説明

断熱性を備えた耐震壁構造、及び耐震壁構造の断熱性向上方法

【課題】波形鋼板を用いた耐震壁構造に断熱性を付加した場合であっても、設置コストを低減し、壁厚の増大を抑制することができる耐震壁構造を提供すること。
【解決手段】折り筋11が略水平状になるように設置面に立設された波形鋼板10と、当該波形鋼板10に並設された面材16とを備え、波形鋼板10は、上下方向に間隔を隔てて配置された複数の第1側部12と、上下方向においては複数の第1側部12の相互間に対応する位置に配置されるものであって面材16に対して第1側部12よりも遠方に配置される第2側部13と、第1側部12と第2側部13を相互に連接する傾斜部14と、第1側部12、第2側部13及び傾斜部14にて囲繞された略水平帯状の空間部15とを備え、空間部15を挟んで第2側部13に対向する位置において第1側部12に対して接触することで、当該空間部15を閉鎖空間部とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震等による建造物の揺れを低減するための耐震壁構造に関し、特に、断熱性を備えた耐震壁構造、及び耐震壁構造の断熱性向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、各種建造物の外壁又は内壁には、断熱性を付加した耐震壁構造が設けられている。このような耐震壁構造の一例として、外壁と、ブレース或いは筋交い等の斜め部材から形成される耐震要素との間に形成された空間に、断熱材を充填する構造が提案されている(例えば特許文献1参照)。この構造においては、所定の数に分割された断熱材を、耐震要素を備えた外壁の所定の部位に順番にはめ込むことができるので、耐震要素が複雑に配置された耐震壁構造であっても、円滑に断熱材を取り付けることができる。
【0003】
【特許文献1】特開2004−76319号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
耐震要素としては、ブレース或いは筋交い等の斜め部材以外にも波形鋼板がある。したがって、波形鋼板と、断熱材とを組み合わせた耐震壁構造が考えられる。この耐震壁構造によれば、波形鋼板の弾塑性履歴特性により、大地震による大振幅の振動に対して、振動エネルギーを吸収することができると共に、断熱材により断熱性を付加することができる。
【0005】
しかしながら、このように波形鋼板と断熱材とを組み合わせた耐震壁構造には、コスト面及び構造面について種々の問題が生じ得る。
【0006】
まず、コスト面に関しては、断熱材を備えることで、耐震壁構造の設置コストが高くなるという問題があった。例えば、波形鋼板に断熱材を吹き付ける場合、断熱材の材料費に加えて、波形鋼板に断熱材を吹き付けるための施工費が必要であった。あるいは、建物の内外装に使用される仕上げ材に断熱材を用いる場合、通常の仕上げ材に比べて材料費が割高となっていた。
【0007】
また、構造面については、断熱材を設けることで、耐震壁構造の壁厚が増大するという問題があった。例えば、波形鋼板と仕上げ材の間に断熱材又は保温材等を配置した場合、断熱材又は保温材等の所定の性能を発揮するため、これら断熱材等の幅厚を確保する必要があった。また、仕上げ材に断熱材を用いる場合、通常のものより幅厚が増大するケースがあった。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、波形鋼板を用いた耐震壁構造に断熱性を付加した場合であっても、設置コストを低減し、壁厚の増大を抑制することができる耐震壁構造、及び耐震壁構造の断熱性向上方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、請求項1に記載の断熱性を備えた耐震壁構造は、折り筋が略水平状になるように設置面に立設された波形鋼板と、当該波形鋼板に並設された面材とを備え、前記波形鋼板は、上下方向に間隔を隔てて配置された複数の第1側部と、上下方向においては前記複数の第1側部の相互間に対応する位置に配置されるものであって前記面材に対して前記第1側部よりも遠方位置に配置される第2側部と、これら第1側部と第2側部を相互に連接する傾斜部と、これら第1側部、第2側部及び傾斜部にて囲繞された略水平帯状の空間部とを備え、前記面材は、前記波形鋼板よりも熱伝導率の低い材料にて形成され、前記空間部を挟んで前記第2側部に対向する位置において前記第1側部に対して直接的に接触するように又は接合部を介して間接的に接触するように配置されることで、当該空間部を閉鎖空間部とすることを特徴とする。
【0010】
また、請求項2に記載の断熱性を備えた耐震壁構造は、請求項1に記載の断熱性を備えた耐震壁構造において、前記面材を、前記波形鋼板の両側方に配置したことを特徴とする。
【0011】
また、請求項3に記載の断熱性を備えた耐震壁構造は、請求項1又は2に記載の断熱性を備えた耐震壁構造において、前記面材を前記第1側部に対して直接的に接触するように配置する構成において、前記面材を前記波形鋼板の前記第1側部に対して直接的に接着することを特徴とする。
【0012】
また、請求項4に記載の断熱性を備えた耐震壁構造は、請求項1又は2に記載の断熱性を備えた耐震壁構造において、前記面材を前記第1側部に対して接合部を介して間接的に接触するように配置する構成において、前記接合部を略水平に配置された帯状の断熱材として形成したことを特徴とする。
【0013】
また、請求項5に記載の断熱性を備えた耐震壁構造は、請求項1から4のいずれか一項に記載の断熱性を備えた耐震壁構造において、前記面材を、薄厚状で可撓性のある合成樹脂製シートにて形成したことを特徴とする。
【0014】
また、請求項6に記載の断熱性を備えた耐震壁構造は、請求項1から4のいずれか一項に記載の断熱性を備えた耐震壁構造において、前記面材を、薄厚状で複層構造の紙製シートにて形成し、前記紙製シートの少なくとも片方の側面にアルミ箔を貼付したことを特徴とする。
【0015】
また、請求項7に記載の断熱性を備えた耐震壁構造は、請求項1から6のいずれか一項に記載の断熱性を備えた耐震壁構造において、前記面材における前記波形鋼板側とは反対側に、当該面材と非接触状に板材を並設させたことを特徴とする。
【0016】
また、請求項8に記載の断熱性を備えた耐震壁構造は、請求項1から6のいずれか一項に記載の断熱性を備えた耐震壁構造において、前記波形鋼板を、非接触状に複数並設し、前記面材を、前記波形鋼板の相互間に配置したことを特徴とする。
【0017】
また、請求項9に記載の断熱性を備えた耐震壁構造は、請求項8に記載の断熱性を備えた耐震壁構造において、前記波形鋼板間に一対の前記面材を非接触状に並設し、一方の前記面材を一方の前記波形鋼板と接触状に配置すると共に、他方の前記面材を他方の前記波形鋼板に並設したことを特徴とする。
【0018】
また、請求項10に記載の耐震壁構造の断熱性向上方法は、折り筋が略水平状になるように設置面に波形鋼板を立設する第1工程と、前記波形鋼板の側方に、複数の支持材を前記波形鋼板に沿って所定間隔で立設する第2工程と、前記複数の支持材の側方であって前記波形鋼板とは反対側の側方に、板材を前記波形鋼板に沿って配置する第3工程と、前記第1工程と前記第2工程との間に、前記波形鋼板の側面であって前記複数の支持材を立設する側の側面に、前記波形鋼板よりも熱伝導率の低い材料にて形成された面材を仮止めすることにより、当該波形鋼板の前記折り筋によって形成される空間部を閉鎖空間部とする第4工程とを含み、前記第2工程において、前記波形鋼板と前記複数の支持材との間に前記面材を挟持することによって、当該面材を前記波形鋼板に固定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
請求項1に係る断熱性を備えた耐震壁構造によれば、第2側部、傾斜部、及び面材にて閉鎖された空間部を設けたことで、空間部内の空気によって断熱材と同等の断熱性能を持たせることができ、波形鋼板に断熱性を付加することができる。特に、波形鋼板の凹凸を利用して空間部を形成し、面材を薄厚状のものにすることで、壁厚の増大を抑え、設置コストを低減することができる。
【0020】
また、請求項2に係る断熱性を備えた耐震壁構造によれば、面材を波形鋼板の両側方に配置したことで、壁厚を抑えながら空間部を増やすことができるため、断熱性を一層向上することができる。
【0021】
また、請求項3に係る断熱性を備えた耐震壁構造によれば、面材を第1側部に対して直接的に接着したことで、波形鋼板と面板との間隔が最も小さくなり、壁厚の増大を最も抑制することができる。
【0022】
また、請求項4に係る断熱性を備えた耐震壁構造によれば、接合部を帯状の断熱材にて形成したことで、波形鋼板と面板との直接接触をなくして熱伝導を抑制し、更に断熱性を向上することができる。
【0023】
また、請求項5に係る断熱性を備えた耐震壁構造によれば、面材を薄厚状で可撓性のある合成樹脂製シートにて形成したことで、面材の接着剤等が簡易で、面材を迅速に取り付けができるため、施工性が向上し、設置コストも低減することができる。
【0024】
また、請求項6に係る断熱性を備えた耐震壁構造によれば、面材を薄厚状で複層構造の紙製シートにて形成したことで、面材の接着剤等が簡易で、面材を迅速に取り付けができるため、施工性が向上し、設置コストも低減することができる。特に、紙製シートを用いた場合、シート自体が安価であり、薄くても断熱性に優れ、軽量であるために取り扱いが容易であり、かつ、カッター等にて簡単に切断が可能であり施工性に優れるという利点がある。さらに紙製シートの少なくとも片方の側面にアルミ箔を貼付することで、熱の放射伝達を低減させることができ、断熱性を一層向上させることができる。
【0025】
また、請求項7に係る断熱性を備えた耐震壁構造によれば、面材と非接触状に板材を並設させたことで、面材と板材との相互間に空間部が形成され、更に断熱性を向上することができる。
【0026】
また、請求項8に係る断熱性を備えた耐震壁構造によれば、複数の波形鋼板の相互間に面材を設けたことで、壁厚の増大を抑制しながら、断熱性を付加することができる。
【0027】
また、請求項9に係る断熱性を備えた耐震壁構造によれば、複数の波形鋼板の相互間に一対の面材を設けたことで、面材間に空間部が形成され、断熱性を一層向上することができる。
【0028】
また、請求項10に係る耐震壁構造の断熱性向上方法によれば、通常の耐震壁構造の工法において、支持材の立設前に面材を取り付けるだけで、耐震壁構造に断熱性を持たせることが可能となる。特に、面材を仮止めした後、波形鋼板と支持材で面材を挟持することで当該面材の固定を行うため、面材を全面に渡って波形鋼板に接着等する手間が省け、耐震壁構造の断熱化を一層簡易かつ迅速に行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下に添付図面を参照して、この発明に係る断熱性を備えた耐震壁構造、及び耐震壁構造の断熱性向上方法の各実施の形態を詳細に説明する。まず、〔I〕各実施の形態に共通の基本的概念を説明した後、〔II〕各実施の形態の具体的内容について説明し、〔III〕最後に、各実施の形態に対する変形例について説明する。ただし、各実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0030】
〔I〕各実施の形態に共通の基本的概念
まず、各実施の形態に共通の基本的概念について説明する。各実施の形態に係る断熱性を備えた耐震壁構造は、任意の建造物の外壁や内壁として適用可能な構造であり、概略的には、折り筋が略水平になるように設置面に立設された波形鋼板と、当該波形鋼板に並設された面材を備えて構成されている。このように波形鋼板を支持材として用いることで、壁構造の剛性を高め、基本的な耐震性を確保している。
【0031】
各実施の形態に係る断熱性を備えた耐震壁構造の特徴の一つは、波形鋼板の各部と面材の相互間の配置を工夫することで、波形鋼板に断熱性を付加している点にある。すなわち、波形鋼板の折り筋の内部に形成される略水平帯状の空間部に空気を蓄えることで、空気に断熱材と同等の断熱性能を持たせることができ、波形鋼板に断熱性を付加することができる。また、この空間部と面材とを接触させて閉鎖空間とすることで、空間部の空気の対流を抑制することができる。さらに、この面材の材料は、波形鋼板よりも熱伝導率の低い材料であればよく、例えば段ボールシートを用いることで、断熱材に比べて壁厚を小さくすることができ、設置費用を低減することができる。
【0032】
〔II〕各実施の形態の具体的内容
次に、本発明に係る各実施の形態の具体的内容について説明する。
【0033】
〔実施の形態1〕
まず実施の形態1について説明する。この実施の形態1は、単層の波形鋼板の側方に面材を備えた形態である。
【0034】
(構成)
図1は、実施の形態1に係る断熱性を備えた耐震壁構造1の構成を示す正面図であり、図2は、図1のA−A矢視断面図である。この断熱性を備えた耐震壁構造1は、波形鋼板10、及び面材16を備えて構成されている。
【0035】
(構成−波形鋼板)
波形鋼板10は、弾塑性履歴特性によって建造物の振動エネルギーを吸収するものである。具体的には、この波形鋼板10は、全体として方形状に形成されており、鉛直方向に略沿う方向で設置面Gに立設されている。波形鋼板10を構成する材質は任意であり、例えば、普通鋼材に比べて小さな応力で降伏する低降伏点鋼が該当する。
【0036】
この波形鋼板10の具体的な設置方法は任意であるが、例えば、波形鋼板10の上下には略水平配置された平板が溶接されると共に、波形鋼板10の左右には略鉛直配置された平板(図示省略)が溶接され、これら各平板には複数のスタッドボルト(図示省略)が直交状に溶接されている。そして、このスタッドボルトを内包するようにコンクリート枠を枠組し、この枠体にコンクリートを打設することにより、波形鋼板10の周囲にコンクリート柱2を設けると同時に、このコンクリート柱2にスタッドボルトを埋設することで、このスタッドボルトを介して波形鋼板10をコンクリート柱2に緊結することができる。
【0037】
この波形鋼板10は、平板状の原板をプレス機によって曲げ加工することで構成されたもので、相互に略平行な複数の折り筋11を備えている。実施の形態1では、図1に示すように、各折り筋11が略水平になるような向きで、波形鋼板10が配置されている。図3は、図2の要部拡大図である。図3に示すように、この折り筋11は、3つに大別することができ、具体的には、上下方向に間隔を隔てて配置された複数の第1側部12と、上下方向においては複数の第1側部12の相互間に対応する位置に配置されるものであって面材16に対して第1側部12よりも遠方位置に配置される第2側部13と、これら第1側部12と第2側部13を相互に連接する傾斜部14とに分けられる。また、これら第2側部13及び傾斜部14にて囲繞された略水平帯状の空間部15を備えている。
【0038】
(構成−面材)
このように構成された波形鋼板10の一方の側方には、面材16が配置されている。この面材16は、空間部15を閉鎖状態にするためのものであり、薄厚状にて形成され、第1側部12に対して接着剤等で固着されている。第1側部12と面材16との固着方法は任意であるが、空間部15内の対流I(後述の図5に図示)を抑制するために密閉性を高めることが好ましく、例えば、水平方向に沿って連続的に塗布して、又は複数の第1側部12の全てに接着剤を塗布して、第1側部12と面材16を固着する。ただし、必ずしも厳密に空間部15を密閉状にする場合に限定されず、所望の断熱性を維持できる限りにおいて、第1側部12と面材16の相互間に隙間が生じることは許容される。例えば、1枚の広幅の面材16を、波形鋼板10の最上方の第1側部12と最下方の第1側部12のみに接着した状態で張設し、その他の第1側部12については面材16を非接着で密接させることで、空間部15を閉鎖状態としてもよい。あるいは、波形鋼板10の一つの第1側部12に面材16を接着させ、当該第1側部12に隣接する第1側部12には面材16を非接着で密接させる等、面材16を接着させる第1側部12を交互に配置してもよい。
【0039】
また、面材16の種類は任意であるが、面材16を波形鋼板10と同様に熱伝導率が高い鋼板等にて形成した場合には、建物の内外の熱がヒートブリッジ現象によって波形鋼板10と面材16の間で熱交換されるおそれがあるため、面材16は波形鋼板10よりも熱伝導率が低い材料にて形成されている。また、波形鋼板10の変形にある程度追従できる程度の伸縮性を有することが好ましい。
【0040】
例えば、実施の形態1では、薄厚状で可撓性のある合成樹脂製シートや、薄厚状で複層構造の紙製シートを用いることが好ましい。合成樹脂製シートとしては、ビニールシートやポリエチレンシートの他、気泡緩衝材を用いてもよい。特に、気泡緩衝材は、それ自身が空気層を持っているため、断熱性を一層向上させることができる。複層構造の紙製シートとしては、段ボールシートを用いることができる。段ボールシートについても、それ自身が空気層を持っているため、断熱性を一層向上させることができる。このように段ボールシートを用いる場合には、熱の放射伝達を低減させるために、当該段ボールシートの少なくとも片方の側面にアルミ箔を貼付することがより好ましい。また、段ボールシートの片方の側面にアルミ箔を貼付する場合、空間部15内に熱を放射伝達しないようにするため、当該段ボールシートにおける波形鋼板10側とは反対側の側面に貼付することが好ましい。
【0041】
傾斜部14及び面材16にて閉鎖された空間部15内には、空気が蓄えられている。空気は、建物外の熱H(後述の図4、5に図示)が建物内の空気に伝達されることを抑制し、又は建物内の熱が建物外に漏洩することを抑制する。この空気は、第1側部12と面材16を接着剤によって固着することで、空間部15内に保持されている。
【0042】
(耐震壁構造の機能)
このように構成された耐震壁構造1の機能は以下の通りである。
図4は、面材16を設けていない耐震壁構造1における建物の内外の熱交換を示した概略図である。図4に示すように、波形鋼板10のみの構造を想定すると、建物外の熱Hが、波形鋼板10を介して建物内の空気に伝達されることで、建物の内外の熱交換が行われる。ここで、波形鋼板10は鋼材等の金属で形成されているため、波形鋼板10を介した建物の内外との熱交換は効率よく行われる。したがって、建物外の熱Hに依存して、建物内の温度は変動し易くなる。
【0043】
図5は、図3の耐震壁構造1における建物の内外の熱交換を示した概略図である。図5に示すように、波形鋼板10と建物の外側に面材16を設けた場合、まず、建物外の熱Hが面材16を介して空間部15内の空気に伝達される。ここで、空気の熱伝導率は0.019W/mK(空気の流れが静止状態である場合)であり、熱伝導率が非常に低い。また、空気の熱伝導率は、断熱材に使用されるグラスウールの熱伝導率0.036W/mK(密度が24Kg/m)と比較しても低い。これにより、空間部15内の空気は、熱絶縁体となって建物外の熱Hを遮断する。このため、空間部15内の空気の熱が波形鋼板10を介して建物内の空気に伝達されるが、当該空間部15内の空気の温度変化が抑制されるので、建物内の温度への影響が大幅に低減される。
【0044】
一方、空気は対流Iを起しやすいため、熱を伝える媒介として機能する性質を有している。すなわち、建物外の熱Hが面材16及び波形鋼板10に伝達されて、波形鋼板10及び面材16と、空間部15内の空気との間に温度差が生じることで、空間部15内に対流Iが発生する。これに対して、空間部15内では空気が閉鎖空間内に保持されているので、空間部15内の上下の空気移動が制限され、空間部15内の対流Iが抑制される。さらに、面材16を波形鋼板10より熱伝導率を低い材料にて形成しているので、波形鋼板10と面材16との熱の伝達が阻害され、空間部15内の対流Iが抑制される。
【0045】
(耐震壁構造の施工方法)
次に、耐震壁構造1の施工方法について説明する。実施の形態1においては、耐震壁構造1の施工方法は、2つのタイプに大別される。
【0046】
一つは、波形鋼板10を設置面Gに立設する前に面材16を固着する方法である。この方法は、まず、プレス機によって曲げ加工された波形鋼板10と面材16とを接着剤等により固着する。例えば、第1側部12を上向きにして波形鋼板10を倒した状態で、第1側部12に接着剤を塗布し、接着剤を塗布した第1側部12に面材16を固着する。特に、面材16はロール状に巻き取っておき、このロール状の面材16を波形鋼板10に沿って転がしながら第1側部12に固着することで、広範囲に渡って面材16を一括作業で迅速に貼付できる。ここで、複数の面材16をつなぎ合わせて使用する場合には、空間部15内の密閉性を良くするために、面材16と面材16との継ぎ目に粘着シール等を貼付してもよい。また、強度の低い面材16を用いる場合、面材16を保護するために所定の強度を有する被覆材を用いて、面材16を覆うことが好ましい。次に、波形鋼板10を設置面Gに立設して固定する。この方法によれば、波形鋼板10と面材16の固着作業が迅速、且つ正確にできる。
【0047】
もう一つは、波形鋼板10を設置面Gに立設した後に面材16を固着する方法である。この方法は、まず、プレス機によって曲げ加工された波形鋼板10を設置面Gに立設して固定する。次に、波形鋼板10の第1側部12に接着剤を塗布し、接着剤を塗布した第1側部12に面材16を固着する。特に、面材16はロール状に巻き取っておき、このロール状の面材16の上端を波形鋼板10の上端の第1側部12に固着した後、このロール状の面材16を波形鋼板10に沿って転がしながら第1側部12に固着することで、広範囲に渡って面材16を一括作業で迅速に貼付できる。この方法によれば、波形鋼板10とコンクリート柱2との緊結によって生じる第1側部12間の変形誤差を考慮して、波形鋼板10と面材16の固着作業ができる。
【0048】
(実施の形態1の効果)
このように実施の形態1によれば、第2側部13、傾斜部14、及び面材16にて閉鎖された空間部15内に空気を蓄えることで、波形鋼板10に断熱性を付加することができる。特に、波形鋼板10の凹凸を利用して空間部15を形成し、面材16を薄厚状のものにすることで、壁厚の増大を抑えることができる。また、断熱材として空気を使用することで、設置コストを低減することができる。
【0049】
また、面材16の材料は波形鋼板10よりも熱伝導率が低い材料であればよいので、例えば、面材16に段ボールシートや気泡緩衝材を用いることで、容易、且つ迅速に取り付けができるため、施工性を向上することができる。
【0050】
〔実施の形態2〕
次に、実施の形態2について説明する。この実施の形態2は、波形鋼板と面材との相互間に断熱帯を設けた形態である。実施の形態2の構成は、特記する場合を除いて実施の形態1の構成と略同一であり、実施の形態1の構成と略同一の構成についてはこの実施の形態1で用いたのと同一の名称又は符号を必要に応じて付して、その説明を省略する(実施の形態3から6においても同じ)。
【0051】
(構成)
図6は、実施の形態2に係る断熱性を備えた耐震壁構造1の拡大断面図であり、図7は、図6の斜視図である。この断熱性を備えた耐震壁構造1は、波形鋼板20、面材26、及び断熱帯27を備えて構成されている。波形鋼板20の折り筋21は、第1側部22、第2側部23、及び傾斜部24を備えて構成され、これら第2側部23及び傾斜部24にて囲繞された略水平帯状の空間部25を備えている。
【0052】
(断熱帯の構成)
断熱帯27は、波形鋼板20と面板26との熱伝達を遮断するものである。この断熱帯27は、略水平に配置された帯状体であり、第1側部22と面材26との相互間に複数設けられ、第1側部22及び面材26に対して接着剤等により固着されている。断熱帯27の設置方法は任意であるが、例えば、断熱帯27を水平方向に沿って連続的に設ける。第1側部22と断熱帯27、又は面材26と断熱帯27の固着方法は任意であるが、例えば、空間部25内の密閉性を高めるために、水平方向に沿って接着剤を連続的に塗布し、又は断熱帯27の側面の全てに接着剤を塗布して、第1側部22と断熱帯27、又は面材26と断熱帯27とを固着する。この断熱帯27の種類は任意であるが、波形鋼板20又は面材26よりも熱伝導率が低い材料が好ましく、例えば、グラスウール、高密度ロックウール、スポンジ、発泡ウレタンを用いてもよい。
【0053】
第1側部22、傾斜部24、面材26、及び断熱帯27にて閉鎖された空間部25内には、空気が蓄えられている。空気は、建物の内外の熱交換を抑制するもので、第1側部22と面材26とを断熱帯27を介して接着剤によって固着することで、空間部25内に保持されている。
【0054】
(断熱帯の機能)
このように構成された断熱帯27の機能は以下の通りである。
図8は、図6の耐震壁構造1における建物の内外の熱交換を示した概略図である。図8に示すように、波形鋼板20と面材26の相互間に断熱帯27を設けた場合、建物外の熱Hが面材26、断熱帯27、及び波形鋼板20に伝達されて、波形鋼板20、面材26及び断熱帯27と、空間部25内の空気との間に温度差が生じることで、空間部25内に対流Iが発生する。これに対して、断熱帯27を波形鋼板20又は面材26より熱伝導率を低い材料にて形成しているので、波形鋼板20と面材26との熱伝達が遮断され、空間部25の対流Iが抑制されると共に、ヒートブリッジ現象の発生を防止する。
【0055】
(実施の形態2の効果)
このように実施の形態2によれば、実施の形態1と略同様の効果に加えて、第1側部22と面材26との相互間に断熱帯27を設けたことで、第1側部22と面材26との熱伝達が抑制され、更に断熱性を向上することができる。特に、空間部25の対流Iを抑制することができると共に、ヒートブリッジ現象の発生を防止することができる。
【0056】
〔実施の形態3〕
次に、実施の形態3について説明する。この実施の形態3は、波形鋼板の両側方に面材を設けた形態である。
【0057】
(構成)
図9は、実施の形態3に係る断熱性を備えた耐震壁構造1の拡大断面図である。この断熱性を備えた耐震壁構造1は、波形鋼板30、及び面材36A、36Bを備えて構成されている。波形鋼板30の折り筋31は、第1側部32、第2側部33、及び傾斜部34を備えて構成され、これら第2側部33及び傾斜部34にて囲繞された略水平帯状の空間部35を備えている。
【0058】
(面材の構成)
面材36A、36Bは、波形鋼板30の空間部35を閉鎖状態にするためのものである。この面材36A、36Bは、薄厚状にて形成されており、波形鋼板30の両側方に配置されている。また、面材36Aは、第1側部32に対して接着剤等によって固着され、面材36Bは、第2側部33に対して接着剤等によって固着されている。第1側部32と面材36A、又は第2側部33と面材36Bとの固着方法は任意であるが、例えば、空間部35内の密閉性を高めるために、水平方向に沿って連続的に塗布して、又は複数の第1側部32の全てに接着剤を塗布して、第1側部32と面材36A、又は第2側部33と面材36Bとを固着する。
【0059】
第2側部33、傾斜部34、及び面材36A、又は第1側部32、傾斜部34、及び面材36Bにて閉鎖された空間部35内には、空気が蓄えられている。空気は、建物の内外の熱交換を抑制するものであり、第1側部32と面材36Aを接着剤等によって固着し、又は第2側部33と面材36Bを接着剤等によって固着することで、空間部35内に保持されている。
【0060】
(面材の機能)
このように構成された面材の機能は以下の通りである。
図10は、図9の耐震壁構造1における建物の内外の熱交換を示した概略図である。図10に示すように、波形鋼板30の両側方に面材36A、36Bを配置した場合、まず、建物外の熱Hが面材36Aを介して(或いは、面材36A及び波形鋼板30を介して)空間部35内の空気に伝達される。この空間部35内の空気は、絶縁体となって建物外の熱Hを遮断する。このため、空間部35内の空気の熱が波形鋼板30及び面材36Bを介して(或いは、面材36Bを介して)建物内の空気に伝達されるが、当該空間部35内の空気の温度変化が抑制されるので、建物内の温度への影響が大幅に低減される。
【0061】
また、建物外の熱Hが面材36A、36B及び波形鋼板30に伝達されて、波形鋼板30及び面材36A、36Bと、空間部35内の空気との間に温度差が生じることで、空間部35内に対流Iが発生する。これに対して、面材36A、36Bを波形鋼板30より熱伝導率を低い材料にて形成しているので、波形鋼板30と面材36A、36Bとの熱の伝達が阻害され、空間部35内の対流Iが抑制されると共に、ヒートブリッジ現象の発生を防止する。
【0062】
この他にも、波形鋼板30は、断熱性を付加することができるかぎりにおいて、任意の構造にて構成可能である。図11は、変形例に係る耐震壁構造1の一例を示す拡大断面図である。この変形例では、波形鋼板30と面材36A、又は波形鋼板30と面材36Bの相互間に略水平に配置された断熱帯37が備えられている。具体的には、断熱帯37は、第1側部32と面材36Aとの相互間、及び第2側部33と面材36Bとの相互間に複数設けられ、第1側部32、第2側部33及び面材36A、36Bに対して接着剤等により固着されている。
【0063】
この構造によれば、波形鋼板30と面材36A、36Bの相互間に断熱帯37を設けたことで、波形鋼板30と面材36A、36Bとの熱伝達が遮断され、空間部35内の対流Iを抑制できると共に、ヒートブリッジ現象の発生を防止できる。
【0064】
(実施の形態3の効果)
このように実施の形態3によれば、実施の形態1と略同様の効果に加えて、波形鋼板30の両側方に面材36A、36Bを配置したことで、第1側部32、傾斜部34、及び面材36Bにて閉鎖された空間部35内に空気が蓄えられ、更に断熱性を向上することができる。また、波形鋼板30の凹凸を利用して空間部35を形成し、面材36A、36Bを薄厚状のものにすることで、壁厚の増大を抑えることができる。
【0065】
〔実施の形態4〕
次に、実施の形態4について説明する。この実施の形態4は、波形鋼板の両側方に面材を設け、更に板材を設けた形態である。
【0066】
(構成)
図12は、実施の形態4に係る断熱性を備えた耐震壁構造1の拡大断面図である。この断熱性を備えた耐震壁構造1は、波形鋼板40、面材46A、46B及び板材48Aを備えて構成されている。波形鋼板40の折り筋41は、第1側部42、第2側部43、及び傾斜部44を備えて構成され、これら第2側部43及び傾斜部44にて囲繞された略水平帯状の空間部45Aを備えている。
【0067】
(板材の構成)
板材48Aは、建物の内外装に使用する仕上げ材である。この板材48Aは、略方形状のものであり、波形鋼板40の側方に配置された面材46Aにおける波形鋼板40側とは反対側に、面材46Aと非接触状に並設されている。板材48Aの設置方法は任意であるが、例えば、板材48Aは、鉛直方向に略沿う方向で設置面Gに立設された長尺状のスタッド48Bに対して、ビス等により固定されている。この板材48Aの種類は任意であるが、例えば、モルタル、タイル、石膏ボード等が該当する。
【0068】
面材46Aと板材48Aとの相互間に設けられた空間部45Bには、空気が蓄えられている。空気は、建物の内外の熱交換を抑制するものであり、面材46A、コンクリート柱2上部、及び設置面Gに取り囲まれることで、空間部45B内に保持されている。
【0069】
(板材の機能)
このように構成された板材48Aの機能は以下の通りである。
図13は、図12の耐震壁構造1における建物の内外の熱交換を示した概略図である。図13に示すように、波形鋼板40の両側方に面材46A、46Bを配置した場合、まず、建物外の熱Hが板材48Aを介して空間部45B内の空気に伝達される。この空間部45B内の空気は、絶縁体となって建物外の熱Hを遮断するため、当該空間部45Bの空気の温度は変わらない。次に、空間部45B内の空気の熱が面材46Aを介して(或いは、面材46A及び波形鋼板40を介して)空間部45A内の空気に伝達される。この空間部45A内の空気は、空間部45B内の空気と同様に、絶縁体となって建物外の熱Hを遮断する。このため、空間部45Aの空気の熱が波形鋼板40及び面材46Bを介して(或いは、面材46Bを介して)建物内の空気に伝達されるが、当該空間部45A内の空気の温度変化が抑制されるので、建物内の温度への影響が大幅に低減される。
【0070】
(耐震壁構造の施工方法)
次に、耐震壁構造1の施工方法について説明する。実施の形態4においては、実施の形態1で説明した方法と同様に、波形鋼板10を設置面Gに立設する前に面材16を固着する方法と、波形鋼板10を設置面Gに立設した後に面材16を固着する方法のいずれを採用してもよい。特に、後者の方法を採用する場合には、以下の手順で施工を行うことで、面材16の施工を一層簡易化することが可能となる。すなわち、まず、折り筋が略水平状になるように波形鋼板10を設置面Gに立設し(第1工程)、複数のスタッド48Bを波形鋼板10に沿って所定間隔で立設し(第2工程)、複数のスタッド48Bの側方であって波形鋼板10とは反対側の側方に、板材48Aを波形鋼板10に沿って配置する(第3工程)。
【0071】
ここで、第1工程と第2工程との間に、波形鋼板10の側面であって複数のスタッド48Bを立設する側の第1の側面42に、面材16を仮止めすることにより、波形鋼板10の折り筋41によって形成される空間部45Aを閉鎖空間部とする(第4工程)。この仮止めは、例えば、第1の側面42に一定間隔で断続的に接着剤を塗布し、この接着剤にて面材16を第1の側面42に接着する。そして、上述した第2工程においては、波形鋼板10と複数のスタッド48Bとの間に面材16を挟持することによって、当該面材16を波形鋼板10に固定する。ここでは、長尺のスタッド48Bによって面材16が波形鋼板10に押し付けられるので、面材16を波形鋼板10に密着することが可能となる。
【0072】
(実施の形態4の効果)
このように実施の形態4によれば、実施の形態3と略同様の効果に加えて、板材48Aを面材46Aに非接触状に並設したことで、板材48Aと面材46Aの相互間に空気が蓄えられ、更に断熱性を向上することができる。
【0073】
特に、面材16を仮止めした後、波形鋼板10とスタッド48Bで面材16を挟持することで当該面材16の固定を行うため、面材16を全面に渡って波形鋼板10に接着等する手間が省け、耐震壁構造の断熱化を一層簡易かつ迅速に行うことが可能となる。
【0074】
〔実施の形態5〕
次に、実施の形態5について説明する。この実施の形態5は、複層の波形鋼板の相互間に面材を設けた形態である。
【0075】
(構成)
図14は、実施の形態5に係る断熱性を備えた耐震壁構造1の拡大断面図である。この断熱性を備えた耐震壁構造1は、波形鋼板50A、50B、及び面材56Aを備えて構成されている。波形鋼板50A、50Bの折り筋51A、51Bは、第1側部52A、52B、第2側部53A、53B、及び傾斜部54A、54Bを備えて構成され、これら第2側部53A、53B及び傾斜部54A、54Bにて囲繞された略水平帯状の空間部55A、55Bを備えている。
【0076】
(波形鋼板の構成)
波形鋼板50A、50Bは、弾塑性履歴特性によって建造物の振動エネルギーを吸収するものである。この波形鋼板50A、50Bは、全体として方形状に形成されており、鉛直方向に略沿う方向で設置面Gに立設されている。ここで、波形鋼板50A、50Bは同一形状であり、当該波形鋼板50A、50Bの各部が略平行になるように配置されている。
【0077】
(面材の構成)
面材56Aは、波形鋼板50Aの空間部55Aを閉鎖状態にするためのものであり、波形鋼板50A、50Bの相互間に配置されている。具体的には、この面材56Aは、薄厚状にて形成されており、第1側部52Aに対して接着剤等によって固着されている。第1側部52Aと面材56Aとの固着方法は任意であるが、例えば、空間部55A内の密閉性を高めるために、水平方向に沿って連続的に塗布して、又は複数の第1側部52Aの全てに接着剤を塗布して、第1側部52Aと面材56Aを固着する。
【0078】
第2側部53A、傾斜部54A、及び面材56Aにて閉鎖された空間部55A内、又は第1側部52B、傾斜部54B、及び面材56Aにて囲繞された空間部55B内には、空気が蓄えられている。空気は、建物の内外の熱交換を抑制するものであり、第1側部52Aと面材56Aを接着剤等によって固着することで、空間部55A内に保持され、又は第2側部53Bと面材56Aとの相互間に設けられた狭小な空間部55Cによって、空間部55B内に保持されている。
【0079】
(耐震壁構造の機能)
このように構成された耐震壁構造1の機能は以下の通りである。
図15は、図14の耐震壁構造1における建物の内外の熱交換を示した概略図である。図15に示すように、波形鋼板50A、50Bの相互間に面材56Aを配置した場合、この耐震壁構造1の機能は2つのタイプに大別される。
【0080】
一つは、まず、建物外の熱Hが波形鋼板50Aを介して空間部55A内の空気に伝達される。この空間部55A内の空気は、絶縁体となって建物外の熱Hを遮断する。このため、空間部55A内の空気の熱が面材56A、空間部55C、及び波形鋼板50Bを介して建物内の空気に伝達されるが、当該空間部55A内の空気の温度変化が抑制されるので、建物内の温度への影響が大幅に低減される。
【0081】
もう一つは、まず、建物外の熱Hが波形鋼板50A、及び面板56Aを介して空間部55B内の空気に伝達される。この空間部55B内の空気は、絶縁体となって建物外の熱Hを遮断する。このため、空間部55B内の空気の熱が面材56A及び波形鋼板50Bを介して建物内の空気に伝達されるが、当該空間部55B内の空気の温度変化が抑制されるので、建物内の温度への影響が大幅に低減される。
【0082】
この他にも、波形鋼板50A、50Bは、断熱性を付加することができるかぎりにおいて、任意の構造にて構成可能である。図16は、変形例に係る耐震壁構造1の一例を示す拡大断面図である。この変形例では、波形鋼板50Aの一つの第1側部52Aに面材56Bを接着させ、当該第1側部52Aに隣接する第1側部52Bには面材56Bを非接着で密接させる等、面材56Bを接着させる第1側部52Aを交互に配置している。この構造によれば、地震等により波形鋼板50Aが鉛直変形した場合に、面材56Bと第1側部52Aとの剥離を防止することができる。
【0083】
また、図17は、変形例に係る耐震壁構造1の一例を示す拡大断面図である。この変形例では、波形鋼板50A、50Bと面材56Aの相互間に略水平に配置された断熱帯57が備えられている。具体的には、断熱帯57は、第1側部52Aと面材56Aとの相互間、又は第2側部53Bと面材56Aとの相互間に複数設けられ、第1側部52A、第2側部53B、又は面材56Aに対して接着剤等により固着されている。この構造によれば、波形鋼板50A、50Bと面材56Aの相互間に断熱帯57を設けたことで、波形鋼板50A、50Bと面材56Aとの熱伝達が遮断され、空間部55A、55B内の対流Iを抑制できると共に、ヒートブリッジ現象の発生を防止できる。
【0084】
(実施の形態5の効果)
このように実施の形態5によれば、実施の形態1と略同様の効果に加えて、波形鋼板50A、50Bの相互間に面材56Aを配置したことで、波形鋼板50Aと面材56A、又は波形鋼板50Bと面材56Aの相互間に空気が蓄えられ、壁厚の増大を抑制しながら、断熱性を付加することができる。
【0085】
〔実施の形態6〕
次に、実施の形態6について説明する。この実施の形態6は、複層の波形鋼板の相互間に複数の面材を設けた形態である。
【0086】
(構成)
図18は、実施の形態6に係る断熱性を備えた耐震壁構造1の拡大断面図である。この断熱性を備えた耐震壁構造1は、波形鋼板60A、60B、及び面材66A、66Bを備えて構成されている。波形鋼板60A、60Bの折り筋61A、61Bは、第1側部62A、62B、第2側部63A、63B、及び傾斜部64A、64Bを備えて構成され、これら第2側部63A、63B及び傾斜部64A、64Bにて囲繞された略水平帯状の空間部65A、65Bを備えている。
【0087】
(面材の構成)
面材66Aは、波形鋼板60Aの空間部65Aを閉鎖状態にするためのものであり、波形鋼板60A、60Bの相互間に配置されている。具体的には、この面材66Aは、薄厚状にて形成されており、面材66Bとは第1側部62Aに対して接着剤等によって固着されている。第1側部62Aと面材66Aとの固着方法は任意であるが、例えば、空間部65A内の密閉性を高めるために、水平方向に沿って連続的に塗布して、又は複数の第1側部62Aの全てに接着剤を塗布して、第1側部62Aと面材66Aを固着する。
【0088】
また、面材66Bは、波形鋼板60Bの空間部65Bを閉鎖状態にするためのものであり、波形鋼板60Bと面材66Aの相互間に配置されている。具体的には、この面材66Bは、薄厚状にて形成されており、面材66Aと非接触状に並設され、第2側部63Bに対して接着剤等によって固着されている。第2側部63Bと面材66Bとの固着方法は任意であるが、例えば、空間部65B内の密閉性を高めるために、水平方向に沿って連続的に塗布して、又は複数の第2側部63Bの全てに接着剤を塗布して、第2側部63Bと面材66Bを固着する。
【0089】
第2側部63A、傾斜部64A、及び面材66Aにて閉鎖された空間部65A内、第1側部62B、傾斜部64B、及び面材66Bにて閉鎖された空間部65B内、又は面材66A、66Bとの相互間に設けられた空間部65C内には、空気が蓄えられている。空気は、建物の内外の熱交換を抑制するものであり、第1側部62Aと面材66A、又は第2側部63Bと面材66Bを接着剤等によって固着することで、空間部65A、又は空間部65B内に保持されている。
【0090】
(耐震壁構造の機能)
このように構成された耐震壁構造1の機能は以下の通りである。
図19は、図18の耐震壁構造1における建物の内外の熱交換を示した概略図である。図19に示すように、波形鋼板60A、60Bの相互間に面材66A、66Bを配置した場合、この耐震壁構造1の機能は2つのタイプに大別される。
【0091】
一つは、まず、建物外の熱Hが波形鋼板60Aを介して空間部65A内の空気に伝達される。この空間部65A内の空気は、絶縁体となって建物外の熱Hを遮断するので、当該空間部65A内の空気の温度変化が抑制される。次に、この空間部65A内の空気の熱が面材66Aを介して空間部65C内の空気に伝達される。空間部65C内の空気は、空間部65Aと同様に、絶縁体となって建物外の熱Hを遮断する。このため、空間部65C内の空気の熱が面材66A及び波形鋼板60Bを介して建物内の空気に伝達されるが、当該空間部65C内の空気の温度変化が抑制されるので、建物内の温度への影響が大幅に低減される。
【0092】
もう一つは、まず、建物外の熱Hが波形鋼板60A、及び面板66Aを介して空間部65C内の空気に伝達される。この空間部65C内の空気は、絶縁体となって建物外の熱Hを遮断するので、当該空間部65C内の空気の温度変化が抑制される。次に、この空間部65C内の空気の熱が面材66Bを介して空間部65B内の空気に伝達される。空間部65B内の空気は、空間部65Cと同様に、絶縁体となって建物外の熱Hを遮断する。このため、空間部65B内の空気の熱が波形鋼板60Bを介して建物内の空気に伝達されるが、当該空間部65B内の空気の温度変化が抑制されるので、建物内の温度への影響が大幅に低減される。
【0093】
(実施の形態6の効果)
このように実施の形態6によれば、実施の形態5と略同様の効果に加えて、波形鋼板60A、60Bの相互間に面材66A、66Bを配置したことで、面材66A、66Bの相互間に空気が蓄えられ、更に断熱性を向上することができる。
【0094】
〔III〕各実施の形態に対する変形例
以上、本発明に係る各実施の形態について説明したが、本発明の具体的な構成及び手段は、特許請求の範囲に記載した各発明の技術的思想の範囲内において、任意に改変及び改良することができる。以下、このような変形例について説明する。
【0095】
(解決しようとする課題や発明の効果について)
まず、発明が解決しようとする課題や発明の効果は、前記した内容に限定されるものではなく、本発明によって、前記に記載されていない課題を解決したり、前記に記載されていない効果を奏することもでき、また、記載されている課題の一部のみを解決したり、記載されている効果の一部のみを奏することがある。
【0096】
(各実施の形態の組合せ)
各実施の形態に示した構成は、相互に組合せることができ、例えば、実施の形態4の板材48Aを、実施の形態5、6の構造に適用してもよい。なお、この板材48Aは、波形鋼板の両側方に配置してもよい。
【0097】
(波形鋼板について)
波形鋼板の断面形状については、上述の形状以外にも種々の形状を採用することができる。また、3枚以上の波形鋼板を並設することもできる。
【0098】
(面材について)
面材としては、上述した材料以外にも、グラスウール、ロックウール、スポンジ等を用いることで、断熱性以外にも、遮音性や耐火性を付加することができる。
【0099】
(空間部について)
空間部内には、空気が蓄えられていたが、これに限られず、例えば、空気よりも熱伝導率が低いクリプトン、又はアルゴン等を充填することで、断熱性を一層向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0100】
この発明に係る断熱性を備えた耐震壁構造1は、地震等による建造物の揺れを低減するための耐震壁構造1に断熱性を付加することに適用でき、特に、壁厚の増大を防止し、設置コストの低減を図るのに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】実施の形態1に係る断熱性を備えた耐震壁構造の構成を示す正面図である。
【図2】図1のA−A矢視断面図である。
【図3】図2の要部拡大図である。
【図4】面材を設けていない耐震壁構造における建物の内外の熱交換を示した概略図である。
【図5】図3の耐震壁構造における建物の内外の熱交換を示した概略図である。
【図6】実施の形態2に係る断熱性を備えた耐震壁構造の拡大断面図である。
【図7】図6の斜視図である。
【図8】図6の耐震壁構造における建物の内外の熱交換を示した概略図である。
【図9】実施の形態3に係る断熱性を備えた耐震壁構造の拡大断面図である。
【図10】図9の耐震壁構造における建物の内外の熱交換を示した概略図である。
【図11】変形例に係る耐震壁構造の一例を示す拡大断面図である。
【図12】実施の形態4に係る断熱性を備えた耐震壁構造の拡大断面図である。
【図13】図12の耐震壁構造における建物の内外の熱交換を示した概略図である。
【図14】実施の形態5に係る断熱性を備えた耐震壁構造の拡大断面図である。
【図15】図14の耐震壁構造における建物の内外の熱交換を示した概略図である。
【図16】変形例に係る耐震壁構造の一例を示す拡大断面図である。
【図17】変形例に係る耐震壁構造の一例を示す拡大断面図である。
【図18】実施の形態6に係る断熱性を備えた耐震壁構造の拡大断面図である。
【図19】図18の耐震壁構造における建物の内外の熱交換を示した概略図である。
【符号の説明】
【0102】
1 耐震壁構造
2 コンクリート柱
10、20、30、40、50A、50B、60A、60B 波形鋼板
11、21、31、41、51A、51B、61A、61B 折り筋
12、22、32、42、52A、52B、62A、62B 第1側部
13、23、33、43、53A、53B、63A、63B 第2側部
14、24、34、44、54A、54B、64A、64B 傾斜部
15、25、35、45A、45B、55A〜55C、65A〜65C 空間部
16、26、36A、36B、46A、46B、56A、56B、66A、66B 面材
27、37、57 断熱帯
48A 板材
48B スタッド
G 設置面
H 建物外の熱
I 対流

【特許請求の範囲】
【請求項1】
折り筋が略水平状になるように設置面に立設された波形鋼板と、当該波形鋼板に並設された面材とを備え、
前記波形鋼板は、上下方向に間隔を隔てて配置された複数の第1側部と、上下方向においては前記複数の第1側部の相互間に対応する位置に配置されるものであって前記面材に対して前記第1側部よりも遠方位置に配置される第2側部と、これら第1側部と第2側部を相互に連接する傾斜部と、これら第1側部、第2側部及び傾斜部にて囲繞された略水平帯状の空間部とを備え、
前記面材は、前記波形鋼板よりも熱伝導率の低い材料にて形成され、前記空間部を挟んで前記第2側部に対向する位置において前記第1側部に対して直接的に接触するように又は接合部を介して間接的に接触するように配置されることで、当該空間部を閉鎖空間部とすること、
を特徴とする断熱性を備えた耐震壁構造。
【請求項2】
前記面材を、前記波形鋼板の両側方に配置したこと、
を特徴とする請求項1に記載の断熱性を備えた耐震壁構造。
【請求項3】
前記面材を前記第1側部に対して直接的に接触するように配置する構成において、前記面材を前記波形鋼板の前記第1側部に対して直接的に接着すること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の断熱性を備えた耐震壁構造。
【請求項4】
前記面材を前記第1側部に対して接合部を介して間接的に接触するように配置する構成において、前記接合部を略水平に配置された帯状の断熱材として形成したこと、
を特徴とする請求項1又は2に記載の断熱性を備えた耐震壁構造。
【請求項5】
前記面材を、薄厚状で可撓性のある合成樹脂製シートにて形成したこと、
を特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の断熱性を備えた耐震壁構造。
【請求項6】
前記面材を、薄厚状で複層構造の紙製シートにて形成し、
前記紙製シートの少なくとも片方の側面にアルミ箔を貼付したこと、
を特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の断熱性を備えた耐震壁構造。
【請求項7】
前記面材における前記波形鋼板側とは反対側に、当該面材と非接触状に板材を並設させたこと、
を特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の断熱性を備えた耐震壁構造。
【請求項8】
前記波形鋼板を、非接触状に複数並設し、
前記面材を、前記波形鋼板の相互間に配置したこと、
を特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の断熱性を備えた耐震壁構造。
【請求項9】
前記波形鋼板間に一対の前記面材を非接触状に並設し、
一方の前記面材を一方の前記波形鋼板と接触状に配置すると共に、他方の前記面材を他方の前記波形鋼板に並設したこと、
を特徴とする請求項8に記載の断熱性を備えた耐震壁構造。
【請求項10】
折り筋が略水平状になるように設置面に波形鋼板を立設する第1工程と、
前記波形鋼板の側方に、複数の支持材を前記波形鋼板に沿って所定間隔で立設する第2工程と、
前記複数の支持材の側方であって前記波形鋼板とは反対側の側方に、板材を前記波形鋼板に沿って配置する第3工程と、
前記第1工程と前記第2工程との間に、前記波形鋼板の側面であって前記複数の支持材を立設する側の側面に、前記波形鋼板よりも熱伝導率の低い材料にて形成された面材を仮止めすることにより、当該波形鋼板の前記折り筋によって形成される空間部を閉鎖空間部とする第4工程とを含み、
前記第2工程において、前記波形鋼板と前記複数の支持材との間に前記面材を挟持することによって、当該面材を前記波形鋼板に固定すること、
を特徴とする耐震壁構造の断熱性向上方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2010−7393(P2010−7393A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−169608(P2008−169608)
【出願日】平成20年6月27日(2008.6.27)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】