説明

故障予知システム及び故障予知方法

【課題】負荷変動等に起因して正常な状態を異常と誤判定してしまうことが無く、故障の前兆を高精度にて検出することが出来る故障予知システム及び故障予知方法の提供。
【解決手段】、故障予知の対象となる機器(例えば、内燃機関1)の運転状態を示すパラメータ(例えば、排気温度)を計測する計測手段(センサ4)と、該計測手段(4)の計測結果に基いて故障の可能性を判定する(故障予知を行う)制御手段(コントロールユニット5)とを備え、該制御手段(5)は、計測された前記パラメータの時間変化を示す波形(Fx)を故障の前兆を示す既知の波形(F0)と比較し、当該比較結果より故障の可能性を判定する(故障予知を行う)判定ユニット(7)を備えていることを特徴としている

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象となる各種機器(例えば、内燃機関)の故障を予知する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば内燃機関の様な機器における故障の前兆は一刻も早く検出することが望まれる。早期に運転を停止すれば、当該機器の例えば非常停止の回避や機関の破損防止が可能となるからである。
【0003】
各シリンダから排気温度を計測して、最大最小値の差が大きくなると異常と判定する技術(例えば、特許文献1参照)や、全シリンダの平均値からの偏差が閾値以上になると異常と判定する技術(例えば、特許文献2参照)が存在する。
【0004】
或いは、多数のセンサを使用して温度や振動等を検出し、検出されたパラメータにおける複数の変化傾向を組み合わせることにより異常を判定する技術も存在する(例えば、特許文献3、特許文献4参照)。
【0005】
ここで、図16〜図21を参照して、従来技術の問題点を説明する。
内燃機関の故障の前兆は、測定データの特徴的な波形パターンとして観測されることが多い。例えば、図16に示すのは6気筒エンジンの各気筒からの排気温度の時間波形をプロットしたものである。この時2番気筒に間歇失火が見られており、これが続くと燃焼異常による緊急停止につながることが分かっている。例えば、この間歇失火現象を検出することを考える。図16は各気筒からの排気温度の1日(24時間)の経過を示したものであるが、図16を更に詳細に検討すると、2番気筒の温度が瞬間的に低下することが繰り返されていることに気付く。図1の1部を拡大した図17を検討すると、矢印Y1で示された箇所にその現象が現れており、特徴的な波形であることが分かる。これは燃焼しないサイクルの間にシリンダを通過してきた未燃焼混合気によって排気温度が低下し、その後、燃焼が復活することで徐々に排気温度が上昇するのである。このような波形パターンは故障の種類によって様々であると考えられる。
【0006】
最大最小値の差が大きくなると異常と判定する技術(特許文献1)や、全シリンダの平均値からの偏差が閾値以上になると異常と判定する技術(特許文献2)、或いは、多数のセンサで計測した変化傾向を組み合わせることにより異常を判定する技術(特許文献3、特許文献4)であっても、図16、図17で示す様な内燃機関の排気音のデータについては、故障の前兆(図17における2番気筒の矢印Y1の部分)の検出は可能である。
しかし、例えば機関を停止しようとして、急激に負荷を落とした瞬間には、図18の符号Y2で示した部分の様に、排気温度の急激な低下が発生する。係る排気温度の低下(図18の符号Y2)は、負荷変動に対する正常な反応であり、故障の前兆ではない。
しかし、上述した従来技術では、急激な負荷変動に対する正常な応答であっても、「故障の前兆」と誤判定してしまう。
【0007】
例えば、偏差を用いて判定する従来技術(特許文献2)によれば、図16、図18の計測期間における2番気筒の温度の全気筒排気温度の平均値からの偏差の解析結果を図19、図20の様に表している。即ち、図19が故障前兆である間歇失陥発生時を、図20が正常時のデータを解析したものである。
【0008】
図19において、故障前兆を検知しようとすると、その閾値(図19における破線)は例えば−8℃程度に設定しなくてはならないが、そうすると例えば図20の矢印Y3の時刻に波形は閾値(図20における破線)を下回っており、誤報を発する。これは例えばエンジンが停止しようとして負荷が大きく変動したため排気温度が急速に変化した時刻(図18の符号Y2)に対応している。
【0009】
或いは、多数のセンサを使用して温度や振動等を検出し、その変化傾向を組み合わせることにより異常を判定する従来技術(特許文献3、特許文献4)においては、負荷変動が激しい時に正常状態であるにもかかわらず、故障前兆として捉えてしまう場合がある。そのような例として、図18の一部を拡大したものを図21に示す。
図21において、5番気筒のみ矢印Y4において温度が下がっているが、他の気筒は温度が低下していない。しかし、5番気筒の排気温度と、他の気筒の排気温度とを組み合わせて異常判定を行った場合には、5番気筒は正常であるにもかかわらず、異常として誤報が出てしまう。
【0010】
換言すれば、瞬時値を比較する従来技術では、正常な動き(負荷変動などに起因する正常な波形)を異常と判定してしまう、すなわち誤判定を起こしてしまうという問題点が存在するのである。
【0011】
従来技術において、例えば負荷変動等に起因する正常な波形を異常と判定してしまうことを防止するためには、特別のロジックを採用する必要があるが、係るロジックを採用した場合には、故障予知に係る制御が複雑になるという問題を有している。
【特許文献1】特公昭53−4568号公報
【特許文献2】特開昭61−201135号公報
【特許文献3】特許第3053304号公報
【特許文献4】特許第3053305号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上述した従来技術の問題点に鑑みて提案されたものであり、負荷変動等に起因して正常な状態を異常と誤判定してしまうことが無く、故障の前兆を高精度にて検出することが出来る故障予知システム及び故障予知方法の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の故障予知システムは、故障予知の対象となる機器(例えば、内燃機関1)の運転状態を示すパラメータ(例えば、排気温度)を計測する計測手段(温度センサ4)と、該計測手段(4)の計測結果に基いて故障の可能性を判定する(故障予知を行う)制御手段(コントロールユニット5)とを備え、該制御手段(5)は、計測された前記パラメータの時間変化を示す波形を故障の前兆を示す既知の波形と比較し、当該比較結果より故障の可能性を判定する(故障予知を行う)判定ユニット(7)を備えていることを特徴としている(請求項1)。
【0014】
本発明は、再現性の良い挙動をするものであれば、外燃機関の故障予知や、プラント一般の故障予知についても適用可能であるが、本発明の故障予知の対象となる機器としては、例えば内燃機関が好ましい。
【0015】
本発明において、前記判定ユニット(7)は、計測された前記パラメータの時間変化を示す波形と故障の前兆を示す既知の波形との相関性を求め、その相関性が所定値以上である場合に故障の前兆が発生したと判断する制御を行う様に構成されているのが好ましい(請求項2)。
ここで、計測された前記パラメータの時間変化を示す波形と故障の前兆を示す既知の波形との相関性(相関値C(t))を求めるに際しては、波形パターン同士を比較して相関性を判定するための手法であれば、公知の手法を全て適用することが可能である。特に、いわゆる「相関演算」により相関性を求めることが好適である。
【0016】
さらに詳細に述べると、前記判定ユニット(7)は、前記計測手段(温度センサ4)によって計測された前記パラメータ(例えば、内燃機関1の排気温度)を所定の時間に亘って格納するデータ格納ユニット(73)と、該データ格納ユニット(73)に格納された所定の時間に亘るデータを標準化する標準化ユニット(74)と、標準化されたデータとフィルタ係数(記号h(k)で示す)とにより相関値(記号C(t)で示す)を求める相関値演算ユニット(75)と、求められた相関値と予め設定された閾値とを比較する比較ユニット(76)と、該比較ユニット(76)の比較結果より故障の前兆が発生したか否かを判断する判断ユニット(77)とを有しているのが好ましい(請求項3)。
前記デジタルフィルタ係数は、予め決定されて制御手段(5)内の記憶手段(データベース8)に格納されていても良い。
【0017】
或いは、前記制御手段(5)はフィルタ係数決定ユニット(6)を有しており、該フィルタ係数決定ユニット(6)は、故障の前兆を示す既知の波形に相当する複数の前記パラメータのデータ(例えば、失火した際における内燃機関の排気温度)を重み付け処理を行う(例えば、ハミング窓を乗じる)重み付けユニット(64)と、重み付けされた複数のデータを標準化する標準化ユニット(65)とを有しているのが好ましい(請求項4)。
【0018】
本発明の故障予知方法は、計測手段(温度センサ4)により故障予知の対象となる機器(例えば、内燃機関1)の運転状態を示すパラメータ(例えば、内燃機関1の排気温度)を計測する計測工程(S11)と、計測された前記パラメータの時間変化を示す波形を故障の前兆を示す既知の波形と比較し、当該比較結果より故障の可能性を判定する(故障予知を行う)判定工程(S3)、とを有していることを特徴としている(請求項5)。
【0019】
本発明において、前記判定工程(S3)では、計測された前記パラメータの時間変化を示す波形と故障の前兆を示す既知の波形との相関性(相関値C(t))を求め、その相関性が所定値以上である場合に故障の前兆が発生したと判断するのが好ましい(請求項6)。
【0020】
さらに詳細に述べると、前記判定工程(S3)は、計測手段(センサ4)によって計測された前記パラメータ(例えば、内燃機関1の排気温度)を所定の時間に亘ってデータ格納ユニット(73)に格納し(S22)、データ格納ユニット(73)に格納された所定の時間に亘るデータを標準化ユニット(74)により標準化し(S23)、相関値演算ユニット(75)で標準化されたデータとフィルタ係数(記号h(k)で示す)とにより相関値(記号C(t)で示す)を求め(S25)、求められた相関値と予め設定された閾値とを比較ユニット(76)により比較し(S26)、その比較結果より故障の前兆が発生したか否かを判定する(S27)のが好ましい(請求項7)。
【0021】
ここで、前記フィルタ係数としては、予め決定されて制御手段(5)内の記憶手段(メモリ;データベース8)に格納されているデータを用いることが可能である。
或いは、前記制御手段(5)におけるフィルタ係数決定ユニット(6)において、故障の前兆を示す既知の波形に相当する複数の前記パラメータのデータ(例えば、失火した際における内燃機関の排気温度)に重み付け処理を行い(例えば、ハミング窓を乗じる)且つ標準化することによって得られたデータを、前記デジタルフィルタ係数として用いることが好ましい(請求項8)。
【0022】
本発明では、システムでは、判定ユニット(7)はコンピュータ(パーソナルコンピューター、スーパーコンピュータのみならず、情報処理機能を有する機器の全てを包含する意味の文言として、本明細書では使用する)で構成しても良いが、実施に際して、一部の制御をオペレータ等の人手により行う様に構成することが可能である。
これに関連して、本発明の故障予知方法では、全ての工程が自動制御されている場合と、一部の工程をオペレータ等が人手により行われる場合の双方を包含することが出来る。
【発明の効果】
【0023】
上述する構成を具備する本発明によれば、故障の前兆現象を、運転状態を示すパラメータの波形パターンの時間変化として捉え、故障の前兆として既知である波形パターンと計測された波形パターン(診断対象データ)とを比較し、相関性が高い場合には故障の前兆が発生したと判定している。
例えば内燃機関(1)では、故障の前兆として、運転状態を示すパラメータ(例えば、排気温度)において、特定の揺らぎ波形が観察出来る。例えば内燃機関(1)の場合、故障の前兆として間歇的に失火が生じるが、当該失火が生じる際には、運転状態を示すパラメータ(例えば排気温度)において特定の揺らぎ波形が観察される。
従って、例えば内燃機関(1)における当該パラメータについて、故障の前兆である失火が生じる際に波形と相関性の高い波形が観察されれば、故障の前兆と判断出来る。
【0024】
すなわち、本発明(請求項1の発明)によれば波形同士を比較しているので、従来技術のように瞬時値や微分情報を対比する場合に比較して、検出精度が向上し、且つ、正常な状態であるにもかかわらず異常と判定されてしまうこと(誤判定)が防止されるのである。
例えば、負荷の急激な変動が発生すると、例えば排気温度の時間的変化を示す波形はステップ状に変化する。従って、瞬時値のみを見ていたのでは、かかるステップ状の変化は正常な動き(負荷変動などに起因する正常な波形)であるにも拘らず、変化が急激であるがために異常と判定してしまう。
これに対して、排気温度の時間的変化を示す波形自体を、故障の前兆である失火が生じる際に波形と比較する本発明によれば、急激な変化が生じたとしても、波形自体が失火等の異常事態における波形と異なっていれば、正常な運転状態を異常と判定してしまうことが無い。
【0025】
そして従来技術においては、上述した様に正常な運転状態を異常と判定してしまうこと(例えば負荷変動等に起因する急激な波形変化が生じた場合に、正常な運転状態を異常と誤判定すること)を防止するためには、特別なロジックを採用する必要があり、制御が複雑になってしまっていた。
これに対して本発明では、波形同士を比較しているので、例えば負荷変動等に起因する急激な波形の変化のみを以って、正常な運転状態を異常と誤判定してしまうことがない。その結果、従来技術で採用されているような特別な制御ロジックを用いる必要が無く、制御を徒に複雑化してしまうことが防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
先ず、図1〜図13を参照して第1実施形態を説明する。
【0027】
図1は、本実施形態の故障予知システムの全体的な構成を示すブロック図である。
図1において、本実施形態の故障予知システムは、吸気マニフォルド2及び排気マニフォルド3を有し、#1〜#6の6気筒を備えた内燃機関(エンジン)1の前記排気マニフォルド3の各分岐管31〜36に取り付けられた排気温度センサ(以降、温度センサという)4と、この排気温度センサ4からの情報を入力信号ラインLiで受信し、当該エンジン1に故障となる前兆があるか否かを判定する制御手段であるコントロールユニット5と、そのコントロールユニット5で判定した結果をラインLで受信し、故障となる前兆があることを表示する表示手段であるモニタ9とを有している。
【0028】
なお、図1では、故障予知の対象として、#1〜#6の6気筒を備えた内燃機関が示されているが、再現性の良い挙動をするのであれば、外燃機関やプラント一般を故障予知の対象とすることが可能である。
【0029】
図2は、前記コントロールユニット5の構成を示すブロック図である。
図2において、コントロールユニット5は、排気マニフォルド3の前記各分岐管31〜36に介装された排気温度センサ4からの情報を受信するインタフェース51と、該インタフェース51から受信したデータによってフィルタ係数h(k)を決定するフィルタ係数h(k)決定ユニット6と、該フィルタ係数h(k)決定ユニット6で決定されたフィルタ係数h(k)を一端格納するデータベース8と、インタフェース51から受信したデータ及びデータベース8に格納された前記フィルタ係数h(k)とによって当該エンジンに故障の前兆があるか否かを判定する判定ユニット7とから構成されている。
【0030】
図3は、前記フィルタ係数h(k)決定ユニット6の構成を示すブロック図である。
図3において、フィルタ係数h(k)決定ユニット6は、排気マニフォルド3の前記各分岐管31〜36に介装された温度センサ4からの情報を受信するインタフェース61と、計時手段となるタイマ62と、インタフェース61から受信したデータを一端格納するデータ格納ユニット63と、データ格納ユニット63に格納されたデータを引き出し、重み付け(ハミング窓の乗算)を行う重み付けユニット64と、重み付けされたデータを更に標準化する標準化ユニット65とから構成され、標準化されたデータは前記コントロールユニット5のデータベース8に記憶される。
【0031】
図4は、図2のコントロールユニット5における判定ユニット7の構成を示すブロック図である。
図4において、判定ユニット7は、排気マニフォルド3の前記各分岐管31〜36に介装された温度センサ4からの情報を受信するインタフェース71と、計時手段となるタイマ72と、インタフェース71から受信したデータを一端格納するデータ格納ユニット73と、データ格納ユニット73に格納されたデータを引き出し、そのデータを標準化する標準化ユニット74と、標準化されたデータに前記フィルタ係数決定ユニット6において決定され、一旦前記データベース8に記憶されたフィルタ係数h(k)を用いて相関値C(t)を演算する相関値演算ユニット75と、演算された相関値C(t)とデータベースに記憶された相関値C(t)の閾値とを比較する比較ユニット76と、その比較値によって当該エンジンが故障しているか否かを判断する判断ユニット77とを有している。
【0032】
次に、図7〜図13を参照して、図1〜図4で示す故障予知システムによる処理制御を説明する。
【0033】
第1実施形態における処理制御の概要は、図5で示す様に、先ず、コントロールユニット5は、データベース8の格納状態を調べ、フィルタ係数h(k)が既に決定されているか否かを判断しており、既に決定されていれば(ステップS1のYES)、ステップS3まで進み、未だ決定していなければ(ステップS1のNO)、ステップS2でフィルタ係数h(k)を後述の処理方法(図6)によって決定した後、ステップS3に進む。
【0034】
ステップS3では、後述する処理方法(図7)によって故障を予知してステップS4に進む。
【0035】
ステップS4では、コントロールユニット5は、制御を終了するか否かを判断しており、終了するのであれば(ステップS4のYES)、そのまま制御を終了する。一方、未だ制御を続行するのであれば、ステップS1に戻り、再びステップS1以降を繰り返す。
【0036】
次に、図6と図8及び図9を参照して、フィルタ係数h(k)を決定する処理について説明する。
【0037】
フィルタ係数h(k)を決定するに際して、第1実施形態は、先ず特徴パターンを抽出するための相関計算用デジタルフィルタ、即ち、フィルタ係数h(k)を設計(演算)する。このために、例えば特徴パターンを実データから多く収集し、参考波形を決定する。若しくは理論的に現れる波形が分かればそれを使用しても良い。ここでは、過去の故障時の測定データから経験的に特徴パターンを得ることにした。具体的には、故障の前兆として認識されるべき間歇失火の特徴パターンが出現したタイミングの前後300秒間の波形を記録し、計22回の波形を平均化して図8のような参考波形(図8では、所定の計測時間帯に1回、急激な温度低下V1が生じている)を得た。この波形と診断対象波形の相関を、以下に説明する方法によって求める。
【0038】
図6は、上述したフィルタ係数h(k)の演算の処理方法が示されている。
図6において、先ずステップS11では、コントロールユニット5は、排気マニフォルド3の各分岐管31〜36に介装された温度センサ4の計測値を継続的に読込む。
【0039】
ステップS12では、計時手段であるタイマ62の計時に従って、各気筒毎に所定時間に亙って計測値をデータ格納ユニット(メモリ)63に格納する。
【0040】
次のステップS13では、当該エンジン1に異常があるか否かを判断する。ここで、異常の有無は、例えば、オペレータによる非常停止操作や、機械に搭載されている異常判断ロジック(公知、市販のものを流用可能である)等で判断できる。
異常があれば(ステップS13のYES)、次のステップS14Aに進む。一方、異常がなければ(ステップS13のNO)、ステップS1に戻り、再びステップS1以降を繰り返す。
【0041】
ステップS14Aでは、メモリ内から故障前兆現象を抽出する。例えば、オペレータが画面を見て、過去のデータをスクロールして、発生した異常(例えば、失火)の前兆と思われる波形を探し、前兆と思われる波形を基にフィルタ係数h(k)を決定する。勿論、オペレータによる判断のみならず、公知のパターン認識の手法その他を用いて、メモリ内から故障前兆現象を抽出することが可能である。
メモリ内から故障前兆現象を抽出したならば、ステップS14に進む。
【0042】
ステップS14では、前記相関を計算するために、図8の波形が平均値0となる様にデータに対してオフセットの加減を行う。そして、特徴パターン(急激な温度低下V1)の出現の瞬間の情報に重みを置いて、特徴パターン(急激な温度低下V1)の出現の前後はなれた時間の情報の重みを軽くするために、フーリエ変換等においてよく知られているハミング窓を乗じ、更に波形の分散が1となる様に標準化して(ステップS15)、図9に示す様な参考波形の最終形を得る。そして、その波形(図9)をフィルタ係数h(k)としてデータベース8に格納する(ステップS16)。
【0043】
ここで、前記標準化とは、平均値をゼロ(図9の破線A)とするオフセット処理と、分散1になる様なスケーリング処理(図9の波形の全幅Hを1とする処理)とを含んでいる。
【0044】
次のステップS17では、コントロールユニット5のフィルタ係数決定ユニット6では、全ての気筒についてのフィルタ係数h(k)を取得したか否かを判断しており、全ての気筒について取得していれば(ステップS17のYES)、そのまま制御を終了する。一方、全ての気筒について未だ終了していないのであれば(ステップS17のNO)、ステップS11まで戻り、再びステップS11以降を繰り返す。
【0045】
以上により、フィルタ係数h(k)が求まり、データベース8に記憶される。データベース8に記憶されたフィルタ係数h(k)は、図7及び図10を参照して説明する故障予知に関する処理で用いられる。
【0046】
次に、図7及び図10を参照して故障予知に関する処理を説明する。
ここで、図7は故障予知に関する処理をフローチャートとして示しており、図10は当該処理(故障予知に関する処理)におけるデータの流れを模式的に示している。
【0047】
図7において、先ずステップS21では、コントロールユニット5は、排気マニフォルド3の各分岐管31〜36に介装された温度センサ4の計測値を継続的に読込む。
【0048】
ステップS22では、計時手段であるタイマ72の計時に従って、各気筒毎に所定時間に亙って計測値をデータ格納ユニット(メモリ)73に格納する。
その際、図10に示すように所定時間幅Tを細かく分割した時間要素tにおける波形xの新規測定値の格納と、メモリ73内の直前の要素tの波形の移動を行う。
【0049】
次のステップS23では、上述した方法で各気筒のデータを標準化して、ステップS24で更に上述と同様の方法で求めた各気筒のデータに関するフィルタ係数h(k)を読込み、ステップS25では、相関値C(t)を以下に説明する方法で演算する。
尚、データの標準化(ステップS23)では時間幅Tの波形xが、平均が0、分散が1となる様に標準化する。又、相関値C(t)を演算する(ステップS25)に際しては、前記求めた波形xとフィルタh(k)とを乗算して演算する。
【0050】
ここで、図9のフィルタ係数h(k)即ち、波形は、時間について積分すると0となり、以下の式で表される相関値C(t)は、波形xとして測定されたデータの時刻tの−T〜tの時間変化(平均値0、分散1となる様に標準化したもの)を使用すれば、xとフィルタ係数h(t)が似た形状のときに1に近く、それ以外では小さくなるという特徴を有しており、完全に同じ波形と成った時、C(t)=1となる。

【0051】
この相関値C(t)に対して閾値を設けることで故障前兆パターンの抽出が可能となる。
ステップS26では相関値が閾値以下となっているか否かを判断する。
閾値以上であれば(ステップS26のYES)、ステップS27で故障と判定してモニタ9に表示した後、そのまま制御は終了する。一方、相関値が閾値よりも小さければ(ステップS26のN0)、ステップS21まで戻り、再びステップS21を繰り返す。
【0052】
判定ステップ(図7の最後のステップS26)にあたっては、相関値C(t)が閾値以上になったならば、即時に、「近い将来において故障の可能性が有り」と判定しても良い。或いは、閾値以上の相関値C(t)が発生する頻度が一定の規準を超えた場合に始めて「近い将来において故障の可能性が有り」と判定する様に構成しても良い。
閾値以上の相関値C(t)が発生する頻度が一定の規準を超えたか否かの判断にあたっては、所定期間内で閾値以上の相関値C(t)が発生した回数を基準とする手法や、移動平均値を基準とする手法や、相関値C(t)が閾値以上となった回数の累積和を基準とする手法等が存在する。何れの手法においても、各々の基準となるパラメータを各々設定された閾値と比較することにより判定する。
【0053】
次に、第1実施形態の作用効果について説明する。
図13は従来法の2つの技術と本発明の第1実施形態によって図16、図18の期間を解析した結果を示す。
【0054】
図16ではエンジン1の2番目の気筒に実際に失火が見られ、従来技術では偏差において64回、また変化の傾向においても64回警報を発報している。
それに対して、第1実施形態では、相関値C(t)から求める方法で、69回警報を発報している。
図18の全気筒が正常の場合では、従来技術では偏差において2,3,5,6番気筒に百回〜数千回、また変化の傾向においても全気筒で十回以上数百回警報を発報している。
それに対して、第1実施形態では、相関値C(t)から求める方法で、何れの気筒においても警報発報していない。
即ち、第1実施形態はきわめて高い効果と精度を有していることが分かる。
【0055】
次に、図14及び図15を参照して第2実施形態を説明する。
第1実施形態では、故障判定をするべき内燃機関(#1〜#6の6気筒内燃機関)の各気筒の排気温度の実測データから、フィルタ係数h(k)を得ている。
これに対して、図14及び図15の第2実施形態では、フィルタ係数h(k)は予め決定されてデータベース8に記憶されている。換言すれば、第2実施形態では、第1実施形態における「フィルタ係数h(k)決定ユニット」(図3)が省略されており、図5で示されるフィルタ係数h(k)を決定する作業が省略されている。
【0056】
図14を参照して第2実施形態のコントロールユニット5Aの構成を説明する。
尚、大きなユニット単位としてはコントロールユニット5Aを除いては、図1の第1実施形態(図1)と同様である。
【0057】
第2実施形態のコントロールユニット5Aは、排気マニフォルド3の前記各分岐管31〜36(図1参照)に介装された排気温度センサ4からの情報を受信するインタフェース51と、判定ユニット7とデータベース8とから構成され、インタフェース51から受信したデータとデータベースに記憶しているフィルタ係数h(k)とを判定ユニット7で比較判定して、当該エンジン1が故障しているか否かを判定する様に構成されている。判定ユニットの構成は、図4で示すユニット(第1実施形態の構成)7と同様である。
【0058】
図15を参照して、第2実施形態における故障の予兆を判定する処理を説明する。
先ず、ステップS31において、コントロールユニット5Aは、各気筒に介装した温度センサ4の値を読込み、次のステップS32では、一定時間の波形を一旦データベース8に格納する。
【0059】
ステップS33では、図示しない相関計算用デジタルフィルタによる相関計算
を行う。係る「相関計算」を行うに際しては、データベース8に記憶されたフィルタ係数h(k)を読み込んで、第1実施形態で使用したのと同様な式(式1)を用いて、相関値C(t)を求める。
【0060】
ステップS34では、コントロールユニット5Aは、前記相関値C(t)が閾値以上の相関値であるか否かを判断しており、相関値C(t)が閾値以上であれば、(ステップS34のYES)、故障予知信号をモニタ6に表示して(ステップS35)、制御を終了する。一方、閾値未満であれば(ステップS34のNO)、ステップS31まで戻り、再びステップS31以降を繰り返す。
【0061】
図示の実施形態はあくまでも例示であり、本発明の技術範囲を限定する趣旨の記述ではない旨を付記する。
例えば、図示の実施形態においては、故障予知の対象となる機器として内燃機関を例示して説明しているが、故障予知の対象となる機器としては、内燃機関に限定されるものではない。再現性の良い挙動をするのであれば、外燃機関の故障予知や、プラント一般の故障予知についても、本発明は適用可能である。
又、フィルタ係数決定ユニットと判定ユニットとで異なる計時手段を共用のタイマに、又、フィルタ係数決定ユニットと判定ユニットとで異なるデータ格納ユニットを共用のメモリとすることも可能である。
【0062】
また、既知の異常時の波形と計測された波形との相関性を求める際に、図示の実施形態では相関演算の手法を用いているが、波形パターン同士を比較して、相関性を判定するための手法であれば、公知の手法を全て適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の第1実施形態の全体構成を示すブロック図。
【図2】第1実施形態に係るコントロールユニットの構成を示すブロック図。
【図3】第1実施形態に係るフィルタ係数決定ユニットの構成を示すブロック図。
【図4】第1実施形態に係る判定ユニットの構成を示すブロック図。
【図5】第1実施形態に係る故障予知の処理の大きな流れを示すフローチャート。
【図6】第1実施形態に係るフィルタ係数を決定する処理の流れを示すフローチャート。
【図7】第1実施形態に係る相関値演算処理の流れを示すフローチャート。
【図8】間歇失火発生時の排気温度変化の特徴パターンを示す図。
【図9】図8のパターンを用いて作成された相関計算用フィルタ係数例を示した図。
【図10】本実施形態による相関値C(t)の計算の流れを模式的に示したチャート。
【図11】間歇失陥発生時の2番気筒の排気温度に対する特徴パターンとの相関計算結果を示す図。
【図12】負荷変化は激しいが正常時の2番気筒の排気温度に対する特徴パターンとの相関計算結果を示す図。
【図13】本発明の実施形態の効果であって、警報発報回数を、従来技術と比較して表した表。
【図14】本発明の第2実施形態に係るコントロールユニットの構成を示すブロック図。
【図15】本発明の第2実施形態に係る故障予知の処理制御の流れを示したフローチャート。
【図16】故障前兆現象が表れた状態の排気温度の変化(24時間)を表したグラフ。
【図17】2番気筒に故障前兆現象が表れた状態の約10分間の拡大図。
【図18】負荷変化は激しいが正常の一例である排気温度の(24時間)変化図。
【図19】間歇失火発生時の2番気筒排気温度の全気筒温度に対する偏差を示した図。
【図20】負荷変化は激しいが正常時の2番気筒排気温度からの偏差を示した図。
【図21】負荷変化は激しいが正常時の全気筒の排気温度変化を示した図。
【符号の説明】
【0064】
1・・・内燃機関/エンジン
2・・・吸気マニフォルド
3・・・排気マニフォルド
4・・・計測手段/センサ
5・・・制御手段/コントロールユニット
6・・・フィルタ係数決定ユニット
7・・・判定ユニット
8・・・データベース
9・・・表示手段/モニタ
51,61,71・・・インタフェース
62,72・・・計時手段/タイマ
63,73・・・データ格納手段/メモリ
64・・・重み付けユニット
65,74・・・標準化ユニット
75・・・相関値演算ユニット
76・・・比較ユニット
77・・・判断ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
故障予知の対象となる機器の運転状態を示すパラメータを計測する計測手段と、該計測手段の計測結果に基づいて故障の可能性を判定する制御手段とを備え、該制御手段は、計測された前記パラメータの時間変化を示す波形を故障の前兆を示す既知の波形と比較し、当該比較結果より故障の可能性を判定する判定ユニットを備えていることを特徴としている故障予知システム。
【請求項2】
前記判定ユニットは、計測された前記パラメータの時間変化を示す波形と故障の前兆を示す既知の波形との相関性を求め、その相関性が所定値以上である場合に故障の前兆が発生したと判断する制御を行う様に構成されている請求項1の故障予知システム。
【請求項3】
前記判定ユニットは、前記計測手段によって計測された前記パラメータを所定の時間に亘って格納するデータ格納ユニットと、該データ格納ユニットに格納された所定の時間に亘るデータを標準化する標準化ユニットと、標準化されたデータとフィルタ係数とにより相関値を求める相関値演算ユニットと、求められた相関値と予め設定された閾値とを比較する比較ユニットと、該比較ユニットの比較結果より故障の前兆が発生したか否かを判断する判断ユニットとを有している請求項1、2の何れかの故障予知システム。
【請求項4】
前記制御手段はフィルタ係数決定ユニットを有しており、該フィルタ係数決定ユニットは、故障の前兆を示す既知の波形に相当する複数の前記パラメータのデータに重み付け処理を行う重み付けユニットと、重み付けされた複数のデータを標準化する標準化ユニットとを有している請求項3の故障予知システム。
【請求項5】
計測手段により故障予知の対象となる機器の運転状態を示すパラメータを計測する計測工程と、計測された前記パラメータの時間変化を示す波形を故障の前兆を示す既知の波形と比較し、当該比較結果より故障の可能性を判定する判定工程、とを有していることを特徴とする故障予知方法。
【請求項6】
前記判定工程では、計測された前記パラメータの時間変化を示す波形と故障の前兆を示す既知の波形との相関性を求め、その相関性が所定値以上である場合に故障の前兆が発生したと判断する請求項5の故障予知方法。
【請求項7】
前記判定工程は、計測手段によって計測された前記パラメータを所定の時間に亘ってデータ格納ユニットに格納し、データ格納ユニットに格納された所定の時間に亘るデータを標準化ユニットにより標準化し、相関値演算ユニットで標準化されたデータとデジタルフィルタ係数とにより相関値を求め、求められた相関値と予め設定された閾値とを比較ユニットにより比較し、その比較結果より故障の前兆が発生したか否かを判定する請求項5、6の何れか1項の故障予知方法。
【請求項8】
前記制御手段におけるフィルタ係数決定ユニットにおいて、故障の前兆を示す既知の波形に相当する複数の前記パラメータのデータに重み付け処理を行い且つ標準化することによって得られたデータを、前記デジタルフィルタ係数として用いる請求項7の故障予知方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2006−214333(P2006−214333A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−27429(P2005−27429)
【出願日】平成17年2月3日(2005.2.3)
【出願人】(000220262)東京瓦斯株式会社 (1,166)
【Fターム(参考)】