説明

新規なフロロアルキル基含有アセチレンアルコールおよびその製造方法

【解決手段】 下記一般式(1)で示される含フッ素アセチレンアルコール。
【化1】


(但し、Rfは炭素数3〜25のパーフルオロアルキル基で、途中エーテル結合を含んでいてもよく、分岐していても良い。Qは炭素数1〜6の2価の炭化水素基であり、Rは炭素数1〜4のアルキル基である)

下記一般式(2)で示される含フッ素アセチレンアルコール。
【化2】


(但し、Rf及びRは前述の通り、R、R、Rは炭素数1〜4のアルキル基でありそれぞれ同一でも異なっていても良い。Zは炭素数1〜10の2価の有機基でる)
【効果】 本発明の新規の含フッ素アセチルアルコール化合物は、非イオン系界面活性剤、化合物の中間体、ヒドロシリル化の反応制御剤として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規の含フッ素アセチレンアルコールおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アセチレンアルコール類は、例えば「オルフィン」(日信化学工業株式会社の商品名)で3−メチル−1−ブチン−3−オール、3−メチル−1−ペンチン−3−オール 2,5−ジメチル−3−ヘキシン−2,5−ジオール等が、また「サーフィノール」(エアープロダクツ株式会社の商品名)で各種アセチレングリコール類が市販されている。
【0003】
これらアセチレンアルコール類は化合物の中間体原料として用いられる他に、金属表面処理剤、低発泡性の濡れ剤、消泡剤、顔料分散剤などの非イオン系界面活性剤としての用途で、また遷移金属への高い配位能を利用したヒドロシリル化反応の制御剤として、工業的にも広く用いられているきわめて有用な化合物である(特許文献1〜3参照)。
【0004】
しかし、アセチレンアルコール類をフッ素含有率の高い反応系で使用しようとした場合、比重差や溶解性などの問題により期待した効果が得られないことがある。例えばフッ素含有率の高いポリマーのヒドロシリル化による硬化反応の制御剤として、上記した市販のアセチレンアルコール類を使用した場合に、アセチレンアルコールの分離により反応にムラが生じ硬化不良が発生するなど大きな問題がある。
【0005】
また、アセチレンアルコールとフロロアルキル基含有のクロロシラン類を反応させた物質は公知である(特許文献4参照)。この物質は、フッ素含有率の高いフロロシリコーン、パーフルオロポリマーなどに完全相溶するために、分離することもなく、アセチレンアルコールと同様にヒドロシリル化反応の制御剤として利用されている。
【0006】
しかしながら、制御剤としての性能はエチニルシクロヘキサノールなどのアセチレンアルコール類にはおよばない。これは、エチニル基のとなりの炭素に結合する水酸基がシリル化されていることに起因すると考えられている。
【0007】
今のところ、フロロアルキル基を含有し、かつ前述の水酸基がシリル化されていないタイプのアセチレンアルコール類は知られていない。
【0008】
【特許文献1】特公昭44−31476号公報
【特許文献2】特開平6−329917号公報
【特許文献3】特開平9−143371号公報
【特許文献4】特開2000−53685号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、フロロアルキル基を含有するアセチレンアルコールを提供することを目的とする。フロロアルキル基を導入する理由はフッ素ポリマーへの溶解性を高めるためであり、フッ素含有率の高いポリマーでヒドロシリル化反応の制御剤への適用を可能にするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するため検討を行った結果、下記一般式(1)で示される含フッ素アセチレンアルコール、
【0011】
【化1】


(但し、Rfは炭素数3〜100のパーフルオロアルキル基で、途中エーテル結合を含んでいてもよく、分岐していても良い。Qは炭素数1〜6の2価の炭化水素基であり、Rは炭素数1〜4のアルキル基である)
及び、下記一般式(2)で示される含フッ素アセチレンアルコールが、
【0012】
【化2】


(但し、Rf及びQは前述の通り、R、R、Rは炭素数1〜4のアルキル基でありそれぞれ同一でも異なっていても良い。Zは炭素数1〜20の2価の有機基である)
制御剤としての性能が向上し、かつフロロアルキル基を導入することによりフッ素ポリマーへの溶解性を高めることが可能となり、本発明をなすに至ったものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の新規の含フッ素アセチルアルコール化合物は、非イオン系界面活性剤、化合物の中間体、フッ素含有率の高いポリマーのヒドロシリル化による硬化反応の制御剤としてきわめて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明につき更に詳しく説明する。上記一般式(1)で示される含フッ素アセチレンアルコール及び上記一般式(2)で示される含フッ素アセチレンアルコールにおいてRfは、炭素数3〜100のパーフルオロアルキル基で、途中エーテル結合を含んでいてもよく、分岐していても良い。
【0015】
このようなRfとしては以下のような構造が挙げられる。
【0016】
【化3】

【0017】
【化4】

【0018】
また、Qは炭素数1〜6の2価の炭化水素基であり、具体的にはメチレン基、エチレン基、n−プロピレン基、n−ブチレン基、イソブチレン基、フェニレン基等が挙げられる。特に、エチレン基が好ましい。
【0019】
、R及びRはそれぞれ同一であっても異なっても良い炭素数1〜4のアルキル基であり、具体的にはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基などが挙げられる。特に、Rはメチル基が好ましい。
【0020】
ここで、Zは炭素数1〜20の2価の有機基である。Zは炭素数1〜20の2価の有機基であれば特に制限されるものではないが、途中に酸素、窒素、カルボニル基などを介してもよく、例えば以下の構造が挙げられる。
【0021】
−(CH
(但し、p=1〜10特に好ましくは2〜4)
−CH−O−(CH
(但し、q=1〜9特に好ましくは2〜4)
【0022】
【化5】


(RおよびRは、それぞれ独立に炭素数1〜9のアルキル基もしくは水素原子である。RおよびRとして具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、フェニル基、シクロヘキシルなどが挙げられる)
【0023】
【化6】

【0024】
本発明の上記した一般式(1)で示される含フッ素アセチレンアルコールは、下記一般式(3)で示される酸ハロゲン化物と、
【0025】
【化7】


(但し、Rfは前述の通り、Xはハロゲン原子)
【0026】
下記一般式(4)で示される、アセチレン基の隣の3級炭素に結合する水酸基と、1級炭素に結合する水酸基と水酸基をふたつ有するヒドロキシアセチレンアルコール、
【0027】
【化8】


(但し、Q及びRは前述の通り)
とを反応させると、選択的に1級炭素に結合する水酸基だけが反応してエステル結合を形成し、3級炭素に結合した水酸基はそのまま残って下記式(1)で示される含フッ素アセチレンアルコール生成物の得られることを発見した。
【0028】
【化9】


(但し、Rf、Q及びRは前述の通り)
【0029】
また、同様に下記一般式(5)で示されるハロゲン化ケイ素化合物と、
【0030】
【化10】


(但し、Rf、Z、X、R及びRは前述の通り)
上記した式(4)のヒドロキシアセチレンアルコールとを反応させると、上記と同様に選択的に1級炭素に結合する水酸基だけが反応してエステル結合を形成し、3級炭素に結合した水酸基はそのまま残って下記式(2)で示される含フッ素アセチレンアルコール生成物の得られることがわかった。
【0031】
【化11】

【0032】
原料のヒドロキシアセチレンアルコールの具体例としては、下記の化合物が挙げられる。
【0033】
【化12】

【0034】
原料の酸ハロゲン化物の具体例としては、下記の化合物が挙げられる。
【0035】
【化13】

【0036】
また、ハロゲン化ケイ素化合物としては具体的には、下記の化合物が挙げられる。
【0037】
【化14】

【0038】
【化15】

【0039】
【化16】

【0040】
【化17】

【0041】
[製造方法]
式(1)のアセチレンアルコールはヒドロキシアセチレンアルコール、塩基および溶媒を混合して攪拌したところに、酸ハロゲン化物を少量ずつ滴下して行うことができる。塩基はトリエチルアミン、ピリジンなどがよい。また酸ハロゲン化物として酸フロライドを用いる場合は塩基の替わりにフッ化ナトリウムを用いることができる。溶媒としてはジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、モノグライム、トルエンなどがよい。
【0042】
使用量はヒドロキシアセチレンアルコール1モルあたり塩基1〜2モル、酸ハロゲン化物を0.3〜1モル使用する。反応温度は20〜50℃、反応時間は30〜60分でよい。反応終了後、水洗により塩を溶解して有機相を取り出し、溶媒を除去すると目的のアセチレンアルコールが得られる。
【0043】
式(2)に記載のアセチレンアルコールはヒドロキシアセチレンアルコール、塩基および溶媒を混合して攪拌したところに、ハロゲン化ケイ素化合物をを少量ずつ滴下して行うことができる。塩基はトリエチルアミン、ピリジンなどがよい。溶媒としてはジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、モノグライム、トルエンなどがよい。
【0044】
使用量はヒドロキシアセチレンアルコール1モルあたり塩基1〜2モル、ハロゲン化ケイ素化合物を0.4〜1モル使用する。反応温度は20〜50℃、反応時間は30分〜5時間でよい。反応終了後、反応混合物を飽和重曹水の投入し、有機相を分離、さらに水洗してから溶媒を除去すると目的のアセチレンアルコールが得られる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0046】
[実施例1]
3−メチル−4−ペンチン−1,3−ジオール1.0gおよびフッ化ナトリウム0.8gおよびジエチルエーテル30mlをフラスコに仕込んだ。攪拌しながら下記式(6)の化合物7.8gを滴下した。
【0047】
【化18】

【0048】
滴下終了後、20分間攪拌を継続した。次に反応混合物をろ過して固形分を取り除き、得られたろ液を繰り返し水洗した。得られた有機相を70℃/10mmHgにてストリップして溶媒を取り除いた。このようにして淡黄色透明の液体状生成物7.3gを得た。
【0049】
この化合物のH NMRスペクトルを図1に示す。結果は以下の通りであった。
H NMRスペクトル(CDCl
δ1.56(−C, 3H, s)
δ2.13(−OCH−, 2H, m)
δ2.45(−C≡C, 1H, m)
δ2.73(−O, 1H, s)
δ4.68(−OCCH−, 2H, m)
【0050】
また、この化合物のIRスペクトルを図2に示す。結果は以下の通りであった。
赤外吸収スペクトル
3388cm−1 (−OH)
3316cm−1 (−C≡CH)
1785cm−1 (C=O)
1400〜1000cm−1 (C−F)
【0051】
以上の結果から、得られた化合物が(7)の構造を持つことを確認した。
【0052】
【化19】


[実施例2]
3−メチル−4−ペンチン−1,3−ジオール1.0gおよびトリエチルアミン0.9gおよびジエチルエーテル30mlをフラスコに仕込んだ。攪拌しながら下記のハロゲン化ケイ素化合物4.3gを滴下した。
【0053】
【化20】

【0054】
室温にて約15分攪拌した後、反応混合物を飽和重曹水中に投入し、有機相を取り出した。さらに水洗をしてから溶媒をストリップして除き淡黄色透明の液体状生成物4.2gを得た。
【0055】
この化合物のH NMRスペクトルを図3に示す。結果は以下の通りであった。
H−NMR (CDCl
δ0.18(Si−C, 6H, s)
δ0.85(−C−Si, 2H, m)
δ1.49(−C, 2H, m)
δ1.73(−OCH−, 1H, m)
δ1.98(−OCH−, 1H, m)
δ2.09(−CF−, 2H, m)
δ2.43(−C≡C, 1H, s)
δ3.86(−OCCH−, 1H, m)
δ4.18(−OCCH−, 1H, m)
δ4.23(−O, 1H, s)
【0056】
また、この化合物のIRスペクトルを図4に示す。結果は以下の通りであった。
赤外吸収スペクトル
3486cm−1 (−OH)
3316cm−1 (−C≡CH)
1300〜1000cm−1 (C−F)
【0057】
以上の結果から、得られた化合物が(8)の構造を持つことを確認した。
【0058】
【化21】

【0059】
[実施例3]
3−メチル−4−ペンチン−1,3−ジオール2.5gおよびフッ化ナトリウム1.2gおよびジエチルエーテル50mlをフラスコに仕込んだ。攪拌しながら下記の化合物30gを添加した。
【0060】
【化22】

【0061】
添加後、約1時間攪拌を継続した。次に反応混合物をろ過して固形分を取り除き、得られたろ液を繰り返し水洗した。得られた有機相を70℃/10mmHgにてストリップして溶媒を取り除いた。このようにして淡黄色透明の液体状生成物28gを得た。
【0062】
この化合物のH NMRスペクトルを図5に示す。結果は以下の通りであった。
H NMRスペクトル(CDCl
δ1.57(−C, 3H, s)
δ2.12(−OCH−, 2H, m)
δ2.41(−C≡C, 1H, m)
δ2.64(−O, 1H, s)
δ4.69(−OCCH−, 2H, m)
【0063】
また、この化合物のIRスペクトルを図6に示す。結果は以下の通りであった。
赤外吸収スペクトル
3394cm−1 (−OH)
3316cm−1 (−C≡CH)
1785cm−1 (C=O)
1400〜1000cm−1 (C−F)
【0064】
以上の結果から、得られた化合物が(9)の構造を持つことを確認した。
【0065】
【化23】

【0066】
[実施例4]
3−メチル−4−ペンチン−1,3−ジオール6.8gおよびトリエチルアミン5.5gおよびトルエン50mlをフラスコに仕込んだ。攪拌しながら下記のハロゲン化ケイ素化合物35gを滴下した。
【0067】
【化24】

【0068】
室温にて約4時間攪拌した後、反応混合物を水中に投入し、有機相を取り出した。さらに水洗をしてから溶媒をストリップして除いた。得られた濃縮液を蒸留して沸点範囲146〜152℃/1mmHgの留分 28.8gを得た。
【0069】
この化合物のH NMRスペクトルを図7に示す。結果は以下の通りであった。
H NMRスペクトル(CDCl
δ0.62(Si−C, 6H, s)
δ0.86(C−CH− CH− CH−Si, 6H, m)
δ1.30(CH−C− C− CH−Si, 8H, m)
δ1.47(C−C−OH,3H, s)
δ1.62(−OCH− C− CH, 2H, m)
δ1.71(−OCH−, 1H, m)
δ1.95(−OCH−, 1H, m) δ2.40(−C≡C, 1H, s)
δ3.49(−OC− CH− CH, 2H, m)
δ3.94(CF−CH−O, 2H, d)
δ3.85(−OCCH−, 1H, m)
δ4.21(−OCCH−, 1H, m)
δ4.67(−O, 1H, s)
【0070】
また、この化合物のIRスペクトルを図8に示す。結果は以下の通りであった。
赤外吸収スペクトル
3477cm−1 (−OH)
3315 cm−1 (−C≡CH)
2960,2927,2879 cm−1 (C−H)
1300〜1000 cm−1 (C−F)
【0071】
以上の結果から、得られた化合物が(10)の構造を持つことを確認した。
【0072】
【化25】


【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明に係る化合物のNMRスペクトル図である。(実施例1)
【図2】本発明に係る化合物のIRスペクトル図である。(実施例1)
【図3】本発明に係る化合物のNMRスペクトル図である。(実施例2)
【図4】本発明に係る化合物のIRスペクトル図である。(実施例2)
【図5】本発明に係る化合物のNMRスペクトル図である。(実施例3)
【図6】本発明に係る化合物のIRスペクトル図である。(実施例3)
【図7】本発明に係る化合物のNMRスペクトル図である。(実施例4)
【図8】本発明に係る化合物のIRスペクトル図である。(実施例4)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示される含フッ素アセチレンアルコール。
【化1】


(但し、Rfは炭素数3〜100のパーフルオロアルキル基で、途中エーテル結合を含んでいてもよく、分岐していても良い。Qは炭素数1〜6の2価の炭化水素基であり、Rは炭素数1〜4のアルキル基である)
【請求項2】
下記一般式(2)で示される含フッ素アセチレンアルコール。
【化2】


(但し、Rf及びQは前述の通り、R、R、Rは炭素数1〜4のアルキル基でありそれぞれ同一でも異なっていても良い。Zは炭素数1〜20の2価の有機基である)
【請求項3】
下記一般式(3)で示される酸ハロゲン化物と
【化3】


(但し、Rfは前述の通り、Xはハロゲン原子)
下記一般式(4)で示されるヒドロキシアセチレンアルコール
【化4】


(但し、Q及びRは前述の通り)
とを反応させてエステル結合を形成することを特徴とする請求項1に記載の含フッ素アセチレンアルコールの製造方法。
【請求項4】
下記一般式(5)で示されるハロゲン化ケイ素化合物と
【化5】


(但し、Rf、X及びZは前述の通り)
下記一般式(6)で示されるヒドロキシアセチレンアルコール
【化6】


(但し、Q及びRは前述の通り)
とを反応させることを特徴とする請求項2に記載の含フッ素アセチレンアルコールの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−22079(P2006−22079A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−240524(P2004−240524)
【出願日】平成16年8月20日(2004.8.20)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】