説明

放射線像変換パネル

【課題】小型の放射線画像情報記録読取装置に適用するに好適な、消去光量が少ないIP(放射線画像変換パネル)を提供することにある。
より具体的には、少ない消去光量で短時間に、かつ、低コストで消去することができるIPを提供することにある。
【解決手段】気相堆積法により形成された蛍光体層を有する放射線像変換パネルであって、前記蛍光体層が柱状結晶構造を有し、かつ、この柱状結晶構造の占める前記蛍光体層中の相対密度が60〜70%の範囲にあることを特徴とする放射線像変換パネル。
前記蛍光体層はアルカリ金属ハロゲン化物系輝尽性蛍光体、より好ましくはセシウムハライド系輝尽性蛍光体からなることが望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療診断システム等に用いられる放射線像変換パネルに関し、より具体的には、蓄積された放射線像を読み出した後における残留エネルギーの消去性能に優れた放射線像変換パネルに関する。
【背景技術】
【0002】
放射線像変換パネルを用いる医療診断システムでは、輝尽性蛍光体を利用して、人体等の被写体の放射線画像情報を一旦記録し、この放射線画像情報を写真フィルム等の写真感光材料等に再生し、あるいは各種の表示手段に可視像として出力する。
【0003】
医療診断システム輝尽性蛍光体とは、放射線(X線,アルファ線,ガンマ線,電子線,紫外線等)の照射により、この放射線エネルギーの一部を蓄積し、後に可視光等の励起光を照射することによって、蓄積されたエネルギーに応じた輝尽発光を示す蛍光体である。この輝尽性蛍光体は、取り扱いの容易性等から、通常、これを支持体上に積層したパネル状の形態(すなわち、放射線像変換パネルの形)で使用され、このパネルはイメージング・プレート(Imaging Plate、以下、IPともいう)と呼ばれる。
【0004】
このようなIPを用いる放射線画像情報記録読取装置(以下、単に装置ともいう)では、例えば、IPに被写体の放射線画像情報を一旦記録する撮影部と、前記放射線画像情報が記録された前記IPに励起光を照射して、前記放射線画像情報を光電的に読み取る読取部と、読み取り後に前記IPに残存する放射線画像情報を消去する消去部とが一体的に組み込まれる。
【0005】
この際、前記IPをカセッテに収納して使用するいわゆるカセッテ方式を採用する場合と、IPを当該装置内で継続的に使用するいわゆるビルトイン方式を採用する場合とがある。これをIP側から見ると、前者のカセッテ方式を採用した場合には、多数枚のIPが順番に使用されるのに対して、後者のビルトイン方式を採用した場合には、少数枚(1枚ないし2枚の場合が多い)が頻繁に使用されるという点で大きな差異がある。
【0006】
例えば、特許文献1にはビルトイン方式の装置の要部が示されているが、その図2,図3に示されているのはIPを2枚使用するタイプ、図4に示されているのはIPを1枚だけ使用するタイプである。なお、ここでは、両タイプの装置とも、表面読み取り、すなわち放射線の入射面からの情報読み取りを行うことを前提とした装置となっている。
【0007】
また、特許文献2には、前述の輝尽性蛍光体並びにそれを各種支持体に塗布して作成した放射線画像変換パネル(本明細書におけるIP)、さらにこのパネルを用いる放射線画像撮影方法が詳細に開示されている。なお、ここで装置の構成については特に規定されていない。
【0008】
【特許文献1】特開2000−122194号公報
【特許文献2】特開2002−285148号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、前述のビルトイン方式の装置を小型でメンテナンスが容易で、使い勝手のよいものにしようとした場合に考慮すべき点は、以下の通りである。
【0010】
究極的な小型化を行うためには、IPの使用枚数を1枚とするのが好ましいという点である。このように構成する場合には、いうまでもなく、1枚のIPに放射線画像を撮影(記録)し、記録された放射線画像の情報を読み取り、読み取り後の放射線画像の情報を消去して、IPを再使用するというサイクルを繰り返すという構成になる。
【0011】
この場合に必要となるのは、IPの繰り返し使用適性とでもいうべき特性である。これは、IPに用いられる輝尽性蛍光体の特性に他ならない。すなわち、装置を小型化するためにIPを1枚使用するように構成した場合には、このIPを所定期間連続的に繰り返し使用するわけであるから、それに耐え得る特性を有するIPを選定して用いる必要があるということである。
【0012】
ここで考慮すべきIPの特性としては、読み取りの終了したIPの放射線画像情報の消去に要する時間が短い(以下、これを「消去特性がよい」という)ことである。これは、前述のような、1枚のIPを用いての撮影・読取・消去というサイクルを短時間で繰り返す使用方法が適用される場合に、サイクルタイムを短縮するために重要なことである。
【0013】
本出願人は、先に特願2004−81010号「放射線画像情報記録読取装置」により上述の消去特性がよい輝尽性蛍光体を用いたIP、並びに並びにこれを用いる放射線画像情報記録読取装置を提案している。
上記IPに用いた輝尽性蛍光体(実施例に示されるもの)は、BaFBr0.850.15:Euなる組成を有するものであり、一般的な他の2種の輝尽性蛍光体(BaFI:Eu,CsBr:Eu)と比較すると、消去光量並びに残像消去光量等の特性において、優れた特性を示すものである。
【0014】
本発明の目的は、前述のような、小型の放射線画像情報記録読取装置に適用するに好適な、消去光量が少ないIP(放射線画像変換パネル)を提供することにある。
より具体的には、少ない消去光量で短時間に、かつ、低コストで消去することができる(すなわち、消去特性がよい)IPを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、本発明に係る放射線画像変換パネルは、気相堆積法により形成された蛍光体層を有する放射線像変換パネルであって、前記蛍光体層が柱状結晶構造を有し、かつ、この柱状結晶構造の占める前記蛍光体層中の相対密度が50〜65%の範囲にあることを特徴とする。
【0016】
本発明において、相対密度(%)とは、蛍光体固有の密度に対する蛍光体層の密度の相対値を意味する。
具体的には、蛍光体層の占める体積(空隙を含む)に蛍光体固有の密度を乗じた重さをM1(g)、蛍光体層の実際の重さをM2(g)(実際に削り取る等して測定できる)としたとき、M2/M1×100として求められる。
【0017】
ここで、本発明に係る放射線画像変換パネルにおいては、前記蛍光体層が、アルカリ金属ハロゲン化物系輝尽性蛍光体からなることが好ましく、また、前記アルカリ金属ハロゲン化物系輝尽性蛍光体がセシウムハライド系輝尽性蛍光体であることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、小型の放射線画像情報記録読取装置に適用するに好適な、繰り返し使用適性の優れたIPを実現できるという顕著な効果を奏する。
すなわち、本発明に係るIP(放射線画像変換パネル)は消去特性に優れているため、撮影・読取の終了したIP中に存在するエネルギーを、少ない消去光量で短時間に、かつ、低コストで消去することができるという優れた効果を得られるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面に示す好適実施形態に基づいて、本発明を詳細に説明する。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態に係る、輝尽性蛍光体としてCsBr:Euを用いたIP10の構成を示す模式図である。図において、12は基板、14は蒸着型の蛍光体層、16は保護層、18は縁(枠)を示している。
【0021】
また、図1中の円Aで示したのは、蛍光体層14の拡大図であり、図に示すように、蛍光体層14は、多数の柱状結晶14aの集合体として構成されている。この柱状結晶14aは略円柱状をしており、その大きさ(円柱の直径)は数μm〜十数μm程度である。また、図1中の円A内に示すように、上記柱状結晶14aの頂部の形状は、中央部が凸状をなす場合が多い。
【0022】
上記柱状結晶14aは、蒸着条件を調整することにより、蛍光体層14中に間隙を有して成長させることができるものであり、この間隙を考慮した蛍光体層の相対密度を調整することにより、蛍光体層14の諸特性を制御することが可能である。
【0023】
例えば、図2に示す例では、相対密度50%〜90%の範囲における、蛍光体層14の特性(相対感度および消去光量)をグラフ化している。
【0024】
図2に示すように、相対感度については、相対密度が低下すると、それに伴って低下する傾向が見られるが、これはX線を吸収する蛍光体の総量が減少するためと考えられる。また、消去光量についても、相対密度が低下すると、それに伴って低下する傾向が見られるが、これは、上記柱状結晶14a間の間隙が消去光の利用効率を向上させる効果を有するためと考えられる。
【0025】
ところで、図2には、相対密度の変化に対応する蛍光体層の消去光量が示されているが、この値は相対密度の異なる各蛍光体層について、当該蛍光体層の残光(消去作業後の輝尽発光量)が、X線照射後消去光を当てることなく励起したときの輝尽発光量(初期値)と比べて2.0×10−4倍になるまで消去するのに必要となる消去光量を示しており、この値は小さい方が好ましいものである。
【0026】
なお、この消去光量の測定方法においては、まず、消去値を求める過程が必要となるが、合わせて以下に説明する。
【0027】
消去値の測定の第1ステップは、初期値の測定である。このステップは、サンプルにW(タングステン)ターゲット80kvpのX線を1mR照射する。次に、波長660nmの半導体レーザで二次励起光を4.3J/m照射し、PSL発光を光学フィルターを透過させて光電子増倍管で受光し、その発光量Iを得る(なお、実際の測定において、この第1ステップと次の第2ステップで同一のIPを用いる場合には、次の第2ステップの前に、十分な光量で消去を行っておくことはいうまでもない)。
【0028】
第2ステップとして、サンプルにWターゲット80kvpのX線を1000mR照射し、さらに蛍光灯で所定の消去光量(これを、L(lux*sec)とする)を照射する。次いで、波長660nmの半導体レーザで二次励起光を4.3J/m照射し、PSL発光を光学フィルターを透過させて光電子増倍管で受光し、その発光量Iを得る。
上述の2つのステップで得られた結果から、上記消去光量L(lux*sec)で消去したときの消去値は、I/I/1000となる。
【0029】
次に、上述の方法で消去光量L(lux*sec)を少しずつ変化させて消去値を求め、その結果(グラフ曲線)から逆に、必要とする消去値になる消去光量Lを算出する。相対密度の異なる各蛍光体層の最終的な評価に際しては、上で求めた消去光量が少ない方がよいことになる。なお、これは、一定光量で消去したときの消去値の大小で評価するようにしても同様である。
【0030】
図2に戻って説明を続ける。
前述のように、蛍光体層の相対密度が図2に示す範囲(つまり、60%〜90%)で異なる場合を考えると、相対感度については、相対密度が70%以下では、理想的な値の約50%程度にまで低下することが認められる。
【0031】
一方、消去光量については、相対密度が80%以下で好ましい状態、つまり消去光量を低く抑えられる利点がある。これは、相対密度が低い状態では、上述の柱状結晶14a間の間隙に消去光が進入して行き、膜表面からだけでなく柱の側面からも消去が行われるためと考えられる。
【0032】
これらの点から、先に述べた本発明に係るIPのように、気相堆積法により形成された蛍光体層を有する放射線像変換パネルにおいて、前記蛍光体層が柱状結晶構造を有し、かつ、この柱状結晶構造の占める前記蛍光体層中の相対密度が60〜70%の範囲となるように調整することは大きな意味がある。
【0033】
以下に、具体的実施例並びに比較例を示す。
【0034】
ここでは、1mm厚アルミ基板を用い、真空蒸着装置内でArガス圧を変更して、相対密度の異なる蛍光体層を形成した。
まず、上記基板を真空蒸着装置内の基板ホルダにセットした。CsBr蒸発源およびEuBr2蒸発源を装置内の抵抗加熱用ルツボに充填した。基板と各蒸発源との距離は150mmとした。
【0035】
次に、メイン排気バルブを開いてチャンバー内を排気して、真空度を1×10−3Paにした。その後、排気をメイン排気バルブからバイパス排気バルブに切り換えて、チャンバー内にArガスを導入し、真空度を0.8Paにした。そして、プラズマ発生装置(イオン銃)によりプラズマを発生させ、基板表面の洗浄を行った。
【0036】
その後、排気をメイン排気バルブに切り換えて1×10−3Paの真空度まで排気し、また、再度、排気をバイパス排気バルブに切り換え、Arガスを導入して、0.7〜1.5Paの真空度(Arガス圧)とした。このように、Arガス圧を0.7〜1.5Paの範囲で振り成膜を行うことで、相対密度の異なる蛍光体層が得られる(表1参照)。
【0037】
【表1】

【0038】
〔実施例1〕
上述のArガス圧を1.5Paとして、相対密度50%の蛍光体層の形成を目的として成膜を行った。
すなわち、基板と各蒸発源との間に設けられたシャッターを閉じた状態で、蒸発源それぞれを抵抗加熱器で加熱・溶融した後、まず、CsBr蒸発源側のシャッターだけを開き、基板表面にCsBr蛍光体母体を堆積させて下地層を形成した。その3分後に、EuBr2蒸発源側のシャッターも開き、上述の下地層上にCsBr:Eu輝尽性蛍光体を堆積させた。
【0039】
また、各加熱器の抵抗電流を調整して、輝尽性蛍光体におけるEu/Csモル濃度比が0.003/1となるように制御した。蒸着終了後、装置内を大気圧に戻し、装置から基板を取り出した。
基板の下地層上には、蛍光体の柱状結晶がほぼ垂直方向に密に林立した構造の蓄積性蛍光体層(層厚:500μm、面積:10cm×10cm)が形成されていた。この蓄積性蛍光体層の相対密度はほぼ50%であった。
【0040】
〔実施例2,3〕
上述のArガス圧を1.25Paおよび1.2Paとして、それぞれ、相対密度60%および65%の蛍光体層の形成を目的として成膜を行った。
Arガス圧以外の条件は、実施例1と同じとした。
形成された蓄積性蛍光体層の相対密度は、ほぼ60%および65%であった。
【0041】
〔比較例1,2〕
上述のArガス圧を1Paおよび0.7Paとして、それぞれ、相対密度80%および90%の蛍光体層の形成を目的として成膜を行った。
Arガス圧以外の条件は、実施例1と同じとした。
形成された蓄積性蛍光体層の相対密度は、ほぼ80%および90%であった。
【0042】
上述のようにして、平均柱径8μmの柱状結晶からなり、相対密度が50〜65%の蛍光体膜を作製し、この膜を用いて、前述の測定方法に基づいて相対感度および消去値を測定した。また、比較例として、同様にして相対密度が80,90%の蛍光体膜を作製し、同様に相対感度および消去値を測定した。
【0043】
表2に、測定結果を示す。
【表2】

【0044】
表2中、相対感度50%の「実施例1」は、相対感度が若干低いものの、消去光量を極めて低い水準に抑えられる点で、好ましいものである。また、相対密度60%の「実施例2」,相対密度65%の「実施例3」は、消去光量が相対感度50%の場合に比べて若干増加するものの、十分実用可能範囲であり、相対感度の向上と合わせて、実用可能範囲と判断された。
【0045】
これに対して、相対感度80%の「比較例1」は、相対感度は相対密度65%の「実施例3」よりさらに上昇するものの、消去光量がかなり増加するという点で、必ずしも好ましいものではなく、また、相対密度90%の「比較例2」は、消去光量が大幅に増加するため、実用可能範囲には程遠い。
【0046】
これらの結果から、好ましい相対密度の範囲は、相対感度を確保する意味で下限が50%と決められ、また、消去光量を低く抑える意味で上限が65%と決められる。
【0047】
以上説明したように、本発明によれば、消去特性に優れており、撮影・読取の終了したIP中に存在するエネルギーを、少ない消去光量で短時間に、かつ、低コストで消去することができるIPを提供できるという優れた効果が得られる。
【0048】
なお、上記実施形態は、本発明の一例を示したものであり、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、種々の変更や改良を行ってもよいことはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の一実施形態の構成概略図である。
【図2】一実施例に係る蛍光体層の特性(相対密度と相対感度および消去光量の関係)を示すグラフである。
【符号の説明】
【0050】
10 IP
12 基板
14 蛍光体層
14a 柱状結晶
16 保護層
18 縁(枠)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気相堆積法により形成された蛍光体層を有する放射線像変換パネルであって、
前記蛍光体層が柱状結晶構造を有し、かつ、
この柱状結晶構造の占める前記蛍光体層中の相対密度が50〜65%の範囲にあることを特徴とする放射線像変換パネル。
【請求項2】
前記蛍光体層が、アルカリ金属ハロゲン化物系輝尽性蛍光体からなる請求項1に記載の放射線像変換パネル。
【請求項3】
前記アルカリ金属ハロゲン化物系輝尽性蛍光体がセシウムハライド系輝尽性蛍光体である請求項2に記載の放射線像変換パネル。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−292509(P2006−292509A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−112301(P2005−112301)
【出願日】平成17年4月8日(2005.4.8)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】