説明

新規な温度及びpH感受性のブロック共重合体及びこれを用いた高分子ヒドロゲル

本発明は、(a)ポリエチレングリコール(PEG)系の化合物と生分解性の高分子との共重合体(A)と、(b)ポリ(β−アミノエステル)及びポリ(アミドアミン)よりなる群から選ばれる1種以上のオリゴマー(B)とをカップリングさせて得られるブロック共重合体及びこの製造方法を提供する。また、本発明は、温度及びpH感受性のブロック共重合体及び前記ブロック共重合体内に封入可能な生理活性物質を含む高分子ヒドロゲル状の薬物組成物を提供する。本発明による多重ブロック共重合体は、pH感受性を有するポリ(β−アミノエステル)及び/またはポリ(アミドアミン)系のオリゴマー、親水性でかつ温度感受性であるポリエチレングリコール系の化合物及び疎水性でかつ生分解性である高分子を共重合させることにより、共重合体内に親水性と疎水性基を併せ持つ両親性と周辺環境のpHに応じてイオン化特性が変わるpH敏感特性を用いて高分子ヒドロゲル構造を形成することができ、これにより、体内のpH変化による標的指向的な薬物送達用の支持体として使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度及びpH感受性の薬物送達体用の生分解性ブロック共重合体及びこの製造方法、前記ブロック共重合体を含むヒドロゲル状の薬物組成物に係り、さらに詳しくは、ポリエチレングリコール系の化合物と生分解性のポリエステル高分子化合物よりなる温度感受性のブロック共重合体にpHに応じてイオン化特性を示すポリ(β−アミノエステル)及び/またはポリ(アミドアミン)化合物との多重ブロック共重合体を誘導することにより、体内温度及びpH変化に応じて標的指向的な薬物が放出可能な多重ブロック共重合体及びこれを含む高分子ヒドロゲルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、薬物送達系と医療業の分野において、疎水性基と親水性基を併せ持つ両親性高分子によって得られたヒドロゲルのゾル−ゲル遷移現象を用いた標的指向型の薬物送達体に関する研究が盛んになされている。
【0003】
親水性高分子であるポリアルキレングリコールと生分解性のポリエステル高分子であるポリラクチド、ポリグリコリドまたはポリカプロラクトンとの共重合体を用いて、既存のプルロニックと呼ばれるポリエチレングリコールとポリエチレンオキシド−ポリプロピレンオキシド−ポリエチレンオキシドブロック共重合体の体内での未分解といった問題点を改善することが開示されている(例えば、下記の特許文献1参照)。
【0004】
また、生分解性のポリエステル高分子A−B−A型のトリブロック共重合体が記述されているが(例えば、下記の特許文献2参照)、疎水性ブロック(A)はポリラクチド(PLA)、ポリグリコリド(PGA)及びこれらの共重合体に限定され、親水性ブロック(B)もポリエチレングリコール(PEG)及びその誘導体に限定されている。
【0005】
一方、スルホンアミド基を含むpH感受性の高分子及びその製造方法が開示されているが(例えば、下記の特許文献3参照)、主としてスルホンアミド単量体とジメチルアクリルアミドあるいはイソプロピルアクリルアミドとのランダム共重合により得られる線形高分子の溶解度の変化またはその架橋高分子の膨潤度について記述されている。
【特許文献1】アメリカ特許第4、942、035号公報
【特許文献2】アメリカ特許第5、476、909号公報
【特許文献3】韓民国公開特許公報第2000−0012970号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これらの従来の技術は、疎水性である生分解性の高分子と親水性高分子とのブロック共重合体を用いて、温度に応じてゾル−ゲル遷移現象を発現させるものであり、前記ブロック共重合体をゾル状である水溶液の形で体内に注入する場合、体温によってゲル状に遷移し、これにより、体内において安定して薬物を担持して徐々に薬物を放出するという徐放型の薬物送達体として用いられている。しかしながら、その様な温度感受性のゾル−ゲル遷移特性を示すブロック共重合体を使用する場合、体内への注射中に体内温度によって注射針の温度が体内温度と熱的平衡を取ってしまい、体内に完全に注入される前にゲル化が起こる結果、注射針に目詰まりが発生するなどの不具合があった。また、PLA、PLGAまたはPCLなどよりなる疎水性の部分がpH感受性を示すとは報告されているが、実際に体内pHに適用可能な程度の感受性ではないため、薬物送達分野における実用レベルに至らせるには不向きであった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らはポリエチレングリコール系の化合物と生分解性のポリエステル高分子化合物とよりなる温度感受性のブロック共重合体ヒドロゲルを単体で使用する場合、上述のごとく、人体内への注射に際して、体内に取り込まれる前に体温の熱伝達によりゲル化が起こる結果、注射針に目詰まりが発生するなどの不具合があることを見出し、これを解消するために鋭意研究を行った結果、前記温度感受性のブロック共重合体と体内のpHに応じてイオン化度が変わってpH感受性を示すポリ(β−アミノエステル)(PAE)、ポリ(アミドアミン)(PAA)またはこれらの混合物(PAEA)とのカップリング反応により、温度に加えて、pH感受性ブロック共重合体を合成し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
実際に、本発明に従い得られるブロック共重合体ヒドロゲルは、温度に加えて、pH感受性ゾル−ゲル遷移挙動、例えば、体内とほとんど同じpHであるpH7〜7.4辺りにおいてゲル化が起こる一方、前記範囲以下においてはゾル化が起こる挙動を示すことにより、体内への注入時に従来の温度感受性のヒドロゲルにおいて見られていた注射針の目詰まり現象が現れることなく、体内において安全にゲルを形成することを見出した。さらには、本発明者らは、これにより製造されたブロック共重合体が特定の温度及び特定のpHにおいて体内において安定して薬物を担持して徐々に薬物を放出するという徐放型の薬物送達体として利用可能であることを見出した。
【0009】
さらに、本発明者らは、pH感受性の高分子の人体内における生分解速度を調節するために、pH感受性を有するとともに、主鎖がエステル結合よりなって生分解速度が比較的に早いポリ(β−アミノエステル)に加えて、主鎖がアミド結合よりなって生分解速度が比較的に遅いポリ(アミドアミン)を適量混合することにより、人体内における生分解速度を所望に調節することが可能であることをも見出した。
【0010】
そこで、本発明は、新規な温度及びpH感受性の多重ブロック共重合体及びこの製造方法、前記多重ブロック共重合体から得られる高分子ヒドロゲル組成物を提供することを目的とする。
【0011】
本発明は、(a)ポリエチレングリコール(PEG)系の化合物と生分解性の高分子との共重合体(A)と、(b)ポリ(β−アミノエステル)及びポリ(アミドアミン)よりなる群から選ばれる1種以上のオリゴマー(B)とをカップリングさせて得られるブロック共重合体及びこの製造方法を提供する。
【0012】
また、本発明は、温度及びpH感受性のブロック共重合体及び前記ブロック共重合体に封入可能な生理活性物質を含む高分子ヒドロゲル状の薬物組成物を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を詳述する。
【0014】
本発明は、親水性ポリエチレングリコール系の化合物と生分解性の高分子化合物との共重合により得られる温度感受性のブロック共重合体に、pHに応じてイオン化度が変わるポリ(β−アミノエステル)(PAE)、ポリ(アミドアミン)系の化合物(polyamidoamine, PAA)またはこれらの混合物(PAEA)よりなるオリゴマーをカップリングさせることにより、体内温度に加えて、体内のpHに感受性の新規な温度及びpH感受性の多重ブロック共重合体及びこれを用いた高分子ヒドロゲルを提供することを特徴とする。
【0015】
上述の如き特徴により得られる効果としては、下記のものが挙げられる。
【0016】
1)従来、ポリエチレングリコールなどの親水性高分子と生分解性でかつ疎水性である高分子とよりなるブロック共重合体は、温度変化に応じたそれぞれ親水性ブロックと疎水性ブロックの物性変化によりゾル−ゲル遷移挙動を示していたが、前記ブロック共重合体の温度変化に対する乏しい感受性及び伝達媒体の熱的平衡による体内における副作用などにより実際に薬物送達分野に適用には不向きであった。
【0017】
しかしながら、本発明においては、前記親水性高分子と生分解性の高分子とよりなる温度感受性のブロック共重合体に、pH変化に応じて種々のイオン化度を示すポリ(β−アミノエステル)(PAE)、ポリ(アミドアミン)(PAA)またはこれらの混合物(PAEA)の形の化合物をカップリング反応させることにより、温度感受性に加えてpH感受性も同時に持たせ、上述の如き温度感受性のヒドロゲルの問題点を解消することができると共に、より安定したヒドロゲルを形成することができる。
【0018】
特に、本発明による温度及びpH感受性のブロック共重合体は、特定のpHにおいて物理的及び化学的に安定したヒドロゲルを形成し、またこれ以外の範囲においてはゾル状に遷移する可逆的なゾル−ゲル遷移挙動を示すことができる。すなわち、低いpH(例えば、pH7.0以下)においては、ポリ(β−アミノエステル)(PAE)に存在する3級アミンのイオン化度の増大によりPAE全体が水溶性に変わってヒドロゲルを形成することができなくなり、高いpH(例えば、pH7.2以上)においては、PAEのイオン化度が低下して疎水性特性を示すことによりヒドロゲルを形成することができる。
【0019】
また、2)前記温度及びpH感受性のブロック共重合体は体内において安全であるため、医療用、遺伝子伝達、薬物送達分野、特に、薬物担持及び放出などの徐放型薬物送達体として適用可能であるだけではなく、注入可能な足場(Injectable scaffold)として用いられる細胞伝達用の支持体として応用可能である。
【0020】
3)さらに、本発明においては、前記ブロック共重合体を構成する構成要素及びその物性、例えば、構成成分、これらのモル比、分子量及び/またはブロック内の官能基などを適切に変更することにより、ブロック共重合体の可逆的なゾル−ゲル遷移挙動パターンを様々にデザインすることができ、これにより、癌細胞だけではなく、遺伝子変異または他の応用分野にも有効に応用することができることが予測可能である。
【0021】
本発明による温度及びpH感受性のブロック共重合体の構成成分の一方は、PEG系の化合物と生分解性の高分子との共重合体(A)である。前記共重合体(A)は、分子内PEG系の化合物の親水性と生分解性の高分子の疎水性が共存することにより、温度変化によるゾル−ゲル遷移が可能である。
【0022】
前記共重合体(A)を構成するPEG系の化合物は、当分野において周知の通常のPEG系の化合物を制限無しに使用することができ、特に、下記の一般式1で表わされるPEG系の化合物が好ましい。
【0023】
【化1】

【0024】
式中、Rは水素原子または炭素数1〜5のアルキル基であり、nは11〜45の自然数である。
【0025】
前記ポリエチレングリコール系の化合物の分子量(Mn)には特に制限がないが、500〜5000の範囲であることが好ましい。特に、前記一般式1中のRが水素であるポリエチレングリコール(PEG)の場合、1000〜2000の分子量範囲が好ましく、Rがメチル基であるメトキシポリエチレングリコール(MPEG)の場合、その分子量は500〜5000の範囲であることが好ましい。ポリエチレングリコール系の化合物の分子量(Mn)が前記範囲から外れる場合、すなわち、500未満である場合や5000を超える場合、ゲルの上手く形成できず、しかも、ゲルが形成されたとしても、ゲル強度などの弱化により実際に薬物送達用の支持体として適用し難い場合がある。
【0026】
前記共重合体(A)を構成する生分解性の高分子としては、当分野において周知の通常の生分解性の高分子を使用することができ、好ましくは、生分解性の脂肪族ポリエステル高分子が使用可能である。この非制限的な例としては、カプロラクトン(CL)、グリコリド(GA)、ラクチド(LA)またはこれらの共重合体などがある。上述の生分解性の高分子に加えて、前記PEG系の化合物と共重合体が形成可能な生分解性の高分子もまた本発明の範疇に属する。
【0027】
上述のポリエチレン系の化合物及び生分解性の高分子の重合により得られる共重合体(A)には、前記成分を含んでいる限り特に制限はないが、できる限り、ポリ(β−アミノエステル)及び/またはポリ(アミドアミン)系のブロックと反応可能な1級アミン基、2級アミン基及び二重結合よりなる群から選ばれる1種以上の置換基を有することが好ましい。前記共重合体(A)の非制限的な例としては、ポリラクチド(PLA)、ポリグリコリド(PGA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ(カプロラクトン−ラクチド)ランダム共重合体(PCLA)、ポリ(カプロラクトン−グリコリド)ランダム共重合体(PCGA)またはポリ(ラクチド−グリコリド)ランダム共重合体(PLGA)などがある。
【0028】
前記共重合体(A)中のPEG系の化合物と生分解性の高分子との分子量比には特に制限がないが、特に1:1〜3の範囲であることが好ましい。前記共重合体(A)中のPEG系の化合物と生分解性の高分子との分子量比が1:1未満である場合にはゲルが形成できず、1:3を超える場合には疎水性の強度が増大してブロック共重合体が水に溶解できなくなるという不都合がある。
【0029】
また、前記共重合体を形成する生分解性の高分子がPCLA、PCGAまたはPLGAである場合、これらのモル比を適切に調節することにより、温度及びpH感受性の効果を高めることができる。
【0030】
本発明による温度及びpH感受性のブロック共重合体の構成成分の他方は、pHに応じて種々のイオン化度を示す化合物であれば、特に制限無しに使用可能であり、本発明の範疇に属する。特に、疎水性でかつpH感受性であるポリ(β−アミノエステル)及び/またはポリ(アミドアミン)系の化合物から得られるオリゴマー(B)が好ましい。
【0031】
ポリ(β−アミノエステル)(PAE)、ポリ(アミドアミン)(PAA)系またはこれらを適当な割合にて混合したポリ(β−アミノエステル)とポリ(アミドアミン)系のオリゴマー(PAEA)は、それ自体内に存在するpH7.2以下においてイオン化する3級アミン基によりpHに応じて水への溶解度が変わるイオン化特性を有することにより、上述の如く、体内のpH変化に応じてヒドロゲルを形成したりゾル状を維持したりするpH感受性を発現することができる。
【0032】
前記化合物は当業界において周知の通常の方法により製造することができ、その一実施例を挙げると、マイケル反応により、二重結合のあるビスアクリレート化合物及び/またはビスアクリルアミド化合物にアミン系の化合物を重合させてポリ(β−アミノエステル)(PAE)、ポリ(アミドアミン)(PAA)、またはこれらを適当な割合にて混合した混合オリゴマーを得ることができる。
【0033】
このときに用いられるビスアクリレート化合物は、下記一般式2(VIII)で表わすことができ、この非制限的な例としては、エチレングリコールジアクリレート、1、4−ブタンジオールジアクリレート、1、3−ブタンジオールジアクリレート、1、6−ヘキサンジオールジアクリレート、1、6−ヘキサンジオールエトキシレートジアクリレート、1、6−ヘキサンジオールプロポキシレートジアクリレート、3−ヒドロキシ−2、2−ジメチルプロピル、3−ヒドロキシ−2、2−ジメチルプロピオネートジアクリレート、1、7−ヘプタンジオールジアクリレート、1、8−オクタンジオールジアクリレート、1、9−ノナンジオールジアクリレート、1、10−デカンジオールジアクリレート、前記化合物の誘導体などのジオールジアクリレート(CH=CH−CO−R−CO−CH=CH)系の化合物、またはこれらの混合物などがある。
【0034】
【化2】

【0035】
式中、Rは、炭素数1〜30のアルキル基である。
【0036】
ビスアクリルアミド系の化合物は、下記一般式3(IX)で表わすことができる。このとき、ビスアクリルアミドの非制限的な例としては、N、N’−メチレンビスアクリルアミド(MDA)、N、N’−エチレンビスアクリルアミドまたはこれらの混合物などがある。前記ビスアクリルアミド化合物と、アミン系の化合物、 例えば4−アミノメチルピペリジン(AMPD)、N−メチルエチレンジアミン(MEDA)または1−(2−アミノエチル)ピペリジン(AEPZ)などのアミン系の化合物との当業界における周知の通常の方法による反応、例えば、マイケル反応することができる。
【0037】
【化3】

【0038】
式中、Rは炭素数1〜20のアルキル基である。
【0039】
上述のpH感受性を示すポリ(β−アミノエステル)及び/またはポリ(アミドアミン)の製造に際し、ビスアクリレート化合物及び/またはビスアクリルアミド系の化合物は単独または1種以上の混合状態で使用可能であり、混合時におけるこれらの重量比は100:0〜0:100の範囲内において自由に調節することができる。
【0040】
また、アミン系の化合物はアミン基を有する限り、特に制限なしに使用することができ、特に、下記一般式4(X)で表わされる1級アミン、一般式5(XI)で表わされる2級アミン含有のジアミン化合物またはこれらの混合物などが好ましい。
【0041】
【化4】

【0042】
【化5】

【0043】
式中、R及びRは、炭素数1〜20のアルキル基である。
【0044】
前記1級アミン化合物の非制限的な例としては、3−メチル−4−(3−メチルフェニル)ピペラジン、3−メチルピペラジン、4−(ビス−(フルオロフェニル)メチル)ピペラジン、4−(エトキシカルボニルメチル)ピペラジン、4−(フェニルメチル)ピペラジン、4−(1−フェニルエチル)ピペラジン、4−(1、1−ジメトキシカルボニル)ピペラジン、4−(2−(ビス−(2−プロペニル)アミノ)エチル)ピペラジン、メチルアミン、エチルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、2−エチルヘキシルアミン、2−ピペリジン−1−イル−エチルアミン、C−アジリジン−1−イル−エチルアミン、1−(2−アミノエチル)ピペラジン、4−(アミノメチル)ピペラジン、N−メチルエチレンジアミン、N−エチルエチレンジアミン、N−ヘキシルエチレンジアミン、ピコリアミン、アデニンなどがあり、前記2級アミン含有のジアミン化合物の非制限的な例としては、ピペラジン、ピペリジン、ピロリジン、3、3−ジメチルピペリジン、4、4’−トリメチレンジピペリジン、N、N’−ジメチルエチレンジアミン、N、N’−ジエチルエチレンジアミン、イミダゾリジンまたはジアゼピンなどがある。
【0045】
pH感受性を示すポリ(β−アミノエステル)及び/またはポリ(アミドアミン)の製造に際し、前記ビスアクリレート化合物またはビスアクリルアミド化合物とアミン系の化合物との反応モル比は、1:0.5〜2.0の範囲であることが好ましい。前記アミン系の化合物のモル比が0.5未満であるか、または、2.0を超える場合、重合される高分子の分子量の分布が広くなってpH感受性が低下し、ブロック共重合体のブロック長を調節することが困難になる。
【0046】
ポリ(β−アミノエステル)及びポリ(アミドアミン)よりなる群から選ばれる1種以上から得られるオリゴマーの分子量には特に制限がないが、500〜20、000の範囲であることが好ましい。分子量が500未満である場合、pH変化によるゾル−ゲル遷移挙動が得られず、20000を超える場合、温度感受性が同時に発現し難くなる。
【0047】
上述の構成成分、すなわち、PEG系の化合物と生分解性の高分子との共重合体(A)、及びポリ(β−アミノエステル)及び/またはポリ(アミドアミン)系のオリゴマー(B)がカップリングされて得られる本発明のブロック共重合体は、トリブロック共重合体又はそれより多くのブロック共重合体であることが好適であり, 特に、トリブロックまたはペンタブロックであることが好ましい。特に、本発明のブロック共重合体は、下記一般式6(I)から11(VI)で表わされる。
【0048】
【化6】

【0049】
【化7】

【0050】
【化8】

【0051】
【化9】

【0052】
【化10】

【0053】
【化11】

【0054】
式中、x、y、z、n及びmは、1〜10、000の自然数である。
【0055】
前記一般式6(I)から11(VI)で表わされるブロック共重合体は、上述の両親性とpH感受性によりpH変化に応じてヒドロゲルを形成したりゾル状を維持したりすることができ、特に、体内のpH変化による感受性が求められる用途、例えば、徐放型薬物放出用の支持体などにおいて満足のいく結果を得ることができる。
【0056】
このとき、前記一般式9(IV)で表わされるブロック共重合体は、PEG系の化合物と生分解性のポリエステル高分子との共重合体(MPEG−PCLA)の片側の末端にのみヒドロキシ基があるためにアクリレート基で置換可能であり、この後、片側にのみβ−アミノエステルオリゴマーがカップリングされたようなブロック構造を有する。
【0057】
前記ブロック共重合体の分子量の範囲には特に制限がないが、5、000〜30、000程度であることが好適である。前記ブロック共重合体の分子量が前記範囲から外れる場合、親水性/疎水性のバランスが崩れてゲルが形成できなくなるという不都合がある。
【0058】
本発明による温度及びpH感受性のブロック共重合体は、上述の成分に加えて、通常汎用されるその他の成分または添加剤などを含んでいてもよい。
【0059】
前記PEG系の化合物と生分解性の高分子との共重合体(A)、及びポリ(β−アミノエステル)及び/またはポリ(アミドアミン)系のオリゴマーを用いて本発明による温度及びpH感受性のブロック共重合体を製造するには、マイケル反応の他に、ラジカル重合、カチオン重合、アニオン重合、縮合重合など当技術分野において周知の種々の重合方法のうちいずれかの方法を使用することができる。
【0060】
以下、本発明による温度及びpH感受性のブロック共重合体の製造方法の好適な一実施形態としては、a)PEG系の化合物及び生分解性の高分子を重合させて共重合体(A)を得るステップと、b)得られたPEGと生分解性の高分子との共重合体(A)にアクリレート基を取り込むステップと、c)得られた共重合体(A)にポリ(β−アミノエステル)及びポリ(アミドアミン)よりなる群から選ばれる1種以上のオリゴマーをカップリングさせるステップと、よりなる方法が挙げられる。
【0061】
まず、PEG系の化合物と生分解性のポリエステル高分子とを重合させて共重合体を形成するが、前記反応は、例えば、下記反応式1で表わされる。
【0062】
【化12】

【0063】
PEG系の化合物と生分解性のポリエステル高分子との共重合反応には、開環重合反応を用いることが好ましく、このとき、重合温度と時間は当業界において周知の通常の範囲内において調節可能であるが、130〜150℃及び12〜48時間が好ましい。また、反応性のために触媒を用いることができるが、このときに使用可能な触媒としては、オクチル酸錫(stannous octoate)、塩化錫、金属酸化物(GeO、Sb、SnOなど)、アルミニウムトリイソプロポキシド、CaH、Zn、リチウムクロリド、トリス(2、6−ジ−t−ブチルフェノレート)などがある。また、疎水性の強度を多様化させるために、上述の生分解性の高分子の分子量または種類などを適切に調節することができる。
【0064】
PEGとの開環重合反応により得られる共重合体にアクリレート基を取り込むステップは、ポリエチレングリコール−生分解性のポリエステル共重合体の末端のヒドロキシル基(−OH)にアクリロイルクロリドのハロゲンとの反応によりアクリレート基を取り込むことが好ましいが、前記反応は、下記反応式2で表わされる。
【0065】
【化13】

【0066】
アクリレート基が取り込まれたPEG系の化合物及び生分解性のポリエステル高分子の共重合体(A)から、アミン基(−NHまたは−NH)とアクリレート基(−CH=CH)とのカップリングにより本発明による温度及びpH感受性の多重ブロック共重合体を製造することができ、この反応は下記反応式3で表わすことができる。
【0067】
【化14】

【0068】
前記ステップにおける反応温度及び時間には特に制限がなく、当分野において周知の通常の方法により製造することができる。
【0069】
ポリ(β−アミノエステル)オリゴマーの製造に用いられる1級アミン化合物、2級アミン含有のジアミン化合物及びこれと反応してベータアミノエステルブロックを形成するジオールジアクリレート系の化合物もまた上述の通りである。
【0070】
上述の如き方法により製造された多重ブロック共重合体は、上述のように、親水性ブロック、疎水性ブロック及びpH変化に応じて様々なイオン化度を示すポリ(β−アミノエステル)及び/またはポリ(アミドアミン)系のオリゴマーが結合されたものであるため、温度感受性とpH感受性を併せ持つ。
【0071】
実際に、このような方法により製造された本発明のブロック共重合体、例えば、メトキシポリエチレングリコール−ポリカプロラクトン−ベータアミノエステル(MPEG−PCL−β−アミノエステル)は、FT−IR及びH−NMRを用いてそれぞれの官能基の取込み及び末端基の反応を確認することができ、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を用いたブロック共重合体の分子量の増大によりPEG系の化合物と生分解性の高分子との共重合体及びベータアミノエステル系のオリゴマーがカップリングされた構造であることが確認できた。
【0072】
一方、pH感受性の化合物として、ポリ(β−アミノエステル)に代えてポリ(アミドアミン)を単体で用いたメトキシポリエチレングリコール−ポリカプロラクトン−アミドアミン(MPEG−PCL−アミドアミン)ブロック共重合体と、人体内における生分解速度を調節するためにpH感受性を有すると共に生分解速度が異なるポリ(β−アミノエステル)にポリ(アミドアミン)を適量混合してなるメトキシポリエチレングリコール−ポリカプロラクトン−ベータアミノエステル−アミドアミン(MPEG−PCL−β−アミノエステル−アミドアミン)混合ブロック共重合体もまた、上記のようなFT−IR、H−NMR、及びGPCを用いて反応化度及び分子量、並びにブロック長などを確認することができた。また、前記ブロック共重合体のpH感受性を確認するために、温度に応じてpHを変えながらゾル−ゲル遷移特性の変化を測定し、これにより、本発明の多重ブロック共重合体がpH感受性の特性を有していることを確認することができた。
【0073】
また、本発明は、(a)温度及びpH感受性のブロック共重合体と、(b)前記ブロック共重合体内に封入可能な生理活性物質と、を含む高分子ヒドロゲル状の薬物組成物を提供する。
【0074】
前記高分子ヒドロゲル状のブロック共重合体に封入可能な生理活性物質は特に制限なしに使用することができ、この非制限的な例としては、抗癌剤、抗菌剤、ステロイド類、消炎鎮痛剤、性ホルモン、免疫抑制剤、抗ウィルス剤、麻酔剤、抗口吐剤または抗ヒスタミン剤などがある。また、上述の成分に加えて、当業界において周知の通常の添加剤、例えば、賦形剤、安定化剤、pH調整剤、抗酸化剤、保存剤、結合剤または崩解剤などを含んでいてもよい。このとき、前記組成物は当分野において周知のその他の添加剤、溶媒などをさらに含んでいてもよい。
【0075】
また、前記高分子ヒドロゲル薬物組成物は、経口剤または非経口剤の形で製剤化して使用することができ、静脈、筋肉または皮下注射剤として製造することができる。
【0076】
加えて、本発明は、前記温度及びpH感受性のブロック共重合体を含む薬物送達用または疾病診断用のキャリアを提供する。このとき、ブロック共重合体内に含有される物質は、疾病の治療、防止または診断のための物質であれば、特に制限がない。
【0077】
さらに、本発明は、(a)親水性ブロックと、(b)温度に応じて疎水化度が変わる生分解性のブロックと、(c)pHに応じてイオン化度が変わる単位体とをそれぞれ1種以上含む共重合体を薬物送達用または疾病診断用のキャリアとして使用する方法を提供する。
【0078】
このとき、前記pHに応じてイオン化度が変わる単位体(c)は、ポリ(β−アミノエステル)及びポリ(アミドアミン)よりなる群から選ばれる1種以上のオリゴマー(B)であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0079】
また、前記親水性ブロック(a)及び温度に応じて疎水性化度が変わる生分解性のブロック(b)は上述の通りであり、その他に当業界において周知の親水性及び/または疎水性を有する物質もまた使用可能である。
【0080】
以下、本発明への理解の一助となるために、本発明の好適な実施例を挙げるが、下記の実施例は単なる本発明の例示に過ぎず、本発明の範囲が下記の実施例に限定されることはない。
【実施例】
【0081】
[実施例1〜6.温度及びpH感受性のブロック共重合体の合成]
実施例1.ポリエチレングリコール−生分解性のポリエステルポリマー(ポリカプロラクトン)−ポリ(β−アミノエステル)トリブロック共重合体(PAE)の製造
ポリエチレングリコールメチルエーテル(MPEG、Mn=2000、5000)10gと触媒としてのオクト酸錫(stannous octoate)0.2gを反応器に入れ、水分を除去するために110℃において4時間をかけて真空乾燥させた。乾燥された反応物を冷却後、窒素環境下において生分解性のポリエステル高分子化合物であるε−カプロラクトン6.0g(5.576ml)を付加し、前記反応混合物を窒素環境下において徐々に135℃まで昇温させた後、24時間重合させた。分子量の調節のために、MPEGの量とε−カプロラクトンの添加量を調節して所望の分子量のMPEG−PCLブロック共重合体を得た。このときに用いられたオクト酸錫の量は、MPEG添加量の0.5重量%であった。反応終了後、反応物を常温下で冷却させ、ここに少量のメチレンクロリドを添加して反応物を溶解させた。溶解された反応混合物中の未反応物を除去するために、過量のエチルエーテルに添加して沈殿させ、未反応物の除去された生成物は40℃において48時間真空乾燥させた。次いで、生成されたポリエチレングリコールと生分解性のポリエステル高分子化合物としてのε−カプロラクトンとのブロック共重合体(MPEG−PCL)を得た。このときの生成物の収率は85%以上であった。
【0082】
このようにして製造されたMPEG−PCLブロック共重合体4gを反応器に入れた後、水分を除去するために85℃において真空乾燥させた。次いで、反応物を常温まで冷却させた後、窒素環境下においてブロック共重合体を溶解させるためにメチレンクロリドを添加した。その後、反応副産物としてのHClの除去のためにトリエチルアミンをMPEG−PCLブロック共重合体の1.5モル倍を添加した後、その溶解物を10℃まで冷却させた。冷却された溶解物にアクリロイルクロリド1.5モル倍を滴加した後、二重結合を有するブロック共重合体を得た。反応は窒素環境内に氷浴中で行われ、このときの反応時間は24時間であった。反応終了後、未反応物を除去するためにエチルエーテルに 沈殿させてろ過した後、常温下において真空乾燥して末端基に二重結合を有するポリエチレングリコール−ポリカプロラクトン−アクリレートブロック共重合体(MPEG−PCL−A)を得た。このときの収率は80%以上であった。
【0083】
一方、このようにして製造された二重結合を有するブロック共重合体(MPEG−PCL−A)を常温下において反応器に入れた後、クロロホルムを添加してブロック共重合体を溶解させた。ベータアミノエステルブロックを形成するために、ピペラジンと1、6ヘキサンジオールジアクリレートを常温下において添加して溶解させた後、50℃において48時間反応させ、ピペラジン:1、6−ヘキサンジオールジアクリレートとのモル比は1:1にし、MPEG−PCLブロック共重合体、ピペラジンと1、6−ヘキサンジオールジアクリレートとの当量比を用いて所望の分子量のトリブロック共重合体を合成した。反応終了後、未反応物を除去するために過量のエチルエーテルに沈殿させた後、ろ過してMPEG−PCL−ポリ(β−アミノエステル)トリブロック共重合体を得た。このときの収率は70%以上であった。
【0084】
実施例2.温度及びpH感受性のペンタブロック共重合体
ポリエチレングリコールメチルエーテルに代えてポリエチレングリコール(PEG、Mn=1500、1750、2000)を使用し、ε−カプロラクトンの他にD、L−ラクチドをさらに添加した以外は、前記実施例1の方法と同様にしてε−カプロラクトン、D、L−ラクチド、ポリエチレングリコールよりなるトリブロック共重合体(PCLA−PEG−PCLA)を種々の分子量を有するようにして合成した。このとき、生成物の収率は91%以上であった。
【0085】
このようにして製造されたPCLA−PEG−PCLAブロック共重合体を反応器に入れた後、水分を除去するために85℃において真空乾燥させた。次いで、反応物を常温で冷却させた後、窒素環境下においてブロック共重合体を溶解させるためにメチレンクロリドを添加した。その後、反応副産物としてのHClの除去のためにトリエチルアミン3モル倍を添加した後、溶解物を10℃まで冷却させた。冷却された溶解物にアクリロイルクロリド3モル倍を滴加させた後、二重結合を有するブロック共重合体を得た。反応は窒素環境下で氷浴中で行われ、このときの反応時間は24時間であった。反応終了後、未反応物を除去するためにエチルエーテルに沈殿させてろ過した後、常温下において真空乾燥して末端基に二重結合を有するポリ(ε−カプロラクトン/D、L−ラクチド−ポリエチレングリコール−ポリ(ε−カプロラクトン/D、L−ラクチドアクリレート)ブロック共重合体(アクリレート化PCLA−PEG−PCLA)を得た。このときの収率は80%以上であった。
【0086】
このようにして製造された二重結合を有するブロック共重合体(アクリレート化PCLA−PEG−PCLA)を常温下において反応器に入れた後、クロロホルムを添加してブロック共重合体を溶解させた。β−アミノエステルブロックを形成させるために4、4’−トリメチレンジピペラジンと1、4’−ブタンジオールジアクリレートを常温下において添加して溶解させた後、50℃において48時間反応させ、このときの反応物は、4、4’−トリメチレンジピペラジン:1、4−ブタンジオールジアクリレートは1:1モル比とし、トリブロック共重合体との当量比を調節して種々の分子量を有するペンタブロック共重合体を合成して得られたものである。反応終了後、未反応物を除去するために過量のエチルエーテルに沈殿させた後にろ過してポリ(β−アミノエステル)−PCLA−PEG−PCLA−ポリ(β−アミノエステル)ペンタブロック共重合体を得た。このときの収率は70%以上であった。
【0087】
前記製造条件のうちMPEGの分子量、生分解性の高分子(PCLA)の分子量、MPEGと生分解性の高分子とのモル比、ポリ(β−アミノエステルの分子量などを下記表1に示すように変えながら種々の分子量を有するようにしてトリブロック共重合体(PCLA−PEG−PCLA)及びペンタブロック共重合体(ポリ(β−アミノエステル)−PCLA−PEG−PCLA−ポリ(β−アミノエステル))を合成し、これらの分子量は下記表1に示す。下記表1においてPDIは、GPC測定による分子量分布指数を意味するものであり、製造されたブロック共重合体が均一な分子量分布を有するかどうかを確認するために使用されるものである。参考までに、PDI数値が小さいほど均一な分子量よりなる共重合体を意味し、これに対し、PDIが大きいほど不均一な分子量よりなることを意味する。
【0088】
【表1】

【0089】
実施例3
1、4−ブタンジオールジアクリレートに代えて、1、6−ヘキサンジオールジアクリレートとN、N’−メチレンビスアクリルアミドを重量比80:20にて混合したものを使用した以外は、前記実施例2の方法と同様にして分子量が6800のポリ(β−アミノエステル−アミドアミン)−PCLA−PEG−PCLA−ポリ(β−アミノエステル−アミドアミン)ペンタブロック共重合体を製造した。
【0090】
実施例4
1、4−ブタンジオールジアクリレートに代えて、1、6−ヘキサンジオールジアクリレートとN、N’−メチレンビスアクリルアミドを重量比60:40にて混合したものを使用した以外は、前記実施例2の方法と同様にして分子量が6500のポリ(β−アミノエステル−アミドアミン)−PCLA−PEG−PCLA−ポリ(β−アミノエステル−アミドアミン)ペンタブロック共重合体を製造した。
【0091】
実施例5
1、4−ブタンジオールジアクリレートに代えて、1、6−ヘキサンジオールジアクリレートとN、N’−メチレンビスアクリルアミドを重量比40:60にて混合したものを使用した以外は、前記実施例2の方法と同様にして分子量が6500のポリ(β−アミノエステル−アミドアミン)−PCLA−PEG−PCLA−ポリ(β−アミノエステル−アミドアミン)ペンタブロック共重合体を製造した。
【0092】
実施例6
1、4−ブタンジオールジアクリレートに代えて、1、6−ヘキサンジオールジアクリレートとN、N’−メチレンビスアクリルアミドを重量比20:80にて混合したものを使用した以外は、前記実施例2の方法と同様にして分子量が6500のポリ(β−アミノエステル−アミドアミン)−PCLA−PEG−PCLA−ポリ(β−アミノエステル−アミドアミン)ペンタブロック共重合体を製造した。
【0093】
実施例7
1、4−ブタンジオールジアクリレートに代えて、1、6−ヘキサンジオールジアクリレートとN、N’−メチレンビスアクリルアミドを重量比0:100にて混合したものを使用した以外は、実施例2の方法と同様にして分子量が6500のポリ(アミドアミン)−PCLA−PEG−PCLA−ポリ(アミドアミン)ペンタブロック共重合体を製造した。
【0094】
[比較例1〜3]
比較例1
ポリ(アミドアミン)から得られたオリゴマーの分子量を500未満にした以外は、前記実施例2の方法と同様にして分子量が5000のポリ(アミドアミン)−PCLA−PEG−PCLA−ポリ(アミドアミン)ペンタブロック共重合体を製造した。ところが、前記共重合体は体温条件(温度37℃及びpH7.4)においてゾル−ゲル遷移挙動を示さなかった。
【0095】
比較例2
ポリ(アミドアミン)から得られたオリゴマーの分子量を21000にした以外は、前記実施例2の方法と同様にして分子量が25500のポリ(アミドアミン)−PCLA−PEG−PCLA−ポリ(アミドアミン)ペンタブロック共重合体を製造した。ところが、前記ブロック共重合体は体温条件(温度37℃及びpH7.4)においてゾル−ゲル挙動を示さなかった。
【0096】
比較例3
MPEG2000に代えてMPEG400を使用した以外は、実施例2の方法と同様にして分子量が5000のポリ(β−アミノエステル−アミドアミン)−PCLA−PEG−PCLA−ポリ(β−アミノエステル−アミドアミン)ペンタブロック共重合体を製造した。ところが、前記共重合体は体温条件(温度37℃及びpH7.4)においてゾル−ゲル挙動を示さなかった。
【0097】
比較例4
MPEG5000に代えてMPEG6000を使用した以外は、前記実施例2の方法と同様にして分子量が7700のポリ(β−アミノエステル−アミドアミン)−PCLA−PEG−PCLA−ポリ(β−アミノエステル−アミドアミン)ペンタブロック共重合体を製造した。ところが、前記共重合体は、分子量が大きなMPEGの使用に起因して、ゾルからゲルへと遷移可能な親水性/疎水性ブロックのバランスが取れず、ゲルが上手く形成されなかった。
【0098】
実験例1.pH変化によるゾル−ゲル遷移挙動の評価(1)
本発明に従い製造されたブロック共重合体の温度及びpH変化によるゾル−ゲル遷移挙動の評価を行った。
【0099】
実施例1に従い製造されたトリブロック共重合体(MPEG−PCL−ベータアミノエステル)、実施例2に従い製造されたペンタブロック共重合体及び実施例4に従い製造されたペンタブロック共重合体を緩衝溶液にそれぞれ30重量%、20重量%、30重量%添加して溶かした後、50℃においてNaOH溶液により滴定してそれぞれpH5.5、6.0、6.5、7.0、7.5に調節した。それぞれのpHを有するブロック共重合体溶液を2℃ずつ上げながら、10分間一定の温度下において平衡状態を取らせた後、各溶液を傾けてゾル−ゲル遷移挙動を測定した。温度及びpH変化によるブロック共重合体のゾル−ゲル遷移挙動をそれぞれ図1から図3に示す。
【0100】
実験の結果、本発明のブロック共重合体は、共重合体中のポリ(β−アミノエステル)系のオリゴマーのpH変化によるイオン化度の変化及び生分解性の高分子共重合体の温度変化による疎水性の変化により、温度に加えて、pH変化に応じてゾル−ゲル遷移挙動が可逆的に行われることが確認できた(図1から図3参照)。特に、本発明のブロック共重合体は人体内と同じ条件(37℃、pH7.4)下において可逆的なゾル−ゲル遷移挙動を示すことから、薬物送達体として産業上の利用可能なものであることを類推することができた。
【0101】
実験例2.pH変化によるゾル−ゲル遷移挙動の評価(2)
本発明によるブロック共重合体の製造条件を種々に変えて製造した後、これらブロック共重合体の温度及びpH変化によるゾル−ゲル遷移挙動の評価を行った。
【0102】
前記実施例1に従い製造されたトリブロック共重合体(MPEG−PCL−PAE)の製造条件のうちMPEGの分子量、MPEGとPCLのモル比などを下記表2に示すように変えてトリブロック共重合体が様々な分子量を有するようにして合成し、これらのゾル−ゲル遷移挙動の有無を下記表2に示す。
【0103】
実験の結果、A1とA4はゾル−ゲル遷移挙動を示さなかったが、これは、MPEG−PCL−PAEの分子量の割合が崩れていることに起因するものである。すなわち、A1の場合、PCLの分子量が少量であるために温度とpHが変わってもゾル状を示すのに対し、A4は、PCLの分子量があまりにも大き過ぎて水に溶解できないためであると認められる。なお、上述のMPEG−PCLの分子量比、ブロック比に加えて、体内条件(温度、pH)下において可逆的なゾル−ゲル遷移挙動を示す温度及びpH感受性のブロック共重合体を製造するためには、pH感受性を有するブロックの温度及びpHに対する依存性、親水性ブロックであるMPEGの分子量などを考慮しなければならないことが予想できた。
【0104】
したがって、本発明による温度及びpH感受性のブロック共重合体ヒドロゲルは、親水性ブロック、疎水性ブロック及びpHブロックなどを単に組み合わせるだけで得られるものではなく、前記ブロック共重合体を構成する構成要素の分子量、構成要素間のモル比、製造されたブロック間のモル比などを最適に調節する技術により得られるものであることが確認できた。また、このような前記調節技術により種々の条件が求められる医療用の薬物送達体を新規にデザインすることができ、しかも、実際に適用可能であることが確認できた。
【0105】
【表2】

【0106】
実験例3.ブロック共重合体のpHによる生分解速度の評価
本発明に従い製造されたpH感受性のブロック共重合体ヒドロゲルの特定のpHにおける生分解による分子量の変化を観察するために、下記のような実験を行った。
【0107】
主鎖にエステル基があるために比較的に生体内での生分解速度が早いポリ(β−アミノエステル)を用いて製造された実施例2の共重合体と、主鎖にアミド基があるために生体内での生分解速度が比較的に遅いポリ(アミドアミン)を用いて製造された実施例3から実施例7の共重合体を使用した。前記共重合体に対してそれぞれpH7.4における分子量の経時変化を測定した結果、実施例2のブロック共重合体ヒドロゲルは30時間が経過しないうちに分子量が半分以上低減されてヒドロゲルの生分解がやや高速で行われるのに対し、実施例3から実施例7のブロック共重合体ヒドロゲルは生分解速度がやや遅く行われることが分かった(図4参照)。
【0108】
また、実施例4から6のブロック共重合体ヒドロゲルを用いて特定のpHにおける分子量の経時変化を測定した結果、前記ブロック共重合体ヒドロゲルを構成するポリ(β−アミノエステル)とポリ(アミドアミン)成分の含量、これらのモル比などを調節することにより、生体内におけるヒドロゲルの生分解速度を種々に調節することができるということが確認できた(図4参照)。
【0109】
これにより、本発明のpH感受性のブロック共重合体は、ポリ(β−アミノ酸)の一種であって比較的に生体内での生分解速度が遅いポリ(アミドアミン)との共重合体により所望の生分解速度を容易に調節することが可能になるだけではなく、生分解速度を持続的に維持可能にデザインすることができるということが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明によるブロック共重合体は、温度に加えて、pHに敏感なゾル−ゲル遷移特性を示すことにより、従来温度感受性のブロック共重合体の欠点を補完することができるだけではなく、適切な温度とpHにおいてより安定したヒドロゲルを形成することができ、また、体内における安定性の問題まで解消することができるので、薬物送達など医療用の分野において種々の用途として活用できることが予測可能である。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】図1は、実施例1による、温度感受性を有するポリエチレングリコール系の化合物、生分解性のポリカプロラクトン化合物及びpH感受性を有する生分解性のポリ(β−アミノエステル)化合物で構成されるトリブロック共重合体の温度及びpHの変化によるゾル−ゲル遷移挙動を示すグラフである。
【図2】図2は、実施例2による、ポリエチレングリコール系の化合物、ポリカプロラクトン及びポリ乳酸化合物、並びにポリ(β−アミノエステル)化合物で構成されるペンタブロック共重合体の温度及びpHの変化によるゾル−ゲル遷移挙動を示すグラフである。
【図3】図3は、実施例4による、ポリエチレングリコール系の化合物、ポリカプロラクトン及びポリ乳酸化合物、並びにポリ(β−アミノエステル)とポリ(アミドアミン)を重量比60:40にて混合して得られるペンタブロック共重合体のpHの変化によるゾル−ゲル遷移挙動を示すグラフである。
【図4】図4は、実施例2から実施例7に従い製造されたブロック共重合体のpH7.4における分子量の経時変化を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ポリエチレングリコール(PEG)系の化合物と生分解性の高分子との共重合体(A)と、
(b)ポリ(β−アミノエステル)及びポリ(アミドアミン)よりなる群から選ばれる1種以上のオリゴマー(B)と、
をカップリングさせて得られるブロック共重合体。
【請求項2】
前記ブロック共重合体は、温度感受性とpH感受性を併せ持つことを特徴とする請求項1に記載のブロック共重合体。
【請求項3】
前記ブロック共重合体は、pH7.2〜7.4の範囲においてヒドロゲルを形成し、pH6.0〜7.2の範囲においてゾル状を維持することを特徴とする請求項1に記載のブロック共重合体。
【請求項4】
前記ポリエチレングリコール(PEG)系の化合物は、下記一般式1:
【化1】

[式中、Rは水素または炭素数1〜5のアルキル基であり、nは11〜45の範囲の自然数である]
で表わされるものである請求項1に記載のブロック共重合体。
【請求項5】
前記ポリエチレングリコール系の化合物の分子量は、500〜5000の範囲内にある請求項1に記載のブロック共重合体。
【請求項6】
前記生分解性の高分子は、生分解性の脂肪族ポリエステル高分子である請求項1に記載のブロック共重合体。
【請求項7】
前記生分解性の高分子は、ポリラクチド(PLA)、ポリグリコリド(PGA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ(カプロラクトン−ラクチド)ランダム共重合体(PCLA)、ポリ(カプロラクトン−グリコリド)ランダム共重合体(PCGA)及びポリ(ラクチド−グリコリド)ランダム共重合体(PLGA)よりなる群から選ばれる1種以上である請求項1に記載のブロック共重合体。
【請求項8】
前記PEG系の化合物と生分解性の高分子との分子量比は、1:1〜3の範囲である請求項1に記載のブロック共重合体。
【請求項9】
前記ポリエチレングリコール系の化合物と生分解性の高分子との共重合体(A)は、ポリ(β−アミノエステル)及びポリ(アミドアミン)よりなる群から選ばれる1種以上のオリゴマー(B)と反応可能な1級アミン基、2級アミン基及び二重結合よりなる群から選ばれる1種以上の置換基を有するものである請求項1に記載のブロック共重合体。
【請求項10】
前記ポリ(β−アミノエステル)及びポリ(アミドアミン)よりなる群から選ばれる1種以上のオリゴマー(B)は、pH7.2以下においてイオン化する3級アミン基を含むことを特徴とする請求項1に記載のブロック共重合体。
【請求項11】
前記ポリ(β−アミノエステル)及びポリ(アミドアミン)よりなる群から選ばれる1種以上のオリゴマーは、
(a)ビスアクリレートまたはビスアクリルアミド化合物と、
(b)アミン系の化合物と、
を重合させて得られるものである請求項1に記載のブロック共重合体。
【請求項12】
前記ビスアクリレート化合物は、エチレングリコールジアクリレート、1、4−ブタンジオールジアクリレート、1、3−ブタンジオールジアクリレート、1、6−ヘキサンジオールジアクリレート、1、6−ヘキサンジオールエトキシレートジアクリレート、1、6−ヘキサンジオールプロポキシレートジアクリレート、3−ヒドロキシ−2、2−ジメチルプロピル3−ヒドロキシ−2、2−ジメチルプロピオネートジアクリレート、1、7−ヘプタンジオールジアクリレート、1、8−オクタンジオールジアクリレート、1、9−ノナンジオールジアクリレート及び1、10−デカンジオールジアクリレートよりなる群から選ばれる1種以上であり、
ビスアクリルアミド系の化合物は、N、N’−メチレンビスアクリルアミド及びN、N’−エチレンビスアクリルアミドよりなる群から選ばれる1種以上である請求項11に記載のブロック共重合体。
【請求項13】
前記アミン系の化合物は、1級アミンまたは2級アミン含有のジアミン化合物であることを特徴とする請求項11に記載のブロック共重合体。
【請求項14】
前記1級アミン化合物は、3−メチル−4−(3−メチルフェニル)ピペラジン、3−メチルピペラジン、4−(ビス−(フルオロフェニル)メチル)ピペラジン、4−(エトキシカルボニルメチル)ピペラジン、4−(フェニルメチル)ピペラジン、4−(1−フェニルエチル)ピペラジン、4−(1、1−ジメトキシカルボニル)ピペラジン、4−(2−(ビス−(2−プロペニル)アミノ)エチル)ピペラジン、メチルアミン、エチルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、2−エチルヘキシルアミン、2−ピペリジン−1−イル−エチルアミン、C−アジリジン−1−イル−エチルアミン、1−(2−アミノエチル)ピペラジン、4−(アミノメチル)ピペラジン、N−メチルエチレンジアミン、N−エチルエチレンジアミン、N−ヘキシルエチレンジアミン、ピコリアミン及びアデニンよりなる群から選ばれる1種以上であり、
前記2級アミン含有のジアミン化合物は、ピペラジン、ピペリジン、ピロリジン、3、3−ジメチルピペリジン、4、4’−トリメチレンジピペリジン、N、N’−ジメチルエチレンジアミン、N、N’−ジエチルエチレンジアミン、イミダゾリジン及びジアゼピンよりなる群から選ばれる1種以上である請求項13に記載のブロック共重合体。
【請求項15】
前記ビスアクリレートまたはビスアクリルアミド化合物(a)及びアミン系の化合物(b)のモル比は、1:0.5〜2.0の範囲である請求項11に記載のブロック共重合体。
【請求項16】
前記ポリ(β−アミノエステル)及びポリ(アミドアミン)よりなる群から選ばれる1種以上のオリゴマー(B)の分子量は、500〜20、000の範囲内にある請求項1に記載のブロック共重合体。
【請求項17】
前記ポリ(β−アミノエステル)及びポリ(アミドアミン)よりなる群から選ばれる1種以上のオリゴマー(B)は、1、6−ヘキサンジオールジアクリレート及びN、N’−メチレンビスアクリルアミドを重量比100:0〜0:100にて混合することにより、人体内での生分解速度が調節可能であることを特徴とする請求項11に記載のブロック共重合体。
【請求項18】
前記ブロック共重合体は、トリブロック共重合体又はそれより多くのブロック共重合体である請求項1に記載のブロック共重合体。
【請求項19】
前記ブロック共重合体は、トリブロック共重合体またはペンタブロック共重合体である請求項1に記載のブロック共重合体。
【請求項20】
前記ブロック共重合体は、下記一般式(I)から(VI):
【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

【化7】

[式中、x、y、z、n及びmは1〜10、000の自然数である]
で表わされる化合物群から選ばれるものである請求項1に記載のブロック共重合体。
【請求項21】
(a)請求項1から20のいずれかに記載のブロック共重合体と、
(b)前記ブロック共重合体内に封入可能な生理活性物質と、
を含む高分子ヒドロゲル状の薬物組成物。
【請求項22】
請求項1から20のいずれかに記載のブロック共重合体を含む薬物送達用または疾病診断用のキャリア。
【請求項23】
(a)親水性ブロックと、(b)温度に応じて疎水化度が変わる生分解性のブロックと、(c)pHに応じてイオン化度が変わる単位体をそれぞれ1種以上含む共重合体を薬物送達用または疾病診断用のキャリアとして使用する方法。
【請求項24】
前記pHに応じてイオン化度が変わる単位体(c)は、ポリ(β−アミノエステル)及びポリ(アミドアミン)よりなる群から選ばれる1種以上のオリゴマー(B)であることを特徴とする請求項23に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2008−534732(P2008−534732A)
【公表日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−503960(P2008−503960)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【国際出願番号】PCT/KR2006/001185
【国際公開番号】WO2006/109945
【国際公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【出願人】(507169303)スンキュンクヮン・ユニバーシティ・ファウンデーション・フォー・コーポレート・コラボレーション (2)
【Fターム(参考)】