説明

放射線撮像装置

【課題】被検体の状況に応じて長尺状の放射線画像を安定して得ることができる放射線撮像装置を提供することを目的とする。
【解決手段】コリメータによって照視野を狭く絞った状態で行われる撮像(スロット撮像)の際に、被検体の体厚に基づいて所定距離であるスロット幅を設定変更することで、被検体の体厚に基づいて撮像系の移動速度をも設定変更することになる。そして、被検体の体厚に依存せずに一定のX線照射量を確保してX線画像を得ることができ、被検体の状況に応じて短冊状のX線画像(スロット画像)、さらには長尺状のX線画像を安定して得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、検出された放射線に基づいて放射線画像を得ることで放射線撮像を行う放射線撮像装置に係り、特に、照視野よりも狭く絞った状態で所定距離(スロット幅)毎に動かしながら撮像(スロット撮像)を行うスロットラジオグラフィーの技術に関する。
【背景技術】
【0002】
スロットラジオグラフィーでは、X線管(放射線照射手段)から照射される照視野を制御するコリメータ(照視野制御手段)をX線管の照射側に配設し、そのコリメータによって、X線検出器(放射線検出手段)に投影される照視野よりも狭く絞った状態で、X線管およびX線検出器を被検体の長手方向に沿って天板に対して所定距離(すなわちスロット幅)毎に平行移動させながらX線管から狭く絞られたスロット状のX線を間欠的に照射して撮像を行う。このような撮像を、本明細書では「スロット撮像」と定義づける。
【0003】
コリメータによって照視野を狭く絞った状態で検出されたスロット幅毎の複数の短冊状のX線画像を1つの長尺状のX線画像に合成することで、従来よりも撮影範囲の長い、いわゆる長尺撮像を行う(例えば、特許文献1参照)。なお、スロット幅は固定である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−236929号公報(第1−10頁、図1,6,8)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、撮像系(X線管・X線検出器対)は、被検体をできる限り短時間で走査(移動)するのが好ましい。したがって、ステップ状(撮像のときのみ走査して、それ以外のときには停止)ではなく、連続的に撮像系を移動させることが必須である。しかし、連続的に移動させながらX線の照射を行うと、動きによるボケが生じるので照射間隔が限られてしまう。例えば、被検体の体厚が厚い場合には、X線量を確保するために間欠照射毎の照射間隔を長くする必要があるが、上述したように有効なスロット幅が固定であれば撮影時間を長くすることもできない。体厚が厚い場合で、限られた照射間隔で撮像を行えば、X線量の少ない粒状性の粗い画像しか得られない。
【0006】
この発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、被検体の状況に応じて長尺状の放射線画像を安定して得ることができる放射線撮像装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、このような目的を達成するために、次のような構成をとる。
すなわち、請求項1に記載の発明は、被検体に向けて放射線を照射する放射線照射手段と、前記被検体を透過した放射線を検出する放射線検出手段と、前記放射線照射手段に配設され、かつその放射線照射手段から照射される照視野を、前記放射線検出手段に投影される照視野よりも狭く絞って制御する照視野制御手段とを備え、検出された放射線に基づいて放射線画像を得ることで放射線撮像を行う放射線撮像装置であって、前記照視野制御手段によって前記照視野を狭く絞った状態で、前記放射線照射手段および放射線検出手段が被検体の長手方向に沿って互いに同方向かつ互いに同速度に相対的に平行移動するように構成するとともに、放射線照射手段および放射線検出手段が被検体に対して所定距離毎に相対移動する度に放射線照射手段から放射線を間欠的に照射して、間欠的に照射された被検体を透過した放射線を前記放射線検出手段が検出するように構成し、前記装置は、前記照視野制御手段によって前記照視野を狭く絞った状態で検出された前記所定距離毎の複数の短冊状の放射線画像を1つの長尺状の放射線画像に合成する画像合成手段と、被検体の体厚に基づいて前記所定距離を設定変更する所定距離設定変更手段とを備え、前記放射線照射手段から放射線を間欠的に照射する時間である間欠照射毎の照射間隔は固定であって、前記所定距離設定変更手段は、前記被検体の体厚に基づいて前記所定距離を設定変更することで、その所定距離を前記固定の間欠照射毎の照射間隔で除算した値である、前記放射線照射手段および放射線検出手段の被検体に対する相対的な移動速度を、被検体の体厚に基づいて設定変更することを特徴とするものである。
【0008】
[作用・効果]請求項1に記載の発明によれば、放射線照射手段から照射される照視野を、放射線検出手段に投影される照視野よりも狭く絞って照視野制御手段は制御し、照視野制御手段によって照視野を狭く絞った状態で、放射線照射手段および放射線検出手段が被検体の長手方向に沿って互いに同方向かつ互いに同速度に相対的に平行移動しながら、放射線照射手段から放射線を間欠的に照射して、間欠的に照射された被検体を透過した放射線を放射線検出手段が検出して、放射線撮像(すなわちスロット撮像)を行う。このようなスロット撮像を行うことで、照視野制御手段によって照視野を狭く絞った状態で検出された所定距離(すなわちスロット幅)毎の複数の短冊状の放射線画像が得られる。画像合成手段は、これらの短冊状の放射線画像を1つの長尺状の放射線画像に合成することで、長尺状の放射線画像が得られる。このようなスロット撮像を行う際に、被検体の体厚に基づいて上述した所定距離(スロット幅)を設定変更する所定距離設定変更手段を備えることで、被検体の体厚に依存せずに一定の放射線照射量を確保して放射線画像を得ることができる。その結果、被検体の状況に応じて長尺状の放射線画像を安定して得ることができる。
【0009】
通常、放射線照射手段から放射線を間欠的に照射する時間である間欠照射毎の照射間隔は固定である。したがって、上述した所定距離設定変更手段が被検体の体厚に基づいて所定距離を設定変更することで、放射線照射手段および放射線検出手段の被検体に対する相対的な移動速度(すなわち所定距離を上述した固定の間欠照射毎の照射間隔で除算した値)も、被検体の体厚に基づいて設定変更されることになる。
【0010】
また、所定距離設定変更手段が、被検体の体厚が厚ければ所定距離を短くして移動速度を遅くし、体厚が薄ければ所定距離を長くして移動速度を速く設定変更することで、照視野制御手段は、その所定距離に応じて照視野を設定変更するのが好ましい(請求項2に記載の発明)。所定距離が可変になることで生じる所定距離(スロット幅)に対する放射線照射量の過不足を防止して、所定距離に応じた適切な放射線照射量で照視野を設定変更することができる。
【発明の効果】
【0011】
この発明に係る放射線撮像装置によれば、照視野制御手段によって照視野を狭く絞った状態で行われる撮像(スロット撮像)の際に、被検体の体厚に基づいて、所定距離設定変更手段が所定距離(スロット幅)を設定変更することで、被検体の体厚に依存せずに一定の放射線照射量を確保して放射線画像を得ることができ、被検体の状況に応じて長尺状の放射線画像を安定して得ることができる。
また、放射線照射手段から放射線を間欠的に照射する時間である間欠照射毎の照射間隔は固定であって、所定距離設定変更手段は、被検体の体厚に基づいて所定距離を設定変更することで、放射線照射手段および放射線検出手段の被検体に対する相対的な移動速度(すなわち所定距離を上述した固定の間欠照射毎の照射間隔で除算した値)も、被検体の体厚に基づいて設定変更されることになる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例に係るX線撮像装置のブロック図である。
【図2】フラットパネル型X線検出器(FPD)の駆動に関するFPD駆動機構の概略構成を示す模式図である。
【図3】X線管の駆動に関するX線管駆動部の概略構成を示す模式図である。
【図4】側面視したフラットパネル型X線検出器(FPD)の等価回路である。
【図5】平面視したフラットパネル型X線検出器(FPD)の等価回路である。
【図6】一連のX線撮像の流れを示したフローチャートである。
【図7】X線撮像中のスロット撮像の流れを示したフローチャートである。
【図8】被検体の体厚の説明に供する模式図である。
【図9】被検体の体厚と移動速度との関係を模式化したグラフである。
【図10】有効スロット幅と移動速度と照射間隔(曝射間隔)との関係を示す説明に供する照射のタイミングチャートである。
【図11】短冊状のX線画像の合成の概略図であり、(a)は実施例での画像の合成、(b)は従来での画像の合成の概略図である。
【図12】画像合成のときの各信号のタイミングチャートである。
【実施例】
【0013】
以下、図面を参照してこの発明の実施例を説明する。
図1は、実施例に係るX線撮像装置のブロック図であり、図2は、フラットパネル型X線検出器の駆動に関するFPD駆動機構の概略構成を示す模式図であり、図3は、X線管の駆動に関するX線管駆動部の概略構成を示す模式図である。本実施例では放射線検出手段としてフラットパネル型X線検出器(以下、「FPD」と略記する)を例に採るとともに、放射線撮像装置としてX線撮像装置を例に採って説明する。
【0014】
X線撮像装置は、図1に示すように、被検体Mを載置する天板1と、その被検体Mに向けてX線を照射するX線管2と、被検体Mを透過したX線を検出するFPD3とを備えている。X線管2の照射側にはX線管2から照射される照視野を制御するコリメータ2aを配設している。X線管2は、この発明における放射線照射手段に相当し、コリメータ2aは、この発明における照視野制御手段に相当し、FPD3は、この発明における放射線検出手段に相当する。
【0015】
X線撮像装置は、他に、天板1の昇降および水平移動を制御する天板制御部4や、FPD3の走査を制御するFPD制御部5や、X線管2の管電圧や管電流を発生させる高電圧発生部6を有するX線管制御部7や、FPD3から電荷信号であるX線検出信号をディジタル化して取り出すA/D変換器8や、A/D変換器8から出力されたX線検出信号に基づいて種々の処理を行う画像処理部9や、これらの各構成部を統括するコントローラ10や、処理された画像などを記憶するメモリ部11や、オペレータが入力設定を行う入力部12や、処理された画像などを表示するモニタ13などを備えている。
【0016】
天板制御部4は、天板1を水平移動させて被検体Mを撮像位置にまで収容したり、昇降、回転および水平移動させて被検体Mを所望の位置に設定したり、水平移動させながら撮像を行ったり、撮像終了後に水平移動させて撮像位置から退避させる制御などを行う。これらの制御は、モータやエンコーダ(図示省略)などからなる天板駆動機構(図示省略)を制御することで行う。
【0017】
FPD制御部5は、FPD3を被検体Mの長手方向である体軸z方向に沿って平行移動させる制御を行う。この制御は、図2に示すように、ラック14aやピニオン14bやモータ14cやエンコーダ14dなどからなるFPD駆動機構14を制御することで行う。具体的には、ラック14aは被検体Mの体軸z方向に沿って延在している。ピニオン14bはFPD3を支持し、その一部はラック14aに嵌合しており、モータ14cの回転によって回転する。例えば、モータ14cを正転させると、図2中の一点鎖線に示すようにラック14aに沿ってFPD3が被検体Mの足元側に平行移動し、モータ14cを逆転させると、図2中の二点鎖線に示すようにラック14aに沿ってFPD3が被検体Mの頭側に平行移動する。エンコーダ14dはFPD3の移動方向と移動量(移動距離)に対応したモータ14cの回転方向および回転量を検出する。エンコーダ14dによる検出結果をFPD制御部5に送る。
【0018】
本実施例では、FPD制御部5は、後述するメモリ部11の体厚メモリ部11aに記憶された被検体Mの体厚に基づいて、スロット幅や移動速度を設定変更する。FPD制御部5による具体的な設定変更については、図6〜図12で後述する。FPD制御部5は、この発明における所定距離設定変更手段に相当する。
【0019】
高電圧発生部6は、X線を照射させるための管電圧や管電流を発生してX線管2に与える。X線管制御部7は、X線管2を被検体Mの体軸z方向に沿って平行移動させる制御を行う。この制御は、図3に示すように、支柱15aやネジ棒15bやモータ15cやエンコーダ15dなどからなるX線管駆動部15を制御することで行う。具体的には、支柱15aはX線管2を上端側に装着支持し、下端側にネジ棒15bにネジ結合している。ネジ棒15bは被検体Mの体軸z方向に沿って延在しており、モータ15cの回転によって回転する。例えば、モータ15cを正転させると、図3中の一点鎖線に示すように支柱15aとともにX線管2が被検体Mの足元側に平行移動し、モータ15cを逆転させると、図3中の二点鎖線に示すように支柱15aとともにX線管2が被検体Mの頭側に平行移動する。エンコーダ15dはX線管2の移動方向と移動量(移動距離)に対応したモータ15cの回転方向および回転量を検出する。エンコーダ15dによる検出結果をX線管制御部7に送る。
【0020】
なお、図1に示すように、X線管2およびFPD3が被検体Mの体軸z方向に沿って互いに同方向かつ互いに同速度に平行移動するように構成するために、図2のモータ14cの回転方向、および図3のモータ15cの回転方向が同じになるように、FPD制御部5およびX線管制御部7は制御する。すなわち、X線管2の移動量とFPD3の移動量とが同じになるように、FPD制御部5はモータ14cの回転量を制御するとともに、X線管制御部7はモータ15cの回転量を制御する。
【0021】
また、X線管制御部7は、X線管2側のコリメータ2aの照視野の設定の制御を行う。本実施例では、被検体Mの長手方向(体軸z方向)に、FPD3に投影される照視野よりも狭く絞った状態でスロット状のX線を照射するとともに、短手方向(体軸zに水平面内に直交する方向)に広がりを有するファンビーム状のX線を照射するようにコリメータ2aを制御して照視野を設定する。また、X線管2およびFPD3が後述するスロット幅(所定距離)毎に移動する度にX線管2から(長手方向ではスロット状で、短手方向ではファンビーム状の)X線を間欠的に照射するようにX線管制御部7は制御する。また、FPD制御部5は、間欠的に照射された被検体Mを透過したX線をFPD3が検出するように制御する。
【0022】
コントローラ10は、中央演算処理装置(CPU)などで構成されており、メモリ部11は、ROM(Read-only Memory)やRAM(Random-Access Memory)などに代表される記憶媒体などで構成されている。また、入力部12は、マウスやキーボードやジョイスティックやトラックボールやタッチパネルなどに代表されるポインティングデバイスで構成されている。
【0023】
画像処理部9は、X線検出信号に対してラグ補正やゲイン補正などを行って、FPD3の検出面に投影されたX線画像を出力する補正部9aと、補正された各々のX線画像を1つの長尺状のX線画像に合成する画像合成部9bとを備えている。画像合成部9bは、画像合成手段に相当する。画像合成部9bの具体的な機能については、図6〜図12で後述する。
【0024】
メモリ部11は、画像処理部9で処理された各々の画像を書き込んで記憶するように構成されている。本実施例では、メモリ部11は体厚メモリ部11aを有しており、体厚メモリ部11aには、透視撮影で得られた被検体Mの体厚が被検体Mの部位に応じて予め記憶されている。FPD制御部5やX線管制御部7も、コントローラ10と同様にCPUなどで構成されている。
【0025】
次に、フラットパネル型X線検出器(FPD)3の構造について、図4および図5を参照して説明する。図4は、側面視したフラットパネル型X線検出器(FPD)の等価回路であり、図5は、平面視したフラットパネル型X線検出器(FPD)の等価回路である。
【0026】
FPD3は、図4に示すように、ガラス基板31と、ガラス基板31上に形成された薄膜トランジスタTFTとから構成されている。薄膜トランジスタTFTについては、図4、図5に示すように、縦・横式2次元マトリクス状配列でスイッチング素子32が多数個(例えば、1024個×1024個)形成されており、キャリア収集電極33ごとにスイッチング素子32が互いに分離形成されている。すなわち、FPD3は、2次元アレイ放射線検出器でもある。
【0027】
図4に示すようにキャリア収集電極33の上にはX線感応型半導体34が積層形成されており、図4、図5に示すようにキャリア収集電極33は、スイッチング素子32のソースSに接続されている。ゲートドライバ35からは複数本のゲートバスライン36が接続されているとともに、各ゲートバスライン36はスイッチング素子32のゲートGに接続されている。一方、図5に示すように、電荷信号を収集して1つに出力するマルチプレクサ37には増幅器38を介して複数本のデータバスライン39が接続されているとともに、図4、図5に示すように各データバスライン39はスイッチング素子32のドレインDに接続されている。
【0028】
図示を省略する共通電極にバイアス電圧を印加した状態で、ゲートバスライン36の電圧を印加(または0Vに)することでスイッチング素子32のゲートがONされて、キャリア収集電極33は、検出面側で入射したX線からX線感応型半導体34を介して変換された電荷信号(キャリア)を、スイッチング素子32のソースSとドレインDとを介してデータバスライン39に読み出す。なお、スイッチング素子がONされるまでは、電荷信号はキャパシタ(図示省略)で暫定的に蓄積されて記憶される。各データバスライン39に読み出された電荷信号を増幅器38で増幅して、マルチプレクサ37で1つの電荷信号にまとめて出力する。出力された電荷信号をA/D変換器8でディジタル化してX線検出信号として出力する。
【0029】
次に、FPD制御部5による具体的な設定変更および画像合成部9bの具体的な機能について、図6〜図12を参照して説明する。図6は、一連のX線撮像の流れを示したフローチャートであり、図7は、X線撮像中のスロット撮像の流れを示したフローチャートであり、図8は、被検体の体厚の説明に供する模式図であり、図9は、被検体の体厚と移動速度との関係を模式化したグラフであり、図10は、有効スロット幅と移動速度と照射間隔(曝射間隔)との関係を示す説明に供する照射のタイミングチャートであり、図11は、短冊状のX線画像の合成の概略図であり、図12は、画像合成のときの各信号のタイミングチャートである。
【0030】
(ステップS1)透視撮影
実際のスロット撮像の前に、先ず、透視撮影を行う。撮像系(X線管2・FPD3対)が被検体Mを透視条件で走査(移動)することで透視撮影を行い、被検体Mの部位に応じた被検体Mの体厚を得る。この被検体Mの部位に応じた被検体Mの体厚を体厚メモリ部11aに書き込んで記憶する。例えば、図8に示すように、被検体Mの首の部位の体厚はhとなり、胸部の部位の体厚はhとなる。これらの部位での体厚h,hを含む体厚hの情報を体厚メモリ部11aから読み出すことで、次のスロット撮像において被検体Mの体厚に依存せずに一定量のX線量(X線照射量)、さらには一定量のX線検出信号(画像信号)が得られるように、次のスロット撮像でのX線条件(この場合にはスロット幅の設定変更)を制御する。すなわち、自動輝度制御のための透視をこのステップS1で行う。なお、被検体Mの体厚hがメモリ部11aに既に記憶されており、各々のスロット撮像において、常に同じ被検体Mの体厚hの情報を用いるのであれば、このステップS1での透視撮影を必ずしも行う必要はない。もちろん、常に最新の被検体Mの体厚hの情報を用いるのであれば、各々のスロット撮像の前に、このステップS1での透視撮影を行う。
【0031】
(ステップS2)スロット撮像
ステップS1で透視撮影を行い、被検体Mの体厚hを体厚メモリ部11aに書き込んで記憶したら、スロット撮像を行う。このステップS2は、下記のステップT1〜T3からなる。
【0032】
(ステップT1)スロット幅(移動速度)の設定変更
先ず、FPD制御部5は、体厚メモリ部11aに記憶された被検体Mの体厚に基づいて、スロット幅を設定変更する。通常、X線管2からX線を間欠的に照射する時間である間欠照射毎の照射間隔は固定である。したがって、FPD制御部5が、被検体Mの体厚hに基づいて所定距離であるスロット幅を設定変更することで、撮像系(X線管2・FPD3対)の被検体Mに対する移動速度(すなわちスロット幅(所定距離)を上述した固定の間欠照射毎の照射間隔で除算した値)も、被検体Mの体厚hに基づいて設定変更されることになる。そこで、本実施例では、スロット幅を設定変更することは、移動速度を設定変更することと同義として説明する。
【0033】
移動速度をVとすると、被検体Mの体厚hが厚い場合には、一定のX線量を確保するためにスロット幅(移動速度V)を、図9に示すように短く(移動速度Vでは遅く)する。逆に、被検体Mの体厚hが薄い場合には、一定のX線量を確保するためにスロット幅(移動速度V)を、図9に示すように長く(移動速度Vでは速く)する。被検体の首の部位の体厚hが胸部の部位の体厚hよりも厚い場合(すなわちh>h)には、撮像系(X線管2・FPD3対)が首の部位を走査するときにはその移動速度をVと速くして、撮像系(X線管2・FPD3対)が胸部の部位を走査するときにはその移動速度をVと遅くする。図9のグラフでは、一次関数で表したが、これに限定されず、二次関数やその他の曲線の関数であってもよい。また、被検体Mの部位に応じてX線の透過率や吸収率が異なるので、透過率や吸収率を考慮して被検体Mの体厚hと移動速度Vとの関係をグラフ化してもよい。
【0034】
実際のスロット幅を「有効スロット幅」と定義して、図10に示すように、その有効スロット幅をdとして、間欠照射から次の間欠照射までの時間間隔である照射間隔(すなわち曝射間隔)をtとすると、d=V×tで表される。なお、画像合成のために必要な部分(固定幅)をΔdとして、その固定幅Δdを有効スロット幅dに加えた幅をd´とすると、d´=d+Δdで表される。したがって、FPD制御部5によって、有効スロット幅dを設定変更する場合には、その有効スロット幅dに応じて、コリメータ2aは照視野を設定変更するのが好ましい。もちろん、固定幅Δdを有効スロット幅dに加えた幅d´に応じて、コリメータ2aは照視野を設定変更してもよく、設定変更の対象は、有効スロット幅dでも幅d´でも特に限定されない。
【0035】
(ステップT2)短冊状のX線画像の取得
ステップT1においてFPD制御部5で設定変更された、被検体Mの体厚hに基づく(有効)スロット幅dで、そのスロット幅dに応じた照視野で、撮像系(X線管2・FPD3対)は被検体Mの各部位を走査して、短冊状のX線画像(「スロット画像」とも呼ぶ)を取得する。具体的には、コリメータ2aによって照視野を狭く絞った状態で、撮像系(X線管2・FPD3対)が被検体Mの長手方向である体軸zに沿って互いに同方向かつ互いに同速度に平行移動しながら、X線管2からX線を間欠的に照射して、間欠的に照射された被検体Mを透過したX線をFPD3が検出することで、X線検出信号が得られる。このX線検出信号に対して補正部9aがラグ補正やゲイン補正などを行うことで、FPD3に投影される図11(a)に示すような照視野P,P,…,Pにおいて、有効スロット幅dの短冊状のX線画像(スロット画像)がPS1,PS2,…,PSNと得られる。
【0036】
有効スロット幅dは被検体Mの部位に応じて設定変更されているので、例えば図11(a)に示すようになる。なお、従来の場合には、有効スロット幅dが設定変更されずに固定されているので、図11(b)に示すようになる。もし、スロット画像PS1,PS2,…,PSNにおける有効スロット幅dが、図11(a)に示すような場合には、最初のスロット画像PS1を基準とすると、次のスロット画像PS2では被検体Mの体厚hがスロット画像PS1のときよりも薄いので、移動速度Vを速くして有効スロット幅dを長くする。逆に、最後のスロット画像PSNでは被検体Mの体厚hがスロット画像PS1のときよりも厚いので、移動速度を遅くして有効スロット幅dを短くする。
【0037】
(ステップT3)部位はあるか?
各間欠照射ごとに、図11(a)に示すようなスロット画像PS1,PS2,…,PSNを順に得て、走査すべき部位があるか否かを判定する。もし、走査すべき部位があれば、ステップT2に戻って、走査すべき部位がなくなるまで、ステップT2,T3を繰り返し行う。もし、走査すべき部位がなければ、上述したステップT1〜T3からなるスロット撮像が終了したとする。
【0038】
(ステップS3)画像合成
図11(a)に示すような複数N個のスロット画像PS1,PS2,…,PSNを画像合成部9bが1つの長尺状のX線画像Qに合成する。この合成の際には、被検体Mの部位に応じたX線の透過率や吸収率を考慮して、図12に示すように、各々のスロット画像PS1,PS2,…,PSNに対して重み付けを行って合成するのが好ましい。図12中の「重み1」は図12中の「スロット画像1」に対して重み付けされる値であり、「重み2」は「スロット画像2」に対して重み付けされる値であり、「重み3」は「スロット画像3」に対して重み付けされる値であり、「重み4」は「スロット画像4」に対して重み付けされる値である。したがって、図12の場合には、合成画像は合成画像=スロット画像1×重み1+スロット画像2×重み2+スロット画像3×重み3+スロット画像4×重み4+…で表される。
【0039】
なお、図12ではタイミングチャートで表しているので、有効スロット幅dに対応する時間はd/Vとなり、幅d´に対応する時間はd´/Vとなる。また、上述した固定幅Δdは、時系列的には2分割されるので、有効スロット幅dに対応する時間(d/V)の前後にΔd/2に対応する時間がそれぞれ加わることになる。また、Δd/2に対応する時間はΔd/2Vとなる。
【0040】
本実施例に係るX線撮像装置によれば、X線管2から照射される照視野を、フラットパネル型X線検出器(FPD)3に投影される照視野よりも狭く絞ってコリメータ2aは制御し、コリメータ2aによって照視野を狭く絞った状態で、X線管2およびFPD3が被検体Mの長手方向である体軸zに沿って互いに同方向かつ互いに同速度に平行移動しながら、X線管2からX線を間欠的に照射して、間欠的に照射された被検体Mを透過したX線をFPD3が検出して、X線撮像(すなわちスロット撮像)を行う。このようなスロット撮像を行うことで、コリメータ2aによって照視野を狭く絞った状態で検出された所定距離(すなわちスロット幅d)毎の複数の短冊状のX線画像(すなわちスロット画像)が得られる。画像合成部9bは、これらの短冊状のX線画像(スロット画像)を1つの長尺状のX線画像に合成することで、長尺状のX線画像が得られる。
【0041】
このようなスロット撮像を行う際に、被検体Mの体厚hに基づいて上述した所定距離(スロット幅d)を設定変更するFPD制御部5を備えることで、被検体Mの体厚hに依存せずに一定のX線照射量(X線量)を確保してX線画像を得ることができる。その結果、被検体Mの状況に応じて長尺状のX線画像を安定して得ることができる。
【0042】
被検体Mを人体に適用するとともに、このX線撮像を整形外科などの診断装置に適用した場合には、整形外科などで要求される全脊柱の骨成分のみの抽出など人体の体軸方向の長い視野において特定組織の抽出が可能になる。その結果、X線量が確保され粒状性の良い画像を得ることができて、診断能の向上を図ることができるという効果をも奏する。
【0043】
本実施例では、FPD制御部5が、被検体Mの体厚hが厚ければ所定距離(スロット幅d)を短く(狭く)、体厚hが薄ければ所定距離(スロット幅d)を長く(広く)設定変更することで、好ましくは、コリメータ2aは、その所定距離に応じて照視野を設定変更している。所定距離が可変になることで生じる所定距離(スロット幅)に対するX線照射量の過不足を防止して、所定距離に応じた適切なX線照射量で照視野を設定変更することができる。
【0044】
この発明は、上記実施形態に限られることはなく、下記のように変形実施することができる。
【0045】
(1)上述した実施例では、放射線撮像装置としてX線撮像装置を例に採って説明したが、PET(Positron Emission Tomography)装置やSPECT(Single Photon Emission CT)装置などに代表されるECT(Emission Computed Tomography)装置のように、X線以外の放射線(PET装置の場合にはγ線)を検出して、検出された放射線に基づいて放射線画像を得ることで放射線撮像を行う放射線撮像装置に適用してもよい。
【0046】
(2)上述した実施例では、図1に示すようなX線撮像装置を例に採って説明したが、この発明は、例えばC型アームに配設されたX線撮像装置にも適用してもよい。また、この発明は、X線CT装置にも適用してもよい。
【0047】
(3)上述した実施例では、放射線検出手段としてフラットパネル型X線検出器を例に採って説明したが、イメージインテンシファイア(I.I)のように、通常において用いられるX線検出手段であれば特に限定されない。また、上述した変形例(1)のようにECT装置に適用した場合のように、通常において用いられる放射線検出手段であれば特に限定されない。
【0048】
(4)上述した実施例では、X線管2に代表される放射線照射手段およびFPD3に代表される放射線検出手段のみを移動させて、被検体Mを載置する天板1を固定することで、放射線照射手段および放射線検出手段が被検体の長手方向に沿って互いに同方向かつ互いに同速度に相対的に平行移動したが、放射線照射手段および放射線検出手段が被検体の長手方向に沿って互いに同方向かつ互いに同速度に相対的に平行移動するのではあれば、具体的な移動については限定されない。例えば、X線管2に代表される放射線照射手段およびFPD3に代表される放射線検出手段を固定して、被検体Mを載置する天板1のみを長手方向に移動させることで、放射線照射手段および放射線検出手段が被検体の長手方向に沿って互いに同方向かつ互いに同速度に相対的に平行移動してもよい。また、X線管2に代表される放射線照射手段およびFPD3に代表される放射線検出手段を移動させるとともに、被検体Mを載置する天板1も長手方向に移動させることで、放射線照射手段および放射線検出手段が被検体の長手方向に沿って互いに同方向かつ互いに同速度に相対的に平行移動してもよい。
【0049】
(5)上述した実施例では、この発明における照視野制御手段として、コリメータ2aを例に採って説明したが、照視野を制御する手段であれば、単なるスリットに例示されるように、特に限定されない。
【0050】
(6)上述した実施例では、全ての短冊状の画像(スロット画像)を取得してから合成したが、各々のスロット画像を取得する度に合成してもよい。
【符号の説明】
【0051】
2 … X線管
2a … コリメータ
3 … フラットパネル型X線検出器(FPD)
5 … FPD制御部
9b … 画像合成部
d … (有効)スロット幅
V … 移動速度
h … 体厚
S1,PS2,…,PSN… 短冊状のX線画像(スロット画像)
Q … 長尺状のX線画像
z … 体軸
M … 被検体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体に向けて放射線を照射する放射線照射手段と、前記被検体を透過した放射線を検出する放射線検出手段と、前記放射線照射手段に配設され、かつその放射線照射手段から照射される照視野を、前記放射線検出手段に投影される照視野よりも狭く絞って制御する照視野制御手段とを備え、検出された放射線に基づいて放射線画像を得ることで放射線撮像を行う放射線撮像装置であって、前記照視野制御手段によって前記照視野を狭く絞った状態で、前記放射線照射手段および放射線検出手段が被検体の長手方向に沿って互いに同方向かつ互いに同速度に相対的に平行移動するように構成するとともに、放射線照射手段および放射線検出手段が被検体に対して所定距離毎に相対移動する度に放射線照射手段から放射線を間欠的に照射して、間欠的に照射された被検体を透過した放射線を前記放射線検出手段が検出するように構成し、前記装置は、前記照視野制御手段によって前記照視野を狭く絞った状態で検出された前記所定距離毎の複数の短冊状の放射線画像を1つの長尺状の放射線画像に合成する画像合成手段と、被検体の体厚に基づいて前記所定距離を設定変更する所定距離設定変更手段とを備え、
前記放射線照射手段から放射線を間欠的に照射する時間である間欠照射毎の照射間隔は固定であって、前記所定距離設定変更手段は、前記被検体の体厚に基づいて前記所定距離を設定変更することで、その所定距離を前記固定の間欠照射毎の照射間隔で除算した値である、前記放射線照射手段および放射線検出手段の被検体に対する相対的な移動速度を、被検体の体厚に基づいて設定変更することを特徴とする放射線撮像装置。
【請求項2】
請求項1に記載の放射線撮像装置において、前記所定距離設定変更手段が、前記被検体の体厚が厚ければ前記所定距離を短くして前記移動速度を遅くし、前記体厚が薄ければ前記所定距離を長くして前記移動速度を速く設定変更することで、前記照視野制御手段は、その所定距離に応じて前記照視野を設定変更することを特徴とする放射線撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−148143(P2012−148143A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−105041(P2012−105041)
【出願日】平成24年5月2日(2012.5.2)
【分割の表示】特願2008−8195(P2008−8195)の分割
【原出願日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】