説明

整流部材及び遠心圧縮機

【課題】気体の流動における偏流や圧力分布の偏りを積極的に解消し、且つ吸気ダクトの仕様変更等に柔軟に対応できる整流部材及びそれを備える遠心圧縮機を提供する。
【解決手段】本発明に係る整流部材1は、気体Gが流動する流路31を備える吸気ダクト3と、流路31を介して気体Gが導入される吸気口23を備える遠心圧縮機2との間に設けられる整流部材であって、遠心圧縮機2に着脱自在に設けられ、吸気口23と連通する貫通孔部を備える台座部11と、貫通孔部の内周面に、周方向に並んで間隔を空けて配置される複数の整流板12とを有する、という構成を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、整流部材及び遠心圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
遠心圧縮機の回転翼(インペラ)に導入される気体の流れを調整するための整流装置が、特許文献1に開示されている。この整流装置は、遠心圧縮機のハウジングに一体的に設けられており、回転翼の上流側に軸周り方向で並んで配置される複数の可動板を有している。
上記整流装置は、複数の可動板の向きを調整して、回転翼に導入される気体を上記軸周り方向で旋回させる。気体が旋回しつつ回転翼に導入されることで、少流量側での遠心圧縮機の作動域を拡大することができる。
以上のように、特許文献1に開示された整流装置は、遠心圧縮機の作動域を拡大させるためのものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−26027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来技術には、以下のような課題が存在する。
遠心圧縮機には、気体が流動する流路を備える吸気ダクトが接続されているが、設置スペース等の関係から、この吸気ダクトが曲がりを有する場合がある。そして、吸気ダクト内の気体がこの曲がり部を通過することで、気体の流れに偏流や旋回流、剥離等が発生し、気体に圧力分布の偏りが生じる。この偏流や圧力分布の偏りが生じたまま気体が回転翼に導入されることで、遠心圧縮機の効率が低下していた。
ここで、特許文献1に開示された整流装置は、流動する気体を旋回させるためのものであり、上記偏流や圧力分布の偏りを積極的に解消することはできないという課題があった。
【0005】
また、特許文献1に開示された整流装置は、遠心圧縮機に一体的に接続されていることから、吸気ダクトの形状に応じて異なる遠心圧縮機をそれぞれ準備する必要があり、吸気ダクトの仕様変更等によりその形状が変更された場合には、柔軟に対応することが困難であるという課題があった。
【0006】
本発明は、以上のような点を考慮してなされたもので、気体の流動における偏流や圧力分布の偏りを積極的に解消し、且つ吸気ダクトの仕様変更等に柔軟に対応できる整流部材及びそれを備える遠心圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明に係る整流部材は、気体が流動する流路を備える吸気ダクトと、流路を介して気体が導入される吸気口を備える遠心圧縮機との間に設けられる整流部材であって、遠心圧縮機に着脱自在に設けられ、吸気口と連通する貫通孔部を備える台座部と、貫通孔部の内周面に、周方向に並んで間隔を空けて配置される複数の整流板とを有する、という構成を採用する。
このような構成を採用する本発明では、台座部が遠心圧縮機に着脱自在に設けられ、且つ複数の整流板が台座部に配置されていることから、整流部材は遠心圧縮機に着脱自在に設置されている。
また、吸気ダクトが曲がりを有し、この曲がりによって吸気ダクトの内周面近傍に気体の流動における偏流や旋回流、剥離、それらを原因とする圧力分布の偏りが生じた場合にも、台座部に複数の整流板が配置されているため、この整流板によって偏流や圧力分布の偏りが解消される。
【0008】
また、本発明に係る整流部材は、整流板が、貫通孔部の径方向と略平行する姿勢で設けられている、という構成を採用する。
このような構成を採用する本発明では、吸気ダクトが曲がりを有する場合には、この曲がりにより吸気ダクトの内周面近傍に略周方向での気体の流れが生じるが、この気体の流れを、貫通孔部の径方向と略平行する整流板、すなわち周方向と略直交する整流板が規制し、気体の流動における偏流や旋回流の発生が防止される。
【0009】
また、本発明に係る整流部材は、整流板が、吸気ダクト側に向けて突出している、という構成を採用する。
このような構成を採用する本発明では、吸気ダクトが曲がりを有する場合に、その曲がり部の下流側近傍に整流板が突出して設けられることで、曲がりによって生じる気体の偏流や圧力分布の偏りを迅速に解消することが可能となる。また、整流板によって気体の流れは僅かに乱流化するが、整流板が遠心圧縮機の回転翼に向けて突出していないことで、整流板を通過した後に生じる気体の乱流が沈静化するための十分な間隔を確保することが可能となる。
【0010】
また、本発明に係る整流部材は、整流板が、貫通孔部の内周面に、全周に亘り配置されている、という構成を採用する。
このような構成を採用する本発明では、例えば気体の流量や流速が変化した場合に、周方向に関して偏流や圧力低下部分の生じる箇所が変化したとしても、整流板が全周に亘り配置されているため、上記偏流等を解消することが可能となる。
【0011】
また、本発明に係る整流部材は、整流板の固有振動数が、遠心圧縮機における回転翼の固有振動数と異なる値に設定されている、という構成を採用する。
このような構成を採用する本発明では、回転翼と整流板との間における共振の発生が防止され、回転翼及び整流板の破損を防ぐことが可能となる。
【0012】
また、本発明に係る整流部材は、貫通孔部の径方向での整流板の高さをHとし、吸気ダクトの内径をDとすると、
H/D>0.1
を満たす、という構成を採用する。
このような構成を採用する本発明では、吸気ダクト内を流動する気体の偏流、いわゆるディストーションが整流部材を通過することで十分に除去される。
【0013】
また、本発明に係る整流部材は、貫通孔部の貫通方向での整流板の長さをLとし、吸気ダクトの内径をDとすると、
L/D>0.12
を満たす、という構成を採用する。
このような構成を採用する本発明では、吸気ダクト内を気体が周方向に旋回して流動する旋回流、いわゆるスワールが整流部材を通過することで十分に除去される。
【0014】
また、本発明に係る整流部材は、貫通孔部の径方向での整流板の高さをHとし、隣り合う整流板の内側端部の間における貫通孔部の中心軸線周りの円弧の長さをSとすると、
H/S>0.8
を満たす、という構成を採用する。
このような構成を採用する本発明では、吸気ダクト内を気体が周方向に旋回して流動する旋回流、いわゆるスワールが整流部材を通過することで十分に除去される。
【0015】
また、本発明に係る遠心圧縮機は、請求項1から8のいずれか一項に記載の整流部材を有する、という構成を採用する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、以下の効果を得ることができる。
本発明によれば、遠心圧縮機に着脱自在に設けられる整流部材によって、気体の流動における偏流や圧力分布の偏り等が解消され、遠心圧縮機の効率を改善できるという効果がある。また、整流部材は遠心圧縮機に着脱自在であることから、吸気ダクトの仕様変更等に柔軟に対応できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態における整流部材及びその周辺の全体の構成を示す概略図である。
【図2】本発明の実施形態における整流部材の構成を示す概略図である。
【図3】本発明の実施形態における気体の流量とコンプレッサの効率との関係を示す図である。
【図4】本発明の実施形態におけるフィンの高さとダクトの内径との間の比を変化させたときの、気体におけるディストーションの除去率の変化を示すグラフである。
【図5】本発明の実施形態におけるフィンの高さとダクトの内径との間の比を変化させたときの、気体が整流部材を通過するときの圧力損失係数の変化を示すグラフである。
【図6】本発明の実施形態におけるフィンの長さとダクトの内径との間の比を変化させたときの、気体におけるスワールの除去率の変化を示すグラフである。
【図7】本発明の実施形態におけるフィンの長さとダクトの内径との間の比を変化させたときの、気体が整流部材を通過するときの圧力損失係数の変化を示すグラフである。
【図8】本発明の実施形態におけるフィンの高さとフィン間ピッチとの間の比を変化させたときの、気体におけるスワールの除去率の変化を示すグラフである。
【図9】本発明の実施形態におけるフィンの高さとフィン間ピッチとの間の比を変化させたときの、気体が整流部材を通過するときの圧力損失係数の変化を示すグラフである。
【図10】整流部材1の一変形例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の整流部材及び遠心圧縮機に係る実施の形態を、図1から図10を参照して説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。また、各図面における矢印Fは前方向を示している。
【0019】
図1は、本実施形態における整流部材1及びその周辺の全体の構成を示す概略図である。
整流部材1は、気体Gを圧縮するコンプレッサ2(遠心圧縮機)と、コンプレッサ2に導入される気体Gが流動するダクト3(吸気ダクト)との間に設けられ、気体Gの流れを整えてその偏流や圧力分布の偏り等を解消するための部材である。なお、コンプレッサ2及びダクト3を最初に説明し、整流部材1の説明は後述する。
【0020】
コンプレッサ2は、ダクト3から導入される気体Gを圧縮し、圧縮された気体Gを外部に吐出する装置である。コンプレッサ2の外殻は、コンプレッサハウジング21とシールプレート22とが一体的に接続されて構成されている。コンプレッサ2は、吸気口23と、インペラ24(回転翼)と、ディフューザ流路25と、スクロール流路26とを有している。なお、コンプレッサ2は車両や冷蔵装置等に設置され、気体Gとしては空気や冷媒ガス等が使用される。
【0021】
吸気口23は、コンプレッサ2内に気体Gを導入するための開口部である。また、前方から見た場合に、吸気口23は略円形に形成されている。
【0022】
インペラ24は、回転することでその中心軸方向の前方側から気体Gを導入し、導入した気体Gを径方向外側に送り出す回転翼である。インペラ24は、コンプレッサハウジング21の内部且つ吸気口23の後方側に配置され、前後方向で延びる所定の軸周りで回転自在に設けられている。
【0023】
インペラ24の中心部分には、前後方向で延びる回転軸27が貫通して一体的に接続されている。回転軸27のインペラ24と逆側の端部には、不図示の電動機やラジアルタービンにおけるタービンインペラ等が接続され、これらの機器の作動により回転軸27及びインペラ24が回転できる構成となっている。また、インペラ24は、軸周り方向で並んで間隔を空けて配置される複数のインペラ翼24aを有している。
【0024】
ディフューザ流路25は、インペラ24を囲んで略環状に形成された流路である。また、ディフューザ流路25は、コンプレッサハウジング21とシールプレート22との間に形成され、インペラ24の回転により送り出された気体Gが導入される流路である。気体Gは、ディフューザ流路25内を径方向外側に向かって流動するに従い、次第に圧縮される。
【0025】
スクロール流路26は、インペラ24を囲んで略渦巻状に形成され、ディフューザ流路25と連通する流路である。スクロール流路26にはディフューザ流路25において圧縮された気体Gが導入され、スクロール流路26に接続される不図示の吐出口を介して圧縮された気体Gが外部に供給される。
【0026】
次に、ダクト3を説明する。
ダクト3は、コンプレッサ2に気体Gを供給するための略円筒状の管である。ダクト3の内部には、気体Gが流動する流路31が形成されている。また、ダクト3は曲がり部32と、接続部33とを有している。
曲がり部32は、ダクト3において曲がりが生じている箇所である。
接続部33は、ダクト3の一端部であって、不図示の接続ボルト等を用いて整流部材1及びコンプレッサ2と接続される箇所である。接続部33の開口部は後側から見たときに略円形に形成され、その内径は吸気口23の径と略同一に形成されている。なお、接続部33における内径を符号Dで表している。
【0027】
次に、整流部材1の詳細を、図1及び図2を参照して説明する。
図2は、本実施形態における整流部材1の構成を示す概略図であって、(a)は平面図、(b)は(a)のA−A線視断面図、(c)は斜視図である。
図1に示すように、整流部材1は、コンプレッサ2とダクト3との間に設けられており、気体Gの流れを整えて、その偏流や圧力分布の偏り等を解消するための部材である。整流部材1は、台座部11と、複数のフィン12(整流板)とを有している。本実施形態における台座部11とフィン12とは、機械加工や鋳造等によって一体的に成形されている。なお、それぞれを別に成形し、台座部11に対してフィン12を接合する構成であってもよい。
【0028】
台座部11は、略板状の部材であって、コンプレッサハウジング21における吸気口23の周縁部と、ダクト3の接続部33とにより挟持され、前後方向とその板面が直交する姿勢で設置されている。なお、整流部材1が設けられない場合は、コンプレッサハウジング21と接続部33とは不図示の接続ボルト等を用いて一体的に接続されるのであるが、整流部材1はこの接続ボルト等(長さは適宜調整される)を用いて着脱自在に接続されている。すなわち、整流部材1は、既存の過給機への後付けが可能なアタッチメント部材として構成してもよい。
【0029】
図2に示すように、台座部11は、略板状の部材であって、板厚方向で貫通する第1孔部13(貫通孔部)と複数の第2孔部14とを有している。
第1孔部13は、台座部11の略中央部に設けられ且つコンプレッサ2の吸気口23と連通する略円形の孔部であって、吸気口23と略同一の径で形成されている。なお、第1孔部13は、ダクト3の流路31とも連通しており、接続部33における内径Dと略同一の径で形成されている。
第2孔部14は、台座部11をコンプレッサ2に接続するために用いられるものであって、コンプレッサ2と接続部33との接続に用いられる不図示の接続ボルト等が貫通できる位置及び径で形成されている。
【0030】
フィン12は、ダクト3から吸気口23へ導入される気体Gの流れを整え、その偏流及び圧力分布の偏り等を解消するための複数の板部材である。
複数のフィン12は、第1孔部13の中心軸方向で延在する略矩形の板部材であり、第1孔部13の内周面13aの全周に亘り、その周方向で並んで間隔を空けて配置されている。また、フィン12は、台座部11の板面から前方すなわちダクト3側に突出して設けられており(図1参照)、フィン12の前方側の端部はダクト3の曲がり部32に近接して設けられている。一方、フィン12の後方側の端部は、台座部11の板面と同一位置に設けられている。
また、フィン12は、第1孔部13の径方向と略平行する姿勢で設けられており、ダクト3の内周面近傍を周方向に沿って流れる気体Gを規制することができる。
【0031】
ここで、第1孔部13の径方向でのフィン12の高さを符号Hで表し、第1孔部13の貫通方向でのフィン12の長さを符号Lで表し、隣り合うフィン12の内側端部の間における第1孔部13の中心軸線周りの円弧の長さ(以下、「フィン間ピッチ」と称する)を符号Sで表している。フィン間ピッチSは、全てのフィン12間において同一となっている。
フィン12の高さHは、ダクト3の形状により生じる吸気口23近傍での気体Gの圧力分布と、フィン12により生じる気体Gの流動に関する損失との関係に応じて設定されている。すなわち、気体Gの流動における偏流や圧力分布の偏り等を解消することによるコンプレッサ2の効率改善の程度と、フィン12を配置することにより生じる気体Gの流動に関する損失とを比較して、フィン12の高さHを設定することで、コンプレッサ2の効率を最大化することが可能となる。
【0032】
また、フィン12の長さLは、ダクト3内での気体Gの圧力分布と、フィン12により生じる気体Gの流動に関する損失との関係に応じて設定されている。すなわち、気体Gの流動における偏流や圧力分布の偏り等を解消することによるコンプレッサ2の効率改善の程度と、フィン12を配置することにより生じる気体Gの流動に関する損失とを比較して、フィン12の長さLを設定することで、コンプレッサ2の効率を最大化することが可能となる。
【0033】
また、フィン12の固有振動数は、コンプレッサ2におけるインペラ24の固有振動数と異なる値に設定されている。インペラ24はその回転に伴い振動するが、フィン12の固有振動数がインペラ24とは異なる値に設定されているため、フィン12とインペラ24との間で共振は発生せず、フィン12及びインペラ24の破損(特にインペラ翼24aの破損)を防止することが可能となる。
【0034】
続いて、本実施形態に係る整流部材1の気体Gに対する整流作用について説明する。
まず、気体Gが、ダクト3の流路31内を、コンプレッサ2に向かって流動する。
ここで、ダクト3には曲がり部32が存在し、気体Gが曲がり部32近傍を流動することで、気体Gには偏流(いわゆるディストーション)、気体Gが周方向に旋回して流動する旋回流(いわゆるスワール)、剥離及びこれらを原因とする圧力分布の偏りが生じる。
【0035】
例えば、曲がり部32における曲がりの外側には、上流側からの気体Gが直進しようとするため、気体Gが衝突する。そして、衝突した気体Gは、ダクト3の内周面に沿って略周方向で流動する。そのため、ダクト3内では気体Gのディストーションやスワールが発生し、これらを原因とする圧力分布の偏りも生じる。
一方、曲がり部32における曲がりの内側では、上流側からの気体Gが直進しようとするため、気体Gに剥離が発生する。また、この剥離を原因とする圧力分布の偏りも生じる。
【0036】
もっとも、本実施形態では、複数のフィン12が第1孔部13の径方向と略平行する姿勢で設けられているために、ダクト3の内周面に沿って略周方向で流動する気体Gの流れを規制することができる。よって、気体Gにおけるディストーション、スワール及びこれらを原因とする圧力分布の偏りを解消することができる。
また、フィン12は、ダクト3に向かって突出し、フィン12の先端部は曲がり部32の近傍に配置されているため、曲がり部32の曲がりの内側で生じる気体Gの剥離を解消することができる。よって、気体Gの剥離を原因とする圧力分布の偏りを解消することができる。
【0037】
また、フィン12は、第1孔部13の内周面13aに全周に亘り設けられている。そのため、例えば気体Gの流量又は流速等が変化することで、気体Gのディストーションが生じる箇所、又は圧力分布が変動したとしても、全周に亘って設けられたフィン12が気体Gのディストーション等を解消することができる。
【0038】
整流部材1によって、気体Gのディストーション、スワール、剥離及びこれらを原因とする圧力分布の偏りが解消された後に、気体Gはコンプレッサ2の吸気口23を介してインペラ24に導入される。インペラ24は、回転軸27に接続された電動機等の作動により回転し、導入された気体Gを径方向外側のディフューザ流路25に向けて送り出す。気体Gはディフューザ流路25で圧縮されて昇圧し、スクロール流路26を介して外部に圧縮された気体Gが供給される。
【0039】
このように、ディストーションや圧力分布の偏り等を解消した気体Gがインペラ24に導入されるために、曲がり部32を有するダクト3を用いたとしても、コンプレッサ2の効率低下を防ぐことができる。
【0040】
なお、フィン12が設けられることで、気体Gの流動に関する損失が生じる。もっとも、フィン12の高さH及び長さLは、コンプレッサ2の効率改善の程度と、上記損失との比較に基づいて設定されていることから、コンプレッサ2の効率を最大化することができる。
【0041】
ここで、整流部材1を設けることによるコンプレッサ2の効率改善の結果を、図3を参照して説明する。
図3は、気体Gの流量とコンプレッサ2の効率との関係を示す図である。
図3において、実線は、吸気ダクトが直管である場合のコンプレッサ2の効率を示し、鎖線は、本実施形態における整流部材1を用いずにダクト3をコンプレッサ2と直接接続した場合のコンプレッサ2の効率を示し、一点鎖線は、本実施形態における整流部材1を介してダクト3をコンプレッサ2に接続した場合のコンプレッサ2の効率を示している。
図3に示すように、整流部材1をコンプレッサ2とダクト3との間に設置することで、曲がり部32を有するダクト3を直接にコンプレッサ2へ接続した場合に比べ、コンプレッサ2の効率を改善できることが判明した。
【0042】
続いて、整流部材1におけるフィン12の設計指針について説明する。
上述したように、フィン12は、ダクト3内を流動する気体Gに生じるディストーションやスワール等を除去する作用を有している。なお、フィン12の寸法(高さHや長さL等)を変化させることで、ディストーションやスワールの除去率及び整流部材1を通過する気体Gの圧力損失の値が変化する。そこで、ディストーションやスワールを十分に除去できるフィン12の設計指針を以下に説明する。また、ディストーションやスワールを除去することに加えて圧力損失を抑制できるフィン12の設計指針も説明する。
【0043】
最初に、フィン12の高さHとダクト3の内径Dとの関係について説明する。
図4は、フィン12の高さHとダクト3の内径Dとの間の比を変化させたときの、気体Gにおけるディストーションの除去率の変化を示すグラフである。また、図5は、フィン12の高さHとダクト3の内径Dとの間の比を変化させたときの、気体Gが整流部材1を通過するときの圧力損失係数の変化を示すグラフである。
【0044】
図4に示すように、高さHと内径Dとの比であるH/Dが0.1より大きければ、ディストーションを十分に除去できる。よって、ディストーションを十分に除去するためには、フィン12の高さHが内径Dとの関係において、
H/D>0.1 …(1)
を満たすことが望ましい。
【0045】
また、図5に示すように、高さHと内径Dとの比であるH/Dが0.16より大きければ、気体Gが整流部材1を通過するときの圧力損失係数が大きく上昇し、圧力損失が急激に増大する。そのため、圧力損失を低く抑えるためには、フィン12の高さHが内径Dとの関係において、
H/D<0.16 …(2)
を満たすことが望ましい。
【0046】
圧力損失を低く抑えつつディストーションを十分に除去することは、整流部材1においていずれも満たすべき性能である。そのため、上記式(1)及び式(2)より、フィン12の高さHが内径Dとの関係において、
0.1<H/D<0.16 …(3)
を満たすことが望ましい。
さらに、ディストーションの除去率と圧力損失とのバランスから、フィン12の高さHが内径Dとの関係において、
0.1<H/D<0.12 …(4)
を満たすことが望ましい。
【0047】
したがって、式(1)を設計指針としてフィン12を設計することで、ディストーションを十分に除去できる整流部材1を設計・製作することが可能となる。また、式(3)を設計指針としてフィン12を設計することで、圧力損失を低く抑えつつディストーションを十分に除去できる整流部材1を設計・製作することが可能となる。
【0048】
次に、フィン12の長さLとダクト3の内径Dとの関係について説明する。
図6は、フィン12の長さLとダクト3の内径Dとの間の比を変化させたときの、気体Gにおけるスワールの除去率の変化を示すグラフである。また、図7は、フィン12の長さLとダクト3の内径Dとの間の比を変化させたときの、気体Gが整流部材1を通過するときの圧力損失係数の変化を示すグラフである。
【0049】
図6に示すように、長さLと内径Dとの比であるL/Dが0.12より大きければ、スワールの除去率は略一定の値を示し、スワールを十分に除去できる。よって、スワールを十分に除去するためには、フィン12の長さLが内径Dとの関係において、
L/D>0.12 …(5)
を満たすことが望ましい。
【0050】
また、図7に示すように、長さLと内径Dとの比であるL/Dが0.6より大きければ、気体Gが整流部材1を通過するときの圧力損失係数が大きく上昇し、圧力損失が急激に増大する。そのため、圧力損失を低く抑えるためには、フィン12の長さLが内径Dとの関係において、
L/D<0.6 …(6)
を満たすことが望ましい。
【0051】
圧力損失を低く抑えつつスワールを十分に除去することは、整流部材1においていずれも満たすべき性能である。そのため、上記式(5)及び式(6)より、フィン12の長さLが内径Dとの関係において、
0.12<L/D<0.6 …(7)
を満たすことが望ましい。
さらに、スワールの除去率と圧力損失とのバランスから、フィン12の長さLが内径Dとの関係において、
0.12<L/D<0.3 …(8)
を満たすことが望ましい。
【0052】
したがって、式(5)を設計指針としてフィン12を設計することで、スワールを十分に除去できる整流部材1を設計・製作することが可能となる。また、式(7)を設計指針としてフィン12を設計することで、圧力損失を低く抑えつつスワールを十分に除去できる整流部材1を設計・製作することが可能となる。
【0053】
次に、フィン12の高さHとフィン間ピッチSとの関係について説明する。なお、フィン間ピッチSは、上述したように、隣り合うフィン12の内側端部の間における第1孔部13の中心軸線周りの円弧の長さである。
図8は、フィン12の高さHとフィン間ピッチSとの間の比を変化させたときの、気体Gにおけるスワールの除去率の変化を示すグラフである。また、図9は、フィン12の高さHとフィン間ピッチSとの間の比を変化させたときの、気体Gが整流部材1を通過するときの圧力損失係数の変化を示すグラフである。
【0054】
図8に示すように、高さHとフィン間ピッチSとの比であるH/Sが0.8より大きければ、スワールの除去率は略一定の値を示し、スワールを十分に除去できる。よって、スワールを十分に除去するためには、フィン間ピッチSが高さHとの関係において、
H/S>0.8 …(9)
を満たすことが望ましい。
【0055】
また、図9に示すように、高さHとフィン間ピッチSとの比であるH/Sが1.3より大きいと、整流部材1における圧力損失係数の許容値Pを超えてしまい、圧力損失によるコンプレッサ2の性能低下が無視できなくなる。そのため、圧力損失係数を許容値Pよりも低く抑えるためには、フィン間ピッチSが高さHとの関係において、
H/S<1.3 …(10)
を満たすことが望ましい。
【0056】
圧力損失を低く抑えつつスワールを十分に除去することは、整流部材1においていずれも満たすべき性能である。そのため、上記式(9)及び式(10)より、フィン間ピッチSが高さHとの関係において、
0.8<H/S<1.3 …(11)
を満たすことが望ましい。
【0057】
したがって、式(9)を設計指針としてフィン12を設計することで、スワールを十分に除去できる整流部材1を設計・製作することが可能となる。また、式(11)を設計指針としてフィン12を設計することで、圧力損失を低く抑えつつスワールを十分に除去できる整流部材1を設計・製作することが可能となる。
【0058】
なお、台座部11に配置されるフィン12の枚数は、フィン12の高さHとフィン間ピッチSとの比が
H/S=1.0 …(12)
で取りうる最大の枚数とする。ただし、式(12)に基づいたフィン12の枚数と、インペラ翼24aの枚数とが同一である場合は、フィン12の枚数は、式(12)に基づいたフィン12の枚数を1枚増加又は減少させた枚数とする。これは、複数のフィン12とインペラ24との共振の発生を防ぐためである。
【0059】
したがって、本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
本実施形態によれば、コンプレッサ2に着脱自在に設けられる整流部材1によって、流動する気体Gにおけるディストーションやスワール、圧力分布の偏り等が解消され、コンプレッサ2の効率を改善できるという効果がある。また、整流部材1はコンプレッサ2に着脱自在であることから、ダクト3の仕様変更等に柔軟に対応できるという効果がある。
【0060】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0061】
例えば、上記実施形態では、フィン12は、第1孔部13の内周面13aに全周に亘って設けられているが、これに限定されるものではなく、図10に示す整流部材1Aを用いてもよい。
図10は、本実施形態に係る整流部材1の一変形例を示す概略図である。
図10に示す整流部材1Aは、フィン12が、第1孔部13の内周面13aに気体Gの流動特性に応じた分布に基づいて配置されている。すなわち、気体Gのディストーションや圧力低下が生じやすい箇所のみにフィン12を配置しており、効果的に上記ディストーション等を解消でき、且つフィン12の枚数を減らすことでフィン12により生じる流動に関する損失を低減させることができる。
また、気体Gのディストーションや圧力低下が生じやすい箇所には長さLを長くしたフィン12を配置し、それ以外の部分ではより短くしたフィン12を配置してもよい。すなわち、異なる長さLを有するフィン12を使用してもよい。
【0062】
また、上記実施形態では、整流部材1とコンプレッサ2とは別個の構成要素とされているが、これに限定されるものではなく、着脱自在に設けられる整流部材1とコンプレッサ2とをまとめてコンプレッサとして構成してもよい。
【0063】
また、上記実施形態では、フィン12は略矩形状に形成されていたが、これに限定されるものではなく、板厚方向から見た場合に曲線を用いた流動抵抗のより少ない形状としてもよい。
【0064】
また、上記実施形態では、フィン12の板厚は一定であったが、これに限定されるものではなく、ディストーションや圧力分布の偏り等の解消による効率改善の程度と損失との関係に応じて適宜変更してよい。また、第1孔部13の径方向と直交する面でのフィン12の断面形状を略翼形状としてもよい。
【符号の説明】
【0065】
1…整流部材、11…台座部、12…フィン(整流板)、13…第1孔部(貫通孔部)、13a…内周面、2…コンプレッサ(遠心圧縮機)、23…吸気口、24…インペラ(回転翼)、3…ダクト(吸気ダクト)、31…流路、G…気体


【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体が流動する流路を備える吸気ダクトと、前記流路を介して前記気体が導入される吸気口を備える遠心圧縮機との間に設けられる整流部材であって、
前記遠心圧縮機に着脱自在に設けられ、前記吸気口と連通する貫通孔部を備える台座部と、
前記貫通孔部の内周面に、周方向に並んで間隔を空けて配置される複数の整流板とを有することを特徴とする整流部材。
【請求項2】
請求項1に記載の整流部材において、
前記整流板は、前記貫通孔部の径方向と略平行する姿勢で設けられていることを特徴とする整流部材。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の整流部材において、
前記整流板は、前記吸気ダクト側に向けて突出していることを特徴とする整流部材。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の整流部材において、
前記整流板は、前記貫通孔部の内周面に、全周に亘り配置されていることを特徴とする整流部材。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の整流部材において、
前記整流板の固有振動数は、前記遠心圧縮機における回転翼の固有振動数と異なる値に設定されていることを特徴とする整流部材。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の整流部材において、
前記貫通孔部の径方向での前記整流板の高さをHとし、前記吸気ダクトの内径をDとすると、
H/D>0.1
を満たすことを特徴とする整流部材。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の整流部材において、
前記貫通孔部の貫通方向での前記整流板の長さをLとし、前記吸気ダクトの内径をDとすると、
L/D>0.12
を満たすことを特徴とする整流部材。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の整流部材において、
前記貫通孔部の径方向での前記整流板の高さをHとし、隣り合う前記整流板の内側端部の間における前記貫通孔部の中心軸線周りの円弧の長さをSとすると、
H/S>0.8
を満たすことを特徴とする整流部材。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の整流部材を有することを特徴とする遠心圧縮機。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−256831(P2011−256831A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−134150(P2010−134150)
【出願日】平成22年6月11日(2010.6.11)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】