説明

放射線撮影装置

【課題】放射線グリッドの影が放射線検出器に対して移動したとしても診断に好適な放射線透視画像を取得できる放射線撮影装置を提供する。
【解決手段】本発明のX線撮影装置によれば、エアー画像、ファントム画像δおよび被検体画像を基に補正画像を取得する構成となっている。この補正画像の取得において、吸収箔の影が写りこんでいない明画素B1,B2に係る明方程式と、吸収箔の影Sが写りこんでいる暗画素集団Kに係る暗方程式を連立させて解くことで直接放射線の成分を求める。これにより、被検体画像補正部は、連立方程式を確実に解くことができ、診断に好適な補正画像を取得することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線で被検体の透視画像を撮影する放射線撮影装置に係り、特に散乱放射線を除去する放射線グリッドを備えた放射線撮影装置に関する。
【背景技術】
【0002】
医療機関には、放射線で被検体の透視画像を撮影する放射線撮影装置が備えられている。この様な放射線撮影装置51は、図7に示すように被検体Mを載置する天板52と、放射線を照射する放射線源53と、放射線を検出する放射線検出器54とを備えている。
【0003】
放射線検出器54の放射線入射面には、被検体Mで生じた散乱放射線を除去する放射線グリッド55が備えられている。放射線グリッド55は、図9(a)に示すように細長状の吸収箔55aがブラインドのように配列して構成される(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
放射線検出器54には、図9(b)に示すように放射線検出素子54aが2次元マトリックス状に配列している。この放射線検出器54には、図8(a)に示すように被検体Mの透視画像と、図8(b)に示すように放射線グリッド55が除去できなかった間接放射線、放射線グリッド55の影とが写りこむ。図8(b)においては、間接放射線の強度が一様であるかのように示されている。しかし、実際には、間接放射線は、吸収箔55aの位置に応じた分布を示す。
【0005】
この間接放射線の成分は、被検体Mの透視画像を生成する場合に邪魔である。そこで、近年では放射線検出器54が出力した画素から間接放射線の成分を除くことで被検体Mの透視画像を取得する手法が開発されてきている。この様な透視画像を取得する際に、放射線検出器54に写りこむ吸収箔55aの影が問題となる。図9(a)に示すように、吸収箔55aの影Sは、放射線検出器54に写りこみ、これを平面から見ると、図9(b)のように、吸収箔55aの影Sが写りこんでいる放射線検出素子54aが並んだ列と、吸収箔55aの影Sが写りこんでいない放射線検出素子54aが並んだ列とが規則的に配列している。
【0006】
吸収箔55aの影Sが写りこんでいる画像から間接放射線の成分を除くには、次の様な方法が用いられる。まず、画像における影が写りこんでいる画素(暗画素a2)と、これに隣接する影が写りこんでいない2つの画素(明画素a1,a3)で構成される領域Rを考える。この領域Rのそれぞれの画素についてその画素値は、直接放射線の成分と間接放射線の成分との和であるとする方程式を用意する。領域Rには3つの画素が含まれているので、3つの方程式からなる連立方程式が用意されることになる。すなわち、次の様な連立方程式を用意するのである。
暗画素a2の画素値 = 直接放射線の成分+間接放射線の成分
明画素a1の画素値 = 直接放射線の成分+間接放射線の成分
明画素a3の画素値 = 直接放射線の成分+間接放射線の成分
【0007】
この連立方程式をして解くことで、領域Rの直接放射線の成分を求める。この操作を画像の全域ついて行って画像を再構成すれば、間接放射線の影響を受けない診断に好適な放射線透視画像を取得できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−257939号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来の放射線撮影装置によれば、次の様な問題がある。
すなわち、従来の放射線撮影装置は、放射線グリッド55の影の位置が放射線検出器54に対していつも一定であることを前提としている。しかし、実際は撮影中に影の位置が放射線検出器54に対してズレることが起こる場合がある。放射線撮影装置には、天板2の長手方向に沿った軸を回転軸として、放射線源53,および放射線検出器54が回転可能となっているものがある。この様な放射線撮影装置において、放射線源53,および放射線検出器54を回転させながら放射線透視画像の撮影を行うと、放射線源53は重荷物であるので、回転に応じて放射線源53を支持する支持体が歪む。すると、放射線源53と放射線検出器54との相対位置がズレて来てしまう。
【0010】
上述の領域Rにおける連立方程式を解く方法では、吸収箔55aの影は、明画素には含まれないものとしている。仮に、放射線源53の回転に応じて吸収箔55aの影が、暗画素と明画素とに跨った位置に移動すると、上述の方法では、正確に直接放射線を間接放射線から分離できなくなる。
【0011】
本発明はこの様な事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、放射線グリッドの影が放射線検出器に対して移動したとしても診断に好適な放射線透視画像を取得できる放射線撮影装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上述の目的を達成するために、次の様な構成をとる。
すなわち、請求項1に係る発明は、放射線を照射する放射線源と、放射線を検出する放射線検出素子が縦横に配列された放射線検出手段と、放射線検出手段の放射線検出面を覆うように設けられるとともに縦方向に伸びた吸収箔が横方向に配列されている放射線グリッドと、放射線検出手段から出力された検出信号を基に画像を生成する画像生成手段と、放射線源と放射線検出手段との間に被検体を介在させないエアー撮影を行って生成されたエアー画像を記憶するエアー画像記憶手段と、放射線源と放射線検出手段との間に被検体を介在させた被検体撮影を行って生成された被検体画像を記憶する被検体画像記憶手段と、エアー画像、被検体画像を基に被検体画像に含まれる直接放射線の成分を求めて、これを基に補正画像を生成する被検体画像補正手段とを備え、被検体画像補正手段は、各画像における吸収箔の影が写りこんでいる暗画素と暗画素に横方向から隣接する隣接画素で構成される暗画素集団における放射線強度の平均が直接放射線の成分と間接放射線の成分の和であるものした暗方程式と、吸収箔の影が写りこんでいない明画素における放射線強度が直接放射線の成分と間接放射線の成分の和であるものした明方程式から被検体画像の画素値における直接放射線の成分を求めることで補正画像を生成することを特徴とするものである。
【0013】
また、放射線源と放射線検出手段との間にファントムを介在させたファントム撮影を行って生成されたファントム画像を記憶するファントム画像記憶手段を更に備え、被検体画像補正手段は、エアー画像、被検体画像に加えてファントム画像を基に補正画像を生成すればより望ましい。
【0014】
[作用・効果]本発明の放射線撮影装置によれば、エアー画像、ファントム画像および被検体画像を基に補正画像を取得する構成となっている。補正画像は被検体を出射した直接放射線の成分のみから取得されるので、間接放射線によってコントラストが劣化していない鮮明な放射線透視画像が取得できる。また、本発明によれば、ファントム画像の撮影を省略することも可能である。
【0015】
しかも、補正画像の取得において、吸収箔の影が写りこんでいない明画素に係る明方程式と、吸収箔の影が写りこんでいる暗画素集団に係る暗方程式を連立させて解くことで被検体画像の直接放射線の成分を求める。すなわち、吸収箔の影が暗画素集団のどこかに写りこんでいるものとして直接放射線の成分を求めるのである。放射線検出手段における放射線検出素子の配列に対して吸収箔の影が移動するようなことがあっても、吸収箔の影は、暗画素集団のいずれかに存在しており、吸収箔の影が暗画素集団から外れてしまうことがない。したがって、被検体画像補正手段は、連立方程式を確実に解くことができ、診断に好適な補正画像を取得することができる。
【0016】
また、上述の暗画素集団は、横方向に並んだ3つの画素で構成されればより望ましい。
【0017】
[作用・効果]上述の構成によれば、暗画素集団は3つの画素で構成される。吸収箔の影の移動は、放射線検出素子の配列における横方向に1画素分移動する程度である。したがって、暗画素集団を3つの画素に指定しておくことができる。暗画素集団が余りにも大きすぎると、画像のボケにつながる。上述の構成によれば、暗画素集団に含まれる画素数は、最低限のものとなっている。
【0018】
また、上述の被検体画像補正手段は、暗方程式と、暗画素集団に横方向から隣接する2つの明画素に係る明方程式との3つの方程式を連立させることにより被検体画像における直接放射線の成分を求めればより望ましい。
【0019】
[作用・効果]上述の構成によれば、3つの方程式を連立させることにより被検体画像における直接放射線の成分を求める。この様な構成とすれば、確実に連立方程式を解くことができる。
【0020】
また、上述の放射線源と放射線検出手段とを支持する支持体と、支持体を移動させる支持体移動手段と、これを制御する支持体移動制御手段とを備えればより望ましい。
【0021】
[作用・効果]上述の構成は、本発明の具体的な1態様を表している。すなわち、放射線源と放射線検出手段とは移動可能となっている。この移動には回転移動も含まれる。放射線源は重荷物であるので、支持体を回転させると、支持体が撓むことになる。これによって放射線源と放射線検出手段との相対位置がわずかに(2mm程度)ずれる。すると、放射線検出手段に写りこむ放射線グリッドの吸収箔の影は、放射線検出手段の横方向に検出素子1個分程度移動することになる。上述の構成によれば、この様な現象が生じても、収集箔の影は暗画素集団から横方向にはみ出すことがない。したがって、被検体画像の直接放射線成分は確実に求められることになる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の放射線撮影装置によれば、エアー画像、および被検体画像を基に補正画像を取得する構成となっている。この補正画像の取得において、吸収箔の影が写りこんでいない明画素に係る明方程式と、吸収箔の影が写りこんでいる暗画素集団に係る暗方程式を連立させて解くことで直接放射線の成分を求める。このとき放射線検出手段における放射線検出素子の配列に対して吸収箔の影が移動するようなことがあっても、吸収箔の影は、暗画素集団のいずれかに存在しているのである。これにより、被検体画像補正手段は、連立方程式を確実に解くことができ、診断に好適な補正画像を取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施例1に係るX線撮影装置の構成を説明する機能ブロック図である。
【図2】実施例1に係るCアームの回転を説明する模式図である。
【図3】実施例1に係るX線グリッドの構成を説明する平面図である。
【図4】実施例1に係る情報記憶部の構成を説明する模式図である。
【図5】実施例1に係るX線撮影装置の動作を説明するフローチャートである。
【図6】実施例1に係るX線撮影装置の動作を説明する模式図である。
【図7】従来構成のX線撮影装置を説明する図である。
【図8】従来構成のX線撮影装置を説明する図である。
【図9】従来構成のX線撮影装置を説明する図である。
【実施例1】
【0024】
以降、本発明の実施例を説明する。実施例におけるX線は、本発明の放射線に相当する。
【0025】
<X線撮影装置の構成>
実施例1に係るX線撮影装置1は、図1に示すように被検体Mを載置する天板2と、天板2の下側に設けられたX線を照射するX線管3と、X線を検出するフラットパネル・ディテクタ(FPD)4と、X線管3の管電流、管電圧を制御するX線管制御部6と、X線管3およびFPD4を支持するCアーム7と、Cアーム7を支持する支柱8と、Cアーム7を移動させるCアーム移動機構21と、これを制御するCアーム移動制御部22とを備えている。X線管3は、本発明の放射線源に相当し、FPD4は、本発明の放射線検出手段に相当する。また、Cアーム移動制御部22は、本発明の支持体移動制御手段に相当し、Cアーム移動機構21は、本発明の支持体移動手段に相当する。また、Cアーム7は、本発明の支持体に相当する。
【0026】
Cアーム7は、Cアーム移動機構21により、鉛直方向、水平方向に移動することもできれば回転することもできる。すなわち、Cアーム7は、図2(a)に示すように湾曲したCアーム7が沿う仮想円VAに沿って回転することもできれば、図2(b)に示すように、Cアーム7の両端の突き出す方向を突出方向(体軸方向A)としたとき、Cアーム7は、突出方向と直交する平面上の仮想円VBに両端が沿うように回転することもできる。
【0027】
X線グリッド5は、FPD4の有するX線検出面を覆うように設けられている。図3は、実施例1に係るX線グリッドの構成について説明する平面図である。図3に示すように、実施例1に係るX線グリッド5は、縦方向に延伸した短冊状の吸収箔5aを備えている。この吸収箔5aは、横方向に配列しており、X線グリッド5全体で見れば、ブラインド状に配列される。そして、その配列ピッチは、例えば、500μmとなっている。なお、この吸収箔5aは、X線を吸収するモリブデン合金やタンタル合金などからなっている。X線グリッド5は、本発明の放射線グリッドに相当する。
【0028】
また、実施例1に係るX線撮影装置1は、図1に示すように各種画像を生成する画像生成部11と、グリッド減弱率マップ取得部12と、分離部13と、バラツキマップ取得部14と、バラツキ率マップ取得部15と、各種画像から補正画像を生成する被検体画像補正部16と、術者の指示を入力させる操作卓31と、補正画像を表示する表示部32と、各種情報を記憶する情報記憶部33とを備えている。被検体画像補正部16は、本発明の被検体画像補正手段に相当する。
【0029】
また、実施例1に係るX線撮影装置1は、各部6,11,12,13,14,15,16,22を統括的に制御する主制御部34を備えている。主制御部34は、CPUによって構成され、種々のプログラムを実行することにより、各部を実現している。また、上述の各部は、それらを担当する演算装置に分割されて実行されてもよい。
【0030】
情報記憶部33は、図4に示すように、第1エアー画像αを記憶する第1エアー画像記憶部33aと、第2エアー画像βを記憶する第2エアー画像記憶部33bと、グリッド減弱率マップγを記憶するグリッド減弱率マップ記憶部33cと、ファントム画像δを記憶するファントム画像記憶部33dと、直接線成分マップεを記憶する直接線成分マップ記憶部33eと、バラツキマップζを記憶するバラツキマップ記憶部33fと、バラツキ率マップMηを記憶するバラツキ率マップ記憶部33gと、被検体画像ξを記憶する被検体画像記憶部33とを備えている。被検体画像記憶部33hは、本発明の被検体画像記憶手段に相当し、ファントム画像記憶部33dは、本発明のファントム画像記憶手段に相当する。第1エアー画像記憶部33aおよび第2エアー画像記憶部33bは、本発明のエアー画像記憶手段に相当する。
【0031】
<動作の構成>
次にX線撮影装置のおける動作について説明する。X線撮影装置1の動作は、図5に示すように第1エアー画像αを取得する第1エアー画像取得ステップT1と、第2エアー画像βを取得する第2エアー画像取得ステップT2と、第1エアー画像α、第2エアー画像βからグリッド減弱率マップγを取得するグリッド減弱率マップ取得ステップT3と、ファントム画像δを取得するファントム画像取得ステップT4と、グリッド減弱率マップγを用いてファントム画像δの直接線成分と間接線成分とを分離する直接線、間接線分離ステップT5と、分離された直接線成分からX線グリッド5のX線吸収のバラツキを表すバラツキマップζを取得するバラツキマップ取得ステップT6と、バラツキマップζからバラツキ率マップMηを取得するバラツキ率マップ取得ステップT7と、被検体画像ξを取得する被検体画像取得ステップT8と、グリッド減弱率マップγ、バラツキ率マップMηを基に被検体画像ξを補正する被検体画像補正ステップT9の各過程を備えている。以降、これらの各ステップを時系列順に説明する。
【0032】
<第1エアー画像取得ステップT1>
まず、天板2に何も載置せず、かつX線グリッド5をFPD4のX線検出面に載置しない状態でX線撮影を行う。FPD4は、X線管3から出力されたX線は、FPD4で検出され、このとき画像生成部11が生成する画像が第1エアー画像αである。第1エアー画像αは、X線管3から出力される直接X線の強度を示している。この第1エアー画像αは、情報記憶部33に記憶される。
【0033】
<第2エアー画像取得ステップT2>
次に、FPD4にのX線検出面にX線グリッド5を載置した状態で、天板2に何も載置せずにX線撮影を行う。このとき画像生成部11が生成する画像が第2エアー画像βである。この第2エアー画像βは、情報記憶部33に記憶される。第1エアー画像取得ステップT1,第2エアー画像取得ステップT2における撮影が本発明のエアー撮影である。
【0034】
<グリッド減弱率マップ取得ステップT3>
グリッド減弱率マップ取得部12は、第2エアー画像βにおける画素値の各々をそれぞれの位置に対応する第1エアー画像αにおける画素値の各々で除算する。すると、直接X線がX線グリッド5を通過する際のグリッド減弱率の分布を示すグリッド減弱率マップγが取得できる。なお、X線がX線グリッド5を透過するとき間接X線は生じないと考えられる。
【0035】
<ファントム画像取得ステップT4>
次に、X線グリッド5を装着した状態で天板2にアクリル板を載置し、X線撮影を行う。この撮影がファントム撮影である。X線はアクリル板を透過する際に間接X線を生じる。つまり、このとき画像生成部11が生成するファントム画像δには、アクリル板を透過してきた直接X線と、間接X線との両方が写りこんでいる。なお、アクリル板で発生した間接X線のほとんどはX線グリッド5で吸収される。ファントム画像δにおける間接X線は、X線グリッド5が吸収しきれなかったものである。このファントム画像δは、情報記憶部33に記憶される。
【0036】
このとき取得されるファントム画像δについて説明する。X線グリッド5の吸収箔5aは、横方向に例えば500μmの間隔を空けて配列され、FPD4の検出素子4aは、例えば125μmのピッチで配列されている。したがって、FPD4のX線検出面には、図6(a)に示すように縦方向に伸びた吸収箔5aの影Sが写りこんだ検出素子4aの列(暗列)と、影Sが写りこんでいない検出素子4aの列(明列)とが横方向に規則的に配列されている。具体的には、明列が3連続した領域と暗列1列とが交互に横方向に配列されている。
【0037】
ファントム画像δは、図6(b)に示すように、吸収箔5aに起因して画素値が暗くなった暗部領域と、吸収箔5aを写しこまない明部領域とが横方向に交互に配列されている。具体的には、吸収箔5aの影Sを写しこまない画素列である明列が3連続した領域と吸収箔5aの影Sを写しこんだ画素列である暗列1列とが交互に横方向に配列されている。
【0038】
<直接線、間接線分離ステップT5>
次に、分離部13は、グリッド減弱率マップγとを用いて、ファントム画像δから直接線成分を分離する。この分離は、ファントム画像δにおける5つの画素を参照して行う。ここで言う5つの画素とは、図6(b)に示すように、横方向に配列した画素群Rであり、この横方向に中間の位置に存する画素は、吸収箔5aを写しこんだ暗画素Dとなっている。この暗画素Dに横方向から隣接する2つの画素を隣接画素N1,N2とし、暗画素D,隣接画素N1,N2をまとめて暗画素集団Kとする。そしてこの暗画素集団Kに横方向から隣接する2つの画素を明画素B1,B2とする。
【0039】
明画素B1の画素値には、直接線成分と間接線成分とが含まれている。明画素B1の画素値を示すX線強度をGとし、X線グリッド5を透過する前の直接X線の強度をδPとし、明画素B1におけるグリッド減弱率(ステップT3参照)をCとし、間接放射線の強度をδSとすると、明画素B1における直接線成分はδPとCとの積になる。したがって次のような関係が成り立つ。
=δP・C+δS ……(1)
【0040】
同様に、暗画素集団Kに属する画素値の平均が示すX線強度をGとし、明画素B2の画素値を示すX線強度をGとすると、次の様な関係がある。
=δP・C+δS ……(2)
=δP・C+δS ……(3)
【0041】
なお、Cは、明画素B2おけるグリッド減弱率Cであり、Cは、暗画素集団Kにおけるグリッド減弱率Cの平均である。δPは、明画素B2における直接線成分であり、δPは、暗画素集団Kにおける直接線成分の平均である。ここで、δS=(δS+δS)/2であるという近似を行う。なお、アクリル板から出射される直接X線の強度は、アクリル板全体で一様であると見なすことができるので、δP=δP=δPとすることができる。上述の式(1)、(2)、(3)とこれらの近似を用いて直接線成分δP,δP,δPおよび間接線成分δS,δS,δSを求める。具体的には、次の様に表せる。
δP=δP=δP=(G−2G+G)/(C―2C+C)……(4)
δS=G−δP・C ……(5)
δS=G−δP・C ……(6)
δS=G−δP・C ……(7)
【0042】
分離部13は、式(4)〜式(7)に基づいてファントム画像δに表れている暗画素Dの各々について、直接線成分、および間接線成分を求める。そして分離部13は、直接線成分を縦横にマッピングして直接線成分マップεを生成する。この直接線成分マップεには、暗画素Dとその周辺の4画素から求められた直接線成分が配列されている。アクリル板から出射される直接X線の強度は、アクリル板全体で一様であると見なすことができるのであるから、直接線成分マップεにおける直接線成分は同一の値となっているはずである。
【0043】
しかし、直接線成分マップεにはマップの部分によって直接線成分の値にバラツキが見られる。X線グリッド5の吸収箔5aの配列が必ずしも理想どおりではないからである。具体的には、X線グリッド5を間接線成分を透過させる透過率にバラツキがあるので、特にX線グリッド5の周縁部においては、ファントム画像δを直接線成分と間接線成分に十分に分離しきれていないのである。そこで、X線グリッド5の部分によって間接線成分をどの程度透過させるのかということを示すバラツキ率マップMηを生成する。このバラツキ率マップMηは、間接線成分におけるグリッド減弱率マップγに相当する。すなわち、グリッド減弱率マップγは、X線グリッド5の直接線成分についての減弱率であり、バラツキ率マップMηは、X線グリッド5の間接線成分の減弱率を表すものである。
【0044】
<バラツキマップ取得ステップT6>
バラツキ率マップMηの取得に先立って、バラツキマップ取得部14は、ファントム画像δに含まれるX線グリッド5に起因するバラツキ成分を求める。まず、直接線成分マップεにおいて直接線成分のバラツキが少ない部分の直接線成分を平均して平均値εaveを取得する。X線グリッド5の吸収箔5aは、X線グリッド5の中央部において、より吸収箔5aが整然と配列されている性質がある。この性質を利用して平均値εaveは、直接線成分マップεにおける中央部の直接線成分を平均したものとする。すなわち、平均値εaveは、直接線成分マップε全体の平均ではない。バラツキマップ取得部14は、この平均値εaveを使って、ファントム画像δにおける間接線成分のバラツキを求める。このとき求められる間接線成分のバラツキζSとすると、ファントム画像δに存する画素群Rが図4(b)のように明画素B1,B2,暗画素集団Kで構成されていたとすると、明画素B1についての間接線成分のバラツキζSは、次の様になる。
ζS=G−εave・C ……(8)
【0045】
同様に、暗画素集団KについてのバラツキをζSとし、明画素B2についてのバラツキをζSとすると、次の様になる。
ζS=G−εave・C ……(9)
ζS=G−εave・C ……(10)
【0046】
バラツキマップ取得部14は、直接線成分マップεにおける暗画素Dの全てについて間接線成分のバラツキζSを求める。求められたバラツキζS,ζS,ζSは、バラツキマップ取得部14によって、縦横に配列され、バラツキマップζが生成される。
【0047】
<バラツキ率マップ取得ステップT7>
バラツキマップζは、バラツキ率マップ取得部15に送出される。バラツキ率マップ取得部15は、バラツキマップζにおけるバラツキζSを平均した平均値εaveを取得する。上述のように、平均値εaveは直接線成分マップε全体の平均ではない。そして、バラツキ率マップ取得部15は、バラツキマップζを構成するバラツキζSの各々を平均値εaveで除算してバラツキ率ηが縦横に配列したバラツキ率マップMηを生成する。
【0048】
以上が、被検体画像を取得する前の準備段階である。複数の被検体画像を取得する場合は、以降のステップを繰返すことになり、上述のステップT1〜ステップT7はいったん行っておけば足りる。
【0049】
<被検体画像取得ステップT8>
次に、FPD4のX線検出面にX線グリッド5を載置した状態で、天板2に被検体Mを載置してX線撮影を行う。このとき画像生成部11が生成する画像は、被検体Mの透視像が写りこんだ被検体画像ξである。この撮影が被検体撮影である。
【0050】
<被検体画像補正ステップT9>
被検体画像ξは、被検体画像補正部16に送出される。被検体画像補正部16では、グリッド減弱率マップγ、およびバラツキ率マップMηを基に被検体画像ξの各画素が示す放射線の強度を直接放射線の成分と間接放射線の成分とに分離する。被検体画像補正部16は、被検体画像ξにおける暗画素Dとこれに横方向から隣接する4つの画素の各々について、直接線成分ξPを求める。
【0051】
明画素B1には、直接線成分と間接線成分とが含まれている。明画素B1の画素値を示すX線強度をHとし、被検体Mを透過しX線グリッド5を透過する前の直接X線の強度をξPとし、明画素B1における直接線成分はξPとCとの積になる。また、X線グリッド5を透過した後の間接放射線の強度をρSとする。
【0052】
X線グリッド5に透過する前の間接X線の強度をξSとすると、これがX線グリッド5を透過する際にX線グリッド5の部分によってバラツキをもって吸収される。被検体画像ξにおける間接放射線成分ρSは、X線グリッド5を透過してきた後の間接放射線の強度であり、いわば見かけ上の間接放射線の成分なのである。X線グリッド5に透過する前の間接X線の強度を示すξSではない。ρSとξSとにはρS=ξS・ηという関係がある。したがって次のような関係が成り立つ。
=ξP・C+ρS=ξP・C+ξS・η ……(11)
【0053】
同様に、暗画素集団Kに属する画素値の平均が示すX線強度をHとし、明画素B2の画素値を示すX線強度をHとすると、次の様になる。
=ξP・C+ρS=ξP・C+ξS・η ……(12)
=ξP・C+ρS=ξP・C+ξS・η ……(13)
【0054】
なお、Cは、明画素B2おけるグリッド減弱率Cであり、Cは、暗画素集団Kにおけるグリッド減弱率Cの平均である。ξPは、明画素B2における直接線成分であり、ξPは、暗画素集団Kにおける直接線成分の平均である。ρS,ξSは、明画素B2における間接線成分であり、ρS,ξSは、暗画素集団Kにおける間接線成分の平均である。ここで、ξP=(ξP+ξP)/2であるという近似を行う。そして、一般に、間接X線の強度は隣接する画素の間でなだらかに変化することが知られているので、ξS=ξS=ξSと近似できる。上述の式(11)、(12)、(13)とこれらの近似を用いて直接線成分ξP,ξP,ξP,間接線成分ξS,ξS,ξSを求める。具体的には、次の様な式で表せる。
【0055】
ξS=ξS=ξS
=(H/C−2H/C+H/C)/(η/C−2η/C+η/C
……(14)
【0056】
被検体画像補正部16は、式(14)の関係で、被検体画像ξの間接線成分をいったん求めておいて、これを基に直接線成分ξP,ξP,ξPを求める。この様にして被検体画像補正部16は、被検体画像ξの各暗画素Dについて直接線成分ξP,ξP,ξPを求め、これを縦横に配列して直接線成分のみで構成される補正画像を取得する。この補正画像が表示部32に表示されて実施例1に係るX線透視撮影は終了となる。なお、上述の式(11)、(13)は本発明の明方程式に、式(12)は本発明の暗方程式に相当する。
【0057】
なお、直接線成分ξP,ξP,ξPは、X線グリッド5に入射する前の直接X線を示しているので、補正画像には吸収箔5aの影に由来する縞模様は写りこんでいない。
【0058】
以上のように、実施例1のX線撮影装置1によれば、エアー画像α,β、ファントム画像δおよび被検体画像ξを基に補正画像を取得する構成となっている。補正画像は被検体を出射した直接X線成分のみから取得されるので、間接X線によってコントラストが劣化していない鮮明なX線透視画像が取得できる。
【0059】
しかも、補正画像の取得において、吸収箔5aの影Sが写りこんでいない明画素Bに係る明方程式と、吸収箔5aの影Sが写りこんでいる暗画素集団Kに係る暗方程式を連立させて解くことで直接X線成分を求める。すなわち、吸収箔5aの影Sが暗画素集団Kのどこかに写りこんでいるものとして直接X線成分を求めるのである。FPD4におけるX線検出素子4aの配列に対して吸収箔5aの影Sが移動するようなことがあっても、吸収箔5aの影Sは、暗画素集団Kのいずれかに存在しており、吸収箔5aの影Sが暗画素集団Kから外れてしまうことがない。したがって、被検体画像補正部16は、連立方程式を確実に解くことができ、診断に好適な補正画像を取得することができる。
【0060】
また、暗画素集団Kは3つの画素で構成される。吸収箔5aの影Sの移動は、X線検出素子4aの配列における横方向に1画素分程度移動するだけである。したがって、暗画素集団Kを3つの画素に指定しておくことができる。暗画素集団Kが余りにも大きすぎると、画像のボケにつながる。上述の構成によれば、暗画素集団Kに含まれる画素数は、最低限のものとなっている。そして、被検体画像補正部16は、3つの方程式を連立させることにより被検体画像ξにおける直接X線成分を求める。この様な構成とすれば、確実に連立方程式を解くことができる。
【0061】
また、Cアーム移動制御部22の制御にしたがってX線管3とFPD4とは移動可能となっている。この移動には回転移動も含まれる。X線管3は重荷物であるので、Cアーム7を回転させると、Cアーム7が撓むことになる。これによってX線管3とFPD4との位置関係がわずかに(2mm程度)ずれる。すると、FPD4に写りこむX線グリッド5の吸収箔5aの影Sは、FPD4の横方向に検出素子1個分程度移動することになる。上述の構成によれば、この様な現象が生じても、収集箔の影Sは暗画素集団Kから横方向にはみ出すことがない。したがって、被検体画像ξの直接X線成分は確実に求められることになる。
【0062】
本発明は、上述の実施例の構成に限られず、次の様に変形実施することができる。
【0063】
(1)上述した実施例において、ファントム画像取得ステップT4〜バラツキ率マップ取得ステップT7とを省略した構成とすることもできる。直接線、間接線分離ステップT5で説明したように、グリッド減弱率マップγは、X線グリッド5の直接線成分についての減弱率であり、バラツキ率マップMηは、X線グリッド5の間接線成分の減弱率を表すものである。
【0064】
直接X線はグリッド形状の変化を精度良く反映するが、これに比べて間接X線はかなり一様であり変化が非常に少ない分布を示す。このためにグリッド減弱率C,C,Cの値は概ね70〜100%で分布する。これに対して、バラツキ率η,η,ηの値は概ね99〜101%で分布する。そこで、ファントム画像δの撮影は省略して、η=η=η=1とすることにより、高々数%以内の誤差で間接線成分を算出できる。被検体画像からこの間接線成分を減算することにより直接線画像を得ることができる。
【0065】
(2)上述した実施例において、X線撮影装置1には、単一のCアーム7が設けられていたが、本発明は、これに限らない。本発明は、Cアーム7を2つ設けたバイプレーンシステムに適応されてもよい。
【0066】
(3)上述した実施例は、医用の装置であったが、本発明は、工業用や、原子力用の装置に適用することもできる。
【0067】
(4)上述した実施例のいうX線は、本発明における放射線の一例である。したがって、本発明は、X線以外の放射線にも適応できる。
【符号の説明】
【0068】
α,β エアー画像
δ ファントム画像
ξ 被検体画像
B 明画素
D 暗画素
K 暗画素集団
N 隣接画素
1 X線撮影装置(放射線撮影装置)
3 X線管(放射線源)
4 FPD(放射線検出手段)
4a X線検出素子(放射線検出素子)
5 X線グリッド(放射線グリッド)
5a 吸収箔
7 Cアーム(支持体)
16 被検体画像補正部(被検体画像補正手段)
21 Cアーム移動機構(支持体移動手段)
22 Cアーム移動制御部(支持体移動制御手段)
33a,33b エアー画像記憶部(エアー画像記憶手段)
33d ファントム画像記憶部(ファントム画像記憶手段)
33h 被検体画像記憶部(被検体画像記憶手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線を照射する放射線源と、
放射線を検出する放射線検出素子が縦横に配列された放射線検出手段と、
前記放射線検出手段の放射線検出面を覆うように設けられるとともに縦方向に伸びた吸収箔が横方向に配列されている放射線グリッドと、
前記放射線検出手段から出力された検出信号を基に画像を生成する画像生成手段と、
前記放射線源と前記放射線検出手段との間に被検体を介在させないエアー撮影を行って生成されたエアー画像を記憶するエアー画像記憶手段と、
前記放射線源と前記放射線検出手段との間に被検体を介在させた被検体撮影を行って生成された被検体画像を記憶する被検体画像記憶手段と、
前記エアー画像、前記被検体画像を基に前記被検体画像に含まれる直接放射線の成分を求めて、これを基に補正画像を生成する被検体画像補正手段とを備え、
前記被検体画像補正手段は、各画像における前記吸収箔の影が写りこんでいる暗画素と前記暗画素に横方向から隣接する隣接画素で構成される暗画素集団における放射線強度の平均が直接放射線の成分と間接放射線の成分の和であるものした暗方程式と、前記吸収箔の影が写りこんでいない明画素における放射線強度が直接放射線の成分と間接放射線の成分の和であるものした明方程式から前記被検体画像の画素値における直接放射線の成分を求めることで前記補正画像を生成することを特徴とする放射線撮影装置。
【請求項2】
請求項1に記載の放射線撮影装置において、
前記放射線源と前記放射線検出手段との間にファントムを介在させたファントム撮影を行って生成されたファントム画像を記憶するファントム画像記憶手段を更に備え、
前記被検体画像補正手段は、前記エアー画像、前記被検体画像に加えて前記ファントム画像を基に補正画像を生成することを特徴とする放射線撮影装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の放射線撮影装置において、
前記暗画素集団は、横方向に並んだ3つの画素で構成されることを特徴とする放射線撮影装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3に記載の放射線撮影装置において、
前記被検体画像補正手段は、前記暗方程式と、前記暗画素集団に横方向から隣接する2つの明画素に係る明方程式との3つの方程式を連立させることにより前記被検体画像における直接放射線の成分を求めることを特徴とする放射線撮影装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の放射線撮影装置において、
放射線源と放射線検出手段とを支持する支持体と、
前記支持体を移動させる支持体移動手段と、
これを制御する支持体移動制御手段とを備えることを特徴とする放射線撮影装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−213902(P2010−213902A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−64097(P2009−64097)
【出願日】平成21年3月17日(2009.3.17)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】