説明

改質ポリエチレンナフタレート樹脂組成物およびその製造方法

【課題】 ポリエチレンナフタレートに優れた湿度変化に対する寸法安定性や優れた電気特性を具備させられる改質ポリエステル樹脂組成物およびその製造方法の提供。
【解決手段】 ポリエチレンナフタレート樹脂(A)とビニル系熱可塑性樹脂(B)と溶解性パラメーターが21.0〜26.0(MJ/m30.5の熱可塑性非晶樹脂(C)とを溶融混練する際に、熱可塑性樹脂(B)の割合を1〜30重量%および熱可塑性非晶樹脂(C)の割合を0.1〜5重量%とし、かつ二軸混練押出機によって、樹脂に付与する比エネルギーが0.28〜0.35kW・h/kgとなる条件で溶融混練する改質ポリエステル樹脂組成物の製造方法およびそれによって得られた再溶融後の分散保持性に優れた改質ポリエステル樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエチレンナフタレート樹脂に非相溶なビニル系熱可塑性樹脂を再溶融によって分散性が低下しないように分散せしめた改質ポリエステル樹脂組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル樹脂、特にポリエチレンナフタレート樹脂は、優れた熱特性および機械特性を有することから、例えばフィルムにして磁気記録媒体、コンデンサー、フレキシブル基板、光学部材、食品包装、装飾用などの様々な用途で用いられている。
【0003】
ところで、磁気記録媒体、特にデータストレージ用磁気記録媒体では、テープの記憶容量の高容量化や高密度化に伴って、ベースフィルムにテープ幅方向の寸法変化の抑制が求められている。これらの寸法変化の原因として、湿度変化による膨張が影響しており、特開平5−212787号公報(特許文献1)、国際公開第99/29488号パンフレット(特許文献2)および国際公開第00/76749号パンフレット(特許文献3)では、フィルムの幅方向の湿度膨張係数を延伸によって低減することが提案されている。しかしながら、これらの公報で提案されている方法は、延伸条件やその後の熱固定処理条件によって達成するものであり、ポリエチレン−2,6−ナフタレートがエステル基を有する極性ポリマーであるがゆえに湿度の影響を受けやすいという根本的な問題を解決できていなかった。
【0004】
また、特開2000−173855号公報(特許文献4)では、コンデンサーについて、フィルムコンデンサーの小型化や実装化、さらに耐熱性を向上させるために、ポリエチレン−2,6−ナフタレートフィルムを用いることが提案されている。しかしながら、ポリエチレン−2,6−ナフタレートは、極性ポリマーであるがゆえに、さらなる電気特性の改良には限界があった。
【0005】
一方、シンジオタクチックポリスチレンとポリエチレン−2,6−ナフタレートとを混合して用いることが、国際公開第97/32223号パンフレット(特許文献5)で提案されている。ここではシンジオタクチックポリスチレンとポリエチレン−2,6−ナフタレートの界面が破壊されやすい特性を生かし、ミクロボイドを形成して、例えば光学用の一軸配向フィルムとして用いることが開示されている。また、ここでは、上記ミクロボイドのサイズを相溶化剤などによって調整できることも開示されている。しかしながら、このようなミクロボイドが生じると、前述のような磁気記録媒体やコンデンサーのような厚みの薄いフィルムとして用いると、ミクロボイドによるヤング率などの機械特性や耐電圧特性が低下し、好ましくない。
【0006】
【特許文献1】特開平5−212787号公報
【特許文献2】国際公開第99/29488号パンフレット
【特許文献3】国際公開第00/76749号パンフレット
【特許文献4】特開2000−173855号公報
【特許文献5】国際公開第97/32223号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上述の従来技術の問題点に鑑み、ポリエチレンナフタレートに優れた湿度変化に対する寸法安定性やコンデンサー用フィルムに用いたときに必要とされる電気特性を具備させることができる改質ポリエステル樹脂組成物およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上述の目的を達成するために鋭意研究した結果、ポリエチレンナフタレートにビニル系熱可塑性樹脂を溶融混錬させることで、湿度変化に対する寸法安定性やコンデンサー用フィルムに用いたときに必要とされる電気特性などを向上できること知ったが、ポリマーの段階では問題なくても、それを再溶融して例えばフィルムなどに製膜しようとすると、再溶融の間に分散性が損なわれ、前述の特許文献3にあるようなミクロボイドが形成され、結果としてビニル系熱可塑性樹脂による向上効果が十分に発現されないことを見出した。そして、さらにその問題を解決しようと鋭意研究した結果、溶融混錬する際にさらに特定の溶解性パラメーターを有する熱可塑性非晶樹脂を混合し、かつ二軸混練押出基を用いて、特定の条件下で溶融混練すると、再溶融後も分散性が保持され、またミクロボイドの形成が抑制されたポリエステル樹脂組成物が得られることを見出だし、本発明に到達した。
【0009】
かくして本発明によれば、本発明の目的は、エチレンナフタレートを主たる繰り返し単位とするポリエステル樹脂(A)に、ポリエステル樹脂(A)に対して非相溶なビニル系熱可塑性樹脂(B)と溶解性パラメーターが21.0〜26.0(MJ/m30.5の範囲にある熱可塑性非晶樹脂(C)とを溶融混練する樹脂組成物の製造方法であって、
該樹脂組成物の重量を基準としたときの、ビニル系熱可塑性樹脂(B)の割合が1〜30重量%および熱可塑性非晶樹脂(C)の割合が0.1〜5重量%の範囲にあり、
かつ溶融混練が二軸混練押出機によって、樹脂に付与する比エネルギーが0.28〜0.35kW・h/kgの範囲で行われる改質ポリエステル樹脂組成物の製造方法によって達成される。
【0010】
また、本発明によれば、本発明の好ましい態様として、ビニル系熱可塑性樹脂(B)が、ポリスチレンであること、熱可塑性非晶樹脂(C)が、アクリル酸共重合ポリオレフィンであること、熱可塑性非晶樹脂(C)が、アクリル酸共重合ポリオレフィンまたはビニルオキサゾリン共重合ポリオレフィン系樹脂であることの少なくともいずれかを具備する改質ポリエステル樹脂組成物の製造方法も提供される。
【0011】
さらにまた、本発明によれば、エチレンナフタレートを主たる繰り返し単位とするポリエステル樹脂(A)に、ポリエステル樹脂(A)に対して非相溶なビニル系熱可塑性樹脂(B)と溶解性パラメーターが21.0〜26.0(MJ/m30.5の範囲にある熱可塑性非晶樹脂(C)とを溶融混練した樹脂組成物であって、
組成物の重量を基準としたときの、ビニル系熱可塑性樹脂(B)の割合が1〜30重量%および熱可塑性非晶樹脂(C)0.1〜5重量%の範囲にあり、
285℃で20分間溶融保持し、一旦冷却してから再度285℃で20分間溶融保持した後の分散径の保持率が1.10以下である改質ポリエステル樹脂組成物も提供され、さらにその好ましい態様として、該ポリエステル樹脂組成物に含有されるエチレンナフタレートの1〜5量体オリゴマーが、ポリエステル樹脂組成物の重量を基準として、0.4〜1.0重量%の範囲にあることおよび該ポリエステル樹脂組成物の300℃、1000(1/sec)における溶融粘度が200〜400Pa・sの範囲にあることの少なくともいずれかを具備する改質ポリエステル樹脂組成物も提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の改質ポリエチレンナフタレート樹脂組成物の製造方法を用いれば、得られるポリエチレンナフタレート樹脂組成物に、フィルムなどに製膜するために再溶融してもビニル系熱可塑性樹脂(B)の分散性が損なわれない優れた分散状態の保持性が具備される。そして、分散状態の保持性が維持された改質ポリエチレンナフタレート樹脂組成物を用いることで、得られるフィルムなどの製品に、ビニル系熱可塑性樹脂(B)に由来する湿度に対する寸法安定性や電気特性を高度に具備させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の改質ポリエステル樹脂組成物の製造方法は、エチレンナフタレートを主たる繰り返し単位とするポリエステル樹脂(A)に、ポリエステル樹脂(A)に対して非相溶な熱可塑性樹脂(B)と溶解性パラメーターが21.0〜26.0(MJ/m30.5の範囲にある熱可塑性非晶樹脂(C)とを溶融混練するものであり、まずポリエステル樹脂(A)、熱可塑性樹脂(B)および熱可塑性非晶樹脂(C)について、それぞれ説明する。
【0014】
本発明におけるエチレンナフタレートを主たる繰り返し単位とするポリエステル樹脂(A)とは、その繰り返し単位の80モル%以上、好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上が、エチレンナフタレートであるポリエステル樹脂である。エチレンナフタレート成分の割合が下限未満であると、得られる樹脂組成物の強度が乏しくなる。このようなポリエステル樹脂(A)を重合する際の原料となる酸成分としては、ナフタレンジカルボン酸および/またはナフタレンジカルボン酸エステルが挙げられる。具体的なナフタレンジカルボン酸としては、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,3−ナフタレンジカルボン酸などが挙げられる。また、具体的なナフタレンジカルボン酸のエステルとしては、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジエチル、1,4−ナフタレンジカルボン酸ジメチル、1,5−ナフタレンジカルボン酸ジメチルなどが挙げられる。これらの中でも、強度を高めやすいことから、ナフタレン成分が2,6−ナフタレンジカルボン酸成分であるポリエステル樹脂(A)が好ましい。なお、エチレンナフタレート成分以外の共重合成分としては、一般にポリエチレンナフタレートに共重合して用いられものであれば同様に使用でき、また、ポリエステル樹脂(A)自体の製造方法についても、それ自体公知の方法が採用できる。例えばエステル交換法、直接エステル化法等の溶融重合法または溶液重合法を挙げることが出来る。もちろん、エステル交換触媒、エステル化触媒、エーテル化防止剤、また重合に用いる重合触媒、熱安定剤、光安定剤等の各種安定剤、重合調整剤なども、制限されず、一般にポリエチレンナフタレートに使用されるものを好適に使用できる。具体的には、エステル交換触媒としては、マンガン、コバルト、亜鉛、チタン、カルシウムなどの化合物が例示でき、エーテル化防止剤としてアミン化合物などが例示でき、重縮合触媒としてはゲルマニウム、アンチモン、スズ、チタンなどの化合物が例示でき、熱安定剤としてはリン酸、亜リン酸、フェニルホスホン酸などの各種リン化合物が例示できる。また、本発明の効果を損なわない範囲で、例えば光安定剤、耐電防止剤、滑剤、酸化防止剤、離型剤などを加えても良い。
【0015】
本発明におけるポリエステルに非相溶なビニル系熱可塑性樹脂(B)としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリ塩化ビニルなどが好ましく挙げられる。もちろん、ビニル系熱可塑性樹脂(B)はホモポリマーでも共重合ポリマーでもよい。特に高強度、高寸法安定性、耐湿熱性、高絶縁破壊電圧を得られることから、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレートが好ましい。また、これらの置換ビニル系樹脂には、さらに立体規則性が存在し、例えばイソタクト型、シンジオタクト型、アタクト型が知られているが、シンジオタクト型が、高強度、高寸法安定性の点から好ましく、特にシンジオタクト型ポリスチレンが好ましい。また、ポリエステル樹脂(A)中へのビニル系熱可塑性樹脂(B)の分散度を高めるため、ビニル系熱可塑性樹脂(B)とポリエステル樹脂(A)との溶融粘度は近い方が好ましい。この点から、ポリエステル樹脂(A)と熱可塑性樹脂(B)の溶融粘度の比は、1:4〜1:1の範囲にあることが好ましい。このような粘度比とするため、熱可塑性樹脂(B)の分子量は、5万〜40万、さらに10万〜30万の範囲にあることが好ましい。
【0016】
本発明において、ポリエステル樹脂(A)に混練させるビニル系熱可塑性樹脂(B)の割合は、得られる樹脂組成物の重量を基準として、1〜30重量%の範囲である。熱可塑性樹脂(B)の割合が下限未満であると、ポリエステル樹脂(A)の極性を緩和する効果が不十分で、成形品にしたときに寸法安定性や耐電圧などの向上効果が十分に発現されず、他方、上限を超えると押出機中でサージングが発生し、成形性が損なわれる。好ましい熱可塑性樹脂(B)の割合は、2〜25重量%であり、さらに5〜20重量%である。
【0017】
本発明における熱可塑性非晶樹脂(C)は、21.0〜26.0(MJ/m30.5の範囲にある溶解性パラメーターを有する。ここでいう溶解性パラメーターとは、分子の凝集エネルギーを数値化する概念で、Fedorらにより算出方法が提案されている数(Fedor Polym. Eng. Sci. 14(1974), 147 472)である。熱可塑性非晶樹脂(C)の溶解性パラメーターが上記範囲内にあることで、ポリエステル樹脂(A)とビニル系熱可塑性樹脂(B)との相分離を抑制し、両者を均一に分散させることができ、得られる成形品が斑や筋などのない品位の高い成形品とすることができる。好ましい溶解性パラメーターは23.0〜25.5(MJ/m0.5の範囲である。このような熱可塑性非晶樹脂(C)としては、ポリスチレン−ポリアクリル酸共重合体、ポリスチレン−ポリメタクリル酸共重合体、ポリスチレン−ポリビニルオキザゾリンなどが挙げられる。また、熱可塑性非晶樹脂(C)の割合は、ポリエステル樹脂組成物の重量を基準として、0.1〜5重量%の範囲であり、好ましくは0.5〜4.0%の範囲である。熱可塑性非晶樹脂(C)の割合が上記範囲内にあることで、ポリエステル樹脂(A)と熱可塑性樹脂(B)との相分離を抑制し、両者を均一に分散させることができ、得られる成形品が斑や筋などのない品位の高い成形品とすることができる。
【0018】
なお、本発明で使用する熱可塑性樹脂(B)および熱可塑性非晶樹脂(C)のそれ自体の製造方法については、ポリエステル樹脂(A)と同じく、特に制限されず、例えばオレフィン系ポリマーであれば、反応の分類ではラジカル重合、カチオン重合、アニオン重合のいずれでもよく、重合方法の分類では、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合のいずれを採用してもよい。
【0019】
本発明の改質ポリエステル樹脂組成物の製造方法は、上記のとおり、前述のポリエステル樹脂(A)に、前述の熱可塑性樹脂(B)と熱可塑性非晶樹脂(C)とを、前述の割合で溶融混練するが、それだけでは例えば磁気記録媒体やコンデンサーなどの二軸配向フィルムに用いるポリエステル樹脂組成物としては、再溶融によって分散性が損なわれ、十分な効果が得られない。すなわち、これらのポリエステル樹脂(A)、熱可塑性樹脂(B)および熱可塑性非晶樹脂(C)を二軸混練押出機を用いて、かつポリエステル樹脂組成物に付与する比エネルギーを0.28〜0.35kWh/kgに制御することが必要である。本発明における二軸押出機とは、並行する2本のスクリューを有し、スクリューと外壁とのクリアランスおよびスクリュー間のクリアランスに樹脂を導通し、せん断応力による混練分散を行う装置であり、一軸押出機では所望の混練分散を図ることができない。また、本発明における比エネルギーとは、スクリューの回転によって樹脂単位重量当たりに与えられたエネルギー量であり、混練スクリューの駆動モーター動力から算出できる。この比エネルギーは、樹脂の流量、滞留時間、樹脂温度、混練スクリューの回転数、装置形状により制御することができる。好ましい比エネルギーの範囲は0.29〜0.34kW・h/kgである。混練押出機が二軸混練押出機でなければ、比エネルギーの範囲を上述の範囲にしても、分散保持性を十分発現させることができない。また、比エネルギーが下限未満では熱可塑性非晶樹脂(C)と、ポリエステル樹脂(A)またはビニル系熱可塑性樹脂(B)との反応が進まず、分散保持性を十分に発現させることができない。他方上限を超えると、樹脂の劣化が大きくなり、粘度が低下する。また、ポリエステル樹脂(A)の溶融重合時に、直接ビニル系熱可塑性樹脂(B)または熱可塑性非晶樹脂(C)を添加すると、熱可塑性非晶樹脂(C)が存在しても分散が進行せず、むしろ添加されたビニル系熱可塑性樹脂(B)や熱可塑性非晶樹脂(C)自体が劣化やゲル化を生じる。
【0020】
つぎに、本発明の改質ポリエステル樹脂組成物について説明する。本発明の改質ポリエステル樹脂組成物は、特に断らない限り、前述の改質ポリエステル樹脂組成物の製造方法で説明したのと同様なことがいえる。
【0021】
本発明の改質ポリエステル樹脂組成物は、極めてビニル系熱可塑性樹脂(B)の分散保持性に優れ、その分散径の保持率は、1.10以下、好ましくは1.08以下である。分散径の保持率の下限は特に制限されないが通常1.00である。分散径の保持率が上限を越えると、フィルムなど製品に再溶融を経て成形したときに、得られる製品に湿度に対する寸法安定性や電気特性を向上させる効果が乏しくなる。本発明における分散径の保持率とは、ポリエステル樹脂組成物を、180℃で4時間乾燥させた後、285℃まで加熱して溶融させて20分保持し、その後室温まで急冷する。この操作を2回繰り返して、乾燥および2回の再溶融という処理前の分散径で、該処理後の分散径を割った値である。そして、分散径は、ポリエステル樹脂組成物を、ミクロトームにより、厚さ0.1μmに裁断し、トプコン製透過型電子顕微鏡LEM−2000によって、倍率10000倍で観察し、ビニル系熱可塑性樹脂(B)のそれぞれの面積を50個求め、それらの平均した面積円相当径を、直径として算出したものである。このように優れた分散径の保持率は、前述の本発明の改質ポリエステル樹脂組成物の製造方法を採用することなどによって達成できる。
【0022】
本発明の改質ポリエステル樹脂組成物は、300℃、1000(1/sec)における全樹脂組成物の溶融粘度が、200〜400Pa・sの範囲にあることが好ましい。このような溶融粘度は、本発明のポリエステル樹脂組成物の製造方法における溶融混錬の条件などによって調整できる。該溶融粘度が下限未満では耐熱性に劣るようになり、他方上限を超えると製膜などにおいてむらが多く、またミクロボイドなどが発生しやすくなる。好ましい溶融粘度の範囲は、220Pa・s〜300Pa・sである。
【0023】
本発明の改質ポリエステル樹脂組成物は、マトリクスであるポリエステル樹脂(A)の相の中に分散しているビニル系熱可塑性樹脂(B)の相の分散性が、熱可塑性非晶樹脂(C)の存在および二軸混練押出機による特定の比エネルギーでの溶融混練によって高められており、成形して製品としたときに、ポリエチレンナフタレートの有する機械的物性を維持しつつ、湿度に対する寸法安定性に優れ、また電気特性としては、極性が緩和されることから、耐電圧に優れる。なお、ポリエステル樹脂組成物の断面を透過型電子顕微鏡で観察したとき、ポリエステル樹脂(A)中に分散する熱可塑性樹脂(B)の面積円相当径に換算した直径は5μm以下になるように分散されていることが好ましい。このような分散状態は、上述のとおり、熱可塑性非晶樹脂(C)を併用や溶融混練条件にくわえ、ポリエステル樹脂(A)とビニル系熱可塑性樹脂(B)との粘度比を近くしたりすることで達成できる。
【0024】
本発明の改質ポリエステル樹脂組成物は、その全重量を基準として、エチレンナフタレートの1〜5量体オリゴマーの和が、0.4〜1.0重量%であることが好ましい。オリゴマーの和が下限未満であると、成形時の流動性が低下して、一方上限を超えると成形時に、オリゴマーによる金型汚れなどが起こりやすくなるなど成形工程が不安定化しやすい。オリゴマー含有量の好ましい範囲は、0.5〜0.9重量%である。このようなオリゴマー量は、ポリエステル樹脂A自体のオリゴマー量を調整し、かつ本発明の混練条件を採用することで達成できる。
【0025】
このようにして得られた本発明の改質ポリエステル樹脂組成物は、射出成形品、Tダイ法、共押出法などで、得られる無延伸あるいは低倍率の単層シート及び多層シート、それらを延伸したフィルム及び低延伸倍率の深絞り容器、並びに成形後も無延伸の状態であるダイレクトブロー成形及び延伸ブロー成形体として用いても、ビニル系熱可塑性樹脂(B)の分散性が高度に維持され、ビニル系熱可塑性樹脂(B)による前述の寸法安定性や耐電圧が向上される。
【実施例】
【0026】
以下、実施例により、本発明を更に具体的に説明する。但し、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
本発明のポリエステル樹脂についての各種性状の測定方法は、以下の通りである。
【0027】
(1)溶融粘度
測定装置は、島津製作所製フローテスターCF−500を用い、測定温度300℃、予熱時間:1分、ノズル径:1mm、ノズル長:10mm、で測定し、回帰式より剪断速度1000(1/秒)における剪断速度を求める。
【0028】
(2)オリゴマー
樹脂10mgをクロロホルム/ヘキサフルオロイソプロパノール(容量比3/2)混液2mlに溶解し、その後クロロホルムを加えて10mlとしてサンプル液とし、キャリアーにクロロホルムを用いたGPC(カラムは東ソー製TSKgel−G2000H87.5mmID×60cmを使用)により、検量線法にて1〜5量体それぞれを定量した。
【0029】
(3)分散径の保持率
ポリエステル樹脂組成物を、ミクロトームにより、厚さ0.1μmに裁断し、トプコン製透過型電子顕微鏡LEM−2000によって、倍率10000倍で観察し、ビニル系熱可塑性樹脂(B)のそれぞれの面積を50個求め、それらの平均の面積円相当径を、直径として処理前の分散径を算出した。また、ポリエステル樹脂組成物を、180℃で4時間乾燥させた後、285℃まで加熱して溶融させて20分保持し、その後室温まで急冷する。この操作を2回そして、上記の処理前の分散径と同様な操作をして、処理後の分散径を算出した。そして、処理後の分散径を処理前の分散径で割ったものを、分散径の保持率とした。分散径の保持率の値が小さいほど、分散状態の保持性に優れることを意味する。
【0030】
(4)シートの作成
各実施例で得られたポリエステル樹脂組成物からなるペレットを、170℃で5時間乾燥した後、1軸の溶融混練押出機に供給し、290℃まで加熱して溶融状態でダイから回転冷却ドラムの上に、シート状に押出し、急冷固化して、125℃にて製膜方向および幅方向にそれぞれ3.5倍延伸し、厚み75μmの二軸配向フィルムを得た。
【0031】
(5)絶縁破壊電圧
上記(4)のシートサンプルを用い、JIS C2151記載の平板電極法に準拠して、東京精電株式会社製 ITS−6003を用いて、直流電流で昇圧速度160V/sによって絶縁破壊電圧を測定した。
【0032】
(6)湿度膨張係数(αh)
上記(4)で作成したシートサンプルを幅方向が測定方向となるように長さ15mm、幅5mmに切り出し、真空理工製TMA3000にセットし、30℃の雰囲気下で、窒素雰囲気下から、湿度30%RH、および湿度70%RHの一定に保ち、その時のサンプルの長さを測定し、次式にて湿度膨張係数を算出する。なお、測定方向が試料の長手方向であり、10個の試料について行い、その平均値をαhとした。
αH(ppm/RH%)={(L70−L30)/(L30×△H)}×10
ここで、L30:30%RHのときのサンプル長(mm)
L70:70%RHのときのサンプル長(mm)
△H:40(=70−30)%RHである。
【0033】
[実施例1]
3台の定量供給フィーダーを備えた神戸製鋼製二軸押出機KTX−46に、ポリエステル樹脂(A)として、ホモポリエチレンナフタレートペレット(固有粘度0.62、オリゴマー量1.1wt%)、ビニル系熱可塑性樹脂(B)として、シンジオタクティックポリスチレン(重量平均分子量30万)および熱可塑性非晶樹脂(C)としてポリスチレン/アクリル酸/エポキシ共重合体(東亞合成製アルフォンUG−4070、溶解性パラメーター25(MJ/m0.5)をそれぞれ、44.5kg/h、5.0kg/h、0.5kg/hで供給し、これらのポリマー溶融混練して、ポリエステル樹脂組成物を製造した。なお、二軸押出機の条件は、260℃、250rpmで、モーター動力は16kWであった。このようにして混練されたポリマーを、直径6mmの孔を2つ備えたダイプレートを通して水冷バスに吐出し、小型ペレタイザー(いすず化工機製、HSCF200)にてペレット化した。
【0034】
[実施例2]
実施例1において、ポリエステル樹脂(A)の供給量を44kg/hに変更し、熱可塑性樹脂(B)をシンジオタクチックポリスチレン(重量平均分子量17万)に変更し、熱可塑性非晶樹脂(C)を日本触媒製エポクロスRPS−1005としかつ供給量を1kg/hに変更した以外は、実施例1と同様な操作を繰り返した。
得られたポリエステル樹脂組成物およびシートの特性を表1に示す。なお、二軸押出機のモーター動力は16.5kWであった。
【0035】
[実施例3]
テレフタル酸成分を全酸成分に対して10モル%共重合したポリエチレン−2,6−ナフタレート(固有粘度0.63、オリゴマー量0.8重量%)をポリエステル樹脂(A)として用いた以外は、実施例1と同様な操作を繰り返して、繰り返した。
得られたポリエステル樹脂組成物およびシートの特性を表1に示す。なお、二軸押出機のモーター動力は14.9kWであった。
【0036】
[実施例4〜6]
相溶化剤の溶解性パラメーターおよび量、また二軸混錬押出機での比エネルギーを変更した以外は実施例1と同様な操作を繰り返した。
得られたポリエステル樹脂組成物およびシートの特性を表1に示す。
【0037】
[比較例1]
実施例1において、ポリエチレンナフタレートペレットの供給量を45kg/hとし、熱可塑性非晶樹脂(C)を供給しなかった以外は、同様な操作を繰り返した。ただ、二軸押出機でのサージングが激しく、300℃、200rpmで混練押出する条件に変更した。なお、この条件でも、サージングが激しく、ペレット化工程が不安定であった。モーター動力は14.0kWであった。
得られたポリエステル樹脂組成物およびシートの特性を表1に示す。
【0038】
[比較例2]
イソフタル酸を全酸成分に対して30モル%共重合したポリエチレン−2,6−ナフタレート(固有粘度0.63、オリゴマー量0.8重量%)をポリエステル樹脂(A)として用いた以外は、実施例1と同様な操作を繰り返した。
得られたポリエステル樹脂組成物およびシートの特性を表1に示す。なお、二軸押出機のモーター動力は12.5kWであった。
【0039】
[比較例3]
二軸押出機をプラスチック工学研究所製一軸押出機(プラボール(50mmφ))に変更した以外は実施例1と同様な操作を繰り返した。サージングが激しく、チップ化が不安定で、製膜時にはボイドが多発し、シートは採取することができなかった。
【0040】
[比較例4]
流量を11kg/hに変え、スクリュー回転数を450rpmで実施した以外は実施例1と同様に実施した。モーター電力は11.7kWであった。
得られたポリエステル樹脂組成物およびシートの特性を表1に示す。
【0041】
[比較例5]
流量を77kg/hで実施した以外は実施例1と同様に実施した。モーター動力は17.9kWであった。
得られたポリエステル樹脂組成物およびシートの特性を表1に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
表1中の、PENはホモポリエチレン−2,6−ナフタレート、共重合PENはテレフタル酸10モル%共重合ポリエチレン−2,6−ナフタレート、共重合PETはイソフタル酸10モル%共重合ポリエチレンテレフタレートを意味し、比較例2のオリゴマーはエチレンテレフタレートの1〜5量体を意味する。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の改質ポリエチレンナフタレート樹脂組成物の製造方法によって得られた改質ポリエチレンナフタレート樹脂組成物は、フィルムやボトルなどの原料として好適に用いることができる。特に再溶融を経ても湿度に対する寸法安定性や耐電圧を高度に得られる成形品に具備させることができることから、自動車用部品、電子部品、磁気記録媒体、コンデンサー、電気絶縁シートなどに供するフィルムに好適に用いることができ、その工業的意義は大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレンナフタレートを主たる繰り返し単位とするポリエステル樹脂(A)に、ポリエステル樹脂(A)に対して非相溶なビニル系熱可塑性樹脂(B)と溶解性パラメーターが21.0〜26.0(MJ/m30.5の範囲にある熱可塑性非晶樹脂(C)とを溶融混練する樹脂組成物の製造方法であって、
組成物の重量を基準としたときの、ビニル系熱可塑性樹脂(B)の割合が1〜30重量%および熱可塑性非晶樹脂(C)の割合が0.1〜5重量%の範囲にあり、
かつ溶融混練が二軸混練押出機によって、樹脂に付与する比エネルギーが0.28〜0.35kWh/kgの範囲で行われることを特徴とする改質ポリエステル樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
ビニル系熱可塑性樹脂(B)が、ポリスチレンである請求項1記載の改質ポリエステル樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
熱可塑性非晶樹脂(C)が、アクリル酸共重合ポリオレフィンである請求項1記載の改質ポリエステル樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
熱可塑性非晶樹脂(C)が、ビニルオキサゾリン共重合ポリオレフィン系樹脂である請求項1記載の改質ポリエステル樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
熱可塑性非晶樹脂(C)がエポシキ基を含有することを特徴とする請求項1記載の改質ポリエステル樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
エチレンナフタレートを主たる繰り返し単位とするポリエステル樹脂(A)に、ポリエステル樹脂(A)に対して非相溶なビニル系熱可塑性樹脂(B)と溶解性パラメーターが21.0〜26.0(MJ/m30.5の範囲にある熱可塑性非晶樹脂(C)とを溶融混練した樹脂組成物であって、
組成物の重量を基準としたときの、ビニル系熱可塑性樹脂(B)の割合が1〜30重量%および熱可塑性非晶樹脂(C)0.1〜5重量%の範囲にあり、
285℃で20分間溶融保持し、一旦冷却してから再度285℃で20分間溶融保持した後の分散径の保持率が1.10以下であることを特徴とする改質ポリエステル樹脂組成物。
【請求項7】
該ポリエステル樹脂組成物に含有されるエチレンナフタレートの1〜5量体オリゴマーが、ポリエステル樹脂組成物の重量を基準として、0.4〜1.0重量%の範囲にある請求項6記載の改質ポリエステル樹脂組成物。
【請求項8】
該ポリエステル樹脂組成物の300℃、1000(1/sec)における溶融粘度が200〜400Pa・sの範囲にある請求項6記載の改質ポリエステル樹脂組成物。

【公開番号】特開2006−335930(P2006−335930A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−163773(P2005−163773)
【出願日】平成17年6月3日(2005.6.3)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】