説明

文化財検査装置

【課題】非接触、非破壊で、文化財を移動させることなく、文化財の材料の化学的性質を検査、分析すること。
【解決手段】文化財の被検査部を可視像で撮影する可視像撮像装置(26)と、前記可視像撮影装置(26)で撮影される前記被検査部に照射されるレーザー光を発生するレーザー光源と、前記被検査部から反射された散乱光を分光する分光部(18)と、前記分光部(18)で分光された特定の波長の光に基づいてラマンイメージ画像を撮像するラマンイメージ撮像装置(22)と、を有する分光分析装置(4)と、前記可視像撮像装置(26)で撮像された前記被検査部の可視像と、前記被検査部のラマンイメージ画像とを対応づけて記憶する画像記憶手段と、を備えた文化財検査装置(1)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外光やラマン励起レーザー光等の検査光を文化財の被検査部に照射し、その反射、または散乱する光を分光分析することで文化財の検査を行う文化財検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
壁画や絵画、あるいは、寺社や古墳等のような文化財において、歴史的な文化財は経時的な汚損や破損等により、必要に応じて修復が行われている。修復を行う際には、修復対象の文化財の歴史的な経緯等から、文化財の作成当時と同一の材料や塗料を使用しての修復が望まれる。したがって、文化財の修復を行う場合、使用されている材料や塗料等の検査、分析、同定が必要とされている。また、文化財の保存方法の研究や、文化財が作成された時代、材料の由来(産地)、流通経路等の文化史の研究を行う場合にも、材料等の検査、分析は必要とされている。
このような文化財の分析を行う際に、分析用の試料を採取するために、貴重な文化財の一部を破損することは厳しく制限されていることが多く、非接触、非破壊で、しかも、文化財が設置されている場所で、すなわち、文化財を移動させずに検査を行うことが望ましい。
【0003】
従来、文化財の非破壊検査は、文化財にX線を照射したときに発生する蛍光X線を利用して元素分析を行う蛍光X線分析法を使用して行われている。このような技術として、例えば、特許文献1(特開2004−340750号公報)記載の技術が知られている。
特許文献1(特開2004−340750号公報)には、文化財を構成する被測定物において、人工的に変質させた被測定物にラマン分光分析を行って得られたラマンスペクトルと、変質させていない被測定物にラマン分光分析を行って得られたラマンスペクトルとを比較して、変質に関して評価する技術が記載されている。なお、特許文献1記載の技術では、文化財自体の変質評価の対象物の材料を確認する際には、蛍光X線法やX線回折法により同定している。
【0004】
【特許文献1】特開2004−340750号公報(「0023」〜「0025」、「0035」)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記従来技術のような蛍光X線分析法では、文化財を構成する物質の元素分析を行うことができるが、何の元素(炭素や酸素、窒素等)が含まれているのかが分析できるだけで、その元素がどのような構造、化合物となっているかに関する構造情報に乏しい問題がある。すなわち、文化財構成物質である顔料等については同定が困難であり、したがって、修復等する場合に必要となる材料の由来に関して充分な情報を収集することは非常に困難であるという問題がある。
【0006】
また、ラマン分光法により、文化財を非接触、非破壊で、その場で分析をする場合、ラマン分光法で検出できる範囲、面積は限られる。したがって、文化財のどの位置を検出したかを判断する必要があるが、ラマンスペクトルは、単なるスペクトル情報であるため、場所を特定することは困難である。また、特定の波長について、ラマンスペクトルの強度を二次元的に表示するラマンイメージ画像を利用することも考えられるが、ラマンイメージ画像と、実際の可視像は、同一になることがほとんどなく、研究者等のユーザが、どの位置のラマンイメージであるか否かを判断することが困難であるという問題もある。
【0007】
本発明は、前述の事情に鑑み、非接触、非破壊で、文化財を移動させることなく、文化財の材料の化学的性質を検査、分析することを第1の技術的課題とする。
また、本発明は、分析した位置を容易に確認できるようにすることを第2の技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(本発明)
前記技術的課題を解決するために、請求項1記載の発明の文化財検査装置は、
文化財の被検査部を可視像で撮影する可視像撮像装置と、
前記可視像撮影装置で撮影される前記被検査部に照射されるレーザー光を発生するレーザー光源と、前記被検査部から散乱されたラマン光を分光する分光部と、前記分光部で分光された各波長の光に基づいてラマンイメージ画像を撮像するラマンイメージ撮像装置と、を有する分光分析装置と、
前記可視像撮像装置で撮像された前記被検査部の可視像と、前記被検査部のラマンイメージ画像とを対応づけて記憶する画像記憶手段と、
を備えたことを特徴とする。
【0009】
前記技術的課題を解決するために、請求項2記載の発明の文化財検査装置は、
文化財の被検査部を可視像で撮影する可視像撮像装置と、
前記可視像撮影装置で撮影される前記被検査部に照射される赤外光を発生する赤外光源と、前記被検査部から反射、または散乱された前記赤外光を分光する分光部と、前記分光部で分光された各波長に基づいて赤外イメージ画像を撮像する赤外イメージ撮像装置と、
前記可視像撮像装置で撮像された前記被検査部の可視像と、前記被検査部の赤外イメージ画像とを対応づけて記憶する画像記憶手段と、
を備えたことを特徴とする。
【0010】
前記技術的課題を解決するために、請求項3記載の発明の文化財検査装置は、
文化財の被検査部を可視像で撮影する可視像撮像装置と、
前記可視像撮影装置で撮影される前記被検査部に照射されるレーザー光を発生するレーザー光源と、前記被検査部から散乱されたラマン光を分光する分光部と、前記分光部で分光された各波長の光に基づいてラマンイメージ画像を撮像するラマンイメージ撮像装置と、前記可視像撮影装置で撮影される前記被検査部に照射される赤外光を発生する赤外光源と、前記被検査部から反射、または散乱された前記赤外光を分光する分光部と、前記分光部で分光された各波長に基づいて赤外イメージ画像を撮像する赤外イメージ撮像装置と、を有する分光分析装置と、
前記可視像撮像装置で撮像された前記被検査部の可視像と、前記被検査部のラマンイメージ画像と、前記被検査部の赤外イメージ画像とを対応づけて記憶する画像記憶手段と、
を備えたことを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項1ないし3のいずれかに記載の文化財検査装置において、
前記分光分析装置を移動可能に支持する移動式架台、
を備えたことを特徴とする。
【0012】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の文化財検査装置において、
前記分光分析装置を支持し且つ前記移動式架台に支持され、前記分光分析装置の位置を微調整する位置調整装置、
を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1記載の発明によれば、被検査部に照射されたレーザー光に基づいて、ラマンイメージ画像が得られるため、文化財に非接触、非破壊で、かつ文化財を移動させることなく、文化財の材料の化学的性質を検査、分析することができる。また、被検査部の可視像と被検査部のラマンイメージ画像とが対応づけられて記憶されているので、分析した位置を容易に確認できるようにすることができる。
請求項2記載の発明によれば、被検査部に照射されて反射、または散乱した赤外光に基づいて、赤外イメージ画像が得られるため、文化財に非接触、非破壊で、かつ文化財を移動させることなく、文化財の材料の化学的性質を検査、分析することができる。また、被検査部の可視像と被検査部の赤外イメージ画像とが対応づけられて記憶されているので、分析した位置を容易に確認できるようにすることができる。
【0014】
請求項3記載の発明によれば、被検査部に照射されたレーザー光に基づいて、ラマンイメージ画像が得られると共に、被検査部に照射されて反射、または散乱した赤外光に基づいて、赤外イメージ画像が得られるため、文化財に非接触、非破壊で、かつ文化財を移動させることなく、文化財の材料の化学的性質を検査、分析することができる。また、被検査部の可視像と被検査部のラマンイメージ画像と赤外イメージ画像が対応づけられて記憶されているので、分析した位置を容易に確認できるようにすることができる。
請求項4記載の発明によれば、移動式架台により文化財の設置された位置まで移動して検査を行うことができる。
請求項5記載の発明によれば、位置調整装置により微調整できるので、文化財の検査したい位置に容易に調整することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。
なお、以下の図面を使用した説明において、理解の容易のために説明に必要な部材以外の図示は適宜省略されている。
【実施例1】
【0016】
図1は本発明の実施例1の文化財検査装置の全体説明図である。
なお、図1において、以下の説明において、理解を容易とするため、文化財の表面に沿った水平方向をX方向(左右方向)、文化財の表面に沿った鉛直方向をY方向(上下方向)、文化財に接近、離隔する方向をZ方向(前後方向)として説明する。
図1,図2において、本発明の実施例1の文化財検査装置1は、移動式架台2を有する。前記移動式架台2は、複数の脚部2aを有し、脚部2aの下端には、ストッパ付の移動用のキャスター2bが支持されている。前記脚部2aの上端部には、ハンドル部2cが上下移動可能に支持されており、移動式架台2は、図示しない油圧式の昇降装置により、ハンドル部2cを上下方向(高さ方向)に位置調整可能に構成されている。ハンドル部2cの上部には図示しない回転機構と傾き機構が支持されている。なお、前記移動式架台2として、従来公知の移動式架台を使用可能であり、例えば、テレビ撮影用のカメラを移動させるための移動式架台を使用可能である。
したがって、前記移動式架台2は、キャスター2bで移動させることにより、文化財検査装置1を、固定の文化財に対して水平方向に移動させて、位置を粗調整することができる。また、上下方向の高さ調節により文化財に対する高さの粗調整や、回転機構と傾き機構により回転位置と傾きの調節もできる。
【0017】
図2は本発明の実施例1の文化財検査装置の分光分析装置の概略説明図であり、図2Aは上方から見た概略説明図、図2Bは側方から見た概略説明図である。
図1において、前記移動式架台2の回転機構と傾き機構の上部には、位置調整装置3が支持されている。前記位置調整装置3は、図示しないモータにより、それぞれX軸方向およびZ軸方向に位置調節可能なXZステージ3aと、前記XZステージ3a上に支持され、Y軸方向(高さ方向)に位置調節可能なYステージ3bとを有する。なお、実施例1の前記位置調整装置3は、X方向に200mm、Y方向に100mm、Z方向に100mmの可動範囲が設定されているが、可動範囲はこの範囲に限定されず、設計や仕様等に応じて任意に変更可能である。
前記Yステージ3bには、分光分析装置4が支持されている。図1,図2において、前記分光分析装置4は、ケース4aを有する。前記ケース4aの上端部には、励起レーザー入力ポート4bが形成されており、ケース4aの文化財B側には、レンズ用開口4cが形成されている。前記励起レーザー入力ポート4bには、図示しない光ファイバが接続されて光ファイバを介して外部のレーザー光源から、ラマン分光用の励起レーザーが入力される。なお、実施例1では、励起レーザー光として、波長785nmのレーザー光を使用しているが、波長が可視〜近赤外の励起レーザー光を使用可能であり、設計や仕様等に応じて、任意に変更可能である。
【0018】
図3は文化財の一例としての壁画と被検査部の説明図である。
図2において、前記励起レーザー入力ポート4bの下方には、励起レーザー光を平行光にする励起レーザー用コリメータ6が配置されている。前記励起レーザー用コリメータ6の下方には、コリメートされた励起レーザーを反射する反射光学系7が配置されている。前記反射光学系7の後斜め上方には、エッジフィルタ8が配置されている。前記エッジフィルタ8は、反射光学系7で反射された励起レーザー光の波長の光は反射すると共に、ラマン効果等により励起レーザー光の波長から長波長側に波長がずれた光は透過する性質を有する従来公知のフィルタである。エッジフィルタの代わりに、励起レーザー光の波長から長波長側と短波長側のいずれかの方向に波長がずれた光は透過する性質を有するノッチフィルタを使用することも可能である。
図2,図3において、前記エッジフィルタ8の前方には、エッジフィルタ8で反射された励起レーザー光を文化財Bの被検査部B1に集光、照射すると共に、被検査部B1からのラマン光が通過するマクロ測定用対物レンズ9が配置されている。図2Aにおいて、前記対物レンズ9の側方には、マクロ測定用対物レンズ9よりも検査可能な領域が狭いミクロ測定用対物レンズ11が配置されており、手動または自動によりマクロ測定用対物レンズ9の位置にミクロ測定用対物レンズ11を移動させる(左右方向にスライドさせる)ことで、検査対象領域を変化させることができる。
【0019】
前記反射光学系7やエッジフィルタ8の側方には、可視像撮像装置の一例としての測定領域モニター用カラーCCDカメラ12が配置されている。前記測定領域モニター用CCDカメラ12と、エッジフィルタ8等との間には、ハーフミラー13aとハーフミラー13bを有する測定領域モニター用光学系13が配置されており、測定領域モニター用光学系13には、白色LEDにより構成された照明14からの照明光が照射される。前記測定領域モニター用光学系13を、手動または自動で移動させて、エッジフィルタ8とマクロ測定用対物レンズ9との間に割り込ませることで、照明14の光をハーフミラー13aおよびハーフミラー13bで反射して被検査部B1を照射し、反射光をハーフミラー13bで反射し、ハーフミラー13aを透過させ、測定領域モニター用カラーCCDカメラ12で撮像することで、被検査部B1の可視像およびレーザー光のラマン励起領域をカラーで撮像することができる。なお、実施例1では、被検査部B1として3.33mm四方の領域が設定されており、測定領域モニター用カラーCCDカメラ12は、前記被検査部B1を中心として7.11mm×5.35mmの領域の可視像を撮像可能に設定されている。
【0020】
図2において、前記エッジフィルタ8の後方には、エッジフィルタ8を透過した光を集光する集光光学系15が配置されている。文化財Bの被検査部B1でレーザー光により散乱されたラマン光は、前記集光光学系15で集光され、絞り16の絞り孔16aを通過して、光学系17を通過して、分光部の一例としての従来公知のLCTF(Liquid Crystal Tunable Filter:液晶チューナブルフィルタ)18に導入される。一方、文化財Bの被検査部B1で反射、散乱された励起レーザー光は、エッジフィルタ8によりその大部分が反射され、前記集光光学系15以降の光学系への入射が遮断される。
実施例1では、前記LCTF18の光入力側には、励起レーザー光の減光を促進するためにエッジフィルタ19が配置されている。
前記LCTF18により分光され、出力された所定の波長のラマン光は、結像光学系21で集光され、ケース4aの後面に支持されたラマンイメージ撮像装置の一例としてのラマン測定用高感度CCDカメラ22で撮像する。実施例1のラマン測定用高感度CCDカメラ22は、被検査部B1を128×128の領域(画素)に分割して撮影可能な高解像度カメラにより構成されている。なお、実施例1では、ラマン測定用高感度CCDカメラ22には、マクロ測定用対物レンズ9やその他の光学系15,17,21の焦点距離の関係で、ラマンイメージ画像が撮影可能な被検査部B1の領域として3.33mm四方の領域が設定されている。
【0021】
図1、図2Aにおいて、前記ケース4aの側面には、可視像撮像装置の一例としての高解像度カラーCCDカメラ26が固定支持されている。前記高解像度カラーCCDカメラ26には、可視像を拡大する高解像度ズームレンズ27と、前記ズームレンズ27の先端部に設けられた白色LEDにより構成された照明28とを有する。前記高解像度カラーCCDカメラ26により、照明28の光で照射された被検査部B1を含む領域の可視像を撮像することができる。なお、図3において、実施例1の高解像度カラーCCDカメラ26では、10.5mm×7.9mmの可視像撮影領域B2の可視像を撮像可能に設定されている。
【0022】
なお、実施例1では、前記高解像度CCDカメラ26は、1画素(1ピクセル)が14μm角のカラーCCDカメラにより構成されており、ラマン測定用高感度CCDカメラ22は、1画素が26μm角のモノクロCCDカメラにより構成されている。そして、図4Aにおいて、高解像度CCDカメラ26の2×2の4画素26aが、ラマン測定用高感度CCDカメラ22の1画素22aに対応するように、前記ズームレンズ27の倍率が調整、設定されている。すなわち、高解像度CCDカメラ26で撮像される可視像の4画素26aと、ラマン測定用高感度CCDカメラ22のラマンイメージの1画素22aとが、画素単位で対応づけられている。
【0023】
図4は実施例1のカメラの一方向に対する設定方法の説明図であり、図4Aは2種類のCCDカメラの画素の対応関係の説明図、図4Bは基準パターンの像サイズと位置が精確な場合の画素と基準パターンとの位置関係と信号強度の説明図、図4Cは位置が精確でない場合、または基準パターンの像サイズが精確でない場合の画素と基準パターンとの位置関係と信号強度の説明図である。
前記高解像度CCDカメラ26の4画素と、ラマン測定用高感度CCDカメラ22の1画素との位置を精密で正確に合わせるには、先ず、基準パターンMkを、ラマン測定用高感度CCDカメラ22で撮影する。ここで、基準パターンMkは等間隔の白黒のパターンを観察面に投影したものであり、投影光学系によりそのサイズを可変することが可能である。
【0024】
図4Bに示すように、投影光学系の像倍率が正確に調整され、ラマン測定用高感度CCDカメラ22と基準パターンとの位置関係が正確に調整されている場合、画素22aに示すように、黒の基準パターンMk1が撮像された画素では入射光量が最小で、白の基準パターンMk2が撮像された画素では入射光量が最大になる。そして、この強度パターンが測定全画素域で得られる。もし、位置が図4Bに示した位置よりずれると、図4Cの画素22aに示すように、各画素に入射する光量は図4Bで得られる最大値と最小値の間となり、強度パターンのコントラストが低下する。そして、この強度パターンが測定画素の全域で得られる。一方、投影光学系の像倍率が正確でなく、白黒パターンの間隔がラマン測定用高感度CCDカメラ22の画素の間隔と異なる場合、例えば、撮像域の中央部では、図4B画素22aに示すように、コントラストが明確に確認できるが、端部では画素と白黒パターンとの位置がずれてくるため、図4Cの画素22aに示すように、コントラストが低下する強度パターンを示す。したがって、撮像全域において、ラマン測定用高感度CCDカメラ22の撮像信号を分析することで、ラマン測定用高感度CCDカメラ22の各画素と適正に像拡大された白黒パターン(基準パターンMk)との位置関係を正確に調整することが可能である。
【0025】
次に、高解像度CCDカメラ26の調整を、ラマン測定用高感度CCDカメラ22の調整で使用した投影像倍率を保持したままの基準パターンMkで実施する。この場合、高解像度CCDカメラ26の画素に基準パターンの像サイズを合わせるために、高解像度CCDカメラ26に取付けてあるズームレンズ27を用いる。図4B画素26aのように、高解像度CCDカメラ26の2画素が白黒パターンMkと精確にサイズと位置が調整できた場合、各画素26aの強度は2画素ごとに最大、最小を繰り返すデューティ50%の矩形パターンを示す。精確に調整できなかった場合には、例えば、図4Cの画素26aに示すように、各画素で異なった強度を持つ波形のパターンに変化する。したがって、撮像全域において、高解像度CCDカメラ26の撮像信号を分析することで、高解像度CCDカメラ26の各画素26aとズームレンズ27で適正に像拡大された基準パターンMkとの位置関係を正確に調整することが可能である。
以上の操作で、ラマン測定用高感度CCDカメラ22と高解像度CCDカメラ26の各画素は基準パターンMkを利用することで両者の位置関係を正確に調整することができる。
【0026】
これまで、一方向に対する調整について記述したが、他の方向についても同様に調整することが可能である。そして、一般に光学倍率はどの方向に対しても一定であるので、他方向の位置調整のみを加えることで、両方向の調整が可能になる。
なお、実施例1では、2×2の4画素と1画素を対応させる場合を例示したが、これに限定されず、例えば、3×3の9画素と1画素を対応させる等、整数倍の画素数に対応させることも可能である。また、(基準パターン)Mkの白黒の幅が、例えば1対1から外れる場合には、前記高解像度CCDカメラ26とラマン測定用高感度CCDカメラ22との各画素間の位置関係に1画素以内の位置の不正確さが生まれるが、一般の使用では十分の場合が多いので、採用することは可能である。
【0027】
図2Aにおいて、前記高解像度カラーCCDカメラ26の可視像撮影領域B1bの中心と、マクロ測定用対物レンズ9の撮影可能な領域B1aの中心との間は、水平方向(X方向)に中心間距離L1だけ離れている。したがって、高解像度カラーCCDカメラ26で可視像を撮影した後、中心間距離L1だけ移動させることで、高解像度カラーCCDカメラ26で撮影した領域と、マクロ測定用対物レンズ9で撮影される領域とを合わせることができる。また、ラマンイメージ画像の3.33mm四方の撮影領域分だけX、−XまたはY、−Y方向にさらにXYステージを移動することで、さらに広い領域に対して高解像度カラーCCDカメラ26で撮影した領域と、マクロ測定用対物レンズ9で撮影される領域を対応させることが可能である。
【0028】
図1において、分光分析装置4や位置調整装置3は、後述するコントローラにより制御され、前記コントローラおよび前記高解像度カラーCCDカメラ26から延びるケーブル29は、情報処理装置の一例としてのノートパソコンPCに接続されている。ノートパソコンPCは、本体H1と、ディスプレイ(情報表示部)H2と、入力装置の一例としてのキーボードH3およびマウスH4を有する。
前記移動式架台2や位置調整装置3、分光分析装置4、高解像度カラーCCDカメラ26、ノートパソコンPC等により、実施例1の文化財検査装置1が構成されている。
【0029】
(制御部の説明)
図5は本発明の実施例1の文化財検査装置1の制御部のブロック線図である。
図5において、前記コントローラやノートパソコンPC、外部との信号の入出力および入出力信号レベルの調節等を行う入出力インタフェース、必要な処理を行うためのプログラムおよびデータ等が記憶されたROM(リードオンリーメモリ)、必要なデータを一時的に記憶するためのRAM(ランダムアクセスメモリ)、前記ROMに記憶されたプログラムに応じた処理を行う中央演算処理装置(CPU)、ならびにクロック発振器等を有するコンピュータにより構成されており、前記ROMに記憶されたプログラムを実行することにより種々の機能を実現することができる。
【0030】
(前記ノートパソコンPCに接続された制御要素)
前記ノートパソコンPCの本体H1は、キーボードH3やマウスH4等の入力装置、その他の信号入力要素からの信号が入力されている。
キーボードH3やマウスH4等の入力装置は、ユーザの入力に応じた信号を本体H1に出力している。
【0031】
(コントローラCに接続された制御要素)
前記コントローラCは、位置調整装置3のXZステージ3aやYステージ3b、ラマン測定用高感度CCDカメラ22、LCTF18、測定領域モニター用カラーCCDカメラ12、その他の制御要素に接続されており、それらの作動制御信号を出力している。
前記XZステージ3aは、分光分析装置4や高解像度カラーCCDカメラ26の水平方向の位置(X方向およびZ方向の位置)を微調整する。
Yステージ3bは、分光分析装置4や高解像度カラーCCDカメラ26の高さ方向(Y方向)の位置を微調整する。
LCTF18は、入力された光から特定の波長の光を分光して出力する。
ラマン測定用高感度CCDカメラ22は、LCTF18から出力された光を測定する。
測定領域モニター用カラーCCDカメラ12は、入力に応じて被検査部B1の可視像を撮像する。
【0032】
(ノートパソコンPCの本体H1に接続された制御要素)
前記本体H1には、前記コントローラCや高解像度カラーCCDカメラ26、ディスプレイH2、その他の制御要素に接続されており、それらの作動制御信号を出力している。
コントローラCは、ノートパソコンPCからの制御信号に応じて、位置調整装置3のXZステージ3aやYステージ3b、ラマン測定用高感度CCDカメラ22、LCTF18、測定領域モニター用カラーCCDカメラ12を制御する。
高解像度カラーCCDカメラ26は、被検査部B1の可視像を撮像する。
ディスプレイH2は、ノートパソコンPCからの画像情報を表示する。
【0033】
(コントローラCの機能)
前記コントローラCは、ノートパソコンPCからの入力信号に応じた処理を実行して、前記各制御要素に制御信号を出力する機能を有している。
すなわち、コントローラCは次の機能を有している。
C1:位置調整装置制御手段
位置調整装置制御手段C1は、XZステージ3aの位置を制御するXZステージ制御手段C1aと、Yステージ3bの位置を制御するYステージ制御手段C1bとを有し、位置調整装置3を制御して、分光分析装置4や高解像度カラーCCDカメラ26のXYZ方向の位置を調節する。
【0034】
C2:ラマン測定用カメラ制御手段
ラマン測定用カメラ制御手段C2は、ラマン測定用高感度CCDカメラ22を制御して、ラマンイメージの撮像を行う。
C3:LCTF制御手段
LCTF制御手段C3は、LCTF18を制御して、LCTF18から出力される光の波長を制御する。
C4:測定領域モニター用カメラ制御手段
測定領域モニター用カメラ制御手段C4は、測定領域モニター用カラーCCDカメラ12を使用して被検査部B1の測定領域を測定する入力がされた場合に、測定領域モニター用カラーCCDカメラ12を制御して、測定領域の可視像を撮像する。
【0035】
(ノートパソコンPCの機能)
前記ノートパソコンPCの本体H1に組み込まれた文化財検査プログラムAP1は、入力装置H3,H4からの入力信号に応じた処理を実行して、各制御要素C、26に制御信号を出力する機能を有している。
前記文化財検査プログラムAP1は次の機能手段(プログラムモジュール)を有している。
【0036】
図6は実施例1のメイン画像の説明図であり、図6Aは位置調節作業時のメイン画像の説明図、図6Bはラマンイメージ撮影開始前のメイン画像の説明図である。
C11:メイン画像表示手段
メイン画像表示手段C11は、表示部としてのディスプレイH2にメイン画像G1(図6参照)を表示する。図6において、メイン画像G1は、高解像度カラーCCDカメラ26で撮影した画像を表示する可視像表示部G1aと、位置調整装置3のXZステージ3aをX方向(横方向)に移動させるためのX方向位置調節ボタンG1bと、Yステージ3bをY方向(高さ方向)に移動させるためのY方向位置調節ボタンG1cと、XZステージ3aをZ方向(前後方向、被検査部B1に接近、離隔する方向)に移動させるためのZ方向位置調節ボタンG1dとを有する。図6Aにおいて、位置調節作業時のメイン画像G1には、ラマンイメージを測定する位置を決定する入力を行うための位置決定ボタンG1eと、文化財検査プログラムAP1を終了するための終了ボタンG1fが表示される。また、図6Bにおいて、位置調節終了後のメイン画像G1には、ラマンイメージの撮影を開始するための撮影開始ボタンG1hと、撮影位置を再設定するための撮影位置再設定ボタンG1iとが表示される。
図6A、図6Bにおいて、前記可視像表示部G1aには、高解像度カラーCCDカメラ26により撮影された可視像撮影領域B2の画像が表示されており、中央部にラマンイメージが撮影される被検査部B1の領域を示すラマンイメージ撮影領域表示画像G1gが表示されている。前記可視像表示部G1aの表示画像は、撮影位置調整作業中は、位置の移動に伴って随時画像が更新されるが、位置決定ボタンG1eの入力がされると、位置決定ボタンG1e入力時の可視像撮影領域B2の静止画像が表示され、位置調節ボタンG1b〜G1dの入力は無効になる。
【0037】
C12:撮影位置調整手段
撮影位置調整手段C12は、メイン画像G1の各位置調節ボタンG1b〜G1dへの入力に応じて、コントローラCを介して位置調整装置3を駆動させて、分光分析装置4や高解像度カラーCCDカメラ26のXYZ方向の位置を調節する。
C13:カメラ画像撮影手段
カメラ画像撮影手段C13は、前記位置決定ボタンG1eの入力に応じて、コントローラCを介して高解像度カラーCCDカメラ26の高解像度CCDカメラ制御手段C21を介して、被検査部B1を含む可視像撮影領域B2の制止画像を撮影する。
【0038】
図7は実施例1のラマンイメージの説明図である。
C14:ラマンイメージ撮影手段
ラマンイメージ撮影手段C14は、撮影初期波長記憶手段C14aと、撮影終了波長記憶手段C14bと、撮影波長シフト手段C14cとを有し、コントローラCを介して、ラマン測定用高感度CCDカメラ22やLCTF18を制御して、被検査部B1のラマン分光法による画像であるラマンイメージ画像R1(図7参照)を撮影する。実施例1のラマンイメージ撮影手段C14により撮影されるラマンイメージ画像R1は、LCTF18から出力された光の強度に応じて、着色された画像により構成されており、LCTF18から出力される光の波長λ0,λ1、…、λn毎に、ラマンイメージ画像R1が撮影される。したがって、ラマンイメージ画像R1の特定の画素R1aの光の強度を、全波長分抽出することで、その位置でのラマンスペクトルR2を得ることができる。
【0039】
C14a:撮影初期波長記憶手段
撮影初期波長記憶手段C14aは、ラマンイメージ画像R1を撮影する最初の波長である撮影初期波長λ0を記憶する。
C14b:撮影終了波長記憶手段
撮影終了波長記憶手段C14bは、ラマンイメージ画像R1の撮影を終了する波長である撮影終了波長λnを記憶する。
C14c:撮影波長シフト手段
撮影波長シフト手段C14cは、コントローラCを介してLCTF18を制御して、LCTF18から出力される光の波長を、撮影初期波長λ0から撮影終了波長λnの間でシフトさせる(移行させていく)。なお、実施例1の撮影波長シフト手段C14cでは、所定のシフト波長λsずつ波長をシフトする。したがって、実施例1では、λn=λ0+λs×n(nは整数)に設定されている。なお、撮影初期波長λ0や撮影終了波長λn、シフト波長λsは、固定の値を使用せず、ユーザにより設定可能とすることも可能である。
【0040】
C15:撮影画像記憶手段(画像記憶手段)
撮影画像記憶手段C15は、カメラ画像撮影手段C13で撮影された可視静止画像(G1)を記憶する可視静止画像記憶手段C15aと、ラマンイメージ撮影手段C14で撮影されたラマンイメージ画像R1を記憶するラマンイメージ画像記憶手段C15bとを有する。撮影画像記憶手段C15は、ラマンイメージ撮影領域表示画像G1gの情報を含む可視像撮影領域B2の可視静止画像G1と、ラマンイメージ撮影領域表示画像G1gの全波長λ0〜λn分のラマンイメージ画像R1とを対応させて(関連づけて)記憶する。なお、実施例1では、前述のように、撮像されたラマンイメージ画像R1の1画素と、可視画像(G1)の4画素とを画素単位で対応させて、すなわち、画素の位置(座標)情報を含めて記憶している。
【0041】
(実施例1のフローチャートの説明)
(文化財検査処理の説明)
図8は本発明の実施例1の文化財検査装置における文化財検査処理のフローチャートである。
図8のフローチャートの各ST(ステップ)の処理は、前記ノートパソコンPCの本体H1のROMに記憶された文化財検査プログラムAP1に従って行われる。また、この処理はノートパソコンPCの他の各種処理と並行して実行される。
図8に示す文化財検査処理は文化財検査プログラムAP1の起動により開始される。
【0042】
図8のST1において、次の処理(1)、(2)を実行して、ST2に進む。
(1)メイン画像G1をディスプレイH2に表示する。
(2)高解像度カラーCCDカメラ26での撮影を開始して、メイン画像G1の可視像表示部G1aに表示される可視像撮影領域B2の可視静止画像G1の撮影を行う。
ST2において、X,Y,Z軸方向に位置を調節する入力がされたか否か、すなわち、メイン画像G1において各位置調節ボタンG1b〜G1dの入力がされたか否かを判別する。イエス(Y)の場合はST3に進み、ノー(N)の場合はST4に進む。
ST3において、位置調節ボタンG1b〜G1dの入力に応じて、位置調整装置3を駆動して、X,Y,Z軸方向に分光分析装置4や高解像度カラーCCDカメラ26を移動させる。
【0043】
ST4において、位置決定ボタンG1eの入力がされたか否かを判別する。ノー(N)の場合はST5に進み、イエス(Y)の場合はST6に進む。
ST5において、終了ボタンG1fの入力がされたか否かを判別する。ノー(N)の場合はST2に戻り、イエス(Y)の場合は文化財検査プログラムAP1を終了する。
ST6において、次の処理(1)〜(3)を実行し、ST7に進む。
(1)高解像度カラーCCDカメラ26で可視静止画像G1aを撮影して保存する。
(2)メイン画像G1において、撮影した可視静止画像G1aをメイン画像G1に表示し、位置決定ボタンG1eおよび終了ボタンG1fを、撮影開始ボタンG1hおよび撮影位置再設定ボタンG1iに更新する。
(3)位置調整装置3を作動させて、X方向に中心間距離L1だけ移動させ、被検査部B1にマクロ測定用対物レンズ9の位置を合わせる。
ST7において、ラマンイメージ撮影開始の入力、すなわち、撮影開始ボタンG1hの入力がされたか否かを判別する。ノー(N)の場合はST8に進み、イエス(Y)の場合はST10に進む。
【0044】
ST8において、撮影位置再設定ボタンG1iの入力がされたか否かを判別する。イエス(Y)の場合はST9に進み、ノー(N)の場合はST7に戻る。
ST9において、可視静止画像G1aを破棄する。そして、ST2に戻る。
ST10において、LCTF18を制御して、ラマンイメージ画像R1を撮影する波長λを撮影初期波長λ0に設定する。そして、ST11に進む。
ST11において、ラマン測定用高感度CCDカメラにより設定されている波長λでのラマンイメージ画像R1の撮影を行い、撮影されたラマンイメージ画像R1を保存する。そして、ST12に進む。
【0045】
ST12において、ST11でラマンイメージ画像R1を撮影した波長λが撮影終了波長λnであるか否かを判別する。ノー(N)の場合はST13に進み、イエス(Y)の場合はST14に進む。
ST13において、LCTF18を制御して、ラマンイメージ画像R1を撮影する波長λをシフト波長λs分だけシフトする。そして、ST11に戻る。
ST14において、撮影した可視静止画像G1と、全波長分のラマンイメージ画像R1とを対応させて保存する。そして、ST1に戻る。
【0046】
(実施例1の作用)
前記構成を備えた実施例1の文化財検査装置1では、移動式架台2により文化財検査装置1を文化財Bの設置されている場所に移動させることができる。そして、移動式架台2で、文化財Bの検査したい被検査部B1に対して分光分析装置4の位置を粗調整することができる。
分光分析装置4の位置が粗調整された状態で、文化財検査プログラムAP1を起動し、可視像表示部G1aを見ながら位置調整装置3を制御して、被検査部B1に対する分光分析装置4の位置を微調節できる。このとき、メイン画像G1の可視像表示部G1aには、ラマンイメージ撮影領域表示画像G1gが四角の枠で表示されており、微調整された位置と、ユーザがラマンイメージを撮影したい位置とが一致するか否かを、ユーザが容易に判断することができる。
【0047】
また、ラマンイメージ画像R1の撮影が開始されて、被検査部B1に励起レーザー光が照射されると、被検査部B1の材料や塗料、付着物等の分子の振動に基づくラマン散乱光が発生する。被検査部B1からの光は、エッジフィルタ8および19を通過する際に、励起レーザー光の反射、または散乱光は遮断され、ラマン光だけが通過し、LCTF18に入射される。LCTF18において、分光され(フィルタリングされ)、所定の波長の光のみが出力され、ラマン測定用高感度CCDカメラ22でラマンイメージ画像R1が撮像される。そして、LCTF18を透過する波長は、撮影のたびに自動的に規定の値にシフト設定され、波長毎のラマンイメージ画像R1が撮像される。そして、撮影されたラマンイメージ画像R1が可視静止画像G1に対応して保存される。
【0048】
したがって、撮影されたラマンイメージ画像R1をデータ処理して、文化財Bの特定の位置のラマンスペクトルR2(図7参照)を得て、ディスプレイH2に表示したりすることもでき、このとき、対応づけられている可視静止画像G1aを参照することで、文化財Bのどの位置であるのかも容易に判断、認識することができる。この結果、X線を使用して元素分析を行う場合に比べて、ラマンスペクトルR2を使用することで文化財Bの化学的性質を判別でき、例えば、文化財Bの被検査部B1の表面の材料に含まれる水分量や不純物等も特定できる。
これにより、例えば、材料の種類や産地毎に予めラマンスペクトルのデータを採取し、データベース化して保存しておき、得られたラマンスペクトルR2と比較することで、文化財Bの一例としての壁画が描かれた材料の種類や産地等を特定することができ、文化財Bの由来等の文化史の研究や、修復、保存を行う際に、同じ色の塗料であってもどの材料の塗料を使用することが望ましいのかを判断することができる。同様に、壁画以外の文化財Bについても、例えば、神社、仏閣等の柱のラマンスペクトルR2を得て、比較することで、材料や時代を特定することができる。
【実施例2】
【0049】
図9は実施例2の文化財検査装置の全体説明図であり、実施例1の図2に対応する図である。
図10は実施例2の文化財検査装置における赤外光測定装置部分の概念説明図であり、図10Aは検出部分の要部説明図、図10Bは照射系の斜視説明図である。
なお、この実施例2の説明において、前記実施例1の構成要素に対応する構成要素には同一の符号を付して、その詳細な説明を省略する。
この実施例2は、下記の点で前記実施例1と相違しているが、他の点では前記実施例1と同様に構成されている。
【0050】
図9、図10において、実施例2の分光分析装置4′は、実施例1の分光分析装置4に追加される形で、赤外イメージ撮像装置31が支持されている。前記赤外イメージ撮像装置31は、撮像装置本体の一例としてのFT−IRユニット32を有し、前記FT―IRユニットは、平行光が出力される赤外光源32aを有する。前記赤外光源32aからの平行光は、FT−IRユニット32で干渉されて出力され、第1の放物面鏡33で反射して集光されて、絞り34に絞られる。絞り34を通過した光は、第2の放物面鏡36で反射され平行光となり、第3の放物面鏡37で再び集光されて、文化財Bの被検査部B1に集光、照射される。
被検査部B1で反射または散乱された赤外光は、楕円面鏡38で集光されて、赤外光検出器39で検出される。前記赤外光検出器39で検出された赤外光のデータは、フーリエ変換され、赤外スペクトルを作成、記憶を行う。
次に、位置調整装置3により、被検査部を移動し、上記の測定を繰り返すことで、被検査部全体の赤外スペクトルを取得する。
次に、これらの赤外スペクトルから波数毎に信号を抽出し、これらを被検査部に対応する位置に並べ直し、赤外イメージ画像とする。
【0051】
なお、本実施例では、前記高解像度カラーCCDカメラ26の可視像撮影領域B1bの中心と、マクロ測定用対物レンズ9の撮影可能な領域B1aの中心との間は、実施例1と同様に、水平方向(X方向)に中心間距離L1だけ離れている。また、マクロ測定用対物レンズ9の撮影可能な領域B1aの中心と、赤外イメージ撮像装置31で撮像される位置、すなわち、赤外光の照射位置B1cとの間は、第2中心間距離L2だけ離れている。
さらに、本実施例では、赤外イメージ撮像装置31により一度に撮像される測定対象の範囲は、ラマン測定用高感度CCDカメラ22で撮像される範囲に比べて非常に狭く、可視画像の1画素に対応する点の赤外スペクトルが測定される。すなわち、赤外イメージ撮像装置31で測定する場合には、文化財Bを1点ごとに測定し、位置調整装置3でXY方向に移動して次の点を測定するマッピング手法が採用されている。
【0052】
(制御部の説明)
図11は本発明の実施例2の文化財検査装置の制御部のブロック線図である。
図11において、実施例2では、実施例1と異なるメイン画像表示手段C11′および撮影画像記憶手段C15′とを有し、コントローラCに赤外光測定装置制御手段C5および赤外分光測定手段C16が追加された以外は、実施例1と同様である。
C5:赤外光測定装置制御手段
コントローラCの赤外光測定装置制御手段C5は、赤外光分析装置31を制御して、赤外光源32からの赤外光の照射や赤外光検出器36による赤外光の検出の制御を行う。
【0053】
図12は実施例1の図6に対応する実施例2のメイン画像の説明図であり、図12Aは位置調節作業時のメイン画像の説明図、図12Bは位置調節後のメイン画像の説明図である。
C11′:メイン画像表示手段
文化財検査プログラムAP1のメイン画像表示手段11′は、ディスプレイH2にメイン画像G1′(図12参照)を表示する。図12において、メイン画像G1′は、可視像表示部G1a′と、実施例1と同様の各位置調節ボタンG1b〜G1d、位置決定ボタンG1e、終了ボタンG1f、撮影開始ボタンG1h、撮影位置再設定ボタンG1iとを有する。実施例2の前記可視像表示部G1a′には、実施例1と同様の可視像撮影領域B2およびラマンイメージ撮影領域表示画像G1gに加え、赤外分光分析が行われる領域を表示する赤外分光分析領域表示画像G1jが表示される。
また、図12Bにおいて、位置調節終了後のメイン画像G1′には、赤外分光分析を開始するための赤外光撮影開始ボタンG1kが表示される。
【0054】
C16:赤外分光分析手段(分光部)
赤外分光分析手段C16は、赤外光検出器39で検出された反射光の赤外吸収スペクトルの分析を行うためのスペクトル分析手段C16aを有し、赤外光測定装置制御手段C5を介して赤外イメージ撮像装置31を制御し、赤外光検出器39で検出された測定結果に基づいて、赤外分光分析を行う。実施例1の赤外分光分析手段C16は、赤外分光分析法の一例であるFT−IR(フーリエ変換赤外分光法:Fourier Transform infrared spectroscopy)により分析を行っている。
C15′:撮影画像記憶手段
撮影画像記憶手段C15′は、実施例1と同様の可視静止画像記憶手段C15aおよびラマンイメージ画像記憶手段C15bに加え、赤外分光分析手段C16で得られた赤外イメージ画像を記憶する赤外イメージ画像記憶手段C15cを有し、同一の被検査部B1に対して、ラマンイメージ撮影領域表示画像G1gおよび赤外分光分析領域表示画像G1jの情報を含む可視像撮影領域B2の可視静止画像G1と、ラマンイメージ撮影領域表示画像G1gの全波長λ0〜λn分のラマンイメージ画像R1と、赤外イメージ画像(赤外光照射位置におけるスペクトルのデータ)とを対応させて(関連づけて)記憶する。本実施例では、ラマンイメージ画像と可視像とは実施例1と同様に対応させて記憶し、赤外イメージ画像はラマンイメージ画像同様に可視像の1画素毎に対応させて記憶する。
【0055】
(実施例2のフローチャートの説明)
(文化財検査処理の説明)
図13は本発明の実施例2の文化財検査装置における文化財検査処理のフローチャートであり、実施例1の図8に対応する図である。
図13において、実施例2の文化財検査処理では、実施例1の文化財検査処理に対して、ST7とST8の間に下記のST21〜ST24の処理が実行されるだけで、その他の処理は同一であるため、同一の処理については実施例1と同一のST番号を付し、詳細な説明は省略する。
【0056】
図13のST21において、赤外光撮影開始ボタンG1kの入力がされたか否かを判別する。イエス(Y)の場合はST8に進み、ノー(N)の場合はST22に進む。
ST22において、次の処理(1)、(2)を実行し、ST23に進む。
(1)位置調整装置3を作動させて、位置B1bからX方向に第2中心間距離L2だけ移動させ、被検査部B1に赤外光照射位置B1cを合わせる。
(2)赤外光源32を駆動して、赤外光の照射を開始する。
ST23において、次の処理(1)、(2)を実行し、ST24に進む。
(1)被検査部B1で反射した拡散赤外光を赤外光検出器36で検出する。
(2)検出された拡散赤外光の赤外吸収スペクトルを演算する。
ST24において、ST6で撮影した可視静止画像G1aと赤外吸収スペクトルデータとを対応させた保存する。そして、ST1に戻る。
【0057】
(実施例2の作用)
前記構成を備えた実施例2の文化財検査装置1では、ラマンイメージ画像に加えて、赤外分光法による赤外イメージ画像を得ることもできる。すなわち、材料等によって、ラマン分光法では分析が困難な材料の場合に、赤外分光法で化学的な性質の分析を行うことができる。また、メイン画像1′により、赤外光が照射される場所を容易に確認できると共に、スペクトルデータに可視静止画像G1aが対応づけて記憶されているので、赤外分光法で分析が行われた場所を容易に確認ができる。
【実施例3】
【0058】
図14は実施例3の文化財検査装置の全体説明図であり、実施例2の図9に対応する図である。
なお、この実施例3の説明において、前記実施例1、2の構成要素に対応する構成要素には同一の符号を付して、その詳細な説明を省略する。
図14において、実施例3の文化財検査装置1の分光分析装置4″は、実施例2の分光分析装置4′からラマンイメージを撮像するための符号6〜22が付された各部材が省略され、赤外イメージ撮像装置31の側壁に可視像撮像装置の一例としての高解像度カラーCCDカメラ26、高解像度ズームレンズ27、照明28が支持されている。
なお、図示しないが、ラマンイメージを撮像する構成が省略されたことに伴い、本実施例では、ラマンイメージの撮像に使用される各手段C2,C3,C4、C14等が省略されている。
【0059】
(実施例3の作用)
前記構成を備えた実施例3の文化財検査装置では、ラマンイメージ画像の撮影が必要なく、FT−IRによる赤外イメージ画像の撮像を行いたい場合に、実施例2の場合に比べて、装置を小型化することができる。そして、実施例2と同様に、赤外イメージ画像と可視静止画像とが対応づけられて記憶されているので、赤外イメージ画像が撮像された場所を容易に確認、認識することができる。
【0060】
(変更例)
以上、本発明の実施例を詳述したが、本発明は、前記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内で、種々の変更を行うことが可能である。本発明の変更例(H01)〜(H09)を下記に例示する。
(H01)前記実施例において、測定領域モニター用カラーCCDカメラ12と高解像度カラーCCDカメラ26とを共通化して、いずれか一方を省略することも可能である。
(H02)前記実施例において、分光器の一例としてのLCTFを例示したが、これに限定されず、従来公知の分光器を採用可能である。
【0061】
(H03)前記実施例2において、赤外イメージ撮像装置31をマクロ測定用対物レンズ9とX軸方向でL2ほどずれた位置に配置したが、これに限定されず、Y軸方向にずれた位置としたりすることも可能である。また、部品の小型化や配置スペースを工夫することで、赤外イメージ撮像装置31で撮影する位置とマクロ測定用対物レンズ9で撮影する領域の中心をXY軸方向で同じ位置に設定することも可能である。
(H04)前記実施例において、移動式架台2や位置調整装置3は実施例に例示した構成に限定されず、従来公知の任意の構成を採用可能である。
(H05)前記実施例において、シフト波長λsずつ波長をずらして撮影するようにしたが、撮影する特定の波長を予め登録しておき、その波長のみ撮影するようにすることも可能である。
【0062】
(H06)前記実施例において、ラマンイメージ画像を撮像する領域の広さは、設計や仕様等に応じて変更可能であり、点に近い領域とすることも可能である。
(H07)前記実施例において、ラマンイメージ画像を撮像する際に、入力されるレーザー光の波長は、特定の波長のものを使用したが、これに限定されず、例えば、励起波長が異なる光源ユニットを並べて使用することも可能である。
(H08)前記実施例において、可視画像を撮影するために高解像度カラーCCDカメラを使用したが、これに限定されず、例えば、ラマン測定用高感度CCDと共通化し且つ、光軸上に、LCTFと、RGBのカラーフィルタとを進入・退避可能としておき、ラマンイメージ画像を撮像する際にはLCTFを光軸上に進入させ、可視画像を撮像する際にはカラーフィルタを進入させるように構成することも可能である。
(H09)前記実施例において、可視画像とラマンイメージ画像、赤外イメージ画像の対応のさせかたを画素単位としたが、これに限定されず、例えば、複数画素単位で対応させることや基準点を撮影前に設定しておいて、基準点に対する座標(XY方向の距離)で対応させることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】図1は本発明の実施例1の文化財検査装置の全体説明図である。
【図2】図2は本発明の実施例1の文化財検査装置の分光分析装置の概略説明図であり、図2Aは上方から見た概略説明図、図2Bは側方から見た概略説明図である。
【図3】図3は文化財の一例としての壁画と被検査部の説明図である。
【図4】図4は実施例1のカメラの一方向に対する設定方法の説明図であり、図4Aは2種類のCCDカメラの画素の対応関係の説明図、図4Bは基準パターンの像サイズと位置が精確な場合の画素と基準パターンとの位置関係と信号強度の説明図、図4Cは位置が精確でない場合、または基準パターンの像サイズが精確でない場合の画素と基準パターンとの位置関係と信号強度の説明図である。
【図5】図5は本発明の実施例1の文化財検査装置1の制御部のブロック線図である。
【図6】図6は実施例1のメイン画像の説明図であり、図6Aは位置調節作業時のメイン画像の説明図、図6Bはラマンイメージ撮影開始前のメイン画像の説明図である。
【図7】図7は実施例1のラマンイメージの説明図である。
【図8】図8は本発明の実施例1の文化財検査装置における文化財検査処理のフローチャートである。
【図9】図9は実施例2の文化財検査装置の全体説明図であり、実施例1の図2に対応する図である。
【図10】図10は実施例2の文化財検査装置における赤外光測定装置部分の概念説明図であり、図10Aは検出部分の要部説明図、図10Bは照射系の斜視説明図である。
【図11】図11は本発明の実施例2の文化財検査装置の制御部のブロック線図である。
【図12】図12は実施例1の図6に対応する実施例2のメイン画像の説明図であり、図12Aは位置調節作業時のメイン画像の説明図、図12Bは位置調節後のメイン画像の説明図である。
【図13】図13は本発明の実施例2の文化財検査装置における文化財検査処理のフローチャートであり、実施例1の図8に対応する図である。
【図14】図14は実施例3の文化財検査装置の全体説明図であり、実施例2の図9に対応する図である。
【符号の説明】
【0064】
1…文化財検査装置、
2…移動式架台、
3…位置調整装置、
4,4′…分光分析装置、
18…分光部、
22…ラマンイメージ撮像装置、
26…可視像撮像装置、
31…赤外イメージ撮像装置、
32…撮像装置本体,FT−IRユニット、
32a…赤外光源、
33…第1の放物面鏡、
34…絞り、
36…第2の放物面鏡、
37…第3の放物面鏡、
38…楕円面鏡、
39…赤外光検出器、
B…文化財、
B1…被検査部、
C15,C15′…画像記憶手段、
C16…分光部、
G1a…可視像、
R1…ラマンイメージ画像。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
文化財の被検査部を可視像で撮影する可視像撮像装置と、
前記可視像撮影装置で撮影される前記被検査部に照射されるレーザー光を発生するレーザー光源と、前記被検査部から散乱されたラマン光を分光する分光部と、前記分光部で分光された各波長の光に基づいてラマンイメージ画像を撮像するラマンイメージ撮像装置と、を有する分光分析装置と、
前記可視像撮像装置で撮像された前記被検査部の可視像と、前記被検査部のラマンイメージ画像とを対応づけて記憶する画像記憶手段と、
を備えたことを特徴とする文化財検査装置。
【請求項2】
文化財の被検査部を可視像で撮影する可視像撮像装置と、
前記可視像撮影装置で撮影される前記被検査部に照射される赤外光を発生する赤外光源と、前記被検査部から反射、または散乱された前記赤外光を分光する分光部と、前記分光部で分光された各波長に基づいて赤外イメージ画像を撮像する赤外イメージ撮像装置と、
前記可視像撮像装置で撮像された前記被検査部の可視像と、前記被検査部の赤外イメージ画像とを対応づけて記憶する画像記憶手段と、
を備えたことを特徴とする文化財検査装置。
【請求項3】
文化財の被検査部を可視像で撮影する可視像撮像装置と、
前記可視像撮影装置で撮影される前記被検査部に照射されるレーザー光を発生するレーザー光源と、前記被検査部から散乱されたラマン光を分光する分光部と、前記分光部で分光された各波長の光に基づいてラマンイメージ画像を撮像するラマンイメージ撮像装置と、前記可視像撮影装置で撮影される前記被検査部に照射される赤外光を発生する赤外光源と、前記被検査部から反射、または散乱された前記赤外光を分光する分光部と、前記分光部で分光された各波長に基づいて赤外イメージ画像を撮像する赤外イメージ撮像装置と、を有する分光分析装置と、
前記可視像撮像装置で撮像された前記被検査部の可視像と、前記被検査部のラマンイメージ画像と、前記被検査部の赤外イメージ画像とを対応づけて記憶する画像記憶手段と、
を備えたことを特徴とする文化財検査装置。
【請求項4】
前記分光分析装置を移動可能に支持する移動式架台、
を備えたことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の文化財検査装置。
【請求項5】
前記分光分析装置を支持し且つ前記移動式架台に支持され、前記分光分析装置の位置を微調整する位置調整装置、
を備えたことを特徴とする請求項4に記載の文化財検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図10】
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【図11】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−281513(P2008−281513A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−127962(P2007−127962)
【出願日】平成19年5月14日(2007.5.14)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成19年度、独立行政法人科学技術振興機構革新技術開発研究事業、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(593230855)株式会社エス・テイ・ジャパン (13)
【出願人】(504190548)国立大学法人埼玉大学 (292)
【Fターム(参考)】