説明

整流素子およびそれを用いた電子回路、並びに整流素子の製造方法

一対の電極と、該一対の電極間に設けられた、1本または複数のカーボンナノチューブにより構成されるキャリア輸送体と、を備え、前記一対の電極のうち、一方の電極および前記キャリア輸送体の第1の界面と、他方の電極および前記キャリア輸送体の第2の界面と、が異なる障壁レベルとなるように、これら2つの接続構成を異なる構成とすることで、高周波応答性、耐熱性に優れたキャリア輸送体を備えた整流素子を提供し、併せて、それを用いた電子回路、並びに整流素子の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、キャリア輸送体としてカーボンナノチューブ構造体を用いた整流素子およびそれを用いた電子回路、並びに整流素子の製造方法に関する。
【背景技術】
カーボンナノチューブ(CNT)は、その特異な形状や特性ゆえに、様々な応用が考えられている。カーボンナノチューブの形状は炭素原子の六員環で構成されるグラフェンシートを巻いた1次元性を有する筒状であり、グラフェンシートが1枚の構造のカーボンナノチューブを単層ナノチューブ(SWNT)、多層の場合を多層ナノチューブ(MWNT)と呼ぶ。SWNTは直径約1nm、多層カーボンナノチューブは数十nm程度であり、従来のカーボンファイバーと呼ばれる物よりも極めて細い。
また、カーボンナノチューブは、マイクロメートルオーダーの長さを有し、直径とのアスペクト比が非常に大きいことが特徴的である。さらに、カーボンナノチューブは炭素原子の六員環の配列が螺旋構造をとることから、金属性と半導体性の両方の性質を有するという、極めて希有な特性を有する物質である。加えて、カーボンナノチューブの電気伝導性は極めて高く、電流密度に換算すると100MA/cm以上の電流を流すことができる。
カーボンナノチューブは、電気的特性だけではなく、機械的性質についても優れた点を存する。すなわち、炭素原子のみで構成されているため、非常に軽量であるにもかかわらず、1TPaを越えるヤング率を有し、極めて強靱である。また、ケージ物質であるために弾力性・復元性にも富んでいる。このように、カーボンナノチューブは様々な優れた性質を有するため、工業材料として、極めて魅力的な物質である。
これまでに、カーボンナノチューブの優れた特性を利用した応用研究が数多く行われている。樹脂の強化や伝導性複合材料としてカーボンナノチューブを添加したり、走査プローブ顕微鏡の探針として利用されたりしている。また、微小電子源として、電界放出型整流素子やフラットディスプレィとしてカーボンナノチューブが利用され、さらに水素貯蔵への応用が進められている。
このように、カーボンナノチューブは、種々の応用が考えられるが、特に電子材料・電子デバイスとしての応用が注目を浴びている。既にダイオードやトランジスタなどの電子デバイスの試作が行われており、現在のシリコン半導体に代わるものとして期待されている。
近年、電子デバイスはより広い領域での使用が求められている。たとえば、エネルギー変換といった用途では環境への対策も踏まえ、高効率化や省エネルギー化が必須となる。また、高温環境など多様な環境での安定動作が求められる場面も多い。
こうした要求への対応として、素子材料または素子構造という2つの面から解決が図られる。しかし、現在の主流であるシリコンを用いた素子では、素子構造により対応を図ろうにも、シリコンの材料としての限界により制限を受ける域へと達しているのが現状である。また、ガリウムヒ素といった半導体材料は、環境への負荷の観点からその使用は望ましくない。このため、既存の材料に代わる新たな半導体材料を用いた電子デバイスが求められている。
整流素子は多様な電子デバイスのなかでも最も基本的なものであり、素子の一方向にのみ電流を流す性質を持つデバイスである。整流素子では、上記の要求を満たすため、高出力、高速、高周波、低損失の素子が求められる。そのような整流素子を実現するため、高い絶縁破壊電界強度や飽和ドリフト速度、熱伝導率といった特性でシリコンを上回る部材をキャリア輸送体として利用することが広く検討されている。
カーボンナノチューブを使用したダイオードの報告例としては、Hu,J.Ouyang,M.Yang,P.Lieber,C.M.Nature,399,48−51(1999)と、Yao,Z.Postma,H.W.C.Balents,L.Dekker,C.Nature,402,273−276(1999)との2つの文献がある。前者はカーボンナノチューブとシリコンナノワイヤーのヘテロ結合を形成させることにより、また、後者ではカーボンナノチューブを屈曲させ、マニュピレート法を用いて配線することにより、整流作用を発現させている。
しかしながら、カーボンナノチューブを用いた整流素子の報告例はあまり多くなく、整流方向の制御された素子の作製例はさらに少ない。
カーボンナノチューブを整流素子のキャリア輸送体として用いることは、カーボンナノチューブの特性である応答性の速さや熱伝導性の高さから、高周波や高温での動作が可能な整流素子としての用途が期待される。また、そのサイズを活かし、小型化や高密度実装も可能となる。さらに、炭素のみからなるため環境負荷が小さい点も注目される。しかしながら、カーボンナノチューブをキャリア輸送体として用いた既存の整流素子は、整流方向が制御できないといった点で、実用には適さないものである。
【発明の開示】
したがって、本発明は、上記課題を解決することを目的とする。詳しくは、本発明の目的は、カーボンナノチューブ構造体の特性を効果的に活用できる整流素子およびそれを用いた電子回路、並びに整流素子の製造方法を提供することにある。
上記目的は、以下の本発明により達成される。
すなわち本発明の整流素子は、一対の電極と、該一対の電極間に設けられた、1本または複数のカーボンナノチューブにより構成されるキャリア輸送体と、を備え、
前記一対の電極のうち一方の電極および前記キャリア輸送体の第1の界面と、前記一対の電極のうち他方の電極および前記キャリア輸送体の第2の界面と、が異なる障壁レベルとなるように、前記一方の電極および前記キャリア輸送体間の第1の接続構成と、前記他方の電極および前記キャリア輸送体間の第2の接続構成と、を異なる構成としたことを特徴とする。
本発明の整流素子は、前記第1の界面と前記第2の界面との障壁レベルが異なることから、前記第1の界面または前記第2の界面、あるいはその両方が、無電界下の熱平衡状態において電子とホールが相互に往来するような所謂オーミック接続とはならないこととなる。オーミック接続以外の接続構成としては、MIS(Metal−Insulator−Semiconductor)障壁やショットキー障壁が代表的なものである。
なお、障壁レベルとは、無電界下・熱平衡下における、キャリア輸送体と電極間との界面におけるキャリア(電子あるいはホール)の遷移の容易さの程度、あるいは、そのエネルギー障壁の大きさの程度を指す。キャリア輸送体の第1の界面と第2の界面とで障壁レベルが非対称になることで、電圧印加時に整流作用が生ずる。
本発明におけるキャリア輸送体とは、金属における自由電子を伝播する金属と異なり、媒体中をキャリア(電子および正孔)の伝播により電気伝導を生ずる物体であり、本発明のようにカーボンナノチューブから構成される場合には、カーボンナノチューブが半導体型ものである場合だけでなく、金属的性質を備えるカーボンナノチューブを、別に説明するような複数のカーボンナノチューブが架橋部位を介してカーボンナノチューブ構造体を構成することで、全体として半導体的性質を示すものや、カーボンナノチューブの分散膜でカーボンナノチューブの絡み合いもしくは接触により半導体的性質を示すもの等、カーボンナノチューブを用いて半導体的性質を示すものを用いることができる。
なお、本発明におけるキャリア輸送体は、複数のカーボンナノチューブから構成されることが好ましい。一本のカーボンナノチューブの場合には、流すことができる最大電流が小さくなるが、複数のカーボンナノチューブを使用することこれを大きくすることができる。また、一本の場合に比べキャリア輸送体内における電気的ネットワークが確実に形成されるため、安定性にも優れる。
また、本発明におけるキャリア輸送体は、複数のカーボンナノチューブが相互に架橋した網目構造を構成してなるカーボンナノチューブ構造体により構成されることがより好ましい。キャリア輸送体として、複数のカーボンナノチューブが複数の架橋部位を介して網目構造の状態となったカーボンナノチューブ構造体を用いることで、単なるカーボンナノチューブの分散膜をキャリア輸送体として用いたときのように、カーボンナノチューブ同士の接触状態並びに配置状態や使用環境が不安定になってキャリア輸送体の接続状態が変動し、整流特性が不安定になるといったことがなく、安定した整流素子を得ることができる。
また、架橋部位の存在により半導体的な性質が生ずるため、入手容易な多層カーボンナノチューブを用いて整流素子を構成できる点も好適である。
また、本発明の整流素子は、前記第1の界面と前記第2の界面の障壁レベルが異なるように、前記第1の界面および前記第2の界面の少なくとも一方に酸化物層を介在させて、第1および第2の接続構成を異ならせることが特に好ましい。酸化物を介在させることで高いエネルギー障壁が形成でき、無電界下での界面におけるキャリアの往来がより高く防止される。なお、この構成の整流素子は、いずれかがアノードとなり他方がカソードになるが、キャリア輸送体がp型の場合、障壁レベルの高い方の酸化膜に接している電極側がカソードとなり、n型の場合は逆に、障壁が大きい方がアノードとなる。キャリア輸送体を構成するカーボンナノチューブは、ドープ等の方法によってp型やn型の性質にすることができる為、いずれをカソード側にするかは必要に応じて設定することができる。
前記酸化物層は、好ましくは金属酸化膜(合金の酸化膜を含む)または半導体の酸化膜であり、必ずしも同じ組成の一様な酸化膜である必要はなく、複数種類の酸化膜を並置あるいは積層するなどして構成してもよい。酸化物としては、酸化アルミニウム、二酸化珪素、酸化銅、酸化銀、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化ニッケル、酸化マグネシウム酸化インジウム、酸化クロム、酸化鉛、酸化マンガン、酸化鉄、酸化パラジウム、酸化タンタル、酸化タングステン、酸化モリブデン、酸化バナジウム、酸化コバルト、酸化ハフニウム、酸化ランタンからなる群より選ばれる少なくとも1つから構成されることが好ましい。
前記キャリア輸送体表面と前記一方の電極(以下、「第1の電極」という場合がある。)との第1の界面には、酸化物層が挿入されていることが特に好適であるが、当該酸化物層と第1の電極との間に、例えば当該第1の電極とは異なる材料で構成された導電層を挿入するなど、整流素子としての機能を失わない程度の層を介在させてもよい。
一方、前記キャリア輸送体表面と前記他方の電極(以下、「第2の電極」という場合がある。)との第2の界面は、第1の界面における障壁レベルとは異なる障壁レベルを備えるように、直接オーミック接続したり、複数の材料を積層して介在させたりする等、やはり整流素子としての機能を失わない程度の層を介在させてもよい。
また、第1の界面側の障壁レベルおよび第2の界面側の障壁レベルのいずれかが他方よりも大きくなるようにするために、両方の界面に酸化物層が形成されていても構わない。ただし、両方の酸化物層が、無電界下の熱平衡状態において電子とホールが相互に往来するような所謂オーミック接続の状態とはならないように形成される。
前記一対の電極を構成する材料としては、チタン、アルミニウム、銀、銅、導電化されたシリコン、鉄、タンタル、ニオブ、金、白金、亜鉛、タングステン、スズ、ニッケル、マグネシウム、インジウム、クロム、マンガン、鉛、パラジウム、モリブデン、バナジウム、コバルト、ハフニウム、およびランタンからなる群より選ばれる少なくとも1つの金属もしくはその合金であることが好ましい。特に、前記一対の電極のうち一方の電極を構成する材料が、チタン、アルミニウム、銀、銅、導電化されたシリコン、鉄、タンタル、ニオブ、亜鉛、タングステン、スズ、ニッケル、マグネシウム、インジウム、クロム、パラジウム、モリブデンおよびコバルトからなる群より選ばれる少なくとも1つの金属もしくはその合金であることが好ましい。
前記一対の電極は、金属や合金に限らず、導電化した半導体でも、有機材料であってもよいが、キャリア輸送体あるいは酸化物層に対してオーミック接続されていることが望ましい。また電極自体が複数の金属の積層等の組合せで形成されていてもよい。
前記一対の電極が、それぞれ異なる材料から構成されてなるものであっても構わない。特に、前記第1の界面と前記第2の界面の障壁レベルが異なるように、前記一方の電極と前記他方の電極の材料を異ならせることができる。
その電極材料が酸化膜を形成するものである場合(例えば、アルミニウム、銀、銅、導電化されたシリコン、チタン、亜鉛、ニッケル、スズ、マグネシウム、インジウム、クロム、マンガン、鉄、鉛、パラジウム、タンタル、タングステン、モリブデン。バナジウム、コバルト、ハフニウム、ランタン)、電極表面を酸化することで形成すると、別途酸化物層を介在させる場合に比べて、酸化していない電極として作用する部分と、キャリア輸送体の距離が十分に近接させた状態で、酸化物層を介在させることができるため、キャリアの移動がより容易になり、低電圧での駆動が容易になる点でより好ましい。また、生産性の点でも安定的に酸化物層およびその層厚を形成できる点でも好ましい。
なお、酸化の容易性は各材料のイオン化傾向により示される。例えば、次の順で、下記材料はより酸化されにくくなる。
Li,K,Ca,Na,Mg,Al,Ti,Mn,Si,Zn,Cr,Fe(II),Cd,Co,Ni,In,Sn,Pb,Fe(iii),(H),Cu,Hg,Ag,Pd,Pt,Au
ここで、一方の電極を構成する導電材料のイオン化傾向が、他方の電極のイオン化傾向よりも高い材料から構成すると、酸化物層の形成量に差が生じて障壁レベルの差を生じるような、接続構成に容易にできるようになり、結果として安定した障壁を形成できるようになる点で極めて好ましい。
また、複数のカーボンナノチューブから構成されたキャリア輸送体を用い、予め酸化性の材料をカーボンナノチューブと隣接するように配置した後に、この材料を酸化させて酸化物層を形成する場合には、キャリア輸送体が網目構造であることから、この網目を介して酸化性の材料表面に酸素を供給することができ、確実に酸化物層を形成することができるようになる。
本発明の整流素子は、第1の界面と第2の界面の障壁レベルが異なるように、一方の電極と他方の電極の材料を異ならせてなることも好ましい形態である。
第1の電極と第2の電極の材料を異ならせると、電極とキャリア輸送等との界面における材料物性に応じて、第1の界面と第2の界面とを異なる障壁レベルを安定して得ることができる。
このとき、一方の電極および前記他方の電極を構成する材料がそれぞれ独立に、アルミニウム、銀、銅、導電化されたシリコン、金、白金、チタン、亜鉛、ニッケル、スズ、マグネシウム、インジウム、クロム、マンガン、鉄、鉛、パラジウム、タンタル、タングステン、モリブデン。バナジウム、コバルト、ハフニウム、およびランタンからなる群より選ばれる少なくとも1つの金属もしくはその合金とし、それぞれを異ならせることが好ましい。
さらにこのとき、前記他方の電極を構成する材料としては、金、チタン、鉄、ニッケル、タングステン、導電化されたシリコン、クロム、ニオブ、コバルト、モリブデンおよびバナジウムからなる群より選ばれる少なくとも1つの金属もしくはその合金であることが望ましい。
あるいは、前記第1の界面における前記一方の電極および前記キャリア輸送体間の密着度が、前記第2の界面における前記他方の電極および前記キャリア輸送体間の密着度よりも小さくする構成とすることも好ましい。カーボンナノチューブと電極の密着度は、使用する電極材料によって異なるため、材料物性の差異により障壁レベルを異ならせることができる。
ここで、密着度とは、電極材料とキャリア輸送体を構成するカーボンナノチューブとの付着性能の差を意味する。例えば、金属薄膜同士を2層重ねて形成した場合、密着度の高い材料では層が密着して多層化するが、密着度の悪い材料間では層構造にならなかったり、多層化しても層間にギャップが形成されたりする。カーボンナノチューブは膜ではなく、管状の構造体であるため、この上に電極を蒸着した場合の、ナノチューブ表面と電極材料との密着度を意味している。
あるいは、カーボンナノチューブの第1の界面に当たる部分の表面をイオンビーム照射や酸化処理等により改質すると、電極材料との付着率をより低下あるいは向上させることができ、密着度を低下もしくは増大させることができる。この結果として、障壁レベルをより向上させることができるようになる。このとき、電極として酸化性の材料を用いる場合には、キャリア輸送体との密着度が低下あるいは向上しているため、全体を酸化させた場合にも第1の界面における電極表面はより酸化しやすく、あるいは酸化しにくくなり、結果として第1と第2の界面では異なる障壁が形成されるようになる。以上のような電極材料の選択やカーボンナノチューブの表面処理を適宜組み合わせることで、より自由に所望の障壁レベルを形成できるようになる。
また本発明の整流素子として、前記第1の界面における前記一方の電極および前記キャリア輸送体間と、前記第2の界面における前記他方の電極および前記キャリア輸送体間とで、密着度の差が生ずるように、前記第1の界面および第2の界面の少なくとも一方に、付着力調整層を介在させることも一つの態様として好ましい。
例えば、アミノシラン、チオール、ポリマー(レジスト、ポリカーボネート、PMMA)、SAM、LB膜等を界面に付着させた後に、電極を蒸着などによって形成すると、界面と電極間の密着度が制御できる。密着度の差によって、障壁レベルを異ならせることができる。
前記カーボンナノチューブ構造体は、前記カーボンナノチューブ構造体が、官能基が結合された複数のカーボンナノチューブの当該官能基間を化学結合させて架橋部位が形成されてなるものが好ましく、当該架橋部位は、例えば、官能基が結合された複数のカーボンナノチューブを含む溶液を用いて、前記複数のカーボンナノチューブの前記官能基間を化学結合させて形成することができる。
上記複数のカーボンナノチューブとしては、単層カーボンナノチューブであっても、多層カーボンナノチューブでであっても構わない。主として単層カーボンナノチューブにより構成されている場合には、高密度にカーボンナノチューブ構造体を形成することができるので、パターニング等の微細加工を施したときにも、キャリア輸送体としての性能低下が少ない。一方、主として多層カーボンナノチューブにより構成されている場合には、導電体としての許容最大電流が単層カーボンナノチューブの場合に比べて大きいので、整流器としての用途を広げることができる。さらに単層カーボンナノチューブと比べてバンドリング(束化)しにくいことから、特性の均一性にも優れる。また、製造コストが低い点やハンドリングが容易である点で製造上も好ましい。
なお、ここでいう「主として」とは、「主体的に」という程度の意味を表し、全カーボンナノチューブの中で過半を占める割合を指し、全カーボンナノチューブ中90%以上を占めることが、それぞれのメリットを享受する上でより好ましい。以降、「主として」の解釈については、同様とする。
なお、単層カーボンナノチューブと多層カーボンナノチューブとが混合した状態で形成することも可能であり、この場合には両者の特徴を利用することができる。この場合、多層カーボンナノチューブを主とする第1の構造体に、単層カーボンナノチューブを主として複合した複合構造体とすることが好ましい。
このうち、前記架橋部位として好ましい第1の構造は、官能基が結合されたカーボンナノチューブおよび前記官能基と架橋反応を起こす架橋剤を含む溶液を用いて、これを硬化させることにより、前記官能基と前記架橋剤とを架橋反応させて形成されてなる構造であり、該架橋剤は非自己重合性であることがより好ましい。
前記カーボンナノチューブ構造体を、このように溶液硬化により形成すると、前記カーボンナノチューブ同士が架橋する架橋部位は、前記官能基の架橋反応後に残存する残基同士を、前記架橋剤の架橋反応後に残存する残基である連結基で連結した架橋構造を形成することができる。
前記架橋剤の特性として、それら同士が重合反応をするような性質(自己重合性)を有すると、当該架橋剤自身が2つ以上連結した重合体を前記連結基が含む状態となってしまう場合があり、カーボンナノチューブ構造体中に占める実質的なカーボンナノチューブの密度が低くなるため、整流素子としては、順バイアスでの電流値が小さくなることとなり、整流素子としては小さな整流比しか得られない。
一方、前記架橋剤が非自己重合性であれば、カーボンナノチューブ相互の間隔を、使用した架橋剤の残基のサイズに制御することができるため、所望のカーボンナノチューブのネットワーク構造を高い再現性で得られるようになる。さらに架橋剤の残基のサイズを小さくすれば、電気的にも物理的にも極めて近接した状態に、カーボンナノチューブ相互の間隔を構成することができ、また、構造体中のカーボンナノチューブを密に構造化できる。この結果、大きな順方向電流となることで、高い整流比が得られることとなる。
したがって、前記架橋剤が非自己重合性であれば、本発明における前記カーボンナノチューブ構造体を、カーボンナノチューブ自身が有する電気特性ないし機械的特性を極めて高い次元で発揮することができるものとすることができる。
なお、本発明において「自己重合性」とは、架橋剤同士が、水分等他の成分の存在の下、あるいは他の成分の存在なしに、相互に重合反応を生じ得る性質をいい、「非自己重合性」とは、そのような性質を有しないことを言う。
なお、前記架橋剤として非自己重合性のものを選択すれば、本発明の塗布膜におけるカーボンナノチューブ同士が架橋する架橋部位が、主として同一の架橋構造となる。また、前記連結基としては、炭化水素を骨格とするものが好ましく、その炭素数としては2〜10個とすることが好ましい。この炭素数を少なくすることで、架橋部位の長さが短くなり、カーボンナノチューブ相互の間隙をカーボンナノチューブ自体の長さと比較して十分に近接させることができ、実質的にカーボンナノチューブのみから構成される網目構造のカーボンナノチューブ構造体を得ることができる。このようにして得られたキャリア輸送体は、密度が高いため、微小サイズにパターニングした場合であっても、確実にキャリアの輸送経路が形成される。
前記官能基としては、−OH、−COOH、−COOR(Rは、置換または未置換の炭化水素基である。Rは、好ましくは−C2n−1、−C2nまたは−C2n+1から選ばれ、nは1〜10の整数であり、これらが置換されたものを含む。)、−COX(Xはハロゲン原子)、−NHおよび−NCOを挙げることができ、これらからなる群より選ばれる少なくとも1つの基を選択することが好ましく、その場合、前記架橋剤として、選択された前記官能基と架橋反応を起こし得るものを選択する。
また、好ましい前記架橋剤としては、ポリオール、ポリアミン、ポリカルボン酸、ポリカルボン酸エステル、ポリカルボン酸ハライド、ポリカルボジイミドおよびポリイソシアネートを挙げることができ、これらからなる群より選ばれる少なくとも1つの架橋剤を選択することが好ましく、その場合、前記官能基として、選択された前記架橋剤と架橋反応を起こし得るものを選択する。
上記好ましい前記官能基として例示された群、および、上記好ましい前記架橋剤として例示された群より、それぞれ少なくとも1つの官能基および架橋剤を、相互に架橋反応を起こし得る組み合わせとなるように選択することが好ましい。
前記官能基としては、−COOR(Rは、置換または未置換の炭化水素基である。Rは、好ましくは−C2n−1、−C2nまたは−C2n+1から選ばれ、nは1〜10の整数であり、これらが置換されたものを含む。)を特に好適なものとして挙げることができる。カーボンナノチューブにカルボキシル基を導入することは、比較的容易であり、しかも得られる物質(カーボンナノチューブカルボン酸)は、反応性に富むため、その後エステル化して官能基を−COOR(Rは、上記同様。)とすることは比較的容易である。この官能基は架橋反応しやすく、塗布膜形成に適している。
また、当該官能基に対応する前記架橋剤として、ポリオールを挙げることができる。ポリオールは、−COOR(Rは、上記同様。)との反応により硬化し、容易に強固な架橋体を形成する。ポリオールの中でも、グリセリンやエチレングリコールは、上記官能基との反応性が良好であることは勿論、それ自体生分解性が高く、環境に対する負荷が小さい。
前記複数のカーボンナノチューブが相互に架橋する架橋部位は、前記官能基が−COOR(Rは、置換または未置換の炭化水素基)であり、前記架橋剤としてエチレングリコールを用いた場合、−COO(CHOCO−となり、前記架橋剤としてグリセリンを用いた場合、OH基2つが架橋に寄与すれば−COOCHCHOHCHOCO−あるいは−COOCHCH(OCO−)CHOHとなり、OH基3つが架橋に寄与すれば−COOCHCH(OCO−)CHOCO−となる。架橋部位の化学構造は上記4つからなる群より選ばれるいずれかの化学構造であっても構わない。
また、架橋部位の構造として好ましい第2の構造は、複数の官能基同士の化学結合により形成されている構造である。そして、化学結合を生ずる反応が、脱水縮合、置換反応、付加反応および酸化反応のいずれかであることがより好ましい。
このカーボンナノチューブ構造体は、カーボンナノチューブ同士を、このカーボンナノチューブに結合された官能基同士を化学結合を作ることにより架橋部位を形成して網目状の構造体を形成しているため、結合させる官能基によってカーボンナノチューブ間を結合させる架橋部位のサイズが一定となる。カーボンナノチューブは極めて安定な化学構造であるため、修飾させようとした官能基以外の官能基等が結合する可能性は低く、この官能基同士を化学結合させた場合は、設計した架橋部の構造とすることができ、カーボンナノチューブ構造体を均質なものとすることができる。
さらに、官能基同士の化学結合であることから、官能基間を架橋剤を用いて架橋した場合に比べて、カーボンナノチューブ間の架橋部の長さを短くできるので、カーボンナノチューブ構造体が密となり、カーボンナノチューブ特有の効果を奏しやすくなる。
また、本発明のカーボンナノチューブ構造体は、複数のカーボンナノチューブが複数の架橋部位を介して網目構造の状態となっているので、単なるカーボンナノチューブの分散膜や樹脂分散膜のように、カーボンナノチューブ同士が偶発的に接触しているだけで、実質的に孤立した状態の材料とは異なり、カーボンナノチューブの優れた特性を安定的に活用することができる。
前記複数の官能基同士の化学結合としては、縮合反応では、−COOCO−、−O−、−NHCO−、−COO−および−NCH−から選ばれる一つ、置換反応では−NH−、−S−および−O−から選ばれる少なくとも一つ、付加反応では−NHCOO−、酸化反応では、−S−S−であることが好ましい。
また、反応前にカーボンナノチューブに結合させる前記官能基としては、−OH、−COOH、−COOR(Rは、置換または未置換の炭化水素基である。Rは、好ましくは−C2n−1、C2nまたは−C2n+1から選ばれ、nは1〜10の整数であり、これらが置換されたものを含む。)、−X、−COX(Xはハロゲン原子)、−SH、−CHO、−OSOCH、−OSO(C)CH−NHおよび−NCOを挙げることができ、これらからなる群より選ばれる少なくとも1つの基を選択することが好ましい。
前記官能基としては、−COOHを特に好適なものとして挙げることができる。カーボンナノチューブにカルボキシル基を導入することは、比較的容易である。しかも得られる物質(カーボンナノチューブカルボン酸)は、反応性に富み、N−エチル−N’−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド等の脱水縮合剤を利用することで、容易に縮合反応をおこし、塗布膜形成に適する。
なお、前記キャリア輸送体が層状であり、前記カーボンナノチューブ構造体が所定形状にパターニングされたものであると、微小な整流素子を得ることができる。またこのとき、架橋部位で相互に化学結合したカーボンナノチューブ構造体をパターニングしてキャリア輸送体を形成する場合、微小サイズであってもカーボンナノチューブが密に形成されるため、確実にキャリアの伝導経路が確保され、キャリア輸送体として好適に利用することができる。
また、複数のカーボンナノチューブから構成されるキャリア輸送体を用いるとき、第1の界面における障壁レベルが第2の界面における障壁レベルよりも高く、一方の電極とキャリア輸送体の界面において、前記一方の電極表面の幅がキャリア輸送体の幅以上であることが好ましい。このとき、更に第1の接続構成は、第1の界面に酸化物層を含むことが好ましい。ここで「幅」というのは、一対の電極間の電界方向と垂直の方向を指す。
前記キャリア輸送体の幅を、障壁レベルの高い側の電極の幅以下とすることで、キャリアが障壁を経由せざるを得ない状況が作られ、オンオフ特性が向上する。前記一方の電極の幅が前記キャリア輸送体の幅よりも小さいと、電極の側面側(一対の電極が対向する側でない箇所)における障壁が無い箇所あるいは低い箇所に電流が逃げることで、整流作用が十分に得られない場合がある。
なお、当該態様(前記一方の電極表面の幅がキャリア輸送体の幅以上である態様)の場合、前記第1の界面に既述のような構成の酸化物層を介在させてなることも好ましい。
また、本発明の整流素子は、少なくとも前記第1の界面を外気から封止するための封止体を備えることが好ましい。即ち、使用環境化において外気から供給される酸素によって、カーボンナノチューブ自体あるいは酸化物層の酸化が進行し、特性が変化するのを防止するために樹脂等により封止を行うことが好ましい。少なくとも第1の界面が封止されていれば、例えばここに酸化物層が介在している場合その変化を防止することができるが、より好ましくは、カーボンナノチューブのキャリア輸送体としての輸送特性が外気により劣化するのを防止するために、カーボンナノチューブ構造体全体を封止することが好ましい。
(電子回路)
本発明の電子回路は、上記説明の如き本発明の整流素子と、該整流素子が表面に形成されたフレキシブル基板を備えることを特徴とする。本発明の整流素子は、カーボンナノチューブから構成されているため、折り曲げ等に対する耐性が高く、フレキシブル基板の表面に形成することで、耐性の高い電子回路が得られるようになる。なお、このとき、架橋部位で相互に化学結合したカーボンナノチューブ構造体をパターニングしてキャリア輸送体とすると、該キャリア輸送体内部のカーボンナノチューブ間の結合が折り曲げによって変動し輸送特性がすることが防止される点で、より好ましい。
(製造方法)
本発明の整流素子の製造方法は、基体表面に設けられた一対の電極間に1本または複数のカーボンナノチューブから構成されるキャリア輸送体が配されてなる整流素子の製造方法であって、少なくとも、
前記一対の電極のうち一方の電極および前記キャリア輸送体の第1の界面と、前記一対の電極のうち他方の電極および前記キャリア輸送体の第2の界面と、が異なる障壁レベルとなるように、前記一方の電極および前記キャリア輸送体間の第1の接続構成と、前記他方の電極および前記キャリア輸送体間の第2の接続構成と、を異なる構成に形成する接続構成形成工程を含むことを特徴とする。
本発明の整流素子の製造方法(以下、単に「本発明の製造方法」という場合がある。)」によると、カーボンナノチューブから構成されるキャリア輸送体を用い、所望の特性をもった整流素子を、従来の手法に比べて容易に製造することが可能となる。
即ち本発明の製造方法によれば、一対の電極の他方と前記キャリア輸送体の第2の界面とが異なる障壁レベルとなるように、一方の電極からキャリア輸送体までの第1の接続構成と、他方の電極からキャリア輸送体までの第2の接続構成を異ならせて形成する接続構成形成工程を備えることで、確実に整流方向が制御された整流素子を製造することが可能となる。
本発明における接続構成形成工程が、前記一方の電極および前記キャリア輸送体の第1の界面に、当該第1の界面が、前記他方の電極および前記キャリア輸送体の第2の界面とは異なる障壁レベルとなる酸化物層を形成する酸化物層形成工程を含むことは特に好ましい。酸化物層はキャリア輸送体との間の界面で高いエネルギー障壁を形成でき、また酸化により構造が安定していることから、異なる障壁レベルを容易に形成できる。具体的には既に酸化物を直接体積させる方法や、後で述べるような酸化前の材料を酸化させることで形成する方法がある。
なお、酸化物層形成工程が、酸化可能な材料から構成される酸化物前駆体層を前記第1の界面に配置した後、該酸化物前駆体層を酸化させる工程であることはより好ましい。酸化前の材料からなる酸化物前駆体層を第1の界面に配置した後酸化させることにより、酸化膜の厚さがその酸化雰囲気より均一に薄くすることができ、別途酸化物層を形成する場合にくらべ、特性ばらつきが少なく生産性が向上する。
このとき、前記キャリア輸送体が複数のカーボンナノチューブが相互に架橋した網目構造を構成してなるカーボンナノチューブ構造体により形成され、前記酸化物層形成工程が、前記酸化物前駆体層を前記キャリア輸送体と接触させて形成した後に、該酸化物前駆体層を酸化させる工程であることがより好ましい。網目構造を介して酸化物前駆体層に酸素が供給され、均一に酸化物層を形成することができるようになる。
また、前記酸化物層形成工程としては、前記一対の電極のうち一方の電極を酸化可能な材料で形成し、前記第1の界面における前記一方の電極の表面を酸化させて酸化物層を形成する工程とすることが好ましい。さらに、このとき前記キャリア輸送体が複数のカーボンナノチューブが相互に架橋した網目構造を構成してなるカーボンナノチューブ構造体により形成され、前記酸化物層形成工程が、前記一方の電極を前記キャリア輸送体と接触させて形成した後に、当該接触面の前記一方の電極を酸化させる工程であることがより好ましい。前記キャリア輸送体が複数のカーボンナノチューブが網目構造を形成したものから構成される場合、酸化性の電極材料で形成した一方の電極をキャリア輸送体表面に形成した後に、この一方の電極の表面を酸化させて酸化物層を形成すると、網目構造を通過して供給される酸素により電極表面が効率的かつ広範囲に酸化させることができる。このため酸化領域や酸化時間を調整するなど、障壁レベルをより精密に制御できるようになる。
このとき、前記一対の電極のうち一方の電極を構成する材料としては、アルミニウム、銀、銅、導電化されたシリコン、チタン、亜鉛、ニッケル、スズ、マグネシウム、インジウム、クロム、マンガン、鉄、鉛、パラジウム、タンタル、タングステン、モリブデン、バナジウム、コバルト、ハフニウムおよびランタンからなる群より選ばれる少なくとも1つの金属もしくはその合金であることが好ましい。
また、このとき、前記他方の電極を構成する材料が、金、チタン、鉄、ニッケル、タングステン、導電化されたシリコン、クロム、ニオブ、コバルト、モリブデンおよびバナジウムからなる群より選ばれる少なくとも1つの金属もしくはその合金であることが好ましい。
なお、第1の界面に酸化物層を形成する場合、他方の電極を構成する材料を酸化可能な一方の電極を構成する導電材料よりもイオン化傾向が低い材料から構成すると、酸化させる際に第2の界面側の酸化を遅らせるために保護膜を形成する等の作業を行わなくても、同じ雰囲気下で第1の界面での酸化物層をより確実に形成し、障壁レベルを異ならせることができるようになる。
また、接続構成形成工程を、一対の電極を異なる材料で形成する工程とすることも好ましい一つの方法である。材料の物性に応じて障壁レベルを異ならせることができるようになるため、安定した特性を得ることができ、生産性が向上する。
また、前記接続構成形成工程が、前記第1の界面における前記一方の電極および前記キャリア輸送体間と、前記第2の界面における前記他方の電極および前記キャリア輸送体間とで、密着度の差が生ずるように、前記第1の界面または第2の界面における前記キャリア輸送体の表面を改質する工程を含むこととしたり、あるいは、前記接続構成形成工程が、前記第1の界面における前記一方の電極および前記キャリア輸送体間と、前記第2の界面における前記他方の電極および前記キャリア輸送体間とで、密着度の差が生ずるように、前記第1の界面および第2の界面の少なくとも一方に、付着力調整層を形成する工程を含むこととしたり等も好ましい態様である。このようにすることで、密着度あるいは電極とキャリア輸送体の距離に起因する整流特性を利用して、障壁レベルを異ならせることが可能になる。
カーボンナノチューブにより構成されたキャリア輸送体を用いた、本発明の整流素子は、先に述べたように、キャリアの移動経路が長くなってもキャリア輸送体としての作用を生ずる。従って半導体特性の一本のカーボンナノチューブを配置してこれに電極を配置するという生産性の低い工程を経ずとも、網目構造化された、より大きいサイズのものに対して電極を形成することで整流素子が形成できるため、極めて高い生産性を得ることができる。また、一方の電極を酸化可能な材料で形成し、これを酸化させることで酸化物層を形成する場合に、網目構造の網目を介して酸素が供給されて効率的に電極の表面を酸化させることができるようになる。
前記キャリア輸送体としては、相互に化学結合していない複数のカーボンナノチューブが絡み合うことで網目構造を形成してなるものであっても構わない。ただし、カーボンナノチューブ同士の絡み合いで網目構造を形成する場合は、カーボンナノチューブ同士がバンドル化しやすいことから、網目構造が粗になりやすく、微細化には比較的向いていない。また、変形に対して特性変化しやすい。一方、複数のカーボンナノチューブが化学結合による架橋部位を介して網目構造化されたカーボンナノチューブ構造体としたものを使用した場合は、架橋部位で固定されているため網目構造が密になりやすく、微細化したときの特性ばらつきが小さい。また、変形に対しても特性の変化が小さいという点でも有効である。
このため本発明においては、前記接続構成形成工程に先立ち、前記キャリア輸送体を形成するキャリア輸送体形成工程を備え、当該工程が、
官能基を有する複数のカーボンナノチューブを前記基体表面に供給する供給工程と、
前記官能基間を架橋させて架橋部位を形成し、前記網目構造のカーボンナノチューブ構造体を形成する架橋工程と、
を含むことが好ましい。
このとき、前記供給工程としては、前記基体表面に前記官能基を有するカーボンナノチューブを含む溶液を塗布する供給工程を含み、前記カーボンナノチューブ構造体が膜状であることが特に好ましい。この場合、まず前記基体表面に、官能基を有する複数のカーボンナノチューブを含む溶液(以下、は「架橋溶液」という場合がある。)を供給する工程で、基体の全面あるいはその表面の一部に、溶液を塗布する。そして、続く架橋工程で、この塗布後による溶液を硬化して、官能基間の化学結合を介して前記複数のカーボンナノチューブが相互に架橋した網目構造を構成するカーボンナノチューブ構造体を形成する。この2つの工程を経ることで、前記基体表面において、カーボンナノチューブ構造体の構造自体を安定化させる。
上記複数のカーボンナノチューブとしては、単層カーボンナノチューブであっても、多層カーボンナノチューブでであっても構わない。主として単層カーボンナノチューブにより構成されている場合には、高密度にカーボンナノチューブ構造体を形成することができるので、パターニング等の微細加工を施したときにも、キャリア輸送体としての性能低下が少ない。一方、主として多層カーボンナノチューブにより構成されている場合には、導電体としての許容最大電流が単層カーボンナノチューブの場合に比べて大きいので、整流器としての用途を広げることができる。さらに単層カーボンナノチューブと比べてバンドリング(束化)しにくいことから、特性の均一性にも優れる。また、製造コストが低い点やハンドリングが容易である点で製造上も好ましい。
なお、単層カーボンナノチューブと多層カーボンナノチューブとが混合した状態で形成することも可能であり、この場合には両者の特徴を利用することができる。下で説明する架橋工程において、単層カーボンナノチューブを主とする架橋溶液で第1の構造体を形成し、続いて多層カーボンナノチューブを主とする架橋溶液を第1の構造体に複合するように、カーボンナノチューブ構造体を形成してもよい。また、単層カーボンナノチューブと多層カーボンナノチューブの用いる順序を逆にしてもよい。このとき、最初に多層カーボンナノチューブを主とする架橋溶液とし、次に単層カーボンナノチューブを主とする架橋溶液とすると、多層カーボンナノチューブを骨格とする構造体の間隙に単層カーボンナノチューブが複合化されるので、広い面積の構造体を効率的に製造できる。
前記架橋工程における前記官能基間を架橋させて、架橋部位を形成するのに好ましい第1の方法は、前記供給工程が、前記官能基間を架橋する架橋剤の前記基体表面への供給を含む方法であり、該架橋剤により複数の前記官能基間が架橋される。
当該第1の方法においては、前記架橋剤として、非自己重合性の架橋剤を用いることが好ましい。前記架橋剤として自己重合性の架橋剤を用い、架橋工程における架橋反応中あるいはそれ以前に、架橋剤同士が相互に重合反応を起こしてしまうと、架橋剤同士の結合が巨大化・長大化し、必然的にこれらに結合するカーボンナノチューブ相互の間隙自体が大きく離間してしまう。このとき、架橋剤同士の自己重合性による反応の程度を制御することは事実上困難であるため、カーボンナノチューブ相互間の架橋構造が、架橋剤同士の重合状態のばらつきに応じて、ばらついてしまう。
しかし、非自己重合性の架橋剤を用いれば、少なくとも架橋工程ないしそれ以前に架橋剤同士が相互に重合することがなく、カーボンナノチューブ相互の間の架橋部位には、前記官能基の架橋反応後に残存する残基同士の間に、架橋剤の1つの架橋反応による残基だけが連結基として介在することとなる。この結果、得られるカーボンナノチューブ構造体は、全体として特性が均一化され、この層をパターニング工程でパターニングした場合にも、パターニング後のカーボンナノチューブ構造体の特性ばらつきを大きく低減することができる。
また、前記架橋剤同士が架橋しなければ、複数種類の非自己重合性の架橋剤を混合して、カーボンナノチューブ間を複数種類の架橋剤で架橋させても、カーボンナノチューブ間の間隔を制御することができるので、同様のばらつき低減の効果を得ることができる。一方、段階的に異なる架橋剤を用いて架橋させる場合には、最初の架橋段階で非自己重合性の架橋剤を用いて架橋すればカーボンナノチューブの網目構造の骨格はカーボンナノチューブ間の距離が制御された状態で出来上がっているため、後の架橋工程で自己重合性の架橋剤もしくは最初の架橋剤(もしくはその残基)に架橋する架橋剤を用いてもよい。
本発明の整流素子の製造方法において、架橋剤を用いて架橋部位を形成するときの、前記官能基としては、−OH、−COOH、−COOR(Rは、置換または未置換の炭化水素基である。Rは、好ましくは−C2n−1、−C2nまたは−C2n+1から選ばれ、nは1〜10の整数であり、これらが置換されたものを含む。)、−COX(Xはハロゲン原子)、−NHおよび−NCOを挙げることができ、これらからなる群より選ばれる少なくとも1つの基を選択することが好ましく、その場合、前記架橋剤として、選択された前記官能基と架橋反応を起こし得るものを選択する。
また、好ましい前記架橋剤としては、ポリオール、ポリアミン、ポリカルボン酸、ポリカルボン酸エステル、ポリカルボン酸ハライド、ポリカルボジイミドおよびポリイソシアネートを挙げることができ、これらからなる群より選ばれる少なくとも1つの架橋剤を選択することが好ましく、その場合、前記官能基として、選択された前記架橋剤と架橋反応を起こし得るものを選択する。
上記好ましい前記官能基として例示された群、および、上記好ましい前記架橋剤として例示された群より、それぞれ少なくとも1つの官能基および架橋剤を、相互に架橋反応を起こし得る組み合わせとなるように選択することが好ましい。
前記官能基としては、−COOR(Rは、置換または未置換の炭化水素基である。Rは、好ましくは−C2n−1、−C2nまたは−C2n+1から選ばれ、nは1〜10の整数であり、これらが置換されたものを含む。)を特に好適なものとして挙げることができる。カーボンナノチューブにカルボキシル基を導入することは、比較的容易であり、しかも得られる物質(カーボンナノチューブカルボン酸)は、反応性に富むため、その後エステル化して官能基を−COOR(Rは、上記同様。)とすることは比較的容易である。この官能基は架橋反応しやすく、塗布膜形成に適している。
また、当該官能基に対応する前記架橋剤として、ポリオールを挙げることができる。ポリオールは、−COOR(Rは、上記同様。)との反応により硬化し、容易に強固な架橋体を形成する。ポリオールの中でも、グリセリン、エチレングリコール、ブテンジオール、ヘキシンジオール、ヒドロキノンおよびナフタレンジオールは、上記官能基との反応性が良好であることは勿論、それ自体生分解性が高く、環境に対する負荷が小さい。そのため、これらからなる群より選ばれる少なくとも1つを前記架橋剤として用いることが特に好ましい。
なお、本発明の整流素子の製造方法において、前記第1の方法の場合には、前記供給工程で使用する前記官能基が結合された複数のカーボンナノチューブおよび架橋剤を含む前記溶液に、さらに溶剤に含ませて、これを前記基体表面に供給することができ、前記架橋剤の種類によっては、当該架橋剤が、その溶剤を兼ねることも可能である。
また、前記架橋工程における前記官能基間を架橋させて、架橋部位を形成するのに好ましい第2の方法は、複数の前記官能基同士を化学結合させる方法である。
このようにすることで、結合させる官能基によってカーボンナノチューブ間を結合させる架橋部位のサイズが一定となる。カーボンナノチューブは極めて安定な化学構造であるため、修飾させようとした官能基以外の官能基等が結合する可能性は低く、この官能基同士を化学結合させた場合は、設計した架橋部の構造とすることができ、カーボンナノチューブ構造体を均質なものとすることができる。
さらに、官能基同士の化学結合であることから、官能基間を架橋剤を用いて架橋した場合に比べて、カーボンナノチューブ間の架橋部の長さを短くできるので、カーボンナノチューブ構造体が密となり、カーボンナノチューブ特有の効果を奏しやすくなる。
官能基同士を化学結合させる反応としては、縮合、置換反応、付加反応、酸化反応が特に好ましい。また、前記供給工程においては、前記官能基同士の化学結合を生じさせる添加剤をさらに前記基体表面に供給することができる。
前記官能基同士を化学結合させる反応が脱水縮合である場合には、前記添加剤として縮合剤を添加することが好ましい。このとき好適に使用可能な前記縮合剤としては、硫酸、N−エチル−N’−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドおよびジシクロヘキシルカルボジイミドからなる群より選ばれる少なくともいずれか1つを挙げることができる。
また、脱水縮合で用いる前記官能基としては、−COOR(Rは、置換または未置換の炭化水素基である。Rは、好ましくは−C2n−1、−C2nまたは−C2n+1から選ばれ、nは1〜10の整数であり、これらが置換されたものを含む。)、−COOH、−COX(Xはハロゲン原子)、−OH、−CHO、−NHからなる群より選ばれる少なくともいずれか1つであることが好ましい。
脱水縮合で用いる前記官能基としては、−COOHを特に好適なものとして挙げることができる。カーボンナノチューブにカルボキシル基を導入することは、比較的容易であり、しかも得られる物質(カーボンナノチューブカルボン酸)は、反応性に富む。このため網目構造を形成するための官能基を、一本のカーボンナノチューブの複数箇所に導入しやすく、さらにこの官能基は脱水縮合しやすいことから、カーボンナノチューブ構造体の形成に適している。
前記官能基同士を化学結合させる反応が置換反応である場合には、前記添加剤として塩基を添加することが好ましい。このとき好適に使用可能な塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ピリジンおよびナトリウムエトキシドからなる群より選ばれる少なくともいずれか1つを挙げることができる。また、このとき前記官能基としては、−NH、−X(Xはハロゲン原子)、−SH、−OH、−OSOCHおよび−OSO(C)CHからなる群より選ばれる少なくともいずれか1つであることが好ましい。
前記官能基同士を化学結合させる反応が付加反応である場合、前記官能基としては、−OHおよび/または−NCOであることが好ましい。
前記官能基同士を化学結合させる反応が酸化反応である場合、前記官能基としては、−SHであることが好ましい。また、この場合、必ずしも前記添加剤が要求されるわけではないが、前記添加剤として酸化反応促進剤を添加することも好ましい態様である。好適に添加することができる酸化反応促進剤としては、ヨウ素を挙げることができる。
なお、本発明の整流素子の製造方法において、前記第2の方法の場合には、前記供給工程で使用する前記官能基が結合された複数のカーボンナノチューブ、および必要に応じて前記添加剤を溶剤に含ませて供給用の溶液(架橋溶液)とし、これを前記基体表面に供給することができる。
本発明の製造方法において、前記キャリア輸送体が、前記複数のカーボンナノチューブが相互に架橋した網目構造を構成してなるカーボンナノチューブ構造体により形成されるものであり、
当該カーボンナノチューブ構造体を前記キャリア輸送体に応じた形状にパターニングするパターニング工程を含むことがさらに好ましい。かかるパターニング工程を備えることで、前記カーボンナノチューブ構造体を前記キャリア輸送体に応じたパターンにパターニングすることができる。この段階では既に上記架橋工程でカーボンナノチューブ構造体の構造自体が安定化しており、この状態でパターニングをするため、パターニング工程においてカーボンナノチューブが飛散してしまうといった不具合が生じる懸念が無くキャリア輸送体に応じたパターンにパターニングすることが可能となる。また、カーボンナノチューブ構造体の膜自体が構造化しているので、確実にカーボンナノチューブ相互間の接続が確保され、カーボンナノチューブの特性を利用した、整流素子を形成することができるようになる。
前記パターニング工程としては、以下AおよびBの2つの態様を挙げることができる。
A:前記基体表面における前記キャリア輸送体に応じたパターン以外の領域のカーボンナノチューブ構造体に、ドライエッチングを行うことで、当該領域のカーボンナノチューブ構造体を除去し、前記カーボンナノチューブ構造体を前記キャリア輸送体に応じたパターンにパターニングする工程である態様。
前記キャリア輸送体に応じたパターンにパターニングする操作としては、前記パターニング工程がさらに、前記基体表面における前記キャリア輸送体に応じたパターンの領域のカーボンナノチューブ構造体の上に、レジスト層(好ましくは、樹脂層)を設けるレジスト層形成工程と、
前記基体の前記カーボンナノチューブ構造体およびレジスト層が積層された面に、ドライエッチングを行う(好ましくは、酸素分子のラジカルを照射。当該酸素分子のラジカルは、酸素分子に紫外線を照射することにより、酸素ラジカルを発生させ、これを利用することができる。)ことで、前記領域以外の領域で表出しているカーボンナノチューブ構造体を除去する除去工程と、
の2つの工程に分かれている態様が挙げられる。
この場合、除去工程に引き続いてさらに、レジスト層形成工程で設けられた前記レジスト層を剥離するレジスト層剥離工程を含むことで、パターニングされたカーボンナノチューブ構造体を表出させることができる。
またこの態様においては、その他、前記キャリア輸送体に応じたパターンにパターニングする操作としては、前記基体表面における前記キャリア輸送体に応じたパターン以外の領域のカーボンナノチューブ構造体に、ガス分子のイオンをイオンビームにより選択的に照射することで、当該領域のカーボンナノチューブ構造体を除去し、前記カーボンナノチューブ構造体を前記キャリア輸送体に応じたパターンにパターニングする態様が挙げられる。
B:前記基体表面における前記キャリア輸送体に応じたパターンの領域のカーボンナノチューブ構造体の上に、レジスト層を設けるレジスト層形成工程と、
前記基体の前記カーボンナノチューブ構造体およびレジスト層が積層された面に、エッチング液を接液させることで、前記領域以外の領域で表出しているカーボンナノチューブ構造体を除去する除去工程と、を含む工程である態様。
以上説明したように本発明によれば、カーボンナノチューブから構成されたキャリア輸送体を用いて、整流方向の再現性を有する整流素子およびそれを用いた電子回路、並びに整流素子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
図1(a)は、本発明の整流素子の構成の一形態を例示する概略断面図である。
図1(b)は、本発明の整流素子の構成の、他の一形態を例示する概略断面図である。
図1(c)は、本発明の整流素子の構成の、さらに他の一形態を例示する概略断面図である。
図2(a)は、本発明の整流素子の製造方法の一例を説明するための基体表面の模式断面図であり、架橋工程を経て、基体表面にカーボンナノチューブ構造体層が形成された状態を示したものである。
図2(b)は、本発明の整流素子の製造方法の一例を説明するための基体表面の模式断面図であり、レジスト層形成工程中、カーボンナノチューブ構造体層が形成された表面全面にレジスト層を形成した状態を示したものである。
図2(c)は、本発明の整流素子の製造方法の一例を説明するための基体表面の模式断面図であり、レジスト層形成工程を経た後の状態を示したものである。
図2(d)は、本発明の整流素子の製造方法の一例を説明するための基体表面の模式断面図であり、除去工程を経た後の状態を示したものである。
図2(e)は、本発明の整流素子の製造方法の一例を説明するための基体表面の模式断面図であり、パターニング工程を経た後の状態を示したものである。
図2(f)は、本発明の整流素子の製造方法の一例を説明するための基体表面の模式断面図であり、最終的に得られる整流素子を示したものである。
図3は、実施例1中の(付加工程)におけるカーボンナノチューブカルボン酸の合成の反応スキームである。
図4は、実施例1中の(付加工程)におけるエステル化の反応スキームである。
図5は、実施例1中の(架橋工程)におけるエステル交換反応による架橋の反応スキームである。
図6は、実施例3の整流素子の模式断面図である。
図7は、評価試験において、電流−電圧特性の測定により得られた、実施例1の素子の電流−電圧特性のグラフである。
図8は、評価試験において、電流−電圧特性の測定により得られた、実施例2の素子の電流−電圧特性のグラフである。
図9は、評価試験において、電流−電圧特性の測定により得られた、実施例3の素子の電流−電圧特性のグラフである。
図10(a)は、本発明の整流素子の製造方法の有用な応用例を説明するための基体表面および仮基板の模式断面図であり、カーボンナノチューブ構造体を形成し、パターニングして輸送層に応じた形状とした基板の状態である。
図10(b)は、本発明の整流素子の製造方法の有用な応用例を説明するための基体表面および仮基板の模式断面図であり、図10(a)の基板に仮基板を貼り付ける前の状態である。
図10(c)は、本発明の整流素子の製造方法の有用な応用例を説明するための基体表面および仮基板の模式断面図であり、図10(a)の基板に仮基板を貼り付けた後の状態である。
図10(d)は、本発明の整流素子の製造方法の有用な応用例を説明するための基体表面および仮基板の模式断面図であり、図10(a)の基板に貼り付けた仮基板を再び引き剥がした後の状態である。
図10(e)は、本発明の整流素子の製造方法の有用な応用例を説明するための基体表面および仮基板の模式断面図であり、最終的に2つ同時に得られる整流素子を示したものである。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明を整流素子とその製造方法とに分けて詳細に説明する。
[整流素子]
本発明の整流素子は、一対の電極と、該一対の電極間に設けられた、1本または複数のカーボンナノチューブにより構成されるキャリア輸送体と、を備え、
前記一対の電極のうち一方の電極および前記キャリア輸送体の第1の界面と、前記一対の電極のうち他方の電極および前記キャリア輸送体の第2の界面と、が異なる障壁レベルとなるように、前記一方の電極および前記キャリア輸送体間の第1の接続構成と、前記他方の電極および前記キャリア輸送体間の第2の接続構成と、を異なる構成としたことを特徴とするものである。
図1に本発明の整流素子の構成のいくつかの形態を例示する。
第1の形態は、キャリア輸送体10がカーボンナノチューブ構造体で構成され、異なる材料からなる一対の電極16,18を接続することにより第1の接続構成と第2の接続構成を異ならせ、第1の界面と第2の界面で異なる障壁レベルを形成することで、第1の接続構成と第2の接続構成を異ならせ、整流素子として動作させるものである(図1(a))。
第2の形態は、キャリア輸送体10と一方の電極18との第1の界面に、酸化物層(酸化膜)20を形成して、第1の接続構成と第2の接続構成を異ならせるものである(図1(b))。
第3の形態は、第1の界面におけるキャリア輸送体10の表面を改質、加工、電極の密着度を低下あるいは増加させる材料の塗布等によって、キャリア輸送体10の一方の電極18との第1の界面に異質の接続層21を設けることで、第1の接続構成と第2の接続構成を異ならせ、第2の界面における第2の電極とキャリア輸送体10との密着度とは異ならせ、異なる障壁レベルを形成するものである(図1(c))。
上記形態に限らず、電極材料、酸化物層、キャリア輸送体の加工を任意に組み合わせることで、第1の接続構成と第2の接続構成を異ならせることも当然可能である。
キャリア輸送体10はカーボンナノチューブで構成されているが、単体(1本)のカーボンナノチューブは金属性のものと半導体性のものがあるので、単体をキャリア輸送体として用いる場合には、半導体性のカーボンナノチューブを用いる必要がある。一方、複数のカーボンナノチューブからキャリア輸送体を構成する場合には、それを構成するナノチューブが金属性のものであっても、半導体特性を生ずる場合があることが本発明者の研究により明らかになっている。具体的には、架橋部位を介して網目構造を形成したカーボンナノチューブ構造体がそれにあたる。これについては後で詳細に述べる。また、カーボンナノチューブが半導体特性の場合には架橋構造体でなくとも当然半導体特性を示すため、カーボンナノチューブ同士の絡み合いによる網目構造による構造体とする場合であっても、本発明のキャリア輸送体として用いることができる。
なお、整流素子を形成するにあたり、カーボンナノチューブ構造体とした場合にはパターニングによりキャリア輸送体を所望形状に加工することが可能となる。このとき基体の形状に応じて、直接基体表面でカーボンナノチューブ構造体をパターニングすることができる場合と、パターニングされたカーボンナノチューブ構造体を担持する基体ごと第2の基体に貼付けて利用する場合、あるいは、パターニングされたカーボンナノチューブ構造体のみを転写する場合等がある。
基体の材質としては、特に限定されるものではないが、整流素子の輸送層(キャリア輸送体)を担持するには、パターニングプロセスを容易に行うために、シリコン、石英基板、マイカ、石英ガラス等を利用することが好ましい。
ただし、基体の形状や性質に応じて、直接基体表面でカーボンナノチューブ構造体をパターニングすることができない場合があるので、そういった場合は、パターニングされたカーボンナノチューブ構造体を担持する基体ごと第2の基体に貼付けて利用する、あるいは、パターニングされたカーボンナノチューブ構造体を転写する等すればよい。そのようにすれば、最終的な整流素子が担持される基板としての制約は少なくなる。
特に、本発明の整流素子は、可撓性ないし柔軟性を有する基板を基体とした場合にも、後述する通り容易に製造することができ、しかも表面に形成されたカーボンナノチューブ構造体が架橋構造を有しているため、当該基板を曲げ変形しても、表面のカーボンナノチューブ構造体が破断する危険性が少なく、変形によるデバイスの性能劣化が低減される。特に整流素子として用いる場合には、折り曲げによる断線の発生が低減される。
可撓性ないし柔軟性を有する基板の例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリイミド等の各種樹脂を挙げることができる。
<カーボンナノチューブ構造体>
本発明において「カーボンナノチューブ構造体」とは、複数のカーボンナノチューブが相互に架橋した網目構造を構成する構造体である。相互に架橋した網目構造を構成するようにカーボンナノチューブの構造体を形成することができれば、当該カーボンナノチューブ構造体は如何なる方法で形成されたものであっても構わないが、後述する本発明の整流素子の製造方法により製造されたものであることが、容易に製造可能であるとともに、低コストでしかも高性能なキャリア輸送体を得ることができ、しかも特性の均一化や制御が容易である。
後述する本発明の整流素子の好ましい製造方法により製造された本発明の整流素子におけるキャリア輸送体として用いられる、カーボンナノチューブ同士が架橋して網目構造を形成した前記カーボンナノチューブ構造体の第1の構造は、官能基を有するカーボンナノチューブおよび前記官能基と架橋反応を起こす架橋剤を含む溶液(架橋溶液)を硬化させることにより、前記カーボンナノチューブが有する前記官能基と前記架橋剤とを架橋反応させて架橋部位が形成されてなるものである。また、カーボンナノチューブ構造体の第2の構造は、官能基を有するカーボンナノチューブの官能基同士が化学結合して架橋部位が形成されてなるものである。
以下、当該製造方法による例を挙げて、本発明の整流素子における前記カーボンナノチューブ構造体について説明する。
(カーボンナノチューブ)
本発明において、主要な構成要素であるカーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブでも、二層以上の多層カーボンナノチューブでも構わない。いずれのカーボンナノチューブを用いるか、あるいは双方を混合するかは、整流素子の用途により、あるいはコストを考慮して、適宜、選択すればよい。また、単体をキャリア輸送体として用いる場合には、半導体特性であることが必要となる。
また、単層カーボンナノチューブの変種であるカーボンナノホーン(一方の端部から他方の端部まで連続的に拡径しているホーン型のもの)、カーボンナノコイル(全体としてスパイラル状をしているコイル型のもの)、カーボンナノビーズ(中心にチューブを有し、これがアモルファスカーボン等からなる球状のビーズを貫通した形状のもの)、カップスタック型ナノチューブ、カーボンナノホーンやアモルファスカーボンで外周を覆われたカーボンナノチューブ等、厳密にチューブ形状をしていないものも、本発明においてカーボンナノチューブとして用いることができる。
さらに、カーボンナノチューブ中に金属等が内包されている金属内包ナノチューブ、フラーレンまたは金属内包フラーレンがカーボンナノチューブ中に内包されるピーポッドナノチューブ等、何らかの物質をカーボンナノチューブ中に内包したカーボンナノチューブも、本発明においてカーボンナノチューブとして用いることができる。
以上のように、本発明においては、一般的なカーボンナノチューブのほか、その変種や、種々の修飾が為されたカーボンナノチューブ等、いずれの形態のカーボンナノチューブでも、その反応性から見て問題なく使用することができる。したがって、本発明における「カーボンナノチューブ」には、これらのものが全て、その概念に含まれる。
これらカーボンナノチューブの合成は、従来から公知のアーク放電法、レーザーアブレーション法、CVD法のいずれの方法によっても行うことができ、本発明においては制限されない。これらのうち、高純度なカーボンナノチューブが合成できるとの観点からは、磁場中でのアーク放電法が好ましい。
用いられるカーボンナノチューブの直径としては、0.3nm以上100nm以下であることが好ましい。カーボンナノチューブの直径が、当該範囲を超えると、合成が困難であり、コストの点で好ましくない。カーボンナノチューブの直径のより好ましい上限としては、30nm以下である。
一方、一般的にカーボンナノチューブの直径の下限としては、その構造から見て、0.3nm程度であるが、あまりに細すぎると合成時の収率が低くなる点で好ましくない場合もあるため、1nm以上とすることがより好ましく、10nm以上とすることがさらに好ましい。
用いられるカーボンナノチューブの長さとしては、0.1μm以上100μm以下であることが好ましい。カーボンナノチューブの長さが、当該範囲を超えると、合成が困難、もしくは、合成に特殊な方法が必要となりコストの点で好ましくなく、当該範囲未満であると、一本のカーボンナノチューブにおける架橋結合点数が少なくなる点で好ましくない。カーボンナノチューブの長さの上限としては、10μm以下であることがより好ましく、下限としては、1μm以上であることがより好ましい。
使用しようとするカーボンナノチューブの純度が高く無い場合には、架橋溶液の調製前に、予め精製して、純度を高めておくことが望ましい。本発明においてこの純度は、高ければ高いほど好ましいが、具体的には90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましい。純度が低いと、不純物であるアモルファスカーボンやタール等の炭素生成物に架橋剤が架橋して、カーボンナノチューブ間の架橋距離が変動してしまい、所望の特性を得られない場合があるためである。カーボンナノチューブの精製方法に特に制限はなく、従来公知の方法をいずれも採用することができる。
かかるカーボンナノチューブには、所定の官能基が付加された状態で、カーボンナノチューブ構造体の形成に供される。このとき付加される官能基としては、カーボンナノチューブ構造体を形成するのに、既述の第1の方法によるか、第2の方法によるかにより、好ましいものが異なってくる(前者の場合を「官能基1」、後者の場合を「官能基2」とする)。
なお、カーボンナノチューブへの官能基の導入方法については、後述の(架橋溶液の調製方法)の項において説明する。
以下、第1の方法と第2の方法に分けて、カーボンナノチューブ構造体の形成に供し得る構成成分について説明する。
(第1の方法の場合)
本発明において、カーボンナノチューブが有する官能基としては、カーボンナノチューブに化学的に付加させることができ、かつ、何らかの架橋剤により架橋反応を起こし得るものであれば、特に制限されず、如何なる官能基であっても選択することができる。具体的な官能基としては、−COOR、−COX、−MgX、−X(以上、Xはハロゲン)、−OR、−NR、−NCO、−NCS、−COOH、−OH、−NH、−SH、−SOH、−R’CHOH、−CHO、−CN、−COSH、−SR、−SiR’(以上、R、R、RおよびR’は、それぞれ独立に、置換または未置換の炭化水素基である。これらは、好ましくはそれぞれ独立に、−C2n−1、−C2nまたは−C2n+1から選ばれ、nは1〜10の整数であり、これらが置換されたものを含む。中でも、より好ましくはメチル基またはエチル基である。)等の基が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
これらの中でも、−OH、−COOH、−COOR(Rは、置換または未置換の炭化水素基である。Rは、好ましくは−C2n−1、−C2nまたは−C2n+1から選ばれ、nは1〜10の整数であり、これらが置換されたものを含む。)、−COX(Xはハロゲン原子)、−NHおよび−NCOからなる群より選ばれる少なくとも1つの基を選択することが好ましく、その場合、前記架橋剤として、選択された前記官能基と架橋反応を起こし得るものを選択する。
特に、−COOR(Rは、上記同様)は、カルボキシル基がカーボンナノチューブへの導入が比較的容易で、それにより得られる物質(カーボンナノチューブカルボン酸)をエステル化させることで容易に官能基として導入することができ、しかも、架橋剤による反応性も良好であることから、特に好ましい。
官能基−COORにおけるRは、置換または未置換の炭化水素基であり特に制限は無いが、反応性、溶解度、粘度、塗料の溶剤としての使いやすさの観点から、炭素数が1〜10の範囲のアルキル基であることが好ましく、1〜5の範囲のアルキル基であることがより好ましく、特にメチル基またはエチル基が好ましい。
官能基の導入量としては、カーボンナノチューブの長さ・太さ、単層か多層か、官能基の種類、整流素子の用途等により異なり、一概には言えないが、1本のカーボンナノチューブに2以上の官能基が付加する程度の量とすることが、得られる架橋体の強度、すなわち塗布膜の強度の観点から好ましい。
なお、カーボンナノチューブへの官能基の導入方法については、後述の[整流素子の製造方法]の項において説明する。
(架橋剤)
前記第1の方法では、架橋剤が必須成分となる。当該架橋剤としては、カーボンナノチューブの有する前記官能基と架橋反応を起こすものであればいずれも用いることができる。換言すれば、前記官能基の種類によって、選択し得る架橋剤の種類は、ある程度限定されてくる。また、これらの組み合わせにより、その架橋反応による硬化条件(加熱、紫外線照射、可視光照射、自然硬化等)も、自ずと定まってくる。
具体的に好ましい前記架橋剤としては、ポリオール、ポリアミン、ポリカルボン酸、ポリカルボン酸エステル、ポリカルボン酸ハライド、ポリカルボジイミドおよびポリイソシアネートを挙げることができ、これらからなる群より選ばれる少なくとも1つの架橋剤を選択することが好ましく、その場合、前記官能基として、選択された前記架橋剤と架橋反応を起こし得るものを選択する。
特に、既述の好ましい前記官能基として例示された群、および、上記好ましい前記架橋剤として例示された群より、それぞれ少なくとも1つの官能基および架橋剤を、相互に架橋反応を起こし得る組み合わせとなるように選択することが好ましい。下記表1に、カーボンナノチューブの有する官能基と、それに対応する架橋反応可能な架橋剤との組み合わせを、その硬化条件とともに列挙する。

これらの組み合わせの中でも、官能基側の反応性が良好な−COOR(Rは、置換または未置換の炭化水素基である。Rは、好ましくは−C2n−1、−C2nまたは−C2n+1から選ばれ、nは1〜10の整数であり、これらが置換されたものを含む。)と、容易に強固な架橋体を形成するポリオール、ポリアミン、アンモニウム錯体、コンゴーレッドおよびcis−プラチンとの組み合わせが好適なものとして挙げられる。
なお、本発明で言う「ポリオール」とは、OH基を2以上有する有機化合物の総称であり、これらの中でも炭素数2〜10(より好ましくは2〜5)、OH基数2〜22(より好ましくは2〜5)のものが、架橋性や過剰分投入した時の溶剤適性、生分解性による反応後の廃液の処理性(環境適性)、ポリオール合成の収率等の観点から好ましい。特に上記炭素数は、得られる塗布膜におけるカーボンナノチューブ相互間を狭めて実質的な接触状態にする(近づける)ことができる点で、上記範囲内で少ない方が好ましい。具体的には、特にグリセリンやエチレングリコールが好ましく、これらの内の一方もしくは双方を架橋剤として用いることが好ましい。
別の視点から見ると、前記架橋剤としては、非自己重合性の架橋剤であることが好ましい。上記ポリオールの例として挙げたグリセリンやエチレングリコールは勿論、ブテンジオール、ヘキシンジオール、ヒドロキノンおよびナフタレンジオールも、非自己重合性の架橋剤であり、より一般的に示せば、自身の中に相互に重合反応を生じ得るような官能基の組を有していないことが、非自己重合性の架橋剤の条件となる。逆に言えば、自己重合性の架橋剤とは、自身の中に相互に重合反応を生じ得るような官能基の組を有しているもの(例えば、アルコキシド)が挙げられる。
カーボンナノチューブ構造体を形成するには、前記官能基が結合された複数のカーボンナノチューブと、前記架橋剤とを基体表面に供給し(本発明の整流素子の製造方法における供給工程)、前記官能基間を化学結合させることにより架橋部位を形成(本発明の整流素子の製造方法における架橋工程)すればよい。前記官能基が結合された複数のカーボンナノチューブと、前記架橋剤とを前記基体表面に供給する際に、これらと溶剤とを含む溶液(架橋溶液)を前記基体表面に供給すること、特に塗布液として塗布して架橋体膜を形成することは、簡便で低コストであり、作業を短時間で行うことができる点で好ましい。
前記架橋溶液におけるカーボンナノチューブの含有量としては、カーボンナノチューブの長さ・太さ、単層か多層か、有する官能基の種類・量、架橋剤の種類・量、溶剤やその他添加剤の有無・種類・量、等により一概には言えず、硬化後良好な塗布膜が形成される程度に高濃度であることが望まれるが、塗布適性が低下するので、あまり高くし過ぎないことが望ましい。
また、具体的なカーボンナノチューブの割合としては、既述の如く一概には言えないが、官能基の質量は含めないで、架橋溶液全量に対し0.01〜10g/l程度の範囲から選択され、0.1〜5g/l程度の範囲が好ましく、0.5〜1.5g/l程度の範囲がより好ましい。
前記架橋溶液において、溶剤は、前記架橋剤のみでは塗布適性が十分で無い場合に添加する。使用可能な溶剤としては、特に制限は無く、用いる架橋剤の種類に応じて選択すればよい。具体的には、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、ブタノール、メチルエチルケトン、トルエン、ベンゼン、アセトン、クロロホルム、塩化メチレン、アセトニトリル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)等の有機溶剤や水、酸水溶液、アルカリ水溶液等が挙げられる。かかる溶剤の添加量としては、塗布適性を考慮して適宜設定すればよいが、特に制限は無い。
ただし、上述の溶剤のうち、グリセリンは、溶剤としてのカーボンナノチューブを分散させたときの粘度が高くなく膜化する場合に塗布性に優れる点、カルボン酸に対する架橋剤としての特性、架橋反応後に残存物が悪影響を及ぼさないこと、等の観点から、グリセリンのみを架橋剤兼溶剤として用いることが好ましい。
(第2の方法の場合)
架橋剤によらず、複数の前記官能基同士を直接化学結合させて架橋部位を形成する前記第2の方法では、カーボンナノチューブが有する官能基としては、カーボンナノチューブに化学的に付加させることができ、かつ、何らかの添加剤により官能基同士を反応させるものであれば、特に制限されず、如何なる官能基であっても選択することができる。
具体的な官能基としては、−COOR、−COX、−MgX、−X(以上、Xはハロゲン)、−OR、−NR、−NCO、−NCS、−COOH、−OH、−NH、−SH、−SOH、−R’CHOH、−CHO、−CN、−COSH、−SR、−SiR’(以上、R、R、RおよびR’は、それぞれ独立に、置換または未置換の炭化水素基である。これらは、好ましくはそれぞれ独立に、−C2n−1、−C2nまたは−C2n+1から選ばれ、nは1〜10の整数であり、これらが置換されたものを含む。中でも、より好ましくはメチル基またはエチル基である。)等の基が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
官能基同士を化学結合させる反応としては、脱水縮合、置換反応、付加反応、酸化反応が特に好ましい。これら各反応別に上記官能基から好ましいものを挙げると以下のようになる。縮合反応では−COOR(Rは、置換または未置換の炭化水素基である。Rは、好ましくは−C2n−1、−C2nまたは−C2n+1から選ばれ、nは1〜10の整数であり、これらが置換されたものを含む。)、−COOH、−COX(Xはハロゲン原子)、−OH、−CHO、−NHから選ばれる少なくとも一つ、置換反応では−NH、−X(Xはハロゲン原子)、−SH、−OH、−OSOCHおよび−OSO(C)CHから選ばれる少なくとも一つ、付加反応では−OH、および−NCOから選ばれる少なくとも一つ、酸化反応では−SHが好ましい。
また、これらの官能基を一部に含む分子をカーボンナノチューブに結合させ、先に列挙した好ましい官能基部分で化学結合させることも可能である。この場合においても、カーボンナノチューブに結合させる分子量の大きい官能基は意図したように結合されているので、架橋部位の長さは制御可能となる。
官能基同士を化学結合させるに際しては、前記官能基同士の化学結合を生じさせる添加剤を用いることができる。かかる添加剤としては、カーボンナノチューブの有する前記官能基同士を反応させるものであればいずれも用いることができる。換言すれば、前記官能基の種類および反応の種類によって、選択し得る添加剤の種類は、ある程度限定されてくる。また、これらの組み合わせにより、その反応による硬化条件(加熱、紫外線照射、可視光照射、自然硬化等)も、自ずと定まってくる。
前記官能基同士を化学結合させる反応が脱水縮合である場合には、前記添加剤として縮合剤を添加することが好ましい。具体的に好ましい前記添加剤としては、縮合剤としては酸触媒、脱水縮合剤、たとえば硫酸、N−エチル−N’−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド、ジシクロヘキシルカルボジイミドを挙げることができ、これらからなる群より選ばれる少なくとも1つの縮合剤を選択することが好ましく、その場合、前記官能基として、選択された縮合剤により官能基同士が反応を起こし得るものを選択する。
また、脱水縮合で用いる前記官能基としては、−COOR(Rは、置換または未置換の炭化水素基)、−COOH、−COX(Xはハロゲン原子)、−OH、−CHO、−NHからなる群より選ばれる少なくともいずれか1つであることが好ましい。
脱水縮合で用いる前記官能基としては、−COOHを特に好適なものとして挙げることができる。カーボンナノチューブにカルボキシル基を導入することは、比較的容易であり、しかも得られる物質(カーボンナノチューブカルボン酸)は、反応性に富む。このため網目構造を形成するための官能基を、一本のカーボンナノチューブの複数箇所に導入しやすく、さらにこの官能基は脱水縮合しやすいことから、カーボンナノチューブ構造体の形成に適している。脱水縮合で用いる前記官能基が−COOHである場合、特に好適な縮合剤としては、既述の硫酸、N−エチル−N’−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドおよびジシクロヘキシルカルボジイミドである。
前記官能基同士を化学結合させる反応が置換反応である場合には、前記添加剤として塩基を添加することが好ましい。添加可能な塩基としては、特に制限は無く、ヒドロキシル基の酸性度に応じて任意の塩基を選択すればよい。
具体的に好ましい前記塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ピリジン、ナトリウムエトキシド等を挙げることができ、これらからなる群より選ばれる少なくとも1つの塩基を選択することが好ましくその場合、前記官能基として、選択された塩基により官能基同士が置換反応を起こし得るものを選択する。また、このとき前記官能基としては、−NH、−X(Xはハロゲン原子)、−SH、−OH、−OSOCHおよび−OSO(C)CHからなる群より選ばれる少なくともいずれか1つであることが好ましい。
前記官能基同士を化学結合させる反応が付加反応である場合、必ずしも添加剤は必要としない。このとき前記官能基としては、−OHおよび/または−NCOであることが好ましい。
前記官能基同士を化学結合させる反応が酸化反応である場合も、必ずしも添加剤は必要としないが、前記添加剤として酸化反応促進剤を添加することが好ましい。添加するのに好適な酸化反応促進剤としては、ヨウ素を挙げることができる。また、このとき前記官能基としては、−SHであることが好ましい。
既述の好ましい前記官能基として例示された群より、それぞれ少なくとも2つの官能基が相互に反応を起こし得る組み合わせとなるように選択して、カーボンナノチューブに付加させることが好ましい。下記表2に、相互に架橋反応をするカーボンナノチューブの有する官能基(A)および(B)と、それに対応した反応名を列挙する。

カーボンナノチューブ構造体を形成するには、前記官能基が結合された複数のカーボンナノチューブ、および必要に応じて前記添加剤を基体表面に供給し(本発明の整流素子の製造方法における供給工程)、前記官能基間を化学結合させることにより架橋部位を形成(本発明の整流素子の製造方法における架橋工程)すればよい。前記官能基が結合された複数のカーボンナノチューブを前記基体表面に供給する際に、これらと溶剤とを含む溶液(架橋溶液)を前記基体表面に供給すること、特に塗布液として塗布して架橋体膜を形成することは、本発明の整流素子を簡便かつ低コストに、短時間の作業で形成できる点で好ましい。
前記架橋溶液における前記カーボンナノチューブの含有量の考え方としては、第1の方法の場合と基本的に同様である。
前記架橋溶液における架橋剤や官能基結合用の添加剤の含有量としては、架橋剤の種類(自己重合性か非自己重合性かの別を含む)や官能基結合用の添加剤の種類は勿論、カーボンナノチューブの長さ・太さ、単層か多層か、有する官能基の種類・量、溶剤やその他添加剤の有無・種類・量、等により一概には言えない。特に、グリセリンやエチレングリコールなどは、それ自身粘度があまり高くなく、溶剤の特性を兼ねさせることが可能であるため、過剰に添加することも可能である。
前記架橋溶液において、溶剤は、前記架橋剤もしくは官能基結合用の添加剤のみでは塗布適性が十分で無い場合に添加する。使用可能な溶剤としては、特に制限は無く、用いる添加剤の種類に応じて選択すればよい。具体的な溶剤の種類おより添加量としては、第1の方法で述べた溶剤の場合と同様である。
(その他の添加剤)
前記架橋溶液(第1の方法と第2の方法の双方を含む)においては、溶剤、粘度調整剤、分散剤、架橋促進剤等の各種添加剤が含まれていてもよい。
粘度調整剤は、前記架橋剤や官能基結合用の添加剤のみでは塗布適性が十分で無い場合に添加する。使用可能な粘度調整剤としては、特に制限は無く、用いる架橋剤の種類に応じて選択すればよい。具体的には、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、ブタノール、メチルエチルケトン、トルエン、ベンゼン、アセトン、クロロホルム、塩化メチレン、アセトニトリル、ジエチルエーテル、THF等が挙げられる。
これら粘度調整剤の中には、その添加量によっては溶剤としての機能を有するものがあるが、両者を明確に区別することに意義は無い。かかる粘度調整剤の添加量としては、塗布適性を考慮して適宜設定すればよいが、特に制限は無い。
分散剤は、前記架橋溶液中でのカーボンナノチューブないし架橋剤あるいは官能基結合用の添加剤の分散安定性を保持するために添加するものであり、従来公知の各種界面活性剤、水溶性有機溶剤、水、酸水溶液やアルカリ水溶液等が使用できる。ただし、前記架橋溶液の成分は、それ自体分散安定性が高いため、分散剤は必ずしも必要ではない。また、形成後の塗布膜の用途によっては、塗布膜に分散剤等の不純物が含まれないことが望まれる場合もあり、その場合には勿論、分散剤は、添加しないか、極力少ない量のみしか添加しない。
(架橋溶液の調製方法)
次に、架橋溶液の調製方法について説明する。
前記架橋溶液は、官能基を有するカーボンナノチューブに、前記官能基と架橋反応を起こす架橋剤、あるいは、官能基同士を化学結合させる添加剤を必要に応じて混合することで調製される(混合工程)。当該混合工程に先立ち、カーボンナノチューブに官能基を導入する付加工程を含んでもよい。
官能基を有するカーボンナノチューブを出発原料とすれば、混合工程の操作のみを行えばよいし、通常のカーボンナノチューブそのものを出発原料とすれば、付加工程から操作を行えばよい。
(付加工程)
前記付加工程は、カーボンナノチューブに所望の官能基を導入する工程である。官能基の種類によって導入方法が異なり、一概には言えない。直接的に所望の官能基を付加させてもよいが、一旦、付加が容易な官能基を導入した上で、その官能基ないしその一部を置換したり、その官能基に他の官能基を付加させたり等の操作を行い、目的の官能基としても構わない。
また、カーボンナノチューブにメカノケミカルな力を与えて、カーボンナノチューブ表面のグラフェンシートをごく一部破壊ないし変性させて、そこに各種官能基を導入する方法もある。
また、製造時点から表面に欠陥を多く有する、カップスタック型のカーボンナノチューブや気相成長法により生成されるカーボンナノチューブを用いると、官能基を比較的容易に導入できる。しかし、グラフェンシート構造が完全である方が、カーボンナノチューブの特性を有効に得られるとともに、特性もコントロールしやすいため、マルチウォールカーボンナノチューブを用いて、最外層にキャリア輸送体として適度な欠陥を形成して官能基を結合し架橋させる一方で、構造欠陥の少ない内層をカーボンナノチューブの特性を発揮させる層として利用することが特に好ましい。
付加工程の操作としては、特に制限は無く、公知のあらゆる方法を用いて構わない。その他、特表2002−503204号公報に各種方法が記載されており、目的に応じて、本発明においても利用することができる。
前記官能基の中でも、特に好適な−COOR(Rは、置換または未置換の炭化水素基)を導入する方法について説明する。カーボンナノチューブに−COOR(Rは、置換または未置換の炭化水素基である。Rは、好ましくは−C2n−1、−C2nまたは−C2n+1から選ばれ、nは1〜10の整数であり、これらが置換されたものを含む。)を導入するには、一旦、カーボンナノチューブにカルボキシル基を付加し(i)、さらにこれをエステル化(ii)すればよい。
(i)カルボキシル基の付加
カーボンナノチューブにカルボキシル基を導入するには、酸化作用を有する酸とともに還流すればよい。この操作は比較的容易であり、しかも反応性に富むカルボキシル基を付加することができるため、好ましい。当該操作について、簡単に説明する。
酸化作用を有する酸としては、濃硝酸、過酸化水素水、硫酸と硝酸の混合液、王水等が挙げられる。特に濃硝酸を用いる場合には、その濃度としては、5質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましい。
還流は、常法にて行えばよいが、その温度としては、使用する酸の沸点付近が好ましい。例えば、濃硝酸では120〜130℃の範囲が好ましい。また、還流の時間としては、30分〜20時間の範囲が好ましく、1時間〜8時間の範囲がより好ましい。
還流の後の反応液には、カルボキシル基が付加したカーボンナノチューブ(カーボンナノチューブカルボン酸)が生成しており、室温まで冷却し、必要に応じて分離操作ないし洗浄を行うことで、目的のカーボンナノチューブカルボン酸(官能基として−COOHを有するカーボンナノチューブ)が得られる。
(ii)エステル化
得られたカーボンナノチューブカルボン酸に、アルコールを添加し脱水してエステル化することで、目的の官能基−COOR(Rは、置換または未置換の炭化水素基である。好ましいものについては既述の通り。)を導入することができる。
前記エステル化に用いるアルコールは、上記官能基の式中におけるRに応じて決まる。すなわち、RがCHであればメタノールであるし、RがCであればエタノールである。
一般にエステル化には触媒が用いられるが、本発明においても従来公知の触媒、例えば、硫酸、塩酸、トルエンスルホン酸等を用いることができる。本発明では、副反応を起こさないという観点から触媒として硫酸を用いることが好ましい。
前記エステル化は、カーボンナノチューブカルボン酸に、アルコールと触媒とを添加し、適当な温度で適当な時間還流すればよい。このときの温度条件および時間条件は、触媒の種類、アルコールの種類等により異なり一概には言えないが、還流温度としては、使用するアルコールの沸点付近が好ましい。例えば、メタノールでは60〜70℃の範囲が好ましい。また、還流の時間としては、1〜20時間の範囲が好ましく、4〜6時間の範囲がより好ましい。
エステル化の後の反応液から反応物を分離し、必要に応じて洗浄することで、官能基−COOR(Rは、置換または未置換の炭化水素基である。好ましいものについては既述の通り。)が付加したカーボンナノチューブを得ることができる。
(混合工程)
前記混合工程は、官能基を有するカーボンナノチューブに、前記官能基と架橋反応を起こす架橋剤あるいは官能基結合用の添加剤を必要に応じて混合し、架橋溶液を調製する工程である。混合工程においては、官能基を有するカーボンナノチューブおよび架橋剤のほか、(その他の添加剤)の項で説明したその他の成分も混合する。そして、好ましくは、塗布適性を考慮して溶剤や粘度調整剤の添加量を調整することで、基体への供給(塗布)直前の架橋溶液を調製する。
混合に際しては、単にスパチュラで攪拌したり、攪拌羽式の攪拌機、マグネチックスターラーあるいは攪拌ポンプで攪拌するのみでも構わないが、より均一にカーボンナノチューブを分散させて、保存安定性を高めたり、カーボンナノチューブの架橋による網目構造を全体にくまなく張り巡らせるには、超音波分散機やホモジナイザーなどで強力に分散させても構わない。ただし、ホモジナイザーなどのように、攪拌のせん断力の強い攪拌装置を用いる場合、含まれるカーボンナノチューブを切断してしまったり、傷付けてしまったりする虞があるので、極短い時間行えばよい。
以上説明した架橋溶液を、前記基体の表面に対して供給(塗布)し、硬化することにより、カーボンナノチューブ構造体が形成される。供給方法や硬化方法は、後述の[整流素子の製造方法]の項で詳述する。
本発明におけるカーボンナノチューブ構造体は、カーボンナノチューブがネットワーク化された状態となっている。詳しくは、該カーボンナノチューブ構造体は、マトリックス状に硬化したものとなり、カーボンナノチューブ同士が架橋部分を介して接続しており、電子やホールの高い伝送特性といったカーボンナノチューブ自身が有する特徴を存分に発揮することができる。すなわち、当該カーボンナノチューブ構造体は、カーボンナノチューブ相互が緊密に接続しており、しかも他の結着剤等を含まないことから、実質的にカーボンナノチューブのみからなるため、カーボンナノチューブが有する本来の特性が最大限に生かされる。
本発明におけるカーボンナノチューブ構造体の厚みとしては、用途に応じて、極薄いものから厚めのものまで、幅広く選択することができる。使用する前記架橋溶液中のカーボンナノチューブの含有量を下げ(単純には、薄めることにより粘度を下げ)、これを薄膜状に塗布すれば極薄い塗布膜となり、同様にカーボンナノチューブの含有量を上げれば厚めの塗布膜となる。さらに、塗布を繰返せば、より一層厚膜の塗布膜を得ることもできる。極薄い塗布膜としては、10nm程度の厚みから十分に可能であり、重ね塗りにより上限無く厚い塗布膜を形成することが可能である。一回の塗布で可能な厚膜としては、5μm程度である。また、含有量などを調整した架橋溶液を型に注入し、架橋させることで所望の形状にすることも可能である。
前記第1の方法で形成された前記カーボンナノチューブ構造体からなるキャリア輸送体は、前記カーボンナノチューブ同士が架橋する部位、すなわち、前記カーボンナノチューブが有する前記官能基と前記架橋剤との架橋反応による架橋部位は、前記官能基の架橋反応後に残存する残基同士を、前記架橋剤の架橋反応後に残存する残基である連結基で連結した架橋構造となっている。
既述の如く、前記架橋溶液においては、その構成要素である架橋剤が非自己重合性であることが好ましい。前記架橋剤が非自己重合性であれば、最終的に形成されるカーボンナノチューブ構造体における前記連結基については、前記架橋剤1つのみの残基により構成されることになり、架橋されるカーボンナノチューブ相互の間隔を、使用した架橋剤の残基のサイズに制御することができるため、所望のカーボンナノチューブのネットワーク構造を高い再現性で得られるようになる。また、カーボンナノチューブ間に架橋剤が多重に介在しないので、カーボンナノチューブ構造体中のカーボンナノチューブの実質的な密度を高めることができる。さらに架橋剤の残基のサイズを小さくすれば、電気的にも物理的にも極めて近接した状態(カーボンナノチューブ相互が、実質的に直接接触した状態)に、カーボンナノチューブ相互の間隔を構成することができる。
なお、カーボンナノチューブにおける官能基に単一のものを、架橋剤に単一の非自己重合性のものを、それぞれ選択した架橋溶液により、カーボンナノチューブ構造体を形成した場合、当該層における前記架橋部位は、同一の架橋構造となる(例示1)。また、カーボンナノチューブにおける官能基に複数種のものを、および/または、架橋剤に複数種の非自己重合性の架橋剤を、それぞれ選択した架橋溶液によりカーボンナノチューブ構造体を形成した場合であっても、当該層における前記架橋部位は、主として用いた前記官能基および非自己重合性の架橋剤の組み合わせによる架橋構造が、主体的となる(例示2)。
これに対して、カーボンナノチューブにおける官能基や架橋剤が単一であるか複数種であるかを問わず、架橋剤に自己重合性のものを選択した架橋溶液により、カーボンナノチューブ構造体を形成した場合、当該層におけるカーボンナノチューブ同士が架橋する架橋部位は、架橋剤同士の連結(重合)個数が異なる数多くの連結基が混在した状態となり、特定の架橋構造が主体的とはなり得ない。
つまり、前記架橋剤として非自己重合性のものを選択すれば、カーボンナノチューブ構造体におけるカーボンナノチューブ同士が架橋する架橋部位が、架橋剤1つのみの残基で官能基と結合するため、主として同一の架橋構造となる。なお、ここで言う「主として同一」とは、上記(例示1)の如く、架橋部位の全てが同一の架橋構造となる場合は勿論のこと、上記(例示2)の如く、架橋部位全体に対して、主として用いた前記官能基および非自己重合性の架橋剤の組み合わせによる架橋構造が、主体的となる場合も含む概念とする。
「主として同一」と言った場合に、全架橋部位における「同一である架橋部位の割合」としては、例えば架橋部位において、カーボンナノチューブのネットワーク形成とは目的を異にする機能性の官能基や架橋構造を付与する場合も想定されることから、一律に下限値を規定し得るわけではない。ただし、強固なネットワークでカーボンナノチューブ特有の高い電気的ないし物理的特性を実現するためには、全架橋部位における「同一である架橋部位の割合」としては、個数基準で50%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましく、全て同一であることが最も好ましい。これらの個数割合は、赤外線スペクトルで架橋構造に対応した吸収スペクトルの強度比を計測する方法等により求めることができる。
このように、カーボンナノチューブ同士が架橋する架橋部位が、主として同一の架橋構造のカーボンナノチューブ構造体であれば、カーボンナノチューブの均一なネットワークを所望の状態に形成することができ、電気的ないし物理的特性を、均質で良好、さらには期待した特性もしくは高い再現性をもって構成することができる。
また、前記連結基としては、炭化水素を骨格とするものが好ましい。ここで言う「炭化水素を骨格」とは、架橋されるカーボンナノチューブの官能基の架橋反応後に残存する残基同士を連結するのに資する、連結基の主鎖の部分が、炭化水素からなるものであることを言い、この部分の水素が他の置換基に置換された場合の側鎖の部分は考慮されない。勿論、連結基全体が炭化水素からなることが、より好ましい。
前記炭化水素の炭素数としては2〜10個とすることが好ましく、2〜5個とすることがより好ましく、2〜3個とすることがさらに好ましい。なお、前記連結基としては、2価以上であれば特に制限は無い。
カーボンナノチューブの有する官能基と架橋剤との好ましい組み合わせとして既に例示した、前記官能基−COOR(Rは、置換または未置換の炭化水素基である。好ましいものについては既述の通り。)とエチレングリコールとの架橋反応では、前記複数のカーボンナノチューブが相互に架橋する架橋部位が−COO(CHOCO−となる。
また、前記官能基−COOR(Rは、置換または未置換の炭化水素基である。好ましいものについては既述の通り。)とグリセリンとの架橋反応では、前記複数のカーボンナノチューブが相互に架橋する架橋部位が、OH基2つが架橋に寄与すれば−COOCHCHOHCHOCO−あるいは−COOCHCH(OCO−)CHOHとなり、OH基3つが架橋に寄与すれば−COOCHCH(OCO−)CHOCO−となる。
以上説明したように、前記第1の方法によりカーボンナノチューブ構造体を形成した場合の本発明におけるキャリア輸送体は、カーボンナノチューブ構造体が、複数のカーボンナノチューブが複数の架橋部位を介して網目構造の状態となった状態で形成されているので、単なるカーボンナノチューブの分散膜のように、カーボンナノチューブ同士の接触状態並びに配置状態が不安定になることがなく、キャリア(電子やホール)の高い伝送特性や、熱伝導、強靭性といった物理的特性等カーボンナノチューブに特有の性質を安定的に利用することができる。
一方、前記第2の方法により前記カーボンナノチューブ構造体を形成しようとする場合には、前記複数のカーボンナノチューブ同士が架橋する部位、すなわち、前記複数のカーボンナノチューブが有するそれぞれの前記官能基同士の架橋反応による架橋部位は、前記官能基の架橋反応後に残存する残基同士が連結した架橋構造となっている。この場合も、カーボンナノチューブ構造体は、マトリックス状にカーボンナノチューブ同士が架橋部分を介して接続しており、電子やホールの高い伝送特性といったカーボンナノチューブ自身が有する特徴を発揮しやすくできる。すなわち、第2の方法で形成されたカーボンナノチューブ構造体により形成されたキャリア輸送体は、官能基同士を反応させて架橋部位を形成しているため、カーボンナノチューブ構造体中のカーボンナノチューブの実質的な密度を高めることができる。さらに官能基のサイズを小さくすれば、電気的にも物理的にも極めて近接した状態に、カーボンナノチューブ相互の間隔を構成することができ、カーボンナノチューブ単体の特性を引き出しやすくなる。
カーボンナノチューブ構造体におけるカーボンナノチューブ同士が架橋する架橋部位が、官能基の化学結合であるため、構造体が主として同一の架橋構造となる。なお、ここで言う「主として同一」とは、架橋部位の全てが同一の架橋構造となる場合は勿論のこと、架橋部位全体に対して官能基同士の化学結合による架橋構造が、主体的となる場合も含む概念とする。
このように、カーボンナノチューブ同士が架橋する架橋部位が、主として同一の架橋構造のカーボンナノチューブ構造体であれば、均質な電気特性を有するキャリア輸送体を得ることができる。
以上説明したように、本発明において特に好ましい態様の整流素子は、カーボンナノチューブ構造体が、複数のカーボンナノチューブが複数の架橋部位を介して網目構造の状態となった状態で形成されているので、単なるカーボンナノチューブの分散膜のように、カーボンナノチューブ同士の接触状態並びに配置状態が不安定になることがなく、電子やホールの高い伝送特性といった電気的特性や、熱伝導、強靭性といった物理的特性、その他光吸収特性等カーボンナノチューブに特有の性質を安定して発揮することができる。また、カーボンナノチューブ構造体のパターンの加工自由度も高いので、キャリア輸送体として多様な形状とすることができる。
本発明の整流素子は、前記カーボンナノチューブ構造体からなる層(キャリア輸送体の層)以外の他の層が形成されていてもよい。
例えば、前記基体表面と前記カーボンナノチューブ構造体との間に、両者の接着性を向上させるための接着層を設けることは、パターニングされたカーボンナノチューブ構造体の接着強度を高めることができ、好ましい。また、カーボンナノチューブ構造体の周囲を絶縁体、導電体など整流素子の用途に応じて被覆することもできる。
また、パターニングされたカーボンナノチューブ構造体の上層として、保護層やその他の各種機能層を設けることもできる。前記カーボンナノチューブ構造体の上層として、保護層を設けることにより、架橋したカーボンナノチューブのネットワークであるカーボンナノチューブ構造体をより強固に基体表面に保持し、外力から保護することができる。この保護層には、[整流素子の製造方法]の項にて説明するレジスト層を、そのまま除去せずに残して、利用することもできる。勿論、前記キャリア輸送体に応じたパターン以外の領域も含めて全面をカバーする保護層を新たに設けることも有効である。かかる保護層を構成する材料としては、従来公知の各種樹脂材料や無機材料を問題なく、目的に応じて用いることができる。
さらに、前記カーボンナノチューブ構造体を、何らかの機能層を介して積層することもできる。前記機能層として絶縁層を形成し、各カーボンナノチューブ構造体のパターンを適切なものとし、それらカーボンナノチューブ構造体を層間で適宜接続することにより、高集積されたデバイスを作製することも可能である。この際の層間の接続には、別途カーボンナノチューブ構造体を設けても、他のカーボンナノチューブを用いてそれ自体を配線としても、金属膜を用いる等全く他の方法による配線としても構わない。
また、既述の通り、前記基体を可撓性ないし柔軟性を有する基板とすることもできる。前記基体を可撓性ないし柔軟性を有する基板とすることで、キャリア輸送体全体としてのフレキシビリティーが向上し、設置場所等の使用環境の自由度が格段に広がる。
また、このような可撓性ないし柔軟性を有する基板を用いた整流素子を用いて装置を構成する場合には、装置における多様な配置や形状に適応するので高い実装性を持った整流素子のキャリア輸送体として利用することが可能となる。
以上説明した本発明の整流素子の具体的な形状等は、次の[整流素子の製造方法]の項や実施例の項で明らかにする。勿論、後述する構成はあくまでも例示であり、本発明の整流素子の具体的な態様は、これらに限定されるものではない。
[整流素子の製造方法]
本発明の整流素子の製造方法は、上記本発明の整流素子を製造するのに適した方法である。なお、単体のカーボンナノチューブを基板上に配置する手法や、高濃度にカーボンナノチューブが分散された混合液を塗布して絡み合いによる網目構造を形成する手法についてはこれ以上の説明は省略し、より好ましい形態である、架橋部位を介して網目構造が形成されたカーボンナノチューブ構造体をキャリア輸送体として用いる場合を例に挙げて、以下、説明する。
この手法は、具体的には、(A)基体の表面に、カーボンナノチューブを含む溶液(架橋溶液)を供給する供給工程と、(B)塗布後の前記溶液を硬化して、キャリア輸送体として用いられ、前記複数のカーボンナノチューブが相互に架橋した網目構造を構成するカーボンナノチューブ構造体を形成する架橋工程、および、製造する整流素子の構造に応じて(A)、(B)の工程の前後に電極の形成工程を含む。
さらに、必要に応じて、(C)前記カーボンナノチューブ構造体をキャリア輸送体に応じたパターンにパターニングするパターニング工程等、他の工程を含めてもよい。
以下、これら各工程に分けて、本発明の整流素子の製造方法の詳細について図2を用いて説明する。
ここで図2は、本発明の整流素子の製造方法の一例(後述する(C−A−2))を説明するための、製造工程中の基体表面の模式断面図である。図中、10は基板状の基体、16,18は電極、12はカーボンナノチューブ構造体、14はレジスト層である。
(A)供給工程
本発明において、「供給工程」とは、前記基体の表面に、キャリア輸送体を構成するカーボンナノチューブを配置する工程である。ここでは特に架橋部位を介して網目構造が形成されたカーボンナノチューブ構造体を用いる場合を用いて説明する。
この場合、供給工程とは、官能基を有するカーボンナノチューブ、および、前記官能基と架橋反応を起こす架橋剤を含む溶液(架橋溶液)を供給(塗布)する工程である。なお、供給工程で前記架橋溶液を供給すべき領域は、前記所望の領域を全て含んでさえいればよく、前記基体の表面の全面に塗布しなければならないわけではない。
供給方法としては、架橋溶液の塗布が好ましいが、その手法に特に制限はなく、単に液滴を垂らしたり、それをスキージで塗り広げたりする方法から、一般的な塗布方法まで、幅広くいずれの方法も採用することができる。一般的な塗布方法としては、スピンコート法、ワイヤーバーコート法、キャストコート法、ロールコート法、刷毛塗り法、浸漬塗布法、スプレー塗布法、カーテンコート法等が挙げられる。
なお、基体、官能基を有するカーボンナノチューブ、架橋剤並びに架橋溶液の内容については、[整流素子]の項で説明した通りである。
(B)架橋工程
本発明において、「架橋工程」とは、供給後の前記架橋溶液中の前記カーボンナノチューブにおける前記官能基間を化学結合させることにより架橋部位を形成し、前記カーボンナノチューブ構造体を形成する工程である。供給工程が架橋溶液を塗布する構成の場合には、塗布後の前記架橋溶液を硬化して、前記複数のカーボンナノチューブが相互に架橋した網目構造を構成するカーボンナノチューブ構造体の層を形成する工程である。なお、架橋工程で前記架橋溶液を硬化して、カーボンナノチューブ構造体を形成すべき領域は、前記所望の領域を全て含んでさえいればよく、前記基体の表面に塗布された前記架橋溶液を全て硬化しなければならないわけではない。
架橋工程における操作は、前記官能基と前記架橋剤との組み合わせに応じて、自ずと決まってくる。例えば、前掲の表1に示す通りである。熱硬化性の組み合わせであれば、各種ヒータ等により加熱すればよいし、紫外線硬化性の組み合わせであれば、紫外線ランプで照射したり、日光下に放置しておけばよい。勿論、自然硬化性の組み合わせであれば、そのまま放置しておけば十分であり、この「放置」も本発明における架橋工程で行われ得るひとつの操作と解される。
官能基−COOR(Rは、置換または未置換の炭化水素基である。好ましいものについては既述の通り。)が付加したカーボンナノチューブと、ポリオール(中でもグリセリンおよび/またはエチレングリコール)との組み合わせの場合には、加熱による硬化(エステル交換反応によるポリエステル化)が行われる。加熱により、エステル化したカーボンナノチューブカルボン酸の−COORと、ポリオールのR’−OH(R’は、置換または未置換の炭化水素基である。R’は、好ましくは−C2n−1、−C2nまたは−C2n+1から選ばれ、nは1〜10の整数であり、これらが置換されたものを含む。)とがエステル交換反応する。そして、かかる反応が複数多元的に進行し、カーボンナノチューブが架橋していき、最終的にカーボンナノチューブが相互に接続してネットワーク状となったカーボンナノチューブ構造体が形成される。
上記の組み合わせの場合に好ましい条件について例示すると、加熱温度としては、具体的には50〜500℃の範囲が好ましく、120〜200℃の範囲がより好ましい。また、この組み合わせにおける加熱時間としては、具体的には1分〜10時間の範囲が好ましく、1〜2時間の範囲がより好ましい。
図2(a)に、(B)架橋工程を経て、基体10表面にカーボンナノチューブ構造体12が形成された状態を示す。
(C)パターニング工程
本発明において、「パターニング工程」とは、前記カーボンナノチューブ構造体をキャリア輸送体に応じたパターンにパターニングする工程である。図2(e)に、当該(C)パターニング工程を経た後の基体表面の状態を表す模式断面図を示す。
パターニング工程の操作に特に制限はないが、好適なものとして、以下(C−A)および(C−B)の2つの態様を挙げることができる。
(C−A)
前記基体表面における前記キャリア輸送体に応じたパターン以外の領域のカーボンナノチューブ構造体に、ドライエッチングを行うことで、当該領域のカーボンナノチューブ構造体を除去し、前記カーボンナノチューブ構造体を前記キャリア輸送体に応じたパターンにパターニングする工程である態様。
ドライエッチングを行うことで、前記キャリア輸送体に応じたパターンにパターニングするということは、結局は、前記基体表面における前記パターン以外の領域の前記カーボンナノチューブ構造体に、ラジカル等を照射することを意味する。そして、その手法としては、直接前記パターン以外の領域の前記カーボンナノチューブ構造体にラジカル等を照射する方式(C−A−1)と、前記パターン以外の領域をレジスト層で被覆した上で、前記基体表面(勿論、前記カーボンナノチューブ構造体およびレジスト層が形成された側)の全面にラジカル等を照射する方式(C−A−2)が挙げられる。
(C−A−1)
直接前記パターン以外の領域の前記カーボンナノチューブ構造体にラジカル等を照射する方式とは、詳しくは、本パターニング工程が、前記基体表面における前記キャリア輸送体に応じたパターン以外の領域のカーボンナノチューブ構造体に、ガス分子のイオンをイオンビームにより選択的に照射することで、当該領域のカーボンナノチューブ構造体を除去し、前記カーボンナノチューブ構造体を前記キャリア輸送体に応じたパターンにパターニングする態様である。
イオンビームによれば、数nmオーダー程度の緻密さで、選択的にガス分子のイオンを照射することができ、キャリア輸送体に応じたパターンのパターニングが一度の操作で容易にできる点で好ましい。
選択可能なガス種としては、酸素、アルゴン、窒素、二酸化炭素、六フッ化硫黄等が挙げられるが、本発明においては特に酸素が好ましい。
イオンビームとは、真空中ガス分子に電圧をかけることで加速させイオン化し、ビームとして照射する方式であり、エッチングの対象とする物質および照射精度は、使用するガスの種類により変更することができる。
(C−A−2)
前記パターン以外の領域をレジスト層で被覆した上で、前記基体表面の全面にラジカル等を照射する方式とは、詳しくは、本パターニング工程が、
前記基体表面における前記キャリア輸送体に応じたパターンの領域のカーボンナノチューブ構造体の上に、レジスト層を設けるレジスト層形成工程(C−A−2−1)と、
前記基体の前記カーボンナノチューブ構造体およびレジスト層が積層された面に、ドライエッチングを行うことで、前記領域以外の領域で表出しているカーボンナノチューブ構造体を除去する除去工程(C−A−2−2)と、を含む態様であり、除去工程に引き続いてさらに、
レジスト層形成工程で設けられた前記レジスト層を剥離するレジスト層剥離工程(C−A−2−3)を含む場合もある。
(C−A−2−1)レジスト層形成工程
レジスト層形成工程では、前記基体表面における前記キャリア輸送体に応じたパターンの領域のカーボンナノチューブ構造体の上に、レジスト層を設ける。当該工程は、一般にフォトリソグラフィープロセスと称されるプロセスに従って為されるものであり、前記キャリア輸送体に応じたパターンの領域のカーボンナノチューブ構造体の上に直接レジスト層を設けるのではなく、図2(b)に示されるように一旦基体10のカーボンナノチューブ構造体12が形成された表面全面にレジスト層14を形成し、前記キャリア輸送体に応じたパターンの領域を露光して、その後、現像することで露光部以外の部位が除去され、最終的に前記キャリア輸送体に応じたパターンの領域のカーボンナノチューブ構造体の上にレジスト層が設けられた状態となる。
図2(c)に、当該(C−A−2−1)レジスト層形成工程を経た後の基体表面の状態を表す模式断面図を示す。なお、レジストの種類によっては、露光部以外が現像により除去され、非露光部が残存する構成の場合もある。
レジスト層の形成方法は、従来公知の方法で行えばよい。具体的には、レジスト剤を基板上にスピンコーター等を使用して塗布し、加熱することでレジスト層を形成させる。
レジスト層14の形成に用いる材料(レジスト剤)としては、特に制限されず、従来よりレジストの材料として用いられている各種材料をそのまま用いることができる。中でも樹脂により形成する(樹脂層とする)ことが好ましい。カーボンナノチューブ構造体12は、網目状にネットワークが形成されており、多孔性の構造体であるため、例えば金属蒸着膜の様にごく表面にのみ膜が形成され孔内部まで十分に浸透しない材料によりレジスト層14を形成すると、プラズマ等を照射した際にカーボンナノチューブが十分に封止された状態(プラズマ等に晒されない状態)にできない。そのため、プラズマ等が孔部を通過してレジスト層14の下層のカーボンナノチューブ構造体12まで侵食し、プラズマ等の回り込みにより残留するカーボンナノチューブ構造体12の外形が小さくなってしまう場合がある。この小形化を加味して、レジスト層14の外形(面積)を、前記キャリア輸送体に応じたパターンに比して十分に大きくする手法も考えられるが、この場合はパターン同士の間隔を広くとらざるをえず、密にパターンを形成できなくなる。
これに対して、レジスト層14の材料として樹脂を用いることで、当該樹脂を孔内部まで浸透させることができ、プラズマ等に晒されるカーボンナノチューブを減少させることができ、結果としてカーボンナノチューブ構造体12の高密度なパターニングが可能となる。
当該樹脂層を主として構成する樹脂材料としては、ノボラック樹脂、ポリメチルメタクリレート、およびこれらの樹脂の混合物等を挙げることができるが、勿論これらに限定されるものではない。
レジスト層を形成するためのレジスト材料は、上記樹脂材料あるいはその前駆体と感光材料等の混合物であり、本発明では従来公知のあらゆるレジスト材料を使用しても差し支えない。例えば、東京応化工業製OFPR800、長瀬産業製NPR9710等を例示することができる。
レジスト層14への露光(レジスト材料が熱硬化性の場合には加熱。その他レジスト材料の種類により適宜選択。)および現像の操作ないし条件(例えば、光源波長、露光強度、露光時間、露光量、露光時の環境条件、現像方法、現像液の種類・濃度、現像時間、現像温度、前処理や後処理の内容等)は、使用するレジスト材料に応じて、適宜選択する。市販されているレジスト材料を用いたのであれば、当該レジスト材料の取扱説明書の方法に従えばよい。一般的には、取り扱いの便宜から、紫外光を用いて前記キャリア輸送体に応じたパターン様に露光し、アルカリ現像液により現像する。そして水洗で現像液を洗い流し、乾燥してフォトリソグラフィープロセスが完了する。
(C−A−2−2)除去工程
除去工程では、前記基体の前記カーボンナノチューブ構造体およびレジスト層が積層された面に、ドライエッチングを行うことで、前記領域以外の領域で表出している(図2(c)を参照。カーボンナノチューブ構造体12は、レジスト層14が除去された部分から表出している。)カーボンナノチューブ構造体を除去する。図2(d)に、当該(C−A−2−2)除去工程を経た後の基体表面の状態を表す模式断面図を示す。
除去工程の操作は、一般にドライエッチングと称される方法全般を含み、方式としては、リアクティブイオン方式などがある。既述の(C−A−1)のイオンビームを用いる方式もドライエッチングに含まれる。
選択可能なガス種やその他装置および操作環境等は(C−A−1)の項で述べた通りである。
ドライエッチングで一般的に選択可能なガス種としては、酸素、アルゴン、フッ素系ガス(フロン、SF、CF等)等が挙げられるが、本発明においては特に酸素が好ましい。酸素ラジカルを用いると、除去するカーボンナノチューブ構造体12のカーボンナノチューブを酸化させ(燃焼させ)、二酸化炭素化することができ、残存物の発生による影響がなく、また正確なパターニングをすることが可能となる。
ガス種として酸素を選択する場合には、酸素分子に紫外線を照射することにより、酸素ラジカルを発生させ、これを利用することができる。この方式で酸素ラジカルを生ずる装置が、UVアッシャーとの商品名で市販されており、容易に入手することができる。
(C−A−2−3)レジスト層剥離工程
整流素子の製造にあたり、あらかじめ電極対を形成した基体上にキャリア輸送体の形成を行い、(C−A−2−2)除去工程までの操作が完了した段階で終了とすることもできる。しかし、レジスト層14を除去したい場合には、上記除去工程に引き続いてさらに、レジスト層形成工程で設けられたレジスト層14を剥離するレジスト層剥離工程の操作を施すことが必要となる。図2(e)に、当該(C−A−2−3)レジスト層剥離工程を経た後の基体表面の状態を表す模式断面図を示す。
レジスト層剥離工程の操作は、レジスト層14の形成に用いた材料に応じて選択すればよい。市販されているレジスト材料を用いたのであれば、当該レジスト材料の取扱説明書の方法に従えばよい。レジスト層14が樹脂層である場合には、一般的には、当該樹脂層を溶解し得る有機溶剤に接液することにより除去する。
(C−B)
前記基体表面における前記キャリア輸送体に応じたパターンの領域のカーボンナノチューブ構造体の上に、レジスト層を設けるレジスト層形成工程と、
前記基体の前記カーボンナノチューブ構造体およびレジスト層が積層された面に、エッチング液を接液させることで、前記領域以外の領域で表出しているカーボンナノチューブ構造体を除去する除去工程と、を含む工程である態様。
この態様は、一般的にウェットエッチング(薬液=エッチング液を使用して任意の部分を取り除く方法)と称される方法である。
レジスト層形成工程の詳細については、エッチング液に耐性を有するレジスト材料を用いることが望まれること以外は、既述の(C−A−2−1)レジスト層形成工程と同様である。除去工程に引き続いてレジスト層剥離工程の操作を施しても構わないこと、およびその詳細については、(C−A−2−3)レジスト層剥離工程に記載された内容と同様である。そのため、これらについては、その詳細な説明は割愛する。
図2(c)を参照して説明すれば、除去工程においては、基体12のカーボンナノチューブ構造体12およびレジスト層14が積層された面に、エッチング液を接液させることで、前記領域以外の領域で表出しているカーボンナノチューブ構造体12を除去する。
ここで、本発明において「接液」とは、対象物を液体に接触させる行為全てを含む概念であり、浸漬、スプレー、流し掛け等、いずれの方法で液体に対象物を接触させても構わない。
エッチング液は、一般に酸あるいはアルカリであり、どのような種類のエッチング液を選択すればよいかは、レジスト層14を構成するレジスト材料やカーボンナノチューブ構造体12におけるカーボンナノチューブ相互間の架橋構造等により決まってくる。できる限りレジスト層14を侵しにくく、カーボンナノチューブ構造体12を除去しやすい材料を選択することが望ましい。
ただし、エッチング液の温度や濃度、および接液時間を適切に制御することで、レジスト層14が完全に消滅してしまう前に、元々表出しているカーボンナノチューブ構造体12を除去することが可能であれば、レジスト層14を侵してしまうような種類のエッチング液を選択しても構わない。
(D)電極形成工程
本発明において「電極形成工程」とは前工程のパターニングを経たカーボンナノチューブ構造体12に電極対を形成する工程である。電極の形成方法は、公知の薄膜プロセスや、厚膜プロセスなど、適宜使用することができる。ただし、後で述べるように、電極形成工程はデバイス構造により、他の工程と入れ替わる場合がある。
(E)障壁層形成工程
本工程は、第1の接続構成と、前記他方の電極から前記キャリア輸送体までの第2の接続構成を異ならせる手法に応じて、(D)の電極形成工程の前あるいは後、あるいは電極形成工程と同時に行われる。
なお、当該工程は、本発明にいう「接続構成形成工程」の例示として解釈することができる。
以下に障壁形成工程の形態を説明するが、勿論これに限られるものではない。
(E−1)
第1の電極と第2の電極の材料を異ならせることで、障壁レベルを異ならせることができる場合は、電極形成工程と障壁層形成工程とは同時に行われる。
(E−2)
酸化物層を第1の界面に形成する場合は、第1の界面に酸化物層を形成する工程が必要となる。酸化物層は、酸化物を直接公知の薄膜プロセス等で形成する方法のほか、第1の電極として酸化性の材料を用い、この第1の電極とキャリア輸送体の対向する界面を酸化させることで形成する方法を挙げることができる。一方、第2の電極は、耐酸化性の強い金属、例えば金を用いる、あるいは第1電極の金属と酸化性が異なるものを用いることで、第1の界面と第2の界面で障壁レベルを異ならせることができる。
酸化膜の形成方法としては、酸化膜の緻密さ、薄さの面から電極金属の酸素存在雰囲気中での自然酸化が望ましいが、酸化物の蒸着や熱酸化等により形成しても構わない。
(E−3)
キャリア輸送体の表面を加工して電極との密着度を低下あるいは増加させることで、第1の界面と第2の界面とで障壁レベルを異ならせる場合は、キャリア輸送体に対する加工工程が電極形成工程に先立って必要となる。
上記障壁層形成の具体例は、複数組み合わせて行うこともできる。
なお、この障壁層形成工程は、キャリア輸送体の形成に先立って基板表面に少なくとも一方の電極を配置し、その上にキャリア輸送体を形成する場合には、(A)〜(C)のキャリア輸送体を形成する工程の前後あるいはそれと同時に、障壁層の形成を行えばよい。
図2(f)は、上記製造方法により最終的に得られる整流素子を示す模式断面図である。16および18は電極であり、電極18(本発明にいう「一方の電極」)は、障壁層(酸化物層)20を介してカーボンナノチューブ構造体12と接続されているが、電極16(本発明にいう「他方の電極」)は、直接カーボンナノチューブ構造体12と接続されている。
(F)その他の工程
以上の各工程を経ることで、本発明の整流素子を製造することができるが、本発明の整流素子の製造方法においては、その他の工程を含めることもできる。
例えば、前記供給工程に先立ち、前記基体の表面を予め処理する表面処理工程を設けるのも好適である。表面処理工程は、例えば、塗布される架橋溶液の吸着性を高めるため、上層として形成されるカーボンナノチューブ構造体と基体表面との接着性を高めるため、基体表面を清浄化するため、基体表面の電気伝導度を調整するため、等の目的で行われる。
架橋溶液の吸着性を高める目的で行われる表面処理工程としては、例えば、シランカップリング剤(例えば、アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン等)による処理が挙げられる。中でもアミノプロピルトリエトキシシランによる表面処理は、広く行われており、本発明における表面処理工程でも好適である。アミノプロピルトリエトキシシランによる表面処理は、例えば、Y.L.Lyubchenko et al.,Nucleic Acids Research,1993,vol.21,p.1117−1123等の文献に見られるように、従来よりDNAのAFM観察において基板に使うマイカの表面処理に用いられている。
また、特に本発明において、酸化性の金属材料を電極に用いる場合には、少なくともキャリア輸送体とその電極との間を酸素から封止することが望ましい。これにより、経時的な特性の劣化が防止される。もちろん、センサー的な機能として、この経時劣化特性を積極的に利用する場合には封止は必ずしも必要ではない。
カーボンナノチューブ構造体自体を2層以上積層する場合には、上記本発明の整流素子の製造方法による操作を、2回以上繰り返せばよい。カーボンナノチューブ構造体の層間に誘電体層や絶縁層等の中間層を設ける場合には、これらの層を形成するための工程を挟んで、上記本発明の整流素子の製造方法による操作を繰り返せばよい。
また、保護層や電極層等その他の層を別途積層する場合には、これらの層を形成するための工程が必要となる。これら各層は、その目的に応じた材料・方法を従来公知の方法から選択して、あるいは、本発明のために新たに開発した物ないし方法により、適宜形成すればよい。
<本発明の整流素子の製造方法の応用例>
本発明の整流素子の製造方法の有用な応用例として、キャリア輸送体を基体表面に形成するに際して、仮基板の表面に一旦カーボンナノチューブ構造体をパターニングした後、所望とする基体に転写(転写工程)する方法がある。また、転写工程において、当該仮基板から中間転写体表面に、パターニングされたカーボンナノチューブ構造体を一旦転写し、さらに所望とする基体(第2の基体)に転写する構成としても構わない。以下、仮基板の表面にカーボンナノチューブ構造体が形成された状態のものを「カーボンナノチューブ転写体」と称する場合がある。
具体的な方法について、図10を用いて説明する。
先に説明したのと同様の方法で、仮基板11’表面にカーボンナノチューブ構造体を形成し、パターニングして輸送層(キャリア輸送体)12に応じた形状とする(図10(a))。なお、この説明では、2つの輸送層(キャリア輸送体)を同時に仮基板11’上に形成した。
引き続き、表面に粘着面111が形成された基板(基体)11を、仮基板11’表面の輸送層12上に貼り付ける(図10(b)および(c))。
その後、基板11と仮基板11’とを引き剥がすことで、基板11の粘着面111に輸送層12が転写される(図10(d))。
続いて、基板11に転写された輸送層10の上に、酸化膜20、電極16、18をスパッタリング等を用いて積層する。
以上のようにして、整流素子が同時に2つ形成される(図10(e))。
これらの素子は、配線を行うことで他の素子と電気的に接続して集積回路化することも可能である。
当該応用例において使用可能な仮基板としては、[整流素子]の項で説明した基体と同様の材質のものが使用可能であり、好ましいものである。ただし、転写工程における転写適性を考慮すると、少なくとも1つの平面を有することが望まれ、平板状であることがより好ましい。
当該応用例において使用可能な基体あるいは中間転写体としては、粘着剤を保持した粘着面、あるいは保持し得る面を有することが必要であり、セロファンテープ、紙テープ、布テープ、イミドテープのような一般的なテープは勿論使用可能である。また、これらテープのような可撓性ないし柔軟性を有する材料以外の硬質の材料からなるものであっても構わない。粘着剤を保持していない材料の場合には、保持し得る面に粘着剤を塗りつけた上で、これを粘着面として、通常のテープと同様に使用することができる。
当該応用例によれば、本発明の整流素子を容易に製造することができる。
なお、基体の表面にカーボンナノチューブ構造体が担持された状態のものを用意し、デバイスを構成する所望の第2の基体(例えば筐体)の表面に基体ごと貼付けて、整流素子を製造することもできる。
あるいは、仮基板(もしくは中間転写体)の表面にカーボンナノチューブ構造体が担持されたカーボンナノチューブ転写体を用いて、整流素子を構成する基体の表面に前記カーボンナノチューブ構造体だけを転写し、仮基板(もしくは中間転写体)を除去するようにすれば、利用者は架橋工程を省略しても、整流素子のキャリア輸送体を作製できる様になる。なお、ここではプロセス上中間転写体がカーボンナノチューブ転写体の仮基板となる場合があるが、カーボンナノチューブ転写体自体としては区別する必要はないので、この場合も含むものとする。
カーボンナノチューブ転写体を用いると、仮基板の表面に、架橋された状態でカーボンナノチューブ構造体が担持されているため、その後の取り扱いが極めて簡便になり、整流素子の製造は極めて容易に行うことができるようになる。仮基板の除去方法は、単純な剥離、化学的に分解、焼失、溶融、昇華、溶解させる等適宜選択できる。
かかる応用例の整流素子の製造方法は、デバイスの基体として、そのまま本発明の整流素子の製造方法を適用し難い材質および/または形状のものの場合に、特に有効である。
例えば、前記架橋工程で、供給後の前記溶液を硬化するために加熱する温度が、整流素子の基体にしようとしている材料の融点ないしガラス転移点以上となってしまう場合に、上記本発明の応用例は有効である。このとき、前記加熱温度を前記仮基板の融点よりも低く設定することで、硬化のために必要な加熱温度を確保することができ、適切に本発明の整流素子を製造することができる。
また、例えば、前記パターニング工程が、前記仮基板表面における前記キャリア輸送体に応じたパターン以外の領域のカーボンナノチューブ構造体に、ドライエッチングを行うことで、当該領域のカーボンナノチューブ構造体を除去し、前記カーボンナノチューブ構造体を前記キャリア輸送体に応じたパターンにパターニングする工程であるとき、整流素子の基体にしようとしている材料が、前記パターニング工程で行うドライエッチングに対して耐性を有しない場合に、上記本発明の応用例は有効である。このとき、前記仮基板にドライエッチングに対して耐性を有する材料を用いることで、前記仮基板にパターニングする工程の操作に対する耐性を確保することができ、適切に本発明の整流素子を製造することができる。
具体的な耐性、材料等は、ドライエッチングのガス種、強度、時間、温度、圧力等の条件により異なるため一概には言えないが、樹脂材料は比較的耐性が低いため、これを前記基体とした場合に、本応用例を適用することで、耐性が低いことによる制約から解放される。したがって、樹脂材料を前記基体に適用することは、本応用例によるメリットを生かし得る点で好適である。一方、無機材料は比較的耐性が高いため、前記仮基板に適している。また、可撓性ないし柔軟性を有する材料は一般に当該耐性が低いため、これを前記基体に適用することは、本応用例によるメリットを生かし得る点で好適である。
さらに、例えば、前記パターニング工程として、前記仮基板表面における前記キャリア輸送体に応じたパターンの領域のカーボンナノチューブ構造体の上に、レジスト層を設けるレジスト層形成工程と、前記仮基板の前記カーボンナノチューブ構造体およびレジスト層が積層された面に、エッチング液を接液させることで、前記領域以外の領域で表出しているカーボンナノチューブ構造体を除去する除去工程と、を含むとき、前記パターニング工程で用いるエッチング液に対して、前記基体は耐性を有しないが、前記仮基板は耐性を有する場合に、上記本発明の応用例は有効である。このとき当該整流素子の基体を本応用例における基体とし、前記仮基板に前記エッチング液に対して耐性を有する材料を用いることで、前記仮基板にパターニングする工程の操作に対する耐性を確保することができ、適切に本発明の整流素子を製造することができる。
具体的な耐性、材料等は、用いるエッチング液の種類、濃度、温度、接液時間等の条件により異なるため一概には言えない。例えば、エッチング液が酸性であり、酸に弱いアルミニウム等の材料を整流素子の基体としたい場合に、これを前記基体にし、酸に耐性のあるシリコン等の材料を前記仮基板にして本応用例を適用することで、耐性が低いことによる制約から解放される。その他、エッチング液の液性により一概には言えないが、既述の通りエッチング液に対する耐性が低い材料を前記基体にすることで、耐性が低いことによる制約から解放される。
さらに別の態様として、カーボンナノチューブ構造体24を担持する基体を、よりハンドリングしやすい整流素子とするために、第2の基体に貼り付けて、本発明の整流素子およびこれを用いた装置を構成しても良い。第2の基体としては、物性的に剛体であっても、可撓性ないし柔軟性であってもよいし、形状的にも球体、凹凸形状等多様な形状のものを選択することができる。
<より具体的な実施例>
以下、本発明を実施例を挙げてより具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
本実施例では、図2に記載の整流素子の製造方法の流れにより、半導体特性を有する単層カーボンナノチューブのグリセリン架橋膜をキャリア輸送体とした整流素子を作製した。電極部材としてチタン、アルミニウムを用い電極を形成した。アルミニウムを自然酸化させることにより電極−カーボンナノチューブ構造体界面に酸化膜を形成させた。なお、本実施例の説明においては、図2の符号を用いる場合がある。
(A)供給工程
(A−1)架橋溶液の調製(付加工程)
(i)単層カーボンナノチューブの精製
単層カーボンナノチューブ粉末(純度40%、Aldrich製)を予めふるい(孔径125μm)にかけて、粗大化した凝集体を取り除いたもの(平均直径1.5nm、平均長さ2μm)30mgを、マッフル炉を用いて450℃で15分間加熱し、カーボンナノチューブ以外の炭素物質を除いた。残った粉末15mgを5規定塩酸水溶液{濃塩酸(35%水溶液、関東化学製)を純水で2倍に希釈したもの}10mlに4時間沈めておくことにより、触媒金属を溶解させた。
この溶液をろ過して沈殿物を回収した。回収した沈殿物に対して、上記の加熱・塩酸に沈めるという工程をさらに3回繰り返して精製を行った。その際、加熱の条件は450℃で20分間、450℃で30分間、550℃で60分間と段階的に強めていった。
精製後のカーボンナノチューブは、精製前(原料)と比べ、純度が大幅に向上していることがわかる(具体的には、純度90%以上と推定される。)。なお、最終的に得られた、精製されたカーボンナノチューブは、原料の5%程度の質量(1〜2mg)であった。
以上の操作を複数回繰返すことで、高純度の単層カーボンナノチューブ粉末15mg以上を精製した。
(ii)カルボキシル基の付加・・・カーボンナノチューブカルボン酸の合成
単層カーボンナノチューブ粉末(純度90%、平均直径30nm、平均長さ3μm;サイエンスラボラトリー製)30mgを濃硝酸(60質量%水溶液、関東化学製)20mlに加え、120℃の条件で還流を5時間行い、カーボンナノチューブカルボン酸を合成した。以上の反応スキームを図3に示す。なお、図3中カーボンナノチューブ(CNT)の部分は、2本の平行線で表している(反応スキームに関する他の図に関しても同様)。
溶液の温度を室温に戻したのち、5000rpmの条件で15分間の遠心分離を行い、上澄み液と沈殿物とを分離した。回収した沈殿物を純水10mlに分散させて、再び5000rpmの条件で15分間の遠心分離を行い、上澄み液と沈殿物とを分離した(以上で、洗浄操作1回)。この洗浄操作をさらに5回繰り返し、最後に沈殿物を回収した。
回収された沈殿物について、赤外吸収スペクトルを測定した。また、比較のため、用いた単層カーボンナノチューブ原料自体の赤外吸収スペクトルも測定した。両スペクトルを比較すると、単層カーボンナノチューブ原料自体においては観測されていない、カルボン酸に特徴的な1735cm−1の吸収が、前記沈殿物の方には観測された。このことから、硝酸との反応によって、カーボンナノチューブにカルボキシル基が導入されたことがわかった。すなわち、沈殿物がカーボンナノチューブカルボン酸であることが確認された。
また、回収された沈殿物を中性の純水に添加してみると、分散性が良好であることが確認された。この結果は、親水性のカルボキシル基がカーボンナノチューブに導入されたという、赤外吸収スペクトルの結果を支持する。
(iii)エステル化
上記工程で調製されたカーボンナノチューブカルボン酸30mgを、メタノール(和光純薬製)25mlに加えた後、濃硫酸(98質量%、和光純薬製)5mlを加えて、65℃の条件で還流を6時間行い、メチルエステル化した。以上の反応スキームを図4に示す。
溶液の温度を室温に戻したのち、ろ過して沈殿物を分離した。沈殿物は、水洗した後回収した。回収された沈殿物について、赤外吸収スペクトルを測定した。その結果、エステルに特徴的な1735cm−1および1000〜1300cm−1の領域における吸収が観測されたことから、カーボンナノチューブカルボン酸がエステル化されたことが確認された。
(混合工程)
上記工程で得られたメチルエステル化したカーボンナノチューブカルボン酸30mgを、グリセリン(関東化学製)4gに加え、超音波分散機を用いて混合した。さらに、これを粘度調整剤としてのメタノール4gに加え、架橋溶液(1)を調製した。
(A−2)基体の表面処理工程
基体10としてのシリコンウエハー(アドバンテック製、76.2mmφ(直径3インチ)、厚さ380μm、表面酸化膜の厚さ1μm)に塗布する架橋溶液(1)と、当該シリコンウエハーとの吸着性を上げるために、アミノプロピルトリエトキシシランにより、シリコンウエハーの表面処理を行った。
アミノプロピルトリエトキシシランによる表面処理は、密閉したシャーレ内で、上記シリコンウエハーをアミノプロピルトリエトキシシラン(アルドリッチ社製)50μlの蒸気に3時間程度晒すことで行った。
なお、比較のために、表面処理を施さないシリコンウエハーも、別途用意した。
(A−3)供給工程
工程(A−1)で調製された架橋溶液(1μl)を、表面処理が施されたシリコンウエハー(基体10)表面にスピンコーター(ミカサ社製、1H−DX2)を用い、100rpm,30秒の条件で塗布した。
(B)架橋工程
架橋溶液を塗布した後、当該塗布膜が形成されたシリコンウエハー(基体10)を、200℃で2時間加熱し塗布膜を硬化し、カーボンナノチューブ構造体12を形成した(図2(a))。スキームを図5に示す。
得られたカーボンナノチューブ構造体12の状態を光学顕微鏡で確認したところ、極めて均一な硬化膜となっていた。
(C)パターニング工程
(C−1)レジスト層形成工程
カーボンナノチューブ構造体12が形成されたシリコンウエハー12(表面処理を施したもの)の当該カーボンナノチューブ構造体12側の表面に、スピンコーター(ミカサ社製、1H−DX2)を用い、レジスト剤(長瀬産業製、NPR9710、粘度50mPa・s)を、2000rpm、20秒の条件で塗布し、ホットプレートにより2分間、100℃で加熱して製膜させて、レジスト層14を形成した(図2(b))。
なお、レジスト剤NPR9710の組成は、以下の通りである。
・プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート:
50〜80質量%
・ノボラック樹脂: 20〜50質量%
・感光剤: 10質量%未満
カーボンナノチューブ構造体12およびレジスト層14が形成されたシリコンウエハー10の当該レジスト層14側の表面に、マスクアライナー(ミカサ製水銀灯、MA−20、波長436nm)を用いて、光量12.7mW/cm、8秒の条件で露光した。
さらに、露光されたシリコンウエハー12をホットプレートにより1分間、110℃で加熱した後、放冷し、現像液として東京応化工業製NMD−3(テトラメチルアンモニウムハイドロキサイド2.38質量%)を用い、現像機(AD−1200、滝沢産業)により現像を行った(図2(c))。
(C−2)除去工程
以上のようにしてレジスト層14が所定のパターンの形状に形成された(図2(c)に示される状態)シリコンウエハー12を、UVアッシャー(エキシマ真空紫外線ランプ、アトム技研製、EXM−2100BM、波長172nm)により、混合ガス(酸素10mL/min,窒素40mL/min)中200℃で加熱し、2時間紫外線(172nm)を照射することで酸素ラジカルを発生させカーボンナノチューブ構造体12におけるレジスト層14で保護されていない部分を除去した。その結果、レジスト層14で覆われた状態でカーボンナノチューブ構造体12がキャリア輸送体の形状に形成された(図2(d))。
レジスト層14は、カーボンナノチューブ構造体12を介して基体10の表面に残存している。
(C−3)レジスト層除去工程
上記「所定のパターン」の形状に形成されたカーボンナノチューブ構造体12の上層として残存しているレジスト層14を、アセトンで洗い流すことにより洗浄して除去し(図2(e))、実施例1の整流素子のキャリア輸送体を得た。
このカーボンナノチューブ構造体12からなる輸送層(キャリア輸送体)上にアルミニウム、チタン電極を蒸着により作製した。これを暗所にて静置することでカーボンナノチューブ構造体12およびアルミニウム電極18の界面にアルミニウム自然酸化膜を形成し、素子を得た(図2(f))。
【実施例2】
多層カーボンナノチューブ架橋膜をキャリア輸送体とした素子を、実施例1に示した方法と同様にして作製した。なお、酸化膜としては実施例1と同様、アルミニウム電極およびカーボンナノチューブ構造体の界面にアルミニウム自然酸化膜を形成した。他方の電極部材としてはチタンを用いた。塗布膜の形成方法については下記に示す。その他の工程については、実施例1と同様に行った。
(A)供給工程
(A−1)架橋溶液の調製(付加工程)
(i)カルボキシル基の付加・・・カーボンナノチューブカルボン酸の合成
多層カーボンナノチューブ粉末(純度90%、平均直径30nm、平均長さ3μm;サイエンスラボラトリー製)30mgを濃硝酸(60質量%水溶液、関東化学製)20mlに加え、120℃の条件で還流を20時間行い、カーボンナノチューブカルボン酸を合成した。
溶液の温度を室温に戻したのち、5000rpmの条件で15分間の遠心分離を行い、上澄み液と沈殿物とを分離した。回収した沈殿物を純水10mlに分散させて、再び5000rpmの条件で15分間の遠心分離を行い、上澄み液と沈殿物とを分離した(以上で、洗浄操作1回)。この洗浄操作をさらに5回繰り返し、最後に沈殿物を回収した。
回収された沈殿物について、赤外吸収スペクトルを測定した。また、比較のため、用いた多層カーボンナノチューブ原料自体の赤外吸収スペクトルも測定した。両スペクトルを比較すると、多層カーボンナノチューブ原料自体においては観測されていない、カルボン酸に特徴的な1735cm−1の吸収が、前記沈殿物の方には観測された。このことから、硝酸との反応によって、カーボンナノチューブにカルボキシル基が導入されたことがわかった。すなわち、沈殿物がカーボンナノチューブカルボン酸であることが確認された。
また、回収された沈殿物を中性の純水に添加してみると、分散性が良好であることが確認された。この結果は、親水性のカルボキシル基がカーボンナノチューブに導入されたという、赤外吸収スペクトルの結果を支持する。
(混合工程)
上記工程で得られたメチルエステル化したカーボンナノチューブカルボン酸30mgを、グリセリン(関東化学製)4gに加え、超音波分散機を用いて混合した。さらに、これを粘度調整剤としてのメタノール4gに加え、架橋溶液(1)を調製した。
【実施例3】
本実施例では、図6に示されるように、基板上でキャリア輸送体が挟み込まれたサンドイッチ構造の整流素子を製造した。ここで、図6は、本実施例の整流素子の模式断面図である。
あらかじめ、基板となるシリコンウエハー(図示せず)に、主電極であるアルミニウム電極3を形成し、このアルミニウム電極3上に、障壁を形成するためのアルミナ(Al)層4を蒸着により積層した。
次に、実施例1に示した方法と同様にして、キャリア輸送層である単層カーボンナノチューブ構造体1を形成した。さらに上部電極2としてチタン/金を蒸着し、整流素子を得た。なお、蒸着したアルミナの厚みは約70nmである。
[評価試験(電流−電圧特性の測定)]
実施例1〜3の素子についての直流電流?電圧特性測定を行った。
測定は、ピコアンメータ4140B(ヒューレットパッカード製)を使って2端子法で行った。
実施例1の素子の電流−電圧特性(図7)から、アルミニウム電極への負電圧印加を順バイアスとする整流作用が得られることを確認した。
実施例2の多層カーボンナノチューブ架橋膜を用いた素子においても、素子の電流−電圧特性(図8)から整流作用を示すことが確認され、本発明の整流素子が単層、多層カーボンナノチューブのいずれを用いても整流作用を発現できることを確認した。
また、実施例3の素子においても、同様に電流−電圧特性(図9)から整流作用が確認でき、カーボンナノチューブ構造体からなるキャリア輸送体−2つの電極間の各界面を、例えば一方に酸化膜を存在させる等により、接続構成を異なるものとすることで、整流作用が発現することを確認した。


【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】



【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極と、該一対の電極間に設けられた、1本または複数のカーボンナノチューブにより構成されるキャリア輸送体と、を備え、
前記一対の電極のうち一方の電極および前記キャリア輸送体の第1の界面と、前記一対の電極のうち他方の電極および前記キャリア輸送体の第2の界面と、が異なる障壁レベルとなるように、前記一方の電極および前記キャリア輸送体間の第1の接続構成と、前記他方の電極および前記キャリア輸送体間の第2の接続構成と、を異なる構成としたことを特徴とする整流素子。
【請求項2】
前記キャリア輸送体が、複数のカーボンナノチューブにより構成されることを特徴とする請求項1に記載の整流素子。
【請求項3】
前記キャリア輸送体が、前記複数のカーボンナノチューブが相互に架橋した網目構造を構成してなるカーボンナノチューブ構造体により形成されてなることを特徴とする請求項2に記載の整流素子。
【請求項4】
前記第1の界面と前記第2の界面との障壁レベルが異なるように、前記第1の界面および前記第2の界面の少なくとも一方に酸化物層を介在させてなることを特徴とする請求項1に記載の整流素子。
【請求項5】
前記酸化物層が、金属酸化膜あるいは半導体酸化膜であることを特徴とする請求項4に記載の整流素子。
【請求項6】
前記酸化物層が金属酸化膜であり、かつ、該金属酸化膜が、前記一方の電極を構成する材料の酸化物からなることを特徴とする請求項4に記載の整流素子。
【請求項7】
前記一対の電極が、それぞれ異なる材料から構成されてなることを特徴とする請求項6に記載の整流素子。
【請求項8】
前記一対の電極のうち一方の電極を構成する材料が、チタン、アルミニウム、銀、銅、導電化されたシリコン、鉄、タンタル、ニオブ、亜鉛、タングステン、スズ、ニッケル、マグネシウム、インジウム、クロム、パラジウム、モリブデンおよびコバルトからなる群より選ばれる少なくとも1つの金属もしくはその合金であることを特徴とする請求項7に記載の整流素子。
【請求項9】
前記酸化物層が、酸化アルミニウム、二酸化珪素、酸化銅、酸化銀、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化ニッケル、酸化マグネシウム酸化インジウム、酸化クロム、酸化鉛、酸化マンガン、酸化鉄、酸化パラジウム、酸化タンタル、酸化タングステン、酸化モリブデン、酸化バナジウム、酸化コバルト、酸化ハフニウムおよび酸化ランタンからなる群より選ばれる少なくとも1つから構成されることを特徴とする請求項4に記載の整流素子。
【請求項10】
前記一方の電極が、前記他方の電極よりもイオン化傾向の高い材料から構成されていることを特徴とする請求項7に記載の整流素子。
【請求項11】
前記第1の界面と前記第2の界面の障壁レベルが異なるように、前記一方の電極と前記他方の電極の材料を異ならせてなることを特徴とする請求項1に記載の整流素子。
【請求項12】
前記一方の電極および前記他方の電極を構成する材料が、それぞれ独立に、アルミニウム、銀、銅、導電化されたシリコン、金、白金、チタン、亜鉛、ニッケル、スズ、マグネシウム、インジウム、クロム、マンガン、鉄、鉛、パラジウム、タンタル、タングステン、モリブデン、バナジウム、コバルト、ハフニウム、およびランタンからなる群より選ばれる少なくとも1つの金属もしくはその合金であることを特徴とする請求項11に記載の整流素子。
【請求項13】
前記他方の電極を構成する材料が、金、チタン、鉄、ニッケル、タングステン、導電化されたシリコン、クロム、ニオブ、コバルト、モリブデンおよびバナジウムからなる群より選ばれる少なくとも1つの金属もしくはその合金であることを特徴とする請求項11に記載の整流素子。
【請求項14】
前記第1の界面における前記一方の電極および前記キャリア輸送体間の密着度が、前記第2の界面における前記他方の電極および前記キャリア輸送体間の密着度よりも小さいことを特徴とする請求項11に記載の整流素子。
【請求項15】
前記第1の界面における前記一方の電極および前記キャリア輸送体間と、前記第2の界面における前記他方の電極および前記キャリア輸送体間とで、密着度の差が生ずるように、前記第1の界面または第2の界面における前記キャリア輸送体の表面が改質されてなることを特徴とする請求項1に記載の整流素子。
【請求項16】
前記第1の界面における前記一方の電極および前記キャリア輸送体間と、前記第2の界面における前記他方の電極および前記キャリア輸送体間とで、密着度の差が生ずるように、前記第1の界面および第2の界面の少なくとも一方に、付着力調整層を介在させてなることを特徴とする請求項1に記載の整流素子。
【請求項17】
前記カーボンナノチューブ構造体が、官能基が結合された複数のカーボンナノチューブの当該官能基間を化学結合させて架橋部位が形成されてなることを特徴とする請求項3に記載の整流素子。
【請求項18】
前記複数のカーボンナノチューブが、主として単層カーボンナノチューブであることを特徴とする請求項17に記載の整流素子。
【請求項19】
前記複数のカーボンナノチューブが、主として多層カーボンナノチューブであることを特徴とする請求項17に記載の整流素子。
【請求項20】
前記架橋部位が、(−COO(CHOCO−)、−COOCHCHOHCHOCO−、−COOCHCH(OCO−)CHOH、−COOCHCH(OCO−)CHOCO−、および、−COO−C−COO−からなる群より選ばれるいずれかの化学構造であることを特徴とする請求項17に記載の整流素子。
【請求項21】
前記架橋部位が、−COOCO−、−O−、−NHCO−、−COO−、−NCH−、−NH−、−S−、−O−、−NHCOO−、および、−S−S−、から選ばれるいずれかの化学構造であることを特徴とする請求項3に記載の整流素子。
【請求項22】
官能基が結合された複数のカーボンナノチューブを含む溶液を用いて、前記複数のカーボンナノチューブの前記官能基間を化学結合させて前記架橋部位が形成されてなることを特徴とする請求項17に記載の整流素子。
【請求項23】
官能基が結合されたカーボンナノチューブおよび前記官能基と架橋反応を起こす架橋剤を含む溶液を用いて、これを硬化させることにより、前記官能基と前記架橋剤とを架橋反応させて前記架橋部位が形成されてなることを特徴とする請求項17に記載の整流素子。
【請求項24】
前記架橋剤が、非自己重合性の架橋剤であることを特徴とする請求項23に記載の整流素子。
【請求項25】
前記架橋部位が、複数の前記官能基同士の化学結合により形成された構造からなることを特徴とする請求項17に記載の整流素子。
【請求項26】
前記化学結合を生ずる反応が、脱水縮合、置換反応、付加反応および酸化反応からなる群より選ばれるいずれか1つの反応であることを特徴とする請求項25に記載の整流素子。
【請求項27】
前記キャリア輸送体が層状であり、前記カーボンナノチューブ構造体が所定形状にパターニングされたものであることを特徴とする請求項2に記載の整流素子。
【請求項28】
前記第1の界面における障壁レベルが前記第2の界面における障壁レベルよりも高く、前記一方の電極と前記キャリア輸送体との界面において、前記一方の電極表面の幅がキャリア輸送体の幅以上であることを特徴とする請求項27に記載の整流素子。
【請求項29】
前記第1の接続構成が、前記第1の界面に酸化物層を介在させてなることを特徴とする請求項28に記載の整流素子。
【請求項30】
少なくとも前記第1の界面を外気から封止するための封止体を備えることを特徴とする請求項1に記載の整流素子。
【請求項31】
請求項1に記載の整流素子と、該整流素子が表面に形成されたフレキシブル基板とを備えることを特徴とする電子回路。
【請求項32】
基体表面に設けられた一対の電極間に1本または複数のカーボンナノチューブから構成されるキャリア輸送体が配されてなる整流素子の製造方法であって、少なくとも、
前記一対の電極のうち一方の電極および前記キャリア輸送体の第1の界面と、前記一対の電極のうち他方の電極および前記キャリア輸送体の第2の界面と、が異なる障壁レベルとなるように、前記一方の電極および前記キャリア輸送体間の第1の接続構成と、前記他方の電極および前記キャリア輸送体間の第2の接続構成と、を異なる構成に形成する接続構成形成工程を含むことを特徴とする整流素子の製造方法。
【請求項33】
前記接続構成形成工程が、前記一方の電極および前記キャリア輸送体の第1の界面に、当該第1の界面が、前記他方の電極および前記キャリア輸送体の第2の界面とは異なる障壁レベルとなる酸化物層を形成する酸化物層形成工程を含むことを特徴とする請求項32に記載の整流素子の製造方法。
【請求項34】
前記酸化物層形成工程が、酸化可能な材料から構成される酸化物前駆体層を前記第1の界面に配置した後、該酸化物前駆体層を酸化させる工程であることを特徴とする請求項33に記載の整流素子の製造方法。
【請求項35】
前記キャリア輸送体が複数のカーボンナノチューブが相互に架橋した網目構造を構成してなるカーボンナノチューブ構造体により形成され、前記酸化物層形成工程が、前記酸化物前駆体層を前記キャリア輸送体と接触させて形成した後に、該酸化物前駆体層を酸化させる工程であることを特徴とする請求項34に記載の整流素子の製造方法。
【請求項36】
前記酸化物層形成工程が、前記一対の電極のうち一方の電極を酸化可能な材料で形成し、前記第1の界面における前記一方の電極の表面を酸化させて酸化物層を形成する工程であることを特徴とする請求項33に記載の整流素子の製造方法。
【請求項37】
前記キャリア輸送体が複数のカーボンナノチューブが相互に架橋した網目構造を構成してなるカーボンナノチューブ構造体により形成され、前記酸化物層形成工程が、前記一方の電極を前記キャリア輸送体と接触させて形成した後に、当該接触面の前記一方の電極を酸化させる工程であることを特徴とする請求項36に記載の整流素子の製造方法。
【請求項38】
前記一対の電極のうち一方の電極を構成する材料が、アルミニウム、銀、銅、導電化されたシリコン、チタン、亜鉛、ニッケル、スズ、マグネシウム、インジウム、クロム、マンガン、鉄、鉛、パラジウム、タンタル、タングステン、モリブデン、バナジウム、コバルト、ハフニウムおよびランタンからなる群より選ばれる少なくとも1つの金属もしくはその合金であることを特徴とする請求項36に記載の整流素子の製造方法。
【請求項39】
前記他方の電極が、前記一方の電極よりもイオン化傾向の低い材料から構成されていることを特徴とする請求項33に記載の整流素子の製造方法。
【請求項40】
前記他方の電極を構成する材料が、金、チタン、鉄、ニッケル、タングステン、導電化されたシリコン、クロム、ニオブ、コバルト、モリブデンおよびバナジウムからなる群より選ばれる少なくとも1つの金属もしくはその合金であることを特徴とする請求項33に記載の整流素子の製造方法。
【請求項41】
前記接続構成形成工程が、前記一対の電極をそれぞれ異なる材料で形成する工程を含むことを特徴とする請求項32に記載の整流素子の製造方法。
【請求項42】
前記接続構成形成工程が、前記第1の界面における前記一方の電極および前記キャリア輸送体間と、前記第2の界面における前記他方の電極および前記キャリア輸送体間とで、密着度の差が生ずるように、前記第1の界面または第2の界面における前記キャリア輸送体の表面を改質する工程を含むことを特徴とする請求項32に記載の整流素子の製造方法。
【請求項43】
前記接続構成形成工程が、前記第1の界面における前記一方の電極および前記キャリア輸送体間と、前記第2の界面における前記他方の電極および前記キャリア輸送体間とで、密着度の差が生ずるように、前記第1の界面および第2の界面の少なくとも一方に、付着力調整層を形成する工程を含むことを特徴とする請求項32に記載の整流素子の製造方法。
【請求項44】
前記キャリア輸送体が、相互に化学結合していない複数のカーボンナノチューブが絡み合うことで網目構造を形成してなることを特徴とする請求項32に記載の整流素子の製造方法。
【請求項45】
前記複数のカーボンナノチューブが相互に架橋した網目構造を構成してなるカーボンナノチューブ構造体からなることを特徴とする請求項32に記載の整流素子の製造方法。
【請求項46】
前記接続構成形成工程に先立ち、前記キャリア輸送体を形成するキャリア輸送体形成工程を備え、当該工程が、
官能基を有する複数のカーボンナノチューブを前記基体表面に供給する供給工程と、
前記官能基間を架橋させて架橋部位を形成し、前記網目構造のカーボンナノチューブ構造体を形成する架橋工程と、
を含むことを特徴とする請求項32に記載の整流素子の製造方法。
【請求項47】
前記供給工程が、前記基体表面に前記官能基を有するカーボンナノチューブを含む溶液を塗布する塗布工程を含み、前記カーボンナノチューブ構造体が膜状であることを特徴とする請求項46に記載の整流素子の製造方法。
【請求項48】
前記複数のカーボンナノチューブが、主として単層カーボンナノチューブであることを特徴とする請求項46に記載の整流素子の製造方法。
【請求項49】
前記複数のカーボンナノチューブが、主として多層カーボンナノチューブであることを特徴とする請求項46に記載の整流素子の製造方法。
【請求項50】
前記供給工程が、前記官能基間を架橋する架橋剤の前記基体表面への供給を含むことを特徴とする請求項46に記載の整流素子の製造方法。
【請求項51】
前記架橋剤が、非自己重合性であることを特徴とする請求項50に記載の整流素子の製造方法。
【請求項52】
前記官能基が、−OH、−COOH、−COOR(Rは、置換または未置換の炭化水素基)、−COX(Xはハロゲン原子)、−NHおよび−NCOからなる群より選ばれる少なくとも1つの基であり、前記架橋剤が、選択された前記官能基と架橋反応を起こし得る架橋剤であることを特徴とする請求項46に記載の整流素子の製造方法。
【請求項53】
前記架橋剤が、ポリオール、ポリアミン、ポリカルボン酸、ポリカルボン酸エステル、ポリカルボン酸ハライド、ポリカルボジイミドおよびポリイソシアネートからなる群より選ばれる少なくとも1つの架橋剤であり、前記官能基が、選択された前記架橋剤と架橋反応を起こし得る官能基であることを特徴とする請求項50に記載の整流素子の製造方法。
【請求項54】
前記官能基が、−OH、−COOH、−COOR(Rは、置換または未置換の炭化水素基)、−COX(Xはハロゲン原子)、−NHおよび−NCOからなる群より選ばれる少なくとも1つの基であり、
前記架橋剤が、ポリオール、ポリアミン、ポリカルボン酸、ポリカルボン酸エステル、ポリカルボン酸ハライド、ポリカルボジイミドおよびポリイソシアネートからなる群より選ばれる少なくとも1つの架橋剤であり、
前記官能基と前記架橋剤とが、相互に架橋反応を起こし得る組み合わせとなるようにそれぞれ選択されたことを特徴とする請求項50に記載の整流素子の製造方法。
【請求項55】
前記官能基が、−COOR(Rは、置換または未置換の炭化水素基)であることを特徴とする請求項46に記載の整流素子の製造方法。
【請求項56】
前記架橋剤が、ポリオールであることを特徴とする請求項55に記載の整流素子の製造方法。
【請求項57】
前記架橋剤が、グリセリン、エチレングリコール、ブテンジオール、ヘキシンジオール、ヒドロキノンおよびナフタレンジオールからなる群より選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする請求項56に記載の整流素子の製造方法。
【請求項58】
前記架橋工程における前記官能基間を架橋させる反応が、複数の前記官能基同士を化学結合させる反応であることを特徴とする請求項46に記載の整流素子の製造方法。
【請求項59】
前記供給工程が、前記官能基同士の化学結合を生じさせる添加剤の前記基体表面への供給を含むことを特徴とする請求項58に記載の整流素子の製造方法。
【請求項60】
前記反応が脱水縮合であって、前記添加剤が縮合剤であることを特徴とする請求項59に記載の整流素子の製造方法。
【請求項61】
前記官能基が、−COOR(Rは、置換または未置換の炭化水素基)、−COOH、−COX(Xはハロゲン原子)、−OH、−CHO、−NHからなる群より選ばれる少なくともいずれか1つであることを特徴とする請求項60に記載の整流素子の製造方法。
【請求項62】
前記官能基が、−COOHであることを特徴とする請求項60に記載の整流素子の製造方法。
【請求項63】
前記縮合剤が、硫酸、N−エチル−N’−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドおよびジシクロヘキシルカルボジイミドから選ばれる1つであることを特徴とする請求項60に記載の整流素子の製造方法。
【請求項64】
前記反応が置換反応であって、前記添加剤が塩基であることを特徴とする請求項59に記載の整流素子の製造方法。
【請求項65】
前記官能基が、−NH、−X(Xはハロゲン原子)、−SH、−OH、−OSOCHおよび−OSO(C)CHからなる群より選ばれる少なくともいずれか1つであることを特徴とする請求項64に記載の整流素子の製造方法。
【請求項66】
前記塩基が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ピリジンおよびナトリウムエトキシドからなる群より選ばれる少なくともいずれか1つであることを特徴とする請求項64に記載の整流素子の製造方法。
【請求項67】
前記反応が、付加反応であることを特徴とする請求項58に記載の整流素子の製造方法。
【請求項68】
前記官能基が、−OHおよび−NCOからなる群より選ばれる少なくともいずれか1つであることを特徴とする請求項67に記載の整流素子の製造方法。
【請求項69】
前記反応が、酸化反応であることを特徴とする請求項59に記載の整流素子の製造方法。
【請求項70】
前記官能基が、−SHであることを特徴とする請求項69に記載の整流素子の製造方法。
【請求項71】
前記添加剤が、酸化反応促進剤であることを特徴とする請求項69に記載の整流素子の製造方法。
【請求項72】
前記酸化反応促進剤が、ヨウ素であることを特徴とする請求項71に記載の整流素子の製造方法。
【請求項73】
前記キャリア輸送体が、前記複数のカーボンナノチューブが相互に架橋した網目構造を構成してなるカーボンナノチューブ構造体により形成されるものであり、
当該カーボンナノチューブ構造体を前記キャリア輸送体に応じた形状にパターニングするパターニング工程を含むことを特徴とする請求項32に記載の整流素子の製造方法。
【請求項74】
前記パターニング工程が、前記基体表面における前記キャリア輸送体に応じたパターン以外の領域のカーボンナノチューブ構造体に、ドライエッチングを行うことで、当該領域のカーボンナノチューブ構造体を除去し、前記カーボンナノチューブ構造体を前記キャリア輸送体に応じた形状にパターニングする工程であることを特徴とする請求項73に記載の整流素子の製造方法。
【請求項75】
前記パターニング工程が、
前記基体表面における前記キャリア輸送体に応じたパターンの領域のカーボンナノチューブ構造体の上に、レジスト層を設けるレジスト層形成工程と、
前記基体の前記カーボンナノチューブ構造体およびレジスト層が積層された面に、ドライエッチングを行うことで、前記領域以外の領域で表出しているカーボンナノチューブ構造体を除去する除去工程と、
を含むことを特徴とする請求項74に記載の整流素子の製造方法。
【請求項76】
前記除去工程において、前記基体の前記カーボンナノチューブ構造体およびレジスト層が積層された面に、酸素分子のラジカルを照射することを特徴とする請求項75に記載の整流素子の製造方法。
【請求項77】
酸素分子に紫外線を照射することにより、酸素ラジカルを発生させ、これを前記基体の前記カーボンナノチューブ構造体およびレジスト層が積層された面に照射するラジカルとして用いることを特徴とする請求項76に記載の整流素子の製造方法。
【請求項78】
前記パターニング工程が、除去工程に引き続いてさらに、レジスト層形成工程で設けられた前記レジスト層を剥離するレジスト層剥離工程を含むことを特徴とする請求項75に記載の整流素子の製造方法。
【請求項79】
前記レジスト層が、樹脂層であることを特徴とする請求項75に記載の整流素子の製造方法。
【請求項80】
前記パターニング工程が、前記基体表面における前記キャリア輸送体に応じたパターン以外の領域のカーボンナノチューブ構造体に、ガス分子のイオンをイオンビームにより選択的に照射することで、当該領域のカーボンナノチューブ構造体を除去し、前記カーボンナノチューブ構造体を前記キャリア輸送体に応じたパターンにパターニングする工程であることを特徴とする請求項74に記載の整流素子の製造方法。

【国際公開番号】WO2005/067059
【国際公開日】平成17年7月21日(2005.7.21)
【発行日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516787(P2005−516787)
【国際出願番号】PCT/JP2004/007201
【国際出願日】平成16年5月20日(2004.5.20)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】