説明

散乱吸収体測定方法及び装置

【課題】介在組織の影響を除いた測定結果を簡易な方法によって得ることができる、散乱吸収体測定方法及び装置を提供する。
【解決手段】散乱吸収体Bの表面Baに設定された一つの光入射位置Iから所定波長の光Pを入射し、散乱吸収体Bの内部を伝搬した光Pを、散乱吸収体Bの表面Baに設定された一つの光検出位置Dで検出して光検出信号を得、この光検出信号に基づいて、検出光の光強度についての時間波形を取得し、この時間波形に基づいて、散乱吸収体Bの内部における光Pの平均光路長Lと、測定対象領域B1における被測定物質の量に関連する情報とを演算する。その際、平均光路長Lが長いほど被測定物質の量が多くなるように、平均光路長Lに基づいて被測定物質の量に関連する情報を補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば血液中のヘモグロビンといった、散乱吸収体内物質の量(濃度)に関する情報を測定する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、散乱吸収体の内部を非侵襲的に測定する方法が記載されている。この測定方法では、測定対象領域と非測定対象領域とを含む散乱吸収体に対し、光入射手段によって光入射位置から入射したパルス光が、散乱しながらそれぞれの光路で光検出位置に達し、光検出手段にて検出される。なお、光入射位置及び光検出位置のうち少なくとも一方が複数である。この検出光の時間波形を用い、非測定対象領域を伝搬する部分光路長が光路によらず一定であるとして、測定対象領域のみの吸収係数変化量を算出している。
【0003】
また、非特許文献1には、近赤外線分光法(NIRS:near-infrared spectroscopy)による計測において、筋肉や脂肪といった組織構成、血液量、及び筋肉形状によって、体内を伝搬する光の平均光路長が変化することが記載されている。
【0004】
また、非特許文献2には、脂肪厚さを別の方法によって予め測定しておき、近赤外線分光法によるヘモグロビン量の測定結果を、その脂肪厚さに応じて補正することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−202287号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Takafumi Hamaoka et al., ‘Near-infrared spectroscopy/imaging for monitoring muscle oxygenationand oxidative metabolism in healthy and diseased humans’, Journal of BiomedicalOptics 12(6), 062105 (November/December 2007)
【非特許文献2】Niwayama, Masatsugu et al., ‘Quantitative measurement of muscle hemoglobin oxygenation usingnear-infrared spectroscopy with correction for the influence of a subcutaneousfat layer’, Reviewof Scientific Instruments, Vol.71 No.12, pp.4571-4575 (2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
光を用いた散乱吸収体の非侵襲測定において、散乱吸収体が、測定対象領域の他に、該測定対象領域と表皮との間に介在する非測定対象領域(介在組織)を含む場合がある。例えば、近赤外分光法を用いた筋肉の血行動態評価を行う場合、筋肉を覆っている脂肪は、筋肉に比べ血液量が顕著に少ないため、筋肉は測定対象領域として扱われ、脂肪は非測定対象である介在組織として扱われる。
【0008】
しかしながら、散乱吸収体を非侵襲的に測定するためには、測定対象領域に対し、介在組織を介して光を入射・検出する必要がある。このため、介在組織の厚さによって測定結果にばらつきが生じ、測定精度を低下させる一因となる。ここで、図15(a)及び図15(b)は、散乱吸収体100の内部構成を模式的に示す図である。これらの図において、散乱吸収体100は、測定対象領域101及び介在組織102からなる。図15(a)は、図15(b)と比べて介在組織102が厚い場合を示している。
【0009】
図15(b)に示されるように、介在組織102の厚さtが薄い場合、散乱吸収体100に入射された光Pの光路長のうち大部分は、測定対象領域101に含まれる。従って、本来の値に近い測定値が得られる。しかし、図15(a)に示されるように、介在組織102の厚さtが厚い場合、散乱吸収体100に入射された光Pの光路長のうち介在組織102を通過する部分の割合が増加してしまう。このように、介在組織102が厚くなるほど、測定対象領域101を通過する部分光路長が短くなるので、本来の値に対して測定値が小さく算出されてしまう。
【0010】
なお、上述した非特許文献1には、脂肪厚さと平均光路長との間にどのような関係があるのかに関しては記載されていない。また、非特許文献2に記載された方法では、測定部位の脂肪厚さを予め被測定者毎に計測しておく必要があり、測定が煩雑になるという問題がある。
【0011】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、介在組織の影響を除いた測定結果を簡易な方法によって得ることができる、散乱吸収体測定方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した課題を解決するために、本発明による散乱吸収体測定方法(散乱吸収体測定装置)は、測定対象領域、及び測定対象領域と表面との間に存在する介在組織を含む散乱吸収体の測定対象領域における被測定物質の量に関連する情報を非侵襲的に測定する方法(装置)であって、(a)散乱吸収体の表面に設定された一つの光入射位置から所定波長の光を入射する光入射ステップ(光入射手段)と、(b)散乱吸収体内部を伝搬した所定波長の光を、散乱吸収体の表面に設定された一つの光検出位置で検出して光検出信号を得る(生成する)光検出ステップ(光検出手段)と、(c)光検出信号に基づいて、検出光の光強度についての時間波形を取得する信号処理ステップ(信号処理手段)と、(d)時間波形に基づいて、散乱吸収体内部における所定波長の光の平均光路長と、測定対象領域における被測定物質の量に関連する情報とを演算する演算ステップ(演算手段)とを備え、演算ステップにおいて(演算手段は)、平均光路長が長いほど被測定物質の量が多くなるように、平均光路長に基づいて被測定物質の量に関連する情報を補正することを特徴とする。
【0013】
本発明者らは、鋭意研究の末、平均光路長と介在組織厚さとの間に顕著な相関があることを見出した。従って、平均光路長に基づいて測定結果(被測定物質の量に関連する情報)を補正することにより、介在組織による影響を容易に取り除くことができる。すなわち、この散乱吸収体測定方法及び装置によれば、介在組織の影響を除いた測定結果を簡易な方法によって得ることができる。なお、本発明において、被測定物質の量に関連する情報とは、被測定物質の数、濃度、時間変化量、その他の量に関する情報をいう。
【0014】
また、散乱吸収体測定方法(散乱吸収体測定装置)は、演算ステップにおいて(演算手段が)、予め取得しておいた、平均光路長と介在組織の厚さとの相関に基づいて、被測定物質の量に関連する情報を補正することを特徴としてもよい。これによって、被測定物質の量に関連する情報を好適に補正することができる。この場合、散乱吸収体測定方法(散乱吸収体測定装置)は、平均光路長と介在組織の厚さとの相関が、平均光路長が長くなるほど介在組織が厚くなる関係であってもよい。
【0015】
また、散乱吸収体測定方法(散乱吸収体測定装置)は、演算ステップにおいて(演算手段が)、予め取得しておいた、介在組織の単位厚当たりの光路長に基づいて、被測定物質の量に関連する情報を補正することを特徴としてもよい。介在組織の単位厚当たりの光路長は、被測定物質のみ変化させたときの被測定物質変化量と介在組織の厚さとの関係より得られる。或いは、散乱吸収体測定方法(散乱吸収体測定装置)は、演算ステップにおいて(演算手段が)、予め取得しておいた、平均光路長と測定感度との相関に基づいて、被測定物質の量に関連する情報を補正することを特徴としてもよい。また、演算ステップにおいて(演算手段が)、平均光路長と測定感度との相関を、散乱吸収体内部における平均光路長のうち介在組織又は測定対象領域を通過する部分の光路長と、平均光路長とから求めることを特徴としてもよい。これらのうち何れかによって、被測定物質の量に関連する情報を好適に補正することができる。
【0016】
また、散乱吸収体測定方法(散乱吸収体測定装置)は、演算ステップにおいて(演算手段が)、散乱吸収体内部における平均光路長のうち介在組織を通過する部分の光路長を、介在組織の単位厚さ当たりの光路長と、予め取得しておいた平均光路長と介在組織の厚さとの相関から得られる介在組織の厚さとに基づいて推定し、推定した該光路長から測定感度を求め、被測定物質の量に関連する情報を該測定感度を用いて補正することを特徴としてもよい。
【0017】
また、散乱吸収体測定方法(散乱吸収体測定装置)は、測定対象領域が筋肉であり、介在組織が脂肪であることを特徴としてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明による散乱吸収体測定方法及び装置によれば、介在組織の影響を除いた測定結果を簡易な方法によって得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明による散乱吸収体測定方法の実施に好適に用いられる、散乱吸収体測定装置の一実施形態の構成を概略的に示すブロック図である。
【図2】演算処理部の内部構成の一例を示すブロック図である。
【図3】平均光路長演算部における平均光路長の算出方法を説明するための図である。
【図4】散乱吸収体測定方法を使用して実際に測定された平均光路長と、超音波装置を用いて計測された介在組織(脂肪)の厚さとの関係をプロットしたグラフである。
【図5】前腕部を250mmHgで動脈駆血した場合における、被測定物質量(デオキシヘモグロビン量)の1分間あたりの変化量を測定した結果と、介在組織厚さとの関係をプロットしたグラフである。
【図6】大腿部を250mmHgで動脈駆血した場合における、被測定物質量(デオキシヘモグロビン量)の1分間あたりの変化量を測定した結果と、介在組織厚さとの関係をプロットしたグラフである。
【図7】実測した平均光路長と、式(1)から得られた測定感度との関係をプロットしたグラフである。
【図8】平均光路長と測定感度との相関を表すグラフである。
【図9】TRS測定結果(血流変化量)の典型例を示すグラフである。
【図10】14名の平均光路長、平均光路長より推定された介在組織厚さ、部分光路長より推定された測定感度を示す図表である。
【図11】TRSによる補正前の血流量測定値と、プレチスモグラフィによる血流量測定値との相関をプロットしたグラフである。
【図12】測定感度Sにより補正したTRSによる血流量測定値と、プレチスモグラフィによる血流量測定値との相関をプロットしたグラフである。
【図13】散乱吸収体測定方法の処理の流れを示すフローチャートである。
【図14】散乱係数と介在組織厚さとの相関を示すグラフである。
【図15】(a)(b)散乱吸収体の内部構成を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照しながら本発明による散乱吸収体測定方法及び装置の実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0021】
図1は、本発明による散乱吸収体測定方法の実施に好適に用いられる、散乱吸収体測定装置の一実施形態の構成を概略的に示すブロック図である。この散乱吸収体測定装置1は、散乱吸収体(生体組織)Bの組織中に含まれる被測定物質(オキシヘモグロビン及びデオキシヘモグロビン)の量に関する情報(量、変化量、濃度など)を算出するための装置である。なお、散乱吸収体Bは、測定対象領域B1(例えば筋肉)と、該測定対象領域B1と散乱吸収体Bの表面Baとの間に存在する介在組織B2(例えば脂肪)とを含む。介在組織B2には血液が少ないので、被測定物質の殆どは測定対象領域B1に存在する。散乱吸収体測定装置1は、測定対象領域B1に存在する被測定物質の量に関する情報を算出する。
【0022】
図1に示される散乱吸収体測定装置1は、本体部60及び表示部70を備えている。本体部60は、光入射手段10と、光検出手段20と、信号処理手段30と、演算手段40と、これらの制御を行う制御部分50とを備えている。
【0023】
光入射手段10は、散乱吸収体Bの光入射位置Iから所定波長のパルス光Pを入射する手段である。本実施形態では、散乱吸収体Bの表面Ba上に一箇所の光入射位置Iが設定されている。光入射手段10は、パルス光Pを発生させるパルス光源11と、光入射用光ガイド12とを含む。光入射用光ガイド12の入力端はパルス光源11に光学的に接続されている。光入射用光ガイド12の出力端は散乱吸収体Bの光入射位置Iに配置されている。
【0024】
パルス光源11としては、発光ダイオード、レーザーダイオード、各種パルスレーザ装置など、様々なものが用いられる。パルス光源11において発生するパルス光Pとしては、散乱吸収体Bの吸収係数の変化量を測定できる程度にパルスの時間幅が短く、且つ、被測定物質の光吸収特性において光吸収率が高い波長を中心波長とするパルス光(例えば近赤外パルス光)が用いられる。光入射用光ガイド12としては、例えば光ファイバが用いられる。
【0025】
光検出手段20は、散乱吸収体Bの内部を伝搬したパルス光Pを検出光として検出する手段である。本実施形態では、散乱吸収体Bの表面Ba上に一箇所の光検出位置Dが設定されている。光検出手段20は、光検出用光ガイド21と、光を検出して電気的な検出信号に変換する光検出器22とを含む。光検出用光ガイド21の入力端は散乱吸収体Bの光検出位置Dに配置されている。光検出用光ガイド21の出力端は光検出器22に光学的に接続されている。
【0026】
光検出用光ガイド21としては、例えば光ファイバが用いられる。光検出器22としては、光電子増倍管、フォトダイオード、アバランシェフォトダイオード、PINフォトダイオードなど、様々なものが用いられる。光検出器22は、パルス光源11から出射されるパルス光Pの波長域において光強度を充分に検出できる分光感度特性を有することが好ましい。また、検出光が微弱であるときは、高感度あるいは高利得の光検出器を用いることが好ましい。
【0027】
信号処理手段30は、光検出手段20から提供される光検出信号に所定の信号処理を行う手段である。本実施形態の信号処理手段30は、時間波形計測部31を含む。時間波形計測部31は、光検出器22と電気的に接続されており、光検出器22からの光検出信号に基づいて検出光の光強度についての時間波形を取得する。この時間波形を取得するために、時間波形計測部31には、パルス光Pの発光タイミングを示すトリガ信号がパルス光源11から提供される。パルス光Pの入射及び検出が複数の測定時刻において行なわれることにより、その各々の測定時刻での時間波形が得られる。
【0028】
演算手段40は、時間波形計測部31によって得られた時間波形に基づいて、散乱吸収体Bの測定対象領域B1における被測定物質の量に関連する情報を演算する手段である。演算手段40は、演算処理部41を含む。演算処理部41は、所定の演算を行うことによって、介在組織B2による影響を除外した被測定物質の濃度変化量を算出する。演算処理部41は、時間波形計測部31と電気的に接続されており、検出光の時間波形に関する情報を時間波形計測部31から受ける。
【0029】
図2は、演算処理部41の内部構成の一例を示すブロック図である。図2に示されるように、本実施形態の演算処理部41は、補正前変化量算出部411、平均光路長演算部412、介在組織厚演算部413、単位光路長演算部414、部分光路長演算部415、測定感度演算部416、及び補正演算部417を含む。
【0030】
補正前変化量算出部411は、時間波形計測部31から提供される検出光の時間波形に基づいて、散乱吸収体Bにおける前回の測定時刻からの吸収係数変化量Δμaを求める。吸収係数変化量Δμaは、検出光の光強度の変化から算出しても良いし、拡散方程式により得られる定量値μaの差分として算出しても良い。補正前変化量算出部411において算出されたΔμaから、被測定物質(オキシヘモグロビン、デオキシヘモグロビン、トータルヘモグロビン)の濃度変化量を導くことができる。
【0031】
平均光路長演算部412は、時間波形計測部31から提供される検出光の時間波形に基づいて、平均光路長Lを算出する。なお、この平均光路長Lは、解析のために補正前変化量算出部411へ提供されてもよい。
【0032】
介在組織厚演算部413は、平均光路長演算部412から平均光路長Lに関する情報を受け、平均光路長Lと介在組織B2の厚さ(図1に示される寸法A)との相関に基づいて、介在組織B2の厚さを推定する。平均光路長Lと介在組織B2の厚さAとの相関は、例えば不揮発性メモリといった記憶手段に予め格納されており、介在組織厚演算部413は、平均光路長Lに対応する厚さAに関する数値を、記憶手段から読み出す。
【0033】
単位光路長演算部414は、介在組織B2の単位厚さ当たりの光路長LAを演算する。単位光路長演算部414では、介在組織B2の厚さAと、被測定物質の濃度のみ変化させた場合の補正前変化量ΔXとの相関に関する情報が、例えば不揮発性メモリといった記憶手段に予め格納されている。介在組織B2の厚さAは、介在組織厚演算部413の記憶手段から推定した厚さAでもよいし、超音波装置など本装置以外で計測した厚さAでもよい。単位光路長演算部414は、これらの相関に基づいて、介在組織B2の単位厚さ当たりの光路長LAを算出する。
【0034】
例えば、単位光路長演算部414は、介在組織B2の厚さAと被測定物質の濃度のみ変化させた場合の補正前変化量ΔXとの相関から、介在組織B2の単位厚さ当たりの光路長LAを以下のように推定する。
【0035】
まず、次式(1)により求められる数値は、測定感度(補正係数S)とみなすことができる。なお、次式(1)において、LMは、散乱吸収体B全体を通過する平均光路長Lのうち、測定対象領域B1を通過する部分の光路長である。LFは、介在組織B2を通過する部分の光路長である。
【数1】

【0036】
さらに、介在組織B2を通過する部分光路長LFは、例えば次式(2)で表される。
【数2】


但し、Aは介在組織厚演算部413から提供された介在組織B2の厚さであり、LAは介在組織B2の単位厚さ当たりの光路長である。
【0037】
介在組織B2の単位厚さ当たりの光路長LAと、被測定物質の濃度のみ変化させた場合の測定対象領域での被測定物質変化量ΔXB1と、測定により得られる被測定物質のみ変化させた場合の補正前変化量ΔXとの関係は、次の式(3)で表される。
【数3】

【0038】
更に、測定対象領域B1の同一部位における酸素消費量の個体差は殆ど無いという仮定のもと、一箇所での光入射及び一箇所での光検出によって取得した安静時の平均光路長Lと、この平均光路長Lから推定された介在組織厚さAと、被測定物質のみ変化させた際の被測定物質の補正前変化量ΔXとを使用して、複数人に関する上式(3)を用意し、更に上式(3)から導かれる次式(4)が最小となるような共通のLA(介在組織B2の単位厚さ当たりの光路長)及びΔXB1(測定対象領域B1の被測定物質化量)を単位光路長演算部414が算出する。
【数4】

【0039】
記憶手段に、介在組織B2の厚さAと、被測定物質の濃度のみ変化させた場合の補正前変化量ΔXとの相関に関する情報が蓄積され、介在組織B2の単位厚さ当たりの光路長LAか決定されていれば、被験者毎に被測定物質の濃度のみを変化させる別計測を行う必要はなくなる。
【0040】
部分光路長演算部415は、散乱吸収体B全体を通過する平均光路長Lのうち、介在組織B2を通過する部分の光路長(部分光路長LF)を算出する。部分光路長演算部415は、例えば数式(2)を用いて、介在組織厚演算部413から提供された介在組織B2の厚さAと単位光路長演算部414から提供された介在組織B2の単位厚さ当たりの光路長LAから、部分光路長LF求める。
【0041】
測定感度演算部416は、部分光路長LFに基づいて、式(1)で推定される測定感度(補正係数)Sを算出する。
【0042】
補正演算部417は、補正前変化量算出部411により算出された被測定物質(オキシヘモグロビン、デオキシヘモグロビン、トータルヘモグロビン)変化量を、測定感度演算部416により算出された測定感度Sを用いて補正する。
【0043】
再び図1を参照すると、表示部70は、本体部60に接続されている。表示部70は、必要に応じて介在組織B2の厚さAや補正後の被測定物質(オキシヘモグロビン、デオキシヘモグロビン、トータルヘモグロビン)変化量を表示する。
【0044】
上述した散乱吸収体測定装置1を用いた散乱吸収体測定方法について、詳細に説明する。図3は、平均光路長演算部412における平均光路長Lの算出方法を説明するための図である。図3において、縦軸は光量(対数目盛)を示し、横軸は時間を示している。グラフG11は、時刻tに光入射手段10から散乱吸収体Bへ入射されるパルス光強度の時間波形(入射波形)である。グラフG12は、時刻tに入射されたパルス光に対応する検出光強度の時間波形(検出波形)である。散乱吸収体Bの内部を伝搬した光が光検出位置Dに達する時間は、その伝搬状況によって一様ではなく、また、散乱吸収体Bでの散乱や吸収によって減衰を受ける。従って、図3のグラフG12に示されるように、検出波形は或る一定の分布曲線となる。時刻tから検出波形の波形重心として算出される時刻tまでの平均伝播時間Tと光速cとの積によって、平均光路長L(=T×c)が算出される。なお、この計算において、時刻tとして入射波形の波形重心となる時刻が用いられることが好ましい。
【0045】
図4は、このような方法を使用して実際に測定された平均光路長Lと、超音波装置を用いて計測された介在組織(脂肪)B2の厚さAとの関係をプロットしたグラフである。図4において、縦軸は介在組織厚さA(cm)を示し、横軸は平均光路長L(cm)を示している。また、図4において、黒丸のプロットは散乱吸収体Bが前腕部(N=36、但しNは被験者数である。)である場合を示しており、正方形のプロットは散乱吸収体Bが大腿部(N=11、大腿部を複数箇所計測)である場合を示している。
【0046】
図4に示されるように、介在組織厚さAが厚いほど、平均光路長Lが長くなることがわかる。介在組織厚さAと平均光路長Lとの相関は、例えば図4に示された近似直線L1によって好適に表される。なお、この近似直線L1は次の式(5)によって表され、そのR値は0.7391であった。なお、この関係式は式(5)に限定されるものではなく、データ数が増えることによって、近似式が変わってもよい。
【数5】

【0047】
上記関係式(5)に基づいて、平均光路長Lから介在組織B2の厚さAを推定することができる。本実施形態では、平均光路長演算部412によって得られた平均光路長Lと上記式(5)とを用いて、介在組織厚演算部413において介在組織B2の厚さAが推定される。なお、従来のCW計測では、平均光路長を測定できず、光ファイバー間距離に対する定数(DPF)値を用いるので、平均光路長に個体差はなく、規格化された値でしか取り扱うことができない。
【0048】
図5及び図6それぞれは、前腕部(N=36)及び大腿部(N=7)それぞれを250mmHgで動脈駆血した場合における、被測定物質量(デオキシヘモグロビン量)の1分間あたりの変化量を測定した結果と、介在組織厚さAとの関係をプロットしたグラフである。図5及び図6において、縦軸はデオキシヘモグロビン量の変化量を示し、横軸は介在組織厚さAを示している。
【0049】
駆血状態、すなわち血液の流出や流入がない状態では、筋肉の酸素消費によってオキシヘモグロビンが減少し、デオキシヘモグロビンが増加する。図5及び図6に示されるように、介在組織厚さAが厚くなるほど、デオキシヘモグロビン量の変化量の測定値は減少する。散乱吸収体Bの同じ部位での筋肉酸素消費量は個体差が小さいことから、介在組織厚さAが厚いほどデオキシヘモグロビン量の測定値が過少評価されていることがわかる。上述した散乱吸収体測定装置1では、補正演算部417において、この過小評価分を数式(1)に示した測定感度Sを用いて補正する。
【0050】
ここで、測定感度演算部416において測定感度Sを求める際に、平均光路長Lのうち測定対象領域B1における部分光路長LMを推定することができれば、数式(1)によって測定感度Sを求めることができる。しかしながら、シミュレーションを用いると、部分光路長LMの推定は可能であるが、各構成要素(測定対象領域B1、介在組織B2等)の光学係数や厚さを仮定する必要があり、現実的ではない。これに対し、本実施形態では、平均光路長Lから介在組織厚さAを推定できるので、単位光路長演算部414にて、一箇所での光入射及び一箇所での光検出による計測データ、並びに平均光路長Lと被測定物質の変化量との関係から、介在組織B2の単位厚さ当たりの光路長LAを求めることができる。さらに、得られた介在組織B2の単位厚さ当たりの光路長LAと平均光路長Lと介在組織厚Aとを用いて、数式(1)及び(2)より、測定感度演算部416において、部分光路長LM及びLFを求め、更に測定感度Sを求めることができる。
【0051】
例えば測定対象領域B1が筋肉であり、介在組織B2が脂肪である場合、筋肉と比べて脂肪の血液量や酸素消費量は極めて小さいので、駆血時に、介在組織B2の血液量変化はほとんど生じていないと考えられる。一方、測定対象領域B1では酸素消費量が大きい。従って、駆血により増加する測定対象領域B1のデオキシヘモグロビン変化量ΔHbmと、測定により得られるデオキシヘモグロビン変化量ΔHbとの関係は、次の式(6)で表される。
【数6】

【0052】
更に、測定対象領域B1の同一部位における酸素消費量の個体差は殆ど無いという仮定のもと、一箇所での光入射及び一箇所での光検出によって取得した安静時の平均光路長Lと、この平均光路長Lから推定された介在組織厚さAと、駆血時のデオキシヘモグロビン変化量ΔHbとを使用して、複数人に関する上式(6)を用意し、更に上式(6)から導かれる次式(7)が最小となるような共通のLA(介在組織B2の単位厚さ当たりの光路長)及びΔHbm(測定対象領域B1のデオキシヘモグロビン変化量)を単位光路長演算部414で算出する。これにより、得られた介在組織B2の単位厚さ当たりの光路長LAと平均光路長Lと介在組織厚さAとを用い、測定感度演算部416において、式(1)及び(2)から各被験者毎に測定感度Sを求めることができる。
【数7】

【0053】
なお、本実施形態による方法では、予め蓄積されたデータから介在組織厚さAまたは平均光路長Lと測定感度Sとの関係が導かれていれば、その関係式を用いればよいので、被験者毎に駆血などの負荷を与えずに済む。
【0054】
実際に、図5及び図6の測定データから前腕部及び大腿部のLF及びΔHbmを求めたところ、ΔHbmは前腕部が23.11μM、大腿部が13.47μMと推定できた。また、介在組織厚さ(脂肪厚さ)1cmに対する部分光路長LFは、前腕部が9.14cm、大腿部が9.57cmと推定できた。
【0055】
ここで、図7は、実測した平均光路長Lと、上式(1)から得られた測定感度Sとの関係をプロットしたグラフである。図7において、縦軸は測定感度Sを示し、横軸は介在組織厚さAを示している。また、図7において、正方形のプロットは前腕部を示しており、三角形のプロットは大腿部を示しており、アスタリスク状のプロットは理論値を示している。なお、理論値の数式は、次のとおりである。
【数8】

【0056】
図7に示されるように、介在組織厚さAが厚くなるほど、測定感度Sは小さくなる。また、この図7の横軸を、上式(5)を使用して介在組織厚さAから平均光路長Lに置き換えることで、介在組織厚さAを計測しなくとも、平均光路長Lから測定感度Sを導くこともできる。なお、図2に示した測定感度演算部416では、測定感度Sと介在組織厚さAとの関係式から、本測定時に適用される測定感度Sを算出する。
【0057】
そして、最終的に、補正演算部417において、被測定物質の量に関する測定値(例えばデオキシヘモグロビン変化量ΔHb)を測定感度Sで除することにより、介在組織B2の影響を除いた測定対象領域B1の値(例えば測定対象領域B1のデオキシヘモグロビン変化量ΔHbm)を推定することができる。
【0058】
上記方法によって、介在組織B2における単位長さ(1cm)当たりの部分光路長LAは例えば平均約9.4cmであることが推定された。従って、平均光路長Lを測定し、この平均光路長Lから介在組織厚さAを推測し、推定された部分光路長LAの数値と共に上式(2)にこれらを当てはめることで、介在組織B2の部分光路長LFを算出できる。そして、この部分光路長LFを用いて、上式(1)から測定対象領域B1内部の寄与率を推定し、測定感度Sを求めることができる。
【0059】
また、図7の横軸を平均光路長Lに換算すると、図8に示すようなグラフとなる。図8は、平均光路長Lと測定感度Sとの相関を表しており、平均光路長Lが長くなるほど測定感度Sが小さくなっていることがわかる。つまり、安静時の平均光路長Lを測定すれば、測定感度Sを導くことができるので、超音波測定などの方法を用いて介在組織厚さAを測定する必要がない。また、図7には、介在組織厚さAがゼロのときに測定感度Sが1となるような理論曲線L2が併せて示されている。この理論曲線L2の関数を次の式(9)に示す。なお、測定感度Sの推定に用いる関係式はこの理論曲線L2に限定されるものではなく、最適な近似式を使用してもよい。
【数9】

【0060】
ここで、上述した平均光路長Lによる測定値の補正が適切か否かを検証する為に、時間分解分光システム(TRS)による測定と、プレチスモグラフィによる測定とを同時に実施した結果(但し、N=14)について説明する。プレチスモグラフィとは、測定部位(例えば前腕部)に対して静脈駆血を行い、流入し続ける動脈血流によって増加する当該部位の容積を種々の方法で測定するものである。一方、TRSでは、測定部位を静脈駆血した際の単位時間当たりの被測定物質(例えばヘモグロビン)の変化量を血流量とみなすことができる。従って、TRSにより計測した平均光路長Lに基づき、上述した方法を使用して介在組織(脂肪)厚さA及び測定感度Sを推定し、この測定感度Sを用いてTRS測定値(血流値)を補正し、この補正値と、プレチスモグラフィによる測定値との比較を行なった。
【0061】
まず、プロトコールとして、10秒間の前腕部静脈駆血(40mmHg)、及び10秒間の駆血解除を3セット行った。このときの血流量を、安静時血流量(すなわち初期値)とした。続けて、3分間の動静脈駆血(250mmHg)を行った。そして3分間の駆血解除後、引き続き、10秒間の静脈駆血(40mmHg)及び10秒間の駆血解除を数回繰り返した。なお、3分間の動静脈駆血後の反応は反応性充血と呼ばれ、血流再開後の血流量が駆血前の安静時血流量から何倍も増加する。従って、一個体内で様々な血流量データの取得が可能となる。
【0062】
図9は、実際にこのプロトコールを行なったときの、TRS測定結果(血流変化量)の典型例を示すグラフである。図9において、縦軸はヘモグロビン濃度の変化量(μM)を示しており、横軸は時間(分)を示している。また、グラフG21はオキシヘモグロビン(HbO)量を示しており、グラフG22はデオキシヘモグロビン(Hb)量を示しており、グラフG23は総ヘモグロビン(tHb)量を示している。
【0063】
また、図10は、14名の平均光路長L、平均光路長Lより推定された介在組織厚さA、部分光路長LFより推定された測定感度Sを示す図表である。図10に示される測定感度Sで、補正前のTRSによる血流量測定値を除することにより、補正後の血流量測定値を求めた。
【0064】
図11及び図12は、TRSによる血流量測定値と、プレチスモグラフィによる血流量測定値との相関をプロットしたグラフである。図11は、補正前におけるこれらの相関を示しており、図12は測定感度Sにより補正した場合のこれらの相関を示している。なお、図11及び図12において、縦軸はTRSによる血流量測定値を示しており、横軸はプレチスモグラフィによる血流量測定値を示している。血流量の単位は、プレチスモグラフィに合わせて(ml/min/100g)に換算している。
【0065】
図11に示されるように、補正前においては、近似直線L3のプレチスモグラフィ値に対するTRS値の傾きは0.4であった。これに対し、図12に示されるように、測定感度Sによる補正後は近似直線L4の傾きがほぼ1となり、TRS値がプレチスモグラフィ値に近づいた。
【0066】
以上のことから、介在組織厚さA又は平均光路長Lと測定感度Sとの相関が得られた状況において、平均光路長Lさえ測定すれば、被測定物質の量に関するデータの感度補正が可能となる。
【0067】
なお、上述した方法では血流量の測定を例に挙げたが、運動時の筋肉代謝に関する測定を行う際には、安静状態での測定をまず行って平均光路長Lから介在組織厚さAや測定感度Sを算出し、引き続き運動を行った際の血液変化量を測定感度Sにより補正した値を表示部70に表示させることによって、被測定者はリアルタイムで(脂肪の影響を除外した)筋肉の血液変化量を確認することができる。また、脂肪厚も知ることができる。
【0068】
図13は、以上に述べた散乱吸収体測定方法の処理の流れを示すフローチャートである。すなわち、本実施形態の散乱吸収体測定方法においては、図1に示したように、まず散乱吸収体Bの表面Baに設定された一つの光入射位置Iから所定波長のパルス光Pを入射する(光入射ステップS1)。次に、散乱吸収体Bの内部を伝搬したパルス光Pを、散乱吸収体Bの表面Baに設定された一つの光検出位置Dで検出して光検出信号を得る(光検出ステップS2)。
【0069】
続いて、この光検出信号に基づいて、検出光の光強度についての時間波形を取得する(信号処理ステップS3)。そして、この時間波形に基づいて、散乱吸収体Bの内部における平均光路長Lと、測定対象領域B1における被測定物質の量に関連する情報(変化量など)とを演算する(演算ステップS4)。この演算ステップS4においては、平均光路長Lが長いほど被測定物質の量が多くなるように、平均光路長Lに基づいて、被測定物質の量に関連する情報を補正する。例えば、平均光路長Lが長くなるほど介在組織厚さAが厚くなるので(図4を参照)、予め取得しておいたこのような相関に基づいて、被測定物質の量に関連する情報を補正するとよい。或いは、平均光路長Lが長くなるほど測定感度Sが小さくなるので(図8を参照)、予め取得しておいたこのような相関に基づいて、被測定物質の量に関連する情報を補正してもよい。或いは、予め取得しておいた、介在組織B2の単位厚さ当たりの光路長LAに基づいて、被測定物質の量に関連する情報を補正してもよい。なお、介在組織B2の単位厚さ当たりの光路長LAは、被測定物質のみ変化させたときの被測定物質変化量と介在組織B2の厚さとの関係より得られる。
【0070】
或いは、予め取得しておいた、平均光路長Lと測定感度Sとの相関に基づいて、被測定物質の量に関連する情報を補正してもよい。この場合、平均光路長Lと測定感度Sとの相関は、散乱吸収体Bの内部における平均光路長Lのうち介在組織B2又は測定対象領域B1を通過する部分の光路長(部分光路長LM又はLF)と、平均光路長Lとから求められる。
【0071】
或いは、散乱吸収体Bの内部における平均光路長Lのうち介在組織B2の部分光路長LFを、介在組織B2の単位厚さ当たりの光路長LAと、予め取得しておいた平均光路長L及び介在組織厚さAの相関から得られる介在組織厚さAとに基づいて推定し、推定した該部分光路長LFから測定感度Sを求め、被測定物質の量に関連する情報を該測定感度Sを用いて補正してもよい。
【0072】
以上に説明した散乱吸収体測定方法によって、次の効果が得られる。すなわち、この方法によれば、平均光路長Lから介在組織厚さAを推定できるので、超音波装置等を用いて介在組織厚さAを実測しなくても、測定対象領域B1の被測定物質の量に関する情報を正確に求めることができる。従って、被測定者や測定部位によって異なる介在組織厚さAに関係なく、被測定物質の量に関する情報の比較が可能となる。
【0073】
本発明による散乱吸収体測定方法は、上述した実施形態に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、上記実施形態では本発明を時間分解計測法に適用した場合について説明したが、本発明は、平均光路長を測定できる他の手法、例えば位相差法にも適用可能である。また、CW法のような平均光路長を計測できない手法であっても、事前に時間分解分光法などによって平均光路長Lを計測してあれば、そのような手法による計測結果に対しても補正を行うことができる。
【0074】
また、上記実施形態では、測定値の補正をリアルタイムで行う場合について説明したが、測定終了後に補正を行ってもよい。また、上記実施形態において示された介在組織厚さと平均光路長との相関はあくまで一例である。また、補正に用いられる数式は、多様な補正関係式に適用できる。また、上記実施形態では安静時に測定した平均光路長を用いているが、安静時に限られるものではなく、測定条件が揃っていればよい。また、上記実施形態では、単位光路長演算部414において用いられる、被測定物質の濃度のみ変化させた場合の補正前変化量を計測するために被測定物質のみを変化させる方法として、駆血を用いている。しかしながら、被測定物質のみを変化させる方法はこれに限られず、上記条件を満たせばよく、薬剤によるものでもよいし、シミュレーションでもよい。
【0075】
また、上記実施形態では、被測定物質としてヘモグロビン(オキシヘモグロビン、デオキシヘモグロビン、総ヘモグロビン)を例示したが、所定波長の光を吸収する物質であれば、他の物質であってもよい。また、上記実施形態では、既に算出された血液変化量に対して測定感度で除する補正を行なったが、ヘモグロビン換算前の吸収係数変化量を補正してもよい。補正後の吸収係数変化量からヘモグロビンへ換算することで、補正後のヘモグロビンとして取り扱うことができる。
【0076】
また、上記実施形態における補正は吸収変化量に対するものであるが、拡散方程式から得られた定量値に相対変化量を加えることにより、定量的な値として取り扱ってもよい。これにより、酸素飽和度(SO)の算出も可能となる。
【0077】
また、上記実施形態では測定対象領域として筋肉を例示し、介在組織として脂肪を例示したが、本発明の測定対象領域及び介在組織はこれらに限定されるものではない。例えば、頭を測定する際には、測定対象領域を脳組織とし、介在組織を頭蓋等とする等、様々な多層構造組織に本発明を適用できる。
【0078】
また、上記実施形態では平均光路長と介在組織厚さとの関係を利用したが、例えば図14に示されるような、散乱係数と介在組織厚さとの関係を利用して測定値を補正しても良い。図14に示されるように、介在組織厚さが厚くなるほど散乱係数が大きくなっており、この相関に基づいて(或いは、この介在組織厚さを平均光路長に置き換えた相関に基づいて)、測定値を好適に補正することができる。
【0079】
また、本発明による測定方法によれば、平均光路長から介在組織厚さを推定できる。従って、測定対象領域における測定対象物質の量に関する情報を補正する以外にも、例えば、介在組織厚さを計測する従来法(超音波装置など)にかわり、介在組織厚さを計測することもできる。
【符号の説明】
【0080】
1…散乱吸収体測定装置、10…光入射手段、11…パルス光源、12…光入射用光ガイド、20…光検出手段、21…光検出用光ガイド、22…光検出器、30…信号処理手段、31…時間波形計測部、40…演算手段、41…演算処理部、50…制御部分、60…本体部、70…表示装置、411…補正前変化量算出部、412…平均光路長演算部、413…介在組織厚演算部、414…単位光路長演算部、415…部分光路長演算部、416…測定感度演算部、417…補正演算部、B…散乱吸収体、B1…測定対象領域、B2…介在組織、Ba…表面、D…光検出位置、P…パルス光、I…光入射位置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象領域、及び前記測定対象領域と表面との間に存在する介在組織を含む散乱吸収体の前記測定対象領域における被測定物質の量に関連する情報を非侵襲的に測定する方法であって、
前記散乱吸収体の前記表面に設定された一つの光入射位置から所定波長の光を入射する光入射ステップと、
前記散乱吸収体内部を伝搬した前記所定波長の光を、前記散乱吸収体の前記表面に設定された一つの光検出位置で検出して光検出信号を得る光検出ステップと、
前記光検出信号に基づいて、検出光の光強度についての時間波形を取得する信号処理ステップと、
前記時間波形に基づいて、前記散乱吸収体内部における前記所定波長の光の平均光路長と、前記測定対象領域における前記被測定物質の量に関連する情報とを演算する演算ステップと
を備え、
前記演算ステップにおいて、前記平均光路長が長いほど前記被測定物質の量が多くなるように、前記平均光路長に基づいて前記被測定物質の量に関連する情報を補正することを特徴とする、散乱吸収体測定方法。
【請求項2】
前記演算ステップにおいて、予め取得しておいた、前記平均光路長と前記介在組織の厚さとの相関に基づいて、前記被測定物質の量に関連する情報を補正することを特徴とする、請求項1に記載の散乱吸収体測定方法。
【請求項3】
前記平均光路長と前記介在組織の厚さとの相関は、前記平均光路長が長くなるほど前記介在組織が厚くなる関係であることを特徴とする、請求項2に記載の散乱吸収体測定方法。
【請求項4】
前記演算ステップにおいて、予め取得しておいた、前記介在組織の単位厚さ当たりの光路長に基づいて、前記被測定物質の量に関連する情報を補正することを特徴とする、請求項1に記載の散乱吸収体測定方法。
【請求項5】
前記演算ステップにおいて、予め取得しておいた、前記平均光路長と測定感度との相関に基づいて、前記被測定物質の量に関連する情報を補正することを特徴とする、請求項1に記載の散乱吸収体測定方法。
【請求項6】
前記演算ステップにおいて、前記平均光路長と前記測定感度との相関を、前記散乱吸収体内部における前記平均光路長のうち前記介在組織又は前記測定対象領域を通過する部分の光路長と、前記平均光路長とから求めることを特徴とする、請求項5に記載の散乱吸収体測定方法。
【請求項7】
前記演算ステップにおいて、前記散乱吸収体内部における前記平均光路長のうち前記介在組織を通過する部分の光路長を、前記介在組織の単位厚さ当たりの光路長と、予め取得しておいた前記平均光路長と前記介在組織の厚さとの相関から得られる前記介在組織の厚さとに基づいて推定し、推定した該光路長から測定感度を求め、前記被測定物質の量に関連する情報を該測定感度を用いて補正することを特徴とする、請求項1に記載の散乱吸収体測定方法。
【請求項8】
前記測定対象領域は筋肉であり、前記介在組織は脂肪であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の散乱吸収体測定方法。
【請求項9】
測定対象領域、及び前記測定対象領域と表面との間に存在する介在組織を含む散乱吸収体の前記測定対象領域における被測定物質の量に関連する情報を非侵襲的に測定する装置であって、
前記散乱吸収体の前記表面に設定された一つの光入射位置から所定波長の光を入射する光入射手段と、
前記散乱吸収体内部を伝搬した前記所定波長の光を、前記散乱吸収体の前記表面に設定された一つの光検出位置で検出して光検出信号を生成する光検出手段と、
前記光検出信号に基づいて、検出光の光強度についての時間波形を取得する信号処理手段と、
前記時間波形に基づいて、前記散乱吸収体内部における前記所定波長の光の平均光路長と、前記測定対象領域における前記被測定物質の量に関連する情報とを演算する演算手段と
を備え、
前記演算手段は、前記平均光路長が長いほど前記被測定物質の量が多くなるように、前記平均光路長に基づいて前記被測定物質の量に関連する情報を補正することを特徴とする、散乱吸収体測定装置。
【請求項10】
前記演算手段は、予め取得しておいた、前記平均光路長と前記介在組織の厚さとの相関に基づいて、前記被測定物質の量に関連する情報を補正することを特徴とする、請求項9に記載の散乱吸収体測定装置。
【請求項11】
前記平均光路長と前記介在組織の厚さとの相関は、前記平均光路長が長くなるほど前記介在組織が厚くなる関係であることを特徴とする、請求項10に記載の散乱吸収体測定装置。
【請求項12】
前記演算手段は、予め取得しておいた、前記介在組織の単位厚さ当たりの光路長に基づいて、前記被測定物質の量に関連する情報を補正することを特徴とする、請求項9に記載の散乱吸収体測定装置。
【請求項13】
前記演算手段は、予め取得しておいた、前記平均光路長と測定感度との相関に基づいて、前記被測定物質の量に関連する情報を補正することを特徴とする、請求項9に記載の散乱吸収体測定装置。
【請求項14】
前記演算手段は、前記平均光路長と前記測定感度との相関を、前記散乱吸収体内部における前記平均光路長のうち前記介在組織又は前記測定対象領域を通過する部分の光路長と、前記平均光路長とから求めることを特徴とする、請求項13に記載の散乱吸収体測定装置。
【請求項15】
前記演算手段は、前記散乱吸収体内部における前記平均光路長のうち前記介在組織を通過する部分の光路長を、前記介在組織の単位厚さ当たりの光路長と、予め取得しておいた前記平均光路長と前記介在組織の厚さとの相関から得られる前記介在組織の厚さとに基づいて推定し、推定した該光路長から測定感度を求め、前記被測定物質の量に関連する情報を該測定感度を用いて補正することを特徴とする、請求項9に記載の散乱吸収体測定装置。
【請求項16】
前記測定対象領域は筋肉であり、前記介在組織は脂肪であることを特徴とする、請求項9〜15のいずれか一項に記載の散乱吸収体測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−232301(P2011−232301A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−105526(P2010−105526)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【出願人】(504300181)国立大学法人浜松医科大学 (96)
【Fターム(参考)】