説明

放電ランプ

【課題】より寿命の長い放電ランプを提供する。
【解決手段】焼結電極21の円錐部の高さを1としたときに、円錐部の先端から0.05以上の高さに相当する焼結電極21の一部を露出させてタングステンカーバイド層を焼結電極21に形成する。これにより、焼結電極21の蒸発を効率よく抑制することができるので、より寿命の長いショートアーク水銀ランプを提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、露光装置などに使用される放電ランプに関する。
【背景技術】
【0002】
放電ランプは、楕円形の放電空間を有する石英ガラス製のバルブを備えている。放電空間内には、タングステンからなる陽極と陰極の電極が対向して配置されるとともに、水銀、キセノンが封入される。陽極と陰極との間でアーク放電が形成されて発光する。
【0003】
易電子放出物質であるアルカリ土類金属を含有した焼結電極を用いた放電ランプも知られている(特許文献1参照)。陰極にこのような焼結電極を使用することで、エミッション性が向上し、アーク放電の形成、持続が容易となる。
【特許文献1】特開平9−129179号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の焼結電極の融点はタングステンよりも低いため焼結電極が蒸発してバルブの内面に付着し、黒化あるいは結晶化して白濁することによりランプの寿命が低下する問題があった。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、より寿命が長い放電ランプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る放電ランプは、放電空間を備えたバルブと、放電空間に配置された陽極と、陽極に対向して配置され、アルカリ土類系の易電子放出物質と高融点金属の混合物である焼結電極を備えた陰極と、を有し、焼結電極は、陽極に対向する先端部に円錐部を備え、円錐部の高さを1としたときに円錐部の先端から0.05の高さに相当する位置から円錐部の底面に向かって円錐部の表面に蒸発防止膜が形成されていることを特徴とする。
【0007】
本発明にあっては、アルカリ土類系の易電子放出物質と高融点金属の混合物である焼結電極の円錐部の高さを1としたときに、円錐部の先端から0.05の高さに相当する位置から円錐部の底面に向けて蒸発防止膜を形成することにより、焼結電極の蒸発を抑制することができるので、より寿命の長い放電ランプを提供することが可能となる。
【0008】
上記放電ランプにおいて、前記円錐部の先端から0.13以上0.32以下の高さに相当する位置から前記蒸発防止膜が形成されていることが、放電ランプの寿命をより長くするうえで望ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、より寿命が長い放電ランプを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。
【0011】
図1は、本実施の形態におけるショートアーク水銀ランプの構成を示す側面図である。同図に示すショートアーク水銀ランプ1は、対向して配置された陰極2と陽極3の2つの電極と、紫外線の透過性が高く耐熱性に優れた石英ガラス製のバルブ4とを備える。陰極2と陽極3は、バルブ4に形成された楕円形の放電空間内に対向して配置される。バルブ4の放電空間内には、水銀とキセノンガスが封入される。バルブ4の両端は、金属箔導体6により封着される。陰極2と陽極3はそれぞれ金属箔導体6に接合される。金属箔導体6は、それぞれの電極に電気を通すとともに、バルブ4内に封入したガスの漏れを防ぐ役割を果たす。ショートアーク水銀ランプ1を照明装置に保持し、電気の導通を図るための口金7が金属箔導体6に取り付けられる。バルブ4外面には、配光角を除いた部分から金属箔胴体6にかけて金または白金を用いた保温膜5が形成される。
【0012】
ショートアーク水銀ランプ1は、定電力電源により陰極2と陽極3に直流の高電圧を印加し、水銀蒸気圧が数十気圧以上になる条件で点灯させる。陰極2と陽極3との間で発生するアーク放電から発光が得られる。ショートアーク水銀ランプ1は、電極間の距離が短く、点光源に近い発光が得られるので、反射ミラーなどの光学系装置を備えた照明器具に組み込んで使用する。例えば、半導体製造装置、液晶製造用装置の微細加工用装置の光源として使用される。
【0013】
図2は、ショートアーク水銀ランプ1の陰極2を拡大して示した側面図である。同図に示す陰極2は、高融点金属であるタングステン粉末と易電子放出物質であるアルミン酸バリウム粉末を焼結させた焼結材を用いた焼結電極21とその焼結電極21を保持するタングステン棒22を備える。
【0014】
焼結電極21は、符号21A,21Bで示す円錐部と符号21Cで示す円柱部で構成される。符号21Bで示す部分は、電極の蒸発を防止するためのタングステンカーバイド層で覆われている。熱電子を放出する符号21Aで示す先端部及び、円錐部より温度が低い符号21Cで示す円柱部は焼結材が露出している。
【0015】
陰極2にアルカリ土類系の易電子放出物質を添加した焼結材を用いることにより、エミッション性が向上し、放電の形成、持続が容易となる。また、タングステンカーバイト層などの蒸発防止膜で焼結電極21の一部を覆うことにより、焼結材の蒸発を抑制することができる。
【0016】
図2に示す焼結電極21は、円錐部の高さを1としたときに、円錐部の底面から0.8の割合に相当する高さの部分をタングステンカーバイド層で覆っている。つまり、焼結電極21の先端から0.2の割合に相当する高さの部分で焼結材が露出するように、先端から0.2の高さに相当する位置から円錐部の底面に向かってタングステンカーバイド層を形成している。
【0017】
陰極2に対向して配置される陽極3は、放出された熱電子を受ける平坦部を備えている。陽極3は融点の高いタングステンを主成分とする。
【0018】
図3は、円錐部にタングステンカーバイド層を形成した割合とランプの寿命との関係を示すグラフである。縦軸に、ランプ寿命が2000時間の場合を100%としたときのランプ寿命を示し、横軸に、円錐部の高さを1としたときに円錐部の底面からタングステンカーバイド層を形成した高さの割合を示している。同図のグラフ左端に示す高さの割合が1のときは、円錐部の表面全体をタングステンカーバイド層で覆っている。一方、グラフ右端の高さの割合が0のときは、円錐部にタングステンカーバイド層が形成されていない。
【0019】
同図に示すように、円錐部底面からの高さの割合がおよそ0.8のときにもっともランプ寿命が長くなる。高さの割合が0.8までの間は、形成したタングステンカーバイド層によって焼結材の蒸発が抑制されるので、タングステンカーバイド層に覆われた高さが増加するに従って寿命が長くなる。
【0020】
一方、高さの割合が0.8を超えると、タングステンカーバイドのエミッション性が低いため電極先端部の温度が上昇し、電極の蒸発を助長するのでランプ寿命が短くなると考えられる。高さの割合が0.95を超えるとランプ寿命がタングステンカーバイド層を形成しないときよりも短くなる。
【0021】
よって、円錐部の高さを1としたときに、電極先端部からすくなくとも0.05の高さに相当する位置から円錐部の底面に向かってタングステンカーバイド層を形成するとよい。また、同図に示すグラフより、タングステンカーバイド層の高さの割合が0.87〜0.68、つまり露出する部分の高さの割合が0.13〜0.32のときには、ランプ寿命が約120%以上になる。
【0022】
したがって、本実施の形態によれば、焼結電極21の円錐部の高さを1としたときに、円錐部の先端から0.05以上の高さに相当する焼結電極21の一部を露出させてタングステンカーバイド層を焼結電極21に形成することにより、焼結電極21の蒸発を効率よく抑制することができるので、より寿命の長いショートアーク水銀ランプを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】一実施の形態におけるショートアーク水銀ランプの構成を示す側面図である。
【図2】図1に示すショートアーク水銀ランプの陰極の構成を示す拡大側面図である。
【図3】図1に示すショートアーク水銀ランプの陰極に形成された蒸発防止膜の高さに対するランプ寿命を示すグラフである。
【符号の説明】
【0024】
1…ショートアーク水銀ランプ
2…陰極
21…焼結電極
22…タングステン棒
3…陽極
4…バルブ
5…保温膜
6…金属箔導体
7…口金

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放電空間を備えたバルブと、
前記放電空間に配置された陽極と、
前記陽極に対向して配置され、アルカリ土類系の易電子放出物質と高融点金属の混合物である焼結電極を備えた陰極と、を有し、
前記焼結電極は、前記陽極に対向する先端部に円錐部を備え、前記円錐部の高さを1としたときに前記円錐部の先端から0.05の高さに相当する位置から前記円錐部の底面に向かって前記円錐部の表面に蒸発防止膜が形成されていることを特徴とする放電ランプ。
【請求項2】
前記円錐部の先端から0.13以上0.32以下の高さに相当する位置から前記蒸発防止膜が形成されていることを特徴とする請求項1記載の放電ランプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−16112(P2009−16112A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−175006(P2007−175006)
【出願日】平成19年7月3日(2007.7.3)
【出願人】(000111672)ハリソン東芝ライティング株式会社 (995)
【Fターム(参考)】