説明

新規なシクロアルケン誘導体およびそれを用いた有機電子素子

本発明は、新規なシクロアルケン誘導体およびそれを用いた有機電子素子に関する。本発明に係るシクロアルケン誘導体は、有機発光素子をはじめとする有機電子素子において、正孔注入、正孔輸送、電子注入、電子輸送、または発光物質の役割を果たすことができ、特に単独で発光ホストまたはドーパントとしての役割を果たすことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なシクロアルケン誘導体およびそれを用いた有機電子素子に関する。本出願は2009年1月20日に韓国特許庁に提出された韓国特許出願第10−2009−0004600号の出願日の利益を主張し、その内容の全ては本明細書に含まれる。
【背景技術】
【0002】
有機電子素子とは、正孔および/または電子を用いた電極と有機物との間の電荷交流を必要とする素子を意味する。有機電子素子は、動作原理により、下記のように大きく2つに分けることができる。第1には、外部の光源から素子に流入した光子によって有機物層からエキシトン(exiton)が形成され、このエキシトンが電子と正孔に分離し、この電子と正孔が各々他の電極に伝達され、電流源(電圧源)として用いられる形態の電子素子である。第2には、2個以上の電極に電圧または電流を加えて、電極と界面をなす有機物半導体に正孔および/または電子を注入し、注入された電子と正孔によって動作する形態の電子素子である。
【0003】
有機電子素子の例としては有機発光素子、有機太陽電池、有機感光体(OPC)、有機トランジスタなどが挙げられ、これらは全て素子の駆動のために正孔の注入または輸送物質、電子の注入または輸送物質、または発光物質を必要とする。
【0004】
以下では主に有機発光素子について具体的に説明するが、前記有機電子素子においては、正孔の注入または輸送物質、電子の注入または輸送物質、または発光物質が類似する原理で作用する。
【0005】
一般的に有機発光現象とは、有機物質を用いて電気エネルギを光エネルギに転換させる現象をいう。有機発光現象を用いる有機発光素子は、通常、正極と負極およびこの間に有機物層を含む構造を有する。ここで、有機物層は、有機発光素子の効率と安全性を高めるためにそれぞれ異なる物質からなる多層の構造である場合が多く、例えば正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層などからなる。このような有機発光素子の構造において、2つの電極の間に電圧を印加すれば、正極からは正孔が、負極からは電子が有機物層に注入され、注入された正孔と電子が結合した時にエキシトン(exciton)が形成され、このエキシトンが再び基底状態に落ちる時に光が出る。このような有機発光素子は、自発光、高輝度、高効率、低い駆動電圧、広い視野角、高コントラスト、高速応答性などの特性を有するものとして知られている。
【0006】
有機発光素子において、有機物層として用いられる材料は、機能により、発光材料と電荷輸送材料、例えば正孔注入材料、正孔輸送材料、電子輸送材料、電子注入材料などに分類することができる。前記発光材料は、分子量により、高分子型と低分子型に分類することができ、発光メカニズムにより、電子の一重項励起状態から由来する蛍光材料と電子の三重項励起状態から由来する燐光材料に分類することができる。また、発光材料は、発光色により、青色、緑色、赤色の発光材料とより良い天然色を実現するために必要な黄色および橙色の発光材料に区分することができる。
【0007】
一方、発光材料として1つの物質だけを用いる場合、分子間相互作用によって最大発光波長が長波長に移動して色純度が落ちるか、発光減衰効果によって素子の効率が減少する問題が発生する。したがって、色純度の増加とエネルギ転移を通じた発光効率を増加させるために、発光材料としてホスト/ドーパント系を用いることができる。その原理は、発光層を形成するホストよりエネルギバンドギャップが小さいドーパントを発光層に少量混合すれば、発光層から発生したエキシトンがドーパントに輸送され、効率の高い光を出す。この時、ホストの波長がドーパントの波長帯に移動するため、用いるドーパントの種類によって所望の波長の光を得ることができる。
【0008】
有機発光素子が前述したような優れた特徴を十分に発揮するためには、素子内の有機物層をなす物質、例えば正孔注入物質、正孔輸送物質、発光物質、電子輸送物質、電子注入物質などが安定で且つ効率的な材料からなることが先行されなければならないが、未だに安定で且つ効率的な有機発光素子用の有機物層材料の開発が十分になされていない現状である。したがって、新しい材料の開発が求められ続けており、このような材料開発の必要性は前述した他の有機電子素子も同様である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】韓国特許出願第10−2009−0004600号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、前記のような従来技術の問題点を解決するためのものであり、本発明の目的は、安定で且つ効率的な新規なシクロアルケン誘導体およびそれを用いた有機電子素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を解決するための本発明の一側面は下記化学式1で示される化合物を提供する。
【0012】
【化1】

【0013】
前記化学式1において、
は−[Ar]−Xで示される置換基であり、
pは0〜3の整数であり、lは1〜4の整数であり、mは0〜5の整数であり、
Arは、置換もしくは非置換のC−C50のアリーレン基、または置換もしくは非置換され、異種元素としてN、OまたはSを含むC−C50の2価の複素環基であり、
Ar’は、置換もしくは非置換のC−C50のアリール基、または置換もしくは非置換され、異種元素としてN、OまたはSを含むC−C50の複素環基であり、
Xは下記構造式のうちから選択された置換基であり、
【化2】

前記構造式において、Cyは、置換もしくは非置換のC−C50のアリール基、置換もしくは非置換され、異種元素としてN、OまたはSを含むC−C50の複素環基であり、
は、置換もしくは非置換のC−C40のアルキル基;置換もしくは非置換のC−C40のアルコキシ基;置換もしくは非置換のC−C40のアルケニル基;置換もしくは非置換のC−C50のアリール基;置換もしくは非置換のC−C50のアリールアミン基;置換もしくは非置換され、異種元素としてN、OまたはSを含むC−C50のヘテロアリールアミン基;置換もしくは非置換され、異種元素としてO、NまたはSを含むC−C50の複素環基;置換されたアミノ基;ニトリル基;ニトロ基;ハロゲン基;およびアミン基からなる群から選択され、
nは0〜5の整数であり、Oは0〜10の整数であり、Oが2以上である場合、Rは互いに同じであるか異なってもよく、
l、mまたはpが2以上である場合、Ar、Ar’、またはRは互いに同じであるか異なってもよい。
【0014】
前記目的を達成するための本発明の第2側面は、第1電極、第2電極、および前記第1電極と第2電極との間に配置された1層以上の有機物層を含む有機電子素子であって、前記有機物層のうちの1層以上は前記化学式1で示される化合物を含むことを特徴とする有機電子素子を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る化合物は、有機発光素子をはじめとする有機電子素子において、正孔注入、正孔輸送、電子注入および輸送、または発光物質の役割を果たすことができ、本発明に係る有機電子素子は、効率、駆動電圧、安定性の面に優れた特性を示す。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施状態による有機発光素子の構造を例示した概略図である。
【図2】本発明の製造例1で製造された化合物AのMSスペクトルである。
【図3】本発明の製造例2で製造された化合物2のMSスペクトルである。
【図4】本発明の製造例3で製造された化合物77のMSスペクトルである。
【図5】本発明の製造例4で製造された化合物CのMSスペクトルである。
【図6】本発明の製造例5で製造された化合物10のMSスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明をより具体的に説明する。
【0018】
本発明の一側面は下記化学式1で示される化合物に関する。
【0019】
【化3】

【0020】
前記化学式1において、
は−[Ar]−Xで示される置換基であり、
pは0〜3の整数であり、lは1〜4の整数であり、mは0〜5の整数であり、
Arは、置換もしくは非置換のC−C50のアリーレン基、または置換もしくは非置換され、異種元素としてN、OまたはSを含むC−C50の2価の複素環基であり、
Ar’は、置換もしくは非置換のC−C50のアリール基、または置換もしくは非置換され、異種元素としてN、OまたはSを含むC−C50の複素環基であり、
Xは下記構造式のうちから選択された置換基であり、
【0021】
【化4】

【0022】
前記構造式において、Cyは、置換もしくは非置換のC−C50のアリール基、置換もしくは非置換され、異種元素としてN、OまたはSを含むC−C50の複素環基であり、
は、置換もしくは非置換のC−C40のアルキル基;置換もしくは非置換のC−C40のアルコキシ基;置換もしくは非置換のC−C40のアルケニル基;置換もしくは非置換のC−C50のアリール基;置換もしくは非置換のC−C50のアリールアミン基;置換もしくは非置換され、異種元素としてN、OまたはSを含むC−C50のヘテロアリールアミン基;置換もしくは非置換され、異種元素としてO、NまたはSを含むC−C50の複素環基;置換されたアミノ基;ニトリル基;ニトロ基;ハロゲン基;およびアミン基からなる群から選択され、
nは0〜5の整数であり、Oは0〜10の整数であり、Oが2以上である場合、Rは互いに同じであるか異なってもよく、
l、mまたはpが2以上である場合、Ar、Ar’、またはRは互いに同じであるか異なってよい。
【0023】
本発明において、前記化学式1中、Xが下記化学式であり、CYがCのアリール、すなわちベンゼン環である場合、nは1以上であることが好ましく、1または2であることがより好ましい。
【0024】
【化5】

【0025】
本発明において、前記化学式1中、Xが下記化学式である場合、Rは前記化学式1のアントラセンの9番位置に位置し、少なくとも1つのAr’がアントラセンの10番位置に位置することが好ましい。この場合、前記アントラセンの他の位置に少なくとも1つの置換基がさらに位置することができる。
【0026】
【化6】

【0027】
本発明において、前記化学式1中、Xが下記化学式である場合、pは1〜3の整数であり、Ar’は、置換もしくは非置換のC−C50のアリール基、または置換もしくは非置換され、異種元素としてNを含むC−C50の複素環基であることが好ましく、置換もしくは非置換のC−C50のアリール基であることがより好ましい。
【0028】
【化7】

【0029】
前記化学式1において、mは0または1であることがより好ましい。
【0030】
前記化学式1において、pが0である場合、lは2〜4であることが好ましい。
【0031】
前記化学式1において、特別な説明がない場合、「置換もしくは非置換」という用語は重水素、ハロゲン基、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アリール基、アリールアルキル基、アリールアルケニル基、複素環基、カルバゾリル基、フルオレニル基、ニトリル基およびアセチレン基からなる群から選択された1つ以上の置換基で置換もしくは非置換されることを意味するが、これらだけに限定されるものではない。
【0032】
前記化学式1において、アルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、アリール基、アリールアミン基、ヘテロアリールアミン基、または複素環基が置換される場合、重水素、ハロゲン基、アルキル基、アルケニル基、置換もしくは非置換のアルコキシ基、置換もしくは非置換のアリールアミン基、置換もしくは非置換のアリール基、置換もしくは非置換のアリールアルキル基、置換もしくは非置換のアリールアルケニル基、置換もしくは非置換の複素環基、ニトリル基および置換もしくは非置換のアセチレン基からなる群から選択された1つ以上の置換基で置換されることが好ましい。前記アミノ基が置換される場合、アルキル基、アルケニル基、置換もしくは非置換のアリール基、置換もしくは非置換のアリールアルキル基、および置換もしくは非置換のアリールアルケニル基からなる群から選択された1つ以上の置換基で置換されることが好ましい。
【0033】
前記化学式1において、特別な説明がない場合、アルキル基およびアルコキシ基は炭素数が1〜40であることが好ましく、1〜20であることがより好ましい。また、アルケニル基は炭素数が2〜40であることが好ましく、2〜20であることがより好ましい。また、アリール基は炭素数が6〜40であることが好ましく、6〜20であることがより好ましい。また、複素環基は炭素数が2〜50であることが好ましく、4〜40であることがより好ましく、4〜20であることがさらに好ましい。また、アリールアミン基は炭素数が6〜60であることが好ましく、6〜24であることがより好ましい。また、ヘテロアリールアミン基は炭素数が2〜60であることが好ましく、4〜40であることがより好ましく、4〜20であることがさらに好ましい。
【0034】
前記化学式1で示される化合物は、下記化学式2−1または化学式2−2で示されることが好ましい。
【0035】
【化8】

【0036】
前記化学式2−1および化学式2−2において、RおよびAr’は前記化学式1で定義した通りであり、Rが2個以上である場合に互いに同じであるか異なってもよく、
lは1〜3の整数である。
【0037】
また、前記化学式1で示される化合物は、下記化学式3−1または化学式3−2で示されることが好ましい。
【0038】
【化9】

【0039】
前記化学式3−1および化学式3−2において、RおよびAr’は前記化学式1で定義した通りであり、Rが2個以上である場合に互いに同じであるか異なってもよく、
lは0〜2の整数である。
【0040】
また、前記化学式1で示される化合物は、下記化学式4−1〜化学式4−4のうちの1つで示されることが好ましい。
【0041】
【化10】

【0042】
前記化学式4−1〜化学式4−4において、
は前記化学式1で定義した通りであり、互いに同じであるか異なってもよく、
Ar’は前記化学式1で定義した通りであり、互いに同じであるか異なってもよい。
【0043】
また、前記化学式1で示される化合物は、下記化学式5−1〜化学式5−3のうちの1つで示されることが好ましい。
【0044】
【化11】

【0045】
前記化学式5−1〜化学式5−3において、
は前記化学式1で定義した通りであり、互いに同じであるか異なってもよく、
Ar’は前記化学式1で定義した通りであり、互いに同じであるか異なってもよい。
【0046】
また、前記化学式1で示される化合物は、下記化学式6−1〜化学式6−4のうちの1つで示されることが好ましい。
【0047】
【化12】

【0048】
前記化学式6−1〜化学式6−4において、
は前記化学式1で定義した通りであり、互いに同じであるか異なってもよく、
Ar’は前記化学式1で定義した通りであり、互いに同じであるか異なってもよい。
【0049】
また、前記化学式1で示される化合物は、下記化学式7−1〜化学式7−4のうちの1つで示されることが好ましい。
【0050】
【化13】

【0051】
前記化学式7−1〜化学式7−4において、
は前記化学式1で定義した通りであり、互いに同じであるか異なってもよく、
Ar’は前記化学式1で定義した通りであり、互いに同じであるか異なってもよい。
【0052】
また、前記化学式1で示される化合物は、下記化学式8−1〜化学式8−5のうちの1つで示されることが好ましい。
【0053】
【化14】

【0054】
前記化学式8−1〜化学式8−5において、
は前記化学式1で定義した通りであり、互いに同じであるか異なってもよく、
Ar’は前記化学式1で定義した通りであり、互いに同じであるか異なってもよい。
【0055】
前記化学式において、Arは、C−C10のアルキル基、C−C12のアリール基、異種原子としてO、NまたはSを含むC−C12の複素環基、シリル基またはC−C10のアルキルシリル基で置換もしくは非置換されたC−C26のアリーレン基;またはC−C10のアルキル基、C−C12のアリール基、異種原子としてO、NまたはSを含むC−C12の複素環基、シリル基またはC−C10のアルキルシリル基で置換もしくは非置換され、異種原子としてO、NまたはSを含むC−C26の2価の複素環基であることが好ましい。
【0056】
また、前記Arにおけるアリーレン基は、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基、アントラセニレン基および下記構造式からなる群から選択されることが好ましい。
【0057】
【化15】

【0058】
前記化学式において、Rは、C−C10のアルキル基;C−C10のアルキル基、C−C12のアリール基、C−C12のアリール基で置換もしくは非置換され、異種原子としてO、NまたはSを含むC−C12の複素環基、シリル基またはC−C10のアルキルシリル基で置換もしくは非置換されたC−C26のアリール基;またはC−C10のアルキル基、C−C12のアリール基、C−C12のアリール基で置換もしくは非置換され、異種原子としてO、NまたはSを含むC−C12の複素環基、シリル基またはC−C10のアルキルシリル基で置換もしくは非置換され、異種原子としてO、NまたはSを含むC−C26の複素環基であることが好ましい。
【0059】
前記化学式において、Rは下記構造式で示される置換基からなる群から選択されることが好ましいが、これらに限定されるものではない。
【0060】
【化16】

【0061】
前記化学式において、Ar’は、C−C10のアルキル基、C−C12のアリール基、C−C12のアリール基で置換もしくは非置換され、異種原子としてO、NまたはSを含むC−C12の複素環基、シリル基またはC−C10のアルキルシリル基で置換もしくは非置換されたC−C26のアリール基;またはC−C10のアルキル基、C−C12のアリール基、C−C12のアリール基で置換もしくは非置換され、異種原子としてO、NまたはSを含むC−C12の複素環基、シリル基またはC−C10のアルキルシリル基で置換もしくは非置換され、異種原子としてO、NまたはSを含むC−C26の複素環基であることが好ましく、下記構造式で示される置換基からなる群から選択されることがより好ましいが、これらに限定されるものではない。
【0062】
【化17】

【0063】
本発明に係る化合物の具体的な例は下記化合物1〜化合物88から選択されることが好ましいか、これらに限定されるものではない。
【0064】
【化18−1】

【化18−2】

【化18−3】

【化18−4】

【化18−5】

【化18−6】

【化18−7】

【0065】
本発明に係る化合物は、アントラセン誘導体のホウ酸化合物とシクロアルケン誘導体のハロゲン化物を反応させることによって製造することができる。この時、当技術分野で知られた反応条件を利用することができる。例えば、アントラセン誘導体のホウ酸化合物とシクロアルケン誘導体のハロゲン化物をテトラキストリフェニルホスフィンパラジウムおよびリン酸カリウムの存在下で水およびTHFのような溶媒を添加して反応させることができる。
【0066】
本発明の第2側面は、第1電極、第2電極、および前記第1電極と第2電極との間に配置された1層以上の有機物層を含む有機電子素子であって、前記有機物層のうちの1層以上は前記化合物を含むことを特徴とする有機電子素子に関する。
【0067】
ここで、前記有機物層は電子または正孔注入層および電子または正孔輸送層を含み、前記電子または正孔注入層および電子または正孔輸送層は前記化合物を含むことができる。
【0068】
また、前記有機物層は発光層を含み、前記発光層は前記化合物を含むことができる。
【0069】
この時、前記有機電子素子は、有機発光素子、有機太陽電池、有機感光体(OPC)および有機トランジスタからなる群から選択されることが好ましい。
【0070】
本発明に係る化合物は、有機電子素子の製造時、真空蒸着法だけでなく、溶液塗布法によって有機物層として形成することができる。ここで、溶液塗布法とはスピンコーティング、ディップコーティング、インクジェット印刷、スクリーン印刷、スプレー法、ロールコーティングなどを意味するが、これらだけに限定されるものではない。
【0071】
本発明の有機電子素子は、有機物層のうちの1層以上が本発明の化合物、すなわち前記化学式1の化合物を含むことを除いては、当技術分野で知られている材料と方法によって製造することができる。
【0072】
本発明の有機電子素子の有機物層は単層構造であってもよいが、2層以上の有機物層が積層された多層構造であってもよい。例えば、本発明の有機電子素子は、有機物層として正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層などを含む構造を有してもよい。しかし、有機電子素子の構造はこれに限定されず、より少ない数の有機物層を含むことができる。
【0073】
また、本発明の有機電子素子は、例えば、基板上に第1電極、有機物層および第2電極を順次積層することによって製造することができる。この時、スパッタリング法(sputtering)や電子ビーム蒸着法(e−beam evaporation)のようなPVD(Physical Vapor Deposition)方法などを利用することができるが、これらの方法だけに限定されるものではない。
【0074】
前記正極物質としては、通常、有機物層への正孔注入が円滑になるように仕事関数の大きい物質が好ましい。本発明に用いられる正極物質の具体的な例としてはバナジウム、クロム、銅、亜鉛、金のような金属またはこれらの合金;亜鉛酸化物、インジウム酸化物、インジウムスズ酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)のような金属酸化物;ZnO:AlまたはSnO:Sbのような金属と酸化物の組み合わせ;ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリ[3,4−(エチレン−1,2−ジオキシ)チオフェン](PEDT)、ポリピロールおよびポリアニリンのような導電性高分子などが挙げられるが、これらだけに限定されるものではない。
【0075】
前記負極物質としては、通常、有機物層への電子注入が容易になるように仕事関数の小さい物質が好ましい。負極物質の具体的な例としてはマグネシウム、カルシウム、ナトリウム、カリウム、チタニウム、インジウム、イットリウム、リチウム、ガドリニウム、アルミニウム、銀、スズおよび鉛のような金属またはこれらの合金;LiF/AlまたはLiO/Alのような多層構造物質などが挙げられるが、これらだけに限定されるものではない。
【0076】
前記正孔注入物質としては、低い電圧において、正極から正孔の注入を円滑に受けられる物質であって、正孔注入物質のHOMO(highest occupied molecular orbital)が正極物質の仕事関数と周辺有機物層のHOMOとの間であることが好ましい。正孔注入物質の具体的な例としては金属ポルフィリン(porphyrine)、オリゴチオフェン、アリールアミン系の有機物、ヘキサニトリルヘキサアザトリフェニレン、キナクリドン(quinacridone)系の有機物、ペリレン(perylene)系の有機物、アントラキノンおよびポリアニリンとポリチオフェン系の導電性高分子などが挙げられるが、これらだけに限定されるものではない。
【0077】
前記正孔輸送物質としては、正極や正孔注入層から正孔の輸送を受けて発光層に移せる物質であって、正孔に対する移動性の大きい物質が好適である。具体的な例としてはアリールアミン系の有機物、導電性高分子、および共役部分と非共役部分が共に存在するブロック共重合体などが挙げられるが、これらだけに限定されるものではない。
【0078】
前記発光物質としては、正孔輸送層と電子輸送層から正孔と電子の輸送を各々受けて結合させることによって可視光線領域の光を出せる物質であって、蛍光や燐光に対する量子効率の良い物質が好ましい。具体的な例としては8−ヒドロキシ−キノリンアルミニウム錯体(Alq);カルバゾール系化合物;二量体化スチリル(dimerized styryl)化合物;BAlq;10−ヒドロキシベンゾキノリン−金属化合物;ベンゾオキサゾール、ベンズチアゾールおよびベンズイミダゾール系の化合物;ポリ(p−フェニレンビニレン)(PPV)系の高分子;スピロ(spiro)化合物;ポリフルオレン、ルブレンなどが挙げられるが、これらだけに限定されるものではない。
【0079】
前記電子輸送物質としては、負極から電子の注入を円滑に受けて発光層に移せる物質であって、電子に対する移動性の大きい物質が好適である。具体的な例としては8−ヒドロキシキノリンのAl錯体;Alqを含む錯体;有機ラジカル化合物;ヒドロキシフラボン−金属錯体などが挙げられるが、これらだけに限定されるものではない。
【0080】
本発明に係る有機発光素子は、用いられる材料により、前面発光型、背面発光型または両面発光型であってもよい。
【0081】
本発明に係る化合物は、有機太陽電池、有機感光体、有機トランジスタなどをはじめとする有機電子素子においても有機発光素子に適用されるのと類似する原理で作用することができる。
【実施例】
【0082】
前記化学式1で代表される化合物の製造方法およびそれを用いた有機電子素子の製造は以下の製造例および実施例によってより具体的に説明する。但し、これらの製造例および実施例は本発明を例示するためのものであって、本発明の範囲がこれらによって限定されるのではない。
【0083】
製造例
<製造例1>化合物Aの合成
【化19】

【0084】
トリフェニルホスファイト[(PhO)P](18.5mL、70mmol)を無水ジクロロメタン200mLに入れ、零下78度に冷却した。窒素雰囲気下で臭素(4mL、77mmol)を徐々に入れた。その次、無水トリメチルアミン(12mL、84mmol)とテトラロン(9.36g、64mmol)を入れ、18時間常温に昇温攪拌した。次に、約2時間加熱して還流し、クロマトグラフィーで精製して、12.8g、96%の収率で化合物Aを得た。[M+]=208
【0085】
<製造例2>化合物2の合成
【化20】

【0086】
化合物S1 4g(11.4mmol)、化合物A 2.4g(11.4mmol)、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム265mg(Pd[PPh、0.229mmol)、リン酸カリウム4.87g(KPO、22.9mmol)を水100mL、THF 100mlに入れて還流攪拌した。18時間後に常温に冷却し、有機層を分離した。溶媒を除去し、生成された固体をクロロホルム/メタノールで再結晶して、化合物2を3.08g、62%の収率で得た。[M+H]=433
【0087】
<製造例3>化合物77の合成
【化21】

【0088】
化合物S2 4g(7.2mmol)、化合物A 1.65g(7.9mmol)、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム166mg(Pd[PPh、0.143mmol)、リン酸カリウム3.04g(KPO、14.3mmol)を水100mL、THF 100mlに入れて還流攪拌した。18時間後に常温に冷却し、有機層を分離した。溶媒を除去し、生成された固体をクロロホルム/メタノールで再結晶して、化合物77を3.6g、89%収率で得た。[M+H]=559
【0089】
<製造例4>化合物Cの合成
大韓民国公開特許10−2007−0043664号に記載された製法に従って下記のように製造した。
【化22】

【0090】
インデン(indene、259mmol、30g)と蒸留水(9mL)をジメチルスルホキシド(DMSO、90mL)に入れ、0度に温度を下げた後、N−ブロモスクシンイミド(NBS、263mmol、46.9g)を徐々に添加した。この溶液の温度を常温に上げ、12時間攪拌した。その次、蒸留水で反応を終結させた後、有機層をジエチルエーテルで抽出し、無水硫酸マグネシウムで水分を除去した。減圧濾過した後、濾過液を減圧して溶媒を除去し、ヘキサンで再結晶して、化合物B(38.9g、72%)を得た。
【0091】
この化合物B 14.3gとp−トルエンスルホン酸(p−TsOH、2.6mmol、0.5g)をトルエン60mLに溶かし、ティン−ストック方法を利用して水を除去しながら24時間攪拌加熱した。溶液の温度を常温に下げ、分別蒸留法を利用して化合物C(7.8g、60%)を得た。
[M]+=194
【0092】
<製造例5>化合物10の合成
【化23】

【0093】
化合物S1 4g(11.4mmol)、化合物A 2.69g(13.8mmol)、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム265mg(Pd[PPh、0.229mmol)、リン酸カリウム4.87g(KPO、22.9mmol)を水100mL、THF 100mlに入れて還流攪拌した。18時間後に常温に冷却し、有機層を分離した。溶媒を除去し、生成された固体をクロロホルム/メタノールで再結晶して、化合物10を4g、84%の収率で得た。[M+H]=419
【0094】
実験例1
ITO(indium tin oxide)が1500Å厚さで薄膜コーティングされたガラス基板を、洗剤を溶かした蒸留水に入れて超音波で洗浄した。この時、洗剤としてはFischer社製を使用し、蒸留水としてはMillipore社製のフィルタ(Filter)で2次濾過した蒸留水を使用した。ITOを30分間洗浄した後、蒸留水で2回繰り返して超音波洗浄を10分間進行した。蒸留水洗浄が終わった後、イソプロピルアルコール、アセトン、メタノールの溶剤で超音波洗浄をして乾燥した後、プラズマ洗浄機に輸送した。酸素プラズマを利用して前記基板を5分間洗浄した後、真空蒸着機に基板を輸送した。
【0095】
このように準備したITO透明電極上に、ヘキサニトリルヘキサアザトリフェニレン(hexanitrile hexaazatriphenylene)を500Å厚さで熱真空蒸着して、正孔注入層を形成した。その上に正孔を輸送する物質であるNPB(400Å)を真空蒸着した後、発光層として、ホストとして化合物2およびドーパントD1化合物を300Å厚さで真空蒸着した。
【0096】
【化24】

【0097】
前記発光層上に前記[E1]を200Å厚さで真空蒸着して、電子注入および輸送層を形成した。前記電子注入および輸送層上に12Å厚さのフッ化リチウム(LiF)と2000Å厚さのアルミニウムを順次蒸着して、負極を形成した。
【0098】
実験例2
化合物2の代わりに化合物77を蒸着したことを除いては、実験例1と同様に実験した。
【0099】
実験例3
化合物2の代わりに化合物10を蒸着したことを除いては、実験例1と同様に実験した。
【0100】
前記過程において、有機物の蒸着速度は1Å/secを維持し、フッ化リチウムは0.2Å/sec、アルミニウムは3〜7Å/secの蒸着速度を維持した。
【0101】
比較例
化合物2の代わりに化合物[H1]を用いたことを除いては、実験例1と同様に実験した。
【0102】
【化25】

【0103】
前記実験例および比較例を通じた実験の結果を下記表1に示す。
【0104】
測定は50mA/cmの電流密度で行われ、既存のシクロアルケンではなく、一般の非環状アルケンを有する物質と比較評価した。全体的にシクロアルケンを含む化合物が、類似する発光効率を有しつつ低い電圧特性を示すということが分かる。
【0105】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式1で示される化合物:
【化1】

前記化学式1において、
は−[Ar]−Xで示される置換基であり、
pは0〜3の整数であり、lは1〜4の整数であり、mは0〜5の整数であり、
Arは、置換もしくは非置換のC−C50のアリーレン基、または置換もしくは非置換され、異種元素としてN、OまたはSを含むC−C50の2価の複素環基であり、
Ar’は、置換もしくは非置換のC−C50のアリール基、または置換もしくは非置換され、異種元素としてN、OまたはSを含むC−C50の複素環基であり、
Xは下記構造式のうちから選択された置換基であり、
【化2】

前記構造式において、Cyは、置換もしくは非置換のC−C50のアリール基、置換もしくは非置換され、異種元素としてN、OまたはSを含むC−C50の複素環基であり、
は、置換もしくは非置換のC−C40のアルキル基;置換もしくは非置換のC−C40のアルコキシ基;置換もしくは非置換のC−C40のアルケニル基;置換もしくは非置換のC−C50のアリール基;置換もしくは非置換のC−C50のアリールアミン基;置換もしくは非置換され、異種元素としてN、OまたはSを含むC−C50のヘテロアリールアミン基;置換もしくは非置換され、異種元素としてO、NまたはSを含むC−C50の複素環基;置換されたアミノ基;ニトリル基;ニトロ基;ハロゲン基;およびアミン基からなる群から選択され、
nは0〜5の整数であり、Oは0〜10の整数であり、Oが2以上である場合、Rは互いに同じであるか異なってもよく、
l、mまたはpが2以上である場合、Ar、Ar’、またはRは互いに同じであるか異なってもよい。
【請求項2】
前記化学式1で示される化合物は、下記化学式2−1〜8−5のうちから選択された化学式で示される、請求項1に記載の化合物:
【化3−1】

【化3−2】

【化3−3】

前記化学式において、
は前記化学式1で定義した通りであり、互いに同じであるか異なってもよく、
Ar’は前記化学式1で定義した通りであり、互いに同じであるか異なってもよい。
【請求項3】
前記Arは、C−C10のアルキル基、C−C12のアリール基、異種原子としてO、NまたはSを含むC−C12の複素環基、シリル基またはC−C10のアルキルシリル基で置換もしくは非置換されたC−C26のアリーレン基;またはC−C10のアルキル基、C−C12のアリール基、異種原子としてO、NまたはSを含むC−C12の複素環基、シリル基またはC−C10のアルキルシリル基で置換もしくは非置換され、異種原子としてO、NまたはSを含むC−C26の2価の複素環基であることを特徴とする、請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
前記アリーレン基は、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基、アントラセニレン基および下記構造式からなる群から選択されることを特徴とする、請求項3に記載の化合物:
【化4】

【請求項5】
前記Rは、C−C10のアルキル基;C−C10のアルキル基、C−C12のアリール基、C−C12のアリール基で置換もしくは非置換され、異種原子としてO、NまたはSを含むC−C12の複素環基、シリル基またはC−C10のアルキルシリル基で置換もしくは非置換されたC−C26のアリール基;またはC−C10のアルキル基、C−C12のアリール基、C−C12のアリール基で置換もしくは非置換され、異種原子としてO、NまたはSを含むC−C12の複素環基、シリル基またはC−C10のアルキルシリル基で置換もしくは非置換され、異種原子としてO、NまたはSを含むC−C26の複素環基であることを特徴とする、請求項1に記載の化合物。
【請求項6】
mは0または1であることを特徴とする、請求項1に記載の化合物。
【請求項7】
前記Rは、下記構造式で示される置換基からなる郡から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の化合物:
【化5】

【請求項8】
前記Ar’は、C−C10のアルキル基、C−C12のアリール基、C−C12のアリール基で置換もしくは非置換され、異種原子としてO、NまたはSを含むC−C12の複素環基、シリル基またはC−C10のアルキルシリル基で置換もしくは非置換されたC−C26のアリール基;またはC−C10のアルキル基、C−C12のアリール基、C−C12のアリール基で置換もしくは非置換され、異種原子としてO、NまたはSを含むC−C12の複素環基、シリル基またはC−C10のアルキルシリル基で置換もしくは非置換され、異種原子としてO、NまたはSを含むC−C26の複素環基であることを特徴とする、請求項1に記載の化合物。
【請求項9】
前記Ar’は、下記構造式で示される置換基からなる群から選択されることを特徴とする、請求項8に記載の化合物:
【化6】

【請求項10】
前記Xは下記化学式から選択され、ここで、CYはCのアリールであり、nは1以上である、請求項1に記載の化合物:
【化7】

【請求項11】
前記Xは下記化学式で示され、Rは前記化学式1のアントラセンの9番位置に位置し、少なくとも1つのAr’が前記アントラセンの10番位置に位置する、請求項1に記載の化合物:
【化8】

【請求項12】
前記Xは下記化学式で示され、pは1〜3の整数であり、Ar’は、置換もしくは非置換のC−C50のアリール基、または置換もしくは非置換され、異種元素としてNを含むC−C50の複素環基である、請求項1に記載の化合物:
【化9】

【請求項13】
前記化学式1で示される化合物は、下記化合物1〜化合物88からなる群から選択される、請求項1に記載の化合物:
【化10−1】

【化10−2】

【化10−3】

【化10−4】

【化10−5】

【化10−6】

【化10−7】

【請求項14】
第1電極、第2電極、および前記第1電極と第2電極との間に配置された1層以上の有機物層を含む有機電子素子であって、前記有機物層のうちの1層以上は請求項1〜13のうちのいずれか1項に記載された化合物を含むことを特徴とする、有機電子素子。
【請求項15】
前記有機物層は電子注入または輸送層を含み、該電子注入または輸送層が前記化合物を含むことを特徴とする、請求項14に記載の有機電子素子。
【請求項16】
前記有機物層は発光層を含み、該発光層が前記化合物を含むことを特徴とする、請求項14に記載の有機電子素子。
【請求項17】
前記有機物層は正孔注入または輸送層を含み、該正孔注入または輸送層が前記化合物を含むことを特徴とする、請求項14に記載の有機電子素子。
【請求項18】
前記有機電子素子は、有機発光素子、有機燐光素子、有機太陽電池、有機感光体(OPC)および有機トランジスタからなる群から選択されることを特徴とする、請求項14に記載の有機電子素子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公表番号】特表2012−515772(P2012−515772A)
【公表日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−547774(P2011−547774)
【出願日】平成22年1月20日(2010.1.20)
【国際出願番号】PCT/KR2010/000369
【国際公開番号】WO2010/085087
【国際公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(500239823)エルジー・ケム・リミテッド (1,221)
【Fターム(参考)】