説明

放射線検出装置

【課題】 放射性物質がベータ線およびそれ以外の放射線を放出する場合に、ベータ線による信号に基づいて被測定部位に存在する放射性物質を検出することが可能な放射線検出装置を提供する。
【解決手段】 検出部31に、ベータ線およびそれ以外の放射線(例えばガンマ線)の入射により発光する第1のシンチレータ1と、ベータ線不透過物質9で遮蔽され、ベータ線以外の放射線の入射により発光する第2のシンチレータ2とを設ける。また、演算部において、第1のシンチレータによる信号および第2のシンチレータによる信号を用いた演算により、被測定部位に存在する放射性物質を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性薬剤を体内に投与した後に、検出部を体内に挿入して、体内の組織に集積した放射性物質を検出する核医学検査などに好適に使用される放射線検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、核医学検査において、検出部を食道、胃、腸などの消化器に挿入して、体内の組織に集積した放射性物質を検出する放射線検出装置として、例えば特許文献1〜5に記載された放射線検出内視鏡がある。これらの放射線検出内視鏡は、内視鏡のプローブに放射線の検出部を併設したもので、内視鏡により癌の疑いがある部位を見出してその部位にプローブを接近させるとともに、上記検出部により放射線を検出してその部位が癌であるか否かを確認しようとするものである。
【0003】
この場合、上述した核医学検査においては、放射性薬剤として癌に集積する代表的な薬剤である18F−FDGが用いられることが多い。18F−FDGは、エネルギーの強いガンマ線とエネルギーの弱いベータ線の両方を放出する。
【0004】
【特許文献1】特許第2680052号公報
【特許文献2】特許第2682650号公報
【特許文献3】特許第2731170号公報
【特許文献4】特許第2731176号公報
【特許文献5】特許第2793844号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
食道、胃、腸などの消化器に生成する癌(消化器系癌)は、一般に厚みが薄いので放射性薬剤の集積量が少なく、そのため病巣部に集積した放射性薬剤からの放射線を体外から検出することは難しい。したがって、消化器系癌の核医学検査では、検出部を体内に挿入して検出部を病巣部に近づけた状態で、病巣部からの放射線を検出することが適当である。
【0006】
しかし、放射性薬剤としてガンマ線とベータ線の両方を放出する18F−FDGを用い、特許文献1〜5の放射線検出内視鏡の検出部(プローブ)を体内に挿入して病巣部からの放射線を検出する場合、下記(a)、(b)の問題が生じるものであった。
(a)ガンマ線はその特性から透過度が高いため、検出部に特定方向からの放射線のみをシンチレータに入射させるためのコリメータを設けても、ガンマ線はこのコリメータを突き抜ける。したがって、特許文献1〜5の放射線検出内視鏡では、検出部にコリメータを設けても、あらゆる方向から届くガンマ線がコリメータを突き抜けるため、特定方向からのガンマ線のみを検出することは難しい。そのため、特許文献1〜5の放射線検出内視鏡では、バックグラウンドからのガンマ線と病巣部からのガンマ線とを区別することができず、病巣部の特定は困難であると考えられる。
(b)これに対し、ベータ線はその特性から透過度が低いため、病巣部に検出部を近づけてベータ線を検出した場合、病巣部を特定できる可能性が高くなる。しかし、特許文献1〜5の放射線検出内視鏡では、ベータ線のみを検出することは困難である。
【0007】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたもので、放射性物質がベータ線およびそれ以外の放射線を放出する場合に、ベータ線による信号に基づいて被測定部位に存在する放射性物質を検出することが可能な放射線検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記目的を達成するため、ベータ線およびそれ以外の放射線の入射により発光する第1のシンチレータと、ベータ線不透過物質で遮蔽され、ベータ線以外の放射線の入射により発光する第2のシンチレータとを備えた検出部と、
前記第1のシンチレータによる信号および前記第2のシンチレータによる信号を用いた演算により被測定部位に存在する放射性物質を検出する演算部とを具備することを特徴とする放射線検出装置を提供する。
【0009】
本発明の放射線検出装置は、第1のシンチレータによってベータ線およびそれ以外の放射線による信号(第1のシンチレータによる信号)を取得し、ベータ線不透過物質で遮蔽された第2のシンチレータによってベータ線以外の放射線による信号(第2のシンチレータによる信号)を取得する。そして、第1のシンチレータによる信号および第2のシンチレータによる信号を用いた演算を行うことで、被測定部位に存在する放射性物質をベータ線による信号に基づいて検出することができる。
【0010】
この場合、上述した第1のシンチレータによる信号および第2のシンチレータによる信号を用いた演算の方法に特に限定はないが、例えば、下記(1)〜(3)の方法を採用することができる。
(1)第1のシンチレータによる信号と第2のシンチレータによる信号との差に基づいて被測定部位に存在する放射性物質を検出する方法。
(2)第1のシンチレータによる信号と第2のシンチレータによる信号との比に基づいて被測定部位に存在する放射性物質を検出する方法。
(3)第1のシンチレータによる信号と第2のシンチレータによる信号との差、および第1のシンチレータによる信号と第2のシンチレータによる信号との比に基づいて被測定部位に存在する放射性物質を検出する方法。
【0011】
本発明において、第1のシンチレータおよび第2のシンチレータの材質としては、例えば、プラスチックシンチレータ、ヨウ化セシウム、BGO、YAP(Ce)等を挙げることができる。また、ベータ線不透過物質の材質としては、例えば、ステンレス鋼、タングステン、タンタル、金、銀等を挙げることができる。
【0012】
また、本発明において、検出部における第1のシンチレータ、第2のシンチレータおよびベータ線不透過物質の配置態様としては、例えば下記(A)、(B)の態様を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
(A)放射線入射面が先方を向いた第1のシンチレータと、その後方の放射線入射面が先方を向いた第2のシンチレータとを配置するとともに、第1のシンチレータと第2のシンチレータとの間にベータ線不透過物質を介在させる態様。
(B)放射線入射面が外側方を向いた第1のシンチレータと、その内側方の放射線入射面が外側方を向いた第2のシンチレータとを配置するとともに、第1のシンチレータと第2のシンチレータとの間にベータ線不透過物質を介在させる態様。
【0013】
本発明では、前述した演算を行うに当たり、第1のシンチレータの発光および第2のシンチレータの発光をそれぞれ光電子増倍管に伝送して電気信号に変換し、演算部において、変換後の第1のシンチレータによる電気信号および前記第2のシンチレータによる電気信号を用いた演算により被測定部位に存在する放射性物質を検出することができる。
【0014】
また、本発明では、検出部にコンピュータ断層撮影装置における位置決めが可能な位置決め用部材を配設することができ、これによりコンピュータ断層撮影装置で得られる画面において検出部の位置を表示することができる。この場合、コンピュータ断層撮影装置としては、CT、PET、MRI等を挙げることができる。また、上記位置決め用部材としては、重金属、水、Gd水溶液等を用いたものを挙げることができる。
【0015】
本発明に係る放射線検出装置は、核医学検査における体内の組織に集積した放射性物質の検出の他、例えば、原子力発電所の配管汚染の探査、構造体の欠損の非破壊検査などにも適用可能である。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る放射線検出装置によれば、放射性物質がベータ線およびそれ以外の放射線を放出する場合に、ベータ線による信号に基づいて、被測定部位に存在する放射性物質を検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明するが、本発明は下記例に限定されるものではない。なお、以下では、放射性薬剤としてガンマ線およびベータ線を放出する18F−FDGを用いて核医学検査を行う場合を中心に本発明を説明する。
【0018】
(第1実施形態)
図1は本発明に係る放射線検出装置の第1実施形態を示す全体斜視図、図2は同装置の検出部の縦断面図、図3は同装置の検出部の横断面図、図4は同装置の回路構成図である。
【0019】
本例の放射線検出装置は、図1に示すように、装置本体40と、装置本体40に接続されたパーソナルコンピュータ41とを具備する。装置本体40は、計装筐体29、計装筐体29に接続されたガイドチューブ32、ガイドチューブ32の先端に設けられた検出プローブ(検出部)31、およびガイドチューブ32を移動させるオートプルバック装置28を有する。パーソナルコンピュータ41は、PC本体33およびディスプレイ34を有する。オートプルバック装置28は、パーソナルコンピュータ41によって制御され、検出部31を任意に進退、屈曲および回転させることができる。
【0020】
上記検出プローブ31の先端部には、第2図および第3図に示すように、正面(放射線検出面)が先方を向いた第1シンチレータ1と、その後方の正面(放射線検出面)が先方を向いた第2シンチレータ2とが互いに対向した状態で配置され、その間に円板状のベータ線不透過物質9が配置されている。
【0021】
第1シンチレータ1の外周部には円筒状の第1ライトガイド3の先端部が固定され、この第1ライトガイド3の後端部には第1シンチレータ用光ファイバ群(単線)5が連結されている。また、第2シンチレータ2の背面には円板状の第2ライトガイド4が固定され、この第2ライトガイド4の背面には第2シンチレータ用光ファイバ群(単線)6が連結されている。
【0022】
上述した各部材からなる構造体は、略円板状の先端キャップ7および遮光性のカバーチューブ8によって被覆されている。なお、第2シンチレータ2、第2ライトガイド4および第2シンチレータ用光ファイバ群(単線)6の外周と、第1ライトガイド3の内周との間にはモールド材33が配置されている。
【0023】
ガイドチューブ32内を通る第1シンチレータ用光ファイバ群(単線)5および第2シンチレータ用光ファイバ群(単線)6は、図4に示すように、分配器具10に連結され、さらに計装筐体29に接続されている。図4において、11は第1シンチレータ用光ファイバ群(束線)、12は第2シンチレータ用光ファイバ群(束線)、13、14は分配器具、15、16は第1シンチレータ用ランダム分配光ファイバ群、17、18は第2シンチレータ用ランダム分配光ファイバ群、19は光電子増倍管、20はディバイダ回路、21は増幅器、22は波高弁別器、23は同時計数回路、24はコントローラ、25は高圧電源、26は電源、27はパーソナルコンピュータ、28はオートプルバック装置、30は外部電源を示す。
【0024】
本例の放射線検出装置では、第1シンチレータ1の発光および第2シンチレータ2の発光をそれぞれ光ファイバ5、6により光電子増倍管19に伝送して電気信号に変換し、増幅器21、波高弁別器22、同時計数回路23、コントローラ24を使用して、光電子増倍管19で変換した第1シンチレータ1による電気信号および第2シンチレータ2による電気信号を用いた演算により被測定部位に存在する放射性物質を検出する。
【0025】
(第2実施形態)
図5は本発明に係る放射線検出装置の第2実施形態を示す全体斜視図、図6は同装置の検出部の縦断面図、図7は同装置の検出部の横断面図、図8は同装置の回路構成図である。
【0026】
本例の放射線検出装置は、図5に示すように、装置本体140と、装置本体140に接続されたパーソナルコンピュータ141とを具備する。装置本体140は、計装筐体139、計装筐体139に接続されたガイドチューブ143、ガイドチューブ143の先端に設けられた検出プローブ(検出部)142、およびガイドチューブ143を移動させるオートプルバック装置138を有する。パーソナルコンピュータ141は、PC本体146およびディスプレイ145を有する。オートプルバック装置138は、パーソナルコンピュータ141によって制御され、検出部142を任意に進退、屈曲および回転させることができる。
【0027】
上記検出プローブ142の先端部には、第6図および第7図に示すように、正面(放射線検出面)が外側方を向いた断面円弧形の板状の一対の第1シンチレータ103、104が互いに対向した状態で配置されている。また、第1シンチレータ103、104の内側方には、正面(放射線検出面)が外側方を向いた断面略半円形の板状の一対の第2シンチレータ101、102が互いに対向した状態で配置されている。そして、上記第1シンチレータ103、104と第2シンチレータ101、102との間、および第2シンチレータ101と102との間にはベータ線不透過物質109が配置されている。
【0028】
第1シンチレータ103、104の後端部には、第1シンチレータ用光ファイバ群(単線)106、108が連結されている。また、第2シンチレータ101、102の後端部には、第2シンチレータ用光ファイバ群(単線)105、107が連結されている。
【0029】
上述した各部材からなる構造体は、略半球状の先端キャップ110および遮光性のカバーチューブ111によって被覆されている。なお、ベータ線不透過物質109とカバーチューブ111との間の第1シンチレータ103、104が存在しない部分にはモールド材112が配置されている。
【0030】
ガイドチューブ143内を通る第1シンチレータ用光ファイバ群(単線)106、108および第2シンチレータ用光ファイバ群(単線)105、107は、図8に示すように、分配器具113に連結され、さらに計装筐体139に接続されている。図8において、114、115は第1シンチレータ用光ファイバ群(束線)、116、117は第2シンチレータ用光ファイバ群(束線)、118、119、120、121は分配器具、122、123、124、125は第1シンチレータ用ランダム分配光ファイバ群、126、127、128、129は第2シンチレータ用ランダム分配光ファイバ群、130は光電子増倍管、131はディバイダ回路、132は増幅器、133は波高弁別器、134は同時計数回路、135はコントローラ、136は高圧電源、137は電源、141はパーソナルコンピュータ、138はオートプルバック装置、144は外部電源を示す。
【0031】
本例の放射線検出装置では、第1シンチレータ103、104の発光および第2シンチレータ101、102の発光をそれぞれ光ファイバ106、108、105、107により光電子増倍管130に伝送して電気信号に変換し、増幅器132、波高弁別器133、同時計数回路134、コントローラ135を使用して、光電子増倍管130で変換した第1シンチレータ103、104による電気信号および第2シンチレータ101、102による電気信号を用いた演算により被測定部位に存在する放射性物質を検出する。
【0032】
上述した第1実施形態および第2実施形態の放射線検出装置を用いて核医学検査を行う場合、放射性薬剤(18F−FDG)を体内に投与した後に、検出部を体内、例えば食道、胃、腸などの消化器に挿入して、第1シンチレータによる信号(ガンマ線およびベータ線による信号)および第2シンチレータによる信号(ガンマ線のみによる信号)を得る。この場合、検出部の進退、屈曲および回転を適宜行う。なお、第1シンチレータに入射するガンマ線量と、第2シンチレータに入射するガンマ線量とは等しくなるように調整されている。そして、光電子増倍管で変換した第1シンチレータによる電気信号および第2シンチレータによる電気信号を用いた演算により、被測定部位に存在する放射性物質を検出する。
【0033】
この場合、演算方法としては、前述したように、第1シンチレータによる信号と第2シンチレータによる信号との差、および第1シンチレータによる信号に対する第2シンチレータによる信号の割合の一方または両方に基づいた方法を採用することができる。
【0034】
この場合、ディスプレイには、例えば、第1シンチレータによる信号に基づくガンマ線およびベータ線の合計測定値、第2シンチレータによる信号に基づくガンマ線のみの測定値、第1シンチレータによる信号と第2シンチレータによる信号との差に基づくベータ線のみの測定値などを表示することができる。さらに、検出部の走査による測定値の高い部位や低い部位等の位置情報を表示することもできる。
【0035】
第1実施形態および第2実施形態の放射線検出装置によれば、放射性薬剤としてガンマ線およびベータ線を放出する18F−FDGを用いた場合に、ベータ線による信号に基づいて、病巣部に存在する放射性物質を検出して、病巣部を特定することができる。すなわち、ベータ線はエネルギーが弱く透過度が低いため、病巣部以外の場所でのベータ線計数値は低く、病巣部付近からのベータ線計数値は高いため、両者を区別することができ、病巣部を特定することが可能である。
【0036】
この場合、第1実施形態の放射線検出装置は、第1シンチレータおよび第2シンチレータの放射線入射面が先方を向いているので、検出部の先方からの放射線を検出することができ、そのため胃のような広い器官における病巣部の検出に有効である。また、第2実施形態の放射線検出装置は、第1シンチレータおよび第2シンチレータの放射線入射面が外側方を向いているので、検出部の外側方からの放射線を検出することができ、そのため食道、腸のような狭い管状の器官における病巣部の検出に有効である。
【実施例】
【0037】
[実験1:検出器の性能評価]
本発明の効果を検証するために、下記のようなファントーム(模型)を作成し、下記条件でシミュレーション計算を行った。
【0038】
(ファントーム)
直径30cm、比重1の体組織で満たされた球体の中央に、第1実施形態の放射線検出装置のシンチレータに相当するプラスチックシンチレータ(直径6mm、厚さ1mm)が位置し、これに正対して2mm離れて直径10mm、厚さ3mmの癌が存在する。球体と同じく癌の比重も1とする。計測上問題となるのは検出対象部位以外からのバックグラウンド放射能であるが、本発明の放射線検出装置は主に上部消化管での使用を想定しているので、頭部、上肢、下肢等の遠隔部は無視できるものとし、直径30cmの球体をバックグラウンドとして置いた。
【0039】
(条件)
体重60Kgの患者に放射性薬剤として185MBqの18F−FDGを投与し、薬剤は均一に体内分布するものとする。すなわち、全投与量の内、体重比に応じて直径30cmの球体に放射能が分布する。ただし、18F−FDGは癌に正常組織の3〜8倍集積することが知られているので、ここでは癌に5倍集積するとする。また、本実験において使用したプラスチックシンチレータは、垂直に18F−FDGのベータ線が入射するときの計数効率は約20%、ガンマ線が入射するときの計数効率は約1%であるため、計数効率をそれぞれ20%、1%としてシミュレートする。
【0040】
(シミュレーション計算)
シンチレータによる計測(ここでは計算)は、18F−FDG投与後2時間で行うものとし、放射能は18F−FDGの半減期で補正したものを用いる。
1.バックグラウンド計数率
直径30cmの球体内に均一に分布する18F−FDGからシンチレータに入射する放射能を、ベータ線、ガンマ線双方について、球体内の距離、比重1の組織におけるベータ線およびガンマ線の透過率、シンチレータに対する入射放射能の立体角から計算し、それらの値にシンチレータのベータ線およびガンマ線に対する計数効率それぞれ20%、1%を乗じて計数率、すなわちベータ線カウント、ガンマ線カウントを求める。
2.癌からの計数率
直径10mm、厚さ3mmの癌からシンチレータへのベータ線およびガンマ線カウントを上記と同様の方法で求める。
【0041】
(結果)
1.バックグラウンド計数率
ベータ線計数率: 61.41c/s(β2)
ガンマ線計数率: 49.50c/s(γ2)
合計:110.91c/s
2.癌からの計数率
ベータ線計数率:10.67c/s(β1)
ガンマ線計数率: 4.53c/s(γ1)
【0042】
(18F−FDGのベータ線に対する検出限界値と測定に要する時間)
癌から検出されたベータ線に対する本検出器の検出限界は、バックグラウンドの計数値の変動範囲上限と見ることができる。バックグラウンド計数値の変動範囲上限は、バックグラウンドの合計計数率をもとにした測定時間の関数であり、カイザーの3σ法により下記式(X)で求められる。
(3/2)×{(3/T)+[(3/T)+8Nb/T]1/2} …(X)
Nb:ガンマ線とベータ線のバックグラウンド計数率の合計
T:測定時間
【0043】
本検出器の場合、癌から検出されたベータ線の計数率は10.67c/sであるから、10.67c/s=(3/2)×{(3/T)+[(3/T)+8×110.91/T]1/2}となり、これを解くとT=18.34となる。すなわち、本検出器は、1箇所の計測に18.34秒の時間をかければ、ベータ線の計数値がバックグラウンドの変動範囲の計数値を超えるので、高い信頼性で癌を検出することができる。
【0044】
(ベータ線計数値の計測)
本検出器により、1箇所当たりの計測に19秒をかけた場合の測定は以下のとおりとなる。
ベータ線およびガンマ線の計数率の合計=(β1+β2+γ1+γ2)×19=2396.09c/s
ガンマ線のみの計数率の合計=(γ1+γ2)×19=1026.09c/s
その差1369.52c/sがベータ線の計数値である。
【0045】
[実験2:検出器の性能評価]
本発明の効果を検証するために、下記のようなファントーム(模型)を作成し、下記条件でシミュレーション計算を行った。
【0046】
(ファントーム)
シンチレータとして、第2実施形態の放射線検出装置のシンチレータに相当するプラスチックシンチレータ(縦横6×8mm、厚さ1mm)を用いたこと以外は、実験1のファントームと同様とした。
【0047】
(条件)
実験1の条件と同様とした。
【0048】
(シミュレーション計算)
実験1の計算と同様とした。
【0049】
(結果)
1.バックグラウンド計数率
ベータ線計数率:162.56c/s(β2)
ガンマ線計数率: 87.89c/s(γ2)
合計:250.45c/s
2.癌からの計数率
ベータ線計数率:14.86c/s(β1)
ガンマ線計数率: 6.30c/s(γ1)
【0050】
(18F−FDGのベータ線に対する検出限界値と測定に要する時間)
実施例1と同様に18F−FDGのベータ線に対する検出限界値と測定に要する時間を求める。バックグラウンド計数値の変動範囲上限は、バックグラウンドの合計計数率をもとにした測定時間の関数であり、カイザーの3σ法により前記式(X)で求められる。本検出器の場合、Nb(ガンマ線とベータ線のバックグラウンド計数率の合計)=250.45c/sである。
T:測定時間
【0051】
本検出器の場合、癌から検出されたベータ線の計数率は14.86c/sであるから、14.86c/s=(3/2)×{(3/T)+[(3/T)+8×250.45/T]1/2}となり、これを解くとT=22.23となる。すなわち、本検出器は、1箇所の計測に22.23秒の時間をかければ、ベータ線の計数値がバックグラウンドの変動範囲の計数値を超えるので、高い信頼性で癌を検出することができる。
【0052】
(ベータ線計数値の計測)
本検出器により、1箇所当たりの計測に23秒をかけた場合の測定は以下のとおりとなる。
ベータ線およびガンマ線の計数率の合計=(β1+β2+γ1+γ2)×23=6247.03c/s
ガンマ線のみの計数率の合計=(γ1+γ2)×23=2164.53c/s
その差4082.5c/sがベータ線の計数値である。
【0053】
以上のように、(バックグランドが均一な条件下では、)癌が存在する場合は存在しない場合に比べてベータ線およびガンマ線の計数率とガンマ線のみの計数率との差および比が大きくなる。プローブを実際に消化管内で走査した場合、バックグランド計数値が変動することが考えられるが、上記実験の通りベータ線計数値の変化が変動範囲内であるか変動範囲を超えるものであるかを逐次演算することにより癌を検出することができる。
【0054】
上述した実験により、本発明に係る放射線検出装置は、実際の計測上で最も問題となるバックグラウンド下でも、被測定部位に存在する放射性物質を検出する確度高く検出できることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明に係る放射線検出装置の第1実施形態を示す全体斜視図である。
【図2】同装置の検出部の縦断面図である。
【図3】同装置の検出部の横断面図である。
【図4】同装置の回路構成図である。
【図5】本発明に係る放射線検出装置の第2実施形態を示す全体斜視図である。
【図6】同装置の検出部の縦断面図である。
【図7】同装置の検出部の横断面図である。
【図8】同装置の回路構成図である。
【符号の説明】
【0056】
31 検出部
1 第1シンチレータ
2 第2シンチレータ
9 ベータ線不透過物質
5 第1シンチレータ用光ファイバ群(単線)
6 第2シンチレータ用光ファイバ群(単線)
19 光電子増倍管
22 波高弁別器
23 同時計数回路
24 コントローラ
142 検出部
103 第1シンチレータ
104 第1シンチレータ
101 第2シンチレータ
102 第2シンチレータ
109 ベータ線不透過物質
106 第1シンチレータ用光ファイバ群(単線)
108 第1シンチレータ用光ファイバ群(単線)
105 第2シンチレータ用光ファイバ群(単線)
107 第2シンチレータ用光ファイバ群(単線)
130 光電子増倍管
132 増幅器
133 波高弁別器
134 同時計数回路
135 コントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベータ線およびそれ以外の放射線の入射により発光する第1のシンチレータと、ベータ線不透過物質で遮蔽され、ベータ線以外の放射線の入射により発光する第2のシンチレータとを備えた検出部と、
前記第1のシンチレータによる信号および前記第2のシンチレータによる信号を用いた演算により被測定部位に存在する放射性物質を検出する演算部とを具備することを特徴とする放射線検出装置。
【請求項2】
検出部において、放射線入射面が先方を向いた第1のシンチレータと、その後方の放射線入射面が先方を向いた第2のシンチレータとを配置するとともに、前記第1のシンチレータと前記第2のシンチレータとの間にベータ線不透過物質を介在させたことを特徴とする請求項1に記載の放射線検出装置。
【請求項3】
検出部において、放射線入射面が外側方を向いた第1のシンチレータと、その内側方の放射線入射面が外側方を向いた第2のシンチレータとを配置するとともに、前記第1のシンチレータと前記第2のシンチレータとの間にベータ線不透過物質を介在させたことを特徴とする請求項1に記載の放射線検出装置。
【請求項4】
前記第1のシンチレータの発光および前記第2のシンチレータの発光をそれぞれ光電子増倍管に伝送して電気信号に変換し、前記演算部において、変換後の前記第1のシンチレータによる電気信号および前記第2のシンチレータによる電気信号を用いた演算により被測定部位に存在する放射性物質を検出することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の放射線検出装置。
【請求項5】
前記ベータ線以外の放射線はガンマ線であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の放射線検出装置。
【請求項6】
前記検出部にコンピュータ断層撮影装置における位置決めが可能な位置決め用部材を配設したことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の放射線検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−10332(P2007−10332A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−187945(P2005−187945)
【出願日】平成17年6月28日(2005.6.28)
【出願人】(000230250)日本メジフィジックス株式会社 (75)
【出願人】(501209357)有限会社 エスディー技研 (9)
【出願人】(594118958)株式会社ユニバーサル技研 (11)
【出願人】(502109050)ファイバーテック株式会社 (3)
【Fターム(参考)】