、通常のヘパリン、低分子量ヘパリン(LMWH)、非ステロイド性抗炎症剤、抗血小板薬、および糖タンパク質(GP)IIb/IIIa受容体阻害剤、スタチン、アンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤、アンギオテンシン遮断薬およびサブスタンスPのアンタゴニストの投与を含んでいる。プロテアーゼ阻害剤の例は、インジナビル、ネルフィナビル、リトナビル、ロピナビル、アンプレナビル、または広域スペクトルプロテアーゼ阻害剤アプロチニンであり、低分子量ヘパリン(LMWH)はエノキサパリンであり、非ステロイド性抗炎症剤は、インドメタシン、イブプロフェン、ロフェコキシブ、ナプロキセン、またはフルオキセチンであり、アスピリンなどの抗血小板薬、糖タンパク質(GP)IIb/IIIa受容体阻害剤はアブシキシマブであり、スタチンはプラバスタチンであり、アンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤はカプトプリルであり、アンギオテンシン遮断薬はバルサルチン(valsartin)である。
【0106】
したがって、本発明の別の実施形態では、これらの薬剤の選択肢が、本発明による方法において有用な組成物に加えられることによって、細胞、組織、または臓器の傷害を低減するための炎症および凝固の管理が改善される。あるいは、本発明による組成物は、これらの薬剤の任意の1つまたは複数と一緒に投与することができる。
【0107】
特に、プロテアーゼ阻害剤は、心肺バイパスを用いた心臓手術を受けている患者、およびAIDSなどの、炎症反応が高められた他の患者における、または慢性の腱傷害の治療における全身性の炎症反応を減弱させる。アプロチニンなどのいくつかの広域スペクトルプロテアーゼ阻害剤は、冠状動脈バイパスなどの外科手術における血液の喪失および輸血の必要性も低減する。
【0108】
ジピリダモールなどのヌクレオシド輸送阻害剤などの、血液中のアデノシンの分解を実質的に防止する化合物は、本発明の組成物において添加剤として使用することができるであろう。血液中のアデノシンの半減期は約10秒であり、したがってその分解を実質的に防止するための薬物の存在は、本発明の組成物の効果を最大にする。
【0109】
別の実施形態では、本発明による方法において有用な組成物は、組成物中の成分の代謝または分解を防止するために、ジピリダモールなどの細胞輸送酵素阻害剤を含む。
【0110】
ジピリダモールは、約0.01μM〜約10mM、好ましくは0.05〜100μMの濃度で有利に含まれる。ジピリダモールは、心保護に関して重要な利点を有する。ジピリダモールは、アデノシン輸送および分解を阻害することによって、アデノシンの作用を補うことができ、ストレス時の間の体の細胞、組織、および臓器の保護を増大させる。ジピリダモールは、例えば、0.4μg/mlの血漿濃度、または0.8μMの濃度を生じさせるために、400mgの毎日の錠剤によって、別々に投与することもできる。
【0111】
本発明の方法において有用な組成物は、約10℃で非常に有益であるが、最大約37℃までのより広い温度範囲にわたって傷害を防止するのに使用することもできる。したがって、この組成物は、以下のうちの1つから選択される温度範囲で細胞、組織、または臓器に投与することができる:約0℃〜約5℃、約5℃〜約20℃、約20℃〜約32℃、および約32℃〜約38℃。「超低体温」は、約0℃〜約5℃の温度の組織を記述するのに使用されることが理解される。「中等度低体温」は、約5℃〜約20℃の温度の組織を記述するのに使用される。「軽度の低体温」は、約20℃〜約32℃の温度の組織を記述するのに使用される。「正常体温」は、約32℃〜約38℃の温度の組織を記述するのに使用されるが、通常の体温は約37〜38℃である。
【0112】
別の実施形態では、本発明による方法において有用な組成物は、血液喪失からの低酸素および虚血損傷を低減するのを助長することによって、体の酸素輸送能力および生存時間を改善するために、血液、または血液産物、または人工血液、または酸素結合分子もしくは溶液とともに投与するか、これらを含むことができる。酸素含有分子、化合物または溶液は、天然または人工の産物から選択することができる。例えば、人工血液ベースの産物は、ペルフルオロカーボンベースまたは他のヘモグロビンベースの代替品である。Hemopure(商標)、Gelenpol(商標)、Oxygent(商標)、およびPolyHeme(商標)などの、成分のいくつかを添加することによってヒト血液の酸素輸送能力を模倣することができる。Hemoporeは、化学的に安定化されたウシヘモグロビンに基づく。Gelenpolは、重合したヘモグロビンであり、これは合成水溶性ポリマーおよび修飾ヘムタンパク質を含む。Oxygentは、手術中に赤血球と一時的に置換するために、静脈内酸素担体として使用するためのペルフルブロンエマルジョンである。Polyhemeは、生命を危うくする血液喪失を処置するためのヒトヘモグロビンベースの溶液である。
【0113】
それだけに限らないが、酸素ガス混合物、血液、血液産物または人工血液、または酸素結合溶液を含めた様々な方法からの体の酸素供給は、ミトコンドリア酸化を維持し、これは、臓器の筋細胞および内皮を保存するのに役立つと考えられている。いずれの特定の機序または理論に束縛されることなく、本発明者は、95%のO/5%のCOで穏やかにバブリングすることは、ミトコンドリア酸化を維持するのに役立ち、これは、筋細胞および冠血管系を保存するのに役立つことを見出した。
【0114】
好適な一実施形態では、本発明による方法において有用な組成物は、投与前および/または投与中に酸素源で通気される。酸素源は、酸素が支配的な成分である、酸素ガス混合物とすることができる。
【0115】
本発明の別の態様では、細胞、組織または臓器の傷害を低減するための方法であって、
適当な容器中に、上述した組成物を提供するステップと、
血液、血液産物、人工血液、および酸素源からなる群から選択される、1種または複数種の栄養分子を提供するステップと、
場合により、組成物に酸素を通気し(例えば、単離された臓器の場合)、もしくは栄養分子を組成物と合わせ、または両方を行うステップと、
傷害を低減するのに十分な条件下で、組織、細胞、または臓器を、合わせた組成物と接触させて配置するステップと
を含む方法が提供される。
【0116】
この方法は、細胞、組織、または臓器をポストコンディショニングする、さらなるステップを含むことができる。
【0117】
酸素源は、酸素ガス混合物であることが好ましい。酸素は、支配的な成分であることが好ましい。酸素は、例えば、COと混合することができる。酸素ガス混合物は、95%のOおよび5%のCOであることがより好ましい。
【0118】
この組成物は、液体形態、例えば、溶液、シロップまたは懸濁液で組織に投与するのに適していることができ、あるいはこれらは、使用前に水または他の適当な媒体を用いて構成するための乾燥製品として施すことができる。あるいは、組成物は、水または他の適当な媒体を用いて構成するための乾燥製品として提供することができる。そのような液体製剤は、薬学的に許容される添加剤、例えば懸濁剤、乳化剤、非水性媒体、保存剤およびエネルギー源を用いて、従来の手段によって調製することができる。別の形態では、本発明は、錠剤形態および別の形態で組成物を含み、本発明はエアロゾルを含み、これは、経口、皮膚または経鼻の経路によって投与することができる。
【0119】
本発明による方法において有用な組成物は、組織への局所投与に適していることができる。そのような製剤は、クリーム、軟膏、ゼリー、溶液または懸濁液の形態で、従来の手段によって調製することができる。
【0120】
組成物は、デポー製剤として製剤化することもできる。そのような長時間作用型製剤は、移植(例えば、皮下もしくは筋肉内に)、または筋肉内注射によって投与することができる。したがって、例えば、本発明による組成物は、適当なポリマーまたは疎水性物質(例えば、許容される油中のエマルジョンもしくはイオン交換樹脂として、または難溶性の誘導体として、例えば、難溶性の塩として)を用いて製剤化することができる。
【0121】
本発明の方法は、細胞、組織、または臓器の傷害を低減するのに十分な時間および条件下で、組織を組成物と接触させることを伴う。この組成物は、心臓のインターベンション、例えば、開心術(オンポンプおよびオフポンプ)、血管形成術(バルーン、およびステントもしくは他の血管デバイスを用いた)などの間の保護のための前処理として、およびクロットバスター(抗凝固薬または抗凝固剤)のように、ボーラス静脈内、冠動脈内、または任意の他の適当な送達経路として、例えば、注入または投与することができる。
【0122】
この組成物は、静脈内に投与することができ、または静脈内と腹腔内の両方に、または大量失血からまったく脈拍のない患者における、大腿動脈もしくは大動脈などの主幹動脈に直接アクセスして、または低酸素もしくは虚血から脳を保護するために、大動脈解離の間の頚動脈もしくは別の動脈中に投与することができる。一実施形態では、組成物は、静脈内および腹腔内に同時に投与することができ、会陰は、実質的に、血流のために組成物のリザーバーとして作用し、ならびに接触する近傍における臓器に作用する。これは、ショックを被っているものなどの外傷犠牲者に特に適している。さらに、組成物が2種以上の成分を含む場合、これらは、別々だが同時に投与することができる。実質的に、標的部位への成分の同時送達が望ましい。これは、1つの組成物として投与するために、成分を予め混合することによって実現することができるが、それは本質的ではない。
【0123】
本発明は、組成物の成分の局所的な濃度(例えば、心臓などの臓器)の同時の増加(例えば、第1の成分が(i)カリウムチャネルオープナーもしくはアゴニストおよび/またはアデノシン受容体アゴニスト、ならびに(ii)抗不整脈剤である場合)を対象とする。
【0124】
組成物の一好適な形態は、アデノシンとリグノカインの組合せである。別の好適な形態では、組成物は、オピオイド、好ましくはDPDPEなどのδ−1−オピオイド受容体アゲインスト(against)も含むことができる。
【0125】
本発明は、「ミニプレギア(miniplegia)」または「マイクロプレギア(microplegia)」として知られる手順としばしば連携して、灌流ポンプを使用して組成物を投与することによって実践することができ、この中で最小量の成分が、カテーテルを直接介して、精密に調節可能なポンプ手段によって滴定される。本発明では、プロトコールは、上述したミニプレギアを利用し、患者自身の酸素供給された血液を使用して、微量が心臓に直接滴定される。「設定」の基準は、心臓などの臓器に直接送達されている物質の量の、シリンジポンプなどのポンプでの量である。
【0126】
あるいは、組成物は、エアロゾルによって投与することができる。
【0127】
この組成物は、心臓のインターベンション、例えば、開心術(オンポンプおよびオフポンプ)、血管形成術(バルーン、およびステントもしくは他の血管デバイスを用いた)などの間の保護のために、および傷害から細胞を保護し、保存するためのクロットバスターのように、ボーラス静脈内、冠動脈内、または任意の他の適当な送達経路として注入または投与することもできる。
【0128】
したがって、組織は、組成物を静脈内に送達することによって、組織に接触することができる。これは、組織への送達の媒体として血液を使用する。特に、組成物は、血液心筋保護液のために使用することができる。あるいは、組成物は、組織または臓器に直接穿刺することによって(例えば、シリンジによって)ボーラスとして直接投与することができ、組織または臓器への血量が制限されている場合特に有用である。組織を停止、保護、保存するための組成物は、経口、皮膚または経鼻の経路によって、エアロゾル、粉末、溶液またはペーストとして投与することもできる。
【0129】
あるいは、組成物は、傷害を低減するために、組織、臓器、もしくは細胞、または体内の露出部分に直接投与することができる。
【0130】
本発明による組成物は、組織の傷害を最小限にするために、晶質心筋保護液とともに使用することができる。外科的または診断手順の一用途では、そのような組成物を投与することによって、標的組織の局在化した停止、ならびに再灌流およびポストコンディショニングの間の保護をもたらすことができる。
【0131】
組成物は、以下の送達プロトコール、すなわち断続的、連続的、およびワンショットのうちの1つ、または組合せによって送達することができる。したがって、本発明の別の態様では、組成物は、単一用量の組成物として投与することができる。
【0132】
本発明の別の態様では、組成物は、断続的な投与によって投与することができる。適当な投与スケジュールは、停止期間全体にわたる、20分毎の2分誘導投与(induction dose)である。実際の期間は、組成物を投与する当業者による知見、および選択された動物/ヒトモデルに基づいて調節することができる。本発明は、細胞、組織、または臓器の傷害を低減するために、組成物を断続的に投与するための方法も提供する。
【0133】
この組成物はもちろん、心臓組織などの正常および傷害された組織または臓器の両方に、持続注入で使用することもできる。持続注入には、組織の静的な貯蔵も含まれ、それによって組織は、本発明による組成物中に貯蔵され、例えば組織は、適当な容器中に配置し、ドナーからレシピエントにドナー組織を輸送するために、組成物(または溶液)中に浸すことができる。
【0134】
それぞれ送達プロトコールのための用量および時間間隔は、それに応じて設計することができる。本発明による組成物の成分は、投与前に合わせ、または実施的に同時に投与し、または同時投与することができる。
【0135】
組成物のそれぞれの成分を単独で組織に接触させることは可能であるが、医薬組成物の成分は、1つまたは複数の薬学的に許容される担体、希釈剤、アジュバント、および/または賦形剤と一緒に提供されることが好ましい。それぞれの担体、希釈剤、アジュバントおよび/または賦形剤は、薬学的に許容されなければならず、その結果これらは、医薬組成物の成分と適合性であり、対象に有害ではない。医薬組成物は、液体担体、希釈剤、アジュバント、および/または賦形剤とともに調製されることが好ましい。
【0136】
水性懸濁液は、水性懸濁液の作製に適した賦形剤との混合物中に活性物質を含む。そのような賦形剤は、懸濁剤、例えば、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロプロピルメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、トラガカントゴムおよびアカシアゴムであり、分散剤または湿潤剤は、天然に存在するホスファチド、例えば、レシチン、またはアルキレンオキシドの、脂肪酸との縮合生成物、例えば、ステアリン酸ポリオキシエチレン、またはエチレンオキシドの、長鎖脂肪族アルコールとの縮合生成物、例えば、ヘプタデカエチレンオキシセタノール、またはエチレンオキシドの、脂肪酸に由来する部分エステルおよびヘキシトールとの縮合生成物、例えば、ポリオキシエチレンソルビトールモノオレエートなど、またはエチレンオキシドの、脂肪酸に由来する部分エステルおよびヘキシトール無水物との縮合生成物、例えば、ポリエチレンソルビタンモノオレエートとすることができる。水性懸濁液は、1つまたは複数の保存剤、例えば、安息香酸エステル、例えば、エチルまたはn−プロピルp−ヒドロキシ安息香酸など、1つまたは複数の着色剤、1つまたは複数の香味剤、および1つまたは複数の甘味剤、例えば、スクロースまたはサッカリンなども含むことができる。
【0137】
水を添加することによって水性懸濁液を調製するのに適した分散性の粉末および顆粒は、分散剤または湿潤剤、懸濁剤および1つまたは複数の保存剤との混合物中に活性成分を提供する。適当な分散剤または湿潤剤および懸濁剤は、既に上述したものによって例示されている。追加の賦形剤、例えば、甘味剤、香味剤、および着色剤も存在することができる。
【0138】
シロップおよびエリキシル剤は、甘味剤、例えば、グリセロール、プロピレングリコール、ソルビトールまたはスクロースを用いて製剤化することができる。そのような製剤は、粘滑薬、保存剤、および香味剤および着色剤も含むことができる。
【0139】
したがって、本発明のこの態様は、薬学的に許容される担体、希釈剤、アジュバントおよび/または賦形剤と一緒になった、本発明による方法において有用な組成物も提供する。好適な薬学的に許容される担体は、約6〜約9好ましくは約7、より好ましくは約7.4のpHおよび/または低濃度のカリウムを有する緩衝液である。例えば、この組成物は、最大約10mM、より好ましくは約2〜約8mM、最も好ましくは約4〜約6mMの総カリウム濃度を有する。適当な緩衝液として、一般に10mMのグルコース、117mMのNaCl、5.9mMのKCl、25mMのNaHCO、1.2mMのNaHPO、1.12mMのCaCl(遊離Ca2+=1.07mM)、および0.512mMのMgCl(遊離Mg2+=0.5mM)を含むクレブス−ヘンゼライト、一般に10mMのグルコース、126mMのNaCl、5.4mMのKCl、1mMのCaCl、1mMのMgCl、0.33mMのNaHPO、および10mMのHEPES(N−[2−ヒドロキシエチル]ピペラジン−N’−[2−エタンスルホン酸]を含むタイロード液、フレム(Freme)液、一般に129のNaCl、5mMのKCl、2mMのCaCl、および29mMの乳酸塩を含むハルトマン液、ならびにリンガー−乳酸塩が挙げられる。
【0140】
適当なイオン環境において使用することもできる、筋肉中に存在する他の天然に存在する緩衝化合物は、カルノシン、ヒスチジン、アンセリン、オフィジンおよびバレネン(balenene)、またはこれらの誘導体である。
【0141】
例えば、最大約2.5mMなどの低濃度のマグネシウムを有する担体を使用することも有利であるが、例えば、最大約20mMの高濃度のマグネシウムも、必要に応じて、組成物の活性に実質的に影響することなく使用することができることが理解されるであろう。
【0142】
組成物中のそれぞれの成分の濃度は、組成物と一緒に投与することができる体液または他の流体によって希釈することができることが理解されるであろう。一般に、組成物は、組成物中のそれぞれの成分の濃度が約100倍未満で組織と接触するように投与される。例えば、組成物を収めるバイアルなどの容器に、投与のために1〜100部の血液、血漿、晶質または血液代替品で希釈することができる。
【0143】
本発明の別の態様では、細胞、組織または臓器の傷害を低減するための薬物を調製するための、上述した組成物の使用が提供される。本発明のこの態様の一実施形態では、虚血後の細胞、組織、または臓器の損傷を低減するための薬物を調製するための、上述した組成物の使用が提供される。
【0144】
別の実施形態では、外傷後の細胞、組織、または臓器の損傷を低減するための薬物を調製するための、上述した組成物の使用が提供される。
【0145】
さらなる実施形態では、虚血または再灌流の前、またはこれらの間の細胞、組織、または臓器の損傷を低減するための薬物を調製するための、上述した組成物の使用が提供される。
【0146】
本明細書で開示され、定義される本発明は、本文または図面から言及され、または明白な個々の特徴の2つ以上のすべての代替の組合せに及ぶことが理解されるであろう。これらの異なる組合せのすべては、本発明の様々な代替の態様を構成する。
【実施例】
【0147】
以下のことは、本発明を例示する目的で、本発明の適当な組成物および方法の非限定例として提供される。
【0148】
(実施例1)
アデノシン+リグノカイン(AL)療法、およびポストコンディショニング(PC)
この実施例は、中間用量のアデノシン+リグノカイン(AL)療法、ならびに梗塞サイズに対する、AL単独およびポストコンディショニング単独と比較した、再灌流から数秒後に誘発されたポストコンディショニング(PC)の効果を試験する。
【0149】
ポストコンディショニングは、Vinten−Johansenおよび同僚によって2003年に発見され、再灌流の早期段階における血流の迅速な断続的中断として定義される。ポストコンディショニングは、「オフポンプ」および「オンポンプ」手術、ならびに血管形成術において適用可能となり得るが、これは、再灌流は、外科医またはインターベンショニストによって制御することができるためである。実際に、3つの臨床試験により、血管形成術の間のポストコンディショニングは、この手術から7日経っても梗塞サイズを30%低減することに有効であることが現在では示されている。
【0150】
δオピオイド受容体アゴニストは、心保護的で強力な鎮痛薬であり、副作用が比較的少ない。この実施例は、δ−1−オピオイド受容体アゴニスト、例えば、[D−Pen2,5]エンケファリン(DPDPE)の存在により、ALにおけるアデノシンの効果が増強されるかどうかを試験する。
【0151】
実験は、インビボで、麻酔されたラットに実施し、左冠動脈を30分間縛り、結紮し、その後2時間再灌流することによって、局所虚血を強制的に起こした。薬剤は、虚血の5分前と30分の虚血の間に静脈内に投与した(上述した方法を参照されたい)。
【0152】
より低いリグノカイン濃度(60μmol/kg/分)で、AL(305/60)(↓19%)、AL(305/60)+ポストコンディショニング(↓32%)、およびAL(305/60)+DPDPE(↓64%)を使用した、梗塞サイズの低減を示すデータを図1に示す。括弧内の数値は、それぞれμg/分/kgでのAおよびLの濃度を示す。
【0153】
アデノシンおよび低リドカイン(305/60)後のこの実験において、ポストコンディショニング(PC)は、梗塞サイズを著しく低減しなかったが、これは、再灌流不整脈の数を確かに劇的に低減した。
【0154】
ALとδオピオイドDPDPEを使用したデータは、50%〜18%(n=1)の、梗塞サイズの顕著な低減、およびやはり、不整脈発生の顕著な低下を示した。いずれの理論または作用機序に束縛されることなく、DPDPEの添加は、AL療法と組み合わせたとき、より大きな保護を付与することができる。
【0155】
(実施例2)
ALとオピオイドおよび/またはポストコンディショニングの効果
この実施例は、「中間の」静脈内アデノシンおよびリグノカイン濃度を使用したALの心保護特性、ならびにポストコンディショニングおよびδオピオイド受容体との可能なクロストークからの可能な相加的な保護を例示する。ポストコンディショニングおよびオピオイドのクロストークは、最適な保護を提供するAL群において最良に分析される。
【0156】
この実施例では、静脈内ALを左冠動脈を結紮する5分前に注入し、30分の局所虚血の間継続する。ALの4つの組合せ、すなわち300/120、300/180、150/120、150/180(A/Lμg/分/kg)をそれぞれ試験する。
【0157】
30分のCA結紮および120分の再灌流の間のALの心保護特性を試験する。ラットを13群の1つに無作為に割り当てる。
【0158】
1)食塩水対照(n=8)。
【0159】
2)ALで処置したラット(A:300μg/kg/分と、L:120μg/kg/分を、冠動脈結紮の5分前、および30分の冠動脈結紮の間に静脈内に投与した)(n=8)。
【0160】
3)ALで処置したラット(A:300μg/kg/分と、L:180μg/kg/分を、冠動脈結紮の5分前、および30分の冠動脈結紮の間に静脈内に投与した)(n=8)。
【0161】
4)ALで処置したラット(A:150μg/kg/分と、L:120μg/kg/分を、冠動脈結紮の5分前、および30分の冠動脈結紮の間に静脈内に投与した)(n=8)。
【0162】
5)ALで処置したラット(A:150μg/kg/分と、L:180μg/kg/分を、冠動脈結紮の5分前、および30分の冠動脈結紮の間に静脈内に投与した)(n=8)。
【0163】
6)lidoボーラスおよびlido注入処置群(120μg/kg/分)(n=8)。
【0164】
7)lidoボーラスおよびlido注入処置群(180μg/kg/分)(n=8)。
【0165】
8)アデノシン注入(300μg/kg/分)(n=8)。
【0166】
9)アデノシン注入(150μg/kg/分)(n=8)。
【0167】
10)ポストコンディショニング(PC)(10秒の閉塞と、スネア(snare)を取り出してから10秒後に開始する再灌流の3サイクル)(n=8)(Vinten−Johansen)。
【0168】
11)AL(300/120;300/180;150/120;150/180)+PC(n=8)。
【0169】
12)AL(300/120;300/180;150/120;150/180)+6mg/kgのi.v.ナロキサン(naloxane)を、閉塞の50分前に投与した(n=8)[Ludwig、2003 #1744]。
【0170】
13)AL(300/120;300/180;150/120;150/180)+1.0mg/kg[D−Pen2,5]エンケファリン(DPDPE)(閉塞の11分前)[Peart、2003 #1575](グロス(Gross))(n=8)。
【0171】
14)リグノカインを伴ったA1受容体アゴニスト(CCPA)(n=8)。
【0172】
15)AL(300/120;300/180;150/120;150/180)+1.0mg/kg[D−Pen2,5]エンケファリン(DPDPE)+PC(n=8)。
【0173】
ラットの総数=120。さらに40匹のラットを、食塩水対照、またはA単独、または左冠動脈結紮の失敗として使用する。以前の試験では、食塩水対照およびA単独の動物の約50%が、30分の虚血の間にVFで死ぬことが示されている(CanyonおよびDobson、2004)。
【0174】
物質および方法:雄のスプラーグドーリーラット(300〜350g、給餌した)に、Na−ペンタバルビトンで麻酔し(60mg/kg ip)、実験全体にわたって、要求に応じて投与した(倫理認可番号(Ethics approval number)A557)。この試験は、NIH刊行物第85−23号(1996年改訂)からの倫理指針、およびNHMRCによる倫理指針に従う。アデノシン、青色色素、塩化トリフェニルテトラゾリウム(TTC)、アデノシン、ナロキサンおよび[D−Pen 2,5]エンケファリン(DPDPE)は、Sigma Aldrich(Castle Hill、NSW)から得た。リグノカイン塩酸塩は、2%溶液(腸骨)として購入した。外科手術は、CanyonおよびDobson(2004)に記載されている。簡単に言えば、気管切開が実施し、ラットに、Harvard Small Animal Ventilatorを使用して、1分当たり75〜80回のストロークで人工呼吸する。体温は、恒温ブランケット制御ユニットを使用して37℃に維持する。左右の大腿静脈および動脈を、薬剤注入、血液採取および血圧モニタリング(UFI 1050 BP)のために、MacLabを使用してカニューレ処置する。心臓には、左開胸によって、隣接する肋間筋とともに4番目と5番目の肋骨を除去した後にアクセスする。次いで心臓を穏やかに露出させ、6−0縫合糸を左冠動脈(LCA)の下に迅速に通し、可逆性スネアオクルーダーに接続する。虚血前にリズム障害、または80mmHg未満の平均動脈圧の持続的な低下を生じるいずれの動物も含めない。不整脈は、虚血、および再灌流の最初の30分の間に分析する。リードII ECG追跡を使用して、心室細動(VF)および心室頻脈(VT)のエピソード、およびエピソードの継続時間を記録する。VFは、個々のQRSの振れが互いに容易に区別することができず、レートをもはや測定することができないシグナルとして定義し、VTは、4回以上の連続した心室期外収縮として定義した。120分の再灌流後に、冠動脈を再閉塞し、心臓を切除した。青色色素(3ml)を、大動脈に順方向に通して流し、冠血管系を通じて循環させることによって、虚血性リスクゾーンを描写した。CanyonおよびDobson(2004)によって記載されているように、心臓を6または7枚の均一な厚さ(2mm)に横方向にスライスし、リスク範囲および梗塞サイズを推定した。梗塞サイズを、ネクローシスの範囲(AN)とリスクのある範囲の比(AN/AAR)として定義し、百分率として表した。主要評価項目は、死亡率、心室性不整脈のエピソードおよび継続時間、ならびに梗塞サイズである。副次的評価項目として、通常の分析を使用する、心拍数、平均動脈圧、RPP(rate−pressure product)(心拍数×収縮期血圧)、および血漿CK、およびラクテート濃度が挙げられる。
【0175】
統計的な分析 すべての値は、平均±平均の標準誤差として表す。梗塞サイズのデータについては、一元配置ANOVAを最小有意差(LSD)ポストホック検定で使用する。マンホイットニーU検定を、不整脈頻度および継続時間の比較のために使用するが、これは、VTおよびVFの変数は、正常に分布しないためである。血行動態データは、反復測定についてのANOVAを使用して比較する。有意性は、P≦0.05で設定する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
虚血後の細胞、組織、または臓器の損傷を低減するための方法であって、
(i)カリウムチャネルオープナーもしくはアゴニストおよび/またはアデノシン受容体アゴニスト、ならびに(ii)抗不整脈剤を含む有効量の組成物を投与するステップと、
前記細胞、組織、または臓器をポストコンディショニングするステップと
を含む方法。
【請求項2】
前記組成物がδ−1−オピオイド受容体アゴニストをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記オピオイドが[D−Pen 2,5]エンケファリン(DPDPE)である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記アデノシン受容体アゴニストがCCPAである、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
外傷後の細胞、組織、または臓器の損傷を低減するための方法であって、
(i)カリウムチャネルオープナーもしくはアゴニストおよび/またはアデノシン受容体アゴニスト、ならびに(ii)抗不整脈剤を含む有効量の組成物を投与するステップと、
前記細胞、組織、または臓器をポストコンディショニングするステップと
を含む方法。
【請求項6】
虚血または再灌流の間の細胞、組織、または臓器の損傷を低減するための方法であって、
(i)カリウムチャネルオープナーもしくはアゴニストおよび/またはアデノシン受容体アゴニスト、ならびに(ii)抗不整脈剤を含む有効量の組成物を投与するステップと、
前記細胞、組織、または臓器をポストコンディショニングするステップと
を含む方法。
【請求項7】
虚血後の細胞、組織、または臓器の損傷を低減するための方法であって、(i)カリウムチャネルオープナーもしくはアゴニストおよび/またはアデノシン受容体アゴニスト、(ii)抗不整脈剤、ならびに(iii)オピオイドを含む有効量の組成物を、前記細胞、組織、または臓器に投与するステップを含む方法。
【請求項8】
外傷後の細胞、組織、または臓器の損傷を低減するための方法であって、(i)カリウムチャネルオープナーもしくはアゴニストおよび/またはアデノシン受容体アゴニスト、(ii)抗不整脈剤、ならびに(iii)オピオイドを含む有効量の組成物を、前記細胞、組織、または臓器に投与するステップを含む方法。
【請求項9】
虚血または再灌流の間の細胞、組織、または臓器の損傷を低減するための方法であって、(i)カリウムチャネルオープナーもしくはアゴニストおよび/またはアデノシン受容体アゴニスト、(ii)抗不整脈剤、ならびに(iii)オピオイドを含む有効量の組成物を、前記細胞、組織、または臓器に投与するステップを含む方法。
【請求項10】
前記細胞、組織、または臓器をポストコンディショニングするステップをさらに含む、請求項7、8、または9に記載の方法。
【請求項11】
虚血もしくは再灌流の間、または虚血もしくは外傷後の細胞、組織、または臓器の損傷を低減するための組成物であって、
(i)カリウムチャネルオープナーもしくはアゴニストおよび/またはアデノシン受容体アゴニストと、
(ii)抗不整脈剤と、
(iii)オピオイドと
を含む組成物。

【図1】
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【公表番号】特表2010−534208(P2010−534208A)
【公表日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−517236(P2010−517236)
【出願日】平成20年7月25日(2008.7.25)
【国際出願番号】PCT/AU2008/001086
【国際公開番号】WO2009/012534
【国際公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(508354876)ハイバーネイション セラピューティクス リミテッド (3)
【Fターム(参考)】