説明

数種類のボツリヌス毒素を含む組成物

この発明は、少なくとも一種のボツリヌスA1型神経毒素、及びアミノ酸配列がボツリヌスA1型神経毒素のアミノ酸配列と少なくとも5%の差異を有する少なくとも一種のボツリヌスA型神経毒素を含む組成物に関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の主題は、数種類のボツリヌス毒素A型を含む組成物である。
【0002】
ボツリヌス毒素、特にボツリヌスA1型毒素(Ipsen社から、Dysport(商標)として、又はAllergan社から、Botox(商標)として市販されている)は、1980年代からヒトの様々な病気/障害の治療に用いられてきた。ボツリヌス毒素により治療しうる病気/障害の内には、とりわけ、筋肉の障害(例えば、眼瞼痙攣、成人若しくは小児の痙性麻痺又は斜頚も)、片頭痛、筋肉起源の痛み、神経障害性の痛み、糖尿病性水分固定過度(即ち、発汗過多)、過流涎又はしわも挙げることができる。
【0003】
現在知られているボツリヌス毒素の利用は、言及した治療において記載したような、それらの標準的な筋肉内投与に関するものである。筋肉への注射は、一過性の麻痺を引き起こす。即ち、筋収縮をある期間にわたってブロックする。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、現在使用されているボツリヌス毒素組成物は、時間的に限られた作用期間を有している。
【0005】
工業的必要性に答えるためには、ボツリヌス毒素の作用期間を、その生物学的活性を変えることなく増大させる手段を見出すことが必要となってきた。
【0006】
従って、この発明の課題は、延長された作用期間を有する新規なボツリヌス毒素組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
思いがけなく、本発明者により、数種類のボツリヌス毒素を併用することが可能であるということが示された。
【0008】
この目的のために、本発明は、下記:
−少なくとも一種のボツリヌスA1型神経毒素、
−及びアミノ酸配列がボツリヌスA1型神経毒素のアミノ酸配列と少なくとも5%異なる少なくとも一種のボツリヌスA型神経毒素
を含む組成物を提供する。
【0009】
この発明は、特に、該組成物を平滑筋又は骨格筋に注射した場合に改善された筋肉麻痺の持続時間を生じる現行の組成物に決定的利点を提供する。筋肉麻痺の持続期間は、ある場合には、最長で10ヵ月に達することが可能であり、一層普通には、2〜8ヵ月で変化する。
【0010】
この発明は、この発明の組成物は、現在市販されているボツリヌス毒素の投与量と比較して遥かに低投与量で使用することができるという他の利点を提供する。換言すれば、同じ筋弛緩を得るために、一層少量のボツリヌス毒素しか必要とされない。同じ治療適応症について、10〜70%、好ましくは25〜50%の投与量の減少が認められた(同じ生物学的効果を得るために注射した毒素の単位を比較する)。
【0011】
この発明の組成物の他の利点は、それらが殆ど副作用を引き起こさないことであり、特に、現在知られているボツリヌス毒素組成物より遥かに僅かの副作用しか生じない。特に、この発明の組成物の低投与量の利用の可能性は、有利には、これらの副作用を減じることを可能にする。これらの回避される副作用の内には、このタンパク質自体の免疫原性に関係するもの、並びに嚥下障害、眼瞼下垂又は全体的筋肉弱化を挙げることができる(この列挙は、網羅的ではない)。
【0012】
その上、この発明の組成物は、該組成物を平滑筋又は骨格筋に注射した場合の他の利点である改良された作用速度を有する。その生物学的又は臨床的効果は、注射の12時間後に現れえて、一層普通には、注射後14〜24時間の期間に現れうる。
【0013】
有利には、この発明の組成物は、非常に均質な筋弛緩効果を招来する。
【0014】
最後に、この発明は、すべての産業において、特に、製薬、獣医学及び化粧品産業、並びに日々の衛生又は身体の衛生の分野で利用することができるという利点を有している。
【0015】
この発明の他の利点及び特徴は、下記の記載及び実施例を読むことにより明白となろう(該実施例は、専ら説明のためのものであり、制限するものではない)。
【0016】
本発明の主題は、下記:
−少なくとも一種のボツリヌスA1型神経毒素、
−及びアミノ酸配列がボツリヌスA1型神経毒素のアミノ酸配列と少なくとも5%異なる少なくとも一種のボツリヌスA型神経毒素
を含む組成物である。
【0017】
表現「ボツリヌス神経毒素」は、遊離タンパク質である(即ち、それと複合体を形成するいかなるタンパク質をも含まない)か、又はタンパク質複合体であるボツリヌス毒素を意味し、該タンパク質複合体は、例えばボツリヌス毒素と結合したヘマグルチニン(HAタンパク質)又はタンパク質断片を含むことができる。
【0018】
表現「ボツリヌス毒素」は、分子がボツリヌス毒素の生物学的活性を有することを意味し、該分子は、タンパク質、又はポリペプチド、又はペプチド、又は融合タンパク質、又は切り詰められたタンパク質、又はキメラタンパク質、又は変異タンパク質又は組換えタンパク質であってよい。
【0019】
表現「毒素の生物学的活性」は、本発明の意味の範囲内では、筋肉の麻痺又はエキソサイトーシス特にアセチルコリン若しくは他の神経伝達物質のエキソサイトーシスの阻害を意味する。
【0020】
「タンパク質、ポリペプチド又はペプチド」は、本発明の意味の範囲内では、天然の又は非天然の、左旋性の又は非左旋性の、右旋性の又は非右旋性のアミノ酸の重合体を意味する。
【0021】
「キメラタンパク質」は、本発明の意味の範囲内では、異なる型の分子の結合後に、例えば、脂質、糖脂質、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、糖タンパク質、炭水化物、多糖類、核酸、ポリエチレングリコールなどの結合後に得られるタンパク質を意味する。
【0022】
純粋な又は事実上純粋なボツリヌス神経毒素は、ボツリヌス毒素を含むタンパク質複合体から、例えば、Current topics in Microbiology and Immunology (1995), 195, p.151-154に記載された方法によって得ることができる。純粋な又は事実上純粋なボツリヌス神経毒素は、例えば、クロストリジウム・ボツリナムの株を含む発酵培地又は培養ブロスの精製によって得ることができ、例えば肉又はタンパク質に富む食物により富化させることができる。
【0023】
この組成物の第一の必須成分は、ボツリヌスA1型神経毒素よりなる。
【0024】
ボツリヌス神経毒素A1は、実際、亜種を区別せずに普通にボツリヌス毒素A型と呼ばれている標準的ボツリヌス毒素に相当するものである。このボツリヌスA1型神経毒素は、Dysport(商標)又はBotox(商標)の名称で市販されている。
【0025】
この発明により、ボツリヌスA1型神経毒素は、ボツリヌス毒素A1及びヘマグルチニンの複合体に、又はすべての複合タンパク質を含まないボツリヌスA1型毒素に相当する。
【0026】
この組成物の第二の必須の成分は、ボツリヌスA型神経毒素よりなり、そのアミノ酸配列は、ボツリヌスA1型神経毒素のアミノ酸配列と少なくとも5%異なる。本件明細書の下記記載を読みやすくするために、この新規な毒素を、ボツリヌスAx型神経毒素と呼ぶ。
【0027】
表現「アミノ酸配列が、ボツリヌスA1型神経毒素のアミノ酸配列と少なくともλ%の差異を示すボツリヌスA型神経毒素」は、これらのアミノ酸配列(重鎖及び軽鎖)が、すべての複合タンパク質を含まないボツリヌス毒素の配列に対応することを意味する。例えば、10%の差異は、100アミノ酸中の10アミノ酸が異なることを意味する。10%の差異が100アミノ酸中の10アミノ酸の欠落を意味しうるという例においては、差異が欠落を意味しうる。
【0028】
一層詳細には、この発明の組成物は、アミノ酸配列が、ボツリヌスA1型神経毒素のアミノ酸配列と少なくとも8%の差異を示す少なくとも一種のボツリヌスA型神経毒素含む。
【0029】
好ましくは、この発明の組成物は、アミノ酸配列が、ボツリヌスA1型神経毒素のアミノ酸配列と少なくとも10%の差異を示す少なくとも一種のボツリヌスA型神経毒素を含む。
【0030】
尚一層有利には、この発明の組成物は、アミノ酸配列が、ボツリヌスA1型神経毒素のアミノ酸配列と少なくとも12%の差異を示す少なくとも一種のボツリヌスA型神経毒素を含む。
【0031】
ボツリヌスAx型神経毒素の内では、ボツリヌスA2型毒素を挙げることができる。
【0032】
好ましくは、この発明の組成物は、下記を含む:
− 少なくとも一種のボツリヌスA1型神経毒素、及び
− 少なくとも一種のボツリヌスA2型神経毒素。
【0033】
ボツリヌスA2型毒素は、最初、1990年頃にボツリヌスに冒された子供の症例で開始して単離された(Sakaguchi等、Int. J. Food Microbiol. (1990), 11, 231-242)。この毒素は、免疫学的に及び生化学的に、ボツリヌスA1型毒素と異なっている。
【0034】
ボツリヌスA2型毒素は、次の株から単離することができる:Kyoto−F、Chiba−H、Y−8036、7103−H、7105−H、KZ1828、NCTC2012又はNCTC9837(Cordoba等、System. Appl. Microbiol. (1995), 18, 13-22; Franciosa等、第40回 Interagency Botulism Research Coordinating Committee (IBRCC) Meeting, 2003年11月の要約)。
【0035】
好ましくは、この発明の組成物は、Natinal Collection of Type Culture − Central Public Health Laboratory − London − 英国で、番号NCTC9837で参照してアクセスすることのできるクロストリジウム・ボツリナム株から単離されたボツリヌスA2型毒素を含む。この株NCTC9837は、ときに、Mauritius1955株と呼ばれる。
【0036】
尚一層有利には、この発明の組成物は、下記を含む:
− 少なくとも一種のボツリヌスA1型神経毒素、及び
− クロストリジウム・ボツリナムNCTC9837株から単離された少なくとも一種のボツリヌスA2型神経毒素。
【0037】
ボツリヌスA2型毒素は、毒素A1と、とりわけ、そのアミノ酸配列、その分子量、その免疫学的及び遺伝学的特性により異なっている(Kubota等、Biochem. Biophys. Res. Commun. (1996), 224(3),843-848)。
【0038】
これらのボツリヌスA2型毒素とA1型との間の生化学的差異は、とりわけ、ボツリヌスA1型毒素はNTNHタンパク質(非毒性で非血球凝集性タンパク質)及び少なくとも3つのヘマグルチニン(HA17、HA34及びHA70)を含むが、ボツリヌスA2型毒素は、ヘマグルチニンなしでNTNHタンパク質を含むことができることである(Sakaguchi等、Int. J. Food Microhiol. (1990), 11, 231-242)。
【0039】
ボツリヌスA2型毒素は、約101kDaの重鎖を有しているが、ボツリヌスA1型毒素は、約93kDaの重鎖を有している(Kozaki等、Microbiol. Immunol. (1995), 39(10), 767-74)。
【0040】
これらのボツリヌスA2型毒素及びA1型のアミノ酸配列は、有意に異なっており、一層詳細には、重鎖のレベルで異なっている。例えば、Kyoto−F株を起源とするボツリヌスA2型毒素の場合には、重鎖の847のアミノ酸の内の109アミノ酸が2つの毒素間で異なっている(13%の差異)(Cordoba等、System. Appl. Microbiol. (1995), 18, 13-22)。
【0041】
一般に、単離されたボツリヌスA1型毒素の重鎖は、互いに、2%未満だけ異なっている。このボツリヌス毒素の重鎖は、標的細胞上のレセプターへの結合及び細胞内輸送を含むこの分子の主たる生物学的活性に関与している(Zhang等、Gene (2003), 315, 21-32)。
【0042】
ボツリヌスA2型毒素とA1型との間には、免疫学的差異が存在する。事実、ボツリヌスA1型毒素に対する抗体は、ボツリヌスA2型毒素を認識せず、逆も又同様である(Sakaguchi等、Int. J. Food Microbiol. (1990), 11, 231-242; Kozaki等、Microbiol. Immunol. (1995), 39(10), 767-74)。
【0043】
本発明の組成物は、その上、更に、少なくとも一種の鎮痛剤を含むことができる。
【0044】
本発明の適当な鎮痛剤の内で、ナトリウムチャンネルのインヒビターから選択する鎮痛剤を挙げることができる。
【0045】
本発明の組成物は又、上記の鎮痛剤の混合物をも含むことができる。
【0046】
「ナトリウムチャンネルのインヒビター」は、例えば、下記の化合物(適宜、製薬上許容しうる塩の形態)を意味する:
− リドカイン;
− テトラカイン;
− ブピバカイン;
− プロカイン;
− メピバカイン;又は
− ジブカイン。
【0047】
本発明の組成物は、少なくとも一種の多糖類又は幾つかの種類の多糖類の混合物をも含むことができる。
【0048】
「多糖類」は、本発明の意味の範囲内では、糖質である少なくとも2つのモノマーを含むポリマーを意味する。この定義は、二糖類を含む。
【0049】
この発明の枠組みにおいて、これらの多糖類は、イオン性及び/又は非イオン性であってよい。
【0050】
好ましくは、この組成物は、主としてグルコース単位を含む少なくとも一種の多糖類を含み、用語「主として」は、数値的意味において、モノマーの大部分がグルコースであることを意味する。
【0051】
この発明の適当な多糖類の例としては、澱粉、澱粉誘導体、ヒドロキシエチル澱粉(特に、2−ヒドロキシ−エチル澱粉)を挙げることができる。
【0052】
本発明の適当な多糖類は、置換することができ、特にアルキル、アルコキシ基により、又は自身がアルコール官能基によって置換されたアルキル基によって置換することができる。
【0053】
この発明の変形物によって、この発明の組成物に含まれる多糖類の量は、ボツリヌス毒素1単位当たり少なくとも1μgの多糖類である。この多糖類の選択によって、ボツリヌス毒素1単位当たり少なくとも0.5μgの多糖類を使用することができる。
【0054】
この発明の組成物は、更に、少なくとも一種の界面活性剤又は幾つかの界面活性剤の混合物を含むことができる。
【0055】
「界面活性剤」は、この発明の意味の範囲内で、乳化剤又は可溶化剤を意味する。
【0056】
この発明の枠組みの内で、用いられる界面活性剤は、カチオン性、アニオン性又は非イオン性界面活性剤から選択することができる。
【0057】
好ましくは、この発明の組成物は、ポリソルベートの群の非イオン性界面活性剤から選択する少なくとも一種の界面活性剤を含む。
【0058】
ポリソルベートの群の内で、ポリソルベート20、ポリソルベート21、ポリソルベート40、ポリソルベート60、ポリソルベート61、ポリソルベート65、ポリソルベート80、ポリソルベート81、ポリソルベート85、ポリソルベート120、ポリソルベート80アセテートを挙げることができる。
【0059】
この発明の変形物による好適な界面活性剤は、ポリソルベート80である。
【0060】
この発明による組成物は、更に、少なくとも一種の血管収縮薬又は幾つかの血管収縮薬の混合物を含むことができる。
【0061】
この発明の枠組み内で、用いられる血管収縮薬は、例えば、カテコールアミン又は非カテコールアミン型の血管収縮薬から選択することができる。
【0062】
本発明に適した血管収縮薬の内で、例えば、エピネフリン、ノルエピネフリン、レボノルデフリン、アンフェタミン、エフェドリン、フェニルエフリン、エンドセリンを挙げることができる。
【0063】
この発明の組成物は、固体形態、例えば、粉末、凍結乾燥物、顆粒、錠剤又はリポソームであってよい。この発明の固体形態の組成物は、例えば、4℃未満又は0℃未満の温度で、生物学的活性を変えることなく保存することができる。
【0064】
この発明の組成物は、ゲル化(gelified)系におけるボツリヌス神経毒素の粒子の水性分散体の形態で提供することができる。
【0065】
この発明の組成物は又、液体形態、例えば溶液、乳液又は懸濁液で提供することもできる。
【0066】
この発明の組成物の投与は、好ましくは、注射例えば筋肉内注射又は皮下注射により行なう。
【0067】
注射の場合には、この発明の組成物は、注射用ビヒクル又は注射用ベクターとも呼ばれる注射を容易にする薬剤と合せることができる。
【0068】
この発明の組成物の具体例によれば、ボツリヌスA1型神経毒素の、ボツリヌスAx型神経毒素に対する単位の画分比率[単位A1/単位Ax]は、1/99〜99/1、有利には、5/95〜95/5、又は10/90〜90/10であってよい。
【0069】
この発明の組成物の変形物によれば、ボツリヌスA1型神経毒素のボツリヌスAx型神経毒素に対する単位の画分比率は、50/50である。
【0070】
この発明の組成物の他の変形物によれば、ボツリヌスA1型神経毒素のボツリヌス神経毒素Axに対する単位の画分比率は、60/40である。
【0071】
この発明の組成物の他の変形物によれば、ボツリヌスA1型神経毒素のボツリヌス神経毒素Axに対する単位の画分比率は、40/60である。
【0072】
本発明の主題は又、この発明の上記の組成物の、筋肉の障害、神経筋の障害、神経病学的障害、整形外科的障害、眼科的障害、関節病理、内分泌障害又は泌尿器科学的障害を治療するための医薬を得るための利用でもある。
【0073】
本発明の主題は又、この発明の上記の組成物の、斜頚、痙性斜頚、上下肢の痙性局所的障害、痛み、筋肉痛、筋肉痙攣による痛み、筋膜痛、手術後の痛み、筋肉痙攣、顔半側痙攣、眼瞼痙攣、斜視、顔面非対称、筋ジストニー、脳性麻痺、頭痛、片頭痛、結合組織炎、筋肉痛、多汗症、臭汗症、股関節症、臀部関節、肘の上顆炎、関節炎、リウマチ様関節炎、ジスキネジア、アカラシア、オッディ括約筋機能不全、膵炎、通風、肛門亀裂、便秘、アニスムス、幽門弁の痙攣、痙攣性膀胱、膀胱の痙攣、尿失禁、尿閉、前立腺肥厚、子宮内膜症、乾癬、鼻炎、アレルギー鼻炎、肥満、涙液過多、骨折、腱裂傷又は肩の回旋筋帽病理を治療するための医薬を得るための利用でもある。
【0074】
本発明の主題は又、この発明の上記の組成物の、化粧品を得るための利用でもある。
【0075】
本発明の主題は又、この発明の上記の組成物の、眉間のしわ、顔のしわ、皮膚のしわ、眼の輪郭のしわ、眉間のしわ、脱毛症、座瘡、過度の発汗、又は脱毛の治療のための利用でもある。
【0076】
本発明の主題は又、医薬としての、この発明の上記の組成物である。
【0077】
本発明の主題は又、この発明の上記の組成物を含む医薬組成物である。
【0078】
本発明の組成物の、上記の病気又は異常の治療のために与えるべき投与量は、投与方法、治療される患者の年齢及び体重並びに該患者の状態によって変化し、最終的に、所属医師又は獣医により決定される。かかる所属医師又は獣医により決定された量は、ここでは、「治療上有効な量」と呼ばれる。
【0079】
この注射すべき治療上有効な量は又、治療すべき筋肉の数並びにこれらの筋肉の体積によっても変化する。
【0080】
好ましくは、この発明の組成物の注射による投与量は、5〜2000単位の、一層好ましくは10〜1000単位の、尚一層好ましくは25〜500単位のボツリヌス毒素である。
下記の実施例は、この発明を、その範囲を制限することなく説明するものである。
【実施例】
【0081】
用いたこの発明のボツリヌス神経毒素の定量は、致死投与量LD50を測定することにより行なった。「LD50」は、本発明の意味の範囲内で、所与の物質の致死量又は半致死投与量を意味する。それは、試験された一群の動物の50%の死を生じる投与量(又は量)である。毒素の単位(U)は、マウスにおける腹腔内投与によるLD50に相当する。
【0082】
実施例で用いた組成物:
これらの実施例で用いた組成物の必須成分は、下記の通りである。他の存在する成分は特定してない。
組成物A: − 250単位のボツリヌスA1型神経毒素(Dysport(商標))
− 250単位の、クロストリジウム・ボツリヌムNCTC9837株から単離されたボツリヌスA2型神経毒素
組成物B: − 500単位のボツリヌスA1型神経毒素(Dysport(商標))
【0083】
実施例1:眼瞼痙攣(投与量120単位):
眼瞼痙攣、眼の周囲に位置した筋肉の収縮により不随意に眼が閉じることに悩まされている50歳の患者は、この発明の組成物Aの数回の筋肉内注射を受けた(注射された組成物Aの総投与量は、1mlの全量についてボツリヌス神経毒素120単位である)。
【0084】
この注射プロトコールは、次のように行なった:無菌の針を、注射用の0.9%塩化ナトリウム溶液2.5mlを導入するために、組成物Aを含むバイアルに導入する。そうして、200単位/mlのボツリヌス神経毒素を含む透明な溶液が得られる。
【0085】
両眼の眼瞼痙攣に悩まされている患者は、注射により、120単位のボツリヌス神経毒素(組成物A)を、眼当たり(即ち、2.5ml中に500単位のボツリヌス神経毒素(組成物A)を含むバイアルの希釈物0.6ml)受けた。この注射を、眼の周囲の皮膚を清浄化した後で、1ml注射器(23又は25ゲージの針)を用いて皮下経路により行なった。
【0086】
組成物Aの0.1ml(20単位)の投与量を、各眼の上部眼輪筋の前中隔及び眼窩域間結合の内側部分に、0.2ml(40単位)を外側部分に注射した。同様にして、組成物Aの0.1ml(20単位)の投与量を、各眼の下部眼輪筋の前中隔及び眼窩域間結合の内側部分に、0.2ml(40単位)を外側部分に注射した。上部眼瞼への注射中、その針は、好ましくは、眼瞼の中心(上眼瞼挙筋が挿入される部分)を避けるように方向付けられなければならない。その後の投与中に、眼当たりの総投与量は、80単位(0.4ml)まで減じることができ、即ち注射部位当たり20単位(即ち、0.1ml)まで減じることができる。
【0087】
この患者の場合、筋肉の麻痺は、治療の開始から約12時間後に始まり、約20〜21週間持続した。部分的な又は完全な眼瞼下垂は、認められなかった。
【0088】
同じ年齢で類似の症状を示す他の患者に、同じプロトコール(但し、組成物Bを同じ投薬量で用いる)を用いた場合には、筋肉の麻痺は、治療の開始後約24時間で始まり、約12〜13週間持続した。
【0089】
実施例2:眼瞼痙攣(投与量60単位):
眼瞼痙攣、眼の周囲に位置した筋肉の収縮により不随意に眼が閉じることに悩まされている50歳の患者は、この発明の組成物Aの数回の筋肉内注射を受けた(注射された組成物Aの総投与量は、1mlの全量についてボツリヌス神経毒素60単位である)。
【0090】
この注射プロトコールは、次のように行なった:無菌の針を、注射用の0.9%塩化ナトリウム溶液2.5mlを導入するために、組成物Aを含むバイアルに導入する。そうして、200単位/mlのボツリヌス神経毒素を含む透明な溶液が得られる。
【0091】
両眼の眼瞼痙攣に悩まされている患者は、注射により、60単位のボツリヌス神経毒素(組成物A)を、眼当たり(即ち、2.5ml中に500単位のボツリヌス神経毒素(組成物A)を含むバイアルの希釈物0.3ml)受けた。この注射を、眼の周囲の皮膚を清浄化した後、皮下経路により行なった。
【0092】
組成物Aの0.05ml(10単位)の投与量を、各眼の上部眼輪筋の前中隔及び眼窩域間結合の内側部分に、0.1ml(20単位)を外側部分に注射した。同様にして、組成物Aの0.05ml(10単位)の投与量を、各眼の下部眼輪筋の前中隔及び眼窩域間結合の内側部分に、0.1ml(20単位)を外側部分に注射した。上部眼瞼への注射中、その針は、好ましくは、眼瞼の中心(上眼瞼挙筋が挿入される部分)を避けるように方向付けられなければならない。その後の投与中に、眼当たりの総投与量は、40単位(0.2ml)まで減じることができ、即ち注射部位当たり10単位(即ち、0.05ml)まで減じることができる。
【0093】
この患者の場合、筋肉の麻痺は、治療の開始から約24時間後に始まり、約12〜13週間持続した。
【0094】
それ故、これらの結果は、毒素単位数50%減少した投与量の故に、組成物Bを用いて得られたものと類似している。
【0095】
実施例3:痙性斜頚
痙性斜頚に悩まされている35歳の女性患者は、この発明の組成物Aの数回の筋肉内注射を受けた(注射された組成物Aの総投与量は、1mlの全量についてボツリヌス神経毒素500単位である)。
【0096】
この注射プロトコールは、次のように行なった:無菌の針を、注射用の0.9%塩化ナトリウム溶液1mlを導入するために、組成物Aを含むバイアルに導入する。そうして、500単位/mlのボツリヌス神経毒素を含む透明な溶液が得られる。
【0097】
痙性斜頚に悩まされている女性患者は、注射により、500単位のボツリヌス神経毒素(組成物A)を受けた(即ち、1ml中に500単位の1バイアルの希釈物1ml)。総投与量は、2又は3の最も影響を受ける頸の筋肉(胸鎖乳突筋、板状筋、僧帽筋又は角)に分布した。
【0098】
この患者において、筋肉麻痺は、治療開始の約18時間後に始まった。この麻痺は、約20〜21週間持続した。嚥下障害は、示されなかった。
【0099】
同年齢で類似の症状を示す他の女性患者において、同じプロトコール(但し、組成物Bを同じ投薬量で使用)治療した場合、筋肉麻痺は、治療の開始の約48〜60時間後に始まり、約12〜13週間持続した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記を含む組成物:
− 少なくとも一種のボツリヌスA1型神経毒素、及び
− アミノ酸配列がボツリヌスA1型神経毒素のアミノ酸配列と少なくとも5%異なる少なくとも一種のボツリヌスA型神経毒素。
【請求項2】
アミノ酸配列が、ボツリヌスA1型神経毒素のアミノ酸配列と少なくとも10%の差異を示す少なくとも一種のボツリヌスA型神経毒素を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
下記を含む、請求項1又は2に記載の組成物
− 少なくとも一種のボツリヌスA1型神経毒素、及び
− 少なくとも一種のボツリヌスA2型神経毒素。
【請求項4】
下記を含む、請求項1〜3いずれか1項記載の組成物
− 少なくとも一種のボツリヌスA1型神経毒素、及び
− クロストリジウム・ボツリナムNCTC9837株から単離された少なくとも一種のボツリヌスA2型神経毒素。
【請求項5】
少なくとも一種の鎮痛剤を含む、請求項1〜4いずれか1項記載の組成物。
【請求項6】
少なくとも一種の多糖類を含む、請求項1〜5いずれか1項記載の組成物。
【請求項7】
2−ヒドロキシ−エチル澱粉である少なくとも一種の多糖類を含む、請求項1〜6いずれか1項記載の組成物。
【請求項8】
カチオン性、アニオン性又は非イオン性界面活性剤から選択する少なくとも一種の界面活性剤を含む、請求項1〜7いずれか1項記載の組成物。
【請求項9】
ポリソルベートの群の非イオン性界面活性剤から選択する少なくとも一種の界面活性剤を含む、請求項1〜8いずれか1項記載の組成物。
【請求項10】
ポリソルベート80である少なくとも一種の界面活性剤を含む、請求項1〜9いずれか1項記載の組成物。
【請求項11】
少なくとも一種の血管収縮薬を含む、請求項1〜10いずれか1項記載の組成物。
【請求項12】
医薬組成物である、請求項1〜11いずれか1項記載の組成物。
【請求項13】
筋肉の障害、神経筋の障害、神経病学的障害、整形外科的障害、眼科的障害、関節病理、内分泌障害又は泌尿器科学的障害を治療するための医薬を得るための、請求項1〜12いずれか1項記載の組成物の利用。
【請求項14】
斜頚、痙性斜頚、上下肢の痙性局所的障害、痛み、筋肉痛、筋肉痙攣による痛み、筋膜痛、手術後の痛み、筋肉痙攣、顔半側痙攣、眼瞼痙攣、斜視、顔面非対称、筋ジストニー、脳性麻痺、頭痛、片頭痛、結合組織炎、筋肉痛、多汗症、臭汗症、股関節症、臀部関節、肘の上顆炎、関節炎、リウマチ様関節炎、ジスキネジア、アカラシア、オッディ括約筋機能不全、膵炎、通風、肛門亀裂、便秘、アニスムス、幽門弁の痙攣、痙攣性膀胱、膀胱の痙攣、尿失禁、尿閉、前立腺肥厚、子宮内膜症、乾癬、鼻炎、アレルギー鼻炎、肥満、涙液過多、骨折、腱裂傷又は肩の回旋筋帽病理を治療するための医薬を得るための、請求項1〜12いずれか1項記載の組成物の利用。
【請求項15】
化粧品を得るための、請求項1〜12いずれか1項記載の組成物の利用。
【請求項16】
眉間のしわ、顔のしわ、皮膚のしわ、眼の輪郭のしわ、眉間のしわ、脱毛症、座瘡、過度の発汗、又は脱毛の治療のための、請求項1〜12いずれか1項記載の組成物の利用。

【公表番号】特表2009−526759(P2009−526759A)
【公表日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−551821(P2008−551821)
【出願日】平成19年1月24日(2007.1.24)
【国際出願番号】PCT/FR2007/000134
【国際公開番号】WO2007/085728
【国際公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【出願人】(505474717)ソシエテ・ドゥ・コンセイユ・ドゥ・ルシェルシュ・エ・ダプリカーション・シャンティフィック・エス・ア・エス (41)
【Fターム(参考)】