説明

新規なマルトースホスホリラーゼ、その製造方法、およびその利用方法

【課題】組み合わせるべきトレハロースホスホリラーゼと最適温度が重複しており、最適温度の範囲が殺菌効果を期待できる温度域にあって、なおかつトレハロースの製造に適した温度安定性を有し、適度な温度で失活可能である、新規なマルトースホスホリラーゼおよびその利用方法を提供する。
【解決手段】最適温度および温度安定性の範囲が50.0〜58℃の間にあり、65℃、15分間の熱処理で90%以上失活する、新規なマルトースホスホリラーゼ、および該酵素を用いたトレハロースの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なマルトースホスホリラーゼ、該マルトースホスホリラーゼの製造方法および該マルトースホスホリラーゼを利用するβ−グルコース−1−リン酸またはトレハロースの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トレハロースは、他の二糖類に比べて安定なことから、医薬品、化粧品、食品などの広範な用途が期待されている物質である。そこで、トレハロースを工業的に生産する多くの試みがなされてきた。これらの技術は大別して発酵法と酵素法の二つに分類することができる。
【0003】
発酵法は、トレハロースを菌体内外に蓄積する性質を有する微生物を培養した後に該物質を抽出精製する方法である(たとえば、特許文献1を参照)。該方法は、トレハロースの大量生産が操作面または設備面から困難であり、これらを解決したとしても生産効率が悪く、さらに不純物の除去を必要とするために、製造コストが高くなり経済的に不利であった。特に、トレハロースを食品用途に利用するためには、安価かつ大量に製造する必要があるために、該不利点は解消すべき深刻な問題であった。
【0004】
一方、酵素法は、発酵法の上記種々の問題点を一挙に解決する方法である。その一つとして、マルトースホスホリラーゼ(Maltose:orthophosphate β−D−glucosyltransferase;Maltose phosphorylase、EC2.4.1.8)とトレハロースホスホリラーゼ(α,α−Trehalose:orthophosphate β−D−glucosyltransferase;α,α−trehalose phosphorylase、EC2.4.1.64)を用いた同時反応法がある(たとえば、特許文献2を参照)。
【0005】
該方法は2種類のホスホリラーゼがそれぞれマルトースとトレハロースに作用して可逆的に加リン酸分解し、グルコースとβ−グルコース−1−リン酸を生じる反応を利用したものであり、安価な原料であるマルトースに両酵素を同時に作用させるとトレハロースが生成するというものである。該方法によればマルトースから60〜65%の高い収率でトレハロースが生成する事が報告されている。また、該方法は使用する原料が精製された高純度の糖質であることから、酵素反応により得られるトレハロースの精製も容易であり、他の方法に比較して工業的に有利な方法と考えられている。しかしながら、該方法において組み合わせて用いられるマルトースホスホリラーゼとトレハロースホスホリラーゼは、それぞれの酵素の最適pH領域が大きく異なっており、また、温度に対する安定性も非常に低く、トレハロースの生成反応は25〜37℃程度の低温下でしか行えなかった。このことは、二種類の酵素を組み合わせて使用する際のpH管理が非常に困難であるばかりでなく、反応温度の低さから解放型の反応槽を用いて行われる酵素反応時に雑菌汚染が起こることを示唆しており、これによる副次的な反応を防止するために厳密な衛生管理を必要とする等の問題点を有していた。このため、該方法も経済的に効率の良い方法とは言えなかった。
【0006】
以上のことから、トレハロースの高効率製造に適したマルトースホスホリラーゼおよびトレハロースホスホリラーゼの組み合わせを見出すことができれば、容易かつ大量に入手できるマルトースを原料として高収率でしかも容易かつ効率よくトレハロースを製造することができる。具体的には、トレハロースの製造に用いられるマルトースホスホリラーゼとトレハロースホスホリラーゼにおいて、最適pHおよび最適温度の範囲が重複しており、ならびに製造に適したpH安定性および温度安定性を有していれば、トレハロースの高効率製造が可能となる。
【0007】
一方、本発明者らは、上記性質を備えた酵素を見出すべく、新たなマルトースホスホリラーゼおよびトレハロースホスホリラーゼを探索した。鋭意研究の結果、最適pHが7.0〜7.5付近および最適温度が45〜55℃付近で重複する、新規のマルトースホスホリラーゼおよびトレハロースホスホリラーゼを本発明者らは見出した(たとえば、特許文献3を参照)。
【0008】
また、これまでに耐熱性のマルトースホスホリラーゼが開発されている(たとえば、特許文献4、5;非特許文献1を参照)。該マルトースホスホリラーゼは最適(至適)pHおよび最適温度がそれぞれ6.0〜7.0、55〜70℃であり、また、pHに対しては5.5〜8.0の範囲で安定であって、温度に対しては60℃まで極めて安定である。
【特許文献1】特開平5−91890号公報
【特許文献2】日本特許第1513517号公報
【特許文献3】WO2005/003343号
【特許文献4】日本特許第3691875号公報
【特許文献5】特開平10−262683号公報
【非特許文献1】Yasushi, Inoueら(2001)Biosci Biotechnol Biochem 65: 2644-2649
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記した特許文献3に記載のマルトースホスホリラーゼおよびトレハロースホスホリラーゼを使用してトレハロースを製造する場合、該マルトースホスホリラーゼの極めて安定な温度が50℃までであるため、50℃を超える温度に反応温度を設定できず、そのため依然として十分な殺菌効果が得られなかった。そのため、該トレハロースホスホリラーゼと組み合わせてトレハロースを製造するためには、該トレハロースホスホリラーゼと最適温度が広い範囲で重複しており、殺菌効果を見込める温度域である50℃以上の温度において高い安定性を有するマルトースホスホリラーゼを必要とすることが判明した。
【0010】
また、特許文献4、5および非特許文献1に記載の耐熱性マルトースホスホリラーゼを、特許文献3に記載のトレハロースホスホリラーゼに組み合わせれば、効率よくマルトースからトレハロースを製造することができるとも考えられる。しかしながら、特許文献4、5および非特許文献1に記載のマルトースホスホリラーゼは高い温度範囲にまで残存活性を有しているために、トレハロース製造における酵素の失活工程をより高温に設定しなければならないという新たな問題が生じることが判明した。
【0011】
そこで、本発明者らは上記種々の問題点を解決した新規のマルトースホスホリラーゼを探索するに至った。
【0012】
以上から、本発明の第一の目的は、上記のような従来の技術の種々の問題点を解決し、これらの種々の要求を満足する、新規なマルトースホスホリラーゼの提供にある。さらに詳しくは、組み合わせるべきトレハロースホスホリラーゼと最適温度が重複しており、最適温度が殺菌効果を見込める温度域である50℃以上の温度であって、なおかつトレハロースの製造に適した温度安定性を有し、適度な温度で失活可能である、新規なマルトースホスホリラーゼを提供することである。
【0013】
本発明の第二の目的は、該マルトースホスホリラーゼをコードするポリヌクレオチドまたは核酸分子を用いて該マルトースホスホリラーゼを簡単かつ高収率で得る製造方法を提供することにある。
【0014】
本発明の第三の目的は、得られた該マルトースホスホリラーゼを用いたβ−グルコース−1−リン酸またはトレハロースの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、下記[イ]〜[ハ]の性質を有する新規なマルトースホスホリラーゼを見出し、本発明を完成するに至った。
[イ]マルトース加リン酸分解反応活性の最適温度が50〜60℃である。
[ロ]マルトース加リン酸分解反応活性は、pH6.0、30分間の加熱条件下では58℃まで安定である。
[ハ]マルトース加リン酸分解反応活性は、65℃、15分間の熱処理で90%以上失活する。
【0016】
すなわち、本発明によれば、下記(a)〜(c)のいずれかのアミノ酸配列を有するマルトースホスホリラーゼが提供される。
(a)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列において、72位のアスパラギンがイソロイシンまたはバリンに、および、679位のスレオニンがイソロイシンまたはバリンにそれぞれ置換された改変アミノ酸配列;
(b)前記改変アミノ酸配列において、前記72位および679位のアミノ酸の置換の他さらに1から数個のアミノ酸の欠失、置換、逆位、付加および/または挿入を有するアミノ酸配列からなり、下記[イ]〜[ハ]の性質のマルトース加リン酸分解反応活性を有するアミノ酸配列、
[イ]最適温度が50〜60℃であり、
[ロ]pH6.0、30分間の加熱条件下では58℃まで安定であり、
[ハ]65℃、15分間の熱処理で90%以上失活する;または、
(c)前記改変アミノ酸配列と70%以上の相同性を有する前記72位および679位のアミノ酸の置換を含むアミノ酸配列からなり、下記[イ]〜[ハ]の性質のマルトース加リン酸分解反応活性を有するアミノ酸配列、
[イ]最適温度が50〜60℃であり、
[ロ]pH6.0、30分間の加熱条件下では58℃まで安定であり、
[ハ]65℃、15分間の熱処理で90%以上失活する。
【0017】
好ましくは、上記した改変アミノ酸配列は、72位のアスパラギンおよび679位のスレオニンをそれぞれ、イソロイシンおよびイソロイシン、イソロイシンおよびバリン、バリンおよびイソロイシン、または、バリンおよびバリンの組み合わせで置換される改変アミノ酸配列である。
【0018】
さらに本発明によれば、下記(a)〜(c)のいずれかのアミノ酸配列からなるマルトースホスホリラーゼをコードするポリヌクレオチドが提供される。
(a)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列において、72位のアスパラギンがイソロイシンまたはバリンに、および、679位のスレオニンがイソロイシンまたはバリンにそれぞれ置換された改変アミノ酸配列;
(b)前記改変アミノ酸配列において、前記72位および679位のアミノ酸の置換の他さらに1から数個のアミノ酸の欠失、置換、逆位、付加および/または挿入を有するアミノ酸配列からなり、下記[イ]〜[ハ]の性質のマルトース加リン酸分解反応活性を有するアミノ酸配列、
[イ]最適温度が50〜60℃であり、
[ロ]pH6.0、30分間の加熱条件下では58℃まで安定であり、
[ハ]65℃、15分間の熱処理で90%以上失活する;または、
(c)前記改変アミノ酸配列と70%以上の相同性を有する前記72位および679位のアミノ酸の置換を含むアミノ酸配列からなり、下記[イ]〜[ハ]の性質のマルトース加リン酸分解反応活性を有するアミノ酸配列、
[イ]最適温度が50〜60℃であり、
[ロ]pH6.0、30分間の加熱条件下では58℃まで安定であり、
[ハ]65℃、15分間の熱処理で90%以上失活する。
【0019】
さらに本発明によれば、下記(a)〜(c)のいずれかの塩基配列からなるポリヌクレオチドが提供される。
(a)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列において、72位のアスパラギンがイソロイシンまたはバリンに、および、679位のスレオニンがイソロイシンまたはバリンにそれぞれ置換された改変アミノ酸配列;
(b)前記改変アミノ酸配列において、前記72位および679位のアミノ酸の置換の他さらに1から数個のアミノ酸の欠失、置換、逆位、付加および/または挿入を有するアミノ酸配列からなり、下記[イ]〜[ハ]の性質のマルトース加リン酸分解反応活性を有するアミノ酸配列、
[イ]最適温度が50〜60℃であり、
[ロ]pH6.0、30分間の加熱条件下では58℃まで安定であり、
[ハ]65℃、15分間の熱処理で90%以上失活する;または、
(c)前記改変アミノ酸配列と70%以上の相同性を有する前記72位および679位のアミノ酸の置換を含むアミノ酸配列からなり、下記[イ]〜[ハ]の性質のマルトース加リン酸分解反応活性を有するアミノ酸配列、
[イ]最適温度が50〜60℃であり、
[ロ]pH6.0、30分間の加熱条件下では58℃まで安定であり、
[ハ]65℃、15分間の熱処理で90%以上失活する。
【0020】
さらに本発明によれば、上記した本発明のポリヌクレオチドを含有する組換えベクターが提供される。
【0021】
さらに本発明によれば、上記した本発明のポリヌクレオチドを導入してなる、または上記した本発明の組換えベクターを含有する形質転換体が提供される。
【0022】
さらに本発明によれば、下記(a)〜(c)の工程を有する上記した本発明のマルトースホスホリラーゼの製造方法が提供される。
(a)本発明の形質転換体の培養工程;
(b)該マルトースホスホリラーゼの生成・蓄積工程;および
(c)該マルトースホスホリラーゼの採取工程:
【0023】
好ましくは、前記採取工程において、培養物から形質転換体を分離し、(a)分離した形質転換体をそのままマルトースホスホリラーゼの粗酵素とするか、(b)分離した形質転換体から抽出してマルトースホスホリラーゼの粗酵素とするか、(c)得られた培養上清をマルトースホスホリラーゼの粗酵素とする。
【0024】
さらに本発明によれば、リン酸の存在下において、上記した本発明のマルトースホスホリラーゼをマルトースに作用させて、β−グルコース−1−リン酸を得ることを特徴とするβ−グルコース−1−リン酸の製造方法が提供される。
【0025】
さらに本発明によれば、リン酸の存在下において、上記した本発明のマルトースホスホリラーゼおよびトレハロースホスホリラーゼをマルトースに作用させて、トレハロースを得ることを特徴とするトレハロースの製造方法が提供される。
【0026】
好ましくは、前記トレハロースホスホリラーゼは、下記(a)〜(d)の性質を有することを特徴とするトレハロースホスホリラーゼが用いられる。
(a)触媒作用:トレハロース中のα−1,1−グルコピラノシド結合を可逆的に加リン酸分解し、グルコースおよびβ−グルコース−1−リン酸を生成する;
(b)最適pHおよび安定pH範囲:トレハロース合成反応の最適pHは5.8〜7.8であり、50℃、10分間の加熱条件下ではpH5.5〜9.5の範囲内で安定である;
(c)最適温度:トレハロース合成反応の最適温度は45〜60℃である;および
(d)温度安定性:pH7.0、15分間の加熱条件下では60℃まで安定であり、70℃で90%以上失活する。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る新規マルトースホスホリラーゼは、広pH範囲において高い活性を維持する上、55℃以下では150分に渡って無処理の約80%の活性を有し、さらに65℃を超えると急激に失活する。このことから、本発明のマルトースホスホリラーゼはマルトースからのβ−グルコース−1−リン酸の工業生産、または上記したトレハロースホスホリラーゼと同時的に組み合わせたトレハロースの工業生産の利用に大きな利点を有する。
また、本発明のマルトースホスホリラーゼは、対応する野生型マルトースホスホリラーゼと比べて、迅速にβ−グルコース−1−リン酸を生産しうる。これにより、本発明のマルトースホスホリラーゼを用いれば、トレハロース製造において多くの時間を費やす酵素反応工程を短縮し、トレハロースの迅速生産を達成しうる。このことを示す一つの原因として、本発明のマルトースホスホリラーゼが、対応する野生型マルトースホスホリラーゼと比べて、基質であるリン酸との親和性が高いことが考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
(A)本発明の酵素
本発明者らは、WO2005/003343に記載されている、寄託番号FERM BP−8420のパエニバチルス・エスピー SH−55(Paenibacillus sp. SH−55)由来のマルトースホスホリラーゼ遺伝子にランダム変異を導入し、得られた変異マルトースホスホリラーゼ遺伝子によって形質転換した形質転換体ライブラリーを構築した。該形質転換体ライブラリーから、50℃の高温条件下においても酵素活性を残存する変異マルトースホスホリラーゼの取得を目的として、該変異マルトースホスホリラーゼを発現する形質転換体をスクリーニングした。また、本発明者らは、スクリーニングにより得た変異マルトースホスホリラーゼのアミノ酸配列から、耐熱性に寄与するアミノ酸残基の部位と種類を特定し、本発明のマルトースホスホリラーゼを構築することに成功した。
【0029】
すなわち、本発明のマルトースホスホリラーゼは、下記(a)〜(c)のいずれかのアミノ酸配列を有するマルトースホスホリラーゼである。
(a)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列において、72位のアスパラギンがイソロイシンまたはバリンに、および、679位のスレオニンがイソロイシンまたはバリンにそれぞれ置換された改変アミノ酸配列;
(b)前記改変アミノ酸配列において、前記72位および679位のアミノ酸の置換の他さらに1から数個のアミノ酸の欠失、置換、逆位、付加および/または挿入を有するアミノ酸配列からなり、下記[イ]〜[ハ]の性質のマルトース加リン酸分解反応活性を有するアミノ酸配列、
[イ]最適温度が50〜60℃であり、
[ロ]pH6.0、30分間の加熱条件下では58℃まで安定であり、
[ハ]pH6.0、65℃、15分間の熱処理で90%以上失活する;または、
(c)前記改変アミノ酸配列と70%以上の相同性を有する前記72位および679位のアミノ酸の置換を含むアミノ酸配列からなり、下記[イ]〜[ハ]の性質のマルトース加リン酸分解反応活性を有するアミノ酸配列、
[イ]最適温度が50〜60℃であり、
[ロ]pH6.0、30分間の加熱条件下では58℃まで安定であり、
[ハ]pH6.0、65℃、15分間の熱処理で90%以上失活する。
【0030】
また、本発明のマルトースホスホリラーゼは、以下に示す性質を有する酵素である。
(a)触媒作用:リン酸の存在下において、マルトース中のα−1,4−グルコピラノシド結合を可逆的に加リン酸分解し、グルコースとβ−グルコース−1−リン酸を生成する。
(b)基質特異性:分解反応において、マルトースに作用し、トレハロース、シュークロース、ラクトース、セロビオースには作用しない。
(c)最適pHおよびpH安定性の範囲:分解反応における最適pHは6.5〜7.5付近にあり、15分間の加熱条件下ではpH5.0〜8.5の範囲内で安定である。
(d)最適温度:50〜60℃付近に分解反応の最適温度を有する。
(e)温度安定性:pH6.0、30分間の加熱条件下では58℃まで安定であり、65℃、15分間の加熱処理で90%以上失活する。
(f)基質親和性:ラインウエーバー・バークのプロットによるKm値は、リン酸に対しては約5.0〜6.0mM、マルトースに対しては約4.0〜5.0mMである。
(g)阻害性:銅、水銀、N−ブロモサクシニイミド、p−クロロマーキュリ安息香酸(各々1mM)、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(1%)で阻害される。
(h)等電点:pH4.8〜5.0の範囲にある。
(i)分子量:SDS−ポリアクリルアミド電気泳動法による分子量は約89,000〜90,000ダルトン、ゲルろ過法による分子量は約190,000ダルトンであり、ホモ2量体から構成されている。
【0031】
本明細書にいう「触媒作用」とは、酵素の有する触媒反応の態様を意味する。
【0032】
本明細書にいう「マルトース加リン酸分解反応活性」、「マルトースホスホリラーゼの活性」および「活性」は、他に記載がなければ、マルトースホスホリラーゼの触媒作用のうちβ−グルコース−1−リン酸とグルコースを生成する分解反応(「マルトース加リン酸分解反応」、または単に「分解反応」という)の態様を意味する。また、本明細書にいう「酵素」とは、他に記載がなければ、マルトースホスホリラーゼを意味する。
【0033】
マルトースホスホリラーゼの作用は、測定方法について特に制限されないが、たとえば、以下の方法で測定しうる。
10mMリン酸緩衝液(pH7.0)に溶解させた1%(w/v)のマルトース溶液に、マルトースホスホリラーゼを基質1gに対して5単位添加し、50℃で5時間反応させた後、沸騰水浴中で3分間加熱する。得られた糖化液中の糖を高速液体クロマトグラフィー法で測定し、グルコースおよびグルコース−1−リン酸をそれぞれ検出する。また、10mMのトリス−塩酸緩衝液(pH7.0)に溶解させた1%(w/v)のグルコースおよびβ−グルコース−1−リン酸ナトリウム塩もしくはα−グルコース−1−リン酸ナトリウム塩との混合溶液を基質とし、マルトースホスホリラーゼを基質1gに対してそれぞれ5単位添加し50℃で5時間反応させる。上述のように処理して生成する糖組成を測定して、グルコースおよびβ−グルコース−1−リン酸からのマルトースを検出すれば、マルトースホスホリラーゼによる合成反応が確認できる。しかし、グルコースとα−グルコース−1−リン酸からの二糖類の合成反応は検出されない。なお、生成糖は次の方法で分析できる。加熱失活させた糖化液中の未反応のマルトースをグルコアミラーゼ等によりグルコースに完全に分解させ、次に100℃で10分間加熱して、グルコアミラーゼ等を完全に失活させた後、生成するトレハロース含有量を高速液体クロマトグラフィーにより測定する。なお、検出には示差屈折計を使用する。
【0034】
マルトースホスホリラーゼの活性は、以下の方法または以下と同等の方法で測定しうる。
200mMのリン酸緩衝液(pH7.0)に溶解させた20mMのマルトース0.4mlに濃度が5μg/mlであるマルトースホスホリラーゼ液0.1mlを添加し、50℃で15分間反応させた後、沸騰水浴中で3分間加熱して酵素反応を止める。氷水中で冷却した後、得られる酵素反応停止液0.5mlを採取し、グルコース測定試薬 2ml(和光純薬工業(株)製、グルコースC−IIテスト・ワコー)を加え、37℃で10分間反応させた後、505nmの吸光度を測定する。ここで1単位の酵素活性は同条件下で1分間に1μmolのグルコースを生成する酵素量とする。
なお、マルトースホスホリラーゼ液などにマルトースやトレハロースを加水分解するα−グルコシダーゼ(マルターゼ)、グルコアミラーゼ、トレハラーゼ等が含まれる場合は、これらの酵素をあらかじめ失活して上記方法を実施するか、または別の方法を用いることとする。
【0035】
マルトースホスホリラーゼの基質親和性は、測定方法について特に制限されないが、たとえば、以下の方法で測定しうる。
前記の酵素活性の測定法において、使用する基質をマルトースの代わりに、トレハロース、イソマルトース、ネオトレハロース、シュークロース、ラクトース、またはセロビオースを基質としてこれらの基質の分解活性を調べることで測定する。
【0036】
マルトースホスホリラーゼの最適pHおよびpH安定性の範囲について、以下の方法または以下と同等の方法で測定しうる。
最適pHは、50mMリン酸−クエン酸緩衝液(pH4.0〜8.0)、50mMリン酸−硼酸緩衝液(pH8.0〜9.0)を用い、50℃、15分間処理した後の酵素の残存活性を測定する。上記条件で最も高い酵素活性(以下、「最大活性」と略す)の値を基準(100%)として約80%以上の値を持つpHを最適pHとする。
一方、pH安定性は、50mMリン酸−クエン酸緩衝液(pH4.0〜8.0)、50mMリン酸−硼酸緩衝液(pH8.0〜9.0)に精製酵素を10倍希釈した後に、50℃で15分間処理し、残存する酵素活性を求めて測定する。上記条件下における最大活性の値を基準(100%)として約80%以上の活性を示すpHを、pH安定性を示すpHまたは単に安定なpHという。
【0037】
マルトースホスホリラーゼの作用温度の範囲、最適温度および温度安定性については、以下の方法または以下と同等の方法で測定しうる。
最適温度は、50mMリン酸緩衝液(pH7.0)0.4mlに精製酵素 0.1mlを添加し、各温度において15分間反応させる条件下で酵素活性を求めて測定する。上記条件下における最大活性の約80%以上の活性を示す温度を最適温度とする。
一方、温度安定性は、精製酵素を20mMリン酸緩衝液(pH6.0)に溶解し、種々の温度で15分間および30分間処理し、その後の残存する酵素活性を求めることにより測定する。なお、無処理の酵素活性の値を基準(100%)として約80%以上の酵素活性の値を示す温度を、温度安定性を示す温度または単に安定な温度という。
【0038】
本明細書でいう「失活」とは、処理前後の酵素活性を測定した場合に、無処理の酵素活性を基準(100%)として50%以下の活性を示す酵素の状態を意味する。ただし、失活の範囲において好ましいのは30%以下、より好ましいのは10%以下、特に好ましいのは5%以下、最適に好ましいのは3%以下である。特に「90%以上失活」とは、処理前後の酵素活性を測定した場合に、無処理の酵素活性を基準(100%)として10%以下の活性を示す酵素の状態を意味する。
【0039】
マルトースホスホリラーゼのKm値は、測定方法について特に制限されないが、たとえば、ラインウエーバー・バークのプロットにより測定しうる。
【0040】
マルトースホスホリラーゼの阻害剤は、測定方法について特に制限されないが、たとえば、各種化合物の存在下における酵素活性を求めることで測定しうる。
【0041】
マルトースホスホリラーゼの等電点は、測定方法について特に制限されないが、たとえば、イソエレクトロフォーカシング法アイソゲル(FMC BioProducto社製)により、測定しうる。
【0042】
マルトースホスホリラーゼの分子量は、測定方法について特に制限されないが、たとえば、セファクリルS−200を用いるゲル濾過法により測定しうる。
【0043】
本明細書にいう「改変アミノ酸配列」とは、配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列において、72位のアスパラギンおよび679位のスレオニンがそれぞれ別のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列を意味する。該改変アミノ酸配列を取得する方法は制限されるものではなく、物理化学的に合成してもよいし、生物学的に改変アミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドから作成してもよいし、通常知られる手段を用いた各種スクリーニングにより取得してもよい。
【0044】
本明細書にいう「1から数個のアミノ酸の欠失、置換、逆位、付加および/または挿入を有するアミノ酸配列」における「1から数個」の範囲は特に限定されないが、たとえば、1から20個、好ましくは1から10個、より好ましくは1から7個、さらに好ましくは1から5個、特に好ましくは1から3個程度を意味する。また、「アミノ酸の欠失」とは配列中のアミノ酸残基の欠落もしくは消失を意味し、「アミノ酸の置換」は配列中のアミノ酸残基が別のアミノ酸残基に置き換えられていること、「アミノ酸の逆位」とは隣り合う2以上のアミノ酸残基の位置が逆になっていること、「アミノ酸の付加」とはアミノ酸残基が付け加えられていること、「アミノ酸の挿入」とは配列中のアミノ酸残基の間に別のアミノ酸残基が挿し入れられていることをそれぞれ意味する。
なお、該アミノ酸配列は、配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列おける72位のアスパラギンおよび679位のスレオニンがそれぞれ別のアミノ酸に置換されており、さらにそれら以外に1から数個のアミノ酸の欠失等を有するアミノ酸配列を意味する。
【0045】
本明細書でいう「改変アミノ酸配列と70%以上の相同性を有する前記72位および679位のアミノ酸の置換を含むアミノ酸配列」における相同性は、70%以上であれば特に限定されないが、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上である。ただし、配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列おける72位のアスパラギンおよび679位のスレオニンがそれぞれアスパラギンとスレオニン以外のアミノ酸に置換されていることが必要である。
【0046】
上記した改変アミノ酸配列の具体例としては、72位のアスパラギンおよび679位のスレオニンをそれぞれ、72位にイソロイシンおよび679位にイソロイシン、72位にイソロイシンおよび679位にバリン、72位にバリンおよび679位にイソロイシン、または72位にバリンおよび679位にバリンに置換された改変アミノ酸である。
【0047】
本発明のマルトースホスホリラーゼの取得方法は、遺伝子組換え技術により作製した組換えタンパク質の他に、化学合成により合成したタンパク質でもよい。
組換えタンパク質を作製する場合には、まず、マルトースホスホリラーゼをコードするポリヌクレオチドを取得する。このポリヌクレオチドを適当な発現系に導入することにより、本発明のマルトースホスホリラーゼを産生することができる。発現系でのタンパク質の発現については本明細書中後記する。
【0048】
(B)本発明のポリヌクレオチド
本発明のポリヌクレオチドは、下記(a)〜(c)のいずれかのアミノ酸配列からなるマルトースホスホリラーゼをコードするポリヌクレオチドである。
(a)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列において、72位のアスパラギンがイソロイシンまたはバリンに、および、679位のスレオニンがイソロイシンまたはバリンにそれぞれ置換された改変アミノ酸配列;
(b)前記改変アミノ酸配列において、前記72位および679位のアミノ酸の置換の他さらに1から数個のアミノ酸の欠失、置換、逆位、付加および/または挿入を有するアミノ酸配列からなり、下記[イ]〜[ハ]の性質のマルトース加リン酸分解反応活性を有するアミノ酸配列、
[イ]最適温度が50〜60℃であり、
[ロ]pH6.0、30分間の加熱条件下では58℃まで安定であり、
[ハ]pH6.0、65℃、15分間の熱処理で90%以上失活する;または、
(c)前記改変アミノ酸配列と70%以上の相同性を有する前記72位および679位のアミノ酸の置換を含むアミノ酸配列からなり、下記[イ]〜[ハ]の性質のマルトース加リン酸分解反応活性を有するアミノ酸配列、
[イ]最適温度が50〜60℃であり、
[ロ]pH6.0、30分間の加熱条件下では58℃まで安定であり、
[ハ]pH6.0、65℃、15分間の熱処理で90%以上失活する。
【0049】
本発明のポリヌクレオチドの具体例は、下記(a)〜(c)のいずれかの塩基配列からなるポリヌクレオチドである。
(a)配列表の配列番号2〜5のいずれかに記載の塩基配列;
(b)配列表の配列番号2〜5のいずれかに記載の塩基配列において、214〜216塩基および2035〜2037塩基以外の箇所に1から数個の塩基の欠失、置換、逆位、付加および/または挿入を有する塩基配列であって、下記[イ]〜[ハ]の性質のマルトース加リン酸分解反応活性を有するアミノ酸配列、
[イ]最適温度が50〜60℃であり、
[ロ]pH6.0、30分間の加熱条件下では58℃まで安定であり、
[ハ]pH6.0、65℃、15分間の熱処理で90%以上失活する;または、
(c)配列表の配列番号2〜5のいずれかに記載の塩基配列とストリジェントな条件下でハイブリダイズし、配列番号2〜5のいずれかに記載の塩基配列中の214〜216塩基および2035〜2037塩基と相補的な塩基を含む塩基配列であって、下記[イ]〜[ハ]の性質のマルトース加リン酸分解反応活性を有するアミノ酸配列、
[イ]最適温度が50〜60℃であり、
[ロ]pH6.0、30分間の加熱条件下では58℃まで安定であり、
[ハ]pH6.0、65℃、15分間の熱処理で90%以上失活する。
【0050】
本明細書でいう「1から数個の塩基の欠失、置換、逆位、付加および/または挿入を有する塩基配列」における「1から数個」の範囲は特には限定されないが、例えば、1から40個、好ましくは1から30個、より好ましくは1から20個、より好ましくは1から10個、さらに好ましくは1から5個、特に好ましくは1から3個程度を意味する。また、「塩基の欠失」とは配列中の塩基の欠落もしくは消失を意味し、「塩基の置換」は配列中の塩基が別の塩基に置き換えられていること、「塩基の逆位」とは隣り合う2以上の塩基の位置が逆になっていること、「塩基の付加」とは塩基が付け加えられていること、「塩基の挿入」とは配列中の塩基の間に別の塩基が挿し入れられていることをそれぞれ意味する。
なお、「1から数個の塩基の欠失、置換、逆位、付加および/または挿入を有する塩基配列」において、配列表の配列番号2〜5に記載の塩基配列おける214〜216塩基および2035〜2037塩基以外の塩基について欠失、置換、逆位、付加および/または挿入を有する。
【0051】
本明細書でいう「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」とは、DNAをプローブとして使用し、コロニーハイブリダイゼーション法、プラークハイブリダイゼーション法、あるいはサザンブロットハイブリダイゼーション法等を用いることにより得られるDNAの塩基配列を意味し、例えば、コロニーあるいはプラーク由来のDNAまたは該DNAの断片を固定化したフィルターを用いて、0.7〜1.0MのNaCl存在下、65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2×SSC溶液(1×SSC溶液は、150mM塩化ナトリウム、15mMクエン酸ナトリウム)を用い、65℃条件下でフィルターを洗浄することにより同定できるDNA等を挙げることができる。ハイブリダイゼーションは、Molecular Cloning: A laboratory Mannual, 2nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY.,1989(以下、モレキュラークローニング第2版と略す)または、Current Protocols in Molecular Biology, Supplement 1〜38, John Wiley & Sons (1987-1997)(以下、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジーと略す)等に記載されている方法に準じて行うことができる。
【0052】
ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAとしては、プローブとして使用するDNAの塩基配列と一定以上の相同性を有するDNAが挙げられ、例えば70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは93%以上、特に好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上の相同性を有するDNAが挙げられる。
ただし、ハイブリダイズする塩基配列には、配列表の配列番号2〜5に記載の塩基配列おける214〜216塩基および2035〜2037塩基を必ず含む。
【0053】
本発明のポリヌクレオチドの取得方法は特に限定されない。たとえば、本明細書中の配列表の配列番号1に記載したアミノ酸配列および配列番号2〜5に記載の塩基配列の情報に基づいて適当なプローブやプライマーを調製し、それらを用いてパエニバチルス・エスピー SH−55由来の染色体DNAライブラリーをスクリーニングすることにより本発明の遺伝子を単離することができる。染色体DNAライブラリーは、本発明のマルトースホスホリラーゼの野生型を発現しているパエニバチルス・エスピー SH−55由来のマルトースホスホリラーゼ遺伝子に、通常知られる方法によって変異を導入して作製することができる。
【0054】
上記した染色体DNAライブラリーを得ることができれば、PCR法により本発明のポリヌクレオチドを取得することもできる。該染色体DNAライブラリーを鋳型として使用し、配列番号2〜5に記載した塩基配列を増幅できるように設計した1対のプライマーを用いてPCRを行う。PCRの反応条件は適宜設定することができ、例えば、94℃で15秒〜30秒(変性)、63℃で30秒〜1分間(アニーリング)、68℃で2〜3分間(伸長)からなる反応工程を1サイクルとして、例えば50サイクル行った後、72℃で10分間反応させる条件などを挙げることができる。次いで、増幅されたDNA断片を、大腸菌等の宿主で増幅可能な適切なベクター中にクローニングすることができる。
【0055】
上記したプローブまたはプライマーの調製、染色体DNAライブラリーの構築、cDNAライブラリーのスクリーニング、ならびに目的遺伝子のクローニングなどの操作は当業者に既知であり、例えば、モレキュラークローニング第2版、またはカレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー等に記載の方法に準じて行うことができる。
【0056】
また、本発明のマルトースホスホリラーゼやポリヌクレオチドは、本発明のマルトースホスホリラーゼの野生型を発現しているパエニバチルス・エスピー SH−55由来のマルトースホスホリラーゼ遺伝子から、改変アミノ酸配列および配列表の配列番号2〜5に記載の塩基配列の情報に基づいて、化学合成、遺伝子工学的手法または突然変異誘発などの当業者に通常知られる任意の方法で作製することができる。
【0057】
たとえば、マルトースホスホリラーゼの野生型を発現しているパエニバチルス・エスピー SH−55由来のマルトースホスホリラーゼ遺伝子に対し、変異原となる薬剤と接触作用させる方法、紫外線を照射する方法、遺伝子工学的手法等を用いて行うことができる。遺伝子工学的手法の一つである部位特異的変異誘発法は対象となる位置に変異を導入できる手法であることから有用であり、サチュレーション変異法、ならびにモレキュラークローニング第2版およびカレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー等に記載の方法に準じて行うことができる。
【0058】
本発明のポリヌクレオチドは、いずれの塩基配列からなるとしても、改変アミノ酸配列および配列表の配列番号2〜5に記載の塩基配列の情報に基づいて、化学合成、遺伝子工学的手法または突然変異誘発などの当業者に通常知られる任意の方法で作製することができる。
【0059】
たとえば、配列表の配列番号2〜5のいずれかに記載の塩基配列を有するポリヌクレオチドに対し、変異原となる薬剤と接触作用させる方法、紫外線を照射する方法、遺伝子工学的手法等を用いて行うことができる。遺伝子工学的手法の一つである部位特異的変異誘発法は対象となる位置に変異を導入できる手法であることから有用であり、モレキュラークローニング第2版、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー等に記載の方法に準じて行うことができる。
【0060】
(C)本発明の組換えベクター
本発明の遺伝子は適当なベクター中に挿入して使用することができる。本発明で用いるベクターの種類は特に限定されず、例えば、自立的に複製することが可能なベクター(例えばプラスミド等)でもよいし、あるいは、宿主細胞に導入された際に宿主細胞のゲノムに組み込まれ、組み込まれた染色体と共に複製されるものであってもよい。好ましくは、本発明で用いるベクターは発現ベクターである。発現ベクターにおいて本発明の遺伝子は、転写に必要な要素(例えば、プロモータ等)が機能的に連結されている。プロモータは宿主細胞において転写活性を示すDNA配列であり、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。
【0061】
また、自立的に複製することが可能なベクターの具体例としては、pRSETA、pCR8、pBR322、pBluescriptIISK(+)、pUC18、pCR2.1、pLEX、pJL3、pSW1、pSE280、pSE420、pHY300PLK等のプラスミドベクターやλgt11、λZAP等のファージベクターが挙げられるが、大腸菌で発現させるには、pRSETA、pCR8、pBR322、pBluescriptII SK(+)、pUC18、pKK223−3、およびpCR2.1が好適であり、枯草菌で発現させるには、pHY300PLKが好適である。
【0062】
細菌細胞で作動可能なプロモータとしては、バチルス・ステアロテルモフィルス・マルトジェニック・アミラーゼ遺伝子(Bacillus stearothermophilus maltogenic amylase gene)、バチルス・リケニホルミスαアミラーゼ遺伝子(Bacillus licheniformis alpha−amylase gene)、バチルス・アミロリケファチエンス・BANアミラーゼ遺伝子(Bacillus amyloliquefaciens BAN amylase gene)、バチルス・サブチリス・アルカリプロテアーゼ遺伝子(Bacillus subtilis alkaline protease gene)もしくはバチルス・プミルス・キシロシダーゼ遺伝子(Bacillus pumilus xylosidase gene)のプロモータ、またはファージ・ラムダのPRもしくはPLプロモータ、大腸菌のlactrpもしくはtacプロモータなどが挙げられる。哺乳動物細胞で作動可能なプロモータの例としては、SV40プロモータ、MT−1(メタロチオネイン遺伝子)プロモータ、またはアデノウイルス2主後期プロモータなどがある。昆虫細胞で作動可能なプロモータの例としては、ポリヘドリンプロモータ、P10プロモータ、オートグラファ・カリホルニカ・ポリヘドロシス塩基性タンパクプロモータ、バキュウロウイルス即時型初期遺伝子1プロモータ、またはバキュウロウイルス39K遅延型初期遺伝子プロモータ等がある。酵母宿主細胞で作動可能なプロモータの例としては、酵母解糖系遺伝子由来のプロモータ、アルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子プロモータ、TPI1プロモータ、ADH2−4cプロモータなどが挙げられる。糸状菌細胞で作動可能なプロモータの例としては、ADH3プロモータまたはtpiAプロモータなどがある。
【0063】
本発明の組換えベクターはさらに選択マーカーを含有してもよい。選択マーカーとしては、たとえば、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)またはシゾサッカロマイセス・ポンベTPI遺伝子等のようなその補体が宿主細胞に欠けている遺伝子、またはたとえばアンピシリン、カナマイシン、テトラサイクリン、クロラムフェニコール、ネオマイシンもしくはヒグロマイシンのような薬剤耐性遺伝子を挙げることができる。本発明の遺伝子、プロモータ、および所望によりターミネータ、エンハンサーおよび/または分泌シグナル配列などをそれぞれ連結し、これらを適切なベクターに挿入する方法は当業者に通常知られる。
【0064】
(D)本発明の形質転換体
本発明のポリヌクレオチドまたは組換えベクターを適当な宿主に導入することによって形質転換体を作製することができる。
【0065】
すなわち、本発明の形質転換体は、本発明のポリヌクレオチドを導入してなる、または本発明の組換えベクターを含有する形質転換体である。
【0066】
本明細書でいう「ポリヌクレオチドを導入してなる」における「ポリヌクレオチドを導入」とは、バクテリオファージなどによって、本発明のポリヌクレオチドを宿主細胞へ導入すること、好ましくは、本発明のポリヌクレオチドが宿主細胞の染色体DNAに組み込まれることを意味する。
【0067】
本発明のポリヌクレオチドまたは組換えベクターが導入される宿主細胞は、本発明のマルトースホスホリラーゼ生産における形質転換体の培養条件においてマルターゼを産生しないものであればよく、細菌、酵母、真菌および高等真核細胞等が挙げられる。
【0068】
細菌細胞の例としては、枯草菌または放線菌等のグラム陽性菌または大腸菌等のグラム陰性菌が挙げられる。これら細菌の形質転換は、プロトプラスト法、エレクトロポレーション法、カルシウムイオンを用いる方法等により行えばよい。
哺乳類細胞の例としては、HEK293細胞、HeLa細胞、COS細胞、BHK細胞、CHL細胞またはCHO細胞等が挙げられる。哺乳類細胞を形質転換し、該細胞に導入されたDNA配列を発現させる方法も知られており、例えば、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法等を用いることができる。
【0069】
酵母細胞の例としては、サッカロマイセスまたはシゾサッカロマイセスに属する細胞が挙げられ、例えば、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)またはサッカロマイセス・クルイベリ(Saccharomyces kluyveri)等が挙げられる。酵母宿主への組換えベクターの導入方法としては、例えば、エレクトロポレーション法、スフェロブラスト法、酢酸リチウム法等を挙げることができる。
【0070】
他の真菌細胞の例は、糸状菌、例えばアスペルギルス、ニューロスポラ、フザリウム、またはトリコデルマに属する細胞である。宿主細胞として糸状菌を用いる場合、DNA構築物を宿主染色体に組み込んで組換え宿主細胞を得ることにより形質転換を行うことができる。DNA構築物の宿主染色体への組み込みは、通常知られる方法に従い、例えば相同組換えまたは異種組換えにより行うことができる。
【0071】
昆虫細胞を宿主として用いる場合には、組換え遺伝子導入ベクターおよびバキュロウイルスを昆虫細胞に共導入して昆虫細胞培養上清中に組換えウイルスを得た後、さらに組換えウイルスを昆虫細胞に感染させ、タンパク質を発現させることができる。
【0072】
バキュロウイルスとしては、例えば、ヨトウガ科昆虫に感染するウイルスであるアウトグラファ・カリフォルニカ・ヌクレアー・ポリヘドロシス・ウイルス(Autographa californica nuclear polyhedrosis virus)等を用いることができる。また、昆虫細胞としては、Trichoplusia niの卵巣細胞であるHiFive(インビトロジェン社製)等を用いることができる。組換えウイルスを調製するための、昆虫細胞への組換え遺伝子導入ベクターと上記バキュロウイルスの共導入方法としては、例えば、リン酸カルシウム法またはリポフェクション法等を挙げることができる。
【0073】
(E)本発明の形質転換体を用いた組換えタンパク質の製造
本発明の形質転換体を常法にしたがって適当な培地に接種して培養し、培養物から本発明のマルトースホスホリラーゼを採取してなる、組換えマルトースホスホリラーゼの製造方法を包含する。
【0074】
すなわち、本発明のマルトースホスホリラーゼの製造方法は、下記(a)〜(c)の工程を有するマルトースホスホリラーゼの製造方法である。
(a)本発明の形質転換体の培養工程;
(b)本発明のマルトースホスホリラーゼの生成・蓄積工程;および
(c)該マルトースホスホリラーゼの採取する工程:
【0075】
本発明の形質転換体の培養に用いる栄養培地としては、炭素源、窒素源、無機物、および必要に応じ使用菌株の必要とする微量栄養素を程よく含有するものであれば、天然培地、合成培地のいずれでもよい。
【0076】
本発明の形質転換体の培養に用いる栄養培地の炭素源としては、該形質転換体が資化しうる物であればよく、例えば、グルコース、マルトース、フラクトース、マンノース、トレハロース、スクロース、マンニトール、ソルビトール、デンプン、デキストリン、糖蜜などの糖質、またはクエン酸、コハク酸などの有機酸、またはグリセリンなどの脂肪酸も使用することができる。
【0077】
本発明の形質転換体の培養に用いる栄養培地の窒素源としては、各種有機および無機の窒素化合物、さらに培地は各種の無機塩を含むことができる。たとえば、コーンスティープリカー、大豆粕、あるいは各種ペプトン類等の有機窒素源、そして塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、尿素、硝酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、リン酸アンモニウム等の無機窒素源などの化合物が使用可能である。また、グルタミン酸などのアミノ酸および尿素などの有機窒素源が炭素源にもなることはいうまでもない。さらに、ペプトン、ポリペプトン、バクトペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスティープリカー、大豆粉、大豆粕、乾燥酵母、カザミノ酸、ソリュブルベジタブルプロテイン等の窒素含有天然物も窒素源として使用できる。
【0078】
本発明の形質転換体の培養に用いる栄養培地の無機物としては、例えば、カルシウム塩、マグネシウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、リン酸塩、マンガン塩、亜鉛塩、鉄塩、銅塩、モリブデン塩、コバルト塩などが適宜用いられる。具体的には、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸亜鉛、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム等が用いられる。さらに、必要に応じて、アミノ酸ならびにビオチンおよびチアミンなどの微量栄養素ビタミンなども適宜用いられる。
【0079】
培養法としては液体培養法(振とう培養法もしくは通気攪拌培養法)がよく、工業的には通気攪拌培養法が好ましい。培養温度とpHは、使用する形質転換体の増殖に最も適した条件を選べばよい。たとえば、形質転換体が微生物の場合の培養は、通常、温度20〜45℃、好ましくは25〜42℃、pH5〜9、好ましくは6〜8から選ばれる条件で好気的に行われる。培養時間は微生物が増殖し始める時間以上の時間であればよく、好ましくは8〜120時間であり、さらに好ましくは本発明のマルトースホスホリラーゼが最大に生成する時間までである。微生物の増殖を確認する方法は特に制限はないが、たとえば、培養物を採取して顕微鏡で観察してもよいし、吸光度で観察してもよい。また、培養液の溶存酸素濃度には特に制限はないが、通常は、0.5〜20ppmが好ましい。そのために、通気量を調節したり、撹拌したり、通気に酸素を追加したりすればよい。培養方式は、回分培養、流加培養、連続培養または灌流培養のいずれでもよい。
【0080】
本発明の形質転換体の培養において、組換えベクターに選択マーカーを含有させている場合などでは、選択マーカーに対応した抗生物質を栄養培地とともに加える。たとえば、選択マーカーとしてアンピシリン耐性遺伝子およびクロラムフェニコール耐性遺伝子を含有する場合は、適当な濃度に調製したアンピシリン溶液およびクロラムフェニコール溶液をそれぞれ加える。また、必要であれば、本発明のポリヌクレオチドを有する遺伝子の発現を誘導する発現誘導剤を培養開始時または培養開始から形質転換体の増殖を確認した後に加える。たとえば、発現誘導剤としては、イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)を用いる。
【0081】
このようにして得られた培養物から、本発明のマルトースホスホリラーゼを採取する。本発明の形質転換体の種類によって、該マルトースホスホリラーゼは細胞内外に蓄積される。そこで、細胞内あるいは細胞外に生成蓄積されたマルトースホスホリラーゼを採取する。
【0082】
本発明のマルトースホスホリラーゼの採取法は、一般の酵素の採取の手段に準じて行うことができる。該マルトースホスホリラーゼが細胞外に生成蓄積された場合は、通常知られる手段によって細胞を除いた後に培養上清を粗酵素として用いることができる。細胞内に生成蓄積される場合は、以下に示す方法に特に限定はされないが、たとえば、有機溶剤やリゾチームのような酵素によって細胞を溶解する方法、および、超音波破砕法、フレンチプレス法、ガラスビーズ破砕法、ダイノミル破砕法等の細胞破砕法で得られた細胞破砕物および/または培養物を遠心分離法、ろ過法等の操作によって細胞と培養上清に分離する。このようにして得られた培養上清を、粗酵素として用いることができる。また、分離した菌体をそのまま該マルトースホスホリラーゼの粗酵素とすることもできる。
【0083】
前記粗酵素は、そのままで使用することもできるが、必要に応じて、例えば塩析法、沈澱法、透析法、限外濾過法等の通常知られる方法を単独または組み合わせることにより工業用途の濃縮酵素を調製できる。
【0084】
さらに前記濃縮酵素を、たとえば、イオン交換クロマトグラフィー、等電点クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、レジンカラム法等の通常知られる単離・精製法の組合せに供すことにより、精製酵素を得ることができる。
【0085】
(F)本発明のβ−グルコース−1−リン酸またはトレハロースの製造方法
本発明のマルトースホスホリラーゼもしくは本発明の形質転換体(たとえば、微生物)またはその培養物の存在下において、基質(たとえば、マルトース)を反応させることによりβ−グルコース−1−リン酸を合成すること、または他の酵素(たとえば、トレハロースホスホリラーゼ)と組み合わせることによって該基質から別の生産物(たとえば、トレハロース)を合成することができる。上記した合成方法も本発明の範囲内に含まれる。
【0086】
すなわち、本発明のβ−グルコース−1−リン酸の製造方法とは、リン酸の存在下において、本発明のマルトースホスホリラーゼをマルトースに作用させてβ−グルコース−1−リン酸を得ることを特徴とするβ−グルコース−1−リン酸の製造方法である。
【0087】
また、本発明のトレハロースの製造方法とは、リン酸の存在下において、本発明のマルトースホスホリラーゼおよびトレハロースホスホリラーゼをマルトースに作用させて、トレハロースを得ることを特徴とするトレハロースの製造方法である。好ましくは、前記トレハロースホスホリラーゼは、下記(a)〜(d)の性質を有することを特徴とするトレハロースホスホリラーゼが、最適に好ましくは下記(a)〜(d)の性質を有するトレハロースホスホリラーゼが用いられる。
(a)触媒作用:トレハロース中のα−1,1−グルコピラノシド結合を可逆的に加リン酸分解し、グルコースおよびβ−グルコース−1−リン酸を生成する;
(b)最適pHおよび安定pH範囲:トレハロース合成反応の最適pHは5.8〜7.8であり、50℃、10分間の加熱条件下ではpH5.5〜9.5の範囲内で安定である;
(c)最適温度:トレハロース合成反応の最適温度は45〜60℃である;および
(d)温度安定性:pH7.0、15分間の加熱条件下では60℃まで安定であり、70℃で90%以上失活する。
本発明のトレハロースの製造において、本発明のマルトースホスホリラーゼとともに用いられるトレハロースホスホリラーゼの一具体例としては、特許文献3に記載されている上記(a)〜(d)の性質を有するトレハロースホスホリラーゼが挙げられる。
【0088】
本明細書でいう「トレハロースホスホリラーゼ」とは、グルコースとβ−グルコース−1−リン酸からトレハロースとリン酸を生成する反応において可逆的に触媒する活性を有する酵素である。該トレハロースホスホリラーゼの触媒作用、最適pHおよび安定pH範囲、最適温度ならびに温度安定性は、たとえば特許文献3に記載されているような、通常知られる方法により測定される。
【0089】
たとえば、本発明のマルトースホスホリラーゼと上記した(a)〜(d)の性質を有するのトレハロースホスホリラーゼの存在下に、マルトースとリン酸もしくはリン酸塩とを水性媒体中で反応させて、トレハロースおよび/またはβ−グルコース−1−リン酸を製造する。
【0090】
本発明のマルトースホスホリラーゼは、固体状または液体状の粗酵素および/または精製酵素として利用することができる。ただし、該粗酵素はマルターゼ等のトレハロースの製造に悪影響を及ぼす酵素を含まない粗酵素であることを必要とする。さらに、該マルトースホスホリラーゼの活性を有する菌体および該菌体を適当な担体に包括、吸着あるいは化学的に結合させた固定化菌体などをトレハロースおよび/またはβ−グルコース−1−リン酸の製造に使用することができる。さらには、該マルトースホスホリラーゼは、おのおの通常知られる方法で固定化させた固定化酵素として使用することもできる。
【0091】
また、本発明のトレハロースおよび/またはβ−グルコース−1−リン酸の製造において、本発明のマルトースホスホリラーゼは上記した(a)〜(d)の性質を有するトレハロースホスホリラーゼと好適に組み合わせて用いられる。ただし、トレハロースホスホリラーゼの性質が、たとえば、トレハロース合成反応における最適pHが6.5〜7.5の間にあり、pH5.0〜8.5の範囲内で安定で、50〜60℃付近に最適温度を有し、および58℃まで極めて安定であれば、本発明のマルトースホスホリラーゼと組み合わせて用いられうる。
【0092】
本発明のトレハロースおよび/またはβ−グルコース−1−リン酸の製造に用いられるトレハロースホスホリラーゼは、本発明のマルトースホスホリラーゼと同様に精製酵素であっても粗酵素であってもよいし、菌体または酵素の形態で固定化されて用いられてもよい。
【0093】
マルトースとしてはマルトースまたはマルトース含有物(例えばマルトース高含有糖液)を用いることができる。リン酸塩としてはリン酸三カリウム(もしくはナトリウム)、リン酸水素二カリウム(もしくはナトリウム)、リン酸二水素カリウム(もしくはナトリウム)等の水溶性リン酸塩を用いることができる。水性媒体としては水、緩衝液等が挙げられる。緩衝液としては酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、コハク酸緩衝液、トリス塩酸緩衝液等を用いることができる。
【0094】
酵素の使用量については特に制限はないが、マルトース1gに対して各酵素とも、0.1〜50単位、好ましくは1〜20単位使用するのが好適である。また、本発明のマルトースホスホリラーゼとトレハロースホスホラリーゼとの使用比率は特に制限ないが、単位の比で前者:後者=1:5〜5:1、好ましくは1:2〜2:1が適当である。
【0095】
リン酸および/またはリン酸塩はマルトースに対して、特に制限はないが、0.001〜1倍モル、好ましくは0.005〜0.5倍モル使用するのが適当である。なお、緩衝液がリン酸(塩)を含有する場合は系中のリン酸およびリン酸塩の総量が上記範囲であればよい。
【0096】
前記反応は温度、雑菌汚染をさらに避けるとともに収率を挙げるため、好ましくは50〜60℃、より好ましくは55〜60℃、さらに好ましくは55〜58℃で行う。pHは一般に6.0〜8.0、好ましくは6.5〜7.5で行うのが適当である。上記条件で十分なトレハロース生成が見られた時点で反応を終了するが、反応は通常1〜144時間で終了する。
【0097】
反応終了後、反応液を60〜135℃、好ましくは65〜100℃に加熱して酵素を失活させるか、pHの低下(塩酸等の酸の添加)などの適当な手段によって酵素を失活させて反応を停止する。その後、該反応停止液を活性炭処理、イオン交換樹脂処理等の単離・精製手段を適宜組み合わせてトレハロースを得ることができる。
【0098】
また、本発明は、本発明のマルトースホスホリラーゼの存在下にマルトースとリン酸もしくはリン酸塩とを、水性媒体中で反応させて、β−グルコース−1−リン酸を製造することもできる。
【0099】
前記反応に用いられる本発明のマルトースホスホリラーゼ、マルトース、水性媒体は、トレハロース製造の場合と同様にして行うことができる。酵素はマルトース1gに対して0.1〜50単位、好ましくは1〜20単位が好適である。
【0100】
反応温度、反応pH、反応時間はトレハロース製造の場合と同様にして行うことができる。反応終了後、イオン交換樹脂処理等の単離・精製手段を適宜組み合わせてβ−グルコース−1−リン酸を得ることができる。
以下の実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0101】
[実施例1]耐熱性マルトースホスホリラーゼの取得
(1)変異遺伝子ライブラリーの構築
寄託番号FERM BP−8420のパエニバチルス・エスピー SH−55(Paenibacillus sp.SH−55)由来のマルトースホスホリラーゼ遺伝子を含む組換え体プラスミドpRSMP1(国際公開番号WO2005/00343号公報記載)を大腸菌DH5αからGFX Plasmid prep Kit(GEヘルスケアバイオサイエンス株式会社)を用いることにより抽出、精製した。得られた組換え体プラスミドを鋳型として、配列表の配列番号6に示すプライマーと配列番号7に示すプライマーを用い、Diversify PCR Random Mutagenesis Kit(クロンテック社)を用い、キットのプロトコールにしたがって、マルトースホスホリラーゼ遺伝子にランダム変異を導入した。得られた変異導入されたマルトースホスホリラーゼを含む2.3k塩基対のDNA断片を精製した後、制限酵素XhoIおよびKpnIで切断した。これとプラスミドベクターpRSETA(インビトロジェン社)を制限酵素XhoIおよびKpnIで切断したものをQuick Ligation Kit(NEB社)を用いて、室温で5分間ライゲーションをした後に、大腸菌BL21(DE3)pLysS(F-,ompT hsdSB(rB-mB-)gal dcm(DE3)pLysS(CamR))株へ形質転換を行うことによって、ランダム変異の導入された組換えプラスミドを有する組換え大腸菌ライブラリーを構築した。
【0102】
(2)耐熱性マルトースホスホリラーゼのスクリーニング
前記(1)の変異操作で得られた上記形質転換体をLB−Amp−Cm寒天培地(バクトペプトン1%、酵母エキス0.5%、塩化ナトリウム1%、バクトアガー1.5%、アンピシリン50μg/ml、クロラムフェニコール35μg/ml)上で37℃、一晩培養してコロニーを形成させた。各コロニーのうち、1900個を別々にLB−Amp−Cm培地(バクトペプトン1%、酵母エキス0.5%、塩化ナトリウム1%、アンピシリン50μg/ml、クロラムフェニコール35μg/ml)を1mlずつ入れた96穴ディープウェルプレートに接種し、25℃、8時間振とう培養を行った。その後、各ウェルに100mM イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)10μlを添加し、さらに25℃で16時間振とう培養を行った。培養終了後、培養液を3000rpm、10分間遠心分離を行い、菌体を得た。得られた菌体に、BugBuster(ノバジェン社)を各ウェルに100μlずつ添加し、室温で20分間撹拌後、3000rpm、10分間遠心分離を行い、粗酵素抽出液を得た。得られた粗酵素抽出液に対して、55℃で15分間の熱処理を行った。対照として、ランダム変異の導入されていないプラスミド(pRSMP1)を有する形質転換体(RSMP1)についても同様の操作を行った。得られた酵素液について、熱処理前後のマルトースホスホリラーゼの活性測定を行った。
活性測定は200mMのリン酸緩衝液(pH7.0)に溶解させた20mMのマルトース0.4mlに酵素液0.1mlを添加し、50℃で15分間反応させた後、沸騰水浴中で3分間加熱して酵素反応を止めた。氷水中で冷却した後、生成したグルコースをグルコースオキシダーゼ法(和光純薬工業(株)製、グルコースC−IIテスト・ワコー)で測定した。ここで1単位の酵素活性は同条件下で1分間に1μmolのグルコースを生成する酵素量とした。
対照よりも残存活性の高い変異体酵素を選別した。その結果、6株(RSMP2−7)が高い残存活性を有していた。
【0103】
(3)変異箇所の解析
上記の如く得られた優良変異株に含有されるマルトースホスホリラーゼ遺伝子に対して、遺伝子のどの部位が変異操作により置換されたのか確認をする為に以下のような解析を行った。上記(2)で得た組換え体RSMP2−7に含まれるプラスミドpRSMP2−7をGFX Plasmid prep Kitを用いて精製した。このプラスミドの塩基配列はMegaBACE 1000(GEヘルスケアバイオサイエンス株式会社)を用いて決定した。結果は表1に示した。
【表1】

【0104】
(4)55℃における残存活性の測定
上記(2)で得られたRSMP1−7の粗酵素溶液を55℃の恒温槽に30分間静置した後、氷上に静置し、酵素活性(残存活性)測定した結果は表2に示した。
【表2】

【0105】
[実施例2]RSMP3に基づく点変異体の作製および評価
RSMP3(N72I,V127I,D308E)の3箇所の変異アミノ酸残基を1箇所ずつにした点変異体を3種類作製した。72位のアミノ酸残基のアスパラギンをイソロイシンに置換したpRSMP8(N72I)、127位のアミノ酸残基のバリンをイソロイシンに置換したpRSMP9(V127I)、308位のアミノ酸残基のアスパラギン酸をグルタミン酸に置換したpRSMP10(D308E)を通常知られる技術である部位特異的変異導入法を用いて行った。
より具体的には変異を導入する鋳型プラスミドとしてpRSMP1を使用し、所定の変異を起こさせるよう設計した3種類のセンスプライマー:FWN72I(配列番号8)、FWV127I(配列番号9)、FWD308E(配列番号10)と3種類のアンチセンスプライマーRVN72I(配列番号11)、RVV127I(配列番号12)、RVD308E(配列番号13)を用い、FWN72IとRVN72I、FWV127IとRVV127I、FWD308EとRVD308Eをそれぞれ一組として用いた。
【0106】
上述のプライマー1組とpRSMP1を用いて、QuickChange Site−Directed Mutagenesis Kit(Stratagene社)にしたがって、PfuポリメラーゼによるPCRを行った後、DpnIで37℃、1時間の処理を行った。このDpnI処理PCR産物を大腸菌XL1−Blueに形質転換させ、LB−Amp寒天培地で37℃、一晩培養した。得られたコロニーをLB−Amp培地で37℃、一晩培養し、GFX Plasmid prep Kit用いることにより抽出、精製した。最後に得られたプラスミドの塩基配列の決定を行い、目的の変異が導入されていることを確認した。このようにして、点変異体pRSMP8−10を得た。
pRSMP8−10を大腸菌BL21(DE3)pLysS株へ形質転換を行うことによって、組換え大腸菌RSMP8−10を得た。得られた組換え体を実施例1(4)と同様に耐熱性を調べた。比較対照として、変異の導入されていないプラスミド(pRSMP1)を有する形質転換体(RSMP1)と3重変異体(pRSMP3)を有する形質転換体(RSMP3)についても同様の操作を行った。結果は表3に示した。
【表3】

【0107】
[実施例3]pRSMP11変異体の作製および評価
実施例1のpRSMP5と実施例2で作製したpRSMP8を掛け合わせたpRSMP11を作製した。具体的にはpRSMP5を鋳型として、プライマーにはFWN72IとRVN72Iを使用して、実施例2と同様の部位特異的変異導入法による変異体の作製を行った。得られた変異体pRSMP11を大腸菌BL21(DE3)pLysS株へ形質転換を行うことによって、組換え大腸菌RSMP11を得た。得られた組換え体を実施例1(4)と同様に耐熱性を調べた。その結果、94.6%の残存活性を有していた。
【0108】
[実施例4]72位と679位アミノ酸のサチュレーション変異
72位と679位のアミノ酸について、サチュレーション変異を行った。所定の変異を起こさせるよう設計した2種類のセンスプライマー:FWN72X(配列番号14)、FWT679X(配列番号15)と2種類のアンチセンスプライマー;RVN72X(配列番号16)、RVT679X(配列番号17)を用い、FWN72XとRVN72X、FWT679XとRVT679Xをそれぞれ一組とし、pRSMP1を鋳型として、Quickchange Site-Directed Mutagenesis Kitの常法に従い、操作を行った。得られた形質転換体のプラスミドをGFX Plasmid prep Kitを用いて抽出し、大腸菌BL21(DE3)pLysS株へ形質転換を行った。各々、390クローンについて、実施例1(2)(3)と同様の操作を行った。その結果、対照よりも残存活性の高い変異体は、72位では11個取得することができ、アミノ酸配列を確認したところ、その内訳はイソロイシン(ATT)8個、バリン(GTT)3個であった。同様に679位では27個取得することができ、アミノ酸配列を確認したところ、その内訳はイソロイシン(ATT)3個、バリン(GTG、GTT)24個であった。そこで、部位特異的変異を用いて、72位がバリン、679位がイソロイシンに置換した変異体(RSMP12)、72位がイソロイシン、679位がバリンに置換した変異体(RSMP13)、72位がバリン、679位がバリンに置換した変異体(RSMP14)を作製した。
【0109】
[実施例5]変異体酵素の発現と酵素溶液の作製
実施例3および4で得られたマルトースホスホリラーゼ変異体 RSMP11−14を培養し、大腸菌による組換え酵素の調製を行った。培養は容量2Lの三角フラスコにLB培地(バクトペプトン1%、酵母エキス0.5%、塩化ナトリウム1%)0.5Lを入れて滅菌した後、アンピシリン溶液を終濃度で50μg/ml、クロラムフェニコール溶液を終濃度で35μg/mlになるように添加し、種培養液を1%になるように接種して、温度37℃、180rpmでOD600が0.5になるまで培養した。その後、IPTGを終濃度で1mMになるように添加し、さらに3時間培養を行った。培養終了後、培養液を5000、10分間遠心分離を行い、菌体を得た。得られた大腸菌にBugBuster 20mlを添加し、室温で20分間撹拌した後に12000、15分間遠心分離を行った。得られた粗抽出液をアフィニテイーカラム(TALON Resin、クロンテック社製)によるクロマトグラフィー(洗浄、5mMイミダゾール;溶出、150mMイミダゾール)を行った。マルトースホスホリラーゼ活性を示す画分を集め、50mM リン酸緩衝液、0.15M NaCl(pH7.0)で平衡化したHiPrep 26/10 Desalting カラム(GEヘルスケアバイオサイエンス株式会社)に供してイミダゾールの除去を行い、さらに同様の緩衝液で平衡したゲル濾過クロマトグラフィー HiLoad 16/10 Superdex 200カラム(GEヘルスケアバイオサイエンス株式会社)に供し、マルトースホスホリラーゼを均一になるまでに精製し、酵素液を得た。
対照として、RSMP1を上記と同様に培養、精製を行った。
【0110】
[実施例6]酵素の半減期測定
実施例5の方法で得た本発明の酵素液を55℃の恒温槽に一定時間静置した後、氷上に静置し、酵素活性(残存活性)を測定した。酵素の半減期を表4とし、残存活性の時間経過を図1として示した。
【表4】

【0111】
[実施例7]耐熱性マルトースホスホリラーゼの性質
実施例5で得られた酵素液を用いて、耐熱性マルトースホスホリラーゼRSMP13の諸性質の検討を行った。
(1)最適pHおよびpH安定性
最適pHは、50mM リン酸−クエン酸緩衝液(pH4.0〜8.0)、50mM リン酸−硼酸緩衝液(pH8.0〜9.0)を用い、各pHにおける本酵素の活性測定を行った。結果は図2に示す通りであり、本酵素の最適pHは6.5〜7.5付近であった。
pH安定性は、50mM リン酸−クエン酸緩衝液(pH4.0〜8.0)、50mM リン酸−硼酸緩衝液(pH8.0〜9.0)において、50℃で15分間各々処理した後、本酵素の残存活性を測定して求めた。その結果は、図3に示す通りであり、本酵素はpH5.0〜8.5の範囲で安定であった。
(2)最適温度
50mM リン酸緩衝液(pH7.0)、15分間反応の条件下で、図4に示す通り、最適温度は50〜60℃近傍であった。
(3)温度安定性
酵素を20mM リン酸緩衝液(pH6.0)で、種々の温度で15、30分間処理してからその残存活性を常法により求めることにより測定した。15分経過時における58℃、60℃、65℃の残存活性はそれぞれ85.3%、62.5%、0%であり、30分間処理後の結果は図5に示す通り、58℃までは約80%の残存活性を有していた。
(4)失活
70℃、10分間処理で90%以上失活した。
(5)Km
ラインウエーバー・バークのプロットによるKm値は、リン酸に対しては5.9mM、マルトースに対しては4.4mMであった。一方、対照として測定した野生株由来のマルトースホスホリラーゼRSMP1(対応する野生型マルトースホスホリラーゼ)のKm値は、リン酸に対しては16.7mM、マルトースに対しては5.7mMであった。これに関連してRSMP13と野生株由来のマルトースホスホリラーゼRSMP1におけるマルトース分解活性の時間経過をプロットしたものを図6とした。
【0112】
[実施例8]耐熱性マルトースホスホリラーゼを用いたβ−グルコース−1−リン酸の製造
50mM リン酸緩衝液(pH7.2)に結晶マルトースを10%(w/w)になるように溶解した1Lのマルトース溶液を60℃で30分間保持した後に、実施例5で得られた耐熱性マルトースホスホリラーゼ(111単位)を添加し、40時間反応を行った。1N塩酸でpH4.5に調整後に100℃で15分間保持することで反応を停止した。遠心分離により、不溶性画分を除いた上清液を20mM 酢酸緩衝液(pH4.5)で平衡化した400mlの弱塩基性陰イオン交換樹脂(アンバーライトIRA−68)に通液し、次いで樹脂の10倍量の同上緩衝液で洗浄し、中性糖を溶出させた。次いで、0.2M塩化ナトリウム水溶液で吸着画分を溶出し、当該画分を電気透析することで脱塩し、さらに濃縮、凍結乾燥することで、最終的に1.6gのβ−グルコース−1−リン酸を得た。
【0113】
[実施例9]耐熱性マルトースホスホリラーゼを用いたトレハロースの製造
10mlの10mMリン酸緩衝液(pH6.5)に溶解させた25%(w/w)のマルトース溶液に実施例5で得られたマルトースホスホリラーゼを基質重量1g当たり5単位、国際公開番号WO2005/00343号公報記載のトレハロースホスホリラーゼを基質重量1g当たり10単位添加し、55℃で48時間反応させた。反応終了後、100℃で5分間加熱して、酵素を失活させて得られる糖化溶液中のトレハロース含有量を測定した。その結果、糖化液固形物基質重量に対して65%のトレハロースが生成していた。
なお、トレハロースの定量は以下の方法で行った。
加熱失活させた糖化液に水を加え、約5%(w/w)とした後に、該糖化液0.5mlはグルコアミラーゼ(生化学工業製)70単位/ml 0.5mlを添加し、55℃、pH5.0で30分間反応させ、未反応のマルトースをグルコースに完全に分解させた。次に100℃で10分間加熱して、グルコアミラーゼを完全に失活させた後、生成するトレハロース含有量をHigh−performance Carbohydrateカラム(Waters製)を用いた高速液体クロマトグラフィーにより測定した。なお、測定には溶離液にアセトニトリル/水(75/25)、カラム温度40℃、検出には示差屈折計を使用した。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】本発明のマルトースホスホリラーゼの残存活性
【図2】本発明のマルトースホスホリラーゼの最適pH
【図3】本発明のマルトースホスホリラーゼのpH安定性
【図4】本発明のマルトースホスホリラーゼの最適温度
【図5】本発明のマルトースホスホリラーゼの温度安定性
【図6】本発明のマルトースホスホリラーゼの反応時間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)〜(c)のいずれかのアミノ酸配列を有するマルトースホスホリラーゼ。
(a)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列において、72位のアスパラギンがイソロイシンまたはバリンに、および、679位のスレオニンがイソロイシンまたはバリンにそれぞれ置換された改変アミノ酸配列;
(b)前記改変アミノ酸配列において、前記72位および679位のアミノ酸の置換の他さらに1から数個のアミノ酸の欠失、置換、逆位、付加および/または挿入を有するアミノ酸配列からなり、下記[イ]〜[ハ]の性質のマルトース加リン酸分解反応活性を有するアミノ酸配列、
[イ]最適温度が50〜60℃であり、
[ロ]pH6.0、30分間の加熱条件下では58℃まで安定であり、
[ハ]65℃、15分間の熱処理で90%以上失活する;または、
(c)前記改変アミノ酸配列と70%以上の相同性を有する前記72位および679位のアミノ酸の置換を含むアミノ酸配列からなり、下記[イ]〜[ハ]の性質のマルトース加リン酸分解反応活性を有するアミノ酸配列、
[イ]最適温度が50〜60℃であり、
[ロ]pH6.0、30分間の加熱条件下では58℃まで安定であり、
[ハ]65℃、15分間の熱処理で90%以上失活する。
【請求項2】
前記改変アミノ酸配列において、配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列における72位のアスパラギンがイソロイシンに、679位のスレオニンがイソロイシンにそれぞれ置換されたアミノ酸配列を有する請求項1に記載のマルトースホスホリラーゼ。
【請求項3】
前記改変アミノ酸配列において、配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列における72位のアスパラギンがイソロイシンに、679位のスレオニンがバリンにそれぞれ置換されたアミノ酸配列を有する請求項1に記載のマルトースホスホリラーゼ。
【請求項4】
前記改変アミノ酸配列において、配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列における72位のアスパラギンがバリンに、679位のスレオニンがイソロイシンにそれぞれ置換されたアミノ酸配列を有する請求項1に記載のマルトースホスホリラーゼ。
【請求項5】
前記改変アミノ酸配列において、配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列における72位のアスパラギンがバリンに、および、679位のスレオニンがバリンにそれぞれ置換されたアミノ酸配列を有する請求項1に記載のマルトースホスホリラーゼ。
【請求項6】
下記(a)〜(c)のいずれかのアミノ酸配列からなるマルトースホスホリラーゼをコードするポリヌクレオチド。
(a)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列において、72位のアスパラギンがイソロイシンまたはバリンに、および、679位のスレオニンがイソロイシンまたはバリンにそれぞれ置換された改変アミノ酸配列;
(b)前記改変アミノ酸配列において、前記72位および679位のアミノ酸の置換の他さらに1から数個のアミノ酸の欠失、置換、逆位、付加および/または挿入を有するアミノ酸配列からなり、下記[イ]〜[ハ]の性質のマルトース加リン酸分解反応活性を有するアミノ酸配列、
[イ]最適温度が50〜60℃であり、
[ロ]pH6.0、30分間の加熱条件下では58℃まで安定であり、
[ハ]65℃、15分間の熱処理で90%以上失活する;または、
(c)前記改変アミノ酸配列と70%以上の相同性を有する前記72位および679位のアミノ酸の置換を含むアミノ酸配列からなり、下記[イ]〜[ハ]の性質のマルトース加リン酸分解反応活性を有するアミノ酸配列、
[イ]最適温度が50〜60℃であり、
[ロ]pH6.0、30分間の加熱条件下では58℃まで安定であり、
[ハ]65℃、15分間の熱処理で90%以上失活する。
【請求項7】
下記(a)〜(c)のいずれかの塩基配列からなるポリヌクレオチド。
(a)配列表の配列番号2〜5のいずれかに記載の塩基配列;
(b)配列表の配列番号2〜5のいずれかに記載の塩基配列において、214〜216塩基および2035〜2037塩基以外の箇所に1から数個の塩基の欠失、置換、逆位、付加および/または挿入を有する塩基配列であって、下記[イ]〜[ハ]の性質のマルトース加リン酸分解反応活性を有するアミノ酸配列、
[イ]最適温度が50〜60℃であり、
[ロ]pH6.0、30分間の加熱条件下では58℃まで安定であり、
[ハ]65℃、15分間の熱処理で90%以上失活する;または、
(c)配列表の配列番号2〜5のいずれかに記載の塩基配列とストリジェントな条件下でハイブリダイズし、配列番号2〜5のいずれかに記載の塩基配列中の214〜216塩基および2035〜2037塩基と相補的な塩基を含む塩基配列であって、下記[イ]〜[ハ]の性質のマルトース加リン酸分解反応活性を有するアミノ酸配列、
[イ]最適温度が50〜60℃であり、
[ロ]pH6.0、30分間の加熱条件下では58℃まで安定であり、
[ハ]65℃、15分間の熱処理で90%以上失活する。
【請求項8】
請求項6または7に記載のポリヌクレオチドを含有する組換えベクター。
【請求項9】
請求項6もしくは7に記載のポリヌクレオチドを導入してなる、または請求項8に記載の組換えベクターを含有する形質転換体。
【請求項10】
下記(a)〜(c)の工程を有する請求項1〜5のいずれか1項に記載のマルトースホスホリラーゼの製造方法。
(a)請求項9に記載の形質転換体の培養工程;
(b)該マルトースホスホリラーゼの生成・蓄積工程;および
(c)該マルトースホスホリラーゼの採取工程:
【請求項11】
前記採取工程において、培養物から形質転換体を分離し、分離した形質転換体をそのままマルトースホスホリラーゼの粗酵素とする請求項10に記載のマルトースホスホリラーゼの製造方法。
【請求項12】
前記採取工程において、培養物から形質転換体を分離し、分離した形質転換体から抽出してマルトースホスホリラーゼの粗酵素とする請求項10に記載のマルトースホスホリラーゼの製造方法。
【請求項13】
前記採取工程において、培養物から形質転換体を分離し、得られた培養上清をマルトースホスホリラーゼの粗酵素とする請求項10に記載のマルトースホスホリラーゼの製造方法。
【請求項14】
リン酸の存在下において、請求項1〜5のいずれか1項に記載のマルトースホスホリラーゼをマルトースに作用させてβ−グルコース−1−リン酸を得ることを特徴とするβ−グルコース−1−リン酸の製造方法。
【請求項15】
リン酸の存在下において、請求項1〜5のいずれか1項に記載のマルトースホスホリラーゼおよびトレハロースホスホリラーゼをマルトースに作用させて、トレハロースを得ることを特徴とするトレハロースの製造方法。
【請求項16】
前記トレハロースホスホリラーゼが、下記(a)〜(d)の性質を有することを特徴とするトレハロースホスホリラーゼである請求項15に記載のトレハロースの製造方法、
(a)触媒作用:トレハロース中のα−1,1−グルコピラノシド結合を可逆的に加リン酸分解し、グルコースおよびβ−グルコース−1−リン酸を生成する;
(b)最適pHおよび安定pH範囲:トレハロース合成反応の最適pHは5.8〜7.8であり、50℃、10分間の加熱条件下ではpH5.5〜9.5の範囲内で安定である;
(c)最適温度:トレハロース合成反応の最適温度は45〜60℃である;および
(d)温度安定性:pH7.0、15分間の加熱条件下では60℃まで安定であり、70℃で90%以上失活する。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−301720(P2008−301720A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−149623(P2007−149623)
【出願日】平成19年6月5日(2007.6.5)
【出願人】(504194878)独立行政法人海洋研究開発機構 (110)
【出願人】(000231453)日本食品化工株式会社 (68)
【Fターム(参考)】