放射線像変換パネル及び放射線像変換パネルの製造方法
【課題】 輝度が高く、かつ残光性に優れた放射線像変換パネル及びその製造。
【解決手段】 1mm厚の結晶化ガラス支持体上に蒸着法で厚み300mのEu付活CsBr蛍光体層の放射線像変換パネルを形成するとき、X線を100R照射した後の放射線像変換パネルの、600〜700nmの透過率が照射前の透過率の70%以下となる蛍光体を選択した。
【解決手段】 1mm厚の結晶化ガラス支持体上に蒸着法で厚み300mのEu付活CsBr蛍光体層の放射線像変換パネルを形成するとき、X線を100R照射した後の放射線像変換パネルの、600〜700nmの透過率が照射前の透過率の70%以下となる蛍光体を選択した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線像変換パネル及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、放射線画像を得るために銀塩を使用した、いわゆる放射線写真法が利用されているが、銀塩を使用しないで放射線像を画像化する方法が開発されている。即ち、被写体を透過した放射線を蛍光体に吸収せしめ、しかる後この蛍光体をある種のエネルギーで励起してこの蛍光体が蓄積している放射線エネルギーを蛍光として放射せしめ、この蛍光を検出して画像化する方法が開示されている。
【0003】
具体的な方法としては、支持体上に輝尽性蛍光体層を儲けたパネルを用い、励起エネルギーとして可視光線及び赤外線の一方または両方を用いる放射線像変換方法(例えば、特許文献1参照。)が知られている。
【0004】
より高輝度(高感度)の輝尽性蛍光体を用いた放射線像変換方法として、BaFX:Eu2+系(X:Cl、Br、I)蛍光体を用いた放射線像変換方法(例えば、特許文献2参照。)、アルカリハライド蛍光体を用いた放射線像変換方法(例えば、特許文献3参照。)、共賦活剤としてTl+及びCe3+、Sm3+、Eu3+、Y3+、Ag+、Mg2+、Pb2+、In3+の金属を含有するアルカリハライド蛍光体(例えば、特許文献4及び5参照。)が開発されている。
【0005】
さらに近年、診断画像の解析においてより高鮮鋭性の放射線像変換パネルが要求されている。鮮鋭性改善のための手段として、例えば、形成される輝尽性蛍光体の形状そのものをコントロールし、感度及び鮮鋭性の改良を図る試みがなされている。
【0006】
これらの試みの1つとして、例えば、微細な凹凸パターンを有する支持体上に輝尽性蛍光体を堆積させ形成した微細な擬柱状ブロックからなる輝尽性蛍光体層を用いる方法(例えば、特許文献6参照。)がある。
【0007】
また、微細なパターンを有する支持体上に輝尽性蛍光体を堆積させて得た柱状ブロック間のクラックをショック処理を施してさらに発達させた輝尽性蛍光体層を有する放射線像変換パネル(例えば、特許文献7参照。)を用いる方法、さらには、支持体の面に形成された輝尽性蛍光体層にその表面側から亀裂を生じさせ擬柱状とした放射線像変換パネル(例えば、特許文献8参照。)を用いる方法、さらには、支持体の上面に蒸着により空洞を有する輝尽性蛍光体層を形成した後、加熱処理によって空洞を成長させ亀裂を設ける方法(例えば、特許文献9参照。)等も提案されている。
【0008】
さらに、気相堆積法によって支持体上に、支持体の法線方向に対し一定の傾きをもった細長い柱状結晶を形成した輝尽性蛍光体層を有する放射線像変換パネル(例えば、特許文献10参照。)が提案されている。
【0009】
最近ではCsBr等のハロゲン化アルカリを母体にEuを賦活した輝尽性蛍光体を用いた放射線像変換パネルが提案され、特にEuを賦活剤とすることで従来の蛍光体では得られていなかった高いX線変換効率を導き出すことが可能となった。
【0010】
しかしながら、Euは熱による拡散が顕著であり、真空下における蒸気圧も高いため離散する等により母体中のEuの存在を遍在させる問題があり、目的とした高いX線変換効率を得ることが難しいため市場での実用化に至っていない。
【0011】
特に高いX線変換効率が得られる希土類元素の賦活においては真空下における膜形成に関しては蒸気圧特性より均一化が難しい問題であった。また、製造法においてもこれらの気相成長(堆積)により形成した輝尽性蛍光体層では輝尽性蛍光体層を作製する際に原料加熱、真空蒸着時の基板(支持体)加熱、膜形成後のアニール(基板歪み緩和)処理により加熱処理を多く施されるために賦活剤の存在状態が不均一となる問題がある。
【0012】
また、輝尽性蛍光体は励起光により輝尽発光を行うが、この輝尽発光は励起光の照射終了後もいわゆる残光として、輝尽性蛍光体に固有の応答時間の間、発光を続ける。従って、輝尽性蛍光体パネルを励起光で走査し、励起光により励起された輝尽発光を光電的に順次読み取り、画素単位の画像情報を取得する際に、励起光が照射される走査点からの輝尽発光のみでなく、励起光の照射が終了した走査点からの残光成分も含めて、励起光が照射される走査点に位置する画素の画像情報として蓄積される。これにより、走査点ごとの画像情報の分離が完全になされず、コントラスト分解能の低下、あるいは、表示される画像情報の鮮鋭度の低下等が生じる。
【0013】
このため放射線像変換パネルとして市場から要求される輝度、鮮鋭性についてさらに改良が求められていた。
【特許文献1】米国特許第3,859,527号明細書
【特許文献2】特開昭59−75200号公報
【特許文献3】特開昭61−72087号公報
【特許文献4】特開昭61−73786号公報
【特許文献5】特開昭61−73787号公報
【特許文献6】特開昭61−142497号公報
【特許文献7】特開昭61−142500号公報
【特許文献8】特開昭62−39737号公報
【特許文献9】特開昭62−110200号公報
【特許文献10】特開平2−58000号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、輝度が高く、かつ残光性に優れた放射線像変換パネル及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の上記課題は、以下の構成により達成される。
【0016】
(請求項1)
支持体上に、X線を100R照射したとき、600〜700nmの透過率が照射前の70%以下となる輝尽性蛍光体層を有することを特徴とする放射線像変換パネル。
【0017】
(請求項2)
前記輝尽性蛍光体層が、下記一般式(1)で表されるハロゲン化アルカリを母体とする輝尽性蛍光体を含有することを特徴とする請求項1に記載の放射線像変換パネル。
【0018】
一般式(1)
M1X・aM2X′2・bM3X″3:eA
(式中、M1、M2は、それぞれLi、Na、K、Rb及びCsからなる群から選ばれる少なくとも一種のアルカリ金属を表し、M1、M2は、互いに異なるアルカリ金属を表し、M3は、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群から選ばれる少なくとも一種の三価金属を表し、X、X′及びX″はF、Cl、Br及びIからなる群から選ばれる少なくとも一種のハロゲンを表し、Aは、Eu、Tb、In、Cs、Ce、Tm、Dy、Pr、Ho、Nd、Yb、Er、Gd、Lu、Sm及びYからなる群から選ばれる少なくとも1種の希土類元素を表す。また、a、b、eは、それぞれ0≦a<0.5、0≦b<0.5、0<e≦0.2の数値を表す。)
(請求項3)
前記一般式(1)で表されるハロゲン化アルカリを母体とする輝尽性蛍光体が、下記一般式(2)で表される輝尽性蛍光体であることを特徴とする請求項2に記載の放射線像変換パネルの製造方法。
【0019】
一般式(2)
CsX:A
(式中、XはBrまたはIを表し、AはEu、In、GaまたはCeを表す。)
(請求項4)
請求項1〜3のいずれか1項に記載の放射線像変換パネルの輝尽性蛍光体層を、気相法(気相堆積法ともいう)により50μm〜20mmの膜厚となるように形成することを特徴とする放射線像変換パネルの製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、輝度が高く、かつ残光性に優れた放射線像変換パネル及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明者は鋭意研究の結果、支持体上に、X線を100R照射したとき、600〜700nmの透過率が照射前の70%以下となる輝尽性蛍光体層を有する放射線像変換パネルにより、輝度が高く、かつ残光性に優れた放射線像変換パネルが得られることを見出した。
【0022】
以下本発明を詳細に説明する。
【0023】
〔支持体〕
本発明の放射線像変換パネルに用いられる支持体としては、各種のガラス、高分子材料、炭素繊維強化樹脂(CFRP)、金属等が用いられる。例えば石英、ホウ珪酸ガラス、化学的強化ガラス等の板ガラス、セルロースアセテートフィルム、ポリエステルフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリアミドフィルム、ポリイミドフィルム、トリアセテートフィルム、ポリカーボネートフィルム等のプラスチックフィルム、発泡ポリイミドまたは発泡ポリアクリル樹脂の両側を炭素繊維強化樹脂で被覆した複合樹脂フィルム、アルミニウムシート、鉄シート、銅シート等の金属シートまたは該金属酸化物の被覆層を有する金属シートが挙げられる。中でもアルミニウムを主成分とする金属基板またはガラスが好ましい。これら支持体の表面は滑面であってもよいし、輝尽性蛍光体層との接着性を向上させる目的でマット面としてもよい。
【0024】
また、支持体と輝尽性蛍光体層の接着性を向上させるために、必要に応じて支持体の表面に予め接着層を設けてもよい。これら支持体の厚みは用いる支持体の材質等によって異なるが、一般的には80〜4000μmであり、取り扱い上の観点からさらに好ましいのは80〜1000μmである。
【0025】
また、支持体の分光吸収特性が、短波長側(370〜500nm)よりも長波長側(600〜700nm)の吸光度が、短波長側に対して1.1〜10.0倍であり、より好ましくは1.5〜5.0倍であることが好ましい。支持体の分光吸収特性を、上記のように設定するには、支持体作製時に色素を添加することにより達成することができる。
【0026】
支持体作製時に用いることのできる色素としては、例えば、特開昭47−30330号、同56−5552号公報記載のペリレン顔料、特開昭47−30331号公報等に記載のキナクリドン顔料、特開昭47−18543号公報記載のビスベンズイミダゾール顔料、特開昭47−18544号、同55−98754号、同55−126254号、同55−163543号公報に記載の芳香族多縮合環化合物、特公昭44−16373号、同48−30513号、特開昭56−321465号公報等に記載のアゾ顔料、特公昭50−7434号、特開昭47−37548号、同55−11715号、同56−1944号、同56−9752号、同56−2352号、同56−80050号公報等に記載のジスアゾ顔料、特公昭44−12671号、同40−2780号、同52−1667号、同46−30035号、同49−17535号、特開昭49−11136号、同49−99142号、同51−109841号、同57−148745号公報等に記載のフタロシアニン顔料等が挙げられ、これらは単独あるいは二種以上を併用して用いることができる。これらの化合物の中では、フタロシアニン化合物が、波長域の点から好ましい。また、本発明においては、顔料としては、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化ジルコニウム等が挙げられる。
【0027】
〔保護層〕
本発明の放射線像変換パネルは輝尽性蛍光体層の上に保護層を有していてもよい。
【0028】
保護層は、保護層用塗布液を輝尽性蛍光体層上に直接塗布して形成してもよいし、あらかじめ別途形成した保護層を輝尽性蛍光体層上に接着してもよい。あるいは別途形成した保護層上に輝尽性蛍光体層を形成する手順を取ってもよい。保護層の材料としては酢酸セルロース、ニトロセルロース、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマール、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリ塩化ビニリデン、ナイロン、ポリ四フッ化エチレン、ポリ三フッ化−塩化エチレン、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合体、塩化ビニリデン−塩化ビニル共重合体、塩化ビニリデン−アクリロニトリル共重合体等の通常の保護層用材料が用いられる。他に透明なガラス基板を保護層として用いることもできる。また、この保護層は蒸着法、スパッタリング法等により、SiC、SiO2、SiN、Al2O3等の無機物質を積層して形成してもよい。これらの保護層の層厚は一般的には0.1〜2000μm程度が好ましい。
【0029】
〔輝尽性蛍光体〕
次に、本発明に好ましく用いられる前記一般式(1)で表される輝尽性蛍光体について説明する。
【0030】
前記一般式(1)において、M1はLi、Na、K、Rb及びCs等の各原子から選ばれる少なくとも1種のアルカリ金属原子を表し、中でもRb及びCsの各原子から選ばれる少なくとも1種のアルカリ土類金属原子が好ましく、さらに好ましくはCs原子である。
【0031】
M2はBe、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Cd、Cu及びNi等の各原子から選ばれる少なくとも1種の二価の金属原子を表し、中でも好ましく用いられるのはBe、Mg、Ca、Sr及びBa等の各原子から選ばれる二価の金属原子である。
【0032】
M3はSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Al、Ga及びInの各原子から選ばれる少なくとも1種の三価の金属原子を表し、中でも好ましく用いられるのはY、Ce、Sm、Eu、Al、La、Gd、Lu、Ga及びInの各原子から選ばれる三価の金属原子である。
【0033】
AはEu、Tb、In、Ce、Tm、Dy、Pr、Ho、Nd、Yb、Er、Gd、Lu、Sm、Y、Tl、Na、Ag、Cu及びMgの各原子から選ばれる少なくとも1種の金属原子である。
【0034】
X、X′及びX″はF、Cl、Br及びIの各原子から選ばれる少なくとも1種のハロゲンで原子を表すが、蛍光体の輝尽発光輝度向上の観点から、F、Cl及びBrから選ばれる少なくとも1種のハロゲン原子が好ましく、Br及びIの各原子から選ばれる少なくとも1種のハロゲン原子がさらに好ましい。
【0035】
前記一般式(1)で表されるハロゲン化アルカリを母体とする輝尽性蛍光体は、下記一般式(2)で表される輝尽性蛍光体であることが好ましい。
【0036】
一般式(2)
CsX:A
(式中、XはBrまたはIを表し、Brが好ましい。AはEu、In、GaまたはCeを表し、Euが好ましい。)
前記一般式(1)で表される輝尽性蛍光体は、例えば以下に述べる製造方法により製造される。
【0037】
まず蛍光体原料として、以下の組成となるように炭酸塩に酸(HI、HBr、HCl、HF)を加え混合攪拌した後、中和点にて濾過を行い得られた後、ろ液の水分を蒸発気化させて以下の結晶を作製する。
【0038】
蛍光体原料としては、
(a)NaF、NaCl、NaBr、NaI、KF、KCl、KBr、KI、RbF、RbCl、RbBr、RbI、CsF、CsCl、CsBr及びCsIから選ばれる少なくとも1種の化合物が用いられる。
【0039】
(b)MgF2、MgCl2、MgBr2、MgI2、CaF2、CaCl2、CaBr2、CaI2、SrF2、SrCI2、SrBr2、SrI2、BaF2、BaCl2、BaBr2、BaBr2・2H2O、BaI2、ZnF2、ZnCl2、ZnBr2、ZnI2、CdF2、CdCl2、CdBr2、CdI2、CuF2、CuCl2、CuBr2、CuI、NiF2、NiCl2、NiBr2及びNiI2の化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物が用いられる。
【0040】
(c)前記一般式(1)において、Eu、Tb、In、Cs、Ce、Tm、Dy、Pr、Ho、Nd、Yb、Er、Gd、Lu、Sm、Y、Tl、Na、Ag、Cu及びMg等の各原子から選ばれる金属原子を有する化合物が用いられる。
【0041】
(d)賦活剤Aは、例えばEu、Tb、In、Ce、Tm、Dy、Pr、Ho、Nd、Yb、Er、Gd、Lu、Sm、Y、Tl、Na、Ag、Cu及びMgの各原子から選ばれる少なくとも1種の金属原子が用いられる。
【0042】
一般式(1)で表される化合物において、aは0≦a<0.5、好ましくは0≦a<0.01、bは0≦b<0.5、好ましくは0≦b≦10-2、eは0<e≦0.2、好ましくは0<e≦0.1である。
【0043】
上記の数値範囲の混合組成になるように前記(a)〜(d)の蛍光体原料を秤量し、純水にて溶解する。
【0044】
この際、乳鉢、ボールミル、ミキサーミル等を用いて充分に混合してもよい。
【0045】
次に、得られた水溶液のpH値を0〜7に調整するように所定の酸を加えた後、水分を蒸発、気化させる。
【0046】
次に、得られた原料混合物を石英ルツボあるいはアルミナルツボ等の耐熱性容器に充填して電気炉中で焼成を行う。焼成温度は500〜1000℃が好ましい。焼成時間は原料混合物の充填量、焼成温度等によって異なるが、0.5〜6時間が好ましい。
【0047】
焼成雰囲気としては少量の水素ガスを含む窒素ガス雰囲気、少量の一酸化炭素を含む炭酸ガス雰囲気等の弱還元性雰囲気、窒素ガス雰囲気、アルゴンガス雰囲気等の中性雰囲気あるいは少量の酸素ガスを含む弱酸化性雰囲気が好ましい。
【0048】
なお、前記の焼成条件で一度焼成した後、焼成物を電気炉から取り出して粉砕し、しかる後、焼成物粉末を再び耐熱性容器に充填して電気炉に入れ、前記と同じ焼成条件で再焼成を行えば蛍光体の発光輝度をさらに高めることができ、また、焼成物を焼成温度より室温に冷却する際、焼成物を電気炉から取り出して空気中で放冷することによっても所望の蛍光体を得ることができるが、焼成時と同じ、弱還元性雰囲気もしくは中性雰囲気のままで冷却してもよい。また、焼成物を電気炉内で加熱部より冷却部へ移動させて、弱還元性雰囲気、中性雰囲気もしくは弱酸化性雰囲気で急冷することにより、得られた蛍光体の輝尽による発光輝度をより一層高めることができる。
【0049】
〔輝尽性蛍光体層の形成〕
本発明の輝尽性蛍光体層は、X線を100R照射したとき、600〜700nmの全ての領域で透過率が照射前の70%以下となることが特徴である。透過率の低下は50%以下がより好ましい。本発明者の検討の結果、X線照射により輝尽性蛍光体層の透過率は400〜800nmの広い領域で低下するが、600〜700nmの範囲で透過率が照射前の70%以下に低下するとき、輝度及び残光性(コントラスト、鮮鋭性に影響する)、特に残光性が改良されることを見い出した。透過率低下と、輝度及び残光性との関係については詳細には解明していないが、600〜700nmは励起光の波長領域であることから、レーザー光による輝尽性蛍光体パネルの走査、読み取りに適した形でX線情報が輝尽性蛍光体層に記録されているのではないかと推測している。
【0050】
X線を100R照射したとき、600〜700nmの透過率が照射前の70%以下となる輝尽性蛍光体層を得るには、昇華精製して不純物を低減した輝尽性蛍光体または蛍光体前駆体を蒸着源に用いる方法、輝尽性蛍光体がCsBr粒子の場合は(2,0,0)面が主ピークとなるよう気相堆積条件を選ぶ方法、賦活剤量を調整する方法等がある。
【0051】
CsBr粒子用の市販の蒸着源には、通常NaBr、KBr、RbBr、MgBr2、CaBr2、BaBr2、SrBr2、EuBr2等のアルカリ金属のハロゲン化物、アルカリ土類金属のハロゲン化物、希土類元素のハロゲン化物または酸化物が含まれており、これらは1000ppm以下にすることが好ましい。これらの不純物は、蛍光体を純水に溶解し、得られた水溶液をICPにて測定することができる。
【0052】
(2,0,0)面比率は、蛍光体を粉末X線回折法にて測定し、得られた43°ピークを(2,0,0)面とし、最大ピークに対して5%以上のピーク強度のあるピークの総和強度を100%として(2,0,0)面ピークの比率を算出する。
【0053】
本発明の輝尽性蛍光体層は気相成長法によって形成することが好ましい。
【0054】
輝尽性蛍光体を気相堆積させる方法としては蒸着法、スパッタ法及びCVD法等がある。
【0055】
蒸着法は、支持体を気相堆積装置内に設置し、装置内を排気して一旦1.33×10-4Pa程度の真空とした後、調圧ガスを導入して気相堆積装置内の真空度を1.33×10-2〜1.33Pa程度の真空とし、次いで、輝尽性蛍光体の少なくとも1つを抵抗加熱法、エレクトロンビーム法等の方法で加熱蒸発させて支持体表面に輝尽性蛍光体層を所望の厚みに堆積させる。この結果、結着剤を含有しない輝尽性蛍光体層が形成される。
【0056】
スパッタ法は、前記蒸着法と同様に支持体をスパッタ装置内に設置した後、装置内を一旦排気して1.33×10-4Pa程度の真空度とし、次いでスパッタ用のガスとしてAr、Ne等の不活性ガスを装置内に導入して1.33×10-1Pa程度のガス圧とする。次に、前記輝尽性蛍光体をターゲットとして、スパッタリングすることにより支持体表面に輝尽性蛍光体層を所望の厚さに堆積させる。
【0057】
スパッタ法では、複数の輝尽性蛍光体原料をターゲットとして用い、これを同時または順次スパッタリングして、支持体上で目的とする輝尽性蛍光体層を形成するものであり、必要に応じてO2、H2等のガスを導入して反応性スパッタを行ってもよい。さらに、スパッタ法においては、スパッタ時必要に応じて被蒸着物を冷却または加熱してもよい。また、スパッタ終了後に輝尽性蛍光体層を加熱処理してもよい。
【0058】
CVD法は、目的とする輝尽性蛍光体または輝尽性蛍光体原料を含有する有機金属化合物を熱、高周波電力等のエネルギーで分解することにより、支持体上に結着剤を含有しない輝尽性蛍光体層を得るものであり、いずれも輝尽性蛍光体層を支持体の法線方向に対して特定の傾きをもって独立した細長い結晶に気相成長させることが可能である。
【0059】
本発明においては、これら気相堆積法により輝尽性蛍光体層を形成するが、複数回に分けて輝尽性蛍光体層を形成することもできる。
【0060】
本発明においては、気相堆積法として蒸着法が好ましく用いられる。以下、蒸着法による輝尽性蛍光体層の形成について詳しく説明する。なお、以下においては柱状結晶を成長させる場合について説明する。
【0061】
蒸着法によって輝尽性蛍光体層を形成する方法としては、気相堆積装置内の真空度を1.33×10-2〜1.33Paになるように調圧ガスを導入しながら、支持体上にある入射角で輝尽性蛍光体の蒸気または原料を供給し、結晶を気相成長(気相堆積法と呼ぶ)させる方法によって独立した細長い柱状結晶構造を有する輝尽性蛍光体層を得ることができる。
【0062】
真空度を1.33×10-2〜1.33Paになるようにする調圧ガスの流量は0.001〜1000sccm(standard cc/min、1×10-6m3/min)であることがこのましい。調圧ガスの流量が1000sccmを越えると、ガスの流れにより蒸気流が乱れ蛍光体の成長に悪影響を与える。また、調圧ガスの流量が0.001sccm未満では付着性低下が発生する。
【0063】
真空度の調整に用いる調圧ガスは窒素またはアルゴンが好ましい。
【0064】
輝尽性蛍光体または輝尽性蛍光体原料の蒸気流を支持体面に対しある入射角をつけて供給する方法には、支持体を蒸発源を仕込んだ坩堝に対し互いに傾斜させる配置を取る、または、支持体と坩堝を互いに平行に設置し、蒸発源を仕込んだ坩堝の蒸発面からスリット等により斜め成分のみ支持体上に蒸着させるよう規制する等の方法を採ることができる。これらの場合において、支持体と坩堝との最短部の間隔は輝尽性蛍光体の平均飛程に合わせて概ね10〜60cmに設置するのが好ましい。
【0065】
これらの柱状結晶からなる輝尽性蛍光体層において変調伝達関数(MTF)をよくするためには、柱状結晶の大きさ(柱状結晶を支持体と平行な面から観察したときの各柱状結晶の断面積の円換算した直径の平均値であり、少なくとも100個以上の柱状結晶を視野中に含む顕微鏡写真から計算する)は1〜50μm程度がよく、さらに好ましくは1〜30μmである。即ち、柱状結晶が1μmより細い場合は、柱状結晶により輝尽励起光が散乱されるためにMTFが低下するし、柱状結晶が50μmを越える場合も輝尽励起光の指向性が低下し、MTFは低下する。
【0066】
また各柱状結晶間の間隙の大きさは30μm以下がよく、さらに好ましくは5μm以下がよい。即ち、間隙が30μmを越える場合は蛍光体層中の蛍光体の充填率が低くなり、感度が低下してしまう。
【0067】
上記方法により形成した輝尽性蛍光体層の膜厚は、目的とする放射線画像変換パネルの放射線に対する感度、輝尽性蛍光体の種類等によって異なるが、50μm〜20mmが好ましく、100〜1000μmがより好ましい。
【0068】
また、上記気相堆積法を用いて輝尽性蛍光体層の作製時、蒸発源となる輝尽性蛍光体は、均一に溶解させるか、プレス、ホットプレスによって成形して坩堝に仕込まれる。この際、脱ガス処理を行うことが好ましい。蒸発源から輝尽性蛍光体を蒸発させる方法は電子銃により発した電子ビームの走査により行われるが、これ以外の方法で蒸発させることもできる。
【0069】
また、蒸発源は必ずしも輝尽性蛍光体である必要はなく、輝尽性蛍光体原料を混和したものであってもよい。
【0070】
また、賦活剤は母体(basic substance)に対して賦活剤(actibator)を混合したものを蒸着してもよいし、母体のみを蒸着した後に賦活剤をドープしてもよい。例えば、母体であるRbBrのみを蒸着した後、例えば賦活剤であるTlをドープしてもよい。即ち、結晶が独立しているため、膜が厚くとも充分にドープ可能であるし、結晶成長が起こりにくいので、MTFは低下しないからである。ドーピングは形成された蛍光体の母体層中にドーピング剤(賦活剤)を熱拡散、イオン注入法によって行うことができる。
【0071】
また、柱状結晶間の間隙に結着剤等充填物を充填してもよく、輝尽性蛍光体層の補強となる。また高光吸収率の物質、高光反射率の物質等を充填してもよい。これにより前記補強効果をもたせるほか、輝尽性蛍光体層に入射した輝尽励起光の横方向への光拡散をほぼ完全に防止できる。
【0072】
高光反射率の物質とは、輝尽励起光(500〜900nm、特に600〜800nm)に対する反射率の高いものをいい、例えばアルミニウム、マグネシウム、銀、インジウムその他の金属等、白色顔料及び緑色から赤色領域の色材を用いることができる。
【0073】
白色顔料は輝尽発光も反射することができる。白色顔料として、TiO2(アナターゼ型、ルチル型)、MgO、PbCO3・Pb(OH)2、BaSO4、Al2O3、M(II)FX(但し、M(II)はBa、Sr及びCaの中の少なくとも1種であり、XはCl、及びBrのうちの少なくとも1種である。)、CaCO3、ZnO、Sb2O3、SiO2、ZrO2、リトポン(BaSO4・ZnS)、珪酸マグネシウム、塩基性珪硫酸鉛、塩基性燐酸鉛、珪酸アルミニウム等が挙げられる。これらの白色顔料は隠蔽力が強く、屈折率が大きいため、光を反射したり、屈折させることにより輝尽発光を容易に散乱し、得られる放射線画像変換パネルの感度を顕著に向上させ得る。
【0074】
また、高光吸収率の物質としては、例えば、カーボン、酸化クロム、酸化ニッケル、酸化鉄等及び青の色材が用いられる。このうちカーボンは輝尽発光も吸収する。
【0075】
また、色材は、有機または無機系色材のいずれでもよい。有機系色材としては、ザボンファーストブルー3G(ヘキスト製)、エストロールブリルブルーN−3RL(住友化学製)、D&CブルーNo.1(ナショナルアニリン製)、スピリットブルー(保土谷化学製)、オイルブルーNo.603(オリエント製)、キトンブルーA(チバガイギー製)、アイゼンカチロンブルーGLH(保土ヶ谷化学製)、レイクブルーAFH(協和産業製)、プリモシアニン6GX(稲畑産業製)、ブリルアシッドグリーン6BH(保土谷化学製)、シアンブルーBNRCS(東洋インク製)、ライオノイルブルーSL(東洋インク製)等が用いられる。またカラーインデクスNo.24411、23160、74180、74200、22800、23154、23155、24401、14830、15050、15760、15707、17941、74220、13425、13361、13420、11836、74140、74380、74350、74460等の有機系金属錯塩色材も挙げられる。無機系色材としては群青、コバルトブルー、セルリアンブルー、酸化クロム、TiO2−ZnO−Co−NiO系顔料が挙げられる。
【0076】
図1は、本発明の放射線像変換パネルの構成の一例を示す概略図である。
【0077】
図1において21は放射線発生装置、22は被写体、23は輝尽性蛍光体を含有する輝尽性蛍光体層を有する放射線像変換パネル、24は放射線像変換パネル23の放射線潜像を輝尽発光として放出させるための輝尽励起光源、25は放射線像変換パネル23より放出された輝尽発光を検出する光電変換装置、26は光電変換装置25で検出された光電変換信号を画像として再生する画像再生装置、27は再生された画像を表示する画像表示装置、28は輝尽励起光源24からの反射光をカットし、放射線像変換パネル23より放出された光のみを透過させるためのフィルタである。
【0078】
なお、図1は被写体の放射線透過像を得る場合の例であるが、被写体22自体が放射線を放射する場合には、前記放射線発生装置21は特に必要ない。
【0079】
また、光電変換装置25以降は放射線像変換パネル23からの光情報を何らかの形で画像として再生できるものであればよく、前記に限定されない。
【0080】
図1に示されるように、被写体22を放射線発生装置21と放射線像変換パネル23の間に配置し放射線Rを照射すると、放射線Rは被写体22の各部の放射線透過率の変化に従って透過し、その透過像RI(即ち、放射線の強弱の像)が放射線像変換パネル23に入射する。
【0081】
この入射した透過像RIは放射線像変換パネル23の輝尽性蛍光体層に吸収され、これによって輝尽性蛍光体層中に吸収された放射線量に比例した数の電子及び/または正孔が発生し、これが輝尽性蛍光体のトラップレベルに蓄積される。
【0082】
即ち、放射線透過像のエネルギーを蓄積した潜像が形成される。次にこの潜像を光エネルギーで励起して顕在化する。
【0083】
また、輝尽励起光源24によって輝尽性蛍光体層に照射してトラップレベルに蓄積された電子及び/または正孔を追い出し、蓄積されたエネルギーを輝尽発光として放出させる。
【0084】
この放出された輝尽発光の強弱は蓄積された電子及び/または正孔の数、すなわち放射線像変換パネル23の輝尽性蛍光体層に吸収された放射線エネルギーの強弱に比例しており、この光信号を、例えば、光電子増倍管等の光電変換装置25で電気信号に変換し、画像再生装置26によって画像として再生し、画像表示装置27によってこの画像を表示する。
【0085】
画像再生装置26は単に電気信号を画像信号として再生するのみでなく、いわゆる画像処理や画像の演算、画像の記憶、保存等ができるものを使用するとより有効である。
【0086】
また、光エネルギーで励起する際、輝尽励起光の反射光と輝尽性蛍光体層から放出される輝尽発光とを分離する必要があることと、輝尽性蛍光体層から放出される発光を受光する光電変換器は一般に600nm以下の短波長の光エネルギーに対して感度が高くなるという理由から、輝尽性蛍光体層から放射される輝尽発光はできるだけ短波長領域にスペクトル分布を持ったものが望ましい。
【0087】
本発明に用いられる輝尽性蛍光体の発光波長域は300〜500nmであり、一方輝尽励起波長域は500〜900nmであるので前記の条件を同時に満たすが、最近、診断装置のダウンサイジング化が進み、放射線像変換パネルの画像読み取りに用いられる励起波長は高出力で、かつ、コンパクト化が容易な半導体レーザが好まれ、そのレーザ光の波長は680nmであることが好ましく、本発明の放射線像変換パネルに組み込まれた輝尽性蛍光体は、680nmの励起波長を用いた時に、極めて良好な鮮鋭性を示すものである。
【0088】
即ち、本発明の輝尽性蛍光体はいずれも500nm以下に主ピークを有する発光を示し、輝尽励起光の分離が容易でしかも受光器の分光感度とよく一致するため、効率よく受光できる結果、受像系の感度を高めることができる。
【0089】
輝尽励起光源24としては、放射線像変換パネル23に使用される輝尽性蛍光体の輝尽励起波長を含む光源が使用される。特にレーザ光を用いると光学系が簡単になり、また輝尽励起光強度を大きくすることができるために輝尽発光効率を挙げることができ、より好ましい結果が得られる。
【0090】
レーザとしては、例えば、He−Neレーザ、He−Cdレーザ、Arイオンレーザ、Krイオンレーザ、N2レーザ、YAGレーザ及びその第2高調波、ルビーレーザ、半導体レーザ、各種の色素レーザ、銅蒸気レーザ等の金属蒸気レーザ等がある。通常はHe−NeレーザやArイオンレーザのような連続発振のレーザが望ましいが、パネル1画素の走査時間とパルスを同期させればパルス発振のレーザを用いることもできる。
【0091】
また、フィルタ28を用いずに特開昭59−22046号に示されるような、発光の遅延を利用して分離する方法によるときは、連続発振レーザを用いて変調するよりもパルス発振のレーザを用いる方が好ましい。
【0092】
上記の各種レーザ光源の中でも、半導体レーザは小型で安価であり、しかも変調器が不要であるので特に好ましく用いられる。
【0093】
フィルタ28としては放射線像変換パネル23から放射される輝尽発光を透過し、輝尽励起光をカットするものであるから、これは放射線像変換パネル23に含有する輝尽性蛍光体の輝尽発光波長と輝尽励起光源24の波長の組合わせによって決定される。
【0094】
例えば、輝尽励起波長が500〜900nmで輝尽発光波長が300〜500nmにあるような実用上好ましい組合わせの場合、フィルタとしては例えば東芝社製C−39、C−40、V−40、V−42、V−44、コーニング社製7−54、7−59、スペクトロフィルム社製BG−1、BG−3、BG−25、BG−37、BG−38等の紫〜青色ガラスフィルタを用いることができる。また、干渉フィルタを用いると、ある程度、任意の特性のフィルタを選択して使用できる。光電変換装置25としては、光電管、光電子倍増管、フォトダイオード、フォトトランジスタ、太陽電池、光導電素子等光量の変化を電子信号の変化に変換し得るものなら何れでもよい。
【実施例】
【0095】
以下、本発明を実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明の実施態様はこれらに限定されない。
【0096】
実施例
〔放射線像変換パネルの作製〕
(蛍光体層の形成)
1mm厚の結晶化ガラス(日本電気ガラス社製)支持体の表面に図2で示した蒸着装置(但し、θ1=5度、θ2=5度に設定する)を用いて輝尽性蛍光体(CsBr:Eu)を有する輝尽性蛍光体層を形成した。
【0097】
図2に示した蒸着装置においては、アルミニウム製のスリットを用い、支持体とスリットとの距離dを60cmとして、支持体と平行な方向に支持体を搬送しながら蒸着を行ない、輝尽性蛍光体層の厚みが300μmになるように調整した。
【0098】
〈輝尽性蛍光体〉
CsBr、1molに対し、Eu量が5×10-4〜5×10-3molとなるようにCsCO3、HBr及びEu2O3を水に加えて溶解し、Eu量が異なる5種類の水溶液を作製した。90〜110℃にて該水溶液を濃縮して飽和溶液とし、水溶液液相(水相)を作製した。
【0099】
該水溶液液相上にEDTAの液膜形成層を形成し、その上にイソプロピルアルコールを有する有機相を順次形成させた水溶液液相をホモジナイザーで3,000rpmにて攪拌し、CsBr粒子が析出し、平均粒径5μmのCsBr:Eu蛍光体前駆体を得た。水相と有機相の比率は1:1であった。
【0100】
この輝尽性蛍光体前駆体をArガス雰囲気下で700℃にて昇華し、バイパスを経由して冷却ゾーンにて補足し、蒸着源となる輝尽性蛍光体を得た。
【0101】
なお、蒸着にあたっては、支持体を蒸着器内に設置し、次いで、上記輝尽性蛍光体を蒸着源としてプレス成形し水冷したルツボに入れた。
【0102】
その後、蒸着器内を一旦排気した後、再度N2ガスを導入し0.133Paに真空度を調整した後、支持体の温度を約150℃に保持しながら蒸着した。輝尽性蛍光体層の膜厚が300μmとなったところで蒸着を終了させ、次いで、この蛍光体層を100℃で加熱処理した。
【0103】
得られた結晶化ガラス支持体上には、幅約2.5μm、長さ約150μmの柱状結晶の蛍光体が垂直方向に密に林立した構造の蛍光体層(空隙率:2%)が形成されていた。
【0104】
(保護層の形成)
2液反応型のウレタン系接着剤を用い、膜厚12μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを蛍光体層に貼り付けて保護層とし、放射線像変換パネル1〜5を作製した。
【0105】
〔放射線像変換パネルの測定と評価〕
以上のようにして作製した各放射線像変換パネルについて、以下に示す方法に従って、X線照射後の600〜700nmの透過率低下、輝度及び残光性の評価を行った。透過率低下を図3に、輝度及び残光性の評価結果を表1に示す。
【0106】
(透過率低下)
X線を100R照射する前後の放射線像変換パネルの600〜700nmの透過率を測定し、X線照射後の透過率/X線照射後の透過率×100(%)を算出した。
【0107】
(輝度)
輝度の測定は、放射線像変換パネルに管電圧80kVpのX線を照射した後、放射線像変換パネルをHe−Neレーザー光(633nm)で走査して励起し、輝尽性蛍光体層から放射される輝尽発光を受光器(分光感度S−5の光電子像倍管)で受光して、その強度を測定して、これを感度と定義し、放射線像変換パネル1の感度を100とする相対値で示す。
【0108】
(残光性)
残光性の測定は、放射線像変換パネルに管電圧80kVpのX線を照射した後、放射線像変換パネルをHe−Neレーザー光(633nm)で走査して励起し、輝尽性蛍光体層の走査点から放射される輝尽発光と、この走査点から主走査方向に13mm(150画素)離れ、励起光の走査が終了した部分からの残光成分を受光器(分光感度S−5の光電子像倍管)で受光して、その強度比(残光成分/輝尽発光)を残光性と定義した。
【0109】
【表1】
【0110】
表1から明らかなように、本発明の放射線像変換パネルは、比較品に対し、輝度及び残光性に優れていることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】本発明の放射線像変換パネルの構成の一例を示す概略図である。
【図2】蒸着により支持体上に輝尽性蛍光体層を作製する方法の一例を示す概略図である。
【図3】X線照射後の放射線像変換パネルの透過率低下を示す図である。
【符号の説明】
【0112】
11 支持体
12 輝尽性蛍光体層
13 柱状結晶
14 柱状結晶間に形成された間隙
15 支持体ホルダ
21 放射線発生装置
22 被写体
23 放射線像変換パネル
24 輝尽励起光源
25 光電変換装置
26 画像再生装置
27 画像表示装置
28 フィルタ
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線像変換パネル及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、放射線画像を得るために銀塩を使用した、いわゆる放射線写真法が利用されているが、銀塩を使用しないで放射線像を画像化する方法が開発されている。即ち、被写体を透過した放射線を蛍光体に吸収せしめ、しかる後この蛍光体をある種のエネルギーで励起してこの蛍光体が蓄積している放射線エネルギーを蛍光として放射せしめ、この蛍光を検出して画像化する方法が開示されている。
【0003】
具体的な方法としては、支持体上に輝尽性蛍光体層を儲けたパネルを用い、励起エネルギーとして可視光線及び赤外線の一方または両方を用いる放射線像変換方法(例えば、特許文献1参照。)が知られている。
【0004】
より高輝度(高感度)の輝尽性蛍光体を用いた放射線像変換方法として、BaFX:Eu2+系(X:Cl、Br、I)蛍光体を用いた放射線像変換方法(例えば、特許文献2参照。)、アルカリハライド蛍光体を用いた放射線像変換方法(例えば、特許文献3参照。)、共賦活剤としてTl+及びCe3+、Sm3+、Eu3+、Y3+、Ag+、Mg2+、Pb2+、In3+の金属を含有するアルカリハライド蛍光体(例えば、特許文献4及び5参照。)が開発されている。
【0005】
さらに近年、診断画像の解析においてより高鮮鋭性の放射線像変換パネルが要求されている。鮮鋭性改善のための手段として、例えば、形成される輝尽性蛍光体の形状そのものをコントロールし、感度及び鮮鋭性の改良を図る試みがなされている。
【0006】
これらの試みの1つとして、例えば、微細な凹凸パターンを有する支持体上に輝尽性蛍光体を堆積させ形成した微細な擬柱状ブロックからなる輝尽性蛍光体層を用いる方法(例えば、特許文献6参照。)がある。
【0007】
また、微細なパターンを有する支持体上に輝尽性蛍光体を堆積させて得た柱状ブロック間のクラックをショック処理を施してさらに発達させた輝尽性蛍光体層を有する放射線像変換パネル(例えば、特許文献7参照。)を用いる方法、さらには、支持体の面に形成された輝尽性蛍光体層にその表面側から亀裂を生じさせ擬柱状とした放射線像変換パネル(例えば、特許文献8参照。)を用いる方法、さらには、支持体の上面に蒸着により空洞を有する輝尽性蛍光体層を形成した後、加熱処理によって空洞を成長させ亀裂を設ける方法(例えば、特許文献9参照。)等も提案されている。
【0008】
さらに、気相堆積法によって支持体上に、支持体の法線方向に対し一定の傾きをもった細長い柱状結晶を形成した輝尽性蛍光体層を有する放射線像変換パネル(例えば、特許文献10参照。)が提案されている。
【0009】
最近ではCsBr等のハロゲン化アルカリを母体にEuを賦活した輝尽性蛍光体を用いた放射線像変換パネルが提案され、特にEuを賦活剤とすることで従来の蛍光体では得られていなかった高いX線変換効率を導き出すことが可能となった。
【0010】
しかしながら、Euは熱による拡散が顕著であり、真空下における蒸気圧も高いため離散する等により母体中のEuの存在を遍在させる問題があり、目的とした高いX線変換効率を得ることが難しいため市場での実用化に至っていない。
【0011】
特に高いX線変換効率が得られる希土類元素の賦活においては真空下における膜形成に関しては蒸気圧特性より均一化が難しい問題であった。また、製造法においてもこれらの気相成長(堆積)により形成した輝尽性蛍光体層では輝尽性蛍光体層を作製する際に原料加熱、真空蒸着時の基板(支持体)加熱、膜形成後のアニール(基板歪み緩和)処理により加熱処理を多く施されるために賦活剤の存在状態が不均一となる問題がある。
【0012】
また、輝尽性蛍光体は励起光により輝尽発光を行うが、この輝尽発光は励起光の照射終了後もいわゆる残光として、輝尽性蛍光体に固有の応答時間の間、発光を続ける。従って、輝尽性蛍光体パネルを励起光で走査し、励起光により励起された輝尽発光を光電的に順次読み取り、画素単位の画像情報を取得する際に、励起光が照射される走査点からの輝尽発光のみでなく、励起光の照射が終了した走査点からの残光成分も含めて、励起光が照射される走査点に位置する画素の画像情報として蓄積される。これにより、走査点ごとの画像情報の分離が完全になされず、コントラスト分解能の低下、あるいは、表示される画像情報の鮮鋭度の低下等が生じる。
【0013】
このため放射線像変換パネルとして市場から要求される輝度、鮮鋭性についてさらに改良が求められていた。
【特許文献1】米国特許第3,859,527号明細書
【特許文献2】特開昭59−75200号公報
【特許文献3】特開昭61−72087号公報
【特許文献4】特開昭61−73786号公報
【特許文献5】特開昭61−73787号公報
【特許文献6】特開昭61−142497号公報
【特許文献7】特開昭61−142500号公報
【特許文献8】特開昭62−39737号公報
【特許文献9】特開昭62−110200号公報
【特許文献10】特開平2−58000号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、輝度が高く、かつ残光性に優れた放射線像変換パネル及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の上記課題は、以下の構成により達成される。
【0016】
(請求項1)
支持体上に、X線を100R照射したとき、600〜700nmの透過率が照射前の70%以下となる輝尽性蛍光体層を有することを特徴とする放射線像変換パネル。
【0017】
(請求項2)
前記輝尽性蛍光体層が、下記一般式(1)で表されるハロゲン化アルカリを母体とする輝尽性蛍光体を含有することを特徴とする請求項1に記載の放射線像変換パネル。
【0018】
一般式(1)
M1X・aM2X′2・bM3X″3:eA
(式中、M1、M2は、それぞれLi、Na、K、Rb及びCsからなる群から選ばれる少なくとも一種のアルカリ金属を表し、M1、M2は、互いに異なるアルカリ金属を表し、M3は、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群から選ばれる少なくとも一種の三価金属を表し、X、X′及びX″はF、Cl、Br及びIからなる群から選ばれる少なくとも一種のハロゲンを表し、Aは、Eu、Tb、In、Cs、Ce、Tm、Dy、Pr、Ho、Nd、Yb、Er、Gd、Lu、Sm及びYからなる群から選ばれる少なくとも1種の希土類元素を表す。また、a、b、eは、それぞれ0≦a<0.5、0≦b<0.5、0<e≦0.2の数値を表す。)
(請求項3)
前記一般式(1)で表されるハロゲン化アルカリを母体とする輝尽性蛍光体が、下記一般式(2)で表される輝尽性蛍光体であることを特徴とする請求項2に記載の放射線像変換パネルの製造方法。
【0019】
一般式(2)
CsX:A
(式中、XはBrまたはIを表し、AはEu、In、GaまたはCeを表す。)
(請求項4)
請求項1〜3のいずれか1項に記載の放射線像変換パネルの輝尽性蛍光体層を、気相法(気相堆積法ともいう)により50μm〜20mmの膜厚となるように形成することを特徴とする放射線像変換パネルの製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、輝度が高く、かつ残光性に優れた放射線像変換パネル及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明者は鋭意研究の結果、支持体上に、X線を100R照射したとき、600〜700nmの透過率が照射前の70%以下となる輝尽性蛍光体層を有する放射線像変換パネルにより、輝度が高く、かつ残光性に優れた放射線像変換パネルが得られることを見出した。
【0022】
以下本発明を詳細に説明する。
【0023】
〔支持体〕
本発明の放射線像変換パネルに用いられる支持体としては、各種のガラス、高分子材料、炭素繊維強化樹脂(CFRP)、金属等が用いられる。例えば石英、ホウ珪酸ガラス、化学的強化ガラス等の板ガラス、セルロースアセテートフィルム、ポリエステルフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリアミドフィルム、ポリイミドフィルム、トリアセテートフィルム、ポリカーボネートフィルム等のプラスチックフィルム、発泡ポリイミドまたは発泡ポリアクリル樹脂の両側を炭素繊維強化樹脂で被覆した複合樹脂フィルム、アルミニウムシート、鉄シート、銅シート等の金属シートまたは該金属酸化物の被覆層を有する金属シートが挙げられる。中でもアルミニウムを主成分とする金属基板またはガラスが好ましい。これら支持体の表面は滑面であってもよいし、輝尽性蛍光体層との接着性を向上させる目的でマット面としてもよい。
【0024】
また、支持体と輝尽性蛍光体層の接着性を向上させるために、必要に応じて支持体の表面に予め接着層を設けてもよい。これら支持体の厚みは用いる支持体の材質等によって異なるが、一般的には80〜4000μmであり、取り扱い上の観点からさらに好ましいのは80〜1000μmである。
【0025】
また、支持体の分光吸収特性が、短波長側(370〜500nm)よりも長波長側(600〜700nm)の吸光度が、短波長側に対して1.1〜10.0倍であり、より好ましくは1.5〜5.0倍であることが好ましい。支持体の分光吸収特性を、上記のように設定するには、支持体作製時に色素を添加することにより達成することができる。
【0026】
支持体作製時に用いることのできる色素としては、例えば、特開昭47−30330号、同56−5552号公報記載のペリレン顔料、特開昭47−30331号公報等に記載のキナクリドン顔料、特開昭47−18543号公報記載のビスベンズイミダゾール顔料、特開昭47−18544号、同55−98754号、同55−126254号、同55−163543号公報に記載の芳香族多縮合環化合物、特公昭44−16373号、同48−30513号、特開昭56−321465号公報等に記載のアゾ顔料、特公昭50−7434号、特開昭47−37548号、同55−11715号、同56−1944号、同56−9752号、同56−2352号、同56−80050号公報等に記載のジスアゾ顔料、特公昭44−12671号、同40−2780号、同52−1667号、同46−30035号、同49−17535号、特開昭49−11136号、同49−99142号、同51−109841号、同57−148745号公報等に記載のフタロシアニン顔料等が挙げられ、これらは単独あるいは二種以上を併用して用いることができる。これらの化合物の中では、フタロシアニン化合物が、波長域の点から好ましい。また、本発明においては、顔料としては、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化ジルコニウム等が挙げられる。
【0027】
〔保護層〕
本発明の放射線像変換パネルは輝尽性蛍光体層の上に保護層を有していてもよい。
【0028】
保護層は、保護層用塗布液を輝尽性蛍光体層上に直接塗布して形成してもよいし、あらかじめ別途形成した保護層を輝尽性蛍光体層上に接着してもよい。あるいは別途形成した保護層上に輝尽性蛍光体層を形成する手順を取ってもよい。保護層の材料としては酢酸セルロース、ニトロセルロース、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマール、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリ塩化ビニリデン、ナイロン、ポリ四フッ化エチレン、ポリ三フッ化−塩化エチレン、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合体、塩化ビニリデン−塩化ビニル共重合体、塩化ビニリデン−アクリロニトリル共重合体等の通常の保護層用材料が用いられる。他に透明なガラス基板を保護層として用いることもできる。また、この保護層は蒸着法、スパッタリング法等により、SiC、SiO2、SiN、Al2O3等の無機物質を積層して形成してもよい。これらの保護層の層厚は一般的には0.1〜2000μm程度が好ましい。
【0029】
〔輝尽性蛍光体〕
次に、本発明に好ましく用いられる前記一般式(1)で表される輝尽性蛍光体について説明する。
【0030】
前記一般式(1)において、M1はLi、Na、K、Rb及びCs等の各原子から選ばれる少なくとも1種のアルカリ金属原子を表し、中でもRb及びCsの各原子から選ばれる少なくとも1種のアルカリ土類金属原子が好ましく、さらに好ましくはCs原子である。
【0031】
M2はBe、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Cd、Cu及びNi等の各原子から選ばれる少なくとも1種の二価の金属原子を表し、中でも好ましく用いられるのはBe、Mg、Ca、Sr及びBa等の各原子から選ばれる二価の金属原子である。
【0032】
M3はSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Al、Ga及びInの各原子から選ばれる少なくとも1種の三価の金属原子を表し、中でも好ましく用いられるのはY、Ce、Sm、Eu、Al、La、Gd、Lu、Ga及びInの各原子から選ばれる三価の金属原子である。
【0033】
AはEu、Tb、In、Ce、Tm、Dy、Pr、Ho、Nd、Yb、Er、Gd、Lu、Sm、Y、Tl、Na、Ag、Cu及びMgの各原子から選ばれる少なくとも1種の金属原子である。
【0034】
X、X′及びX″はF、Cl、Br及びIの各原子から選ばれる少なくとも1種のハロゲンで原子を表すが、蛍光体の輝尽発光輝度向上の観点から、F、Cl及びBrから選ばれる少なくとも1種のハロゲン原子が好ましく、Br及びIの各原子から選ばれる少なくとも1種のハロゲン原子がさらに好ましい。
【0035】
前記一般式(1)で表されるハロゲン化アルカリを母体とする輝尽性蛍光体は、下記一般式(2)で表される輝尽性蛍光体であることが好ましい。
【0036】
一般式(2)
CsX:A
(式中、XはBrまたはIを表し、Brが好ましい。AはEu、In、GaまたはCeを表し、Euが好ましい。)
前記一般式(1)で表される輝尽性蛍光体は、例えば以下に述べる製造方法により製造される。
【0037】
まず蛍光体原料として、以下の組成となるように炭酸塩に酸(HI、HBr、HCl、HF)を加え混合攪拌した後、中和点にて濾過を行い得られた後、ろ液の水分を蒸発気化させて以下の結晶を作製する。
【0038】
蛍光体原料としては、
(a)NaF、NaCl、NaBr、NaI、KF、KCl、KBr、KI、RbF、RbCl、RbBr、RbI、CsF、CsCl、CsBr及びCsIから選ばれる少なくとも1種の化合物が用いられる。
【0039】
(b)MgF2、MgCl2、MgBr2、MgI2、CaF2、CaCl2、CaBr2、CaI2、SrF2、SrCI2、SrBr2、SrI2、BaF2、BaCl2、BaBr2、BaBr2・2H2O、BaI2、ZnF2、ZnCl2、ZnBr2、ZnI2、CdF2、CdCl2、CdBr2、CdI2、CuF2、CuCl2、CuBr2、CuI、NiF2、NiCl2、NiBr2及びNiI2の化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物が用いられる。
【0040】
(c)前記一般式(1)において、Eu、Tb、In、Cs、Ce、Tm、Dy、Pr、Ho、Nd、Yb、Er、Gd、Lu、Sm、Y、Tl、Na、Ag、Cu及びMg等の各原子から選ばれる金属原子を有する化合物が用いられる。
【0041】
(d)賦活剤Aは、例えばEu、Tb、In、Ce、Tm、Dy、Pr、Ho、Nd、Yb、Er、Gd、Lu、Sm、Y、Tl、Na、Ag、Cu及びMgの各原子から選ばれる少なくとも1種の金属原子が用いられる。
【0042】
一般式(1)で表される化合物において、aは0≦a<0.5、好ましくは0≦a<0.01、bは0≦b<0.5、好ましくは0≦b≦10-2、eは0<e≦0.2、好ましくは0<e≦0.1である。
【0043】
上記の数値範囲の混合組成になるように前記(a)〜(d)の蛍光体原料を秤量し、純水にて溶解する。
【0044】
この際、乳鉢、ボールミル、ミキサーミル等を用いて充分に混合してもよい。
【0045】
次に、得られた水溶液のpH値を0〜7に調整するように所定の酸を加えた後、水分を蒸発、気化させる。
【0046】
次に、得られた原料混合物を石英ルツボあるいはアルミナルツボ等の耐熱性容器に充填して電気炉中で焼成を行う。焼成温度は500〜1000℃が好ましい。焼成時間は原料混合物の充填量、焼成温度等によって異なるが、0.5〜6時間が好ましい。
【0047】
焼成雰囲気としては少量の水素ガスを含む窒素ガス雰囲気、少量の一酸化炭素を含む炭酸ガス雰囲気等の弱還元性雰囲気、窒素ガス雰囲気、アルゴンガス雰囲気等の中性雰囲気あるいは少量の酸素ガスを含む弱酸化性雰囲気が好ましい。
【0048】
なお、前記の焼成条件で一度焼成した後、焼成物を電気炉から取り出して粉砕し、しかる後、焼成物粉末を再び耐熱性容器に充填して電気炉に入れ、前記と同じ焼成条件で再焼成を行えば蛍光体の発光輝度をさらに高めることができ、また、焼成物を焼成温度より室温に冷却する際、焼成物を電気炉から取り出して空気中で放冷することによっても所望の蛍光体を得ることができるが、焼成時と同じ、弱還元性雰囲気もしくは中性雰囲気のままで冷却してもよい。また、焼成物を電気炉内で加熱部より冷却部へ移動させて、弱還元性雰囲気、中性雰囲気もしくは弱酸化性雰囲気で急冷することにより、得られた蛍光体の輝尽による発光輝度をより一層高めることができる。
【0049】
〔輝尽性蛍光体層の形成〕
本発明の輝尽性蛍光体層は、X線を100R照射したとき、600〜700nmの全ての領域で透過率が照射前の70%以下となることが特徴である。透過率の低下は50%以下がより好ましい。本発明者の検討の結果、X線照射により輝尽性蛍光体層の透過率は400〜800nmの広い領域で低下するが、600〜700nmの範囲で透過率が照射前の70%以下に低下するとき、輝度及び残光性(コントラスト、鮮鋭性に影響する)、特に残光性が改良されることを見い出した。透過率低下と、輝度及び残光性との関係については詳細には解明していないが、600〜700nmは励起光の波長領域であることから、レーザー光による輝尽性蛍光体パネルの走査、読み取りに適した形でX線情報が輝尽性蛍光体層に記録されているのではないかと推測している。
【0050】
X線を100R照射したとき、600〜700nmの透過率が照射前の70%以下となる輝尽性蛍光体層を得るには、昇華精製して不純物を低減した輝尽性蛍光体または蛍光体前駆体を蒸着源に用いる方法、輝尽性蛍光体がCsBr粒子の場合は(2,0,0)面が主ピークとなるよう気相堆積条件を選ぶ方法、賦活剤量を調整する方法等がある。
【0051】
CsBr粒子用の市販の蒸着源には、通常NaBr、KBr、RbBr、MgBr2、CaBr2、BaBr2、SrBr2、EuBr2等のアルカリ金属のハロゲン化物、アルカリ土類金属のハロゲン化物、希土類元素のハロゲン化物または酸化物が含まれており、これらは1000ppm以下にすることが好ましい。これらの不純物は、蛍光体を純水に溶解し、得られた水溶液をICPにて測定することができる。
【0052】
(2,0,0)面比率は、蛍光体を粉末X線回折法にて測定し、得られた43°ピークを(2,0,0)面とし、最大ピークに対して5%以上のピーク強度のあるピークの総和強度を100%として(2,0,0)面ピークの比率を算出する。
【0053】
本発明の輝尽性蛍光体層は気相成長法によって形成することが好ましい。
【0054】
輝尽性蛍光体を気相堆積させる方法としては蒸着法、スパッタ法及びCVD法等がある。
【0055】
蒸着法は、支持体を気相堆積装置内に設置し、装置内を排気して一旦1.33×10-4Pa程度の真空とした後、調圧ガスを導入して気相堆積装置内の真空度を1.33×10-2〜1.33Pa程度の真空とし、次いで、輝尽性蛍光体の少なくとも1つを抵抗加熱法、エレクトロンビーム法等の方法で加熱蒸発させて支持体表面に輝尽性蛍光体層を所望の厚みに堆積させる。この結果、結着剤を含有しない輝尽性蛍光体層が形成される。
【0056】
スパッタ法は、前記蒸着法と同様に支持体をスパッタ装置内に設置した後、装置内を一旦排気して1.33×10-4Pa程度の真空度とし、次いでスパッタ用のガスとしてAr、Ne等の不活性ガスを装置内に導入して1.33×10-1Pa程度のガス圧とする。次に、前記輝尽性蛍光体をターゲットとして、スパッタリングすることにより支持体表面に輝尽性蛍光体層を所望の厚さに堆積させる。
【0057】
スパッタ法では、複数の輝尽性蛍光体原料をターゲットとして用い、これを同時または順次スパッタリングして、支持体上で目的とする輝尽性蛍光体層を形成するものであり、必要に応じてO2、H2等のガスを導入して反応性スパッタを行ってもよい。さらに、スパッタ法においては、スパッタ時必要に応じて被蒸着物を冷却または加熱してもよい。また、スパッタ終了後に輝尽性蛍光体層を加熱処理してもよい。
【0058】
CVD法は、目的とする輝尽性蛍光体または輝尽性蛍光体原料を含有する有機金属化合物を熱、高周波電力等のエネルギーで分解することにより、支持体上に結着剤を含有しない輝尽性蛍光体層を得るものであり、いずれも輝尽性蛍光体層を支持体の法線方向に対して特定の傾きをもって独立した細長い結晶に気相成長させることが可能である。
【0059】
本発明においては、これら気相堆積法により輝尽性蛍光体層を形成するが、複数回に分けて輝尽性蛍光体層を形成することもできる。
【0060】
本発明においては、気相堆積法として蒸着法が好ましく用いられる。以下、蒸着法による輝尽性蛍光体層の形成について詳しく説明する。なお、以下においては柱状結晶を成長させる場合について説明する。
【0061】
蒸着法によって輝尽性蛍光体層を形成する方法としては、気相堆積装置内の真空度を1.33×10-2〜1.33Paになるように調圧ガスを導入しながら、支持体上にある入射角で輝尽性蛍光体の蒸気または原料を供給し、結晶を気相成長(気相堆積法と呼ぶ)させる方法によって独立した細長い柱状結晶構造を有する輝尽性蛍光体層を得ることができる。
【0062】
真空度を1.33×10-2〜1.33Paになるようにする調圧ガスの流量は0.001〜1000sccm(standard cc/min、1×10-6m3/min)であることがこのましい。調圧ガスの流量が1000sccmを越えると、ガスの流れにより蒸気流が乱れ蛍光体の成長に悪影響を与える。また、調圧ガスの流量が0.001sccm未満では付着性低下が発生する。
【0063】
真空度の調整に用いる調圧ガスは窒素またはアルゴンが好ましい。
【0064】
輝尽性蛍光体または輝尽性蛍光体原料の蒸気流を支持体面に対しある入射角をつけて供給する方法には、支持体を蒸発源を仕込んだ坩堝に対し互いに傾斜させる配置を取る、または、支持体と坩堝を互いに平行に設置し、蒸発源を仕込んだ坩堝の蒸発面からスリット等により斜め成分のみ支持体上に蒸着させるよう規制する等の方法を採ることができる。これらの場合において、支持体と坩堝との最短部の間隔は輝尽性蛍光体の平均飛程に合わせて概ね10〜60cmに設置するのが好ましい。
【0065】
これらの柱状結晶からなる輝尽性蛍光体層において変調伝達関数(MTF)をよくするためには、柱状結晶の大きさ(柱状結晶を支持体と平行な面から観察したときの各柱状結晶の断面積の円換算した直径の平均値であり、少なくとも100個以上の柱状結晶を視野中に含む顕微鏡写真から計算する)は1〜50μm程度がよく、さらに好ましくは1〜30μmである。即ち、柱状結晶が1μmより細い場合は、柱状結晶により輝尽励起光が散乱されるためにMTFが低下するし、柱状結晶が50μmを越える場合も輝尽励起光の指向性が低下し、MTFは低下する。
【0066】
また各柱状結晶間の間隙の大きさは30μm以下がよく、さらに好ましくは5μm以下がよい。即ち、間隙が30μmを越える場合は蛍光体層中の蛍光体の充填率が低くなり、感度が低下してしまう。
【0067】
上記方法により形成した輝尽性蛍光体層の膜厚は、目的とする放射線画像変換パネルの放射線に対する感度、輝尽性蛍光体の種類等によって異なるが、50μm〜20mmが好ましく、100〜1000μmがより好ましい。
【0068】
また、上記気相堆積法を用いて輝尽性蛍光体層の作製時、蒸発源となる輝尽性蛍光体は、均一に溶解させるか、プレス、ホットプレスによって成形して坩堝に仕込まれる。この際、脱ガス処理を行うことが好ましい。蒸発源から輝尽性蛍光体を蒸発させる方法は電子銃により発した電子ビームの走査により行われるが、これ以外の方法で蒸発させることもできる。
【0069】
また、蒸発源は必ずしも輝尽性蛍光体である必要はなく、輝尽性蛍光体原料を混和したものであってもよい。
【0070】
また、賦活剤は母体(basic substance)に対して賦活剤(actibator)を混合したものを蒸着してもよいし、母体のみを蒸着した後に賦活剤をドープしてもよい。例えば、母体であるRbBrのみを蒸着した後、例えば賦活剤であるTlをドープしてもよい。即ち、結晶が独立しているため、膜が厚くとも充分にドープ可能であるし、結晶成長が起こりにくいので、MTFは低下しないからである。ドーピングは形成された蛍光体の母体層中にドーピング剤(賦活剤)を熱拡散、イオン注入法によって行うことができる。
【0071】
また、柱状結晶間の間隙に結着剤等充填物を充填してもよく、輝尽性蛍光体層の補強となる。また高光吸収率の物質、高光反射率の物質等を充填してもよい。これにより前記補強効果をもたせるほか、輝尽性蛍光体層に入射した輝尽励起光の横方向への光拡散をほぼ完全に防止できる。
【0072】
高光反射率の物質とは、輝尽励起光(500〜900nm、特に600〜800nm)に対する反射率の高いものをいい、例えばアルミニウム、マグネシウム、銀、インジウムその他の金属等、白色顔料及び緑色から赤色領域の色材を用いることができる。
【0073】
白色顔料は輝尽発光も反射することができる。白色顔料として、TiO2(アナターゼ型、ルチル型)、MgO、PbCO3・Pb(OH)2、BaSO4、Al2O3、M(II)FX(但し、M(II)はBa、Sr及びCaの中の少なくとも1種であり、XはCl、及びBrのうちの少なくとも1種である。)、CaCO3、ZnO、Sb2O3、SiO2、ZrO2、リトポン(BaSO4・ZnS)、珪酸マグネシウム、塩基性珪硫酸鉛、塩基性燐酸鉛、珪酸アルミニウム等が挙げられる。これらの白色顔料は隠蔽力が強く、屈折率が大きいため、光を反射したり、屈折させることにより輝尽発光を容易に散乱し、得られる放射線画像変換パネルの感度を顕著に向上させ得る。
【0074】
また、高光吸収率の物質としては、例えば、カーボン、酸化クロム、酸化ニッケル、酸化鉄等及び青の色材が用いられる。このうちカーボンは輝尽発光も吸収する。
【0075】
また、色材は、有機または無機系色材のいずれでもよい。有機系色材としては、ザボンファーストブルー3G(ヘキスト製)、エストロールブリルブルーN−3RL(住友化学製)、D&CブルーNo.1(ナショナルアニリン製)、スピリットブルー(保土谷化学製)、オイルブルーNo.603(オリエント製)、キトンブルーA(チバガイギー製)、アイゼンカチロンブルーGLH(保土ヶ谷化学製)、レイクブルーAFH(協和産業製)、プリモシアニン6GX(稲畑産業製)、ブリルアシッドグリーン6BH(保土谷化学製)、シアンブルーBNRCS(東洋インク製)、ライオノイルブルーSL(東洋インク製)等が用いられる。またカラーインデクスNo.24411、23160、74180、74200、22800、23154、23155、24401、14830、15050、15760、15707、17941、74220、13425、13361、13420、11836、74140、74380、74350、74460等の有機系金属錯塩色材も挙げられる。無機系色材としては群青、コバルトブルー、セルリアンブルー、酸化クロム、TiO2−ZnO−Co−NiO系顔料が挙げられる。
【0076】
図1は、本発明の放射線像変換パネルの構成の一例を示す概略図である。
【0077】
図1において21は放射線発生装置、22は被写体、23は輝尽性蛍光体を含有する輝尽性蛍光体層を有する放射線像変換パネル、24は放射線像変換パネル23の放射線潜像を輝尽発光として放出させるための輝尽励起光源、25は放射線像変換パネル23より放出された輝尽発光を検出する光電変換装置、26は光電変換装置25で検出された光電変換信号を画像として再生する画像再生装置、27は再生された画像を表示する画像表示装置、28は輝尽励起光源24からの反射光をカットし、放射線像変換パネル23より放出された光のみを透過させるためのフィルタである。
【0078】
なお、図1は被写体の放射線透過像を得る場合の例であるが、被写体22自体が放射線を放射する場合には、前記放射線発生装置21は特に必要ない。
【0079】
また、光電変換装置25以降は放射線像変換パネル23からの光情報を何らかの形で画像として再生できるものであればよく、前記に限定されない。
【0080】
図1に示されるように、被写体22を放射線発生装置21と放射線像変換パネル23の間に配置し放射線Rを照射すると、放射線Rは被写体22の各部の放射線透過率の変化に従って透過し、その透過像RI(即ち、放射線の強弱の像)が放射線像変換パネル23に入射する。
【0081】
この入射した透過像RIは放射線像変換パネル23の輝尽性蛍光体層に吸収され、これによって輝尽性蛍光体層中に吸収された放射線量に比例した数の電子及び/または正孔が発生し、これが輝尽性蛍光体のトラップレベルに蓄積される。
【0082】
即ち、放射線透過像のエネルギーを蓄積した潜像が形成される。次にこの潜像を光エネルギーで励起して顕在化する。
【0083】
また、輝尽励起光源24によって輝尽性蛍光体層に照射してトラップレベルに蓄積された電子及び/または正孔を追い出し、蓄積されたエネルギーを輝尽発光として放出させる。
【0084】
この放出された輝尽発光の強弱は蓄積された電子及び/または正孔の数、すなわち放射線像変換パネル23の輝尽性蛍光体層に吸収された放射線エネルギーの強弱に比例しており、この光信号を、例えば、光電子増倍管等の光電変換装置25で電気信号に変換し、画像再生装置26によって画像として再生し、画像表示装置27によってこの画像を表示する。
【0085】
画像再生装置26は単に電気信号を画像信号として再生するのみでなく、いわゆる画像処理や画像の演算、画像の記憶、保存等ができるものを使用するとより有効である。
【0086】
また、光エネルギーで励起する際、輝尽励起光の反射光と輝尽性蛍光体層から放出される輝尽発光とを分離する必要があることと、輝尽性蛍光体層から放出される発光を受光する光電変換器は一般に600nm以下の短波長の光エネルギーに対して感度が高くなるという理由から、輝尽性蛍光体層から放射される輝尽発光はできるだけ短波長領域にスペクトル分布を持ったものが望ましい。
【0087】
本発明に用いられる輝尽性蛍光体の発光波長域は300〜500nmであり、一方輝尽励起波長域は500〜900nmであるので前記の条件を同時に満たすが、最近、診断装置のダウンサイジング化が進み、放射線像変換パネルの画像読み取りに用いられる励起波長は高出力で、かつ、コンパクト化が容易な半導体レーザが好まれ、そのレーザ光の波長は680nmであることが好ましく、本発明の放射線像変換パネルに組み込まれた輝尽性蛍光体は、680nmの励起波長を用いた時に、極めて良好な鮮鋭性を示すものである。
【0088】
即ち、本発明の輝尽性蛍光体はいずれも500nm以下に主ピークを有する発光を示し、輝尽励起光の分離が容易でしかも受光器の分光感度とよく一致するため、効率よく受光できる結果、受像系の感度を高めることができる。
【0089】
輝尽励起光源24としては、放射線像変換パネル23に使用される輝尽性蛍光体の輝尽励起波長を含む光源が使用される。特にレーザ光を用いると光学系が簡単になり、また輝尽励起光強度を大きくすることができるために輝尽発光効率を挙げることができ、より好ましい結果が得られる。
【0090】
レーザとしては、例えば、He−Neレーザ、He−Cdレーザ、Arイオンレーザ、Krイオンレーザ、N2レーザ、YAGレーザ及びその第2高調波、ルビーレーザ、半導体レーザ、各種の色素レーザ、銅蒸気レーザ等の金属蒸気レーザ等がある。通常はHe−NeレーザやArイオンレーザのような連続発振のレーザが望ましいが、パネル1画素の走査時間とパルスを同期させればパルス発振のレーザを用いることもできる。
【0091】
また、フィルタ28を用いずに特開昭59−22046号に示されるような、発光の遅延を利用して分離する方法によるときは、連続発振レーザを用いて変調するよりもパルス発振のレーザを用いる方が好ましい。
【0092】
上記の各種レーザ光源の中でも、半導体レーザは小型で安価であり、しかも変調器が不要であるので特に好ましく用いられる。
【0093】
フィルタ28としては放射線像変換パネル23から放射される輝尽発光を透過し、輝尽励起光をカットするものであるから、これは放射線像変換パネル23に含有する輝尽性蛍光体の輝尽発光波長と輝尽励起光源24の波長の組合わせによって決定される。
【0094】
例えば、輝尽励起波長が500〜900nmで輝尽発光波長が300〜500nmにあるような実用上好ましい組合わせの場合、フィルタとしては例えば東芝社製C−39、C−40、V−40、V−42、V−44、コーニング社製7−54、7−59、スペクトロフィルム社製BG−1、BG−3、BG−25、BG−37、BG−38等の紫〜青色ガラスフィルタを用いることができる。また、干渉フィルタを用いると、ある程度、任意の特性のフィルタを選択して使用できる。光電変換装置25としては、光電管、光電子倍増管、フォトダイオード、フォトトランジスタ、太陽電池、光導電素子等光量の変化を電子信号の変化に変換し得るものなら何れでもよい。
【実施例】
【0095】
以下、本発明を実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明の実施態様はこれらに限定されない。
【0096】
実施例
〔放射線像変換パネルの作製〕
(蛍光体層の形成)
1mm厚の結晶化ガラス(日本電気ガラス社製)支持体の表面に図2で示した蒸着装置(但し、θ1=5度、θ2=5度に設定する)を用いて輝尽性蛍光体(CsBr:Eu)を有する輝尽性蛍光体層を形成した。
【0097】
図2に示した蒸着装置においては、アルミニウム製のスリットを用い、支持体とスリットとの距離dを60cmとして、支持体と平行な方向に支持体を搬送しながら蒸着を行ない、輝尽性蛍光体層の厚みが300μmになるように調整した。
【0098】
〈輝尽性蛍光体〉
CsBr、1molに対し、Eu量が5×10-4〜5×10-3molとなるようにCsCO3、HBr及びEu2O3を水に加えて溶解し、Eu量が異なる5種類の水溶液を作製した。90〜110℃にて該水溶液を濃縮して飽和溶液とし、水溶液液相(水相)を作製した。
【0099】
該水溶液液相上にEDTAの液膜形成層を形成し、その上にイソプロピルアルコールを有する有機相を順次形成させた水溶液液相をホモジナイザーで3,000rpmにて攪拌し、CsBr粒子が析出し、平均粒径5μmのCsBr:Eu蛍光体前駆体を得た。水相と有機相の比率は1:1であった。
【0100】
この輝尽性蛍光体前駆体をArガス雰囲気下で700℃にて昇華し、バイパスを経由して冷却ゾーンにて補足し、蒸着源となる輝尽性蛍光体を得た。
【0101】
なお、蒸着にあたっては、支持体を蒸着器内に設置し、次いで、上記輝尽性蛍光体を蒸着源としてプレス成形し水冷したルツボに入れた。
【0102】
その後、蒸着器内を一旦排気した後、再度N2ガスを導入し0.133Paに真空度を調整した後、支持体の温度を約150℃に保持しながら蒸着した。輝尽性蛍光体層の膜厚が300μmとなったところで蒸着を終了させ、次いで、この蛍光体層を100℃で加熱処理した。
【0103】
得られた結晶化ガラス支持体上には、幅約2.5μm、長さ約150μmの柱状結晶の蛍光体が垂直方向に密に林立した構造の蛍光体層(空隙率:2%)が形成されていた。
【0104】
(保護層の形成)
2液反応型のウレタン系接着剤を用い、膜厚12μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを蛍光体層に貼り付けて保護層とし、放射線像変換パネル1〜5を作製した。
【0105】
〔放射線像変換パネルの測定と評価〕
以上のようにして作製した各放射線像変換パネルについて、以下に示す方法に従って、X線照射後の600〜700nmの透過率低下、輝度及び残光性の評価を行った。透過率低下を図3に、輝度及び残光性の評価結果を表1に示す。
【0106】
(透過率低下)
X線を100R照射する前後の放射線像変換パネルの600〜700nmの透過率を測定し、X線照射後の透過率/X線照射後の透過率×100(%)を算出した。
【0107】
(輝度)
輝度の測定は、放射線像変換パネルに管電圧80kVpのX線を照射した後、放射線像変換パネルをHe−Neレーザー光(633nm)で走査して励起し、輝尽性蛍光体層から放射される輝尽発光を受光器(分光感度S−5の光電子像倍管)で受光して、その強度を測定して、これを感度と定義し、放射線像変換パネル1の感度を100とする相対値で示す。
【0108】
(残光性)
残光性の測定は、放射線像変換パネルに管電圧80kVpのX線を照射した後、放射線像変換パネルをHe−Neレーザー光(633nm)で走査して励起し、輝尽性蛍光体層の走査点から放射される輝尽発光と、この走査点から主走査方向に13mm(150画素)離れ、励起光の走査が終了した部分からの残光成分を受光器(分光感度S−5の光電子像倍管)で受光して、その強度比(残光成分/輝尽発光)を残光性と定義した。
【0109】
【表1】
【0110】
表1から明らかなように、本発明の放射線像変換パネルは、比較品に対し、輝度及び残光性に優れていることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】本発明の放射線像変換パネルの構成の一例を示す概略図である。
【図2】蒸着により支持体上に輝尽性蛍光体層を作製する方法の一例を示す概略図である。
【図3】X線照射後の放射線像変換パネルの透過率低下を示す図である。
【符号の説明】
【0112】
11 支持体
12 輝尽性蛍光体層
13 柱状結晶
14 柱状結晶間に形成された間隙
15 支持体ホルダ
21 放射線発生装置
22 被写体
23 放射線像変換パネル
24 輝尽励起光源
25 光電変換装置
26 画像再生装置
27 画像表示装置
28 フィルタ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上に、X線を100R照射したとき、600〜700nmの透過率が照射前の70%以下となる輝尽性蛍光体層を有することを特徴とする放射線像変換パネル。
【請求項2】
前記輝尽性蛍光体層が、下記一般式(1)で表されるハロゲン化アルカリを母体とする輝尽性蛍光体を含有することを特徴とする請求項1に記載の放射線像変換パネル。
一般式(1)
M1X・aM2X′2・bM3X″3:eA
(式中、M1、M2は、それぞれLi、Na、K、Rb及びCsからなる群から選ばれる少なくとも一種のアルカリ金属を表し、M1、M2は、互いに異なるアルカリ金属を表し、M3は、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群から選ばれる少なくとも一種の三価金属を表し、X、X′及びX″はF、Cl、Br及びIからなる群から選ばれる少なくとも一種のハロゲンを表し、Aは、Eu、Tb、In、Cs、Ce、Tm、Dy、Pr、Ho、Nd、Yb、Er、Gd、Lu、Sm及びYからなる群から選ばれる少なくとも1種の希土類元素を表す。また、a、b、eは、それぞれ0≦a<0.5、0≦b<0.5、0<e≦0.2の数値を表す。)
【請求項3】
前記一般式(1)で表されるハロゲン化アルカリを母体とする輝尽性蛍光体が、下記一般式(2)で表される輝尽性蛍光体であることを特徴とする請求項2に記載の放射線像変換パネルの製造方法。
一般式(2)
CsX:A
(式中、XはBrまたはIを表し、AはEu、In、GaまたはCeを表す。)
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の放射線像変換パネルの輝尽性蛍光体層を、気相法(気相堆積法ともいう)により50μm〜20mmの膜厚となるように形成することを特徴とする放射線像変換パネルの製造方法。
【請求項1】
支持体上に、X線を100R照射したとき、600〜700nmの透過率が照射前の70%以下となる輝尽性蛍光体層を有することを特徴とする放射線像変換パネル。
【請求項2】
前記輝尽性蛍光体層が、下記一般式(1)で表されるハロゲン化アルカリを母体とする輝尽性蛍光体を含有することを特徴とする請求項1に記載の放射線像変換パネル。
一般式(1)
M1X・aM2X′2・bM3X″3:eA
(式中、M1、M2は、それぞれLi、Na、K、Rb及びCsからなる群から選ばれる少なくとも一種のアルカリ金属を表し、M1、M2は、互いに異なるアルカリ金属を表し、M3は、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群から選ばれる少なくとも一種の三価金属を表し、X、X′及びX″はF、Cl、Br及びIからなる群から選ばれる少なくとも一種のハロゲンを表し、Aは、Eu、Tb、In、Cs、Ce、Tm、Dy、Pr、Ho、Nd、Yb、Er、Gd、Lu、Sm及びYからなる群から選ばれる少なくとも1種の希土類元素を表す。また、a、b、eは、それぞれ0≦a<0.5、0≦b<0.5、0<e≦0.2の数値を表す。)
【請求項3】
前記一般式(1)で表されるハロゲン化アルカリを母体とする輝尽性蛍光体が、下記一般式(2)で表される輝尽性蛍光体であることを特徴とする請求項2に記載の放射線像変換パネルの製造方法。
一般式(2)
CsX:A
(式中、XはBrまたはIを表し、AはEu、In、GaまたはCeを表す。)
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の放射線像変換パネルの輝尽性蛍光体層を、気相法(気相堆積法ともいう)により50μm〜20mmの膜厚となるように形成することを特徴とする放射線像変換パネルの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図2】
【図3】
【公開番号】特開2006−64382(P2006−64382A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−243549(P2004−243549)
【出願日】平成16年8月24日(2004.8.24)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年8月24日(2004.8.24)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】
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