説明

新規な乳タンパク質画分及び慢性炎症性疾患の予防又は治療のためのその使用

本発明は、TGF-β濃縮乳タンパク質画分、その調製方法、並びに慢性の炎症性疾患、特に乾癬を予防及び/又は治療するための医薬及び/又は食品組成物を製造するためのその使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の主題は、新規なTGF-β-濃縮(enriched)乳タンパク質画分、その調製方法、並びに慢性の炎症性疾患、特に乾癬の予防及び/又は治療を意図する医薬及び/又は食品組成物の製造のためのその使用である。
【背景技術】
【0002】
乾癬は、紅斑性鱗屑性発疹を特徴とする慢性の皮膚状態であり、これは主に肘、膝及び頭皮での発赤拡大により発展する。
生物学的観点から、乾癬は、角質層に微小膿瘍を形成するTリンパ球及び多核好中球による真皮及び表皮への浸潤を伴うケラチノサイトの異常な増殖及び分化を特徴とする慢性の炎症プロセスである。
【0003】
個体における乾癬の発生の原因は、ほとんどわかっていない。乾癬の発生を促進するいくつかの因子が挙げられる:
- 遺伝的因子、
- 精神的因子(ストレス、ホルモン変化など)、
- 免疫異常。
最後に、ある特定の医薬及び細菌又はウイルスの感染が、乾癬攻撃を誘引し得る。
【0004】
現在、乾癬を治癒させ得る治療は存在しない。現在までに知られている治療は、単に、乾癬の症状を延期させるか及び/又は減弱させることができるだけである。
いくつかの斑に限定される乾癬について、局所的に塗布されるコルチコイドを任意に組み合わせて、ビタミンDが処方される。局所的に塗布されるレチノイドを処方することもできる。
【0005】
最も深刻な場合、光線療法が指示されるか、又は全身経路によるメトトレキセート若しくはレチノイドが任意に処方される。後者の治療は、重い副作用を伴う。
よって、乾癬について満足できる治療は、現在、存在しない。
【0006】
医師は、リウマチ性関節炎、骨関節炎、クローン病、多発性硬化症、紅斑性狼瘡のようなその他の慢性の炎症性疾患について同様の問題を有する。これらの病的状態を治癒できる治療は存在せず、これらの病的状態の発現を治療するための現存する治療は、適切でないか又は非常に重篤な副作用を伴う。慢性の炎症性の成分(component)は、自己免疫疾患にも存在する。
【0007】
ケモカイン及びサイトカインのような成長因子が、炎症プロセスに影響を有することが知られている。これらの影響は、炎症プロセスの増幅から抑制までに及ぶ。
【0008】
特に、乳中のある成長因子が炎症プロセスに対する調節活性を有することが知られている。
例えば、WO 96/34614は、化学療法又は放射線療法により引き起こされる消化管の粘膜の障害の予防用の医薬の製造のための乳製品の使用について記載している。
抽出物は、乳をカチオン交換クロマトグラフィーカラムに通過させることにより得ることが好ましい。これは、ラクトフェリン及び/又はラクトペルオキシダーゼと成長因子、特にTGF-βを含むことが好ましい。
【0009】
TGF-β(トランスフォーミング成長因子)は、細胞の成長と分化を調節するペプチド成長因子である。これは、種々のアイソフォームで存在し得る25 kDの二量体分子である:TGFβ1、TGFβ2及びTGFβ3。TGF-βは、免疫及び炎症性の反応のある段階を調節、特に低減させるその能力について知られている(G. Prud'hommeら, J. Autoimmun. (2000), 14, 23〜42; M. Shullら, Nature (1992), 359, 693〜699; J. Graycarら, Mol. Endocrinol. (1989), 3, 1977〜1986; J. Letterioら, Annu. Rev. Immunol. (1998), 16, 137〜161)。これは、潜在形(生物学的に不活性)又は活性形で存在する。
【0010】
TGF-βは、非常に少量で乳中に存在する(30μg/l-乳)。しかし、乳中には、TGF-βのものとは異なる活性、TGF-βの活性に反する可能性がある活性を有するその他の多数の因子が存在し、その結果、乳中に含まれるTGF-βが炎症プロセスに対して顕著な作用を有さない。
さらに、乳からのTGF-βの単離は、工業的規模で行うことが非常に困難である。なぜなら、まず、費用の点の考慮、そして単離プロセスは標的タンパク質の変性をしばしば引き起こし、それにより、乳タンパク質画分が含有するタンパク質の全ての生物学的特性を損失した乳タンパク質画分の生成を導くからである。
【0011】
EP 0313515は、乳からTGF-βを単離するための方法を記載している。しかし、この方法は、複雑な性質の非常に多数の工程を含むので、経済的な観点から実行可能であるとは言いがたい。
【0012】
炎症プロセスに対して生物学的活性を示す、すなわち炎症プロセスの低減又は抑制を示す乳タンパク質画分を得ることを目的として、乳から出発して、乳中に存在する場合にTGF-βの抗炎症特性を遮断するTGF-βの拮抗性因子の少なくともいくつかを除去しながら、他のタンパク質に比べてTGF-βの含量を増加できることが必要であろう。このアプローチの難点は、TGF-βの拮抗阻害剤が正確にはわかっていないので、より大きい。
【0013】
TGF-βが濃縮された乳タンパク質画分の単離の問題点に注目している著者がいくらか存在する。以下の特許出願及び特許がこれに該当する:WO 96/34614、EP 0545946、WO 01/25276、WO 03/008447、FR 2827240、EP 0869134。
【0014】
EP-0545946は、ホエーから成長因子を抽出する方法について記載している。この方法は、不溶性物質を除去するために乳清をろ過し、pHを6.5と8の間に調整し、塩基性の主要構成成分を吸着させて酸性の主要タンパク質を溶出するセファロースタイプのカチオン交換樹脂を使用し、樹脂を緩衝液で平衡化し、ろ過物を樹脂に供し、高イオン強度の緩衝液で溶出し、塩を除去するためにろ過し、濃縮する工程を含む。
【0015】
EP 0869134は、カチオン交換体への吸着、分画溶出、成長因子に富む画分の生成、及び3.5〜4.5の範囲のpHでの処理による、乳又は乳派生物からの1又は複数種の成長因子の回収方法について記載している。この方法は、非常に高い見かけ速度と高い液体装填量とで用いられることが好ましい。
【0016】
WO 01/25276は、以下の工程を含む、TGF-β及びIGF-1を抽出する方法について記載している:カチオン交換クロマトグラフィーにより乳から塩基性画分を回収し、回収した画分をヒドロキシアパタイトカラムに通過させ、少なくとも2種の漸増する塩濃度の溶出液で溶出することにより、以下の2つの画分を得る:
- IGF-1/TGF-β>10であるIGF-1濃縮画分
- TGF-β/IGF-1>5であり、タンパク質の全量に対して30〜50%の免疫グロブリンを含有するTGF-β濃縮画分。
【0017】
FR 2827240は、a) 可溶性タンパク質濃度を5〜30 g/lに調整し、b) 酸処理により沈殿させ、c) 精密ろ過(microfiltration)−ダイアフィルトレーションを行い、d) 精密ろ過残留物(retentate)を回収し、e) 乾燥させることによる、乳の水相の可溶性タンパク質に富む溶液から活性形のTGF-β濃縮タンパク質画分を調製する方法について記載している。
【0018】
WO 03/008447は、成長因子TGF-β、IGF-1、ラクトペルオキシダーゼ及び免疫グロブリンを単離する方法について記載している。乳中の塩基性タンパク質画分は、カチオン交換クロマトグラフィーにより回収される。得られる画分は、疎水性相互作用クロマトグラフィーを通過させる。
【0019】
しかし、これらの方法のいずれによっても、工業的に実行可能な条件下で、慢性で炎症性の病的状態及びその発現又は症状、特に乾癬に対して真に有効な乳タンパク質画分を得ることができない。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0020】
そして、本出願人は、驚くべきことに、慢性の炎症プロセス、特に乾癬に対する作用を有する新規な乳タンパク質画分を見出した。
【0021】
本発明の乳タンパク質画分は、以下の工程を含む方法により得ることができる:
乳又はホエーを出発物質として用いる。
(a) 乳又はホエーを、任意に、精密ろ過又は加熱処理に付し;
(b) 乳若しくはホエー又は工程(a)から得られた生成物をカチオン交換樹脂に吸着させ(deposited);
(c) カチオン交換樹脂を脱塩水で洗浄し;
(d) 樹脂を漸増する濃度の塩水溶液を用いて溶出し;
(e) 21.0と22.0 mS/cmの間の導電率の塩水溶液に相当する溶出物を回収する。
【0022】
本発明の方法は、以下の工程の1又は複数をさらに含み得る:
(f) (e)で得られた溶出物を限外ろ過により濃縮して濃縮残留物を回収し;
(g) (f)で得られた濃縮残留物を精密ろ過により滅菌して透過物を回収し;
(h) (g)で得られた透過物を噴霧乾燥する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明による方法において、好ましくは牛から得られた乳又はホエーを出発材料として用いることができる。ホエーは、タンパク質及び脂質を乳又はバターミルクから抽出した後に得られる残存液である。一般的に、ホエーを3つのカテゴリに分けることができる。最初の2つのカテゴリは、1.8 g乳酸/l未満又はそれより多いであろうホエーの酸性度により分類される;加熱又は非加熱のプレスチーズ(エメンタール、サンポーランなど)の製造から得られるスィートホエー、及びカゼイン又は混合若しくは乳の凝固により得られるその他のチーズ(ソフトチーズ、フロマージュフレ)から得られる酸性ホエー。スィートホエーの平均的な組成は、基準として、ホエー1 kg当たり61 gの乾燥物質、42〜48 gのラクトース、8 gのタンパク質、2 gの脂質、5〜7 gの無機物、1〜5 gの乳酸及び残りは無機物及びビタミンである。
【0024】
0.1μmの平均多孔度を有する支持体上での乳の精密ろ過により得られる理想ホエーも知られている。
【0025】
本発明の第一の変形によると、本発明の方法により、より有利な生物学的特性を有するタンパク質単離物を得ることを可能にする組成を有する乳、有利には牛乳を出発材料として用いる。この変形は、ホエーを出発材料として用いる変形よりも多いタンパク質収量を得ることも可能にする。
【0026】
本発明の第二の変形によると、カゼイン製造からの酸性ホエーが出発材料として用いられる。この変形は、経済的な利点を示す。なぜなら、出発物質は工業的活用からの副産物であり、よって費用が低いからである。
【0027】
出発物質として用いる乳は、牛、ヤギ、ヒツジ、バッファローの乳であり得る。これは、遠心分離により既知の様式で脱脂してよい。
【0028】
乳又はホエーは、微生物起源のいずれの汚染も除去することを可能にする処理に付される。この目的のために、乳は、68℃を超えない温度での加熱処理、又は例えば約1.4μmの多孔度のフィルタでの第1精密ろ過工程に付されるのが有利である。
【0029】
次いで、精密ろ過透過物、又は直接、乳若しくはホエーは、樹脂カラムに吸着させる。
上記の方法において用いられる樹脂は、ポリアニオン性ナノ多孔性合成ポリマーからなる。該ポリマーは、球形又は回転楕円形の三次元であることが好ましい。これは、強酸性タイプの官能基を、この強酸のアニオンの共役塩基の形で有する。これは、SO3-基の官能性をもつことが好ましい。さらに、樹脂を作るポリマーは、好ましい溶出パラメータに起因する液圧応力に耐えることを可能にする機械的耐性特性を有さなければならない。
【0030】
好ましくは、工程(b)において、カラムに供給する流速は、10と15 m3/hの間であり、線形速度(linear speed)は、2.8と4.5 m/hの間である。
工程(b)において、樹脂の容量に対する乳の容量の比は、有利には100と200の間である。
【0031】
乳又はホエーを吸着させた後に、樹脂カラムを脱塩水で、好ましくは10〜15 lの水/l-樹脂を用いて洗浄する。
【0032】
次に、10〜14 g/l、好ましくは11〜13 g/lの塩濃度を含む塩水溶液を用いる。
塩水の流速は1.5〜2 m3/hであり、塩水溶液の線形速度は、有利には0.4〜0.6 m/hである。樹脂の容量に対する塩水の容量は、2.5と3.5の間である。
【0033】
このようにして回収される溶出物は、次いで、1又は複数の限外ろ過工程、及び任意に1又は複数のダイアフィルトレーション工程により濃縮される。これらの工程は、低温(2〜6℃)で行われるのが有利である。
【0034】
このようにして得られる残留物を精密ろ過して噴霧乾燥させる。
しかし、当業者に知られる脱塩及び濃縮のその他の方法を構想してよい。
【0035】
このようにして得られる乳タンパク質画分は、次の特徴を有する:
- 0.010と0.025重量%の間のタンパク質の全重量に対するTGF-β含量;
- タンパク質の全重量に対するIgG (免疫グロブリン)含量<25重量%;
- TGF-β/IGF 1の比(重量/重量)≧5。
【0036】
有利には、以下の特徴の1又は複数にも対応する:
- 35と45重量%の間のタンパク質の全重量に対するラクトペルオキシダーゼ含量。
これらの乳タンパク質画分は、本発明の別の主題を構成する。
【0037】
驚くべきことに、本発明の乳タンパク質画分は、屠殺したマウスの脾臓細胞に対して評価されるリンパ球増殖の低下をもたらす。塩化アンモニウムで処理して洗浄した細胞を、本発明の主題であるタンパク質画分及びコンカナバリンAのような有糸分裂促進剤の存在下に48時間インキュベートし、培養の最後に細胞の培地に5-ブロモデオキシウリジンを加える。リンパ球の増殖を、細胞に取り込まれた5-ブロモデオキシウリジンの定量により評価する。
【0038】
乾癬の表皮が、活性化されたTリンパ球の流入の位置(seat)であることがわかっているので、本発明の主題であるタンパク質画分は、乾癬だけでなく慢性で炎症性の病的状態のようなその他の状態及び/又はそれらの症状の予防又は治療のために用いることができる。これらの病的状態のうち、乾癬を挙げることができるが、リウマチ性関節炎、骨関節炎、クローン病、多発性硬化症、紅斑性狼瘡も挙げることができる。さらに、これらは、自己免疫疾患の炎症性の成分に対する効果を有し得る。よって、これらは、自己免疫疾患の予防及び/又は治療、特に自己免疫疾患の炎症性の成分の予防及び/又は治療のために用いることができる。
【0039】
さらに、本発明の方法は、工業的規模での実行が容易であり、実施が容易であり、かつ限られた数の工程しか含まない。
【0040】
本発明の方法の別の利点は、確実に工業的に興味がある他の乳タンパク質画分を回収することができることにある。カラムを、漸増する濃度の塩水溶液を用いて溶出することができ、このことにより、任意に工程e)の画分を回収した後に、種々の乳タンパク質画分を回収できる。工程e')において、50.5〜51.5 mS/cmの範囲の導電率を有する塩水溶液で溶出される画分は、ラクトフェリンが濃縮された画分である。該方法は、単独のクロマトグラフィー工程においてラクトフェリンに富む乳タンパク質組成物を回収することを可能にする。好ましくは、方法のこの工程は、以下の条件の1つ又は複数を用いて行われる:
- 2.5と3.5の間の樹脂の容量に対する塩水の容量、
- 1.5と2 m3/hの間の塩水の流速、
- 0.4と0.6 m/hの間の溶出の線形速度。
【0041】
該方法は、限外ろ過、ダイアフィルトレーション、精密ろ過及び/又は乾燥、特に噴霧乾燥の後続の工程をさらに含み得る。
ラクトフェリン濃縮乳タンパク質画分を単離するためのこの方法は、本発明の別の主題を構成する。
【0042】
本発明の別の主題は、本発明の乳タンパク質画分と医薬的に許容されるキャリアとを含む医薬組成物である。
【0043】
関与する病的状態及びこの病的状態の重篤度に応じて、投与の形態及びキャリアは、当業者により適合される:局所塗布(クリーム、ローション、パッチ)、経口投与(ゼラチンカプセル、シロップ剤、錠剤、水溶液又は懸濁剤)、注射(注射用の溶液)。
【0044】
本発明の乳タンパク質画分を、食品組成物、特に、より具体的には慢性で炎症性の病的状態、特に乾癬、又は自己免疫疾患に罹患した人のためを意図する栄養性(dietetic)組成物に用いることも構想できる。このような食品組成物は、本発明の乳タンパク質画分を、通常用いられる乳タンパク質の代わりに含有する。該食品組成物は、プロテイン飲料、乳食品などであり得る。該食品組成物は、本発明の別の主題を構成する。
【0045】
投与される乳タンパク質画分の量及び投与頻度は、病的状態、その重篤度、患者の年齢及び体重に応じて当業者により適合される。
本発明の医薬組成物又は栄養性組成物は、攻撃の期間の間の慢性の炎症性病的状態、特に乾癬、又は自己免疫疾患の治療のために用いることができる。これらの組成物は、急性感染の新しい期間の出現を防げるか及び/又は回避するか及び/又は遅延させるために、寛解の期間の間に用いてもよい。
【実施例】
【0046】
実施例1:乳タンパク質画分の調製
68℃にて15秒間予め加熱処理した250 m3の脱脂乳を、以下の特徴を有する2000 lのカチオン交換樹脂(BIOSEPRAにより供給されるSPEC 70)の上からクロマトグラフィーカラム(下行方向に)を通過させる:
SO3-基の官能性をもつ完全に合成された(completely synthetic)マクロ多孔性ポリアニオン性ポリマー;該ポリマーは、球形又は回転楕円形の3次元である;粒子サイズは261μmより大きい;支持体は、AMPS:2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸の重合により製造される。
カラムに乳を供給する流速は14 m3/hであり、線形速度は3.2 m/hである。
【0047】
乳を通過させた後に、カラムを23000リットルの脱塩水で洗浄する(下行方向に)。
次いで、12 g/lで塩水を用いて、結合したタンパク質を樹脂から抽出する。用いた流速は1900 l/hであり、線形速度は0.6 m/hである;得られた溶出物の容量は8000リットルに近い。
【0048】
この溶出物を、次いで、濃縮残留物の導電率が15 mS/cmより大きいままであるような容量濃縮係数を用いて、4℃にてUF (DSS, 400 m GR10Dメンブレン)により濃縮する。得られた濃縮残留物を、次いで、UF及びダイアフィルトレーション(同じであるが表面積が34 m2しかないメンブレンを備える)により、濃縮残留物の導電率が5 mS/cmになるまで再び濃縮する。
【0049】
このようにして得られた濃縮残留物を、1.4μmの多孔度の17 m2の精密ろ過モジュール上で30℃にする。得られた透過物は、8%に近い乾燥抽出物を有し、空気入口温度180℃及び塔出口温度80℃の単独ノズル(single-effect nozzle)の塔で噴霧乾燥する。
【0050】
1650 gの乳タンパク質画分が、粉末形態で得られる。この画分は、以下の特徴を有する:
水分 5.4%
タンパク質 94.2%
灰分 0.9%
TGF-β含量 110μg/g-タンパク質
ラクトペルオキシダーゼ含量 407 mg/g-タンパク質
IgG含量 <190 mg/g-タンパク質
【0051】
実施例2:細胞増殖に対する乳タンパク質画分の影響
実施例1で得られた乳タンパク質画分の効果を、乳腺癌の胸膜滲出液由来の細胞MCF7の培養物に対して試験した。2つの実験を行った。MCF7細胞を、実験1について700000細胞/ディッシュ、及び実験2について200000細胞/ディッシュの濃度で25 cm2のディッシュに播種する。24時間待った後に、培地を吸引して、218μg/ml、109μg/ml又は0μg/ml (コントロール培地)の濃度で実施例1で得られたタンパク質画分を含有する7 mlの培地に交換する。次いで、細胞を、24時間ごとに培地を交換しながら72時間培養する。結果は、各アッセイについて4つのディッシュについて行った計数の平均に相当する。
【0052】
実験は、MCF7細胞の成長に対する実施例1で得られた乳タンパク質画分の用量依存的な阻害効果を実際に証明する。
【0053】
【表1】

【0054】
実施例3:乳タンパク質画分を含む栄養補助剤の製造
ゼラチンカプセル中の形態の栄養性補助剤を、実施例1で得られた乳タンパク質画分を含有させることにより製造した。
【0055】
【表2】

【0056】
実施例4:感染に罹患している人に対する乳タンパク質画分を含む栄養補助剤の効果
実施例3で得られた栄養補助剤の影響を試験した。乾癬に罹患している20名の人(8名の女性及び12名の男性、23〜70歳)は、実施例3で製造した栄養補助剤のゼラチンカプセルを1日当たり8個(朝に4個のゼラチンカプセル及び夜に4個のゼラチンカプセル)、60日間摂取した。言い換えると、実施例1で得られた乳タンパク質画分の1日当たりの摂取は1 gであり、これは110μgのTGF-βに相当した。症状の制御及び血液分析を、この栄養補助剤の60日間の摂取の前後に行った。
【0057】
結果
- 乾癬の症状:この栄養補助剤を60日間摂取した後に、80%の人について、症状の著しい改善(乾癬斑、炎症、鱗屑状剥離及び掻痒の減少)が観察された。
【0058】
【表3】

【0059】
- 安全性:この栄養補助剤は、よく許容された(tolerated)。摂取の60日の期間全体にわたって、深刻な望ましくない事象は観察されなかった。肝臓パラメータ(ASAT、ALAT、GGT)、腎臓パラメータ(尿素、クレアチニン)及び血液学的パラメータ(白血球、多核細胞、リンパ球、単球、血小板)について異常は観察されず、このことによりこの栄養補助剤の安全性が確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳又はホエーを出発材料として用いて、以下の工程:
(a) 前記乳又はホエーを、任意に、精密ろ過又は加熱処理に付し;
(b) 前記乳若しくはホエー又は工程(a)から得られた生成物をカチオン交換樹脂に吸着させ;
(c) 前記カチオン交換樹脂を脱塩水で洗浄し;
(d) 前記樹脂を漸増する濃度の塩水を用いて溶出し;
(e) 21.0と22.0 mS/cmの間の導電率の塩水に相当する溶出物を回収する
を含むことを特徴とする乳タンパク質画分を調製する方法。
【請求項2】
以下の工程:
(f) (e)で得られた溶出物を限外ろ過により濃縮して濃縮残留物を回収し;
(g) (f)で得られた濃縮残留物を精密ろ過により滅菌して透過物を回収し;
(h) (g)で得られた透過物を噴霧乾燥する
の1つ又は複数をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記出発材料が牛乳である請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記樹脂が、強酸のアニオンの共役塩基型の官能基の官能性をもつナノ多孔性合成ポリマーからなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記ポリマーが、SO3-基の官能性をもつことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
以下の条件:
- 工程(b)においてカラムに供給する流速が10と15 m3/hの間である;
- 工程(b)における線形速度が2.8と4.5 m/hの間である;
- 工程(b)において樹脂の容量に対する乳の容量が100と200の間である
の1つ又は複数を満たすことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
以下の条件:
- 前記塩水が、10〜14 g/lの塩濃度を有する;
- 前記塩水の流速が1.5〜2 m3/hである;
- 前記塩水の線形速度が0.4〜0.6 m/hである;
- 前記樹脂の容量に対する前記塩水の容量が2.5と3.5の間である
の1つ又は複数を満たすことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
以下の特徴:
- 0.010と0.025重量%の間のタンパク質の全重量に対するTGF-β含量;
- タンパク質の全重量に対するIgG (免疫グロブリン)含量<25重量%;
- TGF-β/IGF 1の比(重量/重量)≧5
を満たすことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法により得ることができる乳タンパク質画分。
【請求項9】
以下の特徴:
- 35と45重量%の間のタンパク質の全重量に対するラクトペルオキシダーゼ含量
を満たすことを特徴とする請求項8に記載の乳タンパク質画分。
【請求項10】
慢性で炎症性の病的状態及び/又はその症状の予防又は治療を意図する医薬の製造のための請求項8又は9に記載の乳タンパク質画分の使用。
【請求項11】
乾癬及び/又はその症状の予防又は治療を意図する医薬の製造のための請求項10に記載の使用。
【請求項12】
自己免疫疾患の予防及び治療を意図する医薬の製造のための請求項8又は9に記載の乳タンパク質画分の使用。
【請求項13】
自己免疫疾患の炎症発現の予防又は治療を意図する医薬の製造のための請求項8又は9に記載の乳タンパク質画分の使用。
【請求項14】
請求項8又は9に記載の乳タンパク質画分と医薬的に許容されるキャリアとを含む医薬組成物。
【請求項15】
請求項8又は9に記載の乳タンパク質画分を含む食品組成物、特に栄養性組成物。
【請求項16】
50.5と51.5 mS/cmの間の導電率の塩水に相当する溶出物を回収する、ラクトフェリン濃縮乳タンパク質画分を単離するための工程(e')をさらに含むことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
工程(e')が、以下の条件:
- 2.5と3.5の間の樹脂の容量に対する塩水の容量、
- 1.5と2 m3/hの間の塩水の流速、
- 0.4と0.6 m/hの間の溶出の線形速度
の1つ又は複数を用いて行われることを特徴とする請求項16に記載の方法。

【公表番号】特表2009−502892(P2009−502892A)
【公表日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−523410(P2008−523410)
【出願日】平成18年7月25日(2006.7.25)
【国際出願番号】PCT/FR2006/001810
【国際公開番号】WO2007/012748
【国際公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【出願人】(508028405)コンパニー レティエール ヨーロピエンヌ (1)
【氏名又は名称原語表記】COMPAGNIE LAITIERE EUROPEENNE
【住所又は居所原語表記】F−50890 Conde Sur Vire,FRANCE
【Fターム(参考)】