説明

改善及び安定化された活性の固定化界面酵素

水性緩衝液及び少なくとも1種の第1の有機溶媒を含む二相系を提供するステップ、前記界面酵素を、提供された二相系と混合するステップ、該担体を、得られた混合物に添加し、混合するステップ、並びに、最後のステップで得られた混合物から、前記担体上に固定化された界面酵素を分離するステップによって、不溶性担体上に固定化された界面酵素の調製のための方法が開示されている。生成した酵素は、その触媒活性なコンファーメーションで固定され、したがって、改善された活性及び安定性を示す。生成した酵素の使用、特にバイオディーゼルの調製における使用も開示されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改善された活性及び安定性を有する固定化界面酵素、特にリパーゼ及びホスホリパーゼ、並びに他のヒドロラーゼに関する。本発明は、そのような酵素の調製のための方法、並びにそれらの様々な工業的使用及び研究的使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
界面酵素は、そのタンパク質構造中に2つのドメイン、第1は親水性ドメインであり、一方で、第2は疎水性ドメイン、を含む、ある種の酵素である。この独特な特徴は、この種の酵素が、二相系中に存在すると界面領域を好むようにする。これらの条件下で、活性な立体構造は形成され、そこで、該酵素分子の親水性ドメインは、水層に面し、一方で、疎水性ドメインは、疎水層に面する。
【0003】
リパーゼ及びホスホリパーゼは、界面系中に存在するとそれらの触媒作用を発現する、最も知られた界面酵素である。リパーゼ(トリアシルグリセロールヒドロラーゼE.C.3.1.1.3)は、水性系中のトリアシルグリセロールのエステル結合に作用して、遊離脂肪酸、部分グリセリド及びグリセロールをもたらす加水分解酵素として定義されている。ホスホリパーゼも、加水分解酵素の種類に属するが、それは、水性系中に存在するリン脂質のエステル結合を、有利及び特異的に切断して、ホスホリパーゼの種類に応じて、遊離脂肪酸、リゾリン脂質、グリセロリン脂質、ホスファチジン酸及び遊離アルコールをもたらす。
【0004】
リパーゼ及びホスホリパーゼは、動物、植物及び微生物の間に広く分布している。リパーゼ及びホスホリパーゼの工業的用途における関心は、この20年間で急速に増大してきた。低水分活性下では、この種の酵素は、その加水分解の逆反応に触媒作用を及ぼすことが見出された。リパーゼ及びホスホリパーゼの逆触媒活性は、エステル及びアミド結合を含有する貴重な化合物、或いはヒドロキシル、カルボキシル及びアミノ基などの官能基を含有する他の関連化学物質の合成のために広く活用されてきた。特に、リパーゼ及びホスホリパーゼは、脂肪、油、ワックス、リン脂質及びスフィンゴ脂質を改質して新規の所望の機能特性を得るために、並びに、場合により、活性化合物をそのラセミ混合物から分離するために、利用されてきた。特に興味深いことに、独特なワックスエステル及び短鎖アルキルエステル(バイオディーゼル)の合成のための界面酵素の使用について、本明細書で開示する。
【0005】
現在、40種以上の様々なリパーゼ及びホスホリパーゼが市販されているが、それらのうち、商業量で調製されているものはわずかしかない。最も工業的に有望な界面酵素のいくつかは、カンジダ・アンタークチカ(Candida antarctica)、カンジダ・ルゴサ(Candida rugosa)、リゾムコール・ミエヘイ(Rhizomucor miehei)、シュードモナス(Pseudomonas)種、リゾープス・ニベウス(Rhizopus niveus)、ムコール・ジャバニカス(Mucor javanicus)、リゾープス・オリゼ(Rhizopus oryzae)、黒色コウジ菌(Aspergillus niger)、ペニシリウム・カマンベルチ(Penicillium camembertii)、アルカリゲネス(Alcaligenes)種、バークホルデリア(Burkholderia)種、サーモマイセス・ラヌギノサ(Thermomyces lanuginosa)、クロモバクテリウム・ビスコサム(Chromobacterium viscosum)、パパイヤ種子、及びパンクレアチンに由来する。
【0006】
酵素の固定化は、プロセス全体における酵素のための費用負担を減少することを基本的に目指して、生成物からの酵素の回収を促進し、該プロセスの連続運用を可能にする、膨大な数の技法によって説明されてきた。固定化技法は、一般に、以下の手順に従って分割される。
1.シリカ及び不溶性ポリマーなどの固体担体への酵素の物理吸着。
2.イオン交換樹脂上への吸着。
3.エポキシ化無機又はポリマー担体などの、固体担体材料への酵素の共有結合。
4.成長ポリマー中への酵素の包括。
5.膜反応器中又は半透性ゲル中への酵素の閉じ込め。
6.架橋化酵素結晶(CLECS)又は架橋化酵素凝集体(CLEAS)。
【0007】
すべての前述の酵素固定化手順は、以下のステップを含む。
1.pH、温度、緩衝塩の種類、及びイオン強度に関して適切な緩衝系中に酵素を溶解する。
2.固体担体を酵素溶液中に添加し、酵素分子が固体担体上に固定化されるまでしばらく混合する。
3.固定化酵素を含有する固体担体を濾過して取り除く。
4.緩く結合された酵素分子を除去するために、適切な緩衝液で該担体を洗浄し、次いで固体担体を乾燥させる。
【0008】
界面酵素、主にリパーゼは、前述の技法に従って固定化されてきた。これらの提供された固定化酵素調製物は、低い合成活性及び/又は短い運用上の半減期を有する。固定化リパーゼ及び他の界面酵素の合成活性を増大させようとして、様々な活性化法が適用されてきた。それらの方法には、以下のものが含まれる。
1.酵素の表面官能基を、脂肪酸又はポリエチレングリコールなどの疎水性残基と結合させる。
2.酵素の表面を、多価アルコール脂肪酸エステルなどの界面活性剤で被覆する。
3.酵素を、エタノール又はイソプロパノールなどの親水性溶媒で前処理した疎水性担体、一般にポリプロピレンと接触させる。
4.塩溶液、グリセロールなどの酵素活性剤を、低濃度、一般に1%未満で反応系中に添加する。
【0009】
上述の方法はどれも、酵素の逆転化を工業量で実行するための、固定化界面酵素の活性化、安定化及び対費用効果に関して満足な結果をもたらさなかった。前述の手順に従って固定化されると、大部分の酵素が、固定化手順によって課された特定の制約に起因して、その合成活性の相当な部分を失うか、又はその完全な活性能を示さないということも報告されてきた。例えば、多価アルコール脂肪酸エステルを用いた被覆リパーゼ及びホスホリパーゼは、リパーゼ分子が活性剤で完全に被覆されないという深刻な問題に直面した。したがって、活性剤と接触させられていない酵素分子は、不活性なままであった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、合成用途のために、高活性で安定な固定化界面酵素、特にリパーゼ及びホスホリパーゼを得るための新規な方法を提供することが、本発明の一目的である。特に興味深いことに、これらの酵素は、ワックスエステル及びバイオディーゼルの合成に使用され得る。
【0011】
様々な工業的並びに研究的手順で使用するために、高活性で安定な固定化界面酵素を提供することが本発明のさらなる目的である。
【0012】
本発明のこれらの及び他の目的は、説明が進むにつれて明らかになろう。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、以下のステップを含む、不溶性担体上に固定化された界面酵素の調製のための方法に関する。
(a)水性緩衝液及び少なくとも1種の第1の有機溶媒を含む二相系を提供するステップ。
(b)前記界面酵素を、ステップ(a)で提供された二相系と混合するステップ。
(c)前記担体を、ステップ(b)の混合物に添加し、混合するステップ。
(d)ステップ(c)で得られた混合物から、前記担体上に固定化された界面酵素を分離するステップ。
【0014】
二相性酵素溶液との混合の前に、前記担体は、塩及び有機物質を除去するために場合により洗浄され、次いで第2の有機溶媒中に溶解した界面活性剤で処理される。
【0015】
不溶性担体は、吸着によって、又は共有結合によって、界面酵素を官能基へ結合させることが可能である。該担体は、シリカ又はアルミナベース担体などの多孔質無機担体、ポリマーベース担体などの有機担体からなる群から選択されることが好ましい、有機でも無機でもよい多孔質担体であることが好ましく、前記担体は、場合により、エポキシ又はアルデヒド基などの活性官能基、或いはイオン基を含有してもよい。
【0016】
本発明の方法では、前記第1の有機溶媒は、アルカン類(オクタンなど)、アルコール類(n−オクタノールなど)、アルデヒド類(デカンアルデヒドなど)及びケトン類(2−オクタノンなど)並びにそれらの任意の混合物から選択される。
【0017】
界面活性剤は、限定はされないが、糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン糖脂肪酸エステル又はエーテル、中鎖及び長鎖アルキルグルコシド、リン脂質、ポリエチレングリコール誘導体或いは第4アンモニウム塩であることが好ましい。
【0018】
前記第2の有機溶媒は、アルカン、好ましくはn−ヘキサン、エーテル、好ましくはジエチルエーテル、ケトン、好ましくはアセトン、及びアルコール、好ましくはイソプロパノール、並びにそれらの任意の混合物でよい。
【0019】
本発明の方法によって調製される界面酵素は、リパーゼ又はホスホリパーゼであることが好ましい。具体的な非限定的例は、カンジダ・アンタークチカ、カンジダ・ルゴサ、リゾムコール・ミエヘイ、シュードモナス種、リゾープス・ニベウス、ムコール・ジャバニカス、リゾープス・オリゼ、黒色コウジ菌、ペニシリウム・カマンベルチ、アルカリゲネス種、バークホルデリア種、サーモマイセス・ラヌギノサ、クロモバクテリウム・ビスコサム、パパイヤ種子及びパンクレアチンに由来する酵素である。
【0020】
別の態様では、本発明は、その活性なコンファーメーションで固定された、多孔質固体担体上に固定化された界面酵素に関する。
【0021】
本発明の固定化酵素の好ましい実施形態では、該担体は、界面活性剤、好ましくは前記界面活性剤の単分子層で均一に被覆される。該担体は、吸着によって、又は共有結合によって、前記酵素を官能基に結合させることが可能であり、シリカ及びアルミナベース担体などの無機担体、ポリマーベース担体などの有機担体から選択されることが好ましい、有機又は無機担体でよく、該担体は、エポキシ又はアルデヒド基などの活性官能基及びイオン基を含有するか、或いは、前記担体は、イオン交換樹脂でよい。
【0022】
本発明の酵素調製物では、界面活性剤は、限定はされないが、糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン糖脂肪酸エステル又はエーテル、中鎖及び長鎖アルキルグルコシド、リン脂質、ポリエチレングリコール誘導体、或いは第4アンモニウム塩であることが好ましい。
【0023】
本発明の固定化界面酵素は、リパーゼ又はホスホリパーゼであることが好ましい。具体的な例は、カンジダ・アンタークチカ、カンジダ・ルゴサ、リゾムコール・ミエヘイ、シュードモナス種、リゾープス・ニベウス、ムコール・ジャバニカス、リゾープス・オリゼ、黒色コウジ菌、ペニシリウム・カマンベルチ、アルカリゲネス種、バークホルデリア種、サーモマイセス・ラヌギノサ、クロモバクテリウム・ビスコサム、パパイヤ種子及びパンクレアチンに由来する酵素である。
【0024】
さらなる実施形態では、本発明は、出発原料に固有の表面活性成分を含有する、構造化ワックスエステルの調製のための、酵素による方法に関し、この方法は、本発明の、又は本発明の方法によって調製された固定化リパーゼの存在下で、ワックス原料をアルコールと反応させるステップを含む。この方法では、生成した構造化ワックスエステルは、出発原料に固有の表面活性成分を含有し、それにより改善された水分散性を有する。
【0025】
特定の実施形態では、本発明は、脂肪酸の短鎖アルキルエステル、好ましくは脂肪酸メチルエステル(バイオディーゼル)の調製のための方法に関し、この方法は、本発明による、又は本発明の方法によって調製されたリパーゼを含有する、植物、動物、藻類又は魚油、或いはこれらの油の少なくとも2種の混合物に、段階的にメタノールを添加すること、並びに、前記油トリグリセリドが脂肪酸メチルエステルに転化されるまで、好適な条件下でその反応を進行させることを含む。
【0026】
この方法では、植物油は、限定はされないが、大豆、キャノーラ、菜種、オリーブ、ヤシ油、ヒマワリ油、ピーナッツ油、綿実油、廃食用油、又は非食用植物原料に由来する任意の油トリグリセリドでよい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】界面領域における酵素活性化を受けて担体上に酵素が固定化されるための方法の略図である。
【図2】界面活性剤の単分子層で被覆された多孔質担体上に固定化された、その活性なコンファーメーションに「固定された(locked)」界面酵素を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
高活性で安定な固定化界面酵素の調製のための新規な方法を求めて、本発明者は、二段法を開発し、それは実質的に以下のとおりである。
ステップ1:すべての界面酵素分子を、水性相及び疎水性有機相を含む二相系中にそれらを混合することによって、それらの活性なコンファーメーションを取るように強制する(図1(A及びB)参照)。
ステップ2:既に該酵素を含有している二相系中に好適な担体を添加する(図1(B及びC)参照)。
【0029】
該担体の主要な特徴は、担体自体を二相系の界面中に配置する能力である。
【0030】
これらの条件下で、二相界面に配置された活性酵素分子は、単純な吸着、エポキシ又はアルデヒド基などの官能基を含有する活性樹脂との共有結合によって、或いはイオン交換樹脂上への吸着によって、該担体上に容易に固定化され得る。
【0031】
この二段法は、本発明による活性固定化界面酵素の調製で採用される。
【0032】
したがって、第1の実施形態では、本発明は、安定で、高活性の固定化界面酵素、特にリパーゼ及びホスホリパーゼの調製のための方法に関し、その方法では、水性緩衝液及び少なくとも1種の第1の有機溶媒を含む二相系が提供され、界面酵素が二相系と混合され、固体担体がその混合物に添加され、該担体上に固定化された界面酵素が分離される。
【0033】
界面に存在する酵素分子を「釣る(fishes)」、二相系の界面領域を好むことによって特徴づけられる特定の担体を使用すると、それにより該酵素は、その活性な立体構造で固定される。該担体の親和力は、その極性、及び該溶媒の極性に応じて決まる、その多孔度、膨潤性並びに分散性に応じて決まるであろう。二相系では、親水性担体は、水を好み、一方、疎水性担体は、無極性有機溶媒を好む。
【0034】
本発明者は、界面領域に対する該担体の親和力を改善するために、親水性でも疎水性でもよい該担体の表面領域が、界面活性剤の単分子層で被覆されることを見出した。このことは、二相系中に存在する場合、該担体が界面領域を好むようにする。したがって、この特徴は、該担体の、その活性なコンファーメーションに「固定された」界面酵素を捕捉する能力を改善する。したがって、当技術分野で知られているような、該担体中に拡散する酵素よりむしろ、本発明は、酵素を釣って、その活性なコンファーメーションまで安定化するための効率的な手段を提供する。
【0035】
したがって、二相界面中への固体マトリックスの配置を強化するために、該固体マトリックス、好ましくは多孔質マトリックス(非多孔質マトリックスも使用され得る)は、以下に詳述するように、それが界面活性剤で均一に被覆されるように変性されてもよい。変性担体の主要な特徴は、疎水性−親水性二相系中に生成した界面中に配置されるその傾向である。
【0036】
したがって、この好ましい実施形態では、固体担体は、二相性酵素溶液と混合される前に、第2の有機溶媒中に溶解した界面活性剤で前処理される。一般に、多孔質であることが好ましいが、非多孔質でもよい該担体は、最初に、任意の吸着塩及び有機残基を取り除かれ、次いで任意の残留水分を除去するために乾燥され、次いで表面活性剤を含有する低蒸発性有機溶媒、例えば、n−ヘキサン、イソプロパノール、エタノール、トルエン、アセトニトリル及び同様の溶媒と混合される。次いで該有機溶媒は除去され、表面活性剤で均一に被覆された乾燥多孔質固体担体を得る。それにもかかわらず、本発明の方法は、非変性(非前処理)担体を用いて実施されてもよい。
【0037】
表面活性剤(界面活性剤)は、非イオン性でもイオン性(アニオン性若しくはカチオン性)でもよく、例えば、限定はされないが、糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン糖脂肪酸エステル又はエーテル、中鎖又は長鎖アルキルグルコシド、リン脂質、ポリエチレングリコール誘導体或いは第4アンモニウム塩でよい。具体的な活性剤は、以下の実施例で列挙している。
【0038】
該固体担体は、有機でも無機でもよい、特にシリカ又はアルミナベース担体などの多孔質無機担体、ポリマーベース担体などの有機担体からなる群から選択される、多孔質担体であることが好ましく、前記担体は、場合により、エポキシ又はアルデヒド基などの活性官能基、或いはイオン基を含有してよい。いくつかの具体的な担体は、以下の実施例、特に表1で示している。
【0039】
二相系は、好適な水性緩衝液及び有機溶媒から調製される。この有機溶媒は、限定はされないが、アルカン(オクタンなど)、アルコール(n−オクタノールなど)、アルデヒド(デカンアルデヒドなど)、ケトン(2−オクタノンなど)及びその任意の混合物でよい。
【0040】
さらなる実施形態では、本発明は、界面活性剤、好ましくはそのような界面活性剤の単分子層で均一に被覆された前処理(変性)固体担体上に固定化された界面酵素に関する。この独特な構造により、有機溶媒中で実施される反応での該酵素の効率的な使用が可能になる。該担体の表面領域上で生成する界面活性剤の単分子層は、頭部対頭部型の頭部群及び尾部対尾部型の尾部群によって表現される独特な構造を有する。この構造の略図は、図2に示している。理論によって縛られることなく、この構造が、その活性及び有利な立体構造を取る固定化酵素に関して主要な役割を有していることが明らかである。また、表面活性剤は、マトリックスのみに付着され、該酵素の非活性化を防いでいる。該酵素調製物は、本明細書で述べた酵素の群の1種又は複数のリパーゼを含有してよい。
【0041】
使用されるべきマトリックス、界面活性剤及び酵素は、上で詳述したとおりである。
【0042】
本発明の、又は本発明の方法によって調製された固定化酵素は、非常に活性であり、特に安定である。以下の表2に示すように、10サイクルの反応後でさえ、約90%の活性が維持される。この安定性は、経済的に非常に重要である。
【0043】
別の実施形態では、本発明は、本発明の、又は本発明の方法によって調製された固定化リパーゼの存在下で、ワックス原料をアルコールと反応させることによって、構造化ワックスエステルを調製するための方法に関する。
【0044】
この方法によって得られたワックスエステルは、出発原料に固有の表面活性要素/成分を含有する。以下の実施例で示しているように、該反応系中のオイルトリグリセリドのアルコールに対するモル比は、それぞれ1:2である。それ故、反応生成物、ワックスエステルとオイルに固有のモノグリセリドとの間のモル比は、それぞれ2:1である。該アルコールは、任意の好適なC2〜22アルカノール、好ましくはセチルアルコールでよい。固定化酵素を濾過して取り除いた後、残りの生成物は、ワックスエステルとモノグリセリドの、それぞれ2:1の比での混合物を含有する。モノグリセリドの乳化特性のため、該混合物は、クリーム、特に改善された皮膚浸透及び保湿作用を有する化粧用及び医療用クリームとして使用するための水分散性ワックスの調製に使用され得る。この表面活性剤の存在は、ワックスエステルに改善された水分散性を賦与する。したがって、本発明に従って生成されたワックスエステルは、クリーム及びローションなどの、様々な化粧及び美容製品の要素としての使用に特に好適であり、乳化剤又は分散剤を添加する必要なく、得られたまま使用され得る。形成された混合物の改善された乳化特性は、該方法で生成したモノグリセリドの存在によって与えられる。その分子が疎水性及び親水性ドメインの両方を有しており、そのドメインの構造が、ワックスエステルの水中での分散性を改善する能力をモノグリセリドに賦与するため、モノグリセリドは、良好な乳化剤としてよく知られている。このように生成されたワックスエステルは、同じ系でモノグリセリドを使用せずに調製されたワックスエステルと比較して、改善された水分散性を有する。
【0045】
重要な実施形態では、本発明は、脂肪酸メチルエステル(バイオディーゼル)の調製のための方法にも関する。一般に、この方法では、最初に、植物、動物、藻類、魚油、又は菌類に由来し、n−3若しくはn−6脂肪酸を含有する油、或いはそのような油の少なくとも2種の混合物に、メタノールが段階的に添加される。界面活性剤、好ましくは界面活性剤の単分子層で被覆された固体担体上に固定化されたリパーゼ、又は本発明の方法によって調製された固定化リパーゼは、メタノール/油混合物に添加され、その反応は、オイルトリグリセリドが脂肪酸メチルエステルに転化されるまで進行し得る。
【0046】
本明細書の記載では、担体及びマトリックスという用語は、互換的に使用されることに留意されたい。
【0047】
開示及び記載しているように、この発明が、本明細書で開示している特定の実施例、プロセスステップ、及び材料に限定されるものではなく、それは、そのようなプロセスステップ及び材料が多少変動することがあるためであることを理解されたい。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲及びその等価物のみによって限定されることが見込まれるため、本明細書で使用している専門用語は、特定の実施形態を説明する目的のみで使用しており、限定的であることを意図していないことも理解されたい。
【0048】
この明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」及び「その(the)」は、その内容が別に明確に表さない限り、複数の指示対象を含むことに留意されたい。
【0049】
この明細書及び以下の特許請求の範囲にわたって、その文脈が別に要求しない限り、「含む(comprise)」という用語、並びに「含む(comprises)」及び「含んでいる(comprising)」などの変形は、規定された整数又はステップ、或いは整数又はステップの群の包含を暗示するが、任意の他の整数又はステップ、或いは整数又はステップの群の排除を暗示するものではないものと理解されよう。
【0050】
以下の実施例は、本発明の態様を実施する際に本発明者らが採用した代表的な技法である。これらの技法は、本発明の実行のための典型的な好ましい実施形態となる技法だが、当業者は、本開示を考慮すれば、本発明の意図した範囲から逸脱することなく、多数の変更をなし得ることを理解すると見込まれることも理解されたい。
【実施例】
【0051】
(実施例1)
固定化リパーゼ(リポザイムTL)の調製
酵素担体(1g)を、最初に、任意の吸着塩及び有機残基を除去するために、水で洗浄する。該担体を、濾過して取り除き、次いで残留水分を除去するために、真空下で乾燥させる。その乾燥担体(1g)を、非イオン性、アニオン性又はカチオン性界面活性剤を含有するn−ヘキサン又はイソプロパノールなどの有機溶媒(100mg)と混合する。界面活性剤(限定はされないが、ホスファチジルコリン、AOT(ビス−(2−エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウム)、ポリエチレングリコール、ツイーン(Tween)20、40、60、65、80及び85、スパン(Span)20、40、60、65、80、及び85、並びにモノ、ジ、及びトリオレイン酸ソルビタン又は他のソルビタン脂肪酸エステルなどの糖脂肪酸エステルでよい)で均一に被覆された乾燥担体を得るために、該有機溶媒を真空下で蒸発させる。
【0052】
サーモマイセス・ラヌギノサに由来するリパーゼ(1mlのリポザイムTL100L、Novozymes、デンマーク)を、0.05M及びpH6.5のリン酸緩衝液10mlとn−ヘキサン10mlを含む二相系中で混合する。その混合物を、10分勢いよく攪拌し、その後、界面活性剤で処理した多孔質担体を添加する。その混合物を、さらに4時間攪拌する。固定化酵素を含有する担体を、濾過して取り除き、高活性固定化リパーゼを得るために、デシケーター中で終夜乾燥させる。その固定化手順は、非変性担体を使用しても実施し得る。
【0053】
表1は、様々な担体上に固定化されたリポザイムTL100Lの相対的なエステル交換活性を示している。反応を、固定化リパーゼ(0.5g)をオリーブ油(10g)及びセチルアルコール(5.5g)(トリグリセリド:セチルアルコールのモル比は2:1)に添加することによって実施した。その反応系を、磁気的に、又は振盪によって60℃で混合する。オリーブ油トリグリセリドのワックスエステルへの転化率を、3時間の反応後のオリーブ油トリグリセリドのピーク面積の合計と、0時点でのオリーブ油トリグリセリドのピーク面積との合計の比を計算することによって、3時間の反応後に求めた。
表1:3時間の反応後のオリーブ油トリグリセリドのワックスエステルへの転化率(%)。反応条件:オリーブ油(10g)及びセチルアルコール(5.5g)を、様々な担体上に固定化されたリパーゼTL100L(0.55g)と3時間混合する。その反応混合物を、300rpm及び60℃で振盪する。
【表1】

【0054】
該反応が定常状態条件に達すると、所望の生成物を得るために、固定化酵素を濾過して取り除く。該生成物は、ワックスエステル、及びオリーブ油に固有のモノグリセリドをそれぞれ2:1のモル比で含む。この独特な比が、該生成物に、改善された水分散性を与え、したがって、該生成物は、外の乳化剤の使用を必要とせずに、クリームエマルジョン、特に化粧用又は医療用クリームの調製のために使用され得る。
【0055】
(実施例2)
脂肪酸メチルエステル(バイオディーゼル)の調製のための固定化リパーゼ
様々なリパーゼ、又はリパーゼの混合物を、様々な担体を使用して、上記の手順に従って固定化する。脂肪酸メチルエステルを形成するための、メタノール及び植物油トリグリセリドの高エステル交換活性をもたらした主要なリパーゼとしては、カンジダ・アンタークチカリパーゼB(CALB−L、Novozymes、デンマーク)、リパーゼQLM(アルカリゲネス種、名糖産業株式会社、日本)、サーモマイセス・ラヌギノサ(リポザイムTL100L、Novozymes、デンマーク)、シュードモナス種(リパーゼPS、天野エンザイム株式会社、日本)が挙げられる。
【0056】
その反応条件は以下のとおりである。大豆油(2.5g)及びメタノール(0.3mlを、6時間の反応時間の間、ステップ毎に0.1mlずつ添加する)。その反応を、固定化リパーゼ(100mg)を添加し、その反応媒質を35℃で6時間振盪することによって開始する。表2は、同じ生体触媒を10回の連続サイクルで使用した6時間の反応時間後の、大豆油トリグリセリドの脂肪酸メチルエステルへの転化率を示している。
表2:同じ生体触媒を10回の連続サイクルで使用した6時間の反応時間後の、大豆油トリグリセリドの脂肪酸メチルエステルへの転化率。
【表2】

【0057】
表2に示すように、酵素の活性の大部分は、10サイクルの反応後でさえ維持されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不溶性担体上に固定化された界面酵素の調製のための方法であって、
(a)水性緩衝液及び少なくとも1種の第1の有機溶媒を含む二相系を提供するステップ、
(b)該界面酵素を、ステップ(a)で提供された二相系と混合するステップ、
(c)該担体を、ステップ(b)の混合物に添加し、混合するステップ、
(d)ステップ(c)で得られた混合物から、該担体上に固定化された界面酵素を分離するステップ
を含む方法。
【請求項2】
ステップ(b)で得られた二相性酵素溶液と混合する前に、前記担体が、塩及び有機物質を除去するために場合により洗浄され、次いで第2の有機溶媒中に溶解した界面活性剤で処理される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記不溶性担体が、吸着によって、又は共有結合によって、前記酵素を官能基へ結合させる能力を有する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記担体が、シリカ又はアルミナベース担体などの多孔質無機担体、ポリマーベース担体などの有機担体からなる群から選択されることが好ましい、有機でも無機でもよい多孔質担体であり、前記担体が、場合により、エポキシ又はアルデヒド基などの活性官能基、或いはイオン基を含有してもよい、請求項1から3までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の有機溶媒が、アルカン類(オクタンなど)、アルコール類(n−オクタノールなど)、アルデヒド類(デカンアルデヒドなど)及びケトン類(2−オクタノンなど)並びにそれらの任意の混合物から選択される、請求項1から4までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記界面活性剤が、糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン糖脂肪酸エステル又はエーテル、中鎖及び長鎖アルキルグルコシド、リン脂質、ポリエチレングリコール誘導体並びに第4アンモニウム塩から選択される、請求項2から5までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記第2の有機溶媒が、アルカン類、好ましくはn−ヘキサン、エーテル類、好ましくはジエチルエーテルなど、ケトン類、好ましくはアセトン、及びアルコール、好ましくはイソプロパノール、並びにそれらの任意の混合物から選択される、請求項2から6までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記酵素が、リパーゼ又はホスホリパーゼである、請求項1から8までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記酵素が、カンジダ・アンタークチカ(Candida antarctica)、カンジダ・ルゴサ(Candida rugosa)、リゾムコール・ミエヘイ(Rhizomucor miehei)、シュードモナス種(Pseudomonas sp.)、リゾープス・ニベウス(Rhizopus niveus)、ムコール・ジャバニカス(Mucor javanicus)、リゾープス・オリゼ(Rhizopus oryzae)、黒色コウジ菌(Aspergillus niger)、ペニシリウム・カマンベルチ(Penicillium camembertii)、アルカリゲネス種(Alcaligenes sp.)、バークホルデリア種(Burkholderia sp.)、サーモマイセス・ラヌギノサ(Thermomyces lanuginosa)、クロモバクテリウム・ビスコサム(Chromobacterium viscosum)、パパイヤ種子、及びパンクレアチンからなる群から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
固体担体上に固定化された界面酵素であって、その触媒活性なコンファーメーションで固定されている界面酵素。
【請求項11】
多孔質固体担体上に固定化された界面酵素であって、前記担体が、界面活性剤、好ましくは前記界面活性剤の単分子層で均一に被覆されている界面酵素。
【請求項12】
前記担体が、前記酵素を、吸着によって、又は共有結合によって、官能基へ結合させる能力を有する、請求項10に記載の酵素。
【請求項13】
前記担体が、有機又は無機であり、好ましくは、シリカ及びアルミナベース担体などの無機担体、ポリマーベース担体などの有機担体からなる群から選択され、前記担体が、エポキシ又はアルデヒド基などの活性官能基、及びイオン基を含有してもよいか、或いは、前記担体がイオン交換樹脂である、請求項10から12までのいずれか一項に記載の酵素。
【請求項14】
前記界面活性剤が、糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン糖脂肪酸エステル又はエーテル、中鎖及び長鎖アルキルグルコシド、リン脂質、ポリエチレングリコール誘導体並びに第4アンモニウム塩から選択される、請求項11から13までのいずれか一項に記載の酵素。
【請求項15】
リパーゼ又はホスホリパーゼである、請求項10から14までのいずれか一項に記載の酵素。
【請求項16】
前記酵素が、カンジダ・アンタークチカ(Candida antarctica)、カンジダ・ルゴサ(Candida rugosa)、リゾムコール・ミエヘイ(Rhizomucor miehei)、シュードモナス種(Pseudomonas sp.)、リゾープス・ニベウス(Rhizopus niveus)、ムコール・ジャバニカス(Mucor javanicus)、リゾープス・オリゼ(Rhizopus oryzae)、黒色コウジ菌(Aspergillus niger)、ペニシリウム・カマンベルチ(Penicillium camembertii)、アルカリゲネス種(Alcaligenes sp.)、バークホルデリア種(Burkholderia sp.)、サーモマイセス・ラヌギノサ(Thermomyces lanuginosa)、クロモバクテリウム・ビスコサム(Chromobacterium viscosum)、パパイヤ種子、及びパンクレアチンからなる群から選択される、請求項15に記載の酵素。
【請求項17】
構造化ワックスエステルの調製のための酵素による方法であって、請求項15又は16で定義された、又は請求項9の方法によって調製された固定化リパーゼの存在下で、トリグリセリド原料をアルコールと反応させるステップを含み、該ワックスエステルが、出発原料に固有の表面活性成分を含み、それにより該ワックスエステルが改善された水分散性を有する、上記方法。
【請求項18】
前記アルコールが、C2〜22アルカノール、好ましくはセチルアルコールである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
請求項10から16までのいずれか一項で定義された、或いは請求項1から9までのいずれか一項の方法によって調製された、リパーゼを含有する、植物、動物、藻類又は魚油、或いはそれらの油の少なくとも2種の混合物にメタノールを段階的に添加するステップ、並びに、前記オイルトリグリセリドが脂肪酸メチルエステルに転化されるまで、好適な条件下でその反応を進行させ得るステップを含む、脂肪酸の短鎖アルキルエステル、好ましくは脂肪酸メチルエステル(バイオディーゼル)の調製のための方法。
【請求項20】
前記植物油が、大豆、キャノーラ、菜種、オリーブ、ヤシ油、ヒマワリ油、ピーナッツ油、綿実油、廃食用油、又は非食用植物原料に由来する任意のオイルトリグリセリドである、請求項19に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−515450(P2010−515450A)
【公表日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−545294(P2009−545294)
【出願日】平成19年12月31日(2007.12.31)
【国際出願番号】PCT/IL2007/001630
【国際公開番号】WO2008/084470
【国際公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【出願人】(509192802)トランス バイオディーゼル リミテッド (4)
【Fターム(参考)】