説明

新規な中間体化合物およびその製造方法、並びにその中間体化合物を用いる医薬品原料の高純度製造方法

【課題】医薬品原料として有用なアニソールの4位および3位にハロゲン原子を有する化合物(例えば、4−ブロモ−3−クロロアニソール)を、極めて高い純度で取得できる製造方法を提供する。
【解決手段】3位にハロゲン原子を有するハロゲン化フェノールを出発原料とし、下記式(I)で示される新規な中間化合物を経て目的物を合成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な中間体化合物およびその製造方法、並びにその中間体化合物を用いる医薬品原料の高純度製造方法に関するものである。詳しくは、
(1)一般式(I)
【0002】
【化1】

【0003】
(式中、全ての記号は後記と同じ意味をを表わす。)および
(2)その一般式(I)の製造方法、並びに
(3)その一般式(I)を用いる、医薬品原料である一般式(IV)
【0004】
【化2】

【0005】
(式中、全ての記号は後記と同じ意味を表わす。)で示される化合物の高純度製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0006】
一般式(IV)
【0007】
【化3】

【0008】
(式中、Xはハロゲン原子を表わし、Xはハロゲン原子を表わす。)で示される化合物のうち、Xが塩素原子、Xが臭素原子である4−ブロモ−3−クロロアニソールは医薬品原料として有用な化合物であり、その誘導体は医薬品などの生物活性化合物によく見られる。
【0009】
4−ブロモ−3−クロロアニソールのような3置換芳香族化合物を、ハロゲン化反応を用いて合成する場合、その過程において、目的化合物の位置異性体(例えば、2−ブロモ−3−クロロアニソールや2−ブロモ−5−クロロアニソールなど)や、さらにハロゲン化反応が進行した過剰置換化合物(例えば、2,4−ジブロモ−5−クロロアニソールや2,4−ジブロモ−3−クロロアニソールなど)が副生されるという問題がある。位置異性体および/または過剰置換化合物を不純物として含んだままの4−ブロモ−3−クロロアニソールを原料とした場合、医薬品原料として使用する最終目的化合物を高純度で取得するためには、位置異性体および/または過剰置換化合物に由来する副生成物を除去する工程が必要となる。そして、位置異性体および/または過剰置換化合物に由来する副生成物を除去する工程では、通常煩雑な精製操作を行うので、実験室レベルの小スケールでは実施可能であっても、工業的な大スケールには適切でないことが多い。
【0010】
それゆえ、医薬品原料として使用する高純度の最終目的化合物を、工業的なスケールで取得するためには、原料に不純物が含まれていないことが望ましい。つまり、実質的に不純物を含まない極めて高純度の4−ブロモ−3−クロロアニソールを原料として用いることが望ましい。そこで、高純度の4−ブロモ−3−クロロアニソールを得るためには、位置選択性が高い合成方法および/または不純物(位置異性体および/または過剰置換化合物)を除去するための精製法が必要となる。
【0011】
4−ブロモ−3−クロロアニソールの一般的な合成法としては、3−クロロアニソールのパラ位選択的ブロモ化反応が挙げられる。アニソール誘導体の位置選択的ブロモ化反応については、多数の条件が報告されているが、位置選択性はいずれの条件も99%以下であり(非特許文献1〜9参照)、医薬品原料として使用するには、純度の点で不十分である。
【0012】
一方、位置選択性が非常に高い合成法として、アニリン誘導体からジアゾ化合物を経由する方法(Sandmeyer反応)が挙げられる。しかしながらこの方法は、爆発性中間体を経由するという欠点を有するため、工業的なスケールでの使用には適さない。
【0013】
また、精製方法に着目した場合、4−ブロモ−3−クロロアニソールは室温で液体の化合物であるため、蒸留もしくはカラムクロマトグラフィーが精製方法の候補となる。しかし、分子量が大きく異なる多置換化合物はともかく、分子量の等しい位置異性体の除去は、簡易蒸留による精製方法では困難な場合が多いことが知られている。実際、本発明者は、3−クロロアニソールを出発原料とする従来の合成法で得た4−ブロモ−3−クロロアニソールを簡易蒸留により精製しても高品質のものを得ることができなかった。なお、理論段数を高めた精密蒸留によれば、高品質な目的物を得ることができるが、その回収率は大きく低下する。したがって、工業的スケールで行う場合には、簡易蒸留によって精製できることが強く望まれる。また、カラムクロマトグラフィーによる精製方法では溶出液として多量の溶媒を必要とするうえ、濃縮に多大な時間を要するため、工業的スケールでの使用には適さない。
【0014】
工業的スケールで用いられる他の精製方法として、再結晶が挙げられる。しかしながら先述の通り、目的とする4−ブロモ−3−クロロアニソールは常温常圧で液体の化合物であり、再結晶で精製することはできない。ところで、アニソール誘導体を得る方法としては、フェノール誘導体を出発原料とすることもできる。フェノール誘導体は、メチル化反応によりアニソール誘導体に変換することができる。フェノール誘導体は、水酸基の水素原子を放出することができる弱酸性物質であり、塩基性物質と組み合わせることで塩を形成し得る。この塩が固体となるならば、再結晶によって精製することができるかも知れない。しかしながら、一言で塩基性物質といっても、その分類は多岐にわたり(例えば、有機/無機、金属/非金属、含窒素/不含窒素など)、その分子の塩基性度、価数、大きさなどは様々である。さらにフェノール誘導体と塩基性物質の組み合わせとなれば無限となる。つまり、どのフェノール誘導体とどの塩基性物質を、如何なる比率で混合すれば固体になるのか、その固体は再結晶によって純度は上がるのか、さらにはその固体の化学的安定性や再結晶における回収率の面で、工業的な操作に耐えうる固体なのかどうかはまったくわからない。特に、ジハロゲン化フェノールと有機アミンの組み合わせはまったく知られていない。
【0015】
このように、医薬品原料として使用する最終目的化合物を工業的スケールで製造するためには、極めて高純度の4−ブロモ−3−クロロアニソールを原料として用いることが要求されているが、極めて高純度の4−ブロモ−3−クロロアニソールを製造することは困難であり、その製造方法は確立されていない。
【0016】
【非特許文献1】Castellonese, Paul; Villa, Pierre; 「Helv. Chim. Acta」, 66, 1983, 1068-1077.
【非特許文献2】Syvret, Robert G., Bull, Kathleen M., Nguyen, Tung P., Bulleck, Victoria L., Rieth, Eyan D., 「J. Org. Chem.」, 13, 2002, 4487-4493
【非特許文献3】Ghorbani-Vaghei, Ramin, Jalili, Hamid, 「Synthesis」, 7, 2005, 1099-1102
【非特許文献4】Nemai C. Ganguly, Prithwiraj De, Sanjoy Dutta, 「Synthesis」, 7, 2005, 1103-1108
【非特許文献5】Tajik, Hassan, Shirini, Farhad, Hassan zadeh, Parwin, Rashtabadi, Hassan Rafiee,「Synth. Commun.」, 35, 2005, 1947-1952
【非特許文献6】Mohan, K.V.V. Krishna, Narender, N., Srinivasu, P., Kulkarni, S. J., Raghavan, K. V.,「Synth. Commun.」, 34, 2004, 2143-2152
【非特許文献7】Yadav, J. S., Reddy, B. V. S., Reddy, P. S. R., Basak, A. K., Narsaiah, A. V., Adv.「Synth. Catal.」, 346, 2004, 77-82
【非特許文献8】Firouzabadi, H., Iranpoor, N., Shiri, M.,「Tetrahedron Lett.」, 44, 2003, 8781-8786
【非特許文献9】Rajagopal, R., Jarikote, D. V., Lahoti, R. J., Daniel, Thomas, Srinivasan, K. V., 「Tetrahedron Lett.」, 44, 2003, 1815-1818
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、医薬品原料として有用な、不純物をほとんど含まない極めて高純度の上記一般式(IV)で示される化合物の工業的スケールでの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、3−ハロゲン化フェノールを出発原料とし、これをハロゲン化した後、有機アミンを加えると、そのジハロゲン化フェノール塩は固体として得られることを見出した。この固体の塩は、工業的スケールの製造上利便性の高い再結晶によって精製することが可能である。このジハロゲン化フェノール塩を遊離させ、メチル化して得られるジハロゲン化アニソールは、極微量のトリハロゲン化アニソールを含有するが、一般に工業的スケールで用いられる簡易な蒸留装置によって分離除去することが可能であり、簡易蒸留精製して得られたジハロゲン化アニソールは極めて高純度であった。具体的に言うと、3−クロロフェノールを出発原料とし、これをブロム化、次いでジイソプロピルアミン塩化後、再結晶することにより、位置異性体が実質的に除去された新規な中間体である4−ブロモ−3−クロロフェノール・(ジイソプロピルアミン)3/4塩を得、当該新規な中間体化合物をメチル化し、蒸留によって精製することで、極めて高純度の4−ブロモ−3−クロロアニソールを得ることに成功し、本発明を完成させるに至った。
【0019】
すなわち、本発明は、
(1) 一般式(I)
【0020】
【化4】

【0021】
(式中、Xはハロゲン原子を表わし、Xはハロゲン原子を表わし、Qは有機塩基を表わし、nは1/10〜10を表わす。)
で示される化合物、
(2) Xが塩素原子であり、Xが臭素原子である前記(1)に記載の化合物、
(3) Qがジイソプロピルアミンである前記(2)に記載の化合物、
(4) nが3/4である前記(3)に記載の化合物、
(5) 化合物が常温常圧下で固体である前記(1)に記載の化合物、
(6) 図3に示される赤外吸収スペクトルを有する前記(3)に記載の化合物、
(7) 化合物の赤外吸収スペクトルにおいて、2727、2443、1636、1560、1513、1394、1226、1150、1103、および903cm−1に吸収を有する前記(3)に記載の化合物、
(8) 一般式(II)
【0022】
【化5】

【0023】
(式中、Xは塩素原子を表わす。)
で示される化合物をハロゲン化反応に付し、
得られた一般式(III)
【0024】
【化6】

【0025】
(式中、Xは塩素原子を表わし、Xは臭素原子を表わす。)
で示される化合物に有機塩基Qを加え、
得られた一般式(I)
【0026】
【化7】

【0027】
(式中、Xは塩素原子を表わし、Xは臭素原子を表わし、Qはジイソプロピルアミンを表わし、nは3/4を表わす。)
で示される化合物を再結晶によって精製することを特徴とする、前記一般式(I)で示される化合物の製造方法、
(9) 一般式(II)
【0028】
【化8】

【0029】
(式中、Xは塩素原子を表わす。)
で示される化合物をブロモ化反応に付し、
得られた一般式(III)
【0030】
【化9】

【0031】
(式中、Xは塩素原子を表わし、Xは臭素原子を表わす。)
で示される化合物にジイソプロピルアミンを加え、
得られた一般式(I)
【0032】
【化10】

【0033】
(式中、Xは塩素原子を表わし、Xは臭素原子を表わし、Qはジイソプロピルアミンを表わし、nは3/4を表わす。)
で示される化合物を再結晶によって精製し、酸性抽出し、次いでメチル化して得られた一般式(IV)
【0034】
【化11】

【0035】
(式中、Xは塩素原子を表わし、Xは臭素原子を表わす。)
で示される化合物を蒸留によって精製することを特徴とする、前記一般式(IV)で示される化合物の高純度な製造方法に関する。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、上記一般式(IV)で示される化合物を極めて高い純度で製造することができる。すなわち、位置異性体が後記のHPLCによる検出限界以下まで精製された上記一般式(I)で示される新規な中間化合物を経ることにより、極めて高い純度の上記一般式(IV)で示される化合物を製造することができる。得られた上記一般式(IV)で示される化合物は、不純物をほとんど含まないので、医薬品原料として非常に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
本明細書中、一般式(I)
【0038】
【化12】

【0039】
(式中、Xはハロゲン原子を表わし、Xはハロゲン原子を表わし、Qは有機塩基を表わし、nは1/10〜10を表わす。)で示される化合物とは、一般式(III)
【0040】
【化13】

【0041】
(式中、Xはハロゲン原子を表わし、Xはハロゲン原子を表わす。)で示される化合物とQで示される有機塩基が1対nの比率で混合された化合物を意味する。その混合物は塩、錯体、またはその他の形態であってもよい。
【0042】
本明細書中、ハロゲン原子としては、フッ素原子(F)、塩素原子(Cl)、臭素原子(Br)、ヨウ素原子(I)が挙げられる。
【0043】
で示されるハロゲン原子として、好ましくはフッ素原子(F)、塩素原子(Cl)または臭素原子(Br)であり、より好ましくは塩素原子(Cl)である。
【0044】
で示されるハロゲン原子として、好ましくは塩素原子(Cl)、臭素原子(Br)またはヨウ素原子(I)であり、より好ましくは臭素原子(Br)である。
【0045】
本明細書中、上記一般式(I)で示される化合物のXは塩素原子であり、Xは臭素原子であることが好ましい。
【0046】
本明細書中、有機塩基としては、例えば、アルキルアミン類(例えば、ジイソプロピルアミン、フェニルエチルアミン、ベンジルアミン、t−ブチルベンジルアミン、ジベンジルアミン、t−ブチルアミン、モルホリン、トリエチルアミン、N,N−ジイソプロピルエチルアミン、シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミンなど)、芳香族アミン類(例えば、ピリジン、2,6−ルチジン、2−ピコリルアミン、2−エチル−6−メチルピリジン、N,N−ジメチルアミノピリジンなど)などが挙げられる。
【0047】
Qで示される有機塩基として、好ましくは、ジイソプロピルアミン、モルホリン、ベンジルアミン、t−ブチルアミンであり、より好ましくはジイソプロピルアミンである。
【0048】
本明細書中、上記一般式(I)で示される化合物のQは、ジイソプロピルアミンであることが好ましい。
【0049】
nは1/10〜10であることが好ましく、より好ましくは約1/2〜1.0であり、さらに好ましくは約2/3または約3/4であり、最も好ましくは約3/4である。
【0050】
本明細書中、上記一般式(I)で示される化合物のnは、3/4であることが好ましい。
【0051】
本明細書中、上記一般式(I)で示される化合物は、常温常圧で固体であることが好ましい。
【0052】
本明細書中、図3に示される赤外吸収スペクトルを有する上記一般式(I)の化合物が好ましい。
【0053】
本明細書中、上記一般式(I)で示される化合物の赤外吸収スペクトルにおいて、2727、2443、1636、1560、1513、1394、1226、1150、1103、および903cm−1に吸収を有することが好ましい。
【0054】
本明細書中、一般式(I)で示される化合物として、より好ましくは前記の赤外吸収スペクトルの物理化学的性質によって特定されるものであるが、赤外吸収スペクトルデータはその性質上多少変わり得るものであるから、厳密に解されるべきでない。
【0055】
赤外吸収スペクトルにおいて、結晶の同一性の認定においては、全体的なパターンが重要であり、測定条件によって多少変わり得る。
【0056】
したがって、一般式(I)で示されるより好ましい化合物の赤外吸収スペクトルデータとパターンが全体的に類似するものは、一般式(I)で示されるより好ましい化合物に含まれるものである。
【0057】
本明細書中、位置異性体とは、構造異性体のうち、結合する原子や官能基の位置が違う異性体を意味する。ジハロゲン化フェノールのうち、3,4−ジハロゲン化フェノールの位置異性体としては、2,3−ジハロゲン化フェノール、2,5−ジハロゲン化フェノールおよび3,5−ジハロゲン化フェノールが挙げられる。
【0058】
本発明において、除去されるジハロゲン化フェノールとしては、2,3−ジハロゲン化フェノールおよび/または2,5−ジハロゲン化フェノールが好ましい。
【0059】
本発明において、除去されるトリハロゲン化アニソールとしては、2,4,5−トリハロゲン化アニソールおよび/または2,3,4−トリハロゲン化アニソールが好ましい。
【0060】
本明細書中、蒸留とは、混合物を常圧または減圧下気化し、再び凝縮することによって沸点の異なる成分を分離する操作を意味し、簡易蒸留とは、その理論段数が約2〜3である蒸留を意味する。
【0061】
以下に本発明の製造方法について説明する。図1に、本発明に係る一般式(I)で示される化合物の製造方法および一般式(IV)で示される化合物の製造方法の反応工程式を示した。本発明に係る一般式(I)で示される化合物、および一般式(IV)で示される化合物は図1に示される方法により製造することができる。以下、工程順に詳細に説明する。
【0062】
工程aは、一般式(II)で示される化合物をハロゲン化する工程である。ハロゲン化反応としては、例えば、有機溶媒(例えば、アセトニトリル、メタノール、エタノール、2−プロパノール、ジクロロメタン、アセトン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、N−メチルピロリジノン、N,N−ジメチルイミダゾリジノン、1,2−ジメトキシエタン、ジグリム、テトラヒドロフラン、t−ブチルメチルエーテルまたはそれらの混合溶液など)中またはこれらと水との混合溶液中または無溶媒で、酸(例えば、濃硫酸、塩酸、メタンスルホン酸、トルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、カンファースルホン酸、トリフルオロ酢酸、酢酸、塩化アルミニウム、塩化鉄(III)、四塩化チタン、チタンテトライソプロポキシドなど)の存在下または非存在下、一般式(II)で示される化合物およびハロゲン化剤(例えば、1,3−ジブロモ−5,5−ジメチルヒダントイン、N−ブロモスクシンイミド、テトラブチルアンモニウムトリブロミド、ジメチルアミノピリジントリブロミドなど、もしくはオキソン(登録商標)や過酸化水素などの酸化剤と臭化リチウム、臭化ナトリウム、臭化カリウムとの組み合わせ条件)を用いて、−78〜0℃で行われる。この工程aによりパラ位が選択的にハロゲン化された一般式(III)で示される化合物が得られる。しかしながら、工程aのハロゲン化反応では、不純物として、2種類のオルト−ハロゲン化体、2種類のジハロゲン化体およびトリハロゲン化体が副生する。
【0063】
なお、出発原料である一般式(II)で示される3−ハロゲン化フェノールは公知物質であり、公知の方法で製造し、取得することができる。また、市販品を購入して取得することができる。
【0064】
工程bは、一般式(III)で示される化合物に有機塩基を加え、一般式(III)で示される化合物の塩を生成させる工程である。例えば、有機溶媒(例えば、メタノール、エタノール、2−プロパノール、t−ブチルメチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、アセトン、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、炭酸ジメチル、炭酸ジエチルまたはそれらの混合溶液など)中またはこれらと水との混合溶液中、一般式(III)で示される化合物に有機アミン(例えば、ジイソプロピルアミンなど)を加え、種晶の存在下または非存在下、40〜60℃で混合し、必要に応じて貧溶媒(例えば、水、ヘプタンなど)を加え、0〜40℃で析出させることにより、塩を固体として得ることができる。工程aおよびbにより、一般式(I)で示される化合物の粗結晶を得ることができる。一般式(I)で示される化合物は、一般式(IV)で示される医薬品原料の中間体であって、新規な化合物である。
【0065】
工程cは、上記工程bにより得られた一般式(I)で示される化合物の粗結晶を再結晶させることにより精製する工程である。再結晶の方法としては、例えば、有機溶媒(例えば、メタノール、エタノール、2−プロパノール、t−ブチルメチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、アセトン、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、炭酸ジメチル、炭酸ジエチルまたはそれらの混合溶液など)中またはこれらと水との混合溶液中、一般式(I)で示される化合物を種晶の存在下または非存在下、40〜70℃で混合し、必要に応じて貧溶媒(例えば、水、ヘプタンなど)を加え、10〜40℃で析出させる方法が挙げられる。この工程cにより、位置異性体を後記のHPLCによる検出限界以下まで除去することができ、本発明に係る一般式(I)で示される化合物を高純度で製造することができる。
【0066】
工程dは、一般式(I)で示される化合物を酸性抽出し、次いでメチル化する工程である。酸性抽出は、例えば、有機溶媒(例えば、t−ブチルメチルエーテル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、ジクロロメタン、トルエンなど)中、酸(例えば、硫酸、塩酸など)を加え、水で洗浄することで行うことができる。メチル化反応は、例えば、抽出した前記ジハロゲン化フェノール誘導体の溶液をそのまま用いるか、もしくは有機溶媒(例えば、N−メチルピロリジノン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルイミダゾリジノンなど)で希釈し、塩基(例えば、無水炭酸カリウム、無水炭酸ナトリウムなど)およびメチル化剤(例えば、硫酸ジメチル、ヨウ化メチルなど)の存在下、30〜60℃で反応させることで行うことができる。工程a〜dにより、目的の医薬品原料である一般式(IV)で示される化合物の粗生成物が得られる。
【0067】
工程eは上記工程dにより得られた一般式(IV)で示される化合物の粗生成物を簡易蒸留によって精製する工程である。簡易蒸留は、例えば、一般式(IV)で示される化合物の粗生成物を常圧または減圧下(例えば、1〜20mmHgなど)、40〜120℃で加熱し、得られた気体を冷却することにより行うことができる。この工程eにより、極めて高い純度(99%以上)の一般式(IV)で示される化合物を得ることができる。
【0068】
本明細書中、一般式(IV)で示される化合物の高純度な製造方法とは、不純物をほとんど含まない製造方法を意味する。一般式(IV)で示される化合物の純度として、好ましくは、98%以上であり、さらに好ましくは、99%以上であり、特に好ましくは、99.5%以上である。
【実施例】
【0069】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0070】
〔実施例1:4−ブロモ−3−クロロアニソールの高純度合成〕
(1)ブロモ化
1−1 操作手順
3−クロロフェノール(400g、3.11mol)をアセトニトリル(800mL)で希釈した後、内温−20〜−10℃に冷却した。濃硫酸(91.2g、0.93mol)を滴加後、アセトニトリル(400mL)で洗い込んだ。内温−20〜−10℃にて、1,3−ジブロモ−5,5−ジメチルヒダントイン(446.0g、1.56mol)をゆっくり投入した後、アセトニトリル(400mL)で洗い込み、1時間撹拌した。反応液を室温まで昇温した後、炭酸ジメチル(800mL)と水道水(800mL)を加えて分液した。有機層を炭酸ジメチル(200mL)で希釈後、抽出液の重量を測定した(3257g)。
【0071】
1−2 純度測定
得られた4−ブロモ−3−クロロフェノールの純度を、以下の条件で測定した。
〔HPLC条件〕
カラム:YMC J’sphere ODS−H80 JH−302(4.6mm i.d.×150mm,5μm,YMC)
カラム温度:25℃付近の一定温度
移動相:水/テトラヒドロフラン/酢酸=60/40/0.5
流速:1.0mL/min
検出器:UV225nm
注入量:1μL
サンプル調製法:抽出液約20μL/mL(THF)
結果を表1に示した。目的の4−ブロモ−3−クロロフェノールの純度は89.55%であった。目的物以外に、2種類のオルト−ブロモ体(2−ブロモ−5−クロロフェノール、2−ブロモ−3−クロロフェノール、2種類のジブロモ体(2,4−ジブロモ−3−クロロフェノール、2,4−ジブロモ−5−クロロフェノール)が検出された。
【0072】
【表1】

【0073】
(表1中、化合物名の、3-Cl-PhOHは3−クロロフェノールを表わし、2-Br-3-Cl-PhOHは2−ブロモ−3−クロロフェノールを表わし、4-Br-3-Cl-PhOHは4−ブロモ−3−クロロフェノールを表わし、2-Br-5-Cl-PhOHは2−ブロモ−5−クロロフェノールを表わし、2,4-di-Br-3-Cl-PhOHは2,4−ジブロモ−3−クロロフェノールを表わし、2,4-di-Br-5-Cl-PhOHは2,4−ジブロモ−5−クロロフェノールを表わす。)
1−3 定量
また、上記1−1により得られた抽出液中の4−ブロモ−3−クロロフェノールを定量し、収量を算出した。定量は、HPLCを用いた内部標準法により行った。以下に手順を示す。
【0074】
〔使用標準物質〕
内部標準物質:3−メトキシフェノール(純度98.2area%)
4−ブロモ−3−クロロフェノール標準物質:(純度99.7area%)
〔HPLC条件〕
カラム:YMC J’sphere ODS−H80 JH−302(4.6mm i.d.×150mm,5μm,YMC)
カラム温度:25℃付近の一定温度
移動相:水/テトラヒドロフラン/酢酸=60/40/0.5
流速:1.0mL/min
検出器:UV225nm
注入量:1μL
〔検量線作成方法〕
i)3−メトキシフェノール(4.00g)を100mLメスフラスコに量り取った後、テトラヒドロフランに溶解させながら精確に100mLに調整した(内部標準物質溶液−a)。
ii)4−ブロモ−3−クロロフェノール標準物質(200mg)を100mLメスフラスコに量り取った後、テトラヒドロフランに溶解させながら精確に100mLに調整した(4−ブロモ−3−クロロフェノール溶液)。
iii)100mLメスフラスコを4つ用意し、各々に内部標準物質溶液−a1mLを入れた。各100mLメスフラスコ中に、4−ブロモ−3−クロロフェノール溶液10、15、20、25mLを精確に加えた後、テトラヒドロフランで精確に100mLに調整した(標準溶液1−a〜4−a)。
iv)標準溶液1−a〜4−aをHPLCで分析することにより、4−ブロモ−3−クロロフェノール/3−メトキシフェノール面積百分率比を算出し、検量線を作成した。図2に示したように、以下の検量線が得られた。
検量線:y=0.0265x
y:4−ブロモ−3−クロロフェノール/3−メトキシフェノール面積百分率比
x:100mLメスフラスコ中の4−ブロモ−3−クロロフェノール量(mg)
〔試料溶液の調製および分析〕
100mLメスフラスコに、上記1−1により得られた抽出液3.0gおよび内部標準物質溶液−a10mLを加えた後テトラヒドロフランで精確に100mLに調整した。この溶液10mLを100mLメスフラスコに加えた後テトラヒドロフランで精確に100mLに調整した(試料溶液−a)。この溶液をHPLCで分析することにより4−ブロモ−3−クロロフェノール/3−メトキシフェノール面積百分率比を測定し、以下のように収量を算出した(4−ブロモ−3−クロロフェノール/3−メトキシフェノール=1.3795;Y)。
Y=0.0265X → X=1.3795/0.0265=52.06mg
X:試料溶液−a中の4−ブロモ−3−クロロフェノール量(mg)
Y:4−ブロモ−3−クロロフェノール/3−メトキシフェノール=1.3795
A=(X×B/0.3)×10−3 → A=(52.06×3257/0.3)×10−3=565g
A:収量(g)、B:抽出液重量(3257g)
理論収量:645g
収量:565 g(収率:87.6%)
得られた化合物が目的物(4−ブロモ−3−クロロフェノール)であることを、以下のように確認した。
H NMR(400MHz, CDCl):δ6.64(dd,J=8.8,2.8Hz,1H),6.98(d,J=2.8Hz,1H),7.44 (d,J=8.8Hz,1H)
Mass(ESI,Neg,20V):m/z=205(M−H),207(M+2−H),209(M+4−H)
IR(KBr):3269(OH st),1587,1472,1429,1228,1111,897,845,817,612
Rf0.20(ヘキサン/酢酸エチル,10/1)。
【0075】
1−4 残留溶媒量の測定
上記(1)で得られた4−ブロモ−3−クロロフェノール炭酸ジメチル抽出液(定量値565g,2.72mol)を減圧濃縮した後、ガスクロマトグラフィー(GC)により残留溶媒量を測定した(濃縮残渣:1154g)。
残留溶媒量:アセトニトリル(8.2wt%)、炭酸ジメチル(8.7wt%)
操作手順等を以下に示す。
【0076】
〔残留溶媒量測定条件(GC)〕
カラム:DB−624(0.53mm i.d.×30m,膜厚3μm,J&W)
カラム温度:60℃(5min)→(20℃/min)→160℃(5min)
注入口温度:230℃(スプリット比10/1)
検出器:230℃(FID)
キャリアーガス:40cm/sec(He)
メイクアップガス:30mL/min(He)
注入量:1μL
保持時間:アセトニトリル(2.8分)、ヘキサン(3.4分)、炭酸ジメチル(4.5分)
〔検量線作成方法〕
i)内部標準溶液−bの調製
ヘキサン3.0gを300mLメスフラスコに精確に量り取り、1,3−ジメチルイミダゾリジノン(DMI)で精確に300mLにメスアップした(内部標準溶液−b)。
ii)標準溶液の調製
アセトニトリル、炭酸ジメチル各500mgを50mLメスフラスコに量り取り、内部標準溶液−bで精確に50mLに調整した。これを上記GC条件にて各溶媒/ヘキサンarea比を測定し、検量線を作成した。
アセトニトリル/ヘキサン(標準溶液)area比:0.5852(std−A)
炭酸ジメチル/ヘキサン(標準溶液)area比:0.1945(std−B)
iii)試料溶液の分析
抽出液濃縮残渣500mgを50mLメスフラスコに量り取り、内部標準溶液−bで精確に50mLに調整した(試料溶液)。試料溶液を上記GC条件で分析し、各溶媒/ヘキサンarea比を測定した。
アセトニトリル/ヘキサン(試料溶液)area比:0.0481(A)
炭酸ジメチル/ヘキサン(試料溶液)area比:0.0170(B)
iv)残留溶媒算出方法
アセトニトリル残留量:(A/std−A)×100=(0.0481/0.5852)×100=8.2 wt%
炭酸ジメチル残留量:(B/std−B)×100=(0.0170/0.1945)×100=8.7 wt%
(2)ジイソプロピルアミン塩化
2−1 ジイソプロピルアミン塩化の操作手順
上記1−4で得られた抽出液濃縮残渣をメタノール(600mL)で希釈した。内温50〜60℃に昇温した後、ジイソプロピルアミン(362g,3.58mol)を投入した。内温50〜55℃にて、水道水(600mL)を滴加した。種晶(400mg,Lot No.HAK051214−1,純度98.5area%)を投入後、水道水(200mL)を滴加することにより結晶を析出させた。さらに内温50〜55℃にて水道水(2.4L)を滴加後、内温20〜30℃に冷却した。析出した結晶をろ過した後、メタノール/水道水(1/6)混液(3.5L)による掛け洗いを行い、湿式固体(875g)を得た。また、母液の重量を測定した(8550g)。
【0077】
2−2 定量
HPLC分析条件および検量線作成方法は上記1−3と同様とした。なお、上記1−3における4−ブロモ−3−クロロフェノール定量値(1−1により得られた抽出液中の4−ブロモ−3−クロロフェノール定量値)から、上記2−1の母液中の4−ブロモ−3−クロロフェノール定量値を減じた値を、ジイソプロピルアミン塩化物の収量とした。
【0078】
〔試料溶液の調製および分析〕
母液3.0gおよび内部標準溶液−b1mLを100mLメスフラスコに量り取った後、テトラヒドロフランで精確に100mLに調整した(試料溶液)。試料溶液をHPLCに2μL注入し、4−ブロモ−3−クロロフェノール/3−メトキシフェノールarea比を算出した(4−ブロモ−3−クロロフェノール/3−メトキシフェノール=0.1604;Y)。以下のように収量を算出した。
Y=0.0265X → X=0.1604/0.0265=6.05mg
X:試料溶液中の4−ブロモ−3−クロロフェノール量(mg)
Y:4−ブロモ−3−クロロフェノール/3−メトキシフェノール=0.1604
A=(X/3.0)×B×10−3=(6.05/3.0)×8550×10−3=17.2g
A:母液中の4−ブロモ−3−クロロフェノール量(g)
B:母液重量(8550g)
収量(4−ブロモ−3−クロロフェノール換算):
(抽出液定量値)−(母液定量値)=565−17=548(g)
収量(4−ブロモ−3−クロロフェノール・ジイソプロピルアミン塩換算):
(4−ブロモ−3−クロロフェノール定量値)×283.34/207.45=548×283.34/207.45=748(g)
4−ブロモ−3−クロロフェノール 分子量:207.45
4−ブロモ−3−クロロフェノール・(ジイソプロピルアミン)3/4塩 分子量:283.34
理論収量:771g(4−ブロモ−3−クロロフェノール・(ジイソプロピルアミン)3/4塩換算)
収率:748/771×100=97.0%
2−3 純度測定
得られた4−ブロモ−3−クロロフェノール・(ジイソプロピルアミン)3/4の粗結晶品の純度を、以下の条件で測定した。なお、4−ブロモ−3−クロロフェノール・(ジイソプロピルアミン)3/4の粗結晶品の純度は、4−ブロモ−3−クロロフェノールの純度として評価した。
〔HPLC条件〕
カラム:YMC J’sphere ODS−H80 JH−302(4.6mm i.d.×150mm,5μm,YMC)
カラム温度:25℃付近の一定温度
移動相:水/テトラヒドロフラン/酢酸=60/40/0.5
流速:1.0mL/min
検出器:UV225nm
注入量:1μL
サンプル調製法:湿式固体1mg/mL(テトラヒドロフラン)
結果を表2に示した。目的の4−ブロモ−3−クロロフェノール・(ジイソプロピルアミン)3/4の純度は97.48%であった。
【0079】
【表2】

【0080】
(表2中、化合物名は前記と同じ意味を表わす。)
(3)ジイソプロピルアミン塩の再結晶
3−1 操作手順
上記(2)で得られた4−ブロモ−3−クロロフェノール・(ジイソプロピルアミン)3/4の粗結晶(湿式固体803g,定量値686g,2.42mol)をメタノール(1.2L)に溶解した。内温50〜60℃に昇温後、水道水(1.05L)を滴加し、結晶を析出させた。さらに内温50〜60℃にて水道水(1.75 L)を滴加後、内温20〜30℃に冷却した。析出した結晶をろ過した後、メタノール/水道水(1/6)混液(2.8 L)による掛け洗いを行い、湿式固体(765g)を得た。また、母液の重量を測定した(7330g)。
【0081】
3−2 定量
HPLC分析条件および検量線作成方法は上記1−3と同様とした。なお、上記2−2で算出された4−ブロモ−3−クロロフェノール・(ジイソプロピルアミン)3/4粗結晶の4−ブロモ−3−クロロフェノール換算値した定量値(湿式固体803g中に502g)から、上記3−1の母液中の4−ブロモ−3−クロロフェノール定量値を減じた値を、再結晶後のジイソプロピルアミン塩化物の収量とした。
【0082】
〔試料溶液の調製および分析〕
母液3.0gおよび内部標準溶液−b1mLを100mLメスフラスコに量り取った後、テトラヒドロフランで精確に100mLに調整した(試料溶液)。試料溶液をHPLCに2μL注入し、4−ブロモ−3−クロロフェノール/3−メトキシフェノールarea比を算出した(4−ブロモ−3−クロロフェノール/3−メトキシフェノール=0.3995;Y)。以下のように収量を算出した。
Y=0.0265X → X=0.3995/0.0265=15.08mg
X:試料溶液中の4−ブロモ−3−クロロフェノール量(mg)
Y:4−ブロモ−3−クロロアニソール/3−メトキシフェノール=0.3995
A=(X/3.0)×B×10−3=(15.08/3.0)×7330×10−3=36.8g
A:母液中の4−ブロモ−3−クロロフェノール量(g)
B:母液重量(7330g)
収量(4−ブロモ−3−クロロフェノール換算):
(粗結晶品定量値)−(再結晶品定量値)=502−37=465(g)
収量(4−ブロモ−3−クロロフェノール・ジイソプロピルアミン塩換算):
(4−ブロモ−3−クロロフェノール定量値)×283.34/207.45=465×283.34/207.45=635(g)
4−ブロモ−3−クロロフェノール 分子量:207.45
4−ブロモ−3−クロロフェノール・(ジイソプロピルアミン)3/4塩 分子量:283.34
理論収量:686g(4−ブロモ−3−クロロフェノール・(ジイソプロピルアミン)3/4塩換算)
収率:635/686×100=92.6%
3−3 純度測定
得られた4−ブロモ−3−クロロフェノール・(ジイソプロピルアミン)3/4の再結晶品の純度を、粗結晶品の純度測定の条件と同じ条件で測定した(2−3参照)。なお、4−ブロモ−3−クロロフェノール・(ジイソプロピルアミン)3/4の粗結晶品の純度は、4−ブロモ−3−クロロフェノールの純度として評価した。
【0083】
結果を表3に示した。目的の4−ブロモ−3−クロロフェノール・(ジイソプロピルアミン)3/4の純度は98.23%であった。また、再結晶することにより、2種類のオルト−ブロモ体(2−ブロモ−5−クロロフェノール、2−ブロモ−3−クロロフェノール)が前記HPLCによる検出限界以下となるまで精製できた。
【0084】
【表3】

【0085】
(表3中、化合物名は前記と同じ意味を表わす。)
得られた化合物が目的物(4−ブロモ−3−クロロフェノール・(ジイソプロピルアミン)3/4)であることを、以下のように確認した。
H NMR(400MHz, CDCl):δ1.11(d,J=6.4Hz,9H),3.03(sep,J=6.4Hz,1.5H),4.45−4.60(m,1.75H),6.60(dd,J=8.8,2.8Hz,1H),6.93(d,J=2.8Hz,1H),7.40(d,J=8.8Hz,1H)
Mass(ESI,Neg,20V):m/z=102(M+H)(ジイソプロピルアミン)
Mass(ESI,Neg,20V):m/z=205(M−H),207(M+2−H),209(M+4−H)(4−ブロモ−3−クロロフェノール)
IR(ヌジョール法):2727,2443,1636,1560,1513,1394,1226,1150,1103,903
この工程により得られた化合物の赤外吸収スペクトルチャートを図3に示した。
【0086】
(4)酸性抽出およびメチル化
4−1 操作手順
上記(3)で得られた4−ブロモ−3−クロロフェノール・(ジイソプロピルアミン)3/4再結晶品(湿式692g,定量値575g,2.03mol)を、t−ブチルメチルエーテル(2.4L,以下「MTBE」と略記する)に懸濁した。内温0〜5℃に冷却した後、2mol/L硫酸(1.17L,2.33mol)を滴加した。内温15℃まで昇温後、有機層を分離した。得られた有機層を水道水(1.2L)で洗浄した。
【0087】
有機層をN−メチルピロリジノン(600mL)で希釈した後、無水炭酸カリウム(586g,4.24mol)を投入し、MTBE(60mL)による洗い込みを行った。内温40〜50℃に昇温後、硫酸ジメチル(320g,2.54mol)を滴加し、MTBE(60mL)による洗い込みを行った。同温で約2時間撹拌後、酢酸(51.0g,0.85mol)を滴加した。同温で約1時間撹拌後、水道水(1.2 L)を投入した。内温20〜30℃に冷却後、反応液をMTBE(300mL)で希釈した後、水道水(1.8L)を加えて分液した。有機層を水道水(1.8L)で2回洗浄した後、減圧濃縮を行い、粗生成物としてオレンジ油状物(462g,収率102.7%)を得た。
【0088】
4−2 純度測定
得られた4−ブロモ−3−クロロアニソール粗生成物の純度を、以下の条件で測定した。
〔HPLC条件〕
カラム:YMC−Pack ODS−A A−302(4.6mm i.d.×150mm,5μm,YMC)
カラム温度:25℃付近の一定温度
移動相:アセトニトリル/水=6/4
流速:1.0mL/min
検出器:UV225nm
分析時間:30分
注入量:1μL
サンプル調製法:1mg/mL(アセトニトリル)
結果を表4に示した。目的の4−ブロモ−3−クロロアニソールの純度は97.42%であった。
【0089】
【表4】

【0090】
(表4中、化合物名の、2-Br-3-Cl-PhOMeは2−ブロモ−3−クロロアニソールを表わし、2-Br-5-Cl-PhOMeは2−ブロモ−5−クロロアニソールを表わし、4-Br-3-Cl-PhOMeは4−ブロモ−3−クロロアニソールを表わし、2,4-di-Br-3-Cl-PhOMeは2,4−ジブロモ−3−クロロアニソールを表わし、2,4-di-Br-5-Cl-PhOMeは2,4−ジブロモ−5−クロロアニソールを表わし、その他の化合物名は前記と同じ意味を表わす。)
(5)4−ブロモ−3−クロロアニソールの蒸留
5−1 操作手順
上記(4)で粗生成物として得られた4−ブロモ−3−クロロアニソールの簡易蒸留を行った。減圧度5mmHgに設定した後に昇温し、70〜83℃の留分を分取した(収量91.8g,収率94.3%(2工程))。
【0091】
5−2 純度測定
得られた蒸留後の4−ブロモ−3−クロロアニソールの純度を、蒸留前の粗生成物の純度測定の条件と同じ条件で測定した(4−2参照)。
【0092】
結果を表5に示した。粗生成物として得られた4−ブロモ−3−クロロアニソールを蒸留することにより、2種類のジブロモ体(2,4−ジブロモ−3−クロロフェノール、2,4−ジブロモ−5−クロロフェノール)をそれぞれ0.12%および0.17%まで減少させることができ、目的物である4−ブロモ−3−クロロアニソールの純度を99.50%まで高めることができた。
【0093】
【表5】

【0094】
(表5中、化合物名は前記と同じ意味を表わす。)
得られた化合物が目的物(4−ブロモ−3−クロロアニソール)であることを、以下のように確認した。
H NMR(400MHz, CDCl):δ3.79(s,3H),6.70(dd,J=8.8,2.8Hz,1H),7.01(d,J=2.8Hz,1H),7.47(d,J=8.8Hz,1H)
IR(Liquid film):3007,2937,2836,1589,1569,1471,1438,1287,1232,1110
Rf0.53(ヘキサン/トルエン,10/1)。
【0095】
〔比較例:4−ブロモ−3−クロロアニソールの一般的合成〕
3−クロロアニソール(500g,3.51mol)をアセトニトリル(3.75L)で希釈した。室温下、N−ブロモスクシンイミド(687g,3.86mol)をゆっくり投入した後、室温下で3時間攪拌した。溶媒を減圧留去した後、残渣をセライトろ過し、酢酸エチル/ヘキサン(1/1,5L)で掛け洗いした。ろ液を水道水(6L)、10wt%炭酸水素ナトリウム水溶液(4.5L)、水道水(3L)、飽和食塩水(3L)で順次洗浄した。抽出液を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧濃縮を行い、粗生成物(950g)を得た。得られた粗生成物を簡易蒸留(4mmHg,89〜95℃)により精製し、4−ブロモ−3−クロロアニソール(4-Br-3-Cl-PhOMe)(754g,収率97.0%)を得た。
【0096】
得られた4−ブロモ−3−クロロアニソールの純度を測定した(4−2参照)。純度測定は、独立して2回実施し、その結果を表6および表7に示した。一般的な合成方法により得られた4−ブロモ−3−クロロアニソールの純度はいずれも97%台であり、99%を超える高純度の4−ブロモ−3−クロロアニソールを得ることはできなかった。
【0097】
【表6】

【0098】
(表6中、化合物名は前記と同じ意味を表わす。)
【0099】
【表7】

【0100】
(表7中、化合物名は前記と同じ意味を表わす。)
なお、発明を実施するための最良の形態の項においてなした具体的な実施態様および実施例は、あくまでも、本発明の技術内容を明らかにするものであって、そのような具体例にのみ限定して狭義に解釈されるべきものではなく、当業者は、本発明の精神および添付の特許請求の範囲内で変更して実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明によれば、上記一般式(IV)で示される化合物を極めて高い純度で製造することができる。すなわち、位置異性体が前記のHPLCによる検出限界以下まで精製された上記一般式(I)で示される新規な中間化合物を経ることにより、極めて高い純度の上記一般式(IV)で示される化合物を製造することができる。得られた上記一般式(IV)で示される化合物は、不純物をほとんど含まないので、医薬品原料として非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】本発明に係る製造方法の反応工程式を示した図である。
【図2】4−ブロモ−3−クロロフェノールを内部標準法により定量するための検量線を示す図である。
【図3】実験例1の(3)の工程により得られた化合物の赤外吸収スペクトルを示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)
【化1】

(式中、Xはハロゲン原子を表わし、Xはハロゲン原子を表わし、Qは有機塩基を表わし、nは1/10〜10を表わす。)
で示される化合物。
【請求項2】
が塩素原子であり、Xが臭素原子である請求項1記載の化合物。
【請求項3】
Qがジイソプロピルアミンである請求項2記載の化合物。
【請求項4】
nが3/4である請求項3記載の化合物。
【請求項5】
化合物が常温常圧下で固体である請求項1記載の化合物。
【請求項6】
図3に示される赤外吸収スペクトルを有する請求項3記載の化合物。
【請求項7】
化合物の赤外吸収スペクトルにおいて、2727、2443、1636、1560、1513、1394、1226、1150、1103、および903cm−1に吸収を有する請求項3記載の化合物。
【請求項8】
一般式(II)
【化2】

(式中、Xは塩素原子を表わす。)
で示される化合物をハロゲン化反応に付し、
得られた一般式(III)
【化3】

(式中、Xは塩素原子を表わし、Xは臭素原子を表わす。)
で示される化合物に有機塩基Qを加え、
得られた一般式(I)
【化4】

(式中、Xは塩素原子を表わし、Xは臭素原子を表わし、Qはジイソプロピルアミンを表わし、nは3/4を表わす。)
で示される化合物を再結晶によって精製することを特徴とする、前記一般式(I)で示される化合物の製造方法。
【請求項9】
一般式(II)
【化5】

(式中、Xは塩素原子を表わす。)
で示される化合物をブロモ化反応に付し、
得られた一般式(III)
【化6】

(式中、Xは塩素原子を表わし、Xは臭素原子を表わす。)
で示される化合物にジイソプロピルアミンを加え、
得られた一般式(I)
【化7】

(式中、Xは塩素原子を表わし、Xは臭素原子を表わし、Qはジイソプロピルアミンを表わし、nは3/4を表わす。)
で示される化合物を再結晶によって精製し、酸性抽出し、次いでメチル化して得られた一般式(IV)
【化8】

(式中、Xは塩素原子を表わし、Xは臭素原子を表わす。)
で示される化合物を蒸留によって精製することを特徴とする、前記一般式(IV)で示される化合物の高純度な製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−23992(P2009−23992A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−152393(P2008−152393)
【出願日】平成20年6月11日(2008.6.11)
【出願人】(000185983)小野薬品工業株式会社 (180)
【Fターム(参考)】