説明

新脈管形成を活性化するD−マンノピラノース誘導体の新規な使用

本発明は、新脈管形成を制御するためのD-マンノピラノシドのある種の誘導体の使用に関する。これらの化合物は新脈管形成促進活性を有し、特に循環器疾患の治療または筋萎縮症の治療用の医薬組成物の調製に用いることができる。本発明は、ある種のD-マンノピラノシド誘導体、上記誘導体を含む医薬または化粧組成物、および脱毛を防止しおよび/または治療するための上記化粧組成物の使用にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新脈管形成(angiogenesis)を制御するためのある種のD−マンノピラノシド誘導体の使用に関する。これらの化合物は新脈管形成促進活性を示し、特に循環器疾患の治療または筋萎縮症の治療を目的とする医薬組成物の調製に用いることができる。本発明は、ある種のD−マンノピラノシド誘導体、これらの誘導体を含んでなる医薬または化粧組成物、および脱毛の予防および/または治療の目的での上記化粧組成物の使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
極めて多くの病状は、新脈管形成の現象に関連した要素または段階を有するものとして記載されている。とりわけ、多くの癌、糖尿病性網膜症、アテローム性硬化症、関節症、慢性関節リウマチ、乾癬、および炎症性病状または治癒の遅延と関連した病状が挙げられる。
【0003】
新脈管形成は、先在する毛細血管網状組織に由来する新生血管形成(neovascularization)の機構である。先在する血管からの小血管である毛細血管の発生は、好都合には胚の発生および胎盤の着床中に生じ、これは創傷の治癒または血管の閉塞の克服の事例であるが、最悪の場合には癌(腫瘍の増殖および転移の発生)、慢性関節リウマチ、糖尿病性網膜症または年齢と関連する黄斑変性などのある種の眼科疾患に見られる。これら総ての過程について、一般的機構は同じままである。内皮細胞の活性化によって、基底膜および周囲の細胞外マトリックスが分解する。定方向移動(oriented migration)の後に増殖期が続く。細胞は、次いで毛細血管型の構造に分化して組織の成長に必要な脈管網状組織を形成する。近年、新脈管形成は単一因子によって制御されているのではなく、正常細胞または腫瘍細胞によって産生されるインデューサーとインヒビターのバランスによって制御されていることが明らかになってきた。これらの因子の中で、繊維芽細胞増殖因子−2(FGF−2)および血管内皮増殖因子(VEGF)のようなポリペプチドが新脈管形成の重要なレギュレーターであると思われている。
【0004】
多くの分子が、新脈管形成の阻害または活性化効果について検討されてきた。特に、新脈管形成促進活性を示す分子は、循環器疾患の分野における数多くの研究の主題を形成している。実際に、新脈管形成促進分子(治療用新脈管形成)を用いることによる虚血性組織における新たな側副血管の形成は、循環器疾患、特に虚血における極めて有望な未来を表している。実際には、虚血性循環器疾患は、その予防および治療における進展にも関わらず、未だに先進工業国における罹病率および死亡率の主因となっている。アテローム性動脈硬化症の進行を遅くしかつ虚血による血栓偶発症候または病巣の発生を減少させようとする現在行われている治療法は確かに一層有効にはなってきたが、虚血性循環器疾患を減少させるには未だに十分ではない。修復または置換からなる治療法にも、同じことが当てはまり、血管形成術、ステント、バイパスおよび他の移植片が生命を救っているが、全般的問題が未だにある。従って、もう一つの治療法は、新たな代替血管の再生を促進することからなっている。
【0005】
しかしながら、この分野で今日までに行われた研究は、実際の生薬問題をも引き起こす遺伝子療法のような困難で複雑でありおよび/または組換えタンパク質の使用であって、投与後のバイオアベイラビリティーが常に完全に満足なものとは限らない効力が低い療法をもたらしてきた(Lazarous DF, Shou M, Stiber JA, et al., Cardiovasc Res 1997; 36: 78-85)。
【0006】
従って、合成と処方が容易であり、循環器疾患、特に虚血性疾患の予防および/または治療を目的とする薬剤の調製に特に用いることができる新脈管形成促進分子が実際に求められている。
【0007】
従って、これらの欠陥を総て除いて、新脈管形成促進活性を有する化合物であって、特に新脈管形成の活性化が有益である病状の治療薬剤の調製に用いることができるものを提供するために、本発明者らは、本発明の目的を形成する薬剤を開発した。
【0008】
本発明者らは、実際に以下に記載されるようなD−マンノピラノシドのある種の選択された誘導体(式(I)の化合物)が新脈管形成促進活性を示し、結果として循環器疾患や筋萎縮症のような新脈管形成の活性化が有益である病状の治療を目的とした医薬組成物の調製に特に用いることができることを見出した。
【0009】
従って、本発明は、新脈管形成の活性化に依存する病状の予防および/または治療を目的とする医薬組成物を調製するための、少なくとも1種類の下記の式(I)
【化1】

(上記式中、
は、線状または分岐状のC−Cアルキル基;ヒドロキシル、アミン、チオール、カルボキシル、アジドおよびニトリル基から選択される1個以上の官能基を有するアルキル基;飽和または不飽和のC−C炭化水素環;ヒドロキシル、アミン、C−Cアルキル、チオール、カルボキシル、アジドおよびニトリル基から選択される1個以上の官能基を有する飽和または不飽和のC−C炭化水素環;酸素、窒素および硫黄原子から選択される少なくとも1個のヘテロ原子を有する飽和または不飽和複素環を表し、
nは、0または1の整数であり、
は、下記の基(G)から(G
【化2】

(上記式中、
およびR’は、同一または異なり、水素またはナトリウム原子を表し、
矢印は、Rを有する炭素原子への基の連結点を表す)
から選択される)
の化合物の活性成分としての使用に関する。
【0010】
本発明によれば、Rについて記載したC−Cアルキル基の中では、メチル基が特に好ましい。
【0011】
について記載した官能化アルキル基の中では、特にC−Cモノおよびジヒドロキシアルキル、C−Cモノおよびジアミノアルキル、C−Cモノおよびジチオアルキル、およびC−Cモノおよびジカルボキシアルキル基を挙げることができる。
【0012】
について記載した炭化水素環の中では、特にシクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、フェニルおよびベンジル環を挙げることができる。
【0013】
について記載した複素環の中では、特にオキサジアゾール、トリアゾール、オキサゾール、イソキサゾール、イミダゾール、チアジアゾール、ピロール、テトラゾール、フラン、チオフェン、ピラゾール、ピラゾリン、ピラゾリジン、チアゾール、イソチアゾール、ピリジン、ピリミジン、ピペリジン、ピラン、ピラジンおよびピリダジン環を挙げることができる。
【0014】
上記の式(I)の化合物において、n=0であるときには、Rは好ましくは基Gであり、n=1であるときには、Rは好ましくは基G、GおよびGから選択される。
【0015】
本発明の好ましい態様によれば、式(I)の化合物が、Rが上記で定義した通りの基Gを表すものから選択されるときには、上記基Gにおいて、RおよびR’は好ましくは同一でありナトリウム原子を表す。
【0016】
上記の式(I)の化合物の中では、特に
メチル 7−アミノ−6,7−ジデオキシ−D−マンノヘプトピラノシド、
メチル 6−アジド−6−デオキシ−D−マンノピラノシド、
メチル 6−アミノ−6−デオキシ−D−マンノピラノシド、
メチル 7−(二ナトリウム)ホスホナト−6,7−ジデオキシ−D−マンノヘプトピラノシド、
メチル 7−ホスホナト−6,7−ジデオキシ−D−マンノヘプトピラノシド
を挙げることができる。
【0017】
これらの化合物の中では、メチル 7−(二ナトリウム)ホスホナト−6,7−ジデオキシ−D−マンノヘプトピラノシド、メチル 6−アジド−6−デオキシ−D−マンノピラノシドおよびメチル 7−アミノ−6,7−ジデオキシ−D−マンノヘプトピラノシドが特に好ましい。
【0018】
上記の式(I)の化合物の幾つかは、それ自体知られており、特に見苦しい傷跡の形成を減少させながら皮膚の治癒を向上させる目的で製薬分野において既に提案されている(Clavel, C. et al., Il Farmaco, 2005. 60. 721-725)。しかしながら、それらは、このために用いられたことは未だになく、これらの化合物の新脈管形成の調節に対する活性も報告されたことはない。それらの効果は、繊維症障害の予防に関するものである。
【0019】
新脈管形成の活性化が有益である病状の中では、とりわけ循環器疾患、特に虚血性疾患並びに筋萎縮症を挙げることができる。
【0020】
循環器疾患の予防および/または治療を目的とするときには、医薬組成物は循環器疾患の治療に有用な1種類以上の追加の活性成分を含むこともでき、それらの中では、特にアスピリンおよびヘパリンのような融解性凝固防止剤(liquefying anticoagulants)、レニン-アンジオテンシン系のインヒビター、β−遮断薬、ヒドロキシ−メチル−グルタリル−コエンチームA(HMG CoA)シンターゼのインヒビターなどを挙げることができる。
【0021】
筋萎縮症の治療を目的とするときには、本発明による医薬組成物は筋萎縮症の治療に有用な1種類以上の追加の活性成分を含むこともでき、それらの中では、特にソマトトロフィン(ヒト成長ホルモン)、エリトロポエチン(EPO)、ソマトメジン−Cという名称によっても知られているIGFなどのインスリン様増殖因子(IGF)、ステロイドなどを挙げることができる。
【0022】
上記の式(I)の化合物の中では、幾つかのものは自体新規であり、従って本発明のもう一つの目的を構成する。これらは、下式(I’)
【化3】

(上記式中、
R’は、線状または分岐状のC−Cアルキル基;ヒドロキシル、アミン、チオール、カルボキシル、アジドおよびニトリル基から選択される1個以上の官能基を有するアルキル基;飽和または不飽和のC−C炭化水素環;ヒドロキシル、アミン、C−Cアルキル、チオール、カルボキシル、アジドおよびニトリル基から選択される1個以上の官能基を有する飽和または不飽和のC−C炭化水素環;酸素、窒素および硫黄原子から選択される少なくとも1個のヘテロ原子を有する飽和または不飽和複素環を表し、
n’は、0または1の整数であり、
R’は、下記の基(G’)、(G’)および(G’
【化4】

(上記式中、
矢印は、R’を有する炭素原子上の基の連結点を表す)
から選択される)
のD−マンノピラノースの誘導体である。
【0023】
本発明によれば、R’について述べたC−Cアルキル基の中では、メチル基が特に好ましい。
【0024】
R’について引用した官能化アルキル基の中では、特にC−Cモノおよびジヒドロキシアルキル、C−Cモノおよびジアミノアルキル、C−Cモノおよびジチオアルキル、およびC−Cモノおよびジカルボキシアルキル基を挙げることができる。
【0025】
R’について引用した炭化水素環の中では、特にシクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、フェニルおよびベンジルを挙げることができる。
【0026】
好ましくは、これらの炭化水素環は、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサンおよびフェニル環から選択される。
【0027】
R’について引用した複素環の中では、特にオキサジアゾール、トリアゾール、オキサゾール、イソキサゾール、イミダゾール、チアジアゾール、ピロール、テトラゾール、フラン、チオフェン、ピラゾール、ピラゾリン、ピラゾリジン、チアゾール、イソチアゾール、ピリジン、ピリミジン、ピペリジン、ピラン、ピラジンおよびピリダジンを挙げることができる。
【0028】
上記の式(I’)の化合物において、n’=0であるときには、R’は好ましくは基G’であり、n’=1であるときには、R’は好ましくは基G’またはG’である。
【0029】
本発明の好ましい態様によれば、上記の式(I’)の化合物は、R’が基G’を表すものから選択される。
【0030】
上記の式(I’)の化合物の中では、特に
メチル 7−アミノ−6,7−ジデオキシ−D−マンノヘプトピラノシド、
メチル 6−アジド−6−デオキシ−D−マンノピラノシド、および
メチル 6−アミノ−6−デオキシ−D−マンノピラノシド
を挙げることができる。
【0031】
新脈管形成の活性化の特性によって、式(I’)の化合物は薬剤として用いることができる。
【0032】
従って、本発明は、薬剤、特に新脈管形成の活性化に依存する疾患の予防および/または治療を目的とする薬剤として使用するための上記で定義した式(I’)の化合物にも関する。
【0033】
更に詳細には、本発明は、心血管疾患、特に虚血性疾患の予防および/または治療を目的とする薬剤としてまたは筋萎縮症予防および/またはを目的とする薬剤として使用するための上記で定義した式(I’)の化合物に関する。
【0034】
本発明のもう一つの目的は、活性成分として、上記で定義した通りの少なくとも1種類の式(I’)の化合物と、少なくとも1種類の薬学上許容可能な賦形剤を含んでなる、医薬組成物である。
【0035】
当業者は、医薬組成物の投与経路に依存する1種類以上の薬学上許容可能な賦形剤を選択するであろう。この場合に、当業者であれば、勿論のことであるが、用いられる賦形剤または複数の賦形剤が本発明による組成物に付与された本質的特性と適合する点に留意するであろう。
【0036】
更に、薬剤または医薬組成物の形態(例えば、溶液、懸濁液、エマルション、錠剤、ゲルカプセル、座剤など)は、選択される投与経路によって決定される。
【0037】
従って、本発明の意味するところでは、医薬組成物の薬剤は、任意の適当な経路によって、例えば、経口、局所、全身、静脈内、筋肉内または粘膜内経路によって、またはパッチを用いて投与することができる。
【0038】
経口投与に適当な賦形剤の非制限的例として、特にタルク、ラクトース、澱粉およびその誘導体、セルロースおよびその誘導体、ポリエチレングリコール、アクリル酸ポリマー、ゼラチン、ステアリン酸マグネシウム、動物、植物または合成脂肪、パラフィン誘導体、グリコール、安定剤、防腐剤、酸化防止剤、湿潤剤、固結防止剤、分散剤、乳化剤、フレーバー向上剤、浸透剤、可溶化剤などを挙げることができる。
【0039】
薬剤および医薬組成物の処方および投与の手法は、当該産業分野で周知であり、当業者であれば特にレミントンの薬科学(Remington's Pharmaceutical Sciences)の最新版を参照することができる。
【0040】
本発明による式(I)の化合物は、脱毛を予防しおよび/または遅らせることを目的とする化粧組成物または栄養剤(food supplement)を調製するのに用いることもでき、これは本発明の追加の目的を構成する。
【0041】
本発明は、化粧上許容可能な媒質中に、少なくとも1種類の上記で定義した通りの式(I)の化合物を含んでなる化粧組成物にも関する。
【0042】
この組成物は、好ましくは液体形態、例えば、ローションまたはシャンプーの形態であり、頭皮に直接局所投与し、すすぎを行いまたは行わないことができる。
【0043】
本発明は、少なくとも1種類の上記で定義した通りの式(I)の化合物を含んでなる栄養剤に関する。
【0044】
この栄養剤は、特にカプセルまたは錠剤の形態をしており、経口による服用を目的としている。
【0045】
式(I)の化合物(式(I’)の化合物を包含する)は、下記に定義される式(II)のD−マンノピラノシドから、例えば、Van der Klein P.A.M. et al., Carbohydr. Res., 1992, 224, 193-200に記載の方法と同様にして、下記の反応工程図A
【化5】

(上記式中、
、Rおよびnは、式(I)の化合物について上記したのと同じ意味を有し、Nuは導入しようとする基Rに対応する親核性基を表す)
に準じて、式(IV)の対応する環状スルフェート前駆体の親核置換の後、サッカリド単位が有するヒドロキシル基の脱保護によって容易に調製することができる。
【0046】
この方法は、Khanjin N. A. et al., Tetrahedr. Lett., 2002, 43, 4017-4020による文献に記載の方法の適応に相当する。
【0047】
この方法によって調製した式(IV)の環状スルフェートは、白色粉末の形態で室温にて数ヶ月間保管することができ、分解は全く見られない。モノスルフェート塩の純粋な中間体は、脱保護段階の前に水とジクロロメタンのような溶媒との間で分配することによって未反応親核性基および他の不純物から容易に分離することができる。式(V)の化合物の環状モノスルフェートおよびイソプロピリデン基の同時かつ定量的開裂は、Amberlyst-15(H+)樹脂のようなイオン交換樹脂上で行うことができ、環状モノスルフェート基は10〜30分間でかつイソプロピリデン基はメタノール/テトラヒドロフラン混合物中で室温にて3〜5時間で脱保護することができる。この方法に準じて調製した総ての式(I)の化合物は、60〜95%の収率で得ることができる。
【実施例】
【0048】
上記の配合の他に、本発明は、以下の説明から明らかになる他の配合をも含んでなり、本発明による式(I’)の化合物の調製例、並びに式(I)に対応せず従って本発明の部分を形成しない他のD−マンノピラノース誘導体と比較して式(I)の化合物の新脈管形成促進活性の証明例、並びに新脈管形成阻害活性を有し従って本発明の部分を形成しない4種類のD−マンノピラノシド誘導体(DM)(DM1:メチル (二ナトリウム)−6−ホスフェート−D−マンノピラノシド;DM2:メチル 6,7−ジデオキシ−7−スルホナト−D−マンノヘプトピラノシド;DM3:メチル 6−デオキシ−6−マロネート−D−マンノピラノシドおよびDM4:(メチル 6,7−ジデオキシ−D−マンノヘプトピラノシド)ウロン酸)と比較して様々な本発明による式(I)の化合物6mg/mlの存在下での培養後のヒナドリ胚の血管新生の写真を示す添付図1に関連している。
【0049】
しかしながら、これらの例は単に本発明の例示の目的で挙げられているものであり、如何なる点においても本発明を何ら制限するものではないことを理解しなければならない。
【0050】
実施例1:メチル 7-アミノ-6,7-ジデオキシ-α-D-マンノ-ヘプトピラノシド(化合物I-1)の調製
【化6】

【0051】
1) 第一段階: メチル 2,3-O-イソプロピリデン-4,6-O-(環状スルフェート)-α-D-マンノピラノシド(化合物3)の調製
【化7】

【0052】
化合物(3)は、2つの副段階で対応するスルファイト(2)を介して中間体を精製することなく得た。
【0053】
1-a) 対応するスルファイト(2)の調製
【化8】

【0054】
メチル 2,3-O-イソプロピリデン-α-D-マンノピラノシド(1) 3.79 g (16.18ミリモル, 1当量)とトリエチルアミン6.75ml (48.54ミリモル, 3当量)を、ジクロロメタン(CH2Cl2) 75mlに溶解した。混合物を0℃に冷却し、塩化チオニル(SOCl2)1.3ml (17.80ミリモル, 1.1当量)を徐々に加えた。 塩化トリメチルアンモニウムの白色沈澱が即座に形成し、反応混合物は次第に黄色に変化した後、5 - 10分間で褐色に変化した。次いで、石油エーテル(PET)と酢酸エチル(EtOAc)の混合物(8/2 v/v)を移動相として用いて、薄層クロマトグラフィー(TLC)を行った。このTLCの結果は、出発材料は最早残っておらず(Rf = 0)、所望なスルファイトが2種類のジアステレオ異性体(Rf = 0.45および0.60)の形態で得られたことを示していた。次いで、反応混合物を濾過し、有機相を蒸留水、1N塩酸溶液(HCl)および再度蒸留水で洗浄した。これを硫酸ナトリウム(Na2SO4)上で乾燥し、濾過して、濃縮し、淡褐色固形物を得て、これを直ちに再度反応させた。
【0055】
1-b) スルファイト(2)のスルフェート(3)への酸化
【化9】

【0056】
上記の副段階1-a)で得た粗製スルファイト(2)(16.18ミリモル, 理論上1当量)を、CH2Cl2とアセトニトリル(CH3CN)の混合物(1/1 v/v)からなる溶液60mlに溶解した後、メタ過ヨウ素酸ナトリウム3.8 g (17.80ミリモル, 1.1当量)、水20mlおよび塩化ルテニウム14 mg (0.06ミリモル, 0.004当量)を連続して加えた。反応は発熱性であり、ヨウ素酸ナトリウム(NaIO3)の沈澱形成が極めて速やかに観察された。1時間反応後、TLC上ではスルファイトは全く残っておらず、スルフェート(3)のみが観察された。次いで、反応混合物を濾過し、CH2Cl2 100mlで希釈した。反応からの残留水を除去し、有機相を5%重炭酸ナトリウム(NaHCO3)で2回洗浄した後、蒸留水で洗浄した。それをNa2SO4上で乾燥し、濾過し、濃縮して、淡褐色固形物を得た。
【0057】
この固形物を活性炭の存在下にてできるだけ少量のCH2Cl2に溶解し、シリカ上で濾過した。シリカを、CH2Cl2 300mlで洗浄した。ルテニウム塩を含む褐色不純物が、表面に残った。次いで、得られた白色固形物を、更に精製することなく段階2)で用いた。
【0058】
収率: 2段階で84 %。
Rf: 0.48 (PET/EtOAc 7/3 v/v)。
MS: (ESI+/MeOH) m/z: 297 [M+H]+, 319 [M+Na]+
1H NMR(400.13 MHz, アセトン-d6)δppm: 1.38および1.53 (2s, 6H, H2); 3.46 (s, 3H, OCH3); 4.17 (td, 1H, J5-4 = J5-6b = 10.6 Hz, J5-6a = 5.5 Hz, H5); 4.32 (dd, 1H, J2-3 = 5.6 Hz, J2-1 = 0.4 Hz, H2); 4.42 (dd, 1H, J3-2 = 5.6 Hz, J3-4 = 7.7 Hz, H3); 4.59 (dd, 1H, J4-3 = 7.8 Hz, J4-5 = 10.4 Hz, H4); 4.64 (t, 1H, J6b-5 = 10.7 Hz, J6b-6a = -10.7 Hz, H6b); 4.87 (dd, 1H, J6a-5 = 5.5 Hz, J6a-6b = -10.5 Hz, H6a); 5.01 (d, 1H, J1-2 = 0.5 Hz, H1)。
13C NMR (100.62 MHz, CDCl3) δppm: 26.4および28.3 (2C, C2'); 56.1 (1C, OCH3); 58.9 (1C, C5); 72.3 (1C, C6); 73.6 (1C, C3); 76.3 (1C, C2); 84.6 (1C, C4); 99.4 (1C, C1); 111.0 (1C, C1')。
【0059】
2) 第二段階: メチル 6-シアノ-6-デオキシ-4-O-ナトリウムスルフェート-2,3-O-イソプロピリデン-α-D-マンノピラノシド(化合物4)の調製
【化10】

【0060】
段階1)の終わりに上記で得られたメチル 2,3-O-イソプロピリデン-4,6-O-(環状スルフェート)-α-D-マンノピラノシド (化合物3) 1 g (3.38ミリモル, 1当量)をジメチルホルムアミド(DMF) 3mlに溶解した後、シアン化ナトリウム 331 mg (6.75ミリモル, 2当量)を加えた。混合物を室温にて20時間攪拌した(磁気攪拌)。次いで、反応媒質を1% NaHCO3 20mlで希釈して(シアン化水素(HCN)の放出を防止し)、CH2Cl2 10mlで洗浄した。生成物を、有機相から蒸留水2 x 10mlで抽出した。合わせた水相を凍結乾燥して淡黄色固形物を得て、これは直ちに反応に使用するのに十分な純度であった。しかしながら、この生成物は、グラディエント溶出(CH2Cl2 - CH2Cl2/MeOH 91/9 v/v)を用いるシリカゲルクロマトグラフィーによって精製して、極淡黄色フォームを得ることもできる。
【0061】
収率: 定量的。
Rf: 0.49 (CH2Cl2/MeOH 85/15 v/v)。
【0062】
生成物は、アニスアルデヒドで暗赤色を呈した。
【0063】
MS(ESI+/MeOH) m/z: 384 [M+Na]+
MS(ESI+/MeOH) m/z: 322 [M-Na]-
1H NMR (400.13 MHz, アセトン-d6) δppm: 1.24および1.41 (2s, 6H, H2'); 2.76 (dd, 1H, J6a-5 = 9.3 Hz, J6a-6b = -17.3 Hz, H6a); 3.18 (dd, 1H, J6b-5 = 2.8 Hz, J6b-6a = -17.3 Hz, H6b); 3.46 (s, 3H, OCH3); 3.86 (td, 1H, J5-6a = J5-4 = 9.6 Hz, J5-6b = 2.8 Hz, H5); 4.15 (d, 1H, J2-3 = 7.4 Hz, H2); 4.21 (dd, 1H, J4-5 = 9.9 Hz, J4-3 = 7.0 Hz, H4); 4.44 (ddほとんど分割せず, 1H, H4); 4.93 (s, 1H, H1)。
13C NMR (100.62 MHz, アセトン-d6) δppm: 20.6 (1C, C6); 25.5および27.1 (2C, C2'); 54.5 (1C, OCH3); 64.9 (1C, C5); 75.6 (1C, C2); 76.3 (1C, C4); 76.9 (1C, C3); 98.1 (1C, C1); 109.8 (1C, C1'); 118.1 (1C, C7)。
【0064】
3) 第三段階: メチル 6-シアノ-6-デオキシ-α-D-マンノピラノシド(化合物5)の調製
【化11】

【0065】
上記の前段階で得られたメチル 6-デオキシ-6-シアノ-4-ナトリウムスルフェート-2,3-O-イソプロピリデン-α-D-マンノヘプトピラノシド(4) 873 mg (2.53ミリモル, 1当量)をメタノール(MeOH)とTHFの混合物(1/1; v/v)から構成される溶液20mlに溶解した後、Amberlyst-15 H+ 1 gを加えた。1時間15分間反応させた後、樹脂を濾過し、反応媒質を5% NaHCO3溶液でpH = 8に中和した。有機溶媒をロータリーエバポレーター上で留去し、残っている水を凍結乾燥した。混合物をMeOHに溶解し、不溶性のNaHCO3を濾別した。次いで、生成物をグラディエント溶出(CH2Cl2 - CH2Cl2/MeOH 92/8 v/v)を用いるシリカゲルクロマトグラフィーによって精製し、白色フォームを得た。
【0066】
収率: 72 %。
Rf: 0.56 (CH2Cl2/MeOH 85/15 v/v)。
MS: (ESI+/MeOH) m/z: 226 [M+Na]+, 242 [M+K]+, 429 [2M+Na]+
1H NMR (400.13 MHz, D2O) δppm: 2.86 (dd, 1H, J6a-5 = 7.4 Hz, J6a-6b = -17.3 Hz, H6a); 3.04 (dd, 1H, J6b-5 = 3.6 Hz, J6b-6a = -17.3 Hz, H6b); 3.44 (s, 3H, OCH3); 3.60 (t, 1H, J4-5 = J4-3 = 9.7 Hz, H4); 3.76 (dd, 1H, J3-4 = 9.6 Hz, J3-2 = 3.4 Hz, H3); 3.84 (ddd, 1H, J5-63 = 7.1 Hz, J5-6b = 3.2 Hz, J5-4 = 10.1 Hz, H5); 3.96 (dd, 1H, J2-3 = 3.4 Hz, J2-1 = 1.7 Hz, H2); 4.78 (d, 1H, J1-2 = 1.5 Hz, H1)。
13C NMR (100.62 MHz, D2O) δppm: 51.4 (1C, C6); 55.2 (1C, OCH3); 67.8 (1C, C5); 70.2 (1C, C2); 70.7 (1C, C3); 71.6 (1C, C4); 101.4 (1C, C1)。
【0067】
4) 第四段階: メチル 7-アミノ-6,7-ジデオキシ-α-D-マンノ-ヘプトピラノシド(化合物I-1)の調製
【0068】
上記で段階3)の終わりに得られたメチル 6-デオキシ-6-シアノ-α-D-マンノヘプトピラノシド (5) 450 mg (2.21ミリモル, 1当量)を水10mlに溶解した後、ラネーニッケルのスパーテル尖端量を水に懸濁したものを加えた。次いで、水素フラスコを反応上に置き、混合物をマグネティックスターラーで3時間攪拌した。次に、ニッケルを濾過した。次いで、メタノールをロータリーエバポレーターで留去し、残っている水を凍結乾燥した。
【0069】
Rf: 0.52 (iPrOH/NH4OH 5/5 v/v)。
MS: (ESI+/MeOH) m/z: 208 [M+H]+
MS: (ESI-/MeOH) m/z: 206 [M-H]-, 413 [2M-H]-
1H NMR (400.13 MHz, D2O) δppm: 1.57 (m, 1H, H7a); 1.88 (m, 1H, H7b); 2.68 (m, 1H, H6a); 2.78 (m, 1H, H6b); 3.25 (s, 3H, OCH3); 3.36 (t, 1H, J4-5 = J4-3 = 9.6 Hz, H4); 3.45 (td, 1H, J5-6a = J5-4 = 9.4 Hz, J5-6b = 2.7 Hz, H5); 3.57 (dd, 1H, J3-4 = 9.4 Hz, J3-2 = 3.5 Hz, H3); 3.79 (dd, 1H, J2-3 = 3.4 Hz, J2-1 = 1.7 Hz, H2); 4.57 (s, 1H, H1)。
13C NMR (100.62 MHz, D2O) δppm: 32.9 (1C, C7); 37.7 (1C, C6); 55.1 (1C, OCH3); 70.2 (1C, C2); 70.5 (1C, C4); 70.8 (1C, C3); 71.0 (1C, C5); 101.2 (1C, C1)。
【0070】
実施例2:メチル 6-アジド-6-デオキシ-α-D-マンノピラノシド (化合物I-2)の調製
【化12】

【0071】
1) 第一段階: メチル 6-アジド-6-デオキシ-4-O-ナトリウムスルフェート-2,3-O-イソプロピリデン-α-D-マンノピラノシド(化合物6)の調製
【化13】

上記で実施例1の段階1)の終わりに得られたメチル 2,3-O-イソプロピリデン-4,6-O(環状スルフェート)-α-D-マンノピラノシド (化合物3) 500 mg (1.69ミリモル, 1当量)を、THF 3mlに溶解した。ナトリウムアジド 143 mg (2.20ミリモル, 1.3当量)をこの溶液に懸濁した後、HMPT 1.1ml (6.08ミリモル, 3.6当量)を加えた。混合物を、マグネティックスターラーで室温にて12時間攪拌した。次いで、反応混合物をCH2Cl2 20mlで希釈した。生成物を蒸留水 2 x 10mlで抽出した。次に、この水相を、総てのHMPTが除去されるまでCH2Cl2で洗浄した。凍結乾燥後、このようにして得られた淡黄色固形物は、直ちに反応に用いるのに十分な純度であった。しかしながら、それは、グラディエントグラディエント溶出(CH2Cl2/MeOH 95/5 v/v - CH2Cl2/MeOH 92/8 v/v)を用いるシリカゲルクロマトグラフィーによって精製して、白色フォームを得ることができる。
【0072】
収率: 定量的。
Rf: 0.52 (CH2Cl2/MeOH 85/15 v/v)。
【0073】
生成物は、アニスアルデヒドでオレンジ/赤色を呈した。
MS: (ESI+/MeOH) m/z: 384 [M+Na]+
MS: (ESI-/MeOH) m/z: 338 [M-Na]-
1H NMR (400.13 MHz, アセトン-d6) δppm: 1.24および1.41 (2s, 6H, H2'); 3.31 (s, 3H, OCH3); 3.33 (dd, 1H, J6a-5 = 8.4 Hz, J6a-6b = -13.4 Hz, H6a); 4.41 (dd, 1H, J6b-5 = 2.2 Hz, J6b-6a = -13.4 Hz, H6b); 3.60 (m, 1H, H5); 4.00 (dd, 1H, J2-3 = 5.7 Hz, J2-1 = 0.6 Hz, H2); 4.10 (dd, 1H, J3-4 = 10.0 Hz, J3-2 = 6.8 Hz, H3); 4.25 (t, 1H, J4-5 = J4-3 = 6.2 Hz, H4); 4.77 (s, 1H, H1)。
13C NMR (100.62 MHz, アセトン-d6) δppm: 25.8および27.4 (2C, C2'); 52.3 (1C, C6); 54.7 (1C, OCH3); 69.0 (1C, C5); 75.1 (1C, C3); 75.8 (1C, C2); 77.0 (1C, C4); 98.5 (1C, C1); 109.9 (1C, C1')。
【0074】
2) 第二段階: メチル 6-アジド-6-デオキシ-α-D-マンノピラノシド(化合物I-2)の調製
【0075】
上記の前段階で得られたメチル 6-デオキシ-6-アジド-4-ナトリウムスルフェート-2,3-O-イソプロピリデン-α-D-マンノヘプトピラノシド (8) 611 mg (1.69ミリモル, 1当量)を、MeOHとTHFの混合物(1/1; v/v)から構成される溶液10mlに溶解した。Amberlyst-15 H+樹脂 1 gを加えた。1時間15分間の反応の後、樹脂を濾過し、反応混合物を5% NaHCO3でpH = 8まで中和した。有機溶媒をロータリーエバポレーター上で留去し、残っている水を凍結乾燥した。混合物をメタノールに溶解し、不溶性のNaHCO3を濾別した。次いで、生成物をグラディエントグラディエント溶出(CH2Cl2 - CH2Cl2/MeOH 94/6 v/v)を用いるシリカゲルクロマトグラフィーによって精製し、白色フォームを得た。
【0076】
収率: 79 %。
Rf: 0.50 (CH2Cl2/MeOH 9/1 v/v)。
MS: (ESI+/MeOH) m/z: 242 [M+Na]+
MS: (ESI-/MeOH) m/z: 218 [M-H]-, 437 [2M-H]-
1H NMR(400.13 MHz, D2O) δppm: 3.40 (s, 3H, OCH3); 3.54 (dd, 1H, J6a-5 = 6.2 Hz, J6a-6b = -13.3 Hz, H6a); 3.60-3.73 (m, 4H, H6b, H5. H4およびH3); 3.91 (dd, 1H, J2-3 = 3.3 Hz, J2-1 = 1.7 Hz, H2); 4.73 (d, 1H, J1-2 = 1.6 Hz, H1)。
13C NMR (100.62 MHz, D2O) δppm: 51.4 (1C, C6); 55.2 (1C, OCH3); 67.8 (1C, C5); 70.2 (1C, C2); 70.7 (1C, C3); 71.6 (1C, C4); 101.4 (1C, C1)。
【0077】
実施例3:メチル 6-アミノ-6-デオキシ-α-D-マンノピラノシド(化合物I-3)の調製
【化14】

【0078】
この化合物は、シュタウディンガー反応を用いて調製した。
【0079】
メチル 6-デオキシ-6-アジド-α-D-マンノピラノシド(上記の実施例2で得られた通りの化合物I-2) 130 mg (0.59ミリモル, 1当量)をTHF 3mlに溶解した。トリフェニルホスフィン 171 mg (0.65ミリモル, 1.1当量)および水16 μl (0.86ミリモル, 1.5当量)を、連続して混合物に加えた。12時間後、反応混合物を濃縮して、カラム上に直接投入した。シリカゲルクロマトグラフィーは、グラディエントグラディエント溶出(CH2Cl2/MeOH 8/2 v/v - CH2Cl2/MeOH 2/8 v/v)で行い、白色フォームを得た。
【0080】
収率: 64 %。
Rf: 0.10 (CH2Cl2/MeOH 8/2 v/v)。
MS: (ESI+/MeOH) m/z: 194 [M+H]+, 387 [2M+H]+, 409 [2M+Na]+
MS: (ESI-/MeOH) m/z: 192 [M-H]-, 385 [2M-H]-
1H NMR(400.13 MHz, D2O) δppm: 2.74 (dd, 1H, J6a-5 = 7.3 Hz, J6a-6b = -13.6 Hz, H6a); 2.96 (dd, 1H, J6b-5 = 2.3 Hz, J6b-6a = - 13.6 Hz, H6b); 3.36 (s, 3H, OCH3); 3.47 (td, 1H, J5-6a = J5-4 = 8.7 Hz, J5-6b = 2.3 Hz, H5); 3.51 (t, 1H, J4-5 = J4-3 = 9.4 Hz, H4); 3.69 (dd, 1H, J3-4 = 9.1 Hz, J3-2 = 3.5 Hz, H3); 3.88 (dd, 1H, J2-3 = 3.5 Hz, J2-1 = 1.7 Hz, H2); 4.70 (d, 1H, J1-2 = 1.6 Hz, H1)。
13C NMR (100.62 MHz, D2O) δppm: 41.9 (1C, C6); 55.0 (1C, OCH3); 68.6 (1C, C4); 70.3 (1C, C2); 70.8 (1C, C3); 73.2 (1C, C5); 101.2 (1C, C1)。
【0081】
実施例4:3種類の式(I)のD−マンノピラノシド誘導体の新脈管形成促進活性の証明−本発明の部分を形成しない4種類のD−マンノピラノシド誘導体との比較
【0082】
この実施例では、それぞれ上記の実施例1および2で調製した通りの式(I−1)、(I−2)の化合物並びにメチル 7−ホスホナト−6,7−ジデオキシ−D−マンノヘプトピラノシド(化合物I−4)の新脈管形成の活性化に対する活性を、新脈管形成阻害活性を有し従って本発明の部分を形成しない4種類のD−マンノピラノシド誘導体(DM)
DM1:メチル (二ナトリウム)−6−ホスフェート−D−マンノピラノシド、
DM2:メチル 6,7−ジデオキシ−7−スルホナト−D−マンノヘプトピラノシド、
DM3:メチル 6−デオキシ−6−マロネート−D−マンノピラノシド、
DM4:(メチル 6,7−ジデオキシ−D−マンノヘプトピラノシド)ウロン酸
と比較して検討した。
【0083】
この検討は、Ribatti D. et al., Nat. Protoc, 2006, 1(1), 85-91に記載の方法に若干の小変更を加えてヒナドリ胚で行った。
【0084】
1)材料および方法
この検討は、ヒナドリ胚の絨毛尿膜(CAM)で行った。CAMは、絨毛膜と尿膜との融合によってインキュベーションの4日目に形成した胚体外膜である。それは、誕生のときまでヒナドリ胚と胚体外環境との間のガス交換を可能にする。このCAMは、殻と直接接触している連続表面を形成する極めて厚い毛細管の網状組織から構成されている。この膜の速やかな毛細血管増殖は11日目まで継続し、その後、有糸分裂指数は急速に減少し、脈管系は孵化直前の18日目にはその最終的配置に到達する(21日目に孵化)。
【0085】
ホワイトレグホン種の受精卵を胚形成の開始時にインキュベーターに入れ、38℃の温度で一定湿度に保った。インキュベーションの2日目に、アルブミン2−3mlを取り出した後、殻に窓を開けてCAMを殻から外した。次に、窓を接着テープで密封し、卵をインキュベーターに戻して、実験の当日までその発生を継続した。7日目に、不活性合成ポリマー(直径0.4cmのニトロセルロースフィルターディスク)を試験化合物(6mg/mlPBS)の溶液のそれぞれ20μlに浸漬した後、CAM上に配置した。次いで、新脈管形成に対する試験物質の影響を12日目に観察し、新脈管形成促進または阻害応答を視覚により定量的に評価した。
【0086】
2)結果
得られた結果を写真撮影し、添付図1に示しているが、図において、化合物(I−1)、(I−2)および(I−4)は、ヒナドリ胚の血管新生に対して活性化効果を有することが分かる。反対に、本発明の部分を形成しない誘導体DM1、DM2、DM3およびDM4は、ヒナドリ胚の血管新生に対して阻害効果を有する。これらの結果は、D−マンノピラノースの誘導体が、極めて類似した化学構造にも関わらず、新脈管形成の調節に対して全く反対の効果を有する可能性があることを示している。
【0087】
これら総ての結果は、本発明による式(I)の化合物が新脈管形成促進作用を有することを示している。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明の部分を形成しない4種類のD−マンノピラノシド誘導体(DM)(DM1:メチル (二ナトリウム)−6−ホスフェート−D−マンノピラノシド;DM2:メチル 6,7−ジデオキシ−7−スルホナト−D−マンノヘプトピラノシド;DM3:メチル 6−デオキシ−6−マロネート−D−マンノピラノシドおよびDM4:(メチル 6,7−ジデオキシ−D−マンノヘプトピラノシド)ウロン酸)と比較して様々な本発明による式(I)の化合物6mg/mlの存在下での培養後のヒナドリ胚の血管新生の写真。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
新脈管形成の活性化に依存する病状の予防および/または治療を目的とする医薬組成物を調製するための、少なくとも1種類の下記の式(I)
【化1】

(上記式中、
は、線状または分岐状のC−Cアルキル基、ヒドロキシル、アミン、チオール、カルボキシル、アジドおよびニトリル基から選択される1個以上の官能基を有するアルキル基、飽和または不飽和のC−C炭化水素環、ヒドロキシル、アミン、C−Cアルキル、チオール、カルボキシル、アジドおよびニトリル基から選択される1個以上の官能基を有する飽和または不飽和のC−C炭化水素環、酸素、窒素および硫黄原子から選択される少なくとも1個のヘテロ原子を有する飽和または不飽和複素環を表し、
nは、0または1の整数であり、
は、下記の基(G)から(G
【化2】

(上記式中、
およびR’は、同一または異なり、水素またはナトリウム原子を表し、
矢印は、Rを有する炭素原子上の基の連結点を表す)
から選択される)
の化合物の活性成分としての使用。
【請求項2】
がメチル基を表す、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
について記載した官能化アルキル基が、C−Cモノおよびジヒドロキシアルキル、C−Cモノおよびジアミノアルキル、C−Cモノおよびジチオアルキル、およびC−Cモノおよびジカルボキシアルキル基から選択される、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
について記載した炭化水素環が、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、フェニル、ベンジル環から選択される、請求項1に記載の使用。
【請求項5】
について記載した複素環が、オキサジアゾール、トリアゾール、オキサゾール、イソキサゾール、イミダゾール、チアジアゾール、ピロール、テトラゾール、フラン、チオフェン、ピラゾール、ピラゾリン、ピラゾリジン、チアゾール、イソチアゾール、ピリジン、ピリミジン、ピペリジン、ピラン、ピラジンおよびピリダジン環から選択される、請求項1に記載の使用。
【請求項6】
式(I)の化合物において、n=0であるとき、Rは基Gであり、n=1であるときには、Rは基G、GおよびGから選択される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
式(I)の化合物が、Rが請求項1で定義した通りの基G(上記式中、RおよびR’は同一であり、ナトリウム原子を表す)を表すものから選択される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
式(I)の化合物が、
メチル 7−アミノ−6,7−ジデオキシ−D−マンノヘプトピラノシド、
メチル 6−アジド−6−デオキシ−D−マンノピラノシド、
メチル 6−アミノ−6−デオキシ−D−マンノピラノシド
メチル 7−(二ナトリウム)ホスホナト−6,7−ジデオキシ−D−マンノヘプトピラノシド、
メチル 7−ホスホナト−6,7−ジデオキシ−D−マンノヘプトピラノシド
から選択される、請求項1〜7のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
式(I)の化合物が、メチル 7−(二ナトリウム)ホスホナト−6,7−ジデオキシ−D−マンノヘプトピラノシド、メチル 6−アジド−6−デオキシ−D−マンノピラノシドおよびメチル 7−アミノ−6,7−ジデオキシ−D−マンノヘプトピラノシドから選択される、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
医薬組成物が、循環器疾患または筋萎縮症の予防および/または治療を目的とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の使用。
【請求項11】
医薬組成物が、循環器疾患の予防および/または治療を目的とし、かつ融解性凝固防止剤(liquefying anticoagulants)、レニン-アンジオテンシン系のインヒビター、β−遮断薬およびヒドロキシ−メチル−グルタリル−コエンチームA(HMG CoA)シンターゼのインヒビターから選択される1種類以上の追加の活性成分を更に含む、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
医薬組成物が、筋萎縮症の予防および/または治療を目的とし、かつソマトトロフィン、エリトロポエチン、インスリン様増殖因子およびステロイドから選択される1種類以上の追加の活性成分を更に含む、請求項10に記載の使用。
【請求項13】
下式(I’)
【化3】

(上記式中、
R’は、C−Cモノおよびジヒドロキシアルキル、C−Cモノおよびジアミノアルキル、C−Cモノおよびジチオアルキル、およびC−Cモノおよびジカルボキシアルキル基から選択される官能化アルキル基、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、フェニル環から選択される炭化水素環、またはオキサジアゾール、トリアゾール、オキサゾール、イソキサゾール、イミダゾール、チアジアゾール、ピロール、テトラゾール、フラン、チオフェン、ピラゾール、ピラゾリン、ピラゾリジン、チアゾール、イソチアゾール、ピリジン、ピリミジン、ピペリジン、ピラン、ピラジンおよびピリダジン環から選択される複素環を表し、
n’は、0または1の整数であり、
は、下記の基(G’)、(G’)および(G’
【化4】

(上記式中、
矢印は、R’を有する炭素原子上の基の連結点を表す)
から選択される)
のD−マンノピラノースの誘導体。
【請求項14】
R’が、C−Cモノおよびジヒドロキシアルキル、C−Cモノおよびジアミノアルキル、C−Cモノおよびジチオアルキル、およびC−Cモノおよびジカルボキシアルキル基から選択される官能化アルキル基を表す、請求項13に記載の誘導体。
【請求項15】
R’が、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、フェニル環から選択される炭化水素環を表す、請求項13に記載の誘導体。
【請求項16】
R’が、オキサジアゾール、トリアゾール、オキサゾール、イソキサゾール、イミダゾール、チアジアゾール、ピロール、テトラゾール、フラン、チオフェン、ピラゾール、ピラゾリン、ピラゾリジン、チアゾール、イソチアゾール、ピリジン、ピリミジン、ピペリジン、ピラン、ピラジンおよびピリダジン環から選択される複素環を表す、請求項13に記載の誘導体。
【請求項17】
n’=0であるとき、R’は基G’であり、n’=1であるときには、R’は基G’またはG’である、請求項13〜16のいずれか一項に記載の誘導体。
【請求項18】
式(I’)の化合物が、R’が基G’であるものから選択される、請求項13〜17のいずれか一項に記載の誘導体。
【請求項19】
式(I’)の化合物が、
メチル 7−アミノ−6,7−ジデオキシ−D−マンノヘプトピラノシド、
メチル 6−アジド−6−デオキシ−D−マンノピラノシド、および
メチル 6−アミノ−6−デオキシ−D−マンノピラノシド
から選択される、請求項13〜18のいずれか一項に記載の誘導体。
【請求項20】
薬剤として使用するための、請求項13〜19のいずれか一項に記載の式(I’)の化合物。
【請求項21】
新脈管形成の活性化に依存する疾患の予防および/または治療を目的とする薬剤として使用するための、請求項20に記載の化合物。
【請求項22】
循環器疾患および/または筋萎縮症の予防および/または治療を目的とする薬剤として使用するための、請求項13〜20のいずれか一項に記載の式(I’)の化合物。
【請求項23】
活性成分として、請求項13〜19のいずれか一項に記載の少なくとも1種類の式(I’)の化合物と、少なくとも1種類の薬学上許容可能な賦形剤を含んでなる、医薬組成物。
【請求項24】
脱毛を予防しおよび/または遅らせることを目的とする化粧組成物または栄養剤を調製するための、請求項1〜9のいずれか一項に記載の少なくとも1種類の式(I)の化合物の使用。
【請求項25】
化粧上許容可能な媒質中に請求項1〜9のいずれか一項に記載の少なくとも1種類の式(I)の化合物を含んでなる、化粧組成物。
【請求項26】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の少なくとも1種類の式(I)の化合物を含んでなる、栄養剤。

【図1】
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【公表番号】特表2011−519904(P2011−519904A)
【公表日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−507962(P2011−507962)
【出願日】平成21年5月5日(2009.5.5)
【国際出願番号】PCT/FR2009/000524
【国際公開番号】WO2009/138600
【国際公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(594016872)サントル、ナショナール、ド、ラ、ルシェルシュ、シアンティフィク、(セーエヌエルエス) (83)
【Fターム(参考)】