説明

斜めギザを有するコイン状製品の製造方法および製造装置

【課題】斜めギザが極印に対して常に一定の位置に形成されるような製造方法とそのための製造装置を提供すること。
【解決手段】プレス装置の加圧部Pにセットされ得る鍛造型装置内に、円環状工具1をその回転中心軸Yを中心として回転できるように保持し、該円環状工具1の中央孔1aの内周壁面に形成すべき斜めギザ型用の凹凸を設け、原位置にある円環状工具の中央孔1a内で、一対のパンチ2、3によって材料を挟んで加圧し製品の形状へ型鍛造し、該パンチでその軸方向に製品を押して移動させると同時に、円環状工具1を原位置から回転させながら製品をノックアウトする。さらに、ノックアウト完了後から次の鍛造開始までのストロークにおいて、円環状工具1を逆回転させて原位置に復帰させ、それによって、常に円環状工具が原位置にある状態で型鍛造を開始する。円環状工具を原位置に復帰させる手段は、カム装置4が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外周側面に斜めギザが加工されたコイン状製品の製造方法とその製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
メダルや貨幣などのコイン状製品には、図5に示すように、その外周側面にギザが設けられるものがある。ギザは、装飾、他種のコイン状製品との識別などを目的として設けられる。
例えば、平成17年現在の100円硬貨に見られるような最も一般的なギザでは、図5(a)に略図で示すように、ギザを構成する個々の凸部の稜線(以下、ギザの稜線)m1の方向は、凹部(溝部)の谷の線の方向と同様、コイン状製品の板面の中央を貫通する中心軸(以下、コイン中心軸)M1の方向と一致している。
以下、ギザの凹凸において、凸部の稜線および凹部の谷の線がそれぞれ延伸している方向を、凸稜・凹溝ともに「ギザの稜線方向」と呼ぶ。
【0003】
図5(a)のような一般的なギザを有するコイン状製品では、1つの鍛造型キャビティ内において板面の極印(絵、文字、模様などを表す凹凸レリーフ)と外周側面のギザとを同時に鍛造しても、パンチ自体によってそのまま製品を型外へノックアウト(突き出し)することは容易である。なぜならば、ギザと型とが噛合っていても、そのギザの稜線方向がノックアウトの方向と一致しているために、ギザが型から稜線方向に滑って外れ、ノックアウトの力に抵抗したり、ギザが潰れたりしないからである。
従って、そのような一般的なギザを有するコイン状製品は、一般的な鍛造型を用い、プレスを高速回転させて鍛造しノックアウトすることが可能であるため、安価で量産ができる。
【0004】
一方、平成17年現在の500円硬貨に見られる斜めギザは、図5(b)に示すように、ギザの稜線m2が、コイン中心軸M2の方向に対して角度をなす方向(即ち、斜め方向)に形成されたものである。
斜めギザは、製造に特殊な技術や設備費用を要するうえ、見た目の特徴から、装飾性、識別性が高い。
斜めギザを有するコイン状製品では、ギザの稜線方向がノックアウトの方向と一致していないために、これが先ず、第一の障害となって、パンチによる単純なノックアウトが困難である。また、貨幣にとって特に重要な問題であるが、板面の極印には傷や打痕が与えられてはならないために、極印が鍛造された時点からノックアウトされるまで、該極印がパンチの極印型から離脱して擦れ傷つくような状態があってはならない。このことが第二の障害となって、コイン状製品をパンチの極印型から離脱させて、ギザ部分がギザ型から抜けるように回転させながらノックアウトすることも容易ではない。
上記のように、単純な鍛造金型の構造では、斜めギザを有するコイン状製品を型外にノックアウトすることは困難である。
【0005】
これに対して、特許文献1に記載された製造方法と鍛造型装置では、斜めギザ型の凹凸が内壁面に形成された円環状工具を回転可能な状態として鍛造型内に有しており、この円環状工具が斜めギザのノックアウトに沿って回転するために、コイン状製品を、極印パンチに密着させたままでノックアウトすることが可能になっている。
図6は、該特許文献1の金型構造および製造方法を概略的に示す図であって、その主要な構成は、次の(イ)〜(ハ)に示すとおりである。
(イ)鍛造型装置内に、円環状工具100をその円環の回転中心軸(=鍛造されるコイン状製品のコイン中心軸)X10を中心として回転できるように保持する。該円環状工具100の中央孔110の内周壁面には、斜めギザ型用としての凹凸を設ける。
(ロ)円環状工具100の中央孔110内において、一対の極印パンチ(120、130)によって材料(図示せず)を挟んで加圧し、製品の形状へ型鍛造する。極印パンチは、少なくとも一方に極印凹凸が設けられておればよい。図6の例では、上下両方の極印パンチに極印用の凹凸が設けられており、これらと円環状工具とによって、硬貨の上下面、外周全面に凹凸模様が鍛造される。
(ハ)極印パンチ(120および/または130)の極印凹凸にコイン状製品を密着させた状態で、該パンチでその軸方向に製品を押して移動させると同時に、斜めギザの軸方向移動に応じて円環状工具110を回転させながら製品をノックアウトする。実際の態様では、円環状工具110は、斜めギザから受ける力によって、従動的に回転する。
【特許文献1】特開平10−323210号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者等が、コイン状製品に下記に説明する新たなデザインの斜めギザの採用を検討したところ、以下に説明するように、特許文献1に記載された製造方法や鍛造型装置では、新たなデザインの斜めギザの量産には対応できないことがわかった。
【0007】
先ず、前記した新たなデザインの斜めギザとは、図3(a)、(b)に誇張した例として示すような、意図的に形成された〔不均一な斜めギザ〕であって、しかも、そのようなギザが極印の柄に対して常に同じ位置に形成されるギザである。
ここでいう不均一とは、製造誤差として不可避的に生じた不均一ではなく、意図してデザインされた、ギザの凸稜幅および/または溝幅についての不均一(即ち、ピッチの不均一)である。ただし、個々の凸稜、凹溝の稜線方向は、全てコイン状製品の中心軸に対して同じ傾きである。
例えば、図3(a)の例では、極印文字「A」の上下左右に対応する外周に、斜めギザg1〜g4が局所的に形成されている。これらの斜めギザg1〜g4は、それぞれの5本の溝だけに着目すれば等ピッチである。しかし、それ以外の残る外周にはギザが無いため、全周的には、規則的なパターンではあるが、ピッチは不均一である。
図3(a)の例では、極印文字「A」の上下左右に局所的な斜めギザg1〜g4が位置するのが正しいデザインである。このような不均一な斜めギザは、均一でないために、図3(b)に示すように、各斜めギザの形成位置が円周方向(図では反時計回りの方向)にずれると、形成位置がずれたことが外観的に明らかに識別できる。
【0008】
一方、上記特許文献1記載の製造方法では、上記説明のとおり、斜めギザを形成しノックアウトするための回転可能な円環状工具が型内に存在し、ノックアウトの度に、該円環状工具が斜めギザに押されて回転変位することが特徴である。即ち、該方法では、1回のプレスショットで円環状工具が回転変位すると、次の回のプレスショットでは、円環状工具が回転変位した位置のままで鍛造が行なわれる。
しかし、従来の斜めギザは、同一形状のギザが全周にわたって細かいピッチにて均一に形成されているために(以下、「均一な斜めギザ」ともいう)、極印の絵柄に対して円環状工具のギザ型が何ピッチ回転シフトしても、結果物である硬貨を見れば斜めギザはずれていない。また、例えば、円環状工具のギザ型が半ピッチずれた場合にも、結果物である硬貨を見ると、微小な1ピッチの半分という、極めて微小なずれにしかすぎず、実質的にはギザのずれを認識できるものではない。
【0009】
従って、特許文献1に記載された製造方法や装置では、全周均一な斜めギザを製造している限り、円環状工具のギザ型がプレスショット毎に回転しても、結果物では、極印の絵柄に対して斜めギザの位置が製品毎に異なるということはない。
しかしながら、このような円環状工具が1プレスショット毎に円周方向へと移動するタイプの製造方法や装置によって、上記の〔不均一な斜めギザ〕を形成すると、図3(b)で示したように、斜めギザが不均一であるがゆえに、結果物においては、製品毎に斜めギザの位置が異なっていることが明確に識別できる。
以上のように、不均一な斜めギザを、しかも極印の絵柄に対して常に同じ位置に形成するというような新規なデザインの導入を検討したときに、そのようなデザインを持つコイン状製品は、特許文献1に記載された製造方法や装置によっては量産ができないということを、本発明者等は知見するに至った。
【0010】
本発明の課題は、斜めギザを有するコイン状製品の製造において、斜めギザが極印に対して常に一定の位置に形成されるような製造方法とそのための製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、次の特徴を有するものである。
(1)極印された面を有し外周側面に斜めギザを有するコイン状製品を、鍛造型装置を用いて製造するための製造方法であって、
該鍛造型装置は、プレス装置の加圧部にセットされ得、該加圧部は、原位置から鍛造位置へ向うストロークと、鍛造位置から原位置へ戻るストロークとを少なくとも鍛造型装置に与えるものであり、
該鍛造型装置内に、円環状工具をその回転中心軸を中心として回転できるように保持し、円環状工具の中央孔の内周壁面に形成すべき斜めギザ型用の凹凸を設け、
原位置にある円環状工具の中央孔内で、少なくとも一方に極印型用の凹凸が設けられた一対のパンチによって材料を挟んで加圧し製品の形状へ型鍛造し、
パンチの極印型用の凹凸に製品を密着させた状態で該パンチでその軸方向に製品を押して移動させると同時に、円環状工具を原位置から回転させながら製品をノックアウトし、
ノックアウト完了後から次の鍛造開始までのストロークにおいて、円環状工具を逆回転させて原位置に復帰させ、それによって、常に円環状工具が原位置にある状態で前記型鍛造を開始することを特徴とする、前記製造方法。
(2)円環状工具を逆回転させて原位置に復帰させる手段が、ノックアウト完了後から次の鍛造開始までのストロークのうちの少なくとも一部の動作を、円環状工具を原位置に復帰させる動作へと変換するように構成されたカム装置である、上記(1)記載の製造方法。
(3)外周側面の斜めギザが、該ギザの凸稜幅および/または溝幅が不均一なギザである、上記(1)または(2)記載の製造方法。
(4)コイン状製品が、両方の面に極印を有するメダルまたは貨幣である、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の製造方法。
(5)極印された面を有し外周側面に斜めギザを有するコイン状製品を製造するための製造装置であって、
当該製造装置は、プレス装置の加圧部にセットされ得る鍛造型装置を少なくとも有し、該加圧部は、原位置から鍛造位置へ向う前進ストロークと、鍛造位置から原位置へ戻る後退ストロークとを少なくとも鍛造型装置に与えるものであり、
該鍛造型装置には、円環状工具がその回転中心軸を中心として回転できるように保持され、該円環状工具の中央孔の内周壁面には斜めギザ型用の凹凸が設けられ、かつ、鍛造型装置には、少なくとも一方に極印型用の凹凸が設けられた一対のパンチが設けられ、一対のパンチは円環状工具の中央孔内で材料を挟んで加圧し製品の形状へ型鍛造し得るように動作するものであり、鍛造完了後において、極印型用の凹凸を有するパンチがその軸方向に製品を押して型外へ移動させるとき、円環状工具が、コイン状製品に形成された斜めギザの移動を阻害しないように回転し、該製品がノックアウトされる構成とされており、
該鍛造型装置には、さらに、下記(A)のカム装置が設けられており、鍛造開始までの前進ストロークにおいて、または、ノックアウト完了後の後退ストロークにおいて、該(A)のカム装置が作動して円環状工具が原位置まで逆回転して復帰する構成となっており、それによって、該鍛造型装置は、型鍛造の開始時には円環状工具が原位置に復帰している構成となっていることを特徴とする、
前記製造装置。
(A)ノックアウト完了後から次の鍛造開始までのストロークのうちの少なくとも一部の動作を、円環状工具を原位置に復帰させる動作へと変換するように構成された、カム装置。
(6)外周側面の斜めギザが、該ギザの凸稜幅および/または溝幅が不均一なギザである、上記(5)記載の製造装置。
【発明の効果】
【0012】
以下、ノックアウト時の円環状工具の回転とその方向を、「正回転」、「正方向」と呼び、その反対の回転とその方向を、「逆回転」、「逆方向」と呼ぶ。
上記(1)のとおり、本発明による製造方法では、パンチによるコイン状製品のノックアウト完了後から次の鍛造開始までのタイミングにおいて、円環状工具を逆回転させて原位置に復帰させ、常に円環状工具が原位置にある状態で前記型鍛造を開始させている。これによって、結果物の斜めギザの位置が、極印の絵柄に対して、変化することがない。
また、上記(5)のとおり、本発明の製造装置では、本発明による製造方法を好ましく実施するための具体的な構成として、上記(A)のカム装置を用い、装置の加圧部のストローク動作を円環状工具の復帰動作へと変換している。この装置の構成によって、各ノックアウト時に円環状工具が回転変位しても、その次の回のプレスショットでは、円環状工具は原位置に戻され、常に円環状工具が原位置にある状態で型鍛造が開始される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の装置の構造例を示しながら、同時に製造方法を説明する。コイン状製品の例としてメダルを用いる。
図1は、本発明の装置の構成を概略的に示すと同時に、本発明の製造方法をも説明する図である。同図では、ノックアウトで円環状工具が回転し、次の鍛造時にはその円環状工具が原位置に復帰しているという順に説明するため、図1(a)には、ある回のプレスショットにおけるノックアウト時の状態を示し、図1(b)には、その次の回のプレスショットにおける鍛造時の状態を示している。実際の装置の稼動では、これらの動作が周期的に交互に繰り返される。
【0014】
図1(a)に示すように、本発明による製造装置は、プレス装置(図示せず)の加圧部Pにセットされ得る鍛造型装置を少なくとも有している。本発明による製造方法は、この製造装置を用いて好ましく実施される。
鍛造型装置の典型的な形態は、鍛造金型を含んだダイセットである。プレス装置の加圧部Pは、鍛造型装置(特に極印パンチ)を駆動し、鍛造圧力を加えるための可動部分である。該加圧部Pは、原位置(図1(a)に示す)から、鍛造位置(図1(b)に示す)へと向う前進ストロークと、鍛造位置から原位置へ戻る後退ストロークとを少なくとも有し、このストローク動作を鍛造型装置に与える。
【0015】
図1(a)に示すように、鍛造型装置(全体は図示せず)の内部には、円環状工具1が、回転中心軸Yを中心としてその円環を巡る方向に回転できるように保持されている。同図では回転をスムーズに行わせるためのベアリングなどの構造は省略している。この円環状工具1の中央孔1aの内径が、メダルの外形となる。中央孔の内周壁面には、斜めギザ型用の凹凸が設けられている。図1の例では、斜めギザは〔不均一な斜めギザ〕であって、局所的に3本の溝が形成されるパターンである。また、その3本の溝は、極印の柄に対して常に同じ位置に形成されねばならないデザインである。
【0016】
鍛造型装置には、一対の対向するパンチ2、3が設けられており、少なくとも一方(通常は両方)のパンチには極印型用の凹凸が形成されている(図示せず)。
図1(b)に示すように、円環状工具の中央孔内へ、上下からパンチ2、3を挿入し、該中央孔内において材料塊を挟んで加圧し、極印面と斜めギザの鍛造を完了する。
円環状工具の回転中心軸Y、鍛造されたメダルの回転中心軸、上下のパンチの中心軸は全て一致しており、以下、単に「軸」という。
中央孔内での鍛造完了後、図1(a)に戻って、該パンチのいずれかが軸方向に製品を押して型外へノックアウトする。図の例では、下方にノックアウトする。図1(a)に示すように、このノックアウト時に、円環状工具1は、コイン状製品に形成された斜めギザの移動を阻害しないように図の矢印方向に回転し、それによって、該製品は外周に斜めギザを有しながらもノックアウトされ得る。これによって、ノックアウト時には、メダルの極印面がパンチの極印型面と擦れることなく、メダルの軸方向への移動が可能となる。
【0017】
これら円環状工具を用いた斜めギザをノックアウトするためのメカニズムに必要な各部の構成、例えば、円環状工具を滑らかに回転し得るように保持するための構造(スラスト軸受などの各種の軸受)、円環状工具の中央孔の基準の内径とパンチの外径との関係、2つのパンチの各々のストローク動作(動作方向、各パンチの動作タイミング、変位量)、金型材料、プレス装置の構造や加圧方式、ノックアウトの方向などについては、特許文献1など、斜めギザをもつ貨幣を量産するための公知の技術を参照してよい。
一方のパンチでメダルを押してノックアウトする場合、他方のパンチを先に後退させておくか、押す側のパンチと共にメダルを挟んだ状態で後退させるかは、プレス装置や鍛造型装置の構造上、自由に選択してよい。
円環状工具は、ノックアウト時に斜めギザ型が製品の斜めギザの移動を妨害しないように、その円環の方向に回転するものであればよい。円環状工具の回転は、メダルの斜めギザから受ける力自体によって、斜めギザの変位に従動的に回転する構成が、簡単であり好ましい。
【0018】
本発明の製造方法では、従来の製造方法にさらに加えて、ノックアウト完了後から次の鍛造開始までのストロークにおいて、即ち、ノックアウト行程と鍛造行程に障害とならないタイミングにおいて、円環状工具を逆回転させて原位置に復帰させるという新たな行程を有していることが重要である。
これによって、常に円環状工具を原位置とした状態で型鍛造が開始されることになり、結果物においても斜めギザが移動することがない。
円環状工具を逆回転させて原位置に復帰させるための構成に限定はなく、例えば、加圧部の動作と同期する電気信号を入力として利用し、制御可能なモーターやシリンダー等を出力として用い、円環状工具を逆回転させて原位置に復帰させる機構を構成してもよい。
そのような機構のなかでも、本発明の製造装置では、好ましい機構として、図1に示すように、上記(A)のカム装置4を採用している。
この(A)のカム装置が作動することによって、ノックアウト時に正方向に回転変位した円環状工具1が(図1(a)の状態)、次回の型鍛造の開始時点までに原位置へと逆回転して復帰しており(図1(b)の状態)、常に円環状工具を原位置とした状態で型鍛造が開始されることになる。
【0019】
本発明者らは、1回のプレスショット毎に円環状工具を原位置まで逆回転させるための装置の1つとして、復帰バネを用い、円環状工具を原位置へ戻そうとする力を該円環状工具に常に作用させ続けておく復帰機構をも完成させている。
そのような復帰機構は、例えば、円環状工具が原位置よりも逆方向へは回転しないように、該円環状工具に何らかのストッパーを設けておき、復帰バネを用いて円環状工具を該ストッパーの方へ常に弾性的に押し付けておくといった機構である。これによって、ノックアウトの際には円環状工具は正方向に回転できるが、ノックアウトが完了すれば、該円環状工具は復帰バネの力によってストッパーの方へ自動的に逆回転して戻る。
しかしながら、このような復帰バネを用いた復帰機構は、装置の構成は簡単ではあるが、円環状工具に常に復帰力が作用しているために、これが抵抗になって、ノックアウトの際の円環状工具のスムーズな回転が妨げられる。また、円環状工具の復帰を高速回転に追従させるためには、より強い復帰バネが必要となり、ノックアウト時の円環状工具の回転をより妨げることになる。しかも、ノックアウトされた斜めギザの凹凸面を顕微鏡観察すると、円環状工具から復帰方向の力を受けながらノックアウトされるために、円環状工具のギザ用凹凸型から斜めギザが脱出する瞬間に、復帰しようとする凹凸型自体によって斜めギザが傷つけられるということもわかった。
【0020】
このような復帰バネを用いた復帰機構に対して、上記(A)のカム装置を用いた構成では、ノックアウトの際には、円環状工具には何らの外力も作用しておらず、円環状工具は、自由に回転できる状態とすることができる。これによって、円環状工具は、斜めギザを傷つけることなく、該斜めギザの軸方向変位に従動して正回転し、鍛造に影響しないタイミングにおいて、原位置へと復帰することができる。
また、カム装置は、比較的簡単な機構で、高速回転にも確実に追従するので好ましい。
【0021】
上記(A)のカム装置は、プレス装置の加圧部のストローク動作(または加圧部の動作に連動する鍛造型装置のストローク動作でもよい)を入力とし、これを変換して、ノックアウト時に正方向に回転変位した円環状工具を、逆回転させて原位置へ復帰させるように構成されていればよい。カム装置自体の伝達構成、伝達手段は自由であって、与えられたストローク変位を、目的とする逆回転変位へと変換するように、自由にカムを設計してよく、動作や変位を伝達するためにどのような機械要素を用いてもよい。また、上記(A)のカム装置は、各部の接続構造、連結構造によっては、リンク機構に分類され得る装置であってもよい。
ただし、上記(A)のカム装置は、少なくとも次の2つの条件を満たさねばならない。
(a)円環状工具を原位置に復帰させるタイミングが、ノックアウト完了後から、次の鍛造開始前までであること。簡単に換言すると、材料が円環状工具中にある間は、円環状工具を復帰させる動作をしないこと。
(b)ノックアウト時の円環状工具の正回転を機構的に妨げないこと。例えば、円環状工具を復帰させるタイミングは正しいが、ノックアウト時には円環状工具を静止させるような構成。ただし、該カム装置自体の慣性質量や摩擦などは、円環状工具の動作に顕著な悪影響がない範囲であれば、円環状工具の正回転の負荷となっていてもよく、機構的な妨げではない。
【0022】
カム装置自体の慣性質量や摩擦などの負荷は、より小さい方が好ましく、ノックアウト時には、円環状工具だけの自由な回転に近くなるような機構とすることが好ましい。図1(a)の機構では、ノックアウト時には、カムが円環状工具の運動系から離脱し、アーム20の慣性質量と中心軸21における摩擦だけが、ノックアウト時の円環状工具の正回転の負荷となっている。
【0023】
上記(A)のカム装置の種々の構成例をいくつか挙げる。
図1(a)の例では、該カム装置4は、円錐部分11を先端部に有する丸棒10の形態とされたカムと、中心軸23を中心として回転可能に支持されたレバー20からなる従動節とを有して構成されている。
丸棒10の基端部はプレス装置の加圧部に接続され、上下にストロークする。カム面は、円錐部分11の斜面と、丸棒10の胴体表面とによって構成されている(太線部分)。
レバー20の一端部(下端部)21は、カム面に従動するように係合しており、カムが上下に移動したとき、そのカム面の変化に従動してレバー20が回転する。一方、レバー20の他端部(上端部)22は、円環状工具1の外周部分の凹部に係合しており、レバー20が中心軸23を中心として回転すると、円環状工具1も回転する構成となっている。
カムと従動節とは、次の動作をなすように形状、位置関係、変位が調整されている。
(i)図1(a)に示すように、プレス装置の加圧部Pが少なくともノックアウト開始からノックアウト完了までの位置にあるときには、カム面は一端部21との係合から離脱し、レバー20を自由にしている。それによって、円環状工具1は、自由に回転可能になり、斜めギザのノックアウトに応じて正方向(矢印方向)に回転する。
(ii)次に、プレス装置の加圧部Pが鍛造開始の位置へと変位する途上において、円錐部分11の斜面がレバー20の一端部21を誘って係合し始め、レバー20を逆方向に回転させ始める。即ち、円環状工具が復帰し始める。
(iii)さらに、図1(b)に示すように、加圧部Pが鍛造開始の位置に到達する前までに、係合点は、丸棒10の胴体表面部分(最大変位)となり、そのときのレバーのポジションによって、円環状工具1は原位置に復帰している。その後、円環状工具が原位置にある状態で鍛造が行なわれ、鍛造完了の後、加圧部Pが下降し、ノックアウトが開始する前にカム面がレバーとの係合から離脱し、上記(i)の動作へと戻る。
【0024】
図1の例では、コイン状製品のノックアウトは下方であるが、型構造やプレス装置の構造によっては上方であってもよい。その場合には、ノックアウト時の円環状工具の回転方向も逆になるので、上記(A)のカム装置の構成も、適宜変更すればよい。
また、図1の例では、プレス装置の加圧部Pが下方にある場合を示し、カム装置のレバーの回転を垂直平面内での回転(回転軸23は水平方向)のように示したが、加圧部Pは上方にあってもよいし、レバーの回転は水平面内での回転であってもよい。
また、図1の例では、カムを構成する丸棒が、直接的に加圧部Pに取り付けられたように示しているが、加圧部Pと連動する型部品に取り付けられていてもよい。即ち、カムの原動節としての動作は、プレス装置の加圧部から直接受けてもよく、鍛造型装置の機構部品を介して受けてもよい。
カムの動作方向は、必ずしも加圧部Pの変位の方向と同じでなくてもよい。リンク、カム、歯車などの伝達機構を何重に経た構成であっても、加圧部Pのストローク動作が、円環状工具を復帰させる動作へと変換される構成であればよい。
【0025】
実際のコイン状製品の製造における、ノックアウト時の円環状工具の正回転の変位角度(=逆回転の変位角度)は、斜めギザの傾斜角度と、コイン状製品の厚さとによっても異なるが、実用的な製品では、該変位角度は、5度〜7度程度、特に6度程度が例示される。
【0026】
図2は、上記(A)のカム装置の他の構成例を示す断面図であって、レバーを介在させない、単純な構成例を示している。同図は、円環状工具を側方から見た図であって、円環状工具の外周部分を部分的に拡大し切断している。円環状工具の中央孔は図に示された部分の背後にあり、図には現れていない。
同図の例では、円環状工具1に、従動節となる孔1fが設けられており、これに、斜面11aと垂直面11bとを持ったカム10aが下方から出入りし、両者が係合する構成となっている。カムの斜面11aと垂直面11bは太線で示している。
カム10aの基端部はプレス装置の加圧部(図示せず)に接続され、上下にストロークする。カムが上方に移動したとき、そのカム面の変化に円環状工具が直接的に追従して逆方向に回転する。
図2(a)に示すように、プレス装置の加圧部が少なくともノックアウト開始からノックアウト完了までの位置にあるときには、カム10aは円環状工具の孔1fとの係合から離脱し、円環状工具1は自由に回転可能になり、斜めギザのノックアウトに応じて正方向(矢印方向)に回転する。次に、プレス装置の加圧部が鍛造開始の位置へと変位する途上において、カムの斜面が孔1f内に進入して係合し始め、円環状工具1を逆方向に戻し始める。さらに、図2(b)に示すように、加圧部が鍛造開始の位置に到達する前までには、係合点は垂直面11bとなり、円環状工具1は原位置に復帰している。
図2の例とは逆に、円環状工具の方に斜面を持った突起が設けられ、プレス装置の加圧部に穴が設けられて、両者が係合するという組み合わせであってもよい。
【0027】
上記(A)のカム装置の原動節の動作は、ノックアウト完了後から次の鍛造開始までのストロークのうちの少なくとも一部の動作であればよい。図1、図2の例では、プレス装置の加圧部の動作サイクルのうち、原位置から鍛造開始直前までのタイミングにおいて、円環状工具を原位置に戻し、そのまま鍛造を行なっている。
円環状工具を復帰させるタイミングの他の例としては、例えば、ノックアウトが完了した後の、プレス装置の加圧部が原位置に戻るまでのタイミングが挙げられる。
鍛造行程において確実に円環状工具を原位置に戻しておく点、鍛造部への材料の供給、プレス後のコイン状製品の排出などの点からは、図1や図2のように、原位置から鍛造開始までのストロークを原動節の動作として利用する構成が好ましい。
【0028】
本発明は、極印の絵柄に対して位置が変化していることが明らかにわかるような不均一な斜めギザを持つコイン状製品の製造に対して、その有用性は顕著となる。
一方、本発明は、均一な斜めギザを持つコイン状製品を製造する場合にも、円環状工具が常に同じ位置に維持されるという特徴を有するので、どの位置の凹凸型にトラブルが発生しているかが製品を見ただけで位置が分かる(即ち、円環状工具の中央孔内を全周観察してトラブル箇所を探し出す必要がない)という、製造者側に対するメリットがある。
【0029】
不均一なギザのデザインに限定はないが、例えば、図3(a)、図4(a)に示すように、〔局所的に均一な斜めギザが密集する区間〕が、間隔をおいて外周面に分散しているパターン、図4(b)に示すように、斜めギザのピッチが連続的に変化するパターン、凸稜幅および/または溝幅が規則的にまたは不規則に変化するパターンなどが挙げられる。
図3(a)や図4(a)の例において、斜めギザが形成されていない区間の外周面は、ギザの凸稜部の上面と同じ高さ(この場合の高さは、コイン状製品の直径方向についてのギザの凹凸の高さである)の面であっても、それを超える高さの面であっても、凹溝の底面と同じレベルにある面であっても、それよりも低い面であっても、凹凸の中間の高さの面であってもよい。
【0030】
本発明によって製造されるコイン状製品に限定はなく、装飾用のメダルやバッジ、遊戯用のメダル、貨幣などであってよい。なかでも、両方の面に極印を有するものは、極印面と斜めギザとを傷つけることなく量産できる本発明の利点が顕著になる。特に、本発明によって製造されるコイン状製品が貨幣である場合は、どの製品を抜き出して観察しても不均一な斜めギザが極印の絵柄に対して常に定位置に形成されているという、外観の均一性や、製造技術の特殊性から、識別性がより高くなる。
【実施例1】
【0031】
本実施例は、本発明の製造装置を実際に製作し、これを用いて本発明の製造方法を実施し、コイン状製品を製造した例である。
コイン状製品は、両面に極印を有し、外周側面に不均一な斜めギザを有するメダルである。該メダルの仕様は、外径が約30mm、厚さが約2mmであって、材料はニッケル黄銅である。斜めギザの稜線方向は、メダルの回転中心軸の方向とのなす角度を20°とした。斜めギザの不均一なパターンは、図3に示すように、ギザのある区間と、無い区間とを、それぞれ45度の中心角を持つ外周長さとなるようにし、4箇所ずつ交互に配置したパターンである。
【0032】
鍛造型装置および上記(A)のカム装置は、図1に示す構成とした。円環状工具1は、上下からスラスト軸受け(図示せず)によって支持されており、鍛造型装置に対して滑らかに回転可能である。
先のノックアウト時に正方向に回転した円環状工具を、逆回転させて原位置に復帰させるタイミングは、プレス装置の加圧部が原位置から鍛造へ向うストロークのタイミングとした。
カムのストローク量は8mmであり、カム先端の勾配の角度は45度、円環状工具の外周での変位量(戻し量)は約4mmである。
【0033】
この鍛造型装置を用いて上記材料を用いたメダルを製造したところ、先ず、ノックアウト時には、メダルが軸方向に移動するに従って、その斜めギザから受ける力で円環状工具が滑らかに回転し、しかもメダルは、円環状工具やカム装置の一部の慣性質量による抵抗を受けても下側のパンチから剥がれることもなく、良好な状態で型の上面にノックアウトされることが確認できた。
さらに、ノックアウト時に回転した円環状工具は、カム装置によって、鍛造が開始されるタイミングまでに原位置に復帰していることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の製造方法および装置によって、不均一な斜めギザが極印の絵柄に対して常に同じ位置に形成されるべきコイン状製品であっても、プレス装置を用いて量産できるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の装置の構成を概略的に示すと同時に、本発明の製造方法をも説明する図である。同図では、1つの図面の中に、円環状工具を斜視図として描き、カム装置を平面的に側面図として描いている。これは、円環状工具の回転状態を理解し易いようにし、かつ、カム装置の原理を理解し易いようにするためである。また、上下のパンチは、一点鎖線で描き、他の部品や符号の障害にならないよう、適宜、線を省略している。
【図2】本発明による製造装置に含まれるカム装置の他の構成例を示す断面図であって、レバーを介在させない、単純な構成例を示している。
【図3】本発明の有用性が特に顕著となる、不均一な斜めギザを有するコイン状製品の一例を示す図である。
【図4】本発明の有用性が特に顕著となる、不均一な斜めギザを有するコイン状製品の他の例を示す図である。
【図5】コイン状製品のギザを説明する図である。
【図6】斜めギザを有するコイン状製品を製造するための従来の金型構造および製造方法を概略的に示す図である。
【符号の説明】
【0036】
1 円環状工具
2、3 パンチ
4 カム装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
極印された面を有し外周側面に斜めギザを有するコイン状製品を、鍛造型装置を用いて製造するための製造方法であって、
該鍛造型装置は、プレス装置の加圧部にセットされ得、該加圧部は、原位置から鍛造位置へ向うストロークと、鍛造位置から原位置へ戻るストロークとを少なくとも鍛造型装置に与えるものであり、
該鍛造型装置内に、円環状工具をその回転中心軸を中心として回転できるように保持し、円環状工具の中央孔の内周壁面に形成すべき斜めギザ型用の凹凸を設け、
原位置にある円環状工具の中央孔内で、少なくとも一方に極印型用の凹凸が設けられた一対のパンチによって材料を挟んで加圧し製品の形状へ型鍛造し、
パンチの極印型用の凹凸に製品を密着させた状態で該パンチでその軸方向に製品を押して移動させると同時に、円環状工具を原位置から回転させながら製品をノックアウトし、
ノックアウト完了後から次の鍛造開始までのストロークにおいて、円環状工具を逆回転させて原位置に復帰させ、それによって、常に円環状工具が原位置にある状態で前記型鍛造を開始することを特徴とする、前記製造方法。
【請求項2】
円環状工具を逆回転させて原位置に復帰させる手段が、ノックアウト完了後から次の鍛造開始までのストロークのうちの少なくとも一部の動作を、円環状工具を原位置に復帰させる動作へと変換するように構成されたカム装置である、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
外周側面の斜めギザが、該ギザの凸稜幅および/または溝幅が不均一なギザである、請求項1または2記載の製造方法。
【請求項4】
コイン状製品が、両方の面に極印を有するメダルまたは貨幣である、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
極印された面を有し外周側面に斜めギザを有するコイン状製品を製造するための製造装置であって、
当該製造装置は、プレス装置の加圧部にセットされ得る鍛造型装置を少なくとも有し、該加圧部は、原位置から鍛造位置へ向う前進ストロークと、鍛造位置から原位置へ戻る後退ストロークとを少なくとも鍛造型装置に与えるものであり、
該鍛造型装置には、円環状工具がその回転中心軸を中心として回転できるように保持され、該円環状工具の中央孔の内周壁面には斜めギザ型用の凹凸が設けられ、かつ、鍛造型装置には、少なくとも一方に極印型用の凹凸が設けられた一対のパンチが設けられ、一対のパンチは円環状工具の中央孔内で材料を挟んで加圧し製品の形状へ型鍛造し得るように動作するものであり、鍛造完了後において、極印型用の凹凸を有するパンチがその軸方向に製品を押して型外へ移動させるとき、円環状工具が、コイン状製品に形成された斜めギザの移動を阻害しないように回転し、該製品がノックアウトされる構成とされており、
該鍛造型装置には、さらに、下記(A)のカム装置が設けられており、鍛造開始までの前進ストロークにおいて、または、ノックアウト完了後の後退ストロークにおいて、該(A)のカム装置が作動して円環状工具が原位置まで逆回転して復帰する構成となっており、それによって、該鍛造型装置は、型鍛造の開始時には円環状工具が原位置に復帰している構成となっていることを特徴とする、
前記製造装置。
(A)ノックアウト完了後から次の鍛造開始までのストロークのうちの少なくとも一部の動作を、円環状工具を原位置に復帰させる動作へと変換するように構成された、カム装置。
【請求項6】
外周側面の斜めギザが、該ギザの凸稜幅および/または溝幅が不均一なギザである、請求項5記載の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−215847(P2007−215847A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−41162(P2006−41162)
【出願日】平成18年2月17日(2006.2.17)
【出願人】(503208150)独立行政法人 造幣局 (8)
【Fターム(参考)】