説明

改良されたヒアルロン酸の製造方法

【課題】効率良くヒアルロン酸を製造する方法の提供。
【解決手段】植物中で機能し得るプロモーターと転写終結領域との制御下にある、ヒアルロン酸合成酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA;並びに植物中で機能し得るプロモーターと転写終結領域との制御下にある、グルタミン:フルクトース−6−リン酸アミドトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA;又は/及び植物中で機能し得るプロモーターと転写終結領域との制御下にある、UDP−グルコースデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA;のDNAを含む発現用組換えベクターを構築し、このベクターを用いて、植物細胞又は植物体を形質転換して形質転換体を得、得られた形質転換体を培養し、該形質転換体により生産されたヒアルロン酸を分離する工程を含むヒアルロン酸の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物によりヒアルロン酸を製造する方法、及びヒアルロン酸生産能を有する形質転換植物細胞又は形質転換植物体に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒアルロン酸は、1934年にMeyerとPalmerが、牛の眼球の硝子体から単離したグリコサミノグリカン(ムコ多糖)である(非特許文献1参照)。高分子のヒアルロン酸は、変形関節症の治療や眼科用手術補助剤、癒着防止や創傷治癒促進効果等に使用されている。また、低分子のヒアルロン酸は生理活性効果があることが報告されている。また、ヒアルロン酸は、保水力に優れていることから化粧品用途にも使用されている。さらに、ヒアルロン酸は、バイオマテリアル素材や、新たな医療用途への応用も期待されている。
【0003】
これまで、ヒアルロン酸の製造方法としては、動物組織からの抽出(特許文献1参照)または微生物発酵(特許文献2〜5参照)による製造方法が開発されてきた。しかしながら、動物組織からの抽出では、ウイルス等の混入の危険性が懸念されている。一方、微生物発酵では設備投資が必要であり、また、治療用物質を微生物で生産する場合、エンドトキシンの混入等を防ぐために精製コストが高くなる。
【0004】
一方、植物は、光合成を利用して水と二酸化炭素から糖を合成する、エネルギー負荷の低い理想的な糖質生産系である。特許文献6及び7に記載の発明では、ヒアルロン酸合成酵素遺伝子を植物体または植物細胞に導入(形質転換)することによって、ヒアルロン酸の生産が可能なことが示されている。さらに、特許文献8及び9に記載の発明では、ヒアルロン酸合成酵素遺伝子に加えて、ヒアルロン酸の合成原料の糖ヌクレオチドを合成する酵素の遺伝子であるグルタミン:フルクトース−6−リン酸アミドトランスフェラーゼ遺伝子及び/又はUDP−グルコースデヒドロゲナーゼ遺伝子を導入することにより、植物体または植物細胞におけるヒアルロン酸の生産性が向上することが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平05−125103号公報
【特許文献2】特開昭58−056692号公報
【特許文献3】特開平06−319579号公報
【特許文献4】特開平06−319580号公報
【特許文献5】特開平09−056394号公報
【特許文献6】国際公開第05/012529号
【特許文献7】国際公開第06/032538号
【特許文献8】国際公開第07/023682号
【特許文献9】国際公開第07/039316号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Meyer,K. and Palmer,J.W.(1934)J.Biol.Chem.,107,629−634
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、植物においてヒアルロン酸を製造する公知の方法を改良することによって、従来より更に効率良くヒアルロン酸を製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために形質転換に用いる発現用組換えベクター中の転写終結領域の転写効率を向上させることについて鋭意検討した結果、従来の特許文献8又は9等において転写終結領域として用いられているNOS(ノパリン合成酵素遺伝子)由来の転写終結領域を、シロイヌナズナの熱ショックタンパク質由来の転写終結領域に代えることにより、導入遺伝子の発現効率が増大し、ヒアルロン酸が効率良く生産されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下に記載されるものを要旨とする。
1.(1)以下の(i)並びに(ii)又は/及び(iii)のDNAを含む発現用組換えベクターを構築し、このベクターを用いて、植物細胞又は植物体を形質転換して形質転換体を得る工程:
(i)植物中で機能し得るプロモーターと転写終結領域との制御下にある、ヒアルロン酸合成酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA;
(ii)植物中で機能し得るプロモーターと転写終結領域との制御下にある、グルタミン:フルクトース−6−リン酸アミドトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA;
(iii)植物中で機能し得るプロモーターと転写終結領域との制御下にある、UDP−グルコースデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA;及び
(2)得られた形質転換体を培養し、該形質転換体により生産されたヒアルロン酸を分離する工程
を含むヒアルロン酸の製造方法において、転写終結領域の塩基配列が、以下の(a)又は(b)の塩基配列であることを特徴とするヒアルロン酸の製造方法:
(a)配列番号1で示される塩基配列;
(b)配列番号1に対して相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列。
2.以下の(i)並びに(ii)又は/及び(iii)のDNAを含む発現用組換えベクターを用いて形質転換された、ヒアルロン酸生産能を有する形質転換植物細胞もしくは形質転換植物体又はそれと同じ性質を有する子孫もしくはそれらの器官もしくはそれらの組織:
(i)植物中で機能し得るプロモーターと転写終結領域との制御下にある、ヒアルロン酸合成酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA;
(ii)植物中で機能し得るプロモーターと転写終結領域との制御下にある、グルタミン:フルクトース−6−リン酸アミドトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA;
(iii)植物中で機能し得るプロモーターと転写終結領域との制御下にある、UDP−グルコースデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA;
ただし、転写終結領域の塩基配列は、以下の(a)又は(b)の塩基配列である:
(a)配列番号1で示される塩基配列;
(b)配列番号1に対して相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列。
3.2.に記載の形質転換植物細胞もしくは形質転換植物体又はそれと同じ性質を有する子孫もしくはそれらの器官もしくはそれらの組織から得られる植物抽出物。
4.1.に記載の方法によって得られる、分子量100万以上のヒアルロン酸。
【発明の効果】
【0010】
本発明のヒアルロン酸の製造方法は、形質転換に用いる発現用組換えベクター中の転写終結領域として、従来一般的に用いられているNOS由来の転写終結領域の代わりに、シロイヌナズナの熱ショックタンパク質由来の転写終結領域を用いているので、植物中に導入された(i)ヒアルロン酸合成酵素活性を有するタンパク質をコードする遺伝子、並びに(ii)グルタミン:フルクトース−6−リン酸アミドトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子、又は/及び(iii)UDP−グルコースデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子が植物内で効率良く発現され、植物内で高分子のヒアルロン酸が従来よりも多量に生産される。さらに、本発明によれば、ヒアルロン酸を効率良く生産可能な植物体または植物培養細胞を提供することができる。従って、本発明によれば、植物で生産された安全性の高い高分子のヒアルロン酸を低コストで提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、発現用組換えベクターの概略図である。
【図2】図2は、タバコBY−2培養細胞形質転換体のヒアルロン酸生産性を示すグラフである。
【図3】図3は、タバコBY−2培養細胞形質転換体の生産したヒアルロン酸の分子量を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の方法の特徴は、転写終結領域としてシロイヌナズナの熱ショックタンパク質由来の転写終結領域を用いることにより、植物細胞又は植物体中で高分子のヒアルロン酸を効率良く製造することにある。
【0013】
本発明のヒアルロン酸の製造方法では、まず、以下の(i)並びに(ii)又は/及び(iii)のDNAを含む発現用組換えベクターを構築し、このベクターを用いて、植物細胞又は植物体を形質転換して形質転換体を得る(工程(1)):
(i)植物中で機能し得るプロモーターと転写終結領域との制御下にある、ヒアルロン酸合成酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA;
(ii)植物中で機能し得るプロモーターと転写終結領域との制御下にある、グルタミン:フルクトース−6−リン酸アミドトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA;
(iii)植物中で機能し得るプロモーターと転写終結領域との制御下にある、UDP−グルコースデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【0014】
まず、ヒアルロン酸合成酵素活性を有するタンパク質について説明する。
ヒアルロン酸合成酵素活性を有するタンパク質は、UDP−グルクロン酸とUDP−N−アセチルグルコサミンを基質としてグルクロン酸とN−アセチルグルコサミンの繰り返し構造からなる直鎖状ポリマーのヒアルロン酸を合成するタンパク質である。
【0015】
ヒアルロン酸合成酵素活性を有するタンパク質は、上記の性質を有していれば特に限定はされず、動物や、微生物やウイルス由来のヒアルロン酸合成酵素(以下、HASと略すことがある)等であることができる。詳しくは、ヒト、マウス、ウサギ、ニワトリ、ウシ、アフリカツメガエル等の脊椎動物由来のヒアルロン酸合成酵素や、ストレプトコッカス属、パスチュレラ属等の微生物由来のヒアルロン酸合成酵素や、クロレラウイルス等のウイルス由来のヒアルロン酸合成酵素等であることができる。
【0016】
より具体的には、クロレラウイルス PBCV−1系統由来のHAS(A98R)、ヒト由来のヒアルロン酸合成酵素(hHAS)のHAS1、HAS2およびHAS3、マウス由来のヒアルロン酸合成酵素(mHAS)のHAS1、HAS2およびHAS3、ニワトリ由来のヒアルロン酸合成酵素(gHAS)のHAS1、HAS2およびHAS3、ラット由来のヒアルロン酸合成酵素(rHAS)のHAS2、ウシ由来のヒアルロン酸合成酵素(bHAS)のHAS2、アフリカツメガエル由来のヒアルロン酸合成酵素(xHAS)のHAS1、HAS2およびHAS3、パスチュレラ ムルトシダ由来のヒアルロン酸合成酵素(pmHAS)、ストレプトコッカス ピオゲネス由来のヒアルロン酸合成酵素(spHAS)、ストレプトコッカス エクイリシミリス由来のヒアルロン酸合成酵素(seHAS)等が挙げられる。ヒアルロン酸合成酵素(HAS)遺伝子には、HAS1、HAS2、HAS3等の各種タイプを有するものがあるが、タイプの種類は特に限定されない。
【0017】
ヒアルロン酸合成酵素活性を有するタンパク質は、上記記載のHASであれば使用できるが、より好ましくはクロレラウイルス由来のHASが良く、特に好ましくは、配列番号3または5で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質によって示されるクロレラウイルス由来のHASが良い。
【0018】
また、ヒアルロン酸合成酵素活性を有するタンパク質は、配列番号3または5で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなる、ヒアルロン酸合成活性を失わない程度の変異がなされたタンパク質であっても良い。例えば、配列番号3または5で表わされるアミノ酸配列の少なくとも1個、好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは1〜5個のアミノ酸が欠失してもよく、又は、配列番号3または5で表わされるアミノ酸配列に少なくとも1個、好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは1〜5個のアミノ酸が付加してもよく、あるいは、配列番号3または5で表わされるアミノ酸配列の少なくとも1個、好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは1〜5個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換してもよいが、特にこれに限定されるものではない。このような変異は、自然界において生じるほかに、人為的な変異も含む。一例として、パスチュレラ ムルトシダ由来のヒアルロン酸合成酵素は、膜結合領域および膜貫通領域と推定される約270アミノ酸を欠失してもヒアルロン酸合成酵素活性を持つことが報告されている(Jing et al.,2000,Glycobiology,10,883−889)。変異したアミノ酸の数は、ヒアルロン酸合成活性を失わない限り、その個数は制限されない。
【0019】
ヒアルロン酸合成活性の測定は、次のように実施すればよい。試料と、1mMジチオスレイトール、20mM塩化マグネシウム、1mMエチレングリコールビス(β−アミノエチルエーテル)−N,N,N,N−テトラ酢酸、15%グリセロール、0.5mMウリジン−5’−ジホスホグルクロン酸(以下、UDP−GlcAと略する)、0.5mMウリジン−5’−ジホスホ−N−アセチルグルコサミン(以下、UDP−GlcNAcと略する)、0.1μM UDP−[14C]GlcA、0.24μM UDP−[3H]GlcNAc、グルクロン酸125μgを含む50mM Tris−HCl緩衝液(pH7.0)0.2mlを37℃で1時間インキュベーションすることにより反応させる。反応後、反応液を10分間煮沸させることにより反応を停止させる。反応液を二分して、片方に0.5単位のストレプトコッカス ジスガラクティアエ(Streptococcus dysgalactiae)由来ヒアルロニダーゼ(生化学工業製)を添加し、30℃で4時間さらにインキュベーションする。反応後、10分間煮沸させることによりヒアルロニダーゼを失活させる。反応液をSuperdex Peptide HR10/30(アマシャムファルマシア社製)カラムクロマトグラフィー(溶出液:0.2M酢酸アンモニウム)で、0.5mlずつ分画し、各画分の放射活性を測定する。その結果、試料を用いた反応液から、ヒアルロニダーゼで低分子化される産物の量によりヒアルロン酸合成活性を測定すればよい。また、ヒアルロン酸結合タンパク質を利用した市販のヒアルロン酸測定用プレート(例えば、ECHELON BIOSCIENCES社 Hyaluronan ELISA)により、反応液中のヒアルロン酸濃度を測定することにより、ヒアルロン酸合成酵素活性の測定が可能である。
【0020】
ヒアルロン酸合成酵素活性を有するタンパク質をコードするDNAは、このタンパク質を生産する生物から、常法に従って容易に単離することができる。
【0021】
次に、グルタミン:フルクトース−6−リン酸アミドトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質について説明する。
グルタミン:フルクトース−6−リン酸アミドトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質は、L−グルタミンとフルクトース−6−リン酸を基質として、グルコサミン−6−リン酸を合成するタンパク質である。
【0022】
グルタミン:フルクトース−6−リン酸アミドトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質(以下、GFATと略すことがある)は上記の性質を有していれば特に限定はされず、真核生物由来、原核生物由来、ウイルス由来等のGFATが挙げられる。真核生物由来としてはヒト、マウス、トウモロコシ、シロイヌナズナ、線虫、酵母等に由来するGFAT、原核生物由来としては枯草菌、大腸菌に等由来するGFAT、ウイルス由来としてはクロレラウイルスのGFATを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0023】
GFATは、上記記載のGFATであれば使用できるが、より好ましくはクロレラウイルス由来のGFATが良く、特に好ましくは、配列番号7または9で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質によって示されるクロレラウイルス由来のGFATが良い。
【0024】
また、GFATは、配列番号7または9で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなる、グルタミン:フルクトース−6−リン酸アミドトランスフェラーゼ活性を失わない程度の変異がなされたタンパク質であっても良い。例えば、配列番号7または9で表わされるアミノ酸配列の少なくとも1個、好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは1〜5個のアミノ酸が欠失してもよく、又は、配列番号7または9で表わされるアミノ酸配列に少なくとも1個、好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは1〜5個のアミノ酸が付加してもよく、あるいは、配列番号7または9で表わされるアミノ酸配列の少なくとも1個、好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは1〜5個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換してもよいが、特にこれに限定されるものではない。このような変異は、自然界において生じた変異のほかに、人為的な変異も含む。変異したアミノ酸の数は、GFAT活性を失わない限り、その個数は特に制限されない。天然の変異例として、配列番号7のクロレラウイルス弘前系統のGFATと、公知のクロレラウイルスPBCV−1系統、K2系統のGFATとは、少なくともアミノ酸レベルで2%が変異している例がある。
【0025】
グルタミン:フルクトース−6−リン酸アミドトランスフェラーゼの活性は、フルクトース−6−リン酸(15mM)、L−グルタミン(15mM)、EDTA(1mM)、DTT(1mM)、KHPO(60mM)を含む溶液(pH7.0)に酵素液を添加して、37℃で数時間反応させ、生成物であるグルコサミン−6−リン酸またはグルタミン酸の量を測定することにより評価できる。具体的には、グルコサミン−6−リン酸を測定する方法としては、Morgan&Elson法の改良法であるReissig法(J.Biol.Chem,1955,217,959−966)、グルタミン酸を測定する方法としては、グルタミン酸脱水素酵素を利用した酵素法(J Biochem Biophys Methods,2004,59,201−208)等が例示される。
【0026】
グルタミン:フルクトース−6−リン酸アミドトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAは、このタンパク質を生産する生物から、常法に従って容易に単離することができる。
【0027】
次に、UDP−グルコースデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質について説明する。
UDP−グルコースデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質は、UDP−グルコースを基質として、UDP−グルクロン酸を合成するタンパク質である。
【0028】
UDP−グルコースデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質(以下、UGDと略すことがある)は、上記の性質を有していれば特に限定はされず、真核生物由来、原核生物由来、ウイルス由来等のUGDが挙げられる。真核生物由来としては、ヒト、ウシ、マウス、ポプラ、サトウキビやシロイヌナズナ由来等のUGD、原核生物由来としては、大腸菌、パスツレラ・ムルトシダや乳酸菌由来等のUGD、ウイルス由来としては、クロレラウイルス由来等のUGDを挙げることができるが、これに限定されるものではない。
【0029】
UGDは、上記記載のUGDであれば使用できるが、より好ましくはクロレラウイルス由来またはシロイヌナズナ由来のUGDが良く、特に好ましくは、配列番号11または13で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質によって示されるクロレラウイルス由来のUGDが良い。
【0030】
また、UGDは、配列番号11または13で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなる、UDP−グルコースデヒドロゲナーゼ活性を失わない程度の変異がなされたタンパク質であっても良い。例えば、配列番号11または13で表わされるアミノ酸配列の少なくとも1個、好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは1〜5個のアミノ酸が欠失してもよく、又は、配列番号11または13で表わされるアミノ酸配列に少なくとも1個、好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは1〜5個のアミノ酸が付加してもよく、あるいは、配列番号11または13で表わされるアミノ酸配列の少なくとも1個、好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは1〜5個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換してもよいが、特にこれに限定されるものではない。このような変異は、自然界において生じるほかに、人為的な変異も含む。変異したアミノ酸の数は、UGD活性を失わない限り、その個数は特に制限されない。
【0031】
UDP−グルコースデヒドロゲナーゼ活性の測定方法は、UDP−グルコース(4mM)、NAD+(1mM)、EDTA(1mM)、Tris−HCl(20mM)を含む溶液(pH8.0)に酵素液を添加し、37℃で反応を行い、生成物であるUDP−グルクロン酸またはNADHの量を測定することにより評価できる。具体的には、NADHの測定法はTenhaken and Thulkeの報告(Plant Physiol.1996,112:1127−34)に従い、Abs340の増加を測定することで実施できる。
【0032】
UDP−グルコースデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAは、このタンパク質を生産する生物から、常法に従って容易に単離することができる。
【0033】
本発明の方法では、ヒアルロン酸合成酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA、グルタミン:フルクトース−6−リン酸アミドトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA、及びUDP−グルコースデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAはいずれも、植物中で機能し得るプロモーターと転写終結領域との制御下にあることが必要である。
【0034】
本発明の方法で用いるプロモーターは、植物中で機能し得る限り、いかなる従来公知のプロモーターであることもできるが、植物体を形質転換する場合は、器官特異的又は組織特異的プロモーターを用いることが好ましく、植物細胞を形質転換する場合は、構成的高発現プロモーターを用いることが好ましい。
【0035】
器官特異的プロモーターとしては、例えば、根特異的プロモーター、塊茎特異的プロモーター、葉特異的プロモーター、種子特異的プロモーター、茎特異的プロモーター等がある。根特異的プロモーターとしては、ヒヨシアミン6b−ヒドロキラーゼ遺伝子のA6H6Hプロモーター、プトレシンN−メチルトランスフェラーゼのPMTプロモーター等が挙げられる。種子特異的プロモーターとしては、リポキシゲナーゼ遺伝子のLOXプロモーター、レクチン遺伝子のPslプロモーター、アミラーゼ遺伝子のAmylAプロモーター等が挙げられる。茎特異的プロモーターとしては、スクロースシンターゼのSus4遺伝子プロモーター、グリコプロテインをコードするパタチン遺伝子プロモーター等が挙げられる。
【0036】
また、組織特異的プロモーターとしては、例えば、緑色組織特異的プロモーター等がある。緑色組織特異的プロモーターとしては、リブロース1,5−ビスリン酸カルボキシラーゼの小サブユニットタンパク質をコードするrbs遺伝子のプロモーターやクロロフィルa/b結合タンパク質をコードするCAB遺伝子のプロモーター、グルセルアルデヒド3−リン酸デヒドロゲナーゼAサブユニットタンパク質をコードするGapA遺伝子プロモーター等が挙げられる。
【0037】
構成的高発現プロモーターとしては、カリフラワーモザイクウイルスの35SRNA遺伝子のプロモーターであるCaMV35Sプロモーター等が挙げられる。
【0038】
次に、本発明の方法で用いる転写終結領域について説明する。
転写終結領域(以下ターミネーターと記すこともある)は、転写物の成熟化(pre−mRNAの切断とポリアデニレーション)および転写の終結(RNAポリメラーゼのDNAからの解離)に関わる領域であり、植物細胞で転写産物の安定化および核外輸送に必要なポリアデニレーション部位を含む領域である。
【0039】
本発明の方法では、転写終結領域として、以下の(a)又は(b)の塩基配列を用いることが必要である:
(a)配列番号1で示される塩基配列;
(b)配列番号1に対して相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列。
【0040】
(a)の配列番号1で示される塩基配列は、シロイヌナズナ由来の熱ショックタンパク質遺伝子の転写終結領域に相当する。この転写終結領域は、従来用いられているNOSの転写終結領域と比較して導入遺伝子の発現効率が高い。そのため、この転写終結領域を用いると、ヒアルロン酸を効率良く生産することができる。
【0041】
本発明の方法において用いられる転写終結領域は、(a)の配列番号1で示される塩基配列に限られず、(b)の配列番号1に対して相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列であることもできる。
【0042】
上記において、「ストリンジェントな条件」とは、配列番号1で示される塩基配列と同等の転写終結領域機能を有する塩基配列のみが配列番号1に対して相補的な塩基配列とハイブリッド(いわゆる特異的ハイブリッド)を形成し、同等の機能を有しない塩基配列は配列番号1に対して相補的な塩基配列とハイブリッド(いわゆる非特異的ハイブリッド)を形成しない条件を意味する。当業者は、ハイブリダイゼーション反応および洗浄時の温度や、ハイブリダイゼーション反応液および洗浄液の塩濃度等を変化させることによって、このような条件を容易に選択することができる。具体的には、6×SSC(0.9M NaCl,0.09M クエン酸三ナトリウム)または6×SSPE(3M NaCl,0.2M NaHPO,20mM EDTA)・2Na,pH7.4)中42℃でハイブリダイズさせ、さらに42℃で0.5×SSCにより洗浄する条件が、本発明のストリンジェントな条件の1例として挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0043】
該ストリンジェントな条件は、好ましくはハイストリンジェントな条件である。ハイストリンジェントな条件とは、例えば0.1×SSC及び0.1%SDSに相当する塩濃度で60℃で洗浄が行われる条件である。
【0044】
本発明の方法では、発現用組換えベクターの構築は、プラスミド「pBI121」、「pBI221」、「pBI101」等の植物細胞又は植物体の形質転換に通常用いられているベクターを基にして常法に従って行うことができる。
【0045】
また、得られたベクターを用いた植物細胞又は植物体の形質転換も、常法に従って行うことができる。例えば、植物培養細胞を宿主として用いる場合、形質転換は、エレクトロポレーション法又はアグロバクテリウムのバイナリーベクター法もしくはパーティクルボンバードメント法により、行うことができる。発現ベクターを導入された植物細胞は、例えば、カナマイシン耐性等の薬剤耐性を基準として選択される。形質転換された植物細胞は、細胞培養、組織培養、器官培養に用いることができ、また、従来知られている植物組織培養法等を用いて、植物体を再生することもできる。
【0046】
形質転換の対象となる植物細胞の例としては、例えば、タバコ由来BY−2細胞やT−13細胞、ニンジン由来kurodagosun細胞、ブドウ由来VR細胞やVW細胞、ヨウシュヤマゴボウ由来PAR細胞やPAP細胞やPAW細胞、シロイヌナズナ由来T87細胞、アスパラガス由来Asp−86細胞やA.per細胞やA.pas細胞やA.plo細胞、スイカ由来Cba−1細胞、トマト由来Sly−1細胞、ハッカ由来1−Mar細胞、ニチニチソウ由来CRA細胞やV208細胞や、ホウレンソウ由来Spi−WT細胞やSpi−I−1細胞やSpi−12F細胞、ヘチマ由来Lcy−1細胞やLcyD6細胞やLcyD7細胞や、イネ由来OS−1細胞、ツルニチニチソウ由来Vma−1細胞、ゴマ由来PSB細胞やPSW細胞やPSG細胞、ヒャクニチソウ由来ZE3細胞等が挙げられる。
【0047】
植物体、植物器官又は植物組織を宿主として用いる場合、形質転換は、採取した植物切片に、アグロバクテリウムのバイナリーベクター法又はパーティクルボンバードメント法によって、あるいはプロトプラストにエレクトロポレーション法によって発現用組換えベクターを導入し、形質転換の結果得られる腫瘍組織やシュート、毛状根等を分離することにより行われる。
【0048】
こうして得られる腫瘍組織やシュート、毛状根等は、そのまま細胞培養、組織培養又は器官培養に用いることが可能である。また従来知られている植物組織培養法を用い、適当な濃度の植物ホルモンの投与等により植物体に再生させることができる。
【0049】
形質転換された植物細胞から植物を再生させるには、このような植物細胞を、再分化培地、ホルモンフリーのMS培地等に培養すればよい。発根した幼植物体は、土壌に移植して栽培することにより植物体とすることができる。再生(再分化)の方法は植物細胞の種類により異なるが、従来知られている植物組織培養法を適宜用いることができる。
【0050】
形質転換の対象となる植物体には、遺伝子導入の可能ないずれの植物も包含され、具体的には、ナス科、イネ科、アブラナ科、バラ科、マメ科、ウリ科、シソ科、ユリ科、アカザ科、セリ科、フトモト科、ヒルガオ科の植物等が挙げられる。
【0051】
これらの方法により作製された形質転換植物細胞もしくは形質転換植物体、またはそれと同じ性質を有するその子孫(繁殖媒体、例えば種子、塊茎、切穂等から得た植物体)も本発明の対象である。
【0052】
次に、以上のようにして得られた形質転換体を培養し、該形質転換体により生産されたヒアルロン酸を分離する(工程(2))。
【0053】
ヒアルロン酸の分離は、常法に従って行えばよい。例えば、形質転換体が植物体又はそれと同じ性質を有する子孫もしくはそれらの器官もしくはそれらの組織等である場合は、これらを収穫して、乾燥させた後に粉砕して、適当な有機溶媒によりヒアルロン酸を含む植物抽出液を抽出する。次に、そのヒアルロン酸を含む植物抽出液を濾過し、植物細胞を含まないヒアルロン酸の濾過溶液を得る。次に、この溶液をダイアフィルトレーションによって精製し、低分子量の不純物を除去する。次に、溶解したヒアルロン酸を含む濾過溶液を純水でダイアフィルトレーションし、濾液を連続して捨てることによりヒアルロン酸を分離することができる。
【0054】
形質転換体が植物細胞である場合は、植物細胞の培養液中に蓄積されたヒアルロン酸を、公知の分離法を用いて精製することによりヒアルロン酸を分離することができる。
【0055】
本発明の方法によって得られるヒアルロン酸は、100万以上の分子量を有し、化粧品及び医薬品の成分、又はバイオマテリアル素材等の用途に有用に利用できる。具体的には、化粧品の保湿成分、又は、関節炎や慢性リウマチ、火傷や切り傷の治療薬や目薬の成分等として、有用に利用できる。また、皮膚の老化を防止及び/又は改善する上で有用な機能性食品としても利用できる。
【実施例】
【0056】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0057】
(1)発現用組換えベクターの構築
クロレラウイルス由来ヒアルロン酸合成酵素(cvHAS、配列番号3)をコードするDNA(配列番号2)、クロレラウイルス由来UDP−グルコースデヒドロゲナーゼ(cvUGD、配列番号11)をコードするDNA(配列番号10)およびクロレラウイルス由来グルタミン:フルクトース−6−リン酸アミドトランスフェラーゼ(cvGFAT、配列番号7)をコードするDNA(配列番号6)は、既報(WO 05/012529、WO 06/032538)に従い単離した。プロモーターとして用いたCaMV35Sプロモーター、およびコントロールの転写終結領域として用いたNOSターミネーターは、pBI121ベクター(Clontech社)から単離した。本発明例の転写終結領域として用いた配列番号1で示される塩基配列(以下、HSPターミネーターと称する)は、シロイヌナズナのゲノムDNAから公知の方法で単離した。これらを用いて、図1のA及びBに示した、転写終結領域の異なる2種類の発現用組換えベクターpBI101−HUG−HSP及びpBI101−HUG−NOSを公知の方法(特開平06−319580号公報)に従い、構築した。図1において、HSPターミネーターはHSP−T、NOSターミネーターはNOS−Tと記した。これらのベクターは、植物中で機能し得るプロモーターとしてCaMV35Sプロモーターを上流に、転写終結領域としてHSPターミネーター(図1のA)またはNOSターミネーター(図1のB)を下流に連結したcvHAS遺伝子のDNAカセット、同様の構成のcvUGD遺伝子のDNAカセットおよび同様の構成のGFAT遺伝子のDNAカセットから成る多重遺伝子を含むベクターである。また、図1のCに示す構造の発現用組換えベクターpBI121−cvHASを同様にして構築した。このベクターは、植物中で機能し得るプロモーターとしてCaMV35Sプロモーターを上流に、転写終結領域としてNOSターミネーターを下流に連結したcvHAS遺伝子のDNAカセットを含む公知(WO 05/012529)のベクターである。
【0058】
(2)タバコBY−2培養細胞の形質転換
上記(1)で構築した3種類の発現用組換えベクターをそれぞれアグロバクテリム ツメファシエンス LBA4404のエレクトロポレーションコンピテント細胞(Invitrogen社)に導入した。既知の方法(Plant Physiol.1985 79:568−570)に従い、得られた形質転換アグロバクテリムを用い、タバコBY−2培養細胞を形質転換した。この操作によって、図1AのベクターpBI101−HUG−HSPを導入した21個の形質転換カルス(系統No.HSP−1〜HSP−21)、図1BのベクターpBI101−HUG−NOSを導入した21個の形質転換カルス(系統No.NOS−1〜NOS−21)、及び図1CのベクターpBI121−cvHASを導入した5個の形質転換カルス(系統No.cHAS−1〜cHAS−5)を得た。
【0059】
(3)ヒアルロン酸高生産性タバコBY−2培養細胞形質転換体の選抜
上記(2)で得られた形質転換カルスを、スクロース(30g/L)、カナマイシン(100mg/L)およびカルベニシリン(100mg/L)を含む改変LS液体培地(Mol.Gen.Genet.1981 184:161−165)で液体培養した。1ヶ月間の液体培養で馴化し生育した細胞の培地を回収し、市販のヒアルロン酸測定キット(ECHELON BIOSCIENCES社 Hyaluronan ELISA)を用い、ヒアルロン酸濃度を測定し、各形質転換体のヒアルロン酸生産性を調査した。この調査結果に基づき、高いヒアルロン酸生産性を示したクローンを液体培地でさらに2ヶ月間継代培養し、正常に生育したクローンを選抜し、培養開始6日後のヒアルロン酸生産性を比較した。その結果を図2に示す。また、これらのクローンのヒアルロン酸生産性を細胞湿重量当たりのヒアルロン酸生産量に換算した値を表1に示す。図2及び表1から明らかな通り、図1AのベクターpBI101−HUG−HSPを導入したクローンは、図1BのベクターpBI101−HUG−NOSを導入したクローンよりも明らかに高い生産性を維持し、安定な形質転換体である。
【0060】
【表1】

【0061】
(4)タバコBY−2培養細胞形質転換体の生産したヒアルロン酸の分子量
上記(3)で高いヒアルロン酸生産性を示したpBI101−HUG−HSP導入クローンの生産するヒアルロン酸の分子量を、pBI101−HUG−NOS導入クローンおよびpBI121−cvHAS導入クローンの分子量と比較した。具体的には、pBI101−HUG−HSP導入クローンから系統No.HSP−19、pBI101−HUG−NOS導入クローンから系統No.NOS−3およびpBI121−cvHAS導入クローンから系統No.cvHAS−5を選択し、これらの系統の培地を公知の方法(J.Biol.Chem.1999 274:25085−25092)に従い、アガロースゲル電気泳動に供した後、PVDFメンブレンにブロッティングし、ビオチン標識ヒアルロン酸結合性タンパク質および化学発光法を用いることにより、培地中のヒアルロン酸の分子量を調査した。対照として、タバコBY−2培養細胞の非形質転換体(WT)の培地を用いた。その結果を図3に示す。図3から明らかなように、pBI101−HUG−HSP導入クローンは、pBI101−HUG−NOS導入クローンおよびcvHAS導入クローンよりも高い分子量のヒアルロン酸を生産した。具体的には、pBI101−HUG−HSP導入クローン(HSP−19)の生産するヒアルロン酸の分子量は100万以上であり、pBI101−HUG−NOS導入クローン(NOS−3)の生産するヒアルロン酸の分子量は100万未満であり、cvHAS導入クローン(cvHAS−5)の生産するヒアルロン酸の分子量は50万未満であった。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の方法によれば、植物で生産された安全なヒアルロン酸を低コストで提供することができる。従って、本発明の方法は、化粧品や医薬品、バイオマテリアル素材等の分野で広く利用することができ、産業界に大きく寄与することが期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)以下の(i)並びに(ii)又は/及び(iii)のDNAを含む発現用組換えベクターを構築し、このベクターを用いて、植物細胞又は植物体を形質転換して形質転換体を得る工程:
(i)植物中で機能し得るプロモーターと転写終結領域との制御下にある、ヒアルロン酸合成酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA;
(ii)植物中で機能し得るプロモーターと転写終結領域との制御下にある、グルタミン:フルクトース−6−リン酸アミドトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA;
(iii)植物中で機能し得るプロモーターと転写終結領域との制御下にある、UDP−グルコースデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA;及び
(2)得られた形質転換体を培養し、該形質転換体により生産されたヒアルロン酸を分離する工程
を含むヒアルロン酸の製造方法において、転写終結領域の塩基配列が、以下の(a)又は(b)の塩基配列であることを特徴とするヒアルロン酸の製造方法:
(a)配列番号1で示される塩基配列;
(b)配列番号1に対して相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列。
【請求項2】
ヒアルロン酸合成酵素活性を有するタンパク質が、以下の(a)又は(b)のタンパク質であることを特徴とする請求項1に記載のヒアルロン酸の製造方法:
(a)配列番号3又は5で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質;
(b)アミノ酸配列(a)において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつヒアルロン酸合成酵素活性を有するタンパク質。
【請求項3】
グルタミン:フルクトース−6−リン酸アミドトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質が、以下の(a)又は(b)のタンパク質であることを特徴とする請求項1又は2に記載のヒアルロン酸の製造方法:
(a)配列番号7又は9で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質;
(b)アミノ酸配列(a)において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつグルタミン:フルクトース−6−リン酸アミドトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質。
【請求項4】
UDP−グルコースデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質が、以下の(a)又は(b)のタンパク質であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のヒアルロン酸の製造方法:
(a)配列番号11又は13で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質;
(b)アミノ酸配列(a)において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつUDP−グルコースデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質。
【請求項5】
プロモーターが器官特異的又は組織特異的プロモーターであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のヒアルロン酸の製造方法。
【請求項6】
以下の(i)並びに(ii)又は/及び(iii)のDNAを含む発現用組換えベクターを用いて形質転換された、ヒアルロン酸生産能を有する形質転換植物細胞もしくは形質転換植物体又はそれと同じ性質を有する子孫もしくはそれらの器官もしくはそれらの組織:
(i)植物中で機能し得るプロモーターと転写終結領域との制御下にある、ヒアルロン酸合成酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA;
(ii)植物中で機能し得るプロモーターと転写終結領域との制御下にある、グルタミン:フルクトース−6−リン酸アミドトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA;
(iii)植物中で機能し得るプロモーターと転写終結領域との制御下にある、UDP−グルコースデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA;
ただし、転写終結領域の塩基配列は、以下の(a)又は(b)の塩基配列である:
(a)配列番号1で示される塩基配列;
(b)配列番号1に対して相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列。
【請求項7】
ヒアルロン酸合成酵素活性を有するタンパク質が、以下の(a)又は(b)のタンパク質であることを特徴とする請求項6に記載の形質転換植物細胞もしくは形質転換植物体又はそれと同じ性質を有する子孫もしくはそれらの器官もしくはそれらの組織:
(a)配列番号3又は5で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質;
(b)アミノ酸配列(a)において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつヒアルロン酸合成酵素活性を有するタンパク質。
【請求項8】
グルタミン:フルクトース−6−リン酸アミドトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質が、以下の(a)又は(b)のタンパク質であることを特徴とする請求項6又は7に記載の形質転換植物細胞もしくは形質転換植物体又はそれと同じ性質を有する子孫もしくはそれらの器官もしくはそれらの組織:
(a)配列番号7又は9で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質;
(b)アミノ酸配列(a)において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつグルタミン:フルクトース−6−リン酸アミドトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質。
【請求項9】
UDP−グルコースデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質が、以下の(a)又は(b)のタンパク質であることを特徴とする請求項6〜8のいずれかに記載の形質転換植物細胞もしくは形質転換植物体又はそれと同じ性質を有する子孫もしくはそれらの器官もしくはそれらの組織:
(a)配列番号11又は13で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質;
(b)アミノ酸配列(a)において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつUDP−グルコースデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質。
【請求項10】
プロモーターが器官特異的又は組織特異的プロモーターであることを特徴とする請求項6〜9のいずれかに記載の形質転換植物細胞もしくは形質転換植物体又はそれと同じ性質を有する子孫もしくはそれらの器官もしくはそれらの組織。
【請求項11】
請求項6〜10のいずれかに記載の形質転換植物細胞もしくは形質転換植物体又はそれと同じ性質を有する子孫もしくはそれらの器官もしくはそれらの組織から得られる植物抽出物。
【請求項12】
植物抽出物がヒアルロン酸を含むことを特徴とする請求項11記載の植物抽出物。
【請求項13】
請求項1〜5のいずれかに記載の方法によって得られる、分子量100万以上のヒアルロン酸。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−200663(P2010−200663A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−48983(P2009−48983)
【出願日】平成21年3月3日(2009.3.3)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成15年度新エネルギー・産業技術総合開発機構 植物利用エネルギー使用合理化工業原料生産技術開発/植物の物質生産プロセス制御基盤技術開発委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願の成果
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【出願人】(504143441)国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学 (226)
【Fターム(参考)】